特許第6067401号(P6067401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067401
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】半導体発光素子、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/14 20100101AFI20170116BHJP
【FI】
   H01L33/14
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-25361(P2013-25361)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-154808(P2014-154808A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】桑野 侑香
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】赤▲崎▼ 勇
【審査官】 吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−142410(JP,A)
【文献】 特開平11−340509(JP,A)
【文献】 特開2012−175005(JP,A)
【文献】 特開2005−123501(JP,A)
【文献】 特開平05−110133(JP,A)
【文献】 特開2007−073690(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0152585(US,A1)
【文献】 特開2003−068745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセプタ不純物を含むp型半導体層と、
前記p型半導体層の上に形成されたドナー不純物添加又はアンドープの導電層と、を備える半導体発光素子において
前記導電層側から該導電層を貫通して前記p型半導体層の一部が露出する孔が形成され、
前記導電層に沿った面内方向において、前記孔の周縁領域の発光が該周縁領域から外側の領域の発光よりも強くされた、半導体発光素子。
【請求項2】
半導体発光素子において、
アクセプタ不純物を含むp型半導体層と、
前記p型半導体層の上に形成されたドナー不純物添加又はアンドープの導電層と、を備え、
前記導電層側から前記p型半導体層の一部が露出する孔が形成され、
前記孔の周縁領域の発光が該周縁領域から外側の領域の発光よりも強くされ、
前記p型半導体層に設けられたp型半導体トンネル接合層、及び、該p型半導体トンネル接合層に隣接したn型半導体トンネル接合層を含むトンネル接合を備えた半導体発光素子。
【請求項3】
n型半導体層の上に発光層が形成され、
該発光層の上に前記p型半導体層が形成され、
該p型半導体層の上にドナー不純物添加の前記導電層が形成され、
前記p型半導体層と前記導電層との間に前記トンネル接合が設けられた、請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
半導体発光素子において、
アクセプタ不純物を含むp型半導体層と、
前記p型半導体層の上に形成されたドナー不純物添加又はアンドープの導電層と、を備え、
前記導電層側から前記p型半導体層の一部が露出する孔が形成され、
前記孔の周縁領域の発光が該周縁領域から外側の領域の発光よりも強くされ、
前記p型半導体層の厚さが前記孔の深さの0.1〜0.3倍である半導体発光素子。
【請求項5】
前記p型半導体層、及び、前記導電層が窒化物半導体により形成され、
前記p型半導体層にアルミニウムが含まれた、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
基板の上に発光部を形成する工程を有する半導体発光素子の製造方法において、
アクセプタ不純物及び水素を含むp型半導体層の上にドナー不純物添加又はアンドープの導電層を形成する工程と、
前記導電層側から前記p型半導体層の一部が露出する孔を形成する穿孔工程と、
該穿孔工程後の基板をアニールして前記孔の周縁領域の発光を該周縁領域から外側の領域の発光よりも強くする工程と、を備えた、半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記導電層を形成する工程では、アルミニウムを含む前記p型半導体層の上に前記導電層を形成し、
