特許第6066237号(P6066237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066237
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】抗菌性眼科用コンタクトレンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20170116BHJP
   G02C 13/00 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   G02C7/04
   G02C13/00
【請求項の数】25
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-548767(P2015-548767)
(86)(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公表番号】特表2016-504623(P2016-504623A)
(43)【公表日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】GB2013053388
(87)【国際公開番号】WO2014096852
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2015年9月8日
(31)【優先権主張番号】61/740,599
(32)【優先日】2012年12月21日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508316416
【氏名又は名称】クーパーヴィジョン インターナショナル ホウルディング カンパニー リミテッド パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】ジュ ピーター
(72)【発明者】
【氏名】モーリス カロル アン
(72)【発明者】
【氏名】ルク アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】マリツェファ インナ
(72)【発明者】
【氏名】バック アーサー
(72)【発明者】
【氏名】ロジャーズ ヴィクトリア
(72)【発明者】
【氏名】ホン キャスリーン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ユン
(72)【発明者】
【氏名】イェ イン
【審査官】 小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第03/067311(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/149058(WO,A1)
【文献】 特表2011−510347(JP,A)
【文献】 特開2009−175543(JP,A)
【文献】 特開2010−270126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッケージング溶液に浸されパッケージに密封されている未装用抗菌性コンタクトレンズであって、ヒドロゲルと、前記ヒドロゲルに非共有結合した少なくとも5μgのイプシロンポリリジン(εPLL)とを含み、当該コンタクトレンズ及び前記パッケージング溶液はパッケージ中で滅菌状態であり、当該コンタクトレンズは眼科的に許容できる、前記コンタクトレンズ。
【請求項2】
前記ヒドロゲルがシリコーンを含む、請求項1に記載のコンタクトレンズ。
【請求項3】
前記ヒドロゲルが、前記εPLLにイオン結合する負に荷電した基を含む、請求項1又は2に記載のコンタクトレンズ。
【請求項4】
前記ヒドロゲルが、アニオン性モノマーを含むモノマー混合物の水和した重合生成物を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項5】
前記ヒドロゲルが0.5%〜1.5%のイオン含量を有する、請求項1〜4のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項6】
前記ヒドロゲルが1.5%〜2.2%のイオン含量を有する、請求項1〜4のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項7】
前記ヒドロゲルが1.6%〜2.0%のイオン含量を有する、請求項1〜4のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項8】
前記ヒドロゲルが、前記εPLLにイオン結合するホスホリルコリン基を含む、請求項1〜7のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項9】
前記パッケージング溶液が0.15未満のイオン強度を有する、請求項1〜8のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項10】
104の接種材料及び24時間のインキュベーションを用いてインビトロ生理活性アッセイで試験した場合、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の少なくとも4 logの殺菌をもたらす、請求項1〜9のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項11】
霊菌(Serratia marcescens)及び/又は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の少なくとも2 logの殺菌をもたらす、請求項1〜10のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項12】
24時間のインビトロεPLL放出後に緑膿菌の少なくとも2 logの殺菌をもたらす、請求項1〜11のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項13】
48時間のインビトロεPLL放出後に緑膿菌の少なくとも2 logの殺菌をもたらす、請求項1〜12のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項14】
少なくとも10μgのεPLLを含む、請求項1〜13のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項15】
少なくとも100μgのεPLLを含む、請求項14に記載のコンタクトレンズ。
【請求項16】
前記ヒドロゲルが、εPLLの放出を少なくとも2時間持続する、請求項1〜15のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項17】
前記ヒドロゲルが、εPLLの放出を少なくとも12時間持続する、請求項16に記載のコンタクトレンズ。
【請求項18】
患者が少なくとも5日間連続して装用するのに適した長期装用コンタクトレンズである、請求項1〜17のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項記載のコンタクトレンズ装用後のコンタクトレンズの抗菌活性を補充又は増強する方法であって、前記装用後に取り出されたコンタクトレンズを、追加のεPLL及び/又は第2の抗菌剤を含む多目的コンタクトレンズケア溶液(MPS)に保存する工程を含み、該保存中に追加のεPLL及び/又は第2の抗菌剤が前記コンタクトレンズに組み込まれる、前記方法。
【請求項20】
前記MPSがポリクオタニウム-1を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
未装用抗菌性コンタクトレンズの製造方法であって、モノマー混合物を重合させてレンズ形状重合生成物を提供すること;前記重合生成物を水和させてヒドロゲルを形成してもよく;パッケージング溶液を含有するパッケージに前記重合生成物又はヒドロゲルを浸すこと;前記パッケージを密封すること;及び前記密封パッケージを滅菌するか、又は滅菌条件下で前記ヒドロゲルと前記パッケージング溶液を製造して組み合わせることを含み、少なくとも5μgのεPLLが前記ヒドロゲルに非共有結合し、前記コンタクトレンズは眼科的に許容できる、前記方法。
【請求項22】
前記重合生成物が1〜2%のイオン含量を有し、前記パッケージング溶液が100ppm〜1000ppmのεPLLを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
パッケージ化抗菌性ヒドロゲルコンタクトレンズの製造方法であって、εPLLを含むパッケージング溶液にレンズ形状重合生成物又はヒドロゲルコンタクトレンズを接触させる工程を含み、前記コンタクトレンズは眼科的に許容できる、前記方法。
【請求項24】
前記パッケージング溶液が50ppm〜10,000ppmのεPLLを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
求項1〜8のいずれか1項に載されたヒドロゲルコンタクトレンズを用いて、前記パッケージ化抗菌性ヒドロゲルコンタクトレンズを製造することを特徴とする、請求項23又は24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の分野は、ヒドロゲル及びε-ポリリジン製の抗菌性眼科用デバイスである。
【背景技術】
【0002】
ε-ポリリジンは、L-リジンの約25〜35個の残基のホモポリマーであり、L-リジンのε-アミノ基とカルボニル基が連結している。それは、ストレプトマイセス(Streptomyces)種により産生される天然に存在するポリマーである。それは広域スペクトルの抗菌活性を有し、日本国で食品保存剤として、また種々の消費者製品の添加剤として広く使用されている。コンタクトレンズケア溶液におけるその使用が記載されている(例えば米国特許第6,187,264号、及び米国特許出願公開第2005/0074467号参照)。イプシロン-ポリ-L-リジン-グラフト-メタクリルアミド製の抗菌性ヒドロゲルが報告されている(Zhou et al., Biomaterials 32 (2011) 2704-2712)。ヒドロゲルコポリマーとイオン結合型錯体又水素結合を形成できる安定化剤を含む滅菌溶液にシリコーンヒドロゲルコポリマー製コンタクトレンズを含有する密封容器を含んでなるコンタクトレンズパッケージが米国特許出願公開第2007/0149428号に記載されている。ホスホリルコリンポリマーを含み、さらに緩衝剤を含み得るパッキング水溶液を使用するイオン性ヒドロゲルレンズのパッケージングシステム及び保存方法が米国特許出願公開第2009/0100801号に記載されている。他の背景出版物としては、米国特許出願公開第2012/0074352号、米国特許出願公開第2011/0071091号、米国特許出願公開第2005/0074467号、米国特許出願公開第2004/0135967号、米国特許第4,168,112号、米国特許第7,282,214号、米国特許第7,402,318号、欧州特許第1328303B1号、及びPCT公開第WO94/13774号が挙げられる。
【発明の概要】
【0003】
概要
