特許第6066757号(P6066757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066757
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】透水性基礎の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/08 20060101AFI20170116BHJP
   E02D 3/10 20060101ALI20170116BHJP
   E02D 5/34 20060101ALI20170116BHJP
   E02D 5/24 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   E02D3/08
   E02D3/10
   E02D5/34 Z
   E02D5/24
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-28379(P2013-28379)
(22)【出願日】2013年2月15日
(65)【公開番号】特開2014-156733(P2014-156733A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】597057254
【氏名又は名称】有限会社マグマ
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】赤木 寛一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 義正
(72)【発明者】
【氏名】上原 精治
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
(72)【発明者】
【氏名】請川 誠
【審査官】 西田 光宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−049840(JP,A)
【文献】 特開平05−017932(JP,A)
【文献】 特開平11−236557(JP,A)
【文献】 特開平05−132930(JP,A)
【文献】 特開平08−269938(JP,A)
【文献】 特開2002−363980(JP,A)
【文献】 特公昭46−008660(JP,B1)
【文献】 特開昭58−191811(JP,A)
【文献】 米国特許第03641775(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/08
E02D 3/10
E02D 5/24
E02D 5/34
C09K 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水性基礎の構築方法であって、少なくとも、水と、吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子を含む、ファンネル粘性(500ml/500ml)が19〜120秒の範囲の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液を用いて掘削して形成された遮水膜により、掘削孔の孔壁安定性を確保した後、掘削孔の内部に透水層を設けるために、透水材料と共に電解物質を充填して、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液と置換することにより、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液によって形成された遮水膜の遮水性を解消し、透水層を構築することを特徴とする透水性基礎の構築方法。
【請求項2】
吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子が、加圧により水を放出しない架橋構造の高吸水性ポリマー粒子であることを特徴とする請求項1に記載の透水性基礎の構築方法。
【請求項3】
地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液が、コンクリートや塩分等の電解物質や、酸性、アルカリ性物質が混入した際に、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液の性状及び品質の劣化の抑制や回復を可能とする安定剤を添加した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透水性基礎の構築方法。
【請求項4】
安定剤が、電解物質濃度を低下させる安定剤であることを特徴とする請求項に記載の透水性基礎の構築方法。
【請求項5】
安定剤が、PH(水素イオン指数濃度)を中性化させる中和剤であることを特徴とする請求項3又は4に記載の透水性基礎の構築方法。
【請求項6】
安定剤が、希硫酸、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、炭酸水素塩、炭酸塩から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の透水性基礎の構築方法。
【請求項7】
地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液の電気伝導率が10mS/cm以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の透水性基礎の構築方法。
