(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066907
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】眼の屈折異常の治療
(51)【国際特許分類】
A61F 9/013 20060101AFI20170116BHJP
G02C 7/06 20060101ALI20170116BHJP
G02C 13/00 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
A61F9/013 110
G02C7/06
G02C13/00
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-520928(P2013-520928)
(86)(22)【出願日】2011年7月26日
(65)【公表番号】特表2013-533044(P2013-533044A)
(43)【公表日】2013年8月22日
(86)【国際出願番号】AU2011000940
(87)【国際公開番号】WO2012012826
(87)【国際公開日】20120202
【審査請求日】2014年5月7日
(31)【優先権主張番号】2010903334
(32)【優先日】2010年7月26日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】506170915
【氏名又は名称】ヴィジョン・シーアールシー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100085198
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 久夫
(74)【代理人】
【識別番号】100098604
【弁理士】
【氏名又は名称】安島 清
(74)【代理人】
【識別番号】100087620
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 範夫
(72)【発明者】
【氏名】ホー,アーサー
(72)【発明者】
【氏名】サンカリダーグ,パドマジャ,ラジャゴパル
(72)【発明者】
【氏名】スミス,アール,リオ,ザ サード
(72)【発明者】
【氏名】ホールデン,ブライアン,アンソニー
【審査官】
石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−293819(JP,A)
【文献】
特表平08−508588(JP,A)
【文献】
特表2006−513460(JP,A)
【文献】
特表2007−511803(JP,A)
【文献】
特表2009−524085(JP,A)
【文献】
特表2010−526563(JP,A)
【文献】
特表2011−501240(JP,A)
【文献】
特表2011−518355(JP,A)
【文献】
特表2012−517029(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/054986(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/034602(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0068490(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0088615(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0062380(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0323020(US,A1)
【文献】
仏国特許出願公開第02582416(FR,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102009053467(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/013
G02C 7/06
G02C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼における近視の進行に影響を及ぼす眼用レンズであって、
前記レンズは、
前記眼の中心窩の網膜によって受像すべき像を提供するための第1の屈折力プロファイルを有する中心光学ゾーンと、
前記眼の鼻側の周辺網膜の前方で受像すべき像を提供するための、前記第1の屈折力プロファイルと異なる第2の屈折力プロファイルを有する鼻側光学ゾーンと、
前記眼の側頭側の周辺網膜の前方で受像すべき像を提供するための、前記第1の屈折力プロファイルおよび前記第2の屈折力プロファイルと異なる第3の屈折力プロファイルを有する側頭側光学ゾーンと、
前記眼に前記レンズを方向付けるためのレンズ安定化機構と
を備え、
前記第1の屈折力プロファイルは鮮明な、または許容しうる、視覚をもたらすように選択され、
前記第2の屈折力プロファイルおよび前記第3の屈折力プロファイルは、近視の進行に影響を及ぼすように選択される、レンズ。
【請求項2】
眼における遠視の進行に影響を及ぼす眼用レンズであって、
前記レンズは、
前記眼の中心窩の網膜によって受像すべき像を提供するための第1の屈折力プロファイルを有する中心光学ゾーンと、
前記眼の鼻側の周辺網膜の後方で受像すべき像を提供するための、前記第1の屈折力プロファイルと異なる第2の屈折力プロファイルを有する鼻側光学ゾーンと、
前記眼の側頭側の周辺網膜の後方で受像すべき像を提供するための、前記第1の屈折力プロファイルおよび前記第2の屈折力プロファイルと異なる第3の屈折力プロファイルを有する側頭側光学ゾーンと、
前記眼に前記レンズを方向付けるためのレンズ安定化機構と
を備え、
前記第1の屈折力プロファイルは鮮明な、または許容しうる、視覚をもたらすように選択され、
前記第2および第3の屈折力プロファイルは、遠視の進行に影響を及ぼすように選択される、レンズ。
【請求項3】
前記レンズはコンタクトレンズまたは眼鏡レンズである、請求項1または2に記載のレンズ。
【請求項4】
前記レンズは角膜インプラントまたはオルソケラトロジーレンズを含み、前記第1乃至第3の屈折力プロファイルは前記眼の角膜を整形するように実現される、請求項1または2に記載のレンズ。
【請求項5】
前記中心光学ゾーンは前記眼の軸上視力を矯正するための屈折力を有する、請求項1または2に記載のレンズ。
【請求項6】
