【文献】
Int. J. Biol. Macromol.,1999年,Vol. 25,pp. 3-19
【文献】
Microbiology,1995年,Vol. 141,pp. 2339-2350
【文献】
Microbiology,1995年,Vol. 141,pp. 2553-2559
【文献】
Appl. Biochem. Biotechnol.,1998年,Vol. 70-72,pp. 341-352
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリヒドロキシ酪酸合成に関与するタンパク質をコードするphaC遺伝子を、変異株がポリヒドロキシ酪酸を産生することなくスフィンガンを産生するように、選択的に変異させたあるいは欠失させた、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属の変異株を発酵させるプロセスを含み、PHB欠失スフィンガンがS−657である、PHB欠失スフィンガンの製造方法。
a)ポリヒドロキシ酪酸合成に関与するタンパク質をコードするphaC遺伝子を、変異株がポリヒドロキシ酪酸を産生することなくスフィンガンを産生するように、選択的に変異させたあるいは欠失させた、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属の変異株を発酵させるプロセスによって調製されたPHB欠失スフィンガンの水溶液を30℃から70℃の清澄化温度に加熱するステップと、
b)前記スフィンガンの水溶液を、キレート剤、苛性剤、酸化剤、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の清澄化剤で処理するステップと、
c)前記スフィンガンの水溶液を酵素で処理するステップと
を含む清澄化されたスフィンガン溶液を調製する方法により得られる清澄化されたスフィンガン溶液から、
スフィンガンを単離するプロセスを含み、前記清澄化されたスフィンガンがS−657である、清澄化されたスフィンガンの製造方法。
a)ポリヒドロキシ酪酸合成に関与するタンパク質をコードするphaC遺伝子を、変異株がポリヒドロキシ酪酸を産生することなくスフィンガンを産生するように、選択的に変異させたあるいは欠失させた、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属の変異株を発酵させるプロセスによって調製されたPHB欠失スフィンガンの水溶液を30℃から70℃の清澄化温度に加熱するステップと、
b)キレート剤で処理するステップと、
c)リゾチーム酵素で処理するステップと、
d)苛性剤または酸化剤で処理するステップと、
e)プロテアーゼ酵素で処理するステップと
を含む清澄化されたスフィンガン溶液を調製する方法により得られる清澄化されたスフィンガン溶液から、
スフィンガンを単離するプロセスを含み、前記清澄化されたスフィンガンがS−657である、清澄化されたスフィンガンの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】LaserGene(Madison,WI)によるDNA star MegAligns(登録商標)というソフトウェアを使用して並べた、Rizobium meliloti(U17227)(SEQ ID NO:1)、Alcaligenes eutrophus(J05003)(SEQ ID NO:2)、Acinetobacter種 RA3849株(L37761)(SEQ ID NO:3)、Rhodobacter spaeroides(L17049)(SEQ ID NO:4)、およびMethylobacterium extorquens(L07893)(SEQ ID NO:5)からのPHB合成酵素タンパク質の配列を示す。
【
図2】プラスミドpEBI中の408bp挿入断片の配列を示す(SEQ ID NO:6)。
【
図3】スフィンゴモナス・エロデアのphaC遺伝子中の内部欠失をクローン化し、構築するために使用するステップの模式図である。
【
図4】phaC領域の配列を示す(SEQ ID NO:7)。
【
図5】変異させたphaC遺伝子の、スフィンゴモナス・エロデア染色体への相同的組換え、および染色体中に無処置のまたは変異させたphaC遺伝子を残すようにした、組み込まれたベクターの切除の概略図である。
【
図7】phaC欠失を含むベクターの、スフィンゴモナス・エロデア染色体への組込みを説明する概略図である。
【
図8】10L発酵物からのブロスサンプルを培養することによって求められた、細胞数のグラフ表示である。
【
図9】EcoRIを用いて消化させ、ATCC 53159のphaC遺伝子に対するプローブとハイブリダイズさせたスフィンゴモナスゲノムDNA調製物のサザンハイブリダイゼーションを示す。
【
図10】ATCC 53159のphaC遺伝子、および隣接領域のDNA配列である(SEQ ID NO:13)。
【
図11】phaC領域の遺伝子地図およびPCR増幅のためのプライマーを示す。
【
図12】PCRを用いて、phaCに隣接する領域のみを含み、phaC遺伝子全体を欠く生成物を構築するクローニング戦略を示す。
【
図13】透過率に対する水酸化カリウム濃度の効果のグラフである。
【
図14】ゲル強度に対する水酸化カリウム濃度の効果のグラフである。
【
図15】透過率に対するカルゴン(Cargon)濃度の効果のグラフである。
【
図16】ゲル強度に対するカルゴン濃度の効果のグラフである。
【0017】
本発明の別の実施形態は、複数のスフィンゴモナス種のDNAから、すなわちATCC 31461および53159から単離した、PHB合成酵素のタンパク質をコードする単離されたDNA配列を対象とする。
【0018】
本発明の別の実施形態は、スフィンゴモナス属の変異株を発酵させるステップと、発酵ブロスから得たPHB欠失スフィンガンを清澄化するステップとを含む、PHB欠失清澄化されたスフィンガンを調製する方法を対象とする。
【0019】
本発明のさらに別の実施形態は、スフィンガン発酵ブロスを約30℃から約70℃の清澄化温度に加熱するステップと、スフィンガン発酵ブロスを清澄化剤で処理し、次いでこの発酵ブロスを酵素で処理するステップとを含む、清澄化されたスフィンガン溶液を調製する方法を対象とする。本発明のいっそうさらなる別の実施形態は、スフィンガン発酵ブロスを約30℃から約70℃の清澄化温度に加熱するステップ、この発酵ブロスをキレート剤で処理するステップ、この発酵ブロスをリゾチーム酵素で処理するステップ、この発酵ブロスを苛性剤または酸化剤で処理するステップ、およびこの発酵ブロスをプロテアーゼ酵素で処理するステップを含む、清澄化されたスフィンガン溶液を調製する方法を対象とする。
【0020】
本発明の別の実施形態は、清澄化された、PHB欠失、高ゲル強度の(天然の)高アシルゲランの調製を可能にする、スフィンゴモナス・エロデアの変異株を対象とする。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態は、PHB欠失および/または清澄化されたスフィンガンを含む食品または工業製品を対象とする。
【0022】
図1は、LaserGene(Madison,WI)によるDNA star MegAligns(登録商標)というソフトウェアを使用して並べた、Rizobium meliloti(U17227)(SEQ ID NO:1)、Alcaligenes eutrophus(J05003)(SEQ ID NO:2)、Acinetobacter種 RA3849株(L37761)(SEQ ID NO:3)、Rhodobacter spaeroides(L17049)(SEQ ID NO:4)、およびMethylobacterium extorquens(L07893)(SEQ ID NO:5)からのPHB合成酵素タンパク質の配列を示す。中程度の(moderate)縮重がある保存領域として領域IおよびIIを選んだが、それは約400塩基対(「bp」)のポリメラーゼ連鎖反応法(「PCR」)産物をもたらす位置にあった。
図2は、プラスミドpEBI中の408bp挿入断片の配列を示す(SEQ ID NO:6)。
図3は、スフィンゴモナス・エロデアのphaC遺伝子中の内部欠失をクローン化し、構築するために使用するステップの模式図である。
図4は、phaC領域の配列を示す(SEQ ID NO:7)。PstIに対する制限酵素部位(CTGCAG)には下線を引いてある。プライマー結合部位を、矢印で示す。phaC遺伝子の部分は、最初のPstI部位からTGA終止コドンまで延びている(太字)。変異株で欠失している塩基は、字間をあけて並べてある。XbaI部位(TCTAGA、二重下線)を、本文中で述べたように、変異株の欠失領域と置換する。
図5は、変異させたphaC遺伝子の、スフィンゴモナス・エロデア染色体への相同的組換え、および染色体中に無処置のまたは変異させたphaC遺伝子を残すようにした、組み込まれたベクターの切除の概略図である。
図6は、プラスミドpLO2の説明図である。
図7は、phaC欠失を含むベクターの、スフィンゴモナス・エロデア染色体への組込みを説明する概略図である。
図8は、10L発酵物からのブロスサンプルを培養することによって求められた、細胞数のグラフ表示である。
