(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6065923
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】被覆コイル成形体の製造方法及び被覆コイル成形体
(51)【国際特許分類】
H01F 41/12 20060101AFI20170116BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20170116BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
H01F41/12 C
H01F37/00 J
H01F37/00 C
H01F37/00 A
H01F27/32 A
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-1101(P2015-1101)
(22)【出願日】2015年1月6日
(62)【分割の表示】特願2012-506976(P2012-506976)の分割
【原出願日】2011年3月17日
(65)【公開番号】特開2015-92617(P2015-92617A)
(43)【公開日】2015年5月14日
【審査請求日】2015年1月26日
(31)【優先権主張番号】特願2010-65308(P2010-65308)
(32)【優先日】2010年3月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089440
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(72)【発明者】
【氏名】江崎 潤一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】松本 保浩
【審査官】
五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−4957(JP,A)
【文献】
特開2003−36431(JP,A)
【文献】
特開2008−210463(JP,A)
【文献】
特開平7−282907(JP,A)
【文献】
特開2000−82629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/12
H01F 27/32
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材と線材との間に絶縁層を介在させる状態に該線材を巻いて成る導体コイルを電気絶縁性の樹脂にて外側から全体的に包み込む状態に被覆して成り、軟磁性粉を含有し射出成形により成形されるコアの内部に埋込状態に設けられる被覆コイル成形体を製造するに際して、
前記コイルを被覆する樹脂被覆層を、内周被覆部及び外周被覆部を円筒状となし、該内周被覆部の内側に、軸方向に貫通する開口を有する形態に、熱可塑性樹脂にて射出成形するようにし、
且つ該射出成形の工程を、前記コイルの内周面又は外周面に対して該樹脂被覆層用の1次成形型を接触させ、該1次成形型にて該コイルを該内周面又は外周面において径方向に位置決めし拘束した状態で、該コイルの外周側又は内周側に形成される該1次成形型の1次成形キャビティに樹脂材料を射出して、前記樹脂被覆層における前記円筒状の外周被覆部又は内周被覆部を含む1次成形体を成形し且つ該コイルと一体化する1次成形工程と、
しかる後該1次成形体を該コイルとともに該樹脂被覆層用の2次成形型にセットして、該コイルの内周側又は外周側に形成される該2次成形型の2次成形キャビティに前記樹脂材料を射出して、前記樹脂被覆層における前記円筒状の内周被覆部又は外周被覆部を含む2次成形体を成形し且つ該コイル及び前記1次成形体と一体化する2次成形工程と、に分けて射出成形を行うことを特徴とする被覆コイル成形体の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記2次成形工程では、前記2次成形型を、先に成形してある前記1次成形体の前記外周被覆部又は内周被覆部に接触させて前記コイル及び該1次成形体を径方向に位置決めし拘束した状態で、被覆部の形成されていない側の該コイルの内周側又は外周側に形成される前記2次成形型の前記2次成形キャビティに前記樹脂材料を射出して前記2次成形体を成形することを特徴とする被覆コイル成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記コイルが、予め外表面に絶縁被膜が付着形成してある線材を巻いて成る絶縁被膜付きのものであることを特徴とする被覆コイル成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記外周被覆部を含む前記1次成形体又は2次成形体の一方の成形体が前記コイルの軸方向の一方の端面を被覆する端面被覆部を含んでおり、前記内周被覆部を含む前記1次成形体又は2次成形体の他方の成形体が前記コイルの前記軸方向の他方の端面を被覆する端面被覆部を含んでいることを特徴とする被覆コイル成形体の製造方法。