前記穿孔工程では、酸素とフッ素の少なくとも一方を含むエッチングにより前記導電層側から前記孔を形成して該孔により露出した部分の前記p型半導体層に酸化アルミニウムとフッ化アルミニウムの少なくとも一方を生成する、請求項6に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記p型半導体層の厚さを前記孔の深さの0.1〜0.3倍にした、請求項6又は請求項7に記載の半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子といった半導体発光素子、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子として、窒化物半導体発光素子が広く使用されている。窒化ガリウム(GaN)単結晶基板やサファイア基板といった基板の上にマグネシウム(Mg)をアクセプタ不純物として含むp型GaN半導体層を有機金属化合物気相成長法(MOVPE法)で成長させるとき、アンモニアといった水素を含む原料ガスを用いる。この原料ガスが成長時に分解し、生じる水素がMgアクセプタを不活性化し、p型GaN半導体層を高抵抗化してしまう。p型GaN半導体層から水素を除去してp型GaN半導体層を低抵抗化するため、n型GaN半導体層上に発光層を介してp型GaN半導体層を成長させた後、基板を熱アニールしている。熱アニール後には、エッチングによりn型GaN半導体層の一部を露出させ、p−電極及びn−電極を蒸着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−129931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱アニール後でも、p型GaN半導体層の電気抵抗はn型GaN半導体層の電気抵抗よりも遙かに大きい。このため、p型GaN半導体層を流れる電流は、面内方向に流れにくく、p−電極の直下へ流れやすい。p−電極の直下からの光は、p−電極に遮られてしまう。このことは、光取り出し効率の低下に繋がる。
【0005】
また、面発光レーザ実現のためには、面内方向に電流が流れやすい領域(低抵抗領域)と流れにくい領域(高抵抗領域)を有する電流狭窄構造が必要である。例えば、半導体発光素子に設けた金属電極に電流を流すと、電流の大部分が電極直下に流れ、電流によって生じた光の大部分は電極に遮られてしまい、光を素子外に有効に取り出すことができない。このため、例えば、電極の形状をリング状に変更し、かつ半導体素子内部でリング電極の内側だけに電流が流れるような特別な構造が必要になる。この場合、リング内側に相当する中央部分に低抵抗領域を設け、リング電極やその外側に相当する周囲部分に高抵抗領域を設ける必要がある。
【0006】
しかしながら、半導体素子内部の面内方向において、低抵抗領域と高抵抗領域を形成するのは容易ではない。面内方向に抵抗分布を形成するためには、結晶成長や素子加工を複数回繰り返す必要が生じ、素子の歩留りを著しく低下させる。特に、窒化物半導体では、簡便に電流狭窄を形成する手法が存在しない。
【0007】
なお、特許文献1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、n型窒化ガリウム系化合物半導体層上に、Mgといったp型ドーパントをドープしたp型窒化ガリウム系化合物半導体層を形成している。上側のp型窒化ガリウム系化合物半導体層上には、アニーリング処理によりp型電極が電気的に接続されている。このアニーリング処理では、上側にあるp型窒化ガリウム系化合物半導体層のうち、p型電極で覆われた部分から水素が除去されにくい一方、p型電極で覆われていない部分から水素が除去されやすい。このため、p型電極の位置に対応する発光部の発光が弱くなり、p型電極の位置に対応する発光部の発光が強くなる。
従って、発光部の発光の強弱は、p型電極の位置に依存してしまう。このことは、発光素子の設計自由度の低下に繋がる。
【0008】
なお、上述した問題は、GaN半導体発光素子以外の半導体発光素子にも存在する。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決する新規な半導体発光素子、及び、その製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はアクセプタ不純物を含むp型半導体層と、
前記p型半導体層の上に形成されたドナー不純物添加又はアンドープの導電層と、を備える半導体発光素子において
前記導電層側から該導電層を貫通して前記p型半導体層の一部が露出する孔が形成され、
前記導電層に沿った面内方向において、前記孔の周縁領域の発光が該周縁領域から外側の領域の発光よりも強くされた、態様を有する。
【0011】
上記半導体発光素子は、従来とは異なり、p型半導体層の上にドナー不純物添加又はアンドープの導電層が形成されている。この導電層側からは、下側にあるp型半導体層の一部が露出する孔が導電層を貫通して形成されている。導電層に沿った面内方向において、前記孔の周縁部分にあるp型半導体層の電気抵抗は、該周縁領域から外側の部分にあるp型半導体層の電気抵抗よりも小さい。このため、上記半導体発光素子は、p型半導体層のうち前記孔の周縁領域に電流が狭窄され、前記孔の周縁領域が強く発光する。発光の強弱は、電極の位置に依存しない。