図9は、EcoRIを用いて消化させ、ATCC 53159のphaC遺伝子に対するプローブとハイブリダイズさせたスフィンゴモナスゲノムDNA調製物のサザンハイブリダイゼーションを示す。レーン1および2は、サイズマーカーを含む(それぞれ、λ HindIII、λ HindIII+EcoRI)。レーン3〜6は、スフィンゴモナス種のATCC 53159、31461、31555、および31961株からのゲノムDNA消化物を含む。
図10は、ATCC 53159のphaC遺伝子、および隣接領域のDNA配列である(SEQ ID NO:13)。BamHI(ggatc)、EcoRI(gaattc)、およびNotI(gcggccgc)に対する制限酵素部位には下線、プライマー重複部位には二重下線を引いてある。プライマー部位を矢印で示す。phaC遺伝子は、太字で強調してある。
図11は、phaC領域の遺伝子地図およびPCR増幅のためのプライマーを示す。
図12は、PCRを用いて、phaCに隣接する領域のみを含み、phaC遺伝子全体を欠く生成物を構築するクローニング戦略を示す。
図13は、透過率に対する水酸化カリウム濃度の効果のグラフである。
図14は、ゲル強度に対する水酸化カリウム濃度の効果のグラフである。
図15は、透過率に対するカルゴン(Cargon)濃度の効果のグラフである。
図16は、ゲル強度に対するカルゴン濃度の効果のグラフである。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、PHB合成を不活性化させる無発現変異により内部の貯蔵高分子であるポリヒドロキシ酪酸(「PHB」)を合成する能力に欠失があるスフィンゴモナス属の、遺伝子操作株に関する。本発明によるPHB欠陥性のスフィンゴモナス変異株は、当分野でよく知られた比濁法によって定性的に決定されるところの、PHBを含まない、商業的に有用なスフィンガンの合成が可能である(以下の実施例4、および米国特許第5,300,429号(その内容を参照により組み込む)を参照のこと)。PHBは、スフィンゴモナスにおいて、最適濃度のスフィンガンを産生する条件と同様の、高炭素および低窒素の条件下で細胞内に蓄積する貯蔵高分子である。
【0024】
PHBの合成は、いくつかの生物で研究されており、少なくとも3種のPHB合成遺伝子が同定されている(Anderson,A,J.およびE.A.Dawes、Microbiol.Rev 54:450〜72(1990年))。PHBは、アセチル補酵素A(CoA)から、3つのステップで誘導される。第1のステップは、3−ケトチオラーゼ(phaA)によって触媒され、アセトアセチルCoAが形成される。第2のステップでは、酵素アセトアセチルCoAレダクターゼ(phaB)が、アセトアセチルCoAを、β−ヒドロキシブチリルCoAに変換し、それが最終的に、第3のステップでPHB合成酵素(phaC)によって重合化され、PHBが形成される。ポリヒドロキシ酪酸合成に必要とされるタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子、すなわち、phaA、phaB、またはphaCを、選択的に変異させるあるいは欠失させる変異により、PHB欠失スフィンゴモナス株を得ることが可能である。
【0025】
例えば、本明細書に記載するスフィンゴモナス変異株は、少なくとも次の2種の変異の結果である。(1)PHBの産生をブロックし、スフィンガン産生を減少させるという予期せぬ結果を伴う、PHB合成酵素をコードするphaC遺伝子の欠失、または同遺伝子内の欠失、(2)スフィンガン産生を回復させる自然突然変異。本発明はまた、スフィンゴモナス変異株の、プラスミドDNAを取り込む能力を増進させる自然突然変異、すなわちスフィンゴモナス・エロデアにおけるS−60wtc変異を含む、所望により行う事前変異も提供する。
【0026】
さらに、本発明は、キレート剤、苛性剤、または酸化剤、ならびに細胞溶解およびタンパク質消化のための酵素を使用して、スフィンゴモナス変異株によって産生される、PHB欠失ゲランおよび他のスフィンガンを清澄化する方法を開示する。本発明はまた、PHB欠失および/または清澄化されたスフィンガンを含む食品または工業製品も開示する。
【0027】
本発明の詳細を示すために、スフィンゴモナス・エロデアおよびスフィンゴモナス種 ATCC 53159の遺伝子操作に関与するステップを説明する。しかし、以下に言及するように、本発明は、スフィンゴモナス・エロデアおよびスフィンゴモナス種 ATCC 53159の操作に限定されず、またPHBの合成に必要とされるタンパク質をコードするいかなる特定の遺伝子の操作にも限定されない。
【0028】
タンパク質をコードするphaCの2つの保存領域から設計された縮重プライマーを用いるPCRによって、S.エロデア株、ATCC 31461、phaC遺伝子の内部フラグメントを得た。
図2に示すこのフラグメントのヌクレオチド配列を利用して、phaC遺伝子および3’隣接配列の大きな部分の単離を可能にする逆PCR(inverse PCR)のためのプライマーを設計した。一般に、逆PCRの技術は、配向がその本来の向きとは逆方向である、当該のヌクレオチドの隣接領域をクローン化する(
図3参照)。本来の配向の逆PCRフラグメントを配列するクローン化プロセスにより、232塩基対(「bp」)の欠失がもたらされた。このフラグメントを染色体のphaC遺伝子と対立的に交換(allelic exchange)し、S.エロデアにおけるPHB産生を失わせた。232bpの内部欠失により、ゲラン産生を減少させるという予期せぬ効果がもたらされた。
【0029】
ゲラン産生の回復を伴う自然発生的誘導体を、大規模増殖させたS.elodea変異株から単離した。本発明のPHB欠陥性誘導体は、外来DNAを含まず、および天然の染色体からの232bpの欠失、および特徴付けられていない自然突然変異を含む。PDG−1およびPDG−3株は、American Type Culture Collectionに寄託され、それぞれATCC No. 、ATCC No. と名付けられている。
【0030】
特定の分子生物学技術、すなわちスフィンゴモナス変異株を産生するために使用する逆PCRおよび欠失変異は、PHB産生では不可欠ではない。スフィンゴモナス変異株を産生するために通常の分子生物学技術を使用することは、当分野の技術者の知るところである。異なるスフィンゴモナス株においてphaC類似の遺伝子を変異させるために使用できる他の有用な分子生物学技術には、これだけには限らないが、トランスポゾン変異誘発、点変異、および挿入配列(insertion element)変異がある。
【0031】
phaC遺伝子は、PHB合成経路における唯一の遺伝子である。したがって、PHB合成経路に関与する他の遺伝子を選択的に変異、または欠失させることによって、所望の表現型をもつ、すなわちPHBの産生に欠失があるスフィンゴモナス変異株を産生することが可能である。所望の表現型を得るために選択的に変異、または欠失させることができる当該の遺伝子には、これだけには限らないが、phaA(3−ケトチオラーゼ)およびphaB(アセトアセチルCoAレダクターゼ)がある。
【0032】
スフィンゴモナス変異株を作り出した後、それを発酵ブロスとして知られる水溶液中で、増殖または発酵させて、スフィンガンがカプセル多糖として分泌されるようにする。変異株としてのPHB欠失スフィンゴモナス変異株を発酵させた後、当分野でよく知られた技術を用いて、このブロスを低温殺菌し、スフィンガンをイソプロパノールなどのアルコールで沈殿させることによって、スフィンガンを調製することができる。
【0033】
好ましくは、発酵後、スフィンガンを清澄化し、発酵ブロス環境の一部である懸濁した固形物および細胞片から単離し、PHB欠失清澄化されたスフィンガンを得ることができる。さらに、本発明の清澄化プロセスは、上記のPHB欠陥性スフィンガン以外にもいかなるスフィンガン株にも適用することができる。本明細書に述べるように、清澄化プロセスは、発酵ブロスを加熱すること、および発酵ブロスを1種または複数のキレート剤、1種または複数の苛性剤あるいは酸化剤、あるいはそれらの混合物で処理し、次いでリゾチーム酵素および/またはいずれかのプロテアーゼ酵素で処理することを含む。
【0034】
特にゲランについては、本発明の清澄化プロセスと組み合わせた、PHB産生に欠失があるS.エロデア変異株は、高アシル型の清澄化ゲランを産生できるようになる。この変異株およびプロセスから得られるゲランは、デザートのゼリー、菓子、飲料などを製造するのに有用な、高い透明度と、高いゲル強度を示す。
【0035】
以下で「第1のプロトコル」と呼ぶ本発明の一実施形態では、スフィンガン溶液を所望により1種または複数の界面活性剤、1種または複数のキレート剤、1種または複数の苛性剤あるいは酸化剤、あるいはそれらの混合物で処理すること、およびそれに続いて1種または複数のいずれかのリゾチーム酵素および/または1種または複数のいずれかのプロテアーゼ酵素で処理することを含むプロセスによって、スフィンガンの水溶液を清澄化することができる。
【0036】
以下で「第2のプロトコル」と呼ぶ本発明の別の実施形態では、スフィンガン溶液を1種または複数のキレート剤、続いて1種または複数のいずれかのリゾチーム酵素、続いて1種または複数の苛性剤あるいは酸化剤、続いて1種または複数のいずれかのプロテアーゼ酵素またはプロテアーゼ酵素の混合物で処理することを含むプロセスによって、スフィンガンの水溶液を清澄化することができる。
