(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、溶接部を有する金属材(鋼材)を被検査体として、被検査体の溶接部における欠陥の位置を超音波で求めることが行われている。
【0003】
この検査方法として、TOFD(Time of Flight Diffraction)法がある。
【0004】
このTOFD法は、次のように行われている。
図1において、超音波送信器33は、超音波を発生させる。この超音波には、被検査体1の表面を伝わるラテラル波と、被検査体1の内部を伝わる内部伝播波がある。内部伝播波には、被検査体1の内部における欠陥1a(この例では、溶接部内の欠陥)の上端で反射するものと、当該欠陥1aの下端で反射するものと、被検査体1の底面で反射するものが含まれる。超音波の発生時点を時間計測の原点として、超音波受信器35がラテラル波を検出する時間をt1とし、欠陥1aの上端からの反射波を超音波受信器35が検出する時間をt2とし、欠陥1aの下端からの反射波を超音波受信器35が検出する時間をt3とし、被検査体1の底面からの反射波を超音波受信器35が検出する時間をt4とする。超音波送信器33と超音波受信器35の間隔を一定に維持したまま、被検査体1に対する超音波送信器33と超音波受信器35の取り付け位置を、少しずつ、
図1の右側に移動させ、各取り付け位置で、超音波送信器33と超音波受信器35により上述の時間t1〜t4を検出する。
【0005】
このように得られた時間のデータを
図2に表わす(t4は図示を省略する)。
図2において、横軸は、超音波送信器33の位置を示し、縦軸は、超音波の発生時点を原点とした時間を示す。t1〜t3は、
図2に示す直線または曲線になる。t2とt3が最も小さくなる時に、超音波送信器33から欠陥1aまでの距離と、超音波受信器35から欠陥1aまでの距離が同じであると推定できる。したがって、t2とt3の最小値と、超音波送信器33と超音波受信器35との既知の距離とに基づいて、欠陥1aの位置(
図1の左右方向の位置と、当該位置から欠陥1aまでの距離)を求めることができる。
【0006】
このようなTOFD法は、例えば下記の特許文献1に記載されている。また、本発明の実施形態における振幅変調に関して、下記の非特許文献1がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
被検査体の内部における欠陥の位置を高精度に特定するために、パルス圧縮を用いることが考えられる。この場合、超音波送信器は、周波数変調された超音波を発生させ、この超音波の反射波を超音波受信器で受けて受信データを得る。この受信データに対してパルス圧縮を行うことにより、欠陥の位置を高精度に特定することができる。
【0010】
従来において、高い効率で超音波を発生させるために、周波数変調した超音波の波形が、超音波送信器の共振周波数の成分を有するようにしている。
【0011】
しかし、周波数変調された超音波は、歪みが生じていることが多い。例えば、後述する
図9(B)は、周波数変調された超音波の反射波のデータである。
図9(B)において、破線Aで囲んだ部分において、超音波の波形に歪みが生じている。
【0012】
そこで、本発明の目的は、周波数変調させた超音波を発生させ、その反射波の受信データに対してパルス圧縮を行う場合に、周波数変調させた超音波の歪みをなくし、これにより、欠陥位置をさらに高精度に求めることを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明は、被検査体の内部に超音波を伝播させ、被検査体内の欠陥で反射した超音波に基づいて、被検査体の欠陥の位置を求めるための超音波検査装置であって、
被検査体に取り付けられ、被検査体の内部に伝播する超音波を発生させる超音波送信器と、
被検査体の内部に伝播した超音波の反射波を受ける超音波受信器と、
超音波受信器により受けた反射波の波形を示す受信データに基づいて、被検査体内における欠陥の位置を特定するための位置特定データを求めるデータ処理装置と、を備え、
超音波送信器により発生させられる超音波は、周波数変調されており、かつ、当該超音波の波形は、超音波送信器および超音波受信器の共振周波数から外れた各周波数の成分からなり、
データ処理装置は、前記受信データに対してパルス圧縮を行うパルス圧縮部を有し、パルス圧縮された