前記鼻側光学ゾーンは軸上屈折力に比べ相対的に大きな屈折力を有し、前記側頭側光学ゾーンは前記軸上屈折力に比べ相対的に小さい屈折力を有する、請求項1または2に記載のレンズ。
【請求項7】
前記側頭側光学ゾーンは軸上屈折力に比べ相対的に大きな屈折力を有し、前記鼻側光学ゾーンは前記軸上屈折力に比べ相対的に小さい屈折力を有する、請求項1または2に記載のレンズ。
【請求項8】
前記中心光学ゾーンは、前記鼻側光学ゾーンと前記側頭側光学ゾーンとの間にあり、前記中心光学ゾーンは、前記レンズの水平半経線にわたってそれぞれ異なる範囲まで延在するように、前記レンズを通る垂直経線を中心として非対称であり、前記垂直経線および水平経線は、安定化機構によってもたらされる前記レンズの向きを基準とする、請求項1または2に記載のレンズ。
【請求項9】
前記中心光学ゾーンは平らではなく、ピンぼけを矯正するための屈折力を備える、請求項8に記載のレンズ。
【請求項10】
前記鼻側光学ゾーンおよび前記側頭側光学ゾーンはどちらもほぼ一定の屈折力を鉛直方向に備え、前記鉛直方向は、安定化機構によってもたらされる前記レンズの向きを基準とする、請求項1または2に記載のレンズ。
【請求項11】
前記鼻側光学ゾーンおよび前記側頭側光学ゾーンは0.5mmと3mmの間の鉛直高さを有する、請求項1または2に記載のレンズ。
【請求項12】
前記中心光学ゾーンは前記眼の軸上視力を矯正するための屈折力を有し、前記レンズは、前記中心光学ゾーンの屈折力にほぼ等しい屈折力を前記鼻側光学ゾーンおよび前記側頭側光学ゾーンの上下に有する、請求項11に記載のレンズ。
【請求項13】
前記中心光学ゾーンは前記眼の軸上視力を矯正するための屈折力を有し、前記中心光学ゾーンはほぼ回転対称である、請求項1または2に記載のレンズ。
【請求項14】
前記中心光学ゾーンは前記眼の軸上視力を矯正するために屈折力を有し、前記中心光学ゾーンは鉛直方向に前記レンズの全体にわたって細長く、前記鉛直方向は安定化機構によってもたらされる前記レンズの向きを基準とする、請求項1または2に記載のレンズ。
【請求項15】
前記レンズは、光学ゾーンと担持部とを有するコンタクトレンズであり、前記中心光学ゾーンは前記鉛直方向に前記光学ゾーンのほぼ全体にわたって延在する、請求項14に記載のレンズ。
【請求項16】
前記鼻側光学ゾーンおよび前記側頭側光学ゾーンの一方は、周辺像を前記網膜上に位置付けるために選択された屈折力を有し、他方のゾーンは、周辺像を前記網膜外に位置付けるように選択された屈折力を有する、請求項1または2に記載のレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年7月26日に出願されたオーストラリア国特許出願第2010903334号の利益を主張するものであり、参照によりその内容全体を本願明細書に援用するものとする。
【0002】
本発明は、全般的には、眼の屈折異常を治療するための方法および装置に関する。特定の実施形態は、屈折異常の進行を遅らせる、および/または屈折異常の進行を阻止する、ことによって、屈折異常の進行速度に影響を及ぼすために適用されうる。特定の実施形態は、近視の進行を制御するために適用されうる。他の実施形態は、遠視の進行を制御するために適用されうる。
【背景技術】
【0003】
近視(近眼)は、遠くの物体にはぴったり焦点を合わせることはできないが、近くの物体にはぴったり焦点を合わせることができる眼の異常である。遠くの物体の像は網膜の前方で合焦される。すなわち、「遠見時に」眼の合焦力が強すぎる。この状態は、遠方の像を中心窩上に、または中心窩に近付けて、合焦させる負の屈折力を有するレンズの使用により矯正されうる。近視は、矯正レンズの使用にも拘らず視力障害の悪化に至る深刻かつ進行性の症状となりうる。近視は益々一般化しており、東南アジアの一部の国は、17才の児童の80%がこの症状を患っていると報告している。
【0004】
遠視(遠眼)は、遠方の物体には焦点を合わせることはできるが、近くの物体には焦点を合わせることができない異常である。遠視は、正の屈折力を有するレンズを用いて矯正されうる。
【0005】
正常な眼の発達、すなわち正視化(emmetropization)、プロセスは、遠見時および近見時の両方において良好な合焦、すなわち正視(emmetropia)、を維持するために、眼の長さを調整するフィードバックメカニズムによって調整されるということで概ね意見が一致している。このフィードバックメカニズムは、屈折異常を有する眼においては何らかの形で乱されるので、眼は長く成長しすぎて近視になり、十分に長く成長せずに遠視になるという点で概ね意見が一致しているが、このフィードバックメカニズムの性質、または近視および遠視の進行を如何に制御できるか、についての意見の一致はない。生化学的および光学的(焦点不良)メカニズムの両方が示唆されている。
【0006】
フィードバック刺激は眼の焦点不良と何らかの関係があると概ね想定されているが、問題は単純ではない。その理由は、進行性の近視においては、遠見視力を矯正するレンズを装用したとしても、症状が悪化しうる、すなわち眼が過度に伸長し続けるからである。
【0007】
光学的フィードバックメカニズムは、過度の近業による眼の調節努力の不足により何らかの形で混乱されると提示されている。この調節力不足は、一部の近視眼においては近見時の遠近調節の遅れ(不正確かつ不十分な調節)として現れてピンぼけをもたらし、さらなる望ましくない眼の軸方向伸長を誘発すると考えられる。
【0008】
この伸長を引き起こす刺激が除去されるだろうとの期待から、調節ストレスおよびピンぼけを軽減するために可能な方法として、眼鏡の二焦点レンズおよびプログレッシブアディションレンズ(PAL:progressive addition lens)が提案されている。米国特許第6,752,499号(アラー(Aller))には、近視の進行を制御するために、近点内斜位も示している近視眼に対して市販の二焦点コンタクトレンズを処方することが記載されている。近点内斜位固視ずれを有する近視眼には、遠用中心と近用中心の両方が同心のコンタクトレンズが用いられた。同心の遠用および近用ゾーンは、瞳孔内に位置する。
【0009】
米国特許第6,045,578号(コリンズ(Collins)ら)には、中心窩に存在する球面収差の程度および方向によって正視化を調整することが提案されている。若年近視者は不適切な眼の成長を促進する負の球面収差をより高レベルで有するので、正の球面収差をもたらす眼科用レンズの使用が軸方向の眼の成長ひいては近視の進行を防ぐであろうと提案されている。
【0010】