【0037】
第1のプロトコルでは、本発明のプロセスを、以下のように段階的に実施することができる。スフィンガン溶液を、最初に1種または複数のキレート剤、所望により1種または複数の界面活性剤、1種または複数の苛性剤あるいは酸化剤あるいはそれらの混合物で処理し、続いて1種または複数のいずれかのリゾチーム酵素および/またはいずれかのプロテアーゼ酵素で処理する。第2のプロトコルでは、次の段階的プロセスを実施することができる。スフィンガン溶液を、最初に1種または複数のキレート剤、続いて1種または複数のいずれかのリゾチーム酵素、続いて1種または複数の苛性剤あるいは酸化剤で処理し、続いて1種または複数のいずれかのプロテアーゼ酵素で処理するという順序である。
【0038】
有利には、本明細書に述べる清澄化されたスフィンガン溶液を生成する方法は、望むなら、適当な希釈の後に、さらに(低温殺菌および沈殿以外に)化学的または物理的処理をすることなく使用できるスフィンガン溶液を提供する。いくつかの用途では、通常の技術に従って、ブロスを低温殺菌すること、ブロスを所望のpHに調整すること、およびスフィンガンをアルコール(すなわちイソプロピルアルコール)で沈殿させることによって、スフィンガンを、これら清澄化されたスフィンガンブロスから単離することができる。
【0039】
このスフィンガンを水に再水和および溶解することによって、実質上透明なスフィンガン溶液がもたらされる。本発明による実質上透明なスフィンガン溶液(1% w/w)は、光線透過率が60%より高く、好ましくは70%より高く、もっとも好ましくは80%より高い。光線透過率は、通常の技術および装置(例えば、市販品として利用できる分光光度計)を用いて、可視スペクトルのいかなる波長でも測定することができる。光線透過率は通常、約600nm〜約650nmの波長で測定する。光線透過率は、未処理のブロス、部分的に処理したブロス(例えば、1種または複数のキレート剤、1種または複数の苛性剤あるいは酸化剤、キレート剤/苛性剤あるいはキレート剤/酸化剤の混合物のみで処理したブロス、あるいは、リゾチームおよび/またはプロテアーゼ酵素のみで処理したブロス)、処理したブロス、あるいは再構成したスフィンガン溶液など、いくつかのタイプのスフィンガン溶液について求めることができる。光線透過率が60%より高い、本明細書に述べる実質上透明な溶液は、本発明による方法で処理したブロスから単離した、スフィンガンを約1重量%含む水溶液である。
【0040】
本発明のプロセスを用いて清澄化することができるスフィンガン溶液には、栄養培地でスフィンガンを産生する微生物を発酵させることによって得られるスフィンガンを含む完全な発酵ブロス、単離したスフィンガンを水性の溶媒に加えることによって得られる溶液、および部分的に精製したスフィンガン溶液がある。本発明のプロセスで有用な、望ましくない発酵固形物を含むスフィンガンの水溶液は、溶液の総重量に対して約0.01重量%〜約10重量%のスフィンガンを含むことができる。本発明を実施する際には、いかなる既知のスフィンガンを含むいかなる水溶液も使用することができる。
【0041】
本発明のいずれかの清澄化プロセスの第1のステップは、ジャケット付きタンク中での温度調節、直接蒸気噴射などの通常の技術によって、スフィンガン溶液を清澄化温度に加熱することを含む。直接蒸気噴射は、加熱時間を最小限にするために好ましい。清澄化温度は、約30℃から約70℃、好ましくは約50℃から約60℃の範囲である。スフィンガン溶液を所望の温度に加熱するために必要な時間の長さは、処理するスフィンガン溶液のサイズおよび体積に応じてかなり変わってくる。例えば、体積が小さい(例えば50ml)のスフィンガン溶液の温度を室温から約60℃まで上昇させるためには、数分しかかからないのに対し、(例えば、バッチ処理で存在する可能性がある)40,000リットルの溶液の温度を同様に上昇させるためには、数時間かかる可能性がある。
【0042】
本発明のプロセスの次のステップは、2つのプロトコルのうちの1つに従って、スフィンガン水溶液を、少なくとも1種のキレート剤、少なくとも1種の苛性剤または酸化剤、あるいはそれらの混合物から選択される清澄化剤で処理することを含む。あるいは、スフィンガンブロスを上記の清澄化温度に加熱するのと同時に、清澄化剤を加えてもよい。
【0043】
第1のプロトコルでは、次のステップは、1種または複数の苛性剤または酸化剤が存在するスフィンガン溶液に1種または複数のキレート剤を加えることである。通常、1種または複数のキレート剤、および1種または複数の苛性/酸化剤への接触時間は、それぞれ約0.5時間から約2時間ずつ、好ましくは1種または複数のキレート剤に1時間、1種または複数の苛性または酸化剤に約0.5から約1.0時間の範囲である。通常、1種または複数の苛性剤または酸化剤を、約0g/Lから約2g/L、好ましくは約0.5g/Lから約1.5g/Lの範囲の濃度で、スフィンガン溶液に加える。通常、1種または複数のキレート剤を、約0parts per million(「ppm」)〜約3000ppm、好ましくは約1000ppm〜約2000ppmの範囲の濃度でスフィンガン溶液に加える。
【0044】
第1のプロトコルでは、清澄化剤で処理した後、スフィンガンブロスを、酵素処理のステップにかける。このステップでは、酵素リゾチームおよび/またはプロテアーゼを、スフィンガンブロスに、別々にまたは同時に加える。通常、これらの酵素は、スフィンガンブロスに、少なくともそれぞれ0.5時間から8時間ずつ、好ましくは少なくともそれぞれ1時間ずつ、最も好ましくは少なくともそれぞれ2時間ずつの範囲の時間接触させる。通常のリゾチーム濃度は、約11,000MCG単位/Lから約44,000MCG単位/L、好ましくは約20,000MCG単位/Lから約25,000MCG単位/Lの範囲であり、通常のプロテアーゼ濃度は、約65,000Delft単位/Lから約26,000Delft単位/L、好ましくは約100,000Delft単位/Lから約150,000Delft単位/Lの範囲である。本出願では、「MCG単位」とは、Genencor International Inc.によって記載されるように、pH6.6かつ37℃で、参照基準と比較したMicrococcus lysodeikticusの溶解率を意味し、同様に、用語「Delft単位」とは、販売元であるGenencorによって提供される溶液中にある場合の吸光率(rate of extinction)に関する特異的分析結果を意味する。
【0045】
酵素処理ステップで使用するこれらの酵素は、固形状の細胞片を可溶性化合物に分解し、その結果、スフィンガン溶液の透過率が向上し、清澄化プロセスの助けとなる。このプロセスで使用するのに適したプロテアーゼ酵素は、細菌、真菌、または植物が起源の酸性、中性、またはアルカリ性のプロテアーゼである。本発明のプロセスで有用な酸性のプロテアーゼ酵素の例には、これだけには限らないが、A.ニガー(A.niger)などアスペルギルス(Aspergillus)属の微生物によって産生されるプロテアーゼがある。本発明のプロセスで有用な中性のプロテアーゼ酵素には、これだけには限らないが、バチルス・リケニホルミス(Bacillus amyloliquifaciens)などのプロテアーゼがある。本発明のプロセスで有用なアルカリ性のプロテアーゼ酵素には、これだけには限らないが、B.ズブチリス(B.subtilis)、B.リケニホルミス(B.licheniformis)およびB.プミリス(B.pumilis)などバチルス(Bacillus)属の微生物、ならびにS.フラジア(S.fradiae)、S.グリセウス(S.griseus)およびS.レクツス(S.rectus)など、ストレプトマイセス(Streptomyces)によって合成されるプロテアーゼ、ならびにサブチロペプチダーゼ(subtilopeptidase)AおよびサブチロペプチダーゼBなどのプロテアーゼを含めて、サブチリシン(subtilisin)Novo、サブチリシンCarsbergなどサブチリシンから得られるプロテアーゼがある。このプロセスで使用するのに適したリゾチームには、Genencor International Inc.(Rochester,New York)からのMultifect(登録商標)リゾチーム、あるいは植物、動物、または微生物を起源として得ることができるいずれかのリゾチームがある。本発明で使用するどのプロテアーゼ酵素またはリゾチームの起源も、重大ではない。これらの酵素およびこれらの酵素を得る方法は、当技術分野でよく知られている。
【0046】
上の第1のプロトコルで述べたように、酵素処理(リゾチーム酵素および/またはプロテアーゼ酵素による処理)を含む酵素は、同時に加えても別々に加えてもよい。同時処理は、処理の間、両方の酵素がスフィンガン溶液に存在するという条件で、プロテアーゼ酵素およびリゾチーム酵素をスフィンガン溶液にいかなる順序で、いかなる時間加えてもよいことを意味する。同時に加える場合、本発明の酵素処理プロセスは、リゾチーム酵素およびプロテアーゼ酵素の両方が活性であり、所望の酵素作用をもたらすような条件下で行う。この実施形態の同時酵素処理プロセスは、約30℃から約70℃の温度、約5から約9、好ましく約6から8のpHで行うことができる。この実施形態の特定の温度およびpH範囲は、使用する酵素に応じて異なる可能性があるのに対し、この同時実施形態では、リゾチーム酵素およびプロテアーゼ酵素(酸性、中性またはアルカリ性のプロテアーゼ)が、スフィンガン溶液を清澄化するために許容できる活性レベルを示すように、本発明のプロセスを比較的穏やかな温度で、ほぼ中性の条件で行う。
