特許第6066439号(P6066439)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6066439リベロマイシンAまたはその合成中間体の製造法、スピロケタール環含有化合物の製造方法、並びに新規抗癌剤、抗真菌剤および骨疾患治療剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066439
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】リベロマイシンAまたはその合成中間体の製造法、スピロケタール環含有化合物の製造方法、並びに新規抗癌剤、抗真菌剤および骨疾患治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/35 20060101AFI20170116BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   A61K31/35
   A61P35/00
【請求項の数】1
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2015-237319(P2015-237319)
(22)【出願日】2015年12月4日
(62)【分割の表示】特願2012-531904(P2012-531904)の分割
【原出願日】2011年8月30日
(65)【公開番号】特開2016-40318(P2016-40318A)
(43)【公開日】2016年3月24日
【審査請求日】2015年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2010-194222(P2010-194222)
(32)【優先日】2010年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(72)【発明者】
【氏名】長田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊二
(72)【発明者】
【氏名】川谷 誠
(72)【発明者】
【氏名】榊 佳之
(72)【発明者】
【氏名】豊田 敦
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−194525(JP,A)
【文献】 特開平04−049296(JP,A)
【文献】 Angew Chem Int Ed,2007年,Vol.46,p.8854-8857
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(III)表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする
、抗癌剤。
【化1】
R5R7、R8およびR9は炭素数1〜6のアルキルを示し、R6は炭素数3〜6のアルキルを示し、R10は水素原子または炭素数1〜5のアルキルを示す
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組み換えを利用した新規なリベロマイシンAまたはその合成中間体の生産菌およびそれを用いたリベロマイシンAまたはその合成中間体の製造方法、並びにスピロケタール環含有化合物の製造方法に関するものである。本発明はまた、新規抗癌剤、抗真菌剤および骨疾患治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リベロマイシンA(RM-A)は、破骨細胞選択的に低濃度でアポトーシスを誘導することや腫瘍の骨転移を抑制することが知られている(特許文献1)。RM-Aはスピロケタール環を有するポリケチド化合物であり、合成化学的手法が確立しているが、多段階の合成ステップが必要である。また、ストレプトマイセス属細菌(Streptomyces sp. SN-593)によって
発酵生産されるが(特許文献2)、大量に生産するのは難しかった。そして、リベロマイシン生合成に関わる遺伝子はこれまで報告がないため、遺伝子組み換えによってリベロマイシン生産菌を育種することもなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−223945号公報
【特許文献2】特開平4−49296号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明はリベロマイシンAおよびその合成中間体を効率よく生産することのできる微生物を遺伝子組み換えにより創製することを課題とする。本発明はまた、スピロケタール環含有化合物を効率よく得るための方法を提供することを課題とする。本発明はまた、新規抗癌剤、抗真菌剤および骨疾患治療剤を提供することを課題とする。
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、リベロマイシン生合成遺伝子クラスターの同定に成功し、その中のrevQ遺伝子を高発現させたストレプトマイセス属細菌がリベロマイシンAおよびその合成中間体を効率よく生産することを見出した。さらに、revG及びrevJ遺伝子産物はスピロケタール環の生成反応を触媒することを見出し、これを用いることでスピロケタール環含有化合物を効率よく製造できることを見出した。さらに、下記の一般式(III)や(IV)で示される化合物が抗癌剤、抗真菌剤お
よび骨疾患治療剤として有効であることを見出した。以上の発見に基づき、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]リベロマイシンAまたはその合成中間体の生産能を有するストレプトマイセス属細菌であって、配列番号36のアミノ酸配列または該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするrevQ遺伝子の発現が親株と比較して増大するように改変され、それにより前記生産能が該親株よりも向上したストレプトマイセス属細菌。
[2]revQ遺伝子のコピー数を高めること、またはrevQ遺伝子のプロモーターの改変によってrevQ遺伝子の発現が増大した、[1]に記載の細菌。
[3]ストレプトマイセス sp. SN-593株をrevQ遺伝子の発現が増大するように改変するこ
とによって得られる、[1]または[2]に記載の細菌。
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載のストレプトマイセス属細菌を培地で培養し、培地中
にリベロマイシンAまたはその合成中間体を蓄積させ、その培養物からリベロマイシンA
またはその合成中間体を回収することを含む、リベロマイシンAまたはその合成中間体の製造方法。
[5]配列番号36のアミノ酸配列または該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードし、リベロマイシンAまたはその合成中間体の生産能を有するストレプトマイセス属細菌に導入したときに、該生産能を向上させるポリヌクレオチド。
[6]配列番号35の121−951の塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、リベロマイシンAまたはその合成中間体の生産能を有するストレプトマイセス属細菌に導入したときに、該生産能を向上させるポリヌクレオチド。
[7]配列番号14のアミノ酸配列または該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するRevGタンパク質を下記化合物(I)に作用させることにより、該化合
物(I)を下記化合物(II)に変換する工程を含む、化合物(II)の製造方法。
【化1】
1およびR3は、独立して、水素、または炭素数1〜25の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基(水素原子は、水酸基、カルボキシル基、オキソ基、フェニル基またはピリジル基で置換されてもよく、2つの水素原子は-O-により環を形成してもよい)であり、R2およびR4は独立して、炭素数1〜10のアルキル基である。
[8] 前記RevGタンパク質とともに配列番号20のアミノ酸配列または該アミノ酸配列と
80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するRevJタンパク質を化合物(I)に作用
させる、[7]に記載の化合物(II)の製造方法。
[9]化合物(I)が下記化合物(i)であり、化合物(II)が下記化合物(ii)である、[
7]または[8]に記載の方法。
【化2】
[10]配列番号14のアミノ酸配列または該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、化合物(I)を化合物(II)に変換する反応を触媒する活性を有す
るタンパク質。
[11] [10]に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
[12]配列番号13の121−939の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする、[11]に記載のポリヌクレオチド。
[13]配列番号2、4、6、8、10、12、16、18、20、22、24、26、28、30、34、38、40、42または44のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードし、リベロマイシン生合成関連タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
[14]下記一般式(III)または(IV)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩
を有効成分とする、抗癌剤。
【化3】
R5、R6、R7、R8およびR9は炭素数1〜6のアルキルを示し、R10は水素原子または炭素数
1〜5のアルキルを示す。
【化4】
R11、R12、R13、R14およびR15は炭素数1〜6のアルキルを示す。
[15]下記一般式(III)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分と
する、抗真菌剤。
【化5】
R5、R6、R7、R8およびR9は炭素数1〜6のアルキルを示し、R10は水素原子を示す。
[16]下記一般式(IV)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、骨疾患治療剤。
【化6】
R11、R12、R13、R14およびR15は炭素数1〜6のアルキルを示す。
【0007】
本発明によれば、リベロマイシンAおよびその合成中間体を効率よく生産することができる。また、スピロケタール環含有化合物を効率よく生産することができる。また、新規抗癌剤、抗真菌剤および骨疾患治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】S. sp. SN-593のリベロマイシン生合成遺伝子クラスターの構成を示す図。(a) 140-kb 領域のマップは全ゲノムショットガンシークエンスのコンティグ情報、RT-PCRに使用したKS-AT (●) およびER (○) 配列、ならびに7つのfosmid クローン(10E09, 11A02, 16E02, 16F06, 18G01, 23G06 および30B04)を含む。リベロマイシン生合成に関与すると予想される遺伝子領域を太線で示す。(b) リベロマイシン生合成遺伝子クラスターの遺伝子構成を示す。
図2】リベロマイシンA生合成経路を示す図。
図3】revG遺伝子破壊とサザンブロットおよび代謝物解析。(a) revG 破壊のスキームと、野生型およびΔrevG株の制限マップ。バーはApaLIで消化したときの予想される断片サイズ(bp)を示す。(b) 野生型(レーン2)とΔrevG(レーン3,4,5)のサザンブロット解析(右)(写真)。左はEtBr染色。(c, f) 野生株の培養抽出物からのリベロマイシン化合物のLC-MS解析。(d, g) ΔrevG株の培養抽出物からのリベロマイシン化合物のLC-MS解析。(e, h) ΔrevG株をpTYM19-Paph-revGで相補した株の培養抽出物からのリベロマイシン化合物のLC-MS解析。1 (RT=13.0, m/z 659 [M-H]-), 4 (RT=14.7, m/z 687 [M-H]-), 5 (RT=16.2, m/z 659 [M-H]-), 19 (RT=19.2, m/z 543 [M-H]-), and 20 (RT=19.1, m/z 573 [M-H]-)
