特許第6067013号(P6067013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6067013アクリル酸製造用触媒およびこの触媒を使用することによってアクリル酸を製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067013
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】アクリル酸製造用触媒およびこの触媒を使用することによってアクリル酸を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/88 20060101AFI20170116BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20170116BHJP
   C07C 51/235 20060101ALI20170116BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170116BHJP
【FI】
   B01J23/88 Z
   C07C57/055 A
   C07C51/235
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-525215(P2014-525215)
(86)(22)【出願日】2012年12月6日
(65)【公表番号】特表2015-505713(P2015-505713A)
(43)【公表日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2012007834
(87)【国際公開番号】WO2013084500
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2015年7月7日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2011/006831
(32)【優先日】2011年12月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 公人
(72)【発明者】
【氏名】小林 康志
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/125623(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/074177(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C07C 51/235
C07C 57/055
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールの脱水反応により得られた不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造するための担持触媒であって、
次式(1)で表わされる組成を有する活性成分を、
Mo12 Cu Sb (1)
[式中、Mo、V、W、Cu、SbおよびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を表し、Xはアルカリ金属およびタリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、Zはニオブ、セリウム、スズ、クロム、マンガン、鉄、コバルト、サマリウム、ゲルマニウム、チタンおよびヒ素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、「a」、「b」、「c」、「d」、「e」、「f」、「g」および「h」はそれぞれ、元素の原子比を表し、モリブデン原子の値が12とみなされるとき以下のそれぞれの範囲を満たす:
「a」は0を超えるが10以下であり、
「b」は0を超えるが10以下であり、
「c」は0を超えるが6以下であり、
「d」は0を超えるが10以下であり、
「e」は0以上であるが0.5以下であり、
「f」は0以上であるが1以下であり、
「g」は0以上であるが6未満であり、
「h」は上記の元素の原子価を満たすのに必要とされる酸素原子の数である。]
直径2.5から10mm、多孔度30から50%および吸水率10から30%を有する担体に担持させた、担持触媒
【請求項2】
グリセリンの脱水反応により得られたアクロレインからアクリル酸を製造するための担持触媒であって、次式(1)で表わされる組成を有する活性成分を、
Mo12 Cu Sb (1)
[式中、Mo、V、W、Cu、SbおよびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を表し、Xはアルカリ金属およびタリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、Zはニオブ、セリウム、スズ、クロム、マンガン、鉄、コバルト、サマリウム、ゲルマニウム、チタンおよびヒ素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、「a」、「b」、「c」、「d」、「e」、「f」、「g」および「h」はそれぞれ、元素の原子比を表し、モリブデン原子の値が12とみなされるとき以下のそれぞれの範囲を満たす:
「a」は0を超えるが10以下であり、
「b」は0を超えるが10以下であり、
「c」は0を超えるが6以下であり、
「d」は0を超えるが10以下であり、
「e」は0以上であるが0.5以下であり、
「f」は0以上であるが1以下であり、
「g」は0以上であるが6未満であり、
「h」は上記の元素の原子価を満たすのに必要とされる酸素原子の数である。]
