(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067037
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】めっき液の再生方法
(51)【国際特許分類】
C25D 21/18 20060101AFI20170116BHJP
C02F 1/72 20060101ALI20170116BHJP
C02F 1/64 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
C25D21/18 E
C02F1/72 Z
C02F1/64 Z
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-560551(P2014-560551)
(86)(22)【出願日】2013年2月5日
(86)【国際出願番号】JP2013052606
(87)【国際公開番号】WO2014122726
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2016年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】594029333
【氏名又は名称】不二商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】金澤 統広
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝博
(72)【発明者】
【氏名】坂野 竜也
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−224670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 13/00−21/22
C23C 18/00−20/08
B01D 21/00−21/34
C02F 1/52− 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu、Ni、Zn、Co、Mnからなる群から選択される1種以上のめっき金属元素と、Feとをイオンとして含有する酸性のめっき排液からFeを除去してめっき液を再生する方法であって、
前記めっき排液にフィチン酸を添加してFeイオンを沈殿させたフィチン酸添加溶液にする添加工程と、
前記フィチン酸添加溶液から沈殿物を除去して再生めっき液とする除去工程と、
を有するめっき液の再生方法。
【請求項2】
前記添加工程の前に2価のFeイオンを酸化して3価にする酸化工程をもつ請求項1に記載のめっき液の再生方法。
【請求項3】
前記めっき金属元素は少なくとも銅を含む請求項1又は2に記載のめっき液の再生方法。
【請求項4】
前記めっき排液のpHは2以下である請求項1〜3のうちの何れか1項に記載のめっき液の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼などに対して銅めっきや青銅めっきなどのめっきを行った後に生成するめっき排液を利用して新たなめっき液を再生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼に銅めっきや青銅めっきを行う方法の1つとして硫酸銅を含んだまたは硫酸銅と硫酸第一錫を含んだめっき液にめっきを行いたい部材を浸漬する浸漬めっきがある。この浸漬めっきは鉄と銅や錫とのイオン化傾向の違いを利用しており、めっき排液中にはめっきされた銅や青銅の量に応じた量の鉄が溶解している。
【0003】
めっき排液中にはCuイオン、Feイオンなどのカチオンや、硫酸イオンなどのアニオンを含むため、中和を行った後、凝集剤を添加してカチオンを凝集させて金属を回収し、きれいになった排液を排水していた。
【0004】
そして、めっき排液から金属を回収する方法としてはFeイオンとSnイオンとを含有する錫めっき排液を強酸性カチオン交換樹脂に通液してカチオンを交換樹脂に吸着回収した後、カチオンを吸着した交換樹脂に酸を通液してカチオンを酸中に回収しSnを沈殿分離する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−3500号公報(特許請求の範囲など参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1などの方法ではカチオン樹脂に吸着させるためには強酸性のめっき排液をいったん中和する必要がある上、その後の強酸性カチオン交換樹脂からのカチオン回収に強酸が必要であったり、カチオンを沈殿させるために苛性ソーダを添加したりするなどの外部からの薬品の添加が必要であったりして、添加した薬品の回収や廃棄などの手間も必要である。また、中和にも薬品が必要である。
【0007】
また、凝集剤を添加する方法はめっき排液のpH(pH1程度)では充分に凝集作用が発揮できる凝集剤がなく再生前にめっき排液を中和する必要があった。