一態様では、本発明は、パッケージング溶液に浸してパッケージに密封された抗菌性コンタクトレンズであって、ヒドロゲルと、抗菌的に有効な量のイプシロンポリリジン(εPLL)とを含んでなるコンタクトレンズを提供する。有利には本コンタクトレンズは、ヒドロゲルである第1ポリマー成分と、抗菌的に有効な量のイプシロンポリリジン(εPLL)を含む第2ポリマー成分とを含む。さらなる態様では、本発明は、パッケージング溶液に浸した抗菌性コンタクトレンズを含有する密封パッケージであって、前記コンタクトレンズがヒドロゲルと、抗菌的に有効な量のイプシロンポリリジン(εPLL)とを含んでなる、密封パッケージを提供する。有利には、εPLL(又は第2ポリマー成分)は、ヒドロゲル(又は第1ポリマー成分)に非共有結合している。なおさらなる例では、本発明は、εPLLが必要な患者の眼組織にεPLLを投与する方法であって、本発明のコンタクトレンズを患者に投与する工程を含んでなる方法を提供する。別の態様では、本発明は、ヒドロゲルと、εPLLとを含んでなる細菌感染症の治療又は予防用組成物を提供する。有利には、本組成物は本発明のコンタクトレンズの形である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】コンタクトレンズ上のバイオフィルム形成を試験するための仕組みを示す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
詳細な説明
本明細書では抗菌性眼科用デバイスを開示する。本眼科用デバイスは、ヒドロゲルと、このヒドロゲルに非共有結合した抗菌的に有効な量のε-ポリリジン(εPLL)とを含む。εPLLは、ヒドロゲルを形成するポリマー成分とは異なるポリマー成分の一部である。ヒドロゲルポリマー成分(第1ポリマー成分)と、εPLLを含むポリマー成分(第2ポリマー成分)は互いに非共有結合的に、例えば、物理的又は静電気的相互作用によって結合してよく、有利にはそのように結合すると同時に、それらは互いに共有結合せず、コンタクトレンズの別々の異なる成分のままである。本明細書ではコンタクトレンズを例示するが、ヒドロゲル製の他のタイプの眼科用デバイス、例えば眼球インサート、眼球包帯、及び眼内レンズ等を本開示に従って作ることができる。眼科用デバイスは、未装用状態で(すなわちそれは、以前に患者が使用したことがない新しいデバイスである)、ブリスターパッケージ、ガラス製バイアル、又は他の適切な容器等のパッケージに密封されて提供され、パッケージはパッケージング溶液を含有し、その中に眼科用デバイスを浸してある。
ヒドロゲルは、モノマー混合物を重合させて重合生成物を形成し、重合生成物を水和させてヒドロゲルを得ることによって製造可能である。本明細書では、用語「モノマー混合物」は、重合条件にさらされて重合生成物を形成する、非重合性成分を含めたいずれの追加成分をも合わせた重合性モノマーの混合物を意味する。用語「重合生成物」は、乾燥、すなわち非水和ポリマーを指し、このポリマーを次に1種以上の液体と接触させて水和させ、いずれの未結合モノマー又はオリゴマーをもポリマーから抽出してヒドロゲルを形成する。用語「モノマー」は、重合反応において同一又は異なる他の分子と反応してポリマー又はコポリマーを形成できるいずれの分子をも意味する。従って、この用語は重合性プレポリマー及びマクロマーを包含し、特に指定のない限りモノマーのサイズ制限はない。
【0006】
ヒドロゲル眼科用デバイスの製造方法は当技術分野で周知である。例となる方法は、米国特許第6,867,245号(Iwata et al.)、米国特許第8,129,442号(Ueyama et al.)、米国特許第4,889,664号(Kindt-Larsen et al.)、米国特許第3,630,200号(Higuchi)、及び米国特許第6,217,896号(Benjamin)に記載されている。コンタクトレンズの場合、いわゆる「従来のヒドロゲル」は典型的に親水性モノマー、例えば2-ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)又はビニルアルコールを任意に他のモノマーと組み合わせて含み、シロキサン(すなわち少なくとも1つのSi-O基を含む分子)を含有しないモノマー混合物から形成される。シリコーンヒドロゲルは、少なくとも1種の重合性シロキサンモノマーを含むモノマー混合物から形成される。従来のヒドロゲルの例としては、エタフィルコン(etafilcon)A、ネルフィルコン(nelfilcon)A、オキュフィルコン(cufilcon)D、オマフィルコン(omafilcon)A、オマフィルコンD及びポリマコン(polymacon)が挙げられる。シリコーンヒドロゲルの例としては、バラフィルコン(balafilcon)A、コムフィルコン(comfilcon)A、エンフィルコン(enfilcon)A、ロトラフィルコン(lotrafilcon)A、及びセノフィルコン(senofilcon)Aが挙げられる。上記ヒドロゲル、及び本明細書で具体的に言及しない他のいずれの適切なヒドロゲルも本開示の抗菌性眼科用デバイスに使用し得る。具体例では、抗菌性眼科用デバイスはシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズである。種々の例では、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、患者が少なくとも24時間、5日、7日、又は14日間連続して装用する長期装用(extended wear)コンタクトレンズである。別の例では、コンタクトレンズは、患者が日中装用し、コンタクトレンズの保存を意図した溶液に毎晩保存する毎日装用レンズである。さらに別の例では、コンタクトレンズは、患者が起きている間に装用し、寝る前に取り外して捨て、毎日新しい未装用(unworn)レンズと交換する一日使い捨てレンズである。この開示全体を通じて、「例(複数)」、「例(単一)」、「一例」、「具体例」又は同様のフレーズの言及は、既に述べたか又は後で述べる例(すなわち特徴)のいずれの組み合わせとも併せ持つことができるヒドロゲル、コンタクトレンズ、εPLL、パッケージング溶液、重合性組成物、製造方法等(文脈に応じて)の特徴を導入する(特徴の特定の組み合わせが相互に排他的であるか、又は文脈が特に指示しない限り)ことを意図する。
【0007】
εPLL(CAS no.28211-04-3)は、典型的に約25〜約35個の範囲のリジン(LYS)残基のホモポリマーとして商業的に入手可能である。εPLLの天然に存在するホモポリマーの全てのフラクションを使用し得る。或いは、使用前にεPLLの選択フラクションを除去して捨ててよい。例えば、少なくとも27個のLYS残基、又は少なくとも29個のLYS残基を有するホモポリマーから成るεPLLをヒドロゲルに結合させてよい。別の例では、ヒドロゲルに結合したεPLLが33個以下のLYS残基、又は31個以下のLYS残基から成ってよい。さらに別の例では、ヒドロゲルに結合したεPLL、又は第2ポリマー成分のεPLL部分は、27から33個の範囲のLYS残基のホモポリマーから成る。本明細書では、用語εPLLにはεPLLの誘導体も含まれる。但し、該ホモポリマーの誘導体化形が抗菌活性を保持することを条件とする。第2ポリマー成分には、より大きい化合物に組み込まれたεPLL又はその誘導体も含まれる。例えば、ヒドロゲルへの組み込み前に、化学的部分をεPLLに連結して所望の特性を与えてよい。一例では、εPLLを疎水性部分に共有結合させて、ヒドロゲルの作製に用いられる疎水性モノマー混合物とのその混和性を改善するか又はヒドロゲルからのその放出速度を遅くすることができる。別の例では、εPLLを別のポリマーに連結して、二官能性ブロックコポリマー、例えば抗菌作用を与えながらコンタクトレンズの快適さを向上させる親水性ポリマーに連結したεPLLを与えることができる。他の例では、εPLLはイプシロン-L-リジンホモポリマーから成る。すなわちεPLLは誘導体化されていない。本明細書では、用語「εPLLを含むポリマー成分」には、イプシロン-L-リジンのホモポリマー、イプシロン-L-リジンの誘導体化ポリマー、イプシロン-L-リジンポリマーと、別のポリマーと、例えば、ヒドロゲル中に存在するポリマー成分の構成要素としてイプシロン-L-リジンポリマーに連結した非ポリマー部分(例えば疎水性部分)を含む成分とを含むブロックコポリマーが含まれる。本明細書では以後「εPLL」への言及は典型的に「εPLLを含むポリマー成分」の省略表現であると理解すべきである。文脈によっては、用語「εPLL」がイプシロン-L-リジン又はその誘導体のみのホモポリマーを表すことがあるが、文脈が許す場合には、用語「εPLL」は以降、上記定義どおりのイプシロン-L-リジンポリマー及びεPLLを含むポリマー成分の両方を表すと理解すべきである。同様に「ヒドロゲル」への言及は、ポリマーヒドロゲル成分を指す。
【0008】
コンタクトレンズはヒドロゲルと抗菌的に有効な量のイプシロンポリリジン(εPLL)とを含む。典型的に、εPLLは、ヒドロゲル中に存在する。有利には、εPLLは、εPLLが抗菌活性を維持するいずれかの非共有結合メカニズムでヒドロゲルに結合している。「に結合している」というフレーズは、眼科用デバイスがεPLLを含む様式を制限する意図でない。例えば、εPLLは、それがヒドロゲルのポリマーネットワーク内で物理的に絡み合い、及び/又はヒドロゲルと、ヒドロゲルが最初に浸されるパッケージング溶液との間の濃度勾配のおかげでヒドロゲルの細孔内に取り込まれて保持され、及び/又は疎水性相互作用のためヒドロゲルによって保持されてる場合に、ヒドロゲルに結合しているとみなされる。本明細書では、用語「非共有結合した」には、ヒドロゲル中に存在する負に荷電した基とεPLL上に存在する正に荷電したアミン基との間のイオン結合を含め、静電気的相互作用による結合が含まれる。εPLLは、例えば、ヒドロゲルに物理的又は静電気的相互作用によって結合し得る。εPLLは、ヒドロゲル全体に均一に存在する必要はない。例えば、εPLLは主にヒドロゲルの表面上に存在するか、又はヒドロゲルの表面上により大きい濃度で存在するか、又はヒドロゲルのバルク内により大きい濃度で存在することができる。εPLLを含むポリマー成分とヒドロゲル成分は、本発明のコンタクトレンズ内で互いに結合しているとき異なった成分のままであり、例えば、単一分子の一部として共有結合で互いに連結されず、或いは同一の架橋マトリックス中に組み込まれない。
【0009】
ヒドロゲルは任意に負に荷電した基を含んでよい。負に荷電した基はεPLLにイオン結合し、ヒドロゲルへのεPLLの非共有結合を促す。有利には、ヒドロゲルは、εPLLにイオン結合する負に荷電した基を含む。一例では、ヒドロゲルは負に荷電した基を含み、これにεPLL上の一級アミン基がイオン結合する。負に荷電した基を有するヒドロゲルは、水和させてヒドロゲルを形成する重合生成物を作るために用いるモノマー混合物にアニオン性モノマーを含めることによって調製可能である。或いは、さらに後述するように、重合生成物が形成された後に負に荷電した基を添加してもよい。適切な負に荷電した基としては、カルボキシラート、ホスファート、ホスホナート、ホスホン酸、スルホナート、スルファート及びスルファイト基が挙げられる。本発明で使用するには、カルボキシラート基を含むヒドロゲルが特に好ましい。
【0010】