【請求項8】
掘削孔の径より小径のさや管を入れ、さや管の中に現場打杭を構築し、掘削孔とさや管の間に透水層を設けることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の透水性基礎の構築方法。
【請求項9】
掘削孔の径より小径のコンクリート杭を建込み、掘削孔とコンクリート杭との間に透水層を設けることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の透水性基礎の構築方法。
【請求項10】
掘削孔の径より小径の鋼管杭を建込み、掘削孔と鋼管杭との間に透水層を設けることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の透水性基礎の構築方法。
【請求項11】
掘削孔の径より小径の集水ストレーナー管を建込み、掘削孔と集水ストレーナー管の間に透水層を設けてウェルとすることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の透水性基礎の構築方法。
【請求項12】
地上部に水平方向の排水層を設け、構築した透水層と接続し、その過剰間隙水を水平方向に排水することを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の透水性基礎の構築方法。
【請求項13】
電解物質が塩化カルシウム、クエン酸、水酸化ナトリウム及び塩化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の透水性基礎の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状化対策等のためにおこなう地盤改良工事や液状化地盤における杭工事において、透水性材料を地盤中に埋設する透水性基礎の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震により液状化の生じる可能性のある締りの悪い砂質地盤に対して、何らの対策も施さずに土地利用すると、地盤安定性の低下により甚大な被害が生じる場合がある。また杭基礎を構築した場合、地震力により液状化した地盤内の杭基礎の水平地盤反力が低下するために、既設構造物からの水平力の大部分を杭が負担することになり、杭に大きなモーメントが生じ杭基礎の破壊が生じる場合がある。
【0003】
このような問題に対して、液状化対策工事等のために行う地盤改良工事の代表的な工法として、砕石等の高い透水性を有する材料からなるドレーンを砂質地盤中に柱状又は壁状に打設し、地震時に発生する過剰間隙水圧の上昇を抑えるとともに、消散を早めて地盤の液状化を防止することを目的としたグラベルドレーン工法がある。
【0004】
このグラベルドレーン工法は、図5及び図6に示すような、施工機及び施工手順によるケーシングオーガー方式が一般的である。施工機は、アースオーガー92、スクリュー付きケーシングパイプ91、砕石投入用ホッパー93等で構成される三点式クローラー杭打ち機9が用いられ、大型重機による施工を前提としている。
【0005】
そのため、グラベルドレーン工法は狭隘な場所での施工が難しく、振動・騒音による周辺環境影響も大きくなるという問題に加え、大型重機の使用によりコストも割高となるという問題がある。
【0006】
また、杭基礎の破壊を防ぐために液状化を防止するための方法についてはこれまでに種々提案さている。
【0007】
具体的には、杭の周囲を砕石層で囲み、砕石層中に過剰間隙水圧を逃がす杭構造(以下、排水複合杭と称す)に関するものがあり、例えば、ケーシング管を圧入しながらその内部を掘削し、支持地盤まで到達したところでケーシング管の内部にそれより小径の鋼管杭を設置し、ケーシング管と鋼管杭の間を砕石で充填する工法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0008】
この工法ではケーシング管の挿入、抜き去りのコストが高く、掘削深さが深くなるほどさらにこれらのコストが急激に高くなるという問題がある。
【0009】
また他の工法として、既成杭の周面に、砂利等のドレーン材を充填した袋体をドレーン材とする工法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0010】
この提案によれば、この杭体を設置するためにアースオーガー等で削孔をし、そこに杭を挿入しているが、液状化を生じる緩い滞水した砂質地盤を、安定液を使用することなくアースオーガーで掘削した場合、孔壁の崩壊が生じるため実質的にこの工法では施工ができない。
【0011】
また、他の工法として、支持杭を埋設するために外周部にスクリューを備えたオーガーを地中に貫入させ、オーガーの中に杭を設置し、かつ杭とオーガーの中に砂礫層を形成する工法が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0012】
この工法によると、オーガーの径が大きくなるほどオーガーの押し込みに非常に大きなトルクが発生するため、施工機械が非常に大きくなるとともに施工径の限界がある。
【0013】
さらに、他の工法として、軟弱化地盤まで土砂を排出しながらケーシングを建込、その後にケーシングより小さい内径の杭基礎を建込み、ケーシングと杭基礎の間隙に砕石を充填させた後に、ケーシングを引き抜く工法が提案されている(例えば、特許文献4を参照)。
【0014】
