特許第6066082号(P6066082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シーメンス アクチエンゲゼルシヤフトの特許一覧

特許6066082緊急時の車両の複数のアクチュエータを駆動制御するための方法及び制御ユニット
<>
  • 特許6066082-緊急時の車両の複数のアクチュエータを駆動制御するための方法及び制御ユニット 図000002
  • 特許6066082-緊急時の車両の複数のアクチュエータを駆動制御するための方法及び制御ユニット 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066082
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】緊急時の車両の複数のアクチュエータを駆動制御するための方法及び制御ユニット
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20060101AFI20170116BHJP
   B60L 7/12 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   B60L3/00 H
   B60L7/12 Q
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-188326(P2013-188326)
(22)【出願日】2013年9月11日
(65)【公開番号】特開2014-57508(P2014-57508A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年6月16日
(31)【優先権主張番号】10 2012 216 089.2
(32)【優先日】2012年9月11日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】マークス フェーリング
(72)【発明者】
【氏名】グンター フライターク
(72)【発明者】
【氏名】カール−ヨーゼフ クーン
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−178183(JP,A)
【文献】 特開2006−219133(JP,A)
【文献】 特開2007−176384(JP,A)
【文献】 特開2011−030363(JP,A)
【文献】 特開平08−116605(JP,A)
【文献】 特開2009−261197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00− 3/12
B60L 7/00−13/00
B60L 15/00−15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊急時の車両の複数のアクチュエータを駆動制御するための方法であって、
前記車両は、電動機(M)と協働する駆動エネルギー蓄積器(HVB)と、電気的に作動可能な複数のアクチュエータとを含み、前記電動機(M)はモーターモード及び/又は発電モードで作動可能である方法において、
a)前記駆動エネルギー蓄積器(HVB)の故障を検出するステップと、
b)前記故障の結果、前記電動機(M)の前記発電モードを活動化させるステップと、
c)前記車両の現下の走行状態を決定するステップと、
d)前記車両の安全な作動状態の形成のために必要とされる複数のアクチュエータを決定し、該アクチュエータのそれぞれに必要とされるアクチュエータ動特性を前記車両の現下の走行状態に基づいて決定するステップと、
e)前記必要とされる各アクチュエータの、安全な作動状態の形成のために必要とされる電気的エネルギーの需要を決定するステップと、
f)前記必要とされる複数のアクチュエータの、それぞれに必要とされるアクチュエータ動特性の実施にそれぞれ必要とされる電気的エネルギーを考慮してそれに比例した前記電動機の発電モードを制御するステップと、
g)前記車両の安全な作動状態が達成されるまで、前記安全な作動状態の形成のために必要とされる複数のアクチュエータを、所定のアクチュエータ動特性でもって駆動制御するステップとを含み、
前記複数のアクチュエータのうちのブレーキングアクチュエータを、前記ブレーキングアクチュエータによる車両の制動が、クーラント用ポンプの電気的エネルギーの需要でもって調整され、その際に前記車両の制動が、当該車両のオーバーヒートを引き起こさないように、駆動制御する、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記現下の走行状態の決定には、車両を運転する車両ドライバーによる走行動特性設定に基づく現下の走行動特性の決定が含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記現下の走行動特性の決定には、
