【文献】
鈴木 佑、外1名,音階分離フィルタを用いた楽音信号のピッチ検出法,電子情報通信学会技術研究報告,日本,社団法人 電子情報通信学会,2004年10月14日,Vol. 104, No. 363,pp. 7-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力された楽音信号からギターの各弦に対応する信号の周波数情報であるギター音域周波数情報を生成する6つのギター音域ピッチ検出部と、当該ギター音域周波数情報からピッチ誤差を算出してピッチ誤差情報を生成するピッチ誤差算出部と、当該ピッチ誤差情報を表示するピッチ誤差表示部を備える調律器であって、
前記ギター音域ピッチ検出部は、
基本周波数を中心周波数として前記中心周波数から上下半音ずつずれた音が含まれない帯域幅の周波数帯域に他の弦の基本周波数の整数倍の周波数が含まれる弦については、当該弦に対応する基本周波数の2倍の周波数を含み、当該弦の基本周波数を中心周波数とする前記帯域幅の周波数帯域を含まない周波数帯域の信号を抽出し、基本周波数を中心周波数とする前記帯域幅の周波数帯域に他の弦の基本周波数の整数倍の周波数が含まれない弦については、当該弦の基本周波数を中心周波数とする前記帯域幅の周波数帯域を含む周波数帯域の信号を抽出するギター倍音帯域抽出手段と、
前記ギター倍音帯域抽出手段の抽出する信号の周期を計測して前記ギター音域周波数情報を生成するギター音域周期計測手段と、を備える
ことを特徴とする調律器。
入力された楽音信号からギターの各弦に対応する信号の周波数情報であるギター音域周波数情報を生成する6つのギター音域ピッチ検出部と、前記楽音信号からベースの各弦に対応する信号の周波数情報であるベース音域周波数情報を生成する6つのベース音域ピッチ検出部と、前記楽音信号を発生させている楽器種類を推定する楽器種類推定部と、ピッチ誤差情報を生成するピッチ誤差算出部と、当該ピッチ誤差情報を表示するピッチ誤差表示部と、を備える調律器であって、
前記ギター音域ピッチ検出部は、前記ギターの各弦に対応する信号のエンベロープを検出してギターエンベロープ信号を生成するギターエンベロープ検出手段を備え、
前記ベース音域ピッチ検出部は、前記ベースの各弦に対応する信号のエンベロープを検出してベースエンベロープ信号を生成するベースエンベロープ検出手段を備え、
前記楽器種類推定部は、前記ギターエンベロープ信号を用いてギター音域のレベル情報であるギター音域レベルを生成し、前記ベースエンベロープ信号を用いてベース音域のレベル情報であるベース音域レベルを生成し、当該ギター音域レベルと当該ベース音域レベルを用いて前記楽器種類を推定し、
前記ピッチ誤差算出部は、前記楽器種類に基づいて前記ギター音域周波数情報と前記ベース音域周波数情報のいずれかを用いて、ピッチ誤差を算出して前記ピッチ誤差情報を生成する
ことを特徴とする調律器。
【背景技術】
【0002】
ギターやベースなどの弦楽器の調律器には、ポリフォニックチューナーと呼ばれる、複数の開放弦を同時に鳴らし、各弦のピッチ誤差等のチューニング状態を同時にディスプレイに表示するものがあった(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
図1,2を参照して、特許文献1に記載された従来の調律器2の動作を説明する。
図1は従来の調律器2の構成を示すブロック図である。
図2は従来の調律器2の動作を示すフローチャートである。ここでは、調律対象の楽器1はギターとする。従来の調律器2は、ギターの備える6本の弦にそれぞれ対応する6個のギター音域ピッチ検出部10とピッチ誤差算出部40とピッチ誤差表示部50を備える。ギター音域ピッチ検出部10はそれぞれ、ギター基音帯域抽出手段110とギター音域周期計測手段120を備える。
【0004】
各ギター基音帯域抽出手段110は、調律器2に入力された楽音信号から、対応する弦の基本周波数を中心周波数とする周波数帯の成分を、バンドパスフィルタを用いて抽出する(S110)。ギター音域周期計測手段120は、ギター基音帯域抽出手段110の抽出した信号の周期を計測する(S120)。ピッチ誤差算出部40は、ギター音域周期計測手段120の計測した周期と対応する弦の基本周波数の周期とを比較して、ピッチ誤差を算出する(S40)。ピッチ誤差表示部50は、ピッチ誤差算出部40の算出したピッチ誤差をディスプレイに表示する(S50)。
