特許第6065941号(P6065941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6065941インモールド射出成形金型装置及び樹脂成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6065941
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】インモールド射出成形金型装置及び樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/34 20060101AFI20170116BHJP
   B29C 33/14 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   B29C45/34
   B29C33/14
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-118344(P2015-118344)
(22)【出願日】2015年6月11日
(65)【公開番号】特開2017-1309(P2017-1309A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087985
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 宏司
(72)【発明者】
【氏名】瀬堂 統太
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−156870(JP,A)
【文献】 特開2000−006199(JP,A)
【文献】 特開2008−055730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 33/10−33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
折曲部(202)を有する樹脂成形品(200)を形成するためのインモールド射出成形金型装置(1)であって、
前記樹脂成形品(200)の加飾面側を形成するキャビティ(21)を備えた雌型(20)と、
前記樹脂成形品(200)の非加飾面側を形成するコア(11)を備えた雄型(10)と、
前記雌型(20)の前記キャビティ(21)の外側において、加飾フィルム(100)を保持するクランパー(40)とを有し、
前記雌型(20)は、前記キャビティ(21)の底面(22)に開口する第1吸引孔(31)と、前記加飾フィルム(100)を挟んで前記雄型(10)が当接するクランプ面(25)における前記クランパー(40)の内側に開口する第2吸引孔(32)と、前記キャビティ(21)と前記第2吸引孔(32)とを連通するように型表面に形成された凹溝状の吸引溝(33)とを有し、
前記第1吸引孔(31)、前記第2吸引孔(32)、及び前記吸引溝(33)は、前記キャビティ(21)と前記加飾フィルム(100)との間の空間部(SA)の空気を排気するときに排気通路として機能し、
記吸引溝(33)は、前記キャビティ(21)と前記加飾フィルム(100)との間の空間部(SA)の空気が排出されるときに、前記加飾フィルム(100)が溝内面全体に密着しない断面形状に形成されている
インモールド射出成形金型装置。
【請求項2】
折曲部(202)を有する樹脂成形品(200)を形成するためのインモールド射出成形金型装置(1)であって、
前記樹脂成形品(200)の加飾面側を形成するキャビティ(21)を備えた雌型(20)と、
前記樹脂成形品(200)の非加飾面側を形成するコア(11)を備えた雄型(10)と、
前記雌型(20)の前記キャビティ(21)の外側において、加飾フィルム(100)を保持するクランパー(40)とを備え、
前記雄型(10)の前記コア(11)は、前記加飾フィルム(100)を介して前記キャビティ(21)の内側面(24)に接触する接触部位(12)を有し、
前記雌型(20)は、前記キャビティ(21)の底面(22)に開口する第1吸引孔(31)と、前記加飾フィルム(100)を挟んで前記雄型(10)が当接するクランプ面(25)における前記クランパー(40)の内側に開口する第2吸引孔(32)と、前記キャビティ(21)と前記第2吸引孔(32)とを連通するように型表面に形成された凹溝状の吸引溝(33)とを有し、
前記第1吸引孔(31)、前記第2吸引孔(32)、及び前記吸引溝(33)は、前記キャビティ(21)と前記加飾フィルム(100)との間の空間部(SA)の空気を排気するときに排気通路として機能し、
記吸引溝(33)は、前記キャビティ(21)の前記内側面(24)における前記樹脂成形品(200)の前記折曲部(202)の端縁(203)が位置する内面部位(24b)を前記第2吸引孔(32)に連通させる
