【実施例】
【0038】
上記加振装置20を用いて自動車の後輪懸架装置用コロイダルダンパー1の振動試験を行った。ボールねじアクチュエーター30はThompson製の(型番:ECT13−63NS03PB4010)を用いた。このボールねじアクチュエーター30の最大加振力は21.5kN、最大伸縮距離は2,000mm、最大走行速度は0.44m/s、モーター31の最大回転速度は100Hzである。なお、加振試験では、モーター31の回転速度は、n=5,10,15,20,25,30,35,40,45,50,55,60Hz、伸縮サイクル(往復運動)の周期は、T=0.6,0.8,1.0,1.2sとした。
図11は、ボールねじアクチュエーター30の伸縮サイクルの波形を示している。
【0039】
図2に示したコロイダルダンパー1は、中心軸が水平(X軸)方向になるように土台60上に固定され、中心軸方向に対して密閉空間3がフィルタ6で左右に分割された結果、補助容器5側の密閉空間3が一定体積室(コロイド用容器)、シリンダ2側の密閉空間3が可変体積室(水容器)となっている。コロイダルダンパー1に使用する多孔質体8としてのシリカゲルは、多孔質体8の平均外径d2が20μm、細孔8aの平均内径d1が11.6nm、細孔8aの比表面積205m
2/g、細孔8aの比容積581mm
3/gの特性を持ち、[(BODY),(HEAD)]=[CF
2,CF
3]、m=7、ならびに(BASE)=[CF
3]のような有機疎水物質(フッ素樹脂)で疎水化処理(疎水化処理分子の接合密度2.1groups/nm
2)を行ったものである。なお、本実施例においては、中空部8bを持っていない多孔質体8を使用した。シリカゲルは、実験開始前にM=8gを一定体積室に供給した。伸縮サイクルの周波数はモーター31の回転速度と周期に関係するが、0.7−1.4Hzの範囲内で変動していった。
【0040】
図1に示す加振装置20の変位計62によりピストン4のストロークSを、ロードセル36により減衰力Fを、高圧力計16によりシリンダ2内部の圧力pをそれぞれ測定し、ヒステリシス(ストロークと荷重との関係グラフ)の面積より、コロイダルダンパー1の散逸エネルギーEを求めた。
【0041】
図12および
図13にT=0.6sとn=10−60Hzの場合、
図14にT=0.8sとn=10−45Hzの場合、
図15にT=1.0sとn=10−35Hzの場合、
図16にT=1.2sとn=5−30Hzの場合のコロイダルダンパー1のヒステリシスを示した。高圧力計16で測定したシリンダ2の内部の圧力pとピストン4の断面積との掛け算で得られた荷重(負の減衰力)はコロイドのみの影響を、ロードセル36で得られた荷重(負の減衰力)はコロイドと共に働く摩擦の影響を表している。負の減衰力とは、コロイダルダンパー1が加圧(ロッド34の伸長)時にエネルギーを吸収し、コロイダルダンパー1が減圧(ロッド34の縮退)時にエネルギーの一部を還元することを言う。
図14(h)、
図15(f)および
図16(f)を比較してみると、伸縮サイクルの周期Tを0.8sから1.2sまで増加した場合、コロイド溶液を働かせるための必要なモーター31の回転速度が45Hzから30Hzまで減少することが分かる。モーター31の回転速度が増加するにつれてピストン4のストロークSが長くなるので、ヒステリシスの面積が大きくなる。しかし、ボールねじアクチュエーター30の最大走行速度が制限されているので、T=0.6sの場合、モーター31の回転速度を50Hzから60Hzまで増加してもストロークSが長くならないといった現象が起こる。ピストン停止時(0mmと最大ストローク時)に、クーロン摩擦ヒステリシスのような縦方向の直線が見られる。
【0042】
次に、
図12〜
図16からコロイドによる散逸量と摩擦による散逸量との割合を調べた。
図17(a)はT=0.6sとn=10−60Hzの場合、
図17(c)はT=0.8sとn=10−45Hzの場合、
図17(e)はT=1.0sとn=10−35Hzの場合、
