特許第6066675号(P6066675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066675
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】ミスト抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 149/06 20060101AFI20170116BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20170116BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20170116BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20170116BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20170116BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20170116BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20170116BHJP
   C10N 40/32 20060101ALN20170116BHJP
【FI】
   C10M149/06
   C10N30:00 E
   C10N30:00 A
   C10N40:04
   C10N40:08
   C10N40:22
   C10N40:24 A
   C10N40:24 Z
   C10N40:30
   C10N40:32
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-244123(P2012-244123)
(22)【出願日】2012年11月6日
(65)【公開番号】特開2013-177546(P2013-177546A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-22385(P2012-22385)
(32)【優先日】2012年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314001841
【氏名又は名称】KJケミカルズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺本 広司
(72)【発明者】
【氏名】丸山 学士
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−055597(JP,A)
【文献】 特開2001−059096(JP,A)
【文献】 特開2011−231304(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第02252103(GB,A)
【文献】 特開平11−236589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M,C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性モノマーおよびアニオン性モノマーを構成成分として含むポリマーであって、かつ、カチオン性モノマーがN, N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドであり、そのカチオン性基:アニオン性基の数の比が70:30〜5:95であるポリマーを有効成分として含有することを特徴とするミスト抑制剤。
【請求項2】
ベタイン構造を有する両性電解質のモノマーを構成成分として含むポリマーを有効成分として含有することを特徴とするミスト抑制剤。
【請求項3】
ポリマーが、さらに疎水性モノマーを構成成分として含み、前記カチオン性モノマー、アニオン性モノマーおよびベタイン構造を有する両性電解質のモノマーを合わせて親水性モノマーとするとき、構成する親水性モノマー:疎水性モノマーのモル比が99.9:0.01〜90:10であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のミスト抑制剤。
【請求項4】
疎水性モノマーが、有機概念図における無機性/有機性値(I/O値)が0.08〜1.0で示される化合物であることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のミスト抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油用のミスト抑制剤に関する。詳しくは鉄鋼、合金鋼、アルミ等の金属部材、石英、シリコン、セラミックス、カーボン等の脆性材の切削加工や研削加工又は塑性加工に於いて使用される加工油剤や、ギア油、チェーン油、作動油、削岩油、ポンプオイル、コンプレッサーオイル等に使用される設備、機械用潤滑油について、使用時にミストの発生を抑制できる添加剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切削 、研削加工に於いては、工具と被削材の冷却、潤滑性能付与による加工能率や加工精度の向上および工具寿命の延長を目的に、加工油剤が使用されている。
