特許第6065991号(P6065991)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社悠心の特許一覧

特許6065991包装用積層フィルムからなる逆止注出ノズルおよび包装用積層フィルムに引裂き誘導疵を形成する方法
<>
  • 特許6065991-包装用積層フィルムからなる逆止注出ノズルおよび包装用積層フィルムに引裂き誘導疵を形成する方法 図000002
  • 特許6065991-包装用積層フィルムからなる逆止注出ノズルおよび包装用積層フィルムに引裂き誘導疵を形成する方法 図000003
  • 特許6065991-包装用積層フィルムからなる逆止注出ノズルおよび包装用積層フィルムに引裂き誘導疵を形成する方法 図000004
  • 特許6065991-包装用積層フィルムからなる逆止注出ノズルおよび包装用積層フィルムに引裂き誘導疵を形成する方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6065991
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】包装用積層フィルムからなる逆止注出ノズルおよび包装用積層フィルムに引裂き誘導疵を形成する方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 75/62 20060101AFI20170116BHJP
   B65D 33/00 20060101ALI20170116BHJP
   B65D 33/38 20060101ALI20170116BHJP
   B65B 61/02 20060101ALI20170116BHJP
   B65D 65/28 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   B65D75/62 A
   B65D33/00 C
   B65D33/38
   B65B61/02
   B65D65/28
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-179(P2016-179)
(22)【出願日】2016年1月4日
【審査請求日】2016年5月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】307028493
【氏名又は名称】株式会社悠心
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二瀬 克規
【審査官】 浅野 弘一郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0284032(US,A1)
【文献】 特開2015−071455(JP,A)
【文献】 特表2005−520746(JP,A)
【文献】 特開平11−077872(JP,A)
【文献】 特表2001−507318(JP,A)
【文献】 特開平03−005091(JP,A)
【文献】 米国特許第03909582(US,A)
【文献】 特開2012−131524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 75/62
B65B 61/02
B65D 33/00
B65D 33/38
B65D 65/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルム層と、このベースフィルム層を挟む表面側および裏面側のそれぞれに積層した無延伸シーラント層とを具える三層以上の積層構造の包装用積層フィルムからなり、中央部分に注出通路を有するフィルム状の逆止注出ノズルであって、
前記注出通路を横切って延びて、前記ベースフィルム層の表面側および裏面側の少なくとも一方の無延伸シーラント層が押退け変位された位置に、レーザ光線の照射による引裂き誘導疵を有することを特徴とする逆止注出ノズル。
【請求項2】
逆止注出ノズルの外表面側の無延伸シーラント層が、押退け変位されていることを特徴とする請求項1に記載の逆止注出ノズル。
【請求項3】
前記ベースフィルム層は、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルムまたはエチレンビニルアルコール共重合体フィルムであり、前記無延伸シーラント層は、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、アイオノマーフィルムまたはエチレン酢酸ビニル共重合体フィルムであることを特徴とする請求項1または2に記載の逆止注出ノズル。
【請求項4】
