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特許6066537アロエ抽出物の製造方法及びアロエ抽出物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066537
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】アロエ抽出物の製造方法及びアロエ抽出物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20170116BHJP
   A23L 33/11 20160101ALI20170116BHJP
【FI】
   A23L33/105
   A23L33/11
【請求項の数】10
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-508800(P2016-508800)
(86)(22)【出願日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2015058274
(87)【国際公開番号】WO2015141787
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2016年7月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-58002(P2014-58002)
(32)【優先日】2014年3月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】湯田 直樹
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−520019(JP,A)
【文献】 特表2001−519657(JP,A)
【文献】 特開平04−149134(JP,A)
【文献】 特開2000−093110(JP,A)
【文献】 国際公開第99/019505(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/060911(WO,A1)
【文献】 特表2008−500023(JP,A)
【文献】 HE Q. et al.,Quality and safety assurance in the processing of aloe vera gel juice,Food Control,2005年,Vol.16,pp.95-104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−シトステロール、リン脂質及び食物繊維を含むアロエ抽出物の製造方法であって、
アロエ葉肉溶液を均質化する均質化工程と、
均質化されたアロエ葉肉溶液に多糖類分解酵素を添加して、前記均質化されたアロエ葉肉溶液に含まれる多糖類を分解する酵素分解工程と、
酵素分解されたアロエ葉肉溶液を、精密濾過膜又は限外濾過膜により膜濾過して、保持画分をアロエ抽出物として回収する膜濾過工程と、
を行うアロエ抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記酵素分解工程が、
前記均質化されたアロエ葉肉溶液に含まれるアロエ葉肉不揮発成分に対して、前記多糖類分解酵素を0.01〜1.0質量%添加してアロエ葉肉溶液に含まれる多糖類を分解する工程である、請求項1に記載のアロエ抽出物の製造方法。
【請求項3】
前記多糖類分解酵素がヘミセルラーゼである、請求項1又は2に記載のアロエ抽出物の製造方法。
【請求項4】
前記膜濾過工程が、
前記酵素分解されたアロエ葉肉溶液を精密濾過膜により膜濾過して、保持画分をアロエ抽出物として回収する膜濾過工程である、請求項1から3のいずれか一項に記載のアロエ抽出物の製造方法。
【請求項5】
前記均質化工程の前に、
アロエ葉肉を圧搾して得られる圧搾液を前記アロエ葉肉溶液として回収するアロエ葉肉溶液調製工程を行う、請求項1から4のいずれか一項に記載のアロエ抽出物の製造方法。
【請求項6】
前記酵素分解された後であって、前記膜濾過工程の前に、
酵素分解されたアロエ葉肉溶液中のアロエ葉肉不揮発成分の濃度を調整する不揮発成分濃度調整工程を行う、請求項1から5のいずれか一項に記載のアロエ抽出物の製造方法。
【請求項7】
前記アロエ抽出物を乾燥して乾燥物として回収する乾燥工程を更に行う、請求項1から6のいずれか一項に記載のアロエ抽出物の製造方法。
【請求項8】
前記乾燥工程後に、
前記乾燥物を粉砕する粉砕工程を行う、請求項7に記載のアロエ抽出物の製造方法。
【請求項9】
形分に対して、β−シトステロールを2.5mg/g以上7.5mg/g以下含有し、かつ、食物繊維を400mg/g以上900mg/g以下含有するアロエ抽出物。
【請求項10】
前記アロエ抽出物に含有される粒子のメジアン径が100μm以下、かつ、90%粒子径が200μm以下である、請求項9に記載のアロエ抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アロエ抽出物の製造方法に関する。より詳しくは、食品への加工特性に優れ、機能性成分が十分に含まれる水性分散性が良好なアロエ抽出物の製造方法及び該製造方法により製造された水性分散性が良好なアロエ抽出物並びに水性分散性が良好なアロエ抽出物粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アロエはユリ目アロエ科に属する多肉植物の総称であり、300種類以上の品種があるとされている。中でもアロエベラは、古来より「医者いらず」と呼ばれるように、民間療法として長年、外用、内服されてきた植物である。近年、アロエの有する機能性が注目され、機能性食品、サプリメント、医薬品、化粧品などへの利用が検討されている。例えば、アロエには主要な成分として食物繊維が含まれており、この食物繊維を利用した機能性食品、サプリメント、医薬品、化粧品などが検討されている。
【0003】
アロエに含まれる食物繊維については、その全容は明らかとなっていないが、水溶性食物繊維としてグルコマンナンやアセマンナンが知られている(非特許文献1)。そして、例えば、非特許文献2では、アロエに含まれる食物繊維には、免疫刺激作用などの生理効果があることが開示されている。
【0004】
また、アロエには、微量ステロールを含有することも知られている。アロエに含まれる微量ステロールは、抗糖尿病作用を示すことが見出されている(非特許文献3)。この植物ステロールは、主に細胞膜の脂質二重膜に囲まれるように局在していることが知られている。
【0005】
アロエに含有される前述のような機能性成分が濃縮されたエキスを製造したり、機能性成分を精製したりするために、様々な技術が開発されつつある。例えば、特許文献1には、アロエエキスをペクチナーゼ処理した後、活性炭を添加して苦味成分を吸着させることで、苦味の除去されたアロエエキスを得られる方法が開示されている。また、特許文献2には、アロエ葉肉由来の溶液をペクチナーゼ処理した後、カルシウム剤を添加し、ろ過することで、シュウ酸等の苦味、収斂味等の原因物質が少なく、透明度が高く、沈殿が生成することなく、粘度が低く、かつムコ多糖類に富む、アロエ溶液の製造方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では、アロエの機能性成分である不溶性食物繊維が除去されてしまうという問題があった。
【0006】
特許文献3には、アロエジュースを加熱し、セルラーゼを添加して攪拌培養し、加熱により酵素活性を失活した後に、冷却、木炭ろ過、ろ紙ろ過、珪藻土ろ過に供することにより、アロエ由来の多糖濃縮物を得る方法が開示されている。また、同様の組成物を得るための別の方法として、アロエゲルを攪拌し、ろ紙でろ過して得られたろ液にセルラーゼを添加して酵素分解に供し、さらに得られた溶液を限外ろ過膜に供して透析し、保持液を得る方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では、アロエの機能性成分である不溶性食物繊維や植物ステロールが除去されてしまうという問題があった。
【0007】
特許文献4には、超臨界抽出により天然のアロエベラ中に含まれる植物ステロールを含むアロエベラ抽出物を製造する方法が開示されている。また、特許文献5には、菜種油および大豆油からメタノールを用いて植物ステロールを回収する方法、粗植物ステロールを有機溶媒に浸漬させた後、有機溶媒を分離して植物ステロールを分離する方法が開示されている。これらの方法では、アロエ中に含まれる植物ステロールを濃縮することが可能となるが、アロエの機能性成分である食物繊維が除去されてしまうという問題点があった。また、植物ステロールを単離すると、常温以下でロウ状の固形物質となり水になじみにくく食品に添加しにくいという問題点があった。更に、引用文献5のように、有機溶媒を使用する場合には、作業者への負担が大きいという問題点があった。