インモールド射出成形金型装置。
【請求項3】
前記キャビティ(21)は、前記折曲部(202)の端縁が位置する内面部位(24b)よりも上方の部位から前記クランプ面(25)にかけての角部分(26)の構成面(24a)が弧状に形成されている
請求項2記載のインモールド射出成形金型装置。
【請求項4】
折曲部(221)を有する樹脂成形品(220)を形成するためのインモールド射出成形金型装置(1)であって、
前記樹脂成形品(220)の加飾面側を形成するキャビティ(21)を備えた雌型(20)と、
前記樹脂成形品(220)の非加飾面側を形成するコア(11)を備えた雄型(10)と、
前記雌型(20)の前記キャビティ(21)の外側において、加飾フィルム(100)を保持するクランパー(40)とを有し、
前記雌型(20)は、前記キャビティ(21)の底面(22)に開口する第1吸引孔(31)と、前記加飾フィルム(100)を挟んで前記雄型(10)が当接するクランプ面(25)における前記クランパー(40)の内側に開口する第2吸引孔(32)と、前記キャビティ(21)と前記第2吸引孔(32)とを連通するように型表面に形成された凹溝状の吸引溝(224)とを有し、
前記第1吸引孔(31)、前記第2吸引孔(32)、及び前記吸引溝(224)は、前記キャビティ(21)と前記加飾フィルム(100)との間の空間部(SX)の空気を排気するときに排気通路として機能し、
記コア(11)は、前記樹脂成形品(220)の前記折曲部(221)の端部(221a)を形成する凹部(11x)を有し、
前記吸引溝(224)は、クランプ面(25)に形成されて、前記キャビティ(21)の屈曲面(23)から立ち上がる内側面(24)まで延びる
インモールド射出成形金型装置。
【請求項5】
前記吸引溝(33,224)は、前記キャビティ(21)と前記加飾フィルム(100)との間の空間部(SA)の空気が排出されるときに、前記加飾フィルム(100)が溝内面全体に密着しない断面形状に形成されている
請求項2〜請求項4の何れか1項に記載のインモールド射出成形金型装置。
【請求項6】
前記吸引溝(33,224)の幅寸法及び深さ寸法は、断面の底部両側の角部が、前記加飾フィルム(100)が密着しないスペースとして残るように、設定されている
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のインモールド射出成形金型装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載のインモールド射出成形金型装置(1)を用いて樹脂成形品を形成することを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾フィルムをキャビティに配置して樹脂成形品を成形するインモールド射出成形金型装置及び樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インモールド射出成形は、携帯電話、化粧品容器、雑貨品などの比較的寸法の小さい外装部品に広く採用されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。ところが、最近ではルームエアコンの前面パネルのような大きなサイズの樹脂成形品についてまでインモールド射出成形法による加飾が求められるようになってきた。
【0003】
インモ−ルド射出成形方法に用いられるインモールド射出成形金型装置は、特許文献1、特許文献2等に開示されているようなものであって、コアを有する非加飾面側の雄型、製品形状部を成すキャビティを有する加飾面側の雌型、キャビティの外側で加飾フィルムをクランプするクランパーなどを備えている。
【0004】
このようなインモールド射出成形金型装置を用いたインモ−ルド射出成形は、次のように行われている。すなわち、先ず型開き時に加飾フィルムを金型内に設置してキャビティの周囲で加飾フィルムをクランプする。次いで、吸引により加飾フィルムを雌型のキャビティの内面に沿わせた後に型締めして成形空間を形成する。そして、この成形空間に樹脂を射出し、冷却することにより加飾フィルムの模様を樹脂成形品に転写するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−166257号公報