加工油剤は加工部位で、工具及び被削材の高速運動による高いせん断力を受け微粒子化され、さらに、加工時の工具と被削材の摩擦熱により、ベースオイルや他に添加されている化合物が気化し環境温度で凝集し微細な形状をとることで環境中にオイルミストとして滞留する。このようなオイルミストは、作業場環境に充満し、特に10μm以下のものは作業者の呼吸により体内に入り健康上悪影響を及ぼす恐れがある。
同様に、ポンプオイルや、コンプレッサーオイル、チェーンオイル、削岩油等の設備、機械用潤滑油に於いても作動に伴う摩擦熱、せん断力によりオイルミストが発生する。
環境中に発生するオイルミストの低減方法としては、屋内作業場に於いて局所排気装置、各種空気清浄機等の設備面で対応する方法、加工油に高分子化合物を添加することで粘性を付与する乃至は、低沸点物質の含有量の少ない油を使用する方法等が知られている。
これらの方法に於いて、設備的に低減措置を講ずる場合、高い設備投資が必要である。加工油に添加剤を使用する方法は簡便である反面、以下に示す様に未だ多くの問題がある。
【0003】
加工油に使用するミスト抑制用の添加剤の例として、特開2000−129282号公報、特開平10−046178号公報、特開2007−146175、特開2003−507569には、水溶性、若しくは水分散性の高分子化合物が記載されている。
一方、作動油、エンジンオイル等の油に用いたものとして特開2008−248110号公報、特表平8−512334号公報がある。
しかし、これらに記載された高分子を用いた場合、使用時に受ける機械ストレスにより分子鎖が分断され、ミストを抑制する為に必要な粘度を長期間に渡って維持できず、添加量の増量により油の粘度が必要以上に上がる等の問題があった。また、アニオン性基を持つポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシメチルセルロース、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸を親水性の構成成分として用いる場合、使用する工業用水や井戸水からのカルシウムイオン、マグネシウムイオン若しくは被削材から溶出する各種多価金属イオンと相互作用し、増粘性が阻害されることでオイルミスト抑制効果が低下したり、水不溶解性の凝集物を生じ易かったり、スケール発生の原因となり配管の詰まりや腐敗、汚れによる不具合を招いたり、粘度低下によりミスト抑制効果が低下し易い等の問題があった。
一方、エステル基を有するメタクリル酸メチル等を含むポリマーも水溶性加工油では系がアルカリ性であることから、加水分解を受け易く安定性に不安があり、かならずしも長期間の使用に耐えうるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−129282号公報
【特許文献2】特開平10−046178号公報
【特許文献3】特開2007−146175号公報
【特許文献4】特開2003−507569号公報
【特許文献5】特開2008−248110号公報
【特許文献6】特表平8−512334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、切削、研削加工等の加工油剤、設備、機械用潤滑油のミストを抑制するミスト抑制剤において、粘度が長期間にわたって維持され、過度の粘度上昇をきたすことなく、また金属イオンの共存によるトラブルのないミスト抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる課題を解決するため研究の結果、両性電解質が有用であり、中でも、親水性成分であるカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとを適当な比率で構成成分として含むポリマー、または両性電解質のモノマーを構成成分として含むポリマー、望ましくはさらなる構成成分として疎水性モノマーを含むポリマーがミスト抑制に有効であり、且つ添加による性能への影響が無いことを見出して本発明を完成した。
すなわち本発明は、
(1)カチオン性モノマーおよびアニオン性モノマーを構成成分として含むポリマー、または両性電解質のモノマーを構成成分として含むポリマーであって、そのカチオン性基:アニオン性基の数の比が70:30〜5:95であるポリマーを有効成分として含有することを特徴とするミスト抑制剤、
(2)前記ポリマーが、さらに疎水性モノマーを構成成分として含み、前記カチオン性モノマー、アニオン性モノマーおよび両性電解質のモノマーを合わせて親水性モノマーとするとき、構成する親水性モノマー:疎水性モノマーのモル比が100:0〜90:10、望ましくは99.9:0.01〜97:3であることを特徴とする、上記(1)に記載のミスト抑制剤、
(3)前記疎水性モノマーが、有機概念図における無機性/有機性値(I/O値)が0.08〜1.0で示される化合物であることを特徴とするミスト抑制剤、
(4)前記ポリマーの分子量が1,000〜5,000,000であることを特徴
とする上記(1)〜(3)に記載のミスト抑制剤
に係るものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のミスト抑制剤は、金属部材、脆性材の切削加工や研削加工又は塑性加工に於いて使用される加工油剤やギア油、チェーン油、作動油、削岩油等に使用される設備、機械用潤滑油に配合することにより、加工・潤滑性能を阻害することなく、簡便に使用時に発生するミストの発生を抑制することができる。特に、JIS分類に於ける水溶性切削油剤A1種(エマルジョン)、A2種(ソリューブル)、A3種(ソリューション)に好適に用いることができる。その結果、作業環境の改善、油剤使用量の削減が可能となり、または特殊な油剤の使用や、ミスト集塵機の設置の設備投資も必要ないので、生産コスト削減を図ることができる。
