特許第6066064号(P6066064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーインスツル株式会社の特許一覧

特許6066064電気化学セル、および、電気化学セルの製造方法
<>
  • 特許6066064-電気化学セル、および、電気化学セルの製造方法 図000003
  • 特許6066064-電気化学セル、および、電気化学セルの製造方法 図000004
  • 特許6066064-電気化学セル、および、電気化学セルの製造方法 図000005
  • 特許6066064-電気化学セル、および、電気化学セルの製造方法 図000006
  • 特許6066064-電気化学セル、および、電気化学セルの製造方法 図000007
  • 特許6066064-電気化学セル、および、電気化学セルの製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066064
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】電気化学セル、および、電気化学セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/04 20060101AFI20170116BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20170116BHJP
   H01G 9/08 20060101ALI20170116BHJP
   H01G 11/78 20130101ALI20170116BHJP
【FI】
   H01M2/04 G
   H01M2/02 G
   H01G9/08 F
   H01G11/78
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-29041(P2013-29041)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-157771(P2014-157771A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 充則
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−129265(JP,A)
【文献】 特開昭53−145035(JP,A)
【文献】 特開2007−207534(JP,A)
【文献】 特開2001−068070(JP,A)
【文献】 特開平05−003026(JP,A)
【文献】 特開昭62−117256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/04
H01M 2/02
H01G 9/08
H01G 11/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部を有する円筒状に形成された正極缶と、
蓋部を有する円筒状に形成されて前記正極缶に収容される負極缶と、
前記正極缶と前記負極缶とによって形成される空間内に収容される電解液と、を備えるボタン形の電気化学セルであって
前記負極缶は、
前記蓋部に向けて内径が小さくなる二段の円筒状に形成され、
前記二段の円筒のうち、前記蓋部に近い円筒部が第1円筒部として、かつ、前記蓋部から遠い円筒部が第2円筒部としてそれぞれ設定され、
前記第1円筒部の第1内側曲面は、第1頂点にて外側に張り出し、
前記第2円筒部の第2内側曲面は、第2頂点にて外側に張り出し、
前記第1頂点と前記第2頂点とを結ぶ直線と、前記底部とのなす角度が、15°以上45°以下である
電気化学セル。
【請求項2】
前記角度が、20°以上30°以下である
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記正極缶の開口部にて環状をなす端面が、前記第1頂点の外側に配置される
請求項1または2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記第1内側曲面の曲率半径と、前記第2内側曲面の曲率半径とが等しい
請求項1から3のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
底部を有する円筒状に正極缶を形成することと、
蓋部を有する円筒状に負極缶を形成することと、