図17(g)はT=1.2sとn=5−30Hzの場合の変位計62で測定したピストン4のストロークと高圧力計16で測定したシリンダ2の内部の圧力との関係グラフ(コロイドのみの影響)を示している。また、
図17(b)はT=0.6sとn=10−60Hzの場合、
図17(d)はT=0.8sとn=10−45Hzの場合、
図17(f)はT=1.0sとn=10−35Hzの場合、
図17(h)はT=1.2sとn=5−30Hzの場合の変位計62で測定したピストン4のストロークとロードセル36で測定した減衰力との関係グラフ(コロイドと共に働く摩擦の影響)を示している。
【0043】
図17より、モーター31の回転速度が増加すると、最大作動圧力(荷重)、最大ストローク、ならびにヒステリシスの面積が大きくなる。そこで、
図18(a)に様々なボールねじアクチュエーター30の伸縮サイクル(コロイダルダンパー1の加圧・減圧サイクル)の周期においてモーター31の回転速度とストロークとの関係を示す。逆に、モーター31の回転速度が増加すると、加振装置20の作動周波数が小さくなる(
図18(b)参照。)。
【0044】
図18(a)より、通常は同じモーター31の回転速度で周期が長くなると、ストロークが長くなっていることが分かる。しかし、加振装置20の最大走行速度が制限されているので、T=0.6sの場合、モーター31の回転速度を50Hzから60Hzまで増加してもストロークが長くならない、といった現象が起こる。また、
図18(a)より、通常は同じモーター31の回転速度で周期が長くなると、加振装置20の作動周波数が低くなっていることが分かる。
【0045】
様々なボールねじアクチュエーター30の伸縮サイクル(コロイダルダンパー1の加圧・減圧サイクル)の周期において、
図19(a)にモーター31の回転速度と部分散逸エネルギー(コロイドのみの影響:E
c)、
図19(b)にモーター31の回転速度と全体散逸エネルギーE
t(コロイドの影響:E
cと共に摩擦の影響:E
f)との関係を示す。
図18(a)と同様に、同じモーター31の回転速度で周期が長くなると、散逸エネルギーが大きくなっているが、T=0.6sの場合、限界速度がn=50Hzとなることが分かる。
【0046】
様々なボールねじアクチュエーター30の伸縮サイクル(コロイダルダンパー1の加圧・減圧サイクル)の周期において、
図20(a)にコロイドによる無次元化散逸エネルギー(コロイドによる部分散逸エネルギーと全体散逸エネルギーとの比率)、
図20(b)に摩擦による無次元化散逸エネルギー(摩擦による部分散逸エネルギーと全体散逸エネルギーとの比率)とモーター31の回転速度との依存性を示した。
図20より、モーター31の回転速度が上がるにつれてコロイドによる無次元化散逸エネルギーが増加する。逆に、摩擦による無次元化散逸エネルギーが減少することが分かる。しかし、あるモーター31の回転速度(例:T=0.6sの場合は30Hz)を超えると、コロイドによる散逸エネルギーの割合は82%前後、摩擦による散逸エネルギーの割合は18%前後になることが明らかとなっている。
【0047】
以上のように、振動実験開始前にコロイダルダンパー1のピストン4の初期位置を調整し、長いピストンストローク(56mmまで)の振動試験を行った。コロイドによる散逸量と摩擦による散逸量との割合を調べ、コロイダルダンパー1の散逸エネルギー転化メカニズムをより明らかにした。あるモーター31の回転速度を超えると、コロイドによる散逸エネルギーの割合は82%前後、摩擦による散逸エネルギーの割合は18%前後となった。つまり、コロイド溶液が完全に働くような加振条件が分かった。
【0048】
次に、加振装置20を用いてコロイダルダンパー1の耐久性試験を行った。フィルタ6は一定体積室から疲労破壊した多孔質体8の浸透を防ぐため、フィルタ6のオリフィスの直径は2R
0=2μmのものを使用する。このようなコロイド用容器とフィルタ6の構造を用いると、応用的な立場より十分な寿命を有するコロイダルダンパー1が得られる。