前記受信データに基づいて、位置特定データを求め
、
それにより被検査体の内部に周波数変調した超音波を伝播させ、その反射波の受信データをパルス圧縮し、パルス圧縮された前記受信データから、被検査体おける欠陥の位置を超音波により求める場合に、周波数変調した前記超音波が、前記超音波送信器および前記超音波受信器の共振周波数から外れた各周波数の成分からなるようにすることを特徴とする。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によると、超音波送信器は、設定期間にわたって、周波数変調された超音波を発生させ、
この超音波は、設定期間の開始時点から第1中間時点まで、振幅が次第に大きくなり、第1中間時点から第2中間時点まで、振幅が一定に保たれ、第2中間時点から設定期間の終了時点まで、振幅が次第に小さくなる。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によると、超音波受信器と超音波送信器の被検査体への取り付け位置を変え、または、複数の超音波受信器と超音波送信器を被検査体における互いに異なる取り付け位置に設置し、
各取り付け位置で、超音波送信器は、被検査体内に超音波を伝播させ、超音波受信器は、この超音波の反射波を受け、
超音波検査装置は、取り付け位置毎に得られた受信データを記録する波形記録部を備え、
前記データ処理装置は、
取り付け位置毎に、受信データに基づいて、超音波送信器が超音波を発生させた時点から、この超音波の反射波を超音波受信器が受けた時点までの伝播時間を位置特定データとして求める伝播時間特定部と、
複数の取り付け位置についてそれぞれ求めた複数の伝播時間に対して開口合成を行うことにより、被検査体内における欠陥の位置を求める開口合成部と、を有する。
【0016】
また、上述の目的を達成するため、本発明は、被検査体の内部に超音波を伝播させ、被検査体内の欠陥で反射した超音波に基づいて、被検査体の欠陥の位置を求めるための超音波検査方法であって、
(A)超音波送信器と超音波受信器とを被検査体に取り付け、
(B)超音波送信器により、被検査体内に伝播する超音波を発生させ、
(C)前記(B)により被検査体の内部に伝播した超音波の反射波を、超音波受信器で受け、
(D)超音波受信器により受けた反射波の波形を示す受信データに基づいて、被検査体内における欠陥の位置を特定するための位置特定データを求め、
前記(B)で発生させられる超音波は、周波数変調されており、かつ、当該超音波の波形は、超音波送信器および超音波受信器の共振周波数から外れた各周波数の成分からなり、
前記(D)では、前記受信データに対してパルス圧縮を行い、パルス圧縮された
前記受信データに基づいて、位置特定データを求め
、
それにより被検査体の内部に周波数変調した超音波を伝播させ、その反射波の受信データをパルス圧縮し、パルス圧縮された前記受信データから、被検査体おける欠陥の位置を超音波により求める場合に、周波数変調した前記超音波が、前記超音波送信器および前記超音波受信器の共振周波数から外れた各周波数の成分からなるようにすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上述した本発明では、超音波送信器からの周波数変調された超音波が、超音波送信器および超音波受信器の共振周波数から外れた各周波数の成分からなる場合には、超音波の波形の歪みを防止できる。このことは、後述するように試験で確認された。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0020】
図3は、本発明の実施形態による超音波検査装置10を示す。超音波検査装置10は、被検査体1の内部に超音波を伝播させ、被検査体1内の欠陥1aで反射した超音波に基づいて、被検査体1の欠陥1aの位置を求めるためのものである。被検査体1は、金属材(例えば鋼材)であってよい。この場合、欠陥1aは、金属材の溶接部の内部に存在するもの(例えば空隙)であってよい。ただし、本発明によると、被検査体1と欠陥1aは、他のものであってもよい。
【0021】
超音波検査装置10は、超音波送信器3と超音波受信器5とデータ処理装置7とを備える。
【0022】
