特許第6066911号(P6066911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066911
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】溶接法、溶接装置および複合部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20170116BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20170116BHJP
   B23K 26/062 20140101ALI20170116BHJP
   B23K 26/08 20140101ALI20170116BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20170116BHJP
【FI】
   B23K31/00 F
   B23K26/00 M
   B23K26/00 N
   B23K26/062
   B23K26/08 D
   B23K26/21 F
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-530680(P2013-530680)
(86)(22)【出願日】2011年9月21日
(65)【公表番号】特表2013-539720(P2013-539720A)
(43)【公表日】2013年10月28日
(86)【国際出願番号】EP2011066422
(87)【国際公開番号】WO2012041747
(87)【国際公開日】20120405
【審査請求日】2013年4月25日
【審判番号】不服2015-13099(P2015-13099/J1)
【審判請求日】2015年7月9日
(31)【優先権主張番号】102010041720.3
(32)【優先日】2010年9月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ジェイハド ジーダン
【合議体】
【審判長】 久保 克彦
【審判官】 西村 泰英
【審判官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−252778(JP,A)
【文献】 特開2003−66267(JP,A)
【文献】 特開2008−151233(JP,A)
【文献】 白井秀彰、漆崎守、沢本節夫、望月正人、豊田政男、円筒部品の円周溶接時における曲げ変形挙動解析、溶接学会論文集、日本、社団法人溶接学会、2003年8月5日、第21巻 第3号、389〜396頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のワークピース(10)と第2のワークピース(11)とを互いに接触させる第1のステップ(1)と、
第1のワークピース(10)の向きと第2のワークピース(11)の向きとの間のずれを検知し、該ずれに関連して、該ずれを補償するように溶接ひずみ量を求め、該溶接ひずみ量に関連して溶接ビーム(14)を調整し、第1のワークピース(10)と第2のワークピース(11)とを互いに溶接する第2のステップ(2)、または、
1のワークピース(10)と第2のワークピース(11)とを回転軸線(16)を中心として所定の回転速度で回転させ、溶接ビーム(14)を前記回転速度に関連して調整して、第1のワークピース(10)と第2のワークピース(11)とを互いに溶接する第3のステップ(3)と、
を有し、
第2のステップ(2)又は第3のステップ(3)において、第1のワークピース(10)と第2のワークピース(11)とを1回転させた後、溶接シーム(21)が互いに重ね合わされる重畳範囲(17)を形成するように、放射出力(24)を時間および/または回転角に関連して調整し、第1のワークピース(10)と第2のワークピース(11)との500°〜1200°の回転範囲において、回転軸線(16)を基準として重畳範囲(17)と反対の側に位置する部分範囲(18)に対して、付加的な放射線量(24’’)を供給することを特徴とする、レーザ溶接法。
【請求項2】
第2のステップ(2)又は第3のステップ(3)において、前記溶接ビーム(14)の焦点、放射時間および/または方向を調整する、請求項1記載のレーザ溶接法。
【請求項3】
のステップ()において、前記溶接ひずみ量に対する溶接開始の間の位置決め角を調整する、請求項1または2記載のレーザ溶接法。
【請求項4】
