特許第6066412号(P6066412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6066412表面性状に優れるFe−Ni−Cr系合金とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066412
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】表面性状に優れるFe−Ni−Cr系合金とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20170116BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20170116BHJP
   C21C 5/54 20060101ALI20170116BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20170116BHJP
   C21C 7/04 20060101ALI20170116BHJP
   C21C 7/06 20060101ALI20170116BHJP
   C21C 7/064 20060101ALI20170116BHJP
   C21C 7/068 20060101ALI20170116BHJP
   C21C 7/076 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C30/00
   C21C5/54
   C21C7/00 B
   C21C7/04 B
   C21C7/06
   C21C7/064 Z
   C21C7/068
   C21C7/076 A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-65365(P2013-65365)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-189826(P2014-189826A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232793
【氏名又は名称】日本冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神戸 雄一
(72)【発明者】
【氏名】轟 秀和
(72)【発明者】
【氏名】山下 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 芳春
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−027189(JP,A)
【文献】 特開2012−229463(JP,A)
【文献】 特開2007−277727(JP,A)
【文献】 特表2002−531711(JP,A)
【文献】 特開2003−147492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21C 7/00− 7/10
C21C 1/00− 3/00
C21C 5/00− 5/06
C21C 5/52− 5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C≦0.1mass%、Si:0.05〜1.0mass%、S≦0.0015mass%、Ni:17〜46mass%、Cr:18〜25mass%、Al:0.06超〜0.6mass%、Ti:0.2〜1.0mass%、N≦0.02mass%、O:0.0001〜0.005mass%、Mg:0.0001〜0.008mass%、Ca:0.0001〜0.003mass%を含有し、かつ、上記のMgとCaは、下記式:
[mass%Ca]≦0.0002+10(−3×log[mass%Mg]−10.7)
を満たして含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる合金であって、該合金に含まれる介在物が、MgOと、CaO−Al−TiO系の非金属介在物であることを特徴とするAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金。
【請求項2】
Fe−Ni−Cr合金の製造に当たり、精錬炉にて、少なくともAlとTiを含有するFe−Ni−Cr合金溶湯を溶製し、次いで、AOD処理、VOD処理またはAOD→VOD処理のうちのいずれか1の処理をして脱炭すると共に、石灰、蛍石、Alを投入して、CaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを形成させることによって、Cr還元、脱酸、脱硫して請求項1に記載の成分組成を有する合金であって、該合金中に含まれる介在物がMgOとCaO−Al−TiO系の非金属介在物であるものとすることを特徴とする請求項1記載のAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の製造方法。
【請求項3】
合金の前記成分組成への調整は、CaO−SiO−MgO−Al−F系スラグの組成を、CaO/Al:1.0〜5.0、CaO/SiO:4.0〜11.0、MgO:5〜20mass%とすることによって行なうことを特徴とする請求項2に記載のAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の製造方法。
