特許第6066991号(P6066991)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6066991キメラサイトカイン受容体を用いて、腫瘍微小環境の影響を逆転する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066991
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】キメラサイトカイン受容体を用いて、腫瘍微小環境の影響を逆転する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20170116BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20170116BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20170116BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170116BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20170116BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170116BHJP
【FI】
   C12N5/10
   C12N5/0783
   A61K35/15 Z
   A61P35/00
   A61P35/02
   !C12N15/00 A
【請求項の数】31
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2014-503979(P2014-503979)
(86)(22)【出願日】2012年4月5日
(65)【公表番号】特表2014-512183(P2014-512183A)
(43)【公表日】2014年5月22日
(86)【国際出願番号】US2012032322
(87)【国際公開番号】WO2012138858
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2015年2月16日
(31)【優先権主張番号】61/473,457
(32)【優先日】2011年4月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391058060
【氏名又は名称】ベイラー カレッジ オブ メディスン
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リーン、アン、マリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラ、ジュアン、エフ.
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−501827(JP,A)
【文献】 特表2004−531237(JP,A)
【文献】 特表2002−516562(JP,A)
【文献】 生化学,2007年,抄録CD,4P-0310
【文献】 The Journal of Biological Chemistry,2010年,Vol. 285, No. 33,pp. 25538-25544
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/10
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイトカイン結合細胞外ドメインおよびシグナル伝達細胞内ドメインを含むキメラサイトカイン受容体を含む免疫系細胞であって、
前記細胞外ドメインがIL4細胞外ドメイン、かつ前記細胞内ドメインがIL7細胞内ドメインである、および/または、
前記細胞外ドメインがIL13細胞外ドメイン、かつ前記細胞内ドメインがIL2細胞内ドメインであり、
前記免疫系細胞が、Tリンパ球である免疫系細胞。
【請求項2】
前記Tリンパ球が、天然起源の腫瘍抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球である、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記免疫系細胞が、CEA、MUC1、MUC5AC、MUC6、テロメラーゼ、PRAME、MAGEA、SSX2/4、NY−ESO、PSCA、PSMA、サバイビン、MHC、CTLA−4、gp100、メソテリン、PD−L1、TRP1、CD40、EGFP、Her2、TCRα、trp2、TCR、MUC1、cdr2、ras、4−1BB、CT26、GITR、OX40、TGF−α、WT1、MUC1、LMP2、HPV E6E7、EGFRvIII、HER−2/neu、MAGE A3、p53の非変異体、GD2、メランA/MART1、Ras変異体、p53変異体、プロテイナーゼ3(PR1)、bcr−abl、チロシナーゼ、PSA、hTERT、EphA2、PAP、ML−IAP、AFP、EpCAM、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、ALK、アンドロゲン受容体、サイクリンBl、ポリシアル酸、MYCN、RhoC、TRP−2、GD3、フコシルGM1、メソテリン、MAGE A1、sLe(a)、CYP1B1、PLAC1、GM3、BORIS、Tn、GloboH、ETV6−AML、NY−BR−1、RGS5、SART3、STn、炭酸脱水酵素IX、PAX5、OY−TES1、精液タンパク質17、LCK、HMWMAA、AKAP−4、XAGE1、B7H3、レグマイン、Tie2、Page4、VEGFR2、MAD−CT−1、FAP、PDGFR−β、MAD−CT−2、およびFos関連抗原1からなる群から選択される腫瘍関連抗原を標的とするキメラ抗原受容体を含む、請求項1または2に記載の細胞。
【請求項4】
がんを有する個体の治療剤製造のための請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞の使用。
【請求項5】
前記免疫系細胞が、個体に対して自己由来または同種異系である、請求項4に記載の細胞の使用。
【請求項6】
前記がんが、膵臓がん、肺がん、乳がん、脳腫瘍、前立腺がん、皮膚がん、卵巣がん、精巣がん、胆嚢がん、脾臓がん、胃腸がん、結腸がん、直腸がん、食道がん、子宮頸がん、膀胱がん、子宮内膜がん、腎臓がん、血液がん、甲状腺がん、および胃がんからなる群から選択される、請求項4または5に記載の細胞の使用。
【請求項7】
前記がんが、膵臓がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項8】
前記がんが、肺がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項9】
前記がんが、乳がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項10】
前記がんが、脳腫瘍である、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項11】
前記がんが、前立腺がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項12】
前記がんが、皮膚がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項13】
前記がんが、卵巣がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項14】
前記がんが、精巣がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項15】
前記がんが、胆嚢がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項16】
前記がんが、脾臓がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項17】
前記がんが、胃腸がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項18】
前記がんが、結腸がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項19】
前記がんが、直腸がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項20】
前記がんが、食道がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項21】
前記がんが、子宮頸がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項22】
前記がんが、膀胱がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項23】
前記がんが、子宮内膜がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項24】
前記がんが、腎臓がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項25】
前記がんが、血液がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項26】
前記がんが、甲状腺がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項27】
前記がんが、胃がんである、請求項6に記載の細胞の使用。
【請求項28】
前記治療剤が、静脈内送達によって個体に送達されるために配合される、請求項4に記載の細胞の使用。
【請求項29】
請求項1に記載の免疫系細胞を製造する方法であって、免疫細胞を提供または得るステップ;キメラサイトカイン受容体をコードする発現ベクターで細胞をトランスフェクトするステップ;を含む方法。
【請求項30】
前記免疫細胞が、がん治療を必要とする個体由来である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記発現ベクターが、レトロウィルスベクター、レンチウィルスベクター、またはトランスポゾンプラスミドである、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2011年4月8日に出願された米国仮特許出願第61/473,457号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明の分野は、免疫学、細胞生物学、分子生物学、そして医学の分野を少なくとも一般的に含む。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
従来の化学療法と放射線療法は、多くの場合、不十分な利益をもたらし、新規な治療の必要性を強調している。インビトロで拡大培養された腫瘍関連抗原(TAA)−特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の養子移入は、例えば、ホジキンリンパ腫、上咽頭がん、神経芽細胞腫および黒色腫を含む腫瘍を有効に治療することができる。がん発現TAAを標的とするCTLの注入は、治療上有用であるが、少なくとも一部の腫瘍は、抗原発現のダウンレギュレーションやIL13およびIL4などの可溶性免疫調節サイトカイン類の放出などを含む、細胞毒性Th1型免疫応答よりもむしろTh2の発育を助長する免疫回避の複数のメカニズムを使用する。本発明は、腫瘍によるこのような回避措置の克服を容易にするという当該分野における必要性に対する解決策を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
進行性の腫瘍増殖は、免疫応答の抑制に関連付けることができる。多くの異なるメカニズムが免疫回避に寄与する可能性があるが、がんの多くのタイプは、がん細胞を破壊することを標的とする適切な免疫応答をダウンレギュレーションするサイトカイン類の調節の役割を利用している。それらは、腫瘍への制御性免疫細胞をリクルートし、効果のないTh2表現型への細胞傷害性Th1 T細胞を直接に阻害および/または再分極するのに役立つ免疫抑制サイトカイン類を分泌することによってこれを行う。がん細胞や周囲の腫瘍間質により分泌される免疫抑制性サイトカイン類は、少なくともインターロイキン(IL)13、IL4、(形質転換成長因子−β)TGF−β、IL6、IL8、およびIL−10を含む。
【0005】
本発明の実施形態は、腫瘍反応性T細胞を、微小環境に存在する免疫抑制性/阻害性サイトカイン類に対して耐性とする新しいアプローチを提供する。本発明の特定の実施形態は、トランスジェニックキメラサイトカイン受容体を用いた腫瘍特異的CTLの改善された拡大培養および抗腫瘍活性に関する。
【0006】
