【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
本明細書において、透光性基板の主表面とは、透光性基板の表裏両面のうち、パターン形成用の薄膜や多層反射膜等が形成される側の面のことである。透光性基板の裏面とは、主表面とは反対側の面のことである。透光性基板の端面とは、主表面及び裏面に対して垂直な4つの側面のことである。端面は、主表面と側面との境界部に形成される面取り面を含むこともある。また、端面は、裏面と側面との境界部に形成される面取り面を含むこともある。
【0029】
以下、実施例1及び実施例2について説明する。実施例1では、本発明のマスクブランク用透光性基板について詳しく説明する。実施例2では、本発明のマスクブランク用透光性基板を用いてマスクブランクを製造した例について説明する。
【0030】
(実施例1)
図1は、マスクブランク用透光性基板100の裏面102を示している。
図1に示すように、透光性基板100の裏面102には、ノッチマーク10が2箇所に形成されている。ノッチマーク10は、略四角形の板状に形成された透光性基板100の4つの角部のうち、対角線上に位置する2つの角部に形成されている。本実施例の透光性基板100は、ノッチマーク10を視認することによって、その外観から水素分子濃度を識別することが可能となっている。
【0031】
以下、ノッチマーク10の例として、3つのパターン(パターン1、パターン2、及びパターン3)について説明する。
【0032】
<パターン1>
図2は、
図1に示す透光性基板100の円で囲んだ領域の拡大図であり、パターン1のノッチマーク10を示している。
図3は、
図2に示す透光性基板100のIII-III線断面図である。
図2、
図3に示すように、ノッチマーク10は、透光性基板100の裏面102の角部に形成されている。パターン1のノッチマーク10は、線12から外側に向けて下方に傾斜するように形成されている。このようなノッチマーク10は、例えば、透光性基板100の角部を切削あるいは研磨することによって形成することができる。線12を境として光の反射状態が変わるため、作業者が上方からノッチマーク10を見た場合、作業者はそれがパターン1のノッチマーク10であることを容易に認識することができる。
【0033】
<パターン2>
図4は、
図1に示す透光性基板100の円で囲んだ領域の拡大図であり、パターン2のノッチマーク10を示している。
図5は、
図4に示す透光性基板100のV-V線断面図である。
図4、
図5に示すように、ノッチマーク10は、透光性基板100の裏面102の角部に形成されている。パターン2のノッチマーク10は、境界線12から外側に向けて下方に傾斜した後、線14を境にさらに下方に傾斜するように形成されている。つまり、ノッチマーク10は、線14を境に傾斜角が変化するように形成されている。このようなノッチマーク10は、例えば、透光性基板100の角部を切削あるいは研磨することによって形成することができる。線12及び線14を境として光の反射状態が変わるため、作業者が上方からノッチマーク10を見た場合、作業者はそれがパターン2のノッチマーク10であることを容易に認識することができる。
【0034】
<パターン3>
図6は、
図1に示す透光性基板100の円で囲んだ領域の拡大図であり、パターン3のノッチマーク10を示している。
図7は、
図6に示す透光性基板100のVII-VII線断面図である。
図6、
図7に示すように、ノッチマーク10は、透光性基板100の裏面102の角部に形成されている。パターン3のノッチマーク10は、境界線12から外側に向けて下方に傾斜した後に、線14を境にさらに下方に傾斜し、線16を境にさらに下方に傾斜するように形成されている。つまり、ノッチマーク10は、線14及び線16を境に傾斜角が2回変化するように形成されている。このようなノッチマーク10は、例えば、透光性基板100の角部を切削あるいは研磨することによって形成することができる。線12、線14、及び線16を境として光の反射状態が変わるため、作業者が上方からノッチマーク10を見た場合、作業者はそれがパターン3のノッチマーク10であることを容易に認識することができる。
【0035】
透光性基板100の水素分子濃度が3.0×10
17分子数未満の場合、その透光性基板100の角部には、パターン1のノッチマーク10が形成される。
透光性基板100の水素分子濃度が3.0×10
17分子数以上3.0×10
18分子数未満の場合、その透光性基板100の角部には、パターン2のノッチマーク10が形成される。
透光性基板100の水素分子濃度が3.0×10
18分子数以上の場合、その透光性基板100の角部には、パターン3のノッチマーク10が形成される。
これらの対応関係をまとめると、以下の表1の通りとなる。
【0036】
【表1】
【0037】
透光性基板100に含まれる水素分子濃度は、例えばレーザーラマン分光光度法等の公知の方法によって測定することができる。
【0038】
本実施例の透光性基板100によれば、作業者等は、ノッチマーク10を視認するだけで透光性基板100に含まれる水素分子濃度を識別することができる。例えば、ノッチマーク10がパターン1である場合には、水素分子濃度が3.0×10
17分子数未満であることを容易に識別することができる。ノッチマーク10がパターン2である場合には、水素分子濃度が3.0×10
17分子数以上3.0×10
18分子数未満であることを容易に識別することができる。ノッチマーク10がパターン3である場合には、水素分子濃度が3.0×10
18分子数以上であることを容易に識別することができる。
【0039】
ノッチマーク10は、透光性基板100の裏面及び端面のうち少なくとも一方に形成されることが好ましい。透光性基板100の主表面にはパターン形成用の薄膜や多層反射膜等が形成されるため、裏面及び端面のうち少なくとも一方にノッチマーク10が形成されることによって、ノッチマーク10がパターン形成用の薄膜や多層反射膜等の光学特性に影響を及ぼすことを防止することができる。
【0040】