モノマー混合物に用いるのに適したアニオン性モノマーは、1個以上のカルボキシラート基、ホスファート基、ホスホナート基、ホスホン酸基、スルホナート基、スルファート基、スルファイト基、及びその組み合わせを含んでよい。このような基は典型的にpH7で負に荷電している。使用可能なカルボン酸含有アニオン性モノマーの非限定例としては、(メタ)アクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、ケイ皮酸、ビニル安息香酸、フマル酸、マレイン酸、フマル酸のモノエステル、及びN-ビニルオキシカルボニル-L-アラニンが挙げられ;ホスファート基含有アニオン性モノマーとしては、2-ヒドロキシエチルアクリラートホスファート、4-ヒドロキシブチルアクリラートホスファート、及びビニルホスファートが挙げられ;スルホナート基含有モノマーとしては、スチレンスルホナート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホナート、及びスルホエチルメタクリラートが挙げられる。1つの特定例では、カルボン酸含有アニオン性モノマーは(メタ)アクリル酸である。用語「アニオン性モノマー」には、pH約7で加水分解を受けて負電荷を与え得るモノマーも含まれる。例えば、メタクリル酸トリメチルシリル(TMSMA)はモノマー混合物に含めてよく、重合可能である。結果として生じる重合生成物が水和されると、トリメチルシリル基が加水分解してメタクリル酸(すなわち重合したメタクリル酸モノマーの構造)をもたらす。
【0011】
有利には、1種以上のアニオン性モノマーは、本発明のヒドロゲルに約0.1%、0.3%、0.5%、1.0%、又は1.5%から約2.0%、2.2%、2.5%、又は3.0%までのイオン含量を与える量でモノマー混合物に含められる。本明細書では、イオン含量%を下記式Iで決定する。
Σ(an×bn/cn)×89=イオン含量% (I)
式中、anは、以下に定義するように、モノマー混合物に用いたイオン性モノマーnの質量百分率であり、bnは、pH7でモノマーn上の負に荷電した基の数(例えば、モノマー中のカルボキシラート、ホスファート、ホスホナート、ホスホン酸、スルホナート、スルファート及びスルファイト基の数)であり、cnは、イオン性モノマーnの分子量である。モノマー混合物に複数のアニオン性モノマーを使用する場合、ヒドロゲルのイオン含量%は、各アニオン性モノマーnによってもたらされるイオン含量%の合計である。モノマー混合物中のアニオン性モノマーnの質量百分率は、ヒドロゲルに組み込まれる、モノマー混合物の全ての成分の質量に対するものである。換言すれば、最終ヒドロゲル生成物に組み込まれない、モノマー混合物の成分、例えば製造プロセス中にヒドロゲルから除去される希釈剤等は質量パーセントの決定に含まれない。式Iは、従来のヒドロゲルコンタクトレンズに一般的に用いられるアニオン性モノマーであり、89の分子量と1つのイオン基を有する(メタ)アクリル酸に対する分子量と電荷の差異を調整する。従って、例えば、2.0wt.%のN-ビニルオキシカルボニル-L-アラニン(MW=159、1つのイオン基)を含み、それ以外のアニオン性モノマーを含まない組成物から調製されるヒドロゲルのイオン含量は以下のように計算される:(2.0/159)×(89)=1.1イオン含量%。2.0wt.%のイタコン酸(MW=130、2つのイオン基)を含み、それ以外のアニオン性モノマーを含まない組成物から調製されるヒドロゲルのイオン含量は以下のように計算される:(2.0×2/130)×89=2.7イオン含量%。ヒドロゲルのイオン含量は、εPLLを取り込み、放出するレンズの能力に影響を与える。レンズのヒドロゲルのイオン含量を上記範囲内でバランスを取ることによってεPLLの徐放を達成できることを見出した。
【0012】
本明細書全体を通じて、一連の下限範囲及び一連の上限範囲を与えてある場合、あたかも各組み合わせを具体的に列挙したかのように、与えた範囲の全ての組み合わせを企図している。例えば、イオン含量百分率の上記リストでは、20の全ての可能なイオン含量パーセント範囲を企図している(すなわち0.1〜2.0%、0.3〜2.0%...1.5%〜2.5%、及び1.5%〜3.0%)。さらに、本開示全体を通じて、一連の値を最初の値に先行する修飾語句を用いて示してある場合、文脈が特に指定しない限り、暗に一連の値のその後の各値に該修飾語句が先行するよう意図している。例えば、上記値では、暗に修飾語句「約〜から」が値0.3、0.5、1.0、及び1.5に先行し、暗に修飾語句「約〜まで」が値2.2、2.5、及び3.0に先行するよう意図している。具体例では、ヒドロゲルのイオン含量は1.5%〜2.2%又は1.6%〜2.0%の範囲にある。驚くべきことに、この範囲のイオン含量を有するヒドロゲルコンタクトレンズは抗菌的に有効な量のεPLLの放出を少なくとも7日間持続できることを見出した。
【0013】
これとは別に、又はモノマー混合物にアニオン性モノマーを含めることに加えて、モノマー混合物を重合させた後に負に荷電した基をヒドロゲルに組み込んでよい。例えば、プラズマ処理を用いてアニオン性モノマーを重合生成物又はヒドロゲルの表面上に結合させることができる(例えば米国特許第4,143,949号(Chen et al.)及び米国特許出願公開第2008/0245474号(Claude et al.)参照)。別の方法では、ヒドロキシル基又はアミン基等の反応性官能基を含むモノマーをモノマー混合物に含める。結果として生じる重合生成物は、引き続き反応性官能基を介して負に荷電した化合物に結合することができる。
εPLLを含むパッケージング溶液に重合生成物又はヒドロゲルを浸すだけでεPLLはヒドロゲルに結合し得る。ヒドロゲルは、上述したように、負に荷電した基を含有し、それがεPLLの一級アミン基とイオン結合することができる。負に荷電した基を含まないヒドロゲルがパッケージング溶液から抗菌的に有効な量のεPLLを取り込めることもある。例えば、パッケージング溶液とヒドロゲルとの間のεPLL濃度勾配のため、抗菌的に有効な量のεPLLがヒドロゲルによって取り込まれ、疎水的又は他の物理的相互作用のため保持され得る。例えば、我々は、負に荷電した基を持たないエンフィルコンAが、500ppmのεPLLを含むPBSから抗菌的に有効な量のεPLLを取り込めることを見い出した。我々は、HEMAと、双性イオン性モノマー、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とを含むモノマー混合物製ヒドロゲルであるオマフィルコンAが、500ppmのεPLLを含むPBSから抗菌的に有効な量のεPLLを取り込めることをも見い出した。ヒドロゲルは任意にホスホリルコリン基を含んでよい。双性イオン性ホスホリルコリン基はεPLLにイオン結合し、εPLLのヒドロゲルへの非共有結合を促す。有利には、ヒドロゲルは、εPLLにイオン結合するホスホリルコリン基を含む。
【0014】
一例では、パッケージング溶液は、ヒドロゲル又は重合生成物との接触直前に、少なくとも50ppm、100ppm、150ppm、200ppm、250ppm、又は300ppmから、約600ppm、800ppm、1000ppm、1500ppm又は2000ppmまでの量のεPLLを含む。本明細書では、500ppmのεPLLを含む溶液は、500μg/mlのεPLLを含有する。これらの範囲のεPLL濃度は、ほとんどの場合コンタクトレンズ誘発細菌性角膜炎に関与する眼の病原菌に対して非常に有効であろうが、2000ppmより高い濃度は眼組織に無毒かつ刺激がなく、より高い濃度のεPLLが望まれる例で使用可能である。ヒドロゲル又は重合生成物をパッケージング溶液に浸した後、εPLLの一部、大部分又は全てがヒドロゲルに非共有結することによって、溶液中のεPLLの濃度を低減する。ヒドロゲルをパッケージング溶液に浸した後、パッケージを密封し、任意に滅菌する。適切な滅菌法としては、オートクレーブ処理、γ線照射、電子ビーム照射、紫外線照射等が挙げられる。いくつかの例では、パッケージング後の滅菌工程が不要となるように、滅菌条件を用いてヒドロゲルとパッケージング溶液を製造し、組み合わせることができる。
パッケージング溶液のイオン強度をコンタクトレンズに通常用いられるイオン強度より下げることによって、ヒドロゲルによるεPLLの取り込み及び/又は保持を顕著に高め、結果として生理活性が向上することを見出した。例えば、オマフィルコンAコンタクトレンズは、約0.2のイオン強度を有するPBS中500ppmのεPLLと共にパッケージ化及びオートクレーブ処理すると、約5μgのεPLL/レンズを取り込む。実質的に下記実施例5で述べるように、104個の細菌接種材料との24時間のインキュベーションを用いてインビトロ生理活性アッセイで試験すると、レンズは緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(PA)の完全な死滅、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(SA)の1未満のlog killをもたらし、霊菌(Serratia marcescens)(SM)の検出可能な死滅はなかった。対照的に、約0.02のイオン強度を有する、TRIS緩衝液と2%のソルビトール中でパッケージング及びオートクレーブ処理した同一のオマフィルコンAレンズは約120μgのεPLL/レンズを取り込み、SMの約4 logの殺菌(4 log kill)をもたらした。従って、種々の例では、パッケージング溶液は、下記方程式で計算した場合に約0.15、0.10、又は0.05未満のイオン強度を有する。
【0015】
【数1】
式中、ciは、イオンiのモル濃度(mol・dm-3)であり、ziは当該イオンの電荷数であり、パッケージング溶液中の全てのイオンについて合計を取る。
【0016】
約200、250、又は270mOsm/kgから約310、350、又は400mOsm/kgまでの範囲の適切なオスモル濃度を維持しながらイオン強度を下げるため、コンタクトレンズパッケージング溶液の等張化剤として一般的に用いられる塩化ナトリウムを、上述したようにソルビトール等の非電解質等張化剤と交換することができる。パッケージング溶液に使用できる他の非電解質等張化剤としては、マンニトール、グルコース、グリセロール、プロピレングリコール、キシリトール、及びイノシトールが挙げられる。さらに又は代わりに、通常のコンタクトレンズパッケージング溶液に使用されるリン酸緩衝液又はホウ酸緩衝液をより低いイオン強度の緩衝液、例えばTRIS及び/又はトリシン等と置き換えることによって、パッケージング溶液のイオン強度を下げることができる。下記実施例8はさらに、εPLLを含むパッケージング溶液のイオン強度を下げると、ヒドロゲルによるεPLLの取り込みの増加をもたらし得ることを実証する。
いくつの例では、パッケージング溶液は、緩衝液と、等張化剤と、任意にεPLLとの水溶液から成るか又は基本的に該水溶液から成る。他の例では、パッケージング溶液は追加薬剤、例えば1種以上の追加の抗菌剤、快適剤、親水性ポリマー、又はレンズが容器にくっつかないようにする界面活性剤その他の添加剤を含有する。パッケージング溶液は典型的に約6.8又は7.0から約7.8又は8.0までの範囲のpHを有する。
【0017】
εPLLをヒドロゲルに結合させ得る別の手段は、モノマー混合物にεPLLを含めることによる。モノマー混合物の重合後、εPLLはヒドロゲルのポリマーネットワーク内で絡み合い、εPLLはヒドロゲルに非共有結合するので、ヒドロゲルの細孔を通って表面に移動し、そこで抗菌効果を与えることができる。