本発明の実施形態は、エフェクターTh1 T細胞を、腫瘍微小環境における阻害性サイトカイン環境に対して耐性とする新しいアプローチを提供する。このような実施形態は、天然の腫瘍特異的T細胞、または阻害性/抑制性サイトカイン類と結合し、それらの細胞内結果をTh1の免疫刺激性/活性化シグナルへ変換し、それにより腫瘍特異的T細胞の効果を改善するキメラ受容体により遺伝的に改変された腫瘍特異的T細胞を包含する。
【0007】
例として、本発明は、IL2および/またはIL7サイトカイン受容体に対するシグナル伝達細胞内ドメインと融合したIL4および/またはIL13サイトカイン受容体に対する細胞外ドメインをコードする、バイシストロン性レトロウィルスベクターなどのベクターを包含する。同様に、本発明は、IL2および/またはIL1サイトカイン受容体に対するシグナル伝達細胞内ドメインと融合したIL10サイトカイン受容体の細胞外ドメインをコードする、レトロウィルスベクターなどのベクターを包含する。
【0008】
特定の態様において、IL13、IL4および/またはIL10(またはその他)の1つ以上が、微小環境中に存在するがんは、実質的にすべての固形腫瘍を含む。特定の例示的ながんとしては、少なくとも、膵臓がん、ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫、黒色腫、乳がん、肺がん、前立腺がん、神経膠芽腫、肝細胞がん、卵巣がんなどが挙げられる。
【0009】
本発明の実施形態は、例えば、初代T細胞、天然起源腫瘍抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球、およびNK細胞を改変するのに有用である。本発明を使用して改変されたT/NK細胞は、自家系または同種異系の設定で使用することができる。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態では、負の免疫調節シグナルを正のシグナルに変換することができるキメラ分子が存在する。このアプローチは、一例としてのみであるが、IL−4および/またはIL−13の細胞外ドメインをIL−2および/またはIL−7受容体のシグナル伝達細胞内ドメインと融合させることを含む。このアプローチは、腫瘍微小環境でしばしば提示する負のサイトカインシグナルに対してエフェクターのTh1細胞を耐性とするために使用することができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明は、IL−2および/またはIL−7受容体の細胞内ドメインと融合したIL−4および/またはIL−13の細胞外ドメインであるキメラサイトカイン受容体を用いて腫瘍微小環境の影響を逆転することを提供する。
【0012】
特定の実施形態では、本発明は、例えば、IL−2およびIL−7受容体の細胞内ドメインと融合したIL−4およびIL−13の細胞外ドメインであるキメラサイトカイン受容体を用いて腫瘍微小環境の影響を逆転することを可能とする。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態では、Th2表現型を有する細胞への細胞傷害性Th1 T細胞の阻害または再分極を防止する方法があり、該方法は、腫瘍特異的T細胞を改変して阻害性または抑制性サイトカイン類と結合するキメラ受容体を構成するステップを含み、ここで、阻害性または抑制性サイトカイン類によりキメラ受容体に結合すると、細胞傷害性Th1 T細胞の阻害または再分極は、それによって防止される。特定の実施形態では、キメラ受容体は、1つまたは複数のIL10、IL4、および/またはIL13サイトカイン受容体の細胞外ドメインを含み、そして、1つまたは複数のIL2および/またはIL7サイトカイン受容体のシグナル伝達細胞内ドメインを含む。特定の実施形態では、キメラ受容体は、免疫抑制性サイトカインの細胞外ドメインとTh1シグナルを伝達するサイトカイン類の細胞内ドメインを含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、免疫抑制性サイトカイン受容体の細胞外ドメインとTh1シグナルを伝達するサイトカイン受容体の細胞内ドメイとを含むキメラ受容体を含むベクターが存在する。いくつかの実施形態では、免疫抑制性サイトカインの細胞外ドメインは、IL10、IL4、および/またはIL13サイトカイン受容体の細胞外ドメインである。特定の実施形態では、Th1のシグナルを伝達するサイトカイン受容体の細胞内ドメインは、IL2および/またはIL7サイトカイン受容体に対するサイトカイン受容体の細胞内ドメインである。ベクターは、どんな種類であってもよく、レトロウィルスベクター、アデノウィルスベクター、プラスミド、またはアデノ随伴ウィルスベクターを含む。特定の実施形態では、キメラ受容体は、IL4の細胞外ドメインとIL7の細胞内ドメインを含む。
【0015】
上記は、以下の本発明の詳細な説明がより良く理解され得るように、本発明の特徴と技術的な利点をかなり広く概説した。本発明のさらなる特徴および利点は、以下に記述され、それは本発明の特許請求の範囲の主題を形成する。開示された概念および特定の実施形態は、同じ目的を実施するために、他の構造を改変または設計するための基礎として、容易に利用できることが当業者によって理解されるべきである。また、そのような均等な構成が、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の精神および範囲から逸脱しないことは、当業者によってこれまた理解されるべきである。更なる目的および利点と共に、その構成および動作方法の両方に関して、本発明に特徴的であると考えられる新規な特徴は、添付の図面と関連させて考慮すれば、以下の説明からよりよく理解されよう。しかし、各図面は、例示および説明のためにのみ提供されるのであって、本発明の限定の定義を意図するものではないことは明白に理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明のより完全な理解のために、今度は、添付の図面と併せて以下の説明が参照される:
図1】IL4およびIL13のシグナル伝達の概略図である。
図2】A)典型的な構築物#1と#2のベクターマップ、B)GFP(#1)およびmOrange(#2)発現による導入効率の評価、C)10分間のサイトカイン曝露後のリン酸化Stat5、D)IL2、4、または13で培養された形質導入CTLと対照CTLを示す。
図3】3Aは、典型的な構築物#3を、3Bは、トランスジェニック細胞でのIL4とIL13シグナル伝達の概略図を示す。
図4】IL4Rα/IL7Rα(“4/7R”)とレポーター遺伝子の典型的な融合を示す。
図5】形質導入細胞上でのIL4RとmOrangeの安定な発現を示す。
図6】IL−4投与後のトランスジェニック細胞上のpSTAT5を示す。
図7】4/7R発現が、CTL機能に悪影響を及ぼさないことを示す。
図8】4/7Rを発現するトランスジェニックT細胞は、IL−4の存在下インビトロで増殖することを示す。
図9】4/7R発現CTLは、上清からIL4を枯渇させることができることを示す。
図10】4/7R発現CTLは、他の免疫抑制性サイトカイン類に耐性であることを示す。
図11】T細胞増殖因子への免疫抑制性サイトカインのシグナル伝達の変化を説明する。
図12】4/7R CTLは、腫瘍増殖をコントロールすることを示す。
図13】4/7R CTLは、腫瘍増殖をコントロールすることを示す。
図14】4/7R CTLは、腫瘍増殖をコントロールすることを示す。
図15】特定の実施形態では、例えば、患者由来のCAR−PSCA改変T細胞を改変して4/7Rを共発現することができるように対処している。
図16】4/7Rを共発現するように改変されたCAR−PSCA T細胞が、腫瘍標的を殺すそれらの能力を保持していることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の実施形態の詳細な説明
1.定義
本明細書で使用される場合、「1つ(“a”または“an”)」は、1つ以上を意味することができる。本明細書の1つまたは複数の請求項で使用される場合、単語「含む」と一緒に、単語「1つ(“a”または“an”)」は、1つ以上を意味することができる。本明細書で使用する場合、「別の」は、少なくとも第2以降の事項を意味し得る。
【0018】
本明細書で使用される用語「キメラサイトカイン受容体」は、異なる受容体からの細胞内シグナル伝達部分に連結した1つの受容体からのサイトカイン結合部分を含む設計された受容体を意味する。
【0019】
本明細書で使用される用語「サイトカイン結合性細胞外ドメイン」は、サイトカインに結合する細胞表面上のサイトカイン受容体部分を指す。
【0020】
本明細書で使用される用語「シグナル伝達細胞内ドメイン」は、サイトカイン結合時にシグナル伝達を担う細胞内のサイトカイン受容体部分を指す。
【0021】
II.本発明の一般的な実施形態
当該分野の障壁を克服し、がんに対する効果的な免疫療法戦略を開発するために、本発明の実施形態は、悪性細胞上に発現する抗原を標的とする、CTL株(天然の腫瘍特異性を有するT細胞株)またはキメラ抗原受容体(CAR)−改変T細胞、ならびにTh1シグナルを伝達するIL2RγおよびIL7Rαの細胞内ドメインに連結したIL13受容体α(IL13Rα1)およびIL4Rαのサイトカイン結合細胞外ドメインを含むキメラ受容体を発現するこれらの細胞の設計を包含する。特定の実施形態では、これらの操作は、Th2分極の腫瘍微小環境に対してCTLを耐性とし、その代わりにTAAを標的とするCTLへのTh1シグナル伝達を維持する。がん患者サンプルを検査し、TAAの発現パターンやレベル、ならびに産生されるTh2サイトカイン類のレベルやパターンを記録することができる。その後、患者PBMCからの発現抗原に向けられたCTLが拡大培養できるかどうかを決定し、それらを改変する影響を特徴付けて、それらがTh2誘導腫瘍微小環境でさえTh1活性に分極した状態を維持することができる。特定の実施形態では、膵臓がん関連抗原(単なる例による)に対する反応性T細胞は、患者のPBMCから生成させることができ、腫瘍のTh2サイトカイン環境においてでさえ、Th1機能を保持するように改変することができる。このような実施形態は、以下のように検討することができる:1)TAA発現のパターンを記録し、主生検サンプルのサイトカインプロファイルを評価すること、2)複数の膵臓がん関連標的抗原に対して特異的な腫瘍反応性CTLを生成させ、インビトロでのそれらの特異性および機能を評価すること、および3)キメラサイトカイン受容体の強制発現により、Th2サイトカイン類でのシグナル伝達の阻害効果からCTLを保護する。これに続いて、膵臓がんを含むがんを有する個体でのTAA−CTLの安全性と抗腫瘍効果を評価することができる。
【0022】
腫瘍特異的CTLの生存および拡大培養は、T細胞療法のインビボでの最適有効性にとって重要である。IL2投与は、これらの効果をもたらすことができるが、それは利益を限定する阻害性T細胞集団の毒性と拡大に関連付けられる。IL7受容体のトランスジェニック発現は、CTL生存率と拡大を改善するが、IL7サイトカインの繰り返しの外因性投与でのみ有益であるが、それは高価であり、臨床グレード製品の利用可能性に依存しており、腫瘍部位では不十分な濃度である場合がある。本発明の実施形態は、IL4、すなわち、いくつかの腫瘍微小環境で豊富に内因的に存在し、そうでなければ、がん細胞増殖、アポトーシスからの腫瘍細胞の保護、および抑制性Th2表現型への細胞傷害性腫瘍特異的T細胞の再分極を含む腫瘍形成を促進する作用に関連付けられたサイトカインに対して操作されたT細胞応答を提供する。腫瘍特異的CTLに対するIL4の阻害効果を逆転させ、その代わりにそれらが成長因子としてIL4を利用することを可能にするために、発明者らは、IL7Rの細胞内ドメイン(シグナル伝達ドメイン)と融合し、トランスジェニック遺伝子の検出を可能とするmOrangeと連結した、IL4Rα細胞外ドメイン(サイトカイン結合部分)をコードするレトロウィルスベクターを設計した。キメラIL4/7Rのトランスジェニック発現が、CTLの生存率と拡大培養を改善するかどうかを判断するために、本発明者らは、エプスタイン・バーウィルス(EBV)特異的CTLによってEBV+腫瘍を死滅させることを採用した。形質導入後、IL4/7R CTLは、フローサイトメトリー(ダブルポジティブmOrange、IL4R)によってEBV−CTLの13〜76%で検出された。IL4の添加は、IL2投与後に達成されたものと同様のレベルで、EBV−CTL/IL4/7R+のみでSTAT5をリン酸化したので、トランスジェニック分子は機能的であった。トランスジェニックCTLおよび対照CTLの両方は、IL2(1×10の細胞から3.5×10の細胞および5.3×l0の細胞へとそれぞれ増加)に応じて拡大培養されたが、EBV−CTL/IL4/7R+のみが、IL−4(1000Ulml)(それぞれ、1×10〜2.9×10対3.2×10のCTL)の存在下、1週間に渡って拡大培養された。予想通り、EBV−CTLのトランスジェニック部分母集団は、IL2で培養されたCTLと比較して、IL4(1週間で13%から80%に増加)の存在下でポジティブに選択された。IL4での拡大培養の後、トランスジェニックCTLは、エフェクターメモリープロファイルを有してポリクローナルのままであり、IFNγ放出により測定される抗原特異性、EBV−5量体結合、および自己EBV−LCLのMHC拘束性殺害を保持した。重要なのは、CTLの拡大培養は、どちらかの刺激の撤退が拡大を終了させたので、厳密には抗原およびサイトカイン依存性のままであった。これらのインビトロ特性は、EBV−CTL/IL4/7RがIL2またはIL4に応じて拡大培養し、それらの抗EBV−腫瘍活性を維持した異種移植マウスモデルにおいてインビボで複製された。最後に、CTLをIL−4産生腫瘍から採取した上清の存在下で培養した。トランスジェニックCTLのみが、培地からサイトカインを枯渇させた。したがって、本発明の実施形態では、IL4/7R CTLは、腫瘍由来IL4を成長因子として利用し、腫瘍微小環境からサイトカインを枯渇させるシンクとして機能することができ、したがって、さもなければ、腫瘍の成長と生存に役立つタンパク質を悪性腫瘍から奪っている。
