特許第6066902号(P6066902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066902
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】疾患の治療のためのベクター及び配列
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170116BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20170116BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20170116BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20170116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170116BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20170116BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N5/10
   A61K31/7088
   A61K35/76
   A61P43/00 111
   A61P25/00 101
   A61K48/00
【請求項の数】22
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-513706(P2013-513706)
(86)(22)【出願日】2011年6月10日
(65)【公表番号】特表2013-531490(P2013-531490A)
(43)【公表日】2013年8月8日
(86)【国際出願番号】EP2011059678
(87)【国際公開番号】WO2011154520
(87)【国際公開日】20111215
【審査請求日】2014年5月20日
(31)【優先権主張番号】10382169.0
(32)【優先日】2010年6月10日
(33)【優先権主張国】EP
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM 24817
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM 24818
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM 24819
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500031124
【氏名又は名称】ラボラトリオス・デル・ドクトル・エステベ・ソシエダッド・アノニマ
(73)【特許権者】
【識別番号】512318774
【氏名又は名称】ウニベルシダッド アウトノマ デ バルセロナ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD AUTONOMA DE BARCELONA
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ボッシュ トゥベルト,ファティマ
(72)【発明者】
【氏名】アユソ ロペス,エドゥアルド
(72)【発明者】
【氏名】ルゾ マティアス,アルベルト
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 FRALDI ALESSANDRO et al.,HUMAN MOLECULAR GENETICS,2007年11月15日,V16 N22,P2693-2702
【文献】 FOSTER HELEN et al.,MOLECULAR THERAPY,2008年11月,V16 N11,P1825-1832
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
A61K 48/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のタンパク質をコードする配列番号1の単離ヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド
【請求項2】
請求項1に記載の単離ヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物。
【請求項3】
前記遺伝子構築物はベクターであることを特徴とする、請求項2に記載の遺伝子構築物。
【請求項4】
前記ベクターは発現ベクターであることを特徴とする、請求項3に記載の遺伝子構築物。
【請求項5】
前記ベクターはアデノ随伴ベクターであることを特徴とする、請求項4に記載の遺伝子構築物。
【請求項6】
前記アデノ随伴ベクターの血清型は1、2、5、7、8、または9であることを特徴とする、請求項5に記載の遺伝子構築物。
【請求項7】
前記血清型が9であることを特徴とする、請求項6に記載の遺伝子構築物。
【請求項8】
配列番号1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドに操作可能に結合されたCAGプロモーターを含むことを特徴とする、請求項5に記載の遺伝子構築物。
【請求項9】
前記遺伝子構築物はAAV9−CAG−co−hu−SFMDであることを特徴とする、請求項8に記載の遺伝子構築物。
【請求項10】
請求項1に記載の単離ヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含み、受託番号がDSM24817であることを特徴とする、プラスミドpAAV−CAG−co−hu−SFMD。
【請求項11】
配列番号1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドに操作可能に結合されたhAATプロモーターを含むことを特徴とする、請求項4に記載の遺伝子構築物。
【請求項12】
請求項1に記載の単離ヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、プラスミドpAAV−hAAT−co−hu−SFMD。
【請求項13】
請求項1に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、請求項2から9および11のいずれか一項に記載の遺伝子構築物、または請求項10または12に記載のプラスミドを含む医薬組成物。
【請求項14】
静脈内または大槽内投与のための請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、請求項2から9および11のいずれか一項に記載の遺伝子構築物、または請求項10または12に記載のプラスミドを治療に有効な量だけ含むことを特徴とする、請求項13または14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
大槽内投与のための請求項7に記載の遺伝子構築物を治療に有効な量だけ含むことを特徴とする、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項17】
薬剤の製造のための、請求項1に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、請求項2から9および11のいずれか一項に記載の遺伝子構築物、もしくは請求項10または12に記載のプラスミド、または請求項13から16のいずれか一項に記載医薬組成物の使用。
【請求項18】
体内でスルファミダーゼ活性を増加させるための薬剤の製造のための、請求項1に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、請求項2から9および11のいずれか一項に記載の遺伝子構築物、もしくは請求項10または12に記載のプラスミド、または請求項13から16のいずれか一項に記載医薬組成物の使用。
【請求項19】
酵素補充または遺伝子治療のための薬剤の製造のための、請求項1に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、請求項2から9および11のいずれか一項に記載の遺伝子構築物、もしくは請求項10または12に記載のプラスミド、または請求項13から16のいずれか一項に記載医薬組成物の使用。
【請求項20】
IIIA型ムコ多糖症の治療用薬剤の製造のための、請求項1に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、請求項2から9および11のいずれか一項に記載の遺伝子構築物、もしくは請求項10または12に記載のプラスミド、または請求項13から16のいずれか一項に記載医薬組成物の使用。
【請求項21】
請求項5に記載されたアデノ随伴ベクターを製造する方法であって、
i)第1のAAV末端反復と第2のAAV末端反復との間に介在する配列番号1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含み、CAGまたはhAATプロモーターが配列番号1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドに操作可能に連結された第1のベクターと、AAVrep遺伝子とAAVcap遺伝子とを含む第2のベクターと、アデノウイルスヘルパー機能を含む第3のベクターとを用意する工程と、
ii)コンピテント細胞に工程i)のベクターを同時トランスフェクトする工程と、
iii)工程ii)の形質転換された細胞を培養する工程と、
iv)工程iii)の培養物から発現ベクターを精製する工程と
を含む方法。
【請求項22】
請求項1に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、請求項2から9および11のいずれか一項に記載の遺伝子構築物、または請求項10または12に記載のプラスミドを含む単離細胞。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、目的タンパク質の発現のために有用なベクター及び遺伝子治療におけるそれらの利用に関する。また、本発明は、ムコ多糖症(MPS)の治療のために、特に、ムコ多糖症III型またはサンフィリポ症候群の治療のために有用なベクターおよび核酸配列に関する。
〔背景技術〕
リソソームは、真核細胞の細胞質内に見られる細胞小器官であり、多くの加水分解酵素の貯蔵スペースとして、また、細胞成分の分解及び再生の中枢としての機能を果たす。この細胞小器官は、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、ホスファターゼ、スルファターゼなどの数種類の加水分解酵素を含んでいる。すべての酵素は酸加水分解酵素である。
【0002】
リソソーム蓄積症(LSD)は、一つ以上のリソソーム酵素に影響を与える遺伝的欠陥によって引き起こされる。一般的に、これらの遺伝的疾患は、リソソームに存在する特定の酵素活性が欠乏した結果生じる。より少ない程度に、これらの疾患は、リソソームの生合成に関与するタンパク質の欠乏に起因することがある。
【0003】
LSDは、個人ではまれであるが、集団として、これらの障害は、一般人口に比較的よく見られる。LSDの総合有病率は、生産児5,000人につき1人の割合である(Meikle P, et al., JAMA 1999; 281:249-254参照)。しかし、一般人口の中には、特にLSDの高い発生率に悩まされている集団もいる。例えば、ヨーロッパ中部および東部のユダヤ人(アシュケナジ)の子孫におけるゴーシェ病とテイ−サックス病の有病率は、それぞれ生産児3,900人につき1人と600人につき1人の割合である。フィンランドの人々も、異常に高いLSD有病率に悩まされている。