前記車両の速度、前記車両の操舵角、前記車両に現れたスリップ量、及び/又は前記車両のヨーレートが含まれる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記車両を運転する車両ドライバーによる走行動特性設定には、前記車両ドライバーの制動設定、及び/又は、前記車両ドライバーの操舵設定が含まれている、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ)による、前記のそれぞれに必要とされるアクチュエータ動特性の決定には、前記車両の少なくとも1つの各ホイール毎のホイール速度の決定、前記車両の少なくとも1つの各ホイール毎の制動力の決定、及び/又は、操舵角の決定が、含まれている、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記安全な作動状態の形成のために必要とされるアクチュエータの駆動制御は、車両の制動が車両の安定性を失わないように、その他の必要とされるアクチュエータによって要とされる電気的エネルギーの要求に、前記ブレーキングアクチュエータの駆動制御による車両の制動がッチするように行われる、請求項1から5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記ブレーキングアクチュエータの駆動制御は、ブレーキングアクチュエータの電気的エネルギーの需要に対して、操舵力支援に関するステアリングアクチュエータの駆動制御のための電気的エネルギーを低減することによって供給されるように行われる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
安全な作動状態の形成のために必要とされる電気的エネルギーの総需要が、前記必要とされる各アクチュエータの電気的エネルギーの必要とする需要から求められる、請求項1からいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記ステップe)にて求められた需要よりも少ない電気的エネルギーが個々のアクチュエータに割り当てられ、当該個々のアクチュエータに割り当てられた少ない電気的エネルギーが現下の走行状態においてまだ安全な作動状態の形成を保証する限りにおいては、前記電気的エネルギーの総需要の算出が少なくとも一回繰り返される、請求項記載の方法。
【請求項10】
緊急時の車両の複数のアクチュエータを駆動制御するための制御ユニットであって、
前記車両は、モーターモード及び/又は発電モードで作動可能である電動機(M)と協働する駆動エネルギー蓄積器(HVB)と、電気的に作動可能な複数のアクチュエータとを含む、制御ユニットにおいて、
前記制御ユニットは、
高電圧エネルギー蓄積器の故障を検出するセンサユニットと、
前記故障の結果、前記電動機(M)の発電モードを活動化させるための活動化ユニットと、
前記車両の安全な作動状態を形成するために必要とされる複数のアクチュエータを決定し、該アクチュエータのそれぞれに必要とされるアクチュエータ動特性を前記車両の現下の走行状態に基づいて決定するための走行動特性決定ユニットと、
前記必要とされる各アクチュエータの、安全な作動状態の形成のために必要とされる電気的エネルギーの需要を決定するための決定ユニットと、
前記必要とされるクチュエータの、それぞれに必要とされるアクチュエータ動特性を実行するために必要な電気的エネルギーを考慮しながら、それに比例した、電動機の発電モードを制御するための調整ユニットと、
前記車両の安全な作動状態が達成されるまで、前記安全な作動状態の形成のために必要とされる複数のアクチュエータを、所定のアクチュエータ動特性でもって駆動制御するための走行動特性制御ユニットとを含み、
前記複数のアクチュエータのうちのブレーキングアクチュエータは、前記ブレーキングアクチュエータによる車両の制動が、クーラント用ポンプの電気的エネルギーの需要でもって調整され、その際に前記車両の制動が、当該車両のオーバーヒートを引き起こさないように、駆動制御されることを特徴とする制御ユニット。
【請求項11】
請求項1乃至いずれか1項記載の方法を実施するための手段を備えていることを特徴とする、請求項10記載の制御ユニット。
【請求項12】
請求項10または11記載の制御ユニットを含んでいることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急時の車両の複数のアクチュエータを駆動制御するための方法であって、前記車両は、電動機と協働する駆動エネルギー蓄積器と、電気的に駆動可能な複数のアクチュエータとを含み、前記電動機はモーターモード及び/又は発電モードで作動可能である方法及び制御ユニットに関している。
【背景技術】
【0002】
