特許第6067207号(P6067207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6067207選択した組織へ組成物を送達するための材料と方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067207
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】選択した組織へ組成物を送達するための材料と方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/04 20060101AFI20170116BHJP
   A61F 9/00 20060101ALI20170116BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20170116BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20170116BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20170116BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20170116BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20170116BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20170116BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20170116BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   A61K47/04
   A61F9/00
   A61K9/14
   A61K31/573
   A61K31/7088
   A61K37/547
   A61K39/395 D
   A61K39/395 N
   A61K39/395 V
   A61M37/00 550
   A61P9/00
   A61P27/02
【請求項の数】16
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2010-516212(P2010-516212)
(86)(22)【出願日】2008年7月9日
(65)【公表番号】特表2010-533198(P2010-533198A)
(43)【公表日】2010年10月21日
(86)【国際出願番号】US2008069474
(87)【国際公開番号】WO2009009563
(87)【国際公開日】20090115
【審査請求日】2011年5月24日
【審判番号】不服2014-3974(P2014-3974/J1)
【審判請求日】2014年3月3日
(31)【優先権主張番号】60/948,816
(32)【優先日】2007年7月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】フリーマン,ウィリアム,アール.
(72)【発明者】
【氏名】セーラー,マイケル,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】チェン,リンユン
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 須藤 康洋
【審判官】 関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/050221(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72, 47/00-47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細孔を含む二酸化ケイ素粒子材料;およびそれらの細孔内に薬物または生物活性材料を含む組成物であって、
前記二酸化ケイ素粒子材料が酸化環境のもとで600℃を超える温度で多孔ケイ素を加熱することにより形成され、および
前記粒子材料は眼中にまたは眼の表面上に送達するように寸法化および形状化されている、前記組成物。
【請求項2】
前記二酸化ケイ素粒子材料が0.1μm〜100μmのサイズを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記二酸化ケイ素粒子材料が、酸化環境のもとで700℃を超える温度で多孔ケイ素を加熱することにより形成された、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記二酸化ケイ素粒子材料が、酸化環境のもとで800℃を超える温度で多孔ケイ素を加熱することにより形成された、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記薬物または生物活性材料が新血管新生を阻害する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記薬物または生物活性材料が、血管新生抑制性ステロイド、メタロプロテイナーゼインヒビター、VEGFに対する抗体、色素上皮由来の因子、ウロキナーゼの8量体ペプチド断片、改変されたRNA、改変されたDNA、免疫グロブリン由来のフラグメント、またはデキサメタゾンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記薬物または生物活性材料が、ベバシズマブ、ラニビズマブ、および/またはペガプタニブである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
製薬上許容される担体および請求項1に記載の組成物を含む、医薬組成物。
【請求項9】
眼の疾患または障害を治療するための請求項1に記載の組成物であって、眼中に注入する前記組成物。
【請求項10】
眼の或る位置へ制御された薬物送達をするための組成物を調製する方法であって、複数の細孔を含む二酸化ケイ素粒子材料を提供するステップ、ここで、前記粒子材料は眼中にまたは眼の表面上に送達するように寸法化および形状化されている;および前記粒子材料に薬物を充填するステップを含み、
前記粒子材料が酸化環境のもとで600℃を超える温度で多孔ケイ素を加熱することにより形成される、前記方法。
【請求項11】
前記粒子材料を、酸化された多孔ケイ素フィルムをいずれの次元についても100μm以下のサイズの粒子に粉砕することにより形成する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記粒子材料を、酸化環境のもとで700℃を超える温度で加熱することにより形成する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記粒子材料を、酸化環境のもとで800℃を超える温度で加熱することにより形成する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記薬物が、新血管新生を阻害する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記薬物が、血管新生抑制性ステロイド、メタロプロテイナーゼインヒビター、VEGFに対する抗体、色素上皮由来の因子、ウロキナーゼの8量体ペプチド断片、改変されたRNA、改変されたDNA、免疫グロブリン由来のフラグメント、またはデキサメタゾンである、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記薬物が、ベバシズマブ、ラニビズマブ、および/またはペガプタニブである、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予めプログラムした量の組成物を外部の電力または電子工学を必要とせずに時間をかけて送達できる、送達系および、さらに特に、デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
症候群を改善するかまたは疾患および障害を治療するために、感染、疾患または障害の部位へ薬物を送達することは重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、特定の1以上の薬物の眼への送達に使用するための、最小限に侵襲性の制御された薬物送達系および方法であって、少なくとも1つの薬物を少なくとも部分的にその中に受け入れるように形状化(configured)および寸法化(dimensioned)された細孔を有する多孔フィルムまたは多孔フィルム粒子を含む前記送達系および方法を提供する。実施形態としては、眼内疾患を治療するためのデバイスと方法であって、特定の薬物を含浸した多孔フィルム粒子を、含浸した多孔フィルム粒子の眼内注入を可能にするように寸法化および形状化した前記デバイスと方法が挙げられる。他の実施形態としては、眼外疾患を治療するためのデバイスと方法であって、特定の薬物を含浸した多孔フィルム、生物分解性ポリマーレプリカ、多孔SiO2-ポリマー複合体、または多孔Si-ポリマー複合体を、眼の部分、例えば眼の表面または眼球後の表面と接触するように形状化し、薬物を制御放出して薬物の表面送達を果たす、前記デバイスと方法が挙げられる。有利なこととして、薬物の放出をモニターすることもでき、多孔基質中に残る薬物の量を正確に定量することができる。
【0004】
本開示は所望の反射波長および/または薬物送達速度を得るように選択的に寸法を定めた複数の細孔を含むケイ素材料;ならびに細孔内の薬物または生物活性材料を含む組成物を提供する。一実施形態において、ケイ素材料は二酸化ケイ素材料を含む。他の実施形態において、材料は約1μm〜100μmの微粒子サイズを含む。組成物はさらに、細孔をキャッピングするポリマー材料を含んでもよい。
【0005】
本開示はまた、多層ケイ素組成物であって、ケイ素材料;ケイ素材料上の第1の表面および第2の表面;第1の表面上の複数の第1の調整可能なサイズ(tunable size)の細孔;第2の表面上の複数の第2の調整可能なサイズの細孔;ならびに第1および/または第2の表面上の細孔内に配置された薬物または生体作用薬から成る多層ケイ素組成物も提供する。一実施形態において、ケイ素組成物は1μm〜100μmの粒子径サイズを含む。一実施形態において、ケイ素材料は二酸化ケイ素である。さらに他の一実施形態において、組成物はさらに、第1の側面および/または第2の側面の細孔をキャッピングするポリマーを含む。
【0006】
本開示はさらに、眼の部位へ制御された薬物送達をするためのデバイスを調製する方法であって:多孔ナノ構造のケイ素含有テンプレート(このテンプレートは、特定の薬物を受け入れるように形状化された細孔を有し、眼中にまたは眼の表面上に送達するように寸法化および形状化されている)を提供するステップ;ならびにテンプレートを薬物で充填するステップを含んでなる前記方法を提供する。本方法はさらに、ケイ素テンプレート、SiO2テンプレート、およびSiO2/ポリマー複合体テンプレートの1つを提供するステップを含んでもよい。さらに他の一実施形態において、本方法はさらにテンプレートに有機ポリマー、無機ポリマー、およびバイオポリマーの1つを配置するステップを含んでもよい。そしてさらなる実施形態において、本方法はケイ素含有テンプレートをそのポリマーから化学腐食および溶解の1つによって除去するステップを含んでもよい。本方法はさらに、コンタクトレンズに含まれるように形状化された担体となるように、テンプレートを寸法化および形状化するステップを含んでもよい。本方法はそのコンタクトレンズを前方眼外表面に隣接して据えるステップを含んでもよい。
【0007】
一実施形態において、本方法は、眼の眼球後表面に対する強膜プラークとなるように、テンプレートを寸法化および形状化するステップを含む。本方法は強膜プラークを眼球後表面と縫合するステップを含んでもよい。本方法は粒子を眼内に注入するステップを含んでもよい。本方法は、細孔中に配置される薬物の量に応じてモニタリング可能な光学的応答を有する粒子を形状化するステップを含んでもよい。さらに他の一実施形態において、本方法はさらに、1以上の薬物の周りの多孔テンプレートを酸化することにより、1以上の薬物を細孔内にトラップするステップを含んでもよい。酸化は、層状酸化を行うことにより繰り返しの間隔で行うことができる。例えば、酸化剤の添加を制御して、生体作用薬または薬物を細孔内にトラップすることができる。新しく調製した(水素化物末端の)多孔Si材料の酸化は細孔の効果的な縮みを生じる。これは、生成する酸化ケイ素がSi出発材料より大きい体積を有することから起こる。もし酸化剤を含有する溶液中に薬物も存在すれば、薬物はトラップされる。
【0008】
本開示はまた、特定の1以上の薬物を眼の特定の位置へ送達するための、最小限に侵襲性の制御された薬物送達デバイスであって、少なくとも1つの薬物を少なくとも部分的に受け入れるように形状化および寸法化された細孔を有する多孔フィルムテンプレートを含み;かつ前記テンプレートが眼中にまたは眼上に送達されるように形状化された薬物送達デバイスを提供する。
【0009】
本開示は、活性成分を制御放出するためのデバイスであって、a)複数のナノ開口部を含むポリマー層;b)非多孔基質層を含む基材;およびc)ポリマー層と基材の間に並列された少なくとも1つの貯蔵所(ここで、貯蔵所はポリマー層のナノ開口部と液の連絡があり、活性成分を含有するように形状化されている)を含む前記デバイスを提供する。
【0010】
本開示はさらに、親水性の多孔酸化ケイ素基質を作製する方法であって、多孔ケイ素基質を80℃を超える温度へ、ケイ素基質を酸化するのに好適な作用薬の存在のもとで加熱し、それにより親水性の多孔酸化ケイ素基質を作製するステップを含む方法を提供する。
【0011】
本開示はまた、疎水性の多孔ケイ素基質を作製する方法であって、多孔ケイ素基質を80℃を超える温度へ、ケイ素基質をヒドロシリル化するのに好適な作用薬の存在のもとで加熱し、それにより疎水性の多孔ケイ素基質を作製するステップを含む方法を提供する。
【0012】
本開示は、被験者を治療するためのパルス療法であって、a)ある症状を有する被験者を同定し、その症状を治療するのに好適な1以上の活性成分を選択するステップ;b)活性成分の量と型を、その症状を治療するのに好適なパルス療養投与プロファイルと関係づけるステップ;c)本開示のデバイスを、b)の投与プロファイルを被験者へ送達するのに好適なデバイスを得るように、形状化するステップ;およびe)そのデバイスを、被験者に関連する標的組織中にまたは上に、移植(implant)または外植(explant)するステップを含む前記治療法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1A〜Bは多孔Siを作製する方法と反応を示す。(A)は多孔Siを調製するために使用するエッチングセルの模式図を示す。電気化学的ハーフ反応を示し、p型Siウエーハのエッチングの等価回路を右側に示す。(B)は開示の一実施形態による、候補分子周囲の多孔Siを酸化する化学反応を示す。
図2図2は本発明の他の実施形態による、候補分子を内部極の壁と結合させる化学修飾反応を図解する。