【0008】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、簡便な方法によりめっき排液からめっき液を再生する方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決する本発明のめっき液の再生方法の特徴は、Cu、Ni、Zn、Co、Mnからなる群から選択される1種以上のめっき金属元素と、Feとをイオンとして含有する酸性のめっき排液からFeを除去してめっき液を再生する方法であって、
前記めっき排液にフィチン酸を添加してFeイオンを沈殿させたフィチン酸添加溶液にする添加工程と、
前記フィチン酸添加溶液から沈殿物を除去して再生めっき液とする除去工程と、
を有することにある。
【0010】
フィチン酸は強酸性の雰囲気下でもFeイオンをキレートして不溶化することが可能である。また、Cu、Ni、Zn、Co、Mnと比べて優先的にキレートされることから有用なCu、Ni、Zn、Co、Mnを残したままFeのみを選択的に除去可能である。強酸性のまま、Feイオンを除去できるため、中和などを行うために薬品を添加する必要がないため、不要な成分が蓄積することがなく、結果、Fe除去後の再生されためっき液は、そのまま、又は、必要な金属(Cu、Ni、Zn、Co、Mn)のイオンを添加してめっき液に再利用することができる。
【0011】
つまり、フィチン酸以外の薬品は、必要であるならば殆ど添加することなくFeイオンを除去することも可能であるため、除去した後の再生されためっき液にはめっきに必要でない薬品の混入を最小限にすることも可能になる。結果、再生されためっき液を再利用することが容易である。
【0012】
上述の(1)のめっき液の再生方法は、以下に示す(2)〜(4)のうちの少なくとも1つを組み合わせることができる。
【0013】
(2)前記添加工程の前に2価のFeイオンを酸化して3価にする酸化工程をもつ。3価のFeイオンの方が2価のFeイオンよりもフィチン酸によりキレートされやすいため、Feイオンの除去を確実に行うためには3価に酸化した上でフィチン酸を添加することが望ましい。Feイオンを3価に酸化する方法としては特に限定されず、酸化剤の添加により行うことが望ましい。酸化剤としてはH
2O
2やO
3など(特にH
2O
2)が望ましい。H
2O
2やO
3は、反応した場合(水などになる)、又は、反応せずに残った場合(水などに簡単に変換できる)の双方において、めっき反応への悪影響が少ないという利点がある。
【0014】
(3)前記めっき金属元素は少なくとも銅を含む。銅を含むめっき液としては銅めっき(銅のみ)、青銅めっき(銅とスズ)がある。
(4)前記めっき排液のpHは2以下である。めっきに供される金属イオンは硫酸塩などの強酸と共に用いられるため、めっき排液も強酸であり、そのまま処理ができれば処理の手間が必要無くなると共に、再生されためっき液を再利用することも容易になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のめっき排液の再生方法は上述の構成をもつことにより、複数の金属イオンを含むめっき排液からFeイオンを簡単に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のめっき液の再生方法について実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。本実施形態のめっき液の再生方法は鉄を主成分とする材料(鉄鋼)から形成される被めっき部材に対して銅めっき(浸漬めっき)を行った後に生じるめっき排液から再度、めっきを行うことができるめっき液を再生する方法である。めっき液にはCuイオンが含まれており、対イオンとしては硫酸イオンを含む。また、Snなどの元素(Feよりも貴な元素)のイオンをCuイオンと共に含有させることもできる。SnはCuと共に被めっき部材にめっきされる(青銅めっき)。このめっき液を用いて行われるのが本実施形態のめっき方法及びめっき装置である。また、Cuイオンの他、Ni、Zn、Co、Mnを含むめっき液から得られるめっき排液についても同様の操作によりFeイオンを除去することができる。また、本実施形態においては浸漬めっきにてめっきを行うときのめっき排液やめっき液について説明を行うが、いわゆる無電解めっきと称されるめっき方法におけるめっき液の再生方法に適用可能である。無電解めっきであってもめっき初期などにおいては浸漬めっきに類似した反応が進行し、結果、めっき排液中に被めっき部材(鉄)が溶解することになるため、溶解した鉄イオンを除去する要求がある。すなわち、本再生方法が適用されるめっきとしてはめっき排液中に鉄イオンが溶解するものである。
【0017】
本実施形態のめっき液の再生方法は、めっき排液からめっき液を再生するためにフィチン酸(myo-イノシトール-1,2,3,4,5,6-六リン酸)を添加して(添加工程)めっき排液に含まれるFeイオンをキレートすることにより分離する方法である。フィチン酸にてキレートされたFeイオンは不溶化するために分離可能である(除去工程)。具体的な分離方法としてはろ過、沈降(自然沈降、遠心分離など)などの常法が挙げられる。
