特許第6066705号(P6066705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066705
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】便器洗浄タンク
(51)【国際特許分類】
   E03D 1/012 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
   E03D1/012
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-270343(P2012-270343)
(22)【出願日】2012年12月11日
(65)【公開番号】特開2014-114636(P2014-114636A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】302045705
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福谷 孝二
(72)【発明者】
【氏名】大西 直和
(72)【発明者】
【氏名】樋口 健
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 佑司
(72)【発明者】
【氏名】渡 光次郎
【審査官】 油原 博
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭50−083149(JP,U)
【文献】 実開昭50−110539(JP,U)
【文献】 特開2009−007847(JP,A)
【文献】 特開2008−163604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00−7/00
E03D 11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部貯水空間と、
前記下部貯水空間から上方へ突出した形態の上部貯水空間と、
上端が前記上部貯水空間内で開口するオーバーフロー用排水路と、
上流端が前記下部貯水空間に連通し、下流端が前記オーバーフロー用排水路に臨む空気抜き流路とを備えていることを特徴とする便器洗浄タンク。
【請求項2】
便鉢部を有する便器本体に取り付けられる便器洗浄タンクであって、
下部貯水空間と、
前記下部貯水空間から上方へ突出した形態の上部貯水空間と、
上端が前記上部貯水空間内で開口し、下端が前記便鉢部に臨むオーバーフロー用排水路と、
前記下部貯水空間から前記便器本体に至る洗浄水の流路を構成する便器給水路と、
上流端が前記便器給水路に連通し、下流端が前記オーバーフロー用排水路に臨む水抜き流路と、
前記水抜き流路の途中に設けられた水抜きポンプとを備えていることを特徴とする便器洗浄タンク。
【請求項3】
前記空気抜き流路の一部が、前記上部貯水空間の満水時の設定貯水位よりも高い位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載の便器洗浄タンク。
【請求項4】
前記水抜き流路の一部が、前記上部貯水空間の満水時の設定貯水位よりも高い位置に配置されていることを特徴とする請求項2記載の便器洗浄タンク。
【請求項5】
前記オーバーフロー用排水路における前記空気抜き流路との連通位置が、前記上部貯水空間の満水時の設定貯水位よりも高い位置であることを特徴とする請求項3記載の便器洗浄タンク。
【請求項6】
前記オーバーフロー用排水路における前記水抜き流路との連通位置が、前記上部貯水空間の満水時の設定貯水位よりも高い位置であることを特徴とする請求項4記載の便器洗浄タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器洗浄タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水洗式大便器において、便鉢部に吐水される洗浄水を貯留するための便器洗浄タンクを収容する構造が開示されている。便器本体には、便鉢部より後方において上方へ開放された後部空間が形成され、便器洗浄タンクは、この後部空間内に落とし込むように収容されている。便器洗浄タンクは、便鉢部よりも後方の領域のみに配置されているので、貯水容量を大きくするためには、便器洗浄タンクを上方へ拡大するか、便器洗浄タンクの平面視形状を大きくする必要がある。
