特許第6066802号(P6066802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6066802マスクブランクの製造方法及び転写用マスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066802
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】マスクブランクの製造方法及び転写用マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/50 20120101AFI20170116BHJP
   C03C 17/245 20060101ALI20170116BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20170116BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20170116BHJP
【FI】
   G03F1/50
   C03C17/245 A
   C23C14/06 E
   G03F1/54
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-73333(P2013-73333)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-197149(P2014-197149A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2016年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125106
【弁理士】
【氏名又は名称】石岡 隆
(72)【発明者】
【氏名】石原 重徳
(72)【発明者】
【氏名】小池 今朝広
(72)【発明者】
【氏名】菊地 寿治
【審査官】 今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−190044(JP,A)
【文献】 特開2006−78991(JP,A)
【文献】 特開2003−315980(JP,A)
【文献】 特開2009−105237(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0059236(US,A1)
【文献】 特開2006−210404(JP,A)
【文献】 特開2014−199435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00−1/86、7/20−7/24
9/00−9/02
C23C 14/00−14/58
C03C 15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写用マスク用の透光性基板の表面に薄膜を形成するマスクブランクの製造方法であり、
水素分子濃度がその外観から識別可能である透光性基板を用意する工程と、
スパッタリング法により前記薄膜を形成する工程と、
アニール処理工程が含まれており、
前記薄膜を形成する工程において、透光性基板から識別される水素分子濃度に応じてスパッタリング条件を設定すること、を特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項2】
転写用マスク用の透光性基板の表面に薄膜を形成するマスクブランクの製造方法であり、
水素分子濃度がその外観から識別可能である透光性基板を用意する工程と、
スパッタリング法により前記薄膜を形成する工程と、
アニール処理工程が含まれており、
透光性基板から識別される水素分子濃度に応じて前記アニール処理工程の加熱条件を設定することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項3】
前記透光性基板には、水素分子濃度を識別可能とするためのマークが施されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項4】
前記マークはノッチマークであることを特徴とする請求項3に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項5】
前記マークは、透光性基板の裏面及び端面のうち少なくとも一方に施されていることを特徴とする請求項3または4に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項6】
