特許第6067173号(P6067173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6067173
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】地熱交換器および地熱発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03G 4/00 20060101AFI20170116BHJP
   F24J 3/08 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   F03G4/00 501
   F03G4/00 511
   F24J3/08
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-207463(P2016-207463)
(22)【出願日】2016年10月24日
【審査請求日】2016年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-194047(P2016-194047)
(32)【優先日】2016年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514143002
【氏名又は名称】田原 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100116296
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幹生
(72)【発明者】
【氏名】田原 俊一
【審査官】 佐藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5731051(JP,B1)
【文献】 特許第5791836(JP,B1)
【文献】 特許第5839528(JP,B1)
【文献】 特許第5839531(JP,B1)
【文献】 特許第5999827(JP,B1)
【文献】 特開2013−164062(JP,A)
【文献】 特開2016−026280(JP,A)
【文献】 特開昭49−103122(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0330670(US,A1)
【文献】 米国特許第3824793(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0206912(US,A1)
【文献】 特開昭60−178250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 4/00
F24J 3/08
F01K 27/00−02
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に設けられ地上から水が供給される第一の外管と、前記第一の外管の内側に配置され噴出口を有する第一の内管とを備え、前記第一の内管内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されており、前記第一の外管内の水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高圧熱水が前記噴出口を介して地中に存在する第一の内管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出される地熱交換器であって、前記第一の内管の底部において前記第一の外管から前記第一の内管への水の流路の開閉を行う開閉弁が設置され、前記噴出口は管によって前記開閉弁と連結されており、前記開閉弁は前記第一の外管底部の水の圧力と温度が基準値以下の場合には閉じており、前記第一の外管底部の水の圧力と温度が基準値を超えた場合には開いて、前記噴出口へ高圧熱水が供給されて蒸気単相流が生成されることを特徴とする地熱交換器。
【請求項2】
前記第一の内管には圧力調整弁が接続されており、運転初期において前記圧力調整弁が開いて前記第一の内管内の圧力は大気圧相当まで減圧されて前記第一の内管内での蒸気発生が促進され、その後前記圧力調整弁は漸次閉じるとともに、前記第一の内管に接続された蒸気弁が開いて蒸気が取り出されることを特徴とする請求項1記載の地熱交換器。
【請求項3】
前記第一の内管内の貯留水の水位を検知する水位センサが設置され、貯留水の水位が基準水位を超えた場合には、前記水位センサからの信号により前記圧力調整弁が開いて、前記第一の内管内の圧力は大気圧相当まで減圧されて前記第一の内管内での蒸気発生が促進されることを特徴とする請求項1記載の地熱交換器。
【請求項4】