ノッチマーク10は、透光性基板100の4つの角部のうち、対角線上に位置する少なくとも2つの角部に形成されることが好ましい。対角線上に位置する少なくとも2つの角部にノッチマーク10が形成されることによって、透光性基板100をどのような向きで収納ケースに収納した場合であっても、作業者等はノッチマーク10を上方から容易に視認することが可能となる。
なお、ノッチマーク10は、透光性基板100の4つの角部のうち、1つの角部に形成されてもよいし、3つの角部に形成されてもよいし、4つの角部に形成されてもよい。また、ノッチマーク10は、透光性基板100の4つの角部のうち、隣り合う2つの角部に形成されてもよい。
【0041】
ノッチマーク10は、透光性基板100の角部以外の部位に形成されてもよい。例えば、ノッチマーク10は、透光性基板100の4つの辺のうち、少なくとも一つの辺の中央部付近に形成されてもよい。
【0042】
ノッチマーク10は、上記に例示したパターン1〜3以外の形態であってもよい。
例えば、ノッチマーク10は、断面略V字の溝部あるいはスリットの形態であってもよい。そして、溝部あるいはスリットの本数によって、透光性基板100に含まれる水素分子濃度をその外観から識別できるようにしてもよい。
【0043】
また、透光性基板100に含まれる水素分子濃度をその外観から識別できるようにするための手段は、ノッチマーク10以外であってもよい。例えば、透光性基板100の裏面あるいは端面に、バーコードやQRコード(登録商標)をレーザーで刻印することによって、透光性基板100に含まれる水素分子濃度をその外観から識別できるようにしてもよい。例えば、透光性基板100の裏面あるいは端面に、特開2010−8738号公報に開示されているような識別マーカをレーザーで刻印することによって、透光性基板100に含まれる水素分子濃度をその外観から識別できるようにしてもよい。
【0044】
バーコード、QRコード(登録商標)、あるいは、特開2010−8738号公報に開示されている識別マーカ(以下、これらをバーコード等と呼ぶ)は、多くの情報と関連付けることが可能である。したがって、バーコード等に、透光性基板100に含まれる水素分子濃度以外の情報を関連付けてもよい。
【0045】
(実施例2)
実施例2では、本発明の転写用マスク用の透光性基板を用いてマスクブランクを製造した。
本実施例では、合成石英ガラスからなる透光性基板の主表面に窒化モリブデンシリサイドからなる半透過膜を形成することによって、ハーフトーン型位相シフトマスクの製造に用いられるマスクブランクを製造した。
【0046】
まず、合成石英ガラスからなる透光性基板を複数枚準備した。複数枚の透光性基板は、水素分子濃度が異なる。透光性基板中の水素分子濃度をレーザーラマン分光光度法によって測定したところ、以下の通りであった。
透光性基板1 水素分子濃度:1.80×10
17分子数/cm
3
透光性基板2 水素分子濃度:2.18×10
18分子数/cm
3
透光性基板3 水素分子濃度:5.20×10
18分子数/cm
3
透光性基板4 水素分子濃度:9.70×10
18分子数/cm
3
【0047】
上記の表1に従い、透光性基板の角部にノッチマークを形成した。
透光性基板1の角部には、パターン1のノッチマークを形成した。
透光性基板2の角部には、パターン2のノッチマークを形成した。
透光性基板3の角部には、パターン3のノッチマークを形成した。
透光性基板4の角部には、パターン3のノッチマークを形成した。
【0048】
つぎに、透光性基板をDCマグネトロンスパッタ装置に導入した。スパッタ装置内にArとN
2とHeとの混合ガスを導入し(体積流量比=8:72:100)、スパッタリング法によって膜厚69nmの半透過膜の成膜を行った。スパッタリングターゲット中のシリコンとモリブデンの原子数の比率は、以下の表2〜表4の通りに設定した。
【0049】
半透過膜が成膜された透光性基板をヒータによって500℃で60分間加熱してアニール処理を行った。アニール処理後、露光光の波長193nmにおける半透過膜の透過率を測定したところ、以下の表2〜表4に示す結果が得られた。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
表2〜表4に示す結果より、透光性基板に含まれる水素分子濃度にばらつきがある場合であっても、ターゲットに含まれるシリコン:モリブデン比率を適切に設定することによって、アニール処理後の薄膜の透過率がほぼ一定となるように制御できることがわかった。
【0054】
本発明の透光性基板を用いれば、透光性基板に含まれる水素分子濃度を容易に識別できることから、それに合わせてターゲットに含まれる遷移金属の比率やスパッタリング条件等を設定することにより、アニール処理後の薄膜の透過率を一定となるように制御することができる。
【0055】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
上記実施例では、透光性基板に含まれる水素分子濃度に応じてターゲットのシリコン:モリブデン比率を選定し、アニール処理後の薄膜の透過率を制御する例を示したが、成膜工程における条件設定は、このターゲットの選定による方法に限定されない。他の例として、透光性基板の水素分子濃度に応じてスパッタリングガスの条件を設定する方法が挙げられる。上記実施例では、体積流量比がAr:N
2:He=8:72:100の混合ガスを使用したが、N
2ガス流量を基板の水素分子濃度に応じて増減することにより、アニール処理後の薄膜の透過率を調整することができる。
また、他の例として、透光性基板の水素分子濃度に応じてアニール処理工程における加熱時間、加熱温度などを調整することにより、アニール処理後の薄膜の透過率を調整することもできる。
さらに、上記実施例では、水素分子濃度が識別可能な2つノッチマークが裏面側で対角となる位置に形成された透光性基板を用いたが、これに限定されない。2つのノッチマークのうち1つのノッチマークを水素分子濃度が識別可能なマークとすることもできる。また、
図8に示すレーザー耐久性にすぐれる基板200の場合には、1つの角部にノッチマーク110が形成されるので、そのノッチマークを水素分子濃度が識別可能なマークとすることもできる。
【0056】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。