【実施例】
【0065】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0066】
[試験例1]
<多糖類分解酵素のスクリーニング>
試験例1では、アロエ葉肉に含まれる多糖類の分解に最適な多糖類分解酵素製剤のスクリーニングを行った。
【0067】
(1)アロエ葉肉溶液の調製および均質化
アロエベラ生葉より外皮を剥離し、葉肉部分を摘出し、切断機により細断したアロエベラ葉肉を熱風乾燥して、乾燥アロエベラゲルを得た。得られた乾燥アロエベラゲルをミルにより細かく裁断して、乾燥アロエベラゲル粉末(Aloe Vera Gel Powder; AVGP)を得た。乾燥アロエベラゲル粉末1kgに対して20kgのイオン交換水を添加し、ホモミキサー(商品名:ホモミクサーMARK‐II2.5型、プライミクス株式会社製)で12000rpm、30分間攪拌して均質化した。これをアロエ葉肉溶液(アロエ葉肉濃度約4.8%)とした。
【0068】
(2)酵素分解
多糖類分解酵素として、5種類の食品用多糖類分解酵素製剤(セルラーゼA、セルラーゼT、ヘミセルラーゼ90、ペクチナーゼG、ペクチナーゼPL:全て天野エンザイム株式会社製、以下同じ)を用意した。210gのアロエ葉肉溶液を300mL容三角フラスコに添加したものを6つ用意した(酵素添加サンプル5種類と酵素未添加サンプル)。酵素量1gに相当する各酵素製剤を含む酵素水溶液40gを調製し、酵素分解開始直前にアロエ葉肉溶液が入った三角フラスコに添加した(最終アロエ葉肉濃度4%)。酵素未添加サンプルには40gのイオン交換水を添加した。酵素分解はインキュベーター内で50℃、140rpm、20時間行った。所定時間経過後、100℃の湯浴にて10分間加熱し酵素を失活させた。加熱後はただちに氷冷した。
【0069】
(3)粘度の測定
酵素分解が終了した氷冷後のアロエ葉肉溶液を再び室温(20℃)に戻し、粘度を振動式粘度計(VIBRO VISCOMETER CJV5000; 株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて測定した。コントロールとしてアロエ葉肉溶液をイオン交換水にてアロエ葉肉濃度4%の水溶液に調製したサンプルを用いた。
【0070】
(4)結果
粘度の測定結果を下記の表1に示す。いずれの酵素製剤もアロエ葉肉溶液の粘度を低下させたが、最もアロエ葉肉溶液の粘度を低下させたのはヘミセルラーゼ90であった。試験例1の結果から、本技術に係る製造方法に用いる多糖類分解酵素としては、種々の多糖類分解酵素を用いることができること、及び、その中でもヘミセルラーゼが好適であることが分かった。
【0071】
【表1】
【0072】
[試験例2]
<多糖類分解酵素の添加量の検討1>
試験例2では、アロエ葉肉に含まれる多糖類の分解に最適な多糖類分解酵素の添加量を検討した。なお、本試験例では、多糖類分解酵素の一例としてヘミセルラーゼを用いた。
【0073】
(1)アロエ葉肉溶液の調製および均質化
試験例1と同様の方法により、アロエ葉肉溶液を調製した。
【0074】
(2)酵素分解
アロエ葉肉溶液を210gずつ300mL容三角フラスコに入れ、酵素分解直前にヘミセルラーゼ90を含む40gの酵素溶液を添加した(計250g,最終アロエ葉肉濃度4%)。酵素溶液のヘミセルラーゼ濃度は、アロエ葉肉に対して酵素量が1%(0.1g)、0.1%(0.01g)、0.01%(0.001g)、0.001%(0.0001g)となるよう添加した。ヘミセルラーゼ90には60%の酵素が含まれるので、これを製剤量に換算すると、40gの酵素溶液に含まれる製剤量はそれぞれ0.17g、0.017g、0.0017g、0.00017gとなる。酵素未添加サンプルにはイオン交換水のみを添加した。酵素分解はインキュベーター内にて50℃、140rpm、1hrの条件で行った。酵素分解終了後、100℃の湯浴にて10分間加熱することによって、酵素を失活した。失活後ただちに氷冷した。
