(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066473
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】ヒートクリーニング処理用芯材
(51)【国際特許分類】
D06C 7/00 20060101AFI20170116BHJP
C03C 25/10 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
D06C7/00 Z
C03C25/02 Q
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-279356(P2012-279356)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2014-122446(P2014-122446A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】中村 達政
(72)【発明者】
【氏名】久保田 芳宏
(72)【発明者】
【氏名】江崎 正信
【審査官】
斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−199640(JP,A)
【文献】
特公平05−071156(JP,B2)
【文献】
特開平04−272267(JP,A)
【文献】
特開昭50−083588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 18/00 − 18/28
B65H 75/00 − 75/32
C03C 25/00 − 25/70
D06B 1/00 − 23/30
D06C 3/00 − 29/00
D06G 1/00 − 5/00
D06H 1/00 − 7/24
D06J 1/00 − 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスヤーンの紡糸時に塗布したバインダー成分及び石英ガラスクロスの製織時に塗布したバインダー成分を除去するために行われる石英ガラスクロスのヒートクリーニング処理において該石英ガラスクロスを巻取るために使用される芯材であり、前記芯材は40℃から400℃における線膨張係数が0以上10×10−6/℃未満で、かつ中空管状の石英ガラス製であることを特徴とするヒートクリーニング処理用芯材。
【請求項2】
石英ガラスヤーンの紡糸時に塗布したバインダー成分及び石英ガラスクロスの製織時に塗布したバインダー成分を除去するために行われる石英ガラスクロスのヒートクリーニング処理において該石英ガラスクロスを巻取るために使用される芯材であり、前記芯材は40℃から400℃における線膨張係数が0以上10×10−6/℃未満で、かつ中空管状のセラミックス製であることを特徴とするヒートクリーニング処理用芯材。
【請求項3】
前記中空管状の芯材が多数の通気穴を穿設した構造であることを特徴とする請求項1又は2記載のヒートクリーニング処理用芯材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスヤーンの紡糸時に塗布したバインダー成分および石英ガラスクロス製織時に塗布したバインダー成分を除去するヒートクリーニング処理時に石英ガラスクロスをロール状に巻きつけた状態で使用されるヒートクリーニング処理用芯材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレット型PC向けの半導体パッケージにおいて、低熱膨張および高弾性なプリント配線基板材料が求められている。その基板材料に用いられるガラスクロスとしては、従来、Eガラスクロスが使用されてきたが、半導体素子の熱による基板の膨張や反りが顕著になり、低熱膨張で高弾性であるSガラスクロスやTガラスクロスの需要が急増している。機器の更なる薄化にともない、パッケージ材料の薄物化も段階的に求められ、ガラスクロスにおいても更なる低熱膨張および高弾性化の検討が必要になってきている。
【0003】
石英ガラスクロスは、汎用のEガラスと同程度の弾性率ではあるものの、ガラスの中で最も線膨張係数が小さいため、半導体パッケージの薄物対応に非常に期待されている。
【0004】
通常、プリント配線基板材料に用いられるガラスクロスは、ガラスヤーンの整経、2次サイジング剤の糊付け、製織、脱油、表面処理、検査の各工程を通って製品化される。
【0005】
製織直後のガラスクロス(以下、「生布」という)は、製織時に必要な集束剤やタテ糸糊剤(以下、「バインダー」という)が付着したままの状態である。プリント配線基板用のガラスクロスは、バインダー成分の残留がなくなるように除去(以下、「脱油処理」という)した後、シランカップリング剤などを表面処理して製品化される(以下、「処理クロス」という)。通常、脱油処理方法としては、鉄製の芯材にロール状に巻かれたガラスクロスの生布を加熱炉にいれて400℃程度の温度で加熱保持するバッチ方式で行なわれる(以下、「ヒートクリーニング処理」という)。
【0006】