【請求項5】
線材と線材との間に絶縁層を介在させる状態に該線材を巻いて成る導体コイルを電気絶縁性の熱可塑性樹脂にて外側から全体的に包み込む状態に被覆して成り、軟磁性粉を含有したコアの内部に埋込状態に設けられる被覆コイル成形体であって、
前記被覆コイル成形体の樹脂被覆層は、前記コイルの外周面を被覆する円筒状の外周被覆部を含む成形体と、該コイルの内周面を被覆する円筒状の内周被覆部を含む成形体とが接合されて一体化され、且つ該内周被覆部の内側に軸方向に貫通する開口が形成されていることを特徴とする被覆コイル成形体。
【請求項6】
請求項5において、前記コアにおける前記軟磁性粉の比率が60体積%以上であることを特徴とする被覆コイル成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、導体コイルを電気絶縁性の樹脂にて外側から全体的に包み込む状態に被覆して成り、軟磁性粉を含有したコアの内部に埋込状態に設けられて、コアとともにコイル複合成形体を構成する被覆コイル成形体の製造方法及び被覆コイル成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のコイル複合成形体の代表的な例として、インダクタンス部品としてのリアクトルがある。
ハイブリッド自動車や燃料電池自動車,電気自動車等ではバッテリーと、モータ(電気モータ)に交流電力を供給するインバータとの間に昇圧回路が設けられており、その昇圧回路にインダクタンス部品であるリアクトル(チョークコイル)が用いられている。
【0003】
例えばハイブリッド自動車では、バッテリーの電圧は最大で300V程度であり、一方モータには大出力が得られるように600V程度の高電圧を印加する必要がある。そのための昇圧回路用の部品としてリアクトルが用いられている。
このリアクトルは太陽光発電の昇圧回路用その他にも広く用いられている。
【0004】
従来においてこのリアクトルは、一対のU字状のコア片をそれぞれの端面間に所定のギャップを生ぜしめる状態に配置して成るコアの周りに、導体コイル(以下単にコイルとする場合がある)を巻回した形態のものが一般に使用されていた。
【0005】
しかしながらこの形態のリアクトルの場合、コイルが外部に露出した状態にあるため、コイルの励磁に伴いコイル振動が発生してこれが騒音となったり、またコイル片間のギャップの寸法を高精度で定めなければならない他、コアとコイルとの組付けの工程が必要である等の問題があり、そこで軟磁性粉と樹脂との混合材から成る成形体(軟磁性樹脂成形体)にてコアを構成し、そしてそのコアの内部にコイルを埋込状態に一体に内包した形態のリアクトルが提案されている。
【0006】
例えば下記特許文献1,特許文献2にこの種形態のリアクトル及びその製造方法が開示されている。
これら特許文献1,特許文献2に示すリアクトルの製造方法は、外ケースないし容器の内部にコイルをセットした状態で、熱硬化性の樹脂の液に軟磁性粉を分散状態に混合したものを、外ケースないし容器の内部に注入し、そしてその後これを所定温度に加熱し且つ所定時間かけて樹脂液を硬化反応させ、以てコアを成形すると同時にコイルと一体化させるといったものである。
【0007】
このようにして得たリアクトルの場合、コイル振動に伴う騒音の発生を防止でき、またコア片とコア片との間にギャップを高精度で設定するといったことを必要とせず(成形体コアの軟磁性粉と軟磁性粉との間に微小なギャップが形成される)、更にコアとコイルとの組付けの工程を必要としない他、コイルをコア(軟磁性樹脂成形体)にて外側から保護できる等の利点を有する。
【0008】
しかしながらこのようにコイルを容器内にセットした状態で、そこに軟磁性粉を分散状態に混合した熱硬化性の樹脂の液を注入したとき、
図10の模式図に示しているように、その際の注入の圧力や流動の圧力で軟磁性粉14(軟磁性粉14としては硬質の金属鉄粉等が用いられる)がコイル10の線材11表面の絶縁被膜12に強く当ったり擦れを生じたりし(リアクトルのコアの場合、通常鉄粉等の軟磁性粉が体積%で50〜70%程度含有されている)、それによってコイル10表面の絶縁被膜12が破れたりする等損傷してしまう問題が生ずる。
【0009】