前記薄膜は遷移金属を含むことを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項7】
前記薄膜は、光半透過膜であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項8】
前記光半透過膜は、遷移金属およびシリコンを含有し、さらに酸素、窒素および炭素から選ばれる1以上の元素を含有することを特徴とする請求項7に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項9】
前記光半透過膜である薄膜を形成する工程は、スパッタリングターゲットに遷移金属とシリコンを含む材料が用いられ、前記透光性基板から識別される水素分子濃度に応じ、前記スパッタリングターゲットにおける前記遷移金属の比率を設定することにより、前記光半透過膜の透過率を制御することを特徴とする請求項8に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項10】
前記アニール処理工程では、前記透光性基板を200℃以上の温度で加熱することを特徴とする請求項1〜請求項のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの前記薄膜にパターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波長300nm以下のレーザーを光源とする露光装置に適用される転写用マスクの基板には、その波長域で高い透過率を有する透光性基板(例えば合成石英ガラス)が用いられる。透光性基板には、その波長域の透過率を継続して維持するとともに短波長の紫外線からのダメージを防ぐため、水素分子や水酸化物イオンがドープされることがある。例えば、特許文献1には、マスクブランク用の石英ガラス基板中の水素原子濃度を1.0×1018〜1019ppmで均一化することにより、耐光性を向上させる技術が開示されている。特許文献2には、石英ガラス基板中の水素濃度を1.0×1018分子/cmとすることにより、紫外線に対する透明度の確保と維持及び基板の損傷を抑制する技術が開示されている。特許文献3には、水酸基濃度100ppm以上、水素含有量5×1016分子/cm以上の石英ガラスを高出力レーザー光に用いた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−225249号公報
【特許文献2】特開2002−87833号公報
【特許文献3】特公平6−53593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マスクブランクを製造する場合、透光性基板の表面に遮光膜や半透過膜といったパターニング層を形成するためのスパッタ成膜が行われる。真空環境で行われるスパッタ成膜の場合、成膜された膜には内部応力が発生する。膜に大きな内部応力が発生した場合、エッチング等によって膜にパターンを形成したときに、実際に形成されたパターンの位置が、設計上のパターンの位置からずれてしまう場合がある(パターンの位置ずれ)。そこで、透光性基板上にスパッタリング法によって膜を形成した後、膜を加熱して膜の内部応力を軽減する処理(アニール処理)が行われる。
【0005】
しかし、アニール処理が行われると、透光性基板に含まれている水素分子が外部に放出され、この放出された水素分子が、薄膜を構成する物質に吸着ないし反応する場合がある。この場合、アニール処理の前後で薄膜の物性(たとえば、光学濃度、応力、エッチング特性)が変化してしまうため、薄膜の物性が一定のマスクブランクが得られないという問題がある。
【0006】
薄膜の物性が一定のマスクブランクを製造するためには、透光性基板に含まれる水素分子濃度が一定であることが望ましい。しかし、透光性基板自体は透明であり、その外観によって水素分子濃度を識別することは困難である。このため、従来のマスクブランク用透光性基板を用いた場合、透光性基板に含まれる水素分子濃度が一定であるかどうかを把握することは困難であり、薄膜の物性が一定のマスクブランクを得ることが困難であるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、透光性基板に含まれる水素分子濃度をより簡単に識別することのできる透光性基板を用いてマスクブランクを効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明は次の構成を有する。
(構成1)