【0008】
その他の方法として、特許文献6には、アロエベラのジェルを水または濃度のごく低い水溶液に浸漬することで、アロインの含有率が50ppm以下で、含有する多糖体の分子量が40万ダルトン以上であることを特徴とするアロエパウダーおよびアロエジュースを製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、前記浸漬時において、水溶性食物繊維も溶出してしまうため、アロエ葉肉の機能性成分を損なってしまうという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−149134号公報
【特許文献2】特開2000−93110号公報
【特許文献3】国際公開第1999/019505号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2007/060911号パンフレット
【特許文献5】特表2002−542161号公報
【特許文献6】特表2008−500023号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Crit. Rev. in Food Sci. Nutr., Volume 50, Issue 4, 2010, 305-326
【非特許文献2】J. Agric. Food Chem., 2001, 49, 1030-103
【非特許文献3】Biol. Pharm. Bull., 2006, 29, 1418-1422.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述の通り、アロエに含有される機能性成分が濃縮されたエキスを製造したり、機能性成分を精製したりする技術については、様々な開発が行われている。しかしながら、これまでの技術では、アロエに含まれる種々の機能性成分、例えば、植物ステロール及び食物繊維などを両方とも十分な量含んだまま濃縮することは困難であった。また、個々で精製された機能性成分は、食品への加工特性が悪いという問題があった。
【0012】
そこで、本技術では、食品への加工特性に優れ、機能性成分であるβ−シトステロール及びアロエ由来の食物繊維を十分に含有する水性分散性が良好なアロエ抽出物を得る技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、前記課題を解決するために、アロエ抽出物の製造方法について鋭意研究を行った結果、β−シトステロールのアロエ葉肉における存在部位に着目し、従来の濃縮・精製技術から発想を転換することで、本技術を完成させるに至った。より詳しくは、従来の方法では、機能性成分が濃縮されたエキスを製造したり、機能性成分を精製したりする場合、機能性成分を如何に高純度かつ高含有させられるかについて焦点があてられている技術がほとんどであった。しかし、本技術では、このような従来の濃縮・精製技術から発想を転換し、機能性成分(β−シトステロール)を天然界における状態のまま濃縮させることで、前記課題の解決につながることを見出し、本技術を完成させるに至った。
【0014】
即ち、本技術では、まず、β−シトステロール、リン脂質および食物繊維を含むアロエ抽出物の製造方法であって、
アロエ葉肉溶液を均質化する均質化工程と、
均質化されたアロエ葉肉溶液に多糖類分解酵素を添加して、前記均質化されたアロエ葉肉溶液に含まれる多糖類を分解する酵素分解工程と、
酵素分解されたアロエ葉肉溶液を、精密濾過膜又は限外濾過膜により膜濾過して、保持画分をアロエ抽出物として回収する膜濾過工程と、
を行うアロエ抽出物の製造方法を提供する。
本技術に係る製造方法を用いて製造されたアロエ抽出物は、β−シトステロールが、天然界と同様に、リン脂質を主成分とする細胞膜の脂質二重膜に囲まれるように局在することを特徴とする。
本技術に係る製造方法の前記酵素分解工程では、前記均質化されたアロエ葉肉溶液に含まれるアロエ葉肉不揮発成分に対して、前記多糖類分解酵素を0.01〜1.0質量%添加してアロエ葉肉溶液に含まれる多糖類を分解することもできる。
本技術に係る製造方法では、前記多糖類分解酵素として、ヘミセルラーゼを用いることが可能である。
本技術に係る製造方法の前記膜濾過工程では、前記酵素分解されたアロエ葉肉溶液を精密濾過膜により膜濾過して、保持画分をアロエ抽出物として回収することもできる。
本技術に係る製造方法では、前記均質化工程の前に、アロエ葉肉を圧搾して得られる圧搾液を前記アロエ葉肉溶液として回収するアロエ葉肉溶液調製工程を、更に行うことも可能である。
また、本技術に係る製造方法では、前記酵素分解された後であって、前記膜濾過工程の前に、酵素分解されたアロエ葉肉溶液中のアロエ葉肉不揮発成分の濃度を調整する不揮発成分濃度調整工程を、更に行うことも可能である。
更に、本技術に係る製造方法では、前記アロエ抽出物を乾燥して乾燥物として回収する乾燥工程を行うことも可能である。
加えて、本技術に係る製造方法では、前記乾燥工程後に、前記乾燥物を粉砕する粉砕工程を行うことも可能である。
【0015】
本技術では、次に、固形分に対して、β−シトステロールを2.5mg/g以上7.5mg/g以下含有し、かつ、食物繊維を400mg/g以上900mg/g以下含有するアロエ抽出物を提供する
た、本技術に係るアロエ抽出物に含有される粒子のメジアン径は、100μm以下、かつ、90%粒子径が200μm以下とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本技術に係る製造方法を用いれば、食品への加工特性に優れ、機能性成分であるβ−シトステロール及びアロエ由来の食物繊維を十分に含有する水性分散性が良好なアロエ抽出物を提供することができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本技術に係るアロエ抽出物の製造方法のフローチャートである。なお、図1のフローチャートにおいて、点線で囲ったA部のフローは、同じく点線で囲ったB部のフローに置換可能であることを示す。
図2】試験例2において、粘度の測定結果を示す図面代用グラフである。
図3】試験例3において、各サンプルに含まれる水溶性多糖類の相対値の算出結果を示す図面代用グラフである。
図4】試験例5において、水への分散性を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本技術を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術が、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<アロエ抽出物の製造方法>
図1は、本技術に係るアロエ抽出物の製造方法のフローチャートである。本技術において、「アロエ抽出物」は「水性分散性が良好なアロエ抽出物」として記載されることがあり、その場合、「アロエ抽出物」と「水性分散性が良好なアロエ抽出物」とは、ほぼ同義のものとして取り扱われる。
また、本技術において、「アロエ抽出物」とは、アロエから抽出された物を全て包含し、その最終形態は特に限定されない。例えば、液体状に限らず、乾燥によって固形状(乾燥物及びその粉末)や半固形状等に加工された物も、本技術の「アロエ抽出物」には包含される。以下、特に断らない限り、本技術における「アロエ抽出物」には、液体状、固形状(乾燥物及びその粉末)、半固形状等の全ての形態を包含する。なお、当該アロエ抽出物が、特に、液体状のアロエ抽出物を乾燥した乾燥物を示す場合には、「アロエ抽出乾燥物」と表記することがある。
【0020】
本技術に係る水性分散性が良好なアロエ抽出物の製造方法は、原料であるアロエ葉肉を用いて、均質化工程(II)、酵素分解工程(III)及び膜濾過工程(V)を行う方法である。本発明に係る水性分散性が良好なアロエ抽出物の最終形態を乾燥物とする場合は、前記酵素分解工程(III)及び前記膜濾過工程(V)に加え、乾燥工程(VI)を行うことができる。更に、必要に応じて、アロエ葉肉溶液調製工程(I)、不揮発成分濃度調整工程(IV)、粉砕工程(VII)などを行うこともできる。以下、原料及び各工程について、詳細に説明する。なお、各工程については、時系列順に説明を行うが、全ての工程が必須の工程ではない。
【0021】
(1)原料
本技術において原料として使用するアロエは、ユリ目(Liliales)アロエ科(Aloaceae)アロエ属(Aloe)に属する多肉植物の総称であり、約300種類以上の品種が知られている。日本には、アロエベラとキダチアロエが多く生息する。本技術に係る製造方法に用いることができる原料は、前記アロエ属(Aloe)に属する多肉植物であれば特に限定されず、公知のアロエを1種または2種以上、自由に選択して用いることができる。本技術では特に、食経験が豊富であり、比較的容易に原料として入手が可能であるという観点から、アロエベラを用いることが好ましい。
