特許第6066276号(P6066276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066276
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】液状化防止方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/10 20060101AFI20170116BHJP
   E02D 27/34 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   E02D3/10 102
   E02D27/34 Z
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-250431(P2012-250431)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-12980(P2014-12980A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-130322(P2012-130322)
(32)【優先日】2012年6月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】岡本 寿春
(72)【発明者】
【氏名】山田 宏
(72)【発明者】
【氏名】浜井 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐樹
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−002170(JP,A)
【文献】 特開2004−360243(JP,A)
【文献】 特開2004−204573(JP,A)
【文献】 特開2011−074282(JP,A)
【文献】 特開2002−226620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00〜 3/115
E02D 27/00〜 27/52
C08J 9/00〜 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状化防止の対象となる地盤に形成された処理領域に周囲の圧力増大に伴って収縮又は破砕可能な微小中空体が液体に添加混合されてなる処理液を注入する液状化防止方法において、
前記微小中空体を、周囲の圧力変動に伴って膨張収縮可能となるように、内部に空気その他の気体が封入され樹脂膜あるいは樹脂殻で球状に構成された膨張収縮性中空体としたことを特徴とする液状化防止方法。
【請求項2】
前記微小中空体の外径を50μm以下とした請求項1記載の液状化防止方法。
【請求項3】
前記処理領域を前記地盤内に配置された遮水壁で取り囲まれ又は挟み込まれた領域とした請求項1又は請求項2記載の液状化防止方法。
【請求項4】
前記処理領域内の地下水を揚水した後、該揚水工程で生じた脱水領域の土粒子間隙に空気が捕捉されるように該脱水領域に前記処理液を注入する請求項記載の液状化防止方法。
【請求項5】
前記揚水工程の後であってかつ前記注入工程の前に、前記脱水領域に通気処理を行い、又は前記脱水領域内の減圧及びそれに続く送気処理を行う請求項記載の液状化防止方法。
【請求項6】
周囲の圧力増大に伴って収縮又は破砕可能な微小中空体が液体に添加混合されてなる処理液を供給可能な処理液供給手段と、該処理液供給手段から供給された前記処理液を液状化防止の対象となる地盤に形成された処理領域に注入する注入手段とを備えた液状化防止システムにおいて、
前記微小中空体を、周囲の圧力変動に伴って膨張収縮可能となるように、内部に空気その他の気体が封入され樹脂膜あるいは樹脂殻で球状に構成された膨張収縮性中空体としたことを特徴とする液状化防止システム。
【請求項7】
前記処理領域を前記地盤内に配置された遮水壁で取り囲まれ又は挟み込まれた領域とした請求項記載の液状化防止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛土等の既設構造物の直下に拡がる液状化地盤をはじめ、さまざまな液状化地盤に広く適用される液状化防止方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の液状化は、地震による振動が地盤に作用したとき、該地盤のせん断変形によって砂粒子間の間隙水圧が上昇し、その間隙水圧上昇に伴って有効応力がゼロになる結果、砂粒子間での応力伝達ができなくなって流動性が高くなる現象であり、緩い飽和砂質地盤で起こりやすい(以下、液状化が発生しやすい地盤を液状化地盤と呼ぶ)。