前記引裂き誘導疵の幅が、50〜500μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の逆止注出ノズル。
【請求項5】
押退け変位された前記無延伸シーラント層の頂部幅が、100〜3000μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の逆止注出ノズル。
【請求項6】
前記ベースフィルム層の引裂き誘導疵の形成位置における厚みは、引裂き誘導疵を形成しない他のベースフィルム層厚みの1/3以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の逆止注出ノズル。
【請求項7】
ベースフィルム層と、このベースフィルム層を挟む表面側および裏面側のそれぞれに積層した無延伸シーラント層とを具える三層以上の積層構造の包装用積層フィルムに引裂き誘導疵を形成するに当たり、
表面側よび裏面側の少なくとも一方の前記無延伸シーラント層を、引裂き誘導疵の形成予定位置で予め押退け変位させ、その後、該押退け変位位置にレーザ光線を照射して、ベースフィルム層だけを昇華、消失もしくは蒸発させて引裂き誘導疵を形成することを特徴とする引裂き誘導疵の形成方法。
【請求項8】
前記引裂き誘導疵が、フィルム状の逆止注出ノズルの開封予定位置に設けられることを特徴とする請求項に記載の引裂き誘導疵の形成方法。
【請求項9】
前記ベースフィルム層は、前記無延伸シーラント層よりもレーザ光線の吸収度合が大きいことを特徴とする請求項またはに記載の引裂き誘導疵の形成方法。
【請求項10】
前記レーザ光線は、炭酸ガスレーザもしくはYAGレーザであることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の引裂き誘導疵の形成方法。
【請求項11】
前記無延伸シーラント層は、加熱下もしくは常温の回転ロールまたは、加熱下もしくは常温の押圧プレートによって押退け変位されることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の引裂き誘導疵の形成方法。
【請求項12】
前記回転ロールまたは押圧プレートの加熱温度は、前記無延伸シーラント層の軟化温度以上、溶融温度未満であることを特徴とする請求項11に記載の引裂き誘導疵の形成方法。
【請求項13】
前記無延伸シーラント層は、前記押退け変位位置において、前記ベースフィルム層からの残厚が0〜10μmの範囲であることを特徴とする請求項7〜12のいずれか1項に記載の引裂き誘導疵の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベースフィルム層と、それの表面側および裏面側に積層される無延伸シーラント層とを具える三層以上の積層構造の包装用積層フィルムからなり、開封予定位置に引裂き誘導疵が形成されてなる引裂き開封性に優れるフィルム状の逆止注出ノズル、および包装用積層フィルムに引裂き誘導疵を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム状の逆止注出ノズルおよびこの逆止注出ノズルに注出口を形成するための引裂き誘導疵を形成する方法としては、特許文献1に開示されたようなものがある。
この従来技術は、ベースフィルム層と、このベースフィルム層を挟む両面に積層されたシーラント層とからなる積層構造の包装用積層プラスチックフィルムからなる場合の、そのベースフィルム層に被包装物の注出用の開口を形成するための引裂き誘導疵を形成するに当たり、ベースフィルム層として、レーザ光の吸光度がシーラント層のそれよりも高いプラスチックフィルムを用いると共に、該包装用積層プラスチックフィルムの引裂き予定位置にレーザ光を照射することで、ベースフィルム層のみにレーザ光を吸収させて昇華、消失または排除して、引裂き誘導疵を形成することを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−71455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この従来技術にあっては、包装用積層フィルムの引裂き予定位置にレーザ光線を照射して、ベースフィルム層のみを昇華等させて支持基材となるベースフィルム層を脆弱化させて引裂き誘導疵を形成しているが、図4に示すように、ベースフィルム層2は、昇華等に伴って膨満状態となり、これに伴ってベースフィルム層2に積層された一方のシーラント層4が伸長変形し、ベースフィルム層2から離隔して空洞5が形成されることになる。このようにして形成された引裂き誘導疵6に沿って、包装用積層フィルム1を手指で引裂くと、ベースフィルム層2の脆弱化によって引裂力を低減することができるものの、上記のようにベースフィルム層2から離隔したシーラント層4の伸長変形等が不可避となり、該変形部分に起因して引裂き端面その他に毛羽立ちが生じやすくなり、該毛羽に被包装物としての液体が付着して液切れ性の悪さをもたらして、外容器その他を汚損する原因になる等の問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するべくなされたものであり、引裂き開封性に優れ、注出時の液切れ性の悪さを改善した包装用積層フィルムからなる逆止注出ノズル、および液状被包装物を収納保持するための包装袋等に好適に用いられる包装用積層フィルムに、開封用の引裂き誘導疵を形成する方法を提供することを目的とする。