少なくとも1つの前記第一の外管と少なくとも1つの前記第一の内管とが組み合わされてなる挿入管が、複数の生産井に対して挿入されて構成され、前記第一の内管の出口が並列に接続されて、それぞれの生産井を用いて得られる蒸気が合計して採集され、採集された蒸気の圧力を均一化する蒸気ヘッダーを備えており、蒸気が採集されていない生産井を外して運転されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の地熱交換器。
【請求項5】
地中に設けられ地上から水が供給される第二の内管と、前記第二の内管の外側に配置された第二の外管とを備え、前記第二の外管内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されており、前記第二の内管の上部領域と下部領域とを区切る仕切りと、仕切りの位置において前記第二の内管の上部領域から下部領域への水の流路の開閉を行う圧力弁とを備え、前記第二の内管の下部領域には圧力水噴出口が設けられており、前記圧力弁は前記仕切りの位置における水の圧力が基準値以下の場合には閉じており、前記仕切りの位置における水の圧力が基準値を超えた場合には開いて前記圧力水噴出口へ圧力水が供給され、地熱帯から熱が供給されて加温された第二の外管に対して、前記第二の外管よりも低温である前記第二の内管内の圧力水が前記圧力水噴出口から噴き出して、第二の外管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出されることを特徴とする地熱交換器。
【請求項6】
前記第二の外管には圧力調整弁が接続されており、運転初期において前記圧力調整弁が開いて前記第二の外管内の圧力は大気圧相当まで減圧されて前記第二の外管内での蒸気発生が促進され、その後前記圧力調整弁は漸次閉じるとともに、前記第二の外管に接続された蒸気弁が開いて蒸気が取り出されることを特徴とする請求項5記載の地熱交換器。
【請求項7】
前記第二の外管内の貯留水の水位を検知する水位センサが設置され、貯留水の水位が基準水位を超えた場合には、前記水位センサからの信号により前記圧力調整弁が開いて、前記第二の外管内の圧力は大気圧相当まで減圧されて前記第二の外管内での蒸気発生が促進されることを特徴とする請求項5記載の地熱交換器。
【請求項8】
前記第二の内管に注入される水を加熱する加熱器が地上に設けられていることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の地熱交換器。
【請求項9】
少なくとも1つの前記第二の外管と少なくとも1つの前記第二の内管とが組み合わされてなる挿入管が、複数の生産井に対して挿入されて構成され、前記第二の外管の出口が並列に接続されて、それぞれの生産井を用いて得られる蒸気が合計して採集され、採集された蒸気の圧力を均一化する蒸気ヘッダーを備えており、蒸気が採集されていない生産井を外して運転されることを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載の地熱交換器。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の地熱交換器を用いて発電を行うことを特徴とする地熱発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱エネルギーを効率よく取り出すことができる地熱交換器および地熱発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地熱エネルギーを利用して発電する地熱発電は、高温のマグマ層を熱源とするものであり、半永久的な熱エネルギーとすることができるとともに、発電の過程において温室効果ガスを発生しないことから、化石燃料の代替手段として近年注目されている。また、原子力発電所の事故により、原子力に多くを依存していた日本のエネルギー政策は根本から見直すことを余儀なくされており、地熱エネルギーの活用への期待が高まっている。
【0003】
従来の地熱発電は、地熱帯をボーリングし、地熱帯に存在する自然の蒸気や熱水を自然の圧力を利用して取り出し発電を行っている。そのため、取り出された蒸気と熱水には、地熱帯特有の硫黄その他の不純物が多量に含まれている。この不純物はスケールとなって、熱井戸や配管類、あるいはタービン等に付着する。スケールが付着すると、経年的に発電出力が減少し長期間の使用が困難となる。
【0004】
このスケールによる問題を解決するために、地上から水を送り、蒸気にして取り出す方式を採用した地熱交換器が、特許文献1、特許文献2に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特許第5731051号公報
【特許文献2】特許第5791836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたものは、地下に設置された地熱交換器内で減圧沸騰させ、蒸気単相流を取り出すものであり、特許文献2に記載されたものは、取出した蒸気の熱損失を減少させることに関する技術であり、いずれも地熱エネルギーを効率よく取り出すことができる点に大きな利点がある。