【0049】
このコロイダルダンパー1の振動実験を2時間程度続けると,コロイダルダンパー1の耐久性実験となる。実験ではコロイダルダンパー1を加振装置20に設置し、モーター31の回転速度:n=35Hz、ならびに伸縮(加圧・減圧)サイクルの周期:T=1.0sを制御装置40で調整した。ピストン4を往復運動させることによってコロイドの加圧・減圧が得られる。
【0050】
図1に示す加振装置20の変位計62によりピストン4のストロークSを、ロードセル36により減衰力F、高圧力計16によりシリンダ2内部の圧力pをそれぞれ測定し、ヒステリシス(ストロークと荷重との関係グラフ)の面積より、時間経過に対してコロイダルダンパー1の散逸エネルギーEを求めた。
【0051】
T=1.0sとn=35Hzの加振条件において、
図21(a)は加振時間t=0minの場合、
図21(b)は加振時間t=15minの場合、
図21(c)は加振時間t=30minの場合、
図21(d)は加振時間t=45minの場合、
図22(e)は加振時間t=60minの場合、
図22(f)は加振時間t=75minの場合、
図22(g)は加振時間t=90minの場合、
図22(h)は加振時間t=105minの場合、
図22(i)は加振時間t=120minの場合のコロイダルダンパー1のヒステリシスを示している。
【0052】
高圧力計16で測定したシリンダ2の内部の圧力pとピストン4の断面積との掛け算で得られた荷重(負の減衰力)はコロイドのみの影響を、ロードセル36で得られた荷重(負の減衰力)はコロイドと共に働く摩擦の影響を表している。加振時間の経過に対して一定の最大ピストンストロークS
max=56±0.07mm、一定の作動周波数f=0.7±0.005Hzが得られたが、
図21および
図22に示すようにコロイダルダンパー1のヒステリシスの形状変化が見られた。そこで、簡便のため、様々な加振時間において、高圧力計16で得られたヒステリシス、つまり、コロイドのみの影響を
図23に示し、ロードセル36で得られたヒステリシス、つまり、コロイドと共に働く摩擦の影響を
図24に示した。
【0053】
図23および
図24によれば、加振時間経過に対するヒステリシスの形状は、(1)最大作動圧力の変化、(2)低圧領域では段差の発生、(3)多孔質体8(シリカゲル)の細孔8aに液体7(水)が吸着時の段差に関する右ずれ、といった変化が見られた。最大作動圧力の変化をさらに明らかにするために、
図25に最大作動圧力と加振時間との関係グラフを示した。
図23〜
図25より、0−20minの範囲内に最大作動圧力が増加するが、その後、単調的に減少することが見られる。原因として、加振実験ではコロイダルダンパー1の加熱が起こり、温度上昇に対して液体7(水)の膨張挙動と金属部分(シリンダ2、補助容器5、高圧力計16に使用する継ぎ手等)の膨張挙動が異なることが考えられる。
【0054】
体積変化ΔT=V
0αΔT(αは体積膨張係数である。)は、温度変動ΔTおよび初期体積V
0に比例する。そこで、0−20minの範囲内に起こる現象を検討してみると、コロイドの初期体積が小さいが、コロイドの温度上昇速度が速い。水の高い温度変動の影響で、水の膨張速度が金属部品の膨張速度より高くなると考えられる。その結果、最大作動圧力が増加する。20−120minの範囲内には、金属部品の高い初期体積の影響で、水の膨張速度が金属部品の膨張速度より低くなると考えられる。その結果、最大作動圧力が単調的に減少する。上記ヒステリシスの形状変化の(3)もこのような体積変化につながると考えられる。例えば、20−120minの範囲内には、シリンダ2および補助容器5にある密閉空間3の体積が液体7(水)およびコロイド溶液の体積より大きくなるので、多孔質体8(シリカゲル)の細孔8aに液体7(水)が吸着できるまで無駄なストロークが長くなると考えられる。ヒステリシスの形状変化の(2)の原因は、多孔質体8(シリカゲルの粒子)でフィルタ6の細孔が詰まって、低圧領域では段差が発生していったと考えられる。