【0003】
液状化が進行すると、地盤が鉛直支持力を失って建物の倒壊を招くほか、地盤の側方流動によって杭が損壊するなどの被害が生じ、我が国では、古くは新潟地震から液状化の被害が明確に認識されるようになった。
【0004】
このような液状化被害に対し、従来からさまざまな対策が研究開発されており、例えば、液状化地盤を締め固める、液状化地盤に薬剤を注入して地盤強度を向上させる、地下水位を下げることで液状化地盤の飽和度を小さくするといった対策工が知られているほか、マイクロバブルを含有させた水(以下、単にマイクロバブル含有水と呼ぶ)を液状化地盤に注入することで該液状化地盤の土粒子間隙に微細気泡を送り込む工法も開発されている。
【0005】
これらのうち、マイクロバブル含有水を用いた対策工によれば、マイクロバブルがその体積を縮小させることによって地震時の間隙水圧上昇を吸収するため、水位低下による対策工のように地盤沈下を生じさせることなく、さらには薬剤注入による対策工よりも合理的なコストで地盤の液状化を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−211537号公報
【特許文献2】特開2008−002170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、マイクロバブル含有水を用いた対策工では、注入したマイクロバブルが消滅しても、マイクロバブルに含まれていた空気が通常の気泡として土粒子間隙に残留するため、間隙水圧抑制作用はある程度維持される。
【0008】
しかしながら、気泡中の空気は、時間の経過とともに大気に放散するため、それに伴って地盤中の飽和度が徐々に上昇し、やがては地震時の間隙水圧上昇を吸収できなくなるという問題があった。
【0009】
かかる問題は、マイクロバブルを液状化地盤に適宜補充することで解決できるが、経済性等の観点では、保守点検等を行わずとも、液状化防止の作用が長期間維持できることが望ましい。
【0010】
特に、線路が敷設された盛土など長大な既設構造物の直下に拡がる液状化地盤を改良しようとする場合においては、対策範囲が膨大となるため、その後の保守費用が不要な対策工が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、飽和度を下げて液状化を防止する場合、該飽和度を長期間にわたって低く維持することが可能な液状化防止方法及びシステムを提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る液状化防止方法は請求項1に記載したように、液状化防止の対象となる地盤に形成された処理領域に周囲の圧力増大に伴って収縮又は破砕可能な微小中空体が液体に添加混合されてなる処理液を注入する液状化防止方法において、
前記微小中空体を、周囲の圧力変動に伴って膨張収縮可能となるように、内部に空気その他の気体が封入され樹脂膜あるいは樹脂殻で球状に構成された膨張収縮性中空体としたものである。
【0015】
また、本発明に係る液状化防止方法は、前記微小中空体の外径を50μm以下としたものである。
【0016】
また、本発明に係る液状化防止方法は、前記処理領域を前記地盤内に配置された遮水壁で取り囲まれ又は挟み込まれた領域としたものである。
【0017】
また、本発明に係る液状化防止方法は、前記処理領域内の地下水を揚水した後、該揚水工程で生じた脱水領域の土粒子間隙に空気が捕捉されるように該脱水領域に前記処理液を注入するものである。
【0018】
また、本発明に係る液状化防止方法は、前記揚水工程の後であってかつ前記注入工程の前に、前記脱水領域に通気処理を行い、又は前記脱水領域内の減圧及びそれに続く送気処理を行うものである。
【0019】
また、本発明に係る液状化防止システムは請求項に記載したように、周囲の圧力増大に伴って収縮又は破砕可能な微小中空体が液体に添加混合されてなる処理液を供給可能な処理液供給手段と、該処理液供給手段から供給された前記処理液を液状化防止の対象となる地盤に形成された処理領域に注入する注入手段とを備えた液状化防止システムにおいて、
前記微小中空体を、周囲の圧力変動に伴って膨張収縮可能となるように、内部に空気その他の気体が封入され樹脂膜あるいは樹脂殻で球状に構成された膨張収縮性中空体としたものである。
【0020】
また、本発明に係る液状化防止システムは、前記処理領域を前記地盤内に配置された遮水壁で取り囲まれ又は挟み込まれた領域としたものである。
【0021】