一般にコイル10としては、予め外表面に絶縁被膜12が付着形成してある線材11を巻いて成る絶縁被膜付きのものが用いられており、この絶縁被膜12は、通常絶縁性の樹脂(例えばポリアミドイミド)を溶剤に溶かして所定粘性とした液(ワニス)をコイル10を形成する線材11の全外表面に塗布し、その後これを乾燥及び硬化反応させて被膜形成することによって得られているが、この絶縁被膜12は膜厚が25μm程度の薄いものであり、そのような絶縁被膜12に対してコアの成形時に鉄粉等の軟磁性粉14が強く当たったり擦れを生じたりすることで絶縁被膜12が損傷してしまう。
而してこのようにして絶縁被膜12が損傷するとコイル10の絶縁性能が低下し、リアクトルにおける耐電圧(絶縁破壊電圧)特性が低下してしまう。
【0010】
その外、容器内にコイルをセットして軟磁性粉と熱硬化性樹脂の液との混合材を注入したとき、その注入圧や流動圧によってコイルが変形してしまう問題を生ずる。
【0011】
コイルは、それ自身あたかもアコーディオンのように簡単に伸張変形したりねじれ変形したりし易いものであり、軟磁性粉と熱硬化性樹脂の液との混合材を容器内に注入したとき、その注入の圧力や流動圧によって容易にコイルが変形してしまうのである。
そしてこのようにしてコイルが変形してしまうとリアクトルとしての性能が損なわれてしまう。
【0012】
これに加えて熱硬化性樹脂が硬化する際の硬化収縮によって絶縁被膜に応力が加わり、このときにも絶縁被膜がその応力によって損傷してしまうといった問題が生ずる。
【0013】
リアクトルの製造方法としては、他に、コイルを成形型のキャビティ内にセットしておき、軟磁性粉と熱可塑性樹脂との混合材をキャビティ内に射出し、以てコアを射出成形するとともに、その内部にコイルを埋込状態に一体化する方法が考えられる。
【0014】
特にこのような射出成形にてコアを成形する場合、強い射出圧及び流動圧の下にコイルがより変形し易いとともに、コイルの絶縁被膜12に対して軟磁性粉が強く当り或いは擦れを生じ、絶縁被膜が一層傷付き易い問題を生ずる。
【0015】
また特に射出成形にてコアを成形する場合、成形時の加熱による膨張と冷却による収縮とによって絶縁被膜に熱応力が加わり、その熱応力によって絶縁被膜が損傷してしまうといった困難な問題が発生する。
【0016】
軟磁性粉を含んだ熱可塑性樹脂は、成形型のキャビティ内への射出時において温度が例えば300℃以上の溶融状態で液状のものであり、射出後に成形型で冷却されて固化し成形体となる。
【0017】
その際に或いはその後成形型から取り出されて室温まで冷却される過程で、成形体としてのコアが大きく収縮しようとする。そしてそのコアの収縮の際にコアとコイルとの収縮量の差に起因してコイルの絶縁被膜に大きな応力が作用し、そのことによって絶縁被膜に歪みが発生し、またその歪みによって絶縁被膜が破れたりする等損傷してしまう。
これもまたリアクトルとしての耐電圧特性に悪影響を及ぼす。
またコイルにおける線材表面の絶縁被膜は、上記のようにもともと膜厚の薄いものであるため、そもそも耐電圧特性の信頼性が十分でないといった問題がある。
【0018】
以上は絶縁被膜付きのコイルを用いた場合であるが、絶縁被膜付きの線材を用いずに、裸の線材と線材との間に絶縁層を介在させる状態に線材を巻いて成るコイルを用いた場合にも、コア成形時における上記のコイル変形の問題,耐電圧特性の信頼性が不十分である等、絶縁被膜付きのコイルを用いた場合と同様の問題がある。
【0019】
そこでこのような問題の対策として、コイルを電気絶縁性の樹脂にて包み込む状態に被覆して、予めコイルを被覆コイル成形体となしておき、その状態でこれを一体に内包する状態にコアを成形するといったことが考えられる。
従来において、コイルをこのような被覆コイル成形体となしておく点については例えば下記特許文献1や特許文献3等に開示されている。
【0020】
ところで上記被覆コイル成形体の成形方法、詳しくは樹脂被覆層の成形方法としては、熱可塑性樹脂を用いてこれを射出成形する方法が、短時間で成形できまた生産性が高いことから好適な方法であるが、この場合においてもコイルをどのようにして成形型のキャビティ内に位置決状態に保持するか、また射出圧や流動圧によってコイルの変形をどのようにして防止するかといった点が大きな課題となる。
成形時にコイルが大きく変形してしまうと、上記と同様にリアクトルの特性を悪化させてしまう。
【0021】
以上リアクトルを例として、これに用いられる被覆コイル成形体についての問題点を述べたが、この問題はリアクトル以外のコイル複合成形体に用いられる被覆コイル成形体においても同様に生じる問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2007−27185号公報
【特許文献2】特開2008−147405号公報