【0003】
しかし、前者の方法では、便鉢部の後方で、便器洗浄タンクが便鉢部から上方へ大きく突出した形態となり、便器洗浄タンクが嵩高になってしまう。また、後者の方法では、水洗式大便器の平面視形状が前後方向あるいは左右方向に大きくなってしまう。この対策としては、便器本体の内部空間のうち便鉢部の下方がデッドスペースとなっていることに着眼し、このデッドスペースを、後部空間と連通させることにより、便器洗浄タンクを収容するための収容空間の一部として有効利用することが考えられる。
【0004】
この場合、便器洗浄タンクの形態も変更を要する。具体的には、便器洗浄タンクを、デッドスペースと後部空間の下端側領域とに亘って収容される下部貯水空間と、下部貯水空間の後端部から上方へ立ち上がって後部空間の上端側領域に収容される上部貯水空間とで構成する。上部貯水空間には、洗浄水の給水管を接続するための給水口を設け、給水口から供給した洗浄水を上部貯水空間と下部貯水空間に貯留する。便器洗浄の際には、両貯水空間に貯留されている洗浄水を、洗浄ポンプで吸い上げて便鉢部に吐水する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−240402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明が解決しようとする第1の課題を説明する。上記形態の便器洗浄タンクは、上部貯水空間を便鉢部上端よりも上方まで立ち上げれば、上部貯水空間の貯水容量を増大させることができる。この場合、この上部貯水空間に連通するオーバーフロー用排水路を設ければ、このオーバーフロー用排水路を通してオーバーフロー水を便鉢部へ排出することができる。
【0007】
このように2つのタンクに高低差を設けた場合、給水口が設けられていない下部貯水空間には、給水口から洗浄水が供給される過程で空気を逃がすための空気抜き手段を設ける必要がある。空気抜き手段としては、下部貯水空間の上端に、空気抜き孔を開口させることが考えられる。しかし、この空気抜き孔の位置は、上部貯水空間の満水時の設定貯水位よりも低いため、給水口から洗浄水が給水される過程で、空気抜き孔から洗浄水が溢れ出てしまう。第1の発明は、高低差のある2つのタンクを設けた便器洗浄タンクにおいて、低い方の下部貯水空間の空気抜き対策を課題としている。
【0008】
次に、発明が解決しようとする第2の課題を説明する。上記形態の便器洗浄タンクでは、下部貯水空間から便器本体に至る便器給水路内を水抜きする場合、水抜き流路の上流端を便器給水路に連通させ、水抜きポンプで吸い上げた水を、洗浄時と同じく、便鉢部のリム通水路に排水することが望ましい。しかし、水抜き流路の下流端をリム通水路に臨ませようとすると、水抜き流路とリム通水路との接続部分にシール構造が必要となる。そのため、部品数が多くなったり、構造が複雑になったりする問題が生じる。第2の発明は、水抜き流路を便鉢部に臨ませることなく、便器給水路の水抜き経路を確保することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の便器洗浄タンクは、
下部貯水空間と、
上端が前記上部第1タンク内で開口するオーバーフロー用排水路と、
上流端が前記下部貯水空間に連通し、下流端が前記オーバーフロー用排水路に臨む空気抜き流路とを備えていることを特徴とする。
【0010】
第2の発明の便器洗浄タンクは、
便鉢部を有する便器本体に取り付けられる便器洗浄タンクであって、
下部貯水空間と、
前記下部貯水空間から上方へ突出した形態の上部貯水空間と、
上端が前記上部貯水空間内で開口し、下端が前記便鉢部に臨むオーバーフロー用排水路と、
前記下部貯水空間から前記便器本体に至る洗浄水の流路を構成する便器給水路と、
上流端が前記便器給水路に連通し、下流端が前記オーバーフロー用排水路に臨む水抜き流路と、
前記水抜き流路の途中に設けられた水抜きポンプとを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、洗浄水が上部貯水空間と下部貯水空間に供給される過程で、下部貯水空間内では、空気が空気抜き流路を通って排出されながら、洗浄水の水位が上昇する。下部貯水空間の空気抜き手段である空気抜き流路は、下流端をオーバーフロー用排水路に臨ませているので、下部貯水空間内の洗浄水が不正に溢れ出ることはない。
