特許第6066401号(P6066401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066401
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】被覆工法
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/08 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
   E04F13/08 K
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-201628(P2012-201628)
(22)【出願日】2012年9月13日
(65)【公開番号】特開2014-55470(P2014-55470A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】510114125
【氏名又は名称】株式会社エフコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】軽賀 英人
(72)【発明者】
【氏名】田中 康典
【審査官】 西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−098493(JP,A)
【文献】 特公昭50−026852(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/08
E04D 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に熱可塑性樹脂を主成分とするシートを被覆する被覆工法であり、
該シートの末端部どうしを突き合わせる第1工程、
該突き合わせ部を跨ぐように繊維状補強材を重ね合わせる第2工程、
該繊維状補強材を押圧し埋没させ、突き合わせ部を均す第3工程、
を含み、
上記繊維状補強材が、目開きが0.5〜20mmの繊維メッシュであることを特徴とする被覆工法。
【請求項2】
該第3工程において、該繊維状補強材の上から加熱・押圧し、突き合わせ部を均すことを特徴とする請求項1に記載の被覆工法。
【請求項3】
該第3工程において、繊維状補強材の繊維径の50%以上が埋没するように押圧することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の被覆工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な被覆工法に関するものである。本発明の被覆工法は、基材に熱可塑性樹脂を主成分とするシートを突き合わせて被覆するものであり、突き合わせ部を強固に固定することができる。さらには、施工性に優れ、かつ均一な厚みに仕上ることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物、土木構築物等の構造物に対して、シート建材を用いる工法が採用されている。特に、シート建材として、熱可塑性樹脂を主成分とするシート建材(以下、単に「熱可塑性樹脂シート」または「シート」ともいう。)は、施工性に優れるため多く採用されている。熱可塑性樹脂シートの被覆工法としては、構造物に対して接着材を介して被覆される。この場合、熱可塑性樹脂シートの端部どうしは、重ね合わされたり、突き合わされたりして接合されている。
【0003】
熱可塑性樹脂シートの端部どうしを重ね合わせて接合する方法として、例えば、シートの端部を重ね合わせ、加熱溶融する方法や、重ね合わせたシート間に接合材を挿入し、接合材を加熱溶融したのち冷却するシートの接合方法(例えば、特許文献1)等が知られている。また、シート端部どうしを突き合わせて接合する方法として、例えば、シートどうしの突き合わせ部に対して、シートの両端部に跨るように接合用シートを配置して、加熱することにより接合用シートとシート端部とを熱融着させる方法(例えば、特許文献2)、シートどうしの突き合わせ部分をパテ、シーリング剤、止め具等により処理する方法(例えば、特許文献3、特許文献4)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−3962号公報
【特許文献2】特開2008−280835号公報
【特許文献3】特開2003−293482号公報
【特許文献4】特開2007−160690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなシート端部どうしを重ね合わせて接合する方法では、シートどうしの接着性が不十分となる場合がある。また、接合部の厚みが厚くなり、美観性に劣る場合がある。一方、シート端部どうしを突き合わせて接合する方法では、突き合わせ部分に開き等が生じるおそれがある。さらに、突き合わせ部分の処理が煩雑となったり、処理方法によっては突き合わせ部の厚みが厚くなり、美観性に劣る場合がある。
【0006】
