特許第6066615号(P6066615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066615
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】字消し
(51)【国際特許分類】
   B43L 19/00 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
   B43L19/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-177420(P2012-177420)
(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公開番号】特開2014-34169(P2014-34169A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134589
【氏名又は名称】株式会社トンボ鉛筆
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】大野 翔織
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−285156(JP,A)
【文献】 特開2009−196119(JP,A)
【文献】 特開2010−090178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系基材樹脂に、一般式(1)で表わされるシクロヘキサンジカルボン酸エステルからなる可塑剤(A)と、ガラス転移点(Tg)が0℃以下の液状アクリルポリマー及び炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸の少なくとも1種と多価アルコールの少なくとも1種と一価アルコール又は一価カルボン酸から選ばれた少なくとも1種とを縮合して得られるポリエステル系可塑剤から選ばれる少なくとも1種の可塑剤(B)とを配合してなることを特徴とする字消し。
【化1】

[式中、R、Rは互いに独立して、炭素数1〜20のアルキル基を表す。]
【請求項2】
可塑剤(B)の重量平均分子量が、800〜8,000である請求項1に記載の字消し。
【請求項3】
全可塑剤中に占める可塑剤(B)の割合が、50質量%以下である請求項1又は2に記載の字消し。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、字消しに関し、更に詳しくは、消字率が高く、耐折れ性に優れ(すなわち、折れ難い)、可塑剤の耐移行性にも優れる(すなわち、可塑剤の移行量が少ない)、人体及び環境に対する負荷が少ない安全な字消しに関する。
【背景技術】
【0002】
字消し(通称、消しゴム)は、高い消字性を有することから、筆記具の消去に欠かせないものとして、広範に使用されている。字消しは、一般に基材樹脂に可塑剤及び充填剤を配合し、更に必要に応じて安定剤、着色料、香料等の字消し材料を適宜添加して混合攪拌した後、プレス成形、押出成形、射出成形などの成形方法により加熱、成形して製造されている。
【0003】
字消し用の基材樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂などが挙げられるが、基材樹脂の主流は、高い消字性を有することから、塩化ビニル樹脂である。
【0004】
一方、可塑剤は、基材樹脂に柔軟性、耐久性、耐寒性、電気特性等を付与するために用いられているが、字消しにおいては、消字性の側面から、消字対象物質である黒鉛等に親和性のある可塑剤が多用されている。
【0005】
可塑剤としては、従来フタル酸系のものが多用されていたが、近年、人体及び環境への影響を考慮し、プラスチック製品、特に玩具や食品用の包装容器などへの可塑剤の使用は控えられる傾向にある。字消しも例外ではなく、従来使用されてきた可塑剤の使用を抑制すべく、消字率など性能面では従来の可塑剤と同等もしくはそれ以上の性能を有し、かつ、人体、環境への影響の少ない、安全な可塑剤を用いた字消しが望まれている。
【0006】
例えば、BASF社製の「Hexamoll(登録商標)DINCH」は、食品包装用フィルム、キャップ、王冠コルク、人工ワインコルク、パッキン、調理用手袋などの食品接触製品に使用され、EFSA承認、EU指令2002/72/EC、ドイツBfR(ドイツ連邦リスク評価研究所)−食品接触用途のプラスチックに関する勧告、JHPA(日本塩ビ食品衛生協議会)承認を受けている。
【0007】
医療では、呼吸器チューブ、カテーテル、呼吸マスクなどに使用され、生殖障害性なし、精巣毒性なし、生殖機能障害なし、催奇形性なし、内分泌撹乱作用なし、ペルオキシソーム増殖作用なし、発ガン性なし、環境的危険性なしとなっている。更に、玩具にあたる工作用粘土、人形、ベビー用品などにも使用され、EU指令2005/84/EC(改定22版):欧州、カリフォルニア、ブラジル(3歳以下の子供用玩具に適用)、理事会指令76/769§EN71−3 §EN71−5 §EN71−9、EFSA承認など安全性は高いことが確認されている。これに類似するシクロヘキサンポリカルボン酸及びその誘導体は、モノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステルならびに無水エステルがあり、これらも安全性が高いという報告がされている。
【0008】
特許文献1及び特許文献2には、ジイソノニルフタレートの水素添加によって得られる、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルをプラスチック製造のための可塑剤や、字消しの可塑剤として使用することが記載されている。そして、特許文献2には、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸エステルは、ゲル化温度が高く、140℃でもペースト状のプラスチゾルの状態を維持しているので、塩化ビニル樹脂と可塑剤とがゲル化しない状態で均一になる利点を有しており、この可塑剤を塩化ビニル樹脂に配合した字消しは、消し屑のまとまり性に優れていることが記載されている。
【0009】
しかしながら、可塑剤としてシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸エステルを単体で配合した字消しは、折れ易い欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2003−503526号公報(請求項3等)