本発明は、透光性基板の表面に薄膜を形成するマスクブランクの製造方法であり、水素分子濃度がその外観から識別可能である透光性基板を用意する工程と、スパッタリング法により前記薄膜を形成する工程と、アニール処理工程が含まれており、前記薄膜を形成する工程において、基板から識別される水素分子濃度に応じてスパッタリング条件を設定することを特徴とする。
転写用マスクの基板には、種々の目的で水素分子が含有されている。この水素分子は、成膜後のアニール処理時に基板から放出され、その膜に吸着または結合して膜の光学的性質を変化させる恐れがある。
本発明によれば、透光性基板に含まれる水素分子濃度がその外観から識別可能であることにより、転写用マスク用の透光性基板に含まれる水素分子濃度を簡単に識別することが可能となる。アニール前後の膜の光学的性質の変化を予測し、その予測に基づいてスパッタリング条件を設定することにより、所望の光学特性を有する薄膜を成膜することができる。また、水素分子濃度の識別能力をあらかじめ基板自身に持たせることにより、成膜時の条件設定の煩雑化を防止することができる。
【0009】
ここでいう「スパッタリング条件」とは、たとえば、スパッタリングターゲットの組成や組成比、スパッタリングガスを構成する成分の組成比やガス流量、チャンバー内圧力及びチャンバー内温度が挙げられる。
ターゲット材料選択を前記条件とすると、透光性基板の水素分子濃度が高いと透過率が上昇するならば、水素分子濃度が高い基板に成膜するときには、ターゲットを構成する材料のうち透過率を下げる要因となり得る成分の割合を高くするとよい。また、透過率を下げる成分を添加し、その添加量を調整することで基板から放出される水素分子の影響を相殺することもできる。
スパッタリングガスを前記条件とすると、水素分子濃度に応じて反応性ガスの流量を増減させることなどが挙げられる。
【0010】
本構成において、「スパッタリング」方法には、DCスパッタリング、RFスパッタリング及びイオンビームスパッタリングのいずれの方法も適用可能である。例えば、遷移金属とシリコンからなるターゲットを用いてスパッタリングを行う場合、ターゲット材料が導電性を有しているので、スパッタリングの方法は問わない。ターゲット材料の導電性が乏しい場合や、反応性スパッタリングによりターゲット表面の導電性が著しく低下する恐れがある場合は、RFスパッタリング法を採用するとよい。
また、本構成において、スパッタリングは、窒素を含む反応ガスと不活性ガスをスパッタリングガスとした反応性スパッタリングを行うことが好ましい。
【0011】
また、本構成において、「薄膜」とは、半導体製造用の転写用マスクに適用される光学的性質を有する無機成分からなる層であれば特に限定されない。例えば、遮光膜やハードマスク等に用いられるクロム系の層、遮光膜や光半透過膜に用いられる金属シリサイド系の層、このほか各種膜にもちいられるケイ素化合物の層などが挙げられる。遮光膜の場合は、本方法を採用することで適正な光学濃度の薄膜を形成することができ、光半透過膜の場合は、本方法を採用することで適正な透過率の薄膜を形成することができる。
【0012】
(構成2)
本発明は、透光性基板の表面に薄膜を形成するマスクブランクの製造方法であり、
水素分子濃度がその外観から識別可能である透光性基板を用意する工程と、
スパッタリング法により前記薄膜を形成する工程と、アニール処理工程が含まれており、前記アニール処理工程の条件を基板から識別される水素分子濃度に応じて設定することを特徴とする。
前述したように、アニール処理を行うと、基板に含まれる水素分子が徐々に放出される。異なる水素分子濃度の基板を温度、時間ともに同じ条件で加熱した場合には、水素分子濃度の高い基板の方が、水素放出量が多くなり、薄膜の光学的性質の変化の割合も大きくなる。水素分子濃度の高い基板の場合にはアニール温度を低めにし、水素分子濃度の低い基板の場合にはアニール温度を高く設定することで、基板から放出される水素分子量を調整することにより、アニール後の薄膜の光学的性質を均一にすることができる。
また、水素分子濃度が低い基板の場合にはアニール時間を長くし、水素分子濃度が高い基板の場合にはアニール時間を短くすることによっても、水素分子の放出量を調整することができるので、アニール後の薄膜の光学的性質を均一にすることができる。
【0013】
(構成3)
本発明において、基板は、水素分子濃度を識別可能とするためのマークが施されていることが好ましい。
本発明によれば、マークを視認するだけで基板に含まれる水素分子濃度を識別することが可能となる。
