特許第6066812号(P6066812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 四国化成工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6066812-トリアジン化合物 図000009
  • 特許6066812-トリアジン化合物 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066812
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】トリアジン化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 251/18 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
   C07D251/18 ECSP
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-87974(P2013-87974)
(22)【出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2014-210732(P2014-210732A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2015年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180302
【氏名又は名称】四国化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】熊野 岳
(72)【発明者】
【氏名】溝部 昇
【審査官】 早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/058875(WO,A1)
【文献】 特開平07−300491(JP,A)
【文献】 特開昭60−166671(JP,A)
【文献】 特開2010−270055(JP,A)
【文献】 特開2010−270053(JP,A)
【文献】 特開2012−046451(JP,A)
【文献】 特開2004−210640(JP,A)
【文献】 特開2004−182935(JP,A)
【文献】 特開2004−010487(JP,A)
【文献】 特公平01−019834(JP,B2)
【文献】 米国特許第03763220(US,A)
【文献】 米国特許第03763221(US,A)
【文献】 米国特許第03789064(US,A)
【文献】 電子通信学会論文誌C,1986年,J69C,126−130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 251/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(I)で示されるトリアジン化合物。
【化1】
(式中、R、RおよびRは同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基またはメトキシ基を表す。但し、Rが1分子中に複数ある場合、複数のRは互いに独立して同一または異なっていてもよく、Rが1分子中に複数ある場合、複数のRは互いに独立して同一または異なっていてもよい。nは1〜2の整数を表し、mは0〜16の整数を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリアジン化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等のポリマーは、熱硬化性であって且つ耐腐食性、電気絶縁性に優れているため、電子部品やプリント基板関連の分野において、接着剤、導電性ペースト、レジストインキや、封止材、絶縁材、基板用マトリックス材等の原料として、広く使用されている。
しかしながら、このようなポリマー類は、マイグレーションを抑制する機能、即ち絶縁材上の配線(回路)や電極を構成する金属が、高湿度の環境下において、電位差により絶縁材上を移行する現象を抑える機能に乏しいため、電子部品やプリント基板の絶縁不良を招来すると云う難点があった。
また、それらのポリマー類と、ガラス基板等の無機材料や銅等の金属材料との、更なる密着性の改善も求められていた。
【0003】
このような課題を解決するための添加剤として、種々の物質が使用されているが、トリアジン骨格を有する物質が、前記のマイグレーションの抑制や密着性の改善に有効であるとされている。
例えば、2,4−ジアミノ−6−ビニル−1,3,5−トリアジンや、その類縁体を用いる方法が、鎌形らにより提案されている(非特許文献1、特許文献1〜3)。
しかしながら、これらの物質は結晶性が高いために、ポリマー類やポリマー類の希釈に使用される有機溶剤との相溶性に乏しいと云う難点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】電子情報通信学会論文誌 C, Vol.J69-C, No.1, 126-130頁(1986年)
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭62−53531号公報
【特許文献2】特公昭63−54300号公報
【特許文献3】特公平1−19834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリマー類や有機溶剤との相溶性に優れるトリアジン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、スルフィド(チオエーテル)結合を有するトリアジン化合物が所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
即ち、本発明は、化学式(I)で示されるトリアジン化合物である。
【0008】
【化1】
(式中、R、RおよびRは同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基またはメトキシ基を表す。但し、Rが1分子中に複数ある場合、複数のRは互いに独立して同一または異なっていてもよく、Rが1分子中に複数ある場合、複数のRは互いに独立して同一または異なっていてもよい。nは1〜2の整数を表し、mは0〜16の整数を表す。
【0009】
【発明の効果】
【0010】
本発明のトリアジン化合物を、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等のポリマー類の添加剤として使用した場合には、該トリアジン化合物がポリマー中に溶解または均一に分散して、電子部品やプリント基板等のマイグレーションの防止や、電子部品やプリント基板を構成する無機材料および金属材料と、ポリマーとの密着性を高める効果を発揮することが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、前記の化学式(I)で示されるトリアジン化合物であり、分子中にスルフィド(チオエーテル)結合を有する。