【0004】
サンフィリポ症候群と総称されるIII型ムコ多糖症(MPSIII)は、ヘパラン硫酸の分解に関与する酵素の一つが欠乏することによって引き起こされるLSDであり、これによって、病理学的には、ヘパラン硫酸が蓄積する。MPSIIIは、酵素欠損に応じて四つのサブタイプに分類される。スルファミダーゼ活性の損失は、サブタイプIIIAを引き起こし、発症が最も早く、また生存期間が最も短いため、最も重度であると報告されている。MPSIIIAの症状は、生まれた年に現れ、深い精神遅滞、攻撃性、多動、睡眠の変化につながる重度の神経変性によって特徴付けられる。患者は次第に発語、嚥下、および基本的な運動協調性の能力を失っていく。これらの神経症状に加えて、MPSIIIA患者は、頻繁な下痢や呼吸器感染症だけでなく、肝腫脹や脾腫、骨格や関節の奇形などの非神経的変化に苦しむ。これらの症状は次第に悪化していき、患者は青年期に死を迎える結果となる。(Neufeld E, Muenzer J, “The mucopolysaccharidoses” in Scriver C, et al., Eds., “The metabolic and molecular basis of inherited disease” (McGraw-Hill Publishing Co., New York, NY, US, 2001, pp. 3421-3452)参照)。
【0005】
MPSIIIAの治療法は今のところ存在せず、そのため、既存の治療法は、患者の生活の質の悪さを改善するために病気の症状を抑えることを目的としている。MPS障害は、骨髄移植や酵素補充療法(ERT)によって治療することができる。これらのアプローチは、共に、細胞外の媒体からのリソソーム酵素のエンドサイトーシスと、細胞膜に存在するマンノース−6−リン酸受容体(M6PR)を介してリソソーム酵素がリソソームを標的にすることとに依存している。それにもかかわらず、骨髄移植はMPSIII患者の治療において非効率的であることが実証されている(Sivakamur P, Wraith J, J. Inherit. Metab. Dis. 1999; 22:849-850参照)。ERTは、MPSI、IIおよびVIなどの他のリソソーム蓄積症における非神経蓄積を打ち消すのに有効であることが広く証明されている(Harmatz P, et al., J. Mol. Genet. Metab. 2008; 94:469-475、 Muenzer J, et al., Genet. Med. 2006; 8:465-473、Wraith J, et al., J. Pediatr. 2004; 144:581-588参照)。これらの治療法は、コストが高いことに加え、ERTは、体外から提供された酵素が血液脳関門(BBB)を介して十分に輸送されないために、神経機能の矯正や保存をもたらさないことが分かっている。(Enns G, Huhn S, Neurosurg. Focus 2008; 24:E12参照)。最近になって、高用量のERTが、MPSVIIにおけるCNS貯蔵を一掃するのに部分的に成功していることが実証されているが、これは、循環中のタンパク質のより長い半減期につながるM6PRとマンノース受容体の飽和によるものと考えられる(Vogler C, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2005; 102:14777-14782参照)。この研究により、長期間循環している酵素の高レベルが、病変のより良い矯正と相関していることが実証されている。酵素の脳内および脳脊髄液内輸送も、MPSIIIAマウスにおける中枢神経系疾患を緩和するのに有効であることが証明されている(Hemsley K, et al., Genes Brain Behav. 2008; 53(2):161-8、Savas P, et al., Mol. Genet. Metab. 2004; 82:273-285参照)。しかし、このアプローチは、注射を複数回の繰り返して行うことを必要とするため非常に侵襲的であり、脳内における損傷および/または感染症の危険性を高めるおそれがある。
【0006】
MPSIIIに対して現在取り得る治療法の選択肢の限界を考えると、代替的アプローチが必要とされている。遺伝子導入は、単一の介入から、欠けている酵素の永久的な生産を達成するための手段を提供することができる。アデノ随伴ベクター(AAV)は、その高い形質導入効率と病原性の欠如から、多くの遺伝子治療への応用に最適なベクターとして急速に浮上している。AAVベクターは、分裂終了細胞を効率的に形質導入し、いくつかの前臨床試験および臨床試験により、AAVベクターを介した遺伝子導入には、種々の疾患に対する治療用トランス遺伝子の持続的発現を動因する可能性があることが実証された(Daya S, Berns K, Clin. Microbiol. Rev. 2008; 21:583-593参照)。
【0007】
スルファミダーゼを共発現しているAAV5ベクターとスルファターゼ活性剤SUMF1とを新生MPSIIIAマウスの側脳室に投与することによって、多くの神経や行動の変化を矯正することができることが示されている(Fraldi A, et al., Hum. Mol. Genet. 2007; 16:2693-2702参照)。しかし、この手順案には、いくつかの欠点がある。第一に、利用するCMVプロモーターについて何も報告されていない。第二に、スルファミダーゼの共発現とSUMF1との長期的影響がいまだに評価されていない。SUMFの共発現が必要かどうかさえ不明であり、また、スルファミダーゼ単独による治療と比較して、さらなる永久的メリットをもたらすかどうかも不明である。第三に、AAV5ベクターは、柔組織内での分布が低く、さらに重要なことには、これらのベクターを用いて脳内へスルファミダーゼを輸送させても、脳組織の形質導入には一切結び付かないため、このアプローチに従っても体表現型の矯正は一切達成されない。最後に、上記Fraldi、2007によれば、遺伝子導入の有効性は、新生MPSIIIAマウスでしか実証されていない。年長マウスでの実験は一切報告されていない。MPSIIIAは、通常、生後3〜4年後に診断されるため、新生動物モデルは、ヒトにおけるこの治療法の効果を予測するのには不向きである。
【0008】
出生時にMPSIIIAを診断することが困難であること考慮して、成人早期に始める治療的介入の開発が提案されている。スルファミダーゼを発現しているレンチウイルスベクターを成体マウスの静脈内に輸送させても、中枢神経系の表現型の改善にほとんど結び付かなかったことが報告されているが、これは、これらのベクターの生体内における形質導入性能が比較的乏しいことによるものと考えられる(McIntyre C, et al., Mol. Genet. Metab. 2008; 93:411-418参照)。したがって、AAVベクターのような、生体内で高い形質導入効果を持つウイルスベクターを使用すれば、スルファミダーゼの血中濃度が高くなり、ひいては神経病変が改善または矯正される可能性がある。
【0009】
MPSIIIAの遺伝子治療には、より効率的なベクターとスルファミダーゼコード配列が必要とされる。したがって、MPSIIIAの効果的な治療法に対しては、長い間の切実な要求があった。また、安全対策を強化したこの病気の治療への新しいアプローチに対する要求もある。MPSIIIAはまれな疾患であり、奇病である。このまれな病状を治療するために特別に開発された医薬品は、希少疾病用医薬品となる。
【0010】
〔発明の概要〕
本発明は、疾患の治療のための、好ましくは、ムコ多糖症(MPS)の治療のための新規なヌクレオチド配列を提供する。したがって、本発明の第1の態様は、より安定したmRNAの転写を可能にするヒトスルファミダーゼのコドン最適化配列であるヌクレオチドを指す。この配列は、より高いレートで転写さるため、生産されるスルファミダーゼ酵素の収量が高い。当該配列は、より良い発現プロファイルを有しており、スルファミダーゼヌクレオチド配列をコドン最適化する他の試みよりも治療効果がある。このように酵素発現量が増加した後に、血清スルファミダーゼ活性が増加し、疾患を引き起こすグリコサミノグリカン(GAG)の蓄積の減少を可能にする。前記配列は、配列番号1のヌクレオチド配列、または、配列番号2のタンパク質をコードする配列番号1と少なくとも85%の配列同一性を有する配列である。
【0011】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に記載のヌクレオチド配列を含む遺伝子構築物に関する。
【0012】
また、本発明は、血液脳関門(BBB)を横断することが可能な、異なる脳構造に対してより高い親和性を示す血清型9の新規なAAVベクターを提供する。これにより、スルファミダーゼ活性を脳に特異的に増大させることができ、GAGの蓄積を減少させるため、その結果MPSの神経症状を改善する。また、AAV血清型9は、心臓、膵臓、筋肉組織に対して予想外に高い親和性を示し、ひいては本発明の全体的な治療効果を増強する。
【0013】
例えば、肝臓を標的とした場合は静脈(iv)注射によって、骨格筋を標的とした場合は筋肉内(im)注射によって、または中枢神経系を標的とした場合は大槽内(ic)投与によって成体MPSIIIAマウスにAAV血清型8および9(AAV8およびAAV9)を投与した後、imベクター輸送で得られたスルファミダーゼの発現量は、治療的ではなかった。大槽内投与は、循環スルファミダーゼのレベルを増加させることだけでなく、脳組織などの数種類の組織におけるMPSIIIAの体細胞の表現型に戻すこともできた。また、肝臓に向けたアプローチも、高レベルの循環スルファミダーゼ活性を生じさせ、ひいては驚くことにMPSIIIAの体細胞の貯蔵表現型を完全に修正し、疾患と関連する神経病変を大幅に修正した。これらの結果は、成体MPSIIIAマウスにおけるスルファミダーゼのAAVを介した遺伝子導入の有効性の証拠、ヒトの臨床状況によく似た疾患モデルを提供する。本発明者らは、MPSIIIAの身体的および神経的変化の両方を完全に矯正することができた。
【0014】
本発明の遺伝子構築物は、CAGまたはhAATプロモーターなどの、スルファミダーゼの発現を制御し、増強するのに適切なプロモーターをさらに含んでもよい。例えば、CAGプロモーターは、CMVプロモーター比べて、安定しており、より長期にわたってスルファミダーゼの発現を誘導するのに適している。一方、hAATプロモーターは、その安全性と有効性から、補給量や維持量のスルファミダーゼを輸送させるための賦形剤として理想的である。CAGまたはhAATプロモーターによって配列番号1のヌクレオチド配列の発現を制御することで、その治療効果が大幅に増強された。
【0015】
また、本発明のAAVベクターは、スルファミダーゼ活性を増加させ、ひいてはGAGの蓄積を減少させ、MPSに罹患している個体の臨床転帰を向上させる。プロモーターと逆方向末端反復配列(ITR)の間に位置するスルファミダーゼのヌクレオチド配列は、個体の細胞のゲノムに組み込まれているため、1回の投与で十分である。したがって、一度非経口投与すれば、長期効果を得るのに十分である。
【0016】
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に記載のヌクレオチド配列、遺伝子構造、または本発明の発現ベクターを含む医薬組成物に関する。
【0017】
第4の態様において、本発明は、薬剤として使用するための、本発明のヌクレオチド配列、遺伝子構造、発現ベクター、または医薬組成物にも関する。当該薬剤は、体内におけるスルファミダーゼ活性を増加させるため、酵素補充療法のため、遺伝子治療のため、またはMPSの治療のために使用される。
【0018】
第5の態様において、本発明は、本発明の第1及び第2の態様に記載の発現ベクターの製造方法に関する。
