(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
窒素環境で複合スパッタリングターゲットを用いてMgOおよびTiOを堆積させてMgO−Ti(ON)層を形成することを備え、前記複合スパッタリングターゲットは最大でも25体積%のMgOを含み、さらに、
前記MgO−Ti(ON)層の上にFePt磁気層をエピタキシャル成長させることを備える、方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
熱アシスト磁気記録(HAMR)は、記録層内に用いられる材料の高い磁気結晶異方性のために、磁気記録の面密度を増大させる能力を有する。HAMR媒体を形成するために、1つ以上の副層を用いて、高異方性磁気記録層の粒径を方位付けるおよび/または制御することができる。たとえば、FePtを含む記録層については、これらの副層を用いてFePt膜のLl
0(001)テクスチャを誘発することができる。FePt(または他の磁気層)の微細構造は、c軸分散および粒径などの磁気層の微細構造を制御する際に役割を果たす真下の副層に依存する。たとえば、副層は以下の特性、すなわち、1)磁気層エピタキシャル成長のための好適な格子構造、2)化学的安定性および拡散障壁、3)単数または複数の磁気層からヒートシンク層への迅速な熱輸送に適した熱抵抗および/または伝導、ならびに(4)単数または複数の磁気層を必要な記録温度に加熱するのに必要なレーザ出力の制御、のうちの1つ以上を提供し得る。
【0008】
HAMR媒体は商業的に大量生産される。HAMR媒体は、上述の性能特性を満たすことに加えて、大量生産環境に耐える必要がある。大量生産技術の一例は、直流(DC)スパッタリングである。DCスパッタリングは、電圧、システム圧力、スパッタ堆積パターン、ターゲット材料の種類、堆積速度、および低い欠陥レベルにおいて、他のスパッタリング技術(たとえば無線周波数(RF)スパッタリング)と異なる。従来のセラミックMgO中間層はDCスパッタリングすることができない。混合した酸素およびアルゴンのガス環境で金属マグネシウムターゲットを用いてパルスDCスパッタリンを使用することができるが、これは高い粒子生成を引起こす傾向がある。研究所環境で開発および試験された副層材料は性能特性を満たし得るが、これらの材料は必ずしも商用の大量生産技術に耐えるようにスケールアップするとは限らない。たとえば、MgO−TiOを含む副層を中間層として用いることが提案されている。しかし、これらのMgO−TiO中間層は、DCスパッタリング技術で堆積されると、達成する磁性が従来のMgO中間層と比較して不十分であるか、またはMgO−TiOターゲット組成がより高いMgO含有量に向かって変化すると高い粒子生成を引起こした。したがって、研究所環境で生産される媒体についての有望な性能試験結果を商業環境で生産される媒体が示すことは信頼できない。
【0009】
本明細書中に記載される実施形態は、磁気スタック内で基板と磁気記録層との間に配列されるMgO−Ti(ON)層(以下「MTON層」)の使用に関する。MTON層は、磁気記録層について上述した特性のうちの少なくともいくつかを提供し得る。MTON層は、磁気層エピタキシャル成長(たとえばFePt(001)エピタキシャル成長)の方位を促進することに加えて、磁気記録層の粒状の二相成長を支持し得る。さらに、MTON層は、高い堆積速度および結果として生じる低い欠陥レベルでDCスパッタリングによって生成されつつ、スタック内に特定量の熱抵抗率および/または伝導率も提供し得る。
【0010】
図1Aは、MTON中間層130を含む磁気スタック100を示す。MTON層130は、スタック100内の磁気記録層140の下にある。
図1Aに示されるように、MTON層130は、基板110と磁気記録層140との間に配置され、たとえば堆積される。磁気記録層140上に保護的なオーバーコートまたは潤滑層150が配置され得る。磁気記録層140は粒状の二相層である。磁気記録層140の第1の相は磁性粒子を含み、第2の相は磁性粒子の粒界の間に配置される非磁性分離体を含む。非磁性分離体は、C、SiO
2、Al
2O
3、Si
3N
