(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066662
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】複合発電システム及び複合発電システムの運転方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04228 20160101AFI20170116BHJP
H01M 8/04303 20160101ALI20170116BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20170116BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20170116BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20170116BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20170116BHJP
【FI】
H01M8/04 Y
H01M8/00 Z
H01M8/04 A
H01M8/04 J
!H01M8/12
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-237837(P2012-237837)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2014-89823(P2014-89823A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年6月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度〜平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体酸化物形燃料電池システム要素技術開発実用性向上のための技術開発 超効率運転のための高圧運転技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】寺本 雄一
【審査官】
笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−054288(JP,A)
【文献】
特開2006−152901(JP,A)
【文献】
特開2002−117873(JP,A)
【文献】
特開2008−251247(JP,A)
【文献】
特開平10−040939(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/113442(WO,A1)
【文献】
特開2007−141758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00− 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池及び内燃機関を組み合わせて発電を行い、燃料極へ燃料を供給する燃料供給系、空気極へ酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給系、燃料極の燃料を排出する燃料排出系及び空気極の酸化性ガスを排出する酸化性ガス排出系を発電停止時に遮断することで、前記燃料電池の系内に通気ガスを封じ込める複合発電システムであって、
前記燃料電池は、固体酸化物形燃料電池とされ、
前記遮断直後及び/または前記遮断後の前記燃料電池の温度低下時に、前記燃料供給系及び前記酸化性ガス供給系に対して、系内の圧力調整用ガスを前記温度低下に起因して低下した圧力に応じて供給する加圧ガス供給系統を備えていることを特徴とする複合発電システム。
【請求項2】
燃料電池及び内燃機関を組み合わせて発電を行い、燃料極へ燃料を供給する燃料供給系、空気極へ酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給系、燃料極の燃料を排出する燃料排出系及び空気極の酸化性ガスを排出する酸化性ガス排出系を発電停止時に遮断することで、前記燃料電池の系内に通気ガスを封じ込める複合発電システムであって、
前記燃料電池は、固体酸化物形燃料電池とされ、