この工法についても、前記の工法(特許文献1)と同様に、ケーシングの建込みのコストやケーシングの抜き去りのコストが高くなり、また、掘削深さが深くなるほど、これらのコストが高くなるといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平6-49840号公報
【特許文献2】特開平6-235215号公報
【特許文献3】特許第3576259号公報
【特許文献4】特開平10-25732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記のような背景から従来の問題点を解消し、液状化を生じやすい地盤においても液状化を生じさせないための透水性改善対策を含んだ杭基礎工事において、ケーシングを用いることなく、安価に施工が可能な透水性基礎の構築方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0018】
第1に、透水性基礎の構築方法であって、少なくとも、水と、吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子を含む、ファンネル粘性(500ml/500ml)が19〜120秒の範囲の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液を用いて掘削して形成された遮水膜により、掘削孔の孔壁安定性を確保した後、掘削孔の内部に透水層を設けるために、透水材料と共に電解物質を充填して、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液と置換することにより、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液によって形成された遮水膜の遮水性を解消し、透水層を構築することを特徴とする。
【0020】
に、上記第の発明の透水性基礎の構築方法において、吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子が、加圧により水を放出しない架橋構造の高吸水性ポリマー粒子であることが好ましい。
【0021】
に、上記第又は第の発明の透水性基礎の構築方法において、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液が、コンクリートや塩分等の電解物質や、酸性、アルカリ性物質が混入した際に、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液の性状及び品質の劣化の抑制や回復を可能とする安定剤を添加した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液であることが好ましい。
【0022】
に、上記第の発明の透水性基礎の構築方法において、安定剤が、電解物質濃度を低下させる安定剤であることが好ましい。
【0023】
に、上記第又は第の発明の透水性基礎の構築方法において、安定剤が、PH(水素イオン指数濃度)を中性化させる中和剤であることが好ましい。
【0024】
に、上記第から第の発明の透水性基礎の構築方法において、安定剤が、希硫酸、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、炭酸水素塩、炭酸塩から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0026】
に、上記第から第の発明の透水性基礎の構築方法において、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液の電気伝導率が10mS/cm以下であることが好ましい。
【0027】
に、上記第1から第の発明の透水性基礎の構築方法において、掘削孔の径より小径のさや管を入れ、さや管の中に現場打杭を構築し、掘削孔とさや管の間に透水層を設けることが好ましい。
【0028】
に、上記第1から第の発明の透水性基礎の構築方法において、掘削孔の径より小径のコンクリート杭を建込み、掘削孔とコンクリート杭との間に透水層を設けることが好ましい。
【0029】
10に、上記第1から第の発明の透水性基礎の構築方法において、掘削孔の径より小径の鋼管杭を建込み、掘削孔と鋼管杭との間に透水層を設けることが好ましい。
【0030】
11に、上記第1から第の発明の透水性基礎の構築方法において、掘削孔の径より小径の集水ストレーナー管を建込み、掘削孔と集水ストレーナー管の間に透水層を設けてウェルとすることが好ましい。
【0031】
12に、上記第1から第11の発明の透水性基礎の構築方法において、地上部に水平方向の排水層を設け、構築した透水層と接続し、その過剰間隙水を水平方向に排水することが好ましい。
【0033】
13に、上記第1から第12の発明の透水性基礎の構築方法において、電解物質が塩化カルシウム、クエン酸、水酸化ナトリウム及び塩化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明の基礎構築工法によれば、液状化を生じやすい地盤においても液状化を生じさせないための透水性改善対策を含んだ杭基礎工事において、ケーシングを用いることなく、安価に施工が可能な透水性基礎の構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の透水性基礎の構築方法の工程を示した概略図である。
図2】杭を構築する場合の透水性基礎の構築方法の工程を示した概略図である。
図3】拡底杭を構築する場合の透水性基礎の構築方法の工程を示した概略図である。
図4】電解物質濃度と吸水量の関係を示したグラフである。