【特許文献3】特開2006−4957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は以上のような事情を背景とし、コイルを電気絶縁性の樹脂にて包み込む状態に被覆して成る被覆コイル成形体を容易に製造でき、且つその際にコイルを位置決状態に保持し得、またその変形を防止し得て被覆コイル成形体を良好に製造することのできる被覆コイル成形体の製造方法及び被覆コイル成形体を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
而して請求項1は被覆コイル成形体の製造方法に関するもので、線材と線材との間に絶縁層を介在させる状態に該線材を巻いて成る導体コイルを電気絶縁性の樹脂にて外側から全体的に包み込む状態に被覆して成り、軟磁性粉を含有し
射出成形により成形されるコアの内部に埋込状態に設けられる被覆コイル成形体を製造するに際して、前記コイルを被覆する樹脂被覆層
を、内周被覆部及び外周被覆部を円筒状となし
、該内周被覆部の内側に、軸方向に貫通する開口を有する形態に、熱可塑性樹脂にて射出成形するようにし、且つ該射出成形の工程を、前記コイルの内周面又は外周面に対して該樹脂被覆層用の1次成形型を接触させ、該1次成形型にて該コイルを該内周面又は外周面において径方向に位置決めし拘束した状態で、該コイルの外周側又は内周側に形成される該1次成形型の1次成形キャビティに樹脂材料を射出して、前記樹脂被覆層における前記円筒状の外周被覆部又は内周被覆部を含む1次成形体を成形し且つ該コイルと一体化する1次成形工程と、しかる後該1次成形体を該コイルとともに該樹脂被覆層用の2次成形型にセットして、該コイルの内周側又は外周側に形成される該2次成形型の2次成形キャビティに前記樹脂材料を射出して、前記樹脂被覆層における前記円筒状の内周被覆部又は外周被覆部を含む2次成形体を成形し且つ該コイル及び前記1次成形体と一体化する2次成形工程と、に分けて射出成形を行うことを特徴とする。
【0025】
請求項2のものは、請求項1において、前記2次成形工程では、前記2次成形型を、先に成形してある前記1次成形体の前記外周被覆部又は内周被覆部に接触させて前記コイル及び該1次成形体を径方向に位置決めし拘束した状態で、被覆部の形成されていない側の該コイルの内周側又は外周側に形成される前記2次成形型の前記2次成形キャビティに前記樹脂材料を射出して前記2次成形体を成形することを特徴とする。
【0026】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記コイルが、予め外表面に絶縁被膜が付着形成してある線材を巻いて成る絶縁被膜付きのものであることを特徴とする。
【0027】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記外周被覆部を含む前記1次成形体又は2次成形体の一方の成形体が前記コイルの軸方向の一方の端面を被覆する端面被覆部を含んでおり、前記内周被覆部を含む前記1次成形体又は2次成形体の他方の成形体が前記コイルの前記軸方向の他方の端面を被覆する端面被覆部を含んでいることを特徴とする。
【0028】
請求項5は被覆コイル成形体に関するもので、線材と線材との間に絶縁層を介在させる状態に該線材を巻いて成る導体コイルを電気絶縁性の熱可塑性樹脂にて外側から全体的に包み込む状態に被覆して成り、軟磁性粉を含有したコアの内部に埋込状態に設けられる被覆コイル成形体であって、前記被覆コイル成形体の樹脂被覆層は、前記コイルの外周面を被覆する円筒状の外周被覆部を含む成形体と、該コイルの内周面を被覆する円筒状の内周被覆部を含む成形体とが接合されて一体化され、
且つ該内周被覆部の内側に軸方向に貫通する開口が形成されていることを特徴とする。
【0029】
請求項6のものは、請求項5において、前記コアにおける前記軟磁性粉の比率が60体積%以上であることを特徴とする。
【0030】
以上のように本発明の被覆コイル成形体の製造方法は、被覆コイル成形体(厳密には樹脂被覆層)を射出成形にて成形するようになし、そしてその射出成形の工程を1次成形工程と2次成形工程とに分けて射出成形するようになしたものである。
【0031】
この製造方法では、1次成形工程でコイルの内周面又は外周面に対し樹脂被覆層用の1次成形型を接触させてコイルを径方向に位置決めし拘束した状態で、コイルの外周側又は内周側に形成される1次成形キャビティに樹脂材料を射出して、樹脂被覆層における外周被覆部又は内周被覆部を含む1次成形体を成形し且つコイルと一体化する。
【0032】
そして2次成形工程では、その後において1次成形体をコイルとともに2次成形型にセットし、コイルの内周側又は外周側に形成される2次成形キャビティに上記樹脂材料を射出して、樹脂被覆層における内周被覆部又は外周被覆部を含む2次成形体を成形し、且つコイル及び1次成形体と一体化する。
【0033】