【0075】
(3)粘度の測定
試験例1と同様の方法により、各アロエ葉肉溶液の粘度を測定した。
【0076】
(4)結果
結果を
図2に示す。
図2に示すように、酵素添加量に応じてアロエ葉肉溶液を所望の粘度に調整可能であることが明らかとなった。アロエ葉肉に対して0.001%の多糖類分解酵素を添加したサンプルの粘度は、約40mPa・sであったが、この粘度は、持続的に膜濾過が可能な粘度である。アロエ葉肉に対して1%の多糖類分解酵素を添加したサンプルと、10%の多糖類分解酵素を添加したサンプルの粘度は、膜濾過工程に影響があるほどの差はなかった。試験例2の結果から、アロエ葉肉固形量に対して、多糖類分解酵素を1.0質量%以下の範囲で用いることが好ましいことが分かった。
【0077】
[試験例3]
<多糖類分解酵素の添加量の検討2>
試験例3では、多糖類分解酵素の添加量がアロエ抽出物の多糖類、アロエ葉肉由来植物ステロール(β−シトステロール)、リンゴ酸の含有量に及ぼす影響の検証を行った。なお、本試験例では、多糖類分解酵素の一例としてヘミセルラーゼを用いた。
【0078】
(1)アロエ葉肉溶液の調製および均質化
試験例1と同様の方法により、アロエ葉肉溶液を調製した。
【0079】
(2)酵素分解
試験例2と同様の方法により、アロエ葉肉溶液中の多糖類の酵素分解を行った。
【0080】
(3)膜濾過
酵素分解を経た各アロエ葉肉溶液300gを、限外濾過装置(FILTRATON SYSTEM PS-24001;旭化成ケミカルズ株式会社製)に供した。限外濾過膜はポリスルフォン製の中空糸膜であるSIP−0013(公称分画分子量6000;旭化成ケミカルズ株式会社製)を使用した。ポンプ出力を30%、背圧メモリを2に調整した。限外濾過は透過液が50mL排出される度に、保持液にイオン交換水50mLを添加し、透過液が原液の1.5倍量(450mL)排出されるまで続けた。
【0081】
(4)重量、固形濃度、粘度、およびpHの測定
膜濾過によって得られた保持液と透過液について、重量、固形濃度、粘度、およびpHを測定した。なお、粘度の測定は、試験例1と同様の方法を用いて行った。
【0082】
(5)乾燥
前記各種測定を行った保持画分(アロエ抽出物)について、常法に従って凍結乾燥を行った。
【0083】
(6)多糖類の分子量分布の分析
凍結乾燥により得られたアロエ抽出乾燥物を水抽出した後、ゲル濾過クロマトグラフィー法に供して多糖類の分子量分布を分析した。分子量はデキストランスタンダードの較正曲線より求めた。元の原料(乾燥アロエベラゲル粉末)に含まれる多糖類の量を1として、各サンプルに含まれる水溶性多糖類の相対値を算出した。結果を
図3に示す。
酵素をアロエ葉肉に対して1%以上添加すると、1万Da以上の多糖類が消失することが明らかとなった。一方、酵素をアロエ葉肉に対して0.1%以下の添加に留め、限外濾過により濃縮すると、分子量11600Da〜410000Daの多糖類が新たに出現することが明らかとなった。
【0084】
(7)β−シトステロールの定量
凍結乾燥により得られたアロエ抽出乾燥物から脂溶性成分を抽出した後、ガスクロマトグラフィー質量分析器に供してβ−シトステロール含量を定量した。標品をもとに作成した検量線から定量した。また、同様に、元の原料(乾燥アロエベラゲル粉末)に含まれるβ−シトステロール含量も定量した。結果を下記の表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示すように、アロエ葉肉に対して0.01%以上の酵素を添加すると、元の原料の2倍以上β−シトステロールが濃縮されることが明らかとなった。
【0087】
(8)シクロラノスタン化合物とロフェノール化合物の定量