【請求項4】
合金の前記成分組成への調整は、スラグ中に含まれるMgOおよびCaOはAlによって還元して溶融Fe−Ni−Cr合金中に所定のMgならびにCaを供給することによって行うことを特徴とする請求項2または3に記載のAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性状に優れるFe−Ni−Cr系合金とその製造方法に関し、特に、表面性状に優れるAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金材料およびその合金材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面欠陥のないFe−Ni−Cr系合金材料(冷間圧延板等)およびその製造方法について種々研究されてきた。例えば、Fe−Ni−Cr系合金にCaを添加して熱間加工性を改善することによって表面性状に優れるステンレス鋼を製造する方法などの提案がそれである。これらの提案は、この種の合金の熱間加工性劣化の原因が、この合金中に含まれるSに起因することに着目し、そのSを、Ca等を添加することによって固定し、このことによって熱間加工性を改善して表面性状に優れる材料を製造する技術である(特許文献1、2、3、4)。
【0003】
しかし、これらの技術において、合金中にCaを多量に添加すると製品コストの上昇を招くことが知られている。また、Caは、溶融合金中で酸素と結合して酸化物系の非金属介在物を生成するが、それらが溶融合金内で凝集して大型化する場合があり、最終製品において合金板表面に線状欠陥の発生につながるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−57612号公報
【特許文献2】特開2002−220618号公報
【特許文献3】特開平09−310113号公報
【特許文献4】特開平05− 51623号公報
【特許文献5】特開2012−229463号公報
【特許文献6】特開2003−147492号公報
【特許文献7】特開2009−174035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、ステンレス鋼を含むFe−Ni−Cr系合金に対し、単にCaを添加するという方法だけでは、表面性状に優れるFe−Ni−Cr系合金材料を安価に製造するのは困難である。それは、溶融合金中のCaは、酸素と結合してCaOという酸化物系介在物を形成するが、これらの酸化物系介在物は融点が2000℃を超えるため熱間圧延の際の延伸性に乏しく、微細化されにくいためである。即ち、このような酸化物系介在物が凝集・合体して大型化し、これが合金の凝固過程で補足され、最終製品の表面に露出して、線状欠陥として現われるのである。このような線状欠陥が発生した合金板は、表面の清浄性を損ない、表面性状に優れた製品板を製造することは困難になる。
【0006】
一方で、該Fe−Ni−Cr系合金中のMgやCaについて、これらの元素の低減を図ると、Sの固定が不十分になって良好な熱間加工性の確保ができず、熱間圧延時に合金板表面にヘゲ状欠陥を発生させ、最終製品の表面清浄性を損なう一因となる。つまり、Fe−Ni−Cr系合金の熱間加工性を劣化させる要因は、この合金中のSであり、S濃度が高くなると熱間加工性を劣化させるのである。
【0007】
従来、表面性状に優れるFe−Ni−Cr系合金については、特許文献5に開示のような技術がある。この従来技術は、Fe−Ni−Cr−Mo−Cu系合金中の酸化物系非金属介在物を改質する方法の提案である。即ち、この文献に開示の方法は、線状欠陥の原因となるMgO・Alスピネルなどの酸化物系介在物に着目して、この介在物を制御する技術である。ただし、この技術は、該Fe−Ni−Cr系合金がAlやTiを含む合金の場合には有効な方法ではないということであり、とりわけMgOやCaOを起因とする表面欠陥の防止に対しては有効でない。また、Ti含有Fe−Cr−Ni鋼やステンレス鋼の表面性状を改善するための技術としては、その他に特許文献6および特許文献7に開示されたような技術がある。これらの開示技術では、TiNに起因したディッケルこそが表面欠陥の原因であるとしてその解決方法を提案しており、本発明にかかるAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の表面性状の改善に対して有効な方法を提案するものではない。なお、Fe−Ni−Cr系合金のこのような線状欠陥やヘゲ状欠陥を最終製品で研磨除去しようとすると、製造工程の増加を招き、製造期間の長期化と製造コストの上昇を招く。また、熱間加工性の改善に向けて、MgやCaを過剰に添加することも製造コストの上昇となる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、表面清浄に優れるAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金としての望ましい成分組成を提案すると共に、それの有利な製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、従来技術が抱えている前述した課題の解決に向けて、生産ラインで製造されたAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金板の表面性状を詳細に観察し、発生した欠陥部を調査した。そして、そのような欠陥が発生するときの合金組成や製造条件について検討した。その結果、合金中のMgやCaの濃度が高くなると、連続鋳造時に使用される浸漬ノズル内部にMgOやCaOからなる非金属介在物が付着、凝集し、それらが剥離、脱落して溶融合金内に混入し、MgOとCaOを起因とする大型介在物による線状欠陥が発生していることを突き止めた。その一方で、かかる非金属介在物の形態がMgOとCaO−Al−TiO系のものである場合、ノズル内閉塞防止に有効であると同時に、ヘゲ疵を防止する上でも有効であることを見出した。