【特許文献2】特開2001−239525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ルームエアコンの前面パネルのような樹脂成形品は、平面部に対して立ち上がる折曲部を有する。このような樹脂成形品を形成する金型では、キャビティの底面とクランプ面とに吸引孔が設けられる。しかし、樹脂成形品の成形の際の加飾フィルムの吸引時に、キャビティの底面からクランプ面にかけての2つの吸引孔の間の領域において、空気が残留することがある。このように空気が残留すると、加飾フィルムに傷、破れ、皺が発生したり、加飾フィルムの局部的な伸びに起因する着色層の薄肉化が発生したりするなどの問題が生じる。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、傷、破れ、皺、局部的薄肉化による薄色化を緩和することのできるインモールド射出成形金型装置、及び樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するインモールド射出成形金型装置は、折曲部を有する樹脂成形品を形成するためのインモールド射出成形金型装置であって、前記樹脂成形品の加飾面側を形成するキャビティを備えた雌型と、前記樹脂成形品の非加飾面側を形成するコアを備えた雄型と、前記雌型の前記キャビティの外側において、加飾フィルムを保持するクランパーと
を有し、前記雌型は、前記キャビティの底面に開口する第1吸引孔と、前記加飾フィルムを挟んで前記雄型が当接するクランプ面における前記クランパーの内側に開口する第2吸引孔と、前記キャビティと前記第2吸引孔とを連通するように型表面に形成された凹溝状の吸引溝とを有し、前記第1吸引孔、前記第2吸引孔、及び前記吸引溝は、前記キャビティと前記加飾フィルムとの間の空間部の空気を排気するときに排気通路として機能する。また、前記吸引溝は、前記キャビティと前記加飾フィルムとの間の空間部の空気が排出されるときに、前記加飾フィルムが溝内面全体に密着しない断面形状に形成されている。
【0009】
この構成によれば、吸引溝により、キャビティにおいて第1吸引孔と第2吸引孔との間の領域における空間部の空気が排出されるようになり、この部分に空気が残留することが抑制される。これによって、加飾フィルムとキャビティとの間に残留する空気に起因して生じる、加飾フィルムの傷、破れ、皺、局部的薄肉化による薄色化が緩和される。
【0010】
また、前記コアは、前記加飾フィルムを介して前記キャビティの内側面に接触する接触部位を有し、前記吸引溝は、前記キャビティの前記内側面における前記樹脂成形品の前記折曲部の端縁が位置する内面部位を前記第2吸引孔に連通させる。この構成によれば、効率的に空気が排出されるようになるため、加飾フィルムを密着させるのに必要な時間を短縮することができる。
【0011】
また、前記キャビティは、前記折曲部の端縁が位置する内面部位よりも上方の部位から前記クランプ面にかけての角部分の構成面が弧状に形成されていることが好ましい。この構成によれば、キャビティの内側面からクランプ面にわたる部位に加飾フィルムが密着し易くなる。
【0012】
また、コアは、前記樹脂成形品の前記折曲部の端部を形成する凹部を有し、前記吸引溝は、クランプ面に形成されて、キャビティの屈曲面から立ち上がる内側面まで延びる。この構成によれば、吸引溝の形成が簡単である。
【0013】
また、前記吸引溝は、前記キャビティと前記加飾フィルムとの間の空間部の空気が排出されるときに、前記加飾フィルムが溝内面全体に密着しない断面形状に形成されていることが好ましい。この構成によれば、加飾フィルムの吸引時に吸引溝が加飾フィルムの密着により封鎖されることが抑制されるため、吸引期間にわたってキャビティと加飾フィルムとの間に存在する空気を排気し続けることができる。
【0014】
また、前記吸引溝の幅寸法及び深さ寸法は、断面の底部両側の角部が、前記加飾フィルムが密着しないスペースとして残るように、設定されていることが好ましい。この構成によれば、加飾フィルムの吸引時に、断面の底部両側の角部が、加飾フィルムが密着しないスペースとして残るため、吸引力の低下が抑制される。
【0015】
また、本発明に係る樹脂成形品の製造方法は、上記のインモールド射出成形金型装置により樹脂成形品を形成する。
上記いずれかのインモールド射出成形金型装置を用いた製造方法によれば、加飾フィルムの傷、破れ、皺、局部的薄肉化による薄色化が緩和されるため、インモールド射出成形金型装置を用いた製造方法により形成された樹脂成形品の折曲部には、加飾フィルムの傷、破れ、皺、局部的薄肉化による薄色化に起因する意匠的な欠陥が少なくなる。このため、樹脂成形品は意匠的に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0016】
上記インモールド射出成形金型装置によれば、傷、破れ、皺、局部的薄肉化による薄色化を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】インモールド射出成形金型装置の断面図。