【0007】
しかし、運転初期においては、水が注入される水注入管と蒸気が取り出される蒸気取出管との圧力差がないため、水注入管と蒸気取出管とは同一水位で上昇する。そのため、この状況下では蒸気取出管に蒸気が噴出されず、システムは稼働しないことが起こりうる。
【0008】
また、生産井から生産される熱量は、地熱帯固有の状況による熱移動の遅れや、発電機の負荷変動等により変動する。そのため、運転中においても、これらの変動に起因して、蒸気が取り出される蒸気取出管において圧力や温度が変わることになるため、蒸気取出管の底部には、凝縮水が溜まってしまうことが起こりうる。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、運転初期における固有の要因
や、運転中における圧力や温度の変動に起因して、蒸気が取り出される管の底部に凝縮水が貯留する事態が生じたときにも、効率よく蒸気を取り出すことが可能な地熱交換器と地熱発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、本発明の地熱交換器は、地中に設けられ地上から水が供給される第一の外管と、前記第一の外管の内側に配置され噴出口を有する第一の内管とを備え、前記第一の内管内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されており、前記第一の外管内の水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高圧熱水が前記噴出口を介して地中に存在する第一の内管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出される地熱交換器であって、前記第一の内管の底部において前記第一の外管から前記第一の内管への水の流路の開閉を行う開閉弁が設置され、前記噴出口は管によって前記開閉弁と連結されており、前記開閉弁は前記第一の外管底部の水の圧力と温度が基準値以下の場合には閉じており、前記第一の外管底部の水の圧力と温度が基準値を超えた場合には開いて、前記噴出口へ高圧熱水が供給されて蒸気単相流が生成されることを特徴とする。
【0011】
第一の内管の底部において第一の外管から第一の内管への水の流路の開閉を行う開閉弁は、第一の外管側底部の圧力が圧力基準値以下であり、第一の外管に注入された水の温度が温度基準値以下の場合には、閉じており、第一の外管底部の水の圧力と温度が基準値を超えた場合には開いて、噴出口へ高圧熱水が供給されるため、蒸気発生の条件が満たされた状態で熱水が噴出口へ到達することになり、第一の内管において確実に蒸気単相流が生成される。
【0012】
本発明の地熱交換器においては、前記第一の内管には圧力調整弁が接続されており、運転初期において前記圧力調整弁が開いて前記第一の内管内の圧力は大気圧相当まで減圧されて前記第一の内管内での蒸気発生が促進され、その後前記圧力調整弁は漸次閉じるとともに、前記第一の内管に接続された蒸気弁が開いて蒸気が取り出される構成とすることができる。
【0013】
運転初期においては、水が注入される第一の外管と蒸気が取り出される第一の内管との圧力差がないため、第一の内管と第一の外管とは同一水位で上昇し、第一の内管内に水が貯留する事態が発生しやすいが、第一の内管に接続された圧力調整弁が運転初期に開くことにより、第一の内管内の圧力は大気圧相当まで減圧される。これにより、第一の内管内の沸騰温度を下げることで、第一の内管内での蒸気発生が促進される。
【0014】
このようにして、十分に蒸気を発生させた後、徐々に圧力調整弁を閉じ、ほぼ同時に、蒸気弁を開いて蒸気をタービンに導入する。運転初期においては、蒸気の温度、圧力ともに低く、タービンに直結した発電機は定格の発電容量を達成することができないため、負荷調整をすることによって対応することができる。
【0015】
本発明の地熱交換器においては、前記第一の内管内の貯留水の水位を検知する水位センサが設置され、貯留水の水位が基準水位を超えた場合には、前記水位センサからの信号により前記圧力調整弁が開いて、前記第一の内管内の圧力は大気圧相当まで減圧されて前記第一の内管内での蒸気発生が促進される構成とすることができる。
【0016】
第一の内管底部の水位を常時計測し、貯留水が基準水位を超えた場合には、圧力調整弁を開いて、第一の内管内は大気圧相当まで減圧されるため、高温の貯留水は短時間に沸騰し、第一の内管内底部の貯留水を排水することができる。
【0017】
本発明の地熱交換器においては、少なくとも1つの前記第一の外管と少なくとも1つの前記第一の内管とが組み合わされてなる挿入管が、複数の生産井に対して挿入されて構成され、前記第一の内管の出口が並列に接続されて、それぞれの生産井を用いて得られる蒸気が合計して採集され、採集された蒸気の圧力を均一化する蒸気ヘッダーを備えており、蒸気が採集されていない生産井を外して運転される構成とすることができる。
