【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様に限定されない。
【0060】
1.リベロマイシン生産菌からのリベロマイシン生合成遺伝子クラスターの取得
以下の手順に従い、リベロマイシン生産菌(S. sp. SN-593)からのリベロマイシン生合
成遺伝子クラスターの取得を行った。
【0061】
<実験条件>
リベロマイシン生産菌(S. sp. SN-593) 培養
MS寒天プレート(2 % 大豆粉, 2 % D(-)-マンニトール, 2 % 寒天) で 2週間28℃で培養を行い、胞子を着生させた。
一白金耳の胞子をSY培養液 (0.1 % 酵母抽出物, 0.1 % NZ-アミン, 1 % 可溶性デンプ
ン, pH7.0) 70 ml(500ml K1フラスコ)に植菌し2日間28℃で150 rpmで培養した。この前培養液1 mlを70 mの RM-A高生産培地(RM-PM)(2% ポテトデキストロース(Difco), 1% モルト抽出物(Difco), 1% 乾燥酵母(アサヒビール), 5%トマトジュース, 0.1% K
2HPO
4, 0.1% NaCl, 0.03% MgSO
4・7H
2O, 0.01% NaNO
3, 0.005% ZnSO
4・7H
2O, and 0.005% CuSO
4・5H
2O, オートクレーブ前pH 6.5)又はRM-A低生産培地(SK2) (1.4 %可溶性デンプン, 0.35 %グルコース, 0.35 %酵母抽出物, 0.21 % バクトペプトン, 0.21 % ビーフ抽出液 (difco), 0.014 % KH
2PO
4, 0.042 % MgSO
4, pH 7.6)に植菌して5日間28℃で培養した。
【0062】
遺伝子配列解析
リベロマイシン生産菌の全ゲノムショットガンシークエンスにより配列解析を行った。このためにインサートDNAサイズが2-5 kbのプラスミドライブラリーを作成した。更に配
列解析が難しい領域を網羅するために40 kbのインサートDNAを有するフォスミドライブラリーを作成した(EPICENTRE Biotechnology)。配列解析はBigDye terminator ver3.1 kit (Applied Biosystems)を用いて3730xl capillary sequencers (Applied Biosystems)で解析した。
【0063】
誘導発現PKS遺伝子断片のRT-PCRによる取得と全長配列の決定
ポリケチド合成酵素(PKS)配列を持つ遺伝子を特異的に増幅するためのプライマーを設
計し、これらのプライマーによりリベロマイシン生産培地での培養時に特異的に増幅される(リベロマイシン低生産性培地培養時には増幅されない)遺伝子の取得を試みた。
リベロマイシン生産菌の胞子をSK2 培地(70 ml)中で2日間、28℃で培養後、この前培養液1 mlをそれぞれ70 ml の生産培地(RM-PM)及び低生産性培地(SK2)に植菌した。60時間後、培養液5 mlから全RNAをTRIzol Max Bacterial RNA isolation kit (Invitrogen)を用いて抽出した。DNase I により混在する染色体DNAを除去した後、SuperScript III (Invitrogen)を用いて逆転写反応を行った。
【0064】
PCR反応は、TaKaRa LA-taq(タカラバイオ)を用いて 94℃ 2 分, 30, 35又は40 サイ
クルの反応を94℃ 30秒, 62℃ 30秒, 72℃ 30秒で行った。使用したプライマーおよび略
称を以下に示す。
ketosynthase (KS), Acyltransferase (AT), enoylreductase (ER):
KS-F1 :TSGCSATGGACCCSCAGCAG, (配列番号47)
KS-R1: CCSGTRCCGTGCGCCTCSAC, (配列番号48)
KSAT-F1: GTCGACACSGCCTGYTCSTC, (配列番号49)
KSAT-R1: GCGGCGATCTCGCCCTGSGAGTG, (配列番号50)
ER-F1: GTGGGCSTGAACTTCCGCGACGT, (配列番号51)
ER-F2: GACGTGSTGAMCGSCCTCGGGATG, (配列番号52)
ER-F3: GCSGGSGTCGTCACCGCCGTCGG, (配列番号53)
ER-R1: CGGCAGCAACCGCAGCGASGCGTC, (配列番号54)
ER-R2: GGTCTTGCCCATCTCSASGAASCG, (配列番号55)
ER-R3: GACGACCTTGCCCACATGACG. (配列番号56)
KS, KS-AT 及び ERプライマーは、それぞれ0.6, 1.5及び 0.7 kb増幅するようにデザインした。
【0065】
RM-PM培地で特異的に増幅した遺伝子断片をpGEM-T Easy vector (Promega)に連結し大
腸菌(E. coli DH5α)を形質転換後にプラスミドを回収しM13 forward および M13 reverseプライマーを用いて配列を解析した。
【0066】
リベロマイシン生産培地で特異的に増幅されたDNA断片の情報とゲノムドラフト配列に
より得られたコンティグ情報を統合した結果、配列決定した約70%のポリケチド合成酵素(PKS)配列は近接したコンティグ情報に集約された。さらに、候補プローブを用いたDNAハ
イブリダイゼーション解析からフォスミドクローンを選定し、その配列を解析することにより全長を網羅するDNA情報を取得した。得られた全遺伝子配列をFramePlot及びBLAST解
析したところ、全長91 kb、21遺伝子から構成されるRM-A生合成遺伝子クラスターを得る
ことに成功した(
図1)。PKS遺伝子は13モジュール64ドメインから構成されることが遺
伝子配列から推定された。
【0067】