【0010】
また、Al、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金については、この合金中に含まれるSが一定濃度以上になると、該合金の熱間加工性を劣化させると共に、合金板表面にヘゲ状欠陥が現われることもわかった。このことから表面性状に優れるAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の製造に当たっては、Mg、CaおよびSの濃度を調整することが有効であることがわかった。
【0011】
さらに、MgやCa、Sの濃度は、いずれの元素についてもAlの濃度にしたがって変動するという知見を得た。即ち、Al、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金のAl濃度が適正であれば脱酸が効果的に行なわれ、Mg、Ca、Sの濃度も適正な値となって、ヘゲ疵が発生しないこともわかった。しかし、Alの濃度が低いと、脱酸が効かなくなり、非金属介在物の量が増加してヘゲ疵の発生を招いた。一方、Alの濃度が高すぎると、MgおよびCaとも濃度が高くなって、MgOやCaOからなる非金属介在物が付着、凝集し、ノズル閉塞を起こすことがわかった。
【0012】
さらに、AODやVODの処理において、Crの還元を経て、脱酸をする時のスラグ組成もまた表面欠陥防止のためには重要な因子であることもわかった。なお、スラグ組成が適正でないと、ノズル内に非金属介在物が付着してしまう現象も見出した。
【0013】
上記の知見をもとに開発したのが本発明である。即ち、本発明は、C≦0.1mass%、Si:0.05〜1.0mass%、S≦0.0015mass%、Ni:17〜46mass%、Cr:18〜25mass%、Al:0.06超〜0.6mass%、Ti:0.2〜1.0mass%、N≦0.02mass%、O:0.0001〜0.005mass%、Mg:0.0001〜0.008mass%、Ca:0.0001〜0.003mass%を含有し、かつ、上記のMgとCaは、下記式:
[mass%Ca]≦0.0002+10(−3×log[mass%Mg]−10.7)
を満たして含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる合金であって、該合金に含まれる介在物がMgOと、CaO−Al−TiO系の非金属介在物であることを特徴とするAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金である。
【0014】
また、本発明では、前記Fe−Ni−Cr合金の製造に当たり、精錬炉にて、少なくともAlとTiを含有するFe−Ni−Cr合金溶湯を溶製し、次いで、AOD処理、VOD処理またはAOD→VOD処理のうちのいずれか1の処理をして脱炭すると共に、石灰、蛍石、Alを投入して、CaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを形成させることによって、Cr還元、脱酸、脱硫して前記成分組成を有する合金であって、該合金中に含まれる介在物がMgOとCaO−Al−TiO系の非金属介在物であるものとすることを特徴とするAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の製造方法を提案する。
【0015】
なお、本発明においては、上記の構成に加えてさらに、
)合金の前記成分組成への調整は、CaO−SiO−MgO−Al−F系スラグの組成を、CaO/Al:1.0〜5.0、CaO/SiO:4.0〜11.0、MgO:5〜20mass%とすることによって行なうこと
)合金の前記成分組成への調整は、スラグ中に含まれるMgOおよびCaOはAlによって還元して溶融Fe−Ni−Cr合金中に所定のMgならびにCaを供給すること、
などがより好ましい解決手段を提案できる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように構成される本発明によれば、表面品質とくに表面欠陥のないAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金板を安定して得ることができる。また、本発明によれば、優れた表面特性を有するAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の薄板を、工業規模で安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】表面欠陥に及ぼすMg濃度とCa濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の成分組成の限定の理由、ならびにその合金の製造方法について説明する。