【0055】
図26(a)は加振時間経過に対する部分散逸エネルギー(コロイドによる散逸:E
c)、および全体散逸エネルギー(コロイドによる散逸:E
c足す摩擦による散逸:E
f)の変化を示している。コロイダルダンパー1のヒステリシスの形状は大幅に変化したが、部分散逸エネルギーと共に全体散逸エネルギーが、特に45−120minの範囲内に、ほとんど変動しないことが分かる。また、部分散逸エネルギーのグラフを縦軸に対して滑らせると、全体散逸エネルギーのグラフにほぼ重なるので、思ったように摩擦による散逸が加振時間経過に対してほぼ変動しないことが分かる。このような特徴は、
図26(b)で、さらに確認できる。
図26(b)は加振時間経過に対する無次元化散逸エネルギーの変化を示している。コロイドによる無次元化散逸エネルギーE
c/E
tが81.5−84.4%の範囲内、摩擦による無次元化散逸エネルギーE
f/E
tが18.5−15.6%の範囲内で変動した。
【0056】
次に、本実施例の加振装置20と従来の加振装置(比較例1(エアブロー装置および空気圧縮機を用いた電磁加振機)および比較例2(歯車油圧ポンプを用いた電動油圧加振機))との性能比較を行った。
【0057】
図27は電動油圧加振機(比較例2)にコロイダルダンパー1を装着した状態を示す断面図である。
図27に示すように、この試験装置は、コロイダルダンパー1のピストン4に圧力を加えるための低圧力シリンダ18と、低圧力シリンダ18を動作させるための油圧装置(手動ポンプおよび電動ポンプ)を、切替弁(図示せず。)を介してそれぞれに並列に接続する油圧装置用上ソケット19aおよび油圧装置用下ソケット19bとを備える。
【0058】
なお、このコロイダルダンパー1のピストン4の直径Dは20mm、密閉空間3内の最大許容圧力は120MPaである。また、低圧力シリンダ18は、手動ポンプ19cまたは電動ポンプ19dのポンプ圧力の油圧アンプである。低圧力シリンダ18の直径D
haは80mmであるため、ポンプ圧力の倍率は(D
ha/D)
2=16となる。この試験装置では、手動ポンプ19cを使用して、ピストン4の低速度(10mm/s以下)で静的試験を行うことができる。また、電動ポンプ19dを使用して10Hzの周波数まで、つまり0.4m/sの速度まで動的試験を行うことができる。なお、この試験装置では、ピストン4のデッドストロークを防ぐために、密閉空間3を初期的に加圧した後に、与えられた最大圧力の下での動的試験を行った。
【0059】
図28は大型電磁加振機(比較例1)にコロイダルダンパー1を装着した状態を示す平面図、
図29は正面図である。この試験装置では、
図27の低圧力シリンダ18に代えて大型電磁加振機80を使用する。大型電磁加振機80は、地面81にエア振動絶縁装置82を介して立設された左支持部83aおよび右支持部83bに対して水平方向の回転軸84回りに回転可能に支持されたものである。コロイダルダンパー1は、左支持部83aおよび右支持部83b上に架け渡されたテーブル85上にシリンダ2が固定され、ピストン4が大型電磁加振機80の頭部に連結されている。
【0060】
表1は、本実施例の加振装置20(ボールねじ加振機)、比較例1の電磁加振機および比較例2の電動油圧加振機の性能比較の結果を示している。なお、騒音レベルの測定距離は1mとした。dB(A)とは、騒音レベルのデシベル単位dBにAタイプの周波数重みフィルタをかけたものである。このような周波数重みフィルタを使用すると、低周波数域および高周波数域では人間の耳の周波数感度に合わせて騒音レベルのデシベル単位dBが補正される。
【0061】
【表1】
【0062】
表1の結果から、本実施例の加振装置20(ボールねじ加振機)が最も騒音レベルが低く、安価であることが分かる。また、最大ストロークに関する誤差も小さく、初期位置の精密な調整が可能であることが分かる。