図3図3A〜Bは代表的な光測定とポリマー複合体を示す。(A)は、分子種の多孔マトリックス中へ導入した時の多孔Siの単一層からの反射率スペクトルの変化を実証する模式図を示す。複合体フィルムの屈折率の変化はファブリ-ペロー(Fabry-Perot)干渉縞の赤色シフトをもたらす。逆反応もモニターすることができ、スペクトルの青色シフトをもたらす。(B)は、開示の実施形態に記載の多孔Siマスターを用いる、ポリマーフォトニック結晶のテンプレート合成を示す模式図である。
図4図4は2時間にわたる、アルキル化多孔ケイ素フィルムの光学厚さとリン酸緩衝化生理食塩水溶液に現れる薬物濃度との間の相関を図解するグラフである。
図5図5はバルクのケイ素基質から取り外して微粒子に粉砕する前の、無傷の多孔Siフィルムの断面走査電子顕微鏡写真を示す。細孔は、元来のケイ素結晶の<100>方向に沿って1列に整列している。
図6図6A〜Bは、酸化されてないおよび酸化多孔Si粒子を示す。(A)は5%ブドウ糖溶液の液滴中の新しい多孔Si粒子を示す。未修飾多孔Si粒子の疎水性に因って粒子凝集が観察される。(B)は5%ブドウ糖溶液の液滴中の酸化多孔Si粒子を示す。これらの粒子はより良く溶液中に分散しているのが観察され、おそらくSiO2表面の親水性の故であると考えられる。
図7図7A〜7Dは多孔Si粒子の硝子体注入を示す。(A)は新しい多孔Si粒子を硝子体注入した後に直ぐ、外科顕微鏡下で撮影した写真である。粒子が硝子体の中心部に懸濁しているのが観察される。多孔Si粒子と混合した少数の気泡が硝子体の空洞の頂部に存在する。(B)は注入後1週間に撮影した眼底写真であり、多孔Si粒子が硝子体中に分散しているのを示す。(C)は注入後2週間に撮影した眼底写真であり、ほとんどの粒子が消滅し、残存する粒子はほとんど観察されなかった。(D)は光顕微鏡写真であり、組織学処置中に網膜色素上皮から剥がれた正常な網膜を示す(25X、H&E染色)。
図8図8A〜Bは硝子体内のヒドロシリル化Si粒子の写真である。(A)はヒドロシリル化多孔Si粒子を硝子体内注入した直後、外科顕微鏡下で撮影した写真である。粒子が硝子体の中心部に懸濁しているのが観察される。(B)は注入後3ヶ月に撮影した眼底写真である。粒子が硝子体内に分散し、多くの粒子は明確な青色を呈して部分的分解と溶解を示した。
図9図9A〜CはSi粒子注入後の眼組織の写真を提供する。(A)解剖したウサギのアイカップと正常に見える網膜上に分布したヒドロシリル化多孔Si粒子との外科顕微鏡写真を示す。写真は注入後4カ月に撮影した。解剖中に生じた2条の網膜ひだが存在する。(B)は硝子体内の注入後4カ月にウサギ眼からサンプリングしたヒドロシリル化多孔Si粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。粒子の鋭いエッジとピッチングされた表面は非常に遅い浸食プロセスを示す。(C)は、ヒドロシリル化多孔Si粒子の硝子体内注入後9カ月に収穫したウサギ眼からの網膜と脈絡膜の光顕微鏡写真を示す。正常な脈絡網膜の形態学と構造が観察される(62.5x、H&E染色)。
図10図10A〜Dは、注入後の酸化多孔Si粒子の写真である。(A)は酸化多孔Si粒子を硝子体注入した後に直ぐ、外科顕微鏡下で撮影した写真である。粒子が硝子体中心部、視神経の上方に懸濁しているのが観察される。(B)は酸化多孔Si粒子の硝子体内注入後2週間に撮影したウサギ眼の眼底写真である。多数の紫色の粒子と正常な眼底を見ることができる。粒子は注入時、最初は緑色であった。紫色は、粒子の有意な酸化と溶解が起こったことを示す。いくつかの粒子はその鮮明な反射率を完全に失い、褐色に見える。(C)は多孔Si粒子の硝子体内注入後9週間に撮影した前記ウサギの眼底写真である。多数の粒子が分解してしまってもはや観察されない。眼底は正常である。(D)は酸化多孔Si粒子の硝子体内注入後4カ月に収穫したウサギ眼からの網膜と脈絡膜の光顕微鏡写真である。正常な脈絡網膜の形態学と構造が、わずかな人為的な網膜剥離と共に観察される(25x、H&E 染色)。
図11】ベバシズマブ(アバスチン)のSiO2粒子からの放出に関するデータである。
図12】本発明に提供される多孔Si微小粒子のユニークな特性に関するデータを提供する。かかる特性としては、自己報告能力をコードするスペクトル、ならびに放出速度を制御しかつ様々なペイロード(payload)を乗せる調整可能なナノ構造が含まれる。
図13】アバスチンの、本明細書に記載のSi微小粒子からの放出プロファイルについてのデータである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書および添付した請求の範囲で使用される、単数形「ある("a"および"an")」ならびに「その("the")」は、文脈が特に断らない限り複数の言及物を含む。従って、例えば、「ある細孔("a 細孔")」への言及は、複数のかかる細孔を含みかつ「その薬物("the drug")」への言及は当業者に公知の1以上の免疫細胞への言及を含むという具合である。
【0015】
また、特に断らない場合、「または」の使用は「および/または」を意味する。同様に、「含む」(“comprise”、“comprises”、“comprising”、“include”、“includes”および“including”)は互換可能であって限定を意図するものでない。
【0016】
さらに、様々な実施形態の記載が用語「含む(comprising)」を使用する場合、当業者は、いくつかの具体的な例において、ある実施形態を代わりに言語「本質的にから成る」または「から成る」を用いて記載しうることを、理解しなければならない。
【0017】
特に定義されない場合、本明細書で使用する全ての技術および科学用語は、本開示が属する技術分野の業者に通常理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載したものと類似のまたは同等の方法および材料を、開示した方法および組成物の実施に使用することができ、そして例示の方法、デバイスおよび材料が本明細書に記載されている。
【0018】
以上および本文全体を通して考察した刊行物は、単に本出願の出願日に先立つ開示として提供するものである。本明細書において、先立つ開示のために、かかる開示に対して先行する権利が本発明者らに与えられないことを承認すると解釈してはならない。
【0019】
薬物を必要部位へ局所的にかつ長時間にわたって送達する能力は、多くの病気と疾患に対する治療法として重要である。多くの薬物は、もし特定の部位に送達されればより効果的であり、何故なら前記薬物が目的の点に濃縮された用量で送達される一方、全体で低い全身内用量を維持しうるからである。さらに、多くの薬物はその分子が消化過程で分解し易く残存しないか、またはその分子が効率的に消化器官の壁を通過しないので、経口手法により送達することができない。いくつかの薬物療法は、数か月または数年の期間にわたる長期間投薬を必要とし、治療のために医師へ多頻度の訪問を必要とする。さらに、いくつかの薬物は注入するのに不便な場所、例えば眼内または内部器官などへ送達する必要がある。これら全ての場合に、移植片または付属デバイスを介する持続した薬物送達は、治療を受ける患者にとって大きな便益でありうる。
【0020】
重要な薬物送達移植片の応用例は加齢による黄斑変性症(AMD)である。加齢による黄斑変性症は65歳を超える人たちにおける失明の最大の病因である。国立眼科研究所(the National Eye Institute)は、米国だけで160万人のAMD患者がいると見積もっている。黄斑変性症は、最も鋭くかつ詳細な視覚能力を有する網膜の部分である網膜黄斑と呼ばれる網膜の中心部の物理的障害である。現在、AMDの治療法はわかってない。しかし、この疾患の進行を抑制する見込みのある、新しい治療法が開発されつつある。いくつかのこれらの治療としては、ルセンティス(ラニビズマブ)およびアバスチン(ベバシズマブ)などのタンパク質系薬物製剤の、眼中への頻度の直接投与が挙げられる。これらの薬物は、経口製剤を介して投与できない大きいタンパク質分子から成るので、AMDの患者は毎月1回眼中に直接注入を受けなければならない。高度に侵襲性の治療と長期間にわたって眼中の有効な薬物濃度を制御する上での制限の故に、これらの送達方法は理想からほど遠いものである。
【0021】
AMDだけでなく、糖尿病性網膜症、網膜血管疾患、および他の型の網膜変性は薬物送達移植片による治療を受けることができる。その理由は、これらの疾患の多くもAMDに用いられるのと同じ型の化合物による局所的治療法を必要とするからである。網膜剥離(PVR)および緑内障などの眼内瘢痕に関連する疾患の治療も、欲しない増殖を防止するために眼内に薬物の持続放出を介して行うことができる。
【0022】
薬物のリポソームまたは遅延放出結晶脂質プロドラッグを介する硝子体中への送達は、薬物硝子体半減期を延長するが、伝統的なリポソームまたは自己組み立て型リポソームは使用時にしばしば硝子体透明度を低下し、色々な物理化学特性をもつ薬物を放出するのに容易に適合させることができず、また薬物放出情報を「報告」しない。従って、当分野の現状の技術は、小デバイスを構築して所定の時間に応じるように薬物を送達する方法を実施する満足な道を提供していない。
【0023】
以下に開示した特徴および教示は、それぞれ別々にまたは他の特徴および教示と連携して利用し、時間に応じる用量を送達する薬物送達デバイスを提供することができる。これらのさらなる特徴および教示の両方の多くを別々にまた組合わせて利用する本開示の代表例を、添付図面を参照してこれからさらに詳しく説明する。この詳細な説明は、当業者に本教示の態様を実施するためにさらに詳しく教示することを意図するのであって、本発明の範囲を限定することを意図しない。それ故に、以下の詳細な説明において開示した特性およびステップは、最も広い意味で本発明を実施するのに必要でないかも知れない、そして、それよりも、ただ具体的に説明するために、本教示の代表例を教示する。
【0024】
さらに、代表例および従属する請求項の様々な特徴は、本発明の教示のさらなる有用な実施形態を提供するために、具体的にかつ明示して列挙していないやり方で組合わせることができる。さらに、明らかに注意すべきこととして、本明細書および/または請求の範囲に開示した全ての特徴は、実施形態および/または請求の範囲に記載の特徴の組成物とは独立して、元来の開示の目的で、ならびに、請求の対象事項を制限する目的で、別々におよびそれぞれお互いに独立して開示することを意図する。明らかに注意すべきこととしてまた、実体のグループの全ての値範囲または表示は、元来の開示の目的で、ならびに、請求の範囲の対象事項を制限する目的で、全ての可能な中間値または中間の存在を開示する。
【0025】
最初の出発点として、ケイ素、酸化ケイ素およびシリカ(すなわち、二酸化ケイ素)の間の差異を理解することが重要である。このように記述したのは、これらの材料の組成物、使用および生物活性に基本的な差異があるからである。
【0026】
ケイ素は化学元素であって記号Siおよび原子番号14を有する。ケイ素は時折、純粋な遊離した元素として天然に産するが、もっと広く二酸化ケイ素(シリカ)またはケイ酸塩の様々な形態で分布している。ケイ素は電子工業で使用されていて、その場合、実質的に純粋なおよび高純度のケイ素がウエーハの形成に使用されている。純粋なケイ素は、半導体工業で、電子工学でおよび太陽電池への応用で使用される超純粋ケイ素ウエーハを製造するために使用されている。超純粋ケイ素は他の元素でドーピングして電流担体の数および電荷(陽または陰)を制御することにより、その電気的応答を調節することができる。かかる制御はトランジスター、太陽電池セル、集積回路、マイクロプロセサー、半導体検出器ならびに、電子工学および他のハイテク技術の応用分野で使用される他の半導体デバイスにとって望ましい。フォトニック(photonics)において、ケイ素はコヒーレント光を作製するための連続波ラマンレーザー媒体として使用することができる。水素化無定形ケイ素は、LCDなどの応用における低コスト、広範囲の電子工業製品に、および広範囲、低コストの薄膜太陽電池セルに使用されている。従って、ほとんどの通常購入されるケイ素はケイ素ウエーハの形態である。身体により代謝されると、ケイ素はシランに転化され、この化合物は蓄積すると毒性効果を有する。
【0027】
酸化ケイ素は典型的には、単独の反応性酸素種(例えば、ラジカル)と結合したケイ素元素を意味する。かかる酸化ケイ素化合物は炭素または他の所望の元素の付加に有用であり、その場合、結合が反応性酸素と所望の元素または化学側鎖との間に形成される。酸化ケイ素は、低い比誘電率および光透過率を有する水素化ケイ素オキシカーバイド(H:SiOC)フィルムの形成に有用である。かかるSi-O-X(式中、Xは酸素を除く任意の好適な元素)化合物は複雑な反応、すなわち、制御された酸素環境で、メチルを含有するシランをプラズマ促進またはオゾン支援による化学気相成長法(chemical vapor deposition)を用いて反応させるステップを含む反応を利用して形成されてフィルムを作製する。対照的に、二酸化物(以下にさらに説明する)は1個のケイ素原子と結合した2個の酸素を含む。
【0028】
二酸化ケイ素は化合物SiO2(場合によってはシリカとも呼ばれる)を意味する。二酸化ケイ素は、ケイ素が酸素(または空気)に曝されると形成される。いわゆる「生来の酸化物」の薄層(およそ1nmまたは10Å)は、ケイ素が周囲条件のもとで空気に曝されると表面上に形成される。より高い温度および代わりの環境を用いてケイ素上の二酸化ケイ素の層を成長させる。二酸化ケイ素は不活性であり無害である。シリカが経口摂取すると、変化せずに胃腸管を通過し、糞便で排出され、後に何の痕跡も残さない。二酸化ケイ素の小片も、胃腸管もしくは流動を機械的に妨害するほど大きくなければ、または胃腸の内壁、容器または他の組織を切裂くほど鋭くなければ、等しく無害である。二酸化ケイ素は発煙しないし、in vivoで不溶である。二酸化ケイ素は非消化性であって栄養価はゼロであり、無毒性である。二酸化ケイ素は共有結合を有しかつネットワーク構造を形成する。半導体工業では、フッ化水素酸(HF)を用いて二酸化ケイ素を除去するかまたはパターニング(patterning)をする。
【0029】
ケイ素は骨および結合組織の健康と結びついた必須の痕跡元素である。多孔Siの毒性に関係する化学種はシラン(SiH4)とケイ素の溶存酸化物である;これらの種の3つの重要な化学反応を式(1)〜(3)に示す。多孔Siの表面は、シランに容易に転化しうるSi−H、SiH2、およびSiH3種を含有する。シランは化学的に反応性であって(式(1))、とりわけ吸入時に毒性である。シランのように、多孔Si表面上の生来のSiHx種は水性媒質中で容易に酸化する。ケイ素自体は熱力学的に酸化に対して不安定であり、水ですら式(2)の自発反応を起こすのに十分な酸化ポテンシアルを有する。SiO2およびSi−H(HF溶液に浸漬したサンプルについて)の受動態化作用はSiの自発水溶解速度を遅くする。酸化された多孔Siは高度に多孔のナノ構造であるので、比較的大量のケイ素含有種を短時間に溶液中に放出することができる。可溶型のSiO2は、オルトケイ酸(SiO44-)イオンを基礎構築ブロックとする様々なケイ酸化合物として存在し(式(3))、これらの酸化物は高用量では毒性を有しうる。身体はケイ酸を処理して排除することができるので、多孔Siに基づく薬物送達系について重要な点はこれを分解して再吸収する速度である。