【0005】
図3に、ギターの各弦の基本周波数とそれぞれの2〜4倍音の周波数を示す。ここでは、ギターの高音の弦から順に第1弦、第2弦、…、第6弦としている。一般的にギターの奏法として各弦を半音ずつ下げた調律を行うことがある。そのため、バンドパスフィルタは上下半音ずつ
ずれた音が通過
しないように設定する。なお、半音は1オクターブの12分の1であり、1オクターブとは周波数比が1:2になる音程のことである。したがって、半音を構成する2音の周波数比は1:2^(1/12)(2の12乗根)となる。
【0006】
また、従来からギターとベースの両方に対応する調律器が存在している。このような調律器ではギターの各弦に対応するバンドパスフィルタとベースの各弦に対応するバンドパスフィルタを備え、ギターとベースの各弦に対応する信号をそれぞれ抽出するように構成する。ギターの調律をする場合には、ギターの各弦に対応する信号を用いてピッチ誤差を算出し、ベースの調律をする場合には、ベースの各弦に対応する信号を用いてピッチ誤差を算出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の調律器2のように、各バンドパスフィルタを各弦の基本周波数を中心周波数として設定した場合には、低音の弦の倍音がいずれかの高音の弦に対応するバンドパスフィルタを通過してしまうことがあった。例えば、
図3を参照すると、第6弦の4倍音は第1弦の基本周波数と等しく、第5弦の3倍音も第1弦の基本周波数とほぼ等しく、第6弦の3倍音は第2弦の基本周波数とほぼ等しいことがわかる
。そのため、低音の弦の倍音が高音の弦に対応する信号の抽出に影響を与え、その高音の弦の周期の計測精度を低下させる原因となる場合があった。
【0009】
また、ギターとベースの両方に対応する調律器においては、ベースの各弦の基本周波数はギターのいずれかの弦の1オクターブ低音であるため、ベースの弦の2倍音はギターのいずれかの弦の基本周波数と等しくなり、ベースの各弦の2倍音がギターの各弦に対応するバンドパスフィルタを通過してしまう。これにより、例えば、ベースのみを発音した楽音信号が入力された場合であっても、ギターに対応するバンドパスフィルタからも信号が抽出されてしまうため、入力された楽音信号をいずれの楽器が発音したかを自動的に判別することができなかった。したがって、ギターとベースの両方に対応する調律器においては、いずれの楽器を調律するかを利用者が事前に設定しなければならず、利用者の利便性を損ねる場合があった。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、ギターやベース等の各弦のピッチ誤差を同時に表示することができるポリフォニックチューナーにおいて、倍音の影響を抑えることでピッチ誤差の計測精度を高めた調律器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の調律器は、6つのギター音域ピッチ検出部とピッチ誤差算出部とピッチ誤差表示部を備える。ギター音域ピッチ検出部は、入力された楽音信号からギターの各弦に対応する信号の周波数情報であるギター音域周波数情報を生成する。少なくとも1つのギター音域ピッチ検出部は、ギター倍音帯域抽出手段とギター音域周期計測手段を備える。ギター倍音帯域抽出手段は、ギターの弦に対応する基本周波数の2倍の周波数を含む周波数帯域の信号を抽出する。ギター音域周期計測手段は、ギター倍音帯域抽出手段の抽出する信号の周期を計測してギター音域周波数情報を生成する。ピッチ誤差算出部は、ギター音域周波数情報からピッチ誤差を算出してピッチ誤差情報を生成する。ピッチ誤差表示部は、ピッチ誤差情報を表示する。
【0012】
好ましくは、ギターの第1弦に対応するギター音域ピッチ検出部とギターの第2弦に対応するギター音域ピッチ検出部は、ギター倍音帯域抽出手段とギター音域抽出手段を備える。
【0013】