図4】ΔrevHΔrevI二重遺伝子破壊スキーム(A)、遺伝子破壊の確認(B)(写真)、及び代謝産物の解析結果(C:standard, D:野生株, E:ΔrevHΔrevI二重遺伝子破壊, F: ΔrevHΔrevI二重遺伝子破壊にpTYM19-Paph-revIを再導入, G:ΔrevHΔrevI二重遺伝子破壊にpTYM19-Paph-revHを再導入, H: ΔrevHΔrevI二重遺伝子破壊にpTYM19-Paph-revHrevIを再導入)を示す図。
図5】revQ遺伝子破壊スキーム(A)、revQ遺伝子破壊の確認(B)(写真)、及び代謝産物の解析結果(C:野生株,D:revQ破壊株,E:revQ破壊株にrevQを導入,F:野生株でのrevQ過剰発現株)を示す。
図6】RevG 反応産物のLC-MS解析。 (a) 0,1,5,10分後のHPLCプロファイルを示す。(b, c, d) 0分のサンプルからの基質(RM-A1a:図2の(14))、1分のサンプルからの生成物(RM-A2a:図2の(17))、10分のサンプルからの生成物(RM-A3a、A3b:図2の(18a) および(18b))の質量分析結果を示す。(e,f)ギ酸非存在下(e)またはギ酸存在下(f)で、RM-A1a(14)を、熱処理RevG+RevJ、RevGのみ、またはRevG+RevJと反応させたときのLC-MS解析。
図7】RM-A1aのCD3OD中の 1H NMR スペクトル(A)および13C NMR スペクトル(B)。
図8】RM-TのCD3OD中の 1H NMR スペクトル(A)および13C NMR スペクトル(B)。
図9】RM-A2aのCD3OD中の 1H NMR スペクトル。
図10】RM-A3a、A3bのCD3OD中の 1H NMR スペクトル(A)および13C NMR スペクトル(B)。
図11-1】RevGの基質となりうる化合物の例を示す図。
図11-2】RevGの基質となりうる化合物の例を示す図。
図11-3】RevGの基質となりうる化合物の例を示す図。
図11-4】RevGの基質となりうる化合物の例を示す図。
図11-5】RevGの基質となりうる化合物の例を示す図。
図11-6】RevGの基質となりうる化合物の例を示す図。
図12】revK、revL、revM遺伝子破壊とサザンブロット解析(写真)を示す図。(a) revK 破壊のスキームと、野生型およびΔrevK株の制限マップ。バーはBamHIで消化したときの予想される断片サイズ(bp)を示す。(d) 野生型(レーン2)とΔrevK(レーン3,4,5,6)のサザンブロット解析(右)(写真)。左はEtBr染色。(b) revL 破壊のスキームと、野生型およびΔrevL株の制限マップ。バーはBamHIとXhoIで消化したときに予想される断片サイズ(bp)を示す。(e) 野生型(レーン2,6)とΔrevL(レーン3,4,5)のサザンブロット解析(右)(写真)。左はEtBr染色。(c) revM 破壊のスキームと、野生型およびΔrevM株の制限マップ。バーはNruIで消化したときに予想される断片サイズ(bp)を示す。(f) 野生型(レーン3)とΔrevM(レーン1,2)のサザンブロット解析(右)(写真)。左はEtBr染色。
図13】ΔrevK、ΔrevL、ΔrevM株の培養抽出物からのリベロマイシン化合物のLC-MS解析。(a)スタンダード。(b) 野生株の培養抽出物からのリベロマイシン化合物のLC-MS解析。(c, e, g) ΔrevK、ΔrevL、ΔrevM株の培養抽出物からのリベロマイシン化合物のLC-MS解析。(d) ΔrevK株をpTYM19-Pint-revKで相補した株の培養抽出物からのリベロマイシン化合物のLC-MS解析。(f) ΔrevL株をpTYM19-Paph-revLで相補した株の培養抽出物からのリベロマイシン化合物のLC-MS解析。(h) ΔrrevM株をpTYM19-Pint-revMで相補した株の培養抽出物からのリベロマイシン化合物のLC-MS解析。
図14】revE遺伝子破壊と代謝産物解析。(a) revE破壊のスキームと、野生型およびΔrevE株のPCR解析マップ。(b) 電気泳動写真。矢印は予想される増幅断片サイズ(bp)を示す。野生型(レーン2)とΔrevE(レーン3,4,5,6)(c) 野生株の培養抽出物からのリベロマイシン化合物のLC-MS解析。(d) ΔrevE株の培養抽出物からのリベロマイシン化合物のLC-MS解析。(e) ΔrevE株をpTYM19-Paph-revEで相補した株の培養抽出物からのリベロマイシン化合物のLC-MS解析。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<1>本発明の細菌およびそれを用いたリベロマイシンAまたはその合成中間体の製造法
本発明の細菌は、リベロマイシンAまたはその合成中間体の生産能を有するストレプトマイセス属細菌であって、配列番号36のアミノ酸配列または該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするrevQ遺伝子の発現が親株と比較して増大するように改変され、それにより前記生産能が該親株よりも向上したストレプトマイセス属細菌である。
【0010】
本発明において明らかとなったリベロマイシンAの生合成経路を図2に示すが、リベロマイシンA合成中間体としては、RM-A1a、RM-A2a、RM-A3a、RM-A3b、RM-Tなどが挙げられる。
【0011】
revQ遺伝子は、ストレプトマイセス sp. SN-593株などのリベロマイシンAまたはその
合成中間体の生産能を有するストレプトマイセス属細菌に導入したときに、該生産能を向上させるポリヌクレオチドである限り特に限定されないが、例えば、配列番号35の121−951の塩基配列を有するストレプトマイセス sp. SN-593株由来の遺伝子を挙げる
ことができる。また、revQ遺伝子は、リベロマイシンAまたはその合成中間体の生産能を向上させる遺伝子である限り、上記塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェント
な条件でハイブリダイズするDNAであってもよい。
【0012】
また、revQ遺伝子は、配列番号36のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以
上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードし、リベロマイシンAまたはその合成中間体の生産能を向上させる遺伝子であってもよい。
さらに、revQ遺伝子は、配列番号36のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加された配列を有するアミノ酸配列をコードし、リベロマイシンAまたはその合成中間体の生産能を向上させる遺伝子であってもよい。ここで、1または数個とは、好ましくは、1〜20個、より好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜5個を意味する。
【0013】
また、ストレプトマイセスsp. SN-593株以外のストレプトマイセス属細菌、または他の微生物由来のrevQ遺伝子を使用することもできる。これらのrevQ遺伝子は、ホモロジーに基いてリベロマイシンAまたはその合成中間体の生産能を向上させる遺伝子を微生物、動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列にしたがって合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法によりORF部分を含む領域を増幅することによって、取得することができる。
【0014】
「revQ遺伝子の発現が親株と比較して増大するように改変された」とは、ストレプトマイセス sp. SN-593株などの親株(改変前の株)と比較してrevQ遺伝子の発現量が、単位
菌体重量当たり1.5倍以上増強されていることが好ましく、2倍以上増強されていることがより好ましい。遺伝子の発現量は、RT-PCRやノザンブロット法により確認することができる。
【0015】
ストレプトマイセスsp. SN-593株は平成2年6月5日付で工業技術院微生物工業技術研究所(現名称、産業技術総合研究所特許生物寄託センター、住所 郵便番号305-8566 茨
城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託され、その寄託番号はFERM P−1
1503であり、その後国際寄託に移行しており、その寄託番号はFERM BP−34
06である(特開平05−051303)。
【0016】
本発明に用いる細菌は、ストレプトマイセスsp. SN-593株以外にも、以下に例示されるような細菌を親株として用い、該親株をrevQ遺伝子の発現が増大するように改変することによって得ることができる。
ストレプトマイセス・プルニカラー(Streptomyces prunicolor)
ストレプトマイセス・シナモネウス(Streptomyces cinnamoneus)
ストレプトマイセス・クロモフスカス(Streptomyces chromofuscus)
ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)
ストレプトマイセス・アキヨシエンシス(Streptomyces akiyoshiensis)
ストレプトマイセス・アズレウス(Streptomyces azureus)
ストレプトマイセス・ハワイエンシス(Streptomyces hawaiiensis)
ストレプトマイセス・テンダエ(Streptomyces tendae)
ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginiae)
ストレプトマイセス・アマクサエンシス(Streptomyces amakusaensis)
ストレプトマイセス・アンチビオティカス(Streptomyces antibioticus)
ストレプトマイセス・チバエンシス(Streptomyces chibaensis)
ストレプトマイセス・アルバス(Streptomyces albus)
ストレプトマイセス・リンコエンシス(Streptomyces lincolnensis)
ストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)
ストレプトマイセス・カスガエンシス(Streptomyces kasugaensis)
ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)
ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)
ストレプトマイセス・エバミチリス(Streptomyces avermitilis)
ストレプトマイセス・アンボファシエンス(Streptomyces ambofaciens)
ストレプトマイセス・フラディア(Streptomyces fradiae)
【0017】
上記ストレプトマイセス属細菌は、IFOカタログ、ATCCカタログ、JCMカタログ等に掲載されており、当業者は容易に入手することができる。
【0018】
なお、本発明において親株として用いられる上記細菌は、野生株だけでなく、UV照射やNTG処理等の通常の変異処理により得られる変異株、細胞融合もしくは遺伝子組換え法などの遺伝学的手法により誘導される組換え株などのいずれの株であってもよい。
【0019】
revQ遺伝子の発現の増強は、遺伝子組換え法、例えば、revQ遺伝子のコピー数を高めること、またはこの遺伝子のプロモーターを置換することによって行うことができる。
【0020】
revQ遺伝子のコピー数を高めるためには、例えば、上記のようなrevQ遺伝子を宿主微生物で機能しうるプラスミドに発現可能に組込み、宿主微生物に導入すればよい。
revQ遺伝子を組み込むことができるプラスミドベクターとしては、宿主細菌内での複製増殖機能を司る遺伝子を少なくとも含むものであれば特に制限されない。上記自立複製に関与するベクターとして、例えば、プラスミド DNA、ウイルス、バクテリオファージ、細菌の染色体等が挙げられる。
【0021】
プラスミド DNAとしては、例えば大腸菌由来のプラスミド(pBR322、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pBluescriptなどのColE系プラスミド)が挙げられる。また、下記のよう