【0022】
本技術に係る製造方法では、アロエ葉肉を用いる。アロエ葉肉としては、アロエの生葉より外皮を剥離し、葉肉部分を摘出したアロエ葉肉を用いることもできるし、アロエの生葉を切断機などで裁断したアロエ葉肉を用いることもできる。また、これらのアロエ葉肉を加熱したものを用いることもできる。更に必要に応じて、洗浄を行った葉肉を用いてもよい。本技術においては、アロエ葉肉として、アロエの外皮を含まない葉肉を使用することが好ましい。アロエ外皮及びアロエ葉肉周囲に付着する粘性物質中には、アントラキノンなどの薬理作用を示す物質が含まれ、苦味も多いためである。
アロエ葉肉の洗浄は、アロエ葉肉を水でよく洗い流した後に、熱水中で加熱処理してから、葉肉周囲の粘性物質を十分に除去するように行うことが好ましい。前記加熱処理は、95℃以上の熱水で2分間以上の加熱条件で行われることが好ましい。
【0023】
(2)アロエ葉肉溶液調製工程(I)
アロエ葉肉溶液調製工程(I)は、後述する均質化工程の前に、アロエ葉肉を圧搾して得られる圧搾液を前記アロエ葉肉溶液として回収する工程である。本技術に係る製造方法において、例えば、アロエ葉肉を乾燥させた市販の乾燥物などを用いて前記アロエ葉肉溶液を調製する場合には、このアロエ葉肉溶液調製工程(I)は行わなくてもよい。
【0024】
アロエ葉肉溶液調製工程(I)において回収するアロエ葉肉溶液の固形量は特に限定されないが、後の酵素分解工程(III)における処理液量、取り回しの容易さを考慮すると、固形量1〜5%に調整したアロエ葉肉溶圧搾液として回収することが好ましい。
【0025】
(3)均質化工程(II)
本技術に係る製造方法では、アロエ葉肉溶液を均質化する均質化工程(II)を行う。均質化工程(II)は、アロエ葉肉溶液中の粒子にせん断を加えて微粒子化し、水性分散性を向上させるための工程である。
【0026】
均質化工程(II)では、アロエ葉肉溶液を原料として用いる。ここで、アロエ葉肉溶液は、前記アロエ葉肉に由来する固形分(不揮発成分)が水に分散した溶液である。該アロエ葉肉溶液は、アロエ葉肉を乾燥した後、乾燥物を再度水に分散させた溶液であっても良く、前記アロエ葉肉溶液調製工程(I)によりアロエ葉肉を圧搾して得た圧搾液であっても良い。アロエ葉肉を乾燥させる場合は、凍結乾燥、熱風乾燥などの公知の方法により乾燥させたものを用いても良い。さらに、ミルなどの粉砕機を用いてアロエ葉肉乾燥物を粉砕して、水への分散性を向上させたものを用いても良い。アロエ葉肉乾燥物の粉砕を行う場合、粉砕されたアロエ葉肉乾燥物の平均粒子径が30μm以下になるまで細かく砕くことで特に水性分散性が良好になる。アロエ葉肉溶液のアロエ葉肉由来の固形量は特に限定されないが、均質化工程(II)における取り回しの容易さを考慮すると、固形量1〜5質量%であることが好ましい。
【0027】
均質化工程(II)における均質化処理のための手段は、アロエ葉肉溶液中の粒子を物理的にせん断可能な手段であれば特に限定されず、公知の均質化手段を1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、間隙を設けた流路にアロエ葉肉溶液を強制的に通過させることにより粒子を均質化する手段や、プロペラ形状等の撹拌子を槽内で回転させることにより粒子を均質化させる手段等を用いることができる。このような手段を備えた機器として、例えば、高圧式ホモゲナイザー、ホモミキサー及び高速流動混合機などのせん断能力を有する公知の機器を用いて均質化を行うことができる。
【0028】
アロエ葉肉溶液の均質化条件は特に限定されないが、例えば、高圧式ホモゲナイザーを用いる場合、全圧10〜80MPaの均質圧力でアロエ葉肉溶液を均質化処理することができる。また、ホモミキサー(例えば、商品名「ホモミクサーMARK‐II2.5型(プライミクス株式会社製)」等)を用いる場合には、10000rpm〜20000rpmの回転数で、15〜45分間撹拌することにより、アロエ葉肉溶液を均質化処理することができる。
【0029】
均質化工程(II)において回収されるアロエ葉肉溶液は、均質化されたアロエ葉肉溶液中の粒子の粒度分布が、メジアン径100μm以下、90%粒子径200μm以下であることが好ましい。当該粒度分布を満たす粒子(以下、本技術において、「分散粒子」とも記載する)を含有するアロエ葉肉溶液であれば、水性分散性が良好である。なお、前記粒度分布は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(例えば、LA−500;株式会社堀場製作所製)などの公知の機器を使用して測定した値を用いることができる。
また、均質化工程(II)において回収されるアロエ葉肉溶液の固形量は特に限定されないが、後の酵素分解工程(III)における処理液量、取り回しの容易さを考慮すると、固形量1〜5%に調整したアロエ葉肉溶液として回収することが好ましい。
【0030】
(4)酵素分解工程(III)
酵素分解工程(III)は、均質化されたアロエ葉肉溶液に多糖類分解酵素を添加して、前記アロエ葉肉溶液に含まれる多糖類を分解する工程である。酵素分解工程(III)で用いるアロエ葉肉溶液は、前記アロエ葉肉溶液調製工程(I)を行って、アロエ葉肉をそのまま圧搾して得られた搾汁液を均質化して用いても良いし、アロエ葉肉を乾燥した後、乾燥物を再度、水に分散させた溶液を均質化して用いても良い。アロエ葉肉を乾燥させる場合は、凍結乾燥、熱風乾燥などの公知の方法により乾燥したものを用いても良い。さらに、ミルなどの粉砕機を用いてアロエ葉肉乾燥物を細かく砕いて水への分散性を向上させたものを用いても良い。
【0031】
酵素分解工程(III)で用いる均質化されたアロエ葉肉溶液の固形量は特に限定されないが、処理液量、取り回しの容易さを考慮すると、固形量1〜5%となるように、水に分散させるのが好ましい。また、酵素分解工程(III)で用いるアロエ葉肉溶液のpHも特に限定されないが、必要があれば、適宜、pH3〜10に調整しても良い。
【0032】
酵素分解工程(III)は、アロエ葉肉に含まれるβ−シトステロールと細胞膜の大部分を占めるリン脂質とが膜脂質二重層を形成した状態(水性分散性)を維持させたまま、アロエ葉肉中の多糖類を分解してアロエ葉肉溶液の粘性を低下させるために行う。粘性の低下により、その後に行う膜濾過工程(V)の濾過効率を向上(膜詰まりを低下)させる効果も発揮する。また、酵素分解工程(III)を行うことにより、製造される水性分散性が良好なアロエ抽出乾燥物は、その後、粉砕された粉末の流動性の向上にも効果を発揮する。
【0033】
酵素分解工程(III)で使用することができる多糖類分解酵素の種類は、セルロースを資化する分解酵素であれば特に限定されず、公知の多糖類分解酵素を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼなどの多糖類分解酵素の他、セルラーゼ活性およびヘミセルラーゼ活性を副活性として有するプロテアーゼなどを挙げることができる。具体的な酵素製剤名としては、例えば、ヘミセルラーゼ「アマノ」90、セルラーゼA「アマノ」3、セルラーゼT「アマノ」4、ペクチナーゼG「アマノ」、ペクチナーゼPL「アマノ」(以上、天野エンザイム株式会社製)、セルラーゼ”オノズカ”3S、セルラーゼY−NC、ペクチナーゼSS、ペクチナーゼ3S、ペクチナーゼHL(以上、ヤクルト薬品工業株式会社製)などの多糖類分解酵素、セルラーゼ活性およびヘミセルラーゼ活性を副活性として有するプロテアーゼA「アマノ」SD(天野エンザイム株式会社製)などが挙げられる。この中でも本技術では特に、効率的に粘度を低減可能なヘミセルラーゼを選択することが好ましい。
【0034】
酵素分解工程(III)で用いる多糖類分解酵素の量は特に限定されず、用いるアロエ葉肉の量や後述する膜濾過工程(V)の条件、製造する水性分散性が良好なアロエ抽出物の使用目的などに応じて、自由に設定することができる。本技術では特に、アロエ葉肉固形量に対して、多糖類分解酵素を0.01質量%以上1.0質量%以下の範囲で用いることが好ましい。多糖類分解酵素を0.01質量%以上用いることで、膜濾過工程における濾過効率を向上させ、製造される水性分散性が良好なアロエ抽出乾燥物を粉砕した粉末の流動性も向上(安息角を低下)させることができる。また、後述する試験例で示す通り、1.0質量%以上使用した場合でも、それほど大きな粘度の低下が見込めないし、また、1.0質量%使用した場合の粘度以下に粘度を低下させる必要性も乏しいことから、上限を1.0質量%以下とすることで、コストの低下などを図ることができる。なお、デキストリンなどを含む酵素製剤の場合は、含有された酵素量で換算する。
【0035】