図5】一般的なグラベルドレーンの施工機を示した概略図である。
図6】一般的なグラベルドレーンの施工工程を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、液状化を生じやすい地盤に対して行われる、グラベルドレーン工法等の液状化を生じさせないための排水層を持った基礎工事で用いられる透水性基礎の構築方法であって、水と、吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子を含む地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液(以下、単にポリマー安定液と略称する)によって形成された遮水膜により掘削孔の孔壁安定性を確保した後、透水層を設けるための透水材料の充填時に、前記遮水膜の遮水性を、電解物質を用いて解消して透水性を確保することを特徴とする透水性基礎の構築方法である。
【0037】
以下、本発明の透水性基礎の構築方法について図を用いて詳細に説明する。図1は、グラベルドレーン工法に本発明の透水性基礎の構築方法を適用した場合の一実施形態を示した概略図である。
【0038】
図1(1)では、まず、液状化の可能性のある砂地盤等に対して、アースドリル掘削機3により所定の深さまで掘削を行う。そして、所定の深さまで掘削が完了した段階で図1(2)に示すようにバケット4を引き上げる。
【0039】
本発明では、この掘削の際に少なくとも、水と、吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子を含むポリマー安定液1を用いて掘削を行う。
【0040】
掘削用の安定液としては、通常、ベントナイト系安定液や気泡安定液等が用いられるが、ベントナイト系安定液を用いた場合には、掘削孔の周辺に難透水膜が形成され、さらにベントナイト系安定液中に透水材料を投入するとベントナイト系安定液と透水材料が混ざり合い透水層として機能しない。そのため、透水性基礎の構築にベントナイト系安定液を使用することはできない。
【0041】
また、気泡安定液を使用した場合には、気泡安定液が掘削土と気泡と水の混合体であり、比重が1.3以上あるため、透水材料との置換が困難となる。そのため透水性基礎の構築に気泡安定液を使用することはできない。
【0042】
これに対して、水と、吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子を含むポリマー安定液1は、掘削時においては遮水膜を形成して掘削孔の孔壁安定性を確保する機能を有し、透水層の構築時においては電解物質との反応により高吸水性ポリマー粒子の体積を減少させるとともに、その粘性を減少させることで透水性を確保することができるため、透水性基礎の構築に対して好適に用いることができる。
【0043】
本発明で用いる高吸水性ポリマー粒子は、架橋構造を持つ親水性のポリマーであって、自重の10倍以上の吸水性を有し、圧力をかけても離水しにくいものであり、吸水量はJIS K 7223で定義づけられるものである。
【0044】
また、高吸水性ポリマー粒子の種類は、上記の条件を満足するものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、デンプン系、セルロース系、合成ポリマー系の高吸収性ポリマーを挙げることができる。これらの中でもポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子は性能とコストの両面で特に好適に用いることができる。
【0045】
ポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子は、アクリル酸ナトリウム(CH2=CH-COONa)に架橋剤を加えて軽度に架橋させた3次元網目構造を持ったアクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物のゲルである。架橋剤の種類は種々なものがある。
【0046】
このポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子は、水を吸収するとカルボキシル基がゲル中にナトリウムイオンを解離し、純水ならば自重の100〜1000倍にも達する膨潤度を生み出すことが知られている。
【0047】
また、ポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子の吸水量は、アクリル酸ナトリウムに対して架橋剤を多く配合するとゲルは硬くなり吸水量は少なくなる。また、架橋剤の配合を少なくするとゲルは柔らかくなり吸水量は多くなる。
【0048】
さらに、特殊なポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子として、架橋剤により重合させた高吸水性ポリマー粒子の表面をさらに架橋させた、シェルとコアの二重構造のポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子がある。
【0049】
この、シェルとコアの二重構造のポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子の場合には、シェルが厚いほど硬いゲルとなり吸水量は少なくなり、シェルを薄くすると柔らかいゲルとなり吸水量は多くなる。
【0050】