本発明に係る液状化防止方法及びシステムを用いて液状化地盤に対策工を施すには、微小中空体が液体に添加混合されてなる処理液を、処理液供給手段から注入手段を介して液状化防止の対象となる地盤に形成された処理領域に注入する。
【0022】
処理液は、処理液供給手段で作製貯留するようにしてもよいし、別途調達したものを処理液供給手段に貯留するようにしてもよい。微小中空体は、周囲の圧力増大に伴って収縮又は破砕可能なものとする。
【0023】
このようにすると、注入された処理液が処理領域内に浸透拡散して該処理領域内の既存の地下水が処理液で置換されるとともに、処理液に添加混合されていた微小中空体が土粒子間隙に分散するので、土粒子間隙に占める水の体積は、微小中空体が占める体積分だけ減少し、その結果、処理領域の飽和度が低下する。
【0024】
そのため、上述した対策工を施した後、地震による地盤せん断変形を受けて間隙水圧が上昇しようとすると、微小中空体は、周辺圧力である間隙水圧の増大によって収縮又は破砕し、間隙水圧の上昇を吸収する。
【0025】
ここで、本発明に係る液状化防止方法及びシステムにおいては、マイクロバブルあるいは気泡によって飽和度を低下させる従来の対策工とは異なり、微小中空体の収縮又は破砕による間隙水圧抑制作用が時間が経過しても維持されるため、地盤の液状化を長期間防止することが可能となる。
【0026】
本発明における飽和度とは、土粒子間隙中を水が占める割合、すなわち水分飽和度を意味するものとする。
【0027】
微小中空体に関し、地震による地盤のせん断変形を受けて土粒子構造がいったん密な状況に移行した地盤領域では、その後、液状化が生じにくくなるので、微小中空体を、周囲の圧力増大に伴って破砕可能に構成することも考えられるが、本発明では、周囲の圧力変動に伴って膨張収縮可能な微小中空体とする。このようにしたならば、土粒子構造の状況にかかわらず、微小中空体の収縮による間隙水圧抑制作用が維持されるため、長期間にわたり液状化を防止することが可能となる。
【0028】
微小中空体、内部に空気その他の気体が封入され樹脂膜あるいは樹脂殻で球状に構成された膨張収縮性中空体とする
【0029】
微小中空体の外径は、例えば100μm以下、さらに50μmとするのが望ましい。これは、地下水位の深さや締固めの状況にもよるが、液状化は、「平均粒径(D50)が0.02〜2mmの均等径の砂、つまり均等係数の小さい細砂や中砂」(「土質力学」、岡二三生著、朝倉書店発行)で起こりやすいため、例えば粒径1mmの砂地盤で微小中空体が土粒子間隙を通過して拡散するためには、その10分の1、できれば20分の1程度以下であることが必要であると思われるからである。
【0030】
注入手段は、地盤内の処理領域に処理液を注入することができる限り、その構成は任意であって、地盤内にほぼ鉛直に配置された注入井戸を介して注入する、地盤内にほぼ水平に配置された水平孔を介して注入する、地盤における地表面の相異なる2つの位置に各端部が開口するように該地盤内に配置された湾曲孔を介して注入するといった構成が可能である。
【0031】
また、処理領域内の既存の地下水を処理液で置換するにあたり、処理液の自重による押し出し作用で既存の地下水を周辺地盤に排出するようにしてもかまわないが、処理領域の地下水を揚水する揚水手段を備えるとともに、該揚水手段で揚水された地下水に微小中空体を添加混合することで処理液が作製されるように処理液供給手段を構成すれば、既存地下水の有効利用が可能になるとともに、処理液による既存地下水の置換を効率よく行うことも可能となる。
【0032】
処理液が注入される処理領域は、液状化防止が必要になる地盤内の任意の領域に設定可能であって、地下水が滞留している領域に液状化防止が必要な場合には、その滞留領域を処理領域として処理液を注入すればよいが、地下水に流れがありその流れに乗って処理液が周囲に拡散する懸念がある場合には、地盤内に遮水壁を配置し、該遮水壁で取り囲まれ又は挟み込まれた領域を処理領域とするのが望ましい。
【0033】
遮水壁は、処理領域とその周辺地盤との間における地下水の水平移動に起因して、処理領域内の地下水が大量かつ短期間に周辺地盤に流出しあるいは周辺地盤から流入することがない限り、下端が不透水層に貫入されている必要はなく、季節要因等の比較的緩慢な地下水位の変動による下端での地下水の廻り込みは許容される。
【0034】
この場合、周辺地盤における地下水位の変動で処理領域内の地下水も上下し、処理領域内と周辺地盤との間で地下水交換が生じて処理領域内の微小中空体の濃度が低下し、飽和度が上昇することが想定されるが、かかる場合には、本発明に係る液状化防止システムを用いて、処理液を処理領域に随時供給するようにすればよい。遮水壁を設けない場合において地下水が移動したときもまた同様である。
