【実施例1】
【0025】
<速度可変と下死点加圧を使用するプレス成形方法>
なお、本発明に係るプレス成形装置(プレスマシン)は、
図8に示すように、動力源の回転運動を往復直線運動に変換する回転運動・直線運動変換機構(例えば、クランク機構、偏芯カム機構、リンク機構など)に連結されて往復直線運動されるメインスライド25(本発明のスライド)を備えたプレス成形装置(プレスマシン)である。
実施例1では、以下のステップに従ってプレス成形を実行する。
【0026】
ステップ1では、本発明に係るプレス成形装置であるプレスマシン100が上死点の状態(スライドが下死点位置にある状態)にて、上金型30や下金型31のキャビティ内面に離型剤や潤滑剤を塗布や噴霧などにより適用する(
図1参照)。
その後、予め電磁撹拌装置等によって容器内の溶湯を電磁撹拌しながら冷却することにより製造された固相率30〜90%の半凝固金属材料(半凝固材料;半凝固スラリー)(素材、被加工材)を下金型31のキャビティ(凹部)内に供給する(
図2参照)。なお、最終的に得られる成形品は、
図7に示すようなリンク部品(例えばコネクティングロッドなど)を一例としている。
上金型30、下金型31には、必要に応じて、電熱式のヒータ(
図1、
図2参照)や温度センサ(熱電対)などを設置し、半凝固金属材料(素材)を所定温度に維持する制御を行う構成とすることができる。
【0027】
ステップ2は、ステップ1での半凝固金属材料(素材)の投入後、メインスライド25を下降させて成形動作を開始し、上金型30が半凝固金属材料(素材)に接触する前まで(
図3参照)は、比較的高速でメインスライド25を下降させる。
【0028】
ステップ3は、上金型30と半凝固金属材料(素材)が接触する直前に、接触の衝撃で半凝固金属材料(素材)の溶融部分などが飛散することを防止したり、半凝固金属材料(素材)の流動速度を適切に保つために、メインスライド25の下降速度を遅くする(
図4参照)。なお、メインスライド25の下降速度を変化させる技術としては、公知の機械プレスのスライドモーション制御装置(例えば、特開2013−220475号公報等参照)を利用することができる。
【0029】
ステップ4では、メインスライド25を下死点に向けて下降させて所定位置(例えば下死点位置)に到達したときに(
図5参照)メインスライド25を一時停止させ、半凝固金属材料(成形品)に所定圧力(例えば、略一定の圧力)を所定時間付与する。なお、半凝固金属材料に付与される圧力は、これが作用している面積でスライド荷重或いはプレス荷重を除算したものであり、スライド荷重或いはプレス荷重に比例した値に相当する。
【0030】
しかし、成形品は半凝固金属材料であるため、経時と共に冷却されて凝固するが、この間に、成形品の体積が収縮してしまう。
【0031】
従って、クランク軸21に連結されたメインスライド25の動作だけでは、成形品の体積収縮に応じてスライド荷重を変化させることは非常に困難である。
【0032】
すなわち、プレスマシン100のようなクランク機構等の回転運動‐往復直線運動変換 機構によりスライドを往復移動させる構造の場合、下死点付近ではクランク角度の僅かな変化でスライド荷重が極めて大きく変化してしまう特性があるため、メインスライド25の位置制御だけでスライド荷重を精度良く制御することは非常に困難である。
【0033】
このため、実施例1では、プレスマシン100の油圧機構(流体圧機構)を介して、成形品に作用する圧力(荷重)(すなわち、荷重センサ18により検出するメインスライド25に作用するスライド荷重(プレス荷重))を制御することができるように構成されている。
かかる圧力制御の方法としては、公知の機械プレスのプレス荷重制御装置(例えば、特開2012−86246号公報等参照)を利用することができる。
【0034】