同定された各遺伝子のORFのサイズ、各ORFの推定される機能、相同性が高いタンパク質、それとの%同一性、および相同性が高いタンパク質のアクセス番号を表1に示す。これらの遺伝子にコードされるORFはいずれも公知のアミノ酸配列とは相同性が低いものであ
った。
【表1】
【0068】
(実験手法)遺伝子破壊プラスミド作製
以上のようにして得られた候補遺伝子クラスターが確かにRM-A生合成遺伝子クラスターであることを確認するために、ポリケチド生合成遺伝子revC, revDの二重遺伝子破壊を行った。revCの3'末端領域及びrevDの5'末端領域を欠失させ、内部にカナマイシン耐性化に関わるaphII遺伝子(約1.6 kb)を組み込んだ。更にaphII遺伝子の上流及び下流に約2.5
kbの相同組換えDNA領域を含む接合伝達ベクターを調製した。同様な手法でrevH, revIの
二重遺伝子破壊株作製用のプラスミドを構築した(
図4A)。また、クラスター境界のorf(-1)(配列番号31)、orf1(配列番号45)及びrevGの遺伝子破壊を行うために、各
遺伝子の内部配列をaphII遺伝子に置き換え、同様に上流及び下流に約2.5 kbの相同組換
えDNA領域を含む遺伝子破壊ベクターを調製した。具体的な手順は以下のとおりである。
【0069】
revCとrevDの2重破壊用プラスミドを構築するために、2.5-kb のrevC フラグメントと2.7-kbのrevD フラグメントを、フォスミドクローン (revC は11A02、revD は30B04)を鋳
型に、revC はrevC-Eco-Bam-F (5'-CCGGAATTCGGATCCGCCGGCTGCACGAGGAGTCGTCG-3'配列番号57)とrevC-Hind-Asc-R(5'-CCCAAGCTTGGCGCGCCTCGGGTGCGTCCTGCGCGGTG-3'配列番号
58)を、revDはrevD-Hind-Asc-F(5'-CCCAAGCTTGGCGCGCCTGCCCGACGTGATCGACGACGC-3'配列番号59)とrevD-Xho-Bam-R(5'-CCGCTCGAGGGATCCAGCCCCTCGGCCACCGACA-3'配列番号60)をプライマーに用いたPCRを行った。
【0070】
増幅したrevC 断片をEcoR IとHindIIIで消化し、pET-Duet ベクター(Novagen)に組み込んで、pET-Cを得た。増幅したrevD 断片をHindIII とXhoIで消化し、pET-Cに組み込み
、pET-CDを得た。HindIIIサイト付きプライマー(aph-Hind-F: 5'-CTCGAGAAGCTTCAGTGAGTTCGAGCGACTCGAGA-3'とaph-Hind-R: 5'-CTCGAGAAGCTTCTGGTACCGAGCGAACGCGTA-3'配列番号
61,62)で増幅したaphII 遺伝子をHindIIIで消化し、pET-CD のHindIIIサイトに組
み込んでpET-CaphDを構築した。得られたpET-CaphDをBamHIで消化し、得られたrevCとrevDの2重破壊用カセットを接合プラスミドpIMのBamHIサイトに導入してpIM-CaphDを得た。
【0071】
revG, orf(-1), およびorf1の破壊は、PCRによる遺伝子置換(λ-Red system)によっ
て行った(Proc Natl Acad Sci U S A 100, 1541-6 (2003))。フォスミド11A02, 18G01 および30B04をそれぞれ、revG, orf(-1), およびorf1の遺伝子置換の鋳型に用い、表2に記載のプライマーをそれぞれ用いた。ただし、S. sp. SN-593 はサイズの大きい遺伝子を導入するのが難しかったため、破壊型遺伝子を含む約6.6 kb のDNA 断片を下記表3のプ
ライマーにより増幅して、これをpIM接合ベクターのHindIIIサイトに組み込んだ。なお、revG破壊のスキームを
図3aに示した。
revE, revK, revMについても同様の方法で遺伝子破壊を行った。revE,revK, revM破壊
のスキームを
図12に示した。
【0072】
RevL遺伝子破壊は、以下の手法で行った。まず、revl遺伝子の両端に2.5-kb相同組み換え領域を有するようにフォスミドクローン (11A02)を鋳型に、RevL-Hind-F(5'-CCCAAGCTTGGACTTCGCCTGCGCGTTGAACTT-3' 配列番号83)とrevL-Hind-R(5'-CCCAAGCTTAGGCTTCCTGGAGGAAGTCCGTCA-3' 配列番号84)をプライマーに用いたPCRを行った。この遺伝子断片
をpUC19のHindIIIサイトに導入した。これを鋳型として、revL領域を除くようにrevL-Xho-F(5'-CCGCTCGAGAACGCCCCGGAGGGCATCTACTGA-3' 配列番号85)とrevL-Xho-R(5'- CCGCTCGAGCTGGTCGACCAGAGCCAGTGATTC-3' 配列番号86)プライマーを用いてPCRを行い、DpnI処理、XhoI切断の後にセルフライゲーションを行った。RevLが破壊された領域を持つ遺伝子断片をHindIIIで切断し、pIM破壊ベクターのHindIIIサイトに導入した。
【0073】
【表2】
下線部は相同組み換えに利用した相同配列である。
【0074】
【表3】
下線部は制限酵素認識配列である。
【0075】
遺伝子相補プラスミド作製
破壊した遺伝子の機能相補を確認するために、aphIIプロモーター(EcoRI、BamHI断片
)にrevG遺伝子(BamHI/HindIII断片)を連結したDNAを作製し、染色体へのDNA組み込み
機能を有するpTYM19ベクター(J Antibiot (Tokyo) 56, 950-6 (2003))に導入した。具
体的には、aphII プロモーターを含む断片をTn5 から下記配列番号75と76のプライマーを用いて増幅し、pTYM19に組みこんだ。得られたpTYM19-aphII をBamHIとHindIIIで消
化し、ここに下記配列番号77と78のプライマーで11A02から増幅したrevG断片を組み
