特許第6066110号(P6066110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066110
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】細胞吸引支援システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20170116BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20170116BHJP
   G02B 21/32 20060101ALI20170116BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   C12M1/26
   C12M1/34 B
   G02B21/32
   G01N33/48 M
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-120453(P2014-120453)
(22)【出願日】2014年6月11日
(65)【公開番号】特開2016-7(P2016-7A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2015年7月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】景 虹之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 英一
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/089908(WO,A1)
【文献】 特開2011−174791(JP,A)
【文献】 特開2005−207986(JP,A)
【文献】 特開2006−254895(JP,A)
【文献】 特開2011−160726(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/063776(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養容器中の細胞群の中から特定の細胞の成分を吸引する作業を支援する細胞吸引支援システムであって、
前記細胞群を撮影した共焦点顕微鏡画像を取得する画像取得部と、
前記取得した画像から細胞を識別し、それぞれの細胞についての特徴量を算出するとともに、特徴量が所定の検出条件を満たす細胞を検出する画像処理部と、
検出された細胞が区別できる状態で、前記細胞群に関する情報を表示する表示部と、
前記細胞群に関する情報において、特定の細胞の指定を受け付けると、その細胞が所定の吸引位置に来るように前記細胞培養容器を所定面上で移動させるとともに、前記吸引位置に吸引用のナノスプレーチップを移動させ、オペレータの操作に基づいて前記ナノスプレーチップの前記所定面に直交する方向の位置を調整する動作制御部と、
前記顕微鏡画像の撮影条件、前記検出条件、及び前記特定の細胞の指定を、受け付ける受付部と、
を備えることを特徴とする細胞吸引支援システム。
【請求項2】
前記細胞培養容器を照らす明視野照明をさらに備え、
前記明視野照明は、中央部分に空間が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の細胞吸引支援システム。
【請求項3】
前記画像は、蛍光観察画像であり、
前記吸引用ナノスプレーチップは、先端に蛍光物質が塗布されている、あるいは、前記蛍光観察画像で視認できる波長の光が照射されていることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞吸引支援システム。
【請求項4】
前記特徴量は、細胞の大きさ、細胞の輝度のいずれかを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞吸引支援システム。
【請求項5】
前記画像取得部は、
前記吸引用のナノスプレーチップによる細胞吸引の前後の顕微鏡画像をさらに取得することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞吸引支援システム。
【請求項6】
前記検出条件が、該検出条件に対応する算出対象としての特徴量とともに受け付けられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞吸引支援システム。
【請求項7】
前記画像処理部が、前記それぞれの細胞について、2種類以上の特徴量を算出し、
前記表示部が、前記細胞群に関する情報として、前記2種類以上の特徴量を相互に対応付けた散布図、対応表の何れかを画像表示し、
前記受付部が、前記表示部で表示された画像上で前記特定の細胞の指定を受け付けることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞吸引支援システム。
【請求項8】