なお、ここでいうマークは、薄膜を形成しない領域でかつ転写用マスクになった場合の転写特性に影響を与えない領域に形成されていればよく、マークの形状は特に限定されない。例えば、基板の端面または裏面側に識別番号として刻印されていてもよく、二次元バーコードのような形式であってもよい。
【0014】
(構成4)
本発明の転写用マスク用の透光性基板は、裏面及び端面のうち少なくとも一方に前記マークが施されていることが好ましい。
本発明によれば、透光性基板の薄膜が形成される部位以外の部位にマークが施される。このため、透光性基板の主表面に形成される薄膜の性能に影響を及ぼすことなく、透光性基板にマークを施すことが可能となる。
【0015】
(構成5)
前記マークはノッチマークであると好ましい。
ここでいう「ノッチマーク」とは、半導体国際規格(SEMI規格)で規定された形状のマークであり、基板裏面側の角部に形成されるものを指す。
具体的には、基板裏面の主表面から角部に向けて傾斜面を形成するような形状でSEMI規格に定められた範囲の形状のマークであり、本発明におけるノッチマークの例としては、前記傾斜面が傾斜度の異なるいくつかの面の組み合わせによって基板の水素分子濃度を識別できるマークや、水素分子濃度を識別するために前記傾斜面の一部に刻印が施されたマークなどが挙げられる。
なお、ノッチマークは、矩形型基板の4つの角部のうち対角線上に位置する2つの角部に施されるものや、1つの角部に施されるものが挙げられるが、これらのノッチマークの形成位置や個数は、基板のスペックに応じてSEMI規格で定められているものである。
また、転写用マスクに用いられる透光性基板は、上部の蓋を開放することのできる収納ケースの内部に縦置きにされた状態で収納されるのが一般的である(例えば特開2010−79109号公報)。水素分子濃度を識別できるノッチマークを上にして透光性基板を収納ケースに収納することで、収納ケースの上方からその基板の水素分子濃度を容易に識別することが可能となる。
【0016】
(構成6)
本発明のマスクブランクの製造方法において、前記薄膜は遷移金属を含むことが好ましい。
ここでいう遷移金属には、例えば、W、Mo、Ti、Ta、Zr、Hf、Nb、V、Co、Cr、Ni、Fe等を例として挙げることができる。
アニール処理によって透光性基板中から放出された水素分子は、薄膜を構成する材料中の遷移金属に吸着ないし反応して薄膜の物性を変化させる傾向が高い。したがって、本発明のマスクブランクの製造方法は、薄膜に遷移金属が含まれる場合に特に好ましく適用することができる。
【0017】
(構成7)
本発明のマスクブランクの製造方法において、前記薄膜は光半透過膜であることが好ましい。
ハーフトーン型位相シフトマスクには、露光波長に対して特定の透過率を有する光半透過膜が形成される。基板の水素分子濃度に起因する光学特性の変化は、光半透過膜の場合は透過率変化として顕著に生じやすい。したがって、本発明は、光半透過膜を有するハーフトーン型位相シフトマスクのマスクブランクの製造方法に特に好ましく適用することができる。
なお、ここでいう「光半透過膜」の構成材料としては、例えば、遷移金属およびシリコンが含まれる金属シリサイドからなる薄膜や、ケイ素及びケイ素化合物からなる薄膜が挙げられる。
金属シリサイドからなる薄膜の場合、「遷移金属」としては、前述した金属と同様の、W、Mo、Ti、Ta、Zr、Hf、Nb、V、Co、Cr、Ni、Fe等を例として挙げることができる。
金属シリサイドの場合、さらに、酸素、窒素、炭素から選択される1以上の元素を含んでいてもよい。
【0018】
(構成8)
本発明のマスクブランクの製造方法は、透光性基板の表面に薄膜を形成した後、透光性基板を200℃以上の温度で加熱するアニール処理工程を含むことが好ましい。
アニール処理を実施することによって、薄膜の内部応力が低減される。これにより、薄膜にパターンを形成して転写用マスクを製造した際に、パターンの位置ずれが発生することを防止することができる。
また、アニール処理を実施することによって、透光性基板中の水素分子の活性が上昇するため、アニール処理後の薄膜の物性の変化も大きくなる。したがって、本発明のマスクブランクの製造方法は、透光性基板の表面に薄膜を形成した後、アニール処理を実施する場合に、特に好ましく適用することができる。
アニール処理では、薄膜を400℃以上の温度で加熱することがより好ましい。500℃以上に加熱すると、内部応力をより効果的に軽減できるため特に好ましい。