酵素分解工程(III)における反応条件は特に限定されず、用いる酵素の種類、アロエ葉肉量などに応じて、自由に設定することができる。本技術では、例えば、温度条件25〜70℃で撹拌しながら0.25〜3時間培養することができる。長時間の培養は菌の繁殖リスクが増大するため、必要最低限の時間で培養することが好ましい。培養終点は粘度により決定することができ、例えば、振動式粘度計(例えば、VIBRO VISCOMETER CJV5000;株式会社エー・アンド・デイ製)で10mPa・s〜20mPa・sの範囲内に収まる時に、酵素分解を終了することができる。粘度測定の方法としては、当該振動式粘度計を用いて、100mL容ビーカーに80mLのサンプルを入れ、振動開始から60秒後の粘度(mPa・s)を室温にて測定する方法が例示される。
【0036】
酵素分解終了後は、直ちに加熱することにより、酵素を失活させることが好ましい。また、加熱を行うことで、アロエ葉肉酵素分解液の殺菌も行うことができる。この際の加熱条件も特に限定されず、用いる酵素の種類などに応じて、自由に設定することができる。本技術では、例えば、90℃、10分以上の加熱失活を行うことができる。なお、加熱失活の際、過度に加熱すると、多糖類の分解が起こる場合があるため、過度な加熱は避けることが好ましい。
【0037】
加熱失活後は、細菌汚染や多糖類の分解を防止するために、直ちに冷却することが好ましい。この際の冷却条件も特に限定されず、用いる酵素の種類などに応じて、自由に設定することができる。本技術では、例えば、10℃以下に冷却することができる。
【0038】
(5)不揮発成分濃度調整工程(IV)
不揮発成分濃度調整工程(IV)は、酵素分解工程(III)を経た後であって、膜濾過工程(V)の前に、アロエ葉肉溶液中のアロエ葉肉不揮発成分の濃度を調整する工程である。本技術に係る製造方法において、この不揮発成分濃度調整工程(IV)は後に行う膜濾過工程(V)の効率を向上させるためには、行うことが好ましい。
【0039】
不揮発成分濃度調整工程(IV)において、調整するアロエ葉肉溶液中のアロエ葉肉不揮発成分の具体的な濃度は特に限定されないが、後に行う膜濾過工程(V)の効率向上の観点からは、2質量%以下とすることが好ましい。
【0040】
(6)膜濾過工程(V)
膜濾過工程(V)は、前記酵素分解工程(III)を経たアロエ葉肉溶液を膜濾過して、保持画分を水性分散性が良好なアロエ抽出物として回収する工程である。膜濾過は、精密濾過膜又は限外濾過膜を用いて行う。膜濾過工程(V)は、前記酵素分解工程(III)において得られたアロエ葉肉酵素分解液を用いて、β−シトステロール、リン脂質及び食物繊維を含む分散粒子を保持画分に濃縮するために行う。また、同時に、アロエ葉肉溶液に含まれる有機酸塩やミネラル塩を、膜濾過の透過液側に回収するために行う。有機酸塩やミネラル塩を除くことで、保持液側に回収された水性分散性が良好なアロエ抽出物の風味を向上させる効果(有機酸塩の低減による酸味の低下)と、製造される水性分散性が良好なアロエ抽出乾燥物を粉砕した粉末の流動性の向上効果(ミネラル塩の低減による吸湿性の低下)を発揮することができる。
【0041】
膜濾過工程(V)では、目的に応じて精密濾過膜又は限外濾過膜のいずれかを選択して濾過を行うことができる。例えば、β−シトステロール、リン脂質及び食物繊維を含む分散粒子を効率よく濃縮するという観点からは、精密濾過膜を使用することが好ましい。また、水性分散性が良好なアロエ抽出物の風味の向上及び製造される水性分散性が良好なアロエ抽出乾燥物を粉砕した粉末の流動性の向上の観点からは、限外濾過膜を使用することが好ましい。
【0042】
精密濾過膜を使用する場合、膜の孔径は特に限定されず、分散粒子の大きさなどに応じて自由に設計することができる。本技術では特に、孔径0.25μm以下の精密濾過膜を使用することが好ましい。孔径0.25μm以下の精密濾過膜を使用することで、β−シトステロール、リン脂質及び食物繊維を含む分散粒子を、より効率よく濃縮することができる。
【0043】
限外濾過膜を使用する場合、分画分子量は特に限定されず、分散粒子の大きさなどに応じて自由に設計することができる。本技術では特に、分画分子量6000Da以上10000Da以下の限外濾過膜を使用することが好ましい。分画分子量6000Da以上の限外濾過膜を使用することで、膜のファウリングを防ぎながらも、有機酸塩やミネラル塩を透過液側に回収することができる。また、分画分子量10000Da以下の限外濾過膜を使用することで、β−シトステロール、リン脂質及び食物繊維を含む分散粒子の回収量を、十分量に維持することができる。
【0044】
膜濾過工程(V)において使用する具体的な膜としては、例えば、中空糸膜、スパイラル膜、平膜などを用いることができる。膜のファウリング防止や、濃縮度の向上の面から中空糸膜又は平膜の使用が好ましい。具体的な製品名としては、例えばMicroza(旭化成ケミカルズ株式会社製)やLabStak(アルファ・ラバル株式会社製)などを使用することができる。
【0045】
膜濾過工程(V)では、β−シトステロール、リン脂質及び食物繊維を含む分散粒子を保持画分に濃縮し、アロエ葉肉溶液に含まれる有機酸塩やミネラル塩を、膜濾過の透過液側に回収することができれば、その具体的な手順は特に限定されず、自由に設計することができる。本技術では特に、膜濾過工程(V)として、透析工程(Va)と濃縮工程(Vb)の2工程を行うことが好ましい。
【0046】
透析工程(Va)では、酵素分解工程(III)で得られたアロエ葉肉酵素分解液に加水して膜濾過を行う。加水して膜濾過を行う透析工程(Va)を実施することで、アロエ葉肉溶液に含まれる有機酸塩やミネラル塩を、膜濾過の透過液側に効率よく回収することができる。この際、加水量は特に限定されないが、脱有機酸、脱塩効率や、膜処理工程中の細菌汚染リスク、膜処理時間の作業効率などを考慮すると、原液に対して1.5倍量の水を加水して透析工程(Va)を実施することが好ましい。
【0047】
濃縮工程(Vb)は、透析工程(Va)を経たアロエ葉肉酵素分解液を膜濾過し、保持画分に水性分散性が良好なアロエ抽出物を回収する工程である。即ち、β−シトステロール、リン脂質及び食物繊維を含む分散粒子を保持画分側に濃縮する。濃縮工程(Vb)における濃縮度は特に限定されず、目的に応じて適宜調整することが可能である。本技術においては、後述する乾燥工程(VI)における乾燥効率を考慮すると、2倍以上の濃縮度が好ましい。
【0048】
このように、本技術に係る製造方法では、膜濾過工程(V)として、透析工程(Va)と濃縮工程(Vb)の2工程を行うことで、アロエ葉肉溶液に含まれる有機酸塩やミネラル塩を、膜濾過の透過液側に効率よく回収しつつ、β−シトステロール、リン脂質及び食物繊維を含む分散粒子を保持画分側に効率よく濃縮することができる。
【0049】
本技術に係る製造方法では、その製造工程中において、有機溶媒抽出や超臨界抽出などを行わないことを特徴とする。そのため、製造されたアロエ抽出物中には、通常は水になじみ難いβ−シトステロールが、天然界と同様の状態で存在する。即ち、β−シトステロールと細胞膜の大部分を占めるリン脂質とが膜脂質二重層を形成した状態が維持されたまま存在する。そのため、本技術に係る製造方法を用いて製造されたアロエ抽出物は、水分中における分散性が非常に良好である。また、本技術に係る製造方法を用いて製造されたアロエ抽出物は、当該アロエ抽出物中の粒子の粒度分布が、メジアン径100μm以下、90%粒子径200μm以下であることを好ましい態様とする。
【0050】
また、本技術に係る製造方法では、その製造工程中において、活性炭などの吸着剤を用いた濾過や水溶液への浸漬などを行わないため、アロエ由来の食物繊維が製造工程中に除去されることがない。そのため、機能性成分であるアロエ由来の食物繊維を十分に含有する水性分散性が良好なアロエ抽出物を得ることができる。
【0051】
(7)乾燥工程(VI)
乾燥工程(VI)は、膜濾過工程(V)で得られた水性分散性が良好なアロエ抽出物を乾燥して水性分散性が良好なアロエ抽出物の乾燥物を回収する工程であり、膜濾過工程(V)で保持画分に得られた水性分散性が良好なアロエ抽出物の乾燥物を得るために行う。
【0052】
乾燥工程(VI)で行う具体的な乾燥方法は、水性分散性が良好なアロエ抽出物の乾燥物を得ることができれば特に限定されず、公知の乾燥方法を1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥などが挙げられる。なお、乾燥時間を短縮するために、膜濾過工程(V)で得られた水性分散性が良好なアロエ抽出物を、さらに、真空蒸発濃縮や凍結濃縮に供して水分を低減した後、乾燥工程(VI)を実施することも可能である。
【0053】
(8)粉砕工程(VII)
粉砕工程(VII)は、乾燥工程(VI)後に、前記水性分散性が良好なアロエ抽出乾燥物を粉砕する工程である。本技術に係る製造方法において、この粉砕工程(VII)は、乾燥工程(VI)で得られた水性分散性が良好なアロエ抽出物の乾燥物をそのまま用いることが可能な用途に使用する場合には特に行う必要はないが、より細かい粉末化により食品への加工特性などを向上させるためには、行うことが好ましい。