な放線菌由来のプラスミドも使用することができる。
pIJ486 (Mol. Gen. Genet. 203, 468-478, 1986)、
pKC1064(Gene 103,97-99 (1991))、
pUWL-KS (Gene 165,149-150 (1995))、
pIJ702(J. Gen. Microbiol. 129:2703-2714(1983))、
pIJ8600(Microbiology 145:2221-2227(1999))
ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11)等が挙げられる。
【0022】
宿主への組換えDNAの導入は、公知方法により行うことができる。例えば、ストレプト
マイセス属細菌の形質転換法としては、リゾチームを利用してストレプトマイセス属細菌をスフェロプラスト化した後、組換えDNAベクターとポリエチレングリコールを含む緩衝液とを加えて該ベクターを細胞内に取り込ませる方法[Thompson, C. J., et al. (1982) J. Bacteriol., 151, 668-677またはHopwood, D. A., et al. (1985) "Genetic Manipulation of Streptomyces: A Laboratory Manual", The John Innes Foundation, Norwich 参照]がよく用いられる。また、電気パルス法(Res. Microbiol., Vol.144, p.181-185, 1993)によって行うこともできる。
また、DNAが導入されたことの確認は、選択マーカー遺伝子(例えばアンピシリン耐性
遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子等)を用いて行うとよい。
【0023】
また、revQ遺伝子の発現増強は、公知の相同組換え法によって染色体上でrevQ遺伝子を多コピー化させることによって行うこともできる。
また、revQ遺伝子の発現増強は、宿主染色体上でrevQ遺伝子のプロモーターを置換または改変することによっても行うことができる。プロモーター置換の方法としては、例えば、公知の相同組み換え法やsacB遺伝子を用いる方法(Schafer,A.et al.Gene 145 (1994)69-73)が挙げられる。
【0024】
上記組み換えプラスミドによる導入または染色体上での相同組換えにおいて、revQ遺伝子を発現させるためのプロモーター、または染色体上のrevQ遺伝子のプロモーターを置換するために使用するプロモーターは、宿主細菌で機能しうるものであれば特に制限されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
抗生物質のチオストレプトン添加により転写が誘導されるtipAプロモーター(Gene 94
:53-59、1990;Gene 103: 97-99、1991;Gene 166: 133-137、1995)、グリセロール
により誘導されるglyCABプロモーター(Mol.Microbiol. 12: 737-745、1994)および
マイトマイシンCにより誘導されるmcrABプロモーター(Gene 175: 261-267、1996)が
発現ベクターに利用されている。
また、大腸菌で用いられるlacプロモーターやtacプロモーターやtrcプロモーターなど
が挙げられる。
【0025】
なお、DNAの切断、連結、その他、染色体DNAの調製、PCR、プラスミドDNAの調製、形質転換、プライマーとして用いるオリゴヌクレオチドの設定等の方法は、当業者によく知られている通常の方法を採用することができる。これらの方法は、Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T., "Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition", Cold Spring Harbor Laboratory Press, (1989)等に記載されている。
【0026】
上記細菌を栄養源含有培地に接種し、好気的に培養することによりリベロマイシンAおよびその合成中間体が製造される。
【0027】
培養に用いられる培地としては、ストレプトマイセス属細菌が利用できる栄養源を含有する培地であればよく、各種の合成培地、半合成培地、天然培地などいずれも用いることができる。培地組成としては炭素源としてのグルコース、シュークロース、フルクトース、グリセリン、デキストリン、澱粉、糖蜜、コーン・スティープ・リカー、有機酸、などを単独または組み合せて用い得る。窒素源としてはファーマメディア、ペプトン、肉エキ
ス、酵母エキス、大豆粉、カゼイン、アミノ酸、尿素などの有機窒素源、硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの無機窒素源を単独または組み合せて用い得る。
【0028】
ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩、その他の重金属塩なども必要に応じて添加使用され得る。なお、培養中発泡の著しいときは、アデカノール(登録商標)、シリコーンオイル等の公知の各種消泡剤を適宜培地中に添加することもできるが、その添加は目的物質の生産に悪影響を与えないものとする必要がある。例えば0.5%以下で使用することが好ましい。
【0029】
培地のpHは微生物の至適pH範囲、通常中性付近とするのが望ましい。培地温度は、微生物が良好に生育する温度、通常20〜40℃、特に好ましくは27℃付近に保つのがよい。培養時間は液体培養の場合、一般に1〜5日間程度、好ましくは約72時間である。上記培養によってリベロマイシンAおよびその合成中間体が生成蓄積される。もちろん上述した各種の培養条件は、使用微生物の種類や特性、外部条件などに応じて適宜変更でき、またそれぞれに応じて上記範囲から最適条件を選択、調節される。
【0030】
上記培養により生産されるリベロマイシンAやその合成中間体の単離は、リベロマイシンAやその合成中間体と不純物との溶解度差を利用する手段、吸着親和力の差を利用する手段、分子量の差を利用する手段のいずれによっても実施でき、それぞれの方法は単独、または適宜組合せて、あるいは反復して使用される。
【0031】
具体的には、リベロマイシンAは、培養濾液にその大部分が存在するので、その培養濾液を各種のゲル濾過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等を組合せて精製すると、リベロマイシンA及びその他の活性成分を含む画分がえられる。この画分を凍結乾燥して得られた粉末を更に高速液体クロマトグラフィー(例えばカプセルパックカラム)を用い、例えば18%メタノール:0.01%アンモニアの系で展開により精製すれば、リベロマイシンAの精製白色粉末を得ることができる(特開平05-051303)。他のリベロマイシンA合成中間体は実施例に記載の方法で得ることができる
【0032】
<2>スピロケタール環含有化合物の製造法
本発明はまた、配列番号14のアミノ酸配列または該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するRevGタンパク質を下記化合物(I)に作用させることに
より、該化合物(I)を下記化合物(II)に変換する工程を含む、化合物(II)の製造方
法を提供する。
【化7】
ここで、R1およびR3は、独立して、水素、または炭素数1〜25(好ましくは1〜1
0)の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基(水素原子は、水酸基、カルボキシル基、オキソ基、フェニル基またはピリジル基で置換されてもよく、2つの水素原子は-O-によ
り環を形成してもよい)であり、R2およびR4は独立して、炭素数1〜10のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基である。
【0033】
化合物(I)としては下記(i)に記載の化合物が好ましく、化合物(II)としては下記(ii)に記載の化合物が好ましい。
【化8】
また、化合物(I)としては図11に記載の化合物も挙げられる。
なお、RevGタンパク質とともにRevJタンパク質を化合物(I)に作用させてもよい。
【0034】
RevGタンパク質としては、配列番号16のアミノ酸配列を有するストレプトマイセスsp. SN-593株由来のタンパク質が挙げられるが、配列番号16のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の同一性
を有し、化合物(I)を化合物(II)に変換する反応を触媒する活性を有するタンパク質
であってもよい。
さらに、RevGタンパク質は、配列番号16のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加された配列を有し、化合物(I)を化合物(II)に
変換する反応を触媒する活性を有するタンパク質であってもよい。ここで、1または数個とは、好ましくは、1〜20個、より好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜5個を意味する。
RevJタンパク質としては、配列番号20のアミノ酸配列を有するストレプトマイセスsp. SN-593株由来のタンパク質が挙げられるが、配列番号20のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の同一性
を有し、RevGとともに化合物(I)を化合物(II)に変換する反応を触媒する活性を有す
るタンパク質であってもよい。
さらに、RevJタンパク質は、配列番号20のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加された配列を有し、RevGとともに化合物(I)を化
合物(II)に変換する反応を触媒する活性を有するタンパク質であってもよい。ここで、1または数個とは、上記と同様である。
RevGタンパク質およびRevJタンパク質はストレプトマイセスsp. SN-593株などのストレプトマイセス属細菌から精製することによって得ることもできるが、revG遺伝子およびRevJタンパク質を適当な宿主(ストレプトマイセス属細菌、エシェリヒア属細菌、酵母など)または無細胞系で発現させた後に、RevGタンパク質およびRevJタンパク質を精製することによって得ることもできる。その際に、精製の簡便のため、ポリヒスチジンやGSTなどのタグを融合させて発現させ、そのタグに対するアフィニティを利用して精製すること
が好ましい。
【0035】
この際に用いることのできるrevG遺伝子は、化合物(I)を化合物(II)に変換する反
応を触媒する活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えば、配列番号13の121−939の塩基配列を有するストレプトマイセスsp. SN-593株由来の遺伝子を挙げることができる。revJ遺伝子は、RevGとともに化合物(I)を化合物(II)
に変換する反応を触媒する活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えば、配列番号19の121−1128の塩基配列を有するストレプトマイセスsp. SN-593株由来の遺伝子を挙げることができる。また、revG遺伝子およびrevJ遺伝子は、化合物(I)を化合物(II)に変換する反応を触媒する活性を有するタンパク質をコードす
るものである限り、上記塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハ
イブリダイズするDNAであってもよい。
【0036】
なお、RevGタンパク質およびRevJタンパク質を含む画分や粗精製、細菌そのものを用いてもよい。
【0037】
RevGタンパク質、またはRevGタンパク質およびRevJタンパク質と(I)の化合物との反応は、溶液中で両者を混合すればよい。反応温度は酵素反応に適した温度であるが、好ましくは20〜40℃である。
【0038】
<3>新規ポリヌクレオチド
本発明は、上記revG遺伝子およびrevQ遺伝子に加えて、さらに、下記の各新規ポリヌクレオチドを提供する。
revC遺伝子:配列番号1(コードされるアミノ酸配列は配列番号2)
revA遺伝子:配列番号3(コードされるアミノ酸配列は配列番号4)
revB遺伝子:配列番号5(コードされるアミノ酸配列は配列番号6)