具体的には、メインスライド25を下死点に向けて下降させて、上金型30と半凝固金属材料(素材)が接触した後は、半凝固金属材料(素材)が上金型30及び下金型31で囲まれたキャビティ内に良好に広がって充満するのに必要な圧力で上金型30により半凝固金属材料(素材)を押圧するが、このとき、メインスライド25の下降に従って上金型30を下降させてしまうと圧力が上昇し過ぎてしまうことにもなるため、メインスライド25の下面と上金型30との間に備えられているサブスライド26を介して、上金型31の下降をメインスライド25の動作から独立して制御(上金型31をメインスライド25に対して相対移動可能に制御)することができるように構成されている。
【0035】
実施例1では、
図8に示すように、サブスライド26は、油圧室23を介してメインスライド25に接続されているため、油圧室23の油圧の大きさを制御することで、サブスライド26を下方から押し上げる力に抗して所定圧力をサブスライド26延いては上金型30に付与することができるようになっている。
【0036】
ここで、例えば、サブスライド26延いては上金型30を下方(半凝固金属材料)に向けて所定圧力で押圧する場合(メインスライド25に対してサブスライド26延いては上金型30を相対的に下降させたい場合)は、
図8に示したように、油圧室23に接続される油圧ラインに接続される油圧回路に備えられている油圧ポンプ2を電動サーボモータ3により所定に駆動することで、油圧センサ11により油圧が所定油圧となるように検出しながら油圧回路内の油圧を所定圧に昇圧し、その所定圧に昇圧された油を油圧室23に供給するようになっている。
【0037】
この一方で、例えば、サブスライド26延いては上金型30が下方(半凝固金属材料)から押し上げられる力に抗して半凝固金属材料に作用する圧力を所定圧力を維持する場合(メインスライド25に対してサブスライド26延いては上金型30を相対的に上昇させたい場合)は、
図8に示したように、油圧室23に接続される油圧ラインに接続される油圧回路に備えられている油圧ポンプ2を油圧室23側から送られる高圧の油により駆動させるように油圧回路を切り換えると共に、その際に油圧センサ11により油圧が所定油圧となるように電動サーボモータ3により油圧ポンプ2に作用する負荷の大きさを制御することで、油圧室23内の油圧を所定圧に維持制御できるようになっている。
【0038】
なお、
図8において、符号1、7はアキュームレータであり、符号4はパイロット操作・チェック弁であり、符号5は電磁弁であり、符号6はリリー弁(安全弁)であり、符号11、12は圧力センサであり、符号13はサーボモータの角速度センサであり、符号14はクランク軸21の角速度センサであり、符号16はクランク軸21の角度位置センサであり、符号17はサブスライドの位置センサであり、符号18はスライドの荷重センサであり、符号21はクランク軸であり、符号22はコネクティングロッドである。
【0039】
そして、ステップ4での成形終了後、ステップ5では、メインスライド25を下死点位置から上昇動作を開始し、メインスライド25が所定量(例えば10mm程度)下死点位置から上昇するのを待ち、ノックアウト装置により下金型31内の成形品を上方に押し出すことで、成形品を下金型31から取り出す(
図6参照)。
【0040】
このように、実施例1では、メインスライド25の移動動作から独立してサブスライド26延いてはこれと一体的な上金型30を移動させることができるようにする(サブスライド26延いてはこれと一体的な上金型30を、メインスライド25に対して相対移動可能に構成する)と共に、メインスライド25とサブスライド26との間に設けた油圧室23の油圧を制御することにより、サブスライド26延いては上金型30の下面に作用する圧力(荷重センサ18により検出されるメインスライド25に作用するプレス荷重)を所望に制御することができるようにしたので、半凝固金属材料がプレス成形中に経時と伴に冷却されて凝固する際に体積収縮があっても、該体積収縮に応じてサブスライド26延いては上金型30をメインスライド25から独立して下降させ、キャビティ内の半凝固金属材料に対して所定(例えば略一定)の成形圧力(スライド荷重;プレス荷重)を所定時間継続して作用させることができる。
このため、実施例1によれば、引け巣、凝固巣、ガスホール等の欠陥のない機械的性質に優れた成形品を得ることができる。
【0041】
ここで、実施例1におけるプレス成形について、