込んで、revG 相補用ベクターを構築した。
【0076】
【表4】
下線部は制限酵素認識配列である。
【0077】
破壊したrevE、revK、revLおよびrevM遺伝子の機能相補の確認を行った。aphIIプロモ
ーター(EcoRI、BamHI断片)にrevL遺伝子(BamHI、HindIII断片)を連結したDNAを作製
し、染色体へのDNA組み込み機能を有するpTYM19ベクター(J Antibiot (Tokyo) 56, 950-6 (2003))に導入した。pTYM19-aphII をBamHIとHindIIIで消化し、ここに下記配列番号
93(RevL-Bam-F: CGC
GGATCCATGAACGAATCACTGGCTCTGGTC)と94(RevL-Hind-R: CCC
AAGCTTTCAGTAGATGCCCTCCGGGGCGTT)プライマーで11A02から増幅したrevL断片を組み込んで、revL相補用ベクターを構築した。
また、pTYM19をEcoRIとHindIIIで消化し、ここに下記配列番号95(RevK-Eco-F: CCG
GAATTCCACCGGGATGGTGACCTCCAC)と96(RevN-Hind-R: CCC
AAGCTTTCACGTGTGTTGCGTCCAGGCTTC)プライマーで11A02を鋳型として増幅した内生のプロモーターを有するrevK、revM遺
伝子を組み込み、revKおよびrevM相補用ベクターを構築した。
また、破壊したrevE遺伝子の機能相補を確認するために、pTYM19-aphII をBamHIとHindIIIで消化し、ここに下記配列番号97(RevE-Bam-F: CGC
GGATCCATGGACATCACCGCAGCAGTGATC)と98(RevE-Hind-R: CCC
AAGCTTTCACCGGTGCGTGAGCACCACCTT)プライマーで11A02か
ら増幅したrevE断片を組み込んで、revE相補用ベクターを構築した。
【0078】
接合伝達法による遺伝子導入・破壊
遺伝子導入は大腸菌からリベロマイシン生産菌への接合伝達法により行った。大腸菌はGM2929 hsdS::Tn10 (pUB307::Tn7) (Proc Natl Acad Sci U S A 107, 2646 (Feb 9, 2010))を使用し、接合伝達ベクターは、pKU250 (Proc Natl Acad Sci U S A 107, 2646 (Feb 9, 2010))からBamHI-KpnI 領域を除くことにより最適化を行ったpIMベクターを使用
した。遺伝子破壊ベクターを有する大腸菌の選別には、カナマイシン (25 μg ml
-1)、クロラムフェニコール (30 μg ml
-1)、ストレプトマイシン (50 μg ml
-1)及びスペクチノマイシン(100 μg ml
-1)を含むLB (1% トリ プトン, 0.5% 酵母抽出物, 1% NaCl)培地を利用した。遺伝子相補ベクターを有する場合には、カナマイシンの代わりにアンピシリン(50 μg ml
-1)を用いた。
リベロマイシン生産菌の胞子を調製し、SY培地で28℃、4時間培養後、遺伝子破壊ベク
ターを含む大腸菌GM2929 hsdS::Tn10 (pUB307::Tn7) と50:1の割合で混合し、MS2 (3 % 大豆粉, 2 % D(-)-マンニットール, 25 mM MgCl
2, 2 % 寒天) (20 ml)プレート上に植菌
した。28 ℃、20時間培養後、終濃度で20 μg ml
-1 チオストレプトン、5 μg ml
-1 カルモナムを添加し、更に1週間培養を進めた。遺伝子相補の場合には、チオストレプトン耐
性のクローンを選別で形質転換が完了するが、遺伝子破壊の場合には、更に0.4 μg ml
-1のリボスタマイシンを含むMSプレートで二次選別を行った後、得られた耐性クローンを薬剤を含まないSY培地(70 ml)で液体培養、MSプレート上で胞子形成を行い、単一の胞子か
ら得られたコロニーを調製し、リボスタマイシン耐性、チオストレプトン感受性のクローンを選別した。
【0079】
遺伝子破壊検証
遺伝子破壊株の確認にはサザンハイブリダイゼーション解析を行った(
図3b)。PrimeSTAR HS DNA polymerase (TaKaRa)を用いて各プローブ調製を行った。反応は、98℃10
秒, 25 サイクル98℃10秒後, 67℃ 5秒, 68℃ 2.5 分の25サイクルPCR反応、又は98℃ 10秒後, 98℃ 10秒, 67℃ 5秒, 68℃ 40秒の25サイクルPCR反応を行った。増幅したDNA 断
片はゲル切り出し精製し、AlkPhos Direct Labelling Reagents (GE Healthcare)により
標識を行った。
【0080】
遺伝子破壊株からの代謝産物の抽出
野生株(Streptomyces sp. SN-593)及び遺伝子破壊株をSY培地で2日間培養を行った。その後、前培養液1 ml をRM-PM (70 ml)培地に植菌し更に5日間培養を行った。その後、等
量のアセトンを加え撹拌後、アセトンを除去し、酢酸でpHを4に調整し、等量の酢酸エチ
ルを添加して抽出を2回行った。その後、酢酸エチルを除去し、メタノール20 mlに溶解し、LC-MSにて解析を行った。ESI-MS 解析は、マススペクトロメーター (Q-TRAP, Applied Biosystems)を装備したWatersAlliance HPLCシステムを用いた。HPLCは、A溶媒:0.05% ギ酸水溶液、B溶媒:アセトニトリル、XTerra(商標)MSC18 5 μm (2.1 mm i.d. x 150
mm)カラムを用いて、流速0.2 ml min
-1で解析を行った。30%B溶媒で平衡化されたカラ
ムに試料をロード後、20分間で30%から100%B溶媒のリニアグラジエント溶出を行い、さ
らに20分間100%B溶媒で溶出を行った。マススペクトルはESI-ネガティブモードで解析
を行った。
【0081】