本発明は、これら従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、特に、基材に熱可塑性樹脂を主成分とするシートを突き合わせて被覆する被覆工法であり、突き合わせ部を強固に固定し、さらには、施工性に優れ、かつ均一な厚みに仕上ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために本発明者らは、鋭意検討の結果、基材に熱可塑性樹脂を主成分とするシートを突き合わせて被覆する場合、突き合わせ部を跨ぐように繊維状補強材を重ね、該繊維状補強材を押圧し突き合わせ部を均す被覆工法に想到し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.基材に熱可塑性樹脂を主成分とするシートを被覆する被覆工法であり、
該シートの末端部どうしを突き合わせる第1工程、
該突き合わせ部を跨ぐように繊維状補強材を重ね合わせる第2工程、
該繊維状補強材を押圧し埋没させ、突き合わせ部を均す第3工程、
を含み、
上記繊維状補強材が、目開きが0.5〜20mmの繊維メッシュであることを特徴とする被覆工法。
2.該第3工程において、該繊維状補強材の上から加熱・押圧し、突き合わせ部を均すことを特徴とする1.に記載の被覆工法。
3.該第3工程において、繊維状補強材の繊維径の50%以上が埋没するように押圧することを特徴とする1.または2.に記載の被覆工法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被覆工法は、基材に熱可塑性樹脂を主成分とするシートを突き合わせて被覆するものであり、突き合わせ部を強固に固定し、さらには施工性に優れ、かつ均一な厚みに仕上ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一例を示す斜視図である。
図2図1の側面断面図である。
図3】本発明の一例を示す平面図である。(a)(b)シートの突き合わせ部全体に繊維状補強材を重ね合わせた一例、(c)(d)シートの突き合わせ部の少なくとも一部に繊維状補強材を重ね合わせた一例。
図4】本発明の一例を示す側面断面図である。(e)押圧前、(f)〜(k)押圧後の側面断面図の一例。繊維補強材のシートへの埋没の程度(f)25%、(g)50%、(h)75%、(i)90%、(j)100%、(k)100%以上。
図5】本発明に基材にシートを被覆した断面図の一例である。(m)基材:角鋼管、(n)基材:丸鋼管を使用した場合の断面図の一例。
【符号の説明】
【0011】
1.熱可塑性樹脂を主成分とするシート
2.突き合わせ部
3.繊維状補強材
4.基材
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0013】
本発明の被覆工法は、基材に熱可塑性樹脂を主成分とするシートを被覆する被覆工法であり、以下の工程を含むものである。
(第1工程)シートの末端部どうしを突き合わせる。
(第2工程)該突き合わせ部を跨ぐように繊維状補強材を重ね合わせる。
(第3工程)該繊維状補強材を押圧し、突き合わせ部を均す。
【0014】
(基材)
本発明の基材としては、建築物等の各種基材を含み、このような基材が用いられる部位としては、例えば、壁、柱、床、梁、天井、屋根、階段等が挙げられる。基材を構成する材料としては、例えば、金属、コンクリート、木質部材、樹脂系部材等が挙げられる。これら基材は、下地処理、防錆処理等が適宜施されたものであってもよい。
【0015】
(熱可塑性樹脂を主成分とするシート)
本発明の熱可塑性樹脂を主成分とするシートは、熱可塑性樹脂を主成分とするものであれば特に制限されず、公知のものを使用することができる。例えば、公知の化粧シート、防水シート、耐熱保護シート等が挙げられる。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、酢酸ビニル樹脂等が挙げられる。また、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1.2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質も使用することができる。
【0017】
これらの熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質は、単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。2種以上を混合する場合は、所望のシート性能(例えば、溶融粘度、柔軟性、強度、防水性、耐熱保護性、粘着性等)に応じ、混合すればよい。
また、本発明の効果を阻害しない程度に、熱硬化性樹脂を混合して使用することもできる。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂シートは、上記の熱可塑性樹脂以外に、必要に応じて、各種添加剤を適宜配合できる。各種添加剤としては、例えば、着色剤、充填剤、可塑剤、難燃剤、滑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、造膜助剤、吸着剤、架橋剤、酸化防止剤、触媒、ブロッキング防止剤等が挙げられる。例えば、化粧シートの場合は、熱可塑性樹脂と着色剤等を含み、耐熱保護シートの場合は、熱可塑性樹脂、難燃剤、膨張剤、炭化剤、及び充填剤を含むもの等が挙げられる。