直径2.5から10mm、多孔度30から50%および吸水率10から30%を有する担体に担持させた、担持触媒
【請求項3】
アルコールの脱水反応により得られた不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造するための方法であって、請求項1または2に記載の担持触媒を使用することを特徴とする方法。
【請求項4】
グリセリンの脱水反応により得られたアクロレインからアクリル酸を製造するための方法であって、請求項1または2に記載の担持触媒を使用することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの接触脱水反応により製造された不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造するための酸化触媒、およびこの触媒を使用することによってアクリル酸を製造するための方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、気相または液相におけるグリセリンの接触脱水反応により製造されたアクロレインからアクリル酸を製造するための触媒、およびこの触媒を使用することによってアクリル酸を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アクロレインはメチオニンの製造において使用されるものであり、魚粉の代用物として出現した動物用飼料サプリメントとして使用されるアミノ酸を製造する誘導体である。アクロレインはアクリル酸の合成中間体であり、メチルビニルエーテルとの反応、次いで加水分解を経てグルタルアルデヒドに至る。グルタルアルデヒドは皮革なめしにおいて多用されている。
【0004】
アクリル酸は種々の工業製品において使用される材料であり、アクリル酸およびこの誘導体の重合により生成するポリアクリレートやポリアクリルアミドなど工業用ポリマーの重要なモノマーおよびコモノマーである。アクリル酸の重要な用途の1つは、アクリル酸およびアクリル酸ナトリウムまたは他のカチオンの混合物の部分中和により調製される高吸水樹脂である。実際には、アクリル酸が重合され、得られたポリアクリル酸は部分中和される。これらのポリマーまたはコポリマーは、公衆衛生、洗浄剤、被覆材、ワニス、接着剤、紙、布帛および皮革など様々な分野において広く利用される。
【0005】
アクロレインおよびアクリル酸は、酸素の存在下で触媒を使用することによってプロピレンを酸化するための方法により工業規模で製造される。一般に、この反応は気相において実施される。アクリル酸は通常2段階反応により製造される。第1段階において、アクロレインリッチ生成物がプロピレンから調製されるが、この段階でアクリル酸はほとんど製造されない。アクリル酸は、第2段階においてアクロレインの選択的酸化により得られる。
【0006】
この2段階反応は、多管型反応器中、各反応器に適したそれぞれ異なる2つの反応条件および触媒で実施される。第1段階において得られたアクロレインの精製を行う必要はない。プロピレンからアクロレインおよびアクリル酸へのこの酸化反応は、他の多くの選択的酸化方法と異なり、固定床反応器中で実施される。
【0007】
アクロレインおよびアクリル酸の製造で使用される出発材料は、再生可能な化石資源ではない石油および天然ガスに由来している。しかし、地球温暖化ガスを削減するためにアクロレインおよびアクリル酸を再生可能源から製造することは非常に重要である。このように変更することは工業主要国の責任であり、環境負荷の緩和および地球温暖化ガスの削減に寄与することができる。
【0008】
グリセリンは、バイオディーゼル燃料が製造されるときに副生成物として得られ、プロピレン代替物のための供給原料の1つとみなされる。アクロレインはグリセリンの接触脱水反応により製造され得る。このプロセス経路は、環境保護のためのグリーンケミストリーの概念に相応する。グリセリンは、糖の発酵および水素化分解などいくつかの方法により製造され得る。
【0009】
このプロセス経路は、第1段階においてアクロレインが調製され、第2段階が第1段階と同じ反応条件で実施されるのでプロピレン酸化プロセスに非常に類似している。しかし、実際の第1段階は通常のプロピレン酸化プロセスと異なる。実際は、気相における脱水反応においてプロピレン酸化と異なる固体触媒が使用され、このプロセスにおいて、アクロレインリッチガスと共に多量の水が、アクリル酸を製造する第2段階に供給される。さらに、反応機構が全く異なるため、副生成物の組成は非常に異なる。
【0010】
グリセリン脱水反応によるアクロレインの製造に関して多くの触媒がすでに報告されている。
【0011】
特許文献1(US5,387,720)には、気相および液相における種々の固体酸でのグリセリン脱水によるアクロレインを製造する方法が開示されている。ハメット指数としては+2未満、好ましくは−3未満と定義され、したがって対応する触媒は、例えばモルデン沸石、モンモリロナイト、ゼオライトなどの天然もしくは合成ケイ素化合物、一塩基酸、二塩基酸、三塩基酸担持アルミナおよび酸化チタン、γ−アルミナ、ZnO/Alまたはヘテロポリ酸である。FR695931に記載されているリン酸鉄触媒系の場合に生じる副生成物の問題を解決することができると考えられる。
【0012】
特許文献2(WO2006/087084)は、ハメット指数−9から−18の固体強酸がグリセリン脱水によるアクロレインの製造を高活性で可能にし、触媒劣化の抑制を可能にすることを明らかにしている。
【0013】
特許文献3(WO2009/044081)には、酸素、鉄、リンおよびアルカリ金属またはアルカリ土類金属Al、Si、B、Co、Cr、Ni、V、Zn、Zr、Sn、Sb、Ag、Cu、Nb、Mo、Y、Mn、Pt、Rhならびに希土類La、CeおよびSmを含む群から選択される1種超の元素を含有する触媒の存在下で行われるグリセリン脱水反応が開示されている。