revD遺伝子:配列番号7(コードされるアミノ酸配列は配列番号8)
revE遺伝子:配列番号9の121-1221(コードされるアミノ酸配列は配列番号10)
revF遺伝子:配列番号11の121-1569(コードされるアミノ酸配列は配列番号12)
revH遺伝子:配列番号15の121-1641(コードされるアミノ酸配列は配列番号16)
revI遺伝子:配列番号17の121-1311(コードされるアミノ酸配列は配列番号18)
revJ遺伝子:配列番号19の121-1128(コードされるアミノ酸配列は配列番号20)
revK遺伝子:配列番号21の121-1050(コードされるアミノ酸配列は配列番号22)
revL遺伝子:配列番号23の121-1191(コードされるアミノ酸配列は配列番号24)
revM遺伝子:配列番号25の121-1080(コードされるアミノ酸配列は配列番号26)
revN遺伝子:配列番号27の121-1035(コードされるアミノ酸配列は配列番号28)
revO遺伝子:配列番号29の121-777(コードされるアミノ酸配列は配列番号30)
revP遺伝子:配列番号33の121-792(コードされるアミノ酸配列は配列番号34)
revR遺伝子:配列番号37の121-1119(コードされるアミノ酸配列は配列番号38)
revS遺伝子:配列番号39の121-1857(コードされるアミノ酸配列は配列番号40)
revT遺伝子:配列番号41の121-1449(コードされるアミノ酸配列は配列番号42)
revU遺伝子:配列番号43の121-2889(コードされるアミノ酸配列は配列番号44)
【0039】
また、上記の各遺伝子は、実施例で示されるようなリベロマイシン生合成に関与する活性を有するタンパク質をコードする限り、各塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。
【0040】
また、上記の各遺伝子は、実施例で示されるようなリベロマイシン生合成に関与する活性を有するタンパク質をコードする限り、各アミノ酸配列において、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加等を含むアミノ酸配列をコ
ードする、ホモログ、変異体又は人為的な改変体であってもよい。ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個を意味する。
【0041】
さらに、上記の各遺伝子は、リベロマイシン生合成に関与するタンパク質をコードする限り、各アミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子であってもよい。
【0042】
<4>抗癌剤
本発明の抗癌剤は下記一般式(III)または(IV)で表される化合物又はその薬学的に
許容される塩を有効成分として含む。
【化9】
R5、R6、R7、R8およびR9は炭素数1〜6のアルキルを示し、R5、R7、R8およびR9は好ましくは炭素数1〜3のアルキルであり、より好ましくはメチルである。R6は好ましくは炭素数3〜6のアルキルであり、より好ましくはブチルである。
R10は水素原子または炭素数1〜5のアルキルを示し、好ましくは水素原子、メチルまた
はエチルである。
【化10】
R11、R12、R13、R14およびR15は炭素数1〜6のアルキルを示し、R11、R13、R14およ
びR15は好ましくは炭素数1〜3のアルキルであり、より好ましくはメチルである。R12は好ましくは炭素数3〜6のアルキルであり、より好ましくはブチルである。
【0043】
薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;又はp-トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩;アンモニウム塩;メチルアンモニウム塩等の有機アンモニウム塩;グリシン塩等のアミノ酸塩を挙げることができるが、これらに限定されることはない。下記の抗真菌剤、骨疾患治療剤として用いる場合も同様である。
【0044】
本明細書中、「抗癌剤」とは、癌細胞殺傷、癌細胞増殖抑制、癌転移防止、癌再発防止又は癌発生予防等の目的で使用されるものをいう。
【0045】
投与の対象となる癌の具体例としては、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、消化器癌、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、結腸癌、尿管腫瘍、胆嚢癌、胆管癌、胆道癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、睾丸腫瘍、上顎癌、舌癌、口唇癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌、前立腺癌、甲状腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、白血病、真性多血症、神経芽腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、筋肉腫、皮膚癌、基底細胞癌、皮膚付属器癌、皮膚転移癌、皮膚黒色腫などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
上記化合物を患者に投与する場合の投与量は、患者の年齢、体重、癌の種類と進行度、症状等に応じて適宜設定することができるが、一般的には、成人一人一日当たり有効成分として0.1〜1000mg /kg体重、特に1〜100mg/kg体重を1〜数回に分けて投
与することができる。投与経路は、特に限定されず、例えば、経口投与、又は注射などの非経口投与により投与することができる。注射による投与を行う場合は、静脈注射、動脈注射、皮下注射、皮内注射、腹腔内注射、筋肉内投与等を行うことができる。
【0047】
本発明の抗癌剤は、有効成分として含有する式(III)もしくは(IV)で示される化合
物またはそれらの塩に加えて、医薬組成物で通常用いられている担体を含有することができる。その製剤形態は、使用目的や使用対象に応じて適宜選択することができ、例えば、注射剤(液剤、懸濁剤等)、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤等の形態で用いることができる。上記担体としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、可溶化剤、分散剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、安定剤、等張剤等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。腑形剤としては、乳糖、白糖、ブドウ糖などの糖類、デンプン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等の無機物、結晶セルロース、蒸留水、精製水、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油等の一般に使用されているものを例示することができる。本発明の薬剤は、これらの添加物を用いて常法によって製剤化することができる。また、本発明の抗癌剤は、他の医薬品(例えば、他の抗癌剤など)と併用することもできる。
【0048】
さらに、式(III)もしくは(IV)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩の
治療有効量を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む、癌の治療方法が本発明により提供される。
【0049】
<5>抗真菌剤
本発明の抗真菌剤は、下記一般式(III)で表される化合物又はその薬学的に許容され
る塩を有効成分として含む。
【化11】
R5、R6、R7、R8およびR9は炭素数1〜6のアルキルを示し、R10は水素原子を示す。R5、R7、R8およびR9は好ましくは炭素数1〜3のアルキルであり、より好ましくはメチルであ
る。R6は好ましくは炭素数3〜6のアルキルであり、より好ましくはブチルである。
【0050】
抗真菌剤とは、真菌類に対して殺菌作用または増殖阻害作用を有する薬剤を広く意味する。真菌類としては、酵母、キノコの他、いわゆる糸状菌(カビ)が挙げられ、特に、内因感染の原因となるカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)やカンジダ・シュードトロピカリス(Candida pseudotropicalis)などの真菌に対しても用いられる。本発明の抗真菌剤は、例えば、カンジダ属(Candida)、白癬菌属(Trichophyton) 又はアスペルギルス属(Aspergillus) 等に起因する局所性真菌感染、粘膜感染、全身性真菌感染等の治療に用いることができる。さらに、式(III)で示される化合物又はその薬学的に許容され
る塩の治療有効量を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む、局所性真菌感染、粘膜感染、全身性真菌感染等の治療方法が本発明により提供される。
【0051】
抗真菌活性の測定は方法は特に限定されない。例えば、検定菌として上記した何れか1種以上の菌を用いて、平板培地での増殖阻止円の形成を指標としたり、あるいは液体培地中で適当な期間のインキュベーション後に培地の濁度を測定することなどにより抗真菌活性を測定することができる。
【0052】
有効成分として用いる一般式(III)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩
は、そのままで又は上述したような医薬組成物で通常使用される各種の担体と組み合わせた形で抗真菌剤として使用することができる。その製剤形態は、使用目的や使用対象に応じて適宜選択することができ、例えば、クリーム又は軟膏などの皮膚外用剤、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤等)等の形態で用いることができる。
【0053】
本発明の抗真菌剤はヒトを含む哺乳動物に投与することができる。投与経路は経口投与でも非経口投与でもよい。本発明の抗真菌剤の投与量は患者の年齢、性別、体重、症状、及び投与経路などの条件に応じて適宜増減されるべきであるが、一般的には、有効成分量として成人一日あたり1μg/kgから1000mg/kg程度の範囲であり、好ましくは10μg/kgから100mg/kg程度の範囲である。上記投与量は一日一回投与しても一日に数回に分けて投与してもよい。また投与期間及び投与間隔も特に限定されず、毎日投与してもよいしあるいは数日間隔で投与してもよい。
【0054】
さらに、本発明の抗真菌剤は、医薬品としてのみならず、食品、飼料、化粧品等のように人又は動物の体内に摂取され、または体表面に適用される製品、その他一般に真菌の増殖を防止又は抑制することが望まれるあらゆる製品に配合して使用することができる。また、本発明の抗真菌剤を製品又は原料素材の表面処理に用いることもできる。具体的には、食品、医薬品、医薬部外品、各種化粧品、各種歯磨用品、各種生理用品、各種ベビー用品、各種高齢者用品、各種洗剤、各種除菌用品、ペット飼料、各種家畜試料、各種養魚飼料、各種建築材料、各種塗料、各種農園芸用品、並びにそれらの原料となる素材、その他一般に真菌等の微生物の増殖の防止、抑制が望まれるあらゆる物品に添加、配合、噴霧、付着、被覆、含浸等を行ってもよく、またその他一般に真菌類の増殖防止、抑制が望まれるあらゆる物品の処理に用いることもできる。
【0055】
<6>骨疾患治療剤
本発明の骨疾患治療剤は、下記一般式(IV)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む。
【化12】
R11、R12、R13、R14およびR15は炭素数1〜6のアルキルを示す。R11、R13、R14およ
びR15は好ましくは炭素数1〜3のアルキルであり、より好ましくはメチルである。R12は好ましくは炭素数3〜6のアルキルであり、より好ましくはブチルである。
【0056】