国際公開第200604440A2号(フィリップス(Phillips)ら)には、遠見時および近見時の中心窩でのピンぼけは、眼の過剰成長に対するフィードバック刺激を妨げることが提案されている。この国際公開は、(a)遠見時および近見時の両方における明視と、(b)遠見時および近見時の両方における近視性ピンぼけと、を同時に中心網膜にもたらす二焦点コンタクトレンズの使用を提案している。この場合もまた、この提案を用いると、視像が悪化することになる。
【0011】
米国特許第7,025,460号(スミス(Smith)ら)には、正視化のためのフィードバック刺激を支配するのは、中心窩ではなく、周辺網膜の光学状態であることを実証する動物実験の結果が記載されている。したがって、スミス(Smith)らは、視像の像面湾曲を操作することによって眼の中心の軸上焦点に対して軸外焦点を制御すると、近視および遠視(不十分な眼の長さに起因する近見視力の低下)の進行の抑制、遅延、または制御する方法がもたらされると提案している。
【0012】
図1および
図2は、スミス(Smith)らが正の像面湾曲を有する眼1をどのように描写しているかを示す。中心の軸上像点2は網膜3の前方(すなわち光の方向とは反対方向)にあるので、この眼は、オートリフラクタ、リフラクタヘッド、トライアルフレームなどの標準的技術を用いてアイケアプラクティショナには馴染みのある方法で測定された場合には、近視と見なされる。この代表的な眼において、視野角が大きい軸外周辺像点4は、網膜3の後方に(すなわち光の方向に)ある。したがって、この例の眼1は、周辺視野については相対的に遠視である。
図2は、中心から中間周辺視野5にかけては近視である(焦点が網膜3の前方にある)が、中間周辺から遠周辺視野6にかけては遠視である(焦点が網膜3の後方にある)眼1の相対的な像面湾曲グラフを示している。
【0013】
図3および
図4は、スミス(Smith)らが説明しているように、近視の進行を制御するための光学装置7が
図1および
図2の眼1のために如何に処方されるかを示している。この光学装置7は、負の相対像面湾曲8を眼1に生じさせるように設計されている。中心の軸上像9は中心窩11に鮮明に合焦されるので、良好な視力が得られる。この光学装置7は、周辺像点13をより前方に、すなわち網膜3の前方に(すなわち眼内の光の方向とは反対の方向に)合焦させるために十分な負の相対像面湾曲8を導入する。
【0014】
米国特許第7,665,842号(ホー(Ho)ら)には、周辺ピンぼけまたは別の収差がレンズによって矯正される視力優先ゾーンを1つ以上設けることが記載されている。このレンズは、この視覚優先ゾーン(単数または複数)の外側の別の領域にある周辺網膜の相対像面湾曲も制御する。
【0015】
特に近視の進行に関して、示唆されている屈折異常の進行の光学的(焦点不良)メカニズムに対応する方法および光学装置が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、複数のヒトの眼、すなわち少なくとも相当数または有意数のヒトの眼、の網膜の中心および周辺領域における屈折は、視像の自然な像面湾曲を眼の視軸を中心として非対称にするものであるという知見の利用に関する。より詳細には、本発明は、眼のために光の屈折を制御する光学装置を用いて眼の軸外焦点を軸上焦点に対して非対称的に制御することに関する。
【0017】
したがって、近視を有する患者のための治療方法は、眼の中心窩(換言すると、軸上すなわち網膜中心)および中心窩の外側(換言すると、軸外すなわち周辺網膜)における屈折特性を測定することを含む。次に、この近視患者は、鮮明な、または許容しうる、視覚を軸上にもたらすために、さらには周辺網膜における像の位置を制御するために、例えば像を網膜上または網膜前方に移動させるために、視覚システムの屈折特性を修正することによって治療されうる。周辺網膜に非対称性を有する眼の場合、周辺網膜における像を移動させる装置は、周辺網膜のさまざまな部分で観察される非対称性を治療するために、複数の異なる屈折力を必要とする。遠視を有する患者の場合も、周辺像を網膜上または網膜後方に移動させることによって、その眼に観察された非対称性を治療しうる。
【0018】
屈折特性を修正する1つの方法は、レンズの使用である。眼用装置の複数の実施形態は、周辺網膜のさまざまな部分で受像される像のために複数の異なる屈折力プロファイルを有するコンタクトレンズ、眼鏡レンズ、角膜インプラント、または他のレンズを含む。コンタクトレンズの種類は、屈折力を有することによって機能するレンズと、角膜を整形することによって眼の屈折特性を変化させるオルソケラトロジーレンズとを含む。
【0019】
一部の実施形態においては、眼の近視または遠視の進行に影響を及ぼすためのレンズが提供される。このレンズは、周辺網膜によって受容される光を屈折させるための鼻側光学ゾーンと側頭側光学ゾーンとを備える。鼻側光学ゾーンと側頭側光学ゾーンとはそれぞれ異なる屈折力を有する。このレンズは、屈折力を眼の軸上で補正するための、さらには鮮明な、または許容しうる、遠見視力をあらゆる距離においてもたらすための、屈折力を有する中心光学ゾーンをさらに備えうる。
【0020】
したがって、このレンズは、網膜のさまざまなセクタに向かう光に、中心の軸上焦点に対して回転非対称に、影響を及ぼす複数の領域を備えうる。このレンズは、患者の眼の網膜の何れのセクタで受容される周辺光線にも影響を及ぼしうるので、それぞれの焦点は、近視者の場合は網膜の表面上またはそれより前方になり、遠視者の場合は網膜の表面上またはそれより後方になる。これにより、少なくとも一部の患者においては、眼の異常成長を促す刺激がほぼ全てのセクタにおいて、または網膜のより広い範囲にわたって、除去されうる。この刺激の除去は、特に、眼のこのような成長を抑制するために最も重要と見なされる領域において、行われうる。
【0021】
一部の実施形態において、周辺網膜によって受像される像に影響を及ぼすための光学装置を処方する方法は、この光学装置の装用者が対称的な像面湾曲を有するか、または非対称的な像面湾曲を有するかを観察することを含む。したがって、処方された光学装置は、この観察に応じて、周辺像を対称的または非対称的に処理しうる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】(従来技術)正の像面湾曲を有する眼の以前の概略図を示す。
【
図2】(従来技術)正の像面湾曲を有する眼の以前の概略図を示す。
【
図3】(従来技術)
図1および
図2に示された眼の像面湾曲を光学装置によって操作する方法を示す。
【
図4】(従来技術)
図1および