第3のステップ(3)において、第1のワークピース(10)と第2のワークピース(11)とに均一なエネルギが提供されるように、溶接ビーム(14)を前記回転速度に関連して調整する、請求項1から3までのいずれか1項記載のレーザ溶接法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の方法ステップにおいて、第1のワークピースと第2のワークピースとを互いに接触させて、第1のワークピースと第2のワークピースとを結合する溶接法、特にレーザ溶接法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、溶接ビームを発生させるための溶接ヘッドと、互いに溶接すべき第1・第2のワークピースのための保持部材とが設けられている溶接装置に関する。
【0003】
さらに、本発明は、第1のワークピースと第2のワークピースとから成る複合部材に関する。
【0004】
背景技術
このような装置は一般的に公知である。たとえばドイツ連邦共和国特許出願公開第102006015383号明細書に基づき、第1のワークピースと第2のワークピースとをレーザ溶接するための装置および方法が公知である。公知の装置は、レーザ源と、溶接工程のプロセスを監視するためのセンサとを有している。プロセスの監視は、特に溶込み深さを監視するために役立つ。この溶込み深さは、センサとしての光学カメラのオンライン測定によって即時に検知され、レーザ源に対する調整量として利用される。公知の方法では、溶接ひずみ量の測定は行われていない。
【0005】
発明の開示
本発明に係る溶接法によれば、第2の方法ステップにおいて、所望の溶接ひずみ量を求め、第3の方法ステップにおいて、該溶接ひずみ量に関連して第1のワークピースと第2のワークピースとを互いに溶接し、かつ/または第3の方法ステップにおいて、第1のワークピースと第2のワークピースとを回転軸線を中心として所定の回転速度で回転させ、該回転速度に関連して第1のワークピースと第2のワークピースとを互いに溶接する。
【0006】
本発明に係る溶接法の有利な態様によれば、第2の方法ステップにおいて、第1のワークピースと第2のワークピースとの間の誤り位置を検知し、該誤り位置に関連して、特に該誤り位置を補償するために、前記溶接ひずみ量を求める。
【0007】
本発明に係る溶接法の有利な態様によれば、第3の方法ステップにおいて、前記溶接ひずみ量および/または前記回転速度に関連して溶接ビームを調整し、該溶接ビームの焦点調節、放射時間および/または方向を第1のワークピースおよび/または第2のワークピースに対して相対的に調整する。
【0008】
本発明に係る溶接法の有利な態様によれば、第3の方法ステップにおいて、前記溶接ひずみ量に関連して相応の回転角を調整する。
【0009】
本発明に係る溶接法の有利な態様によれば、第1の構成部材と第2の構成部材とにほぼ均一なエネルギ提供が得られるように、溶接ビームを構成部材の回転速度に関連して調整する。
【0010】
本発明に係る溶接法の有利な態様によれば、第3の方法ステップにおいて、第1のワークピースと第2のワークピースとを完全に1回転させた後、重畳範囲を形成し、該重畳範囲で溶接シームを互いに重ね合わせ、第3の方法ステップにおいて、重畳範囲の大きさを、有利には前記溶接ひずみ量に関連して調整する。
【0011】
本発明に係る溶接法の有利な態様によれば、第3の方法ステップにおいて、180°の回動に関して重畳範囲と反対の側に位置する部分範囲に対して、高められた放射出力を調整しかつ/または付加的な放射線量を供給する。
【0012】
本発明に係る溶接法の有利な態様によれば、第3の方法ステップにおいて、放射出力が所定のパルス形状を有するように、放射出力を時間および/または回転運動に関連して調整し、パルス長さが、有利には、第1のワークピースと第2のワークピースとの600°〜900°の回転に対応している。
【0013】
本発明に係る溶接装置によれば、該溶接装置が、第1のワークピースと第2のワークピースとの間の誤り位置を検知するための検知ユニットおよび/または保持部材の、第1のワークピースと第2のワークピースとを一緒に運動させるための駆動装置の制御装置を有している。
【0014】
本発明に係る複合部材によれば、該複合部材が、本発明に係る溶接法により製造されており、かつ/または本発明に係る溶接装置を用いて製造されている。
【0015】