前記遮断直後及び/または前記遮断後の前記燃料電池の温度低下時に、前記燃料供給系及び前記酸化性ガス供給系の系内間に前記温度低下に起因して生じる差圧を所定値以内に維持する差圧調整ガスを前記酸化性ガス供給系に供給する差圧調整ガス供給系統を備えていることを特徴とする複合発電システム。
【請求項3】
前記加圧ガス供給系統が、供給するガス圧力の調整機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載の複合発電システム。
【請求項4】
前記差圧調整ガス供給系統が、供給するガス圧力の調整機構を備えていることを特徴とする請求項2に記載の複合発電システム。
【請求項5】
燃料電池及び内燃機関を組み合わせて発電を行い、燃料極へ燃料を供給する燃料供給系及び空気極へ酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給系を発電停止時に遮断することで、前記燃料供給系及び前記酸化性ガス供給系の系内に通気ガスを封じ込める複合発電システムの運転方法であって、
前記燃料電池は、固体酸化物形燃料電池とされ、
前記遮断直後及び/または前記遮断後の温度低下時に、前記燃料供給系及び/または前記酸化性ガス供給系に対して、前記温度低下に起因して低下した圧力に応じて圧力調整ガスを投入して系内圧力調整を行うことを特徴とする複合発電システムの運転方法。
【請求項6】
燃料電池及び内燃機関を組み合わせて発電を行い、燃料極へ燃料を供給する燃料供給系及び空気極へ酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給系を発電停止時に遮断することで、前記燃料供給系及び前記酸化性ガス供給系の系内に通気ガスを封じ込める複合発電システムの運転方法であって、
前記燃料電池は、固体酸化物形燃料電池とされ、
前記遮断直後及び/または前記遮断後の前記燃料電池の温度低下時に、前記燃料供給系及び前記酸化性ガス供給系の系内間に前記温度低下に起因して生じる差圧を所定値以内に維持する差圧調整ガスを投入して系内差圧調整を行うことを特徴とする複合発電システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高温型燃料電池等の燃料電池と内燃機関であるガスタービン、マイクロガスタービンやガスエンジンとを組み合わせた複合発電システム及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気化学反応による発電方式を利用した発電装置であり、優れた発電効率及び環境対応等の特性を有している。このため、21世紀を担う都市型のエネルギー供給システムとして、実用化に向けた研究開発が進んでいる。
このような燃料電池は、燃料側の電極である燃料極と、空気(酸化剤)側の電極である空気極と、これらの間にありイオンのみを通す電解質とにより構成されており、電解質の種類によって様々な形式が開発されている。
【0003】
このうち、固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:以下「SOFC」と呼ぶ)は、電解質としてジルコニアセラミックスなどのセラミックスが用いられ、都市ガス、天然ガス、石油、メタノール、石炭ガス化ガスなどを燃料として運転される燃料電池である。このSOFCは、イオン伝導率を高めるために作動温度が約700〜1000℃程度と高く、用途の広い高効率な高温型燃料電池として知られている。
このようなSOFCにおいては、発電停止に伴う空気極の還元や燃料極の酸化による劣化を防止するため、燃料電池の運転停止後に燃料極側へ窒素等の不活性ガスをパージすることで、燃料電池を保護することが行われている。
【0004】
このようなSOFCは、例えば下記の特許文献1に開示されているように、ガスタービン発電設備と組み合わせた複合発電システムが知られている。このような複合発電システムのSOFCにおいては、燃料系統を介して直接燃料の供給を受け、かつ、圧縮空気供給系統を介して、ガスタービンの圧縮機から圧縮空気の供給を受けるようになっている。
また、従来の複合発電システムにおいては、通常の発電停止操作として、燃料系統に還元ガスを通気するとともに、空気系統に空気の通気をして冷却させた後に減圧して停止させることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3986377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の複合発電システムは、通常の発電停止操作として、燃料系統に対する還元ガスの通気及び空気系統に対する空気の通気をして冷却させた後に減圧して停止させている。このような発電停止操作は、通気に要する還元ガス量が多いため、ランニングコストの増大というデメリットを有している。