また、本発明のミスト抑制剤は、粘度が長期間にわたって維持されるため、初期粘度を過剰にする必要がなく、また金属イオンの共存によるスケールの発生や粘度減少によるミスト抑制効果の低下がないため、生産効率をさらに上げるものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ミスト抑制剤、及びそれを含有する、鉄鋼、合金鋼、アルミ等の金属部材、石英、シリコン、セラミックス、カーボン等の脆性材の切削、研削加工等の加工油剤、ポンプオイルや、コンプレッサーオイル、チェーンオイル等の設備、機械用潤滑油にかかるものである。
上記、加工油、潤滑油に於いてミスト発生量を抑制し、具体的には作業環境の改善、作業員の安全性の長期的な確保や使用量低減による生産コスト削減を実現するものである。
【0009】
本発明のミスト抑制剤の有効成分であるポリマーは、親水性モノマーを主な構成成分として含む両性電解質である。
具体的には、1分子中に2以上のカチオン性基と2以上のアニオン性基とを含む化合物であり、例えば、アミノ酸の重合物、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーの共重合物、ベタイン構造を有するモノマーの単独若しくは共重合物である。
以下、具体的に例示すると、ポリアミノ酸は、ポリグルタミン酸が挙げられる。
アニオン性モノマーとカチオン性モノマーの共重合物としては、アニオン性モノマーとして(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ターシャリーブチルアクリルアミドスルホン酸(メタ)アクリルアミドドデカン酸、ビニルスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、ビニルホスホン酸、モノ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、またはこれら各種有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩が挙げられ、カチオン性モノマーとして、1級アミンである(メタ)アクリルアミド、アリルアミンや、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル,N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアリルアミン、N,N−ジエチルアリルアミン、N−エチル,N−メチルアリルアミン、ビニルピリジン、2−メチル‐5−ビニルピリジンなどの第三級アミノ基を有するビニルモノマー又はそれらの塩酸、硫酸、酢酸等の塩類、または該第三級アミノ基含有ビニルモノマーとメチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリン等の第四級アンモニウム塩を含有するビニルモノマーが挙げられる。
ベタイン構造を有するモノマーしてはN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド酢酸ベタイン、N,N−ジメチルアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、アクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムp−トルエンスルホネート、アクリロイルアミノプロピルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムp−トルエンスルホネートが挙げられ、ベタイン構造を有する高分子量体としてカルボキシメチルキトサン、サクシニルキトサン等があげられる。
【0010】
本発明のミスト抑制剤の有効成分であるポリマーは、カチオン性基とアニオン性基とを 有する両性電解質であり、そのカチオン性基とアニオン性基のモル数の割合がカチオン性基:アニオン性基=70:30〜5:95であることが好ましく、カチオン性基:アニオン性基=50:50〜30:70の範囲であることがより好ましい。カチオン性基のモル数の割合が70以上では、エマルジョンタイプに対して油分の分離を招くことがある。一方、カチオン性基のモル数の割合が5未満では、満足なミスト抑制作用を得ることができない。具体的には、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドとアクリル酸のモル比が30:70〜50:50の共重合物等があげられる。
【0011】
本発明のミスト抑制剤の有効成分であるポリマーは、望ましくは構成モノマーとしてさらに疎水性モノマーを含む。
アニオン性モノマーとカチオン性モノマーだけからなるポリマーの場合、エマルジョンタイプの水溶性切削油剤に添加すると油分の分離が起こることがあるが、ポリマーの構成成分として疎水性モノマーを適度に含むことにより、それが防止される。特に金属イオンを含む水溶液においては油分の分離が起こりやすいため、疎水性モノマーを構成に含むことが有用である。