重合生成物が加水分解し、抗菌的に有効な量のεPLLを取り込む条件下で、それを果たすのに十分な時間、εPLLを含む水溶液中に重合生成物を浸すことによって、εPLLをヒドロゲルに結合させることもできる。或いは、重合生成物を水和させてヒドロゲルを形成してから、ヒドロゲルが抗菌的に有効な量のεPLLを取り込む条件下で、それを果たすのに十分な時間、εPLLを含む溶液に浸してもよい。結果として生じるヒドロゲルを、εPLLを含まないか又は追加のεPLLを含有するパッケージング溶液中でパッケージ化し得る。
「抗菌的に有効な量のεPLL」は、本明細書では104CFUのPA(すなわち低接種量)との24時間のインキュベーション後にインビトロ生理活性アッセイを用いて試験したとき、コントロールヒドロゲルに比べて緑膿菌(PA)の少なくとも2 log killをもたらすεPLLの量である。本明細書では、「インビトロ生理活性アッセイ」は、実質的に下記実施例5に記載のアッセイを意味し、「コントロールヒドロゲル」は、εPLLを含まないが、その他の点ではインビトロ生理活性アッセイで試験するεPLL含有ヒドロゲルと実質的に同一のヒドロゲルを意味する。さらに、本明細書で生物に対して「log kill」への言及は、特に指定のない限り、104CFUの生物との24時間のインキュベーション後にインビトロ生理活性アッセイを用いて得られるlog killを意味する。いくつかの例では、εPLL含有ヒドロゲルは、PAの少なくとも4 log killをもたらす。さらなる例では、εPLL含有ヒドロゲルは、107CFUの生物(すなわち高接種量)との24時間のインキュベーション後にインビトロ生理活性アッセイで試験すると、PAの少なくとも4 log killをもたらす。なおさらなる例では、低接種量のPA又は高接種量でさえのPAとの24時間のインキュベーション後にインビトロ生理活性アッセイで試験すると、εPLL含有ヒドロゲル上では生きたPAは検出できないが、コントロールレンズはPAの成長を補助する。このような例では、抗菌性ヒドロゲルは、PAの完全な死滅をもたらすと言われる。種々の例では、抗菌性ヒドロゲルは低摂取量、又は高接種量でさえ用いて、霊菌(SM)及び/又は黄色ブドウ球菌(SA)の少なくとも1 log kill又は2 log killをもたらす。本明細書では、SA、SM、及びPAは、実施例5の表3に列挙したこれらの細菌の株、又は抗菌剤に対して表3に列挙した株と実質的に同一の感受性を有する同等の株を意味する。
【0018】
ヒドロゲルは、以降「インビトロ放出アッセイ」と称する下記実施例4に記載のインビトロεPLL放出条件にさらした後に抗菌的に有効な量のεPLLを保持することができる。本明細書では、εPLL放出時間はインビトロ放出アッセイに関するものである。従って、例えば、24時間のεPLL放出後にPAの2 log killをもたらすと言われるヒドロゲルは、24時間のインビトロεPLL放出アッセイにさらした後にインビトロ生理活性アッセイで試験したとき、ヒドロゲルがPAの2 log killをもたらすことを意味する。いくつかの例では、ヒドロゲルは、εPLL放出の48時間、72時間、96時間、120時間、又は168時間後でさえ、PA、SM、及び/又はSAの少なくとも2 log killをもたらす。本明細書に記載の抗菌性の眼科用デバイスは、全ての装用様式に適しているが、εPLL放出の48時間後に抗菌的に有効な量のεPLLを保持するヒドロゲルは、長期装用に特に適し得る。任意に、実質的に下記実施例6で述べるバイオフィルムアッセイを用いて、εPLL放出後のヒドロゲルの抗菌有効性を測定することができる。種々の例では、抗菌性ヒドロゲルは少なくとも約0.05wt.%、0.1wt.%、0.2wt.%、0.5wt.%、又は1.0wt.%のεPLL及び約2.0wt.%、3.0wt.%又は4.0wt.%までのεPLLを含む。ここで、εPLLのwt.%は、ヒドロゲルの総乾燥質量に基づいている。ヒドロゲルコンタクトレンズでは、非共有結合したεPLLの抗菌的に有効な量は、典型的に少なくとも約5μg、10μg、25μg、50μg、100μg、又は150μgのεPLL及び約300μg、400μg、500μg又は600μgまでである。これらの範囲内のεPLLの量は、ほとんどの場合コンタクトレンズ誘発細菌性角膜炎に関与する眼の病原菌に対して非常に有効であろうが、600μgより多い量は眼組織に無毒かつ刺激がなく、より多い量のεPLLが望まれる例で使用可能である。
【0019】
いくつかの例では、ヒドロゲルは、εPLL放出が少なくとも2時間持続され、結果として持続性抗菌活性をもたらす放出プロファイルを有する。本明細書では、放出されたεPLLの量への言及は、インビトロ放出アッセイで試験した場合の所定の持続時間にヒドロゲルから放出されたεPLLの量を指す。ヒドロゲルは、インビトロ放出アッセイの所定の持続時間の最後と次の持続時間との間にεPLLの量の有意な増加がある場合、少なくとも所定持続時間εPLLの「徐放」を示すと言われる。例えば、インビトロ放出アッセイを用いて決定したところ、ヒドロゲルが0〜2時間で30μgのεPLLを放出し、2〜4時間でさらに10μgのεPLLを放出する場合、ヒドロゲルはεPLLの放出を少なくとも2時間持続すると言われる。いくつの例では、ヒドロゲルは少なくとも4時間、6時間、8時間、又は24時間εPLLの放出を持続する。典型的に、εPLL放出の初期速度はかなり高い。このことは、病原の導入が取扱いのために最も起こりやすい場合に眼科用デバイスの初期挿入時に一気にεPLLを放出できるという点で有利である。ヒドロゲルのイオン含量とパッケージング溶液中のεPLLの濃度のバランスを取って望ましいεPLL放出プロファイルを与えることができる。一例では、ヒドロゲルは少なくとも1μg、5μg、10μg、20μg、30μg又は40μgのεPLL及び約60μg、80μg、又は100μgまでのεPLLを2時間で放出する。さらなる例では、ヒドロゲルは、2時間までに上記量のεPLLを放出し、2〜4時間でさらに1μg、5μg、10μg又は20μgから約30μg、40μg、又は60μgまでのεPLLを放出する、εPLLの徐放を示す。いくつかの例では、ヒドロゲルは、εPLL放出が少なくとも12時間持続される放出プロファイルを示す。すなわちヒドロゲルは、インビトロ放出アッセイを用いて決定した場合に12〜24時間の時点で顕著なεPLL放出を示す。従って、ヒドロゲルを含むコンタクトレンズは、一晩装用したときに抗菌効果を有する。驚くべきことに、我々は、約200〜約1000ppmのεPLLを含む溶液中でパッケージ化した約1.6%〜約2.0%のイオン含量を有するヒドロゲルコンタクトレンズが7日間インビトロ放出を受け、抗菌的に有効なままであり得ることを見い出した。このことは実施例6で実証される。
【0020】
ヒドロゲルは、その抗菌特性を向上させるため任意に第2の抗菌剤を含んでよい。我々は、第2の抗菌剤をヒドロゲル中に組み込むと、ヒドロゲルが相乗的な抗菌効果をもたらし得ることを見い出した。例えば、約10μgのポリクオタニウム-1(PQ-1)を含み、他の抗菌剤を含まないイオン性シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、107接種材料との24時間のインキュベーション後に生理活性アッセイを用いて決定したところ(実施例7に記載)、SA又はSMに対して有意な活性を持たない。約200μgのεPLLを含み、他の抗菌剤を含まない同タイプのコンタクトレンズは、SAの約2 log kill及びSMの約1.5 log killをもたらす。コンタクトレンズが10μgのPQ-1と200μgのεPLLを両方含むと、それは、SAの約2.5 log kill及びSMの4 log killをもたらし得る。このコンタクトレンズは、SA及びSMに対する抗菌活性が、εPLLを含み、PQ-1を含まないレンズとPQ-1を含み、εPLLを含まないレンズの合計活性より有意に大きいので、これらの生物に対するその抗菌活性を相乗的に高める量のPQ-1を含むと言われる。実施例6のインビトロバイオフィルムアッセイを用いても第2の抗菌剤によってもたらされる抗菌活性の相乗的増加を調べることができる。ヒドロゲルに組み込める他の第2の抗菌剤の例としては、他の抗菌性ペプチド(例えばデフェンシン)、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、アレキシジン等が挙げられる。具体例では、ヒドロゲルは、アニオン成分、εPLLと、インビトロバイオフィルムアッセイで決定した場合にSA又はSMに対する抗菌活性を相乗的に高める量の第2の抗菌剤とを含む。
【0021】
本明細書に記載の抗菌性眼科用デバイスは、それらが接触することを意図されている眼組織に刺激がなく、無毒である。例えば、眼の前部と接触するコンタクトレンズは、角膜上皮又は結膜に刺激がない。ISO 10993(ANSI/AAMI/ISO 10993-5: Biological evaluation of medical devices - Part 5: Tests for in vitro cytotoxicity, 1999)に従うインビトロ細胞毒性試験において眼科用デバイスのインビボ生体適合性の予測因子として認められている。手短に言えば、コンタクトレンズの場合、レンズをそれらのパッケージング溶液から取り出し、リンス又は洗浄せずに、0.8mLのMEMと5%の仔ウシ血清と共にL929細胞のコンフルエント単層の上に直接接触によって置く。5%のCO2と共に37℃での24時間のインキュベーション後、USPガイドライン(USP <87> Biological Reactivity; United States Pharmacopeia 32 / National Formulary 27, United States Pharmacopeial Convention, Rockville, MD, 2009)を通じた細胞変性点数化法に従ってレンズの下又は周囲の細胞死のゾーンにより細胞毒性を点数化する。本明細書では、ヒドロゲルはこのアッセイを用いて2以下の細胞変性グレードのスコアであれば、それは「眼科的に許容できる」とみなされる。望ましくは、眼科用デバイスは1又はゼロの細胞変性グレードのスコアであり、インビトロ生理活性アッセイで104接種材料と24時間のインキュベーションを用いて試験したときに緑膿菌の少なくとも4 log killをもたらすであろう。
レンズの物理的性質、例えば光学的透明度、モジュラス、水和性等に悪影響を与えずに、抗菌的に有効な量のεPLLのコンタクトレンズ中への組み込みを達成できることを見出した。例えば、本明細書に記載のコンタクトレンズは光学的に透明でありISO 18369に従って測定した場合に、少なくとも93%、95%又は97%の380nm〜780nmの光線透過率を有する。
【0022】