また、緊急停止の際に、SOFCの空気流通空間と燃料流通空間の通気ガスを高温状態で系内に封じ込めた後に、大気解放することで空気流通空間と燃料流通空間の圧力を保持して停止させる方法もあるが、流通空間の通気ガスを大気解放しないで再起動まで保持する場合、封じ込めを実施してから常温・常圧の停止状態に移行させる過程においては、燃料極/空気極間の差圧や負圧に対する圧力制御が必要となる。
【0007】
すなわち、封止された状態で系内の温度が下がると系内の圧力も下がる。このため、系内に封止された通気ガス量が必要最小限の状態では、常温に温度低下するまで封じ込めた場合に両系統ともに負圧となる。そして、空気極側の空気供給系は、ガス容量が燃料極側よりも大きいため、燃料極/空気極の供給系統間に差圧(空気極<燃料極)を生じる。
このように、複合発電システムの発電停止後において、大気解放時や再起動時に系統間の差圧が生じると、燃料電池の構成部品の損傷等の悪影響を及ぼすという問題がある。
【0008】
このような背景から、SOFCにガスタービンを組み合わせた構成とされ、発電停止操作時にSOFCの通気ガスを系内に封じ込めることでSOFCを保護する複合発電システムでは、通気ガスの封じ込め完了後に常温・常圧の停止状態に移行させる過程において、燃料極/空気極間の差圧及び負圧を容易かつ確実に防止または抑制できる低コストで信頼性の高い圧力制御が求められている。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、燃料極/空気極間の差圧及び負圧を容易かつ確実に防止または抑制できる低コストで信頼性の高い圧力制御を可能にした複合発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係る第1の複合発電システムは、燃料電池及び内燃機関を組み合わせて発電を行い、燃料極へ燃料を供給する燃料供給系、空気極へ酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給系、燃料極の燃料を排出する燃料排出系及び空気極の酸化性ガスを排出する酸化性ガス排出系を発電停止時に遮断することで、前記燃料電池の系内に通気ガスを封じ込める複合発電システムであって、
前記燃料電池は、固体酸化物形燃料電池とされ、前記遮断直後及び/または前記遮断後の前記燃料電池の温度低下時に、前記燃料供給系及び前記酸化性ガス供給系に
対して、系内の圧力調整用ガスを
前記温度低下に起因して低下した圧力に応じて供給する加圧ガス供給系統を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
このような複合発電システムによれば、発電停止時に燃料供給系及び酸化性ガス供給系が遮断されて系内に通気ガスが封じ込められた場合において、遮断直後及び/または遮断後の温度低下時に、燃料供給系及び酸化性ガス供給系に系内の圧力調整用ガスを供給する加圧ガス供給系統を備えているので、圧力調整ガスの供給により温度低下に起因した系内圧力の低下を抑制または防止でき、この結果、再起動時等における系内の負圧を防止できる。
この場合に好適な圧力調整ガスは、燃料供給系では還元ガスや窒素ガス等を例示でき、酸化性ガス供給系では空気や窒素ガス等を例示できる。
【0011】
本発明に係る第2の複合発電システムは、燃料電池及び内燃機関を組み合わせて発電を行い、燃料極へ燃料を供給する燃料供給系、空気極へ酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給系、燃料極の燃料を排出する燃料排出系及び空気極の酸化性ガスを排出する酸化性ガス排出系を発電停止時に遮断することで、前記燃料電池の系内に通気ガスを封じ込める複合発電システムであって、
前記燃料電池は、固体酸化物形燃料電池とされ、前記遮断直後及び/または前記遮断後の前記燃料電池の温度低下時に、前記燃料供給系及び前記酸化性ガス供給系の系内間に
前記温度低下に起因して生じる差圧を所定値以内に維持する差圧調整ガスを前記酸化性ガス供給系に供給する差圧調整ガス供給系統を備えていることを特徴とするものである。
【0012】