骨疾患としては、骨量減少等の内因性骨疾患、及び物理的骨折等の外因性骨疾患の両方を含み、本発明の薬剤は上記骨疾患の治療、あるいは上記骨疾患の治療期間の短縮のために使用することができる。内因性骨疾患としては、生体内での破骨細胞の過剰な形成及び/又は過剰な機能を伴う全ての疾患が包含される。骨疾患の具体例としては、骨粗鬆症、骨疾患関連性高カルシウム血症、骨ページェット病、破骨細胞腫、骨肉腫、関節症、慢性関節リウマチ、変形性骨炎、原発性甲状腺機能亢進症、骨減少症、骨多孔症、骨軟化症、外傷性骨折、疲労骨折、又は栄養障害、悪性腫瘍など他の疾病が原因による骨組織の脆弱化及び骨折などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0057】
本発明の骨疾患治療剤は、その使用目的にあわせて通常の薬学的手法に準じて投与方法、剤型、投与量を適宜決定することが可能である。例えば治療を目的としてヒトなどの哺乳動物に投与する場合は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、溶剤等として経口的に、または注射剤、坐剤、経皮吸収剤、吸入剤等として非経口的に投与することができる。
【0058】
また、一般式(IV)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の治療有効量を、上述したような医薬組成物で通常使用される各種の担体と組み合わせて医薬組成物とすることができる。投与量は疾患の状態、投与ルート、患者の年齢、または体重によっても異なるが、有効成分量として成人に経口で投与する場合、通常20〜500 mg/kg/
日、好ましくは50〜300 mg/kg/日、非経口で投与する場合、通常10〜30
0 mg/kg/日、好ましくは20〜200 mg/kg/日を投与する。これを1回あるいは数回に分割して投与すればよい。
さらに、式(IV)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩の治療有効量を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む、骨疾患の治療方法が本発明により提供される。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様に限定されない。
【0060】
1.リベロマイシン生産菌からのリベロマイシン生合成遺伝子クラスターの取得
以下の手順に従い、リベロマイシン生産菌(S. sp. SN-593)からのリベロマイシン生合
成遺伝子クラスターの取得を行った。
【0061】
<実験条件>
リベロマイシン生産菌(S. sp. SN-593) 培養
MS寒天プレート(2 % 大豆粉, 2 % D(-)-マンニトール, 2 % 寒天) で 2週間28℃で培養を行い、胞子を着生させた。
一白金耳の胞子をSY培養液 (0.1 % 酵母抽出物, 0.1 % NZ-アミン, 1 % 可溶性デンプ
ン, pH7.0) 70 ml(500ml K1フラスコ)に植菌し2日間28℃で150 rpmで培養した。この前培養液1 mlを70 mの RM-A高生産培地(RM-PM)(2% ポテトデキストロース(Difco), 1% モルト抽出物(Difco), 1% 乾燥酵母(アサヒビール), 5%トマトジュース, 0.1% K2HPO4, 0.1% NaCl, 0.03% MgSO4・7H2O, 0.01% NaNO3, 0.005% ZnSO4・7H2O, and 0.005% CuSO4・5H2O, オートクレーブ前pH 6.5)又はRM-A低生産培地(SK2) (1.4 %可溶性デンプン, 0.35 %グルコース, 0.35 %酵母抽出物, 0.21 % バクトペプトン, 0.21 % ビーフ抽出液 (difco), 0.014 % KH2PO4, 0.042 % MgSO4, pH 7.6)に植菌して5日間28℃で培養した。
【0062】
遺伝子配列解析
リベロマイシン生産菌の全ゲノムショットガンシークエンスにより配列解析を行った。このためにインサートDNAサイズが2-5 kbのプラスミドライブラリーを作成した。更に配
列解析が難しい領域を網羅するために40 kbのインサートDNAを有するフォスミドライブラリーを作成した(EPICENTRE Biotechnology)。配列解析はBigDye terminator ver3.1 kit (Applied Biosystems)を用いて3730xl capillary sequencers (Applied Biosystems)で解析した。
【0063】
誘導発現PKS遺伝子断片のRT-PCRによる取得と全長配列の決定
ポリケチド合成酵素(PKS)配列を持つ遺伝子を特異的に増幅するためのプライマーを設
計し、これらのプライマーによりリベロマイシン生産培地での培養時に特異的に増幅される(リベロマイシン低生産性培地培養時には増幅されない)遺伝子の取得を試みた。
リベロマイシン生産菌の胞子をSK2 培地(70 ml)中で2日間、28℃で培養後、この前培養液1 mlをそれぞれ70 ml の生産培地(RM-PM)及び低生産性培地(SK2)に植菌した。60時間後、培養液5 mlから全RNAをTRIzol Max Bacterial RNA isolation kit (Invitrogen)を用いて抽出した。DNase I により混在する染色体DNAを除去した後、SuperScript III (Invitrogen)を用いて逆転写反応を行った。
【0064】
PCR反応は、TaKaRa LA-taq(タカラバイオ)を用いて 94℃ 2 分, 30, 35又は40 サイ
クルの反応を94℃ 30秒, 62℃ 30秒, 72℃ 30秒で行った。使用したプライマーおよび略
称を以下に示す。
ketosynthase (KS), Acyltransferase (AT), enoylreductase (ER):
KS-F1 :TSGCSATGGACCCSCAGCAG, (配列番号47)
KS-R1: CCSGTRCCGTGCGCCTCSAC, (配列番号48)
KSAT-F1: GTCGACACSGCCTGYTCSTC, (配列番号49)
KSAT-R1: GCGGCGATCTCGCCCTGSGAGTG, (配列番号50)
ER-F1: GTGGGCSTGAACTTCCGCGACGT, (配列番号51)
ER-F2: GACGTGSTGAMCGSCCTCGGGATG, (配列番号52)
ER-F3: GCSGGSGTCGTCACCGCCGTCGG, (配列番号53)
ER-R1: CGGCAGCAACCGCAGCGASGCGTC, (配列番号54)
ER-R2: GGTCTTGCCCATCTCSASGAASCG, (配列番号55)
ER-R3: GACGACCTTGCCCACATGACG. (配列番号56)
KS, KS-AT 及び ERプライマーは、それぞれ0.6, 1.5及び 0.7 kb増幅するようにデザインした。
【0065】
RM-PM培地で特異的に増幅した遺伝子断片をpGEM-T Easy vector (Promega)に連結し大
腸菌(E. coli DH5α)を形質転換後にプラスミドを回収しM13 forward および M13 reverseプライマーを用いて配列を解析した。
【0066】
リベロマイシン生産培地で特異的に増幅されたDNA断片の情報とゲノムドラフト配列に
より得られたコンティグ情報を統合した結果、配列決定した約70%のポリケチド合成酵素(PKS)配列は近接したコンティグ情報に集約された。さらに、候補プローブを用いたDNAハ
イブリダイゼーション解析からフォスミドクローンを選定し、その配列を解析することにより全長を網羅するDNA情報を取得した。得られた全遺伝子配列をFramePlot及びBLAST解
析したところ、全長91 kb、21遺伝子から構成されるRM-A生合成遺伝子クラスターを得る
ことに成功した(図1)。PKS遺伝子は13モジュール64ドメインから構成されることが遺
伝子配列から推定された。
【0067】
同定された各遺伝子のORFのサイズ、各ORFの推定される機能、相同性が高いタンパク質、それとの%同一性、および相同性が高いタンパク質のアクセス番号を表1に示す。これらの遺伝子にコードされるORFはいずれも公知のアミノ酸配列とは相同性が低いものであ
った。
【表1】
【0068】
(実験手法)遺伝子破壊プラスミド作製
以上のようにして得られた候補遺伝子クラスターが確かにRM-A生合成遺伝子クラスターであることを確認するために、ポリケチド生合成遺伝子revC, revDの二重遺伝子破壊を行った。revCの3'末端領域及びrevDの5'末端領域を欠失させ、内部にカナマイシン耐性化に関わるaphII遺伝子(約1.6 kb)を組み込んだ。更にaphII遺伝子の上流及び下流に約2.5
kbの相同組換えDNA領域を含む接合伝達ベクターを調製した。同様な手法でrevH, revIの
二重遺伝子破壊株作製用のプラスミドを構築した(図4A)。また、クラスター境界のorf(-1)(配列番号31)、orf1(配列番号45)及びrevGの遺伝子破壊を行うために、各
遺伝子の内部配列をaphII遺伝子に置き換え、同様に上流及び下流に約2.5 kbの相同組換
えDNA領域を含む遺伝子破壊ベクターを調製した。具体的な手順は以下のとおりである。
【0069】
revCとrevDの2重破壊用プラスミドを構築するために、2.5-kb のrevC フラグメントと2.7-kbのrevD フラグメントを、フォスミドクローン (revC は11A02、revD は30B04)を鋳
型に、revC はrevC-Eco-Bam-F (5'-CCGGAATTCGGATCCGCCGGCTGCACGAGGAGTCGTCG-3'配列番号57)とrevC-Hind-Asc-R(5'-CCCAAGCTTGGCGCGCCTCGGGTGCGTCCTGCGCGGTG-3'配列番号
58)を、revDはrevD-Hind-Asc-F(5'-CCCAAGCTTGGCGCGCCTGCCCGACGTGATCGACGACGC-3'配列番号59)とrevD-Xho-Bam-R(5'-CCGCTCGAGGGATCCAGCCCCTCGGCCACCGACA-3'配列番号60)をプライマーに用いたPCRを行った。
【0070】
増幅したrevC 断片をEcoR IとHindIIIで消化し、pET-Duet ベクター(Novagen)に組み込んで、pET-Cを得た。増幅したrevD 断片をHindIII とXhoIで消化し、pET-Cに組み込み
、pET-CDを得た。HindIIIサイト付きプライマー(aph-Hind-F: 5'-CTCGAGAAGCTTCAGTGAGTTCGAGCGACTCGAGA-3'とaph-Hind-R: 5'-CTCGAGAAGCTTCTGGTACCGAGCGAACGCGTA-3'配列番号
61,62)で増幅したaphII 遺伝子をHindIIIで消化し、pET-CD のHindIIIサイトに組
み込んでpET-CaphDを構築した。得られたpET-CaphDをBamHIで消化し、得られたrevCとrevDの2重破壊用カセットを接合プラスミドpIMのBamHIサイトに導入してpIM-CaphDを得た。
【0071】
revG, orf(-1), およびorf1の破壊は、PCRによる遺伝子置換(λ-Red system)によっ
て行った(Proc Natl Acad Sci U S A 100, 1541-6 (2003))。フォスミド11A02, 18G01 および30B04をそれぞれ、revG, orf(-1), およびorf1の遺伝子置換の鋳型に用い、表2に記載のプライマーをそれぞれ用いた。ただし、S. sp. SN-593 はサイズの大きい遺伝子を導入するのが難しかったため、破壊型遺伝子を含む約6.6 kb のDNA 断片を下記表3のプ
ライマーにより増幅して、これをpIM接合ベクターのHindIIIサイトに組み込んだ。なお、revG破壊のスキームを図3aに示した。
revE, revK, revMについても同様の方法で遺伝子破壊を行った。revE,revK, revM破壊
のスキームを図12に示した。
【0072】
RevL遺伝子破壊は、以下の手法で行った。まず、revl遺伝子の両端に2.5-kb相同組み換え領域を有するようにフォスミドクローン (11A02)を鋳型に、RevL-Hind-F(5'-CCCAAGCTTGGACTTCGCCTGCGCGTTGAACTT-3' 配列番号83)とrevL-Hind-R(5'-CCCAAGCTTAGGCTTCCTGGAGGAAGTCCGTCA-3' 配列番号84)をプライマーに用いたPCRを行った。この遺伝子断片