前記正極缶と前記負極缶とによって形成される空間内に電解液を収容することと、を備えるボタン形の電気化学セルの製造方法であって、
前記負極缶を形成することでは、
前記負極缶を前記蓋部に向けて内径が小さくなる二段の円筒状に形成し、
前記二段の円筒のうち、前記蓋部に近い円筒部が第1円筒部として、かつ、前記蓋部から遠い円筒部が第2円筒部としてそれぞれ設定され、
前記第1円筒部の第1内側曲面が、第1頂点にて外側に張り出し、かつ、
前記第2円筒部の第2内側曲面が、第2頂点にて外側に張り出し、かつ、
前記第1頂点と前記第2頂点とを結ぶ直線と、前記底部とのなす角度が、15°以上45°以下であるように、前記負極缶を形成する
電気化学セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、扁平な円筒状をなす電気化学セル、および、電気化学セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルの一例であるアルカリ一次電池は、電子機器の駆動源の一つとして用いられている。アルカリ一次電池のうち、扁平な円筒形状に形成されたいわゆるボタン形電池は、電子機器内で占有する面積が小さいことから、携帯用の電子機器にて多用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−302597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アルカリ一次電池の搭載される電子機器の小型化に伴い、アルカリ一次電池そのものにも、より小型かつ薄型の形状が求められている。そして、こうした要請に応える一つの方法として、負極缶を形成する金属板の厚さを薄くすることが検討されている。
【0005】
ここで、アルカリ一次電池の製造工程では、底部を有する円筒状の正極缶に、蓋部を有する円筒状の負極缶が収納され、正極缶の周壁が負極缶の周壁に対してかしめられることによって、アルカリ一次電池の開口部が封口される。そのため、上述のように負極缶を形成する金属板の厚さが薄くなると、アルカリ一次電池の小型化並びに薄型化が可能ではある一方で、負極缶の機械的な強度が低くなるために、正極缶がかしめられることによって負極缶が変形しやすくなる。結果として、負極缶と正極缶との間から電解液が漏れやすくなるため、アルカリ一次電池の小型化および薄型化を実現する上で、アルカリ一次電池での漏液を抑えることが望まれている。
【0006】
なお、電解液の漏れを抑える要請はアルカリ一次電池に限らず、扁平な円筒状をなす電気化学セル、例えば、二次電池やキャパシタ等においても共通する。
本開示の技術は、耐漏液性を高めることのできる電気化学セル、および、電気化学セルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の技術における電気化学セルの一態様は、底部を有する円筒状に形成された正極缶と、蓋部を有する円筒状に形成されて前記正極缶に収容される負極缶と、前記正極缶と前記負極缶とによって形成される空間内に収容される電解液とを備えるボタン形の電気化学セルである。前記負極缶は、前記蓋部に向けて内径が小さくなる二段の円筒状に形成され、前記二段の円筒のうち、前記蓋部に近い円筒部が第1円筒部として、かつ、前記蓋部から遠い円筒部が第2円筒部としてそれぞれ設定される。前記第1円筒部の第1内側曲面は、第1頂点にて外側に張り出し、前記第2円筒部の第2内側曲面は、第2頂点にて外側に張り出している。前記第1頂点と前記第2頂点とを結ぶ直線と、前記底部とのなす角度が、15°以上45°以下である。
【0008】
本開示の技術における電気化学セルの一態様によれば、上記角度が15°未満である構成、あるいは、45°よりも大きい構成と比べて、負極缶の周壁に対して正極缶がかしめられたときに、負極缶が変形しにくくなる。そのため、負極缶と正極缶との間に隙間が形成されにくくなり、あるいは、負極缶の蓋部が窪みにくくなり、電気化学セル内に収容された電解液が電気化学セルの外部に漏れることが抑えられる。すなわち、電気化学セルの耐漏液性が高められる。
【0009】
本開示の技術における電気化学セルの他の態様は、前記角度が、20°以上30°以下である。
本開示の技術における電気化学セルの他の態様によれば、角度が20°よりも小さい構成と比べて、負極缶が、正極缶と負極缶とが重なる方向、すなわち、高さ方向において、負極缶の高さが小さくなる方向に変形しにくくなる。そのため、負極缶の変形によって電気化学セル内の圧力が高められにくくなり、電気化学セル内の電解液が、電気化学セルの外部に漏れにくくなる。