【0012】
第2の発明によれば、水抜き流路を、既存のオーバーフロー用排水路に連通させているので、水抜き流路を便鉢部に臨ませることなく、便器給水路の水抜き経路を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の便器洗浄タンクを斜め前方から視た斜視図
図2】便器洗浄タンクを斜め後方から視た斜視図
図3】便器洗浄タンクを組み付けた水洗式大便器の断面図
図4】便器洗浄タンクを組み付けた水洗式大便器の断面図
図5】便器洗浄タンクの部分拡大断面図
図6】洗浄用吐水路の分解斜視図
図7】実施例2の便器洗浄タンクの部分拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の発明の便器洗浄タンクは、
前記空気抜き流路の一部が、前記上部貯水空間の満水時の設定貯水位よりも高い位置に配置されていてもよい。
この構成によれば、洗浄水が上部貯水空間と下部貯水空間に供給される過程で、下部貯水空間内の洗浄水が、空気抜き流路内をオーバーフロー用排水路に向かって流動しても、その洗浄水は、上部貯水空間の満水時の設定貯水位と同じ高さに到達した時点で、それ以上の流動を停止する。したがって、下部貯水空間内の洗浄水がオーバーフロー用排水路へ排出されることはない。
【0015】
第1の発明の便器洗浄タンクは、
前記オーバーフロー用排水路における前記空気抜き流路との連通位置が、前記上部貯水空間の満水時の設定貯水位よりも高い位置であってもよい。
この構成によれば、洗浄水が上部貯水空間と下部貯水空間に供給される過程で、下部貯水空間内の洗浄水が、空気抜き流路内をオーバーフロー用排水路に向かって流動しても、その洗浄水は、オーバーフロー用排水路に到達する前に上部貯水空間の満水時の設定貯水位と同じ高さに到達し、その時点で、それ以上の流動を停止する。したがって、下部貯水空間内の洗浄水がオーバーフロー用排水路へ排出されることはない。
【0016】
第2の発明の便器洗浄タンクは、
前記水抜き流路の一部が、前記上部貯水空間の満水時の設定貯水位よりも高い位置に配置されていてもよい。
この構成によれば、水抜きポンプの内部が通水自由な状態になった場合に、洗浄水が上部貯水空間と下部貯水空間に供給される過程で、便器給水路内の水が、水抜き流路内をオーバーフロー用排水路に向かって流動することが懸念される。しかし、その水は、上部貯水空間の満水時の設定貯水位と同じ高さに到達した時点で、それ以上の流動を停止する。したがって、便器給水路内の洗浄水がオーバーフロー用排水路へ排出されることはない。
【0017】
第2の発明の便器洗浄タンクは、
前記オーバーフロー用排水路における前記水抜き流路との連通位置が、前記上部貯水空間の満水時の設定貯水位よりも高い位置であってもよい。
この構成によれば、洗浄水が上部貯水空間と下部貯水空間に供給される過程で、便器給水路内の洗浄水が、水抜き流路内をオーバーフロー用排水路に向かって流動しても、その洗浄水は、オーバーフロー用排水路に到達する前に上部貯水空間の満水時の設定貯水位と同じ高さに到達し、その時点で、それ以上の流動を停止する。したがって、便器給水路内の洗浄水がオーバーフロー用排水路へ排出されることはない。
【0018】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を図1図6を参照して説明する。本実施例1の便器洗浄タンクAは、便鉢部11を有する便器本体10に取り付けられて水洗式大便器を構成するものであり、便鉢部11に吐水する洗浄水Wを貯留する手段としての機能を有する。洗浄水Wとしては、水道水の他に、井戸水や中水が利用される。
【0019】
<便器本体10>
便器本体10は、陶器製であって、図3に示すように、便鉢部11と、便鉢部11の下流側に連通した便器排水管部12と、便鉢部11を全周に亘って包囲する周壁部13とを一体に形成したものである。便鉢部11は、その上端周縁に沿って形成したリム通水路14を有している。便器排水管部12は、周壁部13の内部に配置され、便鉢部11から斜め下後方に延びる第1下降流路15と、第1下降流路15から斜め上後方に延びる上昇流路16と、上昇流路16からほぼ垂直下向きに延びる第2下降流路17とを有する。第2下降流路17の下端には排水接続管18の上端が接続されている。