(1)Al、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の成分組成
C:0.1mass%以下
Cは、Fe−Ni−Cr系合金を固溶化熱処理するときの冷却速度が遅いと、結晶粒界に(Cr、Fe)23が析出してCr欠乏層を生成し、この耐粒界腐食性が低下してしまう。そこで、本発明では、Cの含有量を0.1mass%以下に抑制する。好ましいC含有量は、0.08mass%以下である。
【0019】
Si:0.05〜1.0mass%
Siは、溶融合金の脱酸に必要な元素であることから、0.05mass%以上の添加が必要である。一方で、このSi含有量が1.0mass%を超えると、TiNの生成を助長して製品の表面性状の劣化を招くと共に、スラグ中のCaOおよびMgOの還元を助長し、Mg濃度およびCa濃度を制御することができなくなる。そこで、本発明では、Siの含有量を0.05〜1.0mass%と定める。好ましいSiの含有量0.1〜0.7mass%である。
【0020】
S:0.0015mass%以下
Sは、この合金には不可避的に混入してくる元素であり、その濃度が高くなると、熱間加工性が著しく損なわれる。そこで、本発明では、Sの含有量を0.0015mass%以下に抑制する。好ましいS含有量は、0.0010mass%以下である。
【0021】
Ni:17〜46mass%
Niは、オ−ステナイト生成元素であると共に、σ相やχ相などの金属間化合物の析出を抑制する上で重要な役割を担う元素である。それ同時に、良好な耐食性や高強度、耐高温酸化性を維持するために有用な元素である。そこで、本発明では、Niの含有量を17〜46mass%と定める。好ましいNi含有量は、18〜43mass%である。
【0022】
Cr:18〜25mass%
Crは、良好な耐食性を維持するために必要不可欠な元素である。しかし、これを過剰に含有していると、σ相やχ相などの金属間化合物を析出し、熱間加工性や耐食性を劣化させる。そこで、本発明では、Crの含有量は18〜25mass%と定める。好ましいCr含有量は19〜24mass%である。
【0023】
Al:0.06mass%超〜0.6mass%
Alは、本発明において重要な役割を担う元素の1つである。そもそもAlは脱酸に有効な元素であり、非金属介在物を好ましい形態であるCaO−Al−TiO系に制御して、ノズル内閉塞を防止し、疵の発生を防止するのに有効に働く成分である。しかし、このAlの含有量が0.06mass%以下だと酸素濃度が0.005mass%を超えて高くなり、介在物の量を増加させて製品表面にヘゲ疵をもたす。それと同時に、TiNの生成をも促進してしまう。一方、このAl含有量が0.6mass%を超えると、スラグ中のCaOおよびMgOの還元を助長し、合金中のMgおよびCaの濃度が過剰となって、適正範囲に制御することができなくなる。その結果、CaOやMgOなどからなる介在物が形成し、ノズル内に付着したり、ヘゲ疵の発生につながったりする。そこで、本発明では、Alの含有量を0.06超〜0.6mass%以下と定める。好ましいAl合金量は、0.07〜0.55mass%である。より好ましくは、0.1〜0.5mass%であり、さらに好ましくは、0.12〜0.5mass%である。
【0024】
Ti:0.2〜1.0mass%
Tiは、Fe−Ni−Cr系合金の高温強度を高めるために有効な元素である。さらに、このTiは、非金属介在物を好ましい形態であるCaO−Al−TiO系に制御してノズル閉塞を防止し、さらには、ヘゲ疵の発生を防止するために有効である。これらの作用効果を確実に得るには、0.2mass%以上含有させることが必要である。しかし、Ti含有量が1.0mass%を超えて含有すると、TiNを多く生成させて製品の表面性状劣化を招いてしまう。そこで、本発明では、Tiの含有量を0.2〜1.0mass%と定める。好ましいTi含有量は0.23〜0.8mass%であり、より好ましくは0.24〜0.75mass%である。
【0025】
N:0.02mass%以下
Nは、高すぎるとTiNの生成を助長する。そこで、本発明では、Nの含有量を0.02mass%以下と定める。好ましいNの含有量は、0.015mass%以下である。
【0026】
O:0.0001〜0.005mass%
Oは、SiやAl、Ti、Mg、Caと結合し、酸化物を形成して酸化物系介在物となる。このOの濃度が0.005mass%を超えると該介在物量が増加し、Fe−Ni−Cr系合金の表面性状を損なうだけでなく、耐食性の劣化をももたらす。しかし、このO量が、0.0001mass%未満では、スラグ中のCaOおよびMgOの還元を助長して本発明において許容されるMgおよびCa濃度の上限を超えてしまい、適正範囲に制御することができなくなる。なお、Oの濃度はAl濃度を前記範囲に制御することで適正な範囲にすることができる。そこで、本発明では、O含有量を0.0001〜0.005mass%と定める。好ましくは0.0002〜0.004mass%である。
【0027】
Mg:0.0001〜0.008mass%
Mgは、介在物を好ましい形態であるMgOに制御してノズルの閉塞を防止し、さらには、ヘゲ疵を防止するために有効な成分である。このときのMg濃度が、0.008mass%超だとCaOの生成が著しい。しかしながら、0.0001mass%未満となると酸素濃度が0.005mass%を超えて高くなり、介在物量が増加して疵を生成する。このような観点から、Mgの含有量は0.0001〜0.008mass%と規定する。好ましくは0.0002〜0.006mass%である。