【0019】
特に本発明は、耐熱保護シートの被覆工法として好適なものである。本発明における耐熱保護シートとは、火災等により周辺温度が所定の温度に達すると膨張し、炭化断熱層を形成するものであり、上記の熱可塑性樹脂、難燃剤、膨張剤、炭化剤、及び充填剤等を含むものである。これらの各成分は、火災発生時において、相互の複合作用によりシートの膨張、炭化断熱層形成、不燃性ガスの発生等の機能を発現することにより、優れた耐熱保護性を発揮することができる。
【0020】
耐熱保護シートにおける熱可塑性樹脂としては、上記の熱可塑性樹脂を使用することができるが、少なくとも耐熱保護シート製造温度及び押圧温度が耐熱保護シートの膨張温度よりも低い温度で実施できるものを使用することが好ましい。このような熱可塑性樹脂として、具体的には、例えば、ビニルトルエン‐ブタジエン共重合体、ビニルトルエン‐アクリル酸エステル共重合体、ビニルトルエン‐メタクリル酸エステル共重合体、スチレン‐ブタジエン共重合体、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、あるいはこれら共重合体を構成する2種のモノマーとアクリル酸モノマー、メタクリル酸モノマー等との三元共重合体等の樹脂が挙げられ、これらを含むことが好ましい。
【0021】
難燃剤は、一般に火災時に脱水冷却効果、不燃性ガス発生効果、熱可塑性樹脂の炭化促進効果等の少なくとも1つの効果を発揮し、熱可塑性樹脂の燃焼を抑制する作用を有するものである。本発明で用いる難燃剤としては、このような作用を有する限り特に制限されず、公知の難燃剤が使用できる。例えば、トリクレジルホスフェート、ジフェニルクレジルフォスフェート、ジフェニルオクチルフォスフェート、トリ(β−クロロエチル)フォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリ(ジクロロプロピル)フォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリ(ジブロモプロピル)フォスフェート、クロロフォスフォネート、ブロモフォスフォネート、ジエチル−N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルフォスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ヒドロキシメチルフォスフォネート等の有機リン系化合物;塩素化ポリフェニル、塩素化ポリエチレン、塩化ジフェニル、塩化トリフェニル、五塩化脂肪酸エステル、パークロロペンタシクロデカン、塩素化ナフタレン、テトラクロル無水フタル酸等の塩素化合物;三酸化アンチモン、五塩化アンチモン等のアンチモン化合物;三塩化リン、五塩化リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン化合物;その他ホウ酸亜鉛、ホウ酸ソーダ等のホウ素化合物等が挙げられる。難燃剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらは、未被覆品、被覆処理品のいずれであってもよい。特に、ポリリン酸アンモニウムを使用した場合には、脱水冷却効果と不燃性ガス発生効果とをより効果的に発揮することができるため好ましい。
【0022】
難燃剤の混合比率は、熱可塑性樹脂100重量部(固形分)に対し、好ましくは50〜1000重量部、より好ましくは100〜800重量部、より好ましくは200〜600重量部である。本発明では、このように難燃剤が比較的高比率で含まれることにより、耐熱保護性において良好な性能を得ることができる。
【0023】
膨張剤は、一般に、火災時に不燃性ガスを発生させて、炭化していく熱可塑性樹脂及び炭化剤を膨張させ、気孔を有する炭化断熱層を形成させる作用を有するものである。発泡剤は、かかる作用を有する限り特に制限されず、公知の膨張剤が使用できる。例えば、メラミン及びその誘導体、ジシアンジアミド及びその誘導体、アゾジカーボンアミド、尿素、チオ尿素等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上で使用することができる。これらの中では、メラミン、ジシアンジアミド、アゾジカーボンアミド等が不燃性ガスの発生効率に優れていることから好ましい。特にメラミンがより好適である。
【0024】
膨張剤の混合比率は、熱可塑性樹脂100重量部(固形分)に対し、好ましくは5〜500重量部、より好ましくは30〜200重量部である。このような範囲であることにより、優れた発泡性を発揮し、耐熱保護性において良好な性能を得ることができる。
【0025】