このような複合発電システムによれば、発電停止時に燃料供給系及び酸化性ガス供給系が遮断されて系内に通気ガスが封じ込められた場合において、遮断直後及び/または遮断後の温度低下時に、燃料供給系及び酸化性ガス供給系の系内間に生じる差圧を所定値以内に維持する差圧調整ガスを酸化性ガス供給系に供給する差圧調整ガス供給系統を備えているので、差圧により高圧側から低圧側へ燃料ガスや酸化性ガスがリークすることを防止または抑制し、温度降下に起因する差圧を所定値以下に維持することが可能になる。
この場合に好適な差圧調整ガスとしては、圧力調整した窒素ガス等の不活性ガスや空気等を例示できる。
【0013】
上記第
1の複合発電システムにおいて、前記加圧ガス供給系
統は、供給するガス圧力の調整機構(例えば減圧弁)を備えていることが好まし
い。また、上記第2の複合発電システムにおいて、前記差圧調整ガス供給系統は、供給するガス圧力の調整機構(例えば減圧弁)を備えていることが好ましい。これにより、停電や分散制御システム(DCS)の異常が発生してもそのままの発電停止操作を継続できる。
【0014】
本発明に係る複合発電システムの
第1の運転方法は、燃料電池及び内燃機関を組み合わせて発電を行い、燃料極へ燃料を供給する燃料供給系及び空気極へ酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給系を発電停止時に遮断することで、前記燃料供給系及び前記酸化性ガス供給系の系内に通気ガスを封じ込めて前記燃料電池を保護する複合発電システムの発電停止時運転方法であって、
前記燃料電池は、固体酸化物形燃料電池とされ、前記遮断直後及び/または前記遮断後の温度低下時に、前記燃料供給系及び/または前記酸化性ガス供給系に
対して、前記温度低下に起因して低下した圧力に応じて圧力調整ガスを投入して発電停止時の系内圧力調整を行うことを特徴とするものである。
本発明に係る複合発電システムの第2の運転方法は、燃料電池及び内燃機関を組み合わせて発電を行い、燃料極へ燃料を供給する燃料供給系及び空気極へ酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給系を発電停止時に遮断することで、前記燃料供給系及び前記酸化性ガス供給系の系内に通気ガスを封じ込める複合発電システムの運転方法であって、前記燃料電池は、固体酸化物形燃料電池とされ、前記遮断直後及び/または前記遮断後の前記燃料電池の温度低下時に、前記燃料供給系及び前記酸化性ガス供給系の系内間に前記温度低下に起因して生じる差圧を所定値以内に維持する差圧調整ガスを投入して系内差圧調整を行うことを特徴とするものである。
【0015】
このような複合発電システムの運転方法によれば、遮断直後及び/または遮断後の温度低下時に、燃料供給系及び/または酸化性ガス供給系に圧力調整ガスを投入して発電停止時の系内圧力調整を行うので、圧力調整ガスの供給により温度低下に起因した系内圧力の低下や差圧発生を抑制または防止することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明の複合発電システム及びその運転方法によれば、通気ガスの封じ込め完了後に常温・常圧の停止状態に移行させる過程で圧力調整用ガスや差圧調整ガスを供給する系内の圧力制御が行われるので、燃料極及び空気極の系内が負圧になることや燃料極及び空気極の系間に差圧が生じることを容易かつ確実に防止または抑制できる。この結果、特に燃料電池構成部品の信頼性や耐久性が向上するので、複合発電システム全体としても耐久性や信頼性が向上する。
また、発電停止操作で使用する通気ガス量が大幅に減少するので、ランニングコストの低減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る複合発電システム及び複合発電システムの運転方法に関する一実施形態を示す系統図である。
【
図2】
図1に示した複合発電システムを構成する固体酸化物
形燃料電池(SOFC)について、カートリッジ周辺を拡大した系統図である。
【
図3】
図1に示した複合発電システムを構成する内燃機関(マイクロガスタービン)周辺を拡大した系統図である。
【
図4】固体酸化物
形燃料電池(SOFC)について、カートリッジの構造例及び各要素の機能を示す説明図である。
【