【0018】
複数の生産井を並列に接続して、常時個別の生産井を監視し、最適の生産井を使用することにより、生産井全体の稼働率を向上させることができる。蒸気が採集されていない生産井、特に、凝縮水が貯留している生産井について、凝縮水を沸騰させるために圧力調整弁が開いている生産井がある場合には、生産井を複数接続することによって、凝縮水が貯留している生産井を運転から外し、運転中の他の生産井から蒸気を供給してカバーすることができる。これにより、凝縮水の処理を、運転を継続しながら行うことができ、全体の稼働率を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の地熱交換器は、地中に設けられ地上から水が供給される第二の内管と、前記第二の内管の外側に配置された第二の外管とを備え、前記第二の外管内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されており、前記第二の内管の上部領域と下部領域とを区切る仕切りと、仕切りの位置において前記第二の内管の上部領域から下部領域への水の流路の開閉を行う圧力弁とを備え、前記第二の内管の下部領域には圧力水噴出口が設けられており、前記圧力弁は前記仕切りの位置における水の圧力が基準値以下の場合には閉じており、前記仕切りの位置における水の圧力が基準値を超えた場合には開いて前記圧力水噴出口へ圧力水が供給され、地熱帯から熱が供給されて加温された第二の外管に対して、前記第二の外管よりも低温である前記第二の内管内の圧力水が前記圧力水噴出口から噴き出して、第二の外管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出されることを特徴とする。
【0020】
第二の内管の上部領域から下部領域への水の流路の開閉を行う圧力弁は、仕切りの位置における水の圧力が基準値以下の場合には閉じており、仕切りの位置における水の圧力が基準値を超えた場合には開いて圧力水噴出口へ圧力水が供給されるため、高圧の圧力条件を満たす場合にのみ、圧力水噴出口から第二の外管へシャワー状に噴射する。
【0021】
第二の外管は、地熱帯から熱が供給されて加温されており、この第二の外管に対して、第二の外管よりも低温である第二の内管内の圧力水が圧力水噴出口から噴き出すことにより、加温沸騰により気化して、第二の外管内で蒸気単相流に変換されるため、確実に蒸気単相流が生成される。また、加温沸騰であるため、蒸気温度、蒸気圧力ともに高く維持することができる。このようにして、低温高圧の圧力水から高温の蒸気を生成することができ、簡易な装置構成によって効果的に蒸気単相流を得ることができる。
【0022】
本発明の地熱交換器においては、前記第二の外管には圧力調整弁が接続されており、運転初期において前記圧力調整弁が開いて前記第二の外管内の圧力は大気圧相当まで減圧されて前記第二の外管内での蒸気発生が促進され、その後前記圧力調整弁は漸次閉じるとともに、前記第二の外管に接続された蒸気弁が開いて蒸気が取り出される構成とすることができる。
【0023】
運転初期においては、水が注入される第二の内管と蒸気が取り出される第二の外管との圧力差がないため、第二の外管と第二の内管とは同一水位で上昇し、第二の外管内に水が貯留する事態が発生しやすいが、第二の外管に接続された圧力調整弁が運転初期に開くことにより、第二の外管内の圧力は大気圧相当まで減圧される。これにより、第二の外管内の沸騰温度を下げることで、第二の外管内での蒸気発生が促進される。
【0024】
このようにして、十分に蒸気を発生させた後、徐々に圧力調整弁を閉じ、ほぼ同時に、蒸気弁を開いて蒸気をタービンに導入する。運転初期においては、蒸気の温度、圧力ともに低く、タービンに直結した発電機は定格の発電容量を達成することができないため、負荷調整をすることによって対応することができる。
【0025】
本発明の地熱交換器においては、前記第二の外管内の貯留水の水位を検知する水位センサが設置され、貯留水の水位が基準水位を超えた場合には、前記水位センサからの信号により前記圧力調整弁が開いて、前記第二の外管内の圧力は大気圧相当まで減圧されて前記第二の外管内での蒸気発生が促進される構成とすることができる。
【0026】
第二の外管底部の水位を常時計測し、貯留水が基準水位を超えた場合には、圧力調整弁を開いて、第二の外管内は大気圧相当まで減圧されるため、高温の貯留水は短時間に沸騰し、第二の外管内底部の貯留水を排水することができる。
【0027】
本発明の地熱交換器においては、前記第二の内管に注入される水を加熱する加熱器が地上に設けられている構成とすることができる。
【0028】
運転初期においては、タービンと復水器は稼働しておらず、第二の内管に注入される水の温度は低い状態であるため、第二の内管の出口から噴出される水の温度が低い状態のまま、蒸気発生部に吹き付けられることになるため、温度の低い蒸気が生産され、タービン出力が低下することが起こり得る。