【0020】
排水接続管18の下端は、床面Fに引き出された排水管19に接続されている。便器排水管部12と排水接続管18と排水管19は、便鉢部11内の貯留水、便鉢部11に吐水された洗浄水W及び汚物を排出するための洗浄用排水路20を構成している。便鉢部11の封水面21よりも下方の部分と第1下降流路15と上昇流路16は、封水部22を構成している。
【0021】
便器本体10の周壁部13は、便器本体10の上面の外周縁より外側に広がらずに下方に延びており、周壁部13の下端は、その全周に亘って床面Fに接している。便器本体10の内部には、便鉢部11の下面における最下端よりも前方の領域と、周壁部13の左右両側面壁における前端側領域とを繋げた形態の補強壁部23が、一体に形成されている。便器本体10の内部には、第2下降流路17の外面と、周壁部13の内面とを繋ぐ形態の略水平な支持壁部24が、一体に形成されている。
【0022】
支持壁部24は、便鉢部11から片持ち状に突出した形態の第2下降流路17が、便器本体10の成形工程で自重により下方へ変形するのを防止するために形成したものである。支持壁部24には、第2下降流路17を挟むように配された左右一対の貫通孔(図示省略)が形成されている。右側の貫通孔には、洗浄ポンプ50の便器給水路51と空気抜き流路47と水抜き流路60が貫通される。左側の貫通孔には下部貯水空間30と上部貯水空間34を接続する連通路35が貫通される。
【0023】
便器本体10の内部空間のうち便鉢部11よりも後方の領域には、便器洗浄タンクAを収容するために設けた後部空間25が形成されている。後部空間25は、左右両側と後側が周壁部13で区画されているとともに、上方及び下方に開放された形態である。後部空間25内には、上記した支持壁部24と、洗浄用排水路20のうち第1下降流路15と上昇流路16の上流端側の部分を除いた部分が配置されている。
【0024】
便器本体10の内部空間のうち便鉢部11の下方であって補強壁部23よりも後方の領域は、下方に開放されたデッドスペース26となっている。便鉢部11の下方にデッドスペース26が存在するのは、便座(図示省略)の適正な高さと、便鉢部11内における適正な封水面21の高さと、封水部22に貯留される水量等を勘案して便鉢部11を設計したことによる。デッドスペース26内には、洗浄用排水路20のうち第1下降流路15と上昇流路16の上流端側の部分が収容されている。デッドスペース26は、その後端において後部空間25と連通しており、デッドスペース26と後部空間25は便器洗浄タンクAを収容するための収容空間として機能する。
【0025】
<便器洗浄タンクA>
便器洗浄タンクAは、図1,2に示すように、下部貯水空間30、上部貯水空間34、オーバーフロー用排水路40、空気抜き流路47、洗浄ポンプ50、便器給水路51、洗浄用吐水路54、水抜き流路60、及び水抜きポンプ62を備えて構成されている。下部貯水空間30と上部貯水空間34は、洗浄水Wを貯留するためのものであり、互いに連通して1つの貯水スペースを構成している。
【0026】
<下部貯水空間30>
図3に示すように、下部貯水空間30は、便器本体10の内部空間のうちデッドスペース26と後部空間25のうちの支持壁部24よりも下方の下端側領域内に収容される。下部貯水空間30の後端部は、二股状に分岐した左右一対の分岐部31L,31Rとなっている。左側の分岐部31Lには、上方へ盛り上がった形態の左貯水部32Lが形成され、右側の分岐部31Rには、上方へ盛り上がった形態の右貯水部32Rが形成されている。
【0027】
下部貯水空間30のうち分岐部31L,31R及び左右両貯水部32L,32Rよりも前方の部分は、デッドスペース26内に配置される。左右両分岐部31L,31Rと左右両貯水部32L,32Rは、後部空間25のうち支持壁部24よりも下方に配置される。下部貯水空間30の底面には、便器給水路51の上流端の吸水口52が臨んでいる。吸水口52には、下部貯水空間30から便器給水路51側への洗浄水Wの流出は許容するが、便器給水路51から下部貯水空間30側への洗浄水Wの逆流を阻止するための逆止弁53が設けられている。
【0028】
<上部貯水空間34>