なお、アニール処理で使用する加熱手段としては、例えば、電気加熱炉、ヒータ、ハロゲンランプ、赤外線ランプ等を用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のマスクブランクの製造方法によれば、透光性基板に含まれる水素分子濃度をより簡単に識別することのできる基板を用いることにより、アニール処理における薄膜の光学的性質の変化の割合を予測し、その予測に基づいたスパッタリング条件やアニール処理条件を設定することができる。これにより、基板の水素分子濃度に起因する薄膜の光学的性質のバラつきを効果的に抑制することができる。
また、水素分子濃度の識別能力を基板自身に付与することにより、成膜前に複雑な分析を要さずに薄膜を形成することができるので、生産性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】マスクブランク用透光性基板の裏面を示している平面図である。
図2図1に示す透光性基板の円で囲んだ領域の拡大図であり、パターン1のノッチマークを示している。
図3図2に示す透光性基板のIII-III線断面図である。
図4図1に示す透光性基板の円で囲んだ領域の拡大図であり、パターン2のノッチマークを示している。
図5図4に示す透光性基板のV-V線断面図である。
図6図1に示す透光性基板の円で囲んだ領域の拡大図であり、パターン3のノッチマークを示している。
図7図6に示す透光性基板のVII-VII線断面図である。
図8】他のマスクブランク用透光性基板の裏面を示している平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の形態について説明する。
【0022】
(形態1)
波長が200nm以下の露光波長に用いるマスクブランクの製造方法である。
波長200nm以下の露光波長に用いるマスクブランクの場合、薄膜の膜厚が小さいため、その分、水素の吸着または反応による物性の変化が生じやすい。したがって、本発明は、波長が200nm以下の露光光(たとえばArFエキシマレーザー)を使用するマスクブランクの製造方法に好ましく適用できる。
【0023】
(形態2)
透光性基板は合成石英ガラスである。
合成石英ガラスは、紫外線の広い波長範囲で高い透過率を有することから、たとえば波長が193nmのArFエキシマレーザーを露光光として使用する転写用マスクの透光性基板の材料に適している。
なお、マスクブランクの製造に用いるものであり、水素が放出される可能性を有する透光性基板(水素分子を含有する透光性基板)であれば、本発明を適用することができる。透光性基板の材料としては、合成石英ガラス以外にも、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、低熱膨張ガラス(例えばSiO−TiO系ガラス)、β石英固溶体を析出させた結晶化ガラス等のガラス材料を用いることが可能である。
【0024】
(形態3)
透光性基板の水素分子濃度は、1.0×1017分子数/cm〜9.0×1019分子数/cmの範囲である。
透光性基板に含まれる水素分子の濃度が上記範囲内の基板は、200nm以下のレーザー光に対して耐性を有しているため、マスクブランクの基板に好ましく適用することができる。
【0025】
(形態4)
透光性基板上に形成する薄膜は、反応性スパッタリングで形成している。
反応性スパッタリングは、スパッタリングガスに含まれるガス(主には不活性ガス)のプラズマをスパッタリングターゲットに衝突させてターゲット材料の粒子を飛翔させるとともに、反応性ガスを飛翔させた粒子に反応させた生成物を基板表面に堆積させる手法である。反応ガスの種類や反応ガスの流量などにより、形成される薄膜の組成比は変動する。薄膜の組成比により、薄膜の例えば消衰係数(k)や屈折率(n)といった光学的性質が異なる。
反応性スパッタリングで薄膜を形成することで、基板の水素分子濃度に応じたスパッタリングガスの条件を設定することができる。
なお、スパッタリングガスに用いられる不活性ガスとしては、ヘリウム、アルゴン、クリプトン及びキセノンが挙げられる。
また、反応ガスとしては、たとえば、窒素、酸素、窒素酸化物、及び、メタンなどが挙げられる。
【0026】
(形態5)
スパッタリングターゲットの材料は、シリコンと金属を含む材料で構成されており、マークから識別される水素分子濃度が高濃度の基板に成膜する時はターゲット材に含まれる金属の割合が高いターゲットを選択し、マークから識別される水素分子濃度が低濃度の基板に成膜する場合にはターゲット材に含まれるシリコンの割合が高いターゲットを選択する。
前述したように、透光性基板に含まれる水素分子は、アニール処理により基板外に放出され、放出された水素分子の一部は基板上に形成された薄膜に吸着または結合する。これら水素分子により、薄膜の消衰係数kが低くなり透過率が上昇する。透光性基板に含まれる水素分子濃度が高いほど、透過率の上昇幅は大きくなる。