炭化剤は、一般に、火災時に熱可塑性樹脂の炭化とともにそれ自体も脱水炭化していくことにより、断熱性に優れた厚みのある炭化断熱層を形成する作用を有するものである。本発明で用いる炭化剤としては、このような作用を有する限り特に制限されず、公知の炭化剤が使用できる。例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;デンプン、カゼイン等が挙げられる。炭化剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。特に、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが脱水冷却効果と炭化断熱層形成作用に優れている点で好ましい。
【0026】
炭化剤の混合比率は、熱可塑性樹脂100重量部(固形分)に対し、好ましくは5〜600重量部、より好ましくは10〜400重量部である。このような範囲であることにより、脱水冷却効果と炭化断熱層形成作用を発揮し、耐熱保護性において良好な性能を得ることができる。
【0027】
充填剤は、一般に炭化断熱層の強度を維持する作用を有するものである。充填剤としては、このような作用を有する限り特に制限されず、公知の充填剤が使用できる。例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム等の炭酸塩;二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物;シリカ、粘土、タルク、クレー、カオリン、ケイソウ土、シラス、マイカ、ワラストナイト、珪砂、珪石、石英、ヒル石、アルミナ、フライアッシュ等の無機粉末等が挙げられる。
【0028】
また、上記無機粉体の形状としては、特に限定されないが、例えば、球状、粒状、板状、棒状、リン片状、針状、繊維状等が挙げられ、これらは単独又は2種以上で使用することもできる。本発明では特に、板状、リン片状、針状、繊維状のものが好ましい。
【0029】
充填剤の配合比率は、熱可塑性樹脂100重量部(固形分)に対し、好ましくは10〜300重量部、更に好ましくは20〜250重量部である。このような範囲であることにより、炭化断熱層の強度を維持することができ、耐熱保護性において良好な性能を得ることができる。
【0030】
また、耐熱保護シートには、上記成分に加え、さらに液状ハロゲン化合物を含むものが好適である。このような液状ハロゲン化合物は、耐熱保護シートの屈曲性、耐熱保護性等の向上に有効に作用する成分である。なお、ここに言う液状とは、常温(25℃)にて液体の性状を示すことを意味する。また、液状ハロゲン化合物には、リンを有するものは包含されない。
ハロゲンの種類としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられるが、この中でも塩素が好適である。好適な液状ハロゲン化合物としては、塩素化パラフィンが挙げられる。
【0031】
塩素化パラフィンの炭素数は、好ましくは10以上、より好ましくは14〜28である。塩素化パラフィンの塩素含有率は、好ましくは25%以上70%未満、より好ましくは35%以上65%以下、さらに好ましくは40%以上60%以下である。本発明では、このような条件を満たす塩素化パラフィンを用いることにより、屈曲性が一層向上する。また、より一層発泡性、強度に優れた炭化断熱層を形成することができる。
液状ハロゲン化合物の混合比率は、結合材100重量部(固形分)に対し、好ましくは20〜300重量部、より好ましくは30〜200重量部である。
【0032】
さらに耐熱保護シートには、上記成分に加え、繊維物質を含むものが好適である。本発明では、このような繊維物質が含まれることにより、炭化断熱層の形状を保持する効果等が高まる。繊維物質の繊維長は、好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜20mmである。
繊維物質としては、例えば、ロックウール、ガラス繊維、シリカ−アルミナ繊維、セラミック繊維、チタン酸カリウム繊維等の無機繊維、カーボン繊維、パルプ繊維、ポリプロピレン繊維、ビニル繊維、アラミド繊維等の有機繊維が挙げられる。この中でも、耐熱性を有する無機繊維やカーボン繊維が好ましく、ガラス繊維が最も好ましい。ガラス繊維を使用した場合は、加熱時の膨張性においても優れた性能が発揮され、耐熱保護材として好適な多孔質炭化層が得られやすい。
【0033】
繊維物質の混合比率は、熱可塑性樹脂100重量部(固形分)に対し、好ましくは0.1〜30重量部、より好ましくは1〜20重量部である。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂を主成分とするシートは、各成分を均一に混合して得られる混合物を、公知の方法によって成形すればよい。各成分の混合時には、必要に応じ溶剤を混合したり、加熱したりすることも可能である。ビーズ状、ペレット状等の熱可塑性樹脂を使用する場合は、この熱可塑性樹脂の軟化温度まで加熱装置によって加熱し、ニーダー等によって混練しながら、各成分を混合すればよい。
【0035】