【0029】
この対策として、第二の内管に注入される水を加熱する加熱器が地上に設けられている構成とすることにより、第二の内管に注入される水の温度を規定温度に保つことができ、システムを安全に起動させることができる。加熱器は、復水器の出口から、第二の内管の入口の間で適宜設置することができる。
【0030】
本発明の地熱交換器においては、少なくとも1つの前記第二の外管と少なくとも1つの前記第二の内管とが組み合わされてなる挿入管が、複数の生産井に対して挿入されて構成され、前記第二の外管の出口が並列に接続されて、それぞれの生産井を用いて得られる蒸気が合計して採集され、採集された蒸気の圧力を均一化する蒸気ヘッダーを備えており、蒸気が採集されていない生産井を外して運転される構成とすることができる。
【0031】
複数の生産井を並列に接続して、常時個別の生産井を監視し、最適の生産井を使用することにより、生産井全体の稼働率を向上させることができる。蒸気が採集されていない生産井、特に、凝縮水が貯留している生産井について、凝縮水を沸騰させるために圧力調整弁が開いている生産井がある場合には、生産井を複数接続することによって、凝縮水が貯留している生産井を運転から外し、運転中の他の生産井から蒸気を供給してカバーすることができる。これにより、凝縮水の処理を、運転を継続しながら行うことができ、全体の稼働率を向上させることができる。
【0032】
本発明の地熱発電装置は、本発明の地熱交換器を用いて発電を行うことを特徴とする。
本発明の地熱交換器では、運転初期における固有の要因や、運転中における圧力や温度の変動に起因して、蒸気が取り出される第一の内管底部または第二の外管底部に凝縮水が貯留する事態が生じたときにも、効率よく蒸気を取り出すことができるため、効率の良い発電を行うことができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、運転初期における固有の要因や、運転中における圧力や温度の変動に起因して、蒸気が取り出される管の底部に凝縮水が貯留する事態が生じたときにも、効率よく蒸気を取り出すことが可能な地熱交換器および地熱発電装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の第一実施形態に係る地熱交換器と地熱発電装置を示す図である。
図2】本発明の第一実施形態において、第一の内管内に凝縮水が貯留している状況を示す図である。
図3】本発明の第二実施形態に係る地熱交換器と地熱発電装置を示す図である。
図4】本発明の第二実施形態において、第二の外管内に凝縮水が貯留している状況を示す図である。
図5】蒸気飽和曲線と本発明の第二実施形態における加温沸騰の仕組みを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本発明の地熱交換器および地熱発電装置を、その実施形態に基づいて説明する。図1に、本発明の第一実施形態に係る地熱交換器と地熱発電装置を示す。
図1において、地熱交換器1は、地中に設けられて地上から水が供給される第一の外管2と、第一の外管2の内側に配置され地中に設けられた第一の内管3とを備えている。第一の外管2に自然の落差を利用して供給された水は、第一の外管2の底部付近において、地上からの深さにほぼ比例した圧力が加えられ、地熱帯4から熱が供給されて高温圧力水となる。第一の外管2に水を供給するにあたって、給水ポンプ5を用いることができる。第一の内管3はタービン13に接続されており、第一の内管3内の圧力は、タービン13が必要とする圧力近くに減圧されている。
【0036】
第一の内管3の底部において、第一の外管2から第一の内管3への水の流路の開閉を行う開閉弁6が設置され、噴出口7は管8によって開閉弁6と連結されている。開閉弁6は第一の外管2底部の水の圧力と温度が基準値以下の場合には閉じており、第一の外管2底部の水の圧力と温度が基準値を超えた場合には開いて、噴出口7へ高圧熱水が供給される。
【0037】
第一の内管3内は減圧されているため、この圧力差を利用して、高温圧力水は噴出口7から噴霧状態で第一の内管3内へ噴き出し、タービン13が必要とする圧力と、第一の外管2の底部との圧力差を利用して気化して蒸気単相流に変換される。地下にて生成された蒸気単相流は、第一の内管3とタービン13との圧力差でタービン13へ移動したのち、タービン13内で膨張してタービン13を回す動力となる。この動力によって発電機により発電がなされる。
【0038】
タービン13を出た蒸気はその後、復水器15にて冷却水により冷却されて水に戻り、再び第一の外管2に供給される。循環する水量はタービン13が必要とする蒸気量に等しいため、循環させる水量は非常に少なくて済む。この過程を繰り返すことによって、連続して地熱が取り出される。必要に応じて、補給水が補給水槽16から補給される。