【0030】
【0031】
表面化学が多孔Siのin vivo分解特性を制御する上で大きな役割を果たす。Siを電気化学的にエッチングした後、その表面は反応性水素化物種により覆われる。これらの化学官能基は、水媒質中の溶解速度を決定し、ホーミング(homing)種の結合を可能にし、そして薬物の放出速度を制御する様々な反応に対する出発点を提供する。2つの最も重要な修飾反応は化学酸化(式(2))とSi−C種のグラフト化である。
【0032】
本明細書に提供される様々な実施形態は、一般に、電子工学または電力を必要としない時間に応じる投薬を送達できる薬物送達デバイスを作製するシステムおよび方法に関する。従って本開示は最小限に侵襲性の、制御可能な、およびモニター可能な薬物送達システム、ならびに眼外および眼内疾患の両方の長時間作用型局所治療を可能にしうる前記システムを用いる方法に対する、重要な未遭遇の医学的ニーズを認識しかつ取組む。
【0033】
眼内薬物送達の伝統的方法としては、リポソームまたは自己組み立て型リポソームの使用が挙げられるが、これらは使用時にしばしば硝子体透明度を低下し、色々な物理化学的特性をもつ薬物を放出することに容易に適合できず、かつ薬物放出情報を「報告」しない。
【0034】
有利なことに、本開示は眼内および眼外疾患の両方を治療するデバイスおよび方法であって、ナノ構造のケイ素、例えば、Si、SiO2、ポリマーテンプレート、Si/ポリマー、またはSiO2/ポリマー複合体上に浸透した薬物候補または薬物の徐放性を促進する前記デバイスおよび方法を提供する。
【0035】
一態様において、本デバイスと方法はまた、自己報告性であって薬物放出および残留量をモニターすることができる。実施形態には、1以上の薬物を眼の表面、眼の表面(角膜および結膜)と強膜の表面の両方、ならびに眼の眼内部分(網膜、脈絡膜、レンズ、毛様体、前房、および硝子体を含む)へ送達するための最小限侵襲性の、自己報告性の、制御された送達系が含まれる。かかるデバイスには、活性成分を含むSiフォトニック(フォトニック)結晶だけでなく、多孔ケイ素テンプレートから作られた生物分解性ポリマーインプリントも含まれる。
【0036】
眼内疾患、例えば、緑内障、加齢による黄斑変性症(ARMD)、脈絡膜新血管新生(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病網膜症、網膜血管疾患および他の型の網膜変性などに対する、硝子体、網膜、および脈絡膜への薬物送達は、血液-網膜バリアおよび網膜色素上皮の密接な接合により課せられた手強い障害物に因る難儀な課題である。全身に投与される薬物の小さい分率しか標的に到達しないので、全身に投与する場合、大量で潜在的に毒性のある用量を必要とする。網膜薬物送達についての他の難儀な点は、薬物レベルを標的部位で長期間持続しなければならないことである。ほとんどの硝子体内の注入可能な薬物の半減期が短いので、硝子体内注入を用いてこれを達することは困難である。眼内移植片は、ある特定の網膜疾患について硝子体網膜の薬物レベル維持を提供している。しかし、この経路は眼内外科を要し、これは、移植片を設置しおよび再設置するときに眼内合併症を誘発することが知られている。
【0037】
眼の表面疾患、例えば、ウイルス性角膜炎、慢性アレルギー性結膜炎、緑内障、および強膜炎については、いくつかの同じ問題が残っている。薬物の全身投与は潜在的に毒性のある用量を必要とし、局所治療は短い半減期を有するので、多数かつ頻繁な投与を必要とする。眼の表面疾患を治療するために、生物分解性ポリマーインプリントを多孔ケイ素テンプレートから作ることができる。ケイ素を含まないポリマーを、眼の表面および眼球後表面を含む眼の上または関係する適当な位置において、薬物送達コンタクトレンズまたは移植片に使用することができる。
【0038】
フォトニック結晶は、光電子工学、化学および生体センサー、ハイスループットスクリーニング、および薬物送達応用において広範な応用を有する。これらのフォトニック結晶は、光学特性、細孔サイズ、および表面化学を比較的容易に操作できるので有利である。さらに、スペクトル反射率ピークの位置、巾、および強度を、電気化学エッチングで使用される電流密度波形および溶液組成物により制御することができ、従って、可視光帯域の任意の色を高い色飽和で提示する多孔Siフォトニック結晶のフィルムの調製が可能であり、これは情報提示に所望される特性である。
【0039】
用語フォトニック結晶は、空間的に繰返すパターンが明確なスペクトルパターンを生じる材料を意味する。フォトニック結晶は、機械加工されかつ眼内注入用の小結晶に寸法化されている小さい多孔ケイ素粒子を含む。
【0040】
本開示は、特定の1以上の薬物を浸透させた多孔顕微ナノ構造のケイ素粒子を注入するための組成物および方法を提供する。本開示は、多数の多孔顕微粒子の使用を意図し、典型的な粒子としては、多孔ケイ素または二酸化ケイ素粒子(「スマートダスト」と呼ぶ)が挙げられ、これらはナノ構造であって、持続する眼内治療薬物レベルの維持を、最小限の侵襲性と全身の副作用の除去によって可能にする。ナノ構造を個々の応用に適合させる形状化だけでなく、本開示はまた、粒子および特定の1以上の薬物を化学的に修飾して粒子の放出プロファイルを調整し(tuning)かつ制御することを意図する。眼内注入は薬物レベルのモニタリングを非侵襲的に可能にする。
【0041】
多孔ケイ素は、多孔ケイ素フィルムが大きい自由体積(典型的には50〜80%)を有する点で有利である。従って薬物を受け入れる高い容量を有するので、1以上の薬物をカスタム化しうる放出速度で送達しかつナノ構造化材料のフォトニック特性を非侵襲的に送達する薬物の速度と量を決定する手段として、ナノ規模でカスタム設計することができる。本開示の多孔ケイ素フォトニック結晶粒子に1以上の薬物を含浸し、次いで眼の網膜、脈絡膜、レンズ毛様体、前眼房、および硝子体中に注入を介して導入することができる。コードされたフォトニック粒子およびこれらを調製する方法の詳細については、公開された米国特許出願第20050042764号「Optically encoded particles(光学的にコードされた粒子)」、米国特許出願第20050009374号「Direct patterning of silicon by photoelectrochemical etching(光電気化学エッチングによるケイ素の直接パターニング)」、米国特許出願第20070148695号「Optically encoded particles, system and high-throughput screening(光学的にコードされた粒子、システムおよびハイスループットスクリーニング)」、および米国特許出願第20070051815号「Optically encoded particles with grey scale spectra(グレースケールのスペクトルで光学的にコードされた粒子)」を参照されたい;これらの特許出願は本明細書に参照により組み入れられる。
【0042】
「スマートダスト」フォトニック結晶粒子は、薬物の巨大アレイの1以上の硝子体内送達について最適化することができ、その薬物には抗癌薬および他の小分子薬、阻害核酸、ペプチドおよびポリペプチドが含まれる。例えば、本開示は、色素上皮由来因子(PEDF)、ウロキナーゼの8量体ペプチド断片(uPA)、デキサメタゾン、および他の薬物のホスト、小分子、タンパク質(例えば、ベバシズマブなどの抗体およびラニビズマブなどの抗体のFabフラグメント)、ペプチド、ならびに核酸を使用できることを示す。これらのスマートダストフォトニック結晶は、1以上の薬物を多孔Siスマートダスト中にトラップすることにより薬物で含浸させてもよいし、または細孔自体を化学的に改変して候補薬物と結合させてもよい。
【0043】
フォトニック結晶を多孔ケイ素から作製し、多孔ケイ素/ポリマー複合体、または多孔SiフィルムまたはポリマーレプリカまたはSi-ポリマー複合体を外植体(exoplant)用のシートとして作製してもよい。ケイ素チップのパルス型電気化学エッチングは多層型多孔ナノ構造を生じる。多孔Siの好都合な特性として、電気化学エッチングに使用する電流、HF濃度、ウエーハ抵抗、および電極形状の適当な選択によって平均細孔サイズを広範囲にわたって制御できることにある。細孔寸法、空隙率(porosity)、および表面積のこの調整可能性(tunability)はとりわけ有利である。
【0044】
所与のフィルムの厚み、細孔サイズ、および空隙率は、電流密度、エッチングサイクル期間、およびエッチング剤溶液組成により制御される。さらに、多孔ケイ素フィルムは生体適合可能なまたは生体再吸収可能な材料のインプリントを作製するためのテンプレートとして使用することができる。多孔ケイ素フィルムまたはそのインプリントは正弦的に変化する空隙率勾配を持ち、鋭い光学反射性スペクトル特性を提供し、細孔内にトラップされた化学物質の存在または非存在をモニターするのに用いることができる。多孔ケイ素フィルムから機械的粉砕によりまたは超音波粉砕により作った粒子(スマートダスト)も光学反射スペクトルを保持することが示されている。
【0045】
多孔Siは、フッ化水素酸電解質溶液中の単結晶Siウエーハの電気化学的陽極酸化の生成物である。細孔形態学および細孔サイズは、マクロ、メソ、およびミクロの細孔を形成するように、電流密度、ドーパントの型と濃度、ウエーハの結晶方向、および電解質濃度を制御することにより変えることができる。1nm〜数μmの範囲の細孔サイズを調製することができる。元来のケイ素ウエーハのドーパントの型は重要であり、これが図1に示した反応における重要な酸化等価体である価電子帯正孔(valence band hole)の利用可能性を決定するからである。一般に、ドーパントと形態学との関係は、ドーパントの型と濃度に基づいて4グループ:n-型、p-型、高ドーピングn-型、および高ドーピングp-型に分類することができる。「高ドーピング」は、材料の導電性挙動が半導体性より金属性であるドーパントレベルを意味する。比較的中度のドーピングレベルであるn-型ケイ素ウエーハについては、空間電荷領域からの価電子帯正孔の排除が細孔径を決定する。量子拘束効果が、中度のp-ドーピング材料の細孔サイズを制限すると思われる。両方のドーパント型について、反応は結晶面選択的であり、細孔は主に単結晶の<100>方向に伝播する。例えば、電気化学的に駆動する反応は、フッ化水素酸を含有する電解質を用いる。陽極電流を適用すると表面ケイ素原子を酸化し、これは次いでフッ化物により攻撃される。正味の反応は4電子酸化であるが、2当量が電流源から供給されるだけである。他の2当量は、溶液中のプロトンの表面SiF2種による還元から生じる。細孔形成は、Si原子がSiF4の形態で取り出され、これが溶液中の2当量のF-と反応してSiF62-を形成するので起こる。
【0046】
成長中の多孔Si層の空隙率は、適用する電流密度に比例しかつ典型的には40〜80%の範囲にある。細孔はSi/多孔Si界面で形成し、一旦形成されると、細孔の形態学は残りのエッチングプロセスで有意に変化しない。しかし、成長層の空隙率は、適用した電流を変えることにより改変することができる。フィルムは、その電流が変化するまで、この新しい空隙率で成長し続けるであろう。
【0047】
この特性によって、単に、エッチング中に適用する電流をモジュレートすることによって成層ナノ構造を構築することが可能である。例えば、交代する(alterating)屈折率をもつ層のスタックから成る1次元フォトニック結晶は、エッチング中に周期的に電流をモジュレートすることによって調製することができる。
【0048】
ステインエッチング(stain etching)は、多孔Si粉末を製造する電気化学的方法に代わる方法である。用語「ステインエッチング」は、プロセスで処理する結晶ケイ素材料上に作製される多孔Siのフィルムの褐色または赤色を意味する。ステインエッチング手順においては、化学酸化剤(典型的には硝酸)が電気化学的に駆動する反応において使われる電力供給に置き換わる。典型的にはHFを一成分として使用し、様々な他の添加物を用いて反応を制御する。ステインエッチングは一般に電気化学プロセスより再現性が低いものの、最近の進歩はプロセスの信頼性を実質的に改善している。ステインエッチングにより調製される多孔Si粉末は市販されている(http:~~vestaceramics.net)。
【0049】
in vivoでの応用については、粒子形態の多孔Siを調製することがしばしば所望される。多孔層は、通常「電気研磨」または「リフトオフ」と呼ばれる手順でSi基質から取り除くことができる。エッチング電解質をより低い濃度のHFを含有する電解質で置換え、電流パルスを数秒間適用する。より低い濃度のHFは拡散が制限された状態をもたらし、ケイ素を結晶Si/多孔Si界面から、細孔が伝播できるより速く取り除く。その結果、多孔層のアンダーカットが起こり、多孔層をSi基質から遊離させる。独立している多孔Siフィルムを次いでピンセットまたは激しく漱いで取り除くことができる。そのフィルムを次いで超音波粉砕により微小粒子に変換させる。もしもっと均一な形状をもつ粒子が所望であれば、通常のリトグラフィまたはミクロ液滴パターニング法を用いてもよい。
【0050】
電気化学エッチング中に細孔サイズおよび体積を容易に調整する能力は多孔Siのユニークな特性であり、これは薬物送達への応用に非常に有用である。他の多孔材料は、一般に、細孔サイズを制御するために一層複雑な設計のプロトコルを必要とし、それでもなお、利用しうる細孔サイズは限られた範囲になりがちである。電気化学的に調製した多孔Siについては、空隙率と細孔サイズの制御はエッチング中の電流設定を調節することにより得られる。典型的には、電流密度が大きいほど大きい細孔を生じる。細孔内に相当大きい分子または薬物を組み込む場合、大きい細孔が所望される。細孔サイズと空隙率は薬物充填だけのために重要なのではなく;これは多孔Siホストマトリックスの分解速度も決定する。
【0051】
より小さい細孔はより大きい表面積を与え、水媒体の攻撃に対してより大きい部位を曝すことになる。フィルム内のより小さい多孔フィラメントは、より大きい溶解速度を生じ、多孔Siホストの分解速度を制御する好都合な手段を提供する。
【0052】
表面化学は多孔Siのin vivo分解特性を制御する上で大きな役割を果たす。Siを電気化学的にエッチングした直後、その表面は反応性水素化物種によって覆われる。これらの化学官能基は様々な反応に対する多方面にわたる出発点を提供する、すなわち、水媒体中の溶解速度を決定し、ホーミング種の結合を可能にし、そして薬物の放出速度を制御する。2つの最も重要な修飾反応は、化学酸化(式(2))とSi−C種のグラフト化である。
【0053】
大きい表面積をもつ多孔Siは空気または水酸化に対して特に感受性がある。一旦酸化されると、ナノ相SiO2は容易に水媒体に溶解し、そして界面活性剤または求核試薬類がそのプロセスを加速する。Si−O結合は多孔Si上で酸化により容易に作られ、様々な化学または電気化学酸化剤を利用することができる。空気中の熱酸化は、特にもし反応を>600℃で実施すれば、比較的安定な酸化物を生成する傾向がある。通常室温で行われるオゾン酸化は、水媒体に速やかに溶解するさらに水和した酸化物を形成する。