図2に示された眼の像面湾曲を光学装置によって操作する方法を示す。
【
図5】近視を有する複数の児童の眼のサンプル群についての鼻側周辺網膜と側頭側周辺網膜の非対称性を説明するプロット図を示す。
【
図6】鼻側視野と側頭側視野との間に非対称性を有する眼のためのコンタクトレンズの一構造例を示す。
【
図7】鼻側視野と側頭側視野との間に非対称性を有する眼のためのコンタクトレンズの別の構造例を示す。
【
図8】鼻側視野と側頭側視野との間に非対称性を有する眼のためのコンタクトレンズの別の構造例を示す。
【
図9】鼻側視野と側頭側視野との間に非対称性を有する眼のためのコンタクトレンズの別の構造例を示す。
【
図10】レンズを含む光学装置によって眼を治療する方法のフローチャートを示す。
【
図11】眼の軸上および軸外屈折を測定するための計器を示す。
【
図12】眼の軸上および軸外屈折を測定するための計器を示す。
【
図13】眼の軸上および軸外屈折を測定するための計器を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図5は、周辺網膜に近視を有する児童の1155の眼の鼻側および側頭側の両四分円を測定した、水平経線における屈折状態のプロット図を示す。水平(独立)軸は、測定が行われた周辺角度を示す。鼻側網膜の測定値は側頭側視野を表し、側頭側網膜の測定値は鼻側視野を表す。垂直(従属)軸は、眼の視軸に沿ったピンぼけ量に対する網膜における光線のピンぼけ量をジオプタ(D:diopter)単位で示している。したがって、正の値は相対的な遠視性ピンぼけを示し、負の値は相対的な近視性ピンぼけを示す。ピンぼけの測定は、軸上で、および光軸から側頭側および鼻側の両方に20度、30度、および40度で、行われた。これらの眼は、−2.27±0.81Dの等価球面度数を軸上に有していた。軸外測定のために頭部回旋を用いる新日本(Shin Nippon)オープンフィールドオートレフラクタを使用して全ての測定が行われたので、眼は全ての測定角度において第一眼位にあった。このプロット図は、測定点間を単純に直線補間することによって作成された。
【0024】
図5は、20度において、鼻側網膜では、中心網膜に対して0.43Dの遠視性ピンぼけが発生していることを示す。対称的に、側頭側網膜では、中心網膜に対して0.14Dしか遠視性ピンぼけが発生していない。30度では、中心網膜に対して鼻側網膜で発生する遠視性ピンぼけ量は0.92Dに増加し、側頭側網膜では1.08Dで発生している。40度では、中心網膜に比べ、鼻側網膜で発生する遠視性ピンぼけは1.64Dに増加している。側頭側網膜では、遠視性ピンぼけが大幅に増加し、中心網膜に対して2.47Dに増加している。
【0025】
図5は、中心網膜に対して鼻側網膜および側頭側網膜の両方において相対的な遠視性ピンぼけが発生しているが、各測定点におけるピンぼけ量にばらつきがあり、中心の軸上像点の両側で非対称であることを示している。
図5は、同じ集合について各測定角度において測定された相対的なピンぼけの標準偏差も示している。このサンプル集合中の一部の眼においては、相対的な近視性ピンぼけが周辺網膜の一方の側にあり、相対的な遠視性ピンぼけがもう一方の側にあるという非対称性が存在した。
【0026】
この眼の測定値は、
図5のプロット図に示されているように、この眼の像面湾曲は中心の軸上像点に対して回転対称であると想定している米国特許第7,025,460号(スミス(Smith)ら)に記載されている描写とは大きく異なる。米国特許第7,025,460(スミス(Smith)ら)に教示されているような像面湾曲の対称的操作は、
図5に示されている特性を有する眼の全ての四分円におけるピンぼけを排除する可能性は低く、周辺網膜の少なくとも一部の場所に存在する遠視性または近視性ピンぼけの矯正不足または過剰矯正をもたらしうる。
【0027】
したがって、本発明は、治療対象とされる眼の像面湾曲の非対称性を考慮した、この眼を含む視覚システムを作製することによって、この眼によって受容される光の波面を修正することを含む。換言すると、相対的像面湾曲が対称的に矯正された場合は、周辺像は依然として非対称のままであろうが、眼の非対称性が考慮される場合は、この非対称性を低減または排除できる。これにより、中心窩の鼻側および側頭側の両方においてほぼ網膜上への像の位置付けが可能になる。あるいは、近視眼については、周辺像に対する眼の屈折特性の非対称性にも拘らず、
図4に示されているほぼ対称的なプロファイルの実現が可能になる。同様に、遠視眼についても、非対称性を考慮することによって、治療後の眼はほぼ対称的な特性を有しうるか、または非対称性が少なくとも低減されうる。
【0028】
図6乃至
図9は、水平方向に非対称的な相対像面湾曲を有する眼の周辺像の相対位置を制御するための4つの異なるコンタクトレンズ100、200、300、400の全体構造の例を示す。各レンズは左眼用であり、全般的に、鼻側領域の屈折力が側頭側領域の屈折力とは異なっている。右眼用の設計は、構造的には鏡像でもよいが、各光学ゾーンの屈折力プロファイルは右眼の特性に応じて選択されることになる。各レンズは光学ゾーン101、201、301、401を有する。これらの各光学ゾーンの直径は、具体的な実装に応じて、約6乃至8mmである。光学ゾーン101、201、301、401の外側は、レンズが眼に装用された際にレンズを安定させるための担持部102、202、302、402である。担持部は、例えば、レンズ縁端106、206、306、406までの総レンズ径が約12mmになるように、さらに4乃至6mm延在しうる。他の複数の実施形態は、異なる寸法を有してもよく、場合によっては、レンズが装用される眼に応じて、例えば瞳孔50のサイズの違いを反映するために、特定寸法のレンズを選択してもよい。
図6乃至
図9において、担持ゾーンの外周は破線で示されている。
【0029】
これらのレンズの各々は、適したレンズ安定化技術の利用により、眼に方向付けられる。コンタクトレンズの屈折力は表面全体にわたって一様ではなく、網膜の中心および周辺領域のうちの選択された領域に屈折力が確実に適用されるように生じさせてあるので、レンズの向きを安定化させる必要性が生じる。眼でのレンズの安定化は、プリズムバラスト、ダブルスラブオフ、およびトランケーションのうちから選択されたレンズ安定化機構によって行われうる。
【0030】
図5にプロットされた代表的な眼の場合、20乃至40度の視野角間において、側頭側周辺網膜には0.14乃至2.4Dの相対的遠視性ピンぼけが発生し、鼻側周辺網膜には0.43乃至1.64Dの相対的遠視性ピンぼけが発生している。
図6乃至