<結果>
orf(-1)破壊株、およびorf1破壊株を解析した結果、これらの株はいずれもリベロマイ
シン類の生産において野生株と変わらなかった。したがって、これらの遺伝子はリベロマイシン生合成系に関与していないことが考えられた。
【0082】
ΔrevCΔrevD 2重変異株ではリベロマイシンAの生成が見られなかったことから、revC およびrevDはリベロマイシンAの生合成に関与していることが考えられた。しかし、ΔrevCΔrevD 2重変異株にRM-A1aを加えたところ、リベロマイシンAを生成したことから、revC
およびrevDはRM-A1aより上流の反応に関与することが示唆された(
図2)。RevA、RevB
、RevC、RevD遺伝子産物は、それぞれポリケチドシンターゼ(PKS)として機能すること
が確認された。
【0083】
一方、ΔrevG株では、リベロマイシンAは生成せず、RM-A1aが蓄積した(
図3d、g)
。そして、ΔrevG株においてrevGを相補すると、リベロマイシンAが生成した(
図3e、h)。したがって、revGはRM-A1aとリベロマイシンAの間の反応に関与することが考えられ
た。なお、RM-A1aはC
18-HPLC (Pegasil ODS 10 mm i.d. x 250 mm)を用い、アセトニトリル/0.05% 蟻酸水溶液(65:35) で精製した。RM-A1eは、ΔrevG株を5日以上培養することによって得られた。RM-A1eはC
18-HPLC (Pegasil ODS 10 mm i.d. x 250 mm)を用い、アセトニトリル/0.05% 蟻酸水溶液(70:30) で精製した。
【0084】
また、ΔrevG をrevG遺伝子で相補した株を70mlのSY培地で28℃、2日間培養した(ロータリーシェーカー、150rpm)。1mlの全培養液を70mlのRM-PM培地に加え、5日間培養した。全5lの培養液を抽出し、2.5gの粗抽出物を得た。これをSiO
2 カラムクロマトグラ
フィーにかけ、クロロホルム/メタノールの段階的濃度勾配により溶出させた。(methanol; 0 to 100% まで9段階で) 9画分を得た。chloroform/methanol (5:1) で溶出した画分
をC
18-HPLC (Pegasil ODS 20 mm i.d. x 250 mm) methanol/0.05% 蟻酸水溶液 (83:17)
で精製して9.71 mg のRM-Tを得た。このRM-TはΔrevCΔrevD 株では効率的にリベロマイ
シンAに変換され、RM-Tは生合成中間体であることが示唆された。
【0085】
図4より、ΔrevHΔrevI二重遺伝子破壊株は、主中間産物としてRM-A1a, RM-A2a, 同時に微量のRM-A3a,RM-A3bを蓄積するフェノタイプを示した。これに対し、revIを再導入し
た株(revH破壊株)では、ΔrevHΔrevI二重遺伝子破壊株と同様なフェノタイプを示したが、revHを再導入した株(revI破壊株)ではRM-Tが蓄積した。このことから、RevI遺伝子産物はRM-Tヒドロキシラーゼとして作用し、revI破壊株は、RM安定誘導体であるRM-T生産株として有用であることが判明した。
大腸菌を用いて、RevS蛋白質を異種発現し精製することにより、機能を推定したところ、不飽和脂肪酸に特異的なCoAリガーゼであることが判明した。
放線菌(Streptomyces lividans TK23)を用いてRevT蛋白質を異種発現し精製し、生化学的機能を推定したところ、トランス-2-ヘキセノイル-CoAやトランス‐2−オクテノイルCoAを基質として、ブチルマロニルCoAやヘキシルマロニルCoAを生成することが判明した
。
大腸菌を用いて、RevH、RevN蛋白質を異種発現し精製することにより、RevNは、RevHのバイアービリガー酸化酵素により生成したエステル結合を切断するエステラーゼであることが判明した。
【0086】
revK, revL, revMの遺伝子機能解析結果
3級水酸基へのヘミサクシニネートの構築は困難であり、有機化学的には、15,000気圧
という超高圧下での反応が行われているが、リベロマイシン生産菌は常温常圧下で生合成反応を行う事が出来る。C18-hydroxy RM-T (RM-T1)からRM-Aを生成するヘミサクシニネート化機構を明らかにするためにrevK, revL, revMの各遺伝子破壊解析を行った。遺伝子破壊とサザンハイブリダイゼーションによる確認結果を
図12に示す(ΔrevK (
図12 a,d)、ΔrevL (
図12 b,e)、ΔrevM (
図12 c,f))。次に、revK, revL及びrevM遺伝子破壊
株に蓄積する生合成中間産物の解析を行った。
機能未知のrevK遺伝子の破壊株には、主にm/z 559 [M-H]
-のC18-hydroxy RM-T (RM-T1)及びRM-T1の5,6-spiroacetal体(RM-T2)が蓄積した(
図13c)。また、マイナー産物として、RM-T1とRM-T2の水酸化体と予想されるm/z 575 [M-H]
-の2つのピーク(RM-T3, RM-T4)が
検出された(
図13c)。更に、遺伝子破壊株にrevK遺伝子を再導入すると、RM-A生産が回
復することが確認できた(
図13d)。
機能未知のrevL遺伝子の破壊株には、revK破壊株と同様に、主にm/z 559 [M-H]
-のRM-T1及びRM-T2が蓄積し、マイナー産物として、m/z 575 [M-H]
-の2つのピーク(RM-T3, RM-T4)が確認された(
図13e)。 更にrevL遺伝子を相補する事によってRM-A生産が回復する事
が確認出来た(
図13f)。RevK及びRevL破壊株に蓄積する代謝産物が同一であることから
、RM-T1以後の反応に二つの酵素が必要であることが示唆された。また、相補株中に、m/z
675 [M-H]
-を示す新規類縁体(RM-T5: C14 hydroxy RM-A)が見出された(
図13f) 。