一方、シリコン及び金属を含むターゲットを用い、反応性スパッタリングで薄膜を形成する場合、ターゲットに含まれる金属成分が多いほど、薄膜の消衰係数kは高くなり、透過率が低くなる。
本構成によれば、透光性基板の水素分子の濃度に応じてターゲット材の組成比を調整することにより、透過率変化(消衰係数kの変化)を相殺することができるので、透過率が所望値である薄膜を有するマスクブランクを得ることができる。
【0027】
(形態6)
スパッタリングによって成膜される膜は、モリブデンシリサイド膜である。
モリブデンシリサイドを含む膜は、ハーフトーン型位相シフトマスクの光半透過膜として優れた特性を有しているためである。また、モリブデンシリサイドを含む膜は、透光性基板中の水素分子濃度により透過率に変化が生じやすいため、本発明を特に好ましく適用できる。光半透過膜に含まれる遷移金属、及びシリコン(Si)を含む材料としては、モリブデンシリサイド窒化物(MoSiN)、モリブデンシリサイド酸化窒化物(MoSiON)、モリブデンシリサイド酸化窒化炭化物(MoSiONC)等を挙げることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
本明細書において、透光性基板の主表面とは、透光性基板の表裏両面のうち、パターン形成用の薄膜や多層反射膜等が形成される側の面のことである。透光性基板の裏面とは、主表面とは反対側の面のことである。透光性基板の端面とは、主表面及び裏面に対して垂直な4つの側面のことである。端面は、主表面と側面との境界部に形成される面取り面を含むこともある。また、端面は、裏面と側面との境界部に形成される面取り面を含むこともある。
【0029】
以下、実施例1及び実施例2について説明する。実施例1では、本発明のマスクブランク用透光性基板について詳しく説明する。実施例2では、本発明のマスクブランク用透光性基板を用いてマスクブランクを製造した例について説明する。
【0030】
(実施例1)
図1は、マスクブランク用透光性基板100の裏面102を示している。
図1に示すように、透光性基板100の裏面102には、ノッチマーク10が2箇所に形成されている。ノッチマーク10は、略四角形の板状に形成された透光性基板100の4つの角部のうち、対角線上に位置する2つの角部に形成されている。本実施例の透光性基板100は、ノッチマーク10を視認することによって、その外観から水素分子濃度を識別することが可能となっている。
【0031】
以下、ノッチマーク10の例として、3つのパターン(パターン1、パターン2、及びパターン3)について説明する。
【0032】
<パターン1>
図2は、図1に示す透光性基板100の円で囲んだ領域の拡大図であり、パターン1のノッチマーク10を示している。図3は、図2に示す透光性基板100のIII-III線断面図である。
図2図3に示すように、ノッチマーク10は、透光性基板100の裏面102の角部に形成されている。パターン1のノッチマーク10は、線12から外側に向けて下方に傾斜するように形成されている。このようなノッチマーク10は、例えば、透光性基板100の角部を切削あるいは研磨することによって形成することができる。線12を境として光の反射状態が変わるため、作業者が上方からノッチマーク10を見た場合、作業者はそれがパターン1のノッチマーク10であることを容易に認識することができる。
【0033】
<パターン2>
図4は、図1に示す透光性基板100の円で囲んだ領域の拡大図であり、パターン2のノッチマーク10を示している。図5は、図4に示す透光性基板100のV-V線断面図である。
図4図5に示すように、ノッチマーク10は、透光性基板100の裏面102の角部に形成されている。パターン2のノッチマーク10は、境界線12から外側に向けて下方に傾斜した後、線14を境にさらに下方に傾斜するように形成されている。つまり、ノッチマーク10は、線14を境に傾斜角が変化するように形成されている。このようなノッチマーク10は、例えば、透光性基板100の角部を切削あるいは研磨することによって形成することができる。線12及び線14を境として光の反射状態が変わるため、作業者が上方からノッチマーク10を見た場合、作業者はそれがパターン2のノッチマーク10であることを容易に認識することができる。
【0034】
<パターン3>
図6は、図1に示す透光性基板100の円で囲んだ領域の拡大図であり、パターン3のノッチマーク10を示している。図7は、図6に示す透光性基板100のVII-VII線断面図である。