【0035】
処理領域が、地盤内に配置された遮水壁で取り囲まれ又は挟み込まれた領域である場合、処理領域への処理液の注入に先立ち、該処理領域内の地下水を揚水し、しかる後、揚水工程で生じた脱水領域の土粒子間隙に空気が捕捉されるように該脱水領域に処理液を注入するようにしてもよい。
【0036】
かかる構成によれば、既存地下水が微小中空体を含む処理液に置換されることによる飽和度低下に加えて、土粒子間隙での捕捉空気による飽和度低下が加わることとなり、かくして微小中空体や通常気泡あるいは空隙による間隙水圧抑制作用がさらに高まり、既設構造物下方の液状化をいっそう確実に防止することが可能となる。
【0037】
上記揚水工程において地下水位を低下させるための方法は任意であるが、重力排水と減圧による強制排水とを併用したいわゆるバキュームディープウェル工法を用いるようにすれば、地下水位を短時間に低下させることができるため、本発明を用いた液状化防止工を短工期で実現することが可能となる。
【0038】
処理領域内の地下水を揚水した後、該揚水工程で生じた脱水領域にそのまま微小中空体を含む処理液を注入するようにしてもかまわないが、揚水工程の後であってかつ注入工程の前に、脱水領域に通気処理を行い、又は脱水領域内の減圧及びそれに続く送気処理を行うようにしたならば、土粒子表面や土粒子間隙に付着残存していた水分も除去されるため、より多くの空気が気泡として土粒子間隙に捕捉されることとなり、かくして飽和度をさらに低く抑えることが可能となる。
【0039】
通気処理は、脱水領域への送気若しくは該領域からの吸引又はそれらの併用で実施が可能であり、例えば温風を用いた処理が有効である。
【0040】
一方、脱水領域内の減圧及びそれに続く送気処理においては、減圧による水の沸点降下によってほぼ完全に水分が蒸発するとともにその状態での送気処理によって土粒子間隙の隅々にまで空気が入り込むため、処理液の注入を行った後の土粒子間隙に空気がより残留しやすくなる。
【0041】
脱水領域内の減圧は、地盤面に気密シートを敷設するなどして脱水領域を気密にした上、該脱水領域内の空間に存在する空気を真空ポンプで引き抜くことで実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】第1実施形態に係る液状化防止システムの概略図。
図2】第1実施形態に係る液状化防止システムの作用を示した図であり、(a)は、土粒子22の間隙23に地下水が満たされている状態を示した断面図、(b)は、地下水が処理液で置換されるとともに、該処理液中の微小中空体21が間隙23に分散した様子を示した断面図。
図3】変形例に係る液状化防止システムの概略図。
図4】別の変形例に係る液状化防止システムの概略図。
図5】さらに別の変形例に係る液状化防止システムの概略図であり、(a)は鉛直断面図、(b)はA−A線方向から見た矢視図。
図6】第2実施形態に係る液状化防止方法を実施する手順を示した説明図。
図7】引き続き第2実施形態に係る液状化防止方法を実施する手順を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明に係る液状化防止方法及びシステムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0044】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る液状化防止システムを示した図である。同図に示すように、本実施形態に係る液状化防止システム1は、地盤2の地表面に構築された既設構造物としての盛土9の下方に拡がる地盤範囲を液状化防止の対象としたものであって、該地盤範囲が側方で挟み込まれるように地盤2内に配置された遮水壁3,3と、処理液を作製するとともに作製された処理液を貯留する処理液供給手段としての混合槽4と、該混合槽4から供給される処理液を遮水壁3,3に挟み込まれた地盤2内の処理領域5に注入する注入手段としての注入井戸6と、処理領域5の地下水を真空ポンプ8で揚水する揚水井戸7とを備え、該揚水井戸は、真空ポンプ8とともに揚水手段を構成する。
【0045】
混合槽4は、揚水井戸7を介して処理領域5から揚水された既存の地下水に微小中空体が添加された状態で該地下水を攪拌混合して処理液を作製貯留するとともに該処理液を注入井戸6に供給できるようになっている。
【0046】
微小中空体は、内部に空気その他の気体が封入され樹脂膜あるいは樹脂殻で球状に構成された膨張収縮性中空体で構成するとともに、その外径を50μm以下としてある。
【0047】