【0039】
開閉弁6はバネ式圧力弁とするが、簡易な方法として、噴出口7に地上からワイヤで操作することで、噴出口7を開にする方法でもよい。また、第一の外管2底部の圧力を計測する方法として、第一の外管2上部での水位を計測する方法を採ることもできる。
【0040】
第一の内管3には圧力調整弁9と蒸気生成弁10とが接続されており、蒸気生成弁10は蒸気ヘッダー11に接続されている。蒸気ヘッダー11は、複数の地熱井から生産された蒸気をまとめて、単機のタービン13に供給するような場合に用いられるもので、これにより、圧力を均一化させることができる。
【0041】
地熱交換器1で生成された蒸気は、蒸気生成弁10を経て蒸気ヘッダー11へ送られる。蒸気ヘッダー11には、他の生産性に設置された地熱交換器1で生成された蒸気を蒸気ヘッダー11に送り込む蒸気生成弁10が接続されている。蒸気ヘッダー11は、蒸気弁12を介してタービン13に接続されている。
【0042】
運転初期においては、圧力調整弁9が開いて、第一の内管3内の圧力は大気圧相当まで減圧される。運転初期においては、水が注入される第一の外管2と蒸気が取り出される第一の内管3との圧力差がないため、第一の内管3と第一の外管2とは同一水位で上昇し、第一の内管3内に水が貯留する事態が発生しやすいが、第一の内管3に接続された圧力調整弁9が運転初期に開くことにより、第一の内管3内の圧力は大気圧相当まで減圧される。これにより、第一の内管3内の沸騰温度を下げることで、第一の内管3内での蒸気発生が促進される。
【0043】
このようにして、十分に蒸気を発生させた後、徐々に圧力調整弁9を閉じ、ほぼ同時に、蒸気生成弁10と蒸気弁12を開いて蒸気をタービン13に導入する。運転初期においては、蒸気の温度、圧力ともに低く、タービン13に直結した発電機は定格の発電容量を達成することができないため、負荷調整をすることによって対応することができる。
【0044】
また、図1に示すように、少なくとも1つの第一の外管2と、少なくとも1つの第一の内管3とが組み合わされてなる挿入管が、複数の生産井に対して挿入されて構成され、第一の内管3の出口が並列に接続されて、それぞれの生産井を用いて得られる蒸気が合計して採集されるようにすることができる。
【0045】
複数の生産井を並列に接続して、常時個別の生産井を監視し、最適の生産井を使用することにより、生産井全体の稼働率を向上させることができる。特に、凝縮水が貯留している生産井について、凝縮水を沸騰させるために圧力調整弁9が開いている生産井がある場合には、生産井を複数接続することによって、凝縮水が貯留している生産井を運転から外し、運転中の他の生産井から蒸気を供給してカバーすることができる。これにより、凝縮水の処理を、運転を継続しながら行うことができ、全体の稼働率を向上させることができる。このような前提で設計する場合には、計画時において、生産井の数を1〜2か所分差引いた数値を発電所全体の出力とすればよく、メンテナンススジュールに合わせた計画としてもよい。
【0046】
図2に、第一の内管内に凝縮水が貯留している状況を示す。
生産井から生産される熱量は、地熱帯4固有の状況による熱移動の遅れや、発電機の負荷変動等により変動する。そのため、運転中においても、これらの変動に起因して、蒸気が取り出される第一の内管3において圧力や温度が変わることになるため、第一の内管3の底部には、凝縮水14が溜まってしまうことが起こりうる。
【0047】
このような状況が生じることに対応するために、第一の内管3内の貯留水14の水位を検知する水位センサが設置されており、貯留水14の水位が基準水位を超えた場合には、水位センサからの信号により圧力調整弁9が開いて、第一の内管3内の圧力は大気圧相当まで減圧される。これにより、第一の内管3内での蒸気発生が促進されて、貯留水14を蒸気に変えることができる。
【0048】
次に、本発明の第二実施形態に係る地熱交換器と地熱発電装置を説明する。図3に、本発明の第二実施形態に係る地熱交換器と地熱発電装置を示す。
【0049】
図3において、地熱交換器21は、地中に設けられ地上から水が供給される第二の内管22と、第二の内管22の外側に配置された第二の外管23とを備えている。第二の外管23内の圧力は、タービン13が必要とする圧力近くに減圧されており、第二の内管22の上部領域22aと下部領域22bとを区切る仕切り24と、仕切り24の位置において第二の内管22の上部領域22aから下部領域22bへの水の流路の開閉を行う圧力弁25とを備えている。第二の内管22に自然の落差を利用して供給された水は、第二の内管22の底部付近において、地上からの深さにほぼ比例した圧力が加えられる。第二の内管22に水を供給するにあたって、給水ポンプ5を用いることができる。
【0050】