成形方法としては、例えば、混合物を型枠内に流し込み、乾燥後に脱型する方法、混合物を加温塗工機によって離型紙に塗付した後に巻き取る方法、ニーダー等によって混練した混合物を押し出し成型機によってシート状に加工する方法、ニーダー等によって混練した混合物を対ロールの間に供給してシート状に加工する方法、混合物をペレット状にした後に押し出し成型機によってシート状に加工する方法、バンバリーミキサーまたはミキシングロールで混練した混合物を複数の熱ロールからなるカレンダによって圧延してシート状に加工する方法等が挙げられる。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂と主成分とするシートの厚みは、通常、適用部位等により適宜設定すれば良い。耐熱保護シートの場合は、好ましくは0.2〜10mm、より好ましくは0.5〜6mm程度である。
【0037】
(繊維状補強材)
本発明の繊維状補強材としては、例えば、織布、不織布、メッシュ等が挙げられるが、本発明では、繊維が0.5mm〜20mm(好ましくは1.0mm〜10mm)の間隔で配列された網目構造を有する繊維メッシュを使用することが好ましい。本発明では、このような繊維メッシュを使用し、押圧することにより、網目部分に熱可塑性樹脂シートが介在するような態様となり、熱可塑性樹脂シートと繊維メッシュが固定される。これにより、突き合わせ部を強固に固定することができる。繊維メッシュの網目間隔(「目開き」ともいう。)が0.5mmよりも小さい場合は、網目部分にシートが介在しにくく、シートと繊維メッシュの固定が不十分となるおそれがある。また、網目間隔が20mmを超える場合は、メッシュ形状が変形しやすく施工性におとるとともに、突き合わせ部の固定効果が不十分となるおそれがある。
【0038】
また、繊維の太さは、0.03mm〜1.0mm(好ましくは、0.05〜0.5mm)であることが好ましい。このような場合、本発明の効果を十分に発揮することができる。繊維の太さが0.03mmよりも細い場合、繊維強度が不十分となり、突き合わせ部を固定できない場合がある。また、繊維の太さが1.0mmを超える場合は、繊維補強材が硬く、施工性に劣る場合がある。なお、ここでいう繊維の太さとは、網目構造を形成する1本の太さのことであり、繊維1本または2本以上からなる糸状の束の太さである。
【0039】
繊維としては、無機繊維、有機繊維等、あるいは無機繊維と有機繊維が複合化されたもの等が挙げられる。
無機繊維としては、例えば、ロックウール、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ−アルミナ繊維、カーボン繊維、炭化珪素繊維等、また鉄、銅等の金属細線が挙げられる。
有機繊維としては、例えば、パルプ繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリアリレート繊維、PBO繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、セルロース繊維等が挙げられる。
【0040】
(熱可塑性樹脂を主成分とするシートの被覆)
(第1工程)
本発明の第1工程は、基材に熱可塑性樹脂シートを被覆する工程であり、熱可塑性樹脂シートを基材に被覆するに際し、シートの末端部どうしを突き合わせて被覆する(例えば、図5)。基材にシートを被覆する方法としては、シートの末端部どうしを突き合わせて被覆することが可能な限り、特に限定されない。例えば、基材及びシートの少なくとも一方に公知の接着剤、粘着剤等を塗付して貼着することができる。このときシートの裏面に予め接着剤、粘着剤等が積層されたシートであれば、基材に直接貼着することができる。また、接着剤等を用いずに熱融着により基材に直接貼着したり、あるいは基材側又はシート側の一部に接着剤を塗付してシートを基材に仮固定し、次いで熱融着して基材に貼着することもできる。
【0041】
(第2工程)
本発明の第2工程は、例えば図1図2に示すように、第1工程において形成されたシートの突き合わせ部(シートどうしの境界部)を跨ぐように繊維状補強材を重ね合わせる。このとき、繊維状補強材は、例えば、図3(a)〜(d)のように突き合わせ部の少なくとも一部または全部を跨ぐように重ねられていればよいが、本発明では特に、図3(a)、(b)のように突き合わせ部の全部を跨ぐように重ねられていることが好ましい。また、突き合わせ部を跨ぐ繊維状補強材の幅(図3(a):L)は、用途によって適宜設定すればよいが、好ましくは2.0〜15.0cm(より好ましくは3.0〜10.0cm)である。このような場合、突き合わせ部を強固に固定することができる。
また、繊維状補強材は、シート突き合わせ部に対して左右均等に重ね合わせることが好ましい。このように突き合わせ部を跨ぐように繊維状補強材を重ね合わせることによって、本発明の効果が得られやすい。
【0042】
(第3工程)