【0023】
III.腫瘍関連抗原
複数TAA特異的CTLが、がんの治療および/または予防のために採用される実施形態では、様々なTAAが標的とされ得る。腫瘍抗原は、宿主の免疫応答を誘発する腫瘍細胞で産生される物質である。
【0024】
典型的な腫瘍抗原としては、少なくとも以下のものを含む:腸がんのためのがん胎児性抗原(CEA);卵巣がんのためのCA−125;乳がんのためのMUC−1または上皮性腫瘍抗原(ETA)もしくはCA15−3;チロシナーゼまたは悪性黒色腫のための黒色腫関連抗原(MAGE);および様々な種類の腫瘍のためのras、p53の異常な生成物;肝がん、卵巣がん、または精巣がんのためのα−フェトプロテイン;精巣がんの男性のためのhCGのβサブユニット;前立腺がんのための前立腺特異的抗原;多発性骨髄腫のための、および一部のリンパ腫でのβ2ミクログロブリン;結腸直腸がん、胆管がん、および膵臓がんのためのCA19−9;肺がんおよび前立腺がんのためのクロモグラニンA;黒色腫、軟部組織肉腫ならびに乳がん、結腸がん、および肺がんのためのTA90、GP100、およびメランA/MART1。腫瘍抗原の例は、当技術分野において、例えば、Cheever et al.,2009で公知であり、これは、引用によりその全体が本明細書に取り込まれる。
【0025】
腫瘍抗原の具体例としては、例えば、少なくともCEA、MHC、CTLA−4、gp100、メソテリン、PD−L1、TRP1、CD40、EGFP、Her2、TCRα、trp2、TCR、MUC1、cdr2、ras、4−1BB、CT26、GITR、OX40、TGF−α、WT1、MUC1、LMP2、HPV E6E7、EGFRvIII、HER−2/neu、MAGE A3、p53の非変異体、NY−ESO−1、PSMA、GD2、メランA/MART1、Ras変異体、gp100、p53変異体、プロテイナーゼ3(PR1)、bcr−abl、チロシナーゼ、サバイビン、PSA、hTERT、EphA2、PAP、ML−IAP、AFP、EpCAM、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、ALK、アンドロゲン受容体、サイクリンBl、ポリシアル酸、MYCN、RhoC、TRP−2、GD3、フコシルGM1、メソテリン、PSCA、MAGE A1、sLe(a)、CYP1B1、PLAC1、GM3、BORIS、Tn、GloboH、ETV6−AML、NY−BR−1、RGS5、SART3、STn、炭酸脱水酵素IX、PAX5、OY−TES1、精液タンパク質17、LCK、HMWMAA、AKAP−4、SSX2、XAGE1、B7H3、レグマイン、Tie2、Page4、VEGFR2、MAD−CT−1、FAP、PDGFR−β、MAD−CT−2、およびFos関連抗原1が挙げられる。
【0026】
IV.核酸
本発明に係る核酸は、キメラサイトカイン受容体をコードすることができる。核酸は、ゲノムDNA、相補的DNA(cDNA)、または合成DNAから誘導することができる。
【0027】
本明細書で使用する場合「核酸」は、一本鎖および二本鎖分子、ならびにDNA、RNA、化学的に改変された核酸および核酸類似体を含む。なお、本発明の範囲内の核酸は、コードされたタンパク質またはペプチドの長さによって部分的に決定される、ほぼ全てのサイズであってよいと考えられる。
【0028】
なお、キメラサイトカイン受容体は、適切なアミノ酸配列をコードする任意の核酸配列によってコードされ得ると考えられる。所望のアミノ酸配列をコードする核酸の設計および生産は、標準化されたコドン表を用いて当業者に周知である。好ましい実施形態では、各アミノ酸をコードするために選択されるコドンは、目的の宿主細胞における核酸の発現を最適化するために改変されてもよい。
【0029】
V.遺伝子治療ベクターの標的送達
本発明の特定の実施形態では、レトロウィルス、レンチウィルス、およびトランスポゾンなどの一過性発現よりも、むしろ組み込みを可能にするベクターが用いられる。
【0030】
遺伝子治療ベクターを細胞に導入し得る多数の方法がある。本発明の特定の実施形態では、遺伝子治療ベクターは、ウィルスを含む。受容体媒介細胞内取り込みを介して細胞に侵入して、宿主細胞ゲノムに組み込まれるか、またはエピソームに維持され、かつウィルス遺伝子を安定的かつ効率的に発現するための特定のウィルスの能力は、それらを哺乳動物細胞に外来遺伝子を転写するための魅力的な候補とした(Ridgeway,1988;Nicolas and Rubinstein,1988.;Baichwal and Sugden,1986;Temin,1986)。好ましい遺伝子治療ベクターは、一般に、ウィルスベクターである。遺伝子治療ベクターとして使用されるDNAウィルスは、パポバウィルス(例えば、シミアンウィルス40、ウシパピローマウィルス、およびポリオーマ)(Ridgeway,1988;Baichwal and Sugden,1986)およびアデノウィルス(Ridgeway,1988;Baichwal and Sugden,1986)が挙げられる。
【0031】
他の遺伝子導入ベクターは、レトロウィルスから構築され得る(Coffin,1990)。レトロウィルスベクターを構築するために、目的のタンパク質をコードする核酸は、特定のウィルス配列の代わりに、ウィルスゲノムに挿入されて複製欠損のウィルスを生成する。ビリオンを生成するために、gag、pol、およびenv遺伝子を含むが、LTRとパッケージング成分を含まないパッケージング細胞株が構築される(Mann et al.,1983)。レトロウィルスLTRおよびパッケージング配列と一緒にcDNAを含む組換えプラスミドは、この細胞株に導入される場合(例えば、リン酸カルシウム沈殿法により)、パッケージング配列は、組換えプラスミドのRNA転写物がウィルス粒子にパッケージングされるのを可能とし、次いでそれらは培地中に分泌される(Nicolas and Rubenstein,1988;Temin,1986;Mann et al,1983)。組換えレトロウィルスを含む培地は、次いで、収集され、必要に応じて濃縮され、遺伝子移入のために使用される。レトロウィルスベクターは、幅広い細胞型を感染させることができる。しかし、組み込みと安定した発現は、宿主細胞の分裂を必要とする(Paskind et al.,1975)。
【0032】
他のウィルスベクターは、標的遺伝子治療ベクターとして用いることができる。ワクシニアウィルス(Ridgeway,1988;Baichwal and Sugden,1986;Coupar et al,1988)、アデノ随伴ウィルス(AAV)(Ridgeway,1988;Baichwal and Sugden,1986;Hermonat and Muzycska,1984)、およびヘルペスウィルスなどのウィルス由来のベクターを用いることができる。
【0033】
本発明のさらなる実施形態において、遺伝子療法構築物は、リポソーム中に封入されてもよい。リポソーム媒介核酸送達およびインビトロでの外来DNAの発現は、非常に成功している。Wongら(1980)は、リポソーム媒介送達と培養ニワトリ胚、HeLa細胞、および肝がん細胞における外来DNAの発現の可能性を実証した。Nicolauら(1987)は、静脈内注射後、ラットでの成功裏のリポソーム媒介遺伝子移入を達成した。
【0034】
本発明の遺伝子治療ベクターは、様々な導入遺伝子を含むことができ、それは、典型的には、発現ベクターのコード化されたDNAまたはRNAである。遺伝子治療は、治療遺伝子の発現、血管新生を高めるAPAの発現、または血管新生に関連する疾患状態の治療のためのAPA発現の阻害のために用いることができる。DNAは、cDNA、インビトロ重合DNA、プラスミドDNA、プラスミドDNAの部分、ウィルス由来の遺伝物質、直鎖状DNA、ベクター(PI、PAC、BAC、YAC、人工染色体)、発現カセット、キメラ配列、組換えDNA、染色体DNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスDNAまたはこれらのグループの誘導体の形態であり得る。RNAは、オリゴヌクレオチドRNA、tRNA(転移RNA)、snRNAの(核内低分子RNA)、rRNA(リボソームRNA)、mRNA(メッセンジャーRNA)、インビトロ重合RNA、組換えRNA、キメラ配列、アンチセンスRNA、siRNA(低分子干渉RNA)、リボザイム、またはこれらのグループの誘導体の形態であってもよい。アンチセンスポリヌクレオチドは、DNAおよび/またはRNAの機能を干渉するポリヌクレオチドである。アンチセンスポリヌクレオチドは、これらに限定されないが、モルホリノ、2’−O−メチルポリヌクレオチド、DNA、RNAなどを含む。SiRNAは、典型的には15〜50塩基対、好ましくは21〜25塩基対を含有し、細胞内での発現標的遺伝子またはRNAと同じもしくは略同一のヌクレオチド配列を有する二本鎖構造を含む。干渉は発現の抑制をもたらす可能性がある。ポリヌクレオチドはまた、細胞内でのその存在または発現が、細胞の遺伝子またはRNA、例えば、APAの発現または機能を変更する配列でもあり得る。また、DNAとRNAは1本鎖、2本鎖、3鎖、または4本鎖であってもよい。
【0035】
VI.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、本明細書に記載されるように、薬学的に許容されるキャリアに溶解または分散された、本発明のキメラサイトカイン受容体をコードするベクターまたはベクターを保持する細胞を含む1つ以上の組成物の有効量を含む。語句「薬学的または薬理学的に許容される」は、例えば、必要に応じて、ヒトなどの動物に投与した場合に副作用、アレルギー反応、または他の有害反応を引き起こさない分子的実体および組成物を意味する。本発明の少なくとも1つの組成物またはさらなる有効成分を含む医薬組成物の調製は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、18th Ed.Mack Printing Company、1990(引用により本明細書に組み込まれる)に例示されるように、本開示を考慮して当業者に公知であろう。さらに、動物(例えば、ヒト)への投与のために、製剤は、FDA当局の生物学的基準に必要とされる無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきであると理解されるであろう。
【0036】
本明細書中で使用する場合、「薬学的に許容可されるキャリア」には、当業者に公知のように(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、18th Ed.Mack Printing Company、1990、pp.1289−1329を参照のこと;これは、引用により、本明細書に組み込まれる)、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、防腐剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、防腐剤、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、矯味矯臭剤、色素、それらの類似の物質および組み合わせが含まれる。任意の従来のキャリアが有効成分と不適合である場合を除き、治療薬または医薬組成物中でのその使用が考慮される。
【0037】
本発明の治療用組成物および診断用組成物は、固体、液体、またはエアゾール形態のいずれで投与するか、また、そのような投与経路に対して無菌である必要があるかどうかに応じて、異なる種類のキャリアを含むことができる。本発明は、当業者に公知のように[例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、18th Ed.Mack Printing Company、1990(これは、引用により本明細書に組み込まれる)を参照のこと]、静脈内投与、皮内投与、動脈内投与、腹腔内投与、病変内投与、頭蓋内投与、関節内投与、胸腔内投与、気管内投与、腫瘍内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下内投与、小胞内投与、舌下投与、吸入投与(例えば、エアゾール吸入)、注射投与、点滴投与、連続点滴投与、直接的に標的細胞を浸漬する局所潅流投与、カテーテル投与、洗浄液投与、脂質組成物での投与(例えば、リポソーム)、または、他の方法または上記の任意の組み合わせによって投与することができる。