第二の内管22の下部領域22aには圧力水噴出口26が設けられている。第二の内管22の上部領域22aから下部領域22bへの水の流路の開閉を行う圧力弁25は、仕切り24の位置における水の圧力が基準値以下の場合には閉じており、仕切り24の位置における水の圧力が基準値を超えた場合には開いて、圧力水噴出口26へ高圧水が供給される。そのため、高圧の圧力条件を満たす場合にのみ、圧力水噴出口26から第二の外管23へシャワー状に噴射する。
【0051】
地熱帯4から熱が供給されて加温された第二の外管23に対して、第二の外管23よりも低温である第二の内管22内の高圧水が圧力水噴出口26から噴き出して、第二の外管23内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出される。第二の外管23が高温地熱帯と接触する部位は、熱伝導面積が広くなるような加工を施すことによって、熱伝導効率を高めて、第二の外管23の温度が十分に上昇するようにする。
【0052】
第二の外管23は、地熱帯4から熱が供給されて加温されて高温となっており、この第二の外管23に対して、第二の外管23よりも低温である第二の内管22内の圧力水が圧力水噴出口26から噴き出すことにより、加温沸騰により気化して、第二の外管23内で蒸気単相流に変換される。加温沸騰であるため、蒸気温度、蒸気圧力ともに高く維持することができる。このようにして、低温高圧の圧力水から高温の蒸気を生成することができ、簡易な装置構成によって効果的に蒸気単相流を得ることができる。より具体的な一例として、タービン13から出てきた約90℃の低温の水を第二の内管22に送り込み、坑井の深さにほぼ比例した低温高圧圧力水を生成し、圧力水噴出口26から噴き出して第二の外管23によって加温沸騰させる。
【0053】
地下にて生成された蒸気単相流は、第二の外管23とタービン13との圧力差でタービン13へ移動したのち、タービン13内で膨張してタービン13を回す動力となる。この動力によって発電機により発電がなされる。
【0054】
タービン13を出た蒸気はその後、復水器15にて冷却水により冷却されて水に戻り、再び第二の内管22に供給される。循環する水量はタービン13が必要とする蒸気量に等しいため、循環させる水量は非常に少なくて済む。この過程を繰り返すことによって、連続して地熱が取り出される。必要に応じて、補給水が補給水槽16から補給される。
【0055】
第二の外管23には圧力調整弁9と蒸気生成弁10とが接続されており、蒸気生成弁10は蒸気ヘッダー11に接続されている。蒸気ヘッダー11は、複数の地熱井から生産された蒸気をまとめて、単機のタービン13に供給するような場合に用いられるもので、これにより、圧力を均一化させることができる。
【0056】
地熱交換器21で生成された蒸気は、蒸気生成弁10を経て蒸気ヘッダー11へ送られる。蒸気ヘッダー11には、他の生産性に設置された地熱交換器21で生成された蒸気を蒸気ヘッダー11に送り込む蒸気生成弁10が接続されている。蒸気ヘッダー11は、蒸気弁12を介してタービン13に接続されている。
【0057】
運転初期においては、圧力調整弁9が開いて、第二の外管23内の圧力は大気圧相当まで減圧される。運転初期においては、水が注入される第二の内管22と蒸気が取り出される第二の外管23との圧力差がないため、第二の外管23と第二の内管22とは同一水位で上昇し、第二の外管23内に水が貯留する事態が発生しやすいが、第二の外管23に接続された圧力調整弁9が運転初期に開くことにより、第二の外管23内の圧力は大気圧相当まで減圧される。これにより、第二の外管23内の沸騰温度を下げることで、第二の外管23内での蒸気発生が促進される。
【0058】
このようにして、十分に蒸気を発生させた後、徐々に圧力調整弁9を閉じ、ほぼ同時に、蒸気生成弁10と蒸気弁12を開いて蒸気をタービン13に導入する。運転初期においては、蒸気の温度、圧力ともに低く、タービン13に直結した発電機は定格の発電容量を達成することができないため、負荷調整をすることによって対応することができる。
【0059】
また、図3に示すように、少なくとも1つの第二の内管22と、少なくとも1つの第二の外管23とが組み合わされてなる挿入管が、複数の生産井に対して挿入されて構成され、第二の外管23の出口が並列に接続されて、それぞれの生産井を用いて得られる蒸気が合計して採集されるようにすることができる。
【0060】
複数の生産井を並列に接続して、常時個別の生産井を監視し、最適の生産井を使用することにより、生産井全体の稼働率を向上させることができる。特に、凝縮水が貯留している生産井について、凝縮水を沸騰させるために圧力調整弁9が開いている生産井がある場合には、生産井を複数接続することによって、凝縮水が貯留している生産井を運転から外し、運転中の他の生産井から蒸気を供給してカバーすることができる。これにより、凝縮水の処理を、運転を継続しながら行うことができ、全体の稼働率を向上させることができる。このような前提で設計する場合には、計画時において、生産井の数を1〜2か所分差引いた数値を発電所全体の出力とすればよく、メンテナンススジュールに合わせた計画としてもよい。