4、BN、または別の代替的な酸化物、窒化物、ホウ化物、もしくは炭化物材料のうちの1つ以上を含み得る。磁性粒子に適した材料は、たとえばFePt、FeXPt合金、FeXPd合金、CoPt、CoXPtを含み、Xはドーパントである。さまざまな組合せにおけるこれらの材料のうちのいずれかが磁気層140に用いられ得るが、本明細書中に提供される例では磁気記録層材料としてFePtに注目する。いくつかの構成では、磁気記録層は、FePtの磁性結晶粒子、ならびに結晶粒子同士の間に配置されるSiO
xおよびCを含む非磁性分離体を含む。磁気層は、約35〜約45体積%の量のSiO
x、および約20体積%の量のCを含み得る。
【0011】
中間層130はMgOとTi(ON)との組合せ、すなわちMTON層を含む。MgOの組成は、MgOが線状化合物(line compound)であるようにMg:O=1:1の比を有し、Ti:(ON)の組成は約1:1である。Ti(ON)中の(ON)の組成は(O
yN
1-y)であり、yは好ましくは0.5<y<1であり、酸素を豊富に含むTi(ON)が得られる。したがって、MTON層は(MgO)
x(Ti
0.5(O
yN
(1-y))
0.5)
1-xと記述することができる。Ti(ON)に対するMgOの比は変化し得るが、MTON層は20〜25体積%のMgO、好ましくは最大でも20体積%のMgOを有し得る。したがって、MTON層は(MgO)
x(Ti(ON))
1-xと記述することができる。以下にさらに記載されるように、MgOの量はMTON層の堆積の方法によって決定され得る。
【0012】
MTON層130は、1〜500オングストロームの厚みを有する連続層である。MTON層130の各成分、すなわちMgO、TiO、およびTiNはNaCl型結晶構造を有し、同様の、またはほぼ同一の格子パラメータを有する。それらのそれぞれの相図データは、たとえば、MgOは約0.42121nmのセルパラメータを有し得、TiOは約0.4177のセルパラメータを有し得、TiNは約0.4239nmのセルパラメータを有し得ることを示している。一酸化チタン(TiO)の高温相はNaCl型結晶構造を取り、Ti:O原子比はTiO
0.7〜TiO
1.25に及び、格子中にかなりの量の空位が存在する。それらの空位に窒素を加えると、純粋なTiOがそのNaClの秩序を失う室温であってもNaCl型格子を安定させることができる。安定したNaCl型結晶相は、MgOおよびTiNと同様に、磁気記録層のための成長方位テンプレートまたシード層としても作用する。
【0013】
いくつかの実施形態では、磁気スタック105は、
図1Bに示されるように、さらなる下層とともにMTON中間層130を含み得る。
図1Bは、
図1Aのスタックと多くの点において同様の、基板110、中間層130、磁気記録層140、およびオーバーコート150を有するスタックを示す。これらの層110,130,140,150は、
図1Aに関して説明されたのと同じ参照番号を有する層と同様の特徴および材料を有し得る。
図1Bは、スタック下層の一部としてヒートシンク層120を示す。HAMR媒体の加熱は所望温度(少なくともキューリー点近傍)に達するように十分強力である必要があるが、冷却速度は媒体の冷却時に書込まれた情報の熱不安定化を回避するように十分速くなくてはならないため、層120などのヒートシンク層がHAMR媒体で用いられて熱管理を容易にする。これらの問題、すなわち熱伝達システムの効率および速い冷却速度は両方とも相互に競合的であり、冷却速度が速いほど一定の温度増加を達成するために必要な加熱出力が増加する。いくつかの構成では、ヒートシンク層120は(200)Cu、Mo、W、またはCuXなどのそれらの合金を含み得る。
【0014】
銅(Cu)および/またはCuX(たとえばCuXであり、Xは約50分子パーセント未満の任意の1つもしくは複数の可溶性要素であってもよい)は、HAMRヒートシンク層に有用であるように十分高い熱伝導率を提供する。しかし、CuおよびCuXの層は(111)方位で成長する傾向がある。(111)ヒートシンク層を含む磁気スタックは、磁気スタック内の以降の層、たとえばLl
0相について(200)方位においてヒートシンク層上に成長する磁気記録層のための成長方位を提供またはリセットするヒートシンク層上に配置される1つ以上の追加層を採用し得る。Cuベースのヒートシンク内に(200)および(111)の混合方位粒子を有すると膜スタック内にかなりの表面粗さが誘発され、これは磁気記録媒体用途において好ましくない。
【0015】