この製造方法では、被覆コイル成形体を射出成形するに際し成形を少なくとも2回に分けて行うことで、コイルを成形型により良好に位置決めし保持した状態で、被覆コイル成形体即ち樹脂被覆層を良好に射出成形することができ、その成形に際してコイルが射出圧や流動圧により位置ずれしたり変形したりするのを良好に防止することができ、且つ樹脂被覆層をコイルを被覆する状態に十分な肉厚で良好に成形することができる。
【0034】
本発明の2次成形工程では、2次成形型を、先に成形してある1次成形体の上記外周被覆部又は内周被覆部に接触させてコイル及び1次成形体を径方向に位置決めし拘束した状態で、被覆部の形成されていない側のコイルの内周側又は外周側に形成される2次成形型の2次成形キャビティに樹脂材料を射出して2次成形体を成形することができる(請求項2)。
【0035】
ここで上記コイルは、絶縁被膜付きのものとなしておくことができる(請求項3)。
【0036】
また外周被覆部を含む1次成形体又は2次成形体の一方の成形体を成形するに際し、コイルの軸方向の一方の端面を被覆する端面被覆部を併せて成形し、更に内周被覆部を含む他方の成形体を成形するに際し、コイルの軸方向の他方の端面を被覆する端面被覆部を併せて成形しておくことができる(請求項4)。
【0037】
請求項5は被覆コイル成形体に関するもので、この被覆コイル成形体は、熱可塑性樹脂の樹脂被覆層を、コイルの外周面を被覆する外周被覆部を含む成形体と、内周面を被覆する内周被覆部を含む成形体とを接合一体化したもので、被覆コイル成形体をこのように構成しておくことで、請求項1の製造方法によって被覆コイル成形体を製造することが可能となる。
【0038】
ここで、被覆コイル成形体が埋設されるコアにおける軟磁性粉の比率を60体積%以上とすることができる(請求項6)。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の一実施形態である被覆コイル成形体をリアクトルとともに示した図である。
【
図2】
図1のリアクトルを分解して示した斜視図である。
【
図3】
図2の被覆コイル成形体を樹脂被覆層とコイルとに分解して示した斜視図である。
【
図4】
図3のコイルを別の角度から見た図及び上、下コイルに分解して示した図である。
【
図5】同実施形態の被覆コイル成形体の成形手順の説明図である。
【
図7】
図1のリアクトルの製造方法の工程説明図である。
【
図8】同実施形態における被覆コイル成形体の成形方法の説明図である。
【
図9】
図1のリアクトルにおけるコアの成形方法の説明図である。
【
図10】本発明の背景の問題点を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に本発明をインダクタンス部品としてのリアクトル(チョークコイル)に用いられる被覆コイル成形体に適用した場合の実施形態を図面に基づいて以下に詳しく説明する。
図1において、15はコイル複合成形体の一例としてのリアクトルで、軟磁性樹脂成形体から成るコア16の内部に絶縁被膜付きのコイル10が、後述の被覆コイル成形体24として埋込状態に一体化されている。即ちコア16は、ギャップをもたない構造のリアクトルとなるように作製してある。
【0041】
この実施形態において、コイル10は
図3〜
図5(A)に示すようにフラットワイズコイルで、平角線材を線材の厚み方向(径方向)に巻き、重ねてコイル形状となしたもので、巻き加工し成形した自由形状状態で径方向に隣接する線材同士が互いに絶縁被膜を介して接触状態に重なっている。
【0042】
本実施形態において、コイル10は
図3,
図4に示しているように上コイル10-1と下コイル10-2とを巻き方が反対方向になるように上下に重ねて、それぞれの内径側の端部20を接合し、1つの連続したコイルとして構成してある。但し1本の線材で上コイル10-1と下コイル10-2とを連続して構成したものであっても良い。
尚、上コイル10-1と下コイル10-2との間には大きな電位差が生ずるため、それらの間には
図4(B)に示しているように円環状の絶縁シート21が介装してある。ここで絶縁シート21は厚みが約0.5mm程度のものである。
尚図中18はコイル10におけるコイル端子で、径方向外方に突出せしめられている。
【0043】
図5(A)に示しているように、コイル10は平面形状が円環状をなしている。
コイル10は、
図1に示しているようにコイル端子18の先端側の一部を除いて全体的にコア16に埋込状態に一体に内包されている。
【0044】
この実施形態においてコイル10は銅,アルミニウム,銅合金,アルミニウム合金等種々の材質のものを用いることができる(但しこの実施形態ではコイル10は銅製である)。
【0045】
この例において、コア16は軟磁性粉と熱可塑性樹脂との混合材を射出成形して得た成形体から成っている。