超音波送信器3は、被検査体1に取り付けられ、被検査体1の内部に伝播する超音波を発生させる。超音波送信器3により発生させられる超音波は、周波数変調されており、かつ、当該超音波の波形は、超音波送信器3および超音波受信器5の共振周波数から外れた各周波数の成分からなる。超音波送信器3は、波形生成部9と増幅部11と送信振動子13を有する。
【0023】
波形生成部9は、上述のように周波数変調され、かつ、振幅変調された波形の電圧を発生させる。この波形の周波数は、周波数変調により、設定期間にわたって、経過時間に伴い次第に増加または減少している。また、この波形の振幅は、振幅変調により、設定期間の開始時点から第1中間時点まで、振幅が次第に大きくなり、第1中間時点から第2中間時点まで、振幅が一定に保たれ、第2中間時点から設定期間の終了時点まで、振幅が次第に小さくなっている(なお、この波形の具体例は、後で
図11(A)に基づいて説明する)。好ましくは、設定期間の第1中間時点から第2中間時点までの時間は、設定期間の開始時点から終了時点までの時間の1/3以上である。
【0024】
このように振幅変調された波形により、超音波が被検査体1の伝播中に減衰することを抑えられる。すなわち、超音波送信器3(送信振動子13)からの超音波が、減衰しやすい部分を通過しても、あるいは長い距離を伝播しても、その減衰を小さく抑えられる。ここで、減衰しやすい部分とは、金属の被検査体1における溶接部、被検査体1における材質が異なる部分同士の境界、または、密度が低い材料(例えば、ステンレス)で形成された部分である。
上述の振幅変調は、好ましくは、次の[数1]に示す窓関数を用いて行われる。[数1]において、kは、任意の値であり、tは時間を示し、P
trは、プリトリガ率を示す。[数1]により、W(t)で表される振幅を有する波形が生成される。
【0026】
波形生成部9が生成する波形は、超音波送信器3(送信振動子13)および超音波受信器5(受信振動子15)の共振周波数を有しない。すなわち、波形生成部9が生成する波形は、超音波送信器3(送信振動子13)および超音波受信器5(受信振動子15)の共振周波数から外れた各周波数の成分からなる。これにより、超音波送信器3が発生させる超音波の歪みを防止できる。
【0027】
増幅部11は、波形生成部9が生成する波形の電圧を、一定のゲインで増幅して送信振動子13に印加する。
【0028】
送信振動子13は、被検査体1に取り付けられる。送信振動子13は、被検査体1に取り付けられた状態で、波形生成部9が生成する波形を有する電圧が印加されることにより、振動して被検査体1に超音波を発生させる。この超音波は、波形生成部9が生成した波形に従った波形(すなわち、周波数と振幅の時間的変化)を有する。このような送信振動子13は、圧電素子であってよい。
【0029】
超音波受信器5は、被検査体1の内部に伝播した超音波の反射波を受けて、この反射波の波形を示す受信データを記録する。超音波受信器5は、受信振動子15と増幅部17と波形記録部19を有する。
【0030】
受信振動子15は、被検査体1の内部に伝播した超音波の反射波を受けることにより振動し、この振動にしたがった波形の電圧を発生させる。このような受信振動子15は、圧電素子であってよい。
【0031】
増幅部17は、受信振動子15が発生させた電圧を、一定のゲインで増幅する。
【0032】
波形記録部19は、増幅部17により増幅された電圧の波形を示す受信データを記録する。
【0033】
データ処理装置7は、パルス圧縮部21と伝播時間特定部23と開口合成部25を有する。
【0034】
パルス圧縮部21は、波形記録部19に記録された受信データに対してパルス圧縮を行う。データ処理装置7は、パルス圧縮された受信データに基づいて、被検査体1内における欠陥1aの位置を特定するための位置特定データを求める。
【0035】
伝播時間特定部23は、パルス圧縮部21によりパルス圧縮された波形に基づいて、送信振動子13が超音波を発生させた時点から、この超音波の反射波を受信振動子15が受けた時点までの伝播時間を上述の位置特定データとして求める。
【0036】
送信振動子13と受信振動子15の各取り付け位置について、受信振動子15と増幅部17とパルス圧縮部21と伝播時間特定部23により、伝播時間を特定する。具体的には、送信振動子13と受信振動子15は、
図3の紙面と垂直な方向の位置が同じであるとして、送信振動子13と受信振動子15との距離を一定に保ったまま、送信振動子13と受信振動子15の被検査体1への取り付け位置を、少しずつ、