さらに好ましくは、ギターの第4弦に対応するギター音域ピッチ検出部は、ギター倍音帯域抽出手段とギター音域抽出手段を備える。
【0014】
さらに好ましくは、本発明の調律器は、6つのベース音域ピッチ検出部と楽器種類推定部をさらに備える。ベース音域ピッチ検出部は、楽音信号からベースの各弦に対応する信号の周波数情報を生成する。ギター音域ピッチ検出部は、ギターエンベロープ検出手段をさらに備える。ギターエンベロープ検出手段は、ギターの各弦に対応する信号のエンベロープを検出してギターエンベロープ信号を生成する。ベース音域ピッチ検出部は、ベースエンベロープ検出手段をさらに備える。ベースエンベロープ検出手段は、ベースの各弦に対応する信号のエンベロープを検出してベースエンベロープ信号を生成する。楽器種類推定部は、ギターエンベロープ信号を用いてギター音域のレベル情報であるギター音域レベルを生成し、ベースエンベロープ信号を用いてベース音域のレベル情報であるベース音域レベルを生成し、ギター音域レベルとベース音域レベルを用いて楽器種類を推定する。ピッチ誤差算出部は、楽器種類に基づいてギター音域周波数情報とベース音域周波数情報のいずれかを用いて、ピッチ誤差を算出してピッチ誤差情報を生成する。
【0015】
また、本発明の調律器は、6つのギター音域ピッチ検出部と6つのベース音域ピッチ検出部とピッチ誤差算出部とピッチ誤差表示部と楽器種類推定部を備える。ギター音域ピッチ検出部は、入力された楽音信号からギターの各弦に対応する信号の周波数情報であるギター音域周波数情報を生成する。ベース音域ピッチ検出部は、楽音信号からベースの各弦に対応する信号の周波数情報であるベース音域周波数情報を生成する。ギター音域ピッチ検出部は、ギターエンベロープ検出手段を備える。ギターエンベロープ検出手段は、ギターの各弦に対応する信号のエンベロープを検出してギターエンベロープ信号を生成する。ベース音域ピッチ検出部は、ベースエンベロープ検出手段を備える。ベースエンベロープ検出手段は、ベースの各弦に対応する信号のエンベロープを検出してベースエンベロープ信号を生成する。楽器種類推定部は、ギターエンベロープ信号を用いてギター音域のレベル情報であるギター音域レベルを生成し、ベースエンベロープ信号を用いてベース音域のレベル情報であるベース音域レベルを生成し、ギター音域レベルとベース音域レベルを用いて楽器種類を推定する。ピッチ誤差算出部は、楽器種類に基づいてギター音域周波数情報とベース音域周波数情報のいずれかを用いて、ピッチ誤差を算出してピッチ誤差情報を生成する。ピッチ誤差表示部は、ピッチ誤差情報を表示する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の調律器によれば、高音の弦に対応するバンドパスフィルタが通過させる信号において低音の弦の倍音による影響を最小限に抑え、ピッチ誤差の算出精度を向上させることができる。また、ギターとベースの両方に対応する調律器においては、ギターの弦に対応するバンドパスフィルタが通過させる信号においてベースの弦の倍音による影響を抑え、楽器の種類を自動的に判別することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0019】
図4,5を参照して、本発明の実施例1の調律器3の動作を詳細に説明する。
図4は本実施例の調律器3の構成を示すブロック図である。
図5は本実施例の調律器3の動作を示すフローチャートである。調律器3は、マイクロコンピュータなどから構成され、調律器3の全体の動作を司る。マイクロコンピュータには、調律器3全体の動作制御のプログラムなどが格納されたリード・オンリー・メモリや、プログラムを実行する際に必要なワーキング・エリアとしてのランダム・アクセス・メモリ、およびクロック発振器や時間計測のタイマ機能などから構成される。
【0020】
本実施例の調律器3は、3個のギター音域ピッチ検出部10と3個のギター音域ピッチ検出部11とピッチ誤差算出部40とピッチ誤差表示部50を備える。ギター音域ピッチ検出部10はそれぞれ、ギター基音帯域抽出手段110とギター音域周期計測手段120を備える。ギター音域ピッチ検出部11はそれぞれ、ギター倍音帯域抽出手段111とギター音域周期計測手段120を備える。