【0054】
粉砕工程(VII)で行う具体的な粉砕方法は、水性分散性が良好なアロエ抽出乾燥物の粉末を得ることができれば特に限定されず、公知の粉砕方法を1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、ジェットミル粉砕機、ピン式粉砕機、衝撃式粉砕機などの粉砕機を用いた方法が挙げられる。
【0055】
<アロエ抽出物>
本技術に係る液体状のアロエ抽出物は、アロエ葉肉由来の固形分が、沈殿又は凝集することなく、β−シトステロール、リン脂質及び食物繊維を含有する分散粒子として溶液中に存在するアロエ抽出物である。また、本技術に係るアロエ抽出物には、通常は水になじみ難いβ−シトステロールが、天然界と同様の状態で存在する。即ち、β−シトステロールと細胞膜の大部分を占めるリン脂質とが膜脂質二重層を形成した状態が維持されたまま存在する。そのため、本技術に係るアロエ抽出物は、水性分散性が非常に良好である。その結果、本技術に係るアロエ抽出物は、食品への加工特性が非常に優れる。
【0056】
また、本技術に係る水性分散性が良好なアロエ抽出物は、その製造工程中において、アロエ由来の食物繊維が除去されない。そのため、本技術に係る水性分散性が良好なアロエ抽出物は、機能性成分であるアロエ由来の食物繊維を、従来のアロエ抽出物に比べ非常に多量に含有する。その結果、例えば、機能性食品などに好適に応用することができる。
【0057】
更に、本技術に係る水性分散性が良好なアロエ抽出物は、含有される有機酸塩およびミネラル塩の量が少ないために、風味が良好であり、かつ、粉末の流動性も良好である。そのため、例えば、錠菓などの食品に添加した際、その食品の風味の調整が容易となる。また、粉末の流動性が高いために、例えば、錠菓などの食品に応用する場合に、打錠容易性や打錠時のハンドリングに優れ、錠剤化し易いといったメリットがある。
【0058】
本技術に係る水性分散性が良好なアロエ抽出物に含有されるβ−シトステロールの濃度は、β−シトステロールとリン脂質との分散粒子が形成されていれば特に限定されないが、精製効率の観点からは、アロエ抽出物の固形分に対するβ−シトステロールの含有量が、2.5mg/g以上7.5mg/g以下であることが好ましく、3.5mg/g以上6.5mg/g以下であることがより好ましい。
【0059】
本技術に係る水性分散性が良好なアロエ抽出物に含有される食物繊維の濃度は、β−シトステロール、リン脂質および食物繊維を含む分散粒子が形成されていれば特に限定されないが、精製効率の観点からは、アロエ抽出物の固形分に対する食物繊維の含有量が、400mg/g以上900mg/g以下であることが好ましく、450mg/g以上850mg/g以下であることがより好ましく、500mg/g以上800mg/g以下であることがさらに好ましい。
【0060】
本技術に係る水性分散性が良好なアロエ抽出物に含有されるリン脂質の濃度は、β−シトステロールとリン脂質との分散粒子が形成されていれば特に限定されないが、アロエ抽出物の固形分に対するリン脂質の含有量が、2.5mg/g以上7.5mg/g以下であることが好ましく、3.5mg/g以上6.5mg/g以下であることがより好ましい。
【0061】
本技術に係る水性分散性が良好なアロエ抽出物に含有される有機酸塩の濃度は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されないが、酸味を低下させる観点から、有機酸塩であるリンゴ酸の濃度が、アロエ抽出物の固形分に対して80mg/g以下であることが好ましい。
【0062】
本技術に係る水性分散性が良好なアロエ抽出物に含有されるミネラル塩の濃度は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されないが、風味の向上及び吸湿性を低下させて粉末の流動性を向上させる観点からは、アロエ抽出物の固形分に対して100mg/g以下であることが好ましい。
【0063】
本技術に係る水性分散性が良好なアロエ抽出物に含有される粒子の粒度分布は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されないが、メジアン径100μm以下、90%粒子径200μm以下であることが好ましい。
【0064】
以上説明した本技術に係るアロエ抽出物の製造方法は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、公知のアロエ抽出物の製造方法を1種又は2種以上自由に組み合わせて用いることができるが、前述した本技術に係る製造方法を好適に用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0066】
[試験例1]
<多糖類分解酵素のスクリーニング>
試験例1では、アロエ葉肉に含まれる多糖類の分解に最適な多糖類分解酵素製剤のスクリーニングを行った。
【0067】
(1)アロエ葉肉溶液の調製および均質化
アロエベラ生葉より外皮を剥離し、葉肉部分を摘出し、切断機により細断したアロエベラ葉肉を熱風乾燥して、乾燥アロエベラゲルを得た。得られた乾燥アロエベラゲルをミルにより細かく裁断して、乾燥アロエベラゲル粉末(Aloe Vera Gel Powder; AVGP)を得た。乾燥アロエベラゲル粉末1kgに対して20kgのイオン交換水を添加し、ホモミキサー(商品名:ホモミクサーMARK‐II2.5型、プライミクス株式会社製)で12000rpm、30分間攪拌して均質化した。これをアロエ葉肉溶液(アロエ葉肉濃度約4.8%)とした。
【0068】
(2)酵素分解
多糖類分解酵素として、5種類の食品用多糖類分解酵素製剤(セルラーゼA、セルラーゼT、ヘミセルラーゼ90、ペクチナーゼG、ペクチナーゼPL:全て天野エンザイム株式会社製、以下同じ)を用意した。210gのアロエ葉肉溶液を300mL容三角フラスコに添加したものを6つ用意した(酵素添加サンプル5種類と酵素未添加サンプル)。酵素量1gに相当する各酵素製剤を含む酵素水溶液40gを調製し、酵素分解開始直前にアロエ葉肉溶液が入った三角フラスコに添加した(最終アロエ葉肉濃度4%)。酵素未添加サンプルには40gのイオン交換水を添加した。酵素分解はインキュベーター内で50℃、140rpm、20時間行った。所定時間経過後、100℃の湯浴にて10分間加熱し酵素を失活させた。加熱後はただちに氷冷した。
【0069】
(3)粘度の測定
酵素分解が終了した氷冷後のアロエ葉肉溶液を再び室温(20℃)に戻し、粘度を振動式粘度計(VIBRO VISCOMETER CJV5000; 株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて測定した。コントロールとしてアロエ葉肉溶液をイオン交換水にてアロエ葉肉濃度4%の水溶液に調製したサンプルを用いた。
【0070】
(4)結果
粘度の測定結果を下記の表1に示す。いずれの酵素製剤もアロエ葉肉溶液の粘度を低下させたが、最もアロエ葉肉溶液の粘度を低下させたのはヘミセルラーゼ90であった。試験例1の結果から、本技術に係る製造方法に用いる多糖類分解酵素としては、種々の多糖類分解酵素を用いることができること、及び、その中でもヘミセルラーゼが好適であることが分かった。
【0071】
【表1】
【0072】
[試験例2]
<多糖類分解酵素の添加量の検討1>
試験例2では、アロエ葉肉に含まれる多糖類の分解に最適な多糖類分解酵素の添加量を検討した。なお、本試験例では、多糖類分解酵素の一例としてヘミセルラーゼを用いた。
【0073】
(1)アロエ葉肉溶液の調製および均質化
試験例1と同様の方法により、アロエ葉肉溶液を調製した。
【0074】
(2)酵素分解
アロエ葉肉溶液を210gずつ300mL容三角フラスコに入れ、酵素分解直前にヘミセルラーゼ90を含む40gの酵素溶液を添加した(計250g,最終アロエ葉肉濃度4%)。酵素溶液のヘミセルラーゼ濃度は、アロエ葉肉に対して酵素量が1%(0.1g)、0.1%(0.01g)、0.01%(0.001g)、0.001%(0.0001g)となるよう添加した。ヘミセルラーゼ90には60%の酵素が含まれるので、これを製剤量に換算すると、40gの酵素溶液に含まれる製剤量はそれぞれ0.17g、0.017g、0.0017g、0.00017gとなる。酵素未添加サンプルにはイオン交換水のみを添加した。酵素分解はインキュベーター内にて50℃、140rpm、1hrの条件で行った。酵素分解終了後、100℃の湯浴にて10分間加熱することによって、酵素を失活した。失活後ただちに氷冷した。
【0075】
(3)粘度の測定
試験例1と同様の方法により、各アロエ葉肉溶液の粘度を測定した。
【0076】
(4)結果