【特許文献2】特開2010−167717号公報(請求項1、段落[0012]、[0014]、[0016]−[0018])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、消字率及び耐折れ性に優れ、更にはプラスチックに対する可塑剤の耐移行性に優れる、人体や環境に対する負荷が極めて少ない安全な字消しを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を行い、シクロヘキサンジカルボン酸エステルからなる可塑剤(A)と、特定の可塑剤(B)とを併用することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、塩化ビニル系基材樹脂に、一般式(1)で表わされるシクロヘキサンジカルボン酸エステルからなる可塑剤(A)と、ガラス転移点(Tg)が0℃以下の液状アクリルポリマー及び炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸の少なくとも1種と多価アルコールの少なくとも1種と一価アルコール又は一価カルボン酸から選ばれた少なくとも1種とを縮合して得られるポリエステル系可塑剤から選ばれる少なくとも1種の可塑剤(B)とを配合してなることを特徴とする字消しを提供する。
【化1】

[式中、R、Rは互いに独立して、炭素数1〜20のアルキル基を表す。]
【0014】
本発明の字消しにおいては、可塑剤(B)の重量平均分子量が800〜8,000であることが好ましく、全可塑剤中に占める可塑剤(B)の割合が、50質量%以下であることが好ましい
【発明の効果】
【0015】
以上のとおり、本発明によれば、可塑剤として、シクロヘキサンジカルボン酸エステルと、液状アクリルポリマーやポリエステル系可塑剤とを配合することにより、消字率及び耐折れ性に優れるとともに、プラスチックに対する可塑剤の耐移行性に優れる字消しが提供される。また、本発明の字消しは、人体、環境に対する負荷が極めて少なく、安全性が高く、耐環境汚染性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の字消しに用いられる基材樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂等が挙げられる。これらの基材樹脂は単独で、又は必要に応じて2種類以上組み合わせて用いられる。これらの樹脂の中でも、可塑剤との混和が容易で消字力に優れる塩化ビニル系樹脂が特に好ましい。
【0017】
塩化ビニル系樹脂としては、従来用いられている塩化ビニル系樹脂を全て用いることができ、例えば、重合度400〜3,000程度のポリ塩化ビニルの他、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニリデン、塩化ビニル−アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル−メタクリル酸メチル共重合体、及び塩化ビニル−アクリル酸オクチル共重合体が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じて2種類以上組み合わせて用いられる。塩化ビニル系樹脂としてはペーストレジンが可塑剤等との混和、加工が容易な点で好ましい。
【0018】
本発明において、可塑剤(A)として用いられるシクロヘキサンジカルボン酸エステルは、下記式(1)で表わされる。
【化1】

[式中、R、Rは互いに独立して、炭素数1〜20のアルキル基を表す。]
【0019】
、Rは、同じ又は異なっていてよい。R、Rは、直鎖又は分岐鎖である炭素数1〜20のアルキル基、好ましくは炭素数3〜18のアルキル基、特に好ましくは炭素数7〜13のアルキル基である。このようなアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−オクチル及び2−エチルヘキシル、n−ノニル、イソ−ノニル、n−デシル、イソ−デシル、n−ウンデシル、イソ−ウンデシル、n−ドデシル、イソ−ドデシル、n−トリデシル、イソ−トリデシル、ステアリル及びn−エイコシル等が挙げられる。R、Rは、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基であってもよい。
【0020】
シクロヘキサンジカルボン酸エステルは、シクロヘキサンジカルボン酸のジエステルである。シクロヘキサンジカルボン酸エステルは、アルキル基が異なる2以上のエステルからなる混合物であってよく、アルキル基の異なるアルコールとシクロヘキサンジカルボン酸との混合エステルであってもよい。また、シクロヘキサンジカルボン酸エステルには、本発明による効果を阻害しない範囲で、無水物等が含まれていてもよい。
【0021】
シクロヘキサンジカルボン酸エステルは、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸エステル、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸エステル及びシクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸エステルである。本発明では、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸エステルが好ましい。
【0022】