【0021】
以下、実際に行われる手続きの順に説明してゆく。楽器1により演奏された音は、例えばマイクロホンまたは電気弦楽器に用いられるピックアップ等により楽音信号に変換され、入力端子を介して調律器3へ入力される。
【0022】
調律器3に入力された楽音信号は、3個のギター音域ピッチ検出部10と3個のギター音域ピッチ検出部11それぞれに分配される。ギター音域ピッチ検出部10はそれぞれ、第3弦と第5弦と第6弦に1対1で対応している。ギター音域ピッチ検出部11はそれぞれ、第1弦と第2弦と第4弦に1対1で対応している。
【0023】
ギター音域ピッチ検出部10に入力された楽音信号は、ギター基音帯域抽出手段110に入力される(S10)。ギター基音帯域抽出手段110は、入力された楽音信号から、そのギター音域ピッチ検出部10が対応する弦に対応する周波数帯の成分を、バンドパスフィルタを用いて抽出する(S110)。ここで、バンドパスフィルタは、そのギター音域ピッチ検出部10が対応する弦の基本周波数を中心周波数として、例えば中心周波数から上下半音ずつ
ずれた音を含
まないように帯域幅を設定することができる。ギター基音帯域抽出手段110の抽出した信号は、ギター音域周期計測手段120に入力される。
【0024】
ギター音域ピッチ検出部11に入力された楽音信号は、ギター倍音帯域抽出手段111に入力される(S11)。ギター倍音帯域抽出手段111は、入力された楽音信号から、そのギター音域ピッチ検出部11が対応する弦に対応する周波数帯の成分を、バンドパスフィルタを用いて抽出する(S111)。ここで、バンドパスフィルタは、そのギター音域ピッチ検出部11が対応する弦の基本周波数の2倍の周波数を中心周波数として、例えば中心周波数から上下半音ずつ
ずれた音を含
まないように帯域幅を設定することができる。このように構成することで、例えば、第6弦の4倍音の周波数は、第1弦に対応するバンドパスフィルタの通過周波数の範囲から外れることになる。一方で、第1弦の基音と第1弦の2倍音とのピッチ誤差は同じであるため、第1弦の2倍音から第1弦のピッチ誤差を算出することができる。なお、第6弦の8倍音と第1弦の2倍音とは同一の周波数であるため、第6弦の8倍音が第1弦に対応するバンドパスフィルタを通過することになるが、倍音は倍数が高いほど振幅の減衰量が大きくなる傾向があるため、倍音の影響を相対的に小さくすることができる。ギター倍音帯域抽出手段111の抽出した信号は、ギター音域周期計測手段120に入力される。
【0025】
ギター音域周期計測手段120は、入力された信号それぞれの周期を計測する(S120)。周期の計測方法は周知のいかなる方法をも適用することができる。例えば、入力された信号のゼロクロス点を検出し、検出したゼロクロス点の時間間隔を測定し、その時間間隔の中の最も長い周期を出力してもよい。入力された信号が、ギター倍音帯域抽出手段111の抽出した信号である場合には、周期を2倍して出力するように構成してもよい。ギター音域周期計測手段120の出力する周期は、ピッチ誤差算出部40に入力される。
【0026】
ピッチ誤差算出部40は、入力された周期から各弦のピッチ誤差を算出する(S40)。入力された周期がギター音域ピッチ検出部10の出力する周期であれば、そのギター音域ピッチ検出部10が対応する弦の基本周波数の周期と比較してピッチ誤差を算出する。入力された周期がギター音域ピッチ検出部11の出力する周期であれば、そのギター音域ピッチ検出部11が対応する弦の基本周波数の2倍の周波数の周期と比較してピッチ誤差を算出する。もしくは、入力された周期を2倍して、そのギター音域ピッチ検出部11が対応する弦の基本周波数の周期と比較してピッチ誤差を算出する。ここで、ギター音域ピッチ検出部11が周期を2倍して出力するように構成している場合には、そのギター音域ピッチ検出部11が対応する弦の基本周波数の周期と比較してピッチ誤差を算出するように構成することができる。ピッチ誤差算出部40の算出したピッチ誤差はピッチ誤差表示部50に入力される。
【0027】