疎水性モノマーは水に不溶な重合性モノマーであり、例えば、ドデシルアクリルアミド、オクタデシルアクリルアミド、スチレン、p−Ter−ブトキシスチレン、m−Ter−ブトキシスチレン、p−(エトキシエトキシ)スチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,5ジメチルスチレン、2,4ジメチルスチレン、2,6−ジフルオロスチレン、4−ベンジドリルスチレン、4−ベンジロキシ−3−メトキシスチレン、2−トリフルオロメチルスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,6−クロロスチレン、4−(ジフェニルホスフィノ)スチレン、3−ニトロスチレン、2−ビニルナフタレン、9−ビニルアントラセン、4−ter−ブチルスチレン、エチルヘキシルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ter−ブチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、アリルベンジルエーテル、アリル2,4,6−トリブロモフェニルエーテルが挙げられる。
本発明で用いる疎水性モノマーは、有機概念図における無機性/有機性値(I/O値)が0.08〜1.0で示される化合物であることが望ましい。これより大きくなると、エマルジョン安定性が低下することがある。
【0012】
本発明のポリマーの構成成分であるカチオン性モノマー、アニオン性モノマーおよび両性電解質のモノマーを合わせて親水性モノマーとするとき、本発明のポリマーを構成する親水性モノマー:疎水性モノマーのモル比は100:0〜90:10であり、望ましくは99.9:0.01〜97:3である。
疎水性成分の割合が0.01未満の場合、エマルジョンタイプの水溶性切削油剤に使用すると、油分の分離を招くことがある。一方、疎水性成分の割合が10を超えると溶解性が悪くなり、満足なミスト抑制作用を得ることができない。
【0013】
本発明のミスト抑制剤を加工油または潤滑油に添加するとき、有効成分であるポリマーの、加工油または潤滑油に占める割合が、使用時において質量比で0.0001〜20%、好ましくは0.0005〜10%、さらに好ましくは0.001〜5%となるようにする。
0.0001%未満では十分な効果を発揮できず、20%を超えると他の添加剤との相溶性の悪化やエマルジョンの安定性阻害をきたし、コスト面でも望ましくない。
また、高分子両性電解質の、分子量は、1,000〜5,000,000であり、好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは50,000〜300,000である。
分子量1,000未満では十分な効果を発揮できず、5,000,000を超えると、他の添加剤との相溶性が悪化したり、エマルジョンの安定性阻害が生じたり、粘度が高くなり取扱いも困難となる。
【0014】
本発明のオイルミスト抑制剤は、親水性のカチオン性基並びにアニオン性基、疎水性モノマーを構成成分とするポリマーを含むものであり、必要に応じて各種油剤に使用されている慣用な添加剤、例えば、基油、合成油、金属防錆剤、油性剤、極圧剤、消泡剤、非鉄金属防食剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、界面活性剤を含むことができる。
特に、金属イオンが発生する金属部材の切削加工や研削又は塑性加工に於いて使用する場合は金属イオン封鎖剤と併用することが望ましい。
【0015】
基油としては、鉱油並びにポリオレフィン、ポリオールエステル、ポリエーテル等の合成油が挙げられる。
金属防錆剤、PH調整剤としては、有機酸とアルカリ成分が挙げられるが、有機酸として
[モノアルキルカルボン酸]
酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、カプリル酸、ウンデカン酸、ウンデシレン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノレイン酸、乳酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、ドデシルコハク酸、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸、ナフテン酸、安息香酸、パラターシャリーブチル安息香酸、フタル酸、サリチル酸
[ジカルボン酸]
リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の有機カルボン酸、及びリン酸、ホスホン酸、スルホン酸が挙げられる。
更に、リン酸塩、珪酸塩、重炭酸塩などの無機系防錆剤を併用しても良い。
中でも、炭素数6〜12のモノカルボン酸(ヘキサン酸、カプリル酸、デカン酸、ラウリン酸等)、ジカルボン酸(アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等)、あるいは安息香酸誘導体(tert−ブチル安息香酸、ヒドロキシ安息香酸等)、リン酸及びホスホン酸誘導体としては、エチレンジアミンテトラメチレンスルホン酸、ヒドロキシエタンジホスホン酸が好ましい。
【0016】
アルカリ成分として、アルカリ金属、アンモニア、アルカノールアミンが挙げられる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカノールアミンとしてはモノエタノールアミン、モノ(イソ)プロパノールアミン、モノブタノールアミン、ジエタノールアミン、ジ(イソ)プロパノールアミン、ジブタノールアミン、モノエタノールモノ(イソ)プロパノールアミン、モノエタノールモノブタノールアミン、モノ(イソ)プロパノールモノブタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
これら金属防錆剤は、良好な防錆性を得る為に有機酸とアルカリ成分の混合時にpHを8.0〜12.0に保つ必要がある。