【0047】
いずれかのリゾチームおよび/またはプロテアーゼ酵素をスフィンガン溶液に別々に加えるようにして、酵素処理を行うことが好ましい。各酵素を、それぞれの最適pH条件下、すなわちリゾチームでは酸性から中性pH範囲(約3から約7.5のpH範囲)、プロテアーゼでは中性から塩基性pH範囲(約6.5から約9のpH範囲)でスフィンガン溶液に別々に加えることが最も好ましい。異なるリゾチームおよびプロテアーゼ酵素では、最適清澄化活性を示す温度およびpHは、異なる可能性がある。さらに、酵素処理で使用するリゾチーム酵素とプロテアーゼ酵素との選択をしなければならない場合、酵素処理が1種または複数のプロテアーゼ酵素を含むことが好ましい。
【0048】
第2のプロトコルでは、キレートステップの後、1種または複数のいずれかのリゾチーム酵素での酵素処理、それに続いて1種または複数の苛性または酸化剤処理、続いて1種または複数のいずれかのプロテアーゼ酵素処理を行う。上で例示したように、酵素処理は、1種または複数のリゾチーム酵素と1種または複数のプロテアーゼ酵素の2つに分かれる。二者択一的なこの順序づけは、1種または複数のいずれかのリゾチーム酵素をその好ましい中性から酸性pH条件下で作用できることを可能にし、1種または複数のいずれかのプロテアーゼ酵素をその好ましい中性から塩基性pH条件下で作用できることを可能にする。第2のプロトコルを実施する際に、上記の第1のプロトコルと同様のリゾチーム酵素およびプロテアーゼ酵素およびキレート剤、界面活性剤、ならびに苛性剤または酸化剤を使用することができる。
【0049】
スフィンガン溶液の攪拌は必須ではないが、ふさわしければ、固形物の不適切な沈殿を防止し酵素との接触を促進するために、酵素のスフィンガン溶液を穏やかにまたは定期的にかき回すまたはかき混ぜる。
【0050】
本発明のプロセスで使用するのに適したキレート剤は、金属イオンとともに多歯状突起を有する(poly−dentate)複合体を形成することによってスフィンガン溶液中で多価の金属イオン(例えばMg
+2、Ca
+2など)を封鎖することができ、金属イオンとともに沈殿物を形成するあるいは金属イオンを吸着する化合物または組成物である。キレート剤は、水または水−アルコールに溶ける化合物または組成物であり、アルカリ金属またはアルカリ土類の有機酸および/または無機酸の塩、あるいは塩基性(アミンを含有する)有機化合物の有機/無機酸塩、ならびに有機酸および/または無機酸自体あるいは塩基性化合物自体であることが好ましい。本発明のプロセスで有用な他のキレート剤は、陽イオン交換樹脂および炭酸塩および炭酸塩である。本発明のプロセスで特に有用な、塩の化合物および組成物には、エチレンジアミン四酢酸、リン酸、メタリン酸、炭酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、グルタミン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、糖酸、エチレングリコール−bis−(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA)、エチレンジアミン、2,3−ジアミノブタン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、トリアミノトリエチルアミンなどの塩がある。有用な塩として、適当な、上記の酸の一、二、三および/または四金属塩、ならびに上記の塩基の一、二、三酸塩を挙げることができる。好ましくは、本発明のプロセスで使用するキレート剤には、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、炭酸、メタリン酸、およびエチレンジアミンの塩を含む。有用なキレート剤の例には、これだけには限らないが、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二カリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、陽イオン交換樹脂、エチレンジアミン二塩酸、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミンリチウム塩、エチレンジアミンジヒドロヨウ素などの塩がある。キレート剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを使用することが、より好ましい。
【0051】
上記のプロトコルで述べたように、最終ゲラン生成物の透過率をさらに向上させるために、苛性剤、酸化剤、およびキレート剤と組み合わせて、場合によっては界面活性剤を使用することができる。本発明のプロセスで使用するのに適した界面活性剤は、親水性および疎水性物質(固体または液体)の存在下で、水性のエマルジョンを形成することができる化合物または組成物である。界面活性剤は、水または水−アルコールに溶ける化合物または組成物が好ましい。有用な界面活性剤の例には、これだけには限らないが、SDS、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween 80(登録商標)、ICI Americans,Inc.,Bridgewater,NJ)、これだけには限らないがSDS、レシチン、モノグリセリド、モノグリセリドの酒石酸エステル、(例えば一ナトリウム塩としての)リン酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、アセチル化モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、エトキシ化モノグリセリド、ソルビタンエステル、ポリソルベート、ポリグリセリンエステル、ショ糖エステル、ステアロイル乳酸ナトリウム、プロピレングリコールエステルなどがある。
【0052】
所望により界面活性剤を、1種または複数のキレート剤、あるいは1種または複数の苛性剤または酸化剤で処理する間のいずれかの時期に、スフィンガンブロスに加え、それぞれ約0.5時間から約8時間、好ましくは約2時間の時間接触させる。通常、界面活性剤を、スフィンガン溶液に、約0.0g/Lから約3.0g/L、好ましくは約0.1g/Lから約1.0g/Lの範囲の濃度で加える。通常、1種または複数の界面活性剤を、約0parts per million(「ppm」)から約3000ppm、好ましくは約300ppmから約1000ppmの範囲の濃度でスフィンガン溶液に加える。
【0053】
本発明のプロセスで使用するのに適した苛性剤には、これだけには限らないが、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウムなどがある。水酸化カリウムが好ましい苛性剤である。あるいは、酸化剤を、苛性剤の代わりに使用することもできる。本発明の清澄化プロセスで使用できる酸化剤には、次亜塩素酸ナトリウムまたは他の次亜塩素酸塩、二酸化塩素、過酸化水素、過酢酸、オゾン、および他の当技術分野でよく知られた酸化剤がある。本発明では、好ましい酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウムである。
【0054】
スフィンガン溶液を1種または複数のキレート剤、1種または複数の界面活性剤、1種または複数の苛性剤または酸化剤あるいはそれらの混合物で処理することによってもたらされる清澄化の程度は、酵素濃度またはその後の酵素処理を完了させるために必要とされる時間に影響を与える可能性があることに留意すべきである。例えば、このプロセスで使用する1種または複数のキレート剤、1種または複数の界面活性剤、1種または複数の苛性剤または酸化剤あるいはそれらの混合物の量を増加させると、使用する酵素の量および/またはスフィンガン溶液の清澄化をもたらすのに必要な時間を減少させることができる。本明細書に記載する清澄化されたPHB欠失スフィンガンの産生を最適化するためには、1種または複数のキレート剤、1種または複数の界面活性剤、1種または複数の苛性剤または酸化剤あるいはそれらの混合物の濃度および処理時間、および/またはリゾチームおよび/またはプロテアーゼの濃度および処理時間とを調整し、またバランスをとって、スフィンガン溶液を得ることが好ましい。
【0055】
本明細書に記載するPHB欠失および/または清澄化されたスフィンガンを、様々な食料または工業用途で使用することができる。例えば、PHB欠失および/または清澄化された、天然の(高アシル)ゲランなどのスフィンガンを使用して、デザートのゼリー、菓子、ジャム、およびゼリー、飲料、フィルム、コーティングなどの食品の、味、感触、安定性および外観を向上させることができる。追加の例として、PHB欠失および/または清澄化された、S−657などのスフィンガンには、油田掘削またはセメントシステムなどの工業用途における流動学的モディファイアーとしての向上された有効性を見出すことができる。本発明の他のPHB欠失および/または清澄化されたスフィンガンにはまた、食品および工業の両方におけるより広い範囲の用途も見出されることとなるであろう。
【0056】