をpUC19のHindIIIサイトに導入した。これを鋳型として、revL領域を除くようにrevL-Xho-F(5'-CCGCTCGAGAACGCCCCGGAGGGCATCTACTGA-3' 配列番号85)とrevL-Xho-R(5'- CCGCTCGAGCTGGTCGACCAGAGCCAGTGATTC-3' 配列番号86)プライマーを用いてPCRを行い、DpnI処理、XhoI切断の後にセルフライゲーションを行った。RevLが破壊された領域を持つ遺伝子断片をHindIIIで切断し、pIM破壊ベクターのHindIIIサイトに導入した。
【0073】
【表2】
下線部は相同組み換えに利用した相同配列である。
【0074】
【表3】
下線部は制限酵素認識配列である。
【0075】
遺伝子相補プラスミド作製
破壊した遺伝子の機能相補を確認するために、aphIIプロモーター(EcoRI、BamHI断片
)にrevG遺伝子(BamHI/HindIII断片)を連結したDNAを作製し、染色体へのDNA組み込み
機能を有するpTYM19ベクター(J Antibiot (Tokyo) 56, 950-6 (2003))に導入した。具
体的には、aphII プロモーターを含む断片をTn5 から下記配列番号75と76のプライマーを用いて増幅し、pTYM19に組みこんだ。得られたpTYM19-aphII をBamHIとHindIIIで消
化し、ここに下記配列番号77と78のプライマーで11A02から増幅したrevG断片を組み
込んで、revG 相補用ベクターを構築した。
【0076】
【表4】
下線部は制限酵素認識配列である。
【0077】
破壊したrevE、revK、revLおよびrevM遺伝子の機能相補の確認を行った。aphIIプロモ
ーター(EcoRI、BamHI断片)にrevL遺伝子(BamHI、HindIII断片)を連結したDNAを作製
し、染色体へのDNA組み込み機能を有するpTYM19ベクター(J Antibiot (Tokyo) 56, 950-6 (2003))に導入した。pTYM19-aphII をBamHIとHindIIIで消化し、ここに下記配列番号
93(RevL-Bam-F: CGCGGATCCATGAACGAATCACTGGCTCTGGTC)と94(RevL-Hind-R: CCCAAGCTTTCAGTAGATGCCCTCCGGGGCGTT)プライマーで11A02から増幅したrevL断片を組み込んで、revL相補用ベクターを構築した。
また、pTYM19をEcoRIとHindIIIで消化し、ここに下記配列番号95(RevK-Eco-F: CCGGAATTCCACCGGGATGGTGACCTCCAC)と96(RevN-Hind-R: CCCAAGCTTTCACGTGTGTTGCGTCCAGGCTTC)プライマーで11A02を鋳型として増幅した内生のプロモーターを有するrevK、revM遺
伝子を組み込み、revKおよびrevM相補用ベクターを構築した。
また、破壊したrevE遺伝子の機能相補を確認するために、pTYM19-aphII をBamHIとHindIIIで消化し、ここに下記配列番号97(RevE-Bam-F: CGCGGATCCATGGACATCACCGCAGCAGTGATC)と98(RevE-Hind-R: CCCAAGCTTTCACCGGTGCGTGAGCACCACCTT)プライマーで11A02か
ら増幅したrevE断片を組み込んで、revE相補用ベクターを構築した。
【0078】
接合伝達法による遺伝子導入・破壊
遺伝子導入は大腸菌からリベロマイシン生産菌への接合伝達法により行った。大腸菌はGM2929 hsdS::Tn10 (pUB307::Tn7) (Proc Natl Acad Sci U S A 107, 2646 (Feb 9, 2010))を使用し、接合伝達ベクターは、pKU250 (Proc Natl Acad Sci U S A 107, 2646 (Feb 9, 2010))からBamHI-KpnI 領域を除くことにより最適化を行ったpIMベクターを使用
した。遺伝子破壊ベクターを有する大腸菌の選別には、カナマイシン (25 μg ml-1)、クロラムフェニコール (30 μg ml-1)、ストレプトマイシン (50 μg ml-1)及びスペクチノマイシン(100 μg ml-1)を含むLB (1% トリ プトン, 0.5% 酵母抽出物, 1% NaCl)培地を利用した。遺伝子相補ベクターを有する場合には、カナマイシンの代わりにアンピシリン(50 μg ml-1)を用いた。
リベロマイシン生産菌の胞子を調製し、SY培地で28℃、4時間培養後、遺伝子破壊ベク
ターを含む大腸菌GM2929 hsdS::Tn10 (pUB307::Tn7) と50:1の割合で混合し、MS2 (3 % 大豆粉, 2 % D(-)-マンニットール, 25 mM MgCl2, 2 % 寒天) (20 ml)プレート上に植菌
した。28 ℃、20時間培養後、終濃度で20 μg ml-1 チオストレプトン、5 μg ml-1 カルモナムを添加し、更に1週間培養を進めた。遺伝子相補の場合には、チオストレプトン耐
性のクローンを選別で形質転換が完了するが、遺伝子破壊の場合には、更に0.4 μg ml-1のリボスタマイシンを含むMSプレートで二次選別を行った後、得られた耐性クローンを薬剤を含まないSY培地(70 ml)で液体培養、MSプレート上で胞子形成を行い、単一の胞子か
ら得られたコロニーを調製し、リボスタマイシン耐性、チオストレプトン感受性のクローンを選別した。
【0079】
遺伝子破壊検証
遺伝子破壊株の確認にはサザンハイブリダイゼーション解析を行った(図3b)。PrimeSTAR HS DNA polymerase (TaKaRa)を用いて各プローブ調製を行った。反応は、98℃10
秒, 25 サイクル98℃10秒後, 67℃ 5秒, 68℃ 2.5 分の25サイクルPCR反応、又は98℃ 10秒後, 98℃ 10秒, 67℃ 5秒, 68℃ 40秒の25サイクルPCR反応を行った。増幅したDNA 断
片はゲル切り出し精製し、AlkPhos Direct Labelling Reagents (GE Healthcare)により
標識を行った。
【0080】
遺伝子破壊株からの代謝産物の抽出
野生株(Streptomyces sp. SN-593)及び遺伝子破壊株をSY培地で2日間培養を行った。その後、前培養液1 ml をRM-PM (70 ml)培地に植菌し更に5日間培養を行った。その後、等
量のアセトンを加え撹拌後、アセトンを除去し、酢酸でpHを4に調整し、等量の酢酸エチ
ルを添加して抽出を2回行った。その後、酢酸エチルを除去し、メタノール20 mlに溶解し、LC-MSにて解析を行った。ESI-MS 解析は、マススペクトロメーター (Q-TRAP, Applied Biosystems)を装備したWatersAlliance HPLCシステムを用いた。HPLCは、A溶媒:0.05% ギ酸水溶液、B溶媒:アセトニトリル、XTerra(商標)MSC18 5 μm (2.1 mm i.d. x 150
mm)カラムを用いて、流速0.2 ml min-1で解析を行った。30%B溶媒で平衡化されたカラ
ムに試料をロード後、20分間で30%から100%B溶媒のリニアグラジエント溶出を行い、さ
らに20分間100%B溶媒で溶出を行った。マススペクトルはESI-ネガティブモードで解析
を行った。
【0081】
<結果>
orf(-1)破壊株、およびorf1破壊株を解析した結果、これらの株はいずれもリベロマイ
シン類の生産において野生株と変わらなかった。したがって、これらの遺伝子はリベロマイシン生合成系に関与していないことが考えられた。
【0082】
ΔrevCΔrevD 2重変異株ではリベロマイシンAの生成が見られなかったことから、revC およびrevDはリベロマイシンAの生合成に関与していることが考えられた。しかし、ΔrevCΔrevD 2重変異株にRM-A1aを加えたところ、リベロマイシンAを生成したことから、revC
およびrevDはRM-A1aより上流の反応に関与することが示唆された(図2)。RevA、RevB
、RevC、RevD遺伝子産物は、それぞれポリケチドシンターゼ(PKS)として機能すること
が確認された。
【0083】
一方、ΔrevG株では、リベロマイシンAは生成せず、RM-A1aが蓄積した(図3d、g)
。そして、ΔrevG株においてrevGを相補すると、リベロマイシンAが生成した(図3e、h)。したがって、revGはRM-A1aとリベロマイシンAの間の反応に関与することが考えられ
た。なお、RM-A1aはC18-HPLC (Pegasil ODS 10 mm i.d. x 250 mm)を用い、アセトニトリル/0.05% 蟻酸水溶液(65:35) で精製した。RM-A1eは、ΔrevG株を5日以上培養することによって得られた。RM-A1eはC18-HPLC (Pegasil ODS 10 mm i.d. x 250 mm)を用い、アセトニトリル/0.05% 蟻酸水溶液(70:30) で精製した。
【0084】
また、ΔrevG をrevG遺伝子で相補した株を70mlのSY培地で28℃、2日間培養した(ロータリーシェーカー、150rpm)。1mlの全培養液を70mlのRM-PM培地に加え、5日間培養した。全5lの培養液を抽出し、2.5gの粗抽出物を得た。これをSiO2 カラムクロマトグラ
フィーにかけ、クロロホルム/メタノールの段階的濃度勾配により溶出させた。(methanol; 0 to 100% まで9段階で) 9画分を得た。chloroform/methanol (5:1) で溶出した画分
をC18-HPLC (Pegasil ODS 20 mm i.d. x 250 mm) methanol/0.05% 蟻酸水溶液 (83:17)
で精製して9.71 mg のRM-Tを得た。このRM-TはΔrevCΔrevD 株では効率的にリベロマイ
シンAに変換され、RM-Tは生合成中間体であることが示唆された。
【0085】
図4より、ΔrevHΔrevI二重遺伝子破壊株は、主中間産物としてRM-A1a, RM-A2a, 同時に微量のRM-A3a,RM-A3bを蓄積するフェノタイプを示した。これに対し、revIを再導入し
た株(revH破壊株)では、ΔrevHΔrevI二重遺伝子破壊株と同様なフェノタイプを示したが、revHを再導入した株(revI破壊株)ではRM-Tが蓄積した。このことから、RevI遺伝子産物はRM-Tヒドロキシラーゼとして作用し、revI破壊株は、RM安定誘導体であるRM-T生産株として有用であることが判明した。
大腸菌を用いて、RevS蛋白質を異種発現し精製することにより、機能を推定したところ、不飽和脂肪酸に特異的なCoAリガーゼであることが判明した。
放線菌(Streptomyces lividans TK23)を用いてRevT蛋白質を異種発現し精製し、生化学的機能を推定したところ、トランス-2-ヘキセノイル-CoAやトランス‐2−オクテノイルCoAを基質として、ブチルマロニルCoAやヘキシルマロニルCoAを生成することが判明した

大腸菌を用いて、RevH、RevN蛋白質を異種発現し精製することにより、RevNは、RevHのバイアービリガー酸化酵素により生成したエステル結合を切断するエステラーゼであることが判明した。
【0086】
revK, revL, revMの遺伝子機能解析結果
3級水酸基へのヘミサクシニネートの構築は困難であり、有機化学的には、15,000気圧
という超高圧下での反応が行われているが、リベロマイシン生産菌は常温常圧下で生合成反応を行う事が出来る。C18-hydroxy RM-T (RM-T1)からRM-Aを生成するヘミサクシニネート化機構を明らかにするためにrevK, revL, revMの各遺伝子破壊解析を行った。遺伝子破壊とサザンハイブリダイゼーションによる確認結果を図12に示す(ΔrevK (図12 a,d)、ΔrevL (図12 b,e)、ΔrevM (図12 c,f))。次に、revK, revL及びrevM遺伝子破壊
株に蓄積する生合成中間産物の解析を行った。
機能未知のrevK遺伝子の破壊株には、主にm/z 559 [M-H]-のC18-hydroxy RM-T (RM-T1)及びRM-T1の5,6-spiroacetal体(RM-T2)が蓄積した(図13c)。また、マイナー産物として、RM-T1とRM-T2の水酸化体と予想されるm/z 575 [M-H]-の2つのピーク(RM-T3, RM-T4)が
検出された(図13c)。更に、遺伝子破壊株にrevK遺伝子を再導入すると、RM-A生産が回
復することが確認できた(図13d)。
機能未知のrevL遺伝子の破壊株には、revK破壊株と同様に、主にm/z 559 [M-H]-のRM-T1及びRM-T2が蓄積し、マイナー産物として、m/z 575 [M-H]-の2つのピーク(RM-T3, RM-T4)が確認された(図13e)。 更にrevL遺伝子を相補する事によってRM-A生産が回復する事