表面エネルギ考慮のため、MoおよびWなどの体心立方(BCC)構造のヒートシンク材料は好ましくは(200)ではなく(110)方位を有する。Cuベースのヒートシンクと同様に、(200)ヒートシンク層を含む磁気スタックは、ヒートシンク層上に配置される1つ以上の追加層を採用して、磁気スタック内の以降の層のための成長方位を提供またはリセットし得る。(200)および(110)の混合方位粒子は高い媒体粗さの一因となり、これは好ましくは磁気記録媒体用途において回避される。
【0016】
ヒートシンク層120と組合されたMTON中間層130は、たとえば約80W/m−K〜約400W/m−Kの範囲内の好適な熱伝導率を提供し、非(200)方位のヒートシンク層上に成長する磁気記録層と比較して粗さが低い磁気記録層を生成する方位テンプレートをさらに提供する。
【0017】
スタック105は、ヒートシンク層120に加えて、基板110とヒートシンク層120との間に配置されるシードおよび/または接着112層を含み得る。たとえば、約3.5nmの厚みを有するタンタル層である接着層112が基板上に配置されて基板と隣接層との間の接着を促進し得る。接着層112は、スタックの残りの部分からの基板の層間剥離の可能性を減少させるために用いられる。スタックは接着層112上に配置されるシード層を含み得、シード層は上記の層のための適切な成長方位を開始する。
【0018】
スタック105はさらに、書込動作時に磁気書込フィールドによって生成される磁束の戻り経路として機能するように配列される軟磁性下地層(SUL)118を含み得る。SUL118は、基板110(およびシード/接着層がある場合はこれらの層)とヒートシンク層120との間に配置される。SUL118は非結晶性および/または結晶性材料を含み得、約5nm〜約500nmの、または1,000nmもの厚みを有し得る。たとえば、SUL118は、CoFe、FeCoB、FeAlN、FeAlSi、NiFe、CoZrNb、またはFeTaNなどの任意の好適な材料からなり得る。SUL118はさらに積層構造を含み得、および/または反強磁性結合(AFC)SUL層を含み得る。
【0019】
少なくともMTON中間層および磁気記録層を含む磁気スタックは、
図2のフローチャートに開示されるように生成される。MTON層を形成する前に、基板を処理し、接着層、軟磁性下地層、および/または1つ以上のヒートシンク層などの随意の下地層を塗布する。これらは当該技術において公知の標準的な技術を用いて作製され、これ以上説明されない。MTON層を形成するため、窒素環境でMgOおよびTiOをスパッタ堆積させる210。
【0020】
本明細書中に説明される実施形態によると、MTON層は、高温(400℃以上)でマグネトロンスパッタリングを用いてMgOおよびTiOを含む複合ターゲットをDCスパッタリングすることによって堆積される。さまざまなスパッタリング技術も使用可能であるが、たとえばRFスパッタリングと比較して達成可能な堆積率(スループット率)が高いためにDCスパッタリングが好ましい。DCスパッタリングは、チャンバ汚染の低下ももたらす。開示される実施形態については、RFスパッタリングは必要でない。複合ターゲット内のMgOの量は、スパッタリング技術によって決定され得る。たとえば、DCおよび/またはパルスDCスパッタリングについては、複合ターゲットは最大でも20〜25体積%のMgOを含む。DCスパッタリングは、スパッタリングガスがアルゴンおよび窒素などの不活性ガスを両方含むように、窒素環境で起こる。窒素の量は、以下にさらに説明されるように、流量によって変化する。
【0021】
MgO、TiO、およびTiNの各々はNaCl型結晶構造を有し、同等のセルパラメータを有するため、結果として得られるMTON層はNACl型結晶構造を維持する。この結晶構造によって、スタック上の磁気記録層の成長が可能になる220。堆積させたMTON層上に、FePt(001)エピタキシャル成長層を作製する。FePtは、MTON層上に直接成長させることができる磁気記録層であり、または付加的な中間層が介在してもよい。スタックは、多層磁気記録層および保護オーバーコート層などのさらなる層を含み得る。
【0022】
上述のように、MTON中間層は窒素環境で作製されるため、中間層はTi(ON)の形態の窒素を含むことになる。以前の中間層は窒素を含んでおらず、代わりにMgO−TiOで構成されていた。しかし、これらの以前の中間層は、DCスパッタ堆積されると必要な磁性を達成していなかった。TiOを含む空位は、媒体が作製されると金属TiまたはTiO
2およびTi
2O