ここで軟磁性粉として軟磁性鉄粉,センダスト粉,フェライト粉等を用いることができる。また熱可塑性樹脂としては、例えばPPS(ポリフェニレンスルフィド),PA12(ポリアミド12),PA6(ポリアミド6),PA6T(ポリアミド6T),POM(ポリオキシメチレン),PE(ポリエチレン),PES(ポリエーテルスルホン),PVC(ポリ塩化ビニル),EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)等を好適に用いることができる。
軟磁性粉のコア16に占める比率は様々な比率とすることができるが、好適には体積%で50〜70%程度である。
【0046】
絶縁被膜付きのコイル10は、コイル端子18の先端側の一部を除いて、その全体が電気絶縁性の樹脂で外側から被覆されている。
図1,
図2中24はコイル10と樹脂被覆層22とから成る被覆コイル成形体で、コイル10はこの被覆コイル成形体24としてコア16の内部に埋め込まれている。
この実施形態において、樹脂被覆層22の厚みは0.5〜2.0mmとしておくことが好ましい。
この樹脂被覆層22は、軟磁性粉を含有していない電気絶縁性の熱可塑性樹脂から成っている。その熱可塑性樹脂としてはPPS,PA12,PA6,PA6T,POM,PE,PES,PVC,EVAその他種々の材質のものを用いることができる。
【0047】
図2の分解図にも示しているように、コア16は、1次成形体16-1と2次成形体16-2とを、
図1(B)に示す境界面P
1で射出成形による接合にて一体化して構成してある。
1次成形体16-1は、
図1,
図2に示すように被覆コイル成形体24の外周面に接する円筒状の外周側成形部25と、被覆コイル成形体24の図中下側に位置する底部26とを有する容器状且つコイル軸線方向の図中上端に開口30を有する形状をなしている。
尚、この1次成形体16-1の外周側成形部25には切欠部28が設けられている。
この切欠部28は、後述の被覆コイル成形体24の厚肉部36(
図2参照)を嵌め入れるためのものである。
【0048】
一方2次成形体16-2は、
図2にも示しているように被覆コイル成形体24の内周面に接し、且つコイル10の内側の空所を埋めて1次成形体16-1における底部26に達する内周側成形部32と、被覆コイル成形体24の図中上側に位置し、1次成形体16-1における上記の開口30を閉鎖して、1次成形体16-1の凹所40及びそこに収容された被覆コイル成形体24を内側に隠蔽する上部の円形の蓋部34とを一体に有している。
【0049】
一方、コイル10を被覆する樹脂被覆層22もまた、
図3の分解図にも示しているように1次成形体22-1と2次成形体22-2とから成っており、それらが
図1(B)に示す境界面P
2において射出成形による接合にて一体化されている。
【0050】
1次成形体22-1は、コイル10の外周面を被覆する円筒状の外周被覆部46と、コイル10の下端面の全体を被覆する下被覆部(端面被覆部)48とを一体に有している。
一方2次成形体22-2は、コイル10の内周面を被覆する円筒状の内周被覆部50と、コイル10の上端面の全体を被覆する上被覆部(端面被覆部)52とを一体に有している。
尚、1次成形体22-1には径方向外方に突出する厚肉部36が全高に亘って形成されており、その厚肉部36に、これを径方向に貫通する一対のスリット38が形成されている。
コイル10における上記の一対のコイル端子18は、これらスリット38を貫通して1次成形体22-1の径方向外方に突出せしめられている。
また2次成形体22-2には、径方向外方に突出する舌片状の突部42が上被覆部52に一体に形成されている。1次成形体22-1における厚肉部36は、その上面がこの突部42にて被覆される。
【0051】
図2〜
図9に、
図1のリアクトル15の製造方法が被覆コイル成形体の製造方法と併せて具体的に示してある。
この実施形態では、
図5及び
図6に示す手順に従って
図5(A)に示す絶縁被膜付きのコイル10を外側から包み込むように樹脂被覆層22を形成し、コイル10と樹脂被覆層22とを一体化して成る被覆コイル成形体24を構成する。
【0052】
このとき、
図5(B)に示しているように先ず外周被覆部46と下被覆部48を一体に有する1次成形体22-1を成形し、しかる後に
図6(C)に示すように内周被覆部50と上被覆部52とを一体に有する2次成形体22-2を成形し、樹脂被覆層22の全体を成形する。
【0053】
図8に、その際の具体的な成形方法が示してある。
図8(A)において、54は被覆コイル成形体24具体的には樹脂被覆層22用の1次成形型で、上型56と下型58を有している。
ここで下型58は中型部58Aと外型部58Bとを有している。
【0054】