【0028】
Ca:0.0001〜0.003mass%
Caは、介在物を好ましい形態であるCaO−Al−TiO系に制御して、ノズルの閉塞を防止すると共に、疵の発生を防止するために有効な成分である。しかし、Fe−Ni−Cr系合金中においてその含有量が0.003mass%を超えると、CaO介在物を生成させ、凝集合体による大型化し、表面欠陥をもたらす。ただし、このCa含有量が0.0001mass%未満と低くなると、酸素濃度が0.005mass%を超えて高くなり、介在物量が増加して疵を発生する。このような観点からCaの含有量は0.0001〜0.003mass%と定める。好ましいCa含有量は0.0002〜0.0025mass%である。
【0029】
本発明では、上掲の主要成分に加えて、任意添加成分としてさらに、Mo、Cu、Nbのいずれか一種または二種以上を、それぞれ4mass%以下、3mass%以下、1mass%以下の範囲において含有していても構わない。なお、本発明に係る合金は、残部成分としてFeおよび不可避的不純物からなるものである。その不可避的不純物としては、P、W、Co、Snなどを含む。
【0030】
本発明では、前述の各成分の好適組成に加えて、特にCa濃度とMg濃度については、さらに下記の関係式を満して含有させる。即ち、Mg:0.0001〜0.008mass%、Ca:0.0001〜0.003mass%の範囲を満たしつつ、下記の関係式;
[mass%Ca]≦0.0002+10(−3×log[mass%Mg]−10.7)
を満たすことで、ノズル内の付着物の厚みは、2mm以下と大変良好な状態となり、なおかつヘゲ疵も発生させることがなく、いわゆる浸漬ノズルの閉塞もなく、表面性状に優れたAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金を製造することができるようになる。
【0031】
前記式のMgとCaの関係式は、図1に示す実験結果から導かれたものである。即ち、図1の中で、浸漬ノズル内壁への付着物厚みが2mm以下であって鋳込み速度の低下がなく、かつAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金板表面にヘゲ状疵、線状疵がないものを○、浸漬ノズル内壁への付着物厚みが2mmを超えて5mm以下であって、鋳込み速度の低下が発生したり、Al、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金板表面にヘゲ状疵、線状疵がないものを△、浸漬ノズル内壁への付着厚みが5mm超であって、鋳込み速度の低下が発生し、かつAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金板表面にはヘゲ状疵、線状疵が発生したものを▲で示した。つまり全てにおいて良好な結果が得られた境界領域を示す曲線Gを式として示したのが、上記関係式である。
【0032】
次に、前記Al、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の製造方法について説明する。
まず、電気炉等の精錬炉内に原料を装入してFe−Ni−Cr系合金を溶製する。次いで、得られた合金溶湯をAOD処理、VOD処理、またはAOD→VOD処理のいずれかの処理を行なって脱炭し、石灰や蛍石、Alを投入してCaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを生成させることにより、Cr還元、脱酸を起させて、本発明の前述の合金成分組成となるように成分調整を行なった。その後、該合金溶湯を連続鋳造法、または普通造塊法にて鋳造してスラグを製造する。このような処理を施すことによって、Alによる脱酸、脱硫を効果的に行うことができる。
【0033】
また、本発明では、Al、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の製造方法に当たり、電気炉等に原料を装入してFe−Ni−Cr合金を溶製し、次いでAOD処理、VOD処理あるいはAOD→VOD処理のいずれかの処理を行なって脱炭した後に、石灰、蛍石、Alを投入してCaO/Al:1.0〜5.0、CaO/SiO:4.0〜11.0、MgO:5〜20mass%からなるCaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを形成することにより、Cr還元、脱酸すると共に、本発明に係る所定の成分組成となるように調整を行い、その後、該合金溶湯を連続鋳造法、または普通造塊法にて鋳造し、スラブを製造する方法であってもよい。
【0034】
これらの処理のなかで、スラグ中のMgO、CaO成分を確実に還元してMg、Caを該合金中に効果的に供給することで、本発明に係る所定の成分組成に調整すると共に、介在物を好ましい形態であるMgOやCaO−Al−TiO系に制御する。これによって、ノズルの閉塞を防止し、さらには、疵を防止することが可能になる。
以下、Al、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の製造方法について説明する。
【0035】
スラグ中のCaO/SiO:4.0〜11.0