本発明に係る溶接法、本発明に係る溶接装置および本発明に係る複合部材は、公知先行技術に比べて、溶接プロセス前に所望のまたは所要の溶接ひずみ量が求められ、この溶接ひずみ量が溶接プロセスの間に変換されるという利点を有している。その結果、本発明に係る溶接法によって、第1のワークピースと第2のワークピースとの間に結合部が製作可能となるだけでなく、付加的には、第1のワークピースと第2のワークピースと間の所望の方向もしくは変形も得られる。こうして、たとえば、溶接の間に第1のワークピースと第2のワークピースとの接触面同士の誤り位置もしくは反りおよびずれを相殺することができる。択一的には、相応の曲げパラメータの入力または相応の溶接ひずみ量の直接的な入力によって、溶接シームの範囲に所望の曲げを発生させることも可能となる。求められた溶接ひずみは、第3の方法ステップにおいて、相応の溶接パラメータの選択によって実現される。したがって、有利には、比較的高い精度を伴って所望の幾何学的な外形を有する構成部材が実現可能となる。従来では、互いに溶接されて形成された構成部材の幾何学的な外形のこのような高い精度が、個々の接合パートナ、すなわち、第1のワークピースおよび第2のワークピースの接合面の比較的高い精度によって得られる。この場合には、接合面が予め、たとえば平坦化されなければならないかもしくは研削されなければならない。本発明に係る方法によって、公知先行技術と異なり、第1のワークピースと第2のワークピースとの接合面を比較的手間をかけて高価に前処理する必要なしに、このような精密な構成部材の製造が可能となる。本発明の別の有利な改良態様または本発明の別の対象によれば、第3の方法ステップにおいて、第1のワークピースと第2のワークピースとが、回転軸線を中心として所定の回転速度で回転させられ、第3の方法ステップにおいて、この回転速度に関連して第1のワークピースと第2のワークピースとが互いに溶接される。有利には、こうして、第1のワークピースと第2のワークピースとへの溶接エネルギの均一な供給が可能となり、これによって、入熱ゾーンにおける材料特性が対称的に変化させられる。こうして、1つには、溶接ひずみが最小限に抑えられ、もう1つには、最小限の回転が達成される。本発明に係る方法は、あらゆる溶接法、特にビーム溶接法、たとえばレーザ溶接またはアーク溶接を含んでいる。
【0016】
本発明の有利な態様および改良態様は、従属請求項ならびに図面に関連した説明に認めることができる。
【0017】
有利な改良態様によれば、第2の方法ステップにおいて、第1のワークピースと第2のワークピースとの間の誤り位置を検知し、この誤り位置に関連して、特にこの誤り位置を補償するために、溶接ひずみ量を求めることが提案されている。したがって、有利には、第1のワークピースと第2のワークピースとの間の誤り位置の補償が溶接法の間に行われる。ゆえに、この溶接法は、同時に第1のワークピースと第2のワークピースとの間の固い結合部の形成のために機能し、また、同時に第1のワークピースと第2のワークピースとの間の結合部の矯正のために機能する。これによって、接合面の前処理を節約することができる。特に第2の方法ステップでは、誤り位置が検知され、次いで、この誤り位置を補償するための所要の溶接ひずみ量が算出される。誤り位置の本来の補償は、後続の溶接法において行われる。この後続の溶接法では、溶接のプロセスパラメータが選択されて、発生させられた溶接ひずみが誤り位置を補償するようになっている。本発明の意味での誤り位置とは、第1のワークピースと第2のワークピースとの、所望の目標配置状態から逸脱した各実際配置状態のことであるので、誤り位置が必ずしも第1のワークピースの向きと第2のワークピースの向きとの間のずれとして解釈される必要は決してない。
【0018】
別の有利な改良態様によれば、第3の方法ステップにおいて、溶接ひずみ量および/または回転速度に関連して溶接ビームを調整し、この溶接ビームの焦点調節、放射時間および/または方向を第1のワークピースおよび/または第2のワークピースに対して相対的に調整し、かつ/または溶接ひずみ量に関連して相応の回転角を調整することが提案されている。有利には、放射出力、焦点調節および/または放射方向の相応の変化によって、溶接ひずみの変化または溶接シームの最適化が達成される。たとえば、放射出力の増減によって、溶接ひずみの著しい増減が達成される。第1のワークピースと第2のワークピースとの送り速度もしくは回転速度に比べて照射時間と照射エネルギとを適合させることによって、たとえば一定の溶込み深さを備えた比較的均質なシームが、オーバラップにおける異常部分なしに形成される。
【0019】
別の有利な改良態様によれば、第1の構成部材と第2の構成部材とにほぼ均一なエネルギ提供が得られるように、溶接ビームを構成部材の回転速度に関連して調整することが提案されており、これによって、有利には、比較的少ない溶接ひずみが発生させられる。なぜならば、入熱ゾーンにおける材料特性が対称的に変化させられるからである。
【0020】