機能未知のrevM遺伝子の破壊株は、RM-T1,T2,T3,T4に加え、m/z 657のRM誘導体を生産
した(
図13g)。また、revM遺伝子を導入する事によってRM-A生産が回復する事を確認出
来た(
図13h)。RevMは、NAD(P)Hを補酵素としてRM-Hを還元することでRM-Aを生成する酵素であることが示唆された。 以上の遺伝子破壊解析から、revK及びrevLはRM-T1へのフマル酸転移に関わる新規酵素であることが判明した。
【0087】
revE遺伝子の遺伝子機能解析結果
revE遺伝子破壊とサザンハイブリダイゼーションによる確認結果を
図14a,bに示す。ΔrevE株では、リベロマイシンAは生成せず、主産物としてm/z 529 [M-H]
- のRM-A6a, 時間
経過的にm/z 645 [M-H]
- のRM-A9aが蓄積した(
図14d)。そして、ΔrevE株においてrevEを相補すると、リベロマイシンAが生成した(
図14e)。したがって、revEはRM-A6aとリ
ベロマイシンAの間の反応に関与することが判明した。
【0088】
2.リベロマイシン類の大量生産系の構築
RM類の生産増強のための遺伝子導入には、接合伝達法を行った。構成的発現のために、接合伝達ベクターpTYM19のプロモーターをaphII遺伝子に置き換え、その下流に発現にさ
せる遺伝子を組み込んだ。大腸菌は、GM2929 hsdS::Tn10 (pUB307::Tn7)を使用し、選別
には、アンピシリン (50 μg ml
-1)、クロラムフェニコール (30 μg ml
-1)、ストレプトマイシン (50 μg ml
-1)及びスペクチノマイシン(100 μg ml
-1)を含むLB培地を利用した。リベロマイシン生産菌の胞子を調製し、SY培地で28 ℃ 、4時間培養後、接合伝達ベク
ターを含む大腸菌と50:1の割合で混合し、MS2 (20 ml)プレート上に植菌した。28 ℃、20時間培養後、終濃度でチオストレプトン(20 μg ml
-1)、カルモナム(5 μg ml
-1)を添加し、1週間培養を行い、チオストレプトン耐性形質転換株を選別した。
野生株(Streptomyces sp. SN-593)、revQ遺伝子破壊株、及び遺伝子導入株をSY培地で2日間培養を行った。その後、前培養液1 ml をRM-PM培地に植菌し更に5日間培養を行った
。その後、等量のアセトンを加え撹拌後、アセトンを除去し、酢酸でpHを4に調整し、等
量の酢酸エチルを添加して抽出を2回行った。その後、酢酸エチルを除去し、メタノール
に溶解し、LC-MS解析を行った。
【0089】
通常S. sp. SN-593株が生産するRM類(RM-A)は、SY培地では12 mg L
-1程度であるが、高生産培地では、RM類の生産量は150-200 mg/Lである(
図5C)。revQ遺伝子破壊ではRM
類の生産能を失ったが(
図5D)、破壊株にrevQ遺伝子を相補することで、RM類の生産が野
生株レベルに回復した(
図5E)。このことから、RevQは転写制御に重要であることが判明
した。更に、野生株にrevQ遺伝子を構成的に発現させることによりRM類の生産量は約1g L
-1の生産量に増大した(
図5F)。
【0090】
3.スピロケタール環化酵素の同定
revG遺伝子の大腸菌異種発現ベクター作製
revG遺伝子を含む鋳型フォスミド11A02、下記のプライマー、およびPrimeSTAR HS DNA polymerase (TaKaRa)を用い、98℃ 10秒後、98℃ 10秒, 62℃ 5秒, 68℃ 1.5分の25サイ
クルPCR反応を行った。
5'-GGAATTCCATATGACGCGACGACTCGACGGTAAG-3'(配列番号79)
5'-CCGCTCGAGTTACGGGGTGGTGAAGCCGGCGTC-3' (配列番号80)
得られた822bpのrevG遺伝子断片を制限酵素(NdeI 及び XhoI)で切断後、大腸菌異種
発現に用いるpET28b(+)b(ポリヒスチジン融合タンパク質発現ベクター:Novagen)に導
入しpET28b(+)-revGを作製した。
【0091】
RevGの大量発現と酵素の精製
E. coli BL21 Star(商標)
(DE3)にpET28b(+)-revGを導入した。カナマイシン(50 μgml
-1)を含むTB培地中で、OD
600が0.5になるまで28℃培養(200 ml)し、0.5 mM IPTGを添加して遺伝子発現を誘導した。7時間 28℃で培養後、大腸菌を遠心分離により回収した。その後、0.5mg リゾチームml
-1及び125 U ベンゾナーゼを含む20ml 緩衝液A (100mM NaH
2PO
4 (pH 7.8), 500mM NaCl, 5 mM イミダゾール, 10% グリセロール)に懸濁し超音波破砕を行った。遠心分離後、上清をNi-NTA (2 × 2 cm) (Qiagen)カラムに添着した。その後、0.2% Tween 20を含む緩衝液A (50 ml)、40 mM イミダゾールを含む緩衝液A (50 ml)で洗浄後、250 mM イミダゾールを含む緩衝液A (25 ml)でRevG (12 mg) を溶出した。その後、
緩衝液B (50 mM NaH
2PO
4(pH 7.5), 100mM NaCl, 1 mM DTT, 10% 緩衝液) で透析を行い、アミコンウルトラセル30Kで濃縮し精製酵素RevG(7 mg ml
-1)を調製した。
【0092】
RevG反応産物の解析
以下の最適化条件でスピロケタール環化酵素(RevG)反応を行った。
50mM glycine-NaOH (pH10), 1 mM DTT, 1 mM NAD
+, 10% glycerol, 0.05 mM RM-A1aを
含む溶液(100μl)を30℃ で5 分保温したのちに、2.8 pmol 精製酵素( RevG)を添加し反
応を開始した。インキュベーション後43μl アセトニトリルを添加して反応を停止した。20,000 × g 遠心分離後に上清を回収し反応産物(20 μl)をLC/ESI-MSにて解析した。