図9に示したタイミングチャートに従って説明する。
既述したとおり、ステップ(
図9では、Sと記す。以下同様)2にて、上金型30と半凝固金属材料(素材)とが接触するまでは比較的高速でメインスライド25を下降させるが、このとき、サブスライド26は油圧室(油圧ピストン)23の油圧によりストッパ部25Aに当接されている。
【0042】
ステップ3(S3)にて、上金型30と半凝固金属材料(素材)とが接触する直前にてメインスライド25の下降速度を遅くする。
そして、実施例1では、
図9のS3Aにて、上金型30と半凝固金属材料(素材)とが接触した後、半凝固金属材料(素材)が下金型31と上金型30により囲まれたキャビティ内に充満されるまでの間において、半凝固金属材料(素材)が飛散したりしないように、下金型31と上金型30により囲まれたキャビティ内に半凝固材料が充満させることができる適切な速度でメインスライド25を下降させる。なお、このとき、サブスライド26は油圧室23の油圧により下方に付勢されてストッパ部25Aに所定圧力で当接されている。すなわち、メインスライド25に対するサブスライド26の上方への相対移動のストローク量(
図9のB参照)が0となっている。
【0043】
そして、下金型31と上金型30により囲まれたキャビティ内に半凝固材料を充満させた後、
図9のS3Bにて、下金型31と上金型30により囲まれたキャビティ内の半凝固金属材料(素材)が必要以上に加圧されないように、油圧室(油圧ピストン)23の油圧を制御し、半凝固金属材料(素材)に所定圧力(略一定の第1所定圧力)を作用させるようになっている(
図9のE参照)。かかる制御内容が、請求項2、3に記載の発明の内容に相当している。
このときの油圧室(油圧ピストン)23の油圧制御によって、メインスライド25が下降するのに応じてサブスライド26を上向にストロークさせることになる(
図9のB参照)。
【0044】
従って、
図9のS3Bで示すように、メインスライド25の下降量(メインスライド位置)と、サブスライド26の上方向へのストローク量S(
図9のB参照)と、が合計されて、上金型30の上下方向位置(下金型31やボルスタの上面からの距離)は略一定に維持される(
図9のC参照)。これにより、下金型31と上金型30により囲まれたキャビティ内の半凝固材料を適切な圧力(第1所定圧力)で充満させることができる。
【0045】
続くステップ4(S4)では、メインスライド25を下死点位置に向けて下降させて所定位置(例えば下死点位置)に到達したときにメインスライド25を一時停止させ、成形品に所定圧力(例えば、略一定の圧力)を所定時間付与するが、成形品は半凝固金属材料であるため、経時と共に冷却されて凝固するため、この間に、成形品の体積が収縮してしまう。このため、
図9のS4に示すように、油圧室23の油圧を制御し、体積収縮があっても半凝固金属材料に所定圧力(第2所定圧力:第2プレス荷重)を所定時間付与できるように(
図9のE参照)、サブスライド26を体積収縮に合わせて下方にストロークさせて(
図9のB参照)、上金型30を半凝固金属材料に向けて徐々に下降させる(
図9のC参照)。かかる制御内容が、請求項1に記載の発明の内容に相当している。
なお、ステップ4(S4)において、メインスライド25は下死点位置に一時停止させているが、下死点以外の位置であっても所望のプレス荷重を発生させることができる場合には、下死点以外の位置に一時停止させることも可能である。
【0046】
そして、ステップ4での成形終了後、ステップ5(S5)を経て、上記ステップ1へ戻り、S2〜S5を繰り返すことで、連続的なプレス成形が行われる。
図10のタイミングチャートに、実際のスライド位置(メインスライドの動きの様子)と、油圧室23内の圧力(スライド荷重(プレス荷重)に相当)の測定結果を示しておく。
【0047】
このように、実施例1によれば、メインスライド25の下死点キャビティ内の半凝固金属材料に対して所定の成形圧力(スライド荷重;プレス荷重)を所定時間継続して作用させることができるため、引け巣、凝固巣、ガスホール等の欠陥のない機械的性質に優れた成形品を得ることができる。