図1,2に示すように、上部貯水空間34は、左貯水部32Lよりも上方に配置される。上部貯水空間34の下端と下部貯水空間30(左貯水部32L)の上端は、連通路35を介して連通している。上部貯水空間34の下端側部分は、後部空間25のうち支持壁部24よりも上方の領域に配置され、上部貯水空間34の上端側部分は、後部空間25(便鉢部11の上端)よりも上方に突出した形態で配置される。
【0029】
上部貯水空間34の上端面には、洗浄水を上部貯水空間34内に供給するための給水口36が設けられている。給水口36には、タンク給水路(図示省略)が接続される。また、上部貯水空間34の上端面には、フロートスイッチ37が取り付けられている。このフロートスイッチ37は、上部貯水空間34内が満水状態であるか否かを検知し、その検知信号に応じて、タンク給水路に設けた開閉弁(図示省略)が開閉する。これにより、便器洗浄タンクA内に所定量の洗浄水Wが貯水される。図5に示すように、便器洗浄タンクA内の洗浄水Wが満水状態になったときの設定貯水位Laは、上部貯水空間34の上端よりも少し低い位置に設定されている。
【0030】
上部貯水空間34の上端面には、吸排気部38が設けられている。吸排気部38は、上部貯水空間34内に洗浄水を供給する際に、便器洗浄タンクA内の空気を大気中に排出する。また、吸排気部38は、便器洗浄タンクA内の洗浄水Wが便鉢部11側へ排出される際に、大気中から空気を上部貯水空間34内に流入させる。したがって、この吸排気部38により、便器洗浄タンクAへの洗浄水Wの貯留動作が円滑に行われるとともに、便器洗浄タンクA内に貯留した洗浄水Wの便鉢部11側への吐水が円滑に行われる。
【0031】
<オーバーフロー用排水路40>
図5に示すように、オーバーフロー用排水路40は、オーバーフロー用流入室41とオーバーフロー管42とを備えて構成されている。オーバーフロー用流入室41は、上部貯水空間34の内部に形成されている。オーバーフロー用流入室41の上端面は、上部貯水空間34内で受入口43として上向きに開口している。受入口43は、水平方向において給水口36から外れた位置に配置(図示省略)されている。オーバーフロー用流入室41は、上部貯水空間34の外壁部の内面に連なる隔壁部44により、給水口36から流入する洗浄水Wの流下経路(図示省略)から区画されている。
【0032】
オーバーフロー用流入室41(オーバーフロー用排水路40)の上端の受入口43は、上部貯水空間34における満水時の設定貯水位Laよりも高く、且つ吸排気部38よりも低い高さに設定されている。オーバーフロー用流入室41の下端部には、上部貯水空間34の外壁部を貫通した形態の流出口45が形成されている。この流出口45には、上部貯水空間34の外部に配置したオーバーフロー管42の上流端が接続されている。上部貯水空間34内の水位が、満水時の設定貯水位Laを超え、更に受入口43を超えた高さまで上昇すると、上部貯水空間34内の洗浄水Wが受入口43からオーバーフロー用流入室41内に流入し、オーバーフロー管42を通って便鉢部11へ排出される。上記した下部貯水空間30の右貯水部32Rの上端の高さは、上部貯水空間34の上端、オーバーフロー用排水路40の上端の開口、及び便鉢部11の上端よりも低い位置に設定されている。
【0033】
<空気抜き流路47>
本実施例1では、下部貯水空間30のうち最も高い部分である右貯水部32Rと、上部貯水空間34との間に高低差を設けているため、低い方の右貯水部32Rには、給水口36から洗浄水Wが供給される過程で空気を逃がすための空気抜き手段を設ける必要がある。空気抜き手段としては、右貯水部32Rの上端に空気抜き孔(図示省略)を開口させることが考えられる。しかし、この場合、空気抜き孔の位置は上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも低いので、洗浄水Wの給水過程で空気抜き孔から洗浄水Wが溢れ出てしまう。
【0034】
そこで本実施例1では、右貯水部32R(下部貯水空間30)の上端をオーバーフロー用排水路40に連通させている。具体的には、図1に示すように、右貯水部32Rの上端面に、可撓性を有するホースからなる空気抜き流路47の上流端を接続している。そして、空気抜き流路47の下流端は、上部貯水空間34の外壁部を貫通し、空気抜き用流入口48としてオーバーフロー用流入室41内に直接臨むように接続している。この空気抜き用流入口48(オーバーフロー用流入室41(オーバーフロー用排水路40)における空気抜き流路47との連通位置)の高さは、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも高く、且つオーバーフロー用排水路40の上端の開口よりも低い位置に設定されている。