反応産物をSep-Pak PLUS C18 columnにかけ、30%アセトニトリルで洗浄後、100
%アセトニトリルで溶出して反応産物を得た。その結果、
図6(a)、(c)、(d)に示すように、反応1分ではRM-A2aが生成し、反応10分ではRM-A3a及びRM-A3bが生成した。このことから、非環化状態のRM-A1aから、反応中間体RM-A2a、さらに不安定中間体 C15-dehydro-RM-A2aを経由して酸性HPLC条件下、スピロケタール環を有する RM-A3a及びRM-A3bに変換されることが判明した。
【0093】
なお、RM-A1a、RM-T、RM-A2a、RM-A3aおよびA3bのNMRチャートを
図7〜10に示した。
【0094】
4.RevJの大量発現と機能解析
(1)revJ遺伝子の大腸菌異種発現ベクター作製
revJ遺伝子を含む鋳型フォスミド11A02、下記のプライマー、およびPrimeSTAR HS DNA polymerase (TaKaRa)を用い、98℃ 10秒後、98℃ 10 秒, 62℃ 5秒, 68℃ 1.5分の25サイクルPCR反応を行った。
5'-GGAATTCCATATGGTGACCGAGACCGAACAGCTC-3'(配列番号81)
5'-CCGCTCGAGTCAGACCCGGGTGAGGTCGAC-3'(配列番号82)
得られたrevJ遺伝子断片を制限酵素(NdeI 及び XhoI)で切断後、大腸菌異種発現に用いるpET28b(+)b(ポリヒスチジン融合タンパク質発現ベクター:Novagen)に導入しpET28b(+)-revJを作製した。
【0095】
(2)RevJの大量発現と酵素の精製
E. coli BL21 Star(商標)
(DE3)にpET28b(+)-revJを導入した。カナマイシン(50 μgml
-1)を含むTB培地中で、OD
600が0.5になるまで28℃培養(200 ml)し、0.5 mM IPTGを添加して遺伝子発現を誘導した。7時間 28℃で培養後、大腸菌を遠心分離により回収した。その後、0.5mg リゾチームml
-1及び125 U ベンゾナーゼを含む20ml 緩衝液A (100mM NaH
2PO
4 (pH 7.8), 500mM NaCl, 5 mM イミダゾール, 10% グリセロール)に懸濁し超音波破砕を行った。遠心分離後、上清をNi-NTA (2 × 2 cm) (Qiagen)カラムに添着した。その後、0.2% Tween 20を含む緩衝液A (50 ml)、40 mM イミダゾールを含む緩衝液A (50 ml)で洗浄後、250 mM イミダゾールを含む緩衝液A (25 ml)でRevJ (12 mg) を溶出した。その後、
緩衝液B (50 mM NaH
2PO
4(pH 7.5), 100mM NaCl, 1 mM DTT, 10% 緩衝液) で透析を行い、アミコンウルトラセル30Kで濃縮し精製酵素RevJ(7 mg ml
-1)を調製した。
【0096】
(3)RevGRevJ反応産物の解析
RevG と RevJカップリング反応を以下の組成で行った。50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 1 mM DTT, 2 mM NAD
+, 1 mM NADPH, 50 μM FAD, 0.05 mM RM-A1a, 2.96 nmol 精製RevG及び
2.93 nmol 精製RevJを含む溶液(100μl)を30℃ で20分反応した。20,000 × g 遠心分離後に上清を回収し反応産物(10 μl)をLCESI-MSにて0.05%ギ酸存在下(
図6f)と非存在
下(
図6e)で解析した。
その結果、RevJが存在する場合のみ、最終生合成産物(リベロマイシンA)のスピロアセ
タール構造と一致する15S体のみが生成することから、RevJは立体制御因子であることが
判明した。
【0097】
5.動物細胞に対する増殖阻害活性の測定
HL-60 細胞(ヒト急性前骨髄性白血病細胞株)、K562 細胞(ヒト慢性骨髄性白血病細
胞株)は,RPMI1640 medium(Invitrogen製)に10% Fetal Bovine Serum(Nichirei製)
、0.5% penicilin/streptomycin溶液 (Invitrogen製)を添加した培地中、37℃、5% CO
2の湿気中培養下で維持した。tsFT210 細胞(マウス乳がん細胞CDC2温度感受性株)は,RPMI1640 medium(Invitrogen製)に5% calf serum(Hyclone製)、0.5% penicilin/streptomycin溶液を添加した培地中、32℃、5% CO
2の湿気中培養下で維持した。
HL-60細胞、K562細胞は96穴プレート(IWAKI製)に1.5×10
4cells/well/100 μlとなるように播種した。tsFT210細胞は96穴プレートに1.6×10
4cell/well/100μlとなるように
播種した。表5の各薬剤を0.5%(v/v)で添加し、HL-60細胞、K562細胞を37℃、5% CO
2の湿気中培養下、tsFT210細胞を32℃、5% CO
2の湿気中培養下で維持した。薬剤添加から48
時間後に、生細胞数測定試薬SF溶液(WST-8試薬、Nakarai tesque製)を各ウェルに10 μl添加し、HL-60細胞、K562細胞を37℃、5% CO
2の湿気中培養下で30分、tsFT210細胞を32
℃、5% CO
2の湿気中培養下で1時間維持した。反応後、マイクロプレートリーダー (PerkinElmer製)を用いて、450 nmの吸光度を測定し、測定値から細胞増殖率を求めた。
【0098】
6.大腸菌に対する増殖阻害活性の測定
大腸菌(HO141株)は、0.5% Polypeptone、0.5% Meat Extract、0.3% NaCl、0.001% Sodium Dodecyl Sulfate(SDS)の培地中、37℃で前培養した。600 nmの吸光度を測定し、