【0019】
第6の態様において、本発明は、本発明の第3の態様に記載の医薬組成物の製造方法に関する。
【0020】
第7の態様において、本発明は、本発明の第1、第2および第3の態様でムコ多糖症タイプIIIAに罹患した患者を治療するための方法に関する。
【0021】
また、本発明は、体内におけるスルファミダーゼ活性を増加させるため、酵素補充療法のため、遺伝子治療のため、またはムコ多糖症もしくはムコ多糖症タイプIIIAの治療のために使用される薬剤の製造における、本発明のヌクレオチド配列、遺伝子構造、発現ベクター、または医薬組成物の使用に関する。
【0022】
〔図面の簡単な説明〕
図1〕AAV1−CAG−mu−SFMD−WPREの筋肉内輸送を示す。(a)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の骨格筋におけるスルファミダーゼ活性を示す。(b)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の血清におけるスルファミダーゼ活性を示す。(c)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の肝臓におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。各値は、1群につき4〜8匹のマウスの標準誤差(SEM)±平均値である。¥は、対照群についてP<0.05であることを示し、#は、オスのマウスについてP<0.05であることを示し、*は、無処置MPS群についてP<0.05であることを示す。NDは、不検出を意味する。
【0023】
図2〕AAV8−CAG−mu−SFMD−WPREの筋肉内輸送を示す。(a)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の骨格筋におけるスルファミダーゼ活性を示す。(b)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の血清におけるスルファミダーゼ活性を示す。(c)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の肝臓におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。各値は、1群につき4〜8匹のマウスの標準誤差(SEM)±平均値である。¥は、対照群についてP<0.05であることを示し、#は、オスのマウスについてP<0.05であることを示し、*は、無処置MPS群についてP<0.05であることを示す。NDは、不検出を意味する。
【0024】
図3〕AAV8−CAG−mu−SFMD−WPREの静脈内輸送を示す。(a)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の骨格筋におけるスルファミダーゼ活性を示す。(b)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の血清におけるスルファミダーゼ活性を示す。(c)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の肝臓におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。各値は、1群につき4〜8匹のマウスの標準誤差(SEM)±平均値である。¥は、対照群についてP<0.05であることを示し、#は、オスのマウスについてP<0.05であることを示し、*は、無処置MPS群についてP<0.05であることを示す。NDは、不検出を意味する。
【0025】
図4〕AAV8−HAAT−mu−SFMDの静脈内輸送を示す。(a)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の骨格筋におけるスルファミダーゼ活性を示す。(b)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の血清におけるスルファミダーゼ活性を示す。(c)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の肝臓におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。各値は、1群につき4〜8匹のマウスの標準誤差(SEM)±平均値である。¥は、対照群についてP<0.05であることを示し、#は、オスのマウスについてP<0.05であることを示し、*は、無処置MPS群についてP<0.05であることを示す。NDは、不検出を意味する。
【0026】
図5〕AAV8−hAAT−mu−SFMDの静脈内輸送後のMPSIIIAマウスの神経病変の改善を示す。(a)は、オスの対照マウス群、オスのMPSマウス群、オスの治療施行マウス群の脳の異なる部分(図示する)におけるスルファミダーゼ活性を示す。(b)は、脳の同じ部分におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。各値は、1群につき4〜8匹のマウスの標準誤差(SEM)±平均値である。¥は、対照群についてP<0.05であることを示し、*は、無処置MPS群についてP<0.05であることを示す。NDは、不検出を意味する。(c)は、小脳のプルキンエ細胞の透過型電子顕微鏡像を示す。無処置MPSIIIAマウスのプルキンエ神経細胞の体細胞が大きく電子密度の高い含有物(白矢印)で満たされていたのに対して、IV−AAV8−HAATで治療したオスのマウスに見られた含有物(黒矢印)は、より少なく、より小さかった。
【0027】
図6〕AAV9−CAG−mu−SFMDの静脈内輸送を示す。(a)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の脳の異なる部分(図示する)におけるスルファミダーゼ活性を示す。(b)は、脳の同じ部分におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。(c)は、ロータロッド試験を加速させることによる運動機能の評価を示す。各値は、1群につき4〜8匹のマウスの標準誤差(SEM)±平均値である。¥は、対照群についてP<0.05であることを示し、*は、無処置MPS群についてP<0.05であることを示す。
【0028】
図7〕アデノ随伴ウイルス血清型1、2、5、7、8、9、GFPベクターの大槽内輸送後の脳形質導入を示す。生後2ヶ月の動物に適切なベクターを5×1010ベクターゲノム投与し、2週間後に犠牲死させ、分析した。アデノ随伴ウイルス血清型9は、分析されたすべての分野で最も高い形質導入効率を示した。シリンジは、ベクター輸送経路である大槽を示す。P:脳橋、Cb:小脳、OB:嗅球、Ht:視床下部、Cx:大脳皮質。
【0029】
図8〕AAV9−CAG−mu−SFMDベクターの大槽内輸送を示す。対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の脳の異なる部分(図示する)におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。各値は、1群につき3匹のマウスの標準誤差(SEM)±平均値である。¥は、対照群についてP<0.05であることを示し、*は、無処置MPS群についてP<0.05であることを示す。
【0030】
図9〕AAV9−CAG−hu−co−SFMDの静脈内輸送を示す。対照マウス群、MPSマウス群、AAV9−CAG−mu−SFMD(非最適化遺伝子)またはAAV9−CAG−hu−co−SFMD(最適化遺伝子)のいずれかで治療したMPSマウス群の肝臓におけるスルファミダーゼ活性を示す。
【0031】
図10〕後頭葉皮質のニューロン周囲グリア細胞におけるリソソーム病変の軽減を示す。後頭葉皮質の皮質ニューロンおよびそれらに関連するグリア細胞を示す透過型電子顕微鏡像である。MPSIIIAリソソーム病変は、ニューロンよりもニューロン周囲グリア細胞ではるかに明瞭に認められた。MPSIIIAを治療していないオスのマウスのサンプルから採取したグリア細胞に認められ(白矢印、右上パネル)、WTサンプルには認められなかった(左上パネル)大きく電子密度の低い空胞を示す。このリソソーム区画の拡大は、iv−AAV8hAATで治療したマウスで大幅に減少し、これらのサンプル中のニューロン周囲グリア細胞のほとんどは、WTに類似した特徴を示した(下パネル)。(1)はニューロンを示し、(2)はニューロン周囲グリア細胞を示す。
【0032】
図11〕AAV8−hAAT−SFMDの静脈内投与で治療したオスとメスのマウスの生存率を示す。(a)は、オスのWTマウス群、オスのMPSIIIAマウス群、AAV8−hAAT−SFMDの静脈内投与で治療したオスのマウス群におけるカプラン−マイヤー生存率分析を示す。AAV媒介肝特異遺伝子治療を施すことによって、MPSIIIA動物の寿命が著しく延びた(p<0.001)。(b)は、メスのWTマウス群、メスのMPSIIIAマウス群、iv−AAV8−HAAT−SFMDで治療したメスのマウス群におけるカプラン−マイヤー生存率分析を示す。AAV媒介肝特異遺伝子治療を施しても、メスのMPSIIIAマウスの寿命は延びなかった(P=0.467)。
【0033】
図12〕AAV9−CAG−mu−SFMDの大槽内および静脈内投与で治療したオスとメスのマウスの生存率を示す。(a)は、オスのWTマウス群、オスのMPSIIIAマウス群、AAV9で治療したオスのマウス群におけるカプラン−マイヤー生存率分析を示す。(b)は、メスのWTマウス群、メスのMPSIIIAマウス群、AAV9で治療したメスのマウス群におけるカプラン−マイヤー生存率分析を示す。AAV媒介遺伝子療法による大槽内および静脈内治療の両方を施すことによって、MPSIIIA動物の寿命が延びた。
【0034】
図13〕イヌにAAV9ベクターを大槽内投与が、広範囲に及ぶ中枢神経系領域および肝臓の形質導入につながることを示す。大槽を介してAAV9−GFPを注射したイヌの中枢神経系および肝臓の切片におけるGFPの免疫組織化学的検出を示す。画像は、それぞれ、(a)脊髄、(b)延髄のオリーブ体、(c)橋の縫線核、(d)視床下部核、(e)嗅脳、(f)後頭葉皮質、(h)前頭葉、(i)小脳、(j)海馬の歯状回に対応する。スケールバーは、(a)が1mm、(b)〜(h)が500μm、(i)〜(j)が100μmである。
【0035】
図14〕健康なビーグル犬にAAV9−GFPベクターを大槽内輸送させた後の肝臓形質導入を示す。ヘマトキシリンで対比染色した肝切片におけるGFPの免疫組織化学的検出を示す。(a)は、イヌ1の代表的な画像を示し、(b)は、イヌ2の代表的な画像を示す。元の倍率は200倍である。
【0036】
図15〕AAV9−co−hu−SFMDを静脈注射した動物における血清スルファミダーゼ活性と肝臓のGAG含有量を示す。(a)は、蛍光発生基質を用いて測定した血清中のスルファミダーゼ活性を示し、(b)は、ベクター投与後2ヶ月の肝臓中のGAG貯蔵を示す。
【0037】
(微生物の寄託)
プラスミドpAAV−CAG−co−hu−SFMDは、2011年5月16日に、受託番号DSM24817として、DSMZに寄託された。
【0038】
プラスミドpAAV−CAG−mu−SFMDは、2011年5月16日に、受託番号DSM24818として、DSMZに寄託された。
【0039】
プラスミドpGG2−hAAT−mu−SFMDは、2011年5月16日に、受託番号DSM24819として、DSMZに寄託された。
【0040】
〔用語の定義〕
ここで、「ヌクレオチド配列」とは、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを含む、DNAまたはRNAの核酸分子のことを指す。核酸は、二本鎖、一本鎖、もしくはある部分で二本鎖または一本鎖配列の両方を含んでもよい。