【0010】
本開示の技術における電気化学セルの他の態様は、前記正極缶の開口部にて環状をなす端面が、前記第1頂点の外側に配置される。
円筒状に形成された電気化学セルが薄型化される場合には、通常、正極の収容される正極缶と、負極の収容される負極缶との両方にて容量が小さくなるため、正極缶と負極缶との両方で、これらの重ねられる方向に沿って厚さが薄くなる。この際に、本開示の技術における電気化学セルの他の態様によれば、正極缶の端面が、負極缶における第1頂点の外側、すなわち、第1円筒部の張り出す側に配置される。そのため、上記角度が45°よりも大きい構成と比べて、正極缶の開口部における端面と負極缶の外周面との距離が大きくなるから、正極缶と負極缶とが電気的に接続されにくくなる。
【0011】
本開示の技術における電気化学セルの他の態様は、前記第1内側曲面の曲率半径と、前記第2内側曲面の曲率半径とが等しい。
本開示の技術における電気化学セルの他の態様によれば、第1内側曲面の曲率半径と第2内側曲面の曲率半径とが相互に異なる構成と比べて、負極缶の周壁では、第1円筒部と第2円筒部とに作用する外力がばらつくことが抑えられる。そのため、第1円筒部および第2円筒部の一方が他方に対して変形しやすくなることを抑えられる。結果として、負極缶の周壁における一部分のみが大きく変形することが抑えられる。
本開示の技術における電気化学セルの製造方法の一態様は、底部を有する円筒状に正極缶を形成することと、蓋部を有する円筒状に負極缶を形成することと、前記正極缶と前記負極缶とによって形成される空間内に電解液を収容することと、を備えるボタン形の電気化学セルの製造方法である。前記負極缶を形成することでは、前記負極缶を前記蓋部に向けて内径が小さくなる二段の円筒状に形成し、前記二段の円筒のうち、前記蓋部に近い円筒部が第1円筒部として、かつ、前記蓋部から遠い円筒部が第2円筒部としてそれぞれ設定され、前記第1円筒部の第1内側曲面が、第1頂点にて外側に張り出し、かつ、前記第2円筒部の第2内側曲面が、第2頂点にて外側に張り出し、かつ、前記第1頂点と前記第2頂点とを結ぶ直線と、前記底部とのなす角度が、15°以上45°以下であるように、前記負極缶を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の技術の一実施形態における酸化銀電池の断面構造を示す断面図である。
図2】負極缶の断面構造の一部を拡大して示す部分断面図である。
図3】正極缶と負極缶の各々の断面構造の一部を拡大して示す部分断面図である。
図4】(a)実施例の負極缶におけるかしめ前の形状を示す部分断面図であり、(b)かしめ後の形状を示す部分断面図である。
図5】(a)比較例の負極缶におけるかしめ前の形状を示す部分断面図であり、(b)かしめ後の形状を示す部分断面図である。
図6】変形例における折り曲げ角度を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1から図5を参照して、電気化学セルの一実施形態である酸化銀電池を説明する。以下では、酸化銀電池の概略構成、負極缶の構成、実施例の順に説明する。
[酸化銀電池の概略構成]
図1に示されるように、電気化学セルの一例である酸化銀電池10は、底部11aを有した円筒状に形成された正極缶11と、蓋部12aを有した円筒状に形成されて、少なくとも周壁の一部が正極缶11内に収容される負極缶12とを備えている。正極缶11の形成材料には、例えば、ニッケル層がめっきされた鉄やステンレススチールが用いられ、負極缶12の形成材料には、例えば、ニッケル層12A、ステンレススチール層12B、および、銅層12Cが、負極缶12の外表面から順に積層されたクラッド材が用いられる。
【0014】
正極缶11における開口部11cの内周面と、負極缶12における開口部としての折り返し部12bの外周面との間には、環状に形成されたガスケット13が挟まれている。ガスケット13は、正極缶11の周壁が負極缶12の周壁に対してかしめられることで、正極缶11と負極缶12との間に固定されている。ガスケット13には、折り返し部12bの嵌め込まれる溝が負極缶12の周方向の全体にわたって形成され、ガスケット13の形成材料には、例えば、水分を吸収するポリアミド樹脂が用いられる。
【0015】
正極缶11の内側底面11b上には、円板状に形成された正極14が配置され、正極14は、例えば、正極活物質である酸化銀、あるいは、二酸化マンガンが添加された酸化銀等で構成された固体状に形成されている。また、正極14には、導電助剤である、例えば、グラファイトや黒鉛等が含まれていてもよいし、正極14は、正極活物質、導電助剤、および、ポリアクリル酸ナトリウム等の結着剤が混合された混合物でもよい。