【0035】
便器洗浄タンクA内に洗浄水Wを貯水する過程では、右貯水部32R内の水位が上昇するのに伴い、右貯水部32R内の空気が、空気抜き流路47とオーバーフロー用流入室41を順に通り、吸排気部38から大気中(便器洗浄タンクAの外部)に逃がされる。したがって、右貯水部32R内には、上部に空気溜まりを生じさせることなく、満水状態で洗浄水Wが貯留される。
【0036】
<洗浄ポンプ50、便器給水路51>
図1,2に示すように、洗浄ポンプ50は、右貯水部32Rよりも上方に配置されている。洗浄ポンプ50の下面から延びた便器給水路51は、その下端部において屈曲し、下部貯水空間30の下面に沿って配索されている。この便器給水路51は、下部貯水空間30から便器本体10(便鉢部11)に至る洗浄水Wの流路(給水経路)を構成する。図3に示すように、便器給水路51の上流端は、上記した吸水口52と逆止弁53を介して下部貯水空間30内に連通可能となっている。便器洗浄タンクA(下部貯水空間30)内に貯留されている洗浄水Wは、洗浄ポンプ50により、給水口36から便器給水路51を通して吸い上げられ、後述する洗浄用吐水路54を通して便鉢部11へ吐水される。
【0037】
<洗浄用吐水路54>
洗浄用吐水路54は、上流端が洗浄ポンプ50の吐出口(図示省略)に接続された第1吐水管55と、第1吐水管55の下流端に接続された継手56と、継手56の二股に分岐した下流端に接続された左右一対の分岐管57L,57Rとから構成されている。分岐管57L,57Rの先端部(下流端部)には、夫々、吐水口が開口している。両吐水口は、便鉢部11の上端縁に沿って形成したリム通水路14に臨むように配置されている。図6に示すように、左右両分岐管57L,57Rのうち左側の分岐管57Lの途中には、その外周を包囲するとともにリム通水路14に開口する接続筒部58が形成されている。この接続筒部58には、上記したオーバーフロー管42の下流端部が連通状態で接続されている。これにより、オーバーフロー管42に流入した洗浄水Wは、接続筒部58を通ってリム通水路14に排出される。
【0038】
また、リム通水路14に臨む左右両分岐管57L,57Rの上流側は、洗浄ポンプ50に接続されているため、虫等の異物が分岐管57L,57Rに侵入しても、その異物が便器洗浄タンクA内に到達することはない。これに対し、分岐管57L,57Rと同じくリム通水路14に臨むオーバーフロー用排水路40は、その途中に、異物の侵入を遮る部位や部材が存在しない。そのため、接続筒部58から侵入した異物が、便器洗浄タンクA内に到達してしまうことが懸念される。そこで、本実施例1では、左側の分岐管57Lの外周に、フランジ状のフィルタ59を形成している。このフィルタ59は、網状に形成され、接続筒部58の開口を覆うように組み付けられる。このフィルタ59により、オーバーフロー用排水路40から洗浄水Wの流出は許容するが、固形状の異物がオーバーフロー用排水路40に浸入することは阻止される。
【0039】
<水抜き流路60、水抜きポンプ62>
本実施例1では、洗浄水Wを便鉢部11側へ吐水し終わった直後に、下部貯水空間30から洗浄ポンプ50に至る便器給水路51内の洗浄水Wを切らさないようにするための手段として、下部貯水空間30に臨む吸水口52に逆止弁53を設けている。そこで、便器給水路51内を水抜きするために、可撓性を有するホースからなる水抜き流路60と、専用の水抜きポンプ62を設けている。水抜き流路60の上流端は便器給水路51の下端部に連通されており、水抜きポンプ62で吸い上げた便器給水路51内の洗浄水Wは、洗浄時と同じく、便鉢部11のリム通水路14に排水させるようになっている。しかし、水抜き流路60の下流端をリム通水路14に臨ませようとすると、水抜き流路60とリム通水路14との接続部分にシール構造が必要となる。そのため、部品数が多くなったり、構造が複雑になったりする問題が生じる。
【0040】