図2図1のA部の拡大図。
図3】インモールド射出成形金型装置の角部の斜視図。
図4図3のB−B線に沿う断面図であって、(a)は吸引開始時の断面図、(b)は吸引終了時の断面図。
図5】(a)は、従来構造のインモールド射出成形金型装置の断面図、(b)は、従来構造のインモールド射出成形金型装置により形成された樹脂成形品の斜視図。
図6】(a)は、吸引溝により加飾フィルムが吸引されている様子を示す図、(b)は、実施形態に係るインモールド射出成形金型装置により形成された樹脂成形品の斜視図。
図7】キャビティの変形例の斜視図。
図8】(a)は、他の実施形態に係るインモールド射出成形金型装置の断面図、(b)は、吸引溝により加飾フィルムが吸引されている様子を示す図、(c)は、他の実施形態に係るインモールド射出成形金型装置により形成された樹脂成形品の斜視図。
図9】吸引溝の変形例の断面図。
図10】吸引溝の変形例の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1図7を参照して、インモールド射出成形金型装置について説明する。
図1は、インモールド射出成形金型装置1の断面図である。
インモールド射出成形金型装置1は、加飾フィルム100で加飾された樹脂成形品200を形成する。本実施形態では、樹脂成形品200は、平らな平面部201と、平面部201に対して立ち上がる折曲部202を有する(図6(b)参照)。
【0019】
インモールド射出成形金型装置1は、コア11を備えた雄型10と、キャビティ21を備えた雌型20と、雌型20のキャビティ21の外側に配置されて加飾フィルム100を保持するクランパー40とを有する。コア11は、加飾フィルム100を介してキャビティ21の内側面24に接触する接触部位12と、樹脂成形品200の非加飾面側の部位を構成する非接触部位13とを有する。
【0020】
図2を参照して、雌型20について説明する。
雌型20は、キャビティ21と、クランプ面25とを有する。クランプ面25には、加飾フィルム100を挟んで、雄型10が当接する。キャビティ21は、樹脂成形品200の加飾面側を形成する。キャビティ21は、底面22と、底面22に連続して形成されている屈曲面23と、屈曲面23から立ち上がる内側面24とを有する。キャビティ21の内側面24は、斜め(雄型10の移動方向に対して斜め)に延びる。これは、キャビティ21から樹脂成形品200が抜けやすくするためである。
【0021】
雌型20は、加飾フィルム100を吸引する第1吸引孔31及び第2吸引孔32を有する。第1吸引孔31は、キャビティ21の底面22に開口する。例えば、第1吸引孔31は、底面22から内側面24にかけて湾曲する屈曲面23の近くに配置される。第2吸引孔32は、クランプ面25におけるクランパー40の内側に開口する。
【0022】
図2及び図3に示されるように、雌型20には、吸引溝33が設けられている。
吸引溝33は、キャビティ21と第2吸引孔32とを連通するように、型表面に形成されている。例えば、図2に示されるように、吸引溝33は、キャビティ21の内側面24において樹脂成形品200の折曲部202の端縁203が位置する部位(以下、「内面部位24b」)を第2吸引孔32へ連通するように、型表面に形成されている。すなわち、吸引溝33は、第2吸引孔32からキャビティ21に向かって延びて、更に、キャビティ21の内側面24に沿って樹脂成形品200の端縁203に位置するところまで延びる。樹脂成形品200の端縁203に位置するところとは、内側面24において、樹脂成形品200の端縁203に対応する部位から数ミリメートル分だけクランプ面25側に位置する部位までの領域を示す。
【0023】
吸引溝33は、凹溝として構成される。
第1吸引孔31、第2吸引孔32及び吸引溝33は、キャビティ21と加飾フィルム100との間の空間部SA(図6参照(a)参照。)の空気を排出するときに排気通路として機能する。
【0024】
吸引溝33は、キャビティ21と加飾フィルム100との間の空間部SAの空気を排出するときに、加飾フィルム100が溝内面全体に密着しない断面形状に形成されていることが好ましい。
【0025】
吸引溝33は、断面空間(加飾フィルム100で蓋されたときの空間。図4(a)参照)を有し、断面の底部両側の角部33aが、加飾フィルム100が密着しないスペースSC(図4(b)参照)として残るように、幅寸法及び深さ寸法DXが設定されている。また、加飾フィルム100が雄型10と雌型20とにより押圧されたときに加飾フィルム100に深い皺が形成されないように、吸引溝33は浅くされる。
【0026】