【0054】
さらに穏やかな化学酸化剤、例えばジメチルスルホキシド(DMSO、式(4))、ベンゾキノン、またはピリジンもこの反応に用いることができる。時には穏やかな酸化剤が好ましい;何故なら、典型的にはまったく脆いものである高度に多孔のSiフィルムの機械的安定性を改善できるからである。
【化1】
【0055】
多孔Siの機械的不安定性は、電気化学エッチングプロセスで作製するときにフィルム中に誘発される歪みと直接関係があり、また熱酸化に伴う体積膨張も歪みを誘導しうる。穏やかな化学酸化剤はおそらく、多孔Siの最も歪みがあり従って最も反応性のあるSi-Si結合を優先的に攻撃する。代替法としては、硝酸塩がさらに強い酸化剤であり、硝酸溶液はケイ素粉末から化学ステインエッチングにより多孔Si粒子を調製するのに広く使用される。
【0056】
ジメチルスルホキシド(DMSO)による多孔Si表面の遅い酸化は、HFによる新しく形成されたオキシドの溶解と組合わせると、多孔Siフィルムの細孔を拡大する穏やかな手段である。KOHなどの塩基の水溶液もエッチング後の細孔を拡大するために使用することができる。多孔SiサンプルをH2SO4などの鉱酸の存在のもとで陽極酸化する電気化学的酸化はかなり安定な酸化物を生じる。酸化は多孔構造に親水性を付与し、親水性薬物または生体分子の細孔内組込みおよび吸着を可能にする。Ca2+を含む様々なイオンの存在のもとでの水性酸化は多孔Siの石灰化型を生成し、これは生物活性があることが示されていて、in vivo応用にとって特に興味深い。石灰化は直流電流の適用によって促進することができる。
【0057】
多孔スマートケイ素ダストを酸化して安定性を増加し、動物の眼中に注入することができる。スマートケイ素ダストを様々に修飾して、様々な治療の化合物を運ぶ長時間持続性の眼内薬物送達ビヒクルとすることができる。さらに、多孔ケイ素テンプレートから作った生物分解性の多孔ポリマーインプリントを薬物送達移植片として用いて眼中の適当な位置に配置することができる。薬物をインプリント溶液中に加えた後にキャスティングするかまたはキャスティングの後に細孔中に仕込んでもよい。
【0058】
炭素グラフト化は水媒体中の溶解に対して多孔Siを安定化するが、その表面はなおオプソニン化またはカプセル化を起こしうるタンパク質および他の種の非特異的結合を避けなければならない。ポリエチレングリコール(PEG)リンカーを多孔Si表面上に置く反応がこの目的に使われている。短鎖PEGリンカーは親水性表面を生成し、生体分子をそれらと強く結合することなく細孔の中へまたは外へ通過させることができる。PEGリンカーの末端を修飾して他の種、例えば、薬物、切断しうるリンカーまたは標的化部分とこの材料のカップリングができるようにしてもよい。
【0059】
多孔Siの酸化物は通常のシラノール化学を用いて官能化することが容易である。小さい細孔が存在する場合(p-型サンプルの場合のように)、モノアルコキシジメチルシラン(RO−Si(Me)2−R')が表面リンカーとしてトリアルコキシシラン((RO)3Si−R')よりも効果的である。この理由はトリアルコキシシランが、とりわけ高濃度で用いると、オリゴマー化してより小さい細孔開口部を詰まらせるからである。
【0060】
Si-C化学は頑強であり多用途で使えるが、Si-O結合に関わる化学はこれに替わる魅力的な2つの理由を有する。第1に、高度に多孔なSiO2が水媒体中で安定である時間の尺度は、多くの短期薬物送達適用(典型的には20分間〜数時間)と一致している。第2に、さらなる安定化化学を含有しない多孔Siサンプルは毒性または抗原性副作用を生じる可能性が少ないと思われる。もし多孔Si材料がin vivoで長期間安定であることを所望するのであれば(例えば、長期放出製剤またはin vivoバイオセンサー)、Si-C化学、例えば、末端キャッピングまたはアセチレンによる熱炭化(thermal carbonization)が有用である。もし長期寿命の酸化物マトリックスが所望であれば、より高い温度(>700℃)で形成された酸化ケイ素は、より低い温度でまたはオゾン酸化により形成された酸化ケイ素よりも水媒体中で有意に安定である。
【0061】
ケイ素スマートダストまたはケイ素スマートダストの生物分解性ポリマーインプリントの強膜上の一方向放出プラークは、最小限の侵襲性でありかつ全身性副作用の無い、眼内治療薬レベルの持続を増進する硝子体内薬物送達のデバイスと方法を提供する。多孔材料の含浸はいくつかの手段で続行することができる。
【0062】
候補薬物を「物理的に」細孔内にトラップしてもよいし、または細孔自体を化学的に修飾して候補薬物と結合させてもよい。
【0063】
さらに具体的には、「物理的トラッピング」はボトル中で船を構築するのと似ていて、「船」が候補薬物であり、「ボトル」が多孔Siマトリックス中のナノメートル尺度の細孔である。小分子は、分子の周りの多孔Siを酸化することにより多孔マトリックス中にトラップすることができる。関係する反応を図1に図解したが、ここで式中の「O」は分子の酸化剤、例えば、O2、ジメチルスルホキシド、過酸化水素、または水である。ケイ素の酸化はSiの1原子当たり酸素の2原子を加えるので、酸化時にマトリックスの体積に有意な増加がある。これは細孔壁を膨張させかつ細孔内の自由体積を収縮させる効果を有し、適当な条件のもとで細孔内に存在する分子は酸化中に酸化物マトリックス中にトラップされることになる。トラッピングプロセスの一態様は、トラッピングプロセス中に起こる活性成分の濃度の増加である。結晶は負電荷の環境を示しうるので、タンパク質および他の薬物などの活性成分は結晶内で、溶液中の活性成分の遊離濃度よりはるかに高いレベルに濃縮されうる。これによって、結晶に随伴する活性成分濃度は10〜100倍以上の増加をもたらしうる。例えば、0.1cc当たり2.5mgの商業濃度を有するアバスチンは本明細書に記載の結晶構造に随伴すると濃縮されうる。成層酸化を実施することによって酸化を繰り返した間隔で実施することができる。例えば、酸化剤を制御して添加することにより、生体作用薬または薬物を細孔中にトラップすることができる。新しく調製した(末端水素化した)多孔Si材料の酸化は細孔の効果的な収縮をもたらす。これは、形成された酸化ケイ素がSi出発材料より大きい体積を有する故に起こる。もし酸化剤を含有する溶液中に薬物も存在すれば、薬物は細孔内にトラップされる。
【0064】
さらに多孔酸化ケイ素は、非酸化のSi水素化物材料より高い濃度の生体作用薬または薬物(例えば、アバスチン)を含みうる。例えば、酸化物処理は、新しく調製した(末端水素化した)多孔Si材料より大きい量の薬物アバスチンを吸収する酸化多孔Si材料を生じる。
【0065】
多孔Siフィルム内の自由体積は典型的には50〜80%である。酸化はこの値をいくらか低下させるであろうが、自由体積はまったく高いまま残ると予想される。現在の薬物送達材料のほとんどは濃密な固体であって重量当たり少量のパーセントの薬物しか送達できない。多孔Si材料中に充填できる薬物の量は、例えば、表面修飾されたナノ粒子またはポリ乳酸(PLA)ポリマーよりはるかに大きいと予想される。実験によって、スマートダスト送達ビヒクル中に充填できる薬物のそれぞれの量を定量することができる。
【0066】
化学修飾中に、分子は内部の細孔壁に共有結合を介して付着する。多孔Si系においては、タンパク質、DNA、および様々な小分子をいくつかの色々な手順に従って付着させることができる。一実施形態は電気化学修飾を利用する。例えば、p-型多孔ケイ素陰極における1-ヨード-6-(トリフルオロアセチルアミド)ヘキサンの還元はトリフルオロアセトアミドヘキシル基の結合に導く。続いての酸触媒による加水分解は直接、表面結合したアミン種に導くに違いない。反応は図2に図解した式により表される。
【0067】
表面アミンを次いで薬物、ポリペプチドまたはペプチドにより官能化することができる。特定の非限定の例で以下に示すように、標準のペプチドカップリング方法を用いて、表面アミンをuPAの8量体ペプチド断片で官能化する。
【0068】
分子ペイロード(payload)を多孔Siホスト中に充填する様々な手法が探求されていて、これらは次の一般的なカテゴリーにグループ分けすることができる:共有結合、物理的トラッピング、および吸着。
【0069】
共有結合は、生体分子捕獲プローブを多孔Siの内部の細孔壁と連結するバイオセンサー応用にとって好都合な手段を提供し、この手法はまた薬物分子を付着させるために用いることができる。本明細書の随所に記載したように、生体分子をSi-C結合を介して連結すると、Si-O種の求核攻撃に対する感受性に因って、Si-O結合を用いるより安定な手段になる傾向がある。
【0070】
官能性の多孔Si表面を調製するヒドロシリル化反応の多能性は、多孔Si表面化学の歴史の初期に認識された。さらに通常行われる手法の1つは、末端アルケン末端の端末にカルボキシル基を含有する有機分子をグラフトすることである。末端アルケンはヒドロシリル化反応に加わってSi表面と結合し、カルボキシ末端をフリーのままにしてさらなる化学修飾に備える。好都合なリンカー分子はウンデシレン酸であり、この酸は疎水性の炭素10個の脂肪族鎖を提供してリンカーを多孔Si表面から絶縁する。薬物ペイロードは、アルケンのカルボキシ基と直接結合してもよく、または表面からPEGリンカーによって分離されていてもよい。Si−C結合は安定であるので、ヒドロシリル化は多孔Siに対するペイロードを付着させる良い手段である。ペイロードは、共有結合が壊れるかまたは支持多孔Siマトリックスが分解した時にだけ放出される。薬物送達にとって、これは、薬物がリンカーから遊離せず、体内に導入される薬物の改変バージョンをもたらすという点で、複雑さを導入する。さらに、薬物は多孔Siスカフォールドの分解中に生成するシランによるまたは多孔Si材料自体の残留反応性化学種による攻撃に感受性がありうる。
【0071】
もしトラップされる薬物が比較的頑強であれば、その薬物を多孔Siホストマトリックスの酸化により閉じ込めることができる。閉じ込める手順は、多孔SiをSiO2へ酸化する場合、体積膨張があって余分な酸素原子に適応するという事実を利用することができる。この体積膨張は細孔を収縮する作用を有し、その時点で偶々その中に存在するものを全てトラップする。アンモニアの高いpHと求核性は、水溶液中の新しくエッチングされた多孔Siの酸化を促進する。類似の酸化は蒸気相ピリジンンによって誘導することができる。薬物ペイロード上に存在する求核基、キノン類などの酸化種などもこの反応に加わりうる。溶解(式(3))中に生成するケイ酸は、ゾル-ゲル型反応(本質的にケイ酸の、しかし様々な無機ケイ酸塩の形態での、再沈降)に加わりうる。溶液中のCa2+およびMg2+などの通常のイオンがケイ酸塩沈降反応(式(5))に加わることができ、これらの沈降物のタイプは生物活性があることは公知である。
【0072】
【0073】
一旦形成されると、穏やかな熱処理を用いて酸化物またはケイ酸塩マトリックスを脱水することができる。
加熱はこの構造を、強いSi−O−Si連鎖(式(6)):
【化2】
を形成することにより、密度を上げかつ硬化する傾向がある。
【0074】
形成されたままの多孔Siは水素化物末端の表面を有し、これは非常に疎水性である。酸化された多孔Siは親水性であり、化学修飾された多孔Si表面は、付着した特定の官能基に応じて、疎水性、親水性、または両方(両親媒性)である。表面の性質は、充填できる薬物の量およびそれが放出される速度を決定する上で重要な役割を果たす。酸化ケイ素表面は、SiO2の低いpKaに因って水溶液に対して負の表面電荷を示しがちである。しばしば、「静電吸着」と呼ばれるこの負の表面からの吸着性クーロン力は、溶液から正電荷のイオンを抽出しこれらを界面に濃縮する手段を提供する。
【0075】
以上記載した共有結合による付着および酸化トラッピング手法はそのペイロードをかなり不可逆的にトラップする傾向を有するが、静電吸着は本質的に分子をもっと弱く保持するイオン交換機構を示す。静電気は迅速な薬物送達を行う有用な手段であって、薬物を数日、数週間、または数カ月にわたって薬物を放出する共有結合または物理的トラッピング手法とは対照的である。
【0076】
特定の分子に対する多孔Si粒子のアフィニティは表面化学によって制御することができる。酸化多孔Siの表面は2付近のpHでゼロ電荷の点を有し、それが目的のほとんどの水溶液に対して負に帯電した表面を提示する。適当なpHにおいて、多孔SiO2は正電荷のタンパク質、例えば、血清アルブミン、フィブリノーゲン、プロテインA、免疫グロブリンG(IgG)、または西洋わさびペルオキシダーゼを自発吸着し、プロセスにおいてそれらを濃縮する。例えば、モノクローナル抗体ベバシズマブ(登録商標アバスチン、抗癌薬)の0.125mg/mL溶液は好適に調製された多孔SiO2中で>100のファクタだけ自発濃縮する。
【0077】
多孔Siはまた、疎水性にしてもよく、ステロイドデキサメタゾンまたは血清アルブミンなどの疎水性分子をこれらのナノ構造中に充填することができる。親水性分子も、適当な界面活性剤の助けによってかかる材料中に充填することができる。多孔Siの生来の水素化物表面は疎水性である。かかる技法は短時間充填および放出に使用されてきた。水はこれら疎水性表面から排除されるので、水分解およびリーチング反応は遅くなる傾向がある。ヒドロシリル化によるアルカンの表面へのグラフト化を通常利用して生体媒質において安定である材料を調製する;この安定性は大部分、疎水性部分が局所的に水または溶存求核物質を排除する能力から導かれる。
【0078】
ただ例示としてであるが、1)アバスチン(ベバシズマブ);2)DNAの16量体;3)IgG(プロテインA受容体を用いて)ならびに4)ビオチン化ウシ血清アルブミン(ストレプトアビジン受容体を用いて)の結合と放出がこの手法を用いて実証されている。大きい表面積と光学干渉的検出手法は多くのこれらの系に非常に高い感度をもたらし、これらの材料が単結晶Si基質から構築されるという事実はこれらがSiミクロ加工技法を用いて容易に調製できることを意味する。
【0079】
多孔ケイ素フィルムはまた、電流密度、エッチングサイクル期間、およびエッチング剤溶液組成物によって制御できる細孔特徴(厚み、細孔サイズ、および空隙率)を有することに加えて、テンプレートとして生体適合可能なまたは生体再吸収可能な材料のインプリントを作製するのに利用することができる(例えば、Liら, "Nanostructured casting of organic and bio-polymers in porous silicon templates(多孔ケイ素テンプレートにおける有機およびバイオポリマーのナノ構造キャスティング)";米国特許出願公開第20060236436号;およびLiら, "Polymer Replicas of Photonic Porous Silicon For Sensing and Drug Delivery Applications(センシングおよび薬物送達応用のためのフォトニック多孔ケイ素のポリマーレプリカ)", Science 2003, (299), 2045-2047を参照されたい)。多孔ケイ素フィルムおよび/またはそのインプリントの両方は、正弦的に変化する空隙率勾配を有して光学反射スペクトルに鋭い特性を付与し、これを利用して細孔内にトラップされた化学物質の存在または非存在をモニターすることができる。多孔ケイ素フィルムから機械的粉砕によりまたは超音波粉砕により作られた粒子(スマートダスト)もなおその光学反射スペクトルを保持することが示されている。シリカは骨および結合組織のために身体が必要とするミネラルであるので、これらの多孔ケイ素粒子を酸化して安定性を増加し、動物の眼中に無毒性で眼内組織に注入することができる。