図5】時間経過に対する系内圧力及び温度の変化と、負圧調整後の圧力変化とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る複合発電システム及び複合発電システムの運転方法について、一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す本実施形態の複合発電システム(燃料電池及び内燃機関による発電システム)1は、高温型の燃料電池であるSOFC10と、内燃機関であるガスタービンやガスエンジンの一例としてマイクロガスタービン(以下「MGT」と呼ぶ)50とを組み合わせることにより、効率のよい発電を行うものである。
【0019】
すなわち、都市ガス(天然ガス)等を改質した燃料ガス及び空気等の酸化性ガスの供給を受けて電解質を介した電気化学反応により発電するSOFC10に加えて、SOFC10から発電後に排出される高温の排燃料や排出空気を導入してMGT50を運転し、MGT50の出力軸に連結された不図示の発電機を駆動して発電を行うものである。
さらに、MGT50から排出される高温の燃焼排ガスを排熱回収ボイラに導入すれば、蒸気タービンによる発電も組み合わせた複合発電システムの構築も可能である。
【0020】
以下では、上述したSOFC10を採用した複合発電システム1について説明する。このSOFC10は、電解質としてジルコニアセラミックスなどのセラミックスを用い、都市ガス、天然ガス、石油、メタノール、石炭ガス化ガスなどを燃料として運転(発電)するものであり、イオン伝導率を高めるため、作動温度が約700〜1000℃程度と高く設定されている。このようなSOFC10は、1または複数のSOFCモジュールを適宜組み合わせた構成とされる。なお、SOFCモジュールは、複数のSOFCカートリッジ11(
図2及び
図4参照)と、これら複数のSOFCカートリッジを収納する圧力容器81とを有している。
【0021】
SOFCカートリッジ11は、
図4に示す通り、複数のセルスタック12と、発電室13と、燃料ガス供給室14と、燃料ガス排出室15と、酸化性ガス供給室16と、酸化性ガス排出室17とを有する。また、SOFCカートリッジ11は、上部管板18aと、下部管板18bと、上部断熱体19aと、下部断熱体19bとを有する。
本実施形態のSOFCカートリッジ11は、燃料ガス供給室14と燃料ガス排出室15と酸化性ガス供給室16と酸化性ガス排出室17とが図示のように配置されることで、燃料ガスと酸化性ガスとがセルスタック12の内側と外側とを対向して流れる構造となっている。しかし、必ずしもこの配置や構成に限定されることはなく、例えば、セルスタックの内側と外側とを平行して流れる、または、酸化性ガスがセルスタックの長手方向と直交する方向へ流れるようにしてもよい。
【0022】
また、上述した酸化性ガスは、15〜30%程度の酸素を含むガスのことであり、代表的には空気が好適である。しかし、空気以外にも、燃焼排ガスと空気との混合ガスや、酸素と空気の混合ガス等が使用可能である。
以下の説明では、燃料として都市ガスをSOFC10の外部または内部で改質して使用し、酸化性ガスとして空気を使用する場合について説明するが、この場合の空気は、MGT50から供給される圧縮空気となる。
【0023】
MGT50は、例えば
図3に示すように、圧縮機51と、燃焼器52と、タービン53とを備えている。なお、図中の符号54はフィルタ、55は再生熱交換器である。
圧縮機51は、フィルタ54を介して導入した大気(空気)を圧縮するもので、この場合の駆動源はタービン53となる。圧縮機51で圧縮された圧縮空気は、燃焼器52や再生熱交換器55を介してSOFC等へ供給される。
燃焼器52は、圧縮空気の供給を受けて燃料の都市ガスを燃焼させ、高温高圧の燃焼排ガスを生成してタービン53へ供給する。
【0024】
タービン53は、燃焼排ガスのエネルギーにより回転して軸出力を発生し、この軸出力を利用して圧縮機51及び図示しない発電機が駆動される。
タービン53で仕事をした燃焼排ガスは、再生熱交換器55で圧縮空気との熱交換により昇温させた後、煙突60から大気へと放出される。
【0025】
さて、
図1に示す複合発電システム1は、SOFC10及びMGT50を組み合わせて発電を行うが、発電停止時には、燃料極へ燃料を供給する燃料供給系20及び空気極へ酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給系70を遮断し、燃料供給系20及び酸化性ガス供給系70の系内に通気ガスの都市ガス(燃料ガス)や酸化性ガス(圧縮空気)を封じ込めてSOFC10を保護する。