ヒートクリーニング処理以外の脱油処理方法としては、水洗(特許文献1参照)や巻芯を使用しない脱油処理方法(特許文献2参照)、さらには脱油処理を必要としないバインダーの使用(特許文献3参照)などが検討されているが、脱油処理後の残渣の影響やケバ品質等の課題があり、一般的には用いられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−108167号公報
【特許文献2】特開平9−13263号公報
【特許文献3】特開平9−67757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、引張強さおよびケバ品位を低下させずに、石英ガラスクロスのバインダーを除去しえる加熱処理用芯材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決するために、汎用のEガラスクロスで一般的に行なわれているヒートクリーニング処理による脱油処理を試みた。すなわち、石英ガラスクロスを鉄製の芯材に巻取り、400℃で10時間程度、加熱処理を行なった。
【0010】
このような従来の方法では、加熱処理時に鉄製の芯材を使用するため、鉄の線膨張係数が石英ガラスの0.5×10
−6/℃に比べて12×10
−6/℃と非常に大きく、バインダーを完全に焼き飛ばす温度である400℃付近では石英ガラスと鉄との熱膨張の差異により、芯材が石英ガラスクロスよりも膨張し、石英ガラスクロスに非常に強い張力を与え、ひどい場合には石英ガラスクロスを引き裂いてしまうことが確認された。
【0011】
このためヒートクリーニング処理後の石英ガラスクロスは非常に脆くなり、プリント配線基板材料を作成するときの樹脂塗工の際に石英ガラスクロスが破れたり、さらにはプリント配線基板にしたときの線膨張係数の増加や弾性率を低下させる問題が生じた。
【0012】
そこで、加熱による石英ガラスクロスの品質低下の抑制とバインダーの十分な除去を両立させるために鋭意研究を重ねた結果、極めて高品質で効果的にバインダーを除去することができる石英ガラスクロス加熱処理用芯材を見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、
本願第1発明のヒートクリーニング処理用芯材は、石英ガラスヤーンの紡糸時に塗布したバインダー成分及び石英ガラスクロスの製織時に塗布したバインダー成分を除去するために行われる石英ガラスクロスのヒートクリーニング処理において該石英ガラスクロスを巻取るために使用される芯材であり、
前記芯材は40℃から400℃における線膨張係数が0以上10×10
−6/℃未満で
、かつ中空管状の石英ガラス製であることを特徴とする。
石英ガラスクロスと同じ材料である石英ガラスを芯材に使用することにより、芯材の熱膨張の影響を受けることなく、ヒートクリーニングを行なうことが可能となる。
【0014】
さらに、本願第2発明のヒートクリーニング処理用芯材は、石英ガラスヤーンの紡糸時に塗布したバインダー成分及び石英ガラスクロスの製織時に塗布したバインダー成分を除去するために行われる石英ガラスクロスのヒートクリーニング処理において該石英ガラスクロスを巻取るために使用される芯材であり、前記芯材は40℃から400℃における線膨張係数が0以上10×10−6/℃未満で、かつ中空管状のセラミックス製であることを特徴とする。割れやすい石英ガラス製芯材ではなく、強固なセラミックス製芯材を使用することで、不注意によるハンドリング時のトラブルを防止することが可能となる利点がさらに得られることを見出した。
【0015】
前記中空管状の芯材が多数の通気穴を穿設した構造であるのが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のヒートクリーニング処理用芯材を石英ガラスクロスのヒートクリーニング処理時に使用することにより、石英ガラスクロスの引張強さおよびケバ品位の低下を伴うことなく、極めて高品質な石英ガラスクロスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のヒートクリーニング処理用芯材の一つの実施形態を示す斜視的説明図である。
【
図2】本発明のヒートクリーニング処理用芯材の他の実施形態を示す摘示斜視的説明図である。
【
図3】ヒートクリーニング処理に用いられる加熱炉の全体図の一例を示す側面的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、図示例は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0019】
図1は本発明のヒートクリーニング処理用芯材の一つの実施形態を示す斜視的説明図である。
図1において、10は本発明のヒートクリーニング処理用芯材である。該ヒートクリーニング処理用芯材10は、石英ガラスヤーン(図示せず)の紡糸時に塗布したバインダー成分及び石英ガラスクロス12の製織時に塗布したバインダー成分を除去するために行われる石英ガラスクロス12のヒートクリーニング処理において該石英ガラスクロス12を巻取るために使用される。
図1において、14は支持枠体で、石英ガラスクロス12を巻きつけてあるヒートクリーニング処理用芯材10を支持する。