図9に示されているレンズ構造についての以下の説明は、コンタクトレンズの光学ゾーンの屈折力プロファイルがこのピンぼけを考慮して設計されることを想定している。
【0031】
図6に示されている例では、レンズ100は円盤形の中心光学ゾーン103を有する。中心光学ゾーン103は、約0.5mmから約3mmまでの範囲から選択された直径を有する。中心光学ゾーン103は、眼の中心の屈折異常(中心窩で測定)を矯正するために位置付けられ、この中心の屈折異常を矯正するための屈折力を有する。この屈折力の選択により、中心光学ゾーン103は(この眼は、ピントが合った近見視力をもたらすための調節が可能であると想定すると)、あらゆる距離において明視を可能にする。このレンズの屈折力プロファイルは、中心光学ゾーン103の両側にある鼻側光学ゾーン104と側頭側光学ゾーン105との間で変化する。これらのゾーンにおける屈折力は、周辺網膜の側頭側および鼻側の四分円でそれぞれ測定されたピンぼけを矯正するために、選択される。
【0032】
一部の実施形態において、これらのゾーンは、周辺網膜において測定された平均ピンぼけを矯正する単一の屈折力を或る視野角範囲にわたって有しうる。したがって、例えば、これらの実施形態においては、鼻側光学ゾーン104は、側頭側周辺網膜で発生する平均1.23Dの相対的遠視性ピンぼけを補正するので、中心光学ゾーン103の屈折力に比べ、相対的に1.23Dだけより正となる。同様に、側頭側光学ゾーン105は、鼻側周辺網膜に発生する平均0.99Dの相対的遠視性ピンぼけを補正するので、中心光学ゾーンの屈折力に比べ、相対的に0.99Dだけより正となる。
【0033】
他の複数の実施形態においては、鼻側および側頭側光学ゾーン104、105は、周辺網膜の2つ以上の位置で測定されたピンぼけに関して選択された複数の屈折力を有する。例えば、鼻側光学ゾーンの屈折力は、20度、30度、および40度において側頭側周辺網膜に発生する相対的ピンぼけを考慮して設定されうるので、これらの角度において必要とされる屈折力間の滑らかな移行を含みうる。より多くの角度位置または2つだけの角度位置において眼の測定を行う場合は、これらの測定値を考慮して鼻側および側頭側光学ゾーン104、105の屈折力を設定しうる。この変化には、レンズが装用される眼の像面湾曲測定値を反映させうる。例えば、焦点と網膜との間の距離をほぼ一定にする(ゼロの場合もありうる)という目的を有する屈折力プロファイルを鼻側光学ゾーン104にわたって有するレンズを選択しうる。同様に、屈折力の変化は、側頭側光学ゾーンにわたって発生しうる。
【0034】
1つのゾーンに単一の屈折力を設けるか、あるいは1つのゾーンの屈折力を変化させるかの選択肢は、
図7乃至
図9に示されているレンズ構造にも当てはまる。
【0035】
図7に示されている例において、レンズ200は、レンズ200の垂直経線に沿って延在する中心光学ゾーン203を有する。中心光学ゾーン203は、この光学ゾーンの中心から周辺まで両方向に一定の屈折力を有する。経線の幅は、約0.5mm乃至約3mmの範囲内である。レンズ200の屈折力プロファイルは、中心ゾーン203の両側にある鼻側光学ゾーン204と側頭側光学ゾーン205との間で変化するので、
図6に示されている例の説明のように、側頭側および鼻側の周辺網膜でそれぞれ測定されたピンぼけを矯正することになる。
【0036】
図8に示されている例においては、レンズ300は、眼の中心の屈折異常を矯正するために選択された屈折力を有する、直径が約0.5mm乃至3mmの中心光学ゾーン303を有する。レンズ300の水平経線における屈折力プロファイルは、
図6に示されている例の説明のように、中心光学ゾーン303の両側にある鼻側および側頭側光学ゾーン304、305間で変化する。鼻側および側頭側光学ゾーン304、305の高さは、約0.5mm乃至3mmである。この高さは、中心光学ゾーン303の直径に一致するように選択されうるが、他の複数の実施形態においては、これらのゾーンの高さは、中心光学ゾーン303の直径より大きくても小さくてもよい。鼻側および側頭側光学ゾーン304、305はどちらもレンズ300の中心光学ゾーン303から光学ゾーン301の縁端まで延在する。中心光学ゾーン303は、周辺光学ゾーンの外側の領域307、308内まで延在する。換言すると、この例では、レンズ300は、眼の中心の屈折異常を矯正するために選択された屈折力を光学ゾーン301内の鼻側および側頭側光学ゾーン304、305の外側の全ての領域に有する。
【0037】
図9に示されている例では、レンズ400は、中心の屈折異常を矯正する、約0.5乃至3mmの間の直径を有する中心光学ゾーン403を有する。レンズの水平経線における屈折力プロファイルは、中心光学ゾーン403の両側にある鼻側および側頭側光学ゾーン404、405間で変化する。鼻側光学ゾーン404および側頭側光学ゾーン405は、
図6に示されている例を参照して上で説明したように、周辺網膜の側頭側および鼻側の四分円でそれぞれ測定されたピンぼけを矯正する。鼻側および側頭側光学ゾーン404、405はどちらも幅が約3.0mm乃至5.0mmの長楕円形状を有する。これらのゾーンは長楕円形である必要はなく、円形またはほぼ直線形など他の形状にすることもできる。このレンズの残りの部分は、中心光学ゾーンと同じ屈折力プロファイルを有する。
【0038】
図6乃至
図9に示されている各例においては、中心光学ゾーン(および中心光学ゾーンと同じ屈折力プロファイルを有する何れか他の領域)を(鼻側および側頭側光学ゾーンで構成される)周辺光学ゾーンに接続する移行ゾーンが存在しうる。この移行ゾーンは、中心光学ゾーンと鼻側または側頭側光学ゾーンとの間の境界に位置し、その幅は約0.25mm乃至約1.0mmの範囲内で可変である。この移行ゾーンは、屈折力プロファイルの差を橋渡しするものであり、一部の実施形態においては、滑らかな曲線状移行部をゾーン間にもたらすように形成される。他の複数の実施形態においては、中心光学ゾーンが終り、周辺光学ゾーンが始まる点がレンズ上に存在しうる。
【0039】
本願明細書の説明から理解されるように、
図6乃至
図9に示されている例を含む、ただしこれだけに限定されない、コンタクトレンズの光学ゾーンの形状およびレイアウトは大幅に変化させうるので、多種多様な実施形態を生じさせうる。例として、中心光学ゾーン103、203、303、403は、レンズの中心を通るレンズの垂直経線を中心として非対称でもよい。この非対称性は、周辺網膜の片側の像面湾曲の変化率の低さを反映しうる。