【0061】
第二の内管22に注入される水を加熱する加熱器が地上に設けられている構成とすることができる。具体的には、加熱器は、復水器15の出口から、第二の内管22の入口の間で適宜設置することができ、補給水槽16に取付けてもよい。
【0062】
運転初期においては、タービン13と復水器15は稼働しておらず、第二の内管22に注入される水の温度は低い状態であるため、第二の内管22の出口から噴出される水の温度が低い状態のまま、蒸気発生部に吹き付けられることになるため、温度の低い蒸気が生産され、タービン出力が低下することが起こり得る。
【0063】
この事態が発生することを防止するために、第二の内管22に注入される水を加熱する加熱器が地上に設けられている構成とすることにより、第二の内管22に注入される水の温度を規定温度に保つことができ、システムを安全に起動させることができる。
【0064】
図4に、第二の外管内に凝縮水が貯留している状況を示す。
生産井から生産される熱量は、地熱帯4固有の状況による熱移動の遅れや、発電機の負荷変動等により変動する。そのため、運転中においても、これらの変動に起因して、蒸気が取り出される第二の外管23において圧力や温度が変わることになるため、第二の外管23の底部には、凝縮水14が溜まってしまうことが起こりうる。
【0065】
このような状況が生じることに対応するために、第二の外管23内の貯留水14の水位を検知する水位センサが設置されており、貯留水14の水位が基準水位を超えた場合には、水位センサからの信号により圧力調整弁9が開いて、第二の外管23内の圧力は大気圧相当まで減圧される。これにより、第二の外管23内での蒸気発生が促進されて、貯留水14を蒸気に変えることができる。
【0066】
図5に、蒸気飽和曲線と本発明の第二実施形態における加温沸騰の仕組みを示す。
水が注入される第二の内管22の上部に200mの空気層が形成されている場合を想定すると、第二の内管22の底部の圧力は表1のようになる。なお、以下の表中においては、内管は第二の内管22を示し、外管は第二の外管23を示している。
【0067】
【表1】
【0068】
また、温度と飽和蒸気圧との関係を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表1、表2に示した数値に基づき、第二の内管22の底部の圧力と温度、第二の外管23の底部の温度、および第二の外管23において発生する蒸気の温度と圧力を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示すように、第二の外管23は、地熱帯4から熱の供給を受けて、第二の内管22よりも高温となっている。図5に示すように、第二の内管22から温度90℃、圧力2.94MPaの圧力水を、温度180℃、圧力0.476MPaの領域である第二の外管23へシャワー状に噴出して、150℃の蒸気を生産する。これにより、加温沸騰が実現する。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の地熱交換器および地熱発電装置は、運転初期における固有の要因や、運転中における圧力や温度の変動に起因して、蒸気が取り出される管の底部に凝縮水が貯留する事態が生じたときにも、効率よく蒸気を取り出すことが可能な地熱交換器および地熱発電装置として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 地熱交換器
2 第一の外管
3 第一の内管
4 地熱帯
5 給水ポンプ
6 開閉弁
7 噴出口
8 管
9 圧力調整弁
10 蒸気生成弁
11 蒸気ヘッダー
12 蒸気弁
13 タービン
14 貯留水
15 復水器
16 補給水槽
21 地熱交換器
22 第二の内管
22a 上部領域
22b 下部領域
23 第二の外管
24 仕切り
25 圧力弁
26 圧力水噴出口
【要約】
【課題】運転初期における固有の要因や、運転中における圧力や温度の変動に起因して、蒸気が取り出される管の底部に凝縮水が貯留する事態が生じたときにも、効率よく蒸気を取り出すことが可能な地熱交換器および地熱発電装置を提供する。
【解決手段】地熱交換器1は、地中に設けられて地上から水が供給される第一の外管2と、第一の外管2の内側に配置され地中に設けられた第一の内管3とを備えている。第一の内管3の底部において、第一の外管2から第一の内管3への水の流路の開閉を行う開閉弁6が設置され、噴出口7は管8によって開閉弁6と連結されている。開閉弁6は第一の外管2底部の水の圧力と温度が基準値以下の場合には閉じており、第一の外管2底部の水の圧力と温度が基準値を超えた場合には開いて、噴出口7へ高圧熱水が供給されて蒸気単相流が生成される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5