【0038】
対象に投与する本発明の組成物の実際の用量は、物理的および生理学的要因(体重、状態の重症度、治療される疾患の種類、以前または現在の治療介入、患者の特発性疾患、および投与経路など)によって決定することができる。投与を担う実務者は、任意の事象で、個別の対象のための組成物中の1つまたは複数の有効成分の濃度および1つまたは複数の適切な用量を決定するであろう。
【0039】
ある実施形態では、医薬組成物は、例えば、少なくとも約0.1%の活性化合物を含むことができる。他の実施形態では、活性化合物は、例えば、構成単位の重量の約2%〜約75%、または約25%〜約60%、およびこれらの数値内から導かれる任意の範囲も含むことができる。他の非限定的な例では、用量は、また、投与あたり約1μg/kg/体重から、約5μg/kg/体重、約10μg/kg/体重、約50μg/kg/体重、約100μg/kg/体重、約200μg/kg/体重、約350μg/kg/体重、約500μg/kg/体重、約1mg/kg/体重、約5mg/kg/体重、約10mg/kg/体重、約50mg/kg/体重、約100mg/kg/体重、約200mg/kg/体重、約350mg/kg/体重、約500mg/kg/体重、約1000mg/kg/体重まで、またはそれを超える用量、およびこれらの数値内から導かれる任意の範囲も含むことができる。本明細書中に列挙した数値から導かれる範囲の非限定的な例では、上記数値に基づいて、約5mg/kg/体重〜約100mg/kg/体重の範囲、約5μg/kg/体重〜約500mg/kg/体重の範囲などを投与することができる。
【0040】
いずれの場合においても、組成物は、1つ以上の成分の酸化を遅らせるために様々な抗酸化剤を含んでもよい。また、微生物の作用の防止は、限定されるものではないが、パラベン類(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、またはそれらの組み合わせを含む様々な抗菌剤および抗真菌剤などの防腐剤によってもたらすことができる。
【0041】
組成物が液体形態である実施形態では、キャリアとしては、限定されるものではないが、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)、脂質類(例えば、トリグリセリド、植物油、リポソーム)、およびこれらの組み合わせを含む溶媒または分散媒体が挙げられる。多くの場合、例えば、糖類、塩化ナトリウムまたはそれらの組み合わせなどの等張剤を含むことが好ましいであろう。
【0042】
無菌注射溶液は、必要に応じて、APA標的部分またはそのコンジュゲートを、上に列挙した様々な他の成分と共に適切な溶媒中に必要量で配合し、次いで、滅菌ろ過して調製される。一般に、分散液は、塩基性分散媒体および/または他の成分を含む無菌ビヒクル中に種々の無菌活性成分を配合することによって調製される。無菌注射用溶液、懸濁液またはエマルジョンの調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、先に滅菌ろ過されたその液体媒体からの任意のさらなる所望の成分を加えた活性成分の粉末をもたらす、真空乾燥あるいは凍結乾燥の技術である。液体媒体は、必要に応じて適切に緩衝化され、液体希釈剤は、注射する前に、まず十分な生理食塩水またはグルコースで等張化されるべきである。直接注射用組成物の調製もまた、考慮されるが、そこでは、溶媒としてDMSOの使用が想定され、非常に急速な浸透をもたらし、高濃度の活性薬剤を小領域へ送達する。
【0043】
組成物は、製造および貯蔵の条件下で安定であり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護する必要がある。なお、エンドトキシン汚染は、安全なレベルで最小限、例えば、0.5ng/mg未満のタンパク質に、保たれるべきであることが理解されるであろう。
【0044】
VII.併用療法
本発明の特定の実施形態では、臨床的側面のための本発明の方法は、抗がん剤などの過剰増殖性疾患の治療に有効な他の薬剤と組み合わされる。「抗がん剤」は、例えば、がん細胞を殺す、がん細胞にアポトーシスを誘導する、がん細胞の増殖率を低下させる、転移の発生率や数を減らす、腫瘍の大きさを減らす、腫瘍の成長を阻害する、腫瘍またはがん細胞への血液供給を減少させる、がん細胞または腫瘍に対する免疫応答を促進させる、がんの進行を予防または阻害する、またはがんに罹患した対象の寿命を増加させる、ことにより対象のがんに悪影響を及ぼすことができる。より一般的には、これらの他の組成物は、細胞の増殖を殺すまたは阻害するのに効果的な併用量で提供されるであろう。このプロセスは、がん細胞を発現構築物と1つまたは複数の薬剤または複数の因子と同時に接触させることを含むことができる。これは、細胞を単一の組成物または両方の薬剤を含む医薬製剤と接触させることにより、または2つの別個の組成物または製剤と細胞を同時に接触させることにより達成することが可能であり、ここで1方の組成物は、発現構築物を含み、他方の組成物は、1つまたは複数の第2薬剤を含む。
【0045】
化学療法剤と放射線療法剤に対する腫瘍細胞の耐性は、臨床腫瘍学の主要な問題を呈している。現在のがん研究の1つの目標は、遺伝子治療を組み合わせることで化学療法と放射線療法の有効性を改善する方法を見つけることである。例えば、単純ヘルペス−チミジンキナーゼ(HS−tK)遺伝子は、レトロウィルスベクター系で脳腫瘍に送達されると、抗ウィルス剤ガンシクロビルに対する感受性を誘発するのに成功した(Culver et al.,1992)。本発明の文脈において、細胞療法は、他のアポトーシス促進剤や細胞周期調節剤に加えて、化学療法、放射線療法、または免疫療法の介入と組み合わせて同様に使用することができることが期待される。
【0046】
あるいはまた、本発明の治療は、数分から数週間の間隔で、他の薬剤での処置前または処置後になされてよい。他の薬剤および本発明が個別に個体に適用される実施形態では、薬剤および本発明の治療が細胞に対して有利に併用効果を依然として発揮できるように、一般的に確実に各送達時間の間で大幅な時間経過がないようにする。このような場合、互いの約12〜24時間以内に、より好ましくは、互いの約6〜12時間以内に、細胞を両方の治療法と接触させることが考えられる。しかし、いくつかの状況では、治療のための期間を大幅に延長することが望ましい場合があるが、それぞれの投与の間に、数日(2日、3日、4日、5日、6日または7日)から数週間(1週、2週、3週、4週、5週、6週、7週または8週)が経過する。
【0047】
様々な組み合わせを用いることができ、本発明を「A」、放射線療法または化学療法などの二次的薬剤を「B」とする:
【0048】
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
【0049】
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
【0050】
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
【0051】
治療サイクルは、必要に応じて繰り返されることが期待される。また、各種標準療法、同様に外科的介入が、本発明の細胞療法との併用で適用され得ることが考えられる。
【0052】
A.化学療法
がんの治療法はまた、化学および放射線ベースの治療の両方の様々な併用療法を含む。併用化学療法としては、例えば、アブラキサン、アルトレタミン、ドセタキセル、ハーセプチン、メトトレキサート、ノバントロン、ゾラデックス、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合剤、タキソール、ゲムシタビン、ナベルビン、ファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナ、5−フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチンおよびメトトレキサート、または任意の類似体もしくは上記の誘導変異体が挙げられる。
【0053】
B.放射線療法
DNA損傷を引き起こし、広範囲に使用されているその他の因子は、γ線、X線、および/または腫瘍細胞への放射性同位元素の指向送達として一般的に知られているものを含む。マイクロ波およびUV照射などの他の形態のDNA損傷因子も意図される。これらの因子すべてが、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の構築および維持に対して広範囲の損傷を生じさせる可能性が高い。X線についての線量範囲は、長期間(3〜4週間)にわたる50〜200レントゲンの1日線量から、2000〜6000レントゲンの単回線量までに及ぶ。放射性同位体についての線量範囲は、広く変動し、その同位体の半減期、放射される放射線の強さおよび種類、ならびに新生物細胞による取り込みに依存する。
【0054】
細胞に適用される場合の「接触させた」および「曝露させた」という用語は、治療構築物と化学療法剤もしくは放射線治療薬が標的細胞に送達される過程、または標的細胞と直接並置される過程を記述するために本明細書で使用される。細胞の死滅または静止を達成するために、両方の薬剤は、細胞を死滅させるまたは細胞が分裂するのを妨げるのに有効な併用量で細胞に送達される
【0055】
C.免疫療法
免疫療法は、一般に、がん細胞を標的とし、破壊する免疫エフェクター細胞および分子の使用に基づく。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞表面上のいくつかのマーカーに特異的な抗体であり得る。抗体単独で治療のエフェクターとして働き得るか、または実際に細胞の死滅を生じさせる他の細胞を動員し得る。抗体はまた、薬剤または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)に結合されてもよく、単に標的化剤としても役立ち得る。あるいは、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接的または間接的のいずれかで相互作用する表面分子を担持するリンパ球であり得る。様々なエフェクター細胞は、細胞傷害性T細胞およびNK細胞を含む。
【0056】
それゆえ、免疫療法は、本細胞療法と共に、併用療法の一部として使用され得る。併用療法のための一般的なアプローチを以下で論じる。一般に、腫瘍細胞は、標的としやすい、すなわち大部分の他の細胞上には存在しない何らかのマーカーを担持しなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのいずれもが本発明の文脈では、標的に適し得る。一般的な腫瘍マーカーは、がん胎児性抗原、前立腺特異抗原、泌尿器腫瘍関連抗原、胎児抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG−72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erb Bおよびp155を含む。
【0057】
D.遺伝子
さらに別の実施形態では、第2の治療は遺伝子療法であり、そこでは、治療的ポリヌクレオチドが、本発明の臨床実施形態の前、後またはそれと同時に投与される。様々な発現産物は、本発明に包含され、それは細胞増殖の誘発剤、細胞増殖の阻害剤、またはプログラム化された細胞死の調節因子を含む。
【0058】
E.手術
がんを有する人々の約60%が、何らかの種類の手術を受け、それには予防的、診断的または病期分類的、治癒的および緩和的手術が含まれる。治癒的手術は、本発明の治療、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫療法および/または代替療法などの他の療法と組み合わせて使用され得るがん治療である。
【0059】
治癒的手術は、がん組織の全部または一部を物理的に除去する、切除する、および/または破壊する切除術を含む。腫瘍切除術は、少なくとも腫瘍の一部の物理的除去を指す。腫瘍切除術に加えて、手術による治療は、レーザー手術、凍結手術、電気外科手術、および顕微鏡下手術(モース手術)を含む。本発明は、表在がん、前がん病変、または偶発的量の正常組織の除去と共に使用され得ることがさらに考えられる。
【0060】
がん細胞、組織、または腫瘍の一部または全部の切除後、体内に腔が形成される場合がある。治療は、灌流、直接注入または付加的な抗がん治療によるその領域の局所適用によって達成され得る。そのような治療は、たとえば、1、2、3、4、5、6、もしくは7日ごとに、または1、2、3、4、および5週間ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12カ月ごとに反復され得る。これらの治療は、また、様々な用量で可能である。