図5を参照すると、側頭側網膜における0度から20度までの変化率は低いので、一部の実施形態のレンズは、軸上視力を矯正するために選択された屈折力をこれらの視野角に有しうる。所望される、または許容しうる、像面湾曲を片側に既に有する眼の場合は、側頭側光学ゾーン(または鼻側光学ゾーン)となるはずであったゾーンの全体を包含するように、中心光学ゾーンを延在させうる。ただし、各実施形態は、眼の中心の軸上焦点に対して軸外焦点を非対称的に制御するために選択された、鼻側光学ゾーンおよび側頭側光学ゾーンにおいてそれぞれ異なる屈折力プロファイルを依然として特徴とする。
【0040】
レンズの屈折力プロファイルは、垂直経線に沿った差が重要と考えられないため、眼の鉛直方向の屈折異常状態を考慮しない場合がある。ただし、他の複数の実施形態においては、水平方向に関して本願明細書で説明したのと同じ方法で、眼の鉛直方向の屈折異常状態も矯正されうる。換言すると、眼の鉛直方向に自然に発生する相対的な像面湾曲も測定されうるので、周辺網膜の下部および上部の像面湾曲をそれぞれ制御するために、レンズは上側および下側の光学ゾーンを含みうる。鉛直方向に非対称性がある場合、この非対称性は、水平方向の非対称性と同じように説明されうる。水平および鉛直の両方向が制御される場合、周辺像は眼の全四分円において制御されることになる。
【0041】
図6乃至
図9に示されている例は、中心光学ゾーン103、203、303、403を示している。これらの例では、直径または幅が約0.5乃至3.0mmの中心光学ゾーンが設けられている。中心光学ゾーンのサイズは、レンズ装用者の瞳孔直径を考慮して、あるいは装用者を最も代表する母集団サンプルまたは一般母集団を代表するサンプルの平均瞳孔直径を考慮して、選択されうる。特に、中心光学ゾーンの屈折力プロファイルが瞳孔のエリアにわたって一定、またはほぼ一定、である場合は、通常、中心光学ゾーンが大きいほど、より良好な明視を可能にする。ただし、中心窩に近い周辺ピンぼけの制御が必要な一部の装用者には、より小さな中心光学ゾーンを有するレンズが必要とされうる。この場合、軸上の像品質がある程度犠牲になりうる。
【0042】
また、中心光学ゾーン103、203、303、403は、軸上視力を矯正するために選択された、その直径にわたってほぼ一様な屈折力を有する屈折力プロファイルを全方向に有しうる。中心光学ゾーンを設けると、中心窩が受像する像のピンぼけを最小化するために好都合でありうる。他の複数の実施形態においては、中心光学ゾーンの屈折力プロファイルをある程度変化させうる。例えば、レンズの中心点から外側に鼻側および側頭側光学ゾーンまで屈折力プロファイルを漸次変化させるように、レンズを設計しうる。レンズの中心点における屈折力は、軸上視力を矯正するために、あるいは実質的に明視を軸上にもたらすために、選択されうる。
【0043】
図6乃至
図9に示されているコンタクトレンズは、シリコーンハイドロゲルレンズ、ハードレンズ、強膜レンズ、またはハイブリッドレンズでもよい。眼鏡レンズおよび角膜インプラントにも同様のレンズ設計を行いうる。これら両タイプのレンズの場合、担持部は不要である。眼鏡レンズに適した構造は、中心光学ゾーンの幅が約8乃至20mmである点以外は、
図9に示されている構造でよい。眼鏡レンズの一部の実施形態は、レンズ上に線が見えないように、および装用者の眼が正面に向いていないときに装用者の視覚の鮮明さをなるべく阻害しないように、中心光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間に大きな移行ゾーンを有しうる。角膜インプラントは、上記の屈折特性をもたらす角膜表面プロファイルを生じさせるように、形成される。オルソケラトロジーレンズは、周辺網膜に必要とされる相対的像面湾曲を実現するために、角膜を同様に整形しうる。
【0044】
個々の装用者のために選択が行われるように多数のレンズを用意してもよい。例えば、中心光学ゾーンの屈折力ごとに、非対称周辺光学ゾーンの選択肢が複数あってもよい。この選択は、母集団の基準、および、例えば
図5に示されているような母集団の偏差値、を参照して行われうる。装用者の種別間に有意なばらつきが存在する場合は、さまざまな母集団基準を種別ごとに作成してもよい。中心光学ゾーンの屈折力ごとの選択肢の数は可変である。一例として、次の2つの選択肢がありうる。すなわち、両側が(基準値に比較して相対的により近視性のピンぼけを周辺網膜の片側に有する眼は、周辺網膜のもう一方の側が基準値に比較してより近視性またはより遠視性でありうることを考慮した)標準偏差値である4人から成る母集団の平均のための選択肢と、標準偏差値が1.5である別の4人から成る母集団のための選択肢である。標準偏差値0.25、標準偏差値0.5、標準偏差値0.75、および標準偏差値2.0のうちの1つ以上に対して追加のレンズを利用しうる。この集合においては、一部のレンズは、対称的またはほぼ対称的であってもよく、該当する装用者のために選択されうることを理解されるであろう。中心光学ゾーンの屈折力プロファイルおよび/または構造(例えば、
図6乃至
図9に示されている構造の2つ以上)についての選択肢も存在しうる。
【0045】
図10は、眼の屈折異常を矯正するための、さらには屈折異常の経時的変化を制御することも目的とした、レンズを処方する一連のステップから成るフロー図を示す。ステップ1000で、患者は屈折異常があると識別される。この識別ステップは、例えば過去6か月間または1乃至3年間、またはこれより長期間、にわたる患者の軸上屈折異常の履歴の単純な検査により行われうる。あるいは、識別ステップ1000の代わりに、屈折異常を有する患者の識別を、異常またはその進行の履歴を一切参照せずに、行ってもよい。
【0046】
ステップ1001で、軸上屈折異常が測定される。この測定値は、必要な軸上矯正を特定するために用いられる。例えば、患者は、−3Dの屈折異常を有すると測定されうる。この場合、この異常を矯正するための屈折力を設けるために、レンズの中心光学ゾーン、例えば
図6乃至
図9に示されている中心光学ゾーン103、203、303、403、が選択される。
【0047】
ステップ1002で、軸外屈折異常が測定される。鼻側および側頭側で軸外視野角が測定される。上記のように、鉛直角についての湾曲像面の変動は無視してもよいが、必要であれば測定してレンズ設計に組み込んでもよい。ステップ1002は、鼻側および側頭側方向の単一角度、例えば軸上方向に対して30度、において測定することを含みうる。あるいは、ステップ1002は、鼻側および側頭側方向の複数の角度において測定することを含みうる。例えば、15度および30度での2つの測定、15度、30度、および35度での3つの測定、あるいは5度、10度、15度、20度、25度、および30度での6つの測定を行いうる。角度は、5の倍数である必要はなく、これらの角度は説明のために記述されているに過ぎない。単一角度において複数回測定してもよい。これらの測定値を、例えば平均化によって、または別様に、組み合わせてもよく、あるいは、例えば測定が行われた際の眼の位置を基準として評価にかけ、最も正確であると期待される測定値を選択してもよい。