以下の実施例は、本発明の例示を提供するものであり、いずれにせよ本発明の範囲を限定するものと誤解されるべきものではない。
【0057】
実施例1
スフィンゴモナス・エロデアphaCフラグメントの作製
PHB合成酵素遺伝子の高度に保存された領域を同定するため、別種の生物からのPHB合成酵素配列を、National Center for Biotechnology Information(「NCBI」)Gene Bankから検索した。Rhizobium meliloti(gb:U17227)(SEQ ID NO:1)、Rhodobacter spaeroides(gb:L17049)(SEQ ID NO:4)、Methylobacterium extorquens(gb:07893)(SEQ ID NO:5)、Alcaligenes eutrophus(gb:J05003)(SEQ ID NO:2)、およびAcinetobacter種 RA3849株(gb:L37761)(SEQ ID NO:3)からの配列を選択し、研究した。選択したPHB合成酵素遺伝子のタンパク質配列を、
図1に並べて示した。保存領域の中で、領域I(R.melilotiのコドン411〜417)および領域II(R.melilotiのコドン535〜541)をそれらの位置および比較的低い縮重の程度に基づいて選択し、約408bpのPCR生成物を得た。
【0058】
縮重したPCRプライマーを設計し、保存されるタンパク質配列およびスフィンゴモナス・エロデア、ATCC 31461の明白なコドン選択に基づいた領域Iと領域IIの間の配列を増幅した。コドン選択は、Dr.Luis Ielpi(未刊)によって配列決定された、S.エロデア、ATCC 31461における細胞外多糖(exopolysaccharide)生合成酵素をコードする領域からの、ならびにS−88ゴムを産生する(Yamazaki他、J.Bacteriol.178:2676〜2687(1996年))密接に関連したスフィンゴモナスATCC 31554の細胞外多糖生合成酵素の完全な遺伝子クラスターからの、5つの遺伝子におけるコドン使用頻度から推論した。
【0059】
PHADG5(SEQ ID NO:9)と呼ばれるN−末端プライマーは、5’−AGTTクランプ領域(clamp region)、TCTAGA XbaI部位、および領域Iを標的にするTTC GAY CTS CTS TAY TGG AAY3’縮重ハイブリダイズ領域を含んだ。PHADG7(SEQ ID NO:10)と呼ばれるC−末端プライマーは、5’−GTATクランプ、ACTAGT SpeI部位、および領域IIを標的にするCCA III SGG CCA CCA GCT GCC縮重ハイブリダイズ領域を含んだ。SEQ ID NO:10では、「I」はイノシン、すなわち他のいかなる塩基、すなわちA、C、T、またはGとも適合性があるヌクレオチドを意味する。
【0060】
プライマーPHADG5(SEQ ID NO:9)およびPHADG7(SEQ ID NO:10)を、鋳型の働きをする非ムコイド株であるGps31からの染色体DNAと共に、PCR反応で利用した。Gps31は、S−60ゲランを産生しない変異株である。Taqポリメラーゼを、Clontech Laboratories,Inc(Palo Alto,CA)によるTaq Start(登録商標)抗体とともに使用することにより、100μlの反応体積中に各dNTP 2.5mM、MgCl
2 4mM、および各プライマー50ピコモルを用いるPCRのホットスタートが提供された。温度プログラムは、96℃で5分、次いで96℃で1分、58℃で1分、72℃で1分を30サイクル、次いで72℃で5分であり、その後4℃に冷却することによって反応を停止させた。このPCR反応により、予測された416bp(408bp+クランプ)サイズの単一のバンドが得られた。XbaIおよびSpeIを用いた消化の後、フラグメントをXbaIで消化させた、ウシ小腸アルカリホスファターゼ(calf intestinal alkaline phosphatase)(「CIAP」)で処理したpUC19ベクターにクローン化し、プラスミドpEB1を得た。両方の株からの408bp挿入断片のDNA配列(SEQ ID NO:6)を、
図2に示す。このフラグメントは、EcoRI、KpnI、およびPvuIIに対する制限部位を含む。他のPHB合成酵素タンパク質を用いた翻訳されたクローン化フラグメントのアラインメントにより、PHB合成酵素がクローン化されていることが示された。
【0061】
実施例2
逆PCRによるphaC欠失の構築
サザンハイブリダイゼーションを使用して、スフィンゴモナスS−60 phaC遺伝子のより大きなフラグメント、ただし逆PCRによって容易に再生するのにあまり大きすぎないもの、をもたらす適切な制限酵素を決定した。QIAGEN(登録商標)(Valencia,California)DNA精製キットに記載された方法に従って、Gps31から染色体DNAを単離した。pEB1でクローン化した408bp挿入断片(SEQ ID NO:6)から作成したプローブを用いたサザン分析では、S.エロデアDNAのPstI消化物において、408bp phaCフラグメント(SEQ ID NO:6)は、約2kbのフラグメント中にあることが示された。
【0062】
図2に示すように、408bp スフィンゴモナスS−60 phaCフラグメント(SEQ ID NO:6)の配列を用いて、外側を読むPCRプライマーを選択した。プライマーPHAC12(SEQ ID NO:11)は、クランプ5’GTTC、XbaI部位TCTAGA、およびハイブリダイズ領域GGC GCG ATC AGC TTG TTG TC3’をもち、タンパク質をコードするphaCのN末端側(toward)を読む。プライマーPHAC11(SEQ ID NO:12)は、クランプ5’GTTC、XbaI部位TCTAGA、およびハイブリダイズ領域GAG TCG CTC GAA TCC TTT GTC3’をもち、タンパク質をコードするphaCのC末端側(toward)を読む。S.elodea染色体DNAをPstIで消化し、DNA0.5μgを体積200μl中で結合させ、環状にさせた。直鎖状のDNA分子を作成するためにKpnI消化物を逆PCR反応において鋳型として使用して、
図3に示すように、408bp phaCフラグメント(SEQ ID NO:6)を隣接する領域の1.7kbフラグメントを作成した。
【0063】
この1.7kbフラグメントは、PstI末端では本来の配向と比較すると逆転した配向で結合した2つの隣接領域を含む。PstI部位の切断により、これらの隣接領域がほぼ同じサイズ、850bpと980bpであることが示された。このフラグメントを本来の配向に配向し直し、同時に、欠失した元の408bpクローンの大部分を有するフラグメントを作成するため、この1.7kbフラグメントをXbaIで消化させ、環状にさせるための希釈条件下でそれを結合させ、次いでPstIで消化させた。得られたフラグメントを、PstIで消化し、CIAP処理したpUC19でクローン化し、pEB4と名付けた。
【0064】
実施例3
phaCクローンの配列決定
pEB4中の1.7kb挿入断片を配列決定し、408bpフラグメント(SEQ ID NO:6)の配列と結合させた。結合させた1920bp DNA配列(SEQ ID NO:7)を、
図4に示す。この配列のPstI部位からTGA終止コドンまでの部分(塩基1〜2000)は、他のphaC遺伝子のカルボキシ側2/3と相同なタンパク質(SEQ ID NO:8)をコードする。配列アラインメントで、正確な遺伝子がクローン化されたことを確認した。
【0065】
このphaCクローンは、408bpセグメント内の232bpの欠失、およびXbaI部位に相当する6bp、TCTAGAの挿入があった。この欠失および挿入により、カルボキシ末端を改変し、塩基対1102に新規の終止コドンを導入する、フレームシフト変異が引き起こされた。
【0066】
実施例4
組込みベクターの構築および相同的組換えによるスフィンゴモナスへの導入
phaC欠失変異を、スフィンゴモナス・エロデアに移送するために、プラスミドの構築に適した宿主、例えば大腸菌(E.coli)中では複製することができるが、スフィンゴモナス中では複製することができない「自殺」プラスミドを使用した。スフィンゴモナスにおいて、このプラスミドによってコードされる抗生物質耐性について選択することにより、相同的組換えの結果としてプラスミドが染色体に組み込まれているコロニーが同定される。抗生物質耐性の喪失について選択することにより、
図5に図示される、変異の保持(すなわち、欠失)または野生型の遺伝子をもたらす可能性がある、複製された領域が完全に再結合したコロニーが同定される。欠失を有するクローンと野生型DNAをもつクローンの区別は、形質発現(PHB合成)によって決定することができる。PHBの形質発現を測定するため、定性的な比濁法を用いた。ブロスのアリコート約1mlをClorox(登録商標)(Clorox Co.,Oakland,CA)9体積に加え、37℃で少なくとも4時間または終夜インキュベートした。白色沈殿の出現が、PHBの存在を示す。
【0067】