微小中空体は例えば、日本フィライト株式会社から"EXPANCEL"(登録商標)の商品名で販売されているプラスチック球体で構成すればよい。
【0048】
本実施形態に係る液状化防止システム1を用いて液状化防止を行うには、まず、液状化防止の対象となる地盤2内に遮水壁3,3を配置する。
【0049】
遮水壁3は、液状化を防止したい深さまで下方に延びていれば足り、下端を不透水層10に貫入させる必要はない。なお、遮水壁3は、例えばシートパイルで構成することができる。
【0050】
一方、遮水壁3,3に挟み込まれた処理領域5に注入井戸6及び揚水井戸7を建て込む。注入井戸6及び揚水井戸7は、それらが対向するようにほぼ鉛直に配置する。
【0051】
次に、揚水井戸7を介して処理領域5から揚水された既存の地下水を混合槽4に注水するとともに該地下水に微小中空体を添加し、次いで、これらを攪拌混合することで混合槽4内に処理液を作製貯留する。
【0052】
次に、混合槽4に貯留された処理液を注入井戸6に供給するとともに、該注入井戸を介して処理液を処理領域5に注入する。
【0053】
処理液は上述したように、揚水井戸7を介して揚水された処理領域5の地下水に微小中空体を添加して混合攪拌し、これを注入井戸6を介して処理領域5に注入するが、かかる作業を行うにあたっては、遮水壁3,3の下端よりも浅い深さに存在していた既存の地下水がすべて置換されるまで行う。これら揚水、混合攪拌及び注入という一連の作業は、周辺地盤との間で地下水交換が起こらないよう、処理領域5内の水位を周辺地盤の地下水位に一致させた状態で一定のまま行うのが望ましい。
【0054】
このように処理液を処理領域5に注入すると、注入された処理液は、処理領域5内の既存の地下水と置換される形で処理領域5内に浸透拡散するとともに、それに伴い、図2に示すように処理液に添加混合されていた微小中空体21は、土粒子22の間隙23に分散するので、土粒子間隙23に占める水の体積は、微小中空体21が占める体積分だけ減少し、その結果、処理領域5の飽和度が低下する。
【0055】
そのため、上述した対策工を施した後、地震による地盤せん断変形を受けて間隙水圧が上昇しようとすると、微小中空体は、周辺圧力である間隙水圧の増大によって収縮し、該間隙水圧の上昇を吸収する。
【0056】
なお、周辺地盤における地下水位の変動で該周辺地盤との間で地下水交換が生じ、それによって微小中空体の存在量が低下した場合には、液状化防止システム1を用いて処理液を処理領域5に随時供給することにより、該処理領域内の飽和度を下げるようにすればよい。
【0057】
以上説明したように、本実施形態に係る液状化防止方法及びシステム1によれば、マイクロバブルあるいは気泡によって飽和度を低下させる従来の対策工とは異なり、微小中空体の収縮による間隙水圧抑制作用が時間が経過しても維持されるため、地盤2の液状化を長期間防止することが可能となる。
【0058】
本実施形態では、既設構造物である盛土9が地表面に存在する場合を想定したが、本発明に係る液状化防止方法及びシステムは、既設構造物の存在を前提としたものではなく、既設構造物が存在しない場合にも適用が可能である。
【0059】
また、本実施形態では、処理領域5内の地下水を利用して処理液を作製すべく、該地下水を真空ポンプ8及び揚水井戸7を介して揚水するようにしたが、処理液の作製に用いる水については、処理領域5の地下水に代えて、別途調達するようにしてもかまわない。この場合、真空ポンプ8及び揚水井戸7を省略することが可能である。なお、かかる変形例においては、注入された処理液に押し下げられる形で、既存の地下水が遮水壁3の下方から周辺に排出されることとなる。
【0060】
また、本実施形態では、処理領域5への処理液の注入を注入井戸6を介して行うように構成したが、これに代えて、図3に示すように、地盤2の処理領域5に立坑31を掘削するとともに該立坑内から水平孔32を穿孔形成した上、該水平孔に有孔管33を配置し、該有孔管を介して混合槽4の処理液を処理領域5に注入するように構成することができる。
【0061】
なお、かかる変形例は、処理液作製の際に必要となる水を処理領域5の地下水に代えて、別途調達した清水を用いる変形例でもあり、上述したように、注入された処理液に押し下げられる形で、既存の地下水が遮水壁3の下方から周辺に排出されるため、真空ポンプ8及び揚水井戸7は不要である。
【0062】
また、図4に示すように、地盤2における地表面の相異なる2つの位置に各端部が開口するように、同図では盛土9の一方の側と他方の側に各端部が開口するように、処理領域5に湾曲孔41を穿孔形成した上、該湾曲孔に配置された有孔管42の一端、図4では右側端部を介して処理領域5の既存地下水を揚水しつつ、該揚水された地下水に微小中空体が添加混合されてなる処理液を混合槽4で作製した後、該混合槽から有孔管42の他端、図4では左側端部を介して処理領域5に注入するように構成することができる。