【0048】
使用される計器に応じて、ステップ1002は、眼の光軸に対して必要な各角度における眼の屈折特性を測定する個別のステップを含みうる。例えば、これが必要とされうるのは、患者を物理的に移動させる必要がある場合、または患者に自身の視線の移動を要請する必要がある場合、あるいは測定のために患者の眼に対して計器を物理的に移動させる必要がある場合である。
【0049】
ステップ1003では、これらの測定値を水平経線にわたって異なる屈折力を有する利用可能なレンズと比較して最適一致のレンズを選択するか、あるいはこの眼のために必要な屈折力プロファイルを有するレンズを製造するための新しいレンズ設計を作成する。この屈折力プロファイルは、ステップ1000で中心光学ゾーンにおいて測定された軸上屈折異常を矯正すると共に、眼の鼻側および側頭側周辺領域における屈折特性に関して選択された屈折力を有する。
【0050】
例えば、この屈折力プロファイルは、周辺視された物体の像を鼻側および側頭側の両方向の網膜上に位置付けるために、または少なくともステップ1002で測定された角度で網膜上に位置付けるために、選択されうる。あるいは、屈折力プロファイルに対する制約がレンズ全体にわたって存在する場合は、周辺視された物体の像をこれらの制約内でできる限り網膜の近くに位置付けるように、屈折力プロファイルが選択されうる。これらの制約として、最大変化率に対する制約、または乱視などの他の状態を矯正するための要件に起因する制約、が挙げられる。
【0051】
あるいは、周辺視された物体の像を網膜に対して別の位置、すなわち効果をもたらす可能性があると見なされる位置、に位置付けるために屈折力プロファイルが選択されうる。例えば、近視眼の場合は、周辺物体の像を網膜の前方に位置付けるために、屈折力プロファイルが選択されうる。遠視眼の場合、この屈折力プロファイルは、周辺物体の像を網膜の後方に位置付けうる。周辺物体の像を位置付けるための対物レンズは対称的である必要はなく、例えば近視眼用レンズは側頭側の周辺像を網膜上に位置付け、鼻側の周辺像を網膜の前方に位置付けてもよい。
【0052】
眼の屈折状態は、軸上および周辺物体の両方について、網膜検視法を用いて測定される。この測定には、マニュアルレフラクタまたはオートレフラクタのどちらかを使用しうる。次に、軸上および周辺の両屈折の測定用に特に設計された計器の一例を説明する。
【0053】
図11および
図12は、周辺屈折を測定し、偏心量を求め、補正係数を適用して補正後の周辺屈折測定値を得るために適した計器10を示す。本発明は、ソフトウェアとしてコントローラ49(
図12を参照)に実装されうる。本装置は、計器10の可能な変形例および本発明を実現するために適合可能な代替装置と共に、参照によりその内容全体を本願明細書に援用するものとする国際公開第2008/116270A1号として公開された国際出願PCT/AU2008/000434号に記載されている。計器10は、
図2に関して説明した一般的な「計器回転」法を使用する。本発明を実現しうる他の計器は、「眼球回旋」法または「頭部回旋」法を使用しうる。
【0054】
図11は、計器10の基本レイアウトを示す。この例の計器においては、複数のデフレクタ素子14から成るアレイ12は、調査中の眼関連の光学システム18の光軸16の両側に対称的かつ横方向に延在する線形の列である。システム18は、補綴レンズまたは他の修正の追加の有無に拘らず、患者の眼であると想定する。照明用光源と、制御用プロセッサと、戻りビーム検出器とが、個々に区別されずに、
図3を参照してより詳細に説明されている軸16上に配置された単一ユニット20によって示されている。ユニット20は、矢印22によって示された複数の照明ビームをアレイの素子14に向かわせる。これにより、軸16に対してさまざまな周辺角で眼システム18に向かう、矢印24によって示された、対応する一連の問い合わせビームが生成される。各問い合わせビーム24によって、矢印23によって示されている戻りビームが生成され、対応する素子14を介してユニット20に戻されて検出される。照明ビーム22を1つの素子14から次の素子14へと順次向かわせると、問い合わせビーム24と戻りビーム23とが順次生成されて都合が良い。
【0055】
この例では、中心の照明ビーム、対応する中心の問い合わせビーム、および対応する中心の戻りビームは、矢印25、27、および29でそれぞれ示されている。また、この例では、各問い合わせビーム24が眼18に入射し、各戻りビーム23がユニット20に向かうように、(中心素子14c以外の)各デフレクタ素子は、頂角を有するプリズムである。中心素子14cは、事実上、照明ビームを偏向させないヌル素子であり、図示のように両側面が平行な素通しガラスでもよいが、設けなくてもよい。また、この例では、アレイ12はほぼ線形であるので、問い合わせビーム24および27はほぼ同一平面上にあるため、システム18の1つの経線、この例では水平経線、の調査が可能である。システムの非水平経線の調査は、眼18に対して光軸16を中心に計器10を回転させるだけで行える。
【0056】
問い合わせビーム24および27を一度に1つずつ眼18に入射させること、および対応する一連の戻りビーム23および29を生成することは、さまざまな方法で実現可能である。第1に(以下に説明するように)、ユニット20は、単一の狭い照明ビームを1つの素子14から別の素子に向かわせるビームスキャナを備えうる。第2に、複数の素子14を一度に照明し、問い合わせビーム24および27をゲート制御することによって、眼18の走査と一連の戻りビーム23および25の生成とを行うことができる。これを行うには、例えば、電子制御可能なLCDシャッタ26をアレイ12と眼18の間に挿入し、各プリズム14からの問い合わせビーム24を一度に1つずつ眼18に入射させるための走査手段としてLCDシャッタ26を使用する。第3に、照明ビーム22および25をゲート制御することによって1つ以上の素子14を同時に照明するために、同様のシャッタ28をアレイ12とユニット20の間に挿入しうる。これにより、ユニット20は走査手段を備える必要がなくなり、走査機能をユニット20内のスキャナ手段と、参照符号26および/または28で示されているようなシャッタとに分散させることが可能になる。