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸エステルの具体例としては、例えば、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−ブチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−tert−ブチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソペンチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソヘプチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−オクチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソオクチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−2−エチルヘキシルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−ノニルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−デシルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソデシルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−ウンデシルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソドデシルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−オクタデシルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソオクタデシルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−エイコシルエステル等のエステル;シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸−tert−ブチル−n−ブチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イソブチル−n−ブチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸−n−ヘキシル−n―ブチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸−n−オクチル−n−ブチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸−n−ノニル−n−ブチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イソノニル−n−ブチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イソドデシル−n−ブチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸−n−トリデシル−n−ブチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イソトリデシル−n−ブチルエステル等の混合エステルが挙げられる。
【0023】
シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸エステル、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸エステルの場合も、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸エステルと同様のアルキル基を有するエステル、ならびに混合エステルを挙げることができる。
【0024】
上記のシクロヘキサンジカルボン酸エステルの中でも、R、Rが、炭素数7〜13のアルキル基であるのが好ましく、例えば、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソペンチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソヘプチルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジノニルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソデシルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸のジ(C7−11)アルキルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸のジ(C9−11)アルキルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸のジ(C7−9)アルキルエステル、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸のジ(C8−13)アルキルエステル等である。市販品としては、BASF社製の「Hexamoll(登録商標)DINCH」が挙げられる。
【0025】
また、本発明において、可塑剤(B)は、ガラス転移点(Tg)が0℃以下の液状アクリルポリマー、ポリエステル系可塑剤から選ばれる少なくとも1種の可塑剤である。ガラス転移点(Tg)は、DSC法によって測定される。
【0026】
可塑剤(B)は、基材樹脂との相溶性に優れており、可塑剤(A)とともに配合して成形することにより、字消しの消字率を阻害することなく、可塑剤の耐移行性において優れた性能を示す傾向が見られるようになり、加えて字消しの強度と耐折れ性が向上する。可塑剤(B)は、重量平均分子量が800〜8,000であることが好ましく、重量平均分子量が800以下では、効果が発現し難くなり、8,000以上では、ハンドリングに難が生じる。重量平均分子量は800〜6,000がより好ましく、800〜3,000が特に好ましい。
【0027】
可塑剤(B)の粘度は特に限定されるものではないが、液状アクリルポリマーの場合は300〜22,000(mPa・s/25℃)であることが好ましく、より好ましくは300〜5,000、特に好ましくは300〜2,000である。ポリエステル系可塑剤の場合は220〜17,000(mPa・s/25℃)であることが好ましく、より好ましくは220〜3,000、特に好ましくは220〜1,000である。可塑剤(B)の粘度が高すぎると、混練攪拌時におけるハンドリング性が低下し、成形もし難くなる。
【0028】
液状アクリルポリマーはガラス転移点(Tg)が低い程、混練攪拌時のハンドリング、及び字消しの成形が容易であるため、−30℃以下程度のものが特に好ましい。液状アクリルポリマーとしては、具体的には、ARUFON UP−1000、UP−1010、UP−1020、UP−1021、UP−1061、UP−1080、UP−1110、UP−1170、UP−1190(以上いずれも商品名、東亞合成(株))等が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0029】