例えば、図4(a)に示されるように、吸引溝33の断面空間の断面形状は、矩形に構成される。また、図4(b)に示されるように、吸引溝33の溝幅は、吸引により加飾フィルム100が吸引溝33の底面33bに接触し得るが底面33b全体には密着しないような寸法に設定されている。なお、吸引溝33の溝幅は、吸引によって加飾フィルム100が吸引溝33の底面33bに接触しない程度の幅狭の寸法にすることがより好ましい。
【0027】
図5及び図6を参照して、インモールド射出成形金型装置1の作用を説明する。
図5(a)は、従来構造のインモールド射出成形金型装置1の断面図である。
従来構造のインモールド射出成形金型装置1では、コア11は、加飾フィルム100を介してキャビティ21の内側面24に接触する接触部位12を有しない。インモールド射出成形金型装置1は、樹脂成形品210の折曲部211側の端面212を、コア11のクランプ面14から延長された延長面14xで形成する。キャビティ21は吸引溝33を有しない。
【0028】
このような金型構造では、加飾フィルム100をキャビティ21に密着させるために、第1吸引孔31と第2吸引孔32とを介して加飾フィルム100とキャビティ21との間に存在する空気を排気するとき、底面22とクランプ面25との間の領域において空気が残留して空気溜りSXが形成されることがある。この状態で、雄型10と雌型20との間の成形空間SBに樹脂が充填されると、樹脂の充填に従って加飾フィルム100が空気溜りSXを押し潰す。このとき、加飾フィルム100の局部的薄肉化による薄色化、皺FL、傷、破れ等が生じる。このため、図5(b)に示されるように、樹脂成形品210の加飾面における屈曲部分には、薄色部FP、皺FL、傷、破れ等が形成される。
【0029】
図6(a)は、吸引溝33により加飾フィルム100が吸引されている様子を示す図である。図6(b)は、実施形態に係るインモールド射出成形金型装置1により形成された樹脂成形品200の斜視図である。
【0030】
実施形態に係るインモールド射出成形金型装置1では、コア11は、加飾フィルム100を介してキャビティ21の内側面24に接触する接触部位12を有する。キャビティ21は、第2吸引孔32に連通する吸引溝33を有する。吸引溝33は、上述したように、第2吸引孔32からキャビティ21まで延び、さらに、吸引溝33は、キャビティ21の内側面24における内面部位24b(内面部位24bとは、樹脂成形品200の折曲部202の端縁203が位置するところ。)まで延びる。
【0031】
このような金型構造によれば、加飾フィルム100をキャビティ21に密着させるために、第1吸引孔31と第2吸引孔32とを介して加飾フィルム100とキャビティ21との間に存在する空気を排気するとき、底面22とクランプ面25との間の領域(すなわち内側面24)における空間部SAの空気が持続的に排出される。キャビティ21の内側面24に沿うように吸引溝33が延びており、吸引溝33の周縁の全長が長く、吸引溝33全体が封止され難いからである。特に、複数の吸引溝33がキャビティ21に設けられているときは、吸引溝33の全部が完全に封止されない限りは空気を持続的に排出し続けるため、空気の残留量は少なくなる。
【0032】
空気の排気につれて加飾フィルム100がキャビティ21に密着するようになる。場合によっては、加飾フィルム100が吸引溝33の底面33bに密着するようになる(図4(b)参照)。加飾フィルム100が吸引溝33の溝内面全体に密着すると空気の流通路が無くなるため、空気が排出されないようになるが、上述のように、吸引溝33は、加飾フィルム100が溝内面全体に密着しない断面形状に構成されているため、吸引溝33の角部33aにはスペースSCが形成され(図4(b))、このスペースSCを通じて空気が排気される。このため、吸引溝33の吸引機能の低下が抑制され、キャビティ21の底面22と内側面24との間の空気が排出され続ける。このような作用により、空気溜りSXの形成が抑制されるようになるため、従来構造のインモールド射出成形金型装置1に生じる問題が緩和される。すなわち、加飾フィルム100の局部的薄肉化による薄色化、皺FL、傷、破れ等が生じ難くなる。
【0033】
なお、加飾フィルム100が吸引溝33に密着することにより、吸引溝33に沿うように皺FLが加飾フィルム100に形成されるが、吸引溝33は、樹脂成形品200の折曲部202の端縁203が位置するところ(内面部位24b)まで延びており、この先には延びていないため、樹脂成形品200の加飾面には皺が形成され難い。すなわち、吸引溝33は、樹脂成形品200の加飾面から離れたところに配置されているため、樹脂成形品200の端縁203には皺FLが形成され難い。
【0034】
樹脂成形品200の製造方法を説明する。