前述の内容を考慮して、従来の製造方法を用いて本明細書に記載の抗菌性眼科用デバイスを製造できることが認められるであろう。従って、本開示の一態様は、未装用抗菌性コンタクトレンズの製造方法であって、下記工程:モノマー混合物を重合させてレンズ形重合生成物を与える工程;任意に重合生成物を水和させてヒドロゲルを形成する工程;パッケージング溶液を含有するパッケージにヒドロゲル又は重合生成物を浸す工程;及びパッケージを密封する工程を含んでなり、抗菌的に有効な量のεPLLがヒドロゲルに非共有結合する、方法である。一例では、εPLLは、ヒドロゲルを中に浸すパッケージング溶液内に存在する。従って、本開示の一態様は、パッケージ化抗菌性ヒドロゲルコンタクトレンズの製造方法であって、レンズ形重合生成物又はヒドロゲルコンタクトレンズを、εPLLを含むパッケージング溶液と接触させる工程を含む方法である。レンズ形重合生成物とパッケージング溶液の接触は、例えば、コンタクトレンズの水和と、結果として生じるヒドロゲルへのεPLLの結合の両方をもたらす。レンズ形重合生成物又はヒドロゲルコンタクトレンズと接触させるパッケージング溶液は、例えば、約50ppm〜約10,000ppm、特に約100ppm〜約600ppmのεPLLを含んでよい。別の例では、εPLLはモノマー混合物の成分である。さらに別の例では、εPLLは、重合後プロセス工程でヒドロゲルに、パッケージング溶液への浸漬前に非水和又は水和重合生成物に結合する。製造方法は、任意に例えばオートクレーブによって密封パッケージを滅菌する追加工程を含んでよい。一般的に、最終製品は、上記例に従ってレンズパッケージング水溶液に浸した未使用コンタクトレンズを含有する少なくとも1つの密封容器を含む。密封容器は、密閉されたブリスターパックであってよい。これは、コンタクトレンズを含有する凹状ウェルが、ブリスターパックを開けるために剥がせるように適合した金属又はプラスチックシートで覆われている。密封容器は、レンズを妥当な程度に保護できるいずれの適切な不活性パッケージング材料、例えばポリアルキレン(例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン)、PVC、ポリアミド等のプラスチック材料であってもよい。
【0023】
レンズを取り出して多目的コンタクトレンズケア溶液(MPS)に一晩保存する毎日装用を意図したコンタクトレンズの場合、一晩の保存中にコンタクトレンズに組み込まれるMPSに存在する1種以上の抗菌剤によって、レンズの抗菌活性を補充又は増強することができる。該抗菌剤の例としては、εPLL(日中にコンタクトレンズから放出されたεPLLを補充する)、PQ-1、PHMB、アレキシジン等が挙げられる。従って、本明細書では本明細書に記載の抗菌性コンタクトレンズを装用した後にそれらの抗菌活性を補充又は増強する方法を提供する。本方法は、追加のεPLL及び/又は第2の抗菌剤を含む多目的コンタクトレンズケア溶液(MPS)に、装用したコンタクトレンズを保存する工程を含んでなり、保存中に追加のεPLL及び/又は第2の抗菌剤がコンタクトレンズに組み込まれる。具体例では、コンタクトレンズは、εPLL及び/又は第2の抗菌剤にイオン結合するアニオン成分を含む。さらなる例では、コンタクトレンズは、約1%〜約2%のイオン含量を有する毎日装用シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズであり、方法は、PQ-1又はεPLLを含んでなるMPS内でのコンタクトレンズの一晩の保存を含む。
【0024】
細菌感染、特にPA、SM、SA及び本明細書に記載するか又はεPLLを用いて治療し得る他の細菌感染の治療又は予防に、ヒドロゲル及びεPLLを含んでなる本発明の組成物及びレンズを使用し得る。本発明の組成物及びレンズは、眼組織の細菌感染の治療又は予防、及び/又は本発明の組成物若しくはレンズを投与する患者の有害事象のリスクの低減に特に適している。上記抗菌性ヒドロゲルから、また下記実施例セクションでさらに詳述するように製造される眼科用デバイスは、臨床研究を用いて決定されるように、患者における細菌誘発有害事象のリスクを低減する方法で使用可能である。細菌誘発有害事象の例としては、コンタクトレンズ急性赤目(CLARE)、コンタクトレンズ辺縁潰瘍(CLPU)、浸潤性角膜炎(IK)及び細菌性角膜炎(MK)が挙げられる。一例では、眼科用デバイスは、εPLLを欠くが、その他の点では試験レンズと実質的に同一であるコントロールレンズに比べて、レンズに接着される少なくとも50%、80%又は90%の接着型病原性眼細菌の平均減少をもたらすコンタクトレンズである。この接着型病原性眼細菌の減少は、臨床研究の結果としてVITEK(登録商標)2細菌同定システム(bioMerieux SA)を用いて決定される。一例では、研究は、試験レンズ及びコントロールレンズ上の接着型病原性眼細菌の数を比較する。この研究では1週間以上(例えば7、14、21、28日等)毎日レンズを装用して毎晩MPSに保存する。別の研究では、被験者が少なくとも24時間、48時間、5日、7日、14日又は30日間レンズを塩族して装用する。
【実施例】
【0025】
下記実施例は、本発明の特定の態様及び利点を説明するものであり、本発明を実施例によって限定するものと解釈すべきでない。
実施例1:アニオン性シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの調製
相対部(質量)で示した下表1に列挙した化学薬品を秤量し、一緒に混合することによって6つのシリコーンヒドロゲル配合物A〜Fを作製し、0.2〜5.0ミクロンフィルターを用いてろ過した。表1に載せた単官能性シロキサンは、以下に示す構造IIを有する。このシロキサンモノマーの製造方法は米国特許第8,168,735号(Ichinohe)に記載されている。
【0026】
【化1】
II.
【0027】
表1に載せた二官能性シロキサンマクロマーは、以下に示す構造IIIを有する。ここで、nは約90であり、mは約5であり、pは約7.0である。このマクロマーの製造方法は米国特許第8,129,442号(Ueyama et al.)に記載されている。
【0028】
【化2】
III.
【0029】
表1
【0030】
結果として生じた重合性モノマー混合物を通常の方法を用いてポリプロピレンコンタクトレンズ型アセンブリー内で鋳造し、窒素オーブン内で熱硬化させた。各硬化レンズをその型から取り出し、水和させ、脱イオン水の多重交換を利用して洗浄してヒドロゲルから未反応成分及び一部反応成分を除去した。
【0031】
実施例2:インビトロ取り込みアッセイ
下記実施例では水中25%濃度のεPLL(Chisso Corporation, Tokyo, Japan)を出発εPLL材料として用いた。実施例1に従って調製した配合物Fのレンズを、1.2mlのPBS(コントロールレンズ)又は1.2mlの500ppm(PBS中)εPLLを含有する6mlのガラス製バイアルに移した。特に指定のない限り、ここでのPBSへの言及は、約0.21のイオン強度を有する29mMのPBS、pH7.5(0.78wt.%のNaCl、0.05wt.%のリン酸二水素ナトリウム、及び0.36wt.%のリン酸水素ナトリウム(sodium phosphate dibasic))を意味する。バイアルを密封して120℃で30分間オートクレーブ処理した。さらに、レンズを含まない、1.2mlの500ppm(PBS中)εPLLを含有するバイアル(コントロールバイアル)をもオートクレーブ処理した。試験レンズバイアルのオートクレーブ処理後溶液及びコントロールバイアル中に存在するεPLLの量は、室温、及びH20中0.2MのNaCl/0.1%のTFAを用いて均一濃度で1.0ml/分の流速にて、20μlのサンプル注入体積、Eprogen CATSEC300 5μ 250×4.6MMを用いてカチオンサイズ排除クロマトグラフィーで決定した。
レンズが取り込んだεPLLの量は、コントロールバイアル中に存在するεPLLの量から試験レンズバイアルのオートクレーブ処理後溶液中に存在するεPLLの量を減算することによって計算した。平均取り込みは約200μgのεPLL/レンズであった。
【0032】
実施例3:εPLLの取り込みに及ぼすコンタクトレンズのイオン含量の影響
この研究では、実施例1に従って調製した配合物A、及びC〜Eのそれぞれ3つのレンズを使用した。実施例3で述べるように1.2mlの500ppm(PBS中)εPLLにレンズを48時間浸した。レンズを吸着性ティッシュペーパーで軽くふき取ることによって各レンズから過剰の溶液を除去した。1.2mlの500ppm(PBS中)εPLLを含有する12ウェルプレートの個々のウェルに各レンズを浸した。プレートを25±2℃の温度で48時間100rpmで振盪させた。各レンズが取り込んだεPLLの量は、εPLLの初期濃度から最終濃度を減算し、1.2(PBSのml数)を掛けることによって計算した。配合物Aのレンズは約5μgのεPLLを取り込み、Cのレンズは約220μgのεPLLを取り込み、Dのレンズは約340μgのεPLLを取り込み、Eのレンズは約420μgのεPLLを取り込んだ。
【0033】
実施例4:インビトロ放出アッセイ−εPLL放出に及ぼすイオン含量の影響
この研究では、実施例1に従って調製した配合物B〜Eのレンズを使用した。吸着性ティッシュペーパーで軽くふき取ることによって各レンズから過剰の溶液を除去した。12ウェルプレートのウェル中1mlのISO 10344標準生理食塩水(0.83%の塩化ナトリウム、0.0467%のリン酸二水素ナトリウム及び0.4486%のリン酸水素ナトリウム)に各レンズを浸し、カバーした。プレートを37±2℃で100rpmにて振盪させた。2、4、6、8、12、及び24時間で、各ウェルから溶液を除去し、1mlの新鮮なISO 10344標準生理食塩水と交換した。HPLCを用いて各レンズから放出されたεPLLの量を決定した。表2は、各時点でレンズから放出されたεPLLの平均累積量(μg)並びにレンズが取り込んだεPLLの総量に対する放出されたεPLLの累積百分率を示す。
【0034】
表2
【0035】
1.7%のイオン成分((メタ)アクリル酸からもたらされる)を有する配合物Cのレンズだけが、アッセイの全持続時間にわたってεPLLの放出を持続した。対照的に、1.35%のイオン含量を有する配合物Bのレンズは最初の6時間でほぼ同量のεPLLを放出したが、6時間後には、たとえ放出したとしてもわずかであった。興味深いことに、2.3%のイオン成分を有し、配合物Cのレンズより約50%多くεPLLを取り込んだ配合物Dのレンズは、配合物Cのレンズより少ないεPLLを放出した。配合物Bのレンズと同様に、6時間後のεPLLの放出は、たとえあったとしても少なかった。さらに特筆すべきは、2.85%のイオン含量を有し、配合物Cのレンズが取り込んだ約2倍のεPLLを取り込んだ配合物Eのレンズは、2及び4時間の時点で最少量のεPLLを放出し、4時間後には、たとえあったとしても少ししかεPLLを放出しなかった。結果は、εPLLの徐放はレンズのイオン含量のバランスを取ることによって達成できることを示している。
24時間の時点を超えるεPLLの放出を試験するためにインビトロ放出アッセイを使用するため、24時間毎(すなわち48時間、72時間、96時間等)に生理食塩水を除去して交換し、上述したように、37±2℃で100rpmにてプレートを振盪させた。
【0036】
実施例5:インビトロ生理活性アッセイ--
細菌懸濁液の調製:下表3に示す各細菌種の単コロニーを回転式振盪機上で一晩37℃で50mlのトリプチケースソイブロス(trypticase soy broth)(TSB)中で成長させて培養物を調製した。1mlの各培養物を遠心分離し、細菌ペレットを表3に示す1.0mlの希釈剤に再懸濁させた。ここで、PBSTは19mMのPBS、pH7.3(0.83wt.%のNaCl、0.03wt.%のリン酸二水素ナトリウム、及び0.24%のリン酸水素ナトリウム)と0.05%のTweenである。各細菌種について、細菌懸濁液を希釈することによって約108CFU/mLの懸濁液を調製して表3に示す光学密度を得た。
【0037】
表3.