【0048】
以上のように、実施例1によれば、メインスライド25の動作から独立して移動可能なサブスライド26を介して、メインスライド25に上金型30を取り付けると共に、メインスライド25とサブスライド26の間に油圧室23等を含んでなる油圧機構(流体圧機構)を設け、それの油圧制御によりメインスライド25に対するサブスライド26の相対位置を制御することが可能な構成としたので、メインスライド25を下降させて所定位置に到達したときに停止させ、その状態で、半凝固金属材料に所定の成形圧力(スライド荷重;プレス荷重)を所定時間継続して付与することができるため(
図9のS4参照)、引け巣、凝固巣、ガスホール等の欠陥のない機械的性質に優れた成形品を得ることができる。
【0049】
すなわち、回転運動を往復直線運動に変換するためのクランク軸21に連結されたメインスライド25の動作だけでは、成形品の体積収縮に応じてスライド荷重を変化させることは非常に困難である(下死点付近ではクランク角度の僅かな変化でスライド荷重が極めて大きく変化してしまう特性があるため、メインスライド25の位置制御だけでスライド荷重を精度良く制御することは非常に困難である)が、実施例1では、プレスマシン100の油圧機構を介して、成形品(被加工材)に作用する圧力(荷重)(すなわち、荷重センサ18により検出するメインスライド25に作用するスライド荷重(プレス荷重))を簡単かつ精度良く制御することができ、これにより半凝固金属材料に所定の成形圧力(スライド荷重;プレス荷重)を所定時間継続して付与することができるため、引け巣、凝固巣、ガスホール等の欠陥のない機械的性質に優れた成形品を得ることができる。
【0050】
更に、実施例1では、メインスライド25を下降させて上金型31と半凝固金属材料とを接触させ、その後下金型31と上金型30により囲まれたキャビティ内に半凝固金属材料を充満させる際に(
図9のS3A参照)、下金型31と上金型30により囲まれたキャビティ内の半凝固金属材料が必要以上に加圧されないように、油圧室23の油圧を制御して、半凝固金属材料に所定圧力(第1所定圧力:第1プレス荷重)を作用させるようにメインスライド25が下降するのに応じてサブスライド26を上向にストロークさせるようにしたので、
図9のS4による成形前に、下金型31と上金型30により囲まれたキャビティ内の半凝固金属材料を適切な圧力で充満させることができ、以ってキャビティ内の半凝固金属材料を均質に分散させることができるため、素材(半凝固金属材料)の全領域での均質性が担保できず、製品において組織や組成等の局所的なバラツキが生じ、局所的に機械的強度が不足するなど、均質で安定した品質を確保し難くなるといったことを回避することができ、以って均質で機械強度的に優れ高品質のプレス成形製品を得ることができる。
【0051】
更に、実施例1では、半凝固金属材料(素材)の投入後、メインスライド25を下降させて成形動作を開始し、上金型30が半凝固金属材料(素材)に接触する前まで(
図3、
図9参照)は、比較的高速でメインスライド25を下降させる(ステップ2参照)ことで、生産スピード延いては生産効率を改善しつつ、上金型30と半凝固金属材料(素材)が接触する直前に、メインスライド25の下降速度を遅くするようにしたので、接触の衝撃で半凝固金属材料(素材)の溶融部分などが飛散することを防止したり、半凝固金属材料(素材)の流動速度を適切に保つことができるため、生産性の改善と、引け巣、凝固巣、ガスホール等の欠陥のない機械的性質に優れた成形品を得ること、との両立を図ることができる。
【0052】
以上のように、従来の半凝固金属材料の成形方法では、引け(体積収縮)の問題に対処するためには、上金型や下金型を複数に分割するなどし、これら分割された金型を引けに応じて相対移動させ金型のキャビティ容積を変更するなどの必要があり、分割された金型間に微細な隙間などが存在するなどして成形品の品質に悪影響を及ぼすおそれがあると共に、装置や設備が複雑化・高コスト化し、更には高い圧力でのプレス成形への適応も困難であると共に、耐久性・信頼性に関する問題が生じるおそれがあるといった実情があったが、実施例1によれば、サブスライド26をメインスライド25に対して相対移動させるといった比較的簡単な構成により引けの問題に対処できるようにしたので、簡単かつ低コストな構成でありながら、引け巣、凝固巣、ガスホール等の欠陥のない機械的性質に優れた成形品を得ることができる半凝固材料のプレス成形方法及び装置を提供することができる。