【0061】
F.他の薬剤
他の薬剤も、治療効果を改善するために本発明と組み合わせて使用され得ることが考えられる。これらのさらなる作用物質は、免疫調節剤;細胞表面受容体およびギャップ結合のアップレギュレーションに影響を及ぼす薬剤;細胞増殖抑制剤および分化薬剤;細胞接着の阻害剤;またはアポトーシス誘導物質に対する過剰増殖性細胞の感受性を高める薬剤を含む。免疫調節剤は、腫瘍壊死因子;インターフェロンα、βおよびγ;IL−2および他のサイトカイン類;F42Kおよび他のサイトカイン類似体;またはMIP−1、MIP−1β、MCP−1、RANTES、および他のケモカイン類を含む。細胞表面受容体またはFas/Fasリガンド、DR4もしくはDR5/TRAILなどのそれらのリガンドのアップレギュレーションは、過剰増殖性細胞への自己分泌またはパラ分泌作用の確立によって本発明のアポトーシス誘導能力を強化することがさらに考えられる。ギャップ結合の数を増加させることによる細胞内シグナル伝達の増加は、隣接する過剰増殖性細胞集団への抗過剰増殖作用を高める。他の実施形態では、細胞増殖抑制剤または分化薬剤が、治療の抗過剰増殖効果を改善するために本発明と組み合わせて使用され得る。細胞接着の阻害剤は、本発明の効果を改善することが考えられる。細胞接着阻害剤の例は、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。c225抗体などの、アポトーシスに対する過剰増殖性細胞の感受性を高める他薬剤も、治療効果を改善するために本発明と組み合わせて使用され得ることがさらに考えられる。
【0062】
ホルモン療法も、本発明と共に、または先に述べた任意の他のがん治療と組み合わせて使用され得る。ホルモンの使用は、テストステロンまたはエストロゲンなどの特定のホルモンのレベルを低下させるまたはその作用をブロックするために、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、または子宮頸がんなどの特定のがんの治療において使用され得る。この治療は、治療の選択肢として、または転移のリスクを減らすために、少なくとも1つの他のがん治療と組み合わせてしばしば使用される。
【0063】
DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤および/またはヒストンデアセチラーゼ阻害剤。典型的なDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、例えば、5−アザシチジン、5−アザ−2’−デオキシシチジン、1−β−D−アラビノフラノシル−5−アザシトシンおよびジヒドロ−5−アザシチジンを含む。典型的なHDAC阻害剤としては、トリコスタチンAなどのヒドロキサム酸類;環状テトラペプチド(トラポキシンBなど)、およびデプシペプチド類;ベンズアミド類;求電子性ケトン類;フェニルブチラートやバルプロ酸などの脂肪族酸の化合物が挙げられる。
【0064】
G.プログラムされた細胞死のレギュレーター
アポトーシス、すなわち、プログラムされた細胞死は、正常の胚発生、成体組織中のホメオスタシスの保持、およびがん化の抑制に対する本質的なプロセスである(Kerr et al.,1972)。タンパク質のBcl−2ファミリーおよびICE様プロテアーゼが、他の系におけるアポトーシスの重要なレギュレーターおよびエフェクターであることが示された。濾胞性リンパ腫に関連して発見されたBcl−2タンパク質は、様々なアポトーシス刺激に応じて、アポトーシスの制御および細胞生存率の向上で顕著な役割を果たす(Bakhshi et al.,1985、Cleary and Sklar,1985;Cleary et al.,1986;Tsujimoto et al.,1985;Tsujimoto and Croce,1986)。進化上保存されたBcl−2タンパク質は、現在、関連タンパク質のファミリーのメンバーであると認識されており、デスアゴニストまたはデスアンタゴニストとして分類できる。
【0065】
その発見に続いて、Bcl−2は、様々な刺激によって引き起こされる細胞死を抑制する作用があることが示された。また、現在では、共通の構造と配列相同性を共有するBcl−2細胞死調節タンパク質のファミリーがあることが明らかである。これらの異なるファミリーメンバーは、Bcl−2と同様の機能を有しているか(例えば、BclXL、Bcl、Bcl、MCl−1、A1、Bf1−1)、またはBcl−2の機能を妨げ、細胞死を促進させる(例えば、Bax、Bak、Bik、Bim、Bid、Bad、Harakiri)かのいずれかであることが示された。
【0066】
H.血管新生阻害剤
特定の実施形態では、本発明は、アンジオテンシン、ラミニンペプチド、フィブロネクチンペプチド、プラスミノーゲン活性化阻害剤、組織メタロプロテイナーゼ阻害剤、インターフェロン、インターロイキン12、血小板因子4、IP−10、Gro−β、トロンボスポンジン、2−メトキシエストラジオール、プロリフェリン関連タンパク質、カルボキシアミドトリアゾール、CM101、マリマスタット、ペントサンポリサルフェート、アンジオポエチン2(レジェネロン)、インターフェロン−α、ハービマイシンA、PNU145156E、16Kプロラクチン断片、リノマイド、サリドマイド、ペントキシフィリン、ゲニステイン、TNP−470、エンドスタチン、パクリタキセル、アキュチン、アンジオスタチン、シドフォビル、ビンクリスチン、ブレオマイシン、AGM−1470、血小板因子4またはミノサイクリンなどの血管新生阻害剤に動作可能なように結合された部分を標的とする投与に関係し得る。
【0067】
腫瘍細胞の増殖は、がんの進行に伴う広範な腫瘍血管新生に大きく依存している。したがって、血管新生阻害剤による新しい血管形成の阻害および既存の血管を標的とする破壊は、腫瘍治療に有効な、比較的非毒性のアプローチとして導入されている(Arap et al.,1998;Arap et al., 1998;Ellerby et al.,1999)。種々の血管新生阻害剤および/または血管阻害剤が知られている(例えば、Folkman,1997;Eliceiri and Cheresh,2001)。
【0068】
I.細胞傷害性薬剤
化学療法(細胞傷害性)剤が、がんを含む種々の疾患状態を治療するために使用することができる。使用の可能性のある化学療法(細胞傷害性)剤としては、これらに限定されないが、5−フルオロウラシル、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン(CDDP)、シクロホスファミド、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エストロゲン受容体結合剤、エトポシド(VP16)、ファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、ゲムシタビン、イホスファミド、メクロレタミン、メルファラン、マイトマイシン、ナベルビン、ニトロソウレア、プリコマイシン、プロカルバジン、ラロキシフェン、タモキシフェン、タキソール、テマゾロミド(DTICの水性形態)、トランスプラチナ、ビンブラスチン、およびメトトレキサート、ビンクリスチン、またはこれらの任意の類似体もしくは誘導変異体が挙げられる。ほとんどの化学療法剤は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍性抗生物質、コルチコステロイドホルモン、有糸分裂阻害剤、およびニトロソウレア、ホルモン剤、その他の薬剤、ならびにそれらの任意の類似体または誘導変異体の種類に分類される。
【0069】
化学療法剤および投与方法、用量などは、当業者に周知であり(例えば、「Physicians Desk Reference」,Goodman&Gilman’s「The Pharmacological Basis of Therapeutics」および「Remington’s Pharmaceutical Sciences」15th ed.,pp1035−1038および1570−1580を参照されたい;これは、引用により関連部分が本明細書に組み込まれる)、本明細書の開示に照らして、本発明と組み合わせることができる。用量のいくらかの変更は、治療を受けている対象の状態に応じて必然的に発生する。投与の責任者は、いずれにしても、個々の対象に対して適切な用量を決定するであろう。もちろん、本明細書に記載された全ての用量および薬剤は、限定ではなく例示であり、他の用量または薬剤を、特定の患者または適用に対して当業者は使用してもよい。こうした点の中間の任意の用量、またはそこで派生する範囲は、本発明に使用されることが期待される。
【0070】
J.アルキル化剤
アルキル化剤は、ゲノムDNAに直接、相互作用して細胞が増殖するのを防ぐ薬剤である。化学療法剤のこのカテゴリーは、細胞周期のすべての段階に影響を与える薬剤を表し、つまり、それらは、段階に特異的ではない。アルキル化剤は、限定されるものではないが、ナイトロジェンマスタード、エチレンイメン、メチルメラミン、アルキルスルホネート、ニトロソウレアまたはトリアジン類を含み得る。それらは、限定はされないが、ブスルファン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド(サイトキサン)、ダカルバジン、イホスファミド、メクロレタミン(マスタージェン)、およびメルファランを含む。
【0071】
K.代謝拮抗剤
代謝拮抗剤は、DNA合成およびRNA合成を妨害する。アルキル化剤とは異なり、それらは、具体的には、S段階の細胞周期に影響を与える。代謝拮抗剤は、例えば、葉酸類似体、ピリミジン類似体およびプリン類似体ならびに関連阻害性化合物などの様々なカテゴリーに区別することができる。代謝拮抗剤としては、限定されるものではないが、5−フルオロウラシル(5−FU)、シタラビン(Ara−C)、フルダラビン、ゲムシタビン、およびメトトレキサートが挙げられる。
【0072】
L.天然物
天然物は、一般的に天然源からもともと単離され、薬理活性を有するとして同定された化合物を指す。このような化合物、類似体およびそれらの誘導体は、当業者に公知の任意の技術によって、天然源から単離、化学的に合成、または組換え的に製造されてもよい。天然物は、有糸分裂阻害剤、抗腫瘍性抗生物質、酵素および生物学的応答改変因子などのカテゴリーを含む。
【0073】
有糸分裂阻害剤は、細胞分裂または有糸分裂に必要ないずれかのタンパク質合成を阻害することができる植物アルカロイドおよびその他の天然の薬剤を含む。それらは、細胞周期の特定の段階で動作する。有糸分裂阻害剤としては、例えば、ドセタキセル、エトポシド(VP16)、テニポシド、パクリタキセル、タキソール、ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびビノレルビンが挙げられる。
【0074】
タキソイド類は、ハイノキ、タイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)の樹皮から単離された関連化合物のクラスである。タキソイド類としては、例えば、ドセタキセルおよびパクリタキセルなどの化合物を含むが、これらに限定されるものではない。パクリタキセルは、チューブリンに結合し(ビンカアルカロイドで使用されているものとは別の部位で)、微小管の組み立てを促進する。
【0075】
ビンカアルカロイドは、医薬活性を有すると同定された植物アルカロイドの一種である。ビンカアルカロイドとしては、ビンブラスチン(VLB)およびビンクリスチンなどの化合物が挙げられる。
【0076】
M.抗生物質
特定の抗生物質は、抗菌活性および細胞傷害活性の両方の活性を有する。これらの薬剤はまた、酵素や有糸分裂を化学的に阻害するか、または細胞膜を変更することによってDNAに干渉する。これらの薬剤は、段階に特異的ではなく、したがって、細胞周期のすべての段階において動作する。細胞傷害性抗生物質の例としては、限定されるものではないが、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、プリカマイシン(ミトラマイシン)およびイダルビシンが挙げられる。
【0077】
N.その他の薬剤
前のカテゴリーに分類されないその他の細胞傷害性薬剤としては、限定されるものではないが、白金配位錯体、アントラセンジオン類、置換尿素、メチルヒドラジン誘導体、アムサクリン、L−アスパラギナーゼ、およびトレチノインが挙げられる。白金配位錯体としては、カルボプラチンおよびシスプラチン(シス−DDP)などの化合物が挙げられる。典型的なアントラセンジオンは、ミトキサントロンである。典型的な置換尿素は、ヒドロキシウレアである。典型的なメチルヒドラジン誘導体は、プロカルバジン(N−メチルヒドラジン、MIH)である。これらの例は、限定するものではなく、任意の公知の細胞傷害性薬剤、細胞増殖抑制剤または細胞致死剤を、対象とするペプチドに付着させることが可能であり、本発明の範囲内で、目標とする器官、組織または細胞型に投与され得ると考えられる。
【0078】
VIII.本発明のキット