【0017】
油性剤としては油脂類が挙げられ、炭素数8〜36の長鎖脂肪酸、例えばオクチル酸、ラウリル酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸及びこれらの脂肪酸と一価及び多価アルコールからなるエステル、例えば、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコールからなるエステル類、又はアルキルアミンからなるアミド、例えば、オクチルアミン、ラウリルアミン、パルミチルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミンからなるアミド類が挙げられる。
極圧剤としては、ジオクチルジチオリン酸亜鉛、ジラウリルジプロピオネート等が挙げられる。
【0018】
非鉄金属防食剤としては、メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−{N,N−ビス(2−エチルへキシル)アミノメチル}ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールが挙げられる。なお、非鉄金属防食剤は、1種類、あるいは2種以上を併用することもできる。
防腐剤としてはO−フェニルフェノール、ベンゾチアゾリン、トリアジン化合物等が挙げられる。
【0019】
金属イオン封鎖剤として、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸、(2−ヒドロキシエチルイミノ)二酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、3−カルボキシ−3−ホスホノヘキサン二酸、N,N,N’,N’−エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、メチレンホスクエン酸、グルコン酸、L−アスパラギン酸二酢酸、L−グルタミン酸二酢のアミン、アルカリ金属塩等が例示される。
界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、カルボン酸アルカノールアミドなどの非イオン炭化水素系界面活性剤等が挙げられる。
【0020】
本発明のミスト抑制剤は、各種油剤に直接添加してもよく、水で希釈して使用する水溶性加工油剤等には希釈後の加工液に対し添加することもできる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
<ポリマーAの合成>
1L容量のセパラブルフラスコにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(D
MP)114.7g、アクリル酸(AAc) 35.3g、水 850gを加え、48%水酸化ナトリウム水溶液にてpH7〜7.5に調整し、モノマー調製液を作成した。該モノマー調製液を、上部攪拌しながら、20〜25℃の温浴に浸け窒素ガスを1時間通気した。その後、30℃に昇温して、重合開始剤としてt−Butyl hydroperoxide 5%水溶液 7.63g、亜硫酸水素ナトリウム 5%水溶液 8.87gを投入した。その後、15分後に攪拌を停止し、12時間静置して、粘張なポリマーAの水溶液を得た。
ポリマーA(モル比、DMP:AAc=40:60)、分子量約160,000(GPC
測定)、を実施例1のオイルミスト抑制剤のサンプルとした。
【0023】
<ポリマーBの合成>
1L容量のセパラブルフラスコにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMP)
45g、アクリル酸(AAc) 63g、水 340g、メタノール 340gを加え、モノマー調製液を作成した。該モノマー調製液を、上部攪拌しながら、20〜25℃の温浴に浸け窒素ガスを1時間通気した。その後、重合開始剤としてVA−044 2.1gを投入した。その後、55℃で10時間加熱し、粘張なポリマーBの水溶液を得た。
上記ポリマー水溶液を50℃下で減圧乾燥後、粉砕処理を実施し白色粉末を得た。
ポリマーB(モル比、DMP:AAc=25:75)、分子量約150,000(GPC測定)、を実施例2のオイルミスト抑制剤のサンプルとした。
【0024】
<ポリマーCの合成>
1L容量のセパラブルフラスコにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
50.1g、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(AMPS) 99.9g、水
850gを加え、48%水酸化ナトリウム水溶液にてpH7〜7.5に調整し、モノマー
調製液を作成した。該モノマー調製液を、上部攪拌しながら、20〜25℃に温浴に浸け
窒素ガスを1時間通気した。その後、20℃に温調して、重合開始剤としてt−Buty
l hydroperoxide 5%水溶液 4.34g、亜硫酸水素ナトリウム 5
%水溶液 5.01gを投入した。その後、15分後に攪拌を停止し、12時間静置して
、粘張なポリマーCの水溶液を得た。
ポリマーC(モル比、DMP:AMPS=40:60)、分子量約220,000(GPC測定)、を実施例3のオイルミスト抑制剤のサンプルとした。
【0025】
<ポリマーDの合成>
1L容量のセパラブルフラスコにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド酢酸
ベタイン 150g、水 850gを加え、48%水酸化ナトリウムにてpH7〜7.5