別の有利な改良態様によれば、第3の方法ステップにおいて、第1のワークピースと第2のワークピースとを中心軸線を中心として回転させ、溶接ひずみ量に関連して相応の回転角を調整することが提案されている。本発明の意味での回転角は、特に獲得したい所望の溶接ひずみに対する溶接開始の間の位置決め角、すなわち、溶接ビームと複合体との間の、溶接プロセスが開始される際の角度を含んでいる。特に有利には、第1のワークピースと第2のワークピースとから成る複合体がその固有の軸線を中心として回転させられる。その際には、放射出力が、有利には、全回転角にわたってほぼ一定であり、したがって、第1のワークピースと第2のワークピースとの間に比較的固くて均一な結合部が得られる。さらに、回転角は、有利には、所望の溶接ひずみ量に関連して調整される。なぜならば、回転角の変化によって、第1のワークピースと第2のワークピースとの間の特定の範囲への意図的な高められたエネルギ供給および/または意図的な減少させられたエネルギ供給が可能となるからである。これによって、結果的に生じる溶接ひずみに与えられる相応の影響が所望の形式で得られる。さらに、回転角によって、重畳範囲の位置もしくは重畳範囲と反対の側に位置する部分範囲の位置が規定される。
【0021】
別の有利な改良態様によれば、第3の方法ステップにおいて、第1のワークピースと第2のワークピースとを完全に1回転させた後、重畳範囲を形成し、この重畳範囲で溶接シームそれ自体を重ね合わせることが提案されている。第1のワークピースと第2のワークピースとから成る複合体を溶接ビームに対して360°よりも多く回転させた後、形成される溶接シームがその固有の始端範囲に重なり始める。したがって、相応の回転角の選択によって、重畳範囲の大きさが規定される。この場合、有利には、発生させられる溶接ひずみが、重畳範囲の大きさに直接関連している。
【0022】
別の有利な改良態様によれば、第3の方法ステップにおいて、重畳範囲の大きさを溶接ひずみ量に関連して調整し、かつ/または重畳範囲に、減少させられた放射出力を調整することが提案されている。有利には、両ワークピースの片側における重畳範囲の大きさによって、溶接ひずみを調整することができる。この場合、より小さな重畳範囲は、重畳範囲の方向へのより僅かな溶接ひずみを発生させ、増加させられた重畳範囲は、重畳範囲の方向へのより大きな溶接ひずみを発生させる。
【0023】
別の有利な改良態様によれば、第3の方法ステップにおいて、180°の回動に関して重畳範囲と反対の側に位置する部分範囲に対して、高められた放射出力を調整しかつ/または付加的な放射線量を付与することが提案されている。重畳範囲と反対の側に位置する部分範囲における高められた放射出力または付加的なビーム線量は、重畳範囲の方向への溶接ひずみと逆の溶接ひずみを発生させ、これによって、重畳範囲の方向への溶接ひずみが少なくとも部分的に補償されるかまたは過剰に補償される。したがって、結果的に生じる溶接ひずみが制御可能となる。第1のワークピースと第2のワークピースとの最初の回転の間の部分範囲における補償は、この部分範囲での高められた放射出力によって実現可能となる。有利には、溶接プロセスは、公知先行技術に比べて、付加的な時間および/または付加的な回転を決して必要としない。択一的には、部分範囲における補償を、この部分範囲における付加的な放射線量によって実現することができる。この付加的な放射線量は、次ぎの回転において部分範囲に入射される。これは、高められた放射出力が不要となるという利点を有している。
【0024】
別の有利な改良態様によれば、第3の方法ステップにおいて、放射出力が所定のパルス形状を有するように、放射出力を時間および/または回転運動に関連して調整し、パルス長さが、有利には、第1のワークピースと第2のワークピースとの500°〜1200°の回転に対応していることが提案されている。この改良態様では、アクティブな溶接範囲が、斜面状の連続的な減少時に含まれている。この場合、まず、存在している応力ピークが、第1のワークピースおよび/または第2のワークピースにおける前加工プロセスから減少させられ、次いで、第1のワークピースと第2のワークピースとに均一な荷重が加えられ、これによって、溶接プロセスの終了時には、ひずみが、有利には最小限にとどめられる。
【0025】