図示の燃料供給系20は、開閉弁21を備えた都市ガス(燃料ガス)供給ライン22と、開閉弁21の下流側に接続された窒素ガス供給ライン23、水蒸気供給ライン24、還元ガス/窒素ガス供給ライン25を備えている。なお、図示の還元ガス/窒素ガス供給ライン25は、還元ガスまたは窒素ガスのいずれか一方を供給する流路である。
【0026】
図示の燃料ガス排出系26は、SOFC10に供給された燃料をMGT50に送給する流路である。燃料ガス排出系26は、流量調整弁27、排燃料ブロワ28を有する排燃料ライン26a、排燃料ライン26aを経由してSOFC50に排燃料ガスを再循環させる再循環ライン26b、及び排燃料ライン26aを経由してMGT50と接続する排燃料供給ライン26cにより構成されている。
再循環ライン26bは、流量調整弁29を介してSOFC10の排燃料ガスを燃料供給系20に戻している。
【0027】
窒素ガス供給ライン23は、SOFC10の起動停止の際に燃料供給系20に窒素ガスを送給するための流路である。この窒素ガス供給ライン23は、開閉弁23aと、この開閉弁23aの上流側から分岐して下流側で合流するバイパス流路23bと、バイパス流路23bに設けられた減圧弁23c及び開閉弁23dを備えている。また、水蒸気供給ライン24には開閉弁24aが設けられ、還元ガス/窒素ガス供給ライン25には減圧弁25a及び開閉弁25bが設けられている。
【0028】
図示の酸化性ガス供給系70は、MGT50の圧縮機51で圧縮された圧縮空気の一部をSOFC10の空気極へ供給する流路である。この酸化性ガス供給系70は、再生熱交換器55で熱交換した圧縮空気をSOFC10へ供給するが、流路途中には流量調整弁71が設けられている。また、流量調整弁71の下流には、開閉弁72及び減圧弁73を備えた空気/窒素ガス供給ライン74が接続されている。なお、図示の空気/窒素ガス供給ライン74は、空気または窒素ガスのいずれか一方を供給する流路である。
また、酸化性ガス排出系75は、SOFC10から排出された酸化性ガスをMGT50に供給する流路であって、SOFC10とMGT50が開閉弁76を介して流路が連結されている。
【0029】
上述した燃料供給系20及び酸化性ガス供給系70を遮断し、さらに、燃料ガス排出系26及び酸化性ガス排出系75も遮断することで、SOFC10の系内に燃料ガスや圧縮空気を封じ込めて放置すると、例えば
図5に示すように、時間の経過とともに系内の温度が低下する。このため、SOFC10の系内である燃料供給系20と燃料ガス排出系26の間の系内、及び酸化性ガス供給系70と酸化性ガス排出系75の間の系内は、燃料ガスや圧縮空気の供給源から遮断されているため通気ガスの補充を受けられず、また、燃料ガス排出系や酸化性ガス排出系とも遮断されているため、この結果、SOFC10の系内の温度低下に伴って系内圧力も低下して負圧になる。
そこで、このような系内圧力の低下による負圧の発生を防止するため、遮断直後及び/または遮断後の温度低下時に、封じ込め系内に圧力調整用ガスを供給する加圧ガス供給系統が設けられている。具体的な加圧ガス供給系統は、燃料供給系20に圧力調整用ガスを供給するバイパス流路23bを備えた窒素ガス供給ライン23または還元ガス/窒素ガス供給ライン25と、酸化性ガス供給系70に圧力調整用ガスを供給する空気/窒素ガス供給ライン74とがある。
【0030】
このような加圧ガス供給系統を備えた複合発電システム1は、発電停止時に燃料供給系20及び酸化性ガス供給系70が遮断されて系内に通気ガスが封じ込められた場合、遮断直後または遮断後のSOFC10の系内の温度低下時に、あるいは、遮断直後及び遮断後のSOFC10の系内の温度低下時に、封止された状態にある燃料供給系20及び酸化性ガス供給系70に対して、系内の圧力調整用ガスを供給することができる。
【0031】
すなわち、SOFC10の系内の温度低下に伴って圧力低下する密閉空間に対して、供給源との間が遮断されている通気ガスに代えて圧力調整用ガスを供給するので、圧力低下を防止または抑制し、系内が負圧になることを防止できる。
この場合に好適な圧力調整ガスは、燃料供給系20では還元ガスや窒素ガス等を例示でき、酸化性ガス供給系70では空気や窒素ガス等を例示できる。
【0032】
換言すれば、発電停止時に封じ込められた高温の燃料ガスや圧縮空気が常温まで温度低下すると、系内に存在する必要最小限の通気ガス量では、空気極及び燃料極のガス供給系統が負圧となる。このような負圧により、SOFC10の大気解放時や再起動時には、燃料供給系20と酸化性ガス供給系70との間に差圧が生じ、SOFC10の構成部品に損傷等の原因となる悪影響を及ぼすが、圧力調整用ガスの供給により負圧分の加圧を実施すれば、このような問題を解消することができる。