【0006】
即ち、本発明の逆止注出ノズルは、ベースフィルム層と、このベースフィルム層を挟む表面側および裏面側のそれぞれに積層した無延伸シーラント層とを具える三層以上の積層構造の包装用積層フィルムからなり、中央部分に注出通路を有する逆止注出ノズルであって、
前記注出通路を横切り、前記ベースフィルム層の表面側および裏面側の少なくとも一方の無延伸シーラント層が押退け変位された位置に、レーザ光線の照射による引裂き誘導疵を有することを特徴とする。
【0007】
なお、本発明の逆止注出ノズルにおいては、
(1)逆止注出ノズルの外表面側の無延伸シーラント層が、押退け変位されていること、
(2)前記ベースフィルム層は、ポリエステルフィルム(以下、「PEフィルム」と言う。)、ナイロンフィルム(以下、「NYフィルム」と言う。)またはエチレンビニルアルコール共重合体フィルム(以下、「EVOH」と言う。)であり、前記無延伸シーラント層は、ポリエチレンフィルム(以下、「PEフィルム」と言う。)、ポリプロピレンフィルム(以下、「PPフィルム」と言う。)、アイオノマーフィルム(以下、「IOフィルム」と言う。)またはエチレン酢酸ビニル共重合体フィルム(以下、「EVAフィルム」と言う。)であること、
(3)前記引裂き誘導疵の幅が50〜500μmの範囲であること、
(4)前記押退け変位された無延伸シーラント層の頂部幅が100〜3000μmの範囲であること、
(5)前記ベースフィルム層の引裂き誘導疵の形成位置における厚みは、引裂き誘導疵を形成しない他のベースフィルム層厚みの1/3以下であること
より好ましい解決手段となる。
【0008】
また、本発明は、ベースフィルム層と、このベースフィルム層を挟む表面側および裏面側のそれぞれに積層した無延伸シーラント層とを具える三層以上の積層構造の包装用積層フィルムに引裂き誘導疵を形成するに当たり、
表面側および裏面側の少なくとも一方の前記無延伸シーラント層を、引裂き誘導疵の形成予定位置で予め押退け変位させ、その後、該押退け変位位置にレーザ光線を照射して、ベースフィルム層だけを昇華、消失もしくは蒸発させて引裂き誘導疵を形成することを特徴とする。
【0009】
本発明の引裂き誘導疵の形成方法においては、
(1)前記引裂き誘導疵が、フィルム状の逆止注出ノズルの開封予定位置に設けられること、
(2)前記ベースフィルム層は、前記無延伸シーラント層よりもレーザ光線の吸収度合が大きいこと、
(3)前記レーザ光線は、炭酸ガスレーザもしくはYAGレーザであること、
(4)前記無延伸シーラント層は、加熱下もしくは常温の回転ロールまたは、加熱下もしくは常温の押圧プレートによって押退け変位されること、
(5)前記回転ロールまたは押圧プレートの加熱温度は、前記無延伸シーラント層の軟化温度以上であること、
(6)前記無延伸シーラント層は、前記押退け変位位置において、前記ベースフィルム層からの残厚が0〜10μmの範囲であること、
がより好ましい解決手段となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の包装用積層フィルムからなる逆止注出ノズルでは、ベースフィルム層を挟む表裏の少なくとも一方の無延伸のシーラント層等を押退け変位させた状態の下で、その押退け位置にレーザ光線を照射して、ベースフィルム層だけを昇華、消失または蒸発させることにより、支持基材となるベースフィルム層が薄肉化、脆化等した引裂き誘導疵を形成する。これにより、本発明では、注出通路を横切って延びる引裂き誘導疵の位置において、注出口を手指によって簡易に引裂いて開封することができると共に、ベースフィルム層に積層された無延伸シーラント層が予め押退け変位されているため、引裂きに伴って該無延伸シーラント層が伸長することがなく、毛羽立ち等の発生のおそれがなく、また液切性が低下するおそれがない。
【0011】
そして、ベースフィルム層をPETフィルム、NYフィルムまたはEVOHフィルムのいずれかで構成し、無延伸シーラント層を、PEフィルム、PPフィルム、IOフィルムまたはEVAフィルムのいずれかで構成した場合は、前述したように、ベースフィルム層のレーザ光線の吸収度合を、予め押退け変位された無延伸シーラント層等のそれより簡易に高めることができ、液切れ性をより向上させることができる。