以上より、本態様は、内側の発光を外側の発光よりも強くした新規な半導体発光素子を提供することができる。
【0012】
ここで、上記半導体発光素子は、窒化物半導体発光素子を含む。前記p型半導体層、及び、前記導電層が窒化物半導体により形成される態様は、内側の発光を外側の発光よりも強くした新規な窒化物半導体発光素子を提供することができる。
【0013】
また、本発明は、半導体発光素子において、
アクセプタ不純物を含むp型半導体層と、
前記p型半導体層の上に形成されたドナー不純物添加又はアンドープの導電層と、を備え、
前記導電層側から前記p型半導体層の一部が露出する孔が形成され、
前記孔の周縁領域の発光が該周縁領域から外側の領域の発光よりも強くされ、
前記p型半導体層に設けられたp型半導体トンネル接合層、及び、該p型半導体トンネル接合層に隣接したn型半導体トンネル接合層を含むトンネル接合を備える態様を有する。この態様は、内側の発光を外側の発光よりも強くした好適な半導体発光素子を提供することができる。このトンネル接合は、p型半導体層の上部に設けられても良いし、p型半導体層の下部に設けられても良い。
さらに、本発明は、半導体発光素子において、
アクセプタ不純物を含むp型半導体層と、
前記p型半導体層の上に形成されたドナー不純物添加又はアンドープの導電層と、を備え、
前記導電層側から前記p型半導体層の一部が露出する孔が形成され、
前記孔の周縁領域の発光が該周縁領域から外側の領域の発光よりも強くされ、
前記p型半導体層の厚さが前記孔の深さの0.1〜0.3倍である、態様を有する。この態様も、内側の発光を外側の発光よりも強くした新規な半導体発光素子を提供することができる。
【0014】
上述した半導体発光素子の製造方法として、本発明は、基板の上に発光部を形成する工程を有する半導体発光素子の製造方法において、
アクセプタ不純物及び水素を含むp型半導体層の上にドナー不純物添加又はアンドープの導電層を形成する工程と、
前記導電層側から前記p型半導体層の一部が露出する孔を形成する穿孔工程と、
該穿孔工程後の基板をアニールして前記孔の周縁領域の発光を該周縁領域から外側の領域の発光よりも強くする工程と、を備えた、態様を有する。
【0015】
製造される半導体発光素子は、従来とは異なり、p型半導体層の上にドナー不純物添加又はアンドープの導電層が形成される。この導電層側からは、下側にあるp型半導体層の一部が露出する孔が形成される。アニール工程では、p型半導体層のうち前記孔の周縁領域の電気抵抗が該周縁領域から外側の領域の電気抵抗よりも小さくされる。このため、製造される半導体発光素子は、p型半導体層のうち前記孔の周縁領域に電流が狭窄され、前記孔の周縁領域が強く発光する。発光の強弱は、電極の位置に依存しない。
以上より、本態様は、内側の発光を外側の発光よりも強くする新規な半導体発光素子の製造方法を提供することができる。
【0016】
ここで、前記導電層を形成する工程では、アルミニウムを含む前記p型半導体層の上に前記導電層を形成しても良い。前記穿孔工程では、酸素とフッ素の少なくとも一方を含むエッチングにより前記導電層側から前記孔を形成して該孔により露出した部分の前記p型半導体層に酸化アルミニウムとフッ化アルミニウムの少なくとも一方を生成しても良い。生成される酸化アルミニウムやフッ化アルミニウムは、エッチングをp型半導体層で止める機能を有する。従って、本態様は、内側の発光を外側の発光よりも強くする半導体発光素子の好適な製造方法を提供することができる。
【0017】
前記p型半導体層の厚さを前記孔の深さの0.1〜0.3倍にすると、導電層側からの前記孔の形成がp型半導体層で止まりやすい。従って、本態様も、内側の発光を外側の発光よりも強くする半導体発光素子の好適な製造方法を提供することができる。
【0018】
なお、p型半導体層と導電層とは、接していても良いし、これらの層とは別の層を介して配置されても良い。上記発光部として発光層が設けられる場合、この発光層は、p型半導体層の下に設けられても良いし、p型半導体層と導電層との間に設けられても良い。むろん、発光層とp型半導体層は、接していても良いし、これらの層とは別の層を介して配置されても良い。発光層と導電層も、接していても良いし、これらの層とは別の層を介して配置されても良い。p型半導体層とp型半導体トンネル接合層も、接していても良いし、これらの層とは別の層を介して配置されても良い。
上述した各層は、単層のみならず、複数の層とされても良い。
上記アンドープの導電層は、不純物を添加していない導電層を意味し、不純物が元々含まれる導電層を含む。
上記孔の深さは、p型半導体層の表面が露出する程度の深さでも良いし、p型半導体層を貫通する程度の深さでも良い。上記発光部として発光層が設けられる場合、上記孔は、発光層を貫通しても良い。また、上記孔は、トンネル接合を貫通しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】窒化物半導体発光素子1の構造を模式的に例示する図である。