【0014】
特許文献4(WO2009/128555)には、ヘテロポリ酸中のプロトンが周期表第1族から第16族に属する元素を含む群から選択される元素の1種超のカチオンで置換されている化合物からなる触媒の存在下で行われるグリセリン脱水反応が開示されている。
【0015】
特許文献5(WO2010/046227)には、酸素、リンならびにバナジウム、ホウ素およびアルミニウムを含む群から選択される少なくとも1種の元素を含有する触媒の存在下で行われるグリセリン脱水反応が開示されている。
【0016】
しかし、アクロレインがグリセリンから製造される場合、得られるアクロレインはプロピレンの酸化反応により得られるアクロレインと異なる。実際、グリセリンから製造され、得られたアクロレインには、ヒドロキシアセトン、プロピオンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アクロレインがグリセリンに付加した付加生成物、グリセリンの重縮合生成物、環式グリセリンエーテル、フェノール、多環芳香族化合物など多量の種々の副生成物が含まれている。
【0017】
公知文献では、明細書および実施例において、グリセリンから得られたアクロレインからアクリル酸を製造する際に使用される触媒は、アクロレインからアクリル酸を製造するのに使用された通常の技法により調製され得ることが教示されている。しかし、公知文献(特許文献6(WO2010/074177)、特許文献7(US2008/0183013)、特許文献8(JP−A1−2008/5316283)、特許文献9(JP−A1−2010/513422)などの特許文献)には、触媒、これらの組成物、構成要素元素ならびに触媒の焼結方法および造形方法を含めて調製方法の詳細は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第5,387,720号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/087084号
【特許文献3】国際公開第2009/044081号
【特許文献4】国際公開第2009/128555号
【特許文献5】国際公開第2010/046227号
【特許文献6】国際公開第2010/074177号
【特許文献7】米国特許出願公開第2008/0183013号明細書
【特許文献8】特開2008/5316283号公報
【特許文献9】特開2010/513422号公報
【特許文献10】仏国特許出願公開第695931号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
(発明の要旨)
したがって、本発明の目的は、気相または液相におけるアルコールの接触脱水反応により製造された不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造するための触媒を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、この触媒を使用することによって不飽和カルボン酸を製造するための方法を提供することである。
【0021】
本発明のさらに別の目的は、気相または液相におけるグリセリンの接触脱水反応により製造されたアクロレインからアクリル酸を製造するための触媒、およびこの触媒を使用することによってアクリル酸を製造するための方法を提供することである。
【0022】
本発明のさらなる目的は、このような触媒を調製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
第1の態様から、本発明は、気相または液相において石油に由来しない材料であるアルコール、特にグリセリンを使用することによって不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸、特にアクロレインおよびアクリル酸をより高収率で製造する際に使用される触媒を提供する。
【0024】
さらに、本発明はこの触媒を使用することによってアクリル酸を製造するための方法を提供する。
【0025】
本発明者らは上記課題を解決しようと試み、不飽和カルボン酸またはアクリル酸は、アルコールの接触脱水により得られた不飽和アルデヒドの酸化により不飽和カルボン酸が製造される場合、特にグリセリンの接触脱水により得られたアクロレインの酸化によりアクリル酸が製造される場合、選択された材料から選択された方法により調製された特殊な触媒を使用することによって高収率で得られることを見出し、本発明を完成した。
【0026】
すなわち、本発明は、以下の(1)から(4)の特徴を単独で有するかまたは組み合わせて有する:
(1)アルコールの脱水反応により得られた不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造するための触媒、特にグリセリンの脱水反応により得られたアクロレインからアクリル酸を製造するための触媒であって、次式(1)で表わされる組成を有する活性成分を含むことを特徴とする触媒:
Mo12 Cu Sb (1)
[式中、Mo、V、W、Cu、SbおよびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を表し、Xはアルカリ金属およびタリウムを含む群から選択される少なくとも1種の元素であり、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛を含む群から選択される少なくとも1種の元素であり、Zはニオブ、セリウム、スズ、クロム、マンガン、鉄、コバルト、サマリウム、ゲルマニウム、チタンおよびヒ素を含む群から選択される少なくとも1種の元素であり、「a」、「b」、「c」、「d」、「e」、「f」、「g」および「h」はそれぞれ、元素の原子比を表し、モリブデン原子の値が12とみなされるとき以下のそれぞれの範囲を満たす:
「a」は0を超えるが10以下であり、
「b」は0以上であるが10以下であり、
「c」は0を超えるが6以下であり、
「d」は0を超えるが10以下であり、
「e」は0以上であるが0.5以下であり、
「f」は0以上であるが1以下であり、
「g」は0以上であるが6未満であり、
「h」は上記の元素の原子価を満たすのに必要とされる酸素原子の数である。]
(2)グリセリンの脱水反応により得られたアクロレインからアクリル酸を製造するための触媒であって、次式(1)で表わされる組成を有する活性成分を含むことを特徴とする触媒:
Mo12 Cu Sb (1)
[式中、Mo、V、W、Cu、SbおよびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を表し、Xはアルカリ金属およびタリウムを含む群から選択される少なくとも1種の元素であり、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛を含む群から選択される少なくとも1種の元素であり、Zはニオブ、セリウム、スズ、クロム、マンガン、鉄、コバルト、サマリウム、ゲルマニウム、チタンおよびヒ素を含む群から選択される少なくとも1種の元素であり、「a」、「b」、「c」、「d」、「e」、「f」、「g」および「h」はそれぞれ、元素の原子比を表し、モリブデン原子の値が12とみなされるとき以下のそれぞれの範囲を満たす:
「a」は0を超えるが10以下であり、
「b」は0以上であるが10以下であり、
「c」は0を超えるが6以下であり、
「d」は0を超えるが10以下であり、
「e」は0以上であるが0.5以下であり、
「f」は0以上であるが1以下であり、
「g」は0以上であるが6未満であり、
「h」は上記の元素の原子価を満たすのに必要とされる酸素原子の数である。]。
(3)アルコールの脱水反応により得られた不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造するための方法であって、上記項目1または2に記載の触媒を使用することを特徴とする方法。
(4)グリセリンの脱水反応により得られたアクロレインからアクリル酸を製造するための方法であって、上記項目1または2に記載の触媒を使用することを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0027】
不飽和カルボン酸は、アルコールの脱水により得られた不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸が製造されるとき、特にグリセリンの脱水により得られたアクロレインからアクリル酸が製造されるとき、本発明による触媒を使用することによって高収率で製造されることが可能であり、したがって本発明は不飽和カルボン酸の工業生産において非常に重要である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明による触媒の触媒活性成分は次式(1)で表わされる:
Mo12 Cu Sb (1)
[式中、Mo、V、W、Cu、SbおよびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を表し、Xはアルカリ金属およびタリウムを含む群から選択される少なくとも1種の元素であり、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛を含む群から選択される少なくとも1種の元素であり、Zはニオブ、セリウム、スズ、クロム、マンガン、鉄、コバルト、サマリウム、ゲルマニウム、チタンおよびヒ素を含む群から選択される少なくとも1種の元素であり、「a」、「b」、「c」、「d」、「e」、「f」、「g」および「h」はそれぞれ、元素の原子比を表し、モリブデン原子の値が12とみなされるとき以下のそれぞれの範囲を満たす:
「a」は0を超えるが10以下であり、
「b」は0以上であるが10以下であり、
「c」は0を超えるが6以下であり、
「d」は0を超えるが10以下であり、
「e」は0以上であるが0.5以下であり、
「f」は0以上であるが1以下であり、
「g」は0以上であるが6未満であり、
「h」は上記の元素の原子価を満たすのに必要とされる酸素原子の数である。]。
【0029】
本発明による触媒は、式(1)で表わされる触媒を構成する金属元素粉末の混合物または上記元素の化合物を含む水溶液(または水性分散体)を乾燥することによって調製される粉末を用意し、粉末混合物を焼成し、得られたか焼生成物を場合による不活性成分または成形助剤と一緒になって造形し、場合によってその後、得られた触媒を担体に担持させることによって調製され得る。触媒活性元素の化合物は、触媒活性元素の塩化物、スルフェート、硝酸塩、アンモニウム塩など、焼成またはか焼後に酸化物に変換され得る化合物であればいずれでもよい。モリブデンの化合物の例は三酸化モリブデン、モリブデン酸またはこの塩である。バナジウムの化合物の例は五酸化バナジウム、硫酸バナジル、バナジン酸またはこの塩である。タングステンの化合物の例はタングステン酸またはこの塩である。銅の化合物の例は酸化銅、硫酸銅、硝酸銅およびモリブデン酸銅である。これらのうち、硫酸銅が好ましい。アンチモンの化合物の例は三酸化アンチモンまたは酢酸アンチモンである。三酸化アンチモンは材料として使用されるとき化学処理なしで使用される。すなわち、三酸化アンチモンは、硝酸や硫酸などの酸、過酸化水素などの酸化剤またはアルカリとの接触など水への溶解(または分散)を容易にする化学処理を全く行うことなくそのまま使用される。三酸化アンチモンは細粉の形で使用されることが好ましい。酢酸アンチモンは、三酸化アンチモンの代わりに使用され、機械的強度を高めることができ、より高い活性を有する触媒が選択された反応条件下で得られることが可能である。
