【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、飽和度を下げて液状化を防止する場合、該飽和度を長期間にわたって低く維持することが可能な液状化防止方法及びシステムを提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る液状化防止方法は請求項1に記載したように、液状化防止の対象となる地盤に形成された処理領域に周囲の圧力増大に伴って収縮又は破砕可能な微小中空体が液体に添加混合されてなる処理液を注入する
液状化防止方法において、
前記微小中空体を、周囲の圧力変動に伴って膨張収縮可能となるように、内部に空気その他の気体が封入され樹脂膜あるいは樹脂殻で球状に構成された膨張収縮性中空体としたものである。
【0015】
また、本発明に係る液状化防止方法は、前記微小中空体の外径を50μm以下としたものである。
【0016】
また、本発明に係る液状化防止方法は、前記処理領域を前記地盤内に配置された遮水壁で取り囲まれ又は挟み込まれた領域としたものである。
【0017】
また、本発明に係る液状化防止方法は、前記処理領域内の地下水を揚水した後、該揚水工程で生じた脱水領域の土粒子間隙に空気が捕捉されるように該脱水領域に前記処理液を注入するものである。
【0018】
また、本発明に係る液状化防止方法は、前記揚水工程の後であってかつ前記注入工程の前に、前記脱水領域に通気処理を行い、又は前記脱水領域内の減圧及びそれに続く送気処理を行うものである。
【0019】
また、本発明に係る液状化防止システムは請求項
6に記載したように、周囲の圧力増大に伴って収縮又は破砕可能な微小中空体が液体に添加混合されてなる処理液を供給可能な処理液供給手段と、該処理液供給手段から供給された前記処理液を液状化防止の対象となる地盤に形成された処理領域に注入する注入手段とを備えた
液状化防止システムにおいて、
前記微小中空体を、周囲の圧力変動に伴って膨張収縮可能となるように、内部に空気その他の気体が封入され樹脂膜あるいは樹脂殻で球状に構成された膨張収縮性中空体としたものである。
【0020】
また、本発明に係る液状化防止システムは、前記処理領域を前記地盤内に配置された遮水壁で取り囲まれ又は挟み込まれた領域としたものである。
【0021】
本発明に係る液状化防止方法及びシステムを用いて液状化地盤に対策工を施すには、微小中空体が液体に添加混合されてなる処理液を、処理液供給手段から注入手段を介して液状化防止の対象となる地盤に形成された処理領域に注入する。
【0022】
処理液は、処理液供給手段で作製貯留するようにしてもよいし、別途調達したものを処理液供給手段に貯留するようにしてもよい。微小中空体は、周囲の圧力増大に伴って収縮又は破砕可能なものとする。
【0023】
このようにすると、注入された処理液が処理領域内に浸透拡散して該処理領域内の既存の地下水が処理液で置換されるとともに、処理液に添加混合されていた微小中空体が土粒子間隙に分散するので、土粒子間隙に占める水の体積は、微小中空体が占める体積分だけ減少し、その結果、処理領域の飽和度が低下する。
【0024】
そのため、上述した対策工を施した後、地震による地盤せん断変形を受けて間隙水圧が上昇しようとすると、微小中空体は、周辺圧力である間隙水圧の増大によって収縮又は破砕し、間隙水圧の上昇を吸収する。
【0025】
ここで、本発明に係る液状化防止方法及びシステムにおいては、マイクロバブルあるいは気泡によって飽和度を低下させる従来の対策工とは異なり、微小中空体の収縮又は破砕による間隙水圧抑制作用が時間が経過しても維持されるため、地盤の液状化を長期間防止することが可能となる。
【0026】
本発明における飽和度とは、土粒子間隙中を水が占める割合、すなわち水分飽和度を意味するものとする。
【0027】
微小中空体に関し、地震による地盤のせん断変形を受けて土粒子構造がいったん密な状況に移行した地盤領域では、その後、液状化が生じにくくなる
ので、微小中空体を、周囲の圧力増大に伴って破砕可能に構成することも考えられるが、本発明では、周囲の圧力変動に伴って膨張収縮可能な微小中空体と
する。このようにしたならば、土粒子構造の状況にかかわらず、微小中空体の収縮による間隙水圧抑制作用が維持されるため、長期間にわたり液状化を防止することが可能となる。
【0028】
微小中空体
は、内部に空気その他の気体が封入され樹脂膜あるいは樹脂殻で球状に構成された膨張収縮性中空体
とする。
【0029】