凍結乾燥により得られたアロエ抽出乾燥物を液体クロマトグラフィー質量分析器に供して、シクロラノスタン化合物(2種類;9,19−シクロラノスタン−3−オール、24−メチレン−9,19−シクロラノスタン−3−オール)とロフェノール化合物(3種類;4−メチルコレスト−7−エン−3−オール、4−メチルエルゴスト−7−エン−3−オール、4−メチルスチグマスト−7−エン−3−オール)を定量した。標品をもとに作成した検量線から定量した。結果を下記の表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
表3に示すように、アロエ葉肉に対して0.01%以上の酵素を添加すると、元の原料の1.5倍以上シクロラノスタン化合物およびロフェノール化合物が濃縮されることが明らかとなった。
【0090】
(9)リンゴ酸の定量
凍結乾燥により得られたアロエ抽出乾燥物をガスクロマトグラフィー質量分析器に供して、リンゴ酸を定量した。標品をもとに作成した検量線から定量した。結果を下記の表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
表4に示すように、アロエ葉肉に対して0.01〜1%の酵素を添加し、その後限外濾過に供すると、保持画分のリンゴ酸量を元の原料の半分以下に低減できることが明らかとなった。
【0093】
[試験例4]
<アロエ抽出物の製造工程の検証>
試験例4では、アロエ抽出物を製造する際の製造工程について、酵素分解、限外濾過、濾紙濾過、活性炭処理、および塩酸分解の各工程の組み合わせが、アロエ抽出物の組成や特性に与える影響を検証した。
【0094】
(1)アロエ葉肉溶液の調製および均質化
試験例1と同様の方法により、サンプル1〜21のアロエ葉肉溶液を調製した。
【0095】
(2)酵素分解
サンプル2〜10、12及び14〜18のアロエ葉肉溶液について、下記の表5に示す量の多糖類分解酵素(ヘミセルラーゼ90)を添加し、試験例2と同様の方法により、アロエ葉肉溶液中の多糖類の酵素分解を行った。
【0096】
(3)塩酸分解
サンプル19〜21のアロエ葉肉溶液について、アロエ葉肉に対し塩酸の量が0.7%となるように添加し、85℃、0.5hrの条件で塩酸分解を行った。その後、pHを測定し、20%水酸化ナトリウム溶液を用いて中和した。なお、アロエ葉肉に対する塩酸量0.7%とは、多糖類分解酵素(ヘミセルラーゼ90)をアロエ葉肉に対して0.1%添加した際と同等の粘度になる量である。
【0097】
(4)活性炭処理
サンプル13、14、16及び18のアロエ葉肉溶液1kg(サンプル13以外は酵素分解後)について、活性炭を20g添加し、撹拌条件下にて、室温で、1hrの条件で活性炭処理を行った。次いで、濾紙(ADVANTEC、No.1)で吸引濾過し、濾液をさらに濾紙(ADVANTEC、No.7)にて吸引濾過することにより、活性炭を除去した。得られた濾液を活性炭処理液とした。
【0098】
(5)濾紙濾過
サンプル11〜18のアロエ葉肉溶液(サンプル12、15および17は酵素分解後、サンプル13、14、16および18は活性炭処理後)について、常法に従って、濾紙を用いた濾過を行った。
【0099】
(6)限外濾過
サンプル5〜10、15〜18、20および21のアロエ葉肉溶液(サンプル5〜10は酵素分解後、サンプル15〜18は濾紙濾過後、サンプル20および21は塩酸分解後)について、試験例3と同様の方法により、限外濾過を行った。サンプル5〜7、15、16および20については保持画分を、サンプル8〜10、17、18および21については透過液を、後の分析に用いた。
【0100】
(7)乾燥
前記各種工程を経た各サンプル2〜21について、常法に従って凍結乾燥を行った。なお、サンプル1は、原料の乾燥アロエベラゲル粉末をそのままコントロールとして用いた。
【0101】
(8)β−シトステロールの定量
各サンプルについて、試験例3と同様の方法により、β−シトステロール含量を定量した。
【0102】
(9)安息角の測定及び流動性の評価