駆動用電動機を備えた車両は、将来的にさらなる発展を遂げる。そのような電動機若しくはハイブリッド駆動部を備えた車両に対しては、電動機が100Vから800Vまでの電圧範囲で作動させることが実証されている。このことは、通常は12Vから24Vまでの電圧範囲で動作する自動車の通常の車載電源網と比較して高圧である。
【0003】
電動機に割り当てられる車載電源網は通常は高圧電源網と称され、その他の電圧範囲で動作する車載電源網は低圧電源網と称される。これらの高圧電源網と低圧電源網は、この種の電気自動車若しくはハイブリッド車両において多電圧式車載電源網と組み合わされる。
【0004】
電気自動車若しくはハイブリッド車両(以下の明細書では単に車両とも称する)は、駆動エネルギー蓄積器を備えており、これは車両の高圧回路に対応付けられている。それ故にこの駆動エネルギー蓄積器は高圧エネルギー蓄積器ともいえる。
【0005】
駆動エネルギー蓄積器は通常は、走行モード中でも走行モード外でも相当な診断手段の下にある。そのため例えば駆動エネルギー蓄積器内において生じたエラーと、それに伴い短縮すべき残存走行区間とを車両ドライバーに適時に表示しなければならず、さらに当該の車両は駆動エネルギー蓄積器を空にして遠隔地に停止するわけにはいかない。従って駆動エネルギー蓄積器は車両内で十分に良好に監視された構成要素であることが前提とされる。
【0006】
駆動エネルギー蓄積器の故障は、とりわけ当該車両が専ら電気的に作動されるブレーキングアクチュエータ及び/又はステアリングアクチュエータ、(当業者間では、"ブレーキバイワイヤ"とも"ステアーバイワイヤ"とも称される)を装備しているケースでは、緊迫した結果を引き起こす。
【0007】
前述したようなブレーキングアクチュエータは通常のブレーキ油圧に対して余分な圧力を起こしている。例えば車両ドライバーが習慣的に車両のブレーキペダルを操作すると、スプリングによって生じるばね応力のような圧力が返されるが、これは通常のペダル操作の感触を単にシミュレートしたものである。このことから車両の制御ユニットにおいては、車両の各ホイール毎に制動力が計算される。個々のホイールには、ブレーキユニットのブレーキパッドをブレーキディスクに挟み付ける応力が、電気モーターとスピンドルからなる電気機械ユニットによって形成される。
【0008】
前述したステアリングアクチュエータはステアリングリンクのような従来の伝動機構に余分な応力を起こしている。例えば車両ドライバーから操舵装置に所望のステアリング操作が印加されると、これが機械的にステアリングギアに直接印加されて、最終的に操舵輪に伝達されるのではなく、ステアリングアクチュエータを介して間接的に伝達される。
【0009】
相乗作用の理由から有利には、駆動エネルギー蓄積器は、電気的に駆動可能なブレーキングアクチュエータ及びステアリングアクチュエータのエネルギー供給のためにも使用される。この駆動エネルギー蓄積器は十分良好に監視されているため、電気的に作動可能なアクチュエータのエネルギー供給が通常の走行モードにおいて保証されていることを前提とすることができる。
【0010】
しかしながら、車両の(アクセル)全開走行時の駆動エネルギー蓄積器の突然の故障は、車両ドライバーからの操舵命令若しくは制動命令をブレーキングアクチュエータ及び/又はステアリングアクチュエータによって実施することができなくなるという事態を引き起こす。さらにそのような駆動エネルギー蓄積器の故障の際の別の問題は、電気的に作動可能なクーラントアクチュエータないしウォータポンプアクチュエータへの電流の供給である。駆動エネルギー蓄積器の故障は、電動機とこれに割り当てられているパワーエレクトロニクス構成素子の過熱と損傷を引き起こす結果となる。
【0011】
それ故緊急時において、車両を安全な作動状態にもっていくのに絶対必要な又は適したこれらのアクチュエータへの電気的エネルギーの供給に関して余裕をもたせる代替案が指摘されている。これらの専らブレーキングアクチュエータ、ステアリングアクチュエータ及びクーラントアクチュエータ(ウォータポンプアクチュエータ)とも称するアクチュエータについては、以下に述べるケース毎に場合によっては「必要とされるアクチュエータ」とも称するものとする。
【0012】
さまざまな理由から、さらなる冗長的な駆動エネルギー蓄積器を高圧回路系に配置することは経済的な理由からも現実的ではない。その理由の一つは、高圧エネルギー蓄積器が車両内で著しく大きな所要空間を必要とすることである。そのような空間は通常は得られない。さらに通常の高圧エネルギー蓄積器の重量に関して注意すべき点は、2つのエネルギー蓄積器の組み込み自体が重さの理由から経済的ではないことである。最後にコスト的な点を考慮しても、2つの駆動エネルギー蓄積器を備えた高圧回路系の冗長的供給を除外することには大きな意味がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、前述したような高コストの冗長的駆動エネルギー蓄積器を設けることなく、車両を安全な作動状態にもたらすことのできる、緊急時の車両の複数のアクチュエータを駆動制御するための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題は本発明により、