【0012】
また、本発明の逆止注出ノズルでは、これを構成する包装用積層フィルムが、ベースフィルム層と、このベースフィルム層を挟む表面側および裏面側のそれぞれに積層した無延伸シーラント層とを具える三層の積層構造とすることが、中間層、蒸着層、接着剤層等を考慮することなく、無延伸シーラント層を押退け変位させてベースフィルム層へのレーザ光線の照射を行うことができるため、引裂き誘導疵の形成が容易である。
【0013】
好ましくは、ベースフィルム層の引裂き誘導疵の幅を、50〜500μmの範囲、より好ましくは100〜200μmの範囲となるようにする。これによれば、フィルム状の逆止注出ノズルを小さい力で、引裂き誘導疵に沿って正確に引裂き開封することができ、引裂き端面がシャープで毛羽立つこともない。
【0014】
この場合、表裏二枚の包装用積層フィルムのそれぞれの所要位置に予め引裂き誘導疵を形成し、その後、それらの引裂き誘導疵が重なり合うように、表裏二枚の積層フィルムを重ね合わせて周縁部を接合、たとえば融着させるに際し、引裂き誘導疵の幅は、二枚の積層フィルムの重ね合わせ誤差や、融着等の熱歪などの影響を取り除くべく50μm以上とすることが好ましい一方、その幅が500μmを越えると、引裂き強度が低くなりすぎて、意図しない破袋、破断等が生じるおそれがある。
【0015】
押退け変位された無延伸シーラント層等の頂部幅を100〜3000μm、好ましくは200〜1000μmの範囲としたときは、ベースフィルム層と共に所要の物性を維持しつつ、引裂き容易性を十分に担保することができる。
いいかえれば、押退け頂部幅が100μm未満では、レーザ照射による引裂き誘導疵の形成位置を正確に特定することができず、一方、3000μmを超えると押退ける無延伸シーラント層が多すぎてしまい、前記押退け頂部の両サイド部分のフィルム厚みが大きくなりすぎてしまう。
【0016】
引裂き誘導疵は、直線状もしくは曲線状に延在する連続的または間欠的なベースフィルム層の薄肉部とすることが好ましく、直線状、曲線状もしくは湾曲線状等、所要に応じて適宜に選択できることはもちろんであり、薄肉部によって形成される引裂き誘導疵は、手指による引裂き容易性を担保する上で好ましい。
なおこの場合、引裂き誘導疵は、包装用積層フィルムの周縁接合部から1.0mm以上の間隔をおいて設けることが、包装袋取り扱い中等の意図しない開封を避ける上で好ましい。
【0017】
ベースフィルム層の厚みは、引裂き誘導疵の形成箇所の厚みが、引裂き誘導疵を形成しない他の部分の厚みの1/3以下とすることが、ベースフィルム層に所要の物性を十分に発揮させてなお、所期した通りの引裂き容易性を担保する上で好ましい。
【0018】
レーザ光線を照射する側に位置する無延伸シーラント層等の、押退け変位後のベースフィルム層からの残厚を0〜10μmの範囲としたときは、ベースフィルム層へのレーザ光線の照射によって吸光度の小さい無延伸シーラント層を有効に破壊することができる。そのため、レーザ光線の照射によってベースフィルム層上に積層された無延伸シーラント層等が伸長変形してベースフィルム層から離隔するおそれがなく、引裂き面が毛羽立ったりして袋内の液状の被包装物を、そこにトラップするおそれを有効に防止して液切れ性を大きく高めることができる。
【0019】
また、逆止注出ノズルの外表面側に位置する無延伸シーラント層を押退け変位させた場合は、逆止注出ノズルの製造が容易になる利点がある。なお、逆止注出ノズルの内表面側に位置してベースフィルム層に強固に積層される無延伸シーラント層は、ベースフィルム層の引裂きに伴って伸長することなく簡易に引裂かれ、引裂き端面にトラップ等された液滴は、十分小さく、やがてその注出ノズル内へ吸い込まれることになるので、その液滴が周囲を汚損する等の問題が生じることがない。
【0020】
液状物充填用の包装袋等に好適に用いられる包装用積層フィルムに開封のための引裂き誘導疵を形成する方法では、延伸もしくは無延伸のベースフィルム層にレーザ光線を照射して、そのベースフィルム層だけを昇華、消失もしくは蒸発させるに先立って、引裂き予定位置近傍の中間層、接着剤層、撥水層等を含むことのある、または含むことのない無延伸シーラント層等を、加熱下または常温下で押退け変位させることにより、従来技術のように前記ベースフィルム層の昇華等に伴って無延伸シーラント層が伸長変形してベースフィルム層から離隔することがなく、該無延伸シーラント層の伸びに起因する引裂き端面への毛羽の発生を有効に抑制し、液切れ性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の形成方法は、前記包装用積層フィルムからなる逆止注出ノズルの開封予定位置に引裂き誘導疵を形成する際に好適に用いることができる。