図8(A)に示す1次成形型54を用いた1次成形では、先ずコイル10を1次成形型54にセットする。このときコイル10は
図3に示す向きとは上下の向きを逆向きにしてセットする。
詳しくは下コイル10-2が上側に、上コイル10-1が下側に位置するように上下を逆向きにして1次成形型54にセットする。
そして中型部58Aをコイル10の内周面に接触させて、この中型部58Aによりコイル10の内周面を径方向に拘束し保持する。
【0055】
そして1次成形型54の、コイル10の外周側に形成されたキャビティ66に通路68を通じて樹脂(熱可塑性樹脂)材料を射出し、
図1及び
図5(B)に示す樹脂被覆層22の1次成形体22-1を射出成形する。
詳しくは、
図8(B)に示す外周被覆部46と下被覆部48とを一体に有する1次成形体22-1を射出成形する。
【0056】
以上のようにして樹脂被覆層22の1次成形体22-1を成形したら、これと一体のコイル10とともに、それらを
図8(B)に示す2次成形型70にセットする。
このとき、
図8(B)に示しているようにコイル10を1次成形体22-1とともに上下逆向きにして2次成形型70にセットする。
この2次成形型70は、上型72と下型74とを有している。また下型74は、中型部74Aと外型部74Bとを有している。
この2次成形型70は、1次成形体22-1をコイル10とともにセットした状態で、1次成形体22-1の外周被覆部46に接触してコイル10を外周被覆部46とともに径方向に位置決めし、拘束保持するとともに下被覆部48に接触してコイル10を下被覆部48とともに上下方向に位置決めする。そしてその状態でコイル10の内周側と上側とにキャビティ80を形成する。
【0057】
この2次成形型70を用いた2次成形では、通路82を通じて1次成形の際の樹脂材料と同一の樹脂材料をキャビティ80に射出し、樹脂被覆層22における2次成形体22-2を射出成形して同時にこれを1次成形体22-1及びコイル10と一体化する。
【0058】
本実施形態では、以上のようにして成形された被覆コイル成形体24を、
図1のコア16の成形の際にコア16と一体化する。
その具体的な手順が
図7及び
図9に示してある。
この実施形態では、コア16の全体を成形するに際して、
図7に示すように先ず容器状をなす1次成形体16-1を予め成形しておく。
【0059】
そしてその後において、
図7(A)に示すように容器状をなす1次成形体16-1の凹所40の内部に、
図5及び
図6に示す手順で成形した被覆コイル成形体24を、1次成形体16-1の開口30を通じて図中下向きに全高に亘って嵌め込み、被覆コイル成形体24を1次成形体16-1にて保持させる。
【0060】
そしてその状態で1次成形体16-1と被覆コイル成形体24とを成形型にセットし、コア16における2次成形体16-2を射出成形して、これを1次成形体16-1及び被覆コイル成形体24と一体化する。
【0061】
図9(A)は、1次成形体16-1を成形するコア16用の1次成形型を示している。
84は、1次成形体16-1を成形する1次成形型で、上型86と下型88とを有している。
【0062】
ここでは通路92を通じて軟磁性粉と熱可塑性樹脂の混合材をキャビティ94に射出成形し、以て外周側成形部25と底部26とを一体に有する1次成形体16-1を成形する。
【0063】
図9(B)は、コア16における2次成形体16-2を成形する2次成形型を示している。
96はその2次成形型で、上型98と下型100とを有している。
この2次成形では、先に成形した1次成形体16-1に被覆コイル成形体24を嵌め込み、保持させた状態で、それらを2次成形型96にセットする。
【0064】
このとき、1次成形体16-1はその外周面が2次成形型96への全周に亘る接触によって径方向に位置決めされ、更に底部26の下面が2次成形型96内において上下方向に位置決状態に保持される。
即ち被覆コイル成形体24が1次成形体16-1を介して2次成形型96内で径方向にも、また上下方向にも位置決めされ保持される。
【0065】
この2次成形では、その状態でキャビティ104よりも図中上方の通路102を通じキャビティ104内に1次成形の際と同一の混合材を射出し、以て
図1(B),
図2及び
図7(B)の2次成形体16-2を成形し、同時にこれを1次成形体16-1及び被覆コイル成形体24と一体化する。
ここにおいて
図1及び
図7(B)に示すリアクトル15が得られる。
【0066】
以上のような本実施形態によれば、コイル10を成形型により良好に位置決めし保持した状態で、被覆コイル成形体24即ち樹脂被覆層22を良好に射出成形することができ、その成形に際してコイル10が射出圧や流動圧により位置ずれしたり変形したりするのを良好に防止することができ、且つ樹脂被覆層24をコイル10を被覆する状態に良好に成形することができる。