結果を図2に示す。図2に示すように、酵素添加量に応じてアロエ葉肉溶液を所望の粘度に調整可能であることが明らかとなった。アロエ葉肉に対して0.001%の多糖類分解酵素を添加したサンプルの粘度は、約40mPa・sであったが、この粘度は、持続的に膜濾過が可能な粘度である。アロエ葉肉に対して1%の多糖類分解酵素を添加したサンプルと、10%の多糖類分解酵素を添加したサンプルの粘度は、膜濾過工程に影響があるほどの差はなかった。試験例2の結果から、アロエ葉肉固形量に対して、多糖類分解酵素を1.0質量%以下の範囲で用いることが好ましいことが分かった。
【0077】
[試験例3]
<多糖類分解酵素の添加量の検討2>
試験例3では、多糖類分解酵素の添加量がアロエ抽出物の多糖類、アロエ葉肉由来植物ステロール(β−シトステロール)、リンゴ酸の含有量に及ぼす影響の検証を行った。なお、本試験例では、多糖類分解酵素の一例としてヘミセルラーゼを用いた。
【0078】
(1)アロエ葉肉溶液の調製および均質化
試験例1と同様の方法により、アロエ葉肉溶液を調製した。
【0079】
(2)酵素分解
試験例2と同様の方法により、アロエ葉肉溶液中の多糖類の酵素分解を行った。
【0080】
(3)膜濾過
酵素分解を経た各アロエ葉肉溶液300gを、限外濾過装置(FILTRATON SYSTEM PS-24001;旭化成ケミカルズ株式会社製)に供した。限外濾過膜はポリスルフォン製の中空糸膜であるSIP−0013(公称分画分子量6000;旭化成ケミカルズ株式会社製)を使用した。ポンプ出力を30%、背圧メモリを2に調整した。限外濾過は透過液が50mL排出される度に、保持液にイオン交換水50mLを添加し、透過液が原液の1.5倍量(450mL)排出されるまで続けた。
【0081】
(4)重量、固形濃度、粘度、およびpHの測定
膜濾過によって得られた保持液と透過液について、重量、固形濃度、粘度、およびpHを測定した。なお、粘度の測定は、試験例1と同様の方法を用いて行った。
【0082】
(5)乾燥
前記各種測定を行った保持画分(アロエ抽出物)について、常法に従って凍結乾燥を行った。
【0083】
(6)多糖類の分子量分布の分析
凍結乾燥により得られたアロエ抽出乾燥物を水抽出した後、ゲル濾過クロマトグラフィー法に供して多糖類の分子量分布を分析した。分子量はデキストランスタンダードの較正曲線より求めた。元の原料(乾燥アロエベラゲル粉末)に含まれる多糖類の量を1として、各サンプルに含まれる水溶性多糖類の相対値を算出した。結果を図3に示す。
酵素をアロエ葉肉に対して1%以上添加すると、1万Da以上の多糖類が消失することが明らかとなった。一方、酵素をアロエ葉肉に対して0.1%以下の添加に留め、限外濾過により濃縮すると、分子量11600Da〜410000Daの多糖類が新たに出現することが明らかとなった。
【0084】
(7)β−シトステロールの定量
凍結乾燥により得られたアロエ抽出乾燥物から脂溶性成分を抽出した後、ガスクロマトグラフィー質量分析器に供してβ−シトステロール含量を定量した。標品をもとに作成した検量線から定量した。また、同様に、元の原料(乾燥アロエベラゲル粉末)に含まれるβ−シトステロール含量も定量した。結果を下記の表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示すように、アロエ葉肉に対して0.01%以上の酵素を添加すると、元の原料の2倍以上β−シトステロールが濃縮されることが明らかとなった。
【0087】
(8)シクロラノスタン化合物とロフェノール化合物の定量
凍結乾燥により得られたアロエ抽出乾燥物を液体クロマトグラフィー質量分析器に供して、シクロラノスタン化合物(2種類;9,19−シクロラノスタン−3−オール、24−メチレン−9,19−シクロラノスタン−3−オール)とロフェノール化合物(3種類;4−メチルコレスト−7−エン−3−オール、4−メチルエルゴスト−7−エン−3−オール、4−メチルスチグマスト−7−エン−3−オール)を定量した。標品をもとに作成した検量線から定量した。結果を下記の表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
表3に示すように、アロエ葉肉に対して0.01%以上の酵素を添加すると、元の原料の1.5倍以上シクロラノスタン化合物およびロフェノール化合物が濃縮されることが明らかとなった。
【0090】
(9)リンゴ酸の定量
凍結乾燥により得られたアロエ抽出乾燥物をガスクロマトグラフィー質量分析器に供して、リンゴ酸を定量した。標品をもとに作成した検量線から定量した。結果を下記の表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
表4に示すように、アロエ葉肉に対して0.01〜1%の酵素を添加し、その後限外濾過に供すると、保持画分のリンゴ酸量を元の原料の半分以下に低減できることが明らかとなった。
【0093】
[試験例4]
<アロエ抽出物の製造工程の検証>
試験例4では、アロエ抽出物を製造する際の製造工程について、酵素分解、限外濾過、濾紙濾過、活性炭処理、および塩酸分解の各工程の組み合わせが、アロエ抽出物の組成や特性に与える影響を検証した。
【0094】
(1)アロエ葉肉溶液の調製および均質化
試験例1と同様の方法により、サンプル1〜21のアロエ葉肉溶液を調製した。
【0095】
(2)酵素分解
サンプル2〜10、12及び14〜18のアロエ葉肉溶液について、下記の表5に示す量の多糖類分解酵素(ヘミセルラーゼ90)を添加し、試験例2と同様の方法により、アロエ葉肉溶液中の多糖類の酵素分解を行った。
【0096】
(3)塩酸分解
サンプル19〜21のアロエ葉肉溶液について、アロエ葉肉に対し塩酸の量が0.7%となるように添加し、85℃、0.5hrの条件で塩酸分解を行った。その後、pHを測定し、20%水酸化ナトリウム溶液を用いて中和した。なお、アロエ葉肉に対する塩酸量0.7%とは、多糖類分解酵素(ヘミセルラーゼ90)をアロエ葉肉に対して0.1%添加した際と同等の粘度になる量である。
【0097】
(4)活性炭処理
サンプル13、14、16及び18のアロエ葉肉溶液1kg(サンプル13以外は酵素分解後)について、活性炭を20g添加し、撹拌条件下にて、室温で、1hrの条件で活性炭処理を行った。次いで、濾紙(ADVANTEC、No.1)で吸引濾過し、濾液をさらに濾紙(ADVANTEC、No.7)にて吸引濾過することにより、活性炭を除去した。得られた濾液を活性炭処理液とした。
【0098】
(5)濾紙濾過
サンプル11〜18のアロエ葉肉溶液(サンプル12、15および17は酵素分解後、サンプル13、14、16および18は活性炭処理後)について、常法に従って、濾紙を用いた濾過を行った。
【0099】
(6)限外濾過
サンプル5〜10、15〜18、20および21のアロエ葉肉溶液(サンプル5〜10は酵素分解後、サンプル15〜18は濾紙濾過後、サンプル20および21は塩酸分解後)について、試験例3と同様の方法により、限外濾過を行った。サンプル5〜7、15、16および20については保持画分を、サンプル8〜10、17、18および21については透過液を、後の分析に用いた。
【0100】
(7)乾燥
前記各種工程を経た各サンプル2〜21について、常法に従って凍結乾燥を行った。なお、サンプル1は、原料の乾燥アロエベラゲル粉末をそのままコントロールとして用いた。
【0101】
(8)β−シトステロールの定量
各サンプルについて、試験例3と同様の方法により、β−シトステロール含量を定量した。
【0102】
(9)安息角の測定及び流動性の評価
凍結乾燥した各サンプルをミルで1分間処理し、微粉末を得た。各サンプルの微粉末について、常法に従って安息角の測定を行った。吸湿、凝集などにより、粉末の塊があるサンプルは「測定不可」とした。流動性の評価は、Carrの分類(Carr,R.L.:Evaluating flow properties of solids., Chem. Eng., 1965; 72:163-168. )を参考に行った。
【0103】
(10)リンゴ酸の定量
各サンプルについて、試験例3と同様の方法により、リンゴ酸含量を定量した。
【0104】
(11)風味強度の評価
凍結乾燥した各サンプル0.5gについて、サンプル名を伏せた状態で、パネリスト10名に供し、下記5段階評価にて風味強度を評価した。パネリスト10名が評価した点数の平均値を評価値とした。
4点:非常に強く風味を感じる
3点:風味を強く感じる
2点:風味を感じる
1点:あまり風味を感じない
0点:全く風味を感じない
【0105】
(12)結果
各サンプルについての各工程手順、前記で測定および評価を行った組成及び特性について、下記の表5に示す。表5中、「nd」は検出限界以下であったサンプルである。
【0106】
【表5】
【0107】
a.β−シトステロールについて
表5に示すように、原料の乾燥アロエベラゲル粉末(サンプル1)は、2.17mg/gのβ−シトステロールを含有していた。そして、酵素分解又は塩酸分解のみを行ったサンプル2〜4及びサンプル19のβ−シトステロールの量がそれほど変化していないことからも、酵素分解又は塩酸分解では、β−シトステロールの量はほとんど変化しないことが分かった。