前記吸引用のナノスプレーチップとして、吸引前の新規のナノスプレーチップがチップラックから装着され、吸引後には当該ナノスプレーチップが検体ラックでリリースされて保管されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞吸引支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞あるいは細胞成分の吸引作業を支援する細胞吸引支援システムに係り、特に、大量の細胞を対象とした吸引作業に適した細胞吸引支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生命システムの研究等においては、細胞培養ウェル内の多くの細胞の中から特徴的な細胞を特定し、その細胞あるいはその細胞の成分を吸引する作業が頻繁に行なわれる。例えば、新たな薬剤を発見したり設計したりする創薬プロセスにおいては、多数の候補化合物の中から、薬効・活性を示すものを探し出す創薬スクリーニング工程が行なわれるが、この工程においては、候補化合物が与えられた細胞培養ウェル内の細胞群から、著しく特異な変化を示す細胞を選び出し、その細胞あるいは細胞成分を吸引し、質量分析等の解析が行なわれる。
【0003】
細胞を吸引する場合には、吸引チップを装着した吸引ピペットや分注装置を用いて、顕微鏡で吸引対象の細胞を確認しながら細胞吸引作業を行なう。細胞成分を吸引する場合には、ナノスプレーチップと呼ばれる微細なチップを用いて、顕微鏡で吸引対象の細胞を確認しながら細胞成分吸引作業を行なう。
【0004】
また、細胞培養ウェル内の特定の細胞あるいは細胞成分を吸引して解析を行なう作業とは別に、細胞培養ウェル内の大量の細胞の顕微鏡画像を撮影し、画像処理を行なうことで、個々の細胞を識別し、それぞれの細胞の大きさや明るさ等の特徴量をリアルタイムで算出する細胞解析システムが実用化されている。
【0005】
細胞解析システムでは、算出した特徴量に基づいて、特徴的な細胞を検出したり、経時的変化を観察することができる。また、各細胞の特徴量をヒストグラムや散布図で表わしたり、リスト表示することも行なわれている。ただし、細胞解析システムでは、画像から得られる特徴量による解析に留まっており、解析により明らかになった特定の細胞に対する詳細な分析は想定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5317983号公報
【特許文献2】特許第5190773号公報
【特許文献3】特許第5056871号公報
【特許文献4】特許第5157950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細胞や細胞成分を吸引する作業は、個々の細胞を目視しながら、分析対象とする細胞を選定して吸引を行なうため、大量の細胞を処理する場合は非常に手間がかかり、オペレータの負担が大きかった。このため、大量の細胞の中から分析対象の候補となる細胞を簡易に検出し、即座に吸引作業を行なえるようなシステムの開発が望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、大量の細胞中の特徴的な細胞を対象とした吸引作業の支援を行なうシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の細胞吸引支援システムは、細胞培養容器中の細胞群の中から特定の細胞の成分を吸引する作業を支援する細胞吸引支援システムであって、前記細胞群を撮影した共焦点顕微鏡画像を取得する画像取得部と、前記取得した画像から細胞を識別し、それぞれの細胞についての特徴量を算出するとともに、特徴量が所定の検出条件を満たす細胞を検出する画像処理部と、検出された細胞が区別できる状態で、前記細胞群に関する情報を表示する表示部と、前記細胞群に関する情報において、特定の細胞の指定を受け付けると、その細胞が所定の吸引位置に来るように前記細胞培養容器を所定面上で移動させるとともに、前記吸引位置に吸引用のナノスプレーチップを移動させ、オペレータの操作に基づいて前記ナノスプレーチップの前記所定面に直交する方向の位置を調整する動作制御部と、前記顕微鏡画像の撮影条件、前記検出条件、及び前記特定の細胞の指定を、受け付ける受付部と、を備えることを特徴とする。
ここで、前記細胞培養容器を照らす明視野照明をさらに備え、前記明視野照明は、中央部分に空間が設けられていてもよい。
また、前記画像は、蛍光観察画像であり、前記吸引用ナノスプレーチップは、先端に蛍光物質が塗布されている、あるいは、前記蛍光観察画像で視認できる波長の光が照射されているものであってもよい。
また、前記特徴量は、細胞の大きさ、細胞の輝度のいずれかを含むことができる。
また、前記画像取得部は、前記吸引用のナノスプレーチップによる細胞吸引の前後の顕微鏡画像をさらに取得してもよい。
また、前記検出条件が、該検出条件に対応する算出対象としての特徴量とともに受け付けられてもよい。
また、前記画像処理部が、前記それぞれの細胞について、2種類以上の特徴量を算出し、前記表示部が、前記細胞群に関する情報として、前記2種類以上の特徴量を相互に対応付けた散布図、対応表の何れかを画像表示し、前記受付部が、前記表示部で表示された画像上で前記特定の細胞の指定を受け付けてもよい。