インモールド射出成形金型装置1の雄型10と雌型20とを開いた状態で、雌型20のキャビティ21の上に加飾フィルム100を配置する。加飾フィルム100は、クランパー40により支持されている。クランパー40は、クランパー40のフィルムクランプ面41(図1参照)に対して加飾フィルム100が摺動し得るように加飾フィルム100を挟む。
【0035】
次いで、キャビティ21と加飾フィルム100との間の空間部SAの空気を排出する。加飾フィルム100とキャビティ21の底面22とが密着し、かつ加飾フィルム100とキャビティ21の内側面24とが密着すると、加飾フィルム100と屈曲面23との間に空間部が形成される。この空間部の空気は、内側面24に設けられている吸引溝33を通って第2吸引孔32から排出される。これにより、キャビティ21全面にわたって加飾フィルム100が密着するようになる。
【0036】
吸引溝33は、上述のように加飾フィルム100が溝内面全体に密着しない断面形状に構成されているため、加飾フィルム100と吸引溝33との間には、加飾フィルム100が密着しないスペースSCが残る。このようにして、キャビティ21全面にわたって加飾フィルム100が密着するようになるときでも、加飾フィルム100と吸引溝33との間にはスペースSCが残るため、このスペースSCを介して空気が排出されるようになる。このような作用によって、加飾フィルム100がキャビティ21の隅々に密着するようになる。
【0037】
加飾フィルム100の吸引後、インモールド射出成形金型装置1の雄型10と雌型20とを閉じて、キャビティ21とコア11との間の空間に樹脂を充填する。所定時間の経過後、雄型10と雌型20とを開いて、樹脂成形品200を取り出し、加飾フィルム100を樹脂成形品200から引き剥がす。樹脂成形品200の引き剥がすと加飾フィルム100の転写層が樹脂成形品200に残るため、加飾された樹脂成形品200が形成される。
【0038】
以下、本実施形態に係るインモールド射出成形金型装置1の効果を説明する。
(1)本実施形態では、雌型20は、第1吸引孔31と、第2吸引孔32と、吸引溝33とを有する。第1吸引孔31は、キャビティ21の底面22に開口する。第2吸引孔32は、クランプ面25においてクランパー40の内側に開口する。吸引溝33は、凹溝状であり、キャビティ21と第2吸引孔32とを連通するように、型表面に形成されている。第1吸引孔31、第2吸引孔32、及び吸引溝33は、キャビティ21と加飾フィルム100との間の空間部SAの空気を排気するときに、排気通路として機能する。
【0039】
この構成によれば、吸引溝33により、キャビティ21において第1吸引孔31と第2吸引孔32との間の領域における空間部SA(加飾フィルム100がキャビティ21との間の空間部)の空気が排出されるようになる。このため、この部分に空気が残留することが抑制される。これによって、加飾フィルム100がキャビティ21との間の部位に残留する空気に起因して生じる、加飾フィルム100の傷、破れ、皺、局部的薄肉化による薄色化が緩和される。
【0040】
(2)本実施形態では、コア11は、加飾フィルム100を介してキャビティ21の内側面24に接触する接触部位12を有する。吸引溝33は、キャビティ21の内側面24における樹脂成形品200の折曲部202の端縁203が位置するところ(内面部位24b)を第2吸引孔32に連通させる。この構成によれば、吸引溝33は、キャビティ21の内側面24における樹脂成形品200の折曲部202の端縁203が位置するところまで延び、効率的に空気が排出されるようになるため、加飾フィルムを密着させるのに必要な時間を短縮することができる。
【0041】
(3)図7に示されるように、キャビティ21において、樹脂成形品200の折曲部202の端縁203が位置するところ(内面部位24b)よりも上方(雄型10に向かう方向)の部位からクランプ面25にかけての角部分26は次のように構成され得る。すなわち、角部分26を構成する構成面24aが弧状に形成される。この構成によれば、キャビティ21の内側面24からクランプ面25にわたる部位に加飾フィルム100が密着し易くなる。
【0042】
(4)本実施形態では、吸引溝33は、キャビティ21と加飾フィルム100との間の空間部SAの空気が排出されるときに、加飾フィルム100が溝内面全体に密着しない断面形状に形成されていることが好ましい。この構成によれば、加飾フィルム100の吸引時に吸引溝33が加飾フィルム100の密着により封鎖されることが抑制されるため、吸引期間にわたってキャビティ21と加飾フィルム100との間に存在する空気を排気し続けることができる。
【0043】
(5)本実施形態では、吸引溝33は、断面の底部両側の角部33aが、加飾フィルム100が密着しないスペースSCとして残るように、幅寸法及び深さ寸法DXが設定されていることが好ましい。この構成によれば、加飾フィルム100の吸引時に、断面の底部両側の角部33aが、加飾フィルム100が密着しないスペースSCとして残るため、吸引力の低下が抑制される。