【0030】
本発明において、上記の活性成分またはこれらの化合物の水溶液または水分散体(以降、スラリー溶液)がまず調製される。スラリー溶液は、活性成分と水を均一に混合することによって調製され得る。本発明において、スラリー溶液は水溶液であることが好ましい。スラリー溶液における活性成分の化合物の割合は好適な範囲から選択され得る。ただし、各活性成分の原子比が上記の範囲内であることを条件とする。水の量は特に制限されないが、使用される化合物全体を溶解(または均一に混合)するのに十分なほどでなければならず、その後の乾燥段階で使用される方法および温度を考慮して決定される。水の好ましい量は、化合物全体100重量部に対して200から2000重量部であることが一般的である。水の量が不足または十分でない場合、完全な溶解(または均一な混合)を期待することはできない。一方、過剰量の水は乾燥段階のエネルギーコストの増加および不完全な乾燥という問題を提起する。
【0031】
次いで、スラリー溶液は乾燥される。ドラム乾燥、凍結乾燥および噴霧乾燥など乾燥方法は特に制限されない。ただし、スラリー溶液は完全に乾燥され得ることを条件とする。本発明において、噴霧乾燥は、スラリー溶液が短時間内で粉末状態まで乾燥され得るので用いることが好ましい。乾燥温度はスラリー溶液の濃度、供給速度などに依存するが、乾燥装置の出口温度は約85から130℃である。乾燥は、得られる乾燥粉末の平均粒度が20から100マイクロメートルとなるように行うことが望ましい。
【0032】
次いで、得られた乾燥粉末は焼成される。この焼成またはか焼は、造形または成形前の予備焼成ステップと造形または成形後の後焼成ステップの2ステップに分割されることが好ましい。焼成またはか焼は任意の公知技法により実施され得る。本発明による予備焼成は、通常温度250℃から500℃、好ましくは300℃から450℃で焼成時間1から15時間、好ましくは3から6時間で行われ得る。予備焼成ステップは、触媒活性成分が反応管に注ぎ込まれるとき触媒活性成分の粉砕および剥離を防止するならびに摩耗の少ない触媒を得ることが望ましい。
【0033】
本発明による触媒は、予備焼成ステップによって得られた顆粒(以降、予備焼成顆粒)を直接造形もしくは成形するまたは顆粒が粉砕された後に造形もしくは成形することによって得られる。造形または成形は任意の公知方法により実施され得る。例えば、場合によって結合剤と混合される予備焼成顆粒は、(A)打錠機、(B)予備焼成顆粒がシリカゲル、珪藻土およびアルミナ粉末などの成形助剤と混合され、球、円筒、環などの形状に押し出される押出機、ならびに(C)触媒が球状担体に被覆または担持される被覆技法により造形される。次いで、得られた担持触媒は後焼成ステップに供されることが好ましい。
【0034】
次に、本発明の触媒に望ましい方法である触媒被覆技法を詳細に説明する。触媒被覆は、好ましくは回転造粒方法により実施され得る。回転造粒方法において、平坦または不整な表面を有する円盤が固定容器の底部に配置され、高速で回転され、したがって担体が容器中で自転と軌道運動の組合せ運動の反復により強く撹拌される。次いで、予備焼成顆粒および結合剤と場合による成形助剤および補強材の混合物が担体に添加され、したがって担体が混合物で被覆される。結合剤は、(1)結合剤を混合物と予め混合する、(2)混合物を容器に投入するのと同時に結合剤を添加する、(3)混合物を容器に投入した後に、結合剤を混合物に添加する、(4)混合物を容器に投入する前に、結合剤を混合物に添加する、(5)結合剤と混合物を複数回に分けて添加するなど任意の方法により添加されることが可能であり、または全量が添加される前に(2)から(5)の方法が組み合わされ得る。方法(5)の場合に、混合物が容器壁面に接着することなく所定量の混合物が担体に担持されることを保証し、混合物の相互凝結を回避するために、供給速度を調整することが好ましい。
【0035】
担体は、直径2.5から10mmの炭化ケイ素、アルミナ、ムライトおよびアランダム製球状担体であってよい。担体は、多孔度30から50%および吸水率10から30%であることが好ましい。担体に被覆される粉末の比、すなわち予備焼成顆粒/(予備焼成顆粒+担体)の比は通常10から75重量%、好ましくは15から50重量%である。被覆粉末の比が増加されるとき、本発明による被覆触媒の反応活性が増大するが、機械的強度は低下する傾向がある(摩耗損失が増大する。)。一方、被覆粉末の割合が低下する場合、機械的強度は増大する(摩耗損失は低下する。)が反応活性は低下する。
【0036】
担体が(予備焼成顆粒を粉砕することによって得られた)予備焼成粉末で被覆されるとき、結合剤を使用することが好ましい。結合剤の例は、水、エタノール、ポリアルコール、ポリマー型結合剤のポリビニルアルコール、結晶セルロース、メチルセルロースおよびエチルセルロースなどのセルロース、無機結合剤のシリカゾル水溶液である。これらのうち、セルロースおよびエチレングリコールなどのジオールおよびグリセリンなどのトリオールが好ましく、5重量%より高い濃度のセルロースおよびグリセリン水溶液が好ましい。セルロースのうち、結晶セルロースが望ましい。適量のセルロースまたはグリセロール水溶液が使用されると、成形性および機械的強度が改善され、触媒活性が高い。結合剤の使用量は、予備焼成粉末100重量部に対して通常2から60重量部である。セルロースの場合に、この量は2から10重量部、好ましくは3から 重量部である。グリセロール水溶液の場合に、この量は10から30重量部である。
【0037】
場合によって、シリカゲル、珪藻土、アルミナ粉末などの成形助剤が使用され得る。成形助剤の量は、予備焼成粉末100重量部に対して5から60重量部である。
【0038】