【実施例】
【0067】
絶縁被膜(20〜30μmのポリアミドイミド皮膜)付き平角線材(幅9mm,厚み0.85mm)を巻いて成る上コイル10-1,下コイル10-2(何れも外径φ80mm,内径φ47mm,ターン数18のフラットワイズコイルで一方を反転して重ね合せてある)を上下に重ねて接合一体化し構成したコイル10を用い、熱可塑性樹脂として直鎖状のPPSを用いて、被覆コイル成形体24における樹脂被覆層22の1次成形体22-1を成形した。
このとき1次成形体22-1は、外周被覆部46の厚み1mm,下被覆部48の厚みを1mmで成形した。
【0068】
続いて樹脂被覆層22用の2次成形型70を用いて同一のPPS樹脂を用い、2次成形体22-2を成形した。
このとき2次成形体22-2は、内周被覆部50の厚みを0.5mm,上被覆部52の厚みを1mmとして成形した。
尚、このときの樹脂被覆層22の成形は以下の条件で行った。即ち射出温度を320℃とし、また成形型の型温度を130℃とし、射出圧力を147MPaとして射出成形を行った。
【0069】
これと並行して、軟磁性鉄粉と直鎖状PPSを、軟磁性鉄粉の比率が60体積%となるような配合比率で混合した混合材を用いてコア16における1次成形体16-1を射出成形し、そして1次成形体16-1に被覆コイル成形体24を収納して、その状態で別の2次成形型96にて、上記と同じ混合材を用いてコア16における2次成形体16-2を成形し、同時にこれを1次成形体16-1と被覆コイル成形体24とに一体化し、リアクトル15を得た(寸法はコア16の外径がφ90mm,高さが40.5mm)。
尚、このときのコア16の成形は以下のような条件で行った。即ち射出温度を310℃とし、また成形型の型温度を150℃とし、そして射出圧力を147MPaとしてコア16の射出成形を行った。
以上のようにして得られたリアクトル15のコア16には亀裂の発生は認められなかった。
【0070】
上記で得たリアクトル15の耐電圧特性を次のようにして測定した。
ここではリアクトル15をアルミベースプレート上に直接置いて、リアクトル15をアルミベースプレートに電気的に繋がった状態とし、そして測定装置の一方の端子をリアクトル15の一方のコイル端子18に、また他方の端子をアルミベースプレートにそれぞれ結線し、そしてその状態で通電を行って交流0V〜3500V(ボルト)まで徐々に電圧を高め、3500Vで1秒間保持した。
その際、流れる電流が10mA(ミリアンペア)以下であれば合格、それよりも多ければ不合格として耐電圧を判定した。
その結果、本実施形態のものは試験数10個全てが合格であった。
【0071】
これに対し、コイル10に対して樹脂被覆層22を形成しないままコイル10に対して射出成形を行ってコア16を成形した比較例のものは、試験数10個中全て200〜300V(ボルト)で絶縁破壊を生じ、何れも不合格の判定結果であった。
尚、測定装置としては菊水電子(社)製TOS5051Aを用いた。
【0072】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば上記実施形態では被覆コイル成形体24を成形するに際し、先ず外周被覆部46を成形し、次いで内周被覆部50を成形するようにしているが、場合によって1次成形ではコイル10を1次成形型にて外周面で保持拘束して内周被覆部50を成形し、その後に外周被覆部46を成形するようになすことも可能であるし、また樹脂被覆層22における1次成形体22-1,2次成形体22-2を上例以外の他の様々な形状で成形するといったことも可能である。
【0073】
また本発明は、上記のコア16がポッティング法にて成形される場合、即ち軟磁性粉を熱硬化性樹脂の液に分散状態に混合し、この混合材を容器に注入して熱硬化させてコアを成形する場合にも適用可能であり、更にはコアがその他材質、成形方法にて成形される場合にも適用することが可能である。
更に本発明は、コイルが絶縁被膜付きのコイルではなく、線材と線材との間に絶縁性の樹脂のフィルム等の絶縁層を介在させる状態に線材を巻いて成るコイルである場合においても適用可能である。
【0074】
また本発明は、上記リアクトル以外に電磁調理器の加熱体その他のコイル複合成形体における被覆コイル成形体に適用することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様,形態で実施及び構成することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 コイル
12 絶縁被膜
14 軟磁性粉
22 樹脂被膜層
24 被覆コイル成形体
46 外周被覆部
50 内周被覆部
54 1次成形型
66,80 キャビティ
70 2次成形型