特許第6066530号(P6066530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066530
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】窒化物半導体結晶の作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20170116BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20170116BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20170116BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20170116BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   H01L21/205
   H01L21/203 S
   H01L21/203 M
   C23C16/34
   H01L33/32
   C30B29/38 D
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-504315(P2015-504315)
(86)(22)【出願日】2014年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2014055391
(87)【国際公開番号】WO2014136749
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2015年7月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-44869(P2013-44869)
(32)【優先日】2013年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智行
(72)【発明者】
【氏名】笹島 浩希
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】赤▲崎▼ 勇
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−101961(JP,A)
【文献】 特開2012−049465(JP,A)
【文献】 P. Cristea, 外2名,Growth of GaN:Sb MBE-Layers,Materials Research Society Symposium Proceedings,2002年,Vol. 693,pages I3.28.1- I3.28.6
【文献】 Se-Hoon Moon et al.,Strong below-band gap absorption of N-rich side GaNSb by metal-organic chemical vapor deposition,Jornal of Materals Research,2009年12月,Vol. 24, No. 12,pages 3569-3572
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/203−21/31、21/363−21/365、
21/469、21/86、33/00、
C23C 16/00−16/56、
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料であるIII族元素および/またはその化合物と窒素元素および/またはその化合物と、Sb元素および/またはその化合物を基板上に供給することで少なくとも一層以上の窒化物半導体膜を有機金属気相成長法によって950℃以下で成膜し結晶中のSb組成が0.2%以上であり、表面粗度二乗平均平方根の値が1.56nm以下の窒化物半導体結晶を作製することを特徴とする窒化物半導体結晶の作製方法
【請求項2】