【0016】
正極14上には、円板状をなすセパレーター15が配置され、セパレーター15は、例えば、ポリエチレンによって構成された多孔性のフィルムであり、セロファンやポリプロピレンで構成された多孔性のフィルムであってもよい。また、セパレーター15には、多孔性のフィルムと、例えば、ポリオレフィン繊維やポリアミド繊維で構成された不織布とが積層された積層膜が用いられてもよい。セパレーター15には、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、あるいは、これらが混合された水溶液等のアルカリ性の電解液が含浸されている。
【0017】
セパレーター15上であって、セパレーター15、ガスケット13、および、負極缶12によって囲まれる空間には、円板状に形成されたゲル状体である負極16が収納されている。負極16は、例えば、負極活物質である亜鉛あるいは亜鉛合金等、結着剤であるポリアクリル酸ナトリウム等、ゲル化剤であるカルボキシメチルセルロース等、および、上述したアルカリ性の電解液の混合物である。
【0018】
こうした酸化銀電池10の外径Dは、例えば、9.5mmであり、高さH、すなわち、正極缶11における底部11aの外表面と、負極缶12における蓋部12aの外表面との距離は、2.0mmである。なお、以下では、酸化銀電池10における高さに沿った方向が、高さ方向Dhとして設定され、正極缶11の底部11aおよび負極缶12の蓋部12aにおける半径に沿った方向が径方向Drとして設定される。
【0019】
[負極缶の構成]
図2および図3を参照して、負極缶12の構成をより詳しく説明する。なお、図2には、負極缶12に対して正極缶11がかしめられる前の負極缶12の形状が示され、図3には、負極缶12に対して正極缶11がかしめられた後の負極缶12および正極缶11の形状が示されている。
【0020】
図2に示されるように、負極缶12は、円板状をなす蓋部12aと、蓋部12aの外縁から高さ方向Dhに沿って紙面の下方に向けて延びる二段円筒部20と、二段円筒部20における蓋部12aから遠い端部から高さ方向Dhに沿って紙面の上方に向けて折り返された折り返し部12bとから構成されている。二段円筒部20と、折り返し部12bとは、例えば、プレス加工によって形成される。負極缶12における外表面から内表面までの厚さである板厚Tは、例えば、0.10mm以上0.40mm以下である。
【0021】
二段円筒部20は、蓋部12aから近い側から順に、第1円筒部21と、第2円筒部22とから構成され、第1円筒部21の内径が、第2円筒部22の内径よりも小さい、すなわち、二段円筒部20の内径は、蓋部12aに向けて小さくなる。
【0022】
第1円筒部21では、第1外側曲面21osおよび第1内側曲面21isの各々が、高さ方向に沿って紙面の下方に延びる途中で、外側に向けて張り出す曲面状をなしている。このうち、第1内側曲面21isは、蓋部12aの内表面12isに連なる部分である第1頂点P1にて、最も外側に向けて張り出している。
【0023】
第2円筒部22では、第1円筒部21と同様、第2外側曲面22osおよび第2内側曲面22isの各々が、高さ方向に沿って紙面の下側に延びる途中で、外側に向けて張り出す曲面状をなしている。第2円筒部22では、第2外側曲面22osの全体が、第1外側曲面21osよりも径方向の外側に配置され、第2内側曲面22isの全体が、第1内側曲面21isよりも径方向の外側に配置されている。第2内側曲面22isは、第1内側曲面21isと、折り返し部12bの外周面12bosとの間の部分である第2頂点P2にて、最も外側に向けて張り出している。第2内側曲面22isでは、第2頂点P2を含む曲面の曲率半径が、第1内側曲面21isにおける第1頂点P1を含む曲面の曲率半径と等しい。
【0024】
第2頂点P2を含む曲面の曲率半径と、第1頂点P1を含む曲面の曲率半径とが等しい構成であれば、負極缶12の周壁では、第1円筒部21と第2円筒部22とに作用する外力がばらつくことが抑えられる。そのため、第1円筒部21および第2円筒部22の一方が他方に対して変形しやすくなることを抑えられる。結果として、負極缶12の周壁における一部分のみが大きく変形することが抑えられる。
【0025】