【0041】
ここで「%の配列同一性」とは、最大%の配列同一性を達成するために配列を整列させた後に、候補配列において配列番号1のヌクレオチドと同一となったヌクレオチドの割合のことを指す。「%の配列同一性」は、ALIGN、BLAST、およびBLAST2.0アルゴリズムなどの、当該技術分野で確立された任意の方法またはアルゴリズムによって決定することができる(Altschul S, et al., Nuc. Acids Res. 1977; 25:3389-3402 and Altschul S, et al., J. Mol. Biol. 1990; 215:403-410参照)。
【0042】
ここで、「%の配列同一性」は、配列番号1と候補配列を整列させた後に同一となったヌクレオチドの数を配列番号1のヌクレオチドの総数で除し、その結果に100を乗じることによって求められる。
【0043】
ここで、「コードする」とは、どのようにヌクレオチド配列がポリペプチドまたはタンパク質に翻訳されるかを決定する遺伝コードのことを指す。配列中のヌクレオチドの順序によって、ポリペプチドまたはタンパク質に沿ったアミノ酸の順序が決定される。
【0044】
ここで、「タンパク質」とは、アミノ酸の直鎖または球形に折り畳まれているポリペプチドのことを指す。タンパク質は、システイン残基の3−オキソアラニンへの変換のように、グリコシル化または金属結合にシステイン残基への変換、グリコシル化、または金属結合のような、翻訳後修飾を受けることができる。タンパク質のグリコシル化とは、アミノ酸鎖に共有結合された異なる炭水化物を付加することである。
【0045】
ここで「有効量」とは、意図された目的を達成するのに十分な物質量のことを指す。例えば、スルファミダーゼ活性を増加させるための発現ベクターの有効量とは、グリコサミノグリカンの蓄積を減少させるのに十分な量のことである。疾患または障害を治療するための発現ベクターの「治療に有効な量」とは、疾患または障害の症状を軽減または除去するために十分な発現ベクターの量のことである。任意の物質の有効量は、物質の性質、投与経路、当該物質を与える動物の大きさ及び種、当該物質を与える目的などの要因に応じて変化する。それぞれの個々の場合における有効量は、当技術分野で確立された方法に従って、当業者によって経験的に決定してもよい。
【0046】
ここで「個体」とは、任意の動物のことを指し、好ましくはヒトまたはヒト以外の哺乳類のことを指し、より好ましくは、マウス、ラット、齧歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、または霊長類のことを指し、さらに好ましくはヒトのことを指す。
【0047】
ここで「操作可能に連結」とは、目的遺伝子(例えば、配列の転写に影響を及ぼす場合は、コード配列に操作可能に連結されているプロモーターまたはエンハンサー)に対するプロモーター配列の機能的な関係及び位置のことを指す。一般に、操作可能に連結されたプロモーターは、目的配列に隣接している。しかし、エンハンサーは、目的配列の発現を制御するために当該配列に隣接している必要はない。
【0048】
ここで「親和性」とは、異なるウイルスが特定の宿主動物種、またはそれらの種内の特定の細胞型を優先的に標的とするように進化してきた様子のことを指す。
【0049】
ここで「遺伝子治療」とは、遺伝的または後天的な疾患もしくは病期を治療する、あるいは予防するために目的遺伝物質(例えば、DNAまたはRNA)を導入することを指す。目的遺伝物質は、生体内での産生が望まれている産物(例えば、タンパク質、ポリペプチド、または機能性RNA)をコードする。例えば、目的遺伝物質は、治療上価値のある、酵素、ホルモン、受容体、またはポリペプチドをエンコードし得る。
【0050】
ここで「CAGプロモーター」とは、サイトメガロウイルス初期エンハンサーエレメントとニワトリβ−アクチンプロモーター(すなわち、配列番号3)とによって形成された組み合わせのことを指す(Alexopoulou A, et al., BMC Cell Biology 2008; 9(2): 1-11参照)。
【0051】
ここで「hATTプロモーター」とは、ヒトalpha1−アンチトリプシンプロモーター(すなわち、配列番号4)のことを指す(Hafenrichter H, et al., Blood 1994; 84: 3394-3404参照)。
【0052】
ここで「ウイルスベクター粒子」とは、生体に遺伝子を輸送させるために用いられる、遺伝的に改変したウイルスのことを指す。ウイルスベクター粒子は、ウイルスゲノムを運ぶ。ウイルスゲノムは、ウイルスベクター粒子の産生に用いられる発現ベクター中のITRの間に位置するヌクレオチド配列を含む。アデノ随伴ウイルスベクター粒子は、AAVと呼ばれる。ここで。「AAVベクター」とは、アデノ随伴ウイルスベクター粒子のことを指す。
【0053】
〔発明の詳細な説明〕
ある好ましい実施の形態において、本発明の第1の態様の配列は、配列番号2のタンパク質をコードする配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも85%の配列同一性を有する。配列同一性は、少なくとも87%であることが好ましく、少なくとも90%であることがより好ましく、少なくとも95%であることがさらに好ましく、少なくとも98%であることがよりさらに好ましく、少なくとも99%であることが最も好ましい。より好ましい実施の形態において、本発明の第1の態様の配列は、配列番号1のヌクレオチド配列である。別の実施の形態において、本発明は、配列番号1のヌクレオチド配列または当該配列の生物活性変異体に関する。生物活性変異体は、配列番号1のヌクレオチド配列と同じ生物活性と少なくとも85%の配列同一性とを有する分子を含む。ここで、「生物活性」とは、配列番号1のヌクレオチド配列が、安定性が増した結果高い翻訳効率を示すメッセンジャーRNAに転写でき、その結果高いレベルの活性ヒトスルファミダーゼの発現を可能にすることを指す。
【0054】
第2の態様の好ましい実施の形態において、遺伝子構築物は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも85%、または、好ましくは87%、90%、95%、98%、99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。より好ましい実施の形態において、遺伝子構築物は、配列番号1のヌクレオチド配列を含む。遺伝子構築物は、異なる要素が特定かつ所望の方法で改変されている核酸分子である。これらの要素は、中でも、複製配列、制御配列、コード配列、マルチクローニング配列、または組み換え配列であってもよい。ある好ましい実施の形態において、遺伝子構築物はベクターである。ベクターは、細胞に遺伝物質を転送するために使用される核酸分子である。前記遺伝物質とは別に、ベクターは、プロモーターもしくはオペレーターのような、転写のための制御要素、転写調節因子結合領域もしくはエンハンサー、及び翻訳を開始または終了するための制御要素を含む種々の機能的要素を含んでもよい。ベクターとしては、プラスミド、コスミド、ウイルス、ファージ、組み換え発現カセット、およびトランスポゾンが挙げられるが、これらに限定されない。アデノ随伴ベクター(AAV)は、ウイルスベクター粒子であるので、それらは、核酸分子ではなく、生体に遺伝子を輸送させるために用いられる遺伝的に改変したウイルスである。
【0055】
本発明の第2の態様の好ましい実施の形態において、遺伝子構築物は、目的遺伝子を転写・翻訳するために用いられるベクターであり、通常、プロモーターによって制御される。プロモーターは、目的遺伝子の翻訳を制御するヌクレオチド配列である。プロモーターは、目的遺伝子に操作可能に連結されている。
【0056】
別の好ましいベクターは、アデノ随伴ベクターである。ある好ましい実施の形態において、アデノ随伴ベクターは、血清型が1、2、5、7、8、または9のアデノ随伴粒子を生成するために用いられる。より好ましい実施の形態において、血清型は9である。アデノ随伴ベクターは、パルボウイルス科のアデノ随伴ウイルス(AAV)のゲノムに由来するベクターである。AAVゲノムは、一本鎖デオキシリボ核酸(一本鎖DNA)からなる。AAVは、ヒトに感染するが、非病原性である(すなわち、病気を誘発しない)。それらは、分裂細胞と非分裂細胞との両方に感染することができ、それらの親和性は、血清型に応じて変化する。血清型は、それらのキャプシド抗原に応じたグループ内のウイルスの分類である。AAVの血清型は、そのキャプシドタンパク質によって決まるが、ウイルス親和性を定義し、特定の細胞型への参入を可能にする。アデノ随伴ベクター粒子の製造は下記のとおりである。
【0057】
第2の態様の第1の好ましい実施の形態において、前記発現ベクターは、配列番号1のヌクレオチド配列に操作可能に結合されたCAGプロモーターを含む。
【0058】
好ましいベクターは、CAGプロモーターを含む発現ベクターであり、プロモーター配列は、配列番号3に記載のものである。したがって、本発明の第2の態様の一実施の形態は、CAGプロモーターを含む発現ベクターであり、プロモーター配列は、MPSの治療に適した配列番号3に記載のものである。
【0059】
第2の態様の第2の好ましい実施の形態において、前記発現ベクターは、配列番号1のヌクレオチド配列に操作可能に結合されたhAATプロモーターを含む。
【0060】
好ましいベクターは、肝特異hAATプロモーター含む発現ベクターであり、プロモーター配列は、配列番号3に記載のものである。したがって、本発明の第2の態様の一実施の形態は、hAATプロモーターを含む発現ベクターであり、プロモーター配列は、MPSの治療に適した配列番号4に記載のものである。
【0061】
本発明の別の態様は、本発明の第1の態様のヌクレオチド配列または本発明の第2の態様の遺伝子構築物もしくは発現ベクターを担持する、発現ベクターとも呼ばれるウイルスベクター粒子を指す。
【0062】
好ましい発現ベクターは、血清型が1、2、5、7、8、または9である。より好ましいウイルスベクター粒子は、血清型が9である。
【0063】
好ましい発現ベクターは、血清型が9であり、配列番号1のヌクレオチド配列に操作可能に結合されたCAGプロモーターを有するウイルスゲノムを含む。
【0064】
好ましい発現ベクターは、血清型が8または9であり、配列番号1のヌクレオチド配列に操作可能に結合されたhAATプロモーターを有するウイルスゲノムを含む。
【0065】
好ましい発現ベクターは、血清型が9であり、配列番号1のヌクレオチド配列に操作可能に結合されたhAATプロモーターを有するウイルスゲノムを含む。
好ましい実施の形態において、前記発現ベクターは、AAV−CAG−co−hu−SFMDであり、より好ましくは、AAV9−CAG−co−hu−SFMDである。
【0066】
さらに別の好ましい実施の形態において、前記発現ベクターは、AAV−hAAT−co−hu−SFMDであり、より好ましくは、AAV8−hAAT−co−hu−SFMDまたはpAAV9−hAAT−co−hu−SFMDである。HAATプロモーターが使用されているときに最も好ましく利用されるベクターは、AAV9−hAAT−co−hu−SFMDである。
【0067】
第3の態様の好ましい実施の形態において、前記医薬組成物は、非経口投与によって投与される。非経口投与とは、注射または点滴としての医薬組成物の投与経路のことを指す。非経口投与としては、例えば、静脈注射、皮下注射、大槽内注射、および筋肉注射がある。好ましくは、前記医薬組成物は、静脈内投与又は大槽内投与によって投与される。
【0068】
別の好ましい実施の形態において、前記医薬組成物は、本発明のヌクレオチド配列、遺伝子構築物、ウイルスベクター粒子、または発現ベクターを治療に有効な量だけ含む。