結晶中にアクセプタ不純物がドーピングされていることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体結晶の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体結晶の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)に代表される窒化物半導体は直接遷移型半導体であり、そのバンドギャップも0.7〜6.2eVと広いため、高効率の青色発光ダイオード素子(LED)などに広く用いられている。窒化物半導体結晶の成長方法は種々あるが、作製する結晶の組成制御が容易であり、量産性に優れる有機金属気相成長法(MOCVD法)が広く用いられている。そして、下記特許文献1では、サーファクタントを利用してp型窒化物半導体とp側電極間の界面について急峻、及び平坦にする手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−277931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般的な気相成長法における窒化物半導体結晶の成膜温度は約1000℃と比較的高い為、製造コストが高く、成膜装置の小型化も困難であった。また、1000℃より低温条件にて窒化物半導体結晶の成膜を行った場合には、結晶表面および結晶同士の界面の平坦性が大きく劣化してしまう問題点があった。更に、低温で成膜したp型GaNは、上記結晶性の低下により、十分なp型伝導性を示さないという問題点もあった。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高品質な窒化物半導体結晶を低温条件にて作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の窒化物半導体結晶の作製方法は、
原料であるIII族元素および/またはその化合物と、窒素元素および/またはその化合物と、Sb元素および/またはその化合物とを基板上に供給することで少なくとも一層以上の窒化物半導体膜を有機金属気相成長法によって950℃以下で成膜し、結晶中のSb組成が0.2%以上であり、表面粗度二乗平均平方根の値が1.56nm以下の窒化物半導体結晶を作製することを特徴とする。
【0008】
窒化物半導体結晶は、表面平坦性が高く、高品質であるから、発光/受光デバイスや電子デバイスなどの半導体デバイス用途として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の窒化物半導体結晶の断面図である。
図2】同じく低温成膜GaN層の表面SEM像であって、(a)はSb供給無しのサンプル、(b)はSb供給有りのサンプルを示す図である。
図3】同じく低温成膜GaN層の表面のAFM像であって、(a)はSb供給無しのサンプル、(b)はSb供給有りのサンプルを示す図である。
図4】同じく低温成膜GaN層のPLスペクトルを示すグラフであって、(a)は950℃で成膜したサンプル、(b)は850℃で成膜したサンプルを示すグラフである。
図5】同じく低温成膜GaN層のX線回折測定結果を示すグラフであって、(a)は950℃で成膜したサンプル、(b)は850℃で成膜したサンプルを示すグラフである。
図6】同じく低温成膜GaN層の積層膜の深さ方向に対するSb濃度のSIMSプロファイルを示すグラフである。
図7】実施例2のAlInN/GaNヘテロ接合構造の断面図である。
図8】実施例3の窒化物半導体発光ダイオード素子構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0013】
発明の窒化物半導体結晶の作製方法は、結晶中にアクセプタ不純物がドーピングされ得る。この場合、窒化物半導体結晶中にSbが0.04%以上の組成で含まれていることにより、窒化物半導体の価電子帯上端が上昇し、それに伴ってアクセプタ不純物準位とのエネルギー差が小さくなる為、高い正孔濃度が得られやすくなる。
【0015】
次に、発明の窒化物半導体結晶の作製方法を具体化した実施例1〜4について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
<実施例1>
図1に示される構造の窒化物半導体結晶のサンプルを有機金属気相成長法(MOCVD法)により以下の手順で作製した。まず、1cm角のc面サファイア基板101を、有機金属気相成長(MOCVD)装置の反応炉内にセットした。その後、反応炉内に水素を流しながら昇温することで、サファイア基板101表面のサーマルクリーニングを行った。次に、基板温度(成膜温度)を630℃とし、キャリアガスである水素と、原料であるアンモニア(窒素化合物)及びトリメチルガリウム(TMGa:III族化合物)とを反応炉内に流す事で、サファイア基板101上に窒化ガリウム(GaN)の低温バッファ層102を20nm成長させた。その後、基板温度を1130℃に昇温し、同様のキャリアガスと上記原料を流す事で、ノンドープの下地GaN層(i−GaN:下地膜)103を3μm成長させた。尚、サファイア基板101から下地GaN層103までが基板105に相当する。
【0017】