【0022】
この引裂き誘導疵の形成方法によれば、包装用積層フィルムからなる包装袋等の開封予定位置において、支持基材となるベースフィルム層が薄肉化、脆化等しているため、手指によって簡易に引裂くことができる。なお、ベースフィルム層の例えば表面側の無延伸シーラント層を押退け変位させた場合には、裏面側の無延伸シーラント層がそのまま残存するも、該無延伸シーラント層は、ベースフィルム層に強固に積層されているため、ベースフィルム層の優れた引裂き性に伴って伸びることなく一体的に引裂かれ、引裂き端面に毛羽が発生することがない。
【0023】
なお、押退け変位位置に残存する無延伸シーラント層等は、レーザ光線の照射によって、ベースフィルム層を昇華、消失もしくは蒸発させるに際し、レーザ光線の小さな吸収度合等の下で確実に破壊等されることになるので、該無延伸シーラント層等の伸長変形(ベースフィルム層からの離隔)による引裂き時の毛羽立ち等の発生のおそれがなく、液切れ性の悪さを効果的に取り除くことができる。
【0024】
ここで、ベースフィルム層をPETフィルム、NYフィルムまたはEVOHフィルムのいずれかで構成し、無延伸シーラント層をPEフィルム、PPフィルム、IOフィルムまたはEVAフィルムのいずれかで構成した場合は、ベースフィルム層のレーザ光線の吸収度合を予め押退け変位された無延伸シーラント層等のそれより簡易に高めることができ、液切れ性をより向上させることができる。
【0025】
なお、レーザ光線の照射発振装置は、炭酸ガスレーザもしくはYAGレーザとすることが、効率が高く、出力が大きく好ましい。
ちなみに、ベースフィルム層に引裂き誘導疵を形成するためのレーザ波長は、炭酸ガスレーザでは9.0〜11.5μm、なかでも9.3〜10.6μmの範囲とすることが好ましく、YAGレーザでは0.3〜3.0μm、とりわけ0.5〜1.0μmの範囲とすることが好ましい。なお、レーザ波長は、包装用積層フィルムの構成、厚み、腰度、被包装物の種類等の条件に合わせて適宜選択することが好ましい。
【0026】
そして、中間層、蒸着層、接着剤層、撥水層等を含むことのある無延伸シーラント層等の押退け変位は、その無延伸シーラント層等の種類その他に応じて、加熱下もしくは常温下の回転ロールまたは、加熱下もしくは常温下の押圧プレートにて行うことが効率を高めると共に、押退け変位量の確実性を担保する上で好ましい。また、前記回転ロールまたは押圧プレートの加熱温度を、前記無延伸シーラント層の軟化温度以上とすることで、無延伸シーラント層の押退け変位量を適正に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】(a)は三層積層構造の包装用積層フィルムの引裂き予定位置の無延伸シーラント層を押退け変位させた状態を示す横断面図であり、(b)は押退け変位させた位置にレーザ光線を照射した状態を示す横断面図であり、(c)はレーザ光線の照射によってベースフィルム層としてのPETフィルムに引裂き誘導疵を形成した状態を示す横断面図である。
図2】PETフィルムとPEフィルムとのレーザ光線の吸収スペクトルを示す図である。
図3】本発明のフィルム状の逆止注出ノズルの接合例を示す平面図である。
図4】従来技術を例示する包装用積層フィルムの横断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の包装用積層フィルムに引裂き誘導疵を形成する方法の一実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1は三層積層構造の包装用積層フィルム1に引裂き誘導疵を形成する方法を説明する図であり、図1(a)は、三層積層構造の包装用積層フィルムの引裂き予定位置の無延伸シーラント層を押退け変位させた状態を示す横断面図であり、図1(b)は、その押退け変位させた位置にレーザ光線を照射した状態を示す図であり、図1(c)は、レーザ光線の照射によってベースフィルム層としてのPETフィルムに引裂き誘導疵を形成した状態を示す横断面図である。
なお、図中の三層の積層構造になる包装用積層フィルム1は、熱可塑性の一軸もしくは二軸延伸または無延伸のベースフィルム層2としてのPETフィルム、このベースフィルム層2の両面に直接的に積層したそれぞれの無延伸シーラント層3、4とを具える。
【0029】
まず、図1(a)に示すように、表面側および裏面側の少なくとも一方の無延伸シーラント層3、4、図では無延伸シーラント層4を、ベースフィルム層2としてのPETフィルム層への引裂き誘導疵の予定箇所と対応する位置で、たとえば80〜140℃の範囲に加熱された回転ロール(図示しない)によって、加熱および押圧して押退け変位させて押退け変位部12を形成する。