【0053】
なお、実施例1におけるプレスマシン100は、動力源の回転運動をスライド(金型)の往復直線運動に変換する機構を備えたプレスマシンであり、動力源としては、フライホイールの回転運動、サーボモータなどの何れも採用することができるものである。
【実施例2】
【0054】
実施例2は、実施例1に対して、上金型と素材が接触した以降において上金型に振動ストロークを付与するようにした実施例である。
ステップ1、2は実施例1と同様である。
【0055】
ステップ3’にて、上金型30と半凝固金属材料(素材)が接触する直前または接触した直後から、メインスライド25の動きから独立させて上金型30を一定距離圧下し、その後、一定距離上金型30を上昇させるといった上下動動作を繰り返す。例えば、3mm圧下し(
図11参照)、1.5mm上昇させる(
図12参照)、といった上下動動作を繰り返し、下死点まで2.5secで到達させる。かかる上下動(振動)の周波数の一例としては、0.8〜11.6Hz程度が想定され、振動幅としては上述した例に限定されるものではなく、例えば0.04mm以上とすることができる。
なお、かかる下降、上昇のスライドの動作させる技術としては、例えば、特開2014−144470号公報に記載の技術を利用することができる。かかる制御内容が、請求項2、4に記載の発明の内容に相当している。
【0056】
具体的には、
図8に示したように、メインスライド25に対して相対的にサブスライド26を上方から下向きに圧下させるための上側の油圧室23と、メインスライド25に対して相対的にサブスライド26を下方から押し上げるための下側油圧室24と、に対して、交互に油圧付与(アキュームレータ1、17、油圧ポンプ2、電動サーボモータ3など利用)と、油圧解放と、を繰り返すことで、メインスライド25の動きから独立して上金型30を一定距離圧下させ、その後、一定距離上金型30を上昇させるといった動作を繰り返すことで振動させることができる。
【0057】
そして、メインスライド25が所定位置(例えば下死点位置)に到達したとき(
図13参照)には、実施例1と同様のステップ4を実行し、メインスライド25を一時停止させ、成形品に所定圧力(例えば、略一定の圧力)を所定時間付与する(実施例1と同様のプレス成形を行わせる)。
【0058】
その後、実施例1と同様に、ステップ5により、メインスライド25を下死点位置から上昇動作を開始し、メインスライド25が所定量(例えば10mm程度)下死点位置から上昇するのを待ち、ノックアウト装置により下金型31内の成形品を上方に押し出すことで、成形品を下金型31から取り出す(
図14参照)。
【0059】
実施例2によれば、実施例1の作用効果に加え、実施例2では振動加圧を行うため、半凝固金属材料に対して短時間の加圧と短時間の圧力解放が繰り返されるため、半凝固金属材料(半凝固アルミニウム合金スラリー)の内部は半凝固状態、外周部は金型との接触や外気により冷却が進んで熱間変形状態になっているものと推定されるため、短時間の圧力解放によって、半凝固金属材料(半凝固アルミニウム合金スラリー)の外表面に熱間塑性加工で生じた応力の緩和をもたらすことができるため、塑性流動に変化を与えることができ、以って割れなどの欠陥の発生を防止することができる。
【0060】
また、プレス成形の際の荷重によって金型は弾性変形するが、実施例2のように圧力解放することで、その金型の弾性変形を回復させてから成形することで、寸法精度の高いプレス成形が可能となる。
【0061】
更に、実施例2のように加圧力を振動させることにより、潤滑剤(油性)の再流入が可能となるため、金型への成形品の凝着等を防止することができる。
【実施例3】
【0062】