【0069】
第4の態様の好ましい実施の形態において、本発明のヌクレオチド配列、遺伝子構築物、発現ベクター、ウイルスベクター粒子、または医薬組成物は、薬剤として使用される。好ましい実施の形態において、体内でスルファミダーゼ活性を増加させるために使用される。
【0070】
別の好ましい実施の形態において、本発明のヌクレオチド配列、遺伝子構築物、発現ベクター、ウイルスベクター粒子、または医薬組成物は、酵素補充または遺伝子治療、好ましくは、遺伝子治療のための薬剤として使用される。本発明者らは、当該技術分野で公知の他のアプローチよりも有効なMPSIIIAの治療のための新規な遺伝子治療のアプローチを提案する。このアプローチは、スルファミダーゼを発現しているAAVベクターに基づいている。酵素補充療法(ERT)とは、特定の酵素が欠損または欠如した患者に酵素を補充することからなる治療法である。この酵素は、通常、組み換えタンパク質として産生され、患者に投与される。
【0071】
さらなる実施の形態において、本発明のヌクレオチド配列、遺伝子構築物、発現ベクター、ウイルスベクター粒子、または医薬組成物は、好ましくは遺伝子治療を通して、ムコ多糖症の治療、好ましくは、ムコ多糖症IIIA型またはサンフィリポ症候群の治療のための薬剤として使用される。ムコ多糖症III型症候群のうち、サブタイプAは、本発明による治療が特に効く。
【0072】
第5の態様の好ましい実施の形態において、本発明の発現ベクターを製造する方法が請求される。この方法は下記の工程を含む:
i)第1のAAV末端反復と第2のAAV末端反復との間に介在する配列番号1のヌクレオチド配列を含み、配列番号1のヌクレオチド配列にCAGまたはhAATプロモーターが操作可能に連結された第1のベクターと、AAVrep遺伝子とAAVcap遺伝子とを含む第2のベクターと、アデノウイルスヘルパー機能を含む第3のベクターとを用意する工程、
ii)工程i)のベクターをコンピテント細胞に同時トランスフェクトする工程、
iii)工程ii)の形質転換された細胞を培養する工程、及び
iv)工程iii)の培養物から前記発現ベクターを精製する工程。
【0073】
ある好ましい実施の形態において、第1ベクターにおけるAAV第1及び第2の末端反復は、AAV血清型2からのITRである。別の好ましい実施の形態において、第2のベクターにおけるAAVrep遺伝子は、AAV血清型2からのものである。さらに別の好ましい実施の形態では、第二のベクターにおけるAAVcap遺伝子は、AAV血清型1、2、5、7、8、または9からのものである。より好ましくは、第2のベクターにおけるAAVcap遺伝子は、AAV血清型9からのものである。別の好ましい実施の形態において、コンピテント細胞は、HEK293細胞である。
【0074】
ウイルスベクターは、細胞をトランスフェクトし、かつ、過度の悪影響なしでまたは医学的に許容される生理学的効果で治療上の利益を提供するのに十分なレベルの遺伝子導入と発現をもたらすのに十分な量で投与され、医療分野の当業者によって決定することができる。
【0075】
第6の態様の好ましい実施の形態において、本発明の医薬組成物を製造する方法が請求される。この方法は、本発明の医薬組成物を得るために、本発明のヌクレオチド配列、遺伝子構築物、ウイルスベクター粒子、医薬組成物、投与を円滑にするための薬学的に許容される賦形剤または担体のいずれかを組み合わせることを含む。前記担体は、例えば、水または緩衝食塩水、防腐剤を含んでいてもいなくてもよい。前記医薬組成物は、投与時または溶液中で再懸濁のために凍結乾燥してもよい。
【0076】
第7の態様の好ましい実施の形態において、本発明のヌクレオチド配列、遺伝子構築物、ウイルスベクター粒子、発現ベクター、または医薬組成物でIIIA型ムコ多糖症の被験者を治療する方法が請求される。本発明に係るヌクレオチド配列、遺伝子構築物、ウイルスベクター粒子、発現ベクター、または医薬組成物の投与計画および投与量は、当該技術分野で公知の投薬量のプロトコルに応じて決定することができる。ある好ましい実施の形態において、本発明に係るヌクレオチド配列、遺伝子構築物、ウイルスベクター粒子、発現ベクター、または医薬組成物は、投与回数が1回である。
【0077】
さらなる実施の形態において、MPSの遺伝子治療ための医薬組成物は、配列番号1のヌクレオチド配列と90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む発現ベクターの非経口投与に存する。
【0078】
別のさらなる実施の形態において、CAGプロモーターと配列番号1のヌクレオチド配列と95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列とを含むウイルスベクターが、筋肉注射によるリソソーム蓄積症(LSD)の遺伝子治療に使用される。
【0079】
別のさらなる実施の形態において、CAGプロモーターと配列番号1に記載のヌクレオチド配列と87%の配列同一性を有するヌクレオチド配列とを含む血清型1のAAVベクターが、MPSを治療するための薬剤として使用され、静脈内投与される。
【0080】
別の付加的な実施の形態において、配列番号1に記載のヌクレオチド配列と98%の配列同一性を有するヌクレオチド配列と遍在プロモーターとを含む医薬組成物が、病気を治療するために非経口的に投与される。
【0081】
一般的な用語で本発明を説明したが、本発明は、実例として提示される以下の例を参照することによってより容易に理解されるであろう。ただし、本発明は、以下の例によって限定されるものではない。
【0082】
(基本手順)
(1.組み換えAAVベクター)
本明細書に記載されたAAVベクターは、三重トランスフェクションにより構築した。ベクターを作製するために必要な原料は、(E1遺伝子を発現している)HEK293細胞、アデノウイルス機能を供するヘルパープラスミド、血清型2からのAAVrep遺伝子及び所望の血清型(すなわち、AAV1、AAV2、AAV5、AAV7、AAV8、AAV9)からのcap遺伝子を供するヘルパープラスミド、並びにITR及び目的構築物を有するバックボーンプラスミドであった。
【0083】
スルファミダーゼ発現AAVベクターを生成するために、ユビキタスハイブリッドCAGプロモーターまたは肝特異hAATプロモーターの制御下で、マウススルファミダーゼのcDNAをAAVプラスミドバックボーンにクローニングした。
【0084】
改変した三つのプラスミドを用いてHEK293細胞をヘルパーウイルス非存在下でトランスフェクトすることによって、ベクター(ウイルスベクター粒子)を生成した(Matsushita T, et al., Gene Ther. 1998; 5:938-945、 Wright J, et al., Mol. Ther. 2005; 12:171-178参照)。10%FBS(胎児ウシ血清)で補足したDMEM(ダルベッコー修飾イーグル培地)を入れたローラボトル(RB)(コーニング社、コーニング市、ニューヨーク州、米国)で細胞を70%の密集度になるまで培養し、その後、1)ウイルスITR(上述)に挟まれた発現カセットを担持するプラスミド、2)AAVrep2と対応するcap(cap1およびcap9遺伝子)を担持するプラスミド、および3)アデノウイルスヘルパー機能を有するプラスミドヘルパーを同時トランスフェクトした。ベクターは、標準プロトコルや前述の最適化プロトコルのいずれかを用いて、2回連続して、塩化セシウム勾配によって精製した(Ayuso E, et al., Gene Ther. 2010; 17:503-510参照)。ベクターは、PBSに対して透析し、濾過し、定量PCR(定量的ポリメラーゼ連鎖反応)によって滴定し、使用するまで−80℃で保存した。
【0085】
(a.pAAV−CAG−mu−SFMD−WPREの構築)
マウススルファミダーゼcDNAを出発原料(クローンID:D330015N16、;理研、埼玉県、日本)として利用した。cDNAをプラスミドpFLCI−Sgshに入れた。高忠実度のPCRを行い、プライマーで両末端にMluI制限酵素部位を含むスルファミダーゼコード領域を増幅した。センスおよびアンチセンスのプライマーの配列はそれぞれ、配列番号5(Fw)CTTACTTATGACGCGTATGCACTGCCCGGGACTGおよび配列番号6(Rv)TATCCTATCGACGCGTTCAGAGTTCATTGTGAAGCGGTCであった。
【0086】
事前に生成しておいたバックボーンプラスミドpAAV−CAG−WPREは、AAV2ゲノムからの両ITR、CAGプロモーター、WPREエレメント、およびウサギβ−グロビンのポリAシグナルを含んでいた。CAGプロモーターは、CMV初期/中間エンハンサーとニワトリβ−アクチンプロモーターとから成るハイブリッドプロモーターである。このプロモーターは、遍在的に強力な発現を動因することができる。ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)とは、さまざまな種類のプラスミドまたはウイルス遺伝子ベクターにおいてシス作用性調節モジュールとして広く使われているヘパドナウイルス配列である。WPREは、遺伝子導入カセットの3’非翻訳領域に入れると、核と細胞質との両方のmRNAレベルを増加させることにより、導入遺伝子の産生を高める(Zanta-Boussif M, et al., Gene Ther. 2009; 16:605-619参照)。
【0087】
PCRで増幅したスルファミダーゼコード領域をプラスミドのAAVバックボーンpAAV−CAG−WPREのMluI制限酵素部位にクローンニングし、得られたプラスミドをpAAV−CAG−mu−SFMD−WPREと名付けた(配列番号7参照)。
【0088】
(b.pAAV−CAG−mu−SFMDの構築)
プラスミドpAAV−CAG−mu−SFMD−WPREにおけるWPREエレメントは、二つのEcoRI制限酵素部位に隣接している。pAAV−CAG−mu−SFMDプラスミド(受託番号DSM24818)を生成するために、pAAV−CAG−mu−SFMD−WPREプラスミドは、WPRE配列を除去するために、EcoRIで消化し、その後再連結した(配列番号8参照)。
【0089】
(c.pAAV−CAG−co−hu−SFMDの構築)
pAAV−CAG−mu−SFMDプラスミドをMlul及びEcoRIで消化し、マウススルファミダーゼコード領域を除去した。その後、コドン最適化ヒトスルファミダーゼ(co−hu−SFMD)のcDNAを消化し、同じ制限部位にクローニングし、pAAV−CAG−CO−HU−SFMDプラスミド(受託番号DSM24817)を生成した(配列番号9参照)。
【0090】
(d.AAV9−CAG−co−hu−SFMDの構築)
pAAV−CAG−CO−HU−SFMDプラスミド、アデノウイルスヘルパー機能をコードするプラスミド、AAV2repおよびAAV9cap遺伝子をコードするプラスミドを293HEK細胞に同時トランスフェクトすることによって、AAV9−CAG−co−hu−SFMDを得た。
【0091】
(e.pGG2−hAAT−mu−SFMDの構築)
マウススルファミダーゼコード領域は、Mlulで消化することによりpAAV−CAG−mu−SFMD−WPREプラスミドから切り出した。その後、この領域をAAVプラスミドバックボーンpGG2−HAATのMlul部位にクローンニングし、pGG2−HAAT−mu−SFMDプラスミド(受託番号DSM24819)を得た(配列番号10参照)。
【0092】
(f.pGG2−hAAT−co−hu−SFMDの構築)
コドン最適化ヒトスルファミダーゼコード領域は、Mlul−EcoRIで消化することによりpAAV−CAG−co−hu−SFMDプラスミド(受託番号DSM24817)から切り出した。pGG2−hAAT−mu−SFMDプラスミド(受託番号DSM24819)をMlulで消化し、MU−SFMD遺伝子を除去し、その後、この部位にコドン最適化ヒトスルファミダーゼコード領域を平滑末端連結によってクローニングした。得られたプラスミドをpGG2−hAAT−co−hu−SFMDと名付けた(配列番号11)。