3などのより高次のTi酸化物に解離する傾向がある。金属TiがFePt記録層に拡散すると、セラミックMgO中間層を含む媒体と比較して磁気性能が劣化する。TiO
2およびTi
2O
3などのより高次のTi酸化物の付加的な純度は、粒子として欠陥生成の一因となる。複合MgO−TiOターゲットの内部の絶縁不純物の存在、およびさらに、スパッタリングガス環境の内部の酸素の存在は、堆積プロセス時に粒子生成をさらに増加させる。したがって、DCスパッタリングで作製される以前の中間層を含む媒体は不十分であった。
【0023】
開示される実施形態の窒素反応性スパッタリングは、MgO−TiO−TiNで構成される中間層を形成するためにTiNを加えることによって、堆積層の結晶相を安定させる。MgO−TiNを含む層が作製され得るが、必要なMgO含有量は、成膜がRFスパッタリングを必要とするように50体積%を超える。したがって、Ti(ON)の形態の酸素はDCでのスパッタリングを可能にする。
【0024】
図3A〜
図3Cは、複合ターゲットにおいてMgO:TiO=1:1の比で中間層に窒素を加えた結果の磁性の変化を示す。まず、
図3Aは、アルゴンのみの環境でDCスパッタリングされた中間層を有する媒体についてのM−Hヒステリシスループを示す。
図3Aの媒体は、測定保磁力が約24.6kOeであった。しかし、
図3Bは、ほぼ同じ条件下で作製し、例外は、中間層についてのスパッタリング環境が2標準立方センチメートル/分(sccm)の流量で窒素を含むことであった媒体についてのM−Hヒステリシスループを示す。窒素を加えることによって、
図3BのM−Hループの近づきにくい開口(hard access opening)の改良された幅によって示されるように、FePtテクスチャが改良された。
図3Bの媒体は、測定保磁力が約38.6kOeであった。
図3CのM−Hループは、媒体が同様の条件下で作製され、例外は、中間層の堆積時に窒素の流量を4sccmに増加したことであったため、
図3Bのループと同様である。
図3Cの媒体の保磁力も、38.9kOeでやや高いと測定された。
【0025】
磁性およびFePtテクスチャの改良は、
図4のX線回折グラフにおいても検出され得る。
図4は20〜70度範囲内の従来のシータ−2シータスキャンであり、縦軸はそれぞれの中間層内の窒素の量を変化させたサンプルについてのカウント/秒である。24度および48度におけるFePt001および002ピーク強度は、サンプルの中間層内の窒素の量とともに変化する。中間層に窒素を含まないサンプルについての結果は、参照番号410によって特定される。001FePt信号は、窒素を含むサンプルと比較して著しく弱い。Ti(ON)中の窒素は、垂直磁気記録媒体を作製するのに使用される高速/出力密度DCスパッタリング条件下でもNaCl相を安定させるように作用する。堆積中間層についての窒化の程度は、スパッタリング環境におけるAr:N
2ガス比を変化させることによって制御される。代替的に、所望の窒素中間層組成は、MgO−Ti(ON)スパッタリングターゲットを用いて制御することもできる。たとえば、組成は、TiO中の生のTi:O比に基づいて最適化することができる。中間層組成に窒素を加えるために、スパッタリング環境におけるアルゴンに対する窒素のさまざまな比を試験した。
【0026】
図5は、スパッタリング環境で窒素の量を変化させて堆積させた中間層を有する媒体サンプルについての信号対雑音比(eSNR)およびレーザ出力(LP)の減少の両方を示す。各媒体(ディスク)は、左のy軸上のゼロ点によって表わされる基準媒体に対して評価される。ディスク試験が基準媒体に近づくにつれて(より正の数になるにつれて)、結果は改良されたeSNRを表わす。
【0027】
右のy軸上には、最適なeSNRを達成するためのレーザ出力の減少も示されている。たとえば、基準媒体は100%レーザ出力で表わされるため、75%LPの測定は、サンプルディスクに最適なeSNRを達成するためにレーザ出力を25%減少できることを意味する。
図5は、レーザ出力が約25%減少した状態で、eSNRが、窒素添加中間層(MTON中間層)についての基準媒体の近傍にまたはやや上方にあり続けることを示している。HAMR記録では、書込動作時のレーザ出力減少は、記録媒体の膜層への熱流を制限する熱抵抗器の存在を示す。減少したレーザ出力はHAMRヘッドの信頼性を改良する際の好ましい要因であり、一般にレーザ出力が低いほどHAMRヘッドの動作寿命が延びる。