図3の左右方向に移動させ、送信振動子13と受信振動子15の各取り付け位置で、送信振動子13から超音波を発生させ、この超音波の反射波を受信振動子15で受け、この反射波を示す受信データに基づいて、増幅部17とパルス圧縮部21と伝播時間特定部23により伝播時間を特定する。すなわち、増幅部17とパルス圧縮部21と伝播時間特定部23により、取り付け位置毎に、受信振動子15が受けた反射波の波形を示す受信データに基づいて、超音波送信器3が超音波を発生させた時点から、この超音波の反射波を超音波受信器5が受けた時点までの伝播時間を求める。
なお、本願において、超音波送信器3(送信振動子13)と超音波受信器5(受信振動子15)の取り付け位置とは、超音波送信器3または超音波受信器5の位置を意味する。
【0037】
開口合成部25は、複数の取り付け位置についてそれぞれ求めた複数の伝播時間に対して開口合成を行うことにより、被検査体1内における欠陥1aの位置を求める。
【0038】
図4は、本発明の実施形態による超音波検査方法を示すフローチャートである。
【0039】
ステップS1において、超音波送信器3と超音波受信器5を被検査体1に取り付ける。
【0040】
ステップS2において、超音波送信器3により、被検査体1内に伝播する超音波を発生させるととともに、被検査体1の内部に伝播した当該超音波の反射波を、超音波受信器5で受ける。
【0041】
ステップS3において、超音波受信器5により受けた反射波の波形を示す受信データを、波形記録部19により記録する。
【0042】
ステップS4において、ステップS2を設定回数だけ行ったかを判断する。この判断が否定である場合には、ステップS5へ進み、この判断が肯定である場合には、ステップS8へ進む。なお、設定回数は、2以上の整数である。
【0043】
ステップS5において、送信振動子13と受信振動子15との距離を一定に保ったまま、送信振動子13と受信振動子15の被検査体1への取り付け位置を変える。
図3の例では、取り付け位置を
図3の左右方向に変える。
【0044】
ステップS5を終えたら、ステップS2へ戻り、ステップS2、S3を再び行う。ステップS2、S3により得られた受信データ毎に、当該受信データに対してステップS6、S7を行う。
【0045】
ステップS6では、パルス圧縮部21により、ステップS3で記録した受信データに対してパルス圧縮を行う。
【0046】
ステップS7では、伝播時間特定部23により、ステップS6によりパルス圧縮された波形に基づいて、送信振動子13が超音波を発生させた時点から、この超音波の反射波を受信振動子15が受けた時点までの伝播時間を求める。
【0047】
ステップS8では、開口合成部25により、設定回数と同じ数の取り付け位置についてそれぞれステップS7で求めた複数の伝播時間に対して開口合成を行うことにより、被検査体1内における欠陥1aの位置を求める。
【0048】
ステップS6のパルス圧縮について、より詳しく述べる。
【0049】
パルス圧縮部21は、
図5に示すように、分解部27と時間軸調整部29と加算部31とを有する。分解部27は、入力された受信データを、互いに異なる複数の周波数成分に分解する。
図5の例では、分解部27は、受信データを、周波数f1、f2、f3をそれぞれ有する3つの周波数成分W1、W2、W3の波形に分解する。周波数成分W1、W2、W3の波形を
図6に示す。時間軸調整部29は、時間軸において、分解された複数の周波数成分(
図6の例では、W1、W2、W3)の波形の基準時点(例えば、波形の開始時点または終了時点)を一致させる。基準時点を一致させた周波数成分W1、W2、W3の波形を
図7(A)(B)(C)に示す。加算部31は、基準時点を一致させた複数の周波数成分の波形を重ね合わせる。すなわち、加算部31は、各時点において、複数の周波数成分の波形における変位(
図7の縦軸の値)を足し合わせる。これにより、パルス圧縮された受信データが加算部31から出力される。
図5の例では、加算部31は、周波数成分W1、W2、W3の波形を重ね合わせて、
図7(D)に示すパルス圧縮された受信データWcを出力する。
【0050】
ステップS8の開口合成について、より詳しく述べる。
【0051】