【0044】
(6)樹脂成形品200は、インモールド射出成形金型装置1により製作される。
上記いずれかのインモールド射出成形金型装置1によれば、加飾フィルム100の傷、破れ、皺、局部的薄肉化による薄色化が緩和されるため、インモールド射出成形金型装置1により製作される樹脂成形品200の折曲部202には、加飾フィルム100の傷、破れ、皺、局部的薄肉化による薄色化に起因する意匠的な欠陥が少なくなる。このため、樹脂成形品200は意匠的に優れたものとなる。
【0045】
(その他の実施形態)
なお、実施態様は上記に示した態様に限られるものではなく、これを例えば以下に示すように変更して実施することもできる。
【0046】
図8(a)は、他の実施形態のインモールド射出成形金型装置1の断面図である。図8(b)は、吸引溝224により加飾フィルム100が吸引されている様子を示す図である。図8(c)は、他の実施形態のインモールド射出成形金型装置1により形成された樹脂成形品220である。このインモールド射出成形金型装置1では、コア11は、凹部11xを有する。凹部11xは、樹脂成形品220の折曲部221の端部221aを形成する。キャビティ21には、第2吸引孔32に連通する吸引溝224が設けられている。吸引溝224は、第2吸引孔32からキャビティ21まで延びるが、実施形態とは異なり、吸引溝224はキャビティ21内の内側面24に沿うように延びていない。すなわち、吸引溝224は、クランプ面25に形成されて、第2吸引孔32からキャビティ21内の屈曲面23から立ち上がる内側面24まで延びる。このような金型構造によれば、実施形態と同様の作用及び効果(上記(1)の効果)が得られる。また、この構成によれば、吸引溝224の形成が簡単である。
【0047】
吸引溝224は、例えば、図8(a)に示されるように、キャビティ21側の吸引溝先端部224aと第2吸引孔32側の吸引溝幹部224bとが連結したものとして構成されることが好ましい。吸引溝先端部224aは、上記実施形態に説明した吸引溝33と同様の構造とされる。吸引溝幹部224bの断面積は、吸引溝先端部224aの断面積よりも大きい。これにより、吸引溝先端部224aの断面積と等しい断面積で第2吸引孔32から内側面24まで延ばした吸引溝224に比べて、吸引力が大きくなる。
【0048】
一方、コア11に、折曲部221の端部を形成するための凹部11xを設けたことにより、吸引溝224の先端部(すなわち、吸引溝先端部224aのキャビティ21側の端部)が屈曲面23の近傍に配置され得る。
【0049】
・上記実施形態及びその他の実施形態では、吸引溝33,224の断面空間の断面形状は矩形(図4(a)参照)であるが、これに限定されない。例えば、吸引溝33の断面空間の断面形状は矩形で底面33b側の角部またはクランプ面25側の角部が面取りされた形状に構成され得る。また、図9に示されるように、吸引溝33xの断面空間の断面形状は三角形に構成され得る。この構成によって、加飾フィルム100の吸引時に、加飾フィルム100が密着しないスペースとして角部33yが残るため、加飾フィルム100の吸引力の低下が抑制される。
【0050】
・上記実施形態及びその他の実施形態は、各吸引溝33は独立しているが、図10に示されるように、各吸引溝33を連通溝34で接続してもよい。この構成によれば、吸引溝33のいずれかに樹脂等が詰まったとしても、第2吸引孔32までの空気の迂回流通路が形成され得る。これにより、樹脂等の詰まりに起因する吸引力の低下が抑制される。
【符号の説明】
【0051】
1…インモールド射出成形金型装置、10…雄型、11…コア、11x…凹部、12…接触部位、13…非接触部位、14…クランプ面、14x…延長面、20…雌型、21…キャビティ、22…底面、23…屈曲面、24…内側面、24a…構成面、24b…内面部位、25…クランプ面、26…角部分、31…第1吸引孔、32…第2吸引孔、33…吸引溝、33a…角部、33b…底面、33x…吸引溝、33y…角部、34…連通溝、40…クランパー、41…フィルムクランプ面、100…加飾フィルム、200…樹脂成形品、201…平面部、202…折曲部、203…端縁、210…樹脂成形品、211…折曲部、212…端面、220…樹脂成形品、221…折曲部、221a…端部、224…吸引溝、224a…吸引溝先端部、224b…吸引溝幹部、DX…深さ寸法、FL…皺、FP…薄色部、SA…空間部、SB…成形空間、SC…スペース、SX…空気溜り。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10