本発明の更なる対象は、方法請求項に並ぶ装置請求項に記載の溶接装置である。本発明に係る溶接装置では、第1のワークピースと第2のワークピースとの間の誤り位置が検知ユニットによって検知されるかまたは第1のワークピースと第2のワークピースとが溶接工程の間に回転させられる。その際、回転運動に関連して溶接ビームが調整される。これは、1つには、誤り位置を修正するかもしくは補償するための所要の溶接ひずみ量を、後続の溶接プロセスにおいて溶接パラメータを調整するために利用される誤り位置から算出することができるという利点を有している。したがって、本発明に係る溶接装置によって、第1のワークピースと第2のワークピースとの間の固い結合部の形成が可能となるだけでなく、その上、付加的には、溶接の間の第1のワークピースと第2のワークピースとの間の結合部の矯正も可能となり、これによって、第1のワークピースと第2のワークピースとから成る構成部材が、所望の幾何学的な外形を備えて比較的精密に製造可能となる。もう1つには、溶接出力を常に最適化することによって、可能な限り良好な回転が可能となる。さらに、必要となるエネルギ需要の減少を得ることができる。本発明に係る溶接装置は、たとえば第1のワークピースと第2のワークピースとの接合面が面平行でないことによって、第1のワークピースと第2のワークピースとの間の誤り位置に特に強い影響が与えられるので、特に細長い、特に管状のかつ/または棒状のワークピースを溶接するために適している。したがって、さらに、有利には、出発ワークピースの接合面が面平行でない場合でも、第1のワークピースおよび/または第2のワークピースの比較的良好な同心性を得ることができる。
【0026】
有利な改良態様によれば、溶接ヘッドの制御および/または保持部材の、第1のワークピースと第2のワークピースとを一緒に運動させるための駆動装置の制御が、検知ユニットによって行われていることが提案されている。誤り位置を考慮するかもしくは修正するためには、すでに詳しく上述したように、溶接ビームが、放射出力、焦点調節および/または放射方向に関して放射ヘッドによって調整され、かつ/または第1のワークピースおよび第2のワークピースと溶接ビームとの間の相対位置もしくは相対運動、すなわち、特に回転角が、駆動装置によって調整される。所望の溶接ひずみ量を得るためには、放射ヘッドおよび/または駆動装置が、検知ユニットによって間接的にまたは直接的に制御される。
【0027】
別の有利な改良態様によれば、検知ユニットが、光学式のかつ/または機械式の検知ユニットを有していることが提案されている。特に有利には、光学式の検知ユニットが、第1のワークピースと第2のワークピースとの間の誤り位置を比較的精密に検知するために使用されるレーザビーム光学系を有している。択一的には、機械式の検知ユニットが、有利には触覚式の検知ユニットを有している。この触覚式の検知ユニットでは、誤り位置が「触知」されるかもしくは接触によって検知される。さらに、ワークピースの変形量の簡単な測定および/またはワークピース保持部材の位置によって、ひずみ量を検知することが可能となる。ひずみ量の検知を別のあらゆる適切な方法でも実施することができることは当業者に自明である。
【0028】
本発明の更なる対象は、本発明に係る方法により製造されたかつ/または本発明に係る溶接装置を用いて製造された、第1のワークピースと第2のワークピースとから成る複合部材である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1A】公知先行技術に係る溶接法の概略的なブロック図である。
図1B】本発明の第1の実施の形態に係る溶接法の概略的なブロック図である。
図2A】本発明の第1の実施の形態に係る溶接装置の概略的な側面図である。
図2B】本発明の第2の実施の形態に係る溶接装置の概略的な側面図である。
図3】本発明の第3の実施の形態に係る溶接装置の概略的な平面図である。
図4A】本発明の第2の実施の形態に係る溶接法の回転角に関連した放射出力の概略図である。
図4B】本発明の第3の実施の形態に係る溶接法の回転角に関連した放射出力の概略図である。
図4C】本発明の第4の実施の形態に係る溶接法の回転角に関連した放射出力の概略図である。
図5】本発明の第5の実施の形態に係る溶接法の回転角に関連した放射出力の概略図である。
【0030】
発明の実施の形態
本発明の複数の実施の形態を図面に示し、以下に詳しく説明する。
【0031】
図1Aには、公知先行技術に係る典型的な溶接法の概略的なブロック図が示してある。この溶接法では、第1のステップ1’において、まず、第1のワークピースと第2のワークピースとが保持部材に緊締されて、それぞれ接合面で互いに接触させられる。次いで、第2のステップ3’において、第1のワークピースと第2のワークピースとが、駆動装置によって回転軸線を中心として一緒に回転運動させられ、本来の溶接プロセスが実施される。その際には、第1のワークピースと第2のワークピースとの間の接触箇所に溶接ビーム、特にレーザビームが向けられる。回転運動によって、この溶接ビームが接触箇所の全周に沿って移動させられて、この全周に沿って溶接シームが形成され、これによって、第1のワークピースと第2のワークピースとの間に、全周にわたって延びる固い溶接結合部が製作される。