【0057】
この方法により、連続する問い合わせ/戻りビーム対は、眼18に入射するとき、および眼18から出射するとき、軸16に対してより小さな/大きな角度で集束/散開する。1つの角度から次の隣接角度への順次走査がおそらく最も好都合であるが、固定された順次走査によって起こりうる偏りを最小化するために他の多くの走査シーケンスを使用しうる。複数のビームデフレクタ素子14の同時照明は、ユニット20内のスキャナの使用により容易に実現可能であるが、この場合は、生じた複数の同時戻りビームの識別が必要になる。この識別は、シャッタ26または28をビームチョッパまたは選択偏光子として使用し、検出器において互いに識別する必要がある各戻りビームを差分符号化することによって実現可能である。
【0058】
図12は、ユニット20の主構成要素を個別に示した、
図11の計器10のより詳細な側面立面図である。光源30は、平行なソースビーム32をビームスプリッタ34を通して揺動ミラースキャナ36に向かわせる。このミラースキャナ36がアクチュエータ37によって動かされることによって、複数の照明ビーム22が生成される。これらの照明ビーム22がアレイ12内のデフレクタからデフレクタへと走査されることによって、一連の問い合わせビーム24が生成され、所望の入射角範囲にわたって眼システム18内の網膜38に入射する。したがって、走査ミラー36は、複数のビーム24のための1つの点光源すなわち共通点と、全ての戻りビームのための共通点(Xで示されている)とを形成する。したがって、網膜38から戻ってきた各戻りビーム23は、デフレクタアレイ12とスキャナミラー36とを介してビームスプリッタ34に戻り、ここで進路変更され、集束系42を経由して光検出器44に向かう。集束系42は、矢印46で示されているように、集束範囲内で軸方向に前後に移動可能な可動レンズ組立体43を備えている。ソースビーム32(ひいては、照明、問い合わせ、および戻りビーム22、24、および23)は所望される任意のスポット状、円盤状、または環状の横断面を有することができるが、公知のオートレフラクタ(上記の新日本(Shin−Nippon)SRW−5000など)に一般に使用されるような環状の横断面が好ましい。その理由は、ほぼ標準的な方法で分析および処理が可能であることによる。
【0059】
各戻りビーム23、より正確には検出器44におけるその像48、は、光検出器44によって捕捉または定量化された眼システムの屈折状態の(偏心のための補正がされていない)情報を含んでいる。光検出器44は、複数の光センサから成る二次元アレイであることが好ましい。光検出器44は、照明ビーム22の偏心を求めるために、
図7に示されている像に対応する瞳孔の像も捕捉する。瞳孔の像の捕捉は各屈折測定時に行われるので、照明ビーム22ごとに1つの像が存在する。これにより、屈折測定値を各入射角ごとに個々に補正可能になるため、測定間の眼システム18および測定軸の相対移動に対応できる。
【0060】
ユニット20は、中央プロセッサ兼コントローラ49を含む。中央プロセッサ兼コントローラ49は、好都合には、専用PCを備えてもよく、検出器44の出力を受け付けて分析するために検出器44に接続され、レンズ組立体43をサーボ制御下で駆動するためにレンズ組立体43に接続される。プロセッサ49は、スキャナドライバ37を制御し、照明および戻り信号検出の正確なタイミングを保証するために、スキャナドライバ37にも接続される。光源30とプロセッサ49との間の接続も図示されている。この接続は、ソースビーム32が正しく構成されること、および像48との比較のためにソースビームの現在の断面パターンの表現が格納されることとを保証するために好都合である。
【0061】
各戻りビーム23の受光中、像48の焦点サイズおよび形状を変化させるために、集束用レンズ組立体43を光軸方向に移動させる。一般に、3つの戻りビームの像形状の各々について集束用レンズ組立体43の3つの位置が記録される。すなわち、像(スポットまたはリング)が最小で最も鮮明に合焦されて現れる第1の位置と、この像が1つの経線において最も細長く現れる第2の位置と、この像が、異なる経線、通常は第1の経線に直交する経線、において最も細長く現れる第3の位置とが記録される。レンズ組立体43のこの3つの位置は、眼の等値球面度数、屈折のサジタル非点収差成分および正接非点収差成分をそれぞれ示す。眼18の等値球面度数に関するスポット/像サイズの重要性は、以下の初歩的な方法で理解可能である。眼18に入る問い合わせビーム24は平行であるため、正常眼すなわち正視眼は平行なコリメートビームを返し、近視眼は収束ビームを返し、遠視眼は開散ビームを返す。収束ビームと開散ビームとは像のサイズを大きくする。
【0062】
中央プロセッサ兼コントローラ49は、補正アルゴリズムを関数として、またはルックアップテーブルとして、メモリに記憶する。中央プロセッサ兼コントローラ49は、偏心を受け付ける、および/または自動的に判定する、ための命令と、測定された屈折値に補正アルゴリズムを適用して補正後の屈折値を計算するための命令とをさらに含む。その後、補正後の屈折値を記憶または表示することも、あるいは別の装置に伝えることも可能である。
【0063】
図13は、
図11および
図12の計器10の性能を向上させるために追加されうるいくつかの特徴を示す。第1の追加ビームスプリッタ54によって戻りビーム路23内の光軸16上に光学的に結合される注視ビーム路52に可動固視標的50が配置されている。固視標的50は、視線すなわち眼の軸をシステムの光軸16に位置合わせし、遠近調節を制御する。CCD検出器58は第1の追加ビームスプリッタ54および注視路52内の第2の追加ビームスプリッタ56を介して眼の像を受像するので、第2の追加ビームスプリッタ56が眼18の像をCCD検出器58に向かわせることによって、注視方向と眼のアライメントとの監視が可能になる。光学式または音響距離センサ60は、眼18が軸方向に位置合わせされたと思われるときを(交互に、またはさらに)示すために使用可能である。測定サイクルの開始を自動化できるように、センサ60を、所望であれば検出器58と共に、矢印Pで示されているようにプロセッサ49(
図12)に接続可能である。
【0064】
本願明細書に開示および定義されている発明は、本テキストまたは図面に記載されている、または本テキストまたは図面から明らかな、個々の特徴を2つ以上組み合わせた代替の全ての組み合わせに及ぶことを理解されるであろう。これらのさまざまな組み合わせの全てが本発明のさまざまな代替の態様を構成する。