更に、基板温度を所望の温度まで降温し、キャリアガスである水素、原料であるTMGa、アンモニアに加えてSb化合物としてトリエチルアンチモン(TESb)を供給しつつ、下地GaN層103上に、低温成膜GaN層104を2μm成長(成膜)させた。低温成膜GaN層(窒化物半導体膜)104の成膜時のガス流量についてはそれぞれアンモニアが27mmol/min、TMGaが28μmol/min、TESbが98μmol/minである。ガス流量比(供給比)については、TMGaに対するアンモニアの比(以下では、N/Gaと記載する。)が約1000である。また、アンモニアに対するTESbの比(以下では、Sb/Nと記載する。)が約0.004である。
【0018】
TESbを供給しつつ、低温成膜GaN層104を750℃、850℃、950℃の3水準の基板温度にて成膜したサンプルS0、S1、S2を用意した。また、比較例として、TESbの供給をせず、サンプルS0、S1、S2と同様の基板温度条件で低温成膜GaN層104の成膜を行ったサンプルC0、C1、C2を用意した。尚、以下では、サンプルS0、S1、S2及びサンプルC0、C1、C2をそれぞれSb供給有りのサンプル、Sb供給無しのサンプルと呼ぶことにする。
【0019】
次に、Sb供給有りのサンプルS0、S1、S2と、Sb供給無しのサンプルC0、C1、C2の結晶性の評価結果を示す。
【0020】
図2に、750℃で成膜したサンプルS0、C0と、850℃で成膜したサンプルS1、C1と、950℃で成膜したサンプルS2、C2の表面走査電子顕微鏡像(表面SEM像)をそれぞれ示す。図2(a)は、Sb供給無しのサンプルC0、C1、C2の表面SEM像を示している。図2(b)は、Sb供給有りのサンプルS0、S1、S2の表面SEM像を示している。Sb供給無しのサンプルC2については、結晶表面に逆六角錐状のピットが複数個観察される。また、Sb供給無しでサンプルC2より低温で成膜したサンプルC0、C1についてはピットで表面全体が覆われていることから、基板温度が低下するにつれて結晶性及び表面平坦性が悪化していることが示唆される。しかし、Sb供給有りのサンプルS0、S1、S2についてはいずれも結晶表面にはピットは確認されず、良好な表面平坦性が得られている。
【0021】
更に微視的な表面平坦性を観察する為に、750℃で成膜したサンプルS0、C0と、850℃で成膜したサンプルS1、C1と、950℃で成膜したサンプルS2、C2の原子間力顕微鏡(AFM)による表面段差のマッピング測定を行った。図3(a)はSb供給無しのサンプルC0、C1、C2のAFM像を示している。図3(b)はSb供給有りのサンプルS0、S1、S2のAFM像を示している。Sb供給無しのサンプルC0、C1、C2の表面粗度二乗平均平方根(root mean square:RMS)値はいずれも約100nm程度であった。しかし、Sb供給有りのサンプルS0、S1、S2については、Sb供給無しのサンプルC0、C1、C2に比べて、表面粗度RMS値は大幅に改善されている。具体的な表面粗度RMS値はそれぞれ、サンプルS2が1.56nm、サンプルS1が0.85nm、サンプルS0が23nmであった。サンプルS1、S2の表面粗度RMS値は、約1原子層分の値に収まっている。これは1000℃以上の従来の成膜温度条件にて成膜したGaN層の表面粗度RMS値と遜色がない。よって、微視的にもSb供給有りのサンプルS0、S1、S2の表面平坦性は極めて良好であることが確認できる。
【0022】
次に、低温成膜GaN層104の光学的特性を評価する為に、850℃で成膜したサンプルS1、C1と、950℃で成膜したサンプルS2、C2の20ケルビン(K)の低温下においてフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを測定した。図4は、PLの発光波長に対するPL検出強度を示すグラフである。図4(a)は950℃で成膜したサンプルS2、C2のPLスペクトルを示している。図4(b)は850℃で成膜したサンプルS1、C1のPLスペクトルを示している。950℃で成膜したサンプルS2、C2に注目すると、いずれにおいても波長360nm近傍においてGaN単結晶のバンド端に基づく急峻な発光ピークが確認できる。しかし、Sb供給無しのサンプルC2は、500〜700nmの波長帯において、結晶欠陥であるGa空孔に起因するブロードな発光(イエロールミネッセンス)が観測される。一方で、Sb供給有りのサンプルS2についてはイエロールミネッセンスは観測されない。すなわち、Sb供給有りのサンプルの方が、Ga空孔が少なく、結晶性が良好であることが示唆される。また、850℃で成膜したサンプルS1、C1に注目すると、サンプルC2では確認できたバンド端に基づく発光ピークがサンプルC1ではほとんど観測できない。また、サンプルS1についてはバンド端に基づく発光の強度はサンプルS2に劣るもののピーク自体は観測できる。すなわち、光学的特性の観点からもSb供給有りのサンプルS1、S2の優位性が示唆される。よって、ガス流量比Sb/Nを0.004以上に増加させることにより、更に低温成膜GaN層104の結晶性及び光学特性の改善が期待できる。