これにより、押退け変位部12では、予め100〜3000μm、より好ましくは200〜1000μmの範囲で無延伸シーラント層4が押退けられて、無延伸シーラント層4のベースフィルム層2からの残厚Dが、例えば0〜10μm程度に薄肉またはほとんど消失した状態となる。
その後、図1(b)に示すように、レーザ発振装置20から照射されたレーザ光を集光器21によって押退け変位部12に集束させる。これにより、図1(c)に示すように、レーザ光線が照射された押退け変位部12のベースフィルム層2が、昇華、消失もしくは蒸発して脆弱化し、好ましくは50〜500μm、より好ましくは100〜200μmの範囲の幅で引裂き誘導疵6が形成される。
【0030】
なお、無延伸シーラント層3、4を押退け変位するための前記回転ロールまたは押圧プレートの加熱温度は、無延伸シーラント層の軟化温度以上とすることで、無延伸シーラント層3、4の押退け量を確実なものとすることができる。例えば、無延伸シーラント層3、4がPEフィルムである場合には、軟化温度が80〜90℃程度、溶融温度が110〜140℃程度のため、80℃〜140℃の範囲に加熱された回転ロールまたは押圧プレートを用いることが好ましい。
【0031】
この場合、無延伸シーラント層3の押退け変位部12の幅(頂部幅)を100〜3000μm、より好ましくは200〜1000μmの範囲とするのは、その幅が100μm未満では、レーザ照射による引裂き誘導疵6の形成位置を正確に特定することができず、一方、それが3000μmを超えると、押退ける無延伸シーラント層3が多すぎて、押退け変位部12の両サイドのフィルム厚みが大きくなりすぎてしまうからである。
また、ベースフィルム層2の引裂き誘導疵6の幅は、例えば二枚の包装用積層フィルムを重ね合わせる場合に、表側の引裂き誘導疵6と、裏側の引裂き誘導疵6とが常に確実に重ね合わせられるように、重ね合わせる際の誤差やヒートシール時の熱歪等の影響を考慮し、50μm以上とすることが好ましい一方、引裂き強度、物性の低下、取り扱い時の破袋、破断などを考慮すると500μmまでとすることが好ましい。
【0032】
なお、レーザ光線の吸収度合の大きいベースフィルム層2としては、PETフィルム層の他、NYフィルム層またはEVOHフィルム層を用いることができ、また、レーザ光線の吸収度合の小さい無延伸シーラント層3、4としては、PEフィルム層、PPフィルム層、IOフィルム層またはEVAフィルム層を用いることができる。
【0033】
そして、レーザ光線の発振装置20は、炭酸ガスレーザ、YAGレーザとすることが効率が高く、出力が大きいことから好ましい。
ところで、炭酸ガスレーザのレーザ波長は、9.0〜11.5μm、なかでも9.3〜10.6μmの範囲とすることが好ましく、YAGレーザの波長は0.3〜3.0μmとりわけ、0.5〜1.0μmの範囲が好ましい。なお、このレーザ波長は、包装用積層フィルム1の構成や厚み、腰度、被包装物の種類等の条件に合わせて適宜選択することができる。
【0034】
図2は、延伸もしくは無延伸のPETフィルム層と、無延伸PEフィルム層とのレーザ光線の吸収スペクトルを示す図であり、これによればベースフィルム層2としてのPETフィルム層の吸光度が無延伸シーラント層3、4としてのPEフィルム層よりもはるかに大きいことが分かる。
【0035】
図3は、本発明に係る包装用積層フィルムからなる逆止注出ノズル7の実施形態を示す平面図であり、この逆止注出ノズル7は、ベースフィルム層2としての熱可塑性の延伸もしくは無延伸のPETフィルム層と、その両側に積層した無延伸シーラント層3、4との三層の積層構造の、薄肉にして平坦な包装用積層フィルム1の一枚を半折りして、または二枚を重ね合わせて、基端部分を除く周縁部で、無延伸シーラント層3同士を、たとえば0.05〜3.0mmの幅、好ましくは0.1〜1.0mmの範囲の幅にわたって相互に皺がよらないように、図に斜線を施して示すように接合させて、中央部分に注出通路9を区画してなる。
【0036】
なお、この逆止注出ノズル7は、ベースフィルム層2とこのベースフィルム層2を挟む内表面側および外表面側のそれぞれに積層した無延伸シーラント層3、4とを具える三層以上の積層構造の、薄肉にして平坦な包装用積層フィルム1からなり、相互に対向する内表面側の無延伸シーラント層3の相互間に形成される注出通路9に液状の袋内被包装物の薄膜が介在することにより、外気の包装袋本体8内への進入を阻止するセルフシール逆止機能を発揮することができる。
【0037】