【0063】
ここで、湾曲孔は、曲線ボーリング、曲がりボーリング、曲がり削孔といった薬液注入の分野で公知の曲線削孔技術を用いて適宜形成することが可能であり、例えば可撓性を有するロッドを地上に設置した削孔機で把持し、該ロッドを削孔機で斜め下方に送り出しながら、ロッドの先端に取り付けられた掘削ビットで地盤2を掘削して湾曲孔41を形成するとともに、ロッド先端近傍に設けられたジャイロ等の姿勢検出センサあるいは位置検出センサで湾曲孔41の形状を管理するようにすればよい。
【0064】
また、本実施形態では、地盤2内に遮水壁3,3を配置して該遮水壁に挟み込まれた地盤2内の領域を処理領域5としたが、本発明においては遮水壁の配置は任意であり、盛土9の下方に拡がる液状化防止の対象範囲において地下水が滞留している場合には、実施形態の構成に代えて、遮水壁3,3を省略した構成としてもかまわない。
【0065】
かかる変形例においては、遮水壁がなくても、処理液が既存の地下水に置換されるよう、注入井戸6及び揚水井戸7を対向配置する本実施形態の構成に代えて、例えば図5に示したように、処理領域5のほぼ中央に注入井戸6を設置するとともに該処理領域の周縁に沿ってかつ注入井戸6を取り囲むように複数の揚水井戸7を設置する構成を採用することができる。
【0066】
かかる構成によれば、処理液の周囲への拡散が防止されるため、注入された処理液を既存の地下水に適切に置換することが可能となる。
【0067】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と実質同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0068】
図6及び図7は、本実施形態に係る液状化防止方法を実施する様子を示した説明図である。同図でわかるように、本実施形態に係る液状化防止方法を実施するには予め、図6(a)に示すように、地盤2のうち、盛土9の下方に拡がる液状化防止範囲が側方で挟み込まれるように該地盤内に遮水壁3,3を配置するとともに、該遮水壁に挟み込まれた処理領域5に注入井戸6及び揚水井戸7を建て込む。注入井戸6及び揚水井戸7は、それらが対向するようにほぼ鉛直に配置しておく。
【0069】
本実施形態に係る液状化防止方法を実施するには、まず、揚水井戸7介して処理領域5内の地下水を揚水する。
【0070】
次に、処理領域5から揚水された既存の地下水を混合槽4に注水するとともに該地下水に微小中空体を添加し、次いで、これらを攪拌混合することで混合槽4内に処理液を作製貯留する。
【0071】
微小中空体は第1実施形態と同様、内部に空気その他の気体が封入され樹脂膜あるいは樹脂殻で球状に構成された膨張収縮性中空体で構成するとともに、その外径を50μm以下としたものを用いればよい。
【0072】
揚水井戸7を介した地下水の揚水は、例えば重力排水と強制排水とを併用したいわゆるバキュームディープウェル工法を用いて行うことが可能であり、かかる工法によれば、地下水位を短時間に低下させることが可能である。
【0073】
上述した揚水によって処理領域5内の地下水位が液状化防止範囲の下方まで低下したならば、揚水前の地下水位から揚水後の地下水位を範囲とする脱水領域12に対し、該揚水後の水位を維持しながら通気処理を行う。
【0074】
通気処理では図6(b)に示すように、注入井戸6に接続されたエアコンプレッサー(図示せず)を用いて該注入井戸から脱水領域12内に送気するとともに、揚水井戸7に接続された真空ポンプ(図示せず)を用いて該揚水井戸から脱水領域12内の空気を吸引する。
【0075】
このようにすると、脱水領域12内の土粒子表面や土粒子間隙に付着残存する水分が揮発するとともに、該水分が土粒子間隙を流れる空気の流れに連行される形で除去される。なお、土粒子表面や土粒子間隙に付着残存する水分の揮発を促進させるべく、温風を用いて通気処理を行うようにしてもよい。
【0076】
次に、図7に示すように、混合槽4に貯留された処理液を注入井戸6を介して処理領域5に注入する。
【0077】
処理液を処理領域5に注入すると、脱水領域12は、微小中空体が含まれた処理液が満たされてなる復水領域となるが、かかる復水領域では、処理液が処理領域5内に浸透拡散するとともに、それに伴い、図2で説明したように処理液に添加混合されていた微小中空体21が土粒子22の間隙23に分散するので、土粒子間隙23に占める水の体積は、微小中空体21が占める体積分だけ減少し、その結果、処理領域5の飽和度が低下する。