図6に調律器3がピッチ誤差を表示する方法の一例を示す。ピッチ誤差表示部50は、n+1個のLEDが横一列に配列されているLED列501〜506を備える。LED列501〜506は縦一列に配列されている。LED列501はギターの第1弦、LED列502はギターの第2弦、LED列503はギターの第3弦、LED列504はギターの第4弦、LED列505はギターの第5弦、LED列506はギターの第6弦のピッチ誤差を表示する。各LED列の中央のLED501
0,502
0,…,506
0はピッチ誤差0セントの位置を表し、左端のLED501
1,502
1,…,506
1はピッチ誤差−50セントの位置を表し、右端のLED501
n,502
n,…,506
nはピッチ誤差+50セントの位置を表す。
【0028】
ピッチ誤差表示部50は、ピッチ誤差算出部40の出力するピッチ誤差を参照して、ギターのピッチ誤差をディスプレイに表示する(S50)。具体的には、ピッチ誤差表示部50は、ピッチ誤差算出部40の出力するピッチ誤差を参照し、各弦に対応するLED列のピッチ誤差に対応するLEDを発光させる。
【0029】
このように本実施例の調律器3は、第1弦と第2弦と第4弦に対応するピッチ誤差検出部が基本周波数の2倍の周波数を中心周波数とするバンドパスフィルタを用いて信号を抽出するため、第6弦の倍音が第1弦と第2弦と第4弦のピッチ誤差算出に与える影響を小さくすることができ、ピッチ誤差の算出精度を向上することができる。
【0030】
本実施例では、最も倍音の影響を受けやすい第1弦と第2弦と第4弦にギター音域ピッチ検出部11を対応させるものとして説明したが、どの弦にギター音域ピッチ検出部11を対応させるかは楽器1の特性などを考慮して適宜変更することができる。例えば、すべての弦にギター音域ピッチ検出部11を対応させるように構成してもよい。
【実施例2】
【0031】
図7,8を参照して、本発明の実施例2の調律器4の動作を詳細に説明する。
図7は本実施例の調律器4の構成を示すブロック図である。
図8は本実施例の調律器4の動作を示すフローチャートである。
【0032】
本実施例の調律器4は、3個のギター音域ピッチ検出部12と3個のギター音域ピッチ検出部13と6個のベース音域ピッチ検出部20と楽器種類推定部30とピッチ誤差算出部41とピッチ誤差表示部50を備える。ギター音域ピッチ検出部12はそれぞれ、ギター基音帯域抽出手段110とギター音域周期計測手段120とギターエンベロープ検出手段130を備える。ギター音域ピッチ検出部13はそれぞれ、ギター倍音帯域抽出手段111とギター音域周期計測手段120とギターエンベロープ検出手段130を備える。ベース音域ピッチ検出部20はそれぞれ、ベース基音帯域抽出手段210とベース音域周期計測手段220とベースエンベロープ検出手段230を備える。
【0033】
以下、実際に行われる手続きの順に説明してゆく。調律器4に入力された楽音信号は、3個のギター音域ピッチ検出部12と3個のギター音域ピッチ検出部13と6個のベース音域ピッチ検出部20それぞれに分配される。ギター音域ピッチ検出部12はそれぞれ、ギターの第3弦と第5弦と第6弦に1対1で対応している。ギター音域ピッチ検出部13はそれぞれ、ギターの第1弦と第2弦と第4弦に1対1で対応している。ベース音域ピッチ検出部20はそれぞれ、ベースの各弦に1対1で対応している。
【0034】
ギター音域ピッチ検出部12に入力された楽音信号は、ギター基音帯域抽出手段110に入力される(S12)。ギター音域ピッチ検出部13に入力された楽音信号は、ギター倍音帯域抽出手段111に入力される(S13)。ギター基音帯域抽出手段110とギター倍音帯域抽出手段111の抽出した信号は、ギター音域周期計測手段120とギターエンベロープ検出手段130に入力される。
【0035】
ギターエンベロープ検出手段130は、入力された信号のエンベロープを検出してエンベロープ信号を抽出する(S130)。エンベロープの検出方法は周知のいかなる方法をも適用することができる。例えば、「特開2003−076369号公報」に記載のエンベロープ検出方法を適用することができる。ギターエンベロープ検出手段130の出力するエンベロープ信号は楽器種類推定部30に入力される。
【0036】