【0038】
各懸濁液をさらに上記希釈剤を用いて約104CFU/mL(低接種量)又は107CFU/mL(高接種量)に希釈して、レンズの生理活性を試験するための細菌接種材料を作製した。
レンズの生理活性の試験:各レンズを2.5mlの滅菌PBSで数秒間すすぎ、24ウェルプレートの1.0mlの細菌接種材料を含有する個々のウェルに移した。プレートを穏やかに振盪させながら37℃でインキュベートした。最初の接種材料を実験の持続時間インキュベートして各サンプル回収時点の濃度を確認した。試験時点で、各レンズをそのウェルから取り出し、12ウェルプレートの2.5mLの滅菌PBSTを含有する個々のウェルに移した。プレートを約30秒間穏やかに回転させた。この工程を各レンズについて1回繰り返した。このような2×洗浄工程をここでは細菌洗浄工程と呼ぶ。
細菌の回収:洗浄した各レンズを1mlのDey-Engley(DE)ニュートラライジングブロスを含有する微小遠心管に入れ、約2分間の超音波処理と約10分間のボルテックスを併用して接着細菌を除去した。回収した各細胞懸濁液についてDEニュートラライジングブロスを用いて段階希釈を行ない、適切な希釈物をTSA上に蒔いた。プレートを一晩37℃でインキュベートし、CFUをカウントした。
CFUカウントのレンズ毎に回収された生細菌への換算:各プレートについてCFUに希釈係数(DF)及びプレーティング希釈係数(PDF)を掛けた。次に所定サンプルについて回収された総CFUをlog10に換算した。抗菌性レンズのlog killを計算するため、抗菌性レンズのCFU/レンズのlogをコントロールレンズのCFU/レンズのlogから減算する。例えば、抗菌性レンズの平均log10値が1.05であり、活性な抗菌剤を欠くが、その他の点では同一のコントロールレンズの平均log10値が5.52であれば、log killは5.52-1.05=4.47である。
【0039】
実施例6:インビトロバイオフィルムアッセイ--εPLL含有イオン性レンズは持続的抗菌活性を示す
洗浄レンズの調製:実施例2で述べたように調製した配合物FのεPLL含有レンズをそれらのバイアルから取り出し、5mlのPBST(放出培地)を含有する新しいバイアルに入れた。バイアルを37℃の振盪機内に入れた。実施例2で述べたようにRP-HPLCを用いて、種々の時点での放出培地内のεPLLの量を決定した。各時点で、レンズを新鮮な放出培地、5ml(0、6、及び24時間)又は1ml(24時間後の全ての時点)中に移した。コントロールレンズ(すなわちεPLLなし)をも試験して、εPLL以外の放出された物質由来の干渉ピークの非存在を確認した。表4は、試験した各時点でレンズから放出されたεPLLの平均累積量(μg)並びにレンズが取り込んだεPLLの総量に対する放出されたεPLLの累積百分率を示す。
【0040】
表4:
【0041】
最初の24時間でεPLLの約50%が放出された。εPLLの放出は次第に衰え、48時間後に著しく減った。日7と日8の間では、たった約1μgのεPLLが放出され、レンズは約70μgのεPLLを保持した。
細菌の接着及び洗浄:0時間の時点及び168時間の時点のレンズを用いて、それらがバイオフイルム形成を補助するかどうか試験した。レンズを5秒間2.5mLの滅菌PBSですすいでから、24ウェルプレートの、実施例5で述べたように調製した約107CFU/mLの細菌接種材料1.0mLを含有する個々のウェルに移した。穏やかに回転撹拌しながら37℃でプレートを2時間インキュベートした。残り、すなわちレンズとインキュベートしない接種材料をも振盪機上で各実験の持続時間インキュベートして、t=2時間及びt=24時間での接種材料のcfu/mLを決定した。2時間のインキュベーション後に、実施例5に記載の細菌洗浄工程を用いて各レンズを洗浄してから、後述するようにバイオフィルム形成用の24ウェルプレートの挿入物上に置いた。段階希釈、TSA上へのプレーティング、37℃での一晩のインキュベーション及びコロニーカウントによって接種材料濃度(t=0時間及び2時間での)を確認した。
バイオフィルム形成/成長図1に示す特注マッシュルーム形ステンレススチール挿入物を24ウェルプレートの各ウェルに入れた。各挿入物のキャップ部は約14mmの直径と、コンタクトレンズ後面と一致させるための湾曲とを有する。各挿入物の高さは約11mmである。1mLの滅菌培地/希釈剤を各ウェルに加えた。各負荷前洗浄レンズ(上述したように)を挿入物の凸側を上にした上面(キャップ部)に置いた。挿入物の寸法と培地の体積は、置いたレンズの周辺部が培地/希釈剤と接触し、レンズの中心部が液体/空気界面となるようなものである。プレートをルーズに封止して蒸発を防止し、回転撹拌しながら37℃で24時間インキュベートした。インキュベーション後、実施例5に記載の細菌洗浄工程に各レンズを供した。洗浄レンズから細菌を回収し、実施例5で上述したようにlog killを計算した。各t-24時間接種材料濃度を上述したようにt=0及びt=2時間の時点について確認した。
0時間の洗浄及び168時間の洗浄時点のレンズの抗菌効果を表5に示す。
【0042】
表5.