セラミック繊維およびウィスカーなどの無機繊維を必要なら補強材料として使用して、触媒の機械的強度を改善することは有用である。しかし、チタン酸カリウムウィスカーや塩基性炭酸マグネシウムウィスカーなどの触媒成分と反応する繊維は望ましくない。好ましくは、セラミック繊維が好ましい。繊維の量は、予備焼成粉末100重量部に対して通常1から30重量部である。予備焼成粉末、成形助剤および補強材料は通常混合物の形で使用される。通常、予備焼成粉末で被覆され、得られた担体は直径3から15mmである。
【0039】
予備焼成粉末で被覆され、得られた担体は次いで後焼成に供され、目的物が得られる。焼成温度は通常250から500℃、好ましくは300から450℃であり、焼成時間は1から50時間である。打錠機など触媒被覆方法以外の造形技法が使用されるとき、後焼成は通常250から500℃で約1から50時間などの条件下で行われる。
【0040】
こうして得られた本発明による触媒は、アルコールの接触脱水反応により製造された不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造するための方法において使用され、特にグリセリン脱水により製造されたアクロレインからアクリル酸を製造するための方法において使用されることが有利である。
【0041】
アクロレインの酸化によりアクリル酸を製造するのに使用される触媒およびアクロレインの酸化によりアクリル酸を製造するための方法は公知であり、特許第3786297号公報および第3883755号公報に記載されている。
【0042】
本発明で使用される不飽和アルデヒドはアルコールの脱水により得られる。このアルコールは、1−プロパノール、2−プロパノール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールおよびグリセリンなどの炭素数3個のアルコールであり、分解により炭素数3個のアルコールを製造することができる炭素数4から6個のアルコール(ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ソルビトールなど)が含まれる。
【0043】
不飽和アルデヒドであるアクロレインは、上記の炭素数3個のアルコールを脱水することによって得られる。本発明において、アクリル酸は本発明による触媒を使用することによって製造される。
【0044】
本発明は、グリセリンの接触脱水反応により製造されたアクロレインからアクリル酸を製造するための触媒、この触媒を調製するための方法、およびアクリル酸を製造するための方法を提供する。
【0045】
次に、グリセリンの接触脱水反応により製造されたアクロレインからアクリル酸を製造するための方法を詳細に示す。本発明による方法はグリセリンの脱水反応に限定されるものではなく、上記の任意のアルコールの接触脱水反応により製造されたアクロレインに適用可能である。
【0046】
グリセリン脱水によりアクロレインを製造するのに使用される触媒は、この反応の触媒として知られている任意の公知固体酸触媒とすることができる。公知固体酸の例は、WO2006−087083、WO2006−087084および特許第3488491号に開示されるものである。
【0047】
固体酸触媒は、酸性ゼオライト;モノ−、ジ−、トリ−およびポリ酸、ヘテロポリ酸ならびにこれらの塩(タングステン酸、ホスホタングステン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸などのポリ酸およびこれらの塩);Nafion複合材料(Nafion、登録商標)、塩素化アルミナ;リン酸、ホウ酸、硫酸およびこれらの塩;ならびに酸化タングステンであってよい。これらの活性成分は、酸化タンタル、酸化ニオブ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、シリカおよびシリカ−アルミナなどの担体に担持され得る。
【0048】
これらの固体酸触媒のうち、WO2009−136537、JP−A1−2009−238532およびWO2011−033689に記載されるポリ酸、ヘテロポリ酸およびこれらの塩、すなわちタングステン酸、ホスホタングステン酸およびケイタングステン酸ならびにこれらの塩(特にアルカリ金属塩)が特に好ましい。これらの活性成分の少なくとも1種は、ジルコニア、酸化チタン、アルミナおよびシリカから選択される担体に担持されていることが好ましい。好ましい例はCsPW、CsPW/TiOおよびPW/TiOである。
【0049】
グリセリンの脱水反応は気相および液相において行われることが可能であり、気相が好ましい。気相反応は、固定床、流動床、循環流動床、移動床など種々の反応器中で実施され得る。これらのうち、固定床が使用されることが有利である。液相反応は、固体触媒の場合通常の液相反応容器中で実施され得る。
【0050】
アクロレインがグリセリンの気相脱水反応により製造される場合の反応条件は、反応温度が200から450℃であることが好ましい。実際、反応温度が200℃を下回ると、グリセリンは沸点が高く、したがってグリセリンおよび反応生成物の重合または炭化が起こるので、触媒寿命が短くなる。一方、反応温度が450℃を上回ると、並発反応および連続反応の増進のためアクロレインの選択率が低下する。より好ましい反応温度は250から350℃である。
【0051】
反応圧力は特に制限されないが、絶対圧力で10気圧以下が望ましく、より好ましい圧力は6気圧以下である。圧力が増加された場合、ガス化されたグリセリンが再び液化する。より高い圧力下では、炭素析出が促進され、触媒寿命が短くなる。
【0052】
触媒に対する材料ガスの供給速度は、空間速度GHSVで表して500から10000h−1であることが好ましい。500h−1以下の場合、選択率が連続反応のため低減され、10000h−1を超える場合、変換率が低減される。
【0053】