ここで、第1頂点P1と第2頂点P2とを結ぶ直線Aと、水平方向、すなわち、負極缶12の蓋部12aの外表面である頂面12os、あるいは、正極缶11の底部11aの外表面とのなす角度が、折り曲げ角度θとして設定される。折り曲げ角度θは、15°以上45°以下の範囲に含まれることが好ましく、20°以上30°以下の範囲に含まれることが更に好ましい。
【0026】
折り曲げ角度θが15°以上45°以下の範囲に含まれることによって、折り曲げ角度θが45°よりも大きい場合と比べて、負極缶12の周壁に対して正極缶11がかしめられたときの、負極缶12の変形が抑えられる。より詳しくは、負極缶12の外径、すなわち、折り返し部12bにおける外径の径方向の内側に向かう変化量が小さくなる。
【0027】
折り返し部12bの変化量が小さくなる構成であれば、正極缶11の内表面と負極缶12の外表面との距離が大きくなることを抑えられるため、負極缶12の外表面とガスケット13の内表面との間に隙間が形成されにくくなる。それゆえに、酸化銀電池10内の電解液が、負極缶12の外表面とガスケット13の内表面との間を通って、酸化銀電池10の外部に漏れにくくなる。すなわち、酸化銀電池10の耐漏液性を高めることができる。
【0028】
また、上述の範囲に折り曲げ角度θが含まれることによって、折り曲げ角度θが15°未満、あるいは、45°よりも大きい場合と比べて、負極缶12の高さが大きくなる方向の変化量、あるいは、小さくなる方向の変化量が小さくなる。すなわち、負極缶12の頂面12osと第2円筒部22と折り返し部12bとの境界部分を含む面との距離が大きくなる方向の変化量、あるいは、小さくなる方向の変化量が小さくなる。
【0029】
負極缶12の高さが大きくなる場合には、負極缶12の二段円筒部20が高さ方向Dhに沿って引き延ばされるように変形する。そのため、負極缶12の蓋部12aが、高さ方向Dhに沿って上方に膨らみ、こうした膨らみが所定の範囲を超えると、酸化銀電池10の高さが、酸化銀電池10の高さにおける規格値を含んだ高さの許容される範囲を超えてしまう。
【0030】
一方、負極缶12の高さが小さくなる場合には、酸化銀電池10の内容積が小さくなるため、酸化銀電池10内の圧力が高くなる。それゆえに、酸化銀電池10内に収容された電解液が、酸化銀電池10の外部に漏れやすくなる。
【0031】
この点、折り曲げ角度θが上述の範囲に含まれる構成では、負極缶12の高さを大きくする方向の変化量と、高さを小さくする方向の変化量との両方が抑えられるため、酸化銀電池10の電解液が漏れにくくなる。すなわち、酸化銀電池10の高さが所定の範囲に保たれつつ、例えば、酸化銀電池10の規格値の一例である2.0mmからの変化量が、±0.02mm以下に保たれつつ耐漏液性を高めることができる。また、折り曲げ角度θが20°以上30°以下の範囲に含まれる構成であれば、負極缶12の高さ方向での変化量が特に抑えられる。
【0032】
なお、折り曲げ角度θが上記の範囲を満たす負極缶12では、負極缶12の高さや負極缶12の外径の変化が非常に小さいため、負極缶12の周壁に対して正極缶11がかしめられる前の折り曲げ角度θと、負極缶12の周壁に対して正極缶11がかしめられた後の折り曲げ角度θとは略等しい。なお、かしめ前の折り曲げ角度θがかしめ前角度θb、かしめ後の折り曲げ角度θがかしめ後角度θaとしてそれぞれ設定される場合には、かしめ後角度θaは、下式で示される範囲に含まれる。
【0033】
(θa−5°)≦θb(=θ)≦(θa+5°)
図3に示されるように、負極缶12の周壁にかしめられる正極缶11の開口部11cは、環状に形成された端面11dを有し、端面11dは、負極缶12における第1頂点P1の外側、すなわち、第1円筒部21の張り出す側に配置されている。
【0034】
ここで、酸化銀電池10の高さが小さくなる場合には、通常、正極14の容積に対する負極の容積を所定の割合に保つために、正極缶11の高さと負極缶12の高さとの両方が小さく設定される。この際に、端面11dが第1頂点P1の外側に配置される構成であれば、折り曲げ角度θが45°よりも大きい構成に比べて、正極缶11の端面11dと負極缶12の頂面12osとの距離、および、正極缶11の端面11dと第2円筒部22の外周面との距離Disが大きくなる。それゆえに、正極缶11と負極缶12とが電気的に接続されにくくなり、正極缶11と負極缶12とが短絡しにくくなる。
【0035】
[実施例]