本明細書中に記載の任意の組成物を、キット中に含めることができる。非限定的な例では、そのような細胞を生成するためにキメラサイトカイン受容体および/または試薬を含む改変された細胞は、キット中に含めることができる。そのような試薬は、1つ以上の、細胞、核酸ベクター、緩衝剤、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドなどを含む。キットは、1つ以上の適切な容器内にその成分のいずれをも含むであろう。
【0079】
キットの成分は、水性媒体中または凍結乾燥形態のいずれかにパッケージすることができる。キットの容器手段には、一般に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、注射器、または他の容器手段が含まれ、その中に成分を配置し、好ましくは、適切に等分することができる。キット中に1つを超える成分が存在する場合、キットはまた、一般に、さらなる成分を個別に配置することができる第2、第3、または他のさらなる容器を含むであろう。しかし、成分の様々な組み合わせをバイアルに含ませてもよい。本発明のキットはまた、典型的には、市販用に厳重に閉じ込められた成分を収容するための手段を含むであろう。そのような容器は、所望のバイアルが保持されている、射出成形またはブロー成形のプラスチック容器を含むことができる。キットの成分は、乾燥粉末として提供することができる。試薬および/または成分が乾燥粉末として提供される場合、粉末は、適切な溶媒を添加することによって再構成することができる。なお、溶媒は、別の容器手段で提供されてもよいことが想定される。
【実施例】
【0080】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために挙げられる。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施において、良好に機能すると本発明者らによって見出された技術を表し、従って、その実施のための好ましい形態を構成するとみなし得ることが当業者に理解されるべきである。しかし、当業者は、本開示を考慮して、開示される特定の実施形態において多くの変更がなされ、そして本発明の精神および範囲から逸脱することなく、同様または類似の結果がなおも得られ得ることを理解すべきである。
【0081】
実施例1
キメラサイトカイン受容体を用いて腫瘍微小環境の影響を逆転する方法
膵臓がんは、先進国では依然としてがん死亡の4番目に最も多い原因である。臨床症状は遅れて発現し、疾患は早期に転移し、発生率と死亡率は、>50年の間、ほぼ同じに推移している(Sweeney et al.,2009;Wong et al.,2009)。疾病生物学の理解に基づく改善された治療戦略が、したがって必要とされている。悪性細胞によって発現される腫瘍関連抗原(TAA)は、免疫原性であり、したがって、免疫破壊の潜在的な標的となることができる(Tassi et al,2008;Han et al.,2009;Rong et al.,2009;Li et al.,2008;Plate,2007)。インビトロで拡大培養されたTAA特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の養子移入は、ホジキンリンパ腫および悪性黒色腫を含む腫瘍を効果的に治療することができる(Bollard et al.,2007;Morgan et al.,2006)。膵臓がん発現TAAを標的とするCTLの注入は、治療の可能性を秘めているが、これらの腫瘍は、免疫回避の複数のメカニズムを使用しており、それらは、抗原発現のダウンレギュレーション、ならびに可溶性の免疫調節サイトカイン類の放出および細胞傷害性Th1型免疫応答よりもむしろTh2の発育を助長する他の物質の放出を含む(Leen et al.,2007;Selcean et al.,2009;Formentini et al.,2009;Kornmann et al.,1999;Prokopchuk et al.,2005;Seruga et al.,2008)。
【0082】
これらの障壁を克服し、膵臓がんに対して効果的な免疫療法戦略を開発するために、本発明の実施形態は、悪性細胞上に発現する抗原を標的とするCTL株を生成し、これらのCTLを操作して、Th1シグナルを伝達するIL2RγとIL7Rαの細胞内ドメインに連結したIL13受容体α(IL13Rα1)とIL4Rαのサイトカイン結合性細胞外ドメインを含むキメラ分子を発現することに関する(Formentini et al.,2009;Prokopchuk et al.,2005)。本発明の特定の実施形態では、これらの操作は、CTLをTh2分極腫瘍微小環境に耐性とし、その代わりに、TAAを標的とするCTLへのTh1シグナル伝達を維持する(Vera et al.,2009)。膵臓がん患者などのがん患者からの生検および血清サンプルを検査することによって開始し、TAA発現のパターンならびに産生Th2サイトカインのレベルおよびパターンを記録することができる。患者PBMCからの発現抗原に対して向けられたCTLを拡大培養できるかどうかを、そしてTh2誘導腫瘍微小環境においてでさえ、Th1活性に分極化したままであるようにそれらを改変することの影響を判断できる。本発明の実施形態では、膵臓がん関連抗原に対する反応性T細胞は、患者PBMCから生成することができ、腫瘍のTh2サイトカイン環境でのTh1機能を保持するように改変することができる。そのような実施形態は、3つの代表的なアプローチによって特徴づけることができる:1)TAA発現のパターンを記録し、主生検サンプルのサイトカインプロファイルを評価する;2)複数の膵臓がん関連標的抗原に特異的な腫瘍反応性CTLを生成し、それらのインビトロにおける特異性および機能性を評価する;および3)Th2サイトカイン類でのシグナル伝達の阻害効果からCTLをキメラサイトカイン受容体の強制発現により保護する。
【0083】
背景と意義
膵臓がん。膵臓がんは、世界中で年間推定21万3千人の死亡を引き起こす(Wong et al.,2009)。外科的切除が、依然として唯一の根治治療であるが、5年生存率は15〜20%であり、この選択肢は、局所的に進行した、または転移した疾患と診断された大多数には利用できない(Sweeney et al.,2009;Tanis et al.,2009)。従来の化学療法と放射線療法は、ほとんど実質的な利益をもたらさないで、新規な治療法の必要性を強調している。
【0084】
ウィルス関連悪性腫瘍のための養子免疫療法。本発明者らは、日常的に養子移入のためのウィルス特異的CTLを生成し(Leen et al.,2006;Leen et al.,2009)、>100人の幹細胞レシピエントにおける研究は、ドナー由来EBV−CTLがEBV推進リンパ腫から患者を安全に保護し、大きいと確定した疾患でさえ治療することができることを示した(Heslop et al.,2009;Heslop et al.1996;Rooney et al.,1995)。このアプローチは、免疫応答性個体でのEBV陽性腫瘍の治療における成功を示している(Bolard et al.,2007;Louis et al.,2009;Straathof et al.,2005;Bollard et al.,2004)。最近の段階I試験では、高リスクのEBV陽性HLやNHLの寛解期で治療された10人のうち9人の患者は、寛解を維持したが、一方、活発な再発性疾患を有する6人の患者のうち5人は、腫瘍応答を有し、それは4人において完全であった(Bollard et al.,2007)。これらの研究は、機能性EBV−特異的T細胞が、注入後(インビボでの拡大を意味する)に、患者の血液中で頻繁に増加し、腫瘍組織に戻り、そして、腫瘍細胞を排除したことを証明した。
【0085】
ウィルス非依存性悪性腫瘍のための養子免疫療法。ウィルス非依存性がんの治療のための養子移入CTLを開発する努力は、(i)TAAの発現に関する限られた情報、(ii)循環する反応性T細胞が、しばしばアネルギー化または寛容化されることを考えると、発現抗原に向けられたCTL株を生成する再現可能な方法の欠如、および(iii)養子移入T細胞のインビボでの活性を制限する腫瘍に使用される免疫回避戦略によって妨げられてきた。これらは、発現標的抗原のダウンレギュレーションおよび腫瘍に調節免疫細胞を補充し、有効でないTh2表現型への細胞傷害性Th1 T細胞を直接に阻害および/または再分極させるように働く抑制性サイトカインの分泌を含む(Selcean et al.,2009;Formentini et al.,2009;Prokopchuk et al.,2005)。本発明者らは、TAA−CTLを生成するために、最適化された抗原提示細胞(APC)を用い、サイトカイン類を強化して、アネルギー化/寛容化されたT細胞を再活性化するための戦略を開発してきた(Kaka et al.,2009;Foster et al.,2007;Kaka et al.,2008)。
【0086】
以下に、本発明者らは、膵臓がんにより発現された標的を同定し、インビトロで生成したTAA−CTLの、腫瘍微小環境に存在するサイトカイン類に対する応答を調節する戦略を提供する;これらの戦略は、養子免疫療法を用いた膵臓がんを標的とするために開発されている。
【0087】
TAA発現パターンの決定。膵臓がん生検試料で発現されるTAAについて限られた報告がある。したがって、例えば、免疫組織化学(IHC)およびRT−PCRを使用して、膵臓がんにおけるTAA発現を総合的に実証することができる。
【0088】
インビトロでのTAA特異的CTLの生成。本発明者らは、APCとして全抗原(pepmixまたはTAAをコードするプラスミド)を発現するDCおよび最適なサイトカインカクテル(表1)での共培養を使用して、患者PBMCからTAA−CTLを生成するためのプロトコルを開発した。この戦略が膵臓がん関連抗原を標的とするTAA−CTLの生成に適用することができるかどうかを判断することもできる。
【0089】
腫瘍免疫回避戦略の克服。効果的な免疫療法のためには、腫瘍免疫回避戦略は、特徴を明らかにして、回避しなければならない。IL13とIL4の両方は、膵臓がんの腫瘍を除去するための重要なTh1エフェクターT細胞の抑制および再分極に大きく貢献をしている(Formentini et al.2009;Prokopchuk et al.,2005)。これらの抑制性サイトカインと結合し、それらの細胞内結果をTh1シグナルに変換することによって、CTLの有効性を改善させるキメラサイトカイン受容体で作動可能なTAA−CTLを特徴づけることができる。
【0090】
典型的な結果
がん生検サンプルでのTAAの検出。最初にアプローチをモデル化するために、リンパ節のパラフィン包埋4μm切片が、ホジキン病患者またはTCHの病理学科、メソジスト病院、および小児腫瘍学グループからの濾胞B細胞リンパ腫から得られた。切片は、脱パラフィンし、再水和された。トリトン−X−100およびDigest ALL1(Zymed社)を抗原回復のために使用した。切片を、MAGE−A4、PRAME、およびサバイビンのための一次抗体で染色した。抗原発現が、(i)ウサギまたはマウス一次抗体のためのPowervision+のキット(Immunovision社)または(ii)他の一次抗体のためのABCキット(Vector Labs社)でうまく検出された。全抗体は、陽性および陰性の対照スライドならびに非がん性組織の組織アレイを使用して確認された。
【0091】
Pepmixでパルスされた、またはプラスミドでヌクレオフェクションされたAPCを使用して、複数のTAAに対する同時特異性を有するTAA−CTLの生成。本発明者らは、APCとして典型的なリンパ腫関連抗原SSX2、サバイビン、およびMAGEA4にまたがるPepMixのMasterMixでパルスされたDCを使用し、IL7(10ng/ml)、IL12(10ng/ml)、IL15(10ng/ml)およびIL6(1000U/ml)の存在下で共培養することにより、CTL生成プロトコルを最適化した(表1)。
【0092】
【表1】
【0093】
TAA−CTLは、刺激抗原の全3つに対する同時特異性で生成された。重要なことは、同じ抗原を用いて同じドナーから生成し、次善のサイトカインの組み合わせ(表1、グループ1、3、4)を使用して培養されたCTLは、免疫優性SSX2抗原に向けられた単一の特異的なCTLを産生し、このように最適化サイトカインの組み合わせの有用性を実証し、少なくとも特定の実施形態で、複数TM−CTLを生成した。系の一貫性とロバスト性は、SSX2、サバイビン、そしてMAGEA4をコードするDNAプラスミドでヌクレオフェクションされたDCを用いて、6/6のドナーから複数TM−CTLを生成することによって確認した。本発明者らはまた、白血病発現抗原WT1、PRAME、サバイビン、およびプロテイナーゼ3(n=3)、同様に典型的な肝細胞がん発現抗原MAGE1、MAGE3およびAFP(n=3)を同時に標的とする複数TAA−CTLを生成した。これら複数TAA−CTLは、IFNγ ELispotおよび細胞傷害性アッセイにより評価されるように、機能的であった。最も頻繁に発現される膵臓がん発現抗原を標的とする複数TAA−CTLの生成にこの技術を適用することができる。