【0033】
また、上述した加圧ガス供給系統においては、流路に減圧弁23c,25a,73を設けておくことが望ましい。このような減圧弁23c,25a,73は、電源がなくても圧力調整が可能であるため、停電時やDCS異常になっても特別な操作は不要であり、通常の発電停止操作をそのまま継続することができる。なお、減圧弁23c,25a,73に代えて、オリフィスを使用することも可能である。
【0034】
また、加圧ガスの供給タイミングとしては、SOFCモジュール温度が650℃以上の高温時点とすればよい。このような高温領域は、酸化/還元が発生しやすい温度領域であることから、高温時点で負圧調整用の加圧ガスを供給すれば、SOFCモジュール温度の低下抑制と負圧調整を実施できる。
加圧ガスの供給量は、減圧弁23c,25a,73により封じ込め対象となる系内圧力にもよるが、加圧ガスの投入によって系内圧力が高くなり、温度が急激に上昇することになっても系内に用いられている金属部材の耐熱温度を上回らないように配慮する必要があるため、予め設定された供給量にすることが望ましい。このような観点から、系内の通気ガスがある程度まで温度低下した状態で加圧ガスを投入することが望ましい。
【0035】
さらに、上述した複合発電システム1は、発電停止時に燃料極へ燃料を供給する燃料供給系20及び空気極へ酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給系70を遮断した直後及び/または遮断後のSOFC10の系内の温度低下時に、差圧調整ガスを酸化性ガス供給系70に供給する差圧調整ガス供給系統を備えている。この差圧調整ガス供給系統は、燃料供給系20及び酸化性ガス供給系70の系内間に生じる差圧を所定値(例えば0.9kPa)以内に維持する差圧調整ガスを、酸化性ガス供給系70に供給するものである。
【0036】
具体的な差圧調整ガス供給系統は、酸化性ガス供給系70に圧力調整用ガスを供給する空気/窒素ガス供給ライン74となる。そして、この場合に好適な差圧調整ガスは、圧力調整した窒素ガス等の不活性ガスや空気等を例示できる。
この場合の差圧は、例えば
図2に示す差圧計40により排燃料ライン26aと、圧力容器81の系内圧力とから計測される。
【0037】
このような差圧調整ガス供給系統を備えている複合発電システム1は、差圧により高圧側の燃料供給系20から低圧側の酸化性ガス供給系70へ燃料ガスがリークすることを防止または抑制し、温度降下に起因する差圧を所定値以下に維持することが可能になる。すなわち、系内の温度降下に伴い空気極/燃料極の系統内圧力はそれぞれ低下するが、酸化性ガス供給系70のガス容量は燃料供給系20よりも大きいので、燃料極/空気極系統間の差圧(空気極<燃料極)が生じる。
【0038】
しかし、差圧を形成する低圧側の酸化性ガス供給系70に差圧調整ガスを供給すれば、差圧を所定値以下に抑制できるため、差圧により燃料供給系20の燃料ガスが酸化性ガス供給系70にリークすることで空気極が還元膨張し、この還元膨張によって空気極が剥がれることを防止できる。
この場合、差圧調整ガスとして減圧弁73で圧力調整したものを使用すれば、電源がなくても減圧弁73による圧力調整が可能であるため、停電時やDCS異常になっても特別な操作は不要であり、通常の発電停止操作をそのまま継続することができる。
【0039】
また、上述した加圧ガス供給系統及び差圧調整ガス供給系統は、各々単独で系内の圧力制御をしてもよいし、あるいは、両方を併用して系内の圧力制御をしてもよい。
そして、上述した複合発電システム1は、発電停止時の遮断直後及び/または遮断後のSOFC10の系内の温度低下時において、燃料供給系20及び/または酸化性ガス供給系70に圧力調整ガスとなる加圧調整用ガスや差圧調整ガスを投入して発電停止時の系内圧力調整を行う発電停止時運転方法が可能となる。
【実施例1】
【0040】
本発明に係る発電停止操作において、セルスタック12のロバスト性を考慮する場合の停止操作について説明する。
本実施例の発電停止操作は、セルスタック12の燃料極が再酸化することによる応力の発生を保護するために、発電停止時に使用する圧力調整用ガスや差圧調整ガスとして、燃料供給系20に還元ガスまたは不活性ガスと還元ガスの混合ガスを使用する。これにより封じ込めされた状態の燃料供給系20を還元状態とすることで、燃料極が再酸化してセルスタック12に応力が発生することを抑制できる。