ベース音域ピッチ検出部20に入力された楽音信号は、ベース基音帯域抽出手段210に入力される(S20)。ベース基音帯域抽出手段210は、入力された楽音信号から、そのベース音域ピッチ検出部20が対応する弦に対応する周波数帯の成分を、バンドパスフィルタを用いて抽出する(S210)。ここで、バンドパスフィルタは、そのベース音域ピッチ検出部20が対応する弦の基本周波数を中心周波数として、例えば中心周波数から上下半音ずつを含むように帯域幅を設定することができる。ベース基音帯域抽出手段210の抽出した信号は、ベース音域周期計測手段220とベースエンベロープ検出手段230に入力される。
【0037】
ベース音域周期計測手段220は、入力された信号それぞれの周期を計測する(S220)。周期の計測方法はギター音域周期計測手段120と同様である。ベース音域周期計測手段220の出力する周期は、ピッチ誤差算出部41に入力される。
【0038】
ベースエンベロープ検出手段230は、入力された信号のエンベロープを検出してエンベロープ信号を抽出する(S230)。エンベロープの検出方法はギターエンベロープ検出手段130と同様である。ベースエンベロープ検出手段230の出力するエンベロープ信号は楽器種類推定部30に入力される。
【0039】
楽器種類推定部30は、ギターエンベロープ検出手段130の出力するエンベロープ信号とベースエンベロープ検出手段230の出力するエンベロープ信号を用いて、調律器4に入力された楽音信号を発音している楽器の種類を推定する(S30)。まず、楽器種類推定部30は、ギターエンベロープ検出手段130の出力するすべてのエンベロープ信号を加算し、ギター音域レベルを算出する。一方、ベースエンベロープ検出手段230の出力するすべてのエンベロープ信号を加算し、ベース音域レベルを算出する。そして、算出したギター音域レベルとベース音域レベルを比較して、ギター音域レベルの方が大きい場合には、発音中の楽器をギターと推定し、ベース音域レベルの方が大きい場合には、発音中の楽器をベースと推定する。このとき、ギター音域レベルとベース音域レベルが同程度である場合には、倍音の影響を考慮してベースと推定してもよい。楽器種類推定部30の推定した楽器の種類はピッチ誤差算出部41に入力される。
【0040】
ピッチ誤差算出部41は、入力された周期から各弦のピッチ誤差を算出する(S41)。まず、ピッチ誤差算出部41は、楽器種類推定部30の出力する楽器種類を参照して、楽器種類がギターであれば、ギター音域ピッチ検出部12の出力する周期とそのギター音域ピッチ検出部12が対応する弦の基本周波数の周期とを比較してピッチ誤差を算出する。また、ギター音域ピッチ検出部13の出力する周期とそのギター音域ピッチ検出部13が対応する弦の基本周波数の2倍の周波数の周期とを比較してピッチ誤差を算出する。もしくは、入力された周期を2倍して、そのギター音域ピッチ検出部13が対応する弦の基本周波数の周期と比較してピッチ誤差を算出する。ここで、ギター音域ピッチ検出部13が周期を2倍して出力するように構成している場合には、そのギター音域ピッチ検出部13が対応する弦の基本周波数の周期と比較してピッチ誤差を算出するように構成してもよい。楽器種類推定部30の出力する楽器種類がベースであれば、ベース音域ピッチ検出部20の出力する周期とそのベース音域ピッチ検出部20が対応する弦の基本周波数の周期とを比較してピッチ誤差を算出する。ピッチ誤差算出部41の算出したピッチ誤差はピッチ誤差表示部50に入力される。
【0041】
ピッチ誤差表示部50は、ピッチ誤差算出部41の出力するピッチ誤差をディスプレイに表示する(S50)。
【0042】
このように本実施例の調律器4は、楽器種類推定部30を備え、楽器ごとにその音域に含まれる信号のレベル情報を算出して比較することで、入力された楽音信号を発音している楽器の種類を推定することができる。この際、相対的に音域の高い楽器に対応するレベル情報を算出する際に、倍音の影響を小さく抑えることができるように構成されているため、より楽器種類の推定精度を向上することができる。
【0043】