【0020】
図3はヒートクリーニング処理に用いられる加熱炉の全体図の一例を示す側面的説明図である。
図3において、20はヒートクリーニング処理に用いられる加熱炉である。該加熱炉20は隔壁22によって下部空間24及び上部空間26に分離されている。28は該隔壁22に設けられた通気路である。
【0021】
該下部空間24には加熱手段30が設けられている。一方、該上部空間26には複数個の支持スタンド32,32が設けられ、該支持スタンド32には上記した支持枠体14、14が複数個設けられている。各支持枠体14には
図1に示したようにヒートクリーニング処理用芯材10に巻きつけられた石英ガラスクロス12が横架されている。この状態で、該加熱手段30をオンとすれば、下部に存在する気体が加熱され、この加熱された気体Gは前記隔壁22の通気路28を通過して上部空間26に入り、支持枠体14に横架されたヒートクリーニング処理用芯材10に巻きつけられた石英ガラスクロス12に対してヒートクリーニング処理を行う。
【0022】
本発明のヒートクリーニング処理用芯材10としては、40℃から400℃における線膨張係数が0以上10×10
−6/℃未満の材質であれば、特別の限定はないが、石英ガラスやセラミックスを使用するのが好適である。
【0023】
石英ガラスを本発明のヒートクリーニング処理用芯材10として使用する場合には、芯材の熱膨張の影響を受けることなく、ヒートクリーニングを行なうことが可能となる。
【0024】
また、セラミックスを本発明のヒートクリーニング処理用芯材10として用いる場合には、割れやすい石英ガラス製芯材ではなく、強固なセラミックス製芯材を使用することで、不注意によるハンドリング時のトラブルを防止することが可能となる利点が得られる。
【0025】
本発明のヒートクリーニング処理用芯材10は、石英ガラスクロス12を巻取る作用を行うことができればよいもので、その形状には特別の限定はなく、中実状でも中空状でもよい。
図1には、中空管状の芯材10を図示したが、一般的には
図2に示したような中空管状の芯材12に多数の通気穴16を穿設した構造の芯材が好適に使用される。
【0026】
本発明のヒートクリーニング処理用芯材10に巻きつけられる石英ガラスクロス12は、厚みや目付に制限はなく、また、合成石英ガラスクロスであっても天然石英ガラスクロスであっても巻きつけ対象とすることができる。
【0027】
また、本発明のヒートクリーニング処理用芯材10が使用される石英ガラスクロスのヒートクリーニング処理における加熱処理温度や加熱処理時間は、過剰加熱による石英ガラスクロスの引張強さの低下を防ぐ点で、昇温速度をゆっくりとすることが好ましい。ヒートクリーニング処理は、熱風炉、マイクロ波炉、高圧蒸気炉、火炎バーナー炉等の公知の装置を使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
信越石英社製石英ガラスクロス2116タイプの生布を、線膨張係数が0.5×10
−6/℃である天然石英ガラスから作成した芯材に巻き取り、400℃にて10時間加熱処理を行なった。
次に、前記ヒートクリーニング処理により脱油した石英ガラスクロスにシランカップリング剤(信越化学工業社製:KBM−603)、酢酸をそれぞれ9g/1L、1.5g/1L水に分散させた処理液に含浸させた後、140℃で1分間乾燥させて、処理石英ガラスクロスを得た。
得られた処理石英ガラスクロスの引張強さを、JIS−R−3420の通りに測定し、その結果を表1に示した。
また、得られた処理石英ガラスクロスの表面の観察を行い、ケバの多少を評価し、その結果を表1に示した。
【0030】
(実施例2)
信越石英社製石英ガラスクロス1017タイプの生布を、線膨張係数が0.5×10
−6/℃である合成石英ガラスから作成した芯材に巻き取り、400℃にて10時間加熱処理を行ない、実施例1と同じ製造方法により処理石英ガラスクロスを作成した。得られた処理石英ガラスクロスについて実施例1と同様に引張強さ及びケバの多少を評価し、その結果を表1に示した。
【0031】
(実施例3)
信越石英社製石英ガラスクロス2116タイプの生布を、線膨張係数が7.2×10
−6/℃であるアルミナセラミックスから作成した芯材に巻取り、400℃にて10時間加熱処理を行い、実施例1と同じ方法により処理石英ガラスクロスを作成した。得られた処理石英ガラスクロスについて実施例1と同様に引張強さ及びケバの多少を評価し、その結果を表1に示した。
【0032】
(比較例1)
信越石英社製石英ガラスクロス2116タイプの生布鉄製芯材に巻取り、400℃にて10時間加熱処理を行い、実施例1と同じ方法により処理石英ガラスクロスを作成した。得られた処理石英ガラスクロスについて実施例1と同様に引張強さ及びケバの多少を評価し、その結果を表1に示した。
【0033】
【表1】
【符号の説明】
【0034】
10:本発明のヒートクリーニング処理用芯材、12:石英ガラスクロス、14:支持枠体、16:通気穴、20:加熱炉、22:隔壁、24:下部空間、26:上部空間、28:通気路、30:加熱手段、32:支持スタンド、G:気体。