が確認出来た(図13f)。RevK及びRevL破壊株に蓄積する代謝産物が同一であることから
、RM-T1以後の反応に二つの酵素が必要であることが示唆された。また、相補株中に、m/z
675 [M-H]-を示す新規類縁体(RM-T5: C14 hydroxy RM-A)が見出された(図13f) 。
機能未知のrevM遺伝子の破壊株は、RM-T1,T2,T3,T4に加え、m/z 657のRM誘導体を生産
した(図13g)。また、revM遺伝子を導入する事によってRM-A生産が回復する事を確認出
来た(図13h)。RevMは、NAD(P)Hを補酵素としてRM-Hを還元することでRM-Aを生成する酵素であることが示唆された。 以上の遺伝子破壊解析から、revK及びrevLはRM-T1へのフマル酸転移に関わる新規酵素であることが判明した。
【0087】
revE遺伝子の遺伝子機能解析結果
revE遺伝子破壊とサザンハイブリダイゼーションによる確認結果を図14a,bに示す。ΔrevE株では、リベロマイシンAは生成せず、主産物としてm/z 529 [M-H]- のRM-A6a, 時間
経過的にm/z 645 [M-H]- のRM-A9aが蓄積した(図14d)。そして、ΔrevE株においてrevEを相補すると、リベロマイシンAが生成した(図14e)。したがって、revEはRM-A6aとリ
ベロマイシンAの間の反応に関与することが判明した。
【0088】
2.リベロマイシン類の大量生産系の構築
RM類の生産増強のための遺伝子導入には、接合伝達法を行った。構成的発現のために、接合伝達ベクターpTYM19のプロモーターをaphII遺伝子に置き換え、その下流に発現にさ
せる遺伝子を組み込んだ。大腸菌は、GM2929 hsdS::Tn10 (pUB307::Tn7)を使用し、選別
には、アンピシリン (50 μg ml-1)、クロラムフェニコール (30 μg ml-1)、ストレプトマイシン (50 μg ml-1)及びスペクチノマイシン(100 μg ml-1)を含むLB培地を利用した。リベロマイシン生産菌の胞子を調製し、SY培地で28 ℃ 、4時間培養後、接合伝達ベク
ターを含む大腸菌と50:1の割合で混合し、MS2 (20 ml)プレート上に植菌した。28 ℃、20時間培養後、終濃度でチオストレプトン(20 μg ml-1)、カルモナム(5 μg ml-1)を添加し、1週間培養を行い、チオストレプトン耐性形質転換株を選別した。
野生株(Streptomyces sp. SN-593)、revQ遺伝子破壊株、及び遺伝子導入株をSY培地で2日間培養を行った。その後、前培養液1 ml をRM-PM培地に植菌し更に5日間培養を行った
。その後、等量のアセトンを加え撹拌後、アセトンを除去し、酢酸でpHを4に調整し、等
量の酢酸エチルを添加して抽出を2回行った。その後、酢酸エチルを除去し、メタノール
に溶解し、LC-MS解析を行った。
【0089】
通常S. sp. SN-593株が生産するRM類(RM-A)は、SY培地では12 mg L-1程度であるが、高生産培地では、RM類の生産量は150-200 mg/Lである(図5C)。revQ遺伝子破壊ではRM
類の生産能を失ったが(図5D)、破壊株にrevQ遺伝子を相補することで、RM類の生産が野
生株レベルに回復した(図5E)。このことから、RevQは転写制御に重要であることが判明
した。更に、野生株にrevQ遺伝子を構成的に発現させることによりRM類の生産量は約1g L-1の生産量に増大した(図5F)。
【0090】
3.スピロケタール環化酵素の同定
revG遺伝子の大腸菌異種発現ベクター作製
revG遺伝子を含む鋳型フォスミド11A02、下記のプライマー、およびPrimeSTAR HS DNA polymerase (TaKaRa)を用い、98℃ 10秒後、98℃ 10秒, 62℃ 5秒, 68℃ 1.5分の25サイ
クルPCR反応を行った。
5'-GGAATTCCATATGACGCGACGACTCGACGGTAAG-3'(配列番号79)
5'-CCGCTCGAGTTACGGGGTGGTGAAGCCGGCGTC-3' (配列番号80)
得られた822bpのrevG遺伝子断片を制限酵素(NdeI 及び XhoI)で切断後、大腸菌異種
発現に用いるpET28b(+)b(ポリヒスチジン融合タンパク質発現ベクター:Novagen)に導
入しpET28b(+)-revGを作製した。
【0091】
RevGの大量発現と酵素の精製
E. coli BL21 Star(商標) (DE3)にpET28b(+)-revGを導入した。カナマイシン(50 μgml-1)を含むTB培地中で、OD600が0.5になるまで28℃培養(200 ml)し、0.5 mM IPTGを添加して遺伝子発現を誘導した。7時間 28℃で培養後、大腸菌を遠心分離により回収した。その後、0.5mg リゾチームml-1及び125 U ベンゾナーゼを含む20ml 緩衝液A (100mM NaH2PO4 (pH 7.8), 500mM NaCl, 5 mM イミダゾール, 10% グリセロール)に懸濁し超音波破砕を行った。遠心分離後、上清をNi-NTA (2 × 2 cm) (Qiagen)カラムに添着した。その後、0.2% Tween 20を含む緩衝液A (50 ml)、40 mM イミダゾールを含む緩衝液A (50 ml)で洗浄後、250 mM イミダゾールを含む緩衝液A (25 ml)でRevG (12 mg) を溶出した。その後、
緩衝液B (50 mM NaH2PO4(pH 7.5), 100mM NaCl, 1 mM DTT, 10% 緩衝液) で透析を行い、アミコンウルトラセル30Kで濃縮し精製酵素RevG(7 mg ml-1)を調製した。
【0092】
RevG反応産物の解析
以下の最適化条件でスピロケタール環化酵素(RevG)反応を行った。
50mM glycine-NaOH (pH10), 1 mM DTT, 1 mM NAD+, 10% glycerol, 0.05 mM RM-A1aを
含む溶液(100μl)を30℃ で5 分保温したのちに、2.8 pmol 精製酵素( RevG)を添加し反
応を開始した。インキュベーション後43μl アセトニトリルを添加して反応を停止した。20,000 × g 遠心分離後に上清を回収し反応産物(20 μl)をLC/ESI-MSにて解析した。
反応産物をSep-Pak PLUS C18 columnにかけ、30%アセトニトリルで洗浄後、100
%アセトニトリルで溶出して反応産物を得た。その結果、図6(a)、(c)、(d)に示すように、反応1分ではRM-A2aが生成し、反応10分ではRM-A3a及びRM-A3bが生成した。このことから、非環化状態のRM-A1aから、反応中間体RM-A2a、さらに不安定中間体 C15-dehydro-RM-A2aを経由して酸性HPLC条件下、スピロケタール環を有する RM-A3a及びRM-A3bに変換されることが判明した。
【0093】
なお、RM-A1a、RM-T、RM-A2a、RM-A3aおよびA3bのNMRチャートを図7〜10に示した。
【0094】
4.RevJの大量発現と機能解析
(1)revJ遺伝子の大腸菌異種発現ベクター作製
revJ遺伝子を含む鋳型フォスミド11A02、下記のプライマー、およびPrimeSTAR HS DNA polymerase (TaKaRa)を用い、98℃ 10秒後、98℃ 10 秒, 62℃ 5秒, 68℃ 1.5分の25サイクルPCR反応を行った。
5'-GGAATTCCATATGGTGACCGAGACCGAACAGCTC-3'(配列番号81)
5'-CCGCTCGAGTCAGACCCGGGTGAGGTCGAC-3'(配列番号82)
得られたrevJ遺伝子断片を制限酵素(NdeI 及び XhoI)で切断後、大腸菌異種発現に用いるpET28b(+)b(ポリヒスチジン融合タンパク質発現ベクター:Novagen)に導入しpET28b(+)-revJを作製した。
【0095】
(2)RevJの大量発現と酵素の精製
E. coli BL21 Star(商標) (DE3)にpET28b(+)-revJを導入した。カナマイシン(50 μgml-1)を含むTB培地中で、OD600が0.5になるまで28℃培養(200 ml)し、0.5 mM IPTGを添加して遺伝子発現を誘導した。7時間 28℃で培養後、大腸菌を遠心分離により回収した。その後、0.5mg リゾチームml-1及び125 U ベンゾナーゼを含む20ml 緩衝液A (100mM NaH2PO4 (pH 7.8), 500mM NaCl, 5 mM イミダゾール, 10% グリセロール)に懸濁し超音波破砕を行った。遠心分離後、上清をNi-NTA (2 × 2 cm) (Qiagen)カラムに添着した。その後、0.2% Tween 20を含む緩衝液A (50 ml)、40 mM イミダゾールを含む緩衝液A (50 ml)で洗浄後、250 mM イミダゾールを含む緩衝液A (25 ml)でRevJ (12 mg) を溶出した。その後、
緩衝液B (50 mM NaH2PO4(pH 7.5), 100mM NaCl, 1 mM DTT, 10% 緩衝液) で透析を行い、アミコンウルトラセル30Kで濃縮し精製酵素RevJ(7 mg ml-1)を調製した。
【0096】
(3)RevGRevJ反応産物の解析
RevG と RevJカップリング反応を以下の組成で行った。50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 1 mM DTT, 2 mM NAD+, 1 mM NADPH, 50 μM FAD, 0.05 mM RM-A1a, 2.96 nmol 精製RevG及び
2.93 nmol 精製RevJを含む溶液(100μl)を30℃ で20分反応した。20,000 × g 遠心分離後に上清を回収し反応産物(10 μl)をLCESI-MSにて0.05%ギ酸存在下(図6f)と非存在
下(図6e)で解析した。
その結果、RevJが存在する場合のみ、最終生合成産物(リベロマイシンA)のスピロアセ
タール構造と一致する15S体のみが生成することから、RevJは立体制御因子であることが
判明した。
【0097】
5.動物細胞に対する増殖阻害活性の測定
HL-60 細胞(ヒト急性前骨髄性白血病細胞株)、K562 細胞(ヒト慢性骨髄性白血病細
胞株)は,RPMI1640 medium(Invitrogen製)に10% Fetal Bovine Serum(Nichirei製)
、0.5% penicilin/streptomycin溶液 (Invitrogen製)を添加した培地中、37℃、5% CO2の湿気中培養下で維持した。tsFT210 細胞(マウス乳がん細胞CDC2温度感受性株)は,RPMI1640 medium(Invitrogen製)に5% calf serum(Hyclone製)、0.5% penicilin/streptomycin溶液を添加した培地中、32℃、5% CO2の湿気中培養下で維持した。
HL-60細胞、K562細胞は96穴プレート(IWAKI製)に1.5×104cells/well/100 μlとなるように播種した。tsFT210細胞は96穴プレートに1.6×104cell/well/100μlとなるように
播種した。表5の各薬剤を0.5%(v/v)で添加し、HL-60細胞、K562細胞を37℃、5% CO2の湿気中培養下、tsFT210細胞を32℃、5% CO2の湿気中培養下で維持した。薬剤添加から48
時間後に、生細胞数測定試薬SF溶液(WST-8試薬、Nakarai tesque製)を各ウェルに10 μl添加し、HL-60細胞、K562細胞を37℃、5% CO2の湿気中培養下で30分、tsFT210細胞を32
℃、5% CO2の湿気中培養下で1時間維持した。反応後、マイクロプレートリーダー (PerkinElmer製)を用いて、450 nmの吸光度を測定し、測定値から細胞増殖率を求めた。
【0098】
6.大腸菌に対する増殖阻害活性の測定
大腸菌(HO141株)は、0.5% Polypeptone、0.5% Meat Extract、0.3% NaCl、0.001% Sodium Dodecyl Sulfate(SDS)の培地中、37℃で前培養した。600 nmの吸光度を測定し、
吸光度が0.005となるように調製した大腸菌溶液を、96穴プレートに100 μlずつ播種した。表5の各薬剤を0.5%(v/v)で添加し、37℃で維持した。薬剤添加から6時間後に、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer製)を用いて、600 nmの吸光度を測定し、測定値か