【0080】
多孔フィルムをケイ素基質からリフトオフ(lift off)することができ、次いで眼内注入に資するサイズを有するミクロンサイズの粒子に粉砕することができる。例えば、一実施形態においては、ミクロンサイズ粒子を、眼中に25または27ゲージニードルを用いて注入できるように寸法化および形状化する。この粒子は一次元フォトニック結晶として作用し、電気化学エッチングで使用される波形により確認した光学反射スペクトルを提示する。このスペクトルは光学バーコードとして作用し、ヒト組織を介し、例えば、安価なCCD分光計および白色光源を用いて観察することができる。本開示の薬物送達方法およびシステムについては、薬物を含浸し、細孔内にトラップし、そして光学コードを用いて硝子体中の薬物の放出速度を報告する。粒子内外の分子輸送のセンシングの詳細について、または粒子の分解のセンシングについては、公開済みの米国特許第6,248,539号、第6,897,965号、および 第6,720,177号、"Porous semiconductor-based optical interferometric sensor(多孔半導体に基づく光学干渉計センサー)"を参照されたい(これらは本明細書に参照により組み入れられる)。この方法で、薬物の量を定量してどれだけの量が粒子内に残存しているか、およびさらなる用量の投与が必要であるかどうかを決定することができる。
【0081】
有利なことに、粒子同定に用いる光学干渉スペクトルは安価かつポータブルな計器(CCD分光計またはダイオードレーザー干渉計)を用いて測定することができる。薬物の細孔からの除去は、多孔フィルムの屈折率の変化をもたらし、ダスト粒子のスペクトルコードの波長シフトとして観察されうる(例えば、図3Aを参照)。従って、特徴的な色変化は細孔内に残存する薬物量を示す。このように、用語「フォトニック結晶」は、加工して眼内注入用の小結晶に寸法化したフィルムに対して使用される。
【0082】
ウサギの眼中に注入した酸化された「スマートダスト」を検出する分光学的方法も研究した。外科顕微鏡の1つのアイピースを光ファイバーに基づく分光計の入力に接続し、これによって眼内「スマートダスト」粒子上の検出光に正確に焦点を合わせることができた。本開示はまた、薬物放出を定量する分光計とセットになった結晶の色変化をモニターするカメラも提供する。さらに他の実施形態においては、網膜および内眼を単色光を用いて走査する走査レーザー検眼鏡が、薬物放出の定量を可能にする反射率スペクトル変化を走査しかつ検出する適当な波長にセットされている。
【0083】
さらに、多孔ケイ素の薬物送達組成物としての使用にとって、多孔Siは、多孔でありかつ平均細孔サイズの調整可能性がある故に、テンプレートとして使用するための有力な候補である。さらに、精巧な1、2、および2.5次元フォトニック結晶が多孔Siで容易に調製される。多孔Si複合体(例えば、多孔Siおよび ポリマー)は、機械的安定性および送達系の放出速度の制御の改善に対して大いに期待されることを示す。複合体自体、または多孔Siテンプレートを除去して複合体から誘導されるナノ構造のいずれも利用することができる。生体適合可能なポリマーと組合わせた多孔Siは、薬物放出動力学の制御の改善および水媒体中の安定性の改善をもたらし、そして特異的プロテアーゼにより選択的に切断したバイオポリマーの使用は組織特異的作用の可能性を提供する。
【0084】
多孔Siまたは多孔SiO2テンプレートのポリマーまたはバイオポリマーインプリントからの除去を(使用するポリマーに応じて)それぞれ水性KOHまたはHFを用いる化学的溶解により実施して、マスターの光学的特徴を備えた独立する多孔ポリマーフィルムを提供することができる。プロセスがマスターのナノ構造のレプリカを形成するかどうかは、処理条件と使用ポリマーのタイプに大いに依存する。また、マスターから作られるポリマーの放出能力は界面化学および細孔ネットワークのねじれ具合に依存する。
【0085】
2つの合成手法を用いてテンプレートポリマー送達組成物(template polymeric delivery composition)または多孔Siポリマー複合体(porous Si polymer composite)を作製することができる。一態様においては、ポリマーを多孔マトリックス内で合成する。他の態様においては、予め形成したポリマーを、溶融液または溶液キャスティングによりマトリックス中に流し込む。薬物送達応用については、生体適合可能なポリマーを用いることが重要である。任意の数の生体適合可能ポリマーを本明細書に記載の開示の方法および組成物に用いることができる。例えば、ヒドロゲルを用いることができる。ヒドロゲルは通常、眼科デバイス、バイオセンサー、バイオメンブランラン、および制御された薬物送達に使用される。水膨張した、架橋ポリマーネットワークは、pH、イオン強度、温度、または電場などの環境変化に応答して、体積相転移を経ることができる。
【0086】
ポリマーレプリカを、強膜越えの薬物放出のために、強膜上に移植してもよい。ウサギ眼において、ポリマーレプリカは生体適合可能であって、数年間でないにしても、数か月間は眼中に安全かつ有効に残存しうることが示されている。フォトニック結晶スペクトルにおけるピーク強度の減衰の測定は、移植した生体適合可能ポリマーからの薬物放出速度のモニターを提供するに違いない。以上の仮説を試験するために、熱酸化した多孔ケイ素テンプレートにキャストして作った薬物含浸ポリ(L-乳酸)(PL)フィルムを、図3に図解したスキーム(10)に従って調製することができる。具体的には、特定の応用に適当するよう寸法化した細孔14を有するテンプレート(電解研磨した多孔ケイ素などの)(12)を提供する。ポリマー(16)を細孔14中に充填してポリマー-テンプレート複合体を形成させる。次いでテンプレート12を除去し、ポリマーベースのフォトニックフィルム(16)を残す。多孔ケイ素テンプレートを除去して、生体適合可能ポリマー中の光学スペクトルの複製を用いて複製プロセスを確認することができる。ポリマーの放出特性を研究することができる。
【0087】
任意の数のポリマー材料を、本開示のポリマー多孔構造の作製に用いることができ、それらとしては、例えば、ナイロン(ポリアミド)、ダクロン(ポリエステル)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカプロラクトン、ポリアクリレート、ポリビニル化合物(例えば、ポリ塩化ビニル)、ポリカーボネート(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン(登録商標))、サーマノックス(TPX)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ニトロセルロース、ワタ(cotton)、ポリグリコール酸(PGA)、ゼイン、コラーゲン(スポンジ、編みひも、または織り糸などの形態で)、セルロース、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸またはポリグリコール酸のコポリマー、または様々なポリヒドロキシアルカノアートを含む他の天然の生物分解性材料または合成材料が挙げられる。ふたたび、ポリマーがフォトニックに応用する目的の波長で透明であることを条件として、任意の数のポリマーを用いることができる。もしテンプレートを除去すれば、ポリマーは液体でなく固体でなければならない。典型的なポリマーとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ乳酸(PLA)、PLGA、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、および透明エポキシが挙げられる。
【0088】
これらのフィルムのフォトニック構造の分解は、pH 7.4バッファー水溶液中にてin vitroでおよびin vivoで特徴づけることができる。加速分解研究では、カフェインを含浸したポリマーインプリントを研究した。ルゲートピークの強度は、ポリマーがpH 10バッファーに溶解したときに、ほぼ指数的減衰を提示した。スペクトルピークの減衰と溶液中のカフェインの出現(274nmにおけるカフェイン吸収特性)との同時測定によって、ポリマー分解と比較しうる時間尺度で薬物が放出されることが確認された。
【0089】
本開示の実施形態はまた、ベクターによる薬物送達も考えている。図3に示したポリマーに基づくフォトニックフィルムはフィルムの一側面上にポリマー「キャップ」18を含む。この方法で調製したフィルムは薬物をフィルムの一側面に浸出し、薬物送達パラメーターのさらに優れた制御を可能にしうる。製造変数はチャネルサイズとパッキングである。
【0090】
薬物の送達について、医師または臨床医は眼の虹彩を通して眼の透明な部分の中を見て注入した粒子の色を観察することができる。この方法で、残存する薬物の量または粒子が溶解した程度をモニターすることができ、次いで医師または臨床医は粒子が完全に溶解するまでの時間の長さを予測しかつ患者が引き続いて注入を必要とする時を予想することを可能にする。
【0091】
他の実施形態としては、多孔ケイ素またはケイ素/ポリマー複合体の、眼の特定の位置における使用、または多孔ケイ素またはケイ素/ポリマー複合体を類似の用途のために、他の生体適合可能なまたは生体再吸収可能な材料を作製するテンプレートとしての使用が挙げられる。生物分解性ポリマーインプリントを多孔ケイ素テンプレートから作ることができ、眼の表面および眼球後表面を含む、眼の適当な位置における薬物送達コンタクトレンズまたは移植片として使用することができる。
【0092】
本開示の他の実施形態としては、眼の前面に着用または付着するように形状化した多孔フィルム中に含浸された薬物が挙げられる。含浸した多孔の薄いフィルム材料で作られたコンタクトレンズは、例えば本開示の一実施形態である。他の実施形態はコンタクトレンズを包含する一方、眼の前表面に対応して形状化された、ならびに、強膜において強膜上プラークとして眼と接合するように形状化された他の類似の曲面の固体テンプレートも考えている。ポリマーインプリントとともに使用する特定の1以上の薬物をキャスティングの前にインプリント溶液に加えてもまたはキャスティング後にインプリントの細孔中に入れるように設計してもよい。従って、本開示の実施形態においては、様々な治療化合物を運ぶ長期持続眼内薬物送達ビヒクルとなるように、多孔ケイ素フィルムを色々と改変しうる薬物送達のシステムと方法を提供する。さらに、多孔ケイ素テンプレートから作った生物分解性の多孔ポリマーインプリントは、眼の適当な位置に配置する薬物送達移植片として使用することができる。薬物をキャスティングの前にインプリント溶液に加えるかまたはキャスティング後に細孔中に入れるように設計することができる。
【0093】
眼外薬物送達については、光学報告の低下(optical reporting declines)を強調する。強膜上プラークでは、例えば、送達は眼球後であり、これらのフィルムを「読取る」光学計器を使用することは容易でない。この眼球後の実施形態においては、溶解速度または薬物放出を設定する能力が資産となる。何故なら、多孔Siを構築するために用いる電気化学的プロセスは、複合体の粒子の溶解および/または薬物放出プロファイルの正確な制御を与える精度で、ナノ構造を制御できるからである。従って、例えば、本開示は、前方眼外表面を覆うように形状化されかつアレンジされたコンタクトレンズであって、その枠(rim)、または「担体」が薬物を含浸したケイ素またはケイ素/ポリマー複合体フィルムであるコンタクトレンズを提供する。着用者はコンタクトレンズを介して薬物の持続したかつモニター可能な放出を受給しうる。他の実施形態としては強膜上プラークの使用が挙げられる。
【0094】
強膜上プラークは、薬物を送達する眼外手段であり、そして眼内ダスト注入は薬物レベルのモニタリングを非侵襲的に推進する。本開示は、眼の眼球後表面に貼付けられるまたは接着される、薬物を含浸したケイ素またはケイ素/ポリマー複合体フィルムの使用を提供する。患者はそれによって強膜上プラークを介する持続したかつモニター可能な薬物の放出を受給しうる。
【0095】
本開示は実質的に限定されない数の医薬品候補についての使用を提供するものの、いくつかの例示の薬物を本明細書で考察することにする。例えば、ARMDおよびブドウ膜炎を治療するために使用される薬物の送達を説明の目的で示す。これらの疾患は、疾患の進行および視力の低下を止めるために長期の眼内治療薬物レベルを必要とする。しかし、これらの疾患を治療する有望な薬物は全て共通の問題を共有し、それは一過性眼内治療レベルを保つために頻繁な硝子体内注入を必要とすることである。これらの有望な薬物には、血管新生抑制性ステロイド、メタロプロテイナーゼインヒビター、VEGF結合薬、PEDF、ウロキナーゼ(uPA)の8量体ペプチド断片およびデキサメタゾンが含まれる。これらの薬物はまた、例えば、糖尿病性網膜症を治療するのに使用することもできる。特に、PEDF、uPAの8量体ペプチド断片およびデキサメタゾンは全てガラス体内半減期が短い。
【0096】