【0094】
CTLに対するTh2シグナル伝達の影響を逆転し、その代わりにこれらのサイトカイン類への曝露を確実にすることにより、Th1型の応答が持続される。2つの中間レトロウィルス構築物の操作およびトランスジェニックCTLでの予備試験。共有コンポーネントで受容体に結合するTh2サイトカイン類IL4およびIL13は、膵臓がん対象のTh1免疫を抑制することが報告されている(Formentini et al.,2009;Prokopchuk et al.,2005)。IL13受容体は、IL4Rα鎖およびIL−13Rα1鎖から構成されている。IL13サイトカインは、低親和性でIL13α1鎖に低親和性で結合し、ついで、IL4Rα鎖をリクルートし、結合親和性を増大させる。対照的に、IL4は最初にIL4Rαに結合し、次にIL13Rα1鎖またはIL2Rγc鎖(図1)のいずれかをリクルートする。両方の受容体複合体からの信号は、IL4Rα鎖によって伝達され、それによりIL4とIL13の両方が、同じヤヌスキナーゼ(JAK)シグナル伝達物質および転写(Stat6)経路の活性化因子をリクルートする。結果として、どちらかのサイトカインへの曝露は、免疫抑制の結果が重複する(Formentini et al.,2009;Prokopchuk et al.,2005)。Th1のTAA−CTLに対するこれらの効果を打ち消すために、本発明者らは、2つの典型的な第一世代のレトロウィルスベクターを構築した。図2Aに示したように、構築物#1は、IL13Rα1細胞外ドメインと、IRESを介してGFPに連結したIL2Rγ細胞内ドメイン(IL−13Rα1/IL−2Rγ)との融合タンパク質をコードする。構築物#2は、IL4Rα細胞外ドメインと、mOrangeに連結したIL7Rα細胞内ドメイン(IL−4Rα/IL−7Rα)との融合物をコードする。したがって、両方の構築物を発現する細胞は、本発明の特定の実施形態において、IL4またはIL13サイトカインのいずれかの係合時に細胞内Th1シグナルを誘発する。GFPまたはmOrangeのレトロウィルス形質導入発現の効率を評価することが、二重導入抗原特異的CTLに関して評価された。予想されるように、これは、構築物#1(GFP陽性−右下4分の1区分)、構築物#2(mOrange陽性−左上4分の1区分)、または2重陽性(GFP/mOrange−右上4分の1区分)(図2B)のいずれかを発現するCTLの混合集団をもたらした。導入遺伝子の機能は、IL2(50U/ml)、IL−4(1000U/ml)またはIL13(5ng/ml)への曝露後、StatSのリン酸化を測定することによって確かめられた。リン酸化Stat5は、IL2投与後、対照細胞のみで検出された;対照的に、リン酸化Stat5は、3つのサイトカイン類のいずれかへの曝露の後、両方の構築物を共発現するトランスジェニック細胞で検出された(図2C)。なお、これらのサイトカイン類は、顕微鏡分析を用いて、成長因子として作用することが確認された(図2D)。
【0095】
典型的な実験デザインと方法
膵臓がんは予後不良の攻撃的な病気である。腫瘍特異的T細胞免疫の証拠は存在するが(Tassi et al.,2008;rong et al.,2009;Plate,2007;Alters et al.,1997;Cappello et al.,2009;Lepoisto et al.,2008;Kawaoka et al.,2008;Kondo et al.2008)、腫瘍環境における免疫抑制サイトカイン類は、T細胞の有効性を限定しているように見える(Selcean et al.,2009;Formentini et al.,2009;Kornmann et al.,1999;Prokopchuk et al.,2005)。特定の実施形態では、生体外で拡大培養されたTAA−CTLの注入は、それは(i)アネルギーを逆転させるTh1分極サイトカインで培養され、(ii)エピトープ損失を介して回避を最小限に抑えるために、複数のTAAに特異的であるように選択され、および(iii)インビボで存在する抑制性の可溶性因子に対して耐性とされるものであるが、臨床的利益をもたらし、膵臓がんのための新たな治療選択肢を提供する。
【0096】
最初のアプローチでは、次の操作を行うことができる:a)膵臓腫瘍のサイトカインプロファイルを評価すること、b)TAA発現のそれらのパターンを記録すること。患者血清中のTh1とTh2/抑制性サイトカイン類、同様に培養した原発腫瘍サンプルから放出されるサイトカイン類のパターンを確立することができ、例えばIHCおよびRT−PCRを用いて、生検でのTAAの発現パターンを測定し、下記のCTL刺激プロトコルにおける使用のために最も頻繁に発現する抗原をコードするDNAプラスミドのバンクを生成することができる。このアプローチからのデータは、腫瘍抗原を標的とし、腫瘍抑制に耐性とすることができる養子免疫療法のためのT細胞の設計を可能にする。
【0097】
典型的な方法は次のとおりである。サイトカイン分析。例えば30〜50のバンク患者血清サンプルのサイトカインプロファイルを記録し、Th1/Th2サイトカインアレイを用いて、これらを例えば、30人の健常ドナーから採取した血清と比較することができ、それは、IL1β、IL2、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8、IL10、IL12、IL13、IFNγ、GM−CSFおよびTNFαを検出する;ELISAによってTGFβを測定することができる。また、新鮮な生検サンプルを収集し、RPMI+5%HuSで4〜5日間、培養し、同じサイトカイン類を使用して上清を分析することができる。これは、これらの患者で循環し、腫瘍によって産生される、あらゆる種類の抑制性と刺激性サイトカイン類の評価を可能とする。
【0098】
TAA発現。TAA発現のための生検サンプルをIHCおよびRT−PCRでスクリ−ニングすることができ、それは、以前に膵臓がん(CEA、MUC1、MUC2、MUC5AC、MUC6、およびテロメラーゼ)(Han et al.,2009;Li et al.,2008)、同様にPRAME、MAGEA、SSX2/4、NY−ESO、およびサバイビンと関係していると主張されるものを含む。
【0099】
DNAプラスミドバンクの生成。最も頻繁にスクリーニングで検出される7つの抗原(例によって)をコードするプラスミドを生成することができる。これらは、CMVプロモーターの制御下で、p−Max発現プラスミドにクローニングすることができ、それは高レベルの導入遺伝子発現を保証し、GFPと共発現してヌクレオフェクション効率の評価を可能にする。本発明者らは、ウィルス(Gerdemann et al.,2009)と腫瘍特異的CTLの両方の生成のための抗原の有効なソースとしてDNAプラスミドを先に検証している。
【0100】
本発明の特定の実施形態では、患者血清中および培養生検からの上清中でのTh2/抑制性サイトカイン類IL13およびIL4の優位性を検出するが、これは、両方が膵臓細胞株によって過剰に産生され、自己分泌増殖因子として腫瘍によって使用されるからである。特定の実施形態では、患者の生検でTAAの発現を検出する。公表された報告によれば、腫瘍の大部分は、CEA−陽性であり、約60%がMUC−1を発現する一方、MUC−6はあまり頻繁に検出されず(<15%)、そして、TAA発現の頻度と強度をさらに特徴付けることができることを示している。最も頻繁に検出されるTAAを発現するプラスミドバンクを生成することが可能である。
【0101】
表2:典型的な組織サンプル
【表2】
【0102】
これらの記載された実施形態は、膵腫瘍によるTAAと抑制サイトカインの発現のプロファイルを提供し、標的と保護戦略の設計を可能にする。
【0103】
第二のアプローチでは、複数の膵臓がん関連標的抗原に特異的な腫瘍特異的CTLを生成し、インビトロでのそれらの特異性および機能を評価することができる。膵臓がんのTAAに対して向けられたCTLが、膵臓がんを有する対象から拡大することができるかどうかを判断することができる。腫瘍抗原欠損変異体によって媒介される免疫回避を最小化する目的で、他のがんでの成功に基づいて、最初に単一の抗原特異性、次いで複数の抗原特異性を有するCTLを生成することができる。
【0104】
典型的な方法は次のとおりである:例えば、APCとレスポンダーT細胞のソースとなる患者の血液40〜50ミリリットルを取得することができる。例えば、20〜25人の患者からのCTL株を生成することができる。
【0105】
DCの生成:DCは、CellGenix DC培地でのGM−CSFおよびIL−4中で培養することにより、CD14選択単球から区別される。CD14陽性細胞は、その後の刺激のために凍結保存される。培養されたDCは、24時間、再熟成され、例えば、上述のように生成された種々の抗原をコードするDNAプラスミドを用いて、ヌクレオフェクションし、次いで、さらに24時間熟成する。表現型およびヌクレオフェクション効率は、フローサイトメトリーを用いて、成熟/共刺激分子CD80、CD83、CD86、HLA−DrおよびGFPの発現を測定することによって評価される。
【0106】
CTL刺激:抗原特異的T細胞の活性化については、ヌクレオフェクションされたDCが、最適化されたサイトカインカクテル(IL−7、IL−12、IL15およびIL6)(表1)のCTL培地中(45%Click’s、45%高度RPMI、5%ヒト血清、および5mMのL−glutamax)で10:1のR:S比で、CD14陽性PBMCと共培養されて、最適なCTLの生存と拡大培養を促進する。複数TAA−CTLを生成するには、複数のプラスミドで同時にDCをトランスフェクトすることができる。拡大培養された細胞は、ヌクレオフェクションされたDCで9日目に再刺激され、IL7と培養され、12日目からは週2回、IL−2(50U/ml)と培養される。CTLの拡大培養と生存率は、トリパンブルー色素排除により評価される。3つの刺激後、CTLの活性化とメモリ(エフェクターメモリ対セントラルメモリ)の状態を測定するために、CD4、CD8、CD56、CD16、CD45RA、CD45RO、CD25、CD28、CD27およびCD62Lを含むマーカーを用いて、細胞の表現型を解析することができる。ELispotまたは細胞内サイトカイン染色を使用して、刺激(ペプチドまたはヌクレオフェクションされたDCのどちらか)に応じてTh1(IFN−γ、TNFα、IL2)およびTh2(IL4、IL5、IL13、IL10、およびTGFβ)サイトカイン類の産生を測定することができる。エピトープの幅は、CD4およびCD8選択細胞を刺激する重複ペプチドのプールを使用して、例えば、ELispotによって評価され、CD4およびCD8エピトープのどちらが、各タンパク質内で認識されるかが決定される。細胞傷害機能は、TAA発現APC、HLA適合膵臓細胞株、並びに標的細胞として自己腫瘍を用いてCr51放出アッセイにより評価される。
【0107】
本発明の特定の実施形態では、ポリクローナルの複数TAA−CTLが、APCとしてヌクレオフェクションされたDCを用いて、患者PBMCから容易に製造される。特定のケースでは、すべての抗原がすべてのドナーで免疫原性であるというわけではないが、しかし、特定のケースでは、各々の対象について少なくとも2つの抗原を認識する複数TAA−CTLを一貫して生成することができる。上記のように識別されたTAA発現プロファイルと組み合わせたCTL株の知見に基づいて、将来の免疫療法のための最適な4〜5の標的(例えば)を識別することができる。拡大培養された細胞は、セントラルメモリ(CD62L+)とエフェクターメモリー(CD62L−)の集団を有するポリクローナル(CD4+およびCD8+)であり、そして終末分化エフェクターであり得る。最適化されたサイトカインカクテルの存在下で、特定の実施形態において、CTLはTh1サイトカインプロファイルを有し、再刺激によりTNFα、IFNγ、およびIL2を産生し、各抗原に対するCD4+およびCD8+T細胞エピトープのパネルの同定を可能にする。本発明のいくつかの実施形態においては、拡大培養した細胞は、例えば、フローサイトメトリー、細胞内サイトカイン染色、および細胞溶解アッセイにより測定したすべての刺激抗原に対して特異性および活性を保持する。
【0108】
APCとしてヌクレオフェクションされたDCを使用して、TAA−CTLを生成することができない場合は、抗原刺激のためにpepmixを利用することができる。ウィルス抗原に関して、複数のTAA特異性を有するCTLを同時に活性化して、拡大培養することができない場合は、すべてのTAAが等しく免疫原性であるというわけではなく、そして、刺激の複数のラウンドにわたり、より弱い抗原に対する抗原性競合と特異性の喪失を見ることがある。しかし、最適化されたサイトカインの組み合わせは、株内での複数の特異性を維持することを可能とする。インビトロでTAA−CTLの乏しい増殖(本発明者らは、G−Rexバイオリアクターでの16日間の培養期間にわたり、TAA−CTLの20〜40倍の拡大培養を一貫して成し遂げるので、これはありそうもない;Vera et al.,2009)の場合であって、この拡大培養が持続されないときには、特異性を喪失することなく増殖を拡大するIL2をIL15と置き換えることができ(Quintarelli et al.,2007)。反応性T細胞の頻度が、IFNγ ELispotおよび細胞内染色アッセイの検出限界以下である場合、ELispotがわずか1/100,000のサイトカイン分泌細胞を検出できるので、これはありそうもないが、何回も刺激(例えば7〜10回の各刺激を倍増)されたCTLを分析することができ、T細胞の頻度が十分に増幅されて検出できることが期待される。そうでない場合、再刺激することができる。