凍結乾燥した各サンプルをミルで1分間処理し、微粉末を得た。各サンプルの微粉末について、常法に従って安息角の測定を行った。吸湿、凝集などにより、粉末の塊があるサンプルは「測定不可」とした。流動性の評価は、Carrの分類(Carr,R.L.:Evaluating flow properties of solids., Chem. Eng., 1965; 72:163-168. )を参考に行った。
【0103】
(10)リンゴ酸の定量
各サンプルについて、試験例3と同様の方法により、リンゴ酸含量を定量した。
【0104】
(11)風味強度の評価
凍結乾燥した各サンプル0.5gについて、サンプル名を伏せた状態で、パネリスト10名に供し、下記5段階評価にて風味強度を評価した。パネリスト10名が評価した点数の平均値を評価値とした。
4点:非常に強く風味を感じる
3点:風味を強く感じる
2点:風味を感じる
1点:あまり風味を感じない
0点:全く風味を感じない
【0105】
(12)結果
各サンプルについての各工程手順、前記で測定および評価を行った組成及び特性について、下記の表5に示す。表5中、「nd」は検出限界以下であったサンプルである。
【0106】
【表5】
【0107】
a.β−シトステロールについて
表5に示すように、原料の乾燥アロエベラゲル粉末(サンプル1)は、2.17mg/gのβ−シトステロールを含有していた。そして、酵素分解又は塩酸分解のみを行ったサンプル2〜4及びサンプル19のβ−シトステロールの量がそれほど変化していないことからも、酵素分解又は塩酸分解では、β−シトステロールの量はほとんど変化しないことが分かった。
【0108】
酵素分解又は塩酸分解と限外濾過を組み合わせて保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル5〜7及び20では、原料の乾燥アロエベラゲル粉末(サンプル1)と比較して、β−シトステロールが1.5〜2.7倍に濃縮されていた。一方、活性炭処理、濾紙濾過と組み合わせたサンプル11〜18では、原料の乾燥アロエベラゲル粉末(サンプル1)と比較して、β−シトステロールが減少していた。また、酵素分解又は塩酸分解と限外濾過を組み合わせた場合であっても、透過液をアロエ抽出物として回収したサンプル8〜10及び21では、β−シトステロールを測定することができなかった。これらの結果から、アロエ由来のβ−シトステロールを濃縮するためには、活性炭処理、濾紙濾過などの濾過工程は行わずに、酵素分解および限外濾過を行って保持画分を得ることが好ましいことが確認された。
【0109】
b.安息角及び流動性について
原料の乾燥アロエベラゲル粉末(サンプル1)は安息角が60°と流動性が極めて不良であった。酵素分解を行ったサンプル2〜4を比較すると、原料に対して酵素1%を添加したサンプル2が、比較的良好な流動性を示した。酵素分解した後に限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル5〜7は、限外濾過を行わなかったサンプル2〜4に比べ、全て安息角が小さく、流動性が改善していた。この中でも特に、酵素1%での分解後に限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル5が最も良好な流動性を示した。
【0110】
限外濾過に供して透過液をアロエ抽出物として回収したサンプル8〜10は、吸湿しやすくダマになるために、安息角が測定できなかった。即ち、流動性が不良であった。濾紙濾過及び/又は活性炭処理を経て得られたサンプル11および13は吸湿しやすくダマになるため安息角が測定できなかった。即ち、流動性が不良であった。塩酸分解後、限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル20は、酵素分解1%のみを行ったサンプル2と同程度の流動性であった。
【0111】
c.リンゴ酸について