また、前記吸引用のチップとして、吸引前の新規のナノスプレーチップがチップラックから装着され、吸引後には当該ナノスプレーチップが検体ラックでリリースされて保管されてもよい。

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大量の細胞中の特徴的な細胞を対象とした吸引作業の支援を行なうシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態に係る細胞吸引支援システムの構成を示す図である。
図2】細胞吸引支援システムの動作を説明するフローチャートである。
図3】解析結果の表示例を示す図である。
図4】細胞吸引前の吸引ユニットの移動動作を説明する図である。
図5】細胞吸引時の吸引ユニットとマイクロプレートの移動動作を説明する図である。
図6】細胞吸引時のチップ位置の微調整を説明する図である。
図7】細胞吸引後の吸引ユニットの移動動作を説明する図である。
図8】明視野照明の形状例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る細胞吸引支援システム10の構成を示す図である。細胞吸引支援システム10は、細胞あるいは細胞成分の吸引処理を支援する装置であり、光学系部200と吸引動作部300と情報処理部400とを備えている。以降では、特に区別をしない限り、細胞の吸引は、1個の細胞の吸引のみならず、細胞内小器官等の細胞成分の吸引も含むものとする。
【0013】
光学系部200は、複数のウェルが形成されたマイクロプレート110を載置するXYステージ201、対物レンズ211を含んだ顕微鏡210、明視野照明213、ダイクロイックミラー220、変倍レンズ221、明視野観察用カメラ222、共焦点スキャナ部230を備えている。
【0014】
なお、XYステージ201に載置するのは、細胞培養容器であればよく、マイクロプレート110に限られず、細胞培養ディッシュ、カバーガラスチャンバ、シャーレ等であってもよい。
【0015】
また、本実施形態では、共焦点2色の蛍光観察と明視野観察を行なう構成を例に光学系部200を説明するが、光学系部200はこの構成に限られない。例えば、共焦点スキャナ部230や明視野観察系を省いて落射蛍光1色の構成としたり、共焦点1色の構成としたり、共焦点1色と明視野の構成等であってもよい。
【0016】
共焦点スキャナ部230は、ダイクロイックミラー231、ピンホールアレイディスク(ニポウディスク)232、マイクロレンズアレイディスク233、リレーレンズ234、ダイクロイックミラー235、第1バンドパスフィルタ237a、第1レンズ237a、蛍光観察用第1カメラ238a、第2バンドパスフィルタ236b、第2レンズ237b、蛍光観察用第2カメラ238b、励起用光源部239を備えている。
【0017】
明視野観察では、明視野照明213をマイクロプレート110に向けて照射する。明視野信号光は、顕微鏡210を通ってダイクロイックミラー220によって反射され、変倍レンズ221によって明視野観察用カメラ222で結像する。なお、明視野照明213は、中央部分に空間が形成されており、例えば、円環体(ドーナツ状)である。
【0018】
蛍光観察では、特定の波長を持つ励起光束を励起用光源部239からマイクロプレート110に向けて出射する。励起された試料から励起光束よりも長い波長の蛍光信号が発せられ、ピンホールアレイディスク232を通過した蛍光信号が共焦点画像となる。蛍光信号は、ダイクロイックミラー231によって反射され、リレーレンズ234を介して、蛍光観察用第1カメラ238aおよび蛍光観察用第2カメラ238bで結像する。
【0019】
複数波長の励起光源を同時に用いることに対応するため、蛍光信号を分光する特性を有するダイクロイックミラー235を設置している。さらに、画像のS/N比向上と蛍光信号の必要な波長帯域のみを通すために第1バンドパスフィルタ236、第2バンドパスフィルタ236bが設置されている。試料が発する蛍光波長は様々であり、例えば、フィルタホイル等を用いて必要な波長に対応したバンドパスフィルタ236を複数用意することが望ましい。
【0020】
吸引動作部300は、XYZステージ310、吸引用ユニット320、チップラック341、検体ラック342を備えている。チップラック341には、細胞あるいは細胞成分を吸引するためのチップ330が複数個配置されている。検体ラック342には、細胞あるいは細胞成分を吸引したチップ330が格納される。
【0021】
吸引用ユニット320は、XYZステージによりX軸、Y軸、Z軸方向に移動する。細胞の吸引作業を行なう際には、チップラック341からチップ330を取得して装着する。そして、マイクロプレート110方向に移動し、所定の吸引場所でウェルから細胞を吸引する。吸引場所は、例えば、顕微鏡210の光軸上とすることができる。
【0022】
この際に、XYステージ201は、吸引対象の細胞が吸引場所に位置するように、マイクロプレート110を移動させる。これにより、チップ330と吸引対象の細胞とが上下に重なることになる。なお、明視野照明213は、吸引作業時に吸引用ユニット320と干渉しないために円環体となっている。