第2の交叉型組換え事象の検出を容易にするため、ポジティブ選択システム(positive selection system)をS.エロデア用に適合させた。レバンスクローゼをコードする枯草菌遺伝子であるsacBは、グラム陰性細菌に導入することができる(Kamoun.S.他、Mol.Microbiol.6:809〜816(1992年);Gay,P.他、J.Bacteriol.164:918〜921(1985年))。スクロース中でこうした細菌を増殖させると、細菌に対して毒性があるレバンの合成が促進される。したがって、sacB遺伝子がベクター中に存在すれば、スクロース中での成長を使用して、ベクターを失った分離株を同定することができる。
【0068】
pLO2プラスミドは、Steven Slater at Cereon,Monsantoから入手した。pLO2プラスミドは、
図6に示されるように、カナマイシン耐性のベクター上のsacB遺伝子と、複製のCoIEI起点および導入のRP4起点を含む(Lenz,O.他、J.Bacteriol.176:4385〜4393(1994年)。pLO2プラスミドを使用し、接合の自然のプロセスを通じて、遺伝子を導入することができる。このプラスミドは、大腸菌中で複製することができるが、スフィンゴモナス中では複製できず、また、プラスミドの可動化のための部位を含むが、導入機能は含まない。つまり、pLO2プラスミドは、移動可能であるが自己伝染可能ではない。接合導入(conjugal transfer)機能のための遺伝子は、第2のプラスミドおよびトランス機能によって与えられる。この実施例ではpLO2プラスミドを使用したが、pLO2プラスミドを使用することは重要ではない。当分野の技術者であれば、適当な別のプラスミドを設計し、操作する方法や、エレクトロポレーション、形質転換などの通常の技術を用いて、そのプラスミドをスフィンゴモナスに導入する方法は分かるであろう。同様に、選択マーカーとしてカナマイシンを使用することも、重要ではない。当分野の技術者であれば、適切な別の選択マーカーを選ぶ方法は分かるであろう。
【0069】
phaC欠失を含む1.7kb PstIフラグメントを、PstI消化pLO2に結合させ、pLO2−phaCvまたはpEB11と命名し、エレクトロポレーションを用いる形質転換によって、大腸菌YMC9(F−ΔlacU169 thi endA hsdR)に導入した。この大腸菌株を精製し、接合導入の機能を与える(Ditta他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77:7347〜7351(1980年))プラスミドpRK2013を保有する大腸菌株JZ279と一緒に、スフィンゴモナス・エロデア株S−60wtcと混合した。S−60wtcは、S.エロデア、ATCC31461株の誘導体であり、プラスミドDNAの取り込みを増進させる能力をもつ自然発生的分離株として選択された。定常期(終夜)培養株、すなわちYMC9/pLO2−phaCΔ 1ml、JZ279/pRK2013 1ml、およびスフィンゴモナス・エロデア2〜3mlを用いて、接合導入を行った。培養株を混合し、フィルタ上で濃縮し、続いてそれをTYEペトリ皿(8g/l トリプトン、5g/l 酵母エキス、および5g/l 塩化ナトリウム)に入れて37℃で7時間インキュベートした。その後細胞を脱イオン水に懸濁し、選択培地で培養した。約7時間インキュベートした後、S−60wtcのカナマイシン耐性組換え接合体を、ストレプトマイシン(大腸菌の逆選別のため)25μg/mlおよびプラスミドを選択するためのカナマイシン 7.5μg/mlを添加したYM培地(酵母エキス3g/L、麦芽エキス3g/L、ペプトン 5g/L、およびグルコース 10g/L)上で選択した。カナマイシン耐性によって測定されるように、組込みは、1.5×10
−6の頻度で起こっていた。
【0070】
実施例5
第2の交叉型欠失株の選択
2種のカナマイシン耐性組込み体を精製し、非選択性YEME培地(0.25% 酵母エキス、0.025%麦芽エキス)に3回通し、その後7.5%スクロースで培養し、交叉体について選択した。7つのカナマイシン感受性交叉体が得られたが、全てPHB陽性であった。PCR試験を用いて、ベクターphaCvが、染色体のphaC領域に挿入されていることを実証し、また、野生型のphaCと比較したときの挿入断片の位置を決定した。欠失の側面領域およびベクターの端部に相同的なプライマーを設計した。
図7に示すように、組換えは、次の(1)または(2)をもたらす2つの配向で起こる可能性がある。(1)ベクターの左側に欠失があるphaC遺伝子があり、およびベクターの右側にphaC遺伝子のフラグメントがあり、PHB陰性のクローンをもたらすこととなる配向、または(2)ベクターの左側に無処置のphaC遺伝子があり、およびベクターの右側にphaCvがあり、PHB陽性のクローンをもたらすこととなる配向。
【0071】
6種のpLO2phaCv単一交叉組込み体の試験により、すべてが、第2の、好ましい可能性がある、PHB陽性の配向であることが示された。欠失の片側における組換えについて優先度が高い、あるいは、PHB陽性株は、PHB陰性の組換え体より増殖が早い可能性が大いにある。第1の、PHB陰性の配向であるあまり好ましくない方式でプラスミドが組み込まれたコロニーは、おそらく、変異株の変異型を保持する二重交叉をもたらす好ましい部位で、第2の組換え現象が起こる可能性がある。
【0072】
組換え接合体をPCRで選別し、PHB発現について試験し、第1の、またはPHB陰性の配向の組込み体を同定した。PCRの結果では、試験した24コロニーのうち、21コロニーがPHB陽性であり、3コロニーがPHB陰性構成体であることが示された。PHB試験により結果を確認した。3つのPHB陰性株(3、15、および22)を選択し、精製し、非選択条件下で3代継代増殖させ、スクロース中で培養した。それぞれの親からの5つのカナマイシン感受性コロニーのうち、1つはPHB陰性であった。したがって、3つのPHB欠失カナマイシン感受性変異株を単離し、NPG−1、NPG−2、およびNPG−3と名付けた。
【0073】
実施例6
ゲラン生合成のための変異株の特徴付け
NPG−1、NPG−2、およびNPG−3を、14Lの発酵槽に送り込んだ発酵液10L中で試験し、化学的変異原性剤(米国特許第5,300,429号)によって単離したPHB欠失変異株であるLPG−2と比較した。使用する発酵液および培地のステージは、ステージ2の培地をすべての接種ステージで使用すること以外は、米国特許第5,300,429号に記載されるものとほぼ同じであった。最終の培地に接種する前に、3つの接種ステージを使用した。移送体積は、2.5〜5%であった。promosoy0.5g/Lの代わりに、異なる有機窒素(0.41g/L、Quest Nzamine EKC,Chicago,Illinois)を使用した。接種ステージにおけるコーンシロップの濃度は3.75%ではなく3%であった。最終の10L発酵液は、接種培地とほぼ同じであったが、含まれるリン酸塩が少なく(0.5g/L K
2HPO
4)、pHを必要に応じてKOHを加えることによって調節した。無機窒素、NaNO
3(1.5g/L)と同様、有機窒素は、より高濃度(1.1 g/L)であった。消泡剤H−60−Kを0.6ml/Lに加えた。コーンシロップの濃度は、3.85%であった。最終ステージの培地にカルシウムおよびマグネシウムを補足した脱イオン水を補って完全にした。
【0074】
表1に示すように、全沈殿性物質(「TPM」)および粘度に基づくと、NPG変異株は、LPG−2よりもゲランの生成がはるかに少なかった。ブロスの粘度は、Brookfield viscometerで、number 4の軸(spindle)を用いて、60rpmで求めた。全沈殿性物質は、ブロスをオートクレーブで10分間加熱し、次いで2倍体積のイソプロパノールで沈殿させ、乾燥させることによって求めた。これらの結果は再現性があった。発酵中のブロスサンプルの分析により、大量の有機酸が産生されることが示された。したがって、NPG変異株についてゲランの産生量が低いことは、PHB合成をせず、炭素数2および3の中間体、ならびに二酸化炭素に加水分解する炭水化物の量が多いことと相関関係がある。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例7
復活したゲラン(gellan)産生性を有する変異体の単離
PHB合成遮断による代謝中間体(例えば、有機酸)の蓄積は、ゲラン合成に悪影響を及ぼす可能性がある。ゲラン合成を促進する培地での増殖中、ゲラン合成を正常なレベルで進行させる補償変異を生じ得ることが予想された。10Lの発酵液から一定分割量の発酵ブロス(実施例6)を塗布し、細胞数を測定した(
図8)。発酵終了近くで(すなわち、44時間から69時間で)、約0.5%から2%の間でコロニーがNPG株よりも大きく、かつより粘液性であることが認められた。これらのコロニーを精製し、振とうフラスコ発酵液におけるPHBおよびゲラン生産について試験した。新たな単離物はPHBが欠乏しており、元のNPG変異体よりも高収量のゲランを有していた。最良の補償変異体は、総計LPG−2と同等で野生型の80%以上(凡そ10〜15%のTPM減少が、PHBの重量損失のためと予想される)の沈殿性物質を有した。これらの株は、PDG変異体と名付けた:PDG−1はNPG−1から誘導され、PDG−3はNPG−3から誘導される。各々の株は、PHBとゲラン生産について振とうフラスコ発酵液において評価された。
【0077】
【表2】