【0109】
本発明の実施形態では、少なくとも膵臓がんを含むがんにおいて発現された複数の腫瘍抗原内の複数のエピトープに対する特異性を有するポリクローナルCTLを製造する再現可能な技術が開発されている。
【0110】
第3のアプローチでは、キメラサイトカイン受容体の強制発現によってTh2サイトカイン類のシグナル伝達の阻害効果からCTLを保護することができる。特定の実施形態では、例えば、IL2Rγおよび/またはIL7Rαの細胞内ドメインに連結したIL13Raおよび/またはIL4Raの細胞外ドメインをコードする単一のバイシストロン性構築物が生成される。
【0111】
例えば、膵臓がんで使用される腫瘍免疫回避戦略は、IL13およびIL4などのTh2阻害性サイトカイン類の放出であり、それは、i)がん細胞の増殖を高める、そして、ii)TAA特異的TH1−CTLをTh2細胞へ減衰し、再分極する。したがって、養子移入の複数TAA−CTLの有効性を改善するために、これらのTh2サイトカイン類に結合する受容体の細胞外ドメインを2つの刺激性(Th1)サイトカイン受容体のシグナル伝達細胞内ドメインに連結するキメラサイトカイン受容体を使用して、IL13とIL4の抑制効果に対してそれらが耐性となるようにすることができる。
【0112】
典型的な方法は次のとおりである:本発明者らは、既に2つの例示的な機能性の中間レトロウィルスベクターを作成し、試験している;構築物#1は、IL−13Rα1/IL−2Rγ−IRES−GFPをコードし、構築物#2は、IL−4Rα/IL−7Rα−IRES−mOrangeをコードする(図2)。シグナル伝達IL2とIL7受容体を用いて、IL4およびIL13受容体の両方のための細胞外ドメインをコードする単一のバイシストロン性構築物(#3)を生成するために、独特の互換性のある制限酵素部位(Xho1−Mlul)が含まれて、構築物#2(図2a)からのIL4Rα/IL7Rα融合タンパク質で構築物#1中のGFPの置換を容易に可能とする(図3a)。当外分野の標準的な手段によって、その機能を検証することができる。レトロウィルス上清は、293T細胞の一過性トランスフェクションにより調製することができ、CTl形質導入は、公開されたプロトコルに従うことができる(Vera et al.,2009;Quintarelli et al.,2007;Vera et al.,2006;Savoldo et al.,2007)。IL13RαとIL4RαのためのFACS分析により組換えタンパク質の発現を、そして、IL2、IL4またはIL13の存在下でのリン酸化Stat5分析により、IL2RγとIL7Rαの細胞内ドメインの機能性を評価することができる。トランスでGagおよびPol配列を含有する安定なPG−13生産株を生成することができ、安定したウィルス産生を可能にする。単一細胞クローンを単離し、それらを機能的力価および複製有能なベクターに関して試験をすることができる。
【0113】
本発明の特定の実施形態では、FACSによって評価されるようにIL13Rα1とIL4Rαの両方の等しい発現があり、IL2RγとIL7Rαの両方の細胞内ドメインが、リン酸化Stat5の分析により検出可能なTh1シグナルを伝達する。例えば、T細胞標的の>20%の形質導入があり、形質導入された細胞は、IL4またはIL13での培養によって経時的に選択される。(Vera et al.,2009;Bollard et al.,2007;Savoldo et al.,2007)。
【0114】
場合によっては、IL13Rα1細胞外ドメインと野生型IL4Rαの間で、クロスペアリングがあり得るが、これはCTL上で弱く発現し、低レベルのバックグラウンドStat6シグナル伝達につながる可能性がある。しかしながら、トランスジェニック:野生型受容体の発現の比率が高いことは、これが発生する確率を低下させる。IL4Rα細胞外ドメインの野生型IL2Rγとのクロスペアリングは、また、特定の態様で発生し得るが、Th1シグナルが伝達されるので、この中では許容される(図3)。
【0115】
本発明のいくつかの実施形態では、バイシストロン性構築物、および通常はTh2のスイッチを誘導するIL4またはIL13に曝された場合であっても、CTLがTh1活性シグナルを維持することを可能とする、安定した生産ラインが生成される。
【0116】
IL13とIL4の存在下で培養された遺伝子改変複数TAA−CTLの生体外での導入効率と機能を評価することができる。この型通りのインビトロでの比較では、各融合タンパク質が、複数TAA−CTLで機能的に発現されるかどうかを、導入遺伝子の発現が持続するかどうかを、そしてそのような発現が、導入された細胞の表現型を変更するか、またはそれらの抗腫瘍活性に悪影響を与えるかどうかを決定することができる。
【0117】
典型的な方法は次のとおりである:複数TAA−CTLは、例えば、上記のように生成され、例えば、構築物#3で形質導入される。非形質導入細胞および形質導入細胞の拡大を測定することができる。構築物#1または#2のいずれかで単独に形質導入されたCTLは、対照として用いてもよい。CTLは、IL2、IL4およびIL13の存在下で培養される。FACおよびトリパンブルー排除を使用して、細胞の表現型、数、および生存率の変化を、そして、多経路シグナル伝達キットを用いて細胞のシグナル伝達における変化を測定することができる。加えて、抗腫瘍活性は、短期(4時間Cr51、アッセイ)および長期(4日間の共培養)の研究におけるIL2、IL13およびIL4の存在下、自己TAA発現APC、HLA適合膵臓細胞株、および標的として自己腫瘍細胞を用いて比較される。
【0118】
本発明の特定の態様では、融合タンパク質の両方の機能レベルを検出することができ、しかも、非形質導入CTLまたはIL2以外の任意のサイトカインを有する構築物#1で形質導入したCTLの培養は、CTLの機能、増殖および生存にマイナスの効果をもたらす。特定の実施形態では、構築物#2で形質導入されたCTLは、増殖し、IL4の存在下でその機能を維持するが、これは、この典型的なキメラ構築物が野生型IL2Rγと2量体化できるからである。最後に、本発明の特定の実施形態では、構築物#3で形質導入されたCTLは、全3つのサイトカイン類の存在下、Th1シグナルを伝達し、増殖し、生存し、そして、機能する(図3)。典型的な結果の要約表を表3に示す。
【0119】
表3:典型的な構築物の予測結果
【表3】
【0120】
本発明の実施形態では、腫瘍を標的とする多重特異的CTL療法は、膵臓がんなどのがんのために開発されており、これらの細胞は、腫瘍によって使用される重要な免疫回避戦略に対して抵抗する。膵臓がんを有する個体におけるその安全性と抗腫瘍効果を評価するために、臨床研究における遺伝子改変複数TAA−CTLを生成し、注入することができる。
【0121】
実施例2
例としてIL4Rα/IL7RαによるCAR改変T細胞の遺伝的改変
腫瘍は、エフェクターT細胞おいてアネルギーまたはアポトーシスを誘導するFasLまたはPD−L1の発現を含む細胞性免疫応答を破壊するための複雑なメカニズムを進化させてきた。制御性T細胞のリクルートおよびT細胞増殖を阻害するTGF−βおよびその他の免疫抑制性サイトカイン類の分泌が、微小環境に含まれる。腫瘍によるインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)および制御性樹状細胞の構成的発現があり、それはトリプトファンを枯渇し、T細胞アネルギーおよびMHCや共刺激分子のダウンレギュレーションまたは変調をもたらす。T細胞は、少なくともIL10、TGF−β、IL13、およびIL−4を含む、腫瘍微小環境に存在する多様な因子により抑制することができる。サイトカイン受容体細胞外ドメインが、ネイティブでない細胞内ドメインと共に使用されてT細胞を作動状態にして抑制性腫瘍微小環境に耐えるならば、この問題を克服することができる。
【0122】
本発明の実施形態では、人工的なIL4/IL7サイトカイン受容体の強制発現によるTh2サイトカイン類の阻害効果からの複数TAA−CTLの保護がある。典型的なトランスジェニック構築物は、図4の一例のように製造することができるが、それはIL4Rα/IL7Rαの融合を示し、いくつかのケースでは構築物がレポーター遺伝子を欠いているが、mOrangeなどのレポーター遺伝子を含む。図5は、IL4Rの発現と形質導入細胞上でのmOrangeの共発現を検出するためのフローサイトメトリーにより検出されたトランスジェニック受容体の安定した発現を示している。図6は、トランスジェニック受容体が、野生型条件下ではpSTAT6を誘発するであろうIL4サイトカインへの曝露でトランスジェニック細胞のリン酸化STAT5(pSTAT5)の検出により評価されるように機能的であることを示す。図7は、標的細胞の特異的溶解を検出するためのクロム放出アッセイを用いて評価されるように、キメラ4/7Rのトランスジェニック発現がCTL機能に悪影響を与えていないことを示し、図8は、4/7Rを発現するトランスジェニックT細胞が、IL2(T細胞増殖を誘導するために使用される標準的な成長因子)またはIL−4のいずれかの存在下、インビトロで増殖する一方、同じドナーから生成した、しかし4/7Rを発現しないCTLが、成長因子IL2の存在下でのみ増殖することを示している。図9は、4/7Rを発現するCTLが、腫瘍株から採取した上清液からのIL4を枯渇させることができることを示し、このことは、トランスジェニック受容体が、実際に、腫瘍産生サイトカインを利用することができ、かつての成長因子から腫瘍を潜在的に飢えさせることができることを示している。図10は、4/7R発現CTLが、示されたサイトカイン条件へ曝露した後の計数された細胞により評価される他の免疫抑制性サイトカイン類に対して耐性であることを示している;CTLの特異性と機能は、ELIspotによって評価されて維持された。
【0123】
T細胞増殖因子への免疫抑制性サイトカインのシグナル伝達の変更が例示される(図11)。図12〜14は、4/7RのCTLが、異種移植マウスモデルにおける腫瘍の成長を制御することを証明しており、ここで、SCIDマウスはIL4産生腫瘍共発現FFLucを移植され、インビボでの画像化を可能とする。続いて、動物は、非形質導入または4/7R改変CTLにより処理された。4/7RのCTLで処理した動物は、全体的な生存率の増加をもたらした対照群よりも有意に小さい腫瘍を有した。図15は、特定の実施形態では、患者由来のCAR−PSCA改変T細胞を改変して、例えば、4/7Rを共発現できることに向けられている。図16は、4/7Rを共発現するように改変されたCAR−PSCA T細胞が、腫瘍標的を殺すための能力を保持していることを示している。
【0124】
この実施例では、T細胞が改変されて異なる導入遺伝子を共発現することができることを示している。T細胞は、典型的な腫瘍抗原PSCAを標的とするキメラ抗原受容体による遺伝子改変を介して抗原特異性を付与された。続いて、同じ細胞が共発現4/7Rするように改変された。4/7Rによる改変は、腫瘍細胞を認識するT細胞の能力に悪影響を及ぼさなかった。
【0125】
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【0126】
本発明とその利点について詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の精神と範囲から逸脱することなく、様々な変更、置換、および代替が本明細書中でなされ得ることが理解されるべきである。さらに、本願の範囲は、本明細書中に記載された、プロセス、機械、製造、組成物、手段、方法、およびステップといった特定の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、本発明の開示から容易に理解できるように、本明細書に記載の対応する実施形態と実質的に同一に機能する、あるいは実質的に同一の結果を達成できる既存あるいは後発のプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法、またはステップを、本発明に従って利用することができる。したがって、添付の特許請求の範囲は、それらの範囲内にそのようなプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法、またはステップを含むものとする。
図1
図2A-B】
図2C-D】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16