pGG2−hAAT−co−hu−SFMDプラスミドには、両AAV2−ITR、hAATプロモーター、およびSV40由来のポリアデニル化シグナルが含まれていた。
【0093】
(g.AAV9−hAAT−co−hu−SFMD及びAAV8−hAAT−co−hu−SFMDの構築)
改変を加えた三つのプラスミドを用いてHEK293細胞をヘルパーウイルス非存在下でトランスフェクトすることによって、ベクターを生成した(上記Matsushita, 1998および上記Wright, 2005参照)。10%FBS(胎児ウシ血清)で補足したDMEMを入れたローラボトル(RB)(コーニング社、コーニング市、ニューヨーク州、米国)で細胞を70%密集度になるまで培養し、その後、1)ウイルスITR(pGG2−hAAT−co−hu−SFMD)に挟まれた発現カセットを担持するプラスミド、2)AAVrep2と対応するcap遺伝子(cap8または9)を担持するプラスミド、および3)アデノウイルスヘルパー機能を有するプラスミドヘルパーを同時トランスフェクトした。ベクターは、標準プロトコルや前述の最適化プロトコルのいずれかを用いて、2回連続して、塩化セシウム勾配によって精製した(上記Ayuso, 2010参照)。ベクターは、PBSに対して透析し、濾過し、定量PCRによって滴定し、使用するまで−80℃で保存した。
【0094】
pGG2−hAAT−mu−SFMDプラスミドには、両AAV2−ITR、hAATプロモーター、およびSV40由来のポリアデニル化シグナルが含まれていた。hAATプロモーターは、アポリポタンパク質Eからの肝細胞制御領域(HCR)エンハンサーの4縦列反復とヒトα−アンチトリプシンプロモーターとから成るハイブリッドプロモーターであり、その発現は、肝細胞に限定されている(Mingozzi F, et al., J. Clin. Invest. 2003; 111:1347-1356)。
【0095】
本発明のベクターは、当該技術分野において周知の分子生物学技術に従って構築された(Brown T, “Gene Cloning” (Chapman & Hall, London, GB, 1995)、Watson R, et al., “Recombinant DNA”, 2nd Ed. (Scientific American Books, New York, NY, US, 1992)、Alberts B, et al., “Molecular Biology of the Cell” (Garland Publishing Inc., New York, NY, US, 2008)、Innis M, et al., Eds., “PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications” (Academic Press Inc., San Diego, CA, US, 1990)、Erlich H, Ed., “PCR Technology. Principles and Applications for DNA Amplification” (Stockton Press, New York, NY, US, 1989)、Sambrook J, et al., “Molecular Cloning. A Laboratory Manual” (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, US, 1989)、Bishop T, et al., “Nucleic Acid and Protein Sequence. A Practical Approach” (IRL Press, Oxford, GB, 1987)、Reznikoff W, Ed., “Maximizing Gene Expression” (Butterworths Publishers, Stoneham, MA, US, 1987)、Davis L, et al., “Basic Methods in Molecular Biology” (Elsevier Science Publishing Co., New York, NY, US, 1986)、およびSchleef M, Ed., “Plasmid for Therapy and Vaccination” (Wiley-VCH Verlag GmbH, Weinheim, DE, 2001)参照)。
【0096】
(2.動物)
類似遺伝子型C57Bl/6スルファミダーゼ欠損マウスのコロニー(MPSIIIA)を用いた(Crawley A, et al., Brain Res. 2006; 1104:1-17参照)。罹患したMPSIIIAマウス及び健康な対照マウスは、異型接合の創始マウスから同系交配された。遺伝子型は、前述したように、変異を包含する配列を増幅し、その後MspA1I制限酵素で消化する、テールクリップしたサンプルからのゲノムDNAのPCR分析によって決定した(Bhattacharyya R, et al., Glycobiology 2001; 11:99-103参照)。マウスは、通常の食餌(Panlab社、バルセロナ市、スペイン)を不断給餌し、12時間の明暗サイクル(午前9時に点灯)の下で維持した。
【0097】
(3.ベクター投与とサンプル採取)
AAVベクターを静脈内輸送させるために、総量1012の適切なAAVベクターのベクターゲノムを生後2ヶ月のMPSIIIA動物に尾静脈から注射した。筋肉内注射のために、生後2ヶ月のPSIIIA動物にケタミン(100mg/kg)とxylacine(10mg/kg)との混合物で麻酔をかけ、総量1012の適切なAAVベクターのベクターゲノムを後肢の六つの筋肉(両足の大腿四頭筋、腓腹筋、及び前脛骨筋)に注射した。生後10ヵ月の時点で、マウスに麻酔をかけた後、組織から血液を完全に抜くため、10mlのPBSで経心腔的に灌流した。脳全体や複数の体細胞組織(肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、肺、心臓、骨格筋、睾丸を含む)を採取し、液体窒素で凍結させ−80℃で保存、または、後続の組織学的分析のためにホルマリンに浸漬した。
【0098】
(4.RNA分析)
全RNAは、TriPure分離試薬(Roche Diagnostics社、バルセロナ市、スペイン)を用いて、骨格筋や肝臓のサンプルから得られ、ノーザンブロットにより分析した。ブロットは、Ready−to−Go DNA Labelling Beads(Amersham Biosciences社、ピスカタウェイ市、ニュージャージー州、米国)を用いたランダムプライミングによる32P−dCTPで標識付けしたマウススルファミダーゼプローブとハイブリダイズさせた。
【0099】
(5.スルファミダーゼ活性とグリコサミノグリカン定量)
肝臓、骨格筋、脳のサンプルを水中で超音波処理し、前述したように、スルファミダーゼ活性を4−メチルウンベリフェロン由来の蛍光基質(Moscerdam基質、Oegstgeest市、オランダ)を含んだ上清中で分析した(Karpova E, et al., J. Inherit. Metab. Dis. 1996; 19:278-285参照)。スルファミダーゼ活性レベルは、ブラッドフォードタンパク質アッセイ(Bio-Rad、Hercules社、カリフォルニア州、米国)を用いて定量し、総タンパク量に対して正規化した。
【0100】
グリコサミノグリカン(GAG)定量のために、組織試料を秤量した後、プロテイナーゼKで消化し、抽出物を遠心分離や濾過により清澄化した。組織抽出物中および尿中GAGレベルは、標準として4−硫酸コンドロイチンを含んだ硫酸化グリコサミノグリカンBlyscanキット(Biocolor社、キャリクファーガス、アントリム州、英国)を用いて決定した。組織中のGAGレベルは、組織の湿重量に対して正規化し、尿中のGAGレベルは、特定のキット(HoribaABX、アービン市、カリフォルニア州、米国)で測定したクレアチニン濃度に対して正規化した。
【0101】
(6.組織学的分析)
組織は、ホルマリンで12〜24時間固定し、パラフィン切片に埋め込まれ、その後、熱によるエピトープ検索(クエン酸緩衝液、pH6)を行った。LAMP1の免疫組織化学的検出のため、1:100で希釈したラット抗LAMP1抗体(1D4B;Santa Cruz Biotechnology社、サンタクルーズ、カリフォルニア州、米国)と共に4℃で一晩パラフィン切片をインキュベートし、その後、1:300のビオチン化したウサギ抗ラット抗体(Dako社、Glostrup市、デンマーク)と共にインキュベートした。切片を1:100のABC−ペルオキシダーゼ染色キット(Thermo Scientific社、ウォルサム市、マサチューセッツ州、米国)でインキュベートすることによりLAMP1信号を増幅し、3,3−ジアミノベンジジン(Sigma-Aldrich社、セントルイス市、ミズーリ州、米国)をクロモゲンとして使用することにより可視化した。光学顕微鏡(Eclipse E800;ニコン、東京、日本)によって明視野像を得た。パルブアルブミンとカルビンジン免疫染色のために、2000:1で希釈したウサギ抗カルビンジンD28K(Swant社、マルリー市、スイス)または1:100で希釈したウサギ抗パルブアルブミン(Swant社、マルリー市、スイス)と共に4℃で一晩パラフィン切片をインキュベートした。その後、試料をビオチン化ヤギ抗ウサギIgG(Vector Labs.社、バーリンゲーム市、カリフォルニア州、米国)と共にインキュベートした後、ストレプトアビジン−アレクサ488(1:300;Molecular Probes、Invitrogen社、カールスバッド市、カリフォルニア州、米国)と共にインキュベートし、TOPRO−3で核を染色した。最後に、共焦点顕微鏡(Leica Microsystems社、ハイデルベルク市、ドイツ)によって画像を得た。
【0102】
二重免疫染色LAMP1とMac2のために、まず100:1のラット抗LAMP1抗体で、次いで300:1のビオチン化ウサギ抗ラット抗体で切片を4℃で一晩インキュベートし、その後、ストレプトアビジン−アレクサ488(1:300)でインキュベートした。その後、切片を1:50のウサギ抗Mac2と共にインキュベートした後、1:300のビオチン化ヤギ抗ウサギと共にインキュベートし、その後、ストレプトアビジン−アレクサ568(1:300;Molecular Probes社、Invitrogen社、カールスバッド市、カリフォルニア州、米国)でインキュベートした。最後に、Hoechst(1:100;Sigma-Aldrich社、セントルイス、ミズーリ州、米国)で核を染色した。
【0103】
(7.ウエスタンブロット分析)
小脳の半分をタンパク質の溶解緩衝液中で均質化した。タンパク質の10μgを10%(wt/vol)のSDS−PAGE上に載せ、ポリビニリデンジフルオリド膜に転写し、カルビンジンに対する一次抗体(Swant社、マルリー市、スイス)とα−チューブリン(Abcam社、ケンブリッジ市、マサチューセッツ州、米国)を用いて4℃で一晩プローブした。セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識ブタ抗ウサギ抗体(Dako社、Glostrup市、デンマーク)とECL Plusウェスタンブロッティング検出試薬((Amersham Biosciences社、ピスカタウェイ市、ニュージャージー州、米国)を用いて検出を行った。
【0104】
(8.透過型電子顕微鏡分析)