さらに、第2のバッチのS60−wtc、LPG−2、PDG−1およびPDG−3のブロス粘度を、Brookfield粘度計を用い、4号のスピンドルで60rpmにて測定した。ブロス粘度を下表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
振とうフラスコに用いられた培地は、米国特許第5,300,429号に記載されたものと同様であった。最初の接種にはYM培地を含有した。第2および最終段階では、緩衝用の高濃度のリン酸塩(K
2HPO
4、2.8g/L;KH
2PO
4、1.2g/L)と1.0g/Lの有機窒素をも有する前記の培地を含む、500mlフラスコにつき100mlとした。
【0080】
理論に拘束されないが、新規変異体は、グルコースの有機酸への分解を制限する自然突然変異体と思われる。発酵漕からのサイクル内サンプル分析は、PDG−1およびPDG−3による有機酸の産生が、対照株であるS−60wtcおよびLPG−2とほぼ同じであることを示した。
【0081】
PDG−1株は、一貫してTPM>14g/Lで良好な収量の高粘度ゲランを生産した。
【0082】
株の安定性をチェックし、特に自然PDG−1変異体と、ゲラン低収量の元のNPG株とを比較するために、これら培養液のプレート上におけるコロニーの形態を評価した。約37℃で約60時間YM寒天上で増殖後、PDG−1は、その親株のNPG−1よりも明らかに異なる形態を示した。NPG−1型形態を有するコロニーはPDG−1発酵液のブロスに認められず、この株の安定性を示している。
【0083】
実施例8
S.エロデア以外のスフィンゴモナス株における相同性phaC遺伝子の存在
phaCに相同な遺伝子が、スフィンゴモナス・エロデア以外のスフィンゴモナス株に確認され、それによりスフィンゴモナス・エロデア以外のスフィンゴモナス株においてPHB欠失変異体が生成する可能性を証明した。
【0084】
サザンDNAハイブリッド形成を、4種のスフィンゴモナス株:デュウタン(diutan)(S−657)を産生するATCC53159、ウェラン(welan)(S−130)を産生するATCC31555、ラムサン(rhamsan)(S−194)を産生するATCC31961、対照としてゲラン(S−60)を産生するATCC31461で実施した。ゲノムDNAを各株から単離し、酵素EcoRIで消化した。消化されたゲノムDNA(1μg)のサンプルを1%アガロースゲル上で分離し、中性条件下でSchleicher and Schuell Turboblotter(登録商標)(New Hampshire州、Keene)を用いてキャピラリ−操作によりナイロン膜に移した。
【0085】
変性プライマーのPHADG5およびPHADG7を用いて(実施例1を参照)、ジゴキシゲニン標識プローブを、製造元のRoche Molecular Biochemicals社(スイス国)のプロトコルに従ってジゴキシゲニン−11−dUTPを有するスフィンゴモナスS−657phaC遺伝子の内部領域のPCR増幅により調製した。ハイブリッド形成は、Roche Diagnostics社(ドイツ、マンハイム)のDigEasyHyb(登録商標)を用いて、製造元のプロトコルに従って中性条件下で実施した。フィルタは、計算値T
optより10℃低い44℃でハイブリッド形成した。これらの条件により、90%を超えて同一であるDNA分子のハイブリッド形成が生じると予想された(Birren、B.ら、編集Genomic Analysis、実験室マニュアル、1997年)。ここに用いられる用語のT
optは、T
m−20として定義され、式中T
mは、式50+0.41(%GC)−600/プローブ長として定義され、式中%GCは65%であり、プローブ長は400個のヌクレオチドである。該フィルタを、2×SSC、0.1%SDSで44℃、15分間2回洗浄し、製造元のプロトコル(Roche Molecular Biochemicals社)に従って抗ジゴキシゲニン−アルカリホスファターゼ接合体およびジゴキシゲニン検出キットを用いて展開した。
【0086】
ハイブリッド形成結果を
図9に示す。予想された大きさ(2.6kB)のEcoRI消化バンドがスフィンゴモナス株のATCC31461において検出された。スフィンゴモナス株のATCC53159およびATCC31961は、全く同じ大きさのバンドを生成した。スフィンゴモナスATCCATCC31555は、phaCプローブにハイブリッド形成した2.4kBのフラグメントを有した。斯様に、サザンDNAハイブリッド形成により、これら3種の株がphaC様遺伝子を含み、PHB欠失株が、ここに記載された方法に従って生成できることが確認された。
【0087】
実施例9
phaC欠失のATCC53159変異株の構築
組換えDNA技術を用いて、phaC遺伝子を完全に失ったスフィンゴモナスATCC53159の変異株を構築した。変異株の構築は、以下のように実施された:phaC遺伝子の側面DNA領域をPCRにより増幅して自殺ベクターにクローン化し、側面PCR産物を含有する該自殺ベクターは、ATCC53159細胞への接合により導入され、次いでスフィンゴモナスATCC53159染色体におけるphaCの直接上流または下流の相同座における全プラスミドの組込みを、カナマイシン耐性(ベクターによりコード化された)に対する選択により達成した。該染色体からのphaC座プラスベクターDNAの切除は、ベクター上にコード化されたショ糖感受性により選択された続く第2の交叉事象の結果、生じた。
【0088】
phaC遺伝子および側面領域を含有するクローン類を単離するために、ゲノムDNAライブラリを作成し、PHADG5プライマーおよびPHADG7プライマーを用いてPCRにより選別した(上記実施例1を参照)。2つのゲノムライブラリが作成され、その1つは、ベクターpZERO−2にNotI制限酵素フラグメントを有し(Invitrogen社、カリフォルニア州カールスバッド)、2つ目はpLAFR3にSau3Aの部分消化フラグメントを有する(Staskawiczら、J.Bacteriol.169:5789〜94(1987))。1つの陽性クローンを、各ライブラリから単離した。これらプラスミドのBamHI−NotIフラグメントがサブクローン化され、適切なフラグメントが配列決定されて、phaC遺伝子および5’および3’の側面領域DNA配列を決定した。プラスミドp21−7およびpJCS104−2には、それぞれphaC遺伝子および側面領域の5’および3’の末端を含有する。
【0089】
phaC遺伝子および側面領域DNA配列を
図10に示す。遺伝子マップを
図11に示す。オープンリーディングフレームは、開始および終止コドンの存在、並びにBorodovsky解析(Lasergene GeneQuestモジュール)およびGeneMarkのP_aeruginosa_3.matマトリックスを用いて、予想コード化領域と組み合わせたBLAST解析により決定した。該配列を、クローンp21−7およびpJCS104−2における挿入配列と結びつける。2つの配列間の接合部はNotI部位にある。
【0090】
図12は、phaCの側面領域のみを含み、出発コドンの第1のヌクレオチドから終止コドンの最終ヌクレオチドまでの全phaC遺伝子(1737bp)を失ったpJCS105 112−1産物を作製するPCRの使用法を示している。2種の外側プライマー(プライマー1Xbaとプライマー4Xba)を、phaCの上流および下流領域の間の所望の連結部に伸びているプライマー(重複1)と一緒にした。プライマー配列を表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
プラスミドpJCS104−2およびp21−7(各々200ng)を、製造元のプロトコルに従ってプライマー1Xbaとプライマー4Xba(各々50ピコモル)、重複プライマー1(2ピコモル)、Clontech Laboratories社(カリフォルニア州パロアルト)のAdvantage High Fidelity 2PCRキットのdNTP類およびTaqポリメラーゼに混合した。次に増幅は、マトリックスサーモサイクラー中、95℃で1分、95℃で30秒の5サイクル、44℃で30秒、68℃で2分、次いで95℃で30秒の20サイクル、53〜68℃で30秒、68℃で2分、次いで68℃で3分の1サイクルで実施した。増幅されたDNAフラグメントを、ゲルから精製し、さらに同じプライマーで増幅してより多くの産物を生成した。増幅条件は、95℃で1分、95℃で30秒の25サイクル、64℃で30秒、68℃で2分、次いで68℃で1サイクルであった。次に1.1kBバンドを、SNAPゲルPurification Kit(登録商標)(Invitrogen社)を用いてゲルから単離し、トポイソメラーゼ、3’Tオーバーハングを有するベクターおよび化学的にコンピテントTOP10細胞を用いることによりベクターpCRII−TOPO(Invitrogen社)に、Invitrogen社のプロトコルに従ってクローン化し、
図12に示されるpJC105−112−1を形成した。
【0093】
pJC105−112−1からのphaC欠失構築物を含有する1.1kBのXbaIフラグメントをゲル精製し、XbaI消化pLO2にクローン化した。2種の配位の挿入物を回収し、pJCS106−5およびpJC106−16と名付けた。
【0094】