本開示のスマートダストと共に使用できる他の薬物または「活性成分」には、限定されるものでないが、次の任意の1つまたは任意の組合わせが含まれる;抗血管形成化合物、例えばベバシズマブ、ラニビズマブ、ペガプタニブ、および血管形成カスケード中の他の化合物。また、グルココルチコステロイド、例えばデキサメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニドおよび副腎皮質ステロイドおよびコルチゾンファミリー中の他の比較しうる化合物も含まれる。また、制酸薬、抗炎症物質、冠状血管拡張薬、脳血管拡張薬、末梢血管拡張薬、抗感染薬、向精神薬、抗躁病薬、興奮薬、抗ヒスタミン剤、緩下剤、鬱血除去剤、ビタミン、胃腸鎮静剤、止痢製剤、抗狭心症薬、抗不整脈薬、抗高血圧薬、血管収縮薬および片頭痛治療薬、抗凝血薬および抗血栓薬、鎮痛薬、解熱薬、催眠薬、鎮静剤、制吐剤、抗嘔吐剤、抗痙攣薬、神経筋遮断薬、高血糖症剤および低血糖症剤、甲状腺製剤および抗甲状腺製剤、利尿薬、鎮痙薬、子宮弛緩薬、ミネラル添加剤および栄養添加剤、肥満抑制薬、同化剤、赤血球生成薬、抗喘息薬、気管支拡張剤、去痰剤、咳止め剤、粘液溶解剤、石灰化および骨代謝回転に作用する薬物ならびに抗尿酸血剤などの化合物も含まれる。具体的な薬物としては、メトクロプラミドおよびプロパンセリンブロミドなどの胃腸鎮静剤;アルミニウムトリシリケート、水酸化アルミニウム、ランチジン、およびシメチジンなどの酸中和剤;フェニルブタゾン、インドメタシン、ナプロキセン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ジクロフェナク、デキサメタゾン、プレドニソン、およびプレドニソロンなどの抗炎症剤;グリセリルトリニトレート、イソソルビドジニトレート、およびペンタエリスリトールテトラニトレートなどの冠拡張薬;ソロクチディラム(soloctidilum)、ビンカミン、ナフチドロフリルオキサレート、コ-デルゴクリンメシレート、シクランデレート、パパベリン、およびニコチン酸などの末梢血管拡張剤および脳血管拡張剤;エリスロマイシンステアレート、セファレキシン、ナリジクス酸、テトラサイクリンヒドロクロリド、アンピシリン、フルクロキサシリンナトリウム、ヘキサミンマンデレート、および馬尿酸ヘキサミンなどの抗感染剤;フルラゼパム、ジアゼパム、テマゼパム、アミトリプチリン、ドクセピン、炭酸リチウム、リチウムサルフェート、クロルプロマジン、チオリダジン、トリフロペラジン、フルフェナジン、ピペロチアジン(piperothiazine)、ハロペリドール、マプロチリンヒドロクロリド、イミプラミン、およびデスメチルイミプラミンなどの神経遮断剤;メチルフェニデート、エフェドリン、エピネフリン、イソプロテレノール、アンフェタミンサルフェート、およびアンフェタミンヒドロクロリドなどの中枢神経興奮剤;ジフェンヒドラミン、ジフェニルピラリン、クロルフェニラミン、およびブロムフェニラミンなどの抗ヒスタミン剤;ビサコジルヒドロキシドおよびマグネシウムヒドロキシドのような抗下痢剤;ジオクチルナトリウムスルホサクシネートなどの下剤;アスコルビン酸、アルファトコフェロール、チアミン、およびピリドキシンなどの栄養補充剤;ジシクロミンおよびジフェノキシレートなどの抗けいれん剤;ベラパミル、ニフェジピン、ジルチアゼム、プロカインアミド、ジソピラミド、ブレチリウムトシレート、キニジンサルフェート、およびキニジングルコネートなどの心臓の鼓動に作用する薬剤;プロプラノロールヒドロクロリド、グアネチジンモノサルフェート、メチルドーパ、オクスプレノロールヒドロクロリド、カプトプリル、およびヒドララジンのような高血圧の治療に使用される薬剤;エルゴタミンのような偏頭痛の治療に使用される薬剤;イプシロンアミノカプロン酸およびプロタミンサルフェートなどの血液の凝固に作用する薬剤;アセチルサリチル酸、アセトアミノフェン、コデインホスフェート、コデインサルフェート、オキシコドン、ジヒドロコデインタートレート、オキシコデイノン、モルヒネ、ヘロイン、ナルブフィン、ブトルファノールタートレート、ペンタゾシンヒドロクロリド、シクラゾシン、ペチジン、ブプレノルフィン、スコポラミン、およびメフェナム酸などの鎮痛剤;フェニトインナトリウムおよびナトリウムバルプロエートなどの抗てんかん剤;ダントロレンナトリウムなどの神経筋剤;トルブタミド、ジスベナーゼグルカゴン(disbenase glucagon)、およびインスリンなどの糖尿病の治療に使用する物質;トリヨードチロニン、チロキシン、およびプロピルチオウラシルなどの甲状腺機能不全の治療に使用する薬剤;フロセミド、クロルタリドン、ヒドロクロルチアジド、スピロノラクトン、およびトリアムテレンなどの利尿剤;リトドリンなどの子宮弛緩剤;フェンフラミンヒドロクロリド、フェンテルミン、およびジエチルプロピオンヒドロクロリドなどの食欲抑制剤;アミノフィリン、テオフィリン、サルブタモール、オルシプレナリンサルフェート、およびテルブタリンサルフェートなどの抗ぜんそく剤または気管支拡張剤;グアイフェネシンなどの去痰剤;デキストロメトルファンおよびノスカピンなどの制咳剤;カルボシステインなどの粘液溶解剤;セチルピリジニウムクロリド、チロトリシン、およびクロルヘキシジンなどの消毒剤;フェニルプロパノールアミンおよびシュードエフェドリンなどのうっ血除去剤;ジクロラルフェナゾンおよびニトラゼパムなどの睡眠剤;プロメタジンテオクレートなどの制嘔吐剤;硫酸第一鉄、葉酸、およびカルシウムグルコネートなどの増血剤;スルフィンピラゾン、アロプリノール、およびプロベネシドなどの尿酸排泄促進剤;ならびにビホスホネート、例えばエチドロネート、パミドロネート、アレンドロネート、レシドロネート、テルドロネート、クロドロネート、およびアロンドロネートなどの石灰化作用剤が含まれる。
【0097】
本開示が意図する限りでは、実質的に限定されない数の薬物を含めて、in vitro薬物動態学研究を利用してそれぞれの薬物に対して多孔ケイ素フィルムおよびそのダストの形状を決定することができる。薬物と結合した多孔ケイ素フィルムおよびそのダストは、細胞培養ディッシュにおいて硝子体サンプル中にアリコートしてもよい。硝子体サンプル中に浸漬した多孔フィルムまたはダストに対する時間の関数として、多孔ケイ素フィルムまたはそのダストからの反射光の強度を低パワーの分光計を用いて測定し、同時に、硝子体サンプル中のフリーの薬物を測定することができる。分光計変化と硝子体中の薬物濃度との相関を決定し、in vivoのPK研究に利用することができる。
【0098】
多孔ケイ素フィルムの生体適合可能ポリマーインプリントについては、薬物をポリマーキャスティング溶液中で含浸させることができる。次いで、独立するポリマー多孔フィルムをさらに薬物分子と結合させて細孔を充満させることができる。in vitro PK研究を多孔ケイ素フィルムまたはそのダストについてと類似の手順で実施することができる。
【0099】
薬物候補に適合させた最適化多孔ケイ素スマートダストは硝子体内注入後に毒性がなく、硝子体薬物半減期は数週間〜数カ月の範囲内にありかつ薬物レベルはECを越えて数ヶ月間持続しうる。1つの方法は、多孔Siフォトニック結晶粒子を調製するステップ、これらの結晶粒子の細孔に1以上の薬物を充填するステップ、およびその粒子をシリンジを介して硝子体中に注入するステップを含む。粒子に充填される薬物の量を次いで1以上の複数の方法、例えば、目視検査、デジタルイメージング、レーザーによる眼スキャン(laser eye scan)、または分光計観察を介してモニターすることができる。これらの4つの方法のいずれも非侵襲性であり、実施者または臨床医は眼の瞳孔を通して粒子を観察することができる。
【0100】
さらに具体的には、本開示の一方法は次のように進行する。多孔Siフォトニック結晶は、電流密度-時間の正弦波形を適用することにより単結晶Si基質に電気化学的にエッチングした多孔ケイ素フィルムから形成することができる。波形は15〜45mA/cm2の間で、70回繰返しおよび12.5秒の周期にて変化する。得られる一次元フォトニック結晶は波形パラメーターに応じた色を有する。上記条件の場合、スペクトルの緑色領域に強い最大反射性を有するフィルムを生成する。これは眼における可視観察に好都合な色であるが、任意の色または色のパターン(複数のスペクトルピーク)をフィルム中に組み込むことができる。スペクトル特性は300nm〜10,000nmの波長の範囲でありうる。フィルムを電流のパルスを利用してSi基質から取り外す。1μm〜270μmの範囲の寸法をもつ粒子を超音波粉砕によって作製する。
【0101】
次いでフォトニック結晶に1以上の薬物を充填する。フォトニック 結晶の細孔は例えば、デキサメタゾンなどの薬物の浸潤を可能にするのに十分な大きさである。薬物をフィルムまたは粒子中に溶液からの浸潤によって充填する。典型的な調製の場合、薬物充填溶液はメタノール中に6x10-2 Mのデキサメタゾンを含む。25μLの溶液を多孔Siフィルム上にピペットでとり、溶媒を大気中で蒸発させる。フィルムを脱イオン水で簡単に漱ぎ、表面に残存する細孔に浸潤しなかった過剰薬物を除く。
【0102】
薬物がフォトニック結晶の細孔中に充填されると、次いでそのフォトニック 結晶を患者に注入する。他の態様においては、充填したフォトニック結晶を酸化して薬物をトラップする。薬物を充填した結晶を適当な賦形剤に入れて硝子体中に注入する。硝子体内注入の後、硝子体に浮遊する多孔ケイ素粒子は検眼鏡で眼底の透明な視界を与え、毒性は観察されない。この粒子は硝子体中で4カ月に至るまで何の異常も認められないで存続しうる。
【0103】
粒子同定に用いる光学干渉スペクトルは、CCD分光計またはダイオードレーザー干渉計などの安価なポータブル計器で容易に測定することができる。薬物を多孔ナノ構造から除去すると、多孔フィルムの屈折率に変化を生じ、スペクトルの波長シフト、またはダスト粒子のコードのシフトとして観察される。大きい表面積と光学的干渉計による検出手法は非常に高い感度をこのシステムにもたらす。さらに粒子は、生体組織を貫通することができて不透明な組織を通過して非侵襲性センシングを可能にする赤外光を反射するようにコードすることができる。
【0104】
記載したデバイス、系および方法はまた、医薬化合物などの活性成分の脈動性送達(pulsative delivery)も包含する。「脈動性」は複数の薬物用量が時間間隔を置いて放出されることを意味する。従って、デバイスおよび系は、特定の症状または複数の症状を治療するために好適な放出プロファイル(例えば、放出動力学)を持つように設計され、形状化されかつ製造される。かかるデバイスおよびシステムは、複数の活性成分を含み、それぞれが複数の症状を治療するために好適な特定の放出プロファイルを有することは理解されよう。脈動性送達系は、例えば、1以上の直接放出パルスを、制御された遅れ時間後に予め定めた時点にまたは特定部位に提供することができる。システムまたはデバイスは、本明細書に提供したデバイスまたはシステムを設計し、形状化しかつ製造するために利用した予めプログラムした用量プロファイルに従って、脈動性薬物送達および活性成分の異なるサイズの用量の投与を異なる時間に自動的に行うことを可能にする。例示の放出プロファイルには、疾患症候群に関係した所望のピークと谷(trough)に対応するプロファイルが含まれる。
【0105】
従って、本明細書に提供されるのは、生体系における活性成分の制御された放出を容易にするように設計したデバイス、システムおよび方法である。いくつかの態様において、活性成分は医薬品化合物である。その化合物は好適なマトリックスまたは担体に含まれていてもよい。マトリックスまたは担体はさらに親水性バインダー、水溶性希釈剤、界面活性剤、滑沢剤、崩壊剤、酸化防止剤、または非水溶性希釈剤、またはそれらの任意の組合わせを含んでもよい。
【0106】
用語「活性成分」は、治療効果を有しかつ本明細書に与えたデバイスで投与するのに好適である、任意の化合物を意味することを意図する。活性成分には、非ペプチド有機分子、小ペプチドおよびペプチドミメチックなど、ならびにそれらの製薬上許容される塩が含まれる。活性成分それ自体は貯蔵時またはストレス条件のもとで安定であっても、1以上の担体と共に製剤したとき、安定性の問題を示す、例えば、分解を始める。
【0107】
用語「担体」は、医薬品製剤を調製する医薬品化学において通常用いられる担体を意味することを意図し、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 19th Edition (1995) ; "Drugs and the pharmaceutical sciences", vol. 81, 1997を参照されたい。特に、かかる1以上の担体は、限定されるものでないが、親水性バインダー、水溶性希釈剤、界面活性剤、滑沢剤、崩壊剤、酸化防止剤、非水溶性希釈剤および/または当業者に公知の他のフィラーから選択される。
【0108】
用語「製薬上許容される塩」は生理学的に医薬品使用に好適である活性成分の塩形態を表す。製薬上許容される塩は、活性成分と結合して酸付加一級、二級、三級、または四級アンモニウム、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属塩として存在しうる。本開示内では活性成分を、塩、例えば、製薬上許容される塩、とりわけ、有機酸および無機酸の塩を含む酸付加塩の形態で調製してもよい。かかる塩の例には、有機酸、例えば蟻酸、フマル酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、蓚酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸などの塩が含まれる。好適な無機酸付加塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸およびリン酸などの塩が含まれる。酸付加塩は化合物合成の直接生成物として得てもよい。代わりの方法では、遊離塩基を適当な酸を含有する好適な溶媒に溶解し、そして溶媒を蒸発することによりまたは他の方法で、塩と溶媒を分離することによりその塩を単離してもよい。
【0109】
用語「親水性バインダー」は、通常、医薬品の製剤に使用されるバインダー、例えば、ポリビニルピロリドン、コポリビドン(架橋共重合したポリビニルピロリドン)、ポリエチレングリコール、スクロース、ブドウ糖、トウモロコシシロップ、多糖類(アカシア、トラガカント、グアール、およびアルギン酸塩を含む)、ゼラチン、およびセルロース誘導体(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースナトリウムを含む)を表す。
【0110】
用語「水溶性希釈剤」は、典型的には、医薬品の製剤に使用される糖類(ラクトース、スクロース、およびブドウ糖を含む)、多糖類(デキストレート(dextrates)およびマルトデキストリンを含む)、ポリオール類(マンニトール、キシリトール、およびソルビトールを含む)、およびシクロデキストリンなどの化合物を表す。
【0111】
用語「非水溶性希釈剤」は、典型的には、医薬品の製剤に使用されるリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、デンプン、修飾されたデンプンおよび微結晶セルロースなどの化合物を表す。
【0112】
用語「非膨張特性をもつ非水溶性希釈剤」は上記の非水溶性希釈剤であるが、デンプンおよび修飾されたデンプンなどを除く。
【0113】
本明細書で使用する用語「界面活性剤」は、通常、医薬品の製剤に使用されるイオン性および非イオン性界面活性剤または湿潤剤、例えば、エトキシル化ヒマシ油、ポリグリコール化グリセリド、アセチル化モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、ポロキサマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン誘導体、モノグリセリドまたはそのエトキシル化誘導体、ジグリセリドまたはそのポリオキシエチレン誘導体、ナトリウムドクセート、ナトリウムラウリルサルフェート、コール酸またはその誘導体、レシチン、アルコールおよびリン脂質を表す。
【0114】
用語「酸化防止剤」は、酸化防止剤の3グループ、すなわち、真の酸化防止剤、還元剤および抗酸化相乗作用剤;例えば、トコフェロール、トコフェロールエステル、アルキル 没食子酸、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化 ヒドロキシトルエン、アスコルビン酸、クエン酸、エデト酸 およびその塩、レシチンならびに酒石酸を表す。
【0115】
用語「崩壊剤」は、デンプン、粘土、セルロース、アルギン酸塩、ガム類、架橋したポリマー(架橋したポリビニルピロリドンおよび架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウム)、グリコールデンプンナトリウム、低置換のヒドロキシプロピルセルロース、およびダイズ多糖類などの化合物を表す。好ましくは、崩壊剤は修飾されたセルロースガム、例えば、架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウムなどである。