【0023】
次に、低温成膜GaN層104におけるSbの取り込み量を評価すべく、Sb供給有りのサンプルS1、S2のX線回折測定(XRD:2θ/ωスキャン)を行った。図5のグラフは、横軸が回転角度(2θ/ω)であり、縦軸が検出強度である。950℃及び850℃にて成膜したサンプルS2、S1のいずれについてもGaNの(0002)に起因するピークが観測される。また、その低角度側においては、矢印で示されるSbの取り込みに起因すると考えられるピークが確認された。そのピーク位置より見積もられる低温成膜GaN層104中のSb組成は0.2〜0.4%であることがわかった。
【0024】
そして、より詳細に低温成膜GaN層104におけるSbの取り込み量を評価すべく、Sb供給有りのサンプルS0、S1、S2と同じ成長条件で作製した低温成長GaN層を積層して同一サンプルとし、その積層膜中の深さ方向に対するSb濃度をSIMS(二次イオン質量分析法)により測定した。図6は、積層膜の深さに対するSb濃度を示すグラフである。図6の結果より、結晶中に含まれるSb組成を算出したところ、その値はそれぞれ、サンプルS0が0.04%、サンプルS1が0.4%、サンプルS2が0.2%であった。
【0025】
以上のSIMSにより測定したSb組成と、図3のAFM測定による表面粗度RMS値の結果を総合すると、低温成膜GaN層104の結晶中のSb組成が0.04%以上に増加させることにより、低温成膜GaN層104の表面平坦性が向上する。そして、より好ましくは、Sb組成を0.2%以上に増加させることにより、低温成膜GaN層104の表面平坦性及び光学的特性が、高温条件にて成膜したGaN層と遜色のない程度まで改善される。
【0026】
本実施例によれば、MOCVD法による窒化物半導体結晶(GaN)の作製において、アンモニアに対するTESbのガス流量比を0.004以上とすることにより、成膜温度(成長温度)を約750℃程度まで低温化することが可能となる。よって、製造コストや、成膜装置を小型化することが可能となる。
【0027】
更に、Sbを供給して低温で形成した低温成膜GaN層104は、Sbを供給せずに低温で成膜した低温成膜GaN層104に比べて、結晶性及び表面平坦性、光学的特性が優れている為、発光/受光デバイスや電子デバイスなどの半導体デバイス用途として有用である。
【0028】
また、結晶中のSb組成が0.04%以上である低温成膜GaN層104は低温条件で成膜したものであっても表面平坦性に優れている。また、結晶中のSb組成が0.2%以上である低温成膜GaN層104は、バンド端に基づく発光が確認され、光学的特性についても良好である。よって、特に、発光/受光デバイス用途として有用である。
【0029】
また、従来のように1000℃程度と高い成膜温度条件下では、III族元素であるInが取り込まれにくく、かつ相分離が発生する懸念があり、良質なInを含む窒化物半導体結晶が得られ難かった。本実施例では、Inの取り込みが十分に行われる800℃以下の成長温度条件にて良好なGaN層104の形成が可能となった。よって、結晶中のIn組成を増加させつつ、高品質な窒化物半導体混晶を得ることが可能となる。よって、窒化物半導体混晶の組成制御が容易になり、これまで作製が困難だった高In組成の活性層を形成してより長波長側の発光/受光デバイスの作製が容易になる。
【0030】
更に、作製するデバイスの構造上、成膜過程(成長過程)の高温環境に晒されることでその特性が劣化してしまう場合がある。本実施例のように窒化物半導体結晶の成長温度が全体的に低下することにより、熱履歴(サーマルバジェット)を低減することが可能となる為、デバイス作製の際の設計/試作自由度も向上する。
【0031】
<実施例2>
図7に示されるAlInN/GaNヘテロ接合構造をMOCVD法により以下の手順で作製した。基板105までの作製工程及び作製条件は実施例1と共通の為、説明を省略する。
【0032】
まず、基板温度を850℃まで降温し、キャリアガスである窒素と、原料であるトリメチルインジウム(TMIn:III族化合物)、トリメチルアルミニウム(TMAl:III族化合物)、アンモニアと、Sb化合物としてTESbを反応炉内に供給することで、下地GaN層103上に、AlInN層201を40nm成長させた。成膜速度は比較的高速な0.2μm/hとした。また、ガス流量比については、実施例1と同様に、Sb/Nが約0.004になるように設定した。そして、成膜したAlInN層201のIn組成は0.17であり、GaN結晶と略格子整合するようにした。その後、基板温度を850℃に維持し、キャリアガス及び原料ガスであるTMGaに加えてTESbを供給し、AlInN層201上に40nmのGaN層202を成長させた。このAlInN層201及びGaN層202の成膜のサイクルを3回繰り返すことで、図7に示すような3ペア積層のAlInN/GaNヘテロ接合構造を作製した。