に調整し、モノマー調製液を作成した。該モノマー調製液を、上部攪拌しながら、20〜
25℃の温浴に浸け窒素ガスを1時間通気した。その後、30℃に昇温して、重合開始剤
としてt−Butyl hydroperoxide 5%水溶液 3.72g、亜硫酸
水素ナトリウム 5%水溶液 4.30gを投入した。その後、15分後に攪拌を停止し
、12時間静置して、粘張なポリマーDの水溶液を得た。
ポリマーD、分子量約160,000(GPC測定)を実施例4のオイルミスト抑制剤の
サンプルとした。
【0026】
<ポリマーEの合成>
1L容量のセパラブルフラスコにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMP)
63g、アクリル酸(AAc) 44g、スチレン(St、I/O値=0.11)1.1g、水 340g、メタノール 340gを加え、モノマー調製液を作成した。該モノマー調製液を、上部攪拌しながら、20〜25℃の温浴に浸け窒素ガスを1時間通気した。その後、重合開始剤としてVA−044 3.8gを投入した。その後、55℃で10時間加熱し、粘張なポリマーEの水溶液を得た。
上記ポリマー水溶液を50℃下で減圧乾燥後、粉砕処理を実施し白色粉末を得た。
ポリマーE(モル比、DMP:AAc:St=40:60:1)、分子量約130,000(GPC測定)、を実施例5のオイルミスト抑制剤のサンプルとした。
【0027】
<ポリマーFの合成>
1L容量のセパラブルフラスコにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMP)
63g、アクリル酸(AAc) 44g、ドデシルメタクリルアミド(MAD、I/O値=0.63)2.4g、水 340g、メタノール 340gを加え、モノマー調製液を作成した。該モノマー調製液を、上部攪拌しながら、20〜25℃の温浴に浸け窒素ガスを1時間通気した。その後、重合開始剤としてVA−044 3.7gを投入した。その後、55℃で10時間加熱し、粘張なポリマーFの水溶液を得た。
上記ポリマー水溶液を50℃下で減圧乾燥後、粉砕処理を行って白色粉末を得た。
ポリマーF(モル比、DMP:AAc:MAD=40:60:1)、分子量約160,000(GPC測定)、を実施例6のオイルミスト抑制剤のサンプルとした。
【0028】
<ポリマーGの合成>
1L容量のセパラブルフラスコにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMP)
63g、アクリル酸(AAc) 44g、オクタドデシルメタクリルアミド(MAOD、I/O値=0.46)3.3g、水 210g、メタノール 470gを加え、モノマー調製液を作成した。該モノマー調製液を、上部攪拌しながら、20〜25℃の温浴に浸け窒素ガスを1時間通気した。その後、重合開始剤としてVA−044 3.4gを投入した。その後、55℃で10時間加熱し、粘張なポリマーGの水溶液を得た。
上記ポリマー水溶液を50℃下で減圧乾燥後、粉砕処理を行って白色粉末を得た。
ポリマーG(モル比、DMP:AAc:MAOD=40:60:1)、分子量約170,000(GPC測定)、を実施例7のオイルミスト抑制剤のサンプルとした。
【0029】
<ポリマーHの合成>
1L容量のセパラブルフラスコにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMP)
64g、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(AMPS) 44.3g、スチレン(St、I/O値=0.11)1.07g、水 340g、メタノール 340gを加え、モノマー調製液を作成した。該モノマー調製液を、上部攪拌しながら、20〜25℃の温浴に浸け窒素ガスを1時間通気した。その後、重合開始剤としてVA−044 1.8gを投入した。その後、55℃で10時間加熱し、粘張なポリマーHの水溶液を得た。
上記ポリマー水溶液を50℃下で減圧乾燥後、粉砕処理を行って白色粉末を得た。
ポリマーH(モル比、DMP:AMPS:St=40:60:1)、分子量約140,000(GPC測定)、を実施例8のオイルミスト抑制剤のサンプルとした。
【0030】
<ポリマーIの合成>
1L容量のセパラブルフラスコにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド酢酸ベタイン 120g、スチレン(St、I/O値=0.11) 0.5g、水 325g、メタノール 325gを加え、モノマー調製液を作成した。モノマー調製液を作成した。該モノマー調製液を、上部攪拌しながら、20〜25℃の温浴に浸け窒素ガスを1時間通気した。その後、重合開始剤としてVA−044 1.8gを投入した。その後、55℃で10時間加熱し、粘張なポリマーIの水溶液を得た。
上記ポリマー水溶液を50℃下で減圧乾燥後、粉砕処理を行って白色粉末を得た。
ポリマーI(モル比、DMPベタイン:St=100:1)、分子量約130,000(GPC測定)、を実施例9のオイルミスト抑制剤のサンプルとした。
【0031】
<ポリマーJの合成>
1L容量のセパラブルフラスコにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド 14
2.7g、アクリル酸(AAc) 7.3g、水 850gを加え、50%硫酸水溶液に
てpH7〜7.5に調整し、モノマー調製液を作成した。該モノマー調製液を、上部攪拌
しながら、20〜25℃に温浴に浸け窒素ガスを1時間通気した。その後、20℃に温調