【0043】
表5は、168時間の時点で試験したレンズが、試験した細菌種に対して生理活性を示すことを実証する。これらのレンズは、24時間かけてたった約1μgのεPLLを放出する。
【0044】
実施例7:εPLLとPQ-1は相乗的である
実施例1に従って調製した配合物Fのレンズを、1.2mlのPBSを含有し、500ppmのεPLL(試験レンズ)を含むか又はεPLLを含まない(コントロールレンズ)6mlのガラス製バイアルに移し、密封し、オートクレーブ処理した。レンズをそれらのバイアルから取り出し、24ウェルプレートの、PBS又はPBSプラス10μg/ml(試験及びコントロールの両レンズについて)又はコントロールレンズのみ、30μg/ml若しくは100μg/mlの濃度でPQ-1を含有する個々のウェルに入れた。プレートを室温で72時間インキュベートした。
εPLLを含まないPBS中で調製したレンズは、実施例5に記載の生理活性アッセイを利用して高接種量(107)を用いて試験した。下表6は、細菌との24時間のインキュベーション後に3つの異なる濃度のPQ-1により達成されたlog killを示す。
【0045】
表6
【0046】
30μg/mlのPQ-1を含有するPBS中でパッケージ化したレンズのPA及びSMに対する抗菌活性の欠如を実施例6に記載のインビトロバイオフィルムアッセイを用いて確証した。
他方で、10μg/mlのPQ-1とインキュベートしたεPLL含有レンズは、2時間以内でSAに対して明白な相乗的抗菌効果を有し、6時間及び24時間継続した。SMに対して6及び24時間で同様の抗菌活性の向上が見られた。PAに対しては、初期時点でさえ、εPLLだけが非常に有効なので、このアッセイはこの生物に対する活性の向上を実証しなかった。表7は、それぞれ個々のレンズ及び抗菌性化合物のみならず、εPLLとPQ-1の組み合わせについてもlog killを示す。併用効果は、各化合物別々のlog killの合計より大きいので、PQ-1とεPLLの抗菌作用は、少なくともSA及びSMに対して相乗的と考えられる。
【0047】
表7
【0048】
実施例8:イオン性シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズによるεPLL取り込みに及ぼすパッケージング溶液のイオン強度の影響
PBS又は脱イオン水中500ppmのεPLLを1.2ml含有する6mlのガラス製バイアルに、実施例1に従って調製した配合物Fのレンズを移した。次にバイアルを密封してオートクレーブ処理した。実施例2に記載の方法を用いて決定した場合、PBS中でパッケージ化したレンズは平均233μgのεPLLをパッケージング溶液から取り込んだ。これはパッケージング溶液中で利用可能な総εPLLの39%に相当する。意外にも対照的に、脱イオン水中でパッケージ化したレンズは、利用可能なεPLLの96%に相当する平均575μgのεPLLを取り込んだ。脱イオン水を下表8及び9に示すTRIS/ソルビトール緩衝液と置き換えて本研究を繰り返した。
【0049】
表8:19mMのTRIS緩衝液(pH 7.30)と2%のソルビトール
【0050】
表9:19mMのTRIS緩衝液(pH 7.30)と5%のソルビトール
【0051】
平均して、表8及び9のTRIS/ソルビトール緩衝液中でパッケージ化したレンズは、それぞれ408μg及び386μgのεPLLを取り込んだ。
【0052】
本明細書の開示は特定の説明的な実施例に言及しているが、これらの実施例は例として示したものであり、限定として理解すべきでない。前述の詳細な説明の意図は、典型例について論じているが、実施例の全ての変更形態、代替形態、及び等価形態は、さらなる開示によって定義されるように、本発明の精神及び範囲内に入り得ると解釈すべきである。
本明細書では多くの出版物及び特許を上記で引用した。引用した出版物及び特許はそれぞれ参照によってその全体がここに援用される。
【0053】
本発明はさらに以下のものを提供する。
1.パッケージング溶液に浸した抗菌性コンタクトレンズを含有する密封パッケージであって、前記コンタクトレンズがヒドロゲルと、抗菌的に有効な量のイプシロンポリリジン(εPLL)とを含んでなる、パッケージ。任意に、イプシロンポリリジはヒドロゲルに非共有結合している。
2.ヒドロゲルがシリコーンを含む、1のパッケージ。
3.ヒドロゲルが負に荷電した基を含む、1又は2のパッケージ。この負に荷電した基は有利にはεPLLにイオン結合する。
4.ヒドロゲルが、アニオン性モノマーを含むモノマー混合物の水和重合生成物を含む、1〜3のいずれか1つのパッケージ。
5.ヒドロゲルが約0.5%〜約2.5%のイオン含量を有し、イオン含量は、下記式I:
Σ(an×bn/cn)×89=イオン含量% (I)
(式中、anは、ヒドロゲルに組み込むモノマー混合物の全ての成分の質量に対するモノマー混合物中のアニオン性モノマーnの質量百分率であり、bnは、pH 7でモノマーn上の負に荷電した基の数(例えば、モノマー中のカルボキシラート、ホスファート、ホスホナート、ホスホン酸、スルホナート、スルファート及びスルファイト基)であり、cnは、イオン性モノマーnの分子量である)で決定した場合に各アニオン性モノマーnによってもたらされるイオン含量%の合計である、4のパッケージ。
6.ヒドロゲルが約1.5%〜約2.2%のイオン含量を有する、4のパッケージ。
7.ヒドロゲルが約1.6%〜約2.0%のイオン含量を有する、4のパッケージ。
8.ヒドロゲルがホスホリルコリン基を含む、1〜7のパッケージ。ホスホリルコリン基は、有利にはεPLLにイオン結合する。
9.パッケージング溶液が約0.15未満のイオン強度を有する、1〜8のパッケージ。
10.コンタクトレンズが少なくとも10μgのεPLLを含む、1〜9のパッケージ。
11.コンタクトレンズ請求項1が少なくとも100μgのεPLLを含む、1〜9のパッケージ。
12.コンタクトレンズを装用した後にその抗菌活性を補充又は増強する方法であって、装用したコンタクトレンズを、追加のεPLL及び/又は第2の抗菌剤を含む多目的コンタクトレンズケア溶液(MPS)に保存する工程を含み、この保存中に追加のεPLL及び/又は第2の抗菌剤がコンタクトレンズに組み込まれる、方法。コンタクトレンズは、例えば、上記1〜8、10又は11のいずれか1つで定義したとおりであってよい。
13.未装用抗菌性コンタクトレンズの製造方法であって、下記工程:モノマー混合物を重合させてレンズ形重合生成物を与える工程;任意に重合生成物を水和させてヒドロゲルを形成する工程;パッケージング溶液を含有するパッケージに重合生成物又はヒドロゲルを浸す工程;パッケージを密封する工程;及び任意に密封パッケージをオートクレーブで滅菌する工程を含んでなり、抗菌的に有効な量のεPLLがヒドロゲルに非共有結合する、方法。
14.重合生成物が約1〜約2%のイオン含量を有し、かつパッケージング溶液が約100ppm〜約1000ppmのεPLLを含む、13の方法。
15.パッケージ化抗菌性ヒドロゲルコンタクトレンズの製造方法であって、レンズ形重合生成物又はヒドロゲルコンタクトレンズを、εPLLを含むパッケージング溶液と接触させる工程を含んでなる方法。
16.パッケージング溶液が約50ppm〜約10,000ppmのεPLL、特に約100ppm〜約600ppmのεPLLを含む、15の方法。
17.パッケージ化抗菌性ヒドロゲルコンタクトレンズのヒドロゲルが請求項2〜8のいずれか1項の定義どおりである、15又は16の方法。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕パッケージング溶液に浸されパッケージに密封された未装用抗菌性コンタクトレンズであって、ヒドロゲルと、前記ヒドロゲルに非共有結合した抗菌的に有効な量のイプシロンポリリジン(εPLL)とを含む、前記コンタクトレンズ。
〔2〕前記ヒドロゲルがシリコーンを含む、前記〔1〕に記載のコンタクトレンズ。
〔3〕前記ヒドロゲルが、前記εPLLにイオン結合する負に荷電した基を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載のコンタクトレンズ。
〔4〕前記ヒドロゲルが、アニオン性モノマーを含むモノマー混合物の水和した重合生成物を含む、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔5〕前記ヒドロゲルが約0.5%〜約1.5%のイオン含量を有する、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔6〕前記ヒドロゲルが約1.5%〜約2.2%のイオン含量を有する、前記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔7〕前記ヒドロゲルが約1.6%〜約2.0%のイオン含量を有する、前記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔8〕前記ヒドロゲルが、εPLLにイオン結合するホスホリルコリン基を含む、前記〔1〕〜〔7〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔9〕前記パッケージング溶液が、前記ヒドロゲルとの接触前に約50ppm〜約10,000ppmのεPLLを含む、前記〔1〕〜〔8〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔10〕前記パッケージング溶液が、前記ヒドロゲルとの接触前に約100ppm〜約600ppmのεPLLを含む、前記〔9〕に記載のコンタクトレンズ。
〔11〕前記パッケージング溶液が約0.15未満のイオン強度を有する、前記〔1〕〜〔10〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔12〕104の接種材料及び24時間のインキュベーションを用いてインビトロ生理活性アッセイで試験した場合、緑膿菌の少なくとも4 logの殺菌をもたらす、前記〔1〕〜〔11〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔13〕霊菌及び/又は黄色ブドウ球菌の少なくとも2 logの殺菌をもたらす、前記〔1〕〜〔12〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔14〕24時間のインビトロεPLL放出後に緑膿菌の少なくとも2 logの殺菌をもたらす、前記〔1〕〜〔13〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔15〕48時間のインビトロεPLL放出後に緑膿菌の少なくとも2 logの殺菌をもたらす、前記〔1〕〜〔14〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔16〕少なくとも10μgのεPLLを含む、前記〔1〕〜〔15〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔17〕少なくとも100μgのεPLLを含む、前記〔16〕に記載のコンタクトレンズ。
〔18〕前記ヒドロゲルが、εPLLの放出を少なくとも2時間持続する、前記〔1〕〜〔17〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔19〕前記ヒドロゲルが、εPLLの放出を少なくとも12時間持続する、前記〔18〕に記載のコンタクトレンズ。
〔20〕患者が少なくとも5日間連続して装用するのに適した長期装用コンタクトレンズである、前記〔1〕〜〔19〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔21〕前記〔1〕〜〔20〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズを装用した後に、前記コンタクトレンズの抗菌活性を補充又は増強する方法であって、前記装用したコンタクトレンズを、追加のεPLL及び/又は第2の抗菌剤を含む多目的コンタクトレンズケア溶液(MPS)に保存する工程を含み、該保存中に追加のεPLL及び/又は第2の抗菌剤が前記コンタクトレンズに組み込まれる、前記方法。
〔22〕前記MPSがポリクオタニウム-1を含む、前記〔21〕に記載の方法。
〔23〕未装用抗菌性コンタクトレンズの製造方法であって、モノマー混合物を重合させてレンズ形状重合生成物を提供すること;任意に前記重合生成物を水和させてヒドロゲルを形成すること;パッケージング溶液を含有するパッケージに前記重合生成物又はヒドロゲルを浸すこと;前記パッケージを密封すること;及び任意に前記密封パッケージをオートクレーブで滅菌することを含み、抗菌的に有効な量のεPLLが前記ヒドロゲルに非共有結合する、前記方法。
〔24〕前記重合生成物が約1〜約2%のイオン含量を有し、前記パッケージング溶液が約100ppm〜約1000ppmのεPLLを含む、前記〔23〕に記載の方法。
〔25〕パッケージ化抗菌性ヒドロゲルコンタクトレンズの製造方法であって、εPLLを含むパッケージング溶液にレンズ形状重合生成物又はヒドロゲルコンタクトレンズを接触させることを含む方法。
〔26〕前記パッケージング溶液が約50ppm〜約10,000ppmのεPLL、特に約100ppm〜約600ppmのεPLLを含む、前記〔25〕に記載の方法。
〔27〕前記パッケージ化抗菌性ヒドロゲルコンタクトレンズのヒドロゲルが、前記〔2〕〜〔8〕のいずれか1項において定義されるとおりである、前記〔25〕又は〔26〕に記載の方法。