このトリアジン化合物は、化学式(II)で示される2,4−ジアミノ−6−ビニル−1,3,5−トリアジンと、化学式(III)で示されるチオール化合物を、適量の反応溶媒中において、適宜の反応温度および反応時間にて反応させることにより合成することができる。
【0012】
【化2】
【0013】
【化3】
(式中、R、RおよびRとnおよびmは、前記と同様である。)
【0014】
【0015】
前記の反応溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶剤、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶剤や、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤を、適宜量使用することができる。
【0016】
前記の反応温度については、室温〜100℃の範囲内で適宜設定することができる。また、前記の反応時間については、設定した反応温度に応じて決定されるが、0.5〜24時間とすることが好ましく、1〜6時間とすることがより好ましい。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例の合成試験に使用した主原料は、以下のとおりである。
【0018】
[主原料]
・2,4−ジアミノ−6−ビニル−1,3,5−トリアジン(四国化成工業社製)
・3−メルカプトプロピオン酸メチル(東京化成工業社製)
・3−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル(東京化成工業社製
【0019】
〔実施例1〕
<2,4−ジアミノ−6−{2−[2−(メトキシカルボニル)エチルチオ]エチル}−1,3,5−トリアジンの合成>
温度計を備えた100mLフラスコに、2,4−ジアミノ−6−ビニル−1,3,5−トリアジン2.74g(20.0mmol)、3−メルカプトプロピオン酸メチル2.40g(20.0mmol)及びメタノール20mLを投入して、反応液を調製した。
この反応液を攪拌しながら、65℃にて1時間反応を行い、続いて、反応液を減圧下にて濃縮して、白色の結晶4.99g(収率97%)を得た。
【0020】
得られた結晶の融点及びH−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
・融点:115.8〜117.0℃
1H-NMR(CDCl3) δ:5.21 (br, 4H), 3.70 (s, 3H), 2.93 (t, 2H), 2.77-2.85 (m, 4H), 2.64 (t, 2H).

また、この結晶のIRスペクトルデータは、図1に示したチャートのとおりであった。
これらのスペクトルデータより、得られた結晶は、化学式(IV)で示される標題のトリアジン化合物であるものと同定した。
【0021】
【化4】
【0022】
〔実施例2〕
<2,4−ジアミノ−6−(2−{2−[(2−エチルヘキシル)オキシカルボニル]エチルチオ}エチル)−1,3,5−トリアジンの合成>
3−メルカプトプロピオン酸メチル2.40g(20.0mmol)の代わりに、3−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル4.37g(20.0mmol)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行って、白色の結晶6.75g(収率95%)を得た。
【0023】
得られた結晶の融点及びH−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
・融点:75.3〜76.8℃
1H-NMR(CDCl3) δ:5.44 (br, 4H), 3.80-4.06 (m, 2H), 2.92 (t, 2H), 2.76-2.84 (m, 4H), 2.63 (t, 2H), 1.55-1.63 (m, 1H), 1.28-1.39 (m, 8H), 0.87-0.91 (m, 6H).

また、この結晶のIRスペクトルデータは、図2に示したチャートのとおりであった。
これらのスペクトルデータより、得られた結晶は、化学式(V)で示される標題のトリアジン化合物であるものと同定した。
【0024】
【化5】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
〔実施例
<有機溶剤に対する溶解性の評価試験>
本発明のトリアジン化合物(実施例1〜)と、公知のトリアジン化合物である2,4−ジアミノ−6−ビニル−1,3,5−トリアジンについて、種々の有機溶剤に対する溶解性を評価した(試験番号1〜)。
評価試験の操作手順は、以下のとおりである。
室温にて、トリアジン化合物100mgと有機溶剤2mLを試験管に投入して攪拌し、有機溶剤に対するトリアジン化合物の溶解性を目視にて観察した。
そして、トリアジン化合物が室温にて完溶した場合を○と判定し、室温では完溶しないが70℃では完溶した場合を△と判定し、70℃にても完溶しない場合を×と判定した。
なお、有機溶剤として、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン(THF)および酢酸エチルを使用した。
得られた試験結果は、表1に示したとおりであった。
【0029】
【表1】
【0030】
これらの試験結果によると、本発明のトリアジン化合物は、前駆体の2,4−ジアミノ−6−ビニル−1,3,5−トリアジンに比べて、有機溶剤に対する溶解性が優れているものと認められる。
従って、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等のポリマー類に対する相溶性の改善が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施例1で得られた結晶のIRスペクトルチャートである。
図2】実施例2で得られた結晶のIRスペクトルチャートである
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のトリアジン化合物を、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等のポリマー類の添加剤として使用した場合には、該トリアジン化合物がポリマー中に溶解または均一に分散して、電子部品やプリント基板等のマイグレーションの防止や、電子部品やプリント基板を構成する無機材料および金属材料と、ポリマーとの密着性を高める効果を発揮することが期待されるので、本発明の産業上の利用可能性は多大である。
図1
図2