図2】窒化物半導体発光素子1の製造方法の例を説明するための図である。
図3】(a)は本技術の窒化物半導体発光素子1の製造方法を例示する図、(b)は比較例に係る窒化物半導体発光素子の製造方法を例示する図、である。
図4】別の窒化物半導体発光素子1Aの構造を模式的に例示する図である。
図5】比較例に係る窒化物半導体発光素子901の構造を模式的に示す図である。
図6】比較例に係る窒化物半導体発光素子の製造方法を示す図である。
図7】別の比較例に係る窒化物半導体発光素子902の構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、実施形態に内在する種々の発明に想到した背景を説明する。
上述したように、半導体素子内部の面内方向において、低抵抗領域と高抵抗領域を形成するのは容易ではない。ヒ化ガリウム(GaAs)とよく一緒に用いられるヒ化アルミニウム(AlAs)では、側壁を設けて、高温水蒸気雰囲気下にてその側壁から横方向にAlOxへと変質させ、高抵抗化させることが可能である。しかしながら、窒化物半導体では、このような変質がほとんど起こらないため、簡便に電流狭窄を形成する手法が無かった。
【0021】
従来の窒化物半導体発光素子の構造では、図5に例示されるように、最表面にp型GaNが存在する。この最表面にn型GaNが存在する構造を従来と同じ素子作製工程で形成すると、駆動電圧が6V以上と高く、かつ、点状にしか発光しない素子になってしまうことが判明した。この原因を鋭意検討した結果、素子作製工程におけるp型GaN層の活性化に原因があることを突き止めた。
【0022】
通常、p型半導体では、そのアクセプタが水素と結合することにより、電気的に不活性化して高抵抗化するが、後の熱アニールなどにより水素の結合が切れ、アクセプタが電気的に活性化し低抵抗化する。p型GaNでも、水素やアンモニアを含む条件で結晶成長により素子層構造を基板上に形成した時点では、層中のアクセプタ不純物であるマグネシウム(Mg)は水素と結合しており、これによりMgは電気的に不活性な状態である。この層構造ウエハを水素が存在しない雰囲気下で熱アニールを行うと、水素の結合が切れてMgが活性化し、p型GaNが低抵抗化する。
【0023】
発明者らは、p層上にn層又はアンドープ層がある場合には、従来と大きく異なり、熱アニールを行ってもp層が活性化されないことを新たに見出した。さらに、同じウエハにおいて、エッチングなどにより一部p層が露出した部分では、そこから熱アニールの程度に従って、その部分の周囲がある程度活性化され、さらにその周囲では活性化されない、というより詳細な知見も見出した。
【0024】
発明者らは、p型GaN層上にn層又はアンドープ層がある場合、表面から活性化が適切に行われていない可能性があると考え、p型GaNの側壁が露出するようにエッチングを行った後に様々な条件でアニールを行った。その結果、温度が低い、若しくは時間が短い条件では、図7に例示するように側壁の周辺部にのみ電流が流れて発光することと、高い温度及び長い時間アニールすると、その周辺部から素子中央へ発光領域が拡大し、最終的には素子の全領域が発光することを新たに見出した。すなわち、この結果は、p型GaNが露出している部分から活性化が進み、その活性化がより内部へ広がっていくと理解できる。
【0025】
しかし、内側の発光よりも外側の発光が強くなる電流狭窄構造では、電極に遮られる光が生じる。このことは、光取り出し効率の低下に繋がる。このような問題を解決することが課題である。
【0026】
以上の背景の下、本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態に内在する技術は、発光効率低下の可能性が考えられる、素子中央部で発光層近くまで孔を形成するという技術常識を覆す点で極めて高い新規性を有する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
なお、化学式で表される組成比は化学量論比を示し、化学式で表される物質には化学量論比から外れたものも含まれる。
【0027】
(1)半導体発光素子の構造:
図1は、半導体発光素子の第一の例である窒化物半導体発光素子1の構造を模式的に示している。図1の上段には半導体発光素子1の上面を示し、図1の下段には半導体発光素子1の垂直断面を示している。この半導体発光素子1は、発光層(発光部)11と、アクセプタ不純物を含むp型半導体層12と、このp型半導体層12の上に形成されたドナー不純物添加の上部n型半導体層(導電層)13とを備えている。n型半導体層13側からは、p型半導体層12の一部(露出部12e)が露出する孔20が形成されている。この孔20直下の孔領域21、およびその周縁領域22の発光は、該周縁領域22から外側の領域23の発光よりも強くされている。
【0028】