【0018】
フィチン酸によるキレート反応は速やかに進行するため、フィチン酸を添加した後、沈殿の除去はすぐに行うことができる。分離したフィチン酸にてキレートされたFeイオンは水分を含んでいるが、分離した液体はそのまま再生に利用し、分離した沈殿について含有する水分を分離する工程を設けることができる。沈殿に対して凝集剤を添加することでフィチン酸にてキレートされた沈殿物に含まれる水分(及びめっきに用いられる金属イオン)の量を減少することができる。
【0019】
フィチン酸の添加量としてはめっき排液に含まれるFeイオンの量に応じて決定できる。再生されためっき液に含んでも良いFeイオンの量に応じてフィチン酸の量が決定される。例えばFeイオンが少々残存しても良い場合にはFeイオンの量と同じか僅かに少ない量に相当する量のフィチン酸を添加し、確実にFeイオンを除去したい場合には過剰量のフィチン酸を添加する。Feイオンの量の測定はFeイオンの量の測定(ICP発光分析、ICP−MS分析、比色分析など)、理論値(めっきの厚みと被めっき部材の表面積などから算出。被めっき部材のめっき前後の質量変化などから算出)、経験値(めっきした被めっき部材の量に応じて推測する)を用いることができる。
【0020】
めっき排液中のFeイオンはフィチン酸にてキレートし易くするために3価に酸化することが望ましい。3価への酸化方法としては過酸化水素の添加により行うことが望ましい。酸化剤の添加量としては特に限定しないが、Feイオンの量に応じて添加するか、Feイオン以外の金属イオンへの影響が軽微又は内容であれば過剰量を添加することができる。
【0021】
Feイオンを除去した再生しためっき液はそのまま、又は、必要な量の金属イオン(銅めっきであれば銅イオン、青銅めっきであれば銅イオンとスズイオン、その他のめっきであれば対応する金属イオン)を添加する。金属イオンの添加は何らかの塩(硫酸塩など)にて添加できる。
めっき排液のpHは特に調整する必要がなく、例えばpH1などの強酸性のめっき排液をそのまま処理できる。
【0022】
(実施例)
(試験1)
めっき排液100Lについてフィチン酸にて処理を行い65Lの再生めっき液を得た。処理前のめっき排液中には錫が0.44g/L、銅が5.65g/L、鉄が8.67g/Lの濃度で含まれていた。
このめっき排液に35%過酸化水素水(1502.6g:含有する鉄に相当する計算値では1508.6g)を添加して撹拌・混合した後、計算値(理論値)よりも僅かに少ない50%フィチン酸水溶液(5376.0g:含有する鉄に相当する計算値では5635.5g)を添加した後、ろ過により分離した。
【0023】
結果、得られた再生めっき液には錫が0g/L、銅が5.42g/L、鉄が1.87g/Lの濃度で含まれていた。
この結果から明らかなことは、理論値よりも少ないフィチン酸を添加すると、銅の含有量の低下は僅かなものであって、鉄の除去が優先されることが分かった。ただ、理論値よりも少ない量の添加であるため、鉄が再生めっき液中に残存した。
【0025】
(試験2)
試験1に相当する方法にて再生しためっき液をめっきに供し、得られためっき排液75Lについてフィチン酸にて処理を行い50Lの再生めっき液を得た。処理前のめっき排液中には錫が0.44g/L、銅が5.26g/L、鉄が10.98g/Lの濃度で含まれていた。
このめっき排液に35%過酸化水素水(1713.2g:含有する鉄に相当する計算値では1432.9g)を添加して撹拌・混合した後、計算値(理論値)よりも僅かに多い50%フィチン酸水溶液(5565.8g:含有する鉄に相当する計算値では5352.75g)を添加した後、ろ過により分離した。
【0026】
結果、得られた再生めっき液には錫が0g/L、銅が4.11g/L、鉄が0.17g/Lの濃度で含まれていた。
この結果から明らかなことは、理論値よりも多いフィチン酸を添加すると、銅の含有量の低下は少しあるものの、鉄が殆ど除去されることが分かった。また、その他、分析した成分の変化は僅かなものであり、本発明の再生方法を繰り返していっても不要な成分の蓄積は生じないことが分かった。
【0028】
(試験3)
フィチン酸に代えてEDTA、クエン酸、DTPAを用いて試験を行った。キレートされたFeイオンはそのまま溶解しており、ろ過などの固液分離法では分離が困難であった。また強酸性下ではキレートしてもすぐに分離してしまうため、キレート能力を発現できない。従って、Feイオンを錯体化すること自体が困難であった。
【0029】
(考察)
試験1〜3の結果から明らかなように、めっき排液からのめっき液の再生は繰り返し行うことができることが分かった。減少した銅などの金属は硫酸塩として添加することによりめっきにそのまま再利用可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のめっき排液の再生方法は上述の構成をもつことにより、複数の金属イオンを含むめっき排液からFeイオンを簡単に除去することができる。