ポリエステル系可塑剤は、炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸の少なくとも1種と、多価アルコールの少なくとも1種と、一価アルコール又は一価カルボン酸から選ばれた少なくとも1種とを縮合して得られるポリエステル系可塑剤が好ましい。かかる脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等が挙げられ、1種又は2種以上が使用される。
【0030】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等の炭素数2〜18の脂肪族グリコールならびにジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールが挙げられる。これらの多価アルコールは、1種又は2種以上の混合物が使用される。
【0031】
一価アルコールとしては、例えば、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール等の炭素9〜18の一価アルコールが挙げられ、1種又は2種以上の混合物が使用される。一価カルボン酸としては、例えば、ノナン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸等の炭素数9〜18のカルボン酸が挙げられ、1種又は2種以上の混合物が使用される。ポリエステル系可塑剤は、3価又はそれ以上の多価アルコール及び多塩基酸を変性剤として使用したものでもよい。
【0032】
ポリエステル系可塑剤としては、具体的には、アデカサイザーPN−9302、PN−150、PN−170、PN−230、PN−1010、PN−1020、P−200、PN−850、PN−260、PN−650、PN−1030、PN−1430、PN−3030、HPN−3130、PN−400、P−5040、PN−220、PN−250、PN−446、PN−310、P−300、PN−280、PN−350、PN−7160、PN−7230、PN−7650、PN−7550、PN−7310(以上いずれも商品名、(株)ADEKA)、ポリサイザーW−230−EL、W−1020−EL、W−1410−EL、W−1641−S、W−2300−EL、W−2340−S、W−2640−S、W−4010(以上いずれも商品名、DIC(株))等が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0033】
本発明の字消しにおける可塑剤(A)及び可塑剤(B)の配合量は、基材樹脂100質量部に対し、合計で80〜200質量部とすることが好ましく、より好ましくは100〜180質量部である。可塑剤の配合量が80質量部以上であれば、字消しが硬くなりすぎることで消字率が低下するおそれがなく、一方200質量部以下であれば、字消しが柔らかくなりすぎることで良好な字消し性能が発現しなくなるおそれがない。
【0034】
また、可塑剤(A)と可塑剤(B)の割合(質量比)は、99/1〜1/99の範囲であれば良いが、より好ましくは99/1〜50/50の範囲、さらに好ましくは、85/15〜50/50の範囲である。可塑剤(B)の割合を15以上とすることにより、耐折れ性及び耐可塑剤移行性に優れる字消しとなり、50以下とすることにより、可塑剤(A)が本来有している消字率を低下させることなく、耐折れ性に優れる字消しを得ることができ、また字消しの成形も容易となる。これらの特性が発現する理由は明らかではないが、シクロヘキサンジカルボン酸エステルは基材樹脂との相溶性がやや劣るが、可塑剤(B)を併用することにより、可塑剤と基材樹脂との親和性が高まるものと推察される。字消しの成形性を考慮すると、全可塑剤中の可塑剤(B)の割合は50質量%以下とすることが好ましく、可塑剤(A)及び可塑剤(B)に他の可塑剤を配合した場合も同様である。
【0035】
上記の可塑剤(A)及び可塑剤(B)には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の可塑剤を配合することもできる。他の可塑剤の配合量は、基材樹脂100質量部に対し、0〜60質量部であることが好ましい。
配合する可塑剤としては、例えば、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソデシルトリメリテート(TIDTM)、トリイソオクチルトリメリテート(TIOTM)、トリイソノニルトリメリテート等のトリメリット酸系可塑剤;トリオクチルピロメリット酸(TOPM)等のピロメリット酸系可塑剤;ジ−2−エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソノニルアジペート(DINA)、ジイソデシルアジペート(DIDA)等のアジピン酸系可塑剤;ジ−2−エチルヘキシルセバケート(DOS)、ジブチルセバケート(DBS)等のセバシン酸系可塑剤;ジ−2−エチルヘキシルアゼレート(DOZ)等のアゼライン酸系可塑剤;トリクレジルフォスフェート(TCP)、トリ−2−エチルヘキシルフォスフェート(TOP)等のリン酸系可塑剤;トリエチルシトレート、アセチルトリ−n−ブチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−(2−エチルヘキシル)シトレート等のクエン酸系可塑剤;エポキシ化トリグリセリド、エポキシ化脂肪酸モノエステル、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸エステル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル(E−PS)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−n−オクチル(nE−PS)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエポキシステアリル(E−PO)等のエポキシヘキサヒドロフタル酸エステル等のエポキシ系可塑剤;が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0036】