a)前記駆動エネルギー蓄積器(HVB)の故障を検出するステップと、
b)前記故障の結果、前記電動機(M)の前記発電モードを活動化させるステップと、
c)前記車両の現下の走行状態を決定するステップと、
d)前記車両の安全な作動状態の形成のために必要とされる複数のアクチュエータを決定し、該アクチュエータのそれぞれに必要とされるアクチュエータ動特性を前記車両の現下の走行状態に基づいて決定するステップと、
e)前記必要とされる各アクチュエータの、安全な作動状態の形成のために必要とされる電気的エネルギーの需要を決定するステップと、
f)前記必要とされる複数のアクチュエータの、それぞれに必要とされるアクチュエータ動特性の実施にそれぞれ必要とされる電気的エネルギーを考慮してそれに比例した前記電動機の発電モードを制御するステップと、
g)前記車両の安全な作動状態が達成されるまで、前記安全な作動状態の形成のために必要とされる複数のアクチュエータを、所定のアクチュエータ動特性でもって駆動制御するステップとを含むようにして解決される。
【0015】
また前記課題は、前記制御ユニットは、
高電圧エネルギー蓄積器の故障を検出するセンサユニットと、
前記故障の結果、前記電動機の発電モードを活動化させるための活動化ユニットと、
前記車両の安全な作動状態を形成するために必要とされる複数のアクチュエータを決定し、該アクチュエータのそれぞれに必要とされるアクチュエータ動特性を前記車両の現下の走行状態に基づいて決定するための走行動特性決定ユニットと、
前記必要とされる各アクチュエータの、安全な作動状態の形成のために必要とされる電気的エネルギーの需要を決定するための決定ユニットと、
前記必要とされる各アクチュエータの動特性を実行するために必要な電気的エネルギーを考慮しながら、それに比例した、電動機の発電モードを制御するための調整ユニットと、
前記車両の安全な作動状態が達成されるまで、前記安全な作動状態の形成のために必要とされる複数のアクチュエータを、所定のアクチュエータ動特性でもって駆動制御するための走行動特性制御ユニットとを含む構成によって解決される。
【0016】
また前記課題は、本発明による制御ユニットを備えた自動車によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】車両の協働する電気的構成要素を表した概略図
図2】本発明による方法の実施例を示したフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記した本発明による方法は、列挙された順序を考慮することなく実施が可能な以下の方法ステップからなっている。すなわち、
a)前記駆動エネルギー蓄積器(HVB)の故障を検出するステップと、
b)前記故障の結果、前記電動機(M)の前記発電モードを活動化させるステップと、
c)前記車両の現下の走行状態を決定するステップと、
d)前記車両の安全な作動状態の形成のために必要とされる複数のアクチュエータを決定し、該アクチュエータのそれぞれに必要とされるアクチュエータ動特性を前記車両の現下の走行状態に基づいて決定するステップと、
e)前記必要とされる各アクチュエータの、安全な作動状態の形成のために必要とされる電気的エネルギーの需要を決定するステップと、
f)前記必要とされる複数のアクチュエータの、それぞれに必要とされるアクチュエータ動特性の実施にそれぞれ必要とされる電気的エネルギーを考慮してそれに比例した前記電動機の発電モードを制御するステップと、
g)前記車両の安全な作動状態が達成されるまで、前記安全な作動状態の形成のために必要とされる複数のアクチュエータを、所定のアクチュエータ動特性でもって駆動制御するステップである。
【0019】
冒頭に述べた方法ステップa)によれば、駆動エネルギー蓄積器に故障が発生しているか否かを検出することが実行される。そのような故障は例えば、高圧車載電源網における電圧降下によって検出することが可能である。駆動エネルギー蓄積器の故障が存在している場合には、本発明による方法のさらなる方法ステップが、列挙された順序を考慮することなく実施され得る。
【0020】
さらなる方法ステップb)によれば、前記の故障に続いて、電動機を発電モードに移行させることが実行される。これは回生モードとも称される。そのような回生モードの中では車両の運動エネルギーが電気的なエネルギーに変換される。この回生には2つの望ましい効果が引き出される。その1つは高圧電源網の供給が、故障した駆動エネルギー蓄積器によって供給されるはずだった失われた電気的エネルギーの代替として得られた電気的エネルギーによって行われることである。もう1つは、前記回生に基づく車両の制動力である。この制動力は、車両にブレーキ効果を与え安全な作動状態にもたらす。