マウスをイソフルラン(Isofluo, Labs. Esteve、バルセロナ市、スペイン)の過剰投与により犠牲死させ、および1mlの2.5%グルタルアルデヒドおよび2%パラホルムアルデヒドで下大静脈を介して灌流した。肝外側葉と小脳の山頂のほんの一部(約1mm)を薄く切り、切片を同じ固定液中で4℃2時間インキュベートした。冷カコジル酸緩衝液で洗浄した後、標本を1%四酸化オスミウムで後固定し、水性酢酸ウラニルで染色し、等級エタノール系を通して脱水し、エポキシ樹脂に包埋した。樹脂ブロックから得た超薄切片(600〜800Å)をクエン酸鉛で染色し、透過型電子顕微鏡(H-7000、日立製作所、東京、日本)で調べた。
【0105】
(9.統計分析)
すべての結果は、平均値±標準誤差として表されている。統計比較は、t検定または一元配置ANOVAのいずれかを使用して行われた。統計的有意性は、P<0.05として検討した。
【0106】
〔実施例〕
(実施例1:AAV1−CAG−mu−SFMD−WPRE筋肉内輸送)
総量1012のAAV1−CAG−mu−SFMD−WPREベクターのベクターゲノムを、生後2ヶ月のオス及びメスのMPSIIIAマウスにおける後肢の六つの筋肉(両足の大腿四頭筋、腓腹筋、及び前脛骨筋)に注射した。
【0107】
投与8か月後、注射を受けた筋肉では、高レベルのベクター由来のスルファミダーゼ発現および活性が見られたが、血清(対照マウスの6〜7%)では、非常に低レベルのスルファミダーゼ活性が観察され、骨格筋からの分泌効率が低いことが示唆された(図1(a)および1B参照)。また、これらのマウスの肝臓では、非常に低いが有意なベクター由来のスルファミダーゼ発現が観察され、注射の瞬間に、ベクターが骨格筋から血液循環の中に漏れて肝臓に形質導入を生じさせたことが示された。達成された循環スルファミダーゼ活性のレベルは低かったが、GAGの蓄積の修正が肝臓に見られ、いくつかの体細胞組織(脾臓、心臓、膵臓)では、有意な減少が見られたが、他の体細胞組織(腎臓、肺)では見られなかった(図1(c)参照)。GAGの蓄積の減少は、脳内では達成されなかった。
【0108】
(実施例2:AAV8−CAG−mu−SFMD−WPREの筋肉内輸送)
総量1012のAAV8−CAG−mu−SFMD−WPREベクターのベクターゲノムを、生後2ヶ月の雄と雌のMPSIIIAマウスの後肢の六つの筋肉(両足の大腿四頭筋、腓腹筋、及び前脛骨筋)に注射した。
【0109】
投与8か月後、注射を受けた筋肉では、健康な対照動物と同レベルのスルファミダーゼ活性が見られた(図2(a)参照)。血清(対照マウスの10〜15%)では、低レベルのスルファミダーゼ活性が観察された(図2(b)参照)。また、肝臓へのベクター漏れが観察されたが、これは、ベクター由来のスルファミダーゼ発現および活性がAAV1を筋肉内注射したマウスよりも高いレベルで肝臓に見られたためである(実施例1参照)。GAGの蓄積の修正は、肝臓と脾臓に見られ、より大きな減少が、いくつかの体細胞組織(心臓、膵臓、膀胱)で観察されたが、腎臓や肺はほとんど修正されていないままであった(図2(c)参照)。GAGの蓄積の減少は、脳内では達成されなかった。
【0110】
(実施例3:AAV8−CAG−mu−SFMD−WPREの静脈内輸送)
総量1012のAAV8−CAG−mu−SFMD−WPREベクターのベクターゲノムを生後2ヶ月のMPSIIIAマウスに尾静脈から注射した。
【0111】
投与8か月後、処置を受けたオスは、肝臓において、対照マウスと同レベルのスルファミダーゼ活性が見られたが、メスでは4倍低かった(図3(a)参照)。同様に、循環スルファミダーゼ活性は、オスでは高く(対照マウスと同レベル)、メスでは低かった(対照マウスの25%)(図3(b)参照)。これら高レベルの循環スルファミダーゼにより、脾臓、心臓、肝臓におけるGAGの蓄積を修正することができ、肺では大幅に減少させることができたが、腎臓ではできなかった。肝臓のGAG定量化については、図3(c)に示す。GAGの蓄積の減少は、脳内では観察されなかった。
【0112】
(実施例4:AAV8−hAAT−mu−SFMDの静脈内輸送)
総量1012のAAV8−hAAT−mu−SFMDベクターのベクターゲノムを生後2ヶ月のMPSIIIAマウスに尾静脈から注射した。
【0113】
投与8か月後、処置を受けたオスは、肝臓において、対照動物よりも500%以上も高いレベルのスルファミダーゼ活性が見られた。メスの被験マウスでは、肝スルファミダーゼレベルは、対照被験マウスと同じレベルであった(図4(a)参照)。循環スルファミダーゼ活性は、メスよりオスのほうが一貫して高かった(オスの500%に対してメスでは160%)(図4(b)参照)。これら超生理学的レベルの循環スルファミダーゼにより、腎臓を含むすべての体の臓器におけるGAGの蓄積を修正することができた。肝臓のGAG定量化については、図4(c)に示す。
【0114】
処置を受けたオスは、低いレベルのスルファミダーゼ活性、及び脳内におけるGAGの蓄積の減少を示した(図5(a)および(b)参照)。処置を受けたオスの小脳のプルキンエ細胞を電子顕微鏡で観察したところ、より電子密度の低い含有物が見られた(図5(c)参照)。AAV8−hAAT−mu−SFMDベクター(「iv−AAV8−hAAT−mu−SFMD」)を用いた静脈内治療により、体の病変は矯正されたが、MPSIIIAマウスの神経変性特性は寛解させるにとどまった。
【0115】
皮質の超微細構造を透過型電子顕微鏡で分析した。MPSIIIA被験マウスは、処置群と無処置群との間で、後頭部皮質神経細胞の超微細構造に顕著な違いが認められなかった。処置を受けていないMPSIIIAマウスのニューロン周囲グリア細胞では、処置を受けた動物では事実上見られなかったリソソーム区画の拡大が明確に観察された(図10参照)。これらの結果から、高い循環スルファミダーゼ活性を持続することで、MPSIIIA被験マウスにおける神経変性を防げることが示唆された。
【0116】
生後17ヶ月までに、処置を受けていなかったオスのMPSIIIAマウスがすべて死んでしまっていたのに対して、iv−AAV8−hAAT−mu−SFMDで処置されたオスのマウスはまだ100%生存していた(生存期間中央値は、無処置群のオスのMPSIIIAマウスで14.2±0.5ヶ月であるの対して、処置群では18.8±0.9ヶ月であった。p=0.001)。このような改善は、メスのマウス群では、はっきりと認められず、被験マウスは、処置群、無処置群共に同様の生存率(生存期間中央値は、無処置群のメスのMPSIIIAマウスで13.1±0.5ヶ月であるの対して、処置群では13.9±1.2ヶ月であった。p=0.467)を示した。この結果は、血清および脳で測定したスルファミダーゼ活性のレベルがより低かったことと、メスの動物で観察したGAG減少の程度がより低かったことと一致している(図11参照)。
【0117】
iv−AAV8−hAAT−mu−SFMDで処置されたオスのMPSIIIAマウスの生存率が高かったことにより、肝臓特異的遺伝子導入によって得られた超生理学的レベルの循環スルファミダーゼの持続による治療可能性がさらに実証された。iv−AAV8−hAAT−mu−SFMDを用いた治療により、オスのMPSIIIA被験マウスの寿命が延びた(図11参照)。
【0118】
(実施例5:AAV9−CAG−mu−SFMDの静脈内輸送)
総量1012のAAV9−CAG−mu−SFMDベクターのベクターゲノムを生後2ヶ月のMPSIIIAマウスに尾静脈から注射した。
【0119】
処置群のマウスは、オス、メス共に高レベルの循環スルファミダーゼ(対照群に対して、オスは500%、メスは150%)を示し、両性のすべての体組織を効率よく修正した。また、脳へのAAV血清型9の形質導入の効率が高いことを考えると、両性の脳において、有意なスルファミダーゼ活性が観察され、脳のすべての部位でGAGの蓄積が修正された(図6(a)及び(b)参照)。MPSIIIAの特徴を示す神経炎症(星細胞症や小膠細胞症)は、AAV9で治療したマウスにおいて完全に正常化された。また、ロータロッドテストでは、AAV9で治療したマウスは、無処置群の動物よりも良好な結果を示した(図6(c)参照)。
【0120】
AAV9−CAG−mu−SFMDベクター(「iv−AAV9−CAG−mu−SFMD」)を用いた静脈内治療により、MPSIIIA動物の寿命が延びた(図12参照)。処置を受けていなかったオスのMPSIIIAマウスがすべて生後17ヶ月までに死んでしまっていたのに対して、iv−AAV9−CAG−mu−SFMDで処置されたオスのマウスは生後20ヶ月の時点でまだ100%生存していた(オスのMPSIIIAマウスの処置群と無処置群に対してそれぞれp<0.001、p=0.037)(図12参照)。メスのマウス群も同様の改善を示したが、オスほど印象的なものではなかった(メスのMPSIIIAマウスの処置群と無処置群に対してそれぞれp<0.063、p=0.057)。この結果は、iv−AAV9−CAG−mu−SFMDによる処置後にメスの動物の血清で測定したスルファミダーゼ活性がより低かったことと一致している。
【0121】
(実施例6:AAV9−CAG−mu−SFMDの大槽内輸送)
総量5×1010のAAV9−CAG−mu−SFMDベクターのベクターゲノムを生後2ヶ月の麻酔をかけたMPSIIIA動物の大槽内に総量5μl注射した。
【0122】
投与3ヶ月後、GAGの蓄積は、処置群の脳全体を通じて完全に修正された(図8参照)。また、処置群の肝臓には、ベクター由来のスルファミダーゼ発現が見られ、大槽内輸送後、いくつかのベクターが循環系(circulation)に到達し、肝臓に取り込まれることが示唆された。この結果と一致して、肝臓でもGAGの蓄積が正常化した。
【0123】
AAV9−CAG−mu−SFMDベクター(「ic−AAV9−CAG−mu−SFMD」)の大槽内輸送により、MPSIIIA動物の寿命が延びた(図12参照)。処置を受けていなかったオスのMPSIIIAマウスがすべて生後17ヶ月までに死んでしまっていたのに対して、ic−AAV9−CAG−mu−SFMDで処置されたオスのマウスは生後20ヶ月の時点でまだ100%生存していた(オスのMPSIIIAマウスの処置群と無処置群に対してそれぞれp<0.001、p=0.037)(図12参照)。メスのマウス群も同様の改善を示したが、オスほど印象的なものではなかった(メスのMPSIIIAマウスの処置群と無処置群に対してそれぞれp<0.063、p=0.057)。この結果は、ic−AAV9−CAG−mu−SFMDによる処置後にメスの動物の血清で測定したスルファミダーゼ活性がより低かったことと一致している。
【0124】
(実施例7:AAV9−CAG−co−hu−SFMD(コドン最適化されたヒトスルファミダーゼ)の静脈内輸送)
ベクター投与量を減少させるために、ヒトスルファミダーゼのコドン使用頻度を最適化した。このアプローチの目的は、スルファミダーゼmRNAを安定させ、その翻訳を増加させることで、同じベクター用量からスルファミダーゼの生産を高めるのに有利に働くことである。
【0125】
1012ウイルスゲノム(vg)のAAV9−CAG−hu−co−SFMDベクターを生後2ヶ月のMPSIIIAマウスに尾静脈を介して静脈内投与した。肝臓におけるスルファミダーゼのレベルが、非最適化された遺伝子と比べて少なくとも3倍増加した(図9参照)。
【0126】
(実施例8:AAV9−hAAT−co−hu−SFMDの静脈内輸送)
実施例7に記載されたものと同じ手順に従い、1012vgのAAV9−hAAT−co−hu−SFMDベクターを生後2ヶ月のMPSIIIAマウスに尾静脈を介して静脈内投与することにより処置した。スルファミダーゼのレベルは、実施例7と同じ方法で測定した。結果は、非最適化された遺伝子に対して大幅な増加を示している。
【0127】
(実施例9:AAV−CAG−GFP−WPREの異なる血清型の大槽内輸送)