液相反応は150から350℃の温度で実施されることが好ましい。低温では変換率が低減されるが、選択率は改善される。圧力は特に制限されないが、3気圧から70気圧に上げることができる。
【0054】
グリセロール水溶液の濃度は好ましくは5重量%から90重量%、より好ましくは10重量%から60重量%の範囲である。グリセロールの濃度が40重量%未満になると、通常のプロピレン酸化プロセスで使用される供給原料アクロレインより多量の水を含む供給原料アクロレインが供給される。しかし、本発明による触媒では、活性、選択率および触媒寿命など触媒作用の性能が損なわれないことが有利である。さらに、より高いグリセロール濃度は、グリセリンエーテルの形成ならびにグリセリンと不飽和アルデヒドと不飽和カルボン酸の反応の望ましくない原因となる。さらに、グリセリンのガス化にはより高いエネルギーが必要とされる。
【0055】
グリセリン脱水触媒に供給される混合ガス中のグリセリンの濃度は、1から30mol%、好ましくは1から12mol%、より好ましくは3から10mol%である。
【0056】
グリセリン脱水反応は窒素やヘリウムなどの不活性ガスの気流中で行われ得るが、酸素または空気などの酸素含有ガスの存在下で行われることが望ましい。酸素濃度は1から10mol%、好ましくは2から7mol%である。
【0057】
次に、グリセリン脱水により得られたアクロレインからアクリル酸を製造する方法を詳細に説明する。
【0058】
第1段階反応器中でグリセリン脱水により得られたアクロレインがアクリル酸製造用の第2段階反応器に供給されるとき、第1段階において得られたアクロレイン含有ガスは第2段階反応器に直接供給され得る。しかし、第2段階反応器に供給される前にこのアクロレイン含有ガスの少なくとも一部分を精製することが好ましい。というのは、グリセリン脱水により得られたアクロレインには水、未反応のグリセリン、アセトアルデヒド、ヒドロキシアセトン、プロピオンアルデヒド、プロピオン酸、アクリル酸、グリセリン重縮合物、グリセリンエーテル、フェノールなど種々の副生成物が含まれているからである。精製は部分凝縮塔である吸収カラムにおいて行うことができる。精製は、蒸留や結晶化などの温度制御精製、加圧凝縮精製、抽出精製もしくはこれらの組合せなど他の公知技法により行われてよく、またはエバポレータ、熱交換器、冷却器などを装備したものにより行われてよい。
【0059】
グリセリン脱水反応により得られたアクロレインからアクリル酸を製造する反応条件は、200から450℃、好ましくは220から400℃の温度である。
【0060】
圧力は特に制限されないが、絶対圧力で1気圧から10気圧、好ましくは1気圧から5気圧の圧力が好ましい。はるかに高い圧力は、過剰の酸化、炭素被着の助長および触媒寿命の短縮の原因である。
【0061】
触媒に対する材料ガスの供給速度は、空間速度GHSVで表して500から10000h−1、より好ましくは1000から5000h−1である。
【0062】
アクロレイン酸化用の触媒に供給されるアクロレイン含有ガス中のアクロレインの濃度は、1から20mol%、好ましくは3から15mol%である。
【0063】
酸素または空気および窒素やヘリウムなどの不活性ガスは、グリセリン脱水反応により得られたアクロレイン含有ガスがアクロレイン酸化反応器に供給される前に添加され得る。酸素濃度は1から15mol%であることが好ましい。
【実施例】
【0064】
本発明を以下の実施例においてより詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例において、%はモル%を意味する。
【0065】
例1(実施例)
グリセリンの脱水反応によりアクロレインを製造するのに使用される触媒として、PW/TiO触媒を使用した。このPW/TiO触媒は以下の通り調製した。まず、13.2gのホスホタングステン酸(日本無機化学工業)を100mlの純水に溶解した。別に、100gのアナタース型TiOペレット(サンゴバン株式会社、ST 31119:直径=3.2mm、長さ=5mm)を磁製皿に入れ、その上にホスホタングステン酸水溶液を添加し、2時間放置した。次いで、得られた混合物を120℃で10時間蒸発乾固し、次いで空気雰囲気中500℃で3時間焼成した。
【0066】
次に、アクロレインからアクリル酸を製造するための触媒およびこの調製方法を明らかにする。撹拌用モーターを装備した混合槽(A)において、600部の脱イオン水および16.26部のタングステン酸アンモニウムを95℃で添加し、撹拌した。次いで、これに、18.22部のメタバナジン酸アンモニウムおよび110部のモリブデン酸アンモニウムを溶解した。次いで、7.75部の酢酸アンチモンをさらに添加した。混合槽(B)において、96部の脱イオン水が投入され、これに15.56部の硫酸銅を溶解し、得られた溶液を混合槽(A)に添加して、スラリー溶液を得た。噴霧乾燥機の出口温度が約100℃になるように空気速度を調整することによって、このスラリー溶液を噴霧乾燥した。得られた顆粒を炉中で昇温速度1時間当たり約60℃で周囲温度から徐々に加熱し、温度390℃において約5時間焼成した(予備焼成)。得られた予備焼成顆粒をボールミルで粉末に粉砕した(以降、予備焼成粉末)。
【0067】
36部の多孔度40%、直径4mmのアランダム担体をロール造粒機に入れ、2.4部の20重量%グリセリン水溶液を担体に注ぎ込み、これに12部の予備焼成粉末を供給して、担持触媒を得た。次いで、得られた被覆担体を炉中で昇温速度1時間当たり約70℃で周囲温度から加熱し、温度390℃において5時間焼成して、本発明による被覆生成物を得た。得られた触媒は、活性成分の酸素を除く元素の割合が以下の通りである:
Mo121.2 Cu1.2 Sb0.5
【0068】