図6図7に示すように、ノッチマーク10は、透光性基板100の裏面102の角部に形成されている。パターン3のノッチマーク10は、境界線12から外側に向けて下方に傾斜した後に、線14を境にさらに下方に傾斜し、線16を境にさらに下方に傾斜するように形成されている。つまり、ノッチマーク10は、線14及び線16を境に傾斜角が2回変化するように形成されている。このようなノッチマーク10は、例えば、透光性基板100の角部を切削あるいは研磨することによって形成することができる。線12、線14、及び線16を境として光の反射状態が変わるため、作業者が上方からノッチマーク10を見た場合、作業者はそれがパターン3のノッチマーク10であることを容易に認識することができる。
【0035】
透光性基板100の水素分子濃度が3.0×1017分子数未満の場合、その透光性基板100の角部には、パターン1のノッチマーク10が形成される。
透光性基板100の水素分子濃度が3.0×1017分子数以上3.0×1018分子数未満の場合、その透光性基板100の角部には、パターン2のノッチマーク10が形成される。
透光性基板100の水素分子濃度が3.0×1018分子数以上の場合、その透光性基板100の角部には、パターン3のノッチマーク10が形成される。
これらの対応関係をまとめると、以下の表1の通りとなる。
【0036】
【表1】
【0037】
透光性基板100に含まれる水素分子濃度は、例えばレーザーラマン分光光度法等の公知の方法によって測定することができる。
【0038】
本実施例の透光性基板100によれば、作業者等は、ノッチマーク10を視認するだけで透光性基板100に含まれる水素分子濃度を識別することができる。例えば、ノッチマーク10がパターン1である場合には、水素分子濃度が3.0×1017分子数未満であることを容易に識別することができる。ノッチマーク10がパターン2である場合には、水素分子濃度が3.0×1017分子数以上3.0×1018分子数未満であることを容易に識別することができる。ノッチマーク10がパターン3である場合には、水素分子濃度が3.0×1018分子数以上であることを容易に識別することができる。
【0039】
ノッチマーク10は、透光性基板100の裏面及び端面のうち少なくとも一方に形成されることが好ましい。透光性基板100の主表面にはパターン形成用の薄膜や多層反射膜等が形成されるため、裏面及び端面のうち少なくとも一方にノッチマーク10が形成されることによって、ノッチマーク10がパターン形成用の薄膜や多層反射膜等の光学特性に影響を及ぼすことを防止することができる。
【0040】
ノッチマーク10は、透光性基板100の4つの角部のうち、対角線上に位置する少なくとも2つの角部に形成されることが好ましい。対角線上に位置する少なくとも2つの角部にノッチマーク10が形成されることによって、透光性基板100をどのような向きで収納ケースに収納した場合であっても、作業者等はノッチマーク10を上方から容易に視認することが可能となる。
なお、ノッチマーク10は、透光性基板100の4つの角部のうち、1つの角部に形成されてもよいし、3つの角部に形成されてもよいし、4つの角部に形成されてもよい。また、ノッチマーク10は、透光性基板100の4つの角部のうち、隣り合う2つの角部に形成されてもよい。
【0041】
ノッチマーク10は、透光性基板100の角部以外の部位に形成されてもよい。例えば、ノッチマーク10は、透光性基板100の4つの辺のうち、少なくとも一つの辺の中央部付近に形成されてもよい。
【0042】
ノッチマーク10は、上記に例示したパターン1〜3以外の形態であってもよい。
例えば、ノッチマーク10は、断面略V字の溝部あるいはスリットの形態であってもよい。そして、溝部あるいはスリットの本数によって、透光性基板100に含まれる水素分子濃度をその外観から識別できるようにしてもよい。
【0043】
また、透光性基板100に含まれる水素分子濃度をその外観から識別できるようにするための手段は、ノッチマーク10以外であってもよい。例えば、透光性基板100の裏面あるいは端面に、バーコードやQRコード(登録商標)をレーザーで刻印することによって、透光性基板100に含まれる水素分子濃度をその外観から識別できるようにしてもよい。例えば、透光性基板100の裏面あるいは端面に、特開2010−8738号公報に開示されているような識別マーカをレーザーで刻印することによって、透光性基板100に含まれる水素分子濃度をその外観から識別できるようにしてもよい。
【0044】