そこで本実施例1では、水抜き流路60の下流端を、直接リム通水路14に臨ませるのではなく、リム通水路14に接続されている既存のオーバーフロー用排水路40に臨ませている。具体的には、図5に示すように、水抜き流路60の下流端は、上部貯水空間34の外壁部を貫通し、水抜き用流入口61としてオーバーフロー用流入室41内に直接臨むように接続している。水抜き用流入口61(オーバーフロー用流入室41(オーバーフロー用排水路40)における水抜き流路60との連通位置)の高さは、空気抜き用流入口48と同じく、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも高く、且つオーバーフロー用排水路40の上端の開口よりも低い位置に設定されている。
【0041】
水抜き流路60の途中には、水抜きポンプ62が設けられている。水抜きポンプ62は、支持壁部24よりも上方であって、洗浄ポンプ50に隣接するように配置されている。水抜きポンプ62を作動させると、便器給水路51内の洗浄水Wが、水抜き流路60内に吸い上げられ、オーバーフロー用流入室41に流入し、オーバーフロー管42を通ってリム通水路14内に排出される。
【0042】
<実施例1の作用、効果>
本実施例1の便器洗浄タンクAは、洗浄水Wが上部貯水空間34と下部貯水空間30に供給される過程で、供給された洗浄水Wの一部が下部貯水空間30を介して右貯水部32R内に流入するが、この間、右貯水部32R内では、空気が空気抜き流路47を通って排出されながら、洗浄水Wの水位が上昇する。右貯水部32Rの空気抜き手段である空気抜き流路47は、下流端をオーバーフロー用排水路40に臨ませているので、右貯水部32R内の洗浄水Wが不正に溢れ出ることはない。
【0043】
また、本実施例1の便器洗浄タンクAは、オーバーフロー用排水路40における空気抜き流路47との連通位置(つまり、空気抜き流路47の一部)である空気抜き用流入口48が、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも高い位置に配置されている。したがって、洗浄水Wが上部貯水空間34と下部貯水空間30に供給される過程で、右貯水部32R内の洗浄水Wが空気抜き流路47内をオーバーフロー用排水路40に向かって流動しても、その洗浄水Wは、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laと同じ高さに到達した時点で、それ以上の流動を停止する。したがって、右貯水部32R内の洗浄水Wがオーバーフロー用排水路40へ排出されることはない。
【0044】
また、本実施例1の便器洗浄タンクAは、水抜き流路60をオーバーフロー用排水路40に連通させることにより、便器給水路51内の洗浄水Wを、水抜きポンプ62により水抜き流路60とオーバーフロー用排水路40を順に通過させて便鉢部11に排出している。このように、便器給水路51から便鉢部11に至る水抜き経路として既存のオーバーフロー用排水路40を利用しているので、便器給水路51の水抜き経路を、洗浄用吐水路54と干渉することなく確保することが実現されている。
【0045】
また、本実施例1の便器洗浄タンクAの場合、水抜きポンプ62の内部が通水自由な状態になった場合に、洗浄水Wが右貯水部32Rと下部貯水空間30に供給される過程で、便器給水路51内の洗浄水Wが、水抜き流路60内をオーバーフロー用排水路40に向かって流動することが懸念される。しかし、本実施例1では、オーバーフロー用排水路40における水抜き流路60との連通位置(つまり、水抜き流路60の一部)である水抜き用流入口61を、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも高い位置に配置している。したがって、その洗浄水Wは、上部貯水空間の満水時の設定貯水位Laと同じ高さに到達した時点で、それ以上の流動を停止する。したがって、便器給水路51内の洗浄水Wがオーバーフロー用排水路40へ排出されることはない。
【0046】
<実施例2>
次に、本発明を具体化した実施例2を図7を参照して説明する。本実施例2の便器洗浄タンクBは、空気抜き流路70と水抜き流路72を上記実施例1とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施例1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0047】