実施例3は、実施例1に対して、スライド(上金型)の下死点位置を、仮想下死点位置と、真の下死点位置の2点とし、振動加圧等を与えるようにした実施例である。
ステップ1、2、3は実施例1と同様である。
【0063】
実施例3では、ステップ4’にて、実際のスライド下死点位置より手前(上方)に設定した仮想下死点位置Aにメインスライド25(サブスライド26延いては上金型30)が到達した状態(
図15参照)で、実施例1と同様の方法により、半凝固金属材料(素材)に所定圧力を所定時間付与して凝固を完了させる。
【0064】
その後、プレス成形完成品(製品)として必要な寸法を得るための真の下死点位置B(ボルスタからの高さ:A>B)として、サブスライド26(上金型30)を真の下死点位置Bまで下降させる(
図16参照)。
【0065】
その際に、
図17において符号Xで示す波線のように、例えば、実施例2の振動加圧方法と同様の方法により、短時間の加圧と短時間の圧力解放を繰り返して半凝固金属材料を成形するような成形方法とすることができる。
【0066】
または、
図17において符号Yで示す曲線のように、例えば、実施例2の振動加圧方法と同様の方法を利用するが、振動加圧の振幅を大きくすると共にサイクル時間(振動周期)を長くして2回の加圧(1回の圧力解放)により成形するような成形方法とすることができる。
【0067】
または、実施例1や実施例2と同様の方法によってサブスライド26をメインスライド25から独立して下降させると共に油圧室23の圧力を所定に昇圧させ、これにより、
図15において符号Zで示す直線のように、仮想下死点位置Aでの加圧よりも大きな加圧力(スライド荷重)となるように加圧力を急激に切り替えて成形するような成形方法とすることができる(
図17のタイミングチャートの荷重(圧力)の変化を参照)。
上述した各種の制御内容(
図17の符号X、Y、Zに示した制御内容)が、請求項5に記載の発明の内容に相当している。
【0068】
このように、スライドが下死点(仮想下死点を含む)に到達したときに、キャビティ内の半凝固金属材料に対して所定時間、所定圧力(プレス荷重)を付与してプレス成形する際に、サブスライド26(上金型30)により半凝固金属材料(素材)を加圧振動するようにすると、既に凝固している材料に温間塑性加工を与えることができるので、より緻密で、鍛造類似の流動した鍛造組織を得ることができる。
【0069】
従って、実施例3によれば、実施例1、2と同様、引け巣、凝固巣、ガスホール等の欠陥のない機械的性質に優れた成形品を得ることができるうえに、更に、強度と延性が向上した成形品を得ることができる。
【0070】
なお、特に、上金型30と下金型31とを突き当てるのではなく、上金型30が下金型31内に嵌り込み、プレスマシン(スライド)の停止位置の精度により成形品の寸法精度を期待するといった金型の場合、予め、塑性加工分を見積もり、半凝固金属材料(スラリー)の凝固位置(仮想下死点位置A)を決めて、真の下死点位置Bまで温間鍛造を加えることで、寸法精度の高精度化を図ることができると共に、材料組織に変化を与えて強度向上などを図ることができる。
【0071】
なお、上記では、油圧を用いてメインスライド25に対してサブスライド26を相対移動させる機構を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の流体圧を用いた機構にも適用可能である。
【0072】
ところで、半凝固金属材料としては、例えば、アルミニウム合金などとすることができるが、他の金属或いは合金とすることができる。
【0073】
以上のように、本発明によれば、動力源の回転運動をスライド(金型)の往復直線運動に変換する機構を備えたプレスマシンを利用して半凝固金属材料をプレス成形するプレス成形装置及び方法であって、簡単かつ低コストな構成でありながら、引け巣、凝固巣、ガスホール等の欠陥のない機械的性質に優れた成形品を得ることができる半凝固金属材料のプレス成形装置及び方法を提供することができる。
【0074】
以上で説明した実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは勿論である。