開口合成部25は、送信振動子13と受信振動子15の各取り付け位置について、伝播時間に基づいて位置特定データを生成する。この位置特定データは、欠陥1aが存在する可能性のある範囲を示す。すなわち、位置特定データは、被検査体1の表面位置と、この表面位置から欠陥1aまでの距離との関係を示す。
図8は、位置特定データA、B、Cを示す。
図8において、横軸は、被検査体1の表面位置を示し、
図3の左右方向の位置に相当する。
図8において、縦軸は、被検査体1の表面位置から欠陥1aまでの距離を示す。また、
図8において、実線で描かれた位置特定データAと、破線で描かれた位置特定データBと、一点鎖線で描かれた位置特定データCは、それぞれ、互いに異なる取り付け位置について生成されたものである。
【0052】
開口合成部25は、上述のように生成された複数の位置特定データに基づいて、被検査体1における欠陥1aの位置を特定する。ここで、欠陥1aの位置とは、被検査体1の表面位置(
図8の横軸座標)と当該表面位置から欠陥1aまでの距離を(
図8の縦軸座標)を意味する。
図8で説明すると、開口合成部25は、位置特定データA,B、Cが描く3つの曲線の交点Pを、欠陥1aの位置として特定する。
【0053】
上述した本発明の実施形態によると、以下の効果が得られる。
【0054】
上述した本発明の実施形態では、超音波送信器3により発生させられる超音波は、超音波送信器3の共振周波数の成分を有しないので、発振超音波の歪みを防止できる。
一方、本発明と違って、超音波送信器3からの周波数変調された超音波が、超音波送信器3および超音波受信器5の共振周波数の成分を有する場合には、超音波送信器3または超音波受信器5に自由共振が起こると、その周波数の成分だけが余分に振動する。この場合、従来において、例えば、チャープ(CHIRP)波の周波数変調により、共振周波数のみの波数が多くなり、共振周波数の成分と他の周波数の成分とが重なって波形の歪みが生じる。これに対し、本発明の実施形態では、このような歪みを防止できる。
【0055】
この効果を、
図9に基づいて述べる。
図9(A)(B)は、それぞれ、比較例において波形生成部9が生成した波形W1aと、この波形W1aに対応する受信データの波形W1bを示す。W1aは、送信振動子13と受信振動子15の共振周波数の成分を有する。一方、
図9(C)(D)は、本発明の実施例において波形生成部9が生成した波形W2aと、この波形W2aに対応する受信データの波形W2bを示す。W2aは、送信振動子13と受信振動子15の共振周波数の成分を有しない。
図9(A)(B)の場合を述べる。送信振動子13と受信振動子15は、5MHzの共振周波数を有している。
図9(A)(B)において、波形生成部9は、共振周波数5MHzを含む1MHzから10MHzまで連続する周波数の成分を有する波形W1aを生成しており、この波形W1aに対する受信データの波形W1bは、
図9(B)のように、破線Aで囲んだ部分において歪んでいる。
これに対して、
図9(C)(D)の場合は、次のようになった。送信振動子13と受信振動子15は、15MHzの共振周波数を有している。
図9(C)において、波形生成部9は、共振周波数15MHzを含まない1MHzから10MHzまで連続する周波数の成分を有する波形W2aを生成しており、この波形W2aに対する受信データの波形W2bは、
図9(D)のように歪んでいない。
【0056】
送信振動子13が発生させる超音波は、設定期間の開始時点から第1中間時点まで、振幅が次第に大きくなり、第1中間時点から第2中間時点まで、振幅が一定に保たれ、第2中間時点から設定期間の終了時点まで、振幅が次第に小さくなっている。これにより、被検査体1内を伝播する超音波の減衰を抑えることができる。
【0057】
この効果を、
図10に基づいて述べる。
図10は、伝播時間が50μ秒程度になった場合における実施例の波形を示す。
図10において、実線は、波形生成部9が
図11(A)の波形を生成した場合における受信データの振幅の大きさを示し、破線は、波形生成部9が
図11(B)の波形を生成した場合の受信データを示す。
図10から分かるように、
図11(A)のように第1中間時点から第2中間時点まで振幅が一定に保たれた波形の超音波を発生させる。これにより、波形の振幅を大きく保持する時間が長くなるため、特に低周波数領域における超音波の送信エネルギが大きくなる。その結果、被検査体1を伝播した後の超音波には、低周波数成分が残るので、超音波の減衰が小さくなる。その結果、