このような逆止注出ノズル7の例えば、外表面側に位置する無延伸シーラント層4の引裂き予定位置に、80℃〜140℃程度の温度に加熱された回転ロールと、内表面側に位置する無延伸シーラント層3を支持する常温押圧プレートとの協働下で、その外表面側の無延伸シーラント層4を、たとえば頂部間隔が100〜3000μm、好ましくは200〜1000μmの範囲にわたって押退け変位させた後、該無延伸シーラント層4の凝固下で逆止注出ノズル7の引裂き予定位置にレーザ光線を照射して、ベースフィルム層2だけを昇華、消失または蒸発させることにより、注出通路9を横切って延びる所要の引裂き誘導疵10を形成することができる。
【0038】
なお、本発明のフィルム状の逆止注出ノズル7では、上記したように、それの外表面側に位置することになる図1に示す無延伸シーラント層4だけを、予め押退け変位させることが工程を省く上で好ましい。
【0039】
ここで、ベースフィルム層としてのPETフィルム層の引裂き誘導疵の幅は、前述したように好ましくは50〜500μmの範囲、より好ましくは100〜200μmの範囲とする。
【0040】
上述したようなフィルム状の逆止注出ノズル7は、その基端部分で該注出ノズル7の外表面側の無延伸シーラント層4を介して、積層プラスチックフィルムからなる包装袋本体8の内表面の無延伸シーラント層に、たとえば、ヒートシールによって融着させることにより、包装袋本体8の上部から側方へ突出した状態で、またはその頂部から上方へ突出した状態で、簡易にかつ迅速に、しかも確実に融着接合されて包装袋11として構成される。そして、この包装袋11内に充填包装した液状の被包装物の注出は、逆止注出ノズル7の先端寄りに設けた引裂き誘導疵10に沿って、先端側を手指で引裂き除去して開封することによって行う。
【0041】
このような逆止注出ノズル7の先端寄りに設けた引裂き誘導疵10の形成位置においては、レーザ光線の照射による昇華等によって支持基材であるベースフィルム層2が薄肉化等されているため、逆止注出ノズル7の開封に要する引裂力を十分に小さくすることができる他、ベースフィルム層2の引裂き痕が毛羽立つことがなく、開封位置のベースフィルム層2を十分に平滑なものとすることができる。また、たとえば表裏二枚の包装用積層フィルム1同士の接合強度およびフラット性が高まり、それらの両者が強く密着することができるので、外気の侵入を阻止する逆止機能をより有効に発揮することができる。
【0042】
この一方で、引裂き誘導疵10に沿った逆止注出ノズル7の開封に要する引裂き力が小さくなりすぎて、包装袋11の取り扱い時等に誤って開封されてしまうおそれを取り除くため、引裂き誘導疵10を逆止注出ノズル7の注出通路9を横切るように設ける場合は、引裂き誘導疵10の上端および/または下端に、レーザ光線の非照射部分を1.0〜2.0mm程度残しておくことが好ましく、これによれば破袋強度が高まり、誤開封のおそれを取り除くことができる。
【0043】
なお、ベースフィルム層2へのレーザ光線の照射側とは反対側に積層される逆止注出ノズル7の内表面側の無延伸シーラント層3は、多くは常温の回転ロール、常温の押圧プレートにてバックアップされて、ベースフィルム層2に強固に積層されることになるため、そのベースフィルム層2を引裂き誘導疵10に沿って引裂くに当たって、該ベースフィルム層2の優れた引裂き性に追従して極めて円滑に引裂かれることになり、端面に毛羽立ち等が生じることがなく、その無延伸シーラント層3が液切れ性の悪さを引き起こすことがない。
【0044】
また、図3に示すところにおいて、引裂き誘導疵10は、直線状もしくは曲線状に延在する、連続的または間欠的なものとすることができ、引裂き誘導疵10をフィルム状の逆止注出ノズル7の注出通路9を横切るように連続線状に設けた場合には、引裂き誘導疵10に沿って逆止注出ノズル7を引裂き開封することで、開口縁を曲線状など所望の形状に形成することができ、また、大容量の大袋のように注出口が大きいものであっても、フィルム状の逆止注出ノズル7の裂け目の進行方向を引裂き誘導疵10をもって正確に誘導することができる。
【0045】
なお、引裂き誘導疵10を、開口縁が被包装物の注出方向に突出した曲線状となるように形成した場合には、袋内の被包装物の残量が少なくなって注出の勢いが減少しても、袋内の被包装物は曲線状の開口縁を伝わり落ちて、曲線状の突出先端の狭い範囲から滴下されることになるため、液切れ性が向上し、被包装物が開口縁に付着残留することがなく、液だれの発生や周囲の汚損のおそれを有効に取り除くことができる。
【0046】
とくに、引裂き誘導疵10は、ベースフィルム層2に連続線状に形成することで、そのベースフィルム層が一軸もしくは二軸延伸フィルム層であっても、それの延伸方向に関係なく逆止注出ノズル8の先端部分を手指で簡単に引裂いて包装袋11を開封することができ、また例えば表裏二枚の包装用積層フィルム1を連続線状の引裂き誘導疵10が整列するように容易に重ね合わせることができるため、包装袋1に充填包装される液体がドレッシング等のように粘度の高いものであっても、液だれの発生を有効に抑制することができる。