【0021】
方法ステップc)によれば、車両の現下の走行状態の検出が行われる。この走行状態には、ドライバーの意思に基づく車両の走行動特性も含まれる。
【0022】
さらなる方法ステップd)によれば、前記車両の安全な作動状態の形成のために必要とされる複数のアクチュエータの決定と、該アクチュエータのそれぞれに必要とされるアクチュエータ動特性の前記車両の現下の走行状態に基づいた決定とが行われる。そのような決定には、例えば現下の走行動特性及び/又は現下の交通状況のもとで許される限り、当該車両を安全な作動状態、例えば停止状態にもたらす目的で、例えば最適なホイール速度の計算、最適な制動力の計算、並びに最適な操舵角の計算が含まれる。
【0023】
さらなる方法ステップe)によれば、必要とされる各アクチュエータの、安全な作動状態の形成のために必要とされる電気的エネルギーの需要が求められる。換言すれば、この方法ステップは、所定のアクチュエータを所定のアクチュエータ動特性で作動させるのに最低限必要とされるエネルギーの計算に用いられる。
【0024】
さらなる方法ステップf)によれば、必要とされる複数のアクチュエータの、それぞれに必要とされるアクチュエータ動特性の実施にそれぞれ必要とされる電気的エネルギーを考慮してそれに比例する前記電動機の発電モード、換言すれば回生モードが制御される。このステップは、必要とされるアクチュエータの需要に応じて方向付けされる発電モードの漸進的な設定を可能にする。そのような手段を用いれば、発電モードにおいて動作する電気機械によって、所要のアクチュエータ動特性で車両を安全な作動状態に移行させるのに必要となる量だけの電気的エネルギーが得られるようになる。回生モードの漸進的な制御によって得られる利点は、突発的な回生が回避されることである。この突発的な回生は、突然の制動作用に基づく車両の不安定化を引き起こす。
【0025】
最後の方法ステップg)によれば、事前に求められたアクチュエータ動特性でもって前記アクチュエータの駆動制御が最終的に車両の安全な作動状態に到達するまで行われる。
【0026】
前述した複数の方法ステップの順序については、方法ステップa)だけが、当該方法の開始ステップとして形成されているだけで、その他の方法ステップについては、当業者の任意の判断に応じて、十分に定まっていない実施時点、同時の実施時点、及び/又は、重畳する実施時点に基づいて、時間的に定められてもよいことを述べておく。例えば前記方法ステップb)、つまり発電モードにおける回生は、前記の決定及び算出、ステップb),c),d)及び/又は、e)が一度開始若しくは終了してから実施されるようにしてもよい。
【0027】
本発明によって得られる特に有利な点は、発電モードの駆動エネルギー蓄積器を使用することで余分な駆動エネルギー蓄積器を具備しなくて済むことである。このことは、重量、コスト、組み込み空間の節約を有利な形で可能にさせる。
【0028】
漸進的な発電モードの設定によれば、有利には、必要とされる複数のアクチュエータへの供給に必要なだけの量の電気的エネルギーしか電動機によって生成されない。このようにして電動機において損失する熱が最低減となり、フル回生モードの結果として生じ得る過度な制動効果が回避される。
【0029】
本発明による方法は、緊急時モードに入った場合、つまり車両の走行モード中に駆動エネルギー蓄積器が完全に故障した場合に、ステアリング操作の機能は維持したまま当該車両を安全に停止させるための十分な支援が車両ドライバーにもたらされることを保証する。同時に車両ドライバー若しくは車両支援システムには、車両の停止位置と停止距離を決定するのに十分な処理の余裕ももたらす。
【0030】
本発明のさらに別の有利な実施形態は従属請求項にも記載されている。
【0031】
本発明による方法の有利な実施態様によれば、現下の走行動特性の決定が車両ドライバーによる走行動特性設定に基づいて推定される。現下の走行動特性の決定は、例えば当該車両の現下の速度、当該車両の現下の操舵角、当該車両に発生しているスリップ量、及び/又は、当該車両のヨーレートによって行われる.車両を運転している車両ドライバーによる走行動特性設定には、車両ドライバーの制動設定、及び/又は、前記車両ドライバーの操舵設定が含まれている。
【0032】
本発明による方法のさらに別の有利な実施態様によれば、それぞれに必要とされるアクチュエータ動特性の決定に対して、前記車両の少なくとも1つの各ホイール毎のホイール速度の決定が行われる。さらに前記車両の少なくとも1つの各ホイール毎の制動力の決定並びに操舵角の決定が行われると有利である。