図1に示す半導体発光素子1は、孔20とともに、n型半導体層13,15が上下に分かれて存在し、各n型半導体層13,15上にn−電極17,18が形成されているという、特徴を有する。上記発光層11は、下部n型半導体層15上に形成されている。上記p型半導体層12は、発光層11上に形成されている。p型半導体層12と上部n型半導体層13との間には、トンネル接合14が設けられている。また、下部n型半導体層15上から側壁部(外側領域23の外側)を経て上部n型半導体層13の縁部に絶縁膜16が形成され、下部n型半導体層15上に下部n−電極17が形成され、絶縁膜16及び上部n型半導体層13上に上部n−電極18が形成されている。
【0029】
図1に示すn型半導体層13,15には、例えば、窒化ガリウム(GaN)や窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)といったIII族窒化物半導体AlaGabIncd(化学量論比で0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、a+b+c=1、d=1)等を用いることができる。n型伝導を示すように半導体に添加するドナー不純物は、例えば、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)などの中から選ばれる一種以上の元素等を用いることができる。ドナー不純物の添加濃度は、n++層(n型半導体トンネル接合層)を除いて、例えば、5×1018cm-3程度といった5×1017cm-3〜5×1019cm-3程度とすることができる。
【0030】
下部n型半導体層15は、発光層11の下側を被覆するn型クラッド層であり、電子を発光層11へ供給するように発光層11よりバンドギャップが大きければ良い。下部n型半導体層の厚さは、例えば、2〜3μm程度とすることができる。
上部n型半導体層13は、発光した光の吸収が少ない材料が好ましい。上部n型半導体層の厚さは、例えば、50〜1000nm程度とすることができる。
【0031】
図1に示す発光層11は、例えば、複数の井戸層に障壁層が挿入された、すなわち、井戸層同士が障壁層を介して積層された量子井戸構造を有する窒化物半導体により形成される。発光層は、電流注入、すなわち、電子と正孔を注入して再結合させることで光を発生させる活性層である。井戸層は、例えば、III族窒化物半導体により形成される量子井戸の層であり、窒化ガリウムインジウムGaxInyz(化学量論比で0≦x≦1、0≦y≦1、x+y=1、z=1)等を用いることができる。Inの組成比yを変化させると、発光層の中心波長を変えることができる。井戸層の厚さは、例えば、2〜5nm程度とすることができる。障壁層には、例えば、窒化ガリウム(GaN)といったIII族窒化物半導体を用いることができる。障壁層の厚さは、例えば、6〜15nm程度とすることができる。
むろん、発光層は、量子ドット構造を有する窒化物半導体等により形成されても良い。
【0032】
図1に示すp型半導体層12は、発光層11の上側を被覆するp型クラッド層である。p型半導体層には、例えば、GaNやAlGaNといったIII族窒化物半導体AlaGabIncd(化学量論比で0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、a+b+c=1、d=1)等を用いることができる。p型伝導を示すように半導体に添加するアクセプタ不純物は、p++層(p型半導体トンネル接合層)を除いて、例えば、Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛)、Be(ベリリウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、及び、Ba(バリウム)の中から選ばれる一種以上の元素等を用いることができる。アクセプタ不純物の添加濃度は、例えば、2×1019cm-3程度といった1×1019cm-3〜5×1019cm-3程度とすることができる。p型半導体層12は、発光した光の吸収が少なく、正孔を発光層11へ供給するように、発光層11よりバンドギャップが大きければ良い。
【0033】
p型半導体層12の厚さT1は、例えば、50〜1000nm程度とすることができる。孔20の深さD1に対するp型半導体層の厚さT1の比T1/D1は、0.1〜0.3が好ましい。孔20を形成すると深さに誤差が生じるが、比T1/D1を0.1以上にすると上部n型半導体層13側からの孔20の形成がp型半導体層12で止まりやすいためである。一方、比T1/D1を0.3以下にすると、p型半導体層を適度な厚さ以下にすることができる。
また、p型半導体層12には孔20による露出部12eが形成され、p型半導体層12のうち孔20の周縁領域22の電気抵抗が該周縁領域22から外側の領域23の電気抵抗よりも小さくされている。
【0034】