原料の乾燥アロエベラゲル粉末(サンプル1)は、128.2mg/gのリンゴ酸を含有していた。酵素分解した後に限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル5〜7は、含有するリンゴ酸の量が、全て、原料の半分以下に低減していた。一方、酵素分解した後に、濾紙濾過及び/又は活性炭処理を経て得られたサンプル12および14は、含有するリンゴ酸の量が、原料に対して濃縮されていた。これらの結果から、アロエ抽出物のリンゴ酸の量を低減させるためには、酵素分解および限外濾過を行い、保持画分を得ることが必要であることが確認された。
【0112】
d.風味について
原料の乾燥アロエベラゲル粉末(サンプル1)は、独特の草臭、苦味、酸味などがあり、風味強度が3.6点と最も強かった。また、酵素分解処理だけを行ったサンプル2〜4についても、独特の草臭、苦味、酸味などが残っており、風味をそれほど抑制することは出来なかった。また、酵素分解した後に、濾紙濾過のみを経て得られたサンプル12についても、独特の草臭、苦味、酸味などが残っており、風味をそれほど抑制することは出来なかった。酵素分解した後に、濾紙濾過及び活性炭処理を経て得られたサンプル14は、独特の草臭は抑制されていたが、塩味、酸味などが強かった。塩酸分解だけを行ったサンプル19は、独特の草臭が残っており、塩味が強く、塩酸による刺激がかすかに残っていた。塩酸分解した後に限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル20は、独特の草臭は抑制されていたが、塩味が強く、塩酸による刺激がかすかに残っていた。一方、酵素分解した後に限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル5〜7は、全て風味強度を低下させていた。
これらの結果から、草臭、苦味、酸味などの風味が抑制されたアロエ抽出物を得るためには、酵素分解および限外濾過を行って保持画分を得ることが必要であることが確認された。また、本技術に係るアロエ抽出物は、独特の風味が低減されているため、食品に添加した際、その食品の固有の風味を調整しやすいものであることが分かった。
【0113】
[試験例5]
<水への分散性の検証>
本技術に係るアロエ抽出物と、アロエの超臨界二酸化炭素抽出物の水への分散性を比較した。
【0114】
(1)アロエの超臨界二酸化炭素抽出物の調製
アロエベラ60kgについて、葉皮を剥き取って葉肉部分を回収し、回収した葉肉部分を凍結乾燥してアロエベラ葉肉粉末300gを調製した。次いで、調製したアロエベラ葉肉粉末20gを用いて超臨界抽出法により抽出を行った。超臨界抽出は、日本分光株式会社製CO2 delivery pump(SCF-GET)、PU-2080 pump(PU-2080 plus)、Back Pressure Regulator(SCF-BPG)、及び株式会社東洋高圧製ブランジを用い、抽出溶媒として炭酸ガスを使用して行った。
【0115】
(2)分散性比較
試験例4で調製したサンプル6と、前記で調製した超臨界二酸化炭素抽出物を、0.5%(w/w)水溶液となるように水に添加し、それぞれの水への分散性を比較した。結果を
図4に示す。
図4のAはスターラーで3分撹拌した様子を示す図面代用写真であり、Bはスターラーで3分撹拌した後、更に超音波処理を5分間行った様子を示す図面代用写真である。
図4に示すように、本技術に係るアロエ抽出物(サンプル6)は容易に水に分散したのに対し、超臨界二酸化炭素抽出物は超音波をかけても溶け残りが生じた。
【0116】