【0028】
スパッタリング環境に窒素を導入すると、MTON中間層の堆積率も減少する。
図6は、スパッタリング環境で窒素の量を変化させて堆積させた中間層を有する媒体サンプルについての中間層膜成長率を示す。図中、堆積率は、ターゲット組成に係わらず、スパッタリング環境における窒素の量が増えるにつれて予測可能な態様で変化することがわかる。たとえば、MgO:TiO=40:60、50:50、および20:80などの比を有するターゲット(異なるターゲット組成は異なる形のデータ点によって表わされる)は両方とも、窒化とともに膜成長率の低下を経験する。これに対して、窒素を有しない場合、同じターゲットに対する膜堆積率は予測不可能に変化する。また、スパッタリングガス中の最大約20%窒素までの堆積速度の変化によって、中間層内のTi(ON)中の窒化の程度が変化する。しかし、TiO
2およびTi
2O
3などの高度に酸化された相は、中間層TiO内に存在すべきでない。高度に酸化された相は絶縁性を有し、スパッタリングプロセスにおいて付加的な粒子源を作り出し、媒体内の付加的な欠陥につながる。
【0029】
窒素流量を変化させると、MTON中間層の熱伝導率にも影響し得る。
図7Aは、反応性スパッタリング時の2つの異なるMgO:TiOターゲット比および変化する窒素ガス流を有する中間層の熱伝導率変化を表わす。当該層は層内で横方向に、かつ磁気記録層から離れるように垂直方向に熱を伝導する。図の左側の、TiO組成が高い方の中間層では、窒素を有するおよび有さない場合の熱伝導率の変化は50%を超える。したがって、HAMR媒体スタック内の熱流は、スパッタリングターゲット内のMgO:TiO比の選択によって、かつTi(ON)中の窒素の量によって調整することができる。両要因とも、DCスパッタリングプロセスにおけるMTON中間層の作製時に制御される。
【0030】
図7B〜
図7Cを参照してDCスパッタリングプロセスをさらに説明する。MTON中間層を堆積させる際の2つの主要な変数は、MgO−TiOターゲットの組成、およびスパッタリングガス中の窒素の量である。ターゲットの組成に関して、TiOに対するMgOの比は変化し得る。異なる例の比は20:80、40:60、および50:50である。しかし、本明細書中に開示されるようなMTON層については、ターゲットの組成は最大でも20体積%のMgOを含むことが好ましい。TiOはNaCl型結晶構造を提供する組成範囲を有するため、Ti:O比は変化し得る。Ti:O組成は、生のTiO材料および/またはターゲット作製プロセスのために変化し得る。表1は、MgO:TiO組成比を変化させたサンプルターゲットの特性を示す。
【0032】
上記の特性に基づいて、DCスパッタリングは、最も左の列のターゲット以外は、各ターゲットとともに使用することができる。MgOはDCスパッタリングのみをすることはできない。DCスパッタリング技術を用いてMgO含有量がより高い(たとえば70%および60%)ターゲットを使用することも可能であるが、これは好ましくない。
【0033】
スパッタリングガス中の窒素の量に関して、上述のように、当該量はDCスパッタリング時の窒素の流量を変化させることによって制御される。
図7Bは、いくつかの実施形態に従うMTON中間層を達成するためにN
2の存在下でMgO−TiOをスパッタリングすることを含む、MTON層を成長させる手法を示す。ステップ1において、24標準立方センチメートル/分(sccm)のアルゴンおよび16sccmのN
2がスパッタリングの開始前に2秒間スパッタリングステーションに流れ込む。ステップ2において、MgO−TiOを0.5kWで16秒間DCスパッタリングする。なお、本明細書中に記載される例ではDCスパッタリングが用いられるが、MTON層の堆積にはACまたはRFスパッタリングも適している。ステップ2の間、アルゴンおよびN
2の流れは両方ともステップ1と同一に維持される。ステップ3において、アルゴン流量を5sccmに減少させ、N
2の流れを止める。
図7Bの手法は、MgO−TiO−TiNを含む中間層、たとえば(MgO)
x(Ti
0.5(O
yN
(1-y))
0.5)
1-xを提供する。堆積層内の酸素の量は、以降のFePt層の濡れ、および結果として得られる方位制御に影響する。また、堆積層に窒素を加えると、窒素を有しない中間層と比較して、以降のFePt層内により細かい粒子が提供される。流量およびターゲット組成を変化させると、サンプル媒体を、所望の磁性を有するMTON中間層と比較することができる。たとえば、SNRが正に逸脱し、レーザ出力が約25%減少した媒体は、HAMR記録の一定の要件を満たす。