吸光度が0.005となるように調製した大腸菌溶液を、96穴プレートに100 μlずつ播種した。表5の各薬剤を0.5%(v/v)で添加し、37℃で維持した。薬剤添加から6時間後に、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer製)を用いて、600 nmの吸光度を測定し、測定値か
ら増殖率を求めた。
【0099】
7.酵母に対する増殖阻害活性の測定
出芽酵母(MLC30M株)は、2% Polypeptone、1% Yeast Extract、2% Glucose、0.02% Adenine、0.001% Sodium Dodecyl Sulfate(SDS)の培地中、30℃で前培養した。吸光度を
測定し、吸光度が0.05となるように調製した酵母溶液を、96穴プレートに100 μlずつ播
種した。表5の各薬剤を0.5%(v/v)で添加し、30℃で維持した。薬剤添加から18時間後
に、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer製)を用いて、600 nmの吸光度を測定し、
測定値から増殖率を求めた。
【0100】
8.破骨細胞に対する生存阻害活性の測定
5週齢雄ddYマウス(日本SLC製)の大腿骨および脛骨から骨髄細胞を採取し、α-MEM medium(Sigma-Aldrich製)に10% fetal bovine serum、0.5% penicilin/streptomycin溶液、50 ng/ml human M-CSF(ロイコプロール、協和発酵製)、1 ng/ml human TGF-β1(R&D
Systems製)を添加した培地中、タイプIコラーゲンコートプレート(IWAKI製)に播種し、37℃、5% CO
2の湿気中培養下で3日間維持した。その後、細胞をPBSで2回洗浄後、プレ
ートに接着している細胞を骨髄マクロファージ細胞として使用した。骨髄マクロファージ細胞を、さらにα-MEM mediumに10% fetal-bovine serum、0.5% penicilin/streptomycin溶液、50 ng/ml human M-CSF、50 ng/ml human soluble RANKL(Peprotech製)を添加し
た培地中、37℃、5% CO
2の湿気中培養下で3日間維持し、破骨細胞へ分化させた。
破骨細胞に表5の各薬剤を0.5%(v/v)で添加し、37℃、5% CO
2の湿気中培養下で24時
間維持した。その後、細胞を3.7% formalinを含むPBS溶液で室温下30分反応させ、溶液を除去後、さらにacetone/ethanol溶液(1:1 vol/vol)で室温下1分反応させ、溶液を除去
して乾燥させた。固定化細胞にTRAP溶液 [50 mM sodium tartrate、90 mM sodium acetate、0.01% naphthol AS-MX phosphate(Sigma製)、0.05% fast red violet LB salt(Sigma製)、pH 5.0] で室温下30分反応させ、その後蒸留水で洗浄した。TRAP陽性多核破骨細胞数をカウントし、生存率を求めた。
【0101】
9.イソロイシルtRNA合成酵素に対する阻害活性の測定
酵素反応溶液 [20 mM imidazole, pH 7.5、75 mM MgCl
2、0.5 mM DTT、1 U/ml tRNA(E
. coli由来、Sigma製)、3 mM ATP、1μM isoleucine、10μCi/ml [
3H]isoleucine(GE Healthcare製)、10μg protein(HT1080 cell lysate)]に、表5の各薬剤を1%(v/v)で添加し、合計量100μlで25℃、20分間反応させた。その後、1 mg/ml BSA溶液(400μl)
および10% TCA溶液(500μl)を添加して反応を止め、4℃で一晩静置させた。遠心操作で得た沈殿物をGF-Cフィルター(Whatman製)上に移し、5% TCA溶液で3回洗浄後、フィルターを乾燥させた。バイアルに2 ml aquasol-2(PerkinElmer製)とフィルターを入れ、激
しく攪拌後、[
3H]isoleucine量を液体シンチレーションカウンター(Beckman製)で測定
し、酵素活性率を求めた。
【0102】
「結果と考察」
上記5〜9の結果を表5にまとめた。その結果、RM-TはRM-Aに比べより高い癌細胞増殖阻害活性と標的分子IRSに対する酵素阻害活性を示した。このことから、RM-TはRM-Aより
も強い抗癌作用を発揮することが期待される。また、RM-Tメチルエステル、RM-Tエチルエステル、およびRM-Eも高い癌細胞増殖阻害活性を示した。さらに、RM-Tは酵母に対する増殖阻害作用を示し、抗真菌剤として使用できることが分かった。さらに、RM-Eは破骨細胞に対する生存阻害作用を示し、骨疾患治療剤として使用できることが分かった。
【0103】
【表5】
【0104】
なお、表5の各化合物は以下のようにして調製した。
RM-Eの調製
野生株(Streptomyces sp. SN-593)をSY培地で2日間培養後、前培養液1 mlをRM-PM (70 ml)培地に植菌し、更に5日間培養を行った。その後、計3 Lの培養液に対して等量のアセ
トンを加え撹拌後、アセトンを除去し、酢酸でpHを4に調整し、等量の酢酸エチルを添加
して抽出を2回行った。
その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、クロロホルム/メタノール(10:1)画分を回収し、C
18-HPLC(アセトニトリル:0.05%ギ酸=47:53)により8.49 mgを精製した。
【0105】
RM-A2bの調製
野生株(Streptomyces sp. SN-593)をSY培地で2日間培養後、前培養液200 mlをRM-PM (14 L)培地に植菌しジャーファーメンターで4日間培養を行った。その後、等量のアセトン