本実施例2の便器洗浄タンクBは、実施例1の便器洗浄タンクAと同様、空気抜き流路70の下流端が、上部貯水空間34の外壁部を貫通し、空気抜き用流入口71としてオーバーフロー用流入室41内に直接臨むように接続されている。しかし、実施例1の便器洗浄タンクAでは、空気抜き用流入口48の高さを上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも高い位置に設定したのに対し、本実施例2の便器洗浄タンクBでは、空気抜き用流入口71を、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも低い位置に設定した。そして、空気抜き流路70のうち空気抜き用流入口71よりも上流側の経路の一部70Hを、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも高い位置に設定した。
【0048】
このように、空気抜き流路70の一部70Hを、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも高い位置に配置すれば、右貯水部32R内の洗浄水Wが、空気抜き流路70内をオーバーフロー用排水路40に向かって流動しても、その洗浄水Wは、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laと同じ高さに到達した時点で、それ以上の流動を停止する。したがって、本実施例2においても、右貯水部32R内の洗浄水Wがオーバーフロー用排水路40へ排出されることはない。
【0049】
また、本実施例2の便器洗浄タンクBは、実施例1の便器洗浄タンクAと同様、水抜き流路72の下流端が、上部貯水空間34の外壁部を貫通し、水抜き用流入口73としてオーバーフロー用流入室41内に直接臨むように接続されている。しかし、実施例1の便器洗浄タンクAでは、水抜き用流入口61の高さを上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも高い位置に設定したのに対し、本実施例2の便器洗浄タンクBでは、水抜き用流入口73を、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも低い位置に設定した。そして、水抜き流路72のうち水抜き用流入口73よりも上流側の経路の一部72Hを、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも高い位置に設定した。
【0050】
このように、水抜き流路72の一部72Hを、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laよりも高い位置に配置すれば、水抜きポンプ62の内部が通水自由な状態になった場合に、洗浄水Wが右貯水部32Rと下部貯水空間30に供給される過程で、便器給水路51内の洗浄水Wが、水抜き流路72内をオーバーフロー用排水路40に向かって流動しても、その洗浄水Wは、上部貯水空間34の満水時の設定貯水位Laと同じ高さに到達した時点で、それ以上の流動を停止する。したがって、便器給水路51内の洗浄水Wがオーバーフロー用排水路40へ排出されることはない。
【0051】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例1,2では、下部貯水空間の右貯水部の上端の位置を、便鉢部の上端よりも低い位置に設定したが、右貯水部の上端の位置は、便鉢部の上端と同じ高さでもよく、便鉢部の上端より高い位置に設定してもよい。
(2)上記実施例1,2では、オーバーフロー用排水路を上部貯水空間の外壁の内側に配置したが、オーバーフロー用排水路は、上部貯水空間の外壁よりも外側に配置してもよい。この場合、オーバーフロー用排水路の上端は、上部貯水空間の外壁を貫通する形態で開口させればよい。
(3)上記実施例1,2では、タンク給水路に接続される給水口を、上部貯水空間内に設けたが、給水口は、下部貯水空間に設けてもよい。
【符号の説明】
【0052】
A…便器洗浄タンク
La…満水時の設定貯水位
W…洗浄水
30…下部貯水空間
34…上部貯水空間
40…オーバーフロー用排水路
47…空気抜き流路
50…洗浄ポンプ
51…便器給水路
60…水抜き流路
62…水抜きポンプ
B…便器洗浄タンク
70…空気抜き流路
72…水抜き流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7