【0034】
図7Cは、いくつかの実施形態に従うMTON中間層を達成するためにN
2の存在下でMgO−TiOをスパッタリングすることを含む、MTON層を成長させる別の手法を示す。ステップ1において、150sccmのアルゴンおよび10sccmのN
2がスパッタリングの開始前に1秒間スパッタリングステーションに流れ込む。ステップ2において、MgO−TiOを0.6kWで8.5秒間DCスパッタリングする。なお、本明細書中に記載される例ではDCスパッタリングが用いられるが、MTON層の堆積にはACまたはRFスパッタリングも適している。ステップ2の間、アルゴンおよびN
2の流れは両方ともステップ1と同一に維持される。ステップ3において、アルゴン流量を5sccmに減少させ、N
2の流れを止める。
図7Cの手法は、MgO−TiO−TiNを含む中間層、たとえば(MgO)
x(Ti
0.5(O
yN
(1-y))
0.5)
1-xを提供する。
【0035】
スパッタリングプロセスは、1つまたは複数の所望の層を堆積させることに加えて、異質粒子を生成する。これらの粒子は、製作される記録媒体内の欠陥を引起こす。製作プロセスが改良するにつれて、これらの欠陥は、たとえば10,000から100未満に減少している。これまで、サンプル媒体内に分析される粒子の大部分(90+%)は、従来のMgO中間層のスパッタリングに起因していた。
図8Aは、パルスDCの従来のMgO中間層を有する媒体サンプル内の粒子の数(〜100−200)を示す。スパッタリングプロセスの改良は、ターゲットおよびシールド改良、より小バッチでの作製(たとえば一度に100ディスク)、ならびに処理制御の改良された安定性を含んでいる。しかし、パルスDC技術は依然として、データゾーン当たり約150個の粒子を生じる。これに対して、
図8Bは、DCスパッタリングされたMTON層を有する媒体サンプル内の粒子の数を示す。垂直磁気記録のようなソースおよびシールド構成を用いると、MTON層状サンプルはより少ない欠陥(たとえば<100個の粒子)を生じた。さらに、分析した粒子の大部分は複合FePTターゲットに起因しており、MTON層の堆積に起因する粒子はごくわずかであった。
【0036】
粒子の減少に加えて、DCスパッタリングされたMTON層は、レーザ出力およびSNRに対する厚み依存性を有する。
図9Aおよび
図9Bは、これらのそれぞれの関係を示す。たとえば、
図9Aは、MTON中間層の厚みが増大するにつれてレーザ出力がさらに減少することを示している。したがって、MTON層の厚みは記録媒体の熱伝導率に影響する。
図9Bは、SNRが厚みが増加するにつれて、少なくとも最大で一定点まで改良することを示している。対応するデータ点910および920は、約22nmの厚みにおける改良されたSNRと減少したレーザ出力との好ましい組合せを示す。従来のMgO中間層はこれらの特性に対する厚み依存性をほとんど示さなかったため、そのような媒体は少なくとも第2のヒートシンク層を含んでいた。説明された実施形態ではMTON中間層によって示される厚み依存性があるため、そのようなヒートシンク層は必要でない場合がある。
【0037】
上述のように、MTON層によって示されるレーザ出力の減少は、MTON層が熱抵抗器であることを示している。セラミックMgO中間層とは対照的に、記録に必要なレーザ出力はMTONの厚みとともに変化する。MgO/ヒートシンク界面の存在が、MgOの厚みの代わりに、MgO中間層内のレーザ出力を決定した。したがって、MTON中間層は、セラミックMgO中間層を用いて見られるような界面抵抗の代わりにバルク抵抗を示す。MTON層は、(たとえばシード層としての)FePt層の方位を決定するように、かつ熱を第2のヒートシンク層として閉じ込めるように働く。MTON層は、当該層の組成および/または厚みに基づいて調整することができる。
【0038】
さまざまな実施形態の構造および機能の詳細とともに、さまざまな実施形態の多数の特徴が上記の説明において示されたが、この詳細な説明は例示目的に過ぎず、特に添付の請求項が表現されている用語の広範な一般的な意味によって示される最大限度まで、さまざまな実施形態によって示される部分の構造および配列の事項において変更が詳細になされ得ると理解すべきである。