【0023】
細胞吸引後には、吸引用ユニット320は、検体ラック342方向に移動し、細胞吸引済みのチップ330をリリースして格納する。
【0024】
情報処理部400は、PC等の情報処理装置を用いて構成することができ、画像取得部410、画像処理部420、表示部430、操作受付部440、動作制御部450、記録部460を備えている。
【0025】
画像取得部410は、明視野観察用カメラ222、蛍光観察用第1カメラ238a、蛍光観察用第2カメラ238bから画像を取得する。
【0026】
画像処理部420は、画像取得部410が取得した画像に対して、画像処理を行なった上で、種々の解析を行なう。具体的には、テンプレートマッチング等により、細胞・細胞器官の認識を行ない、識別されたそれぞれの細胞について、大きさ・輝度・タンパク量・イオン量等の特徴量を算出する。また、算出された特徴量を用いて細胞に関する情報のリスト化、グラフ化等の処理を行なう。
【0027】
表示部430は、画像取得部410が取得した画像や、画像処理部420の解析結果の表示処理を行なう。操作受付部440は、オペレータからの各種操作を受け付ける。
【0028】
動作制御部450は、XYステージ201、XYZステージ310の動作を制御し、マイクロプレート110、吸引用ユニット320を移動させる。記録部460は、画像取得部410が取得した画像や画像処理部420の解析結果等を記録する。
【0029】
次に、細胞吸引支援システム10の動作について図2のフローチャートを参照して説明する。なお、以下に説明する動作は一例であり、細胞吸引支援システム10は、オペレータの解析方針等により種々の手順で細胞吸引作業を行なうことができる。
【0030】
まず、オペレータから解析に必要な試料等のセットを受け付ける(S101)。すなわち、オペレータは、細胞が培養されたマイクロプレート110を細胞吸引支援システム10の所定の位置にセットする。この際に、必要に応じて蛍光染色を行なう。また、吸引目的に応じたチップ330をチップラック341に載置する。例えば、細胞成分の吸引を行なう場合には、ナノスプレーチップを載置し、1個の細胞の吸引を行なう場合には、通常の吸引チップを載置する。
【0031】
次いで、操作受付部440を介して、オペレータから撮影条件等を受け付けるとともに(S102)、解析内容等を受け付ける(S103)。撮影条件の受け付けでは、例えば、共焦点、落射蛍光、位相差等の光学系の指定や、波長の設定、撮影間隔・トータル撮影時間等の設定が行なわれる。共焦点を指定することで、細胞吸引の際に3次元的な成分選択が容易となる。
【0032】
解析内容の受け付けでは、特徴量の算出対象、着目する細胞の検出条件の設定が行なわれる。特徴量は、輝度、大きさ等することができる。検出条件の設定では、特徴量の閾値等が設定でき、検出条件を満たす細胞が自動的に検出される。
【0033】
そして、撮影範囲の設定を受け付けて(S104)、明視野観察用カメラ222、蛍光観察用第1カメラ238a、蛍光観察用第2カメラ238bで撮影を実行する(S105)。一部のカメラを用いるようにしてもよい。
【0034】
撮影を行なうと、画像取得部410が画像を取得して、画像処理部420が画像処理による解析を行なう(S106)。画像処理による解析では、抽出条件を満たす細胞を検出する。そして、表示部430が解析結果の表示を行なう(S107)。解析結果の表示では、検出条件を満たす細胞が明らかになるようにする。
【0035】
具体的には、例えば、図3(a)に示すように、顕微鏡画像中に検出条件を満たす細胞を明示することで行なうことができる。また、図3(b)に示すように、認識された細胞をリスト表示し、検出条件を満たす細胞をハイライト表示することで行なうこともできる。さらには、図3(c)に示すように、認識された細胞の特徴量に基づいて散布図を表示することもできる。本図の例では、大きさと輝度を軸として散布図を描き、検出条件を満たす細胞を強調表示している。解析結果の表示は、これらの例に限られず、種々の形態とすることができる。
【0036】
オペレータは、解析結果に対して、特定の細胞を吸引対象として指定することができる。吸引対象の指定は、任意の細胞に対して行なうようにしてもよいし、検出された細胞を順次自動的に指定するようにしてもよい。
【0037】
オペレータが任意の細胞を指定する場合は、例えば、図3(a)〜(c)に示す顕微鏡画像に対して、吸引対象とする細胞をクリックすればよい。画像処理部420では、個々の細胞を識別しているため、表示画像中で特定の細胞が指定されると、マイクロプレート110中のその細胞を特定することができる。
【0038】
図2のフローチャートの説明に戻って、吸引対象の細胞が指定されない場合(S108:No)は、再度撮影範囲を設定し(S104)、以降の処理を繰り返す。
【0039】
吸引対象の細胞が指定されると(S108:Yes)、動作制御部450が、XYステージ201を制御して、吸引対象細胞を吸引位置に移動させる(S109)。吸引位置は、例えば、顕微鏡210の光軸上とする。