【0033】
AlInN層201の成膜過程において、成膜速度を0.2μm/h以上と高速化することにより、得られるAlInN層201の結晶性及び結晶性が大幅に劣化してしまうことが知られている。本実施例2によれば、高速な成膜条件においてもTESbを供給することで、AlInN層201についても高品質な結晶を得ることが可能となる。よって、AlInN/GaNヘテロ接合構造の作製においても、高品質な結晶が得られるという実施例1記載の効果のみならず、成膜速度の高速化も実現できる為、作製時間及びコストを低減することができる。
【0034】
更に、下地膜である下地GaN層103の成膜温度よりも低温条件にてAlInN/GaNヘテロ接合構造を作製することにより、熱履歴を低減し、デバイス構造の作製時の設計/試作自由度が向上する。
【0035】
また、面発光レーザに必要な多層膜反射鏡を作製する際には、AlInN/GaNヘテロ接合構造を40〜60ペア積層する必要がある。よって、作製時間及びコストの低減効果は非常に大きくなる。
【0036】
<実施例3>
図8に示される窒化物半導体発光ダイオード素子構造をMOCVD法により以下の手順で作製した。低温バッファ層102までの作製工程及び作製条件は実施例1と共通の為、説明を省略する。また、以下の成膜条件におけるガス流量比Sb/Nはすべて約0.004とした。
【0037】
まず、基板温度を1080℃まで昇温し、キャリアガスである水素と、原料であるTMGa、アンモニアと、不純物原料ガスであるシラン(SiH)を反応炉内に供給することで、低温バッファ層102上に、n型GaN層301(n−GaN)を3μm成長させた。Siは3×1018/cmの濃度でドーピングされている。
【0038】
その後、基板温度を850℃まで降温し、キャリアガスである窒素と、原料であるTMIn及びTMGa、アンモニアと、Sb化合物としてTESbを反応炉内に供給することで、n型GaN層301上に、GaN障壁層302及びGaInN量子井戸層303を順次積層成長させた。GaN障壁層302の膜厚は10nmであり、GaInN量子井戸層303の膜厚は2.5nmである。また、GaInN量子井戸層303のIn組成は0.15である。このGaN障壁層302を4層、GaInN量子井戸層303を3層交互に成膜することで、図8に示すようなGaN/GaInN活性層304を形成した。
【0039】
更に、基板温度を980℃まで昇温し、キャリアガスである水素と、原料であるTMGa及びTMAl、アンモニアと、Sb化合物であるTESbと、不純物原料ガスであるシクロペンタジエニルマグネシウム(CPMg)を反応炉内に供給することで、GaN/GaInN活性層304上にp型AlGaN電子ブロック層305(p−AlGaN)を成長させた。p型AlGaN電子ブロック層305の膜厚は25nmであり、Al組成は0.15である。Mg(アクセプタ不純物)は3×1019/cmの濃度でドーピングされている。
【0040】
更に、基板温度を850℃まで降温し、キャリアガスである水素と、原料であるTMGa、アンモニアと、Sb化合物であるTESbと、不純物原料ガスであるCPMgを反応炉内に供給することで、p型AlGaN電子ブロック層305上に、p型GaN層(p−GaN)306及びコンタクト形成用のp型GaNコンタクト層(p++−GaN)307を順次積層成長させた。p型GaN層306の膜厚は60nmであり、p型GaNコンタクト層307の膜厚は10nmである。また、p型GaN層306には3×1019/cmの濃度でMgがドーピングされており、p型GaNコンタクト層307には1×1020/cmの濃度でMgがドーピングされている。
【0041】
本実施例3によれば、TESbを成膜時に供給することで、Siをドーピングしたn型GaN層301についても低温で高品質な結晶が得られる。また、Mgをドーピングしたp型GaN層306、p型GaNコンタクト層307及びp型AlGaN電子ブロック層305についても低温で高品質な結晶が得られる。また、Inが十分に取り込まれる770℃という低温条件で、GaInN量子井戸層303を成膜することも可能となる。
【0042】
更に、GaN/GaInN活性層304上に成膜したp型AlGaN電子ブロック層305の成膜温度も、従来よりも低温である980℃以下にできる為、GaN/GaInN活性層304に対する熱履歴を低減させることが可能となり、デバイス作製の際の設計/試作自由度が向上する。