そしてここでは、逆止注出ノズル7のベースフィルム層2として、強度、各種バリアー性等の高い二軸延伸PETフィルム層を使用することができるため、ホットパックやレトルトパック等の耐熱性が要求される用途への利用が期待できる。
【0047】
ここで、フィルム状の逆止注出ノズル7を構成する包装用積層フィルム1は、一軸もしくは二軸延伸または無延伸のベースフィルム層2をPETフィルム層、NYフィルム層またはEVOHフィルム層のいずれかとすることが好ましく、また、無延伸シーラント層3、4は、PEフィルム層、PPフィルム層、IOフィルム層またはEVAフィルム層のいずれかとすることが好ましい。
【0048】
なお、包装用積層フィルム1は、ベースフィルム層2と、このベースフィルム層2を挟む表面側および裏面側のそれぞれに積層した無延伸シーラント層3、4とを具える三層積層構造とすれば、中間層、蒸着層等を考慮することなく、少なくとも無延伸シーラント層3、4を押退け変位させれば、ベースフィルム層2へのレーザ光線の照射を行うことができ、いずれも容易である。
撥水コート層等の表面コートを形成する場合には、無延伸シーラント層4の押退け変位およびベースフィルム層2へのレーザ光線の照射の後に印刷等によって事後的に行うことが好適である。
【0049】
ベースフィルム層2の引裂き誘導疵10は、前述したように直線状もしくは曲線状に延在する、連続的または間欠的なベースフィルム層2の薄肉部とすることが好ましく、ベースフィルム層2の厚みは、引裂き誘導疵10の形成箇所で、引裂き誘導疵10を形成しない他の部分の、1/3以下とすることが好ましい。
【0050】
これにより、逆止注出ノズル7の引裂き誘導疵10に沿った引裂き端面の包装用積層フィルム1の厚みは、外表面側の無延伸シーラント層4の押退け変位およびレーザ光線の照射によるベースフィルム層2の薄肉化によって、他の部分の積層フィルム厚みの70%程度まで薄くなるため、袋内被包装物としての液体が該引裂き端面に付着することがあっても、接触面積が小さいため、被包装物をホールドすることができず、瞬時に滴下されることになって液切れ性が向上し、液滴の残留による注出口の汚れや液だれの発生、周囲の汚損のおそれを有効に取り除くことができる。
【0051】
なお、逆止注出ノズル7の、押退け変位された無延伸シーラント層4の、ベースフィルム層2からの残厚(図1(a)のD)は0〜10μmの範囲とすることが好ましい。
無延伸シーラント層4は、この程度の残厚であれば、レーザ光線の吸収度合が小さいとはいえ、ベースフィルム層2へのレーザ光線の照射によって、その無延伸シーラント層4を十分に破壊して、引裂き誘導疵10に沿う逆止注出ノズル7の先端部分の引裂き除去に際する、その無延伸シーラント層4の伸長変形を防止して、液切れ性の低下のおそれを有効に取り除くことができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上本発明をベースフィルム層とこのベースフィルム層を挟んでその両面に積層した無延伸シーラント層3,4との三層の積層構造になる包装用積層フィルム1について説明したが、本発明は、外表面に撥水コート層を形成させたり、一層または複数の中間層、蒸着層、接着層等を介在させる場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 包装用積層フィルム
2 ベースフィルム層
3、4 無延伸シーラント層
5 空洞
6、10 引裂き誘導疵
7 フィルム状の逆止注出ノズル
8 包装袋本体
9 注出通路
11 包装袋
12 押退け変位部
20 レーザ光線の発振装置
21 集光器
【要約】      (修正有)
【課題】引裂き開封性に優れ、注出時の液切れ性の悪さを改善した包装用積層フィルムからなる逆止注出ノズル、および液状被包装物を収納保持するための包装袋等に好適に用いられる包装用積層フィルムに、開封用の引裂き誘導疵を形成する方法を提供する。
【解決手段】ベースフィルム層2と、このベースフィルム層を挟む表面側および裏面側のそれぞれに積層した無延伸シーラント層3,4とを具える三層以上の積層構造の包装用積層フィルム1からなり、中央部分に注出通路を有するフィルム状の逆止注出ノズルであって、前記注出通路を横切って延びて、前記ベースフィルム層の表面側および裏面側の少なくとも一方の無延伸ベースフィルム層が押退け変位部12に、レーザ光線の照射による引裂き誘導疵6を有すること。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4