外径Dが9.5mmであり、高さHが2.0mmであって、負極缶の折り曲げ角度θが相互に異なる複数種の酸化銀電池を作成した。負極缶の板厚Tは、0.2mmとし、負極缶の折り返し部と二段円筒部とをプレス加工によって形成した。その後、各種の酸化銀電池を分解することによって、正極缶がかしめられた後の負極缶を取り出し、負極缶の外径と高さとを測定した。そして、各酸化銀電池の負極缶において、かしめ前の外径に対するかしめ後の外径の差を外径の変化量Dcとして算出し、かしめ前の高さに対するかしめ後の高さの差を高さの変化量Hcとして算出した。なお、折り返し部における外径を負極缶の外径Dnとして設定し、蓋部の外表面と、第2円筒部と折り返し部との境界部分を含む面との距離を負極缶の高さHnとして設定した。
【0036】
また、温度が45℃であり、相対湿度が93%である環境中に各種の酸化銀電池を配置し、各種の酸化銀電池から電解液が漏れるまでの日数を耐漏液性の指標として測定した。なお、電解液が負極缶の頂面に達した状態を漏液した状態として設定し、また、漏液しない期間が20日間継続するごとに耐漏液性の保たれる年数を1年ずつ加算した。
【0037】
各種の酸化銀電池におけるかしめ前の折り曲げ角度θ、外径の変化量Dc、高さの変化量Hc、および、耐漏液性の保たれる年数が下記表1に示されている。なお、各値は、各種の酸化銀電池における20個体の平均値として算出した。また、外径の変化量Dcにおける「−」は、外径が小さくなる方向の変化量を示している。そして、高さの変化量Hcにおける「+」は、高さが大きくなる方向の変化量を示し、「−」は、高さが小さくなる方向の変化量をそれぞれ示している。
【0038】
【表1】
[実施例1]
負極缶の折り曲げ角度θが45°である酸化銀電池では、外径Dnの変化量Dcが−0.02mmであり、高さHnの変化量Hcが+0.01mmであることが認められ、耐漏液性の保たれる年数が4年であることが認められた。
【0039】
[実施例2]
負極缶の折り曲げ角度θが30°である酸化銀電池では、外径Dnの変化量Dcが−0.01mmであり、高さHnの変化量Hcが0mmであることが認められ、耐漏液性の保たれる年数が5年であることが認められた。
【0040】
[実施例3]
負極缶の折り曲げ角度が20°である酸化銀電池では、外径Dnの変化量Dcが0mmであり、高さHnの変化量Hcが0mmであることが認められ、耐漏液性の保たれる年数が5年であることが認められた。
【0041】
[実施例4]
負極缶の折り曲げ角度が15°である酸化銀電池では、外径Dnの変化量Dcが0mmであり、高さHnの変化量Hcが−0.02mmであることが認められ、耐漏液性の保たれる年数が4年であることが認められた。
【0042】
[比較例1]
負極缶が一段の円筒状に形成された酸化銀電池では、外径Dnの変化量が−0.10mmであり、高さHnの変化量Hcが+0.05mmであることが認められ、耐漏液性の保たれる年数が2年であることが認められた。
【0043】
[比較例2]
負極缶の折り曲げ角度θが60°である酸化銀電池では、外径Dnの変化量Dcが−0.07mmであり、高さHnの変化量Hcが+0.03mmであることが認められ、耐漏液性の保たれる年数が2年であることが認められた。
【0044】
[比較例3]
負極缶の折り曲げ角度θが10°である酸化銀電池では、外径Dnの変化量Dcが0mmであり、高さHnの変化量Hcが−0.04mmであることが認められ、耐漏液性の保たれる年数が3年であることが認められた。
【0045】
図4に示されるように、実施例1から実施例4の負極缶12、すなわち、折り曲げ角度θが15°以上45°以下の範囲に含まれる負極缶12によれば、以下の事項が認められた。つまり、図4(b)に示されるかしめ後の形状では、図4(a)に示されるかしめ前の形状に対して、外径Dnの変化量Dcが−0.02mm以上0mm以下の範囲であり、高さHnの変化量Hcが−0.02以上+0.01以下の範囲であることが認められた。特に、折り曲げ角度θが20°である負極缶12によれば、外径Dnおよび高さHnの両方が変化しないことが認められた。また、耐漏液性が保たれる年数が4年以上であることが認められた。更に、折り曲げ角度θが大きいほど、外径Dnの変化量Dcが大きい傾向が認められ、折り曲げ角度θが30°を上回ると、高さHnの変化量Hcが大きくなり、折り曲げ角度θが20°を下回ると、高さHnが小さくなる傾向が認められた。
【0046】