【0033】
本発明による方法のさらに別の有利な実施態様によれば、前記安全な作動状態の形成のために必要とされる複数のアクチュエータの駆動制御は、ブレーキングアクチュエータの駆動制御による前記車両の制動力が、その他の必要とされる複数のアクチュエータの電気的エネルギー需要でもって調整されるように行われ、かつ前記車両の制動が当該車両の安定性を失わせるようなことがないように行われる。
【0034】
例えばカーブ走行、アイスバーン走行、雪道走行、砂利道走行などのような臨界的な走行状況においては、回生モードの制動効果に起因する車両の不安定性を回避するために、動特性の制御機能を用いた調整、とりわけ摩擦ブレーキを駆動制御する機能を用いた調整が行われる。この調整の利点は、ブレーキングアクチュエータ、ステアリングアクチュエータ、クーリングアクチュエータが要求する電流を、電流消費の伴う回生動作によって調整することにあり、その際には動特性制御からの各要求が対比され、制動力の分配が調整される。
【0035】
この調整には、以下の2つの変化実施例において示されるように、例えば操舵力支援の漸進的な低減によるステアリングアクチュエータの電流消費、及び/又は例えばウォーターポンプの流量の増減によるウォーターポンプの電流消費の動的関与などが含まれていてもよい。
【0036】
本発明による方法のさらに別の有利な実施態様によれば、前記ブレーキングアクチュエータの駆動制御は、ブレーキングアクチュエータの動作のための電気的エネルギーが、操舵力支援に関するステアリングアクチュエータの駆動制御のための電気的エネルギーを低減することによってまかなわれるように行われる。そのような手段は、ブレーキングアクチュエータに最優先度を与え、そのようなケースでは、重要性に関してブレーキングアクチュエータよりも優先度の低い二次的アクチュエータに対しては十分な電気的エネルギーは供給されない。
【0037】
本発明による方法のさらに別の有利な実施態様によれば、前記ブレーキングアクチュエータの駆動制御は、前記ブレーキングアクチュエータによる車両の制動が、その他の必要とされる複数のアクチュエータ、とりわけウォーターポンプの電気的エネルギーの要求にマッチするように行われ、その際に前記車両の制動が当該車両のオーバーヒートを引き起こさないように行われる。この調整には、特にクーラント用ポンプ、すなわちウォーターポンプが伴う。その意味では、このポンプもアクチュエータの1つである。
【0038】
本発明による方法のさらに別の有利な実施態様によれば、最初に求められた需要よりも少ない電気的エネルギーが個々のアクチュエータに割り当てられ、当該個々のアクチュエータに割り当てられた少ない電気的エネルギーがまだ安全な作動状態の形成を保証する場合には、前記電気的エネルギーの総需要の算出が少なくとも一回繰り返される。
以下の明細書では、本発明の実施例並びに本発明のさらなる利点を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0039】
図1には、車両における従来技法で公知の多電圧式車載電源網の概略的構成を示した図である。図1に描写された全体的な空間内に実質的に収容されているのは高圧車載電源網である。
【0040】
この高圧車載電源網には、駆動エネルギー蓄積器HVB、多数のアクチュエータA1乃至A5、クーラント用ポンプ(ウォーターポンプ)COLが接続され、さらにインバータACDないしAC/DC変換器を介して電動機Mが接続されている。直流電圧変換器DCDによって、高圧電源網電圧、例えば400乃至800Vの直流電圧から低圧電源網用に設けられている車載電源網電圧への電圧変換が行われる。この低圧電源網に対しては、通常は12Vの高さの直流電圧が用いられる。この低圧電源網は、図1の右方縁部の2つの平行に延在する線路だけで示されている。この低圧電源網は、当業者間では、二次電源網とも称する。
【0041】
本願明細書においては、アクチュエータとは、電気機械的な機能ユニットと理解されたい。この電気機械的機能ユニットは、図示されていない制御ユニットによって伝送される命令に基づいて電気的エネルギーが供給されると、機械的な運動又はその他の物理的特性量への変換を行う。前述した複数のアクチュエータには、例えば1つのステアリングアクチュエータA1と、4つのブレーキングアクチュエータA2乃至A5が挙げられる。クーラントポンプないしウォーターポンプCOLも前述の趣旨においては1つのアクチュエータである。
【0042】
図2には、本発明による、緊急時の車両の複数のアクチュエータを駆動制御するための方法の実施例が概略的なフローチャートで示されている。
【0043】