微小中空体の外径は、例えば100μm以下、さらに50μmとするのが望ましい。これは、地下水位の深さや締固めの状況にもよるが、液状化は、「平均粒径(D50)が0.02〜2mmの均等径の砂、つまり均等係数の小さい細砂や中砂」(「土質力学」、岡二三生著、朝倉書店発行)で起こりやすいため、例えば粒径1mmの砂地盤で微小中空体が土粒子間隙を通過して拡散するためには、その10分の1、できれば20分の1程度以下であることが必要であると思われるからである。
【0030】
注入手段は、地盤内の処理領域に処理液を注入することができる限り、その構成は任意であって、地盤内にほぼ鉛直に配置された注入井戸を介して注入する、地盤内にほぼ水平に配置された水平孔を介して注入する、地盤における地表面の相異なる2つの位置に各端部が開口するように該地盤内に配置された湾曲孔を介して注入するといった構成が可能である。
【0031】
また、処理領域内の既存の地下水を処理液で置換するにあたり、処理液の自重による押し出し作用で既存の地下水を周辺地盤に排出するようにしてもかまわないが、処理領域の地下水を揚水する揚水手段を備えるとともに、該揚水手段で揚水された地下水に微小中空体を添加混合することで処理液が作製されるように処理液供給手段を構成すれば、既存地下水の有効利用が可能になるとともに、処理液による既存地下水の置換を効率よく行うことも可能となる。
【0032】
処理液が注入される処理領域は、液状化防止が必要になる地盤内の任意の領域に設定可能であって、地下水が滞留している領域に液状化防止が必要な場合には、その滞留領域を処理領域として処理液を注入すればよいが、地下水に流れがありその流れに乗って処理液が周囲に拡散する懸念がある場合には、地盤内に遮水壁を配置し、該遮水壁で取り囲まれ又は挟み込まれた領域を処理領域とするのが望ましい。
【0033】
遮水壁は、処理領域とその周辺地盤との間における地下水の水平移動に起因して、処理領域内の地下水が大量かつ短期間に周辺地盤に流出しあるいは周辺地盤から流入することがない限り、下端が不透水層に貫入されている必要はなく、季節要因等の比較的緩慢な地下水位の変動による下端での地下水の廻り込みは許容される。
【0034】
この場合、周辺地盤における地下水位の変動で処理領域内の地下水も上下し、処理領域内と周辺地盤との間で地下水交換が生じて処理領域内の微小中空体の濃度が低下し、飽和度が上昇することが想定されるが、かかる場合には、本発明に係る液状化防止システムを用いて、処理液を処理領域に随時供給するようにすればよい。遮水壁を設けない場合において地下水が移動したときもまた同様である。
【0035】
処理領域が、地盤内に配置された遮水壁で取り囲まれ又は挟み込まれた領域である場合、処理領域への処理液の注入に先立ち、該処理領域内の地下水を揚水し、しかる後、揚水工程で生じた脱水領域の土粒子間隙に空気が捕捉されるように該脱水領域に処理液を注入するようにしてもよい。
【0036】
かかる構成によれば、既存地下水が微小中空体を含む処理液に置換されることによる飽和度低下に加えて、土粒子間隙での捕捉空気による飽和度低下が加わることとなり、かくして微小中空体や通常気泡あるいは空隙による間隙水圧抑制作用がさらに高まり、既設構造物下方の液状化をいっそう確実に防止することが可能となる。
【0037】
上記揚水工程において地下水位を低下させるための方法は任意であるが、重力排水と減圧による強制排水とを併用したいわゆるバキュームディープウェル工法を用いるようにすれば、地下水位を短時間に低下させることができるため、本発明を用いた液状化防止工を短工期で実現することが可能となる。
【0038】
処理領域内の地下水を揚水した後、該揚水工程で生じた脱水領域にそのまま微小中空体を含む処理液を注入するようにしてもかまわないが、揚水工程の後であってかつ注入工程の前に、脱水領域に通気処理を行い、又は脱水領域内の減圧及びそれに続く送気処理を行うようにしたならば、土粒子表面や土粒子間隙に付着残存していた水分も除去されるため、より多くの空気が気泡として土粒子間隙に捕捉されることとなり、かくして飽和度をさらに低く抑えることが可能となる。
【0039】
通気処理は、脱水領域への送気若しくは該領域からの吸引又はそれらの併用で実施が可能であり、例えば温風を用いた処理が有効である。
【0040】
一方、脱水領域内の減圧及びそれに続く送気処理においては、減圧による水の沸点降下によってほぼ完全に水分が蒸発するとともにその状態での送気処理によって土粒子間隙の隅々にまで空気が入り込むため、処理液の注入を行った後の土粒子間隙に空気がより残留しやすくなる。
【0041】
脱水領域内の減圧は、地盤面に気密シートを敷設するなどして脱水領域を気密にした上、該脱水領域内の空間に存在する空気を真空ポンプで引き抜くことで実施が可能である。