【0032】
図1Bには、本発明の第1の実施の形態に係る溶接法の概略的なブロック図が示してある。本発明に係る溶接法は、図1Aに示した溶接法に類似している。本発明に係る溶接法では、まず、第1の方法ステップ1での保持部材への第1のワークピースと第2のワークピースとの緊締後、第2の方法ステップ2において、所要のもしくは所望の溶接ひずみ量が求められる。このためには、第1のワークピースと第2のワークピースとから成る複合体が、検知ユニットによって測定され、第1のワークピースと第2のワークピースとの間の望ましくないかもしくは修正すべき誤り位置が検知される。この場合、特に第1のワークピースと第2のワークピースとの実際配置状態が検知され、目標配置状態と比較される。検知された誤り位置に基づき、所要の溶接ひずみ量が算出される。この溶接ひずみ量は、検知された誤り位置を補償するために必要であり、これによって、第1のワークピースと第2のワークピースとの配置状態が、溶接プロセスの完了後には目標配置状態に相当するようになっている。次いで、第3の方法ステップ3において、第1のワークピースと第2のワークピースとから成る複合体が、回転軸線を中心として回転運動させられ、溶接プロセスが開始される。複合体の溶接プロセスと回転運動とは、算出された溶接ひずみ量に関連して実施され、溶接プロセスの終了後には、誤り位置が、結果的に生じる溶接ひずみによって丁度補償されるようになっている。有利には、放射出力および/または第1のワークピースと第2のワークピースとから成る複合体の回転運動が、求められた溶接ひずみ量に関連して制御される。この溶接ひずみ量を発生させるためには、特に放射出力が、複合体と溶接ビームとの間の出発角に関連して制御される。
【0033】
図2Aおよび図2Bには、本発明の第1の実施の形態および第2の実施の形態に係る溶接装置の概略的な側面図が示してある。両溶接装置は、図1Bに示した本発明の第1の実施の形態に係る溶接法を実施するために設けられている。図2Aに示した第1の実施の形態は、保持部材12に保持された第1のワークピース10と第2のワークピース11とを有している。第1のワークピース10の主延在方向と第2のワークピース11の主延在方向とは、互いに180°に等しくない角度を有している。すなわち、第1のワークピース10と第2のワークピース11とは、互いに正確に平行に方向設定されていない。このことは、たとえば第1のワークピース10と第2のワークピース11との接合面が面平行でないことに起因して起こることがある。第1のワークピース10の向きと第2のワークピース11の向きとの間のずれを、以下、誤り位置(もしくは位置ずれ)と呼ぶ。この誤り位置は検知ユニット(図示せず)、たとえばレーザビーム光学系によって検知され、この検知された誤り位置を考慮して、溶接プロセスの完了後に誤り位置を丁度補償するために適した溶接ひずみ量が算出される。いま、第1のワークピース10と第2のワークピース11との間の接触範囲13に溶接ヘッド(図示せず)から溶接ビーム14が入射され、これによって、第1のワークピース10と第2のワークピース11とが接触範囲13で互いに結合される。このとき、第1のワークピース10と第2のワークピース11とは、駆動装置(図示せず)によって回転軸線16を中心として駆動されて、一緒に回転運動15を実施する。溶接ビーム14の放射出力と回転運動15とは、算出された溶接ひずみ量に関連して調整され、これによって、結果的に生じる、誤り位置を丁度補償する溶接ひずみが、接触範囲13に同時に発生させられ、溶接結合部が形成される。図2Bには、第1の実施の形態とほぼ同一である第2の実施の形態が示してある。この第2の実施の形態では、第2のワークピース11が直方体状のまたは円形のワークピースを含んでいる。第1のワークピース10は、第2のワークピース11と、側方に弾性的な押さえ12’の形の保持部材との間に緊締されている。この押さえ12’は、側方への運動に対して、すなわち、回転軸線16に対して垂直に弾性的であり、同時に検知ユニットとして機能する。この場合、第2のワークピース11に対する第1のワークピース10の誤り位置が、押さえ12’の側方の位置によって測定される。したがって、押さえ12’の側方の位置が正確に接触箇所13の上方にもしくは回転軸線16上に配置されている場合には、誤り位置はゼロである。
【0034】