本発明の可塑剤をゴム及びエラストマーに配合する場合には、石油系油、液状ゴム、液状オリゴマー等の軟化剤を併用することもできる。石油系油としては、パラフィン系炭化水素油、ナフテン系炭化水素油、芳香族系炭化水素油の混合物であるエクステンダーオイルや、プロセス油、スピンドル油、マシン油、流動パラフィン、塩素化パラフィン等が挙げられる。液状ゴムとしては、液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン等が挙げられる。液状オリゴマーとしては、液状ポリブテン、液状α−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。軟化剤の配合量は特に限定されないが、基材樹脂100質量部に対し、30〜300質量部であることが好ましい。
【0037】
本発明の字消しには、硬度や使用時の消去感を調整するために充填剤を配合することもできる。充填剤としては、珪石粉あるいは石灰石粉(重質炭酸カルシウム)を用いるのが一般的であり、これらの無機粉体は、筆記面を痛めないように微粉化して用いられる。他に珪藻土、タルクあるいはシラス粉末、酸化珪素の微粉末であるアエロジル、無機及び有機の中空粒子等を使用することができる。これらの充填剤を配合する場合の配合量は、基材樹脂によって異なるが、基材樹脂100質量部に対して、30〜300質量部であることが好ましい。
【0038】
また、必要に応じて基材樹脂、特に塩化ビニル系樹脂の成形時による高温劣化防止のため、安定剤を用いる。光安定性向上のため、紫外線吸収剤等の光安定剤を配合することもできる。その他、粘度調整剤、滑剤、溶剤、着色剤、防腐剤、防黴剤、香料等の添加剤を含有することもできる。これらの添加剤は、本発明による効果を阻害しない範囲内であれば、配合量も特に制限されない。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
以下の実施例及び比較例で用いた材料を表1に示す。以下の記載において、「部」は特に断らない限り「質量部」を表す。
【0041】
【表1】
【0042】
また、以下の実施例、比較例において、得られた字消しの消字率及び移行性は、下記の方法により測定又は評価した。
【0043】
[消字率の測定方法(JIS法)]:
JIS S 6050:2002 6.4に準拠した。
(1)字消しを厚さ5mmの板状に切り、着色紙と接触する先端部分を半径6mmの円弧に仕上げたものを試験片とした。
(2)画線機を用いて、JIS S 6006に規定する鉛筆のHBと、坪量90g/m以上、白色度75%以上の上質紙を使用して着色紙を作成し、この着色紙に対して、試験片を垂直に、しかも着色線に対して直角になるように接触させ、試験片におもりとホルダの質量の和が0.5kgとなるようにおもりを載せ、150±10cm/minの速さで着色部を4往復摩消させた。
(3)濃度計によって、着色紙の非着色部分の濃度を0として、着色部及び摩消部の濃度をそれぞれ測定した。
(4)消字率は次の式によって算出し、3回の平均値を求めた。
消字率(%)=(1−(摩消部の濃度÷着色部の濃度))×100
【0044】
[移行性の評価方法]:
字消しをプラスチックの板に挟み、60±2℃の恒温器の中に入れ、24時間後に取り出し、可塑剤が試験片に付着した量を測定した。
【0045】
[折れ試験]
字消しを片手で把持し折り曲げた際に、折れるまでに要した回数を測定した。
【0046】
(実施例1〜6、比較例1〜3)
表2に示す配合割合(数字は質量部)で配合した組成物を減圧下にて攪拌した後、130〜150℃で成形して、字消しを作成した。各字消しについて消字率及び移行性を上記方法で測定した結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表2より、鉛筆で作成した画線に対する消字率に関して、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルを単独で用いた場合と、ほぼ同等の結果が得られた。
【0049】
可塑剤の移行量に関しては、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルを単独で用いるよりも、液状アクリルポリマーを併用することによって減少した。
【0050】
また、液状アクリルポリマーとシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルを併用することにより、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルを単体で配合した場合に比べて、耐折れ性が向上したが、液状アクリルポリマーの割合を多くすると可塑化に必要な温度が高くなり、成形できないものが生じた。
【0051】
一方、液状アクリルポリマーの替わりにアジピン酸ジエステルを併用した場合、消字率に変化は見られなかったが、はほぼ同等の結果が得られたが、移行量及び耐折れ性に改善効果が見られなかった。
【0052】
(実施例7〜10、比較例4〜5)
表3に示す配合割合(数字は質量部)で配合した組成物を減圧下にて攪拌した後、120〜140℃で成形して、字消しを作成した。各字消しについて消字率及び移行性を上記方法で測定した結果を表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表3より、鉛筆で作成した画線に対する消字率に関して、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルを単独で用いた場合とほぼ同等の結果が得られ、ポリエステル系可塑剤単体で配合した場合よりも若干優れていた。
【0055】
可塑剤の移行量に関しては、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルを単独で用いるよりも、アジピン酸系ポリエステルを併用することによって減少した。
【0056】
また、アジピン酸系ポリエステルとシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルを併用することにより、それぞれを単体で配合した場合に比べて耐折れ性が向上し、相乗効果が認められた。
【0057】
以上の結果より、本発明の字消しは、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルを単独で配合した字消しよりも、可塑剤の耐移行性ならびに耐折れ性に関して性能向上が見られ、安全性においても人体及び環境に対する負荷が少ない安全な字消しを作成できた。