【0116】
本開示の薬物またはフォトニックナノ結晶は、本明細書に記載の組成物と方法を用いてin vivo送達用に製剤することができる。
【0117】
本発明のある特定の実施形態を説明してきたが、さらなる実施形態および実施例を以下に提供する。かかる特定の実施例は本発明を限定することを意図するものでない。
【実施例】
【0118】
多孔ケイ素ダストをウサギ硝子体中に注入し、そして同じ体積のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を受給した仲間のウサギの眼と比較して毒性がないことを見出した。多孔ケイ素フィルムを70反復と12.5秒の周期で15〜45mA/cm2の間で変化する正弦電流を用いてエッチングした。そのフィルムを超音波処理して1μm〜270μmの範囲でダスト化した。硝子体内注入後に、硝子体内に浮遊した多孔ケイ素粒子は検眼鏡で透明な眼底の視野を与えかつ毒性が観察されなかった。硝子体内の粒子は1週間、異常が認めらることなく存続した。
【0119】
熱酸化ケイ素ダストも4匹のウサギの硝子体中に注入した。多孔ケイ素フィルムのこの化学修飾は、硝子体中の多孔ケイ素ダストの滞留時間を増加する代替法の1つとして提案された。この手法は、従来の不完全にヒドロシリル化したスマートダストと比較して、ウサギ眼中の粒子の滞留時間が大きく増加する(7日未満から3週間以上長くまで)ことを実証した。さらに、調製中の超音波処理時間を増加することにより、より小さくかつより均一なスマートダスト 粒子が生成した。これは硝子体中に25または27ゲージニードル(臨床医においてガラス体内注入に通常使用されるもの)により送達することができる。
【0120】
さらなるデータは完全にヒドロシリル化した多孔Siフォトニック結晶の使用を支持し、前記データでは、注入後、3.5ヶ月(それまでの時間も含めて)における臨床試験または網膜電図または組織学において無毒性である。例えば、100μlの材料を注入すると結晶の特徴的な色が見られ、この特徴を眼内の薬物放出をモニターするのにこの特徴を利用できることを明らかにした。
【0121】
100μlの5%ブドウ糖中の酸化多孔Siフォトニック結晶粒子のガラス体内注入を実施した。10〜45μmの範囲で平均30μmの測定サイズのスマートダストおよそ30,000粒子をそれぞれのウサギの眼中に注入した。注入した粒子は紫緑色に見え、硝子体中で浮遊した。第2日に、いくつかの粒子が凝集して下方の網膜上に沈んだ。34週間後の最後の試験で毒性は見られずかつスマートダスト粒子はなお目に見えて、検眼鏡で評価すると、元来注入した材料の少なくとも半分は残存した。それ故に、粒子は2年間でないにしても少なくとも1年間安全かつ有効であると予測される。従って、この予備的な熱酸化修飾は、従来の不完全にヒドロシリル化したスマートダストと比較して、ガラス体内の滞留時間を大きく延長した。データは、多孔ケイ素粒子が硝子体内の薬物送達ビヒクルとして安全であることを実証した。酸化およびケイ素-炭素鎖結合などの修飾を利用してケイ素ダストの安定性をさらに増加し、そしてこれを長時間持続する遅延放出型の硝子体内薬物送達システムにすることができる。
【0122】
ラットCNVモデルにおいて、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)由来の8量体ペプチドの全身投与を用いて、uPA-ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター受容体(uPAR)の相互作用をブロックする予備研究を実施した。この8量体ペプチドを毎日2回、200 mg/kg/dを、ブラウンノルウェー・ラットにCNVを導入するCNVの誘導(レーザーによる)の時間に開始して皮下投与した。レーザー処置後2週に、走査レーザー血管造影を用いて同時FAとICGを実施して漏洩レーザーバム(leaking laser bum)を同定した。その結果はこの8量体ペプチドがレーザー誘導性CNVを、対照グループと比較して70%低下させた(対照グループのレーザーバーンリーク(laserl burns leak)44.7%に対して処置グループでは13.4%、p<0.001)ことを示した。提案した多孔ケイ素スマートダストを用いる硝子体内での薬物の投与は所望の眼内薬物レベルを維持するに違いない。
【0123】
多孔Si粒子の熱酸化:酸化して大気中で300℃で2時間アニールした多孔Si粒子の予備研究は、この材料がpH 11の水性バッファー中で数日間安定であることを示し、そして最近の結果は、この手法がウサギ眼中の粒子の滞留時間を劇的に増加できることを示す。さらに、調製中に超音波処理時間を延長することによりより小さくかつさらに均一なスマートダスト粒子を作製したが、これは、硝子体内注入に臨床で通常使用される28.5ゲージニードルによって硝子体中に送達することができる。5%ブドウ糖中の酸化多孔Siフォトニック結晶粒子100μlの硝子体内注入を実施した。10〜45μmの範囲で平均30μmの測定サイズのスマートダストを各ウサギの眼中に注入した。硝子体内に浮遊する注入した粒子の色は透明かつ可視性であり、薬物放出と加水分解による分解を示している。加水分解による分解は、この粒子を分解するのに酵素が不要である点においてとりわけ有利である。第2日からいくつかの粒子が凝集して下方の網膜上に沈んだ。毒性は認められず、スマートダスト粒子は最後の試験までなお可視性であって、これはこの予備的熱酸化が硝子体内の滞留時間を、従来の不完全なヒドロシリル化スマートダストと比較して、3倍以上にしたことを示す。実験を行って、滞留時間を定量しかつ化学修飾条件、例えば熱酸化時間、温度、および雰囲気と関係づけることができる。
【0124】
有機試薬の電気化学グラフト化:p型またはp++型多孔ケイ素の水素化物末端をもつ表面は、様々な有機ハロゲン化物のアセトニトリル溶液の電気化学還元により安定化することができる。6-ヨード-エチルヘキサノエート、l-ヨード-6-(トリフルオロアセチルアミド)ヘキサン、ヨードメタン、1-ブロモヘキサン、またはエチル4-ブロモブチレートの多孔Si陰極における還元は、ハロゲンの除去および有機断片のSi-C結合を介する多孔Si表面との付着をもたらす。目的の官能基の付着、および続いての、より立体的に進入不可の多孔Si表面の残部とのメチル基の付着(ヨードメタンの還元による)に関わる2-ステップ手順を工夫した;そして電気化学アルキル化が酸化に対する多孔Siの安定性および様々な腐食性水媒体における腐食を大きく改善すること、ならびにメチルキャッピング手順が報じられる最も安定な多孔Si材料を提供することを見出した。この化学はまた、放出研究のための候補薬物の共有結合を可能にする。
【0125】
有機アルケンの熱ヒドロシリル化: この手法は、pH 10の沸騰水溶液中でも安定である多孔Si材料を提供する。この化学をダスト粒子に拡張して、類似したレベルの安定性を見出した。反応のパラメーターは、この不安定性に導く主要パラメーターを同定する目的で、調節することができる。特に、表面被覆(本質的に化学反応の効率)、表面にグラフトされた有機種のタイプ(アルキル カルボキシラート、アルキル エステル、および ハロゲン化アルキル )およびアルキル種の鎖長を研究することができる。付加されたラジカル開始剤、遷移金属触媒、および光支援ヒドロシリル化を探求することができる。
【0126】
それぞれの修飾された多孔ケイ素フィルムについて、その超音波処理したダストを3匹のウサギの眼と対照として用いた仲間の眼の中に硝子体内注入することができる。注入後、その毒性をスリットランプ、間接検眼鏡、ERG、および 病理学によりモニターすることができる。さらに、遠隔分光計プローブを用いて、拡張した瞳孔を通して生存動物の硝子体内のシリカダストのクリアランス速度を決定することができる。分光計プローブは、小粒子は間接検眼鏡を用いて見ることができないので、さらに正確な情報を与えると思われる。
【0127】
ウサギ眼中に注入された酸化「スマートダスト」を検出する分光学的方法も研究した。外科顕微鏡の1つのアイピースを光ファイバーに基づく分光計の入力と接続すると、眼内「スマートダスト」粒子上の検出光に正確に焦点を合わせることが可能になる。本開示はまた、薬物溶出を定量する分光計とセットになった、結晶の色変化をモニターするカメラも提供する。さらに他の実施形態においては、網膜および内眼を単色光でスキャンする走査レーザー検眼鏡が、薬物放出の定量を可能にする反射率スペクトル変化をスキャンし検出するのに適当な波長にセットされている。予備データはこの手法の実施可能性を示し、多孔Siフォトニックフィルムの特異的な波長が1nm分光解像度で検出された。この解像度は多孔Siフィルム中の大きいタンパク質などの種の濃度をマイクロモル濃度レベルで測定するのに十分である。代わりの方法として、プローブを眼底カメラに適合させて臨床網膜イメージングに利用することができる。ウサギまたはげっ歯類の眼について、眼底を麻酔なしで眼底カメラを用いて写真撮影することができる。
【0128】
in vitro実験において、多孔Siフォトニック結晶粒子の光学コードをデジタルイメージングカメラを用いて読取ることができる。粒子の色は充填した薬物の量の間接測定を提供するので、分光計を用いて最も正確な測定が行われる。しかし、デジタルカメラの色解像は10%の精度の充填量を測定するのに十分であり、これは現在の応用にとって十分である。多孔Si 「スマートダスト」中の充填度を測定するために、粒子の色は、眼底カメラに接続したカラーデジタルカメラを用いて記録することができる。デジタルイメージを処理しかつ濃度情報を抽出するソフトウエアは、市販されるソフトウエアにわずかな改変をして得ることができる。この手法の利点は、現存する容易に入手しうる医療設備にわずかな改変だけが必要であり、かつ多数の粒子から同時にデータを取得できることである。もしさらに高解像の濃度情報が必要であれば、照明光をモノクロメーターまたはバンドパスフィルターを用いてフィルターして、分光計で得られるのと等価の分光解像を得ることができる。
【0129】
長期持続性多孔ケイ素フィルムとそのインプリントは、細孔サイズおよび形態学を制御することにより3種の候補薬物(PEDF、uPAの8量体ペプチド断片、およびデキサメタゾン)の送達についてさらに最適化することができる。これらのパラメーターは、適当な陽極電気化学エッチング電流密度、エッチングサイクル期間、およびエッチング剤溶液組成物を用いて容易に制御される。インプリントとその 多孔ケイ素 テンプレートは類似のナノ構造を共有するので、最適化多孔ケイ素からのインプリントもこれらの薬物 候補を送達するのに適当でありうると考えられる。
【0130】
眼内注入後の「スマートダスト」材料に関するさらなるin vivoデータおよび「スマートダスト」 製剤からのデキサメタゾンの放出に関するin vitro データは次の通りである。In vivo研究:二酸化ケイ素シェルを含有する「スマートダスト」粒子の新しい製剤を、生存ウサギの硝子体内で16週間観察したが、スリットランプ、間接検眼鏡試験によりまたは光もしくは電子顕微鏡によりそれらは溶解の確証を示し、いずれの毒性の確証もなかった。粒子の半分以上はこの時点で存在するのが見られ、長時間作用型薬物送達系として優れた能力を示す。ヒドロシリル化アルキルシェルを含有する「スマートダスト」粒子の生存ウサギの眼中への注入は、進行中の試験の5週間まで毒性の確証は見られない。
【0131】
さらなるin vivo研究は、ヒドロシリル化アルキルシェルを含有する「スマートダスト」粒子の安定性の増加を実証した。これらの化学修飾された粒子はまた、薬物のより遅い放出速度も示す。修飾された多孔ケイ素マトリックスからのデキサメタゾンの放出は、未改変の多孔ケイ素と比較して20のファクタだけ遅くなった。
【0132】
さらに大きい分子、例えば、改変されたヒトIgGのFabフラグメントを細孔内に適応させるため、細孔を拡張する化学も開発されている。細孔拡張手順は、フッ化水素酸(HF)を含有するジメチルスルホキシド(DMSO)を用いる処理による細孔の拡大に関わる。空隙率は、拡張処理後におよそ10%増加し、この化学は、ヒトIgG(150kDa)およびウシ血清アルブミン(67kDa)などの大分子の進入を可能にすることが見出された。技術者には明らかであるように、本発明は多孔ケイ素フォトニック結晶の光学的特性を薬物送達速度をモニターするために利用する。フィルムの反射率スペクトルのシフトは薬物の放出と一致する。光学測定を実施する一方、薬物を注入した多孔ケイ素フィルムを緩衝化水溶液に導入して同時の吸収測定値を得た。溶液中の薬物濃度の増加(すなわち細孔から拡散する薬物)と多孔ケイ素フィルムの光学密度の変化との間に線形相関がある。
【0133】
多孔Siの光学的特性は化学および生体センサーを含む多数の応用について研究されている。多孔Siは、in vivo薬物送達およびバイオメディカルデバイス応用についても研究されている生体適合可能でかつ生体再吸収可能な材料である。最近、多孔Siから微粒子フォトニック結晶を作製する技法が開発された。明確な粒子スペクトルをヒト組織を通して観察することができ(Li, Cunin ら, Science 299(5615):2045-7 (2003))、そしてデキサメタゾン、IgGおよびウシ血清アルブミンを含む様々な有機または生体分子の充填および放出をモニターするのに用いることができる。分子充填および放出をモニターするこの光学的方法は眼科応用に好適である。薬物を多孔マトリックスに収容できる一方、光学スペクトルは放出速度の非侵襲性測定を可能にする。これは、生存動物の眼における自己報告性薬物送達系として作用することができる多孔ケイ素粒子の眼内特性を特徴づける最初の研究である。
【0134】
多孔ケイ素粒子の製造:多孔ケイ素粒子を、単結晶、変性B-ドーピングしたp-型ケイ素の48%HF:エタノール(体積で3:1)電解質水溶液中の電気化学エッチングにより製造した(SiltronixInc.、<100>配向、〜1mΩ・cm抵抗)。光学ルゲート構造を、15〜45mA/cm2の正弦電流モジュレーション、70反復および12.5秒の周期を用いて、Siウエーハ中に電気化学的にエッチングをした。フィルムをバルクケイ素基質から、エタノール溶液中の3.3% HFで、200 mA/cm2の電流密度を、2分間用いる電解研磨により取り除いた。製造した多孔Siフィルムは全体に20ミクロン厚さ(図5を参照)、重量分析により測定した空隙率は67%であった。独立するフィルムを次いで、超音波クリーナーを用いて超音波粉砕し(5分間)、(光学顕微鏡で見積もって)1〜270ミクロンの範囲のサイズの粒子(70%以上の粒子は15〜30ミクロンの範囲である)を作製した。20ミクロン粒子については、粒子1個当たり薬物充填に利用しうる4x10-9cm3の自由体積であり、ウサギ硝子体内の粒子注入当たり1.2x10-4cm3の総自由体積が存在すると見積られる。
【0135】
多孔Si粒子の化学修飾:未修飾の多孔ケイ素は、表面上に存在する反応性の水素化物種が急速に酸化するので、水媒体内で不安定であることは公知である。本研究においては、粒子を安定化するために、2つの異なる化学修飾反応を実施した。第1の方法は、1-ドデセンを用いる熱ヒドロシリル化の手法による表面アルキル化に関わり、そして第2の方法は熱酸化である。
【0136】