次いで、グリセリン脱水用の触媒をフロースロー型固定床反応器で評価した。30ccの触媒をSUS反応管(直径20mm)に充填した。グリセリン水溶液(濃度50重量%)を、ポンプでエバポレータに流速23.4g/時で供給し、したがってグリセリンが300℃でガス化した。得られたガス化グリセリンを空気と一緒に固定触媒床に通した。固定触媒床を温度290℃で加熱した。供給ガスの組成は単位mol%で以下の通りであった:グリセリン:酸素:窒素:水=4.7:2.8:68.5:24.0。GHSVは2020h−1であった。出口ガスの組成は単位mol%で以下の通りであった:アクロレイン:酸素:窒素:水:アセトアルデヒド:プロピオンアルデヒド:ヒドロキシアセトン=3.8:1.4:68.1:24.4:0.37:0.03:0.01。
【0069】
次いで、空気および酸素を加え、冷却器を介して水を上記で得られたガスと共に除去することを前提として、アクロレイン酸化用の触媒をフロースロー型固定床反応器で評価した。上述する加えられた空気および酸素の推定流速はそれぞれ、30mlの触媒の場合0.0087mol/分および0.0021mol/分であった。供給ガスの組成は単位mol%で以下の通りであった:アクロレイン:酸素:窒素:水:アセトアルデヒド:プロピオンアルデヒド:ヒドロキシアセトン=3.4:8.1:73.0:15.1:0.34:0.03:0.03。30mlの触媒をSUS反応管(内径28.4mm)に充填した。窒素を用いた液体アクロレインのバブリングにより得られたアクロレイン含有ガスを、酸素、窒素、水、およびいくつかの酸素含有化合物(アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ヒドロキシアセトン)と共に加えた。反応は、SV 2508/時(空間速度:単位時間当たりの材料ガス流速/充填触媒の見掛け体積)、反応温度275℃で実施した。
【0070】
生成物を冷却器で凝縮させ、ガスクロマトグラフ(7890A、DB−WAXカラム、Agilent)で定量分析した。生成物の割合をガスクロマトグラフの結果からファクター修正して、生成物の絶対量を決定し、材料の変換率(グリセリン変換率)、目的物質の選択率(アクリル酸選択率)および目的物質の収率(アクリル酸収率)を算出した。
【0071】
材料の変換率(%)=(1−未反応の材料のモル数/供給された材料のモル数)×100
目的物質の選択率(%)=(得られた生成物のモル数/反応した材料のモル数)×100
生成物の収率(%)=(得られた生成物のモル数/供給された材料のモル数)×100
材料(アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ヒドロキシアセトン)の変換率(%)=(1−(未反応の材料のモル数−不純物を与えない未反応の材料のモル数)/供給された材料のモル数)×100
下記は反応の結果である:
アクロレインの変換率=98.1%
アクリル酸の選択率=96.5%
アクリル酸の収率=94.7%
アセトアルデヒドの変換率=99.5%
プロピオンアルデヒドの変換率=99.6%
ヒドロキシアセトンの変換率=100.0%。
【0072】
例2(比較例)
次いで、比較評価のため、供給ガス中に酸素含有化合物を含まないアクロレイン酸化触媒を評価した。供給ガスの組成は単位mol%で以下の通り:アクロレイン:酸素:窒素:水=3.4:8.1:73.3:15.2であり、各供給ガスの流速は実施例1と同じであった。30mlの触媒をSUS反応管(内径28.4mm)に充填した。窒素を用いた液体アクロレインのバブリングにより得られたアクロレイン含有ガスを酸素、窒素、水と共に加えた。反応はSV 2500/時で実施した。
【0073】
下記は結果である:
アクロレインの変換率=98.4%
アクリル酸の選択率=94.7%
アクリル酸の収率=93.2%
【0074】
下記は実施例および比較例をまとめたものである:
アクリル酸は、次式(1)で表わされる組成を有する活性成分を含む触媒:
Mo12 Cu Sb (1)
(式中、Mo、V、W、Cu、SbおよびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を表し、Xはアルカリ金属およびタリウムを含む群から選択される少なくとも1種の元素であり、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛を含む群から選択される少なくとも1種の元素であり、Zはニオブ、セリウム、スズ、クロム、マンガン、鉄、コバルト、サマリウム、ゲルマニウム、チタンおよびヒ素を含む群から選択される少なくとも1種の元素であり、「a」、「b」、「c」、「d」、「e」、「f」、「g」および「h」はそれぞれ、元素の原子比を表し、モリブデン原子の値が12とみなされるとき以下のそれぞれの範囲を満たす:
「a」は0を超えるが10以下であり、
「b」は0以上であるが10以下であり、
「c」は0を超えるが6以下であり、
「d」は0を超えるが10以下であり、
「e」は0以上であるが0.5以下であり、
「f」は0以上であるが1以下であり、
「g」は0以上であるが6未満であり、
「h」は上記の元素の原子価を満たすのに必要とされる酸素原子の数である。)
がアルコールの脱水反応により得られた不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造するのに使用されるとき、特にグリセロールの脱水反応により得られたアクロレインからアクリル酸を製造するのに使用されるとき、アクロレインがより多量の酸素含有化合物などの副生成物を含む場合でさえ、より高い収率で製造することができる。多量の水を含むアクロレインが材料として使用された場合でさえ、アクロレイン収率の低下は認められなかった。本発明による触媒は、様々な不純物を含むようなアクロレインを使用することおよび広範囲のアクロレイン濃度を有するようなアクロレイン材料を使用することによってアクリル酸を製造するのに適用可能である。