を加え撹拌後、アセトンを除去し、酢酸でpHを4に調整し、等量の酢酸エチルを添加して
抽出を2回行った。C
18-MPLCクロマトグラフィー後、Pegasil ODSを用いて0.05%ギ酸-アセトニトリル55-100%グラジェント溶出を行い、0.33 mgを精製した。
【0106】
SF-A, SF-Bの調製
Org. Lett. 2005, 7(25):5573-5576. 清水らにより合成された。
【0107】
RM-T ethylester及びRM-T methylesterの調製
野生株(Streptomyces sp. SN-593)をSY培地で2日間培養を行った。その後、前培養液1 ml をRM-PM (70 ml)培地に植菌し培養を行った。3日後、終濃度で1%になるようにエタノ
ールを加え、さらに2日間培養を行った。その後、合計1.4 Lの培養液に等量のアセトンを加え撹拌後、アセトンを除去し、酢酸でpHを4に調整し、等量の酢酸エチルを添加して抽
出を2回行った後、酢酸エチルを除去し、1.2gの粗画分を得た。ヘキサン/酢酸エチル/酢
酸(100:100:1)溶媒を用いてシリカゲルカラムクロマト後にC
18-HPLC精製を行いRM-T ethylesterを得た。RM-T methylesterの調製は、上記と同様であるが、エタノールの代わりにメタノールを添加して培養した。
【0108】
RM-A8aの調製
RevHの大量発現と機能解析
(1) revH遺伝子の大腸菌異種発現ベクター作製
大腸菌による異種発現を容易にするために、revH遺伝子はオペロンバイオテクノロジー株式会社の人工遺伝子合成サービスにより配列を最適化して合成した。合成した配列(制限酵素配列を含む)を配列番号99に示す。
合成されたrevH遺伝子断片を制限酵素(NdeI及びXhoI)で切断後、大腸菌異種発現に用いるpET28b(+)(ポリヒスチジン融合タンパク質発現ベクター:Novagen)に導入しpET28b(+)-revHを作製した。
【0109】
(2) RevHの大量発現と酵素の精製
E. coli BL21 Star (商標) (DE3) にpET28b(+)-revHを導入した。カナマイシン(50 μg ml
−1)を含むTB培地中でOD
600が1.5になるまで37℃で培養(1l)し、0.1 mM IPTGを添加して遺伝子発現を誘導した。16時間18℃で培養後、大腸菌を遠心分離により回収した。その後Lysis Buffer (Wash Buffer + 1% Tween 20)に懸濁し、超音波破砕を行った。遠心分離後、上清をNi-NTA(2×2 cm)(Qiagen) カラムに吸着した。その後、50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 0.1 M NaCl, 20 mM イミダゾール, 20% グリセロールで洗浄後、50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 0.1 M NaCl, 250 mM イミダゾール, 20% グリセロールで溶出した。そ
の後アミコンウルトラセル30Kを用い、50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 0.1 M NaClでバッファー交換後、濃縮しRevHの精製酵素 (5 mg ml
−1, 2 ml)を調製した。
【0110】
(3) RM-A8aの調製
以下の反応溶液組成でRM-A8aを調製した。
50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 0.5 mM DTT, 1 mM NAD
+, 0.7 mM NADPH, 0.1 mM FAD, 0.04
mM RM-A1a, 100 nmol 精製RevG及び31 nmol 精製RevHを含む溶液(30 ml)を30℃で150
分間反応した。次に20 nmolの精製RevJを添加しさらに30℃で120分間反応を行った。反応終了後反応溶液を等量の酢酸エチルで2回抽出し、硫酸ナトリウムで脱水した後、酢酸エ
チルをエバポレーターで溜去した。残渣をメタノールに溶解し、HPLC (カラム:PEGASIL ODS (20 mm× 250 mm, 株式会社センシュー化学)に供し、分取した。溶出は85%アセトニ
トリル、流速8 ml min
-1で行い、溶出時間は25分であった。さらにアセトニトリル/水を
エバポレーターで溜去し、約0.3 mgのRM-A8aを得た。
【0111】
(4) RM-A6a、RM-A9aの調製
RM-A6a とRM-A9aはrevE破壊株により生産される(
図14)。
revE遺伝子破壊株をSY培地で2日間培養を行った後、この前培養液1 mlをRM-PM (70 ml)培地に植菌し本培養を5日間行った。合計5 Lの培養液に等量のアセトンを加え代謝産物の抽出、アセトン除去、酢酸でpHを4に調整を行った。次に、等量の酢酸エチルを添加して3回抽出を行い、酢酸エチルを除去し3 gの粗画分を得た。その後、シリカゲルカラムクロマ
トグラフィーにより、クロロホルム/メタノール (10: 5)画分を回収し、C
18-HPLC (アセ
トニトリル: 0.05%ギ酸=60: 40)精製を行った。更にC
18-HPLC (アセトニトリル: 0.05%ギ酸=75: 25)により6.9 mgのRM-A6aを精製した。RM-A6aと同一の粗画分から、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、クロロホルム/メタノール (10: 5)画分を回収し、C
18-HPLC (アセトニトリル: 0.05%ギ酸=60: 40)精製によりRM-A9aを含む画分130 mgを得た。更にこれをC
18-HPLC (0.05%ギ酸-アセトニトリル 60-100%グラジェント溶出、C
18-HPLC (アセトニトリル: 0.05%ギ酸=52: 48)精製により18 mgのRM-A9aを精製した。