続いて、水溶液中のβ−シトステロール含量が同量となるように、本技術に係るアロエ抽出物(サンプル6)と超臨界二酸化炭素抽出物を水に添加し、水への分散性を比較した。試験例4で調製したサンプル6には5.38mg/gのβ−シトステロールが含まれており、超臨界二酸化炭素抽出物には255.6mg/gが含まれていたため、100mLの水にサンプル6を0.5g添加し、一方、超臨界二酸化炭素抽出物は0.01g添加した。これらの分散性を比較したところ、本技術に係るアロエ抽出物(サンプル6)は容易に水に分散したのに対し、超臨界二酸化炭素抽出物は超音波をかけても溶け残りが生じていた。これらの結果から、本技術に係るアロエ抽出物は、従来の方法でアロエからβ−シトステロールを精製した抽出物に比べ、水性分散性が飛躍的に高いことが分かった。
【0117】
[試験例6]
<膜濾過工程で使用する膜の検討>
試験例6では、膜濾過工程で使用する膜について、限外濾過膜に代えて精密濾過膜を使用した場合の、アロエ抽出物の組成や特性に与える影響を検証した。
【0118】
(1)アロエ葉肉溶液の調製・均質化
試験例1と同様の方法により、サンプル22及び23のアロエ葉肉溶液を調製した。
【0119】
(2)酵素分解
サンプル22及び23のアロエ葉肉溶液について、多糖類分解酵素(ヘミセルラーゼ90)をアロエ葉肉に対して0.1%添加し、試験例2と同様の方法により、アロエ葉肉溶液中の多糖類の酵素分解を行った。
【0120】
(3)精密濾過
酵素分解を経たサンプル22及び23のアロエ葉肉溶液について、常法に従って精密濾過(孔径0.25μm)処理に供した。
【0121】
(4)各種成分の測定及び特性の評価
試験例4と同様の方法により、β−シトステロール及びリンゴ酸の定量、安息角の測定及び流動性の評価、風味強度の評価を行った。
【0122】
(5)結果
結果を下記の表6に示す。
【0123】
【表6】
【0124】
表6に示すように、酵素分解した後に精密濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル22は、原料の乾燥アロエベラゲル粉末(試験例4のサンプル1)に比べ、安息角が小さく、β−シトステロールが3倍以上に濃縮されており、リンゴ酸が半分以下に低減されており、風味強度も低下していた。この結果は、酵素分解した後に限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収した試験例4のサンプル5〜7と同等かそれ以上の結果である。これらの結果から、本技術に係る製造方法の膜濾過には、限外濾過膜及び精密濾過膜のどちらを用いても良いことが分かった。
【0125】
また、β−シトステロールの濃縮結果については、精密濾過を行ったサンプル22の方が、限外濾過を行ったサンプル6に比べ、濃縮率が高いことが分かった。このことから、β−シトステロール、リン脂質及び食物繊維を含む分散粒子を効率よく濃縮するという観点からは、精密濾過膜を使用することが好ましいことが分かった。
【0126】
更に、安息角の測定結果及び風味強度の結果については、限外濾過を行ったサンプル6の方が、精密濾過を行ったサンプル22に比べ、若干、良好な結果を示すことが分かった。このことから、風味の向上及び製造される水性分散性が良好なアロエ抽出乾燥物を粉砕した粉末の流動性の向上の観点からは、限外濾過膜を使用することが好ましいことが分かった。
【0127】
[試験例7]
<安息角と打錠性の検討>
試験例7では、安息角の違いによる打錠性への影響について検討した。
【0128】
(1)錠菓の作製
原料の乾燥アロエベラゲル粉末(試験例4のサンプル1)及び凍結乾燥した試験例4のサンプル5〜7のそれぞれに、無水クエン酸4g、マルチトール56.5g、結晶セルロース10g、リン酸三カルシウム0.5g、グリセリン脂肪酸エステル2g、乳化剤2gを添加して、よく混合した後、打錠機のホッパーに原料を供給し、錠菓を作製した。安息角は、それぞれ、サンプル1の配合物が48°、サンプル5の配合物が35°、サンプル6の配合物が37°、サンプル7配合物が41°であった。なお、乾燥アロエベラゲル粉末(試験例4のサンプル1)、凍結乾燥した試験例4のサンプル5〜7自体の安息角は、前記の表5に示すように、それぞれ、サンプル1:60°、サンプル5:38°、サンプル6:40°、サンプル7:49°であった。