第1の分岐ステップ10では、駆動エネルギー蓄積器の可用性が連続的に検査される。分岐ステップにおける符号Yは「イエス」の意味である。駆動エネルギー蓄積器は、本発明による緊急時の車両の複数のアクチュエータを駆動制御するための方法ステップが何も必要でない場合(当該分岐ステップにおける符号Y=「イエス」参照)には、当該方法が暫定的な終了ステップ11において終了する。駆動エネルギー蓄積器は、走行モードの間に使用不能(当該分岐ステップの符号N=「ノー」参照)となったり当該蓄積器が故障しているときには、本発明の実施例に従って緊急時モード20がスタートする。
【0044】
さらなるステップ30では、車両の現下の走行状態の決定が行われる。すなわち走行動特性の活動化の決定が、車両ドライバーの特性に基づいて行われる。これに関しては、複数のパラメータ、すなわち、速度31、操舵角32、スリップ量33、ヨーレート34、車両ドライバーのブレーキング特性35、車両ドライバーの操舵特性36が評価される。
【0045】
続いて車両の安全な作動状態の形成に必要とされる複数のアクチュエータと該アクチュエータのそれぞれ必要とされるアクチュエータ動特性を車両の現下の走行状態に基づいて決定する。これに対しては、全てのホイールに対して個別に最適なホイール速度の計算ステップ37が行われる。最適な制動力の計算ステップ38は、全てのホイールに対して別個に行われ、さらに最適な操舵角の計算ステップ39が行われる。
【0046】
引き続き、それぞれ必要とされるアクチュエータ毎の安全な作動状態の形成に必要とされる電気的エネルギーの需要の計算ステップ40は、求められたアクチュエータ動特性に基づいて行われる。
【0047】
それに続く計算ステップ50では、最も重要なその他のアクチュエータを作動させるのに最低限必要となる電気的エネルギーの需要が求められる。
【0048】
この計算ステップ50は、一方では電動機とインバータの臨界温度を回避するために必要とされるポンプ回転数を計算するステップ51と、他方では低圧電源網の構成要素の最小エネルギー消費量を計算するステップ52が含まれる。
【0049】
電動機とインバータの臨界温度を回避するために必要とされるポンプ回転数の計算ステップ51のために、複数のパラメータ、すなわち、モーター温度53、インバータ温度54、モーター55における冷却水温度並びにインバータ56における冷却水温度が問い合わされる。
【0050】
低圧電源網の構成要素の最小エネルギー消費量の計算ステップ52のために、直流変換器57のエネルギー消費量が問い合わされる。
【0051】
計算ステップ60では、エネルギーの総需要が計算され、計算ステップ70ではそれに比例する電動機の発電モードの計算、すなわち回生率の計算が行われる。
【0052】
分岐ステップ80では、ステップ70に従って求められたエネルギー需要が回生によってカバーされ得るか否かが求められる。
【0053】
求められたエネルギー需要が回生によってカバーできない場合(当該分岐ステップの符号N=「ノー」参照)には、決定ステップ81においてドライバーによる一段落した設定が優先度に基づき計算され、エネルギーの総需要の計算ステップ60と電動機の比例発電モードの計算ステップ70が再度繰り返され、求められたエネルギー需要が回生によってカバーできるのか否かの検査を伴う分岐ステップ80を再度実行する。
【0054】
前記一段落した設定の決定ステップ81では、回生による、又は、ブレーキングアクチュエータの作動による、車両の制動が、安全な作動状態が達成できるための他の必要なアクチュエータの電気的エネルギーの需要に合わせられるか否かのチェックが行われる。この場合優先度決めは、例えばブレーキングアクチュエータ及びステアリングアクチュエータが二次アクチュエータに対して優先権を有するように設定される。
【0055】
ステップ60にて求められた需要よりも少ない電気的エネルギーが個々のアクチュエータに割り当てられ、当該個々のアクチュエータに割り当てられた少ない電気的エネルギーがまだ安全な作動状態の形成を保証する限りにおいては、前記電気的エネルギーの総需要の算出が少なくとも一回繰り返される。
【0056】
求められたエネルギー需要が回生によってカバーできる場合(分岐ステップ、符号Y=「イエス」参照)には、ステップ90において前記一段落した設定が該当するアクチュエータの記録器に書き込まれ、ステップ100にて回生が実行される。
【0057】
決定ステップ110では、車両が停止状態に至っているか否か、つまりパラメータ112が0以上の車両速度を含むか否かが問い合わせされる。このことが当て嵌まる場合(当該分岐ステップの符号Y=「イエス」参照)には、この方法が終了ステップ111に続けられる。このことが当て嵌まらない場合(当該分岐ステップの符号N=「ノー」参照)には、ステップ120において当該方法の開始ステップ20に分岐される。
【符号の説明】
【0058】
A1〜A5 アクチュエータ
M 電動機
ACD インバータ
DCD 直流変換器
HVB 駆動エネルギー蓄積器
COL クーラントポンプ、ウォーターポンプ
図1
図2