【0040】
また、XYZステージ310を制御して、図4に示すように、吸引用ユニット320をチップラック341方向に移動させて、新規のチップ330を吸引用ユニット320に装着する(S110)。
【0041】
そして、XYZステージ310を制御して、図5に示すように、チップ330が吸引位置に一致するように吸引用ユニット320を移動させる(S111)。このとき、明視野照明213は中央が空間となっているため、吸引用ユニット320と干渉しないようになっている。
【0042】
処理(S110)と処理(S111)の結果、吸引対象細胞とチップ330とが吸引位置で上下に重なることになる。このため、対象となる細胞の吸引を容易に行なうことができる。ただし、画像取得時から細胞が移動している場合もあり、また、細胞中の特定の器官を吸引対象とする場合等もあるため、オペレータから吸引用ユニット320あるいはマイクロプレート110の位置の微調整を受け付けることができる(S112)。この際に、吸引用ユニット320のZ軸方向の調整も受け付けるようにしてもよい。
【0043】
位置の微調整では、図6に示すように、顕微鏡画像を表示部430にリアルタイムで表示し、操作受付部440を介してオペレータから移動指示を受け付けることができる。この際に、蛍光観察画像でもチップ330の位置が把握できるように、チップ330の先端に蛍光物質を塗布しておくことが望ましい。あるいは、吸引用ユニット320のチップ装着部付近にLED光源を設け、チップ330先端方向を所定の波長光で照射することで、チップ330を可視化するようにしてもよい。
【0044】
位置の微調整が終了すると、細胞の吸引を実行する(S113)。この際に、細胞吸引前後の画像を撮影するようにする。これにより、吸引作業の確実性を事後的にも確認することができる。
【0045】
細胞の吸引後は、図7に示すように、動作制御部450がXYZステージ310を制御して、吸引用ユニット320を検体ラック342方向に移動させて、細胞吸引済みチップ330を検体ラック342でリリースして保管する(S114)。また、記録部460は、吸引作業時に撮影した画像を、細胞吸引済みチップ330と関連付けて記録する。
【0046】
処理(S105)で撮影した画像中の他の細胞に対する吸引指示があれば(S115:Yes)、細胞を吸引位置に移動させる処理(S109)以降の処理を繰り返す。
【0047】
処理(S105)で撮影した画像中の他の細胞に対する吸引指示がなければ(S115:No)、さらに他の画像を撮影して吸引作業を継続する場合(S116:Yes)は、撮影範囲を設定する処理(S104)以降の処理を繰り返す。一方、他の画像を撮影しない場合(S116:No)は、吸引作業を終了する。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の細胞吸引支援システム10では、細胞を撮影し、画像処理により特徴的な細胞を検出し、吸引対象とされた細胞を吸引位置に移動させる一連の動作を行なうようにしている。これにより、大量の細胞中の特徴的な細胞を対象とした吸引作業を行なうオペレータの作業負荷を大きく軽減している。
【0049】
細胞吸引支援システム10による吸引作業は、1つの細胞の吸引を行なうことに加え、チップ330としてナノスプレーチップを用いることで、特定の細胞の成分を吸引することも可能である。この場合、高感度に質量分析を行なうことができる。また、1つの細胞を吸引対象とする場合には、特定の細胞を選択することにより、大量の細胞からの細胞の剥離、選択、除去等の処理も行なうことができ、再生医療の分野等での応用が期待できる。
【0050】
なお、上述のように、細胞吸引時に吸引用ユニット320と干渉しないように、明視野照明213は中央が空間となっている。明視野照明213は、中央部分が空間となっていれば足り、図8(a)に示すような円環体(ドーナツ状)に限られず、例えば、図8(b)に示すような矩形枠状であってもよい。さらには、図8(c)、図8(d)に示すように、複数の部分に分割した形状であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
10…細胞吸引支援システム、110…マイクロプレート、200…光学系部、201…XYステージ、210…顕微鏡、211…対物レンズ、213…明視野照明、220…ダイクロイックミラー、221…変倍レンズ、222…明視野観察用カメラ、230…共焦点スキャナ部、231…ダイクロイックミラー、232…ピンホールアレイディスク、233…マイクロレンズアレイディスク、234…リレーレンズ、235…ダイクロイックミラー、236…バンドパスフィルタ、237…レンズ、238…蛍光観察用カメラ、239…励起用光源部、300…吸引動作部、310…XYZステージ、320…吸引用ユニット、330…チップ、341…チップラック、342…検体ラック、400…情報処理部、410…画像取得部、420…画像処理部、430…表示部、440…操作受付部、450…動作制御部、460…記録部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8