【0043】
更にp型層成膜時には、GaN及びAlGaNに対して0.2%以上の組成でSbが取り込まれるので、GaN及びAlGaNの価電子帯の上端が上昇し、アクセプタ不純物(Mg)準位とのエネルギー差が小さくなる。よって、その活性化エネルギーが減少し、高濃度の正孔(ホール)が形成可能となる。これにより、GaN/GaInN活性層304に対する正孔の注入効率が改善し、電子のオーバーフローが抑制され、発光ダイオード素子の発光特性を向上させる事が可能となる。
【0044】
<実施例4>
実施例3と同様の窒化物半導体発光ダイオード素子構造において、GaInN量子井戸層303の基板温度を750℃とすることで、In組成を0.3以上に上昇させることが可能となる。本実施例4によれば、GaN/InGaN活性層304からの発光を長波長側にすることが可能となり、緑色、更には黄色の発光ダイオード素子を作製可能となる。
【0045】
以上、本発明によれば、原料であるIII族元素および/またはその化合物と窒素元素および/またはその化合物と、Sb元素および/またはその化合物を基板105上に供給することで、基板105上に少なくとも一層以上の窒化物半導体膜104を気相成長させて窒化物半導体結晶を作製した。そして、この時の窒素元素に対するSb元素の供給比を0.004以上とすることにより、低温で高品質な窒化物半導体結晶を作製することが可能となる。また、得られる窒化物半導体結晶は高品質であるから、発光/受光デバイスや電子デバイス等の半導体デバイスへの応用に有用である。
【0046】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1〜4に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例では、サファイア基板を用いたが、これに限らず、シリコン(Si)、酸化亜鉛(ZnO)、炭化ケイ素(SiC)、ガリウムヒ素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)などを用いても良い。また、結晶の多形(ポリタイプ)についても制限はない。
(2)上記実施例では、窒化物半導体結晶の成長手法として、有機金属気相成長法(MOCVD法)を用いたが、これに限らず、ハイドライド気相成長法(HVPE法)などの他の気相成長法にも適用できる。また、分子線エピタキシー法(MBE法)、スパッタリング法やレーザーアブレーション法などの成長法にも適用できる。
(3)上記実施例では、原料にトリメチルガリウム(TMGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリメチルインジウム(TMIn)を用いたが、トリエチルガリウム(TEGa)、トリエチルインジウム(TEIn)、トリエチルアルミニウム(TEAl)などを用いることができる。
(4)上記実施例では、Sb元素およびその化合物に、トリエチルアンチモン(TESb)を用いたが、トリメチルアンチモン(TMSb)やトリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)などを用いることができる。
(5)上記実施例では、キャリアガスに水素や窒素を用いたが、他の活性ガスやアルゴンなどの他の不活性ガスを用いても良く、それらを混合して用いてもよい。
(6)上記実施例では、低温バッファ層に窒化ガリウム(GaN)を用いたが、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)、窒化ボロン(BN)などのその他の材料であってもよい。
(7)上記実施例では、窒化物半導体膜を形成する前に3μmの下地膜を成膜したが、下地膜を成膜しなくてもよい。
(8)上記実施例では、c面サファイア基板上にc軸配向した窒化物半導体結晶を作製したが、m軸、a軸配向の窒化物半導体結晶にも適用できる。
(9)上記実施例では、n型、p型GaNのドーパントにそれぞれSi、Mgを用いたが、これに限らず、GeやZn、Be等であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
103…下地GaN層(下地膜)
104、201、202、302、303、305、306、307…窒化物半導体膜(104…低温成膜GaN層、201…AlInN層、202…GaN層、302…GaN障壁層、303…GaInN量子井戸層、305…p型AlGaN電子ブロック層、306…p型GaN層、307…p型GaNコンタクト層)
105…基板
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