これに対し、図5に示されるように、比較例1の負極缶32、すなわち、一段の円筒状をなす負極缶32によれば、以下の事項が認められた。また、図4に示される実施例と同様に、二段の円筒状をなす負極缶であっても、比較例2および比較例3の負極缶、すなわち、折り曲げ角度θが15°よりも小さい、あるいは、折り曲げ角度θが45°よりも大きい負極缶によっても、同様の事項が認められた。つまり、高さHnの変化量Hcの絶対値が0.03mm以上0.05mm以下であり、耐漏液性の保たれる年数が3年以下であることが認められた。特に、折り曲げ角度θが45°を上回ると、折り曲げ角度θが10°から45°までの範囲と比べて、外径Dnの変化量Dcが急激に大きくなることが認められた。
【0047】
なお、比較例3では、外径Dnの変化量Dcが0mmであるにも関わらず、耐漏液性の保たれる年数が、外径Dnの変化量Dcがより大きい実施例1および実施例2よりも小さくなることが認められた。これは、以下のことを示唆するものである。すなわち、正極缶がかしめられる構成では、負極缶の周壁に対して、径方向の内側に向けた応力が作用する。この際に、折り曲げ角度θが45°を上回る構成では、負極缶の外形が一段の円筒形状に近くなるため、上記応力は、負極缶の蓋部を外側に向けて膨らませ、かつ、負極缶の周壁における全周を径方向の内側に向けて変形させる。これに対し、折り曲げ角度θが15°を下回る構成では、負極缶の外形が半球形状に近くなるため、上記応力は、負極缶の周壁における全周を径方向の内側に向けて変形させにくくする一方で、負極缶の蓋部を内側に向けて窪ませる。なお、負極缶の蓋部の変位する程度や負極缶の周壁の変位する程度は、負極缶の形成材料や正極缶のかしめる程度によって変わるものの、上述した変形の傾向、特に、折り曲げ角度θが45°を上回ると、変化量Dcが急激に大きくなることは、折り曲げ角度θによって保たれるものである。
【0048】
このように、実施例1から実施例4の負極缶によれば、負極缶の二段円筒部が径方向の内側に向けて変形すること、および、二段円筒部および蓋部が、高さ方向の上側あるいは下側に向けて変形することが抑えられることが認められた。結果として、耐漏液性の保たれる年数も長くなる、すなわち、耐漏液性を高めることができることが認められた。なお、負極缶の板厚Tが、0.10mm以上0.40mm以下の範囲に含まれる場合であれば、上述と同等の結果が得られることも認められた。
【0049】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)折り曲げ角度θが15°未満である構成、あるいは、45°よりも大きい構成と比べて、負極缶12の周壁に対して正極缶11がかしめられたときに、負極缶12が変形しにくくなる。そのため、負極缶12と正極缶11との間に隙間が形成されにくくなり、あるいは、負極缶12の蓋部12aが窪みにくくなり、酸化銀電池10内に収容された電解液が酸化銀電池10の外部に漏れることが抑えられる。すなわち、酸化銀電池10の耐漏液性が高められる。
【0050】
(2)折り曲げ角度θが20°以上30°以下の範囲に含まれる場合には、20°よりも小さい構成と比べて、負極缶12が、高さ方向Dhにおいて、負極缶12の高さHnが小さくなりにくくなる。そのため、負極缶12の変形によって酸化銀電池10内の圧力が高められにくくなり、酸化銀電池10内の電解液が、酸化銀電池10の外部に漏れにくくなる。
【0051】
(3)折り曲げ角度θが45°よりも大きい構成と比べて、正極缶11の端面11dと負極缶12の外周面との距離が大きくなり、正極缶11と負極缶12とが電気的に接続されにくくなる。
【0052】
(4)負極缶12の周壁では、第1円筒部21と第2円筒部22とに作用する外力がばらつくことが抑えられる。そのため、第1円筒部21および第2円筒部の22一方が他方に対して変形しやすくなることを抑えられる。結果として、負極缶12の周壁における一部分のみが大きく変形することが抑えられる。
【0053】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
・第1円筒部21における第1内側曲面21isの曲率半径と、第2円筒部22における第2内側曲面22isの曲率半径とは、相互に異なってもよい。こうした構成であっても、上述の折り曲げ角度θが15°以上45°以下の範囲に含まれる以上は、上記(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0054】
・正極缶11の端面11dは、第1頂点P1の外側に配置されなくともよい。例えば、端面11dは、第1頂点P1よりも蓋部12aに近い位置の径方向の外側に配置された構成でもよいし、あるいは、第1頂点P1よりも正極缶11の底部11aに近い位置の径方向の外側に配置された構成でもよい。こうした構成であっても、負極缶12の折り曲げ角度θが15°以上45°以下の範囲に含まれる以上は、上述したように、正極缶11と負極缶12とが電気的に接続されることを抑えることができ、正極缶11と負極缶12とが短絡しにくくなる。