脳脊髄液に投与した場合の異なるAAV血清型の脳内の指向性を評価するために、GFPレポーター遺伝子(CAG−GFP−WPRE構築物)を担持する5×1010ベクターゲノムのAAV1、AAV2、AAV5、AAV7、AAV8、及びAAV9ベクターMPSIIIAマウスに大槽内投与した。
【0128】
細胞の有意な形質転換は、すべての血清型によって橋で達成され、そのうち最も高い効果はAAV9によって、最も低い効果はAAV1によって達成された。小脳では、レポーター信号は、プルキンエニューロンにおいて、AAV8を除き、特にAAV1とAAV9で、また他の血清型でも、苔状繊維として形態学的に同定された軸索にそのほとんどが位置していた。より大きな遺伝子導入効率の違いは、遠い脳の領域における血清型の間で観察された。AAV9を注射した群においては、大脳皮質と嗅球、海馬で多くの細胞が形質導入され、AAV7群においては、より少ない程度に、一方、これらの部位におけるAAV1、AAV2、AAV5、またはAAV8血清型では、GFP陽性細胞体は観察されなかった。視床下部では、AAV9血清型がニューロンを効率的に形質導入し、AAV1血清型が少数の散在性GFP+細胞につながった。時折、GFP陽性の軸索がすべての群において脳全体にわたって観察することができたが、これは、大槽付近で感染したニューロンから投射されたものであると考えられる。AAV9ベクターは、異なる血清型の中で最も高い形質導入効率を示した(図7参照)。
【0129】
(実施例10:AAV9−CAG−CO−HU−SFMDの大槽内輸送の臨床用途への拡張性)
AAV9の大槽内輸送の臨床応用の可能性への第一歩として、マウスで観察された形質導入のパターンが、より関連性の高い脳の大きさを持つ動物で維持されたかどうかを評価した。この目的を達成するために、10.5×1012vg/kgのAAV9−CAG−GFP−WPREを健康なビーグル犬の大槽に輸送させた。注射した合計4匹の犬のうち、2匹(イヌ1および4)では、CFS形成速度(1ml/10分)と同程度のフラックスでウイルスベクター溶液を注入するためにポンプを使用し、他2匹(イヌ2および3)では、数秒でベクターを注入した。図13に、犬1からの採取したサンプル中のGFPの免疫検出を示す。延髄、橋、視床下部などの大槽に近い領域で強い標識が観察された(図13(b)、(c)、及び(d)参照)。小脳では、注入点の近くにあるにもかかわらず、形質導入された孤立プルキンエ細胞はほんのわずかであったのに対し、海馬では、大槽から遠くにあるにもかかわらず、歯状回の効率的な形質導入が生じた(図13(i)及び(j)参照)。CSFを介したウイルスの分布により、嗅脳、前頭葉、頭頂葉、後頭葉皮質などの注入点から遠い部位の形質導入が可能になり、それらの部位では、より表面に近い部位ほどがより大きい形質導入を示した(図13(e)、(h)、及び(f)参照)。最後に、ベクターは脊髄にも達し、GFPシグナルは、近くの神経節から腹側運動ニューロンと星状細胞で検出された(図13(a)参照)。4匹の犬すべてのGFPの局在の半定量的な比較により、ウイルス液の注入速度がAAV9ベクターの効能または分布に大きな影響を及ぼさなかったことが示唆された(表1参照)。
【0130】
最後に、AAV9の大槽内輸送後のマウスで行われた観察と同様に、GFPは、肝細胞の平均3.7%の肝細胞が形質導入されたビーグル犬の肝臓でも検出された(図14参照)。これらの結果により、大槽内輸送後におけるAAV9ベクターの全身分布が示唆された。
【0131】
【表1】
【0132】
(実施例11:コドン最適化されたヒトスルファミダーゼの機能効果(co−hu−SFMD)
ヒトスルファミダーゼcDNA配列(co−hu−SFMD)のコドン最適化されたバージョンを含む発現カセットを設計し、入手した。コドン最適化は、種に最も豊富に存在するtRNAを利用し、その特定の翻訳プロファイルを考慮に入れることによって、ヒトにおけるSFMDタンパク質の生産効率を高めるために行われた。マウスは、その人間との類似性及びマウス動物モデルの予測能から、実験の目的で利用された。
【0133】
この配列を活性スルファミダーゼの生産につながったことを確認するために、ユビキタスCAGプロモーターの制御下でco−hu−SFMDを発現させたAAV9ベクターを1×1012vgオスのMPSIIIAマウスに静脈内注射した。これらのマウスの血清中のスルファミダーゼ活性が健康な野生型動物と同様のレベルに達しており、試験期間(2ヶ月)中維持された(図15(a)参照)。この持続スルファミダーゼ活性は、AAV9輸送させたマウス導入遺伝子で観察されていたものと同様に、これらの動物の肝臓でGAGのコンテンツの正規化につながった(図15(b)参照)。
【0134】
本明細書に上述したすべての刊行物は、参照のためにその全体が本明細書に組み込まれている。
【0135】
前述の発明は、明確さと理解のために、少し詳しく説明してきたが、本発明と添付の請求項の真の範囲から逸脱することなく種々の形式および細部の変更が可能であるということは、本開示を読むことにより、当業者によって理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0136】
図1】AAV1−CAG−mu−SFMD−WPREの筋肉内輸送を示す。(a)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の骨格筋におけるスルファミダーゼ活性を示す。(b)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の血清におけるスルファミダーゼ活性を示す。(c)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の肝臓におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。
図2】AAV8−CAG−mu−SFMD−WPREの筋肉内輸送を示す。(a)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の骨格筋におけるスルファミダーゼ活性を示す。(b)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の血清におけるスルファミダーゼ活性を示す。(c)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の肝臓におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。
図3】AAV8−CAG−mu−SFMD−WPREの静脈内輸送を示す。(a)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の骨格筋におけるスルファミダーゼ活性を示す。(b)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の血清におけるスルファミダーゼ活性を示す。(c)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の肝臓におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。
図4】AAV8−HAAT−mu−SFMDの静脈内輸送を示す。(a)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の骨格筋におけるスルファミダーゼ活性を示す。(b)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の血清におけるスルファミダーゼ活性を示す。(c)は、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の肝臓におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。
図5】AAV8−hAAT−mu−SFMDの静脈内輸送後のMPSIIIAマウスの神経病変の改善を示す。(a)は、オスの対照マウス群、オスのMPSマウス群、オスの治療施行マウス群の脳の異なる部分(図示する)におけるスルファミダーゼ活性を示す。(b)は、脳の同じ部分におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。(c)は、小脳のプルキンエ細胞の透過型電子顕微鏡像を示す。
図6A】AAV9−CAG−mu−SFMDの静脈内輸送について、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の脳の異なる部分(図示する)におけるスルファミダーゼ活性を示す。
図6B】AAV9−CAG−mu−SFMDの静脈内輸送について、脳の同じ部分におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。
図6C】AAV9−CAG−mu−SFMDの静脈内輸送について、ロータロッド試験を加速させることによる運動機能の評価を示す。
図7】アデノ随伴ウイルス血清型1、2、5、7、8、9、GFPベクターの大槽内輸送後の脳形質導入を示す。
図8】AAV9−CAG−mu−SFMDベクターの大槽内輸送について、対照マウス群、MPSマウス群、治療施行マウス群の脳の異なる部分(図示する)におけるグリコサミノグリカン(GAG)定量を示す。
図9】AAV9−CAG−hu−co−SFMDの静脈内輸送について、対照マウス群、MPSマウス群、AAV9−CAG−mu−SFMD(非最適化遺伝子)またはAAV9−CAG−hu−co−SFMD(最適化遺伝子)のいずれかで治療したMPSマウス群の肝臓におけるスルファミダーゼ活性を示す。
図10】後頭葉皮質のニューロン周囲グリア細胞におけるリソソーム病変の軽減を示す。後頭葉皮質の皮質ニューロンおよびそれらに関連するグリア細胞を示す透過型電子顕微鏡像である。
図11】AAV8−hAAT−SFMDの静脈内投与で治療したオスとメスのマウスの生存率を示す。(a)は、オスのWTマウス群、オスのMPSIIIAマウス群、AAV8−hAAT−SFMDの静脈内投与で治療したオスのマウス群におけるカプラン−マイヤー生存率分析を示す。AAV媒介肝特異遺伝子治療を施すことによって、MPSIIIA動物の寿命が著しく延びた(p<0.001)。(b)は、メスのWTマウス群、メスのMPSIIIAマウス群、iv−AAV8−HAAT−SFMDで治療したメスのマウス群におけるカプラン−マイヤー生存率分析を示す。
図12】AAV9−CAG−mu−SFMDの大槽内および静脈内投与で治療したオスとメスのマウスの生存率を示す。(a)は、オスのWTマウス群、オスのMPSIIIAマウス群、AAV9で治療したオスのマウス群におけるカプラン−マイヤー生存率分析を示す。(b)は、メスのWTマウス群、メスのMPSIIIAマウス群、AAV9で治療したメスのマウス群におけるカプラン−マイヤー生存率分析を示す。
図13】大槽を介してAAV9−GFPを注射したイヌの中枢神経系および肝臓の切片におけるGFPの免疫組織化学的検出を示す画像であり、それぞれの画像は、(a)脊髄、(b)延髄のオリーブ体、(c)橋の縫線核、(d)視床下部核、(e)嗅脳、(f)後頭葉皮質、(h)前頭葉、(i)小脳、(j)海馬の歯状回に対応する。
図14】ヘマトキシリンで対比染色した肝切片におけるGFPの免疫組織化学的検出を示す。(a)は、イヌ1の代表的な画像を示し、(b)は、イヌ2の代表的な画像を示す。
図15】AAV9−co−hu−SFMDを静脈注射した動物における血清スルファミダーゼ活性と肝臓のGAG含有量を示す。(a)は、蛍光発生基質を用いて測定した血清中のスルファミダーゼ活性を示し、(b)は、ベクター投与後2ヶ月の肝臓中のGAG貯蔵を示す。
【受託番号】
【0137】
DSM24817
DSM24818
DSM24819
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]