【0108】
酵素分解又は塩酸分解と限外濾過を組み合わせて保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル5〜7及び20では、原料の乾燥アロエベラゲル粉末(サンプル1)と比較して、β−シトステロールが1.5〜2.7倍に濃縮されていた。一方、活性炭処理、濾紙濾過と組み合わせたサンプル11〜18では、原料の乾燥アロエベラゲル粉末(サンプル1)と比較して、β−シトステロールが減少していた。また、酵素分解又は塩酸分解と限外濾過を組み合わせた場合であっても、透過液をアロエ抽出物として回収したサンプル8〜10及び21では、β−シトステロールを測定することができなかった。これらの結果から、アロエ由来のβ−シトステロールを濃縮するためには、活性炭処理、濾紙濾過などの濾過工程は行わずに、酵素分解および限外濾過を行って保持画分を得ることが好ましいことが確認された。
【0109】
b.安息角及び流動性について
原料の乾燥アロエベラゲル粉末(サンプル1)は安息角が60°と流動性が極めて不良であった。酵素分解を行ったサンプル2〜4を比較すると、原料に対して酵素1%を添加したサンプル2が、比較的良好な流動性を示した。酵素分解した後に限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル5〜7は、限外濾過を行わなかったサンプル2〜4に比べ、全て安息角が小さく、流動性が改善していた。この中でも特に、酵素1%での分解後に限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル5が最も良好な流動性を示した。
【0110】
限外濾過に供して透過液をアロエ抽出物として回収したサンプル8〜10は、吸湿しやすくダマになるために、安息角が測定できなかった。即ち、流動性が不良であった。濾紙濾過及び/又は活性炭処理を経て得られたサンプル11および13は吸湿しやすくダマになるため安息角が測定できなかった。即ち、流動性が不良であった。塩酸分解後、限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル20は、酵素分解1%のみを行ったサンプル2と同程度の流動性であった。
【0111】
c.リンゴ酸について
原料の乾燥アロエベラゲル粉末(サンプル1)は、128.2mg/gのリンゴ酸を含有していた。酵素分解した後に限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル5〜7は、含有するリンゴ酸の量が、全て、原料の半分以下に低減していた。一方、酵素分解した後に、濾紙濾過及び/又は活性炭処理を経て得られたサンプル12および14は、含有するリンゴ酸の量が、原料に対して濃縮されていた。これらの結果から、アロエ抽出物のリンゴ酸の量を低減させるためには、酵素分解および限外濾過を行い、保持画分を得ることが必要であることが確認された。
【0112】
d.風味について
原料の乾燥アロエベラゲル粉末(サンプル1)は、独特の草臭、苦味、酸味などがあり、風味強度が3.6点と最も強かった。また、酵素分解処理だけを行ったサンプル2〜4についても、独特の草臭、苦味、酸味などが残っており、風味をそれほど抑制することは出来なかった。また、酵素分解した後に、濾紙濾過のみを経て得られたサンプル12についても、独特の草臭、苦味、酸味などが残っており、風味をそれほど抑制することは出来なかった。酵素分解した後に、濾紙濾過及び活性炭処理を経て得られたサンプル14は、独特の草臭は抑制されていたが、塩味、酸味などが強かった。塩酸分解だけを行ったサンプル19は、独特の草臭が残っており、塩味が強く、塩酸による刺激がかすかに残っていた。塩酸分解した後に限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル20は、独特の草臭は抑制されていたが、塩味が強く、塩酸による刺激がかすかに残っていた。一方、酵素分解した後に限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル5〜7は、全て風味強度を低下させていた。
これらの結果から、草臭、苦味、酸味などの風味が抑制されたアロエ抽出物を得るためには、酵素分解および限外濾過を行って保持画分を得ることが必要であることが確認された。また、本技術に係るアロエ抽出物は、独特の風味が低減されているため、食品に添加した際、その食品の固有の風味を調整しやすいものであることが分かった。
【0113】
[試験例5]
<水への分散性の検証>
本技術に係るアロエ抽出物と、アロエの超臨界二酸化炭素抽出物の水への分散性を比較した。
【0114】
(1)アロエの超臨界二酸化炭素抽出物の調製
アロエベラ60kgについて、葉皮を剥き取って葉肉部分を回収し、回収した葉肉部分を凍結乾燥してアロエベラ葉肉粉末300gを調製した。次いで、調製したアロエベラ葉肉粉末20gを用いて超臨界抽出法により抽出を行った。超臨界抽出は、日本分光株式会社製CO2 delivery pump(SCF-GET)、PU-2080 pump(PU-2080 plus)、Back Pressure Regulator(SCF-BPG)、及び株式会社東洋高圧製ブランジを用い、抽出溶媒として炭酸ガスを使用して行った。
【0115】
(2)分散性比較
試験例4で調製したサンプル6と、前記で調製した超臨界二酸化炭素抽出物を、0.5%(w/w)水溶液となるように水に添加し、それぞれの水への分散性を比較した。結果を図4に示す。図4のAはスターラーで3分撹拌した様子を示す図面代用写真であり、Bはスターラーで3分撹拌した後、更に超音波処理を5分間行った様子を示す図面代用写真である。図4に示すように、本技術に係るアロエ抽出物(サンプル6)は容易に水に分散したのに対し、超臨界二酸化炭素抽出物は超音波をかけても溶け残りが生じた。
【0116】
続いて、水溶液中のβ−シトステロール含量が同量となるように、本技術に係るアロエ抽出物(サンプル6)と超臨界二酸化炭素抽出物を水に添加し、水への分散性を比較した。試験例4で調製したサンプル6には5.38mg/gのβ−シトステロールが含まれており、超臨界二酸化炭素抽出物には255.6mg/gが含まれていたため、100mLの水にサンプル6を0.5g添加し、一方、超臨界二酸化炭素抽出物は0.01g添加した。これらの分散性を比較したところ、本技術に係るアロエ抽出物(サンプル6)は容易に水に分散したのに対し、超臨界二酸化炭素抽出物は超音波をかけても溶け残りが生じていた。これらの結果から、本技術に係るアロエ抽出物は、従来の方法でアロエからβ−シトステロールを精製した抽出物に比べ、水性分散性が飛躍的に高いことが分かった。
【0117】
[試験例6]
<膜濾過工程で使用する膜の検討>
試験例6では、膜濾過工程で使用する膜について、限外濾過膜に代えて精密濾過膜を使用した場合の、アロエ抽出物の組成や特性に与える影響を検証した。
【0118】
(1)アロエ葉肉溶液の調製・均質化
試験例1と同様の方法により、サンプル22及び23のアロエ葉肉溶液を調製した。
【0119】
(2)酵素分解
サンプル22及び23のアロエ葉肉溶液について、多糖類分解酵素(ヘミセルラーゼ90)をアロエ葉肉に対して0.1%添加し、試験例2と同様の方法により、アロエ葉肉溶液中の多糖類の酵素分解を行った。
【0120】
(3)精密濾過
酵素分解を経たサンプル22及び23のアロエ葉肉溶液について、常法に従って精密濾過(孔径0.25μm)処理に供した。
【0121】
(4)各種成分の測定及び特性の評価
試験例4と同様の方法により、β−シトステロール及びリンゴ酸の定量、安息角の測定及び流動性の評価、風味強度の評価を行った。
【0122】
(5)結果
結果を下記の表6に示す。
【0123】
【表6】
【0124】
表6に示すように、酵素分解した後に精密濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収したサンプル22は、原料の乾燥アロエベラゲル粉末(試験例4のサンプル1)に比べ、安息角が小さく、β−シトステロールが3倍以上に濃縮されており、リンゴ酸が半分以下に低減されており、風味強度も低下していた。この結果は、酵素分解した後に限外濾過に供して保持画分をアロエ抽出物として回収した試験例4のサンプル5〜7と同等かそれ以上の結果である。これらの結果から、本技術に係る製造方法の膜濾過には、限外濾過膜及び精密濾過膜のどちらを用いても良いことが分かった。
【0125】
また、β−シトステロールの濃縮結果については、精密濾過を行ったサンプル22の方が、限外濾過を行ったサンプル6に比べ、濃縮率が高いことが分かった。このことから、β−シトステロール、リン脂質及び食物繊維を含む分散粒子を効率よく濃縮するという観点からは、精密濾過膜を使用することが好ましいことが分かった。
【0126】