ら増殖率を求めた。
【0099】
7.酵母に対する増殖阻害活性の測定
出芽酵母(MLC30M株)は、2% Polypeptone、1% Yeast Extract、2% Glucose、0.02% Adenine、0.001% Sodium Dodecyl Sulfate(SDS)の培地中、30℃で前培養した。吸光度を
測定し、吸光度が0.05となるように調製した酵母溶液を、96穴プレートに100 μlずつ播
種した。表5の各薬剤を0.5%(v/v)で添加し、30℃で維持した。薬剤添加から18時間後
に、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer製)を用いて、600 nmの吸光度を測定し、
測定値から増殖率を求めた。
【0100】
8.破骨細胞に対する生存阻害活性の測定
5週齢雄ddYマウス(日本SLC製)の大腿骨および脛骨から骨髄細胞を採取し、α-MEM medium(Sigma-Aldrich製)に10% fetal bovine serum、0.5% penicilin/streptomycin溶液、50 ng/ml human M-CSF(ロイコプロール、協和発酵製)、1 ng/ml human TGF-β1(R&D
Systems製)を添加した培地中、タイプIコラーゲンコートプレート(IWAKI製)に播種し、37℃、5% CO2の湿気中培養下で3日間維持した。その後、細胞をPBSで2回洗浄後、プレ
ートに接着している細胞を骨髄マクロファージ細胞として使用した。骨髄マクロファージ細胞を、さらにα-MEM mediumに10% fetal-bovine serum、0.5% penicilin/streptomycin溶液、50 ng/ml human M-CSF、50 ng/ml human soluble RANKL(Peprotech製)を添加し
た培地中、37℃、5% CO2の湿気中培養下で3日間維持し、破骨細胞へ分化させた。
破骨細胞に表5の各薬剤を0.5%(v/v)で添加し、37℃、5% CO2の湿気中培養下で24時
間維持した。その後、細胞を3.7% formalinを含むPBS溶液で室温下30分反応させ、溶液を除去後、さらにacetone/ethanol溶液(1:1 vol/vol)で室温下1分反応させ、溶液を除去
して乾燥させた。固定化細胞にTRAP溶液 [50 mM sodium tartrate、90 mM sodium acetate、0.01% naphthol AS-MX phosphate(Sigma製)、0.05% fast red violet LB salt(Sigma製)、pH 5.0] で室温下30分反応させ、その後蒸留水で洗浄した。TRAP陽性多核破骨細胞数をカウントし、生存率を求めた。
【0101】
9.イソロイシルtRNA合成酵素に対する阻害活性の測定
酵素反応溶液 [20 mM imidazole, pH 7.5、75 mM MgCl2、0.5 mM DTT、1 U/ml tRNA(E
. coli由来、Sigma製)、3 mM ATP、1μM isoleucine、10μCi/ml [3H]isoleucine(GE Healthcare製)、10μg protein(HT1080 cell lysate)]に、表5の各薬剤を1%(v/v)で添加し、合計量100μlで25℃、20分間反応させた。その後、1 mg/ml BSA溶液(400μl)
および10% TCA溶液(500μl)を添加して反応を止め、4℃で一晩静置させた。遠心操作で得た沈殿物をGF-Cフィルター(Whatman製)上に移し、5% TCA溶液で3回洗浄後、フィルターを乾燥させた。バイアルに2 ml aquasol-2(PerkinElmer製)とフィルターを入れ、激
しく攪拌後、[3H]isoleucine量を液体シンチレーションカウンター(Beckman製)で測定
し、酵素活性率を求めた。
【0102】
「結果と考察」
上記5〜9の結果を表5にまとめた。その結果、RM-TはRM-Aに比べより高い癌細胞増殖阻害活性と標的分子IRSに対する酵素阻害活性を示した。このことから、RM-TはRM-Aより
も強い抗癌作用を発揮することが期待される。また、RM-Tメチルエステル、RM-Tエチルエステル、およびRM-Eも高い癌細胞増殖阻害活性を示した。さらに、RM-Tは酵母に対する増殖阻害作用を示し、抗真菌剤として使用できることが分かった。さらに、RM-Eは破骨細胞に対する生存阻害作用を示し、骨疾患治療剤として使用できることが分かった。
【0103】
【表5】
【0104】
なお、表5の各化合物は以下のようにして調製した。
RM-Eの調製
野生株(Streptomyces sp. SN-593)をSY培地で2日間培養後、前培養液1 mlをRM-PM (70 ml)培地に植菌し、更に5日間培養を行った。その後、計3 Lの培養液に対して等量のアセ
トンを加え撹拌後、アセトンを除去し、酢酸でpHを4に調整し、等量の酢酸エチルを添加
して抽出を2回行った。
その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、クロロホルム/メタノール(10:1)画分を回収し、C18-HPLC(アセトニトリル:0.05%ギ酸=47:53)により8.49 mgを精製した。
【0105】
RM-A2bの調製
野生株(Streptomyces sp. SN-593)をSY培地で2日間培養後、前培養液200 mlをRM-PM (14 L)培地に植菌しジャーファーメンターで4日間培養を行った。その後、等量のアセトン
を加え撹拌後、アセトンを除去し、酢酸でpHを4に調整し、等量の酢酸エチルを添加して
抽出を2回行った。C18-MPLCクロマトグラフィー後、Pegasil ODSを用いて0.05%ギ酸-アセトニトリル55-100%グラジェント溶出を行い、0.33 mgを精製した。
【0106】
SF-A, SF-Bの調製
Org. Lett. 2005, 7(25):5573-5576. 清水らにより合成された。
【0107】
RM-T ethylester及びRM-T methylesterの調製
野生株(Streptomyces sp. SN-593)をSY培地で2日間培養を行った。その後、前培養液1 ml をRM-PM (70 ml)培地に植菌し培養を行った。3日後、終濃度で1%になるようにエタノ
ールを加え、さらに2日間培養を行った。その後、合計1.4 Lの培養液に等量のアセトンを加え撹拌後、アセトンを除去し、酢酸でpHを4に調整し、等量の酢酸エチルを添加して抽
出を2回行った後、酢酸エチルを除去し、1.2gの粗画分を得た。ヘキサン/酢酸エチル/酢
酸(100:100:1)溶媒を用いてシリカゲルカラムクロマト後にC18-HPLC精製を行いRM-T ethylesterを得た。RM-T methylesterの調製は、上記と同様であるが、エタノールの代わりにメタノールを添加して培養した。
【0108】
RM-A8aの調製
RevHの大量発現と機能解析
(1) revH遺伝子の大腸菌異種発現ベクター作製
大腸菌による異種発現を容易にするために、revH遺伝子はオペロンバイオテクノロジー株式会社の人工遺伝子合成サービスにより配列を最適化して合成した。合成した配列(制限酵素配列を含む)を配列番号99に示す。
合成されたrevH遺伝子断片を制限酵素(NdeI及びXhoI)で切断後、大腸菌異種発現に用いるpET28b(+)(ポリヒスチジン融合タンパク質発現ベクター:Novagen)に導入しpET28b(+)-revHを作製した。
【0109】
(2) RevHの大量発現と酵素の精製
E. coli BL21 Star (商標) (DE3) にpET28b(+)-revHを導入した。カナマイシン(50 μg ml−1)を含むTB培地中でOD600が1.5になるまで37℃で培養(1l)し、0.1 mM IPTGを添加して遺伝子発現を誘導した。16時間18℃で培養後、大腸菌を遠心分離により回収した。その後Lysis Buffer (Wash Buffer + 1% Tween 20)に懸濁し、超音波破砕を行った。遠心分離後、上清をNi-NTA(2×2 cm)(Qiagen) カラムに吸着した。その後、50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 0.1 M NaCl, 20 mM イミダゾール, 20% グリセロールで洗浄後、50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 0.1 M NaCl, 250 mM イミダゾール, 20% グリセロールで溶出した。そ
の後アミコンウルトラセル30Kを用い、50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 0.1 M NaClでバッファー交換後、濃縮しRevHの精製酵素 (5 mg ml−1, 2 ml)を調製した。
【0110】
(3) RM-A8aの調製
以下の反応溶液組成でRM-A8aを調製した。
50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 0.5 mM DTT, 1 mM NAD+, 0.7 mM NADPH, 0.1 mM FAD, 0.04
mM RM-A1a, 100 nmol 精製RevG及び31 nmol 精製RevHを含む溶液(30 ml)を30℃で150
分間反応した。次に20 nmolの精製RevJを添加しさらに30℃で120分間反応を行った。反応終了後反応溶液を等量の酢酸エチルで2回抽出し、硫酸ナトリウムで脱水した後、酢酸エ
チルをエバポレーターで溜去した。残渣をメタノールに溶解し、HPLC (カラム:PEGASIL ODS (20 mm× 250 mm, 株式会社センシュー化学)に供し、分取した。溶出は85%アセトニ
トリル、流速8 ml min-1で行い、溶出時間は25分であった。さらにアセトニトリル/水を
エバポレーターで溜去し、約0.3 mgのRM-A8aを得た。
【0111】
(4) RM-A6a、RM-A9aの調製
RM-A6a とRM-A9aはrevE破壊株により生産される(図14)。
revE遺伝子破壊株をSY培地で2日間培養を行った後、この前培養液1 mlをRM-PM (70 ml)培地に植菌し本培養を5日間行った。合計5 Lの培養液に等量のアセトンを加え代謝産物の抽出、アセトン除去、酢酸でpHを4に調整を行った。次に、等量の酢酸エチルを添加して3回抽出を行い、酢酸エチルを除去し3 gの粗画分を得た。その後、シリカゲルカラムクロマ
トグラフィーにより、クロロホルム/メタノール (10: 5)画分を回収し、C18-HPLC (アセ
トニトリル: 0.05%ギ酸=60: 40)精製を行った。更にC18-HPLC (アセトニトリル: 0.05%ギ酸=75: 25)により6.9 mgのRM-A6aを精製した。RM-A6aと同一の粗画分から、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、クロロホルム/メタノール (10: 5)画分を回収し、C18-HPLC (アセトニトリル: 0.05%ギ酸=60: 40)精製によりRM-A9aを含む画分130 mgを得た。更にこれをC18-HPLC (0.05%ギ酸-アセトニトリル 60-100%グラジェント溶出、C18-HPLC (アセトニトリル: 0.05%ギ酸=52: 48)精製により18 mgのRM-A9aを精製した。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、物質生産や医薬の分野で有用である。
【0113】
以上、本発明の具体的な態様について詳細に記載したが、当業者にはこれらの態様が制限的なものではなく例示的なものであることは明らかであろう。また、本願明細書中で言及された特許、特許出願、刊行物及び本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願第2010-194222号明細書の開示内容は、参照として、その全部が本願明細書中に取り込まれる
図2
図6
図7
図8
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図11-4】
図11-5】
図11-6】
図13
図1
図3
図4
図5
図12
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]