【0129】
(2)打錠性の評価
サンプル1の配合物を用いて打錠を行った場合、ホッパーからの滑り落ちが悪く、適量が打錠部に落ちないため打錠圧エラーで機械が度々停止した。また、出来た錠菓にキャッピング、スティッキング、バインディングなどの問題が生じていた。さらに、出来た錠菓の重量のばらつきが大きかった。一方、サンプル5〜7の配合物を用いて打錠を行った場合、ホッパーからの滑り落ちが良好で、機械停止はなかった。また、出来た錠菓は欠け、ワレなどが無く正常であった。これらの結果から、少なくとも安息角49°以下のアロエ抽出乾燥物を用いれば、問題なく打錠できることが示唆され、本技術に係るアロエ抽出乾燥物は、安息角が小さく流動性に優れており、打錠に適した粉末であることが確認された。
【0130】
[製造例1]
<本技術に係るアロエ抽出物の製造>
製造例1では、本技術に係るアロエ抽出物を実際のスケールで製造した。
【0131】
(1)アロエ葉肉溶液の調製および均質化
試験例1と同様の方法で得られた乾燥アロエベラゲル粉末4kgに対して80kgのイオン交換水を添加し、スーパーミキサーにて15分間攪拌してアロエ葉肉を均質化した。これをアロエ葉肉溶液(アロエ葉肉濃度約4.8%)とした。当該アロエ葉肉溶液中の粒子の粒度分布をレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(LA−500;株式会社堀場製作所製)にて測定した結果、メジアン径が92.53μm、90%粒子径が149.93μmであった。
【0132】
(2)酵素分解
前記で調製したアロエ葉肉溶液84kgを、ジャケット付きタンクに投入した。ここに、ヘミセルラーゼ90を6.77g(酵素量として4g、アロエ葉肉に対して0.1質量%)含む酵素溶液16kgを投入した(合計100kg)。攪拌機にてタンク内の溶液を攪拌しながら50℃で2時間半、酵素分解を行った。酵素分解終了後、ただちにタンクジャケット内に蒸気を入れて、タンク内温度を90℃に昇温し、90℃に達した時点から10分間保持することで酵素を失活した。酵素失活終了後、ただちにタンクジャケット内にチルド水を入れて、タンク内温度を4℃に冷却した。
【0133】
(3)膜濾過
酵素分解されたアロエ葉肉溶液を、限外濾過に供した。限外濾過工程として、原液に対して1.5倍量の水を加水することで行う「透析工程」と、原液を2倍に濃縮する「濃縮工程」の2工程を行った。分画分子量10000Daの限外濾過膜(SLP-3053:旭化成ケミカルズ株式会社製)を使用した。保持液タンクに、酵素分解を経たアロエ葉肉溶液100kgおよび透析用の水150kgを投入した。送液ポンプの流量は透過流速が100〜120L/hrとなるよう調整しながら適宜変更した。透過液量が150kgになった時点で透析工程を終了し、そのまま濃縮工程を行った。透過液量が50kgになった時点で濃縮工程を終了した(最終保持液量50kg、2倍濃縮)。限外濾過により得られた保持液50kgを湯浴にて90℃、30分間保持し、バッチ殺菌した。当該殺菌した保持液を、本技術に係るアロエ抽出物として回収した。当該アロエ抽出物に含まれる粒子の粒度分布をレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(LA−500;株式会社堀場製作所製)にて測定した結果、メジアン径が72.12μm、90%粒子径が136.07μmであった。
【0134】
(4)乾燥
前記アロエ抽出物50kgを凍結乾燥に供し、本技術に係るアロエ抽出乾燥物2kgを得た。
【0135】
(5)組成の分析