多孔Si粒子の表面アルキル化:多孔Si粒子の調製直後に、熱ヒドロシリル化をBuriakの方法(Buriak, Adv. Mater. 11(3):265-267 (2002))に従って実施した。粒子を1-ドデセンを含有するSchlenkフラスコに入れ、凍結-ポンプ-解凍のサイクルを実施して酸素を除去した。反応フラスコを窒素で満たし、前記混合物を120℃で2時間加熱した。粒子をジクロロメタンおよびエタノールで十分に漱ぎ洗い、次いで大気中で乾燥した。生成物をFTIRにより特徴付けし、粒子の表面上のアルキル種の存在を確認した。
【0137】
PSi 粒子の熱酸化:多孔Si粒子の調製直後に、酸化を実施した。酸化は、オーブン中で80℃にて大気中で24時間実施した。
【0138】
動物研究:11匹のニュージーランドレッド・ウサギを用いてウサギ硝子体中の多孔ケイ素粒子の安全性と安定性を研究した。動物取扱いは全て、ARVO声明「the Use of Animals in Ophthalmic および Vision Research(眼科および視覚研究における動物の使用)」に忠実に従った。従来公開されている注入方法を用いて、各動物の一眼に多孔Si粒子を注入し、また仲間の動物の眼に同じ体積の5% ブドウ糖を注入して対照とした。3匹のウサギに新しい(化学修飾されてない)多孔Si粒子を注入し、5匹のウサギにヒドロシリル化多孔Si粒子を注入し、そして3匹を用いて酸化多孔Si粒子を評価した。全ての粒子はエタノール中に懸濁して滅菌した。注入前に、エタノールを蒸発させ、1mLの5%ブドウ糖をほぼ120mgの粒子に加えた。1滴(ほぼ6μL)のサンプルを採取して粒子サイズと粒子数を光顕微鏡により測定した(図6、パネルAおよびパネルB)。外科顕微鏡の直接視野のもとで、25ゲージニードルを用いて、100μLの懸濁液(大まかに12mgの粒子)をウサギ硝子体中に、毛様体輪(pars plana)を通って送達した。硝子体内注入後、眼を間接検眼鏡、眼圧計、および生物顕微鏡スリットランプによって、第3日およびその後、1週間に1回、モニターした。選択したウサギ眼の眼底写真を、注入後、色々な間隔で撮影し、多孔Si粒子の分解を評価した。動物の全ての眼からの網膜電図(ERG)を記録した後、動物を屠殺した。動物を屠殺した後、その眼球を摘出して組織学を評価した。ヒドロシリル化多孔Si粒子を含有する硝子体を、選択した眼から切除し、その粒子を走査電子顕微鏡により試験した。
【0139】
ウサギ眼内の無修飾多孔Si粒子の観察:多孔Si粒子の5%ブドウ糖溶液中のアリコート100μLを、3匹のウサギの3つの眼の硝子体中に25ゲージニードルを用いて注入した。粒子はサイズが1〜270μm、見積られた1回の注入当たり粒子数はおよそ12,000であった。粒子は注入部位で硝子体内に懸濁し(図 7、パネル A)、その後の2〜3日間に周囲の硝子体中に分散するのが観察された(図 7、パネル B)。毒性効果は観察されず、粒子は3〜4週間で完全に分解した(図 7、パネル C)。光学顕微鏡による病理学的試験は毒性の徴候を表さなかった(図 7、パネル D)。
【0140】
ウサギ眼内のヒドロシリル化多孔Si粒子の観察:ヒドロシリル化多孔Si粒子の5%ブドウ糖溶液中のアリコート100μLを、5匹のウサギの5つの眼の硝子体中に25ゲージニードルを用いて注入した。粒子はサイズが1〜300μm(最長寸法)、見積られた1回の注入当たり粒子数はおよそ1900であった。ヒドロシリル化 粒子は2〜3日内に硝子体全体に分布する一方、鮮やかな緑色を呈示した。分解は未修飾の多孔Si粒子より遥かに遅いのが観察された(図 8)。注入後4カ月に、動物を屠殺し、粒子を光学顕微鏡および走査電子顕微鏡により分析した。可視分子のおよそ50%は青色〜緑色の色に見えた(図9、パネルA)。走査電子顕微鏡イメージは粒子上の鋭いエッジと、しかしピッチングされた表面を表し、或る程度の浸食を示した(図9、パネルB)。他の3匹のウサギを犠牲にして組織病理学を調べた。ERG試験、眼圧測定、および組織学は毒性の徴候を示さなかった(図9、パネルC)(下表を参照)。
【0141】
ウサギ眼内の酸化多孔Si粒子の観察:酸化多孔Si粒子の5%ブドウ糖溶液中のアリコート100μLを、3匹のウサギの3つの眼の硝子体中に25ゲージニードルを用いて注入した。粒子はサイズは10〜40μmの範囲で、30,000と見積られる粒子数を注入した。酸化粒子は、無修飾およびヒドロシリル化粒子と類似した硝子体内の分散を示した。酸化粒子については、ヒドロシリル化粒子についてより速やかな分解速度が観察された(下の表1を参照)。注入後2週に、20%の粒子が分解の確証を示し、大まかに80%の粒子が紫色光を反射した(図10、パネルB)。注入後9週に、観察しうる粒子の80%以上がその鮮やかな反射特性を失い、分解されて褐色に見えた。粒子は下方の硝子体または網膜中に沈降した(図10、パネルC)。ERG、眼圧測定、および 組織学は毒性の徴候を示さなかった(図 10、パネル D)(下表を参照):
【表1】
【0142】
本研究は、多孔Si粒子は安全にウサギ硝子体中に注入することができ、そして無修飾の粒子は3〜4週間に分解して毒性の確証はないことを実証する。粒子および細孔表面の化学修飾、すなわちグラフト化による、または SiO2への転化(熱酸化)による化学修飾は、粒子の硝子体滞留時間を著しく増加する。これは、ヒドロシリル化または酸化多孔Si粒子を長期存続する硝子体内の薬物送達ビヒクルとして利用できることを示す。さらに、酸化またはヒドロシリル化の程度を制御することにより、粒子の硝子体滞留時間を、特定の処理様式に適合するよう操作することができる。
【0143】
多孔Siは従来、生理学的水溶液中で研究されていて、オルトケイ酸の形態で溶解し、これが正常な骨および結合組織の恒常性にとって重要であることがわかっている(Anderson, Elliott ら, 2003)。しかし、多孔Si溶解は、定常性体液代謝回転をもつ複雑な生体溶液である硝子体中では研究されてなかった。このタイプの条件はin vitro環境では容易に複製されない。従って、その溶解および関係する潜在毒性は直接生存する眼において研究されなければならない。
【0144】
多孔Siのユニークなフォトニック特性は、送達系内に潜在的自己報告特性を付与することによって、この材料を理想的なものにする。多孔Siフォトニック結晶から反射されるスペクトルピークの波長は多孔Siマトリックスの屈折率(n)に依存する(Link および Sailor 2003)。細孔内で水溶液(n=1.34)が有機分子またはタンパク質(n=ほぼ1.4)に置き換わると、多孔Si層の屈折率の変化が起こり、その結果、反射ピークの青色シフトをもたらして観察しうる色変化を生じる。スペクトルの青色シフトはまた、Siマトリックス(n=ほぼ3.5)がSiO2(n=ほぼ1.7)へ酸化されるとき、またはSiO2マトリックスが溶解するときにも予想される。現在の場合、硝子体(表面化学に依存して)において、フォトニック結晶の最初の緑色が、数日〜数週後に青色または紫色に転じるのが観察され、多孔マトリックスの溶解を示す。長期間の後には、硝子体においていくつかの粒子はその鮮やかな反射を失って褐色になる。褐色は、フォトニックサインが紫外領域にシフトしてしまった粒子中の残留Siによる吸光に帰属する。フォトニック結晶のサインスペクトルが周期的ナノ構造の徹底的な分解によってもはや存在しない可能性もある。このフォトニック結晶のユニークなサインスペクトルを利用し、眼の透明な光学媒体を通して薬物放出を、簡単なCCD分光計 デバイスを用いてモニターすることができ、これは薬物放出をモニターする非-侵襲的な方法を提供しうる。これは、生物分解性および生物浸食性ポリマー微小粒子などの他の薬物送達材料を越える利点でありうる。
【0145】
多孔Si粒子のある特定の調製物が長い硝子体寿命を有して明らかな毒性を呈示しないという事実は、多孔Siを硝子体内の送達材料として使用できることを示す。多数の硝子体内に注入可能な治療薬、例えば、デキサメタゾン、pegaptnib (Macugen)、ベバシズマブ (アバスチン)、および the recently FDA-approved ラニビズマブ (ルセンティス)の出現によって、硝子体内の繰返し注入は厳しい問題を起こす可能性がありうる。これらの手順は生活品質問題を患者に課し、眼内感染のリスクを生じる。かかる組成物を封入により、または共有結合により、または薬物と多孔Si粒子との間の相互作用により、多孔Si微小粒子中にトラップすることは、前記粒子が分解すると共に組成物を徐放することを可能にする。これによって頻繁な注入の必要性を無くしうる。
【0146】
本件のウサギ研究に使用した100μl硝子体内の注入は、典型的には、それぞれおよそ50ミクロン平方および20ミクロン厚みを有する多孔Si粒子ほぼ30,000個を含有する。多孔Si 材料1グラム当たり少なくとも ほぼ50 mg の デキサメタゾンを充填しうると計算した。多孔Si粒子が1次溶解速度を示しかつ薬物放出が粒子溶解と同時に起こると仮定すると、眼内の薬物の定常状態濃度はDoveおよびCrerar(Geochimica Et Cosmochimica Acta 69(21):4963-4970 (2005))の溶解機構を用いて近似することができる。このモデルを用いて、多孔Si粒子の溶解はこの全体反応式:
SiO2 + 2H2O = H4SiO4
によって近似することができる。種H4SiO4はケイ酸の水溶性の形態を表す。この反応は溶液に曝される粒子の総表面積および系からのケイ酸の質量流量速度(mass flow rate)に依存する。この微粒子系については、溶液中のケイ酸の外見は溶液中の薬物の外見と相関がありかつ溶液に曝される粒子の全表面積は粒子数Nに比例すると仮定した。粒子が溶解すると、薬物は放出されうる、そして眼内の薬物の定常状態濃度は、Doveのモデルに適合した次の関係式:
Md=[t1/2(薬物)/t1/2(粒子)] x N x L
に基づいて計算することができる。ここで、Mdは硝子体中のフリーな薬物の質量であり、Nは1眼当たりの注入された粒子数であり、Lは1粒子当たりに充填された薬物の質量であり、t1/2(薬物)は硝子体中の薬物の半減期であり、そしてt1/2(粒子)は硝子体中の粒子の半減期である。
【0147】
一般に、ヒドロシリル化粒子および酸化粒子で実証されたように粒子半減期が長いほど、薬物の定常状態濃度は低くなる。60日半減期をもつ粒子でPSi粒子12mg(ほぼ30,000粒子)中の初期充填薬物質量600μgについて、硝子体半減期3.48時間をもつデキサメタゾンの定常状態濃度はウサギ硝子体の(1.4ml)中で1μg/mLでありうる、そしてこれは治療的に関連する用量>5ng/mLを越える。この粒子は、粒子の半減期の少なくとも3倍(180日)の間、治療的に関連する量で薬物を送達しうる。
【0148】
より長い硝子体半減期をもつ薬物、例えばアバスチン(5日)は注入の間の期間をさらに延長できるに違いない。アバスチンについては、粒子1グラム当たり約1〜10、10〜20、20〜50、50〜100、または100〜500mgの薬物充填容量が、薬物に関係する症状を治療するために好適でありうる。一例として、アバスチンを充填した多孔Siの0.1cc注入中の薬物初期量はおよそ100μgの薬物でありうる。もし粒子の半減期が60日であれば、硝子体中の薬物の定常状態濃度はほぼ8μg/mLでありうる。眼内治療としてのアバスチンの治療的に関連する用量は一般に>22ng/mLと考えられる。当然のことながら、当業者は、本明細書に提供した粒子の充填容量を、粒子に関連する活性成分のタイプを含む、様々な因子に基づいて容易に決定することができる。当然のことながら、特定の障害の治療に関連する活性成分の投与量は、当業者に公知の様々な方法によって変更することができる。
【0149】
本開示は、硝子体内の多孔Si微小粒子の生体適合性および多孔Siの眼内 薬物 送達 系用プラットフォームとしての実施可能性を実証する。本明細書に記載のように、新しい多孔Si粒子(3眼)、酸化された多孔Si(多孔SiO2)粒子(3眼)、およびヒドロシリル化多孔Si粒子(5眼)をウサギ眼において試験した。前側セグメントをモニターするためにスリットランプを用いることによって、または 後側セグメントをモニターするために間接検眼鏡を用いることによって、毒性は見られなかった。
【0150】
毒性の無いことはまた、網膜電図(eletroretinography)および光顕微鏡による組織学によっても確認した。ヒドロシリル化および酸化粒子は4ヶ月研究の終わりまで硝子体内で観察された。
【0151】
現研究はまた、Si材料が典型的には超音波処理による微粒子型にも変換されることも実証した。超音波処理時間を延長することによって、さらに均一に分布しかつさらに小さい粒子(平均サイズ20μm)を作製することができ、そしてこれらは硝子体内の注入方法に適合可能である。さらに、多孔Si材料に行われた2つの化学修飾(酸化およびヒドロシリル化)は、硝子体内の安定性の増加と分解の遅延を劇的にもたらす。.予測される硝子体の半減期は1週(新粒子)から5週(酸化粒子)におよび18週(ヒドロシリル化粒子)に増加した。
【0152】
また本明細書には、800℃における多孔Siの酸化により多孔Si粒子を作製する新規の方法が提供される。この方法で製造した粒子は、220℃で処理された従来の酸化粒子よりさらに親水性である。この新しい型の多孔SiO2を6つのウサギ眼中に注入し、5ヶ月の進行中の研究期間に毒性(ERGを含む)は観察されなかった。この新しい型の多孔SiO2は、黄斑変性症の治療用の候補薬物であるIgG系の薬物アバスチンのさらに効率的な充填を可能にした。
【0153】
800℃で酸化された多孔SiO2粒子にアバスチンを充填し、粒子100μl(225μgアバスチンを含有する)を3つのウサギ眼中に注入した。注入後20週に、硝子体のアバスチンレベルはなおアバスチンのIC50(22ng/ml)より高い50ng/mlであった。
【0154】
多孔Si-ポリマー複合体プラークを調製し、結膜およびテノン嚢の下のウサギ眼球上に外科的に移植(implant)した。これらのプラークは多孔Siフィルムテンプレートと同じ光学特性、およびプラークの側面上にのみ開放されて一方向の薬物放出を可能にするナノ細孔 構造を有する。これらのプラークをウサギ 眼はよく耐えられる。従って、本明細書に提供される組成物および方法は、黄斑変性症、糖尿病黄斑性浮腫、脈絡膜の新血管新生および網膜静脈閉塞およびブドウ膜炎などの硝子体網膜疾患を治療するための遅延放出および長期持続する薬物送達を達成する。
【0155】
これらの実施形態は説明のための例であって、本明細書に記載の材料および方法を用いて製造することができる有用な薬物 送達 構造の型を網羅しているものではない。以上考察した構造および方法は、限定されるものでないが、制御された、持続されたおよびプログラム可能な薬物送達を含む、様々な応用に対して大きい効用を有しうる。
【0156】
本発明は様々な改変、および代わりの形態が可能であり、それらの具体的な例を図面で示しかつ本明細書に詳細に記載した。しかしながら、本発明は開示したこの特別な形態または方法に限定されるのでなく、それと反対に、本発明は添付した請求項の精神と範囲内に入る全ての改変、同等物および代替物を包含することは理解されなければならない。
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