また、上記のシェルとコアは、通常、エステル結合により架橋したものであるが、コアの結合が耐アルカリ性、耐電解物質性に優れたエーテル結合であるポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子もあり、本発明においてはこのエーテル結合の方がより好ましい。
【0051】
上記の特性のほか、ポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子におけるナトリウムイオンの解離は、ゲルがおかれるPHや塩濃度等の条件にも依存するため、使用条件に応じてその他の高吸水性ポリマー粒子を適宜選択して併用することができる。
【0052】
通常、ポリマー安定液は大深度で使用することもあるので、加圧力に応じて水の保持力の低下が少なく変形しにくい架橋構造を持った高吸水性ポリマー粒子の選定が必要であり、かつ、液状化の生じる可能性のある締りの悪い砂質地盤等の粒子間の間隙を目詰するために、膨潤後の粒径は3mm以下で粒度分布が良いことが望ましい。
【0053】
本発明でポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子を用いる場合は、上記の条件を満足するものであれば特に制限なく用いることができるが、特にシェルとコアの二重構造のポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子を上記の条件に調整したものを好適に用いることができる。
【0054】
また、本発明で用いるポリマー安定液1には、加重材として無機材を添加することができる。
【0055】
本発明で用いられる加重材としての無機材としては、微砂、微粒な重晶石や陶磁器の破砕物を用いることができる。
【0056】
また、加重材の添加は、ポリマー安定液1に予め前記無機材を添加しておくほか、前記無機材と共に、又は前記無機材なしに、掘削時に砂質地盤等から混入した地盤の細粒分を加重材として用いることもできる。
【0057】
加重材の粒径としては、最大粒径2.0mm以下、好ましくは1.0mm以下のものを好適に用いることができる。
【0058】
この粒径範囲とすることにより、安定した遮水層を形成することができる。
【0059】
本発明で用いるポリマー安定液1は、上記の高吸水性ポリマー粒子に水と加重材を加えた状態で、比重を1.20以下、好ましくは0.95〜1.20の範囲に調整したものである。また、予め加重材としての無機材を添加せず、掘削時に砂質地盤等から混入した地盤の細粒分を加重材とする場合のポリマー安定液1においては、比重を1.00〜1.20の範囲に調整したものを用いることができる。この比重の調整は、下記式(1)により行うことができる。
【0060】
吸水前の高吸水性ポリマー粒子に水を加えて膨張させた高吸水性ポリマー粒子の質量をWP4、体積をVP4、比重をρP4とし、ポリマー安定液1の加重材の添加質量をW、体積をV、比重をρとすると、ポリマー安定液1の比重ρは下記式(1)の通りとなる。
【0061】
【数1】
【0062】
なお、加重材を加えない場合の比重調整に関しては、加重材の添加質量W、体積V、比重ρを0として算出すればよい。
【0063】
また、本発明で用いるポリマー安定液1の粘性は、高吸水性ポリマー粒子の添加量によりファンネル粘性(500ml/500ml)が19〜120秒、好ましくは22〜30秒の範囲内となるように調整したものである。ここで、ファンネル粘性とは、500mlの漏斗形の容器に入れた試料液が500ml吐出するに要した流出時間(秒)によって粘性を測定するマーシュファンネル粘度計を用いて測定された粘性である。
【0064】
また、本発明で用いるポリマー安定液1には、孔壁安定性の向上、また、前記ポリマー安定液1の粘性調整を目的として助剤を添加することができる。
【0065】
さらに、本発明で用いるポリマー安定液1には、コンクリートや塩分等の電解物質や、酸性、アルカリ性物質が混入した際に、ポリマー安定液1の性状及び品質の劣化の抑制や回復を可能とするための安定剤を添加することができる。
【0066】
安定剤としては、希硫酸、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、また、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩、また、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0067】
掘削工程において、コンクリートや塩分等の電解物質がポリマー安定液1に混入し、電解物質濃度が高くなると、ポリマー安定液1中の高吸水性ポリマー粒子の吸水倍率が低下し、吸水していた水分を放出することでポリマー安定液1のファンネル粘性やろ水量等の性状、品質が急激に劣化することになる。
【0068】
このような状況に対し、安定剤を予め添加しておくことで、電解物質濃度の上昇を抑制し、ポリマー安定液1の性状、品質の劣化を防止することができる。
【0069】
また、電解物質の混入により劣化したポリマー安定液1に安定剤を添加することにより、電解物質濃度を低下させ、放出していた水分を再吸収し、ポリマー安定液1の性状、品質を回復させることもできる。
【0070】
さらに、コンクリートが混入し、アルカリ性になると、ポリマー安定液1の性状、品質が劣化するため、安定剤を中和剤として添加して、PH(水素イオン指数濃度)を中性化させることで、性状、品質を回復させることができる。
【0071】
上記の本発明で用いるポリマー安定液1においては、その電気伝導率が10mS/cm以下とするのが望ましい。
【0072】