前記スラグのCaO/SiO比を、4.0〜11.0の範囲内の値にすると、介在物を好ましい形態であるMgOやCaO−Al−TiO系のものにすることができる。特に、このCaO/SiOが11.0を超えると、溶融合金の酸素濃度が0.0001%未満と低くなりすぎ、スラグ中のCaOやMgOが過剰に還元されて、本発明にかかるMgおよびCa濃度の上限を超えてしまう。一方、4.0を下回ると脱酸や脱硫が効きにくくなる。従って、スラグ成分のCaO/SiO比は4〜11と定める。
【0036】
CaO/Al:1.0〜5.0
スラグのCaO/Al比は、介在物を好ましい形態であるMgOやCaO−Al−TiO系に制御するための重要な因子である。CaO/Al比は小さくとも1.0以上はないと、その効果を発揮できない。しかし、5.0を超えると、溶融合金の酸素ポテンシャルが少し低くなり、スラグ中のCaOの還元を促進して、介在物組成としてCaOを形成してしまう。従って、スラグ中のCaO/Al比は1〜5と定める。
【0037】
MgO:5〜20mass%
スラグ中のMgOは、スラグの粘度を制御し、溶鋼成分を制御するのに有用である。5mass%を下回って低くなると、スラグの融点を上げ、操業温度におけるスラグ粘度を上昇させる。しかし、スラグ中のMgOを20mass%を超えて高くすると、溶鋼中のMg濃度を本発明にかかる濃度範囲に制御することができなくなる。従って、スラグ中のMgO濃度は5〜20mass%と定める。
【0038】
Mg調整方法;
本発明において、Mgは、上記成分組成に調整されたスラグ中に含まれるMgOがAlにより還元されることで溶融Fe−Ni−Cr合金中に供給され、本発明で必要とされる所定の濃度範囲に調整を行なうものである。
【0039】
Ca調整方法;
Caは、上記成分に調整されたスラグ中に含まれるCaOがAlにより還元されることで溶融Fe−Ni−Cr合金中に供給され、本発明に適合する濃度範囲に調整を行なうものである。
【0040】
非金属介在物の形態;
本発明で観察される介在物は、MgO、CaO−Al−TiO介在物である。MgOはいわゆる単体介在物でありMgOが95mass%以上のものであった。CaO−Al−TiO系介在物は、CaO:10〜70mass%、Al:35mass%以下、TiO:5〜85%の範囲である
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を示し、本発明の効果をより明確なものとする。
(1) Al、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金の製造
表1に示す成分組成を有する本発明に適合する発明例No.1〜1のAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金と、本発明の要件から外れる参考例No.12〜19、比較例No.20〜30のAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金を、以下のとおりに製造した。
まず、スクラップやNi、Cr、Mo、Cuなどからなる原料60tonを電気炉で溶解しながら、所定の組成に調整し、次いでAOD処理、VOD処理、およびAOD→VOD処理の3とおりのいずれかの処理より、酸化精錬による脱炭処理を行なった。続いて、AODあるいはVODにおいて、所定量のAlを添加して酸化期スラグから酸化クロムを還元・回収した後、スラグの除去を行なった。その後、石灰石、螢石、珪砂、アルミナのうち1種、または2種以上をフラックスとして添加し、所定のCaO/SiO比、かつCaO/Al比となるように調整して溶鋼を脱酸・脱硫し、取鍋精錬装置で微量成分調整および温度調整を行ない。その後、普通造塊に鋳造するかまたは連続鋳造機により鋳造した。さらに、その後、熱間圧延、冷間圧延を施して、1mm厚みのAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金板を製造し、この合金板の表面欠陥について評価を行なった。
【0042】
(2)調査および評価
製造したAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金について、以下の調査を行なった。
A.メタル組成の分析
蛍光X線分析により定量分析した。ただし、Cは赤外線吸収法、OおよびNは不活性ガスインパルス融解赤外線吸収法によった。
B関係式
メタル組成分析によって得られたMg濃度(mass%)の値を用いて、MgとCaの関係式である[mass%Ca]≦0.0002+10(−3×log[mass%Mg]−10.7)により求まる値をCa*として表1に示した。
C.スラグ組成の分析
CaO、SiO、Al、MgO、Cr、FeO濃度を蛍光X線分析により定量分析した。
D.介在物形態
連続鋳造時のタンディッシュ内溶鋼または普通造塊時の鋳型内溶鋼を採取し、サンプル中に含まれる介在物を無作為に10個選出し、EDSによる組成分析を実施した。
E.浸漬ノズルへの付着物厚み計測
連続鋳造機による鋳造後、浸漬ノズルを回収し、モ−ルド内で溶鋼に浸漬しているときの溶鋼表面の高さ近傍におけるノズル内壁への付着物の厚みの最大値を測定した。
なお、表2には、ノズル内付着物厚みが2mm以下のとき○、2mmを超えて5mm以下のとき△、5mm超のとき×として評価した。また、普通造塊の場合は取鍋から溶融合金を注ぐノズルを回収して、同様に評価した。