【0055】
・折り曲げ角度θは、20°以上30°以下でなくともよく、15°以上45°以下における他の範囲、すなわち、15°以上20°未満、および、30°より大きく45°以下の範囲に含まれてもよい。こうした構成であっても、折り曲げ角度θが15°以上45°以下の範囲に含まれる以上、上記(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0056】
・負極缶12は、上述した3層構造のクラッド材に限らず、例えば、ニッケル層、ステンレススチール層、および、銅層の少なくとも1つによって形成されてもよい。あるいは、これら以外の金属材料が、負極缶12の形成材料として用いられてもよい。負極缶12の形成材料がいずれの金属であっても、負極缶12に対して正極缶11がかしめられるときの力の大きさが、各材料に応じた大きさに設定される前提では、上記折り曲げ角度θが15°以上45°以下の範囲に含まれていれば、上記(1)に準じた効果を得ることができる。
【0057】
・正極缶11の形成材料には、ニッケル層以外の金属層がめっきされた鉄あるいはステンレススチールが用いられてもよいし、めっき層を有しない鉄あるいはステンレススチールが用いられてもよい。また、正極缶11の形成材料には、鉄あるいはステンレススチール以外の金属が用いられてもよい。
【0058】
・酸化銀電池10を構成するガスケット13、正極14、セパレーター15、および、負極16の各々の形成材料には、上記以外の材料が用いられてもよい。また、電解液にも、上記以外のアルカリ性水溶液が用いられてもよい。要は、酸化銀電池10として機能する範囲で、各部材の形成材料を適宜変更してよい。
【0059】
・上記実施形態では、電気化学セルがアルカリ一次電池の一例である酸化銀電池10として具体化されている。これに限らず、電気化学セルは、他のアルカリ一次電池、リチウム一次電池、空気亜鉛電池、リチウム二次電池、および、キャパシタ等として具体化されてもよい。こうした場合であっても、電気化学セルが扁平な円筒状をなし、負極缶における折り曲げ角度θが15°以上45°以下であれば、上記(1)に準じた効果を得ることができる。
【0060】
図6に示されるように、第1円筒部21の第1内側曲面21isにおける曲率中心C1と、第2円筒部22の第2内側曲面22isにおける曲率中心C2とを結ぶ直線Bと、水平方向とがなす角度は、上記折り曲げ角度θと同義である。そして、第1内側曲面21isにおける曲率半径と、第2内側曲面22isにおける曲率半径とが異なる場合であっても、折り曲げ角度θが15°以上45°以下の範囲に含まれる場合には、上記(1)に準じた効果を得ることができる。
【0061】
上記変形例から把握される技術的思想について追記する。
(付記)
底部を有する円筒状に形成された正極缶と、
蓋部を有する円筒状に形成されて前記正極缶に収容される負極缶と、
前記正極缶と前記負極缶とによって形成される空間内に収容された電解液と、を備えるボタン形の電気化学セルであって
前記負極缶は、
前記蓋部に向けて内径が小さくなる二段の円筒状に形成され、
前記二段の円筒のうち、前記蓋部に近い円筒部が第1円筒部として、かつ、前記蓋部から遠い円筒部が第2円筒部としてそれぞれ設定され、
前記第1円筒部の第1内側曲面の曲率中心が、第1曲率中心として設定され、
前記第2円筒部の第2内側曲面の曲率中心が、第2曲率中心として設定され、
前記第1曲率中心と前記第2曲率中心とを結ぶ直線と、前記底部とのなす角度が、15°以上45°以下である電気化学セル。
【符号の説明】
【0062】
10…酸化銀電池、11…正極缶、11a…底部、11b…内側底面、11c…開口部、11d…端面、12,32…負極缶、12a…蓋部、12b…折り返し部、12bos…外周面、12is…内表面、12os…頂面、12A…ニッケル層、12B…ステンレススチール層、12C…銅層、13…ガスケット、14…正極、15…セパレーター、16…負極、20…二段円筒部、21…第1円筒部、21is…第1内側曲面、21os…第1外側曲面、22…第2円筒部、22is…第2内側曲面、22os…第2外側曲面、P1…第1頂点、P2…第2頂点、θ…折り曲げ角度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6