原料の乾燥アロエベラゲル粉末と前記で得られた本技術に係るアロエ抽出乾燥物の一般組成(たんぱく質、脂質、灰分、糖質)及び食物繊維含有量を比較した。たんぱく質はケルダール法により評価した(窒素・たんぱく質係数:6.25)。脂質は酸分解法により測定した。灰分は直接灰化法により測定した。糖質は栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)による計算式:100−(水分+たんぱく質+脂質+灰分+食物繊維)に基づいて算出した。従って、リンゴ酸をはじめとした有機酸は糖質に含まれる。食物繊維は酵素‐重量法により測定した。結果を下記の表7に示す。
【0136】
【表7】
【0137】
表7に示すように、本技術に係るアロエ抽出乾燥物において、たんぱく質が1.4倍、脂質が2.0倍、食物繊維が1.7倍濃縮されていた。一方、灰分が40%、糖質(有機酸を含む)が70%削減されていた。これらの結果から、本技術に係る製造方法により、アロエ葉肉に含まれる食物繊維含有量を減ずることなく、アロエ葉肉由来の植物ステロールを濃縮し、かつ、アロエ独特の風味を構成する灰分、有機酸を低減可能であることが明らかとなった。
【0138】
なお、本技術は、以下のような構成も取ることができる。
(1)β−シトステロール、リン脂質および食物繊維を含むアロエ抽出物の製造方法であって、
アロエ葉肉溶液を均質化する均質化工程と、
均質化されたアロエ葉肉溶液に多糖類分解酵素を添加して、前記均質化されたアロエ葉肉溶液に含まれる多糖類を分解する酵素分解工程と、
酵素分解されたアロエ葉肉溶液を、精密濾過膜又は限外濾過膜により膜濾過して、保持画分をアロエ抽出物として回収する膜濾過工程と、
を行うアロエ抽出物の製造方法。
(2)前記酵素分解工程が、
前記均質化されたアロエ葉肉溶液に含まれるアロエ葉肉不揮発成分に対して、前記多糖類分解酵素を0.01〜1.0質量%添加してアロエ葉肉溶液に含まれる多糖類を分解する工程である、(1)に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(3)前記多糖類分解酵素がヘミセルラーゼである、(1)又は(2)に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(4)前記膜濾過工程が、
前記酵素分解されたアロエ葉肉溶液を精密濾過膜により膜濾過して、保持画分をアロエ抽出物として回収する膜濾過工程である、(1)から(3)のいずれか一に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(5)前記均質化工程の前に、アロエ葉肉を圧搾して得られる圧搾液を前記アロエ葉肉溶液として回収するアロエ葉肉溶液調製工程を行う、(1)から(4)のいずれか一に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(6)前記酵素分解された後であって、前記膜濾過工程の前に、
酵素分解されたアロエ葉肉溶液中のアロエ葉肉不揮発成分の濃度を調整する不揮発成分濃度調整工程を行う、(1)から(5)のいずれか一に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(7)前記アロエ抽出物を乾燥して乾燥物として回収する乾燥工程を更に行う、(1)から(6)のいずれか一に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(8)前記乾燥工程後に、
前記乾燥物を粉砕する粉砕工程を行う、(7)に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(9)(1)から(8)のいずれか一に記載の製造方法により製造されるアロエ抽出物。
(10)前記アロエ抽出物が、該アロエ抽出物の固形分に対して、β−シトステロールを2.5mg/g以上7.5mg/g以下含有し、かつ、食物繊維を400mg/g以上900mg/g以下含有する、(9)に記載のアロエ抽出物。
(11)前記アロエ抽出物に含有される粒子のメジアン径が100μm以下、かつ、90%粒子径が200μm以下である、(9)又は(10)に記載のアロエ抽出物。