〔28〕ヒドロゲルと、前記ヒドロゲルに非共有結合したイプシロンポリリジン(εPLL)とを含む、細菌感染症の治療又は予防での使用のための組成物。
〔29〕さらに前記〔1〕〜〔8〕又は〔12〕〜〔19〕のいずれか1項記載の定義どおりの、前記〔28〕に記載の組成物。
〔30〕コンタクトレンズの形の、前記〔28〕又は〔29〕に記載の組成物。
〔31〕パッケージング溶液に浸されパッケージに密封された、前記〔28〕〜〔30〕のいずれか1項記載の組成物。
〔32〕イプシロンポリリジン(εPLL)が必要な患者の眼組織にεPLLを投与する方法であって、前記〔1〕〜〔20〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズを前記患者に投与することを含む方法。
本発明のまた更に別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1'〕パッケージング溶液に浸されパッケージに密封されている未装用抗菌性コンタクトレンズであって、ヒドロゲルと、前記ヒドロゲルに非共有結合した抗菌的に有効な量の少なくとも5μgのイプシロンポリリジン(εPLL)とを含み、当該レンズ及び前記パッケージング溶液はパッケージング中で滅菌状態である、前記コンタクトレンズ。
〔2'〕前記ヒドロゲルがシリコーンを含む、前記〔1'〕に記載のコンタクトレンズ。
〔3'〕前記ヒドロゲルが、前記εPLLにイオン結合する負に荷電した基を含む、前記〔1'〕又は〔2'〕に記載のコンタクトレンズ。
〔4'〕前記ヒドロゲルが、アニオン性モノマーを含むモノマー混合物の水和した重合生成物を含む、前記〔1'〕〜〔3'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔5'〕前記ヒドロゲルが約0.5%〜約1.5%のイオン含量を有する、前記〔1'〕〜〔4'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔6'〕前記ヒドロゲルが約1.5%〜約2.2%のイオン含量を有する、前記〔1'〕〜〔4'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔7'〕前記ヒドロゲルが約1.6%〜約2.0%のイオン含量を有する、前記〔1'〕〜〔4'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔8'〕前記ヒドロゲルが、前記εPLLにイオン結合するホスホリルコリン基を含む、前記〔1'〕〜〔7'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔9'〕前記パッケージング溶液が、前記ヒドロゲルとの接触前に約50ppm〜約10,000ppmのεPLLを含む、前記〔1'〕〜〔8'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔10'〕前記パッケージング溶液が、前記ヒドロゲルとの接触前に約100ppm〜約600ppmのεPLLを含む、前記〔9'〕に記載のコンタクトレンズ。
〔11'〕前記パッケージング溶液が約0.15未満のイオン強度を有する、前記〔1'〕〜〔10'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔12'〕104の接種材料及び24時間のインキュベーションを用いてインビトロ生理活性アッセイで試験した場合、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の少なくとも4 logの殺菌をもたらす、前記〔1'〕〜〔11'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔13'〕霊菌(Serratia marcescens)及び/又は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の少なくとも2 logの殺菌をもたらす、前記〔1'〕〜〔12'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔14'〕24時間のインビトロεPLL放出後に緑膿菌の少なくとも2 logの殺菌をもたらす、前記〔1'〕〜〔13'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔15'〕48時間のインビトロεPLL放出後に緑膿菌の少なくとも2 logの殺菌をもたらす、前記〔1'〕〜〔14'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔16'〕少なくとも10μgのεPLLを含む、前記〔1'〕〜〔15'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔17'〕少なくとも100μgのεPLLを含む、前記〔16'〕に記載のコンタクトレンズ。
〔18'〕前記ヒドロゲルが、εPLLの放出を少なくとも2時間持続する、前記〔1'〕〜〔17'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔19'〕前記ヒドロゲルが、εPLLの放出を少なくとも12時間持続する、前記〔18'〕に記載のコンタクトレンズ。
〔20'〕患者が少なくとも5日間連続して装用するのに適した長期装用コンタクトレンズである、前記〔1'〕〜〔19'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔21'〕前記〔1'〕〜〔20'〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ装用後のコンタクトレンズの抗菌活性を補充又は増強する方法であって、前記装用後に取り出されたコンタクトレンズを、追加のεPLL及び/又は第2の抗菌剤を含む多目的コンタクトレンズケア溶液(MPS)に保存する工程を含み、該保存中に追加のεPLL及び/又は第2の抗菌剤が前記コンタクトレンズに組み込まれる、前記方法。
〔22'〕前記MPSがポリクオタニウム-1を含む、前記〔21'〕に記載の方法。
〔23'〕未装用抗菌性コンタクトレンズの製造方法であって、モノマー混合物を重合させてレンズ形状重合生成物を提供すること;前記重合生成物を水和させてヒドロゲルを形成してもよく;パッケージング溶液を含有するパッケージに前記重合生成物又はヒドロゲルを浸すこと;前記パッケージを密封すること;及び前記密封パッケージを滅菌するか、又は滅菌条件下で前記ヒドロゲルと前記パッケージング溶液を製造して組み合わせることを含み、前記密封パッケージの滅菌はオートクレーブで行われてもよく、抗菌的に有効な量の少なくとも5μgのεPLLが前記ヒドロゲルに非共有結合する、前記方法。
〔24'〕前記重合生成物が約1〜約2%のイオン含量を有し、前記パッケージング溶液が約100ppm〜約1000ppmのεPLLを含む、前記〔23'〕に記載の方法。
〔25'〕パッケージ化抗菌性ヒドロゲルコンタクトレンズの製造方法であって、εPLLを含むパッケージング溶液にレンズ形状重合生成物又はヒドロゲルコンタクトレンズを接触させることを含む方法。
〔26'〕前記パッケージング溶液が約50ppm〜約10,000ppmのεPLLを含む、前記〔25'〕に記載の方法。
〔27'〕前記パッケージ化抗菌性ヒドロゲルコンタクトレンズのヒドロゲルが、前記〔2'〕〜〔8'〕のいずれか1項において定義されるとおりである、前記〔25'〕又は〔26'〕に記載の方法。
本発明のまた更に別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1''〕パッケージング溶液に浸されパッケージに密封されている未装用抗菌性コンタクトレンズであって、ヒドロゲルと、前記ヒドロゲルに非共有結合した少なくとも5μgのイプシロンポリリジン(εPLL)とを含み、当該レンズ及び前記パッケージング溶液はパッケージ中で滅菌状態である、前記コンタクトレンズ。
〔2''〕前記ヒドロゲルがシリコーンを含む、前記〔1''〕に記載のコンタクトレンズ。
〔3''〕前記ヒドロゲルが、前記εPLLにイオン結合する負に荷電した基を含む、前記〔1''〕又は〔2''〕に記載のコンタクトレンズ。
〔4''〕前記ヒドロゲルが、アニオン性モノマーを含むモノマー混合物の水和した重合生成物を含む、前記〔1''〕〜〔3''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔5''〕前記ヒドロゲルが0.5%〜1.5%のイオン含量を有する、前記〔1''〕〜〔4''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔6''〕前記ヒドロゲルが1.5%〜2.2%のイオン含量を有する、前記〔1''〕〜〔4''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔7''〕前記ヒドロゲルが1.6%〜2.0%のイオン含量を有する、前記〔1''〕〜〔4''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔8''〕前記ヒドロゲルが、前記εPLLにイオン結合するホスホリルコリン基を含む、前記〔1''〕〜〔7''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔9''〕前記パッケージング溶液が0.15未満のイオン強度を有する、前記〔1''〕〜〔8''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔10''〕104の接種材料及び24時間のインキュベーションを用いてインビトロ生理活性アッセイで試験した場合、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の少なくとも4 logの殺菌をもたらす、前記〔1''〕〜〔9''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔11''〕霊菌(Serratia marcescens)及び/又は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の少なくとも2 logの殺菌をもたらす、前記〔1''〕〜〔10''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔12''〕24時間のインビトロεPLL放出後に緑膿菌の少なくとも2 logの殺菌をもたらす、前記〔1''〕〜〔11''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔13''〕48時間のインビトロεPLL放出後に緑膿菌の少なくとも2 logの殺菌をもたらす、前記〔1''〕〜〔12''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔14''〕少なくとも10μgのεPLLを含む、前記〔1''〕〜〔13''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔15''〕少なくとも100μgのεPLLを含む、前記〔14''〕に記載のコンタクトレンズ。
〔16''〕前記ヒドロゲルが、εPLLの放出を少なくとも2時間持続する、前記〔1''〕〜〔15''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔17''〕前記ヒドロゲルが、εPLLの放出を少なくとも12時間持続する、前記〔16''〕に記載のコンタクトレンズ。
〔18''〕患者が少なくとも5日間連続して装用するのに適した長期装用コンタクトレンズである、前記〔1''〕〜〔17''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ。
〔19''〕前記〔1''〕〜〔18''〕のいずれか1項記載のコンタクトレンズ装用後のコンタクトレンズの抗菌活性を補充又は増強する方法であって、前記装用後に取り出されたコンタクトレンズを、追加のεPLL及び/又は第2の抗菌剤を含む多目的コンタクトレンズケア溶液(MPS)に保存する工程を含み、該保存中に追加のεPLL及び/又は第2の抗菌剤が前記コンタクトレンズに組み込まれる、前記方法。
〔20''〕前記MPSがポリクオタニウム-1を含む、前記〔19''〕に記載の方法。
〔21''〕未装用抗菌性コンタクトレンズの製造方法であって、モノマー混合物を重合させてレンズ形状重合生成物を提供すること;前記重合生成物を水和させてヒドロゲルを形成してもよく;パッケージング溶液を含有するパッケージに前記重合生成物又はヒドロゲルを浸すこと;前記パッケージを密封すること;及び前記密封パッケージを滅菌するか、又は滅菌条件下で前記ヒドロゲルと前記パッケージング溶液を製造して組み合わせることを含み、少なくとも5μgのεPLLが前記ヒドロゲルに非共有結合する、前記方法。
〔22''〕前記重合生成物が1〜2%のイオン含量を有し、前記パッケージング溶液が100ppm〜1000ppmのεPLLを含む、前記〔21''〕に記載の方法。
〔23''〕パッケージ化抗菌性ヒドロゲルコンタクトレンズの製造方法であって、εPLLを含むパッケージング溶液にレンズ形状重合生成物又はヒドロゲルコンタクトレンズを接触させることを含む方法。
〔24''〕前記パッケージング溶液が50ppm〜10,000ppmのεPLLを含む、前記〔23''〕に記載の方法。
〔25''〕前記パッケージ化抗菌性ヒドロゲルコンタクトレンズが、前記〔1''〕〜〔8''〕のいずれか1項において記載されるとおりである、前記〔23''〕又は〔24''〕に記載の方法。