図10における実線の波形のように、超音波の減衰を大幅に抑えることができる。なお、
図10の実線と破線は、発生させる超音波の波形が異なる点以外については、同じ条件で得られたデータである。
【実施例】
【0058】
図12(A)は、本発明の実施例により得られた受信データの波形を示し、
図12(B)は、比較例により得られた受信データの波形を示す。
【0059】
図12(A)の場合では、超音波送信器3および超音波受信器5の共振周波数が、15MHzであり、超音波送信器3が、この共振周波数を含まない1MHzから10MHzまで連続する周波数の成分を有する超音波を発生させた。
【0060】
図12(B)の場合では、超音波送信器および超音波受信器の共振周波数が、5MHzであり、超音波送信器が、この共振周波数を含む1MHzから10MHzまで連続する周波数の成分を有する超音波を発生させた。
【0061】
図12(A)(B)から分かるように、本実施例では、波長が、比較例よりも大幅に短くなっている。また、本実施例では、受信データの波形において振幅がピークとなる時点から外れた時間では、波形の振幅がゼロに近くなっているのに対し、比較例では、受信データの波形において振幅がピークとなる時点から外れた時間でも、波形の振幅は、比較的大きくなっている。すなわち、比較例では、超音波のサイドローブが発生している。
このように、本実施例により、欠陥の位置を、従来よりも一層高精度に特定することが可能となる。
【0062】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、以下の変更例1〜4のいずれかを採用してもよいし、変更例1〜4を任意に組み合わせて採用してもよい。この場合、以下で述べない点は、上述と同じであってよい。
【0063】
(変更例1)
データ処理装置7は、開口合成部25を有していなくてもよい。この場合、上述のステップS8において、データ処理装置7は、複数の取り付け位置についてそれぞれ得られた伝播時間に基づいて、他の手法(例えばTOFD法)により、被検査体1内における欠陥1aの位置を求めてよい。
【0064】
(変更例2)
上述では、ステップS5で、送信振動子13と受信振動子15が互いに対向している方向(
図3の左右方向)に、送信振動子13と受信振動子15の位置を変化させたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、送信振動子13と受信振動子15が互いに対向している方向と交差する方向(例えば
図3の紙面と垂直な方向)に、送信振動子13と受信振動子15の位置を変化させてもよい。この場合、ステップS8において、
図3の紙面と垂直な方向における欠陥1aの位置と、この位置から欠陥1aまでの距離を求めることができる。
【0065】
(変更例3)
上述では、ステップS5において、送信振動子13と受信振動子15の被検査体1への取り付け位置を変えたが、本発明は、これに限定されない。すなわち、複数の超音波送信器3と超音波受信器5を被検査体1における互いに異なる取り付け位置に設置してもよい。これらの取り付け位置は、一直線上に配置されている。この場合、1組の超音波送信器3(送信振動子13)と超音波受信器5(受信振動子15)を用いてステップS2を行い、ステップS5では、別の組の超音波送信器3(送信振動子13)と超音波受信器5(受信振動子15)を選択し、当該別の組の超音波送信器3と超音波受信器5を用いて次のステップS2を行う。ただし、ステップS2で用いられる超音波送信器3(送信振動子13)と超音波受信器5と(受信振動子15)との距離は、複数回(設定回数)行われるステップS2の間で同じである。この場合、波形生成部9と増幅部11は、複数の超音波送信器3に共有されてもよいし、超音波送信器3毎に設けられてもよい。同様に、増幅部17と波形記録部19は、複数の超音波受信器5に共有されてもよいし、超音波受信器5毎に設けられてもよい。
【0066】
(変更例4)
被検査体1における欠陥1aの位置が、被検査体1の表面に沿った方向に関しては既知であり、この欠陥1aの深さを求める場合には、次のようにしてよい。上述のステップS4、S5、S8を省略し、ステップS7で求めた伝播時間と、超音波送信器3と超音波受信器5の取り付け位置とに基づいて、欠陥1aの深さを求める。