【0041】
本実施例の停止操作としては、燃料供給系20では、発電停止直後に封じ込めを行い、停止後に系内温度が低下すると、減圧弁25aで機械的に圧力調整した還元ガスまたは不活性ガスと還元ガスの混合ガスを供給して規定圧を保持する。一方、酸化性ガス供給系70では、発電停止直後に同様の封じ込めを行い、停止後に系内温度が低下すると、減圧弁73で機械的に圧力調整した空気または窒素ガスを供給して規定圧を保持する。
【0042】
本実施例の停止操作において、燃料供給系及び/または酸化性ガス供給系への圧力調整ガスや差圧調整ガスの供給は、燃料供給系と酸化性ガス供給系に同じタイミングで行うことで差圧調整と負圧調整を同時に実施することが可能である。これにより燃料極/空気極系統間の差圧を一定に保ちながら停止操作を行うことが可能である。
【0043】
また、本実施例の停止操作において、燃料供給系及び/または酸化性ガス供給系への圧力調整ガスや差圧調整ガスの供給は、燃料供給系と酸化性ガス供給系に別々のタイミングで供給することで、どちらか一方の供給系の負圧調整と差圧調整を行うことが可能である。この場合、燃料供給系の圧力を酸化性ガス供給系より高めに保つ運用にて圧力調整ガスや差圧調整ガスを供給するタイミングを決めても良く、また、系内間に生じる差圧が所定値から外れることがないように空気極系統の差圧を所定値以内に維持するように圧力調整ガスや差圧調整ガスを供給してもよい。
【実施例2】
【0044】
本実施例の発電停止操作において、セルスタック12のロバスト性を考慮しなくてもよい場合の停止操作について説明する。
本実施例の発電停止操作は、ロバスト性が高いセルスタック12に適用されるものであり、発電停止時に使用する圧力調整用ガスや差圧調整ガスとして、燃料供給系20に窒素ガスを使用し、かつ、酸化性ガス供給系70に空気または窒素ガスを使用する停止操作である。
【0045】
本実施例の停止操作としては、燃料供給系20では、発電停止直後に封じ込めを行ってもよいし、あるいは、窒素ガスをパージすることで燃料供給系20を不活性ガスにより置換した後に封じ込めを行ってもよい。そして、系内を封じ込めした後に系内温度が低下すると、減圧弁25aで機械的に圧力調整した窒素ガスを供給して規定圧を保持する。
【0046】
酸化性ガス供給系70では、発電停止直後に同様の封じ込めを行い、系内を封じ込めした後に系内温度が低下すると、減圧弁73で機械的に圧力調整した空気または窒素ガスを供給して規定圧を保持する。
本実施例の停止操作において、燃料極系統及び/または空気極系統への圧力調整ガスや差圧調整ガスの供給は、燃料極系統と空気極系統が同じタイミングであってもよいし、別々のタイミングで行ってもよい。
【0047】
このような複合発電システム1及びその発電停止時の運転方法によれば、圧力調整ガスの供給により温度低下に起因した系内圧力の低下や差圧発生を抑制または防止することが可能になる。すなわち、通気ガスの封じ込め完了後に常温・常圧の停止状態に移行させる過程において、圧力調整用ガスや差圧調整ガスを供給する系内の圧力制御が行われるので、燃料極及び空気極の系内が負圧になることや燃料極及び空気極の系間に差圧が生じることを容易かつ確実に防止または抑制できる。
【0048】
この結果、特にSOFC10のような燃料電池構成部品の信頼性や耐久性が向上するので、複合発電システム1の耐久性や信頼性が向上する。また、発電停止操作で使用する通気ガス量が大幅に減少するので、ランニングコストの低減が可能になる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 複合発電システム(燃料電池・ガスタービン発電システム)
10 SOFC(固体酸化物形燃料電池)
11 SOFCカートリッジ
12 セルスタック
13 発電室
14 燃料ガス供給室
15 燃料ガス排出室
16 酸化性ガス供給室
17 酸化性ガス排出室
20 燃料供給系
21,23a,23d,24a,25b,72 開閉弁
22 都市ガス(燃料ガス)供給ライン
23 窒素ガス供給ライン
23c,25a,73 減圧弁
24 水蒸気供給ライン
25 還元ガス/窒素ガス供給ライン
40 差圧計
50 MGT(マイクロガスタービン)
51 圧縮機
52 燃焼器
53 タービン
60 煙突
70 酸化性ガス供給系