F.鋳込み速度低下
所定の鋳込み速度は600〜800mm/分として鋳造したが、鋳造を通して鋳込み速度を変化させる必要がなかった場合を○と評価し、表2に示した。一方で、浸漬ノズル内付着により溶融合金の供給が追い付かなくなってしまい、20%以上速度低下した場合を×と評価し、表2に示した(なお、普通造塊の場合はこの項目は関係ない)。
G.表面疵
目視により判定を実施した。ヘゲ状疵、線状疵がないものを○、合金板表面の補修を必要としたものを×で評価した。
H.総合判定
総合判定として、浸漬ノズル内壁への付着物厚みが2mm以下であって、鋳込み速度の低下がなく、かつAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金板表面にヘゲ状疵、線状疵がないものを○、浸漬ノズル内壁への付着物厚みが2mmを超えて5mm以下であって、鋳込み速度の低下が発生し、かつAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金板表面にヘゲ状疵、線状疵がないものを△、浸漬ノズル内壁への付着厚みが5mm超であって、鋳込み速度の低下が発生し、且つAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金板表面にヘゲ状疵、線状疵が発生したものを▲として表2および図1に示した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
(3)結果
発明例No.1〜11のAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金は、本発明の条件を全て満足しているために、介在物の形態は、MgOおよびCaO−Al−TiO系酸化物の組み合わせに制御できていたことがわかる。なお、これらの例は、AOD処理、VOD処理、AOD→VOD処理のいずれかの処理で脱炭した後に、石灰、蛍石、Alを投入し、CaO/Al:1.0〜5.0、CaO/SiO:4.0〜11.0、MgO:5〜20mass%からなるCaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを形成し、Cr還元、脱酸、脱硫し、本発明に適合する合金成分に調整したものである。これらの例においては、表1に示すとおり、[mass%Ca]≦0.0002+10(−3×log[mass%Mg]−10.7)の関係式から求まるCa*は、Ca濃度よりも大きく、[mass%Ca]≦0.0002+10(−3×log[mass%Mg]−10.7)の式を満足していた。さらに、浸漬ノズル内への付着は2mm以下であり、なおかつ、最終製品となる合金板には表面疵の発生は見られず、総合判定においても○であった。つまり、本発明に適合する合金については優れた表面品質を有するAl、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金が得られている。
【0046】
一方、参考例のNo.12〜19では、溶融合金の化学成分は本発明の範囲を満たすことができたが、スラグのC/S、C/A、MgO濃度のいずれかに範囲を外れたものがあった。また、[mass%Ca]≦0.0002+10(−3×log[mass%Mg]−10.7)の関係式から求まるCa*は、Ca濃度よりも小さく[mass%Ca]≦0.0002+10(−3×log[mass%Mg]−10.7)の式を満足することができなかった。そのため、介在物の形態がMgO、CaOおよびCaO−Al−TiO系酸化物となった。つまり、ノズル内付着をもたらすCaOが一部形成されていた。その結果、ノズル内付着は2mmを超えて、5mm以下となり、溶融合金の供給が不足して鋳込み速度の低下を招くという操業上の問題を起こし、鋳込み速度低下に対する評価は×であった。ただし、表面疵は発生しておらず、○評価であったことから、総合判定は△であった。
【0047】
次に、比較例を説明する。No.20〜26は、Alが0.6mass%を超えて高かった例である。さらにスラグ中のC/S、C/A、MgO濃度のいずれかに範囲を外れたものがあった。その結果、酸素濃度が0.0001mass%未満と下限を下回り、MgとCa濃度が上限を超えて混入してしまった。そして、介在物形態は最も付着傾向が強いCaOが形成した。ちなみに、介在物を測定した個数中70%以上(10個中7個以上)がCaOであったために、付着物の厚みは5mmを超えて厚いものとなり、×判定であるとともに、鋳込み速度の低下をも招いた(×判定)。さらには、表面疵をも発生させ、×評価となってしまったことから、総合判定は▲であった。No.27〜No.30は、Al濃度が0.060mass%以下と低かったために、酸素濃度が0.005mass%を超えて高くなった。また、スラグのC/S、C/A、MgO濃度のいずれかが範囲を外れた。その結果、介在物形態はFeO−Cr−MnO−TiO−SiOとなり、介在物の量が増えたために、ノズル内付着が5mmを超えて厚くなり、×判定であったとともに、鋳込み速度の低下をも招いた(×判定)。さらには、表面疵をも発生しており、×評価となってしまったことから、総合判定は▲であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の技術は、Al、Ti含有Fe−Ni−Cr系合金に適用した場合に有効であるが、Mg、Caを含むステンレス鋼などに対しても適用が可能である。
図1