バーコード、QRコード(登録商標)、あるいは、特開2010−8738号公報に開示されている識別マーカ(以下、これらをバーコード等と呼ぶ)は、多くの情報と関連付けることが可能である。したがって、バーコード等に、透光性基板100に含まれる水素分子濃度以外の情報を関連付けてもよい。
【0045】
(実施例2)
実施例2では、本発明の転写用マスク用の透光性基板を用いてマスクブランクを製造した。
本実施例では、合成石英ガラスからなる透光性基板の主表面に窒化モリブデンシリサイドからなる半透過膜を形成することによって、ハーフトーン型位相シフトマスクの製造に用いられるマスクブランクを製造した。
【0046】
まず、合成石英ガラスからなる透光性基板を複数枚準備した。複数枚の透光性基板は、水素分子濃度が異なる。透光性基板中の水素分子濃度をレーザーラマン分光光度法によって測定したところ、以下の通りであった。
透光性基板1 水素分子濃度:1.80×1017分子数/cm
透光性基板2 水素分子濃度:2.18×1018分子数/cm
透光性基板3 水素分子濃度:5.20×1018分子数/cm
透光性基板4 水素分子濃度:9.70×1018分子数/cm
【0047】
上記の表1に従い、透光性基板の角部にノッチマークを形成した。
透光性基板1の角部には、パターン1のノッチマークを形成した。
透光性基板2の角部には、パターン2のノッチマークを形成した。
透光性基板3の角部には、パターン3のノッチマークを形成した。
透光性基板4の角部には、パターン3のノッチマークを形成した。
【0048】
つぎに、透光性基板をDCマグネトロンスパッタ装置に導入した。スパッタ装置内にArとNとHeとの混合ガスを導入し(体積流量比=8:72:100)、スパッタリング法によって膜厚69nmの半透過膜の成膜を行った。スパッタリングターゲット中のシリコンとモリブデンの原子数の比率は、以下の表2〜表4の通りに設定した。
【0049】
半透過膜が成膜された透光性基板をヒータによって500℃で60分間加熱してアニール処理を行った。アニール処理後、露光光の波長193nmにおける半透過膜の透過率を測定したところ、以下の表2〜表4に示す結果が得られた。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
表2〜表4に示す結果より、透光性基板に含まれる水素分子濃度にばらつきがある場合であっても、ターゲットに含まれるシリコン:モリブデン比率を適切に設定することによって、アニール処理後の薄膜の透過率がほぼ一定となるように制御できることがわかった。
【0054】
本発明の透光性基板を用いれば、透光性基板に含まれる水素分子濃度を容易に識別できることから、それに合わせてターゲットに含まれる遷移金属の比率やスパッタリング条件等を設定することにより、アニール処理後の薄膜の透過率を一定となるように制御することができる。
【0055】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
上記実施例では、透光性基板に含まれる水素分子濃度に応じてターゲットのシリコン:モリブデン比率を選定し、アニール処理後の薄膜の透過率を制御する例を示したが、成膜工程における条件設定は、このターゲットの選定による方法に限定されない。他の例として、透光性基板の水素分子濃度に応じてスパッタリングガスの条件を設定する方法が挙げられる。上記実施例では、体積流量比がAr:N:He=8:72:100の混合ガスを使用したが、Nガス流量を基板の水素分子濃度に応じて増減することにより、アニール処理後の薄膜の透過率を調整することができる。
また、他の例として、透光性基板の水素分子濃度に応じてアニール処理工程における加熱時間、加熱温度などを調整することにより、アニール処理後の薄膜の透過率を調整することもできる。
さらに、上記実施例では、水素分子濃度が識別可能な2つノッチマークが裏面側で対角となる位置に形成された透光性基板を用いたが、これに限定されない。2つのノッチマークのうち1つのノッチマークを水素分子濃度が識別可能なマークとすることもできる。また、図8に示すレーザー耐久性にすぐれる基板200の場合には、1つの角部にノッチマーク110が形成されるので、そのノッチマークを水素分子濃度が識別可能なマークとすることもできる。
【0056】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0057】
100、200 透光性基板
10、110 ノッチマーク
12、14、16 線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8