本実施例では、最も倍音の影響を受けやすいギターの第1弦とギターの第2弦とギターの第4弦にギター音域ピッチ検出部11を対応させるものとして説明したが、ギターのどの弦にギター音域ピッチ検出部11を対応させるかは楽器1の特性などを考慮して適宜変更することができる。例えば、ギターのすべての弦にギター音域ピッチ検出部11を対応させるように構成してもよい。
【実施例3】
【0044】
図9,10を参照して、本発明の実施例3の調律器5の動作を詳細に説明する。
図9は本実施例の調律器5の構成を示すブロック図である。
図10は本実施例の調律器5の動作を示すフローチャートである。
【0045】
本実施例の調律器5は、6個のギター音域ピッチ検出部12と6個のベース音域ピッチ検出部20と楽器種類推定部30とピッチ誤差算出部42とピッチ誤差表示部50を備える。ギター音域ピッチ検出部12はそれぞれ、ギター基音帯域抽出手段110とギター音域周期計測手段120とギターエンベロープ検出手段130を備える。ベース音域ピッチ検出部20はそれぞれ、ベース基音帯域抽出手段210とベース音域周期計測手段220とベースエンベロープ検出手段230を備える。
【0046】
以下、実際に行われる手続きの順に説明してゆく。調律器5に入力された楽音信号は、6個のギター音域ピッチ検出部12と6個のベース音域ピッチ検出部20それぞれに分配される。ギター音域ピッチ検出部12はそれぞれ、ギターの各弦に1対1で対応している。ベース音域ピッチ検出部20はそれぞれ、ベースの各弦に1対1で対応している。
【0047】
ギター音域ピッチ検出部12に入力された楽音信号は、ギター基音帯域抽出手段110に入力される(S12)。ギター基音帯域抽出手段110の抽出した信号は、ギター音域周期計測手段120とギターエンベロープ検出手段130に入力される。ギターエンベロープ検出手段130は、入力された信号のエンベロープを検出してエンベロープ信号を抽出する(S130)。ギターエンベロープ検出手段130の出力するエンベロープ信号は楽器種類推定部30に入力される。
【0048】
ベース音域ピッチ検出部20に入力された楽音信号は、ベース基音帯域抽出手段210に入力される(S20)。ベース基音帯域抽出手段210の抽出した信号は、ベース音域周期計測手段220とベースエンベロープ検出手段230に入力される。ベース音域周期計測手段220は、入力された信号それぞれの周期を計測する(S220)。ベース音域周期計測手段220の出力する周期は、ピッチ誤差算出部42に入力される。ベースエンベロープ検出手段230は、入力された信号のエンベロープを検出してエンベロープ信号を抽出する(S230)。ベースエンベロープ検出手段230の出力するエンベロープ信号は楽器種類推定部30に入力される。
【0049】
楽器種類推定部30は、ギターエンベロープ検出手段130の出力するエンベロープ信号とベースエンベロープ検出手段230の出力するエンベロープ信号を用いて、調律器4に入力された楽音信号を発音している楽器の種類を推定する(S30)。楽器種類推定部30の推定した楽器の種類はピッチ誤差算出部42に入力される。
【0050】
ピッチ誤差算出部42は、入力された周期から各弦のピッチ誤差を算出する(S42)。楽器種類推定部30の出力する楽器種類がギターであれば、ギター音域ピッチ検出部12の出力する周期とそのギター音域ピッチ検出部12が対応する弦の基本周波数の周期とを比較してピッチ誤差を算出する。楽器種類推定部30の出力する楽器種類がベースであれば、ベース音域ピッチ検出部20の出力する周期とそのベース音域ピッチ検出部20が対応する弦の基本周波数の周期とを比較してピッチ誤差を算出する。ピッチ誤差算出部42の算出したピッチ誤差はピッチ誤差表示部50に入力される。
【0051】
ピッチ誤差表示部50は、ピッチ誤差算出部42の出力するピッチ誤差をディスプレイに表示する(S50)。
【0052】
このように本実施例の調律器5は、ギター音域ピッチ検出部がギターの各弦の基本周波数を中心周波数とするバンドパスフィルタを用いて信号を抽出することで、実施例2の調律器4と比較して、構成を単純化することができる。2倍音の減衰率が大きく、ベースの2倍音がギター音域のレベル測定に与える影響が小さい場合には、本実施例のように構成することができる。