【0078】
加えて、処理液が注入される前に土粒子間隙を占めていた空気の一部は、処理液が注入される際に土粒子間隙に捕捉されて気泡や空隙としてそのまま残留し、特に本実施形態では、上述した通気処理によって脱水領域12の土粒子間隙から水分が除去され、該土粒子間隙のほとんどが空気で占められているので、処理液注水時には、十分な量の空気が土粒子間隙に捕捉されて気泡や空隙として残留し、処理領域5の飽和度はさらに低下する。
【0079】
そのため、上述した対策工を施した後、地震による地盤せん断変形を受けて間隙水圧が上昇しようとすると、微小中空体は、周辺圧力である間隙水圧の増大によって収縮し、該間隙水圧の上昇を吸収する。
【0080】
なお、周辺地盤における地下水位の変動で該周辺地盤との間で地下水交換が生じ、それによって微小中空体の存在量が低下した場合には、例えば液状化防止システム1を用いて処理液を処理領域5に随時供給することにより、該処理領域内の飽和度を下げるようにすればよい。
【0081】
以上説明したように、本実施形態に係る液状化防止方法によれば、マイクロバブルあるいは気泡によって飽和度を低下させる従来の対策工とは異なり、微小中空体の収縮による間隙水圧抑制作用が時間が経過しても維持されるため、地盤2の液状化を長期間防止することが可能となる。
【0082】
また、本実施形態に係る液状化防止方法によれば、微小中空体が含まれた処理液を注入する前に処理領域5内の地下水をいったん揚水し、該揚水工程で生じた脱水領域12の土粒子間隙に空気が捕捉されるように該脱水領域に処理液をあらためて注水するようにしたので、既存地下水が処理液に置換されることによる飽和度低下に加えて、土粒子間隙に空気が捕捉されることによる飽和度低下が加わることとなり、かくして微小中空体や気泡あるいは空隙による間隙水圧抑制作用がさらに高まり、盛土9下方の液状化をいっそう確実に防止することが可能となる。
【0083】
また、本実施形態に係る液状化防止方法によれば、揚水工程の後であってかつ注入工程の前に、脱水領域12に通気処理を行うようにしたので、土粒子表面や土粒子間隙に付着残存していた水分が除去され、より多くの空気が気泡あるいは空隙として土粒子間隙に捕捉されることとなり、かくして飽和度をさらに低く抑えることが可能となる。
【0084】
本実施形態では、既設構造物である盛土9が地表面に存在する場合を想定したが、本発明に係る液状化防止方法は、既設構造物の存在を前提としたものではなく、既設構造物が存在しない場合にも適用が可能である。
【0085】
また、本実施形態では、処理領域5から揚水された地下水を利用して処理液を作製するようにしたが、これに代えて、処理液作製用の水を別途調達するようにしてもかまわない。
【0086】
また、本実施形態では、注入井戸6と揚水井戸7を用いて、通気処理のための送気と吸引をそれぞれ行うようにしたが、これに代えて、送気用の井戸あるいは吸引用の井戸を専用に設けるようにしてもかまわない。
【0087】
また、本実施形態では、処理液を注入するための注入井戸を鉛直配置された井戸としたが、これに代えて、第1実施形態の図3で説明した有孔管33や図4で説明した有孔管42を介して処理液を注入する構成が可能である。
【0088】
また、本実施形態では、微小中空体が含まれた処理液を脱水領域12に注入する際、土粒子間隙に空気が捕捉されやすくなるよう、予め通気処理を行うようにしたが、揚水だけで十分に水分除去ができるのであれば、これを省略してもかまわないし、逆に、単なる通気処理では十分に水分除去ができないのであれば、通気処理に代えて、脱水領域12内の減圧及びそれに続く送気処理を行うようにしてもよい。
【0089】
このようにすると、減圧による水の沸点降下によってほぼ完全に水分が蒸発するとともに、その状態で送気処理を行うことによって土粒子間隙の隅々にまで空気が入り込むため、微小中空体が含まれた処理液の注入を行った後の土粒子間隙に空気がより捕捉されやすくなる。
【0090】
脱水領域12内の減圧は、盛土9の表面やその両側に拡がる地盤2の表面に気密シートを敷設するなどして脱水領域12を気密にした上、該脱水領域内の空間に存在する空気を真空ポンプで引き抜くようにすればよい。
【符号の説明】
【0091】
1 液状化防止システム
2 地盤
3 遮水壁
4 混合槽(処理液供給手段)
5 処理領域
6 注入井戸(注入手段)
7 揚水井戸
12 脱水領域
21 微小中空体
32 水平孔(注入手段)
33,42 有孔管(注入手段)
41 湾曲孔(注入手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7