上記に示すような特性のポリマー安定液1を用いて掘削することにより、ケーシングを用いることなく掘削孔の孔壁安定性を確保することが可能となる。
【0073】
次に、図1(3)に示すように掘削孔内のポリマー安定液1に対して、トレミー管3を用いて透水材料2の充填を行う。透水材料2としては地震時に生じる液状化に伴う間隔水圧の上昇を抑える透水性を有する透水材料2であれば特に制限なく用いることができ、これらの透水材料2としては、砕石、砂等を挙げることができる。
【0074】
また、透水材料2の充填は、図1(1)、(2)の掘削工程で用いたポリマー安定液1を置換して行うが、充填後においては、掘削孔壁にポリマー安定液1による遮水膜が形成されている。
【0075】
そこで本発明では、透水材料2の充填後に遮水膜の遮水性を解消するために、透水材料2と共に電解物質を充填する。
【0076】
ポリマー安定液1に電解物質を加えると、図3のグラフに示すように、電解物質の種類及びそれぞれの電解物質の電解物質濃度に応じて、高吸収性ポリマー粒子は取り込んでいる水を放出して体積を減少させて透水材料2に隙間を形成させるとともに、高吸収性ポリマー粒子の粘性を減少させることができるため、遮水膜の遮水性を解消させることができる。
【0077】
本発明で用いられる電解物質としては、ポリマー安定液1に加えることにより水を放出させる電解物質であれば特に制限なく用いることができ、例えば、酸性物質として塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸等、塩基性物質として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等、塩類として塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等を挙げることができる。この中でも、水の放出後の環境の負荷や経済性の面を考慮して、塩化カルシウムを好適に用いることができる。
【0078】
電解物質の充填の具体例では、例えば、ポリマー安定液1の構成として、高吸水性ポリマー粒子0.2%、加重材4.8%、水95.0%の場合、塩化カルシウムを加えることにより、安定液は95%の塩化カルシウム水溶液と5%の加重材と高吸水性ポリマー粒子の固形物に分離することが確認されている。
【0079】
なお、上記のように透水材料2と電解物質を充填して、回収したポリマー安定液1は、固形物と液体に分離して廃棄することにより、廃棄が容易になるとともに、処理コストを非常に安価に抑えることができる。また、回収したポリマー安定液1から高吸収性ポリマー粒子を分離回収して、水を再吸収させることにより再生使用することもできる。
【0080】
このようにして、透水材料2の充填と共に遮水膜の遮水性が解消され、図1(4)に示すように透水材料2からなる透水層が形成され、本発明の透水性基礎を構築することができる。
【0081】
以上に詳述した本発明の工程によれば、ポリマー安定液1を使用したケーシングのないプレボーリング工法により掘削時の孔壁安定性を確保した後、透水材料2の充填時にはポリマー安定液1によって形成された遮水膜を電解物質により解消することで透水性を確保することができる。
【0082】
そして、液状化地盤の改良工事や液状化地盤における排水複合杭工事において、従来の施工方法の前提となっていたケーシングを不要とすることで、優れた施工性と、安価なコストを実現することができる。
【0083】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。
【0084】
例えば、図2に示すように、図2(1)、(2)の工程で、ポリマー安定液1を用いて掘削をした後、掘削孔の径より小径の杭6を打設した後(図2(3))、掘削孔と杭6の間に透水材料2と電解物質を充填し(図2(4))、杭6の周囲に透水材料2からなる透水層を構築させることもできる(図2(5))。
【0085】
また、図3に示すように、液状化の可能性のある砂地盤等よりも深い硬い地盤の支持層8に至るまで、拡底7となるようにポリマー安定液1を用いて掘削を行い(図3(1))、支持層8まで杭6を打設して(図3(2))、杭6の周囲に透水材料2からなる透水層を構築させることもできる(図3(3))。
【0086】
上記、図2及び図3に示す打設する杭6については、砂地盤等の特性や上部に建築する構造物等に応じて適宜設定することができ、例えば、さや管を入れてさや管の中に現場杭を構築させたり、コンクリート杭や鋼管杭を建込むことができる。
【0087】
また、図2における杭6を集水ストレーナー管に変更して構築し、集水ストレーナー管の周囲に透水材料2からなる透水層を設けたウェルを施工することもできる。
【0088】
さらに、本発明の透水性基礎の構築方法では、地上部に水平方向の排水層を設け、構築した透水層と接続し、その過剰間隙水を水平方向に排水することができる。
【0089】
これにより地震発生時に透水層を上昇した地下水は、面積の広い排水層でさらに分散され、形状化による被害を確実に防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0090】
1 地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液
2 透水材料
3 アースドリル掘削機
4 バケット
5 トレミー管
6 杭
7 拡底
8 支持層
9 三点式クローラー杭打ち機
91 ケーシングパイプ
92 アースオーガー
93 砕石投入用ホッパー
図4
図5
図6
図1
図2
図3