トランス結合によりATCC53159に導入されたATCC53159プラスミドpJC106−5およびpJCS106−16のPHB欠失株を作製するために、上記の実施例4に従ってマーカー交換が使用された。第1および第2の交叉欠失株の選択は、上記の実施例4および5のとおりに進行した。すなわち、最初にカナマイシン耐性によって示される組込みについて選択し、次いでショ糖上で培養してカナマイシン感受性交叉体を選択する。該欠失交叉体(野生型に対する)は、診断用PCRにより検出され、NPD−3(pJCS106−5から誘導)およびNPD−6(pJCS106−16から誘導)と名付けた。
【0095】
生じたNPD−3およびNPD−6株には、外来DNAの残留はなく正確にphaCの染色体欠失体である。これら欠失株のガム収量は大きく減少したが、しかしガム産生を復活させたサプレッサーが発酵増殖時に続いて単離された。
【0096】
NPD−3およびNPD−6はS−657合成を促進する条件下で増殖され、大きな粘液性コロニーを有するサプレッサー株が、上記実施例7のゲラン合成に関して行われたとおり選択された。これら大きな粘液性コロニーは、誘導されたコロニーによりPDD−3およびPDD−6と名付け、PHBおよびS−657について分析した。PDD−3株およびPDD−6株は、American Type Culture Collectionに保管が委託され、それぞれATCC番号 およびATCC番号 と名付けられている。下表5は、PDD−6が、その親株NPD−6よりもより多くのガム生産を行うが、また本質的にPHBは生産しないことを示す。
【0097】
【表5】
【0098】
実施例10
透過度およびゲル強度に対する水酸化カリウム濃度の影響
苛性剤の水酸化カリウム(「KOH」)濃度の影響が、最初のプロトコルとして上記に概説したステップを含んで成る清澄プロセスで評価された。PHB欠失変異体を含んで成るゲラン発酵ブロスを前処理してKOHの濃度を変えて15分間混合し、次いでキレート化剤として1000ppmのカルゴン(Calgon)と1時間、引き続き22ppmのリゾチーム並びに220ppmのプロテアーゼ各々と55℃で2時間混合した。KOH濃度を、約0.0g/Lと約0.45g/Lとの間で変えて試験した。
図13に示すように、透過度は、KOHの濃度を0.45g/Lに増すとほぼ20%増加した(31%の相対的増加)。
【0099】
TA−TX2 Texture Analyzer(登録商標)(Texture Tecnologies社、ニューヨーク州Scarsdale)により、感圧プランジャーによる調製ゲル表面割れに要する穿刺力量と距離という2つの指標の産物としてゲル強度データを測定する。穿刺力は、負荷セルがゲル表面の割れ目を検出する場合に測定され、また穿刺力は高さのパーセント変化として測定される。
図14に示されるように、穿刺力に関するゲル強度は、被験KOHの同じ範囲よりも280g、すなわち32%減少したが、これはゲランの部分脱アシル化に帰すると思われる。しかし、パーセント距離に関するゲル強度は、1.5%の変化にのみ反映し、大きく影響されなかったと思われた。
【0100】
少量2×2の階乗試験は、第1のプロトコルの清澄プロセスに従って実施された。PHB欠失変異体を含んで成るゲラン発酵ブロスを前処理し、KOHの濃度を変えて15分間混合し、次いでキレート化剤として2000ppmのカルゴンと1時間、引き続き22ppmのリゾチーム並びに220ppmのプロテアーゼ各々と55℃で2時間混合した。パーセント透過度、穿刺力およびパーセント距離は、動力学的に相互に関連すると思われるので本試験においてそれらを試験した。KOH濃度は約0.225g/Lと約0.45g/Lとの間で変え、温度は約55℃と約60℃との間で変えて以下の表に示される成績を生じ、ゲラン清澄時のKOH濃度と温度の影響を評価するパーセント透過度、穿刺力およびパーセント距離の結果を示した。
【0101】
【表6】
表に示されるように、透過度は、KOH濃度または温度のいずれかを別々に増加してもあまり変化しなかった。しかしながら、透過度は、KOH濃度と温度の双方を増加させた場合約6%まで増加するが、これは、透過度増加を達成させるためには両パラメータが重要であり、また相加的であることを示している。同様にゲル強度は相加効果を示した。穿刺力は、温度またはKOH濃度のいずれかを個々に増加すると約130gから約190g減少した。しかし、温度とKOH濃度の双方を増加させた場合、穿刺力は約326g減少し、したがって、ゲル強度は、温度とKOH濃度の双方の変化に鋭敏であることを示唆した。
【0102】
実施例11
ゲランの性質に及ぼすヘキサメタリン酸ナトリウムの影響
カルゴンとしても知られているヘキサメタリン酸ナトリウム(「SHMP」)の透過度、穿刺力およびパーセント距離に及ぼす影響を、上記実施例10に記載された清澄化工程に従って評価した。PHB欠失変異体を含むゲラン発酵ブロスを前処理し、0.45g/LのKOHと15分間混合し、次いでカルゴンの濃度を変えて1時間、引き続き22ppmのリゾチーム並びに220ppmのプロテアーゼ各々と55℃で2時間混合した。SHMP濃度を、約1000ppmと約3000ppmの間で変えると、この範囲に亘って線形の相関関係が
図15に示したようにSHMP濃度と透過度との間に存在した。SHMPを約1000ppm増加すると、透過度が約5%増加する。
図16に示されるように、穿刺力およびパーセント距離は、試験範囲でのSHMP濃度の増加により比較的影響を受けないことから、SHMPがゲル強度に影響するとは思われない。
【0103】
実施例12
SHMPによる他の清澄工程順序
清澄方法の2つの変法を、2Lスケールで天然のゲランブロスに対して実施した。製造元のGenencor International社(ニューヨーク州ロチェスター)により提供された情報によれば、Multifect(登録商標)リゾチームは、酸性から中性pHレベルで安定であり、アルカリ性pHで短時間に不活化できる。清澄工程に従って0.45g/LのKOH添加後、一般にこのpHはリゾチームにとって準最適であるpH8を超えるが、一方、プロテアーゼはこれらの条件下でよく作用するとのことである。斯様に清澄化工程を第2のプロトコルに従って変更し、リゾチーム酵素による処理後にKOHを加えた(工程順序の要約:リゾチーム、次にKOH、次にプロテアーゼ)。KOHをリゾチーム酵素処理の前に添加しても処理後に添加しても、以下の表に示されるように5.5%の相対的標準偏差(「RSD」)が観察された。
【0104】
【表7】
【0105】
実施例13
菓子配合物
本実施例は、優れた透明性および安定性を示す、伸縮弾性がある十分に噛む必要のある菓子を製造するために使用し得る配合物を示す。
成分 %
A部分
ぶどう糖シロップ 45.00
水 21.67
B部分
ショ糖 30.00
清澄化高アシルゲラン 1.33
Kelocogel F(登録商標)ゲラン 0.67
(米国CP Kelco社、カリフォルニア州サンディエゴ)
C部分
クエン酸溶液、54% 0.67
クエン酸ナトリウム溶液、33% 0.67
【0106】
A部分を含んで成る成分を加熱容器内で合わせ40℃に加熱した。
B部分の成分を乾式混合し、混合加熱容器に速やかに加えて沸騰させる。該混合物を72%固体まで減量した。C部分の成分を合わせて、フレーバーおよび着色剤に加えて均一になるまで混合する。
【0107】
材料をデポジッターに入れて、用意した澱粉鋳型に鋳込みする。次に詰められた澱粉鋳型を、固体レベルが約82%から85%に達するまで30℃、35%相対湿度で3日間から4日間保存した。材料を鋳型から外し、ワックスを塗り、密封バッグに密封した。
【0108】
A部分の成分にさらに水を加えて、ヒドロコロイドの完全な水和を促進してもよい。
【0109】
実施例14
デザートゲル配合物
この配合物は、優れた透明性および安定性を有する伸縮弾性のあるデザートゲルを製造するために使用された。
成分 %
A部分
ショ糖 13.20
アジピン酸 0.40
清澄化高アシルゲラン 0.16
クエン酸ナトリウム 0.13
リン酸二ナトリウム 0.13
フマール酸 0.11
Kelocogel F(登録商標)ゲラン 0.04
(米国CP Kelco社、カリフォルニア州サンディエゴ)
B部分
水 85.83
A部分の成分を乾燥フレーバーおよび着色剤に加えて乾式混合し、B部分に分散させて混合し、90℃に加熱した。次いで該混合物を好適な容器に注いで、室温で固めた。
【0110】
実施例15
ゼリー配合物
本配合物は、優れた透明性、保存安定性、フレーバー放出および拡散性を有するゼリーを提供した。
成分 %
A部分
調和性グレープジュース 45.69
高フルクトースコーンシロップ 30.46
水 22.85
B部分
清澄化高アシルゲラン 0.18
クエン酸ナトリウム 0.10
SHMP 0.10
ソルビン酸カリウム 0.09
C部分
クエン酸、50%溶液 0.53
【0111】
A部分の成分を合わせた。B部分の成分を乾式混合し、攪拌しながらA部分の成分と分散した。生じた混合物を混合しながら沸騰させ、約1分から約3分間沸騰を維持し、その時点で、C部分の成分を攪拌しながら混合した。次に該混合物を滅菌ジャーに入れて密封した。
【0112】
本発明は、現在好ましい実施形態と考えられているものに関して上に記述したが、本発明は上記のものに限定されないことを解すべきであって、本発明は、添付の請求の範囲の精神と範囲内に含まれる種々の修飾並びに同等の改変を包含することが意図されている。