本発明の第3工程は、第2工程において突き合わせ部を跨ぐように重ね合わされた繊維状補強材(図4(e))を押圧し、突き合わせ部を均すものである。これにより、繊維状補強材の網目部分にシートが介在するようにシートと繊維状補強材が固定され(図4(f)〜(k))、シートの末端部どうし接合するためシート突き合わせ部を強固に固定することができる。また、繊維状補強材は、シート内に埋没するように固定されるため、突き合わせ部の厚みを均一に仕上げることができる。繊維状補強材の押圧の程度は、適宜設定すればよいが、好ましくは繊維径の50%以上、より好ましくは75%以上が埋没するように押圧する。このような場合、シート突き合わせ部をよりいっそう強固に固定することができ、突き合わせ部の厚みを均一に仕上げることができる。
【0043】
さらに、本発明では、繊維状補強材を加熱・押圧し、突き合わせ部を均すことが好ましい。本発明において、加熱と押圧は、同時または、加熱後すぐに押圧することが好ましい。この場合の加熱温度は、シートの軟化温度以上、かつ繊維状補強材の形状が保持できる温度とすることが好ましい。なお、軟化温度とは、シートの軟化が始まる温度であり、例えば、耐熱保護シートの場合の加熱温度は100〜200℃とすることが好ましい。これによって、繊維状補強材の網目部分に軟化したシートが介在しやすくなるため、シート突き合わせ部を強固に固定することができる。また、シート内に繊維状補強材がよりいっそう埋没しやすくなるため、突き合わせ部の厚みをよりいっそう均一に仕上げることができ、美観性に優れる。
【0044】
本発明において、均しの圧力は、用いるシートの種類に応じて適宜調節すればよい。また、第3工程で用いる装置は、アイロン、ローラー、コテ等の公知のものを使用することができる。その材質は用いるシートの種類に応じて適宜設定すればよい。加熱する場合には、ヒートガン等の公知のものを使用することができる。また、加熱装置を備えたアイロン、ローラー、コテ等を用いれば加熱・押圧を同時に行うこともできる。
本発明では、押圧または加熱・押圧する場合、必要に応じて重ねあわせ部に離型シートを重ねることもできる。
【0045】
(第4工程)
本発明の被覆工法としては、第3工程の後、必要に応じて化粧層を形成させることができる。化粧層は公知の施工方法で形成させればよく、例えば各種塗料を塗装したり、あるいは化粧フィルム、化粧シート等を積層してもよい。化粧層は、複数の材料が積層されたものであってもよい。
本発明の被覆工法によれ、第1工程〜第3工程において、シートどうしの突き合わせ部の厚みを均一に仕上げることができるため、化粧層の形成も容易であり、優れた美観性を得ることができる。
【0046】
本発明の被覆工法によれば、シートどうしの突き合わせ部を繊維状補強材が強固に接合することができ、かつ突き合わせ部の厚みを均一に仕上ることができる。また、重ねあわせ部を押圧または加熱・押圧するという比較的容易な方法でシートどうしを一体化できるため、従来技術における工期の遅れ、コスト高等の問題を解消することができる。特に、従来の継ぎ目処理、例えばシーリング処理で要求されていた乾燥工程等を省略できる点でも非常に有利である。
【0047】
さらに、本発明の被覆工法では、耐熱保護シートの突き合わせ部を強固に固定することができ、かつ突き合わせ部の厚みも均一にすることができるため、火災時には、均一な厚さの炭化断熱層を形成することができ、優れた耐熱保護性を発揮することができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0049】
(耐熱保護シートの製造)
熱可塑性樹脂100重量部、膨張剤60重量部、炭化剤60重量部、難燃剤300重量部、充填剤75重量部、繊維6重量部、塩素化パラフィン75重量部を120℃に加温したニーダーで混練、圧延後、室温まで放冷し、膜厚1.5mmのシート状の耐熱保護シート1を得た。なお、原料としては以下のものを使用した。
・熱可塑性樹脂:酢酸ビニル/エチレン共重合樹脂(軟化温度66℃)
・発泡剤:メラミン
・炭化剤:ペンタエリスリトール
・難燃剤:ポリリン酸アンモニウム
・充填材A:酸化チタン(TiO、ルチル型、平均粒子径0.3μm)
・繊維:ガラス繊維(繊維長6mm)
・塩素化パラフィン:(炭素数26、塩素含有率51%)
【0050】
(試験例1)
基材として、錆止め塗装された角鋼管(断面400mm×400mm、長さ1500mm)を用いた。上記耐熱保護シート1の裏面にアクリル系接着剤を塗付し、図5−(m)に示されるように、シート端部どうしをつき合わせて貼着した。その後、図3(a)に示すように突き合わせ部全体を跨ぐように、幅50mmのガラス繊維メッシュ(網目間隔2mm、繊維の太さ0.1mm)を重ね合わせた。次に、ガラス繊維メッシュの上からヒートガンで約100〜150℃に加熱しながら、ステンレス製ローラーにて、ガラス繊維メッシュを押圧しながら均し、耐熱保護シートの内にガラス繊維メッシュを埋没(埋没の程度:繊維径の100%)させ接合部を固定し、試験体1を得た。得られた試験体1の突き合わせ部は、シートの反りや剥がれを生じることなく、均一厚みの仕上りであった。
【0051】
得られた試験体1を、ISO834の標準加熱曲線に準じて一定時間(1時間)加熱し、試験体を室温に冷却した後、炭化断熱層の形状を目視にて評価した。その結果、均一な炭化断熱層を形成し、優れた耐熱保護性を示した。
図1
図2
図3
図4
図5