図3には、本発明の第3の実施の形態に係る溶接装置1の概略的な平面図が示してある。第3の実施の形態は、図2Aに示した第1の実施の形態にほぼ相当している。溶接装置1は、図2Aに矢印20により示した方向から見た平面図で示してある。溶接ビーム14が、第1のワークピース10と第2のワークピース11との間の接触箇所に入射されるのと同時に、第1のワークピース10と第2のワークピース11とから成る複合体がその固有の軸線を中心として溶接ビーム14に対して相対的に回転軸線16を中心として回転させられる。その際、複合体の全周22に沿って延びる溶接シーム21が形成される。固い溶接結合部を得るためには、溶接シーム21が全周22よりも長く形成されており、これによって、複合体を360°だけ1回転させた後、溶接シーム21が始点23で互いに重ね合わされる。溶接シーム21が重ね合わされる範囲を重畳範囲17と呼ぶことにする。溶接ひずみは、通常、重畳範囲17の方向に向けられている。このような重畳範囲17の方向への溶接ひずみを減少させるためには、図4Cに示した溶接ビーム14の制御が可能である。この場合、重畳範囲17において、溶接ビーム14の放射出力24が減少させられる。択一的な実施の形態では、図4Bに示したように、複合体の最初の回転の間、回転軸線16に対して相対的に重畳範囲17と反対の側に位置する部分範囲18において、高められた放射出力24’を供給することが可能である。部分範囲18は、180°の回動時に始まる。高められた放射出力24’は、重畳範囲17の方向への溶接ひずみを補償するように作用する。図4Aに示した別の実施の形態では、複合体の更なる回動、すなわち、たとえば360°〜720°の間の回動において、部分範囲18にだけ付加的な放射線量24’’を照射することが可能である。主として540°以降の範囲で放射されるこの付加的な放射線量24’’によって、同じく、重畳範囲17の方向への溶接ひずみの補償が達成される。
【0035】
図4A図4Bおよび図4Cには、本発明の第2の実施の形態、第3の実施の形態および第4の実施の形態に係る溶接法の回転角25に関連した放射出力24の概略図が示してある。回転角25に関連した放射出力24のそれぞれ異なる経過は、すでに図3に基づき説明してある。図4A図4Bおよび図4Cでは、横軸にそれぞれ回転角25が「°(度)」で書き込んであり、縦軸にそれぞれ放射出力24もしくは相応の放射温度が書き込んである。0°の回転角25は始点23に相当している。図4Aに示した放射経過は、(0°〜360°の)最初の回転の間、均一な放射出力24を有しており、この放射出力24は、(360°〜約400°の間の)重畳範囲17においてゼロに向かって減少させられ、この重畳範囲17の方向への溶接ひずみを補償するために、(たとえば360°〜900°の)次ぎの回転の間には、重畳範囲17および部分範囲18以外で放射出力24がゼロに調整され、(約500°〜600°の間の)部分範囲18でもしくは部分範囲18周辺で付加的な放射線量24’’が提供される。この付加的な放射線量24’’の放射出力24は、有利には、最初の回転の間に均一に入射される放射出力24よりも低く設定されている。図4Bに示した放射経過には、最初の回転の間に全体的に少ない、部分範囲18でのみ短時間高められた放射出力24’が示してある。この短時間高められた放射出力24’によって、重畳範囲17の方向への溶接ひずみが補償される。図4Aには、減少させられた放射出力24が示してあり、これによって、重畳範囲17の方向への溶接ひずみが全体的に減少させられている。回転角25に関連した放射出力24のこれらの異なる経過によって、所望の溶接ひずみ量に応じて、重畳範囲17の方向への溶接ひずみの部分的な補償、正確な補償または過剰な補償を行うことができるので、放射出力24および/または回転運動の相応の選択によって、溶接法の間に所望の形式で誤り位置を修正することができる。
【0036】
図5には、本発明の第5の実施の形態に係る溶接法の時間31に関連した放射出力24の概略図が示してある。放射出力24と放射時間とは、本発明に係る溶接法では、線30によって図示したように、時間31もしくは回転角25に関連して調整される。時間単位において生じるパルス長さは、プロセス中に利用される回転速度に関連していて、たとえば500°を上回って延びている。比較のために、図5には、さらに、線32によって、従来の溶接プロセスにおける時間31に関連した溶接出力24の経過が示してある。
【符号の説明】
【0037】
1,1’ 第1の方法ステップ
2 第2の方法ステップ
3,3’ 第3の方法ステップ
10 第1のワークピース
11 第2のワークピース
12 保持部材
12’ 押さえ
13 接触範囲
14 溶接ビーム
15 回転運動
16 回転軸線
17 重畳範囲
18 部分範囲
20 矢印
21 溶接シーム
22 全周
23 始点
24 放射出力
24’ 高められた放射出力
24’’ 付加的な放射線量
25 回転角
30 線
31 時間
32 線
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5