して、重合開始剤としてt−Butyl hydroperoxide 5%水溶液 5
.50g、亜硫酸水素ナトリウム 5%水溶液 6.35gを投入した。その後、15分
後に攪拌を停止し、12時間静置して、粘張なポリマーJの水溶液を得た。
ポリマーJ(モル比、DMP:AAc=90:10)、分子量約110,000(GPC
測定)を比較例2のオイルミスト抑制剤のサンプルとした。
【0032】
<ポリマーKの合成>
1L容量のセパラブルフラスコにアクリル酸 150g、水 850gを加え、48%水
酸化ナトリウム水溶液にてpH7〜7.5に調整し、モノマー調製液を作成した。該モノ
マー調製液を、上部攪拌しながら、20〜25℃に温浴に浸け窒素ガスを1時間通気した
。その後、20℃に温調して、重合開始剤としてt−Butyl hydroperox
ide 5%水溶液 11.27g、亜硫酸水素ナトリウム 5%水溶液 13.01g
を投入した。その後、15分後に攪拌を停止し、12時間静置して、粘張なポリマーKの
水溶液を得た。
ポリマーK、分子量約220,000(GPC測定)を比較例3のオイルミスト抑制剤の
サンプルとした。
【0033】
<ポリマーLの合成>
1L容量のセパラブルフラスコにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMP)
94g、アクリル酸(AAc)14g、スチレン(St、I/O値=0.11)0.7g、水 340g、メタノール 340gを加え、モノマー調製液を作成した。該モノマー調製液を、上部攪拌しながら、20〜25℃の温浴に浸け窒素ガスを1時間通気した。その後、重合開始剤としてVA−044 3.7gを投入した。その後、55℃で10時間加熱し、粘張なポリマーLの水溶液を得た。
上記ポリマー水溶液を50℃下で減圧乾燥後、粉砕処理を行って白色粉末を得た。
ポリマーL(モル比、DMP:AAc:St=90:10:1)、分子量約160,000(GPC測定)、を比較例4オイルミスト抑制剤のサンプルとした。
【0034】
ポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬、重合度22,000〜70,000)を比較例5、単分子の両性電解質であるココアンホ酢酸「アンヒトール10YB」(花王)を比較例6のオイルミスト抑制剤のサンプルとした。
【0035】
<ミスト量の評価方法>
水溶性切削油剤「ユシローケンFGE234」(A1種)(ユシロ化学工業製)
30gに、上述したポリマーA〜L、ポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬、重合度22,000〜70,000)、単分子の両性電解質であるココアンホ酢酸「アンヒトール10YB」(花王)のうち1種を乾燥物重量にして0.12g、及び金属イオン封鎖剤としてエチレンジアミン四酢酸ナトリウムを各0.4gとなるように添加、混合したものをミスト量測定の試験液とした。
ミスト発生器(図1)を用い、試験室7m×5.5m×2.7m(t)、試験液の噴出量30g、噴出時間1時間、噴出圧力3kPa、発生器温度60℃にてミストを発生させた。噴出が終了した直後にミスト量評価器にてミストの浮遊量をダストトラックII(光散乱型粉塵計)にて測定した。結果を表1に示す。
【0036】
図1
【0037】
・ミスト量測定器
ダストトラックII MODEL8530(TSI社)
吸引速度 3L/min、測定時間1分、10μmインパクタ
【0038】
<エマルジョン安定性試験>
50mlガラス製サンプル瓶に「ユシローケンFGE234」(A1種)を5g、純水45gを混合した。その混合液に上述したポリマーA〜L、ポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬、重合度22,000〜70,000)、単分子の両性電解質であるココアンホ酢酸(アンヒトール10YB、花王)のうち1種を純分換算で0.02gとなるように混合したものを試験液とした。25℃にて2日間静置した後、不溶物、相分離、ゲル化及び濁りの発生を調査した。
・判定基準
○:変化無し、×:不溶物、相分離、ゲル化及び濁りが発生した
結果を表1に示す。
【0039】
<金属イオン安定性試験>
50mlガラス製サンプル瓶に、ポリマーA〜L、ポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬、重合度22,000〜70,000)、単分子の両性電解質であるココアンホ酢酸(アンヒトール10YB、花王)のうち1種を純分換算で 乾燥物重量にして0.1重量%、マグネシウム硬度1500ppmとなるように混合したものを試験液とした。27℃にて一週間静置した後に不溶物、相分離、ゲル化及び濁りの発生を調査した。
・判定基準
○:変化無し、×:不溶物が発生した
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1によれば、実施例1〜9のミスト抑制剤は、比較例2〜6に比べて高いミスト抑制効果を示し、エマルジョン安定性、金属イオン安定性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上述べてきた通り、本発明のオイルミスト抑制剤は、金属部材、脆性材の切削加工や研削加工又は塑性加工に於いて使用される金属加工油剤やギア油、チェーン油、作動油、削岩油等に使用される設備、機械用潤滑油に添加して用いることができ、使用時に発生する作業環境を悪化させるオイルミストの発生を抑制できる。