更に、安息角の測定結果及び風味強度の結果については、限外濾過を行ったサンプル6の方が、精密濾過を行ったサンプル22に比べ、若干、良好な結果を示すことが分かった。このことから、風味の向上及び製造される水性分散性が良好なアロエ抽出乾燥物を粉砕した粉末の流動性の向上の観点からは、限外濾過膜を使用することが好ましいことが分かった。
【0127】
[試験例7]
<安息角と打錠性の検討>
試験例7では、安息角の違いによる打錠性への影響について検討した。
【0128】
(1)錠菓の作製
原料の乾燥アロエベラゲル粉末(試験例4のサンプル1)及び凍結乾燥した試験例4のサンプル5〜7のそれぞれに、無水クエン酸4g、マルチトール56.5g、結晶セルロース10g、リン酸三カルシウム0.5g、グリセリン脂肪酸エステル2g、乳化剤2gを添加して、よく混合した後、打錠機のホッパーに原料を供給し、錠菓を作製した。安息角は、それぞれ、サンプル1の配合物が48°、サンプル5の配合物が35°、サンプル6の配合物が37°、サンプル7配合物が41°であった。なお、乾燥アロエベラゲル粉末(試験例4のサンプル1)、凍結乾燥した試験例4のサンプル5〜7自体の安息角は、前記の表5に示すように、それぞれ、サンプル1:60°、サンプル5:38°、サンプル6:40°、サンプル7:49°であった。
【0129】
(2)打錠性の評価
サンプル1の配合物を用いて打錠を行った場合、ホッパーからの滑り落ちが悪く、適量が打錠部に落ちないため打錠圧エラーで機械が度々停止した。また、出来た錠菓にキャッピング、スティッキング、バインディングなどの問題が生じていた。さらに、出来た錠菓の重量のばらつきが大きかった。一方、サンプル5〜7の配合物を用いて打錠を行った場合、ホッパーからの滑り落ちが良好で、機械停止はなかった。また、出来た錠菓は欠け、ワレなどが無く正常であった。これらの結果から、少なくとも安息角49°以下のアロエ抽出乾燥物を用いれば、問題なく打錠できることが示唆され、本技術に係るアロエ抽出乾燥物は、安息角が小さく流動性に優れており、打錠に適した粉末であることが確認された。
【0130】
[製造例1]
<本技術に係るアロエ抽出物の製造>
製造例1では、本技術に係るアロエ抽出物を実際のスケールで製造した。
【0131】
(1)アロエ葉肉溶液の調製および均質化
試験例1と同様の方法で得られた乾燥アロエベラゲル粉末4kgに対して80kgのイオン交換水を添加し、スーパーミキサーにて15分間攪拌してアロエ葉肉を均質化した。これをアロエ葉肉溶液(アロエ葉肉濃度約4.8%)とした。当該アロエ葉肉溶液中の粒子の粒度分布をレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(LA−500;株式会社堀場製作所製)にて測定した結果、メジアン径が92.53μm、90%粒子径が149.93μmであった。
【0132】
(2)酵素分解
前記で調製したアロエ葉肉溶液84kgを、ジャケット付きタンクに投入した。ここに、ヘミセルラーゼ90を6.77g(酵素量として4g、アロエ葉肉に対して0.1質量%)含む酵素溶液16kgを投入した(合計100kg)。攪拌機にてタンク内の溶液を攪拌しながら50℃で2時間半、酵素分解を行った。酵素分解終了後、ただちにタンクジャケット内に蒸気を入れて、タンク内温度を90℃に昇温し、90℃に達した時点から10分間保持することで酵素を失活した。酵素失活終了後、ただちにタンクジャケット内にチルド水を入れて、タンク内温度を4℃に冷却した。
【0133】
(3)膜濾過
酵素分解されたアロエ葉肉溶液を、限外濾過に供した。限外濾過工程として、原液に対して1.5倍量の水を加水することで行う「透析工程」と、原液を2倍に濃縮する「濃縮工程」の2工程を行った。分画分子量10000Daの限外濾過膜(SLP-3053:旭化成ケミカルズ株式会社製)を使用した。保持液タンクに、酵素分解を経たアロエ葉肉溶液100kgおよび透析用の水150kgを投入した。送液ポンプの流量は透過流速が100〜120L/hrとなるよう調整しながら適宜変更した。透過液量が150kgになった時点で透析工程を終了し、そのまま濃縮工程を行った。透過液量が50kgになった時点で濃縮工程を終了した(最終保持液量50kg、2倍濃縮)。限外濾過により得られた保持液50kgを湯浴にて90℃、30分間保持し、バッチ殺菌した。当該殺菌した保持液を、本技術に係るアロエ抽出物として回収した。当該アロエ抽出物に含まれる粒子の粒度分布をレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(LA−500;株式会社堀場製作所製)にて測定した結果、メジアン径が72.12μm、90%粒子径が136.07μmであった。
【0134】
(4)乾燥
前記アロエ抽出物50kgを凍結乾燥に供し、本技術に係るアロエ抽出乾燥物2kgを得た。
【0135】
(5)組成の分析
原料の乾燥アロエベラゲル粉末と前記で得られた本技術に係るアロエ抽出乾燥物の一般組成(たんぱく質、脂質、灰分、糖質)及び食物繊維含有量を比較した。たんぱく質はケルダール法により評価した(窒素・たんぱく質係数:6.25)。脂質は酸分解法により測定した。灰分は直接灰化法により測定した。糖質は栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)による計算式:100−(水分+たんぱく質+脂質+灰分+食物繊維)に基づいて算出した。従って、リンゴ酸をはじめとした有機酸は糖質に含まれる。食物繊維は酵素‐重量法により測定した。結果を下記の表7に示す。
【0136】
【表7】
【0137】
表7に示すように、本技術に係るアロエ抽出乾燥物において、たんぱく質が1.4倍、脂質が2.0倍、食物繊維が1.7倍濃縮されていた。一方、灰分が40%、糖質(有機酸を含む)が70%削減されていた。これらの結果から、本技術に係る製造方法により、アロエ葉肉に含まれる食物繊維含有量を減ずることなく、アロエ葉肉由来の植物ステロールを濃縮し、かつ、アロエ独特の風味を構成する灰分、有機酸を低減可能であることが明らかとなった。
【0138】
なお、本技術は、以下のような構成も取ることができる。
(1)β−シトステロール、リン脂質および食物繊維を含むアロエ抽出物の製造方法であって、
アロエ葉肉溶液を均質化する均質化工程と、
均質化されたアロエ葉肉溶液に多糖類分解酵素を添加して、前記均質化されたアロエ葉肉溶液に含まれる多糖類を分解する酵素分解工程と、
酵素分解されたアロエ葉肉溶液を、精密濾過膜又は限外濾過膜により膜濾過して、保持画分をアロエ抽出物として回収する膜濾過工程と、
を行うアロエ抽出物の製造方法。
(2)前記酵素分解工程が、
前記均質化されたアロエ葉肉溶液に含まれるアロエ葉肉不揮発成分に対して、前記多糖類分解酵素を0.01〜1.0質量%添加してアロエ葉肉溶液に含まれる多糖類を分解する工程である、(1)に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(3)前記多糖類分解酵素がヘミセルラーゼである、(1)又は(2)に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(4)前記膜濾過工程が、
前記酵素分解されたアロエ葉肉溶液を精密濾過膜により膜濾過して、保持画分をアロエ抽出物として回収する膜濾過工程である、(1)から(3)のいずれか一に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(5)前記均質化工程の前に、アロエ葉肉を圧搾して得られる圧搾液を前記アロエ葉肉溶液として回収するアロエ葉肉溶液調製工程を行う、(1)から(4)のいずれか一に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(6)前記酵素分解された後であって、前記膜濾過工程の前に、
酵素分解されたアロエ葉肉溶液中のアロエ葉肉不揮発成分の濃度を調整する不揮発成分濃度調整工程を行う、(1)から(5)のいずれか一に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(7)前記アロエ抽出物を乾燥して乾燥物として回収する乾燥工程を更に行う、(1)から(6)のいずれか一に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(8)前記乾燥工程後に、
前記乾燥物を粉砕する粉砕工程を行う、(7)に記載のアロエ抽出物の製造方法。
(9)(1)から(8)のいずれか一に記載の製造方法により製造されるアロエ抽出物。
(10)前記アロエ抽出物が、該アロエ抽出物の固形分に対して、β−シトステロールを2.5mg/g以上7.5mg/g以下含有し、かつ、食物繊維を400mg/g以上900mg/g以下含有する、(9)に記載のアロエ抽出物。
(11)前記アロエ抽出物に含有される粒子のメジアン径が100μm以下、かつ、90%粒子径が200μm以下である、(9)又は(10)に記載のアロエ抽出物。
図1
図2
図3
図4