さらに、図1に示すp型半導体層12は、発光層11上に形成されたAl含有層12aと、このAl含有層12a上に形成されたAl非添加層12bとを有する。すなわち、Al含有層12aにはAlaGabIncd等が用いられ、Al非添加層12bにはGabIncd等が用いられる。むろん、Al非添加層12bに元々Alが不純物として含まれても良いし、Al含有層12aのAl組成比aよりも低いAl組成比のAl低含有層をAl非添加層12bの代わりにしても良い。Al含有層12aのAl組成比aは、孔20のドライエッチングをp型半導体層12で止める観点から、0.05(5%)以上が好ましい。
【0035】
図1に示すトンネル接合14は、Al非添加層12b上に形成されたp++(p型半導体トンネル接合層)12tと、このp++層12t上に形成されたn++(n型半導体トンネル接合層)13tとを有する。本半導体発光素子1において、p型半導体層12はp++層12tを含み、上部n型半導体層13はn++層13tを含む。すなわち、トンネル接合14は、p型半導体層12の上部に設けられたp++層12tと、このp++層12tに隣接したn++層13tとを含む。p型半導体層12と上部n型半導体層13との間にトンネル接合14があることにより、電流を上部n型半導体層13からp型半導体層12へ流すことができる。
【0036】
p++層12tは、窒化ガリウムインジウムGaxInyz(化学量論比で0≦x≦1、0≦y≦1、x+y=1、z=1)といったIII族窒化物半導体等により形成される。Inの組成比yは、0〜0.3程度とすることができ、好ましくは0.1〜0.25程度、より好ましくは0.2程度とすることができる。p型伝導を示すように半導体に添加するアクセプタ不純物は、p型半導体層12に使用可能なアクセプタ不純物を使用することができる。Mgといったアクセプタ不純物の添加濃度は、p++層を除いたp型半導体層への添加濃度よりも高濃度とされ、例えば、5×1019cm-3〜1×1021cm-3程度、より好ましくは1×1020cm-3〜3×1020cm-3程度とすることができる。p++層の厚さは、2〜10nm程度とすることができ、In組成に依存して高いIn組成ほど薄くするのが好ましい。
【0037】
n++層13tも、窒化ガリウムインジウムGaxInyz(化学量論比で0≦x≦1、0≦y≦1、x+y=1、z=1)といったIII族窒化物半導体等により形成される。Inの組成比yは、0〜0.2程度とすることができ、0でも良い。n型伝導を示すように半導体に添加するドナー不純物は、n型半導体層13,15に使用可能なドナー不純物を使用することができる。Siといったドナー不純物の添加濃度は、n++層を除いたn型半導体層への添加濃度よりも高濃度とされ、例えば、1×1020cm-3〜1×1021cm-3程度、より好ましくは3×1020cm-3〜6×1020cm-3程度とすることができる。n++層の厚さは、5〜30nm程度とすることができ、In組成に依存して高いIn組成ほど薄くするのが好ましい。
【0038】
なお、図1に示す絶縁膜16には、例えば、酸化アルミニウムや酸化シリコンといった酸化物、窒化シリコンといった窒化物、等を用いることができる。図1に示すn−電極17,18には、例えば、Ti(チタン)、Al(アルミニウム)、Au(金)などを組み合わせた一種以上の導電体等を用いることができる。電極17,18は、単層のみならず、複数の層とされても良い。
【0039】
上述した半導体発光素子1の中央部には、n型半導体層13からトンネル接合14を経てp型半導体層12に至る孔20が形成されている。この半導体発光素子1において、孔20の位置に対応する孔領域を符号21で示し、p型半導体層12のアクセプタ不純物が活性化された孔20の周縁領域を符号22で示し、この周縁領域22から外側の領域を符号23で示している。図1に破線で囲ったように、p型半導体層12のうち孔領域21及び周縁領域22は、アクセプタ不純物の活性化領域A1とされ、電気抵抗が外側領域23の電気抵抗よりも小さくされている。このため、半導体発光素子1は、孔領域21を含めて周縁領域22の発光が外側領域23の発光よりも強くされている。
【0040】
孔20の深さD1は、p型半導体層12の一部が露出する深さであれば良く、n++層13tを含む上部n型半導体層13の厚さ以上、より好ましくはp++層12tを貫通するようなn型半導体層13とp++層12tを合わせた厚さ以上とすることができる。また、孔の深さD1は、発光層11に到達するようなn型半導体層13とp型半導体層12を合わせた厚さ以上でも良く、孔領域21を良好に発光させる観点からn型半導体層13とp型半導体層12を合わせた厚さ未満が好ましい。
孔20の径d1は、半導体発光素子1の径未満の範囲内で、例えば、1〜50μm、より好ましくは2〜20μmとすることができる。
【0041】
周縁領域22の径d2は、孔の径よりも大きく半導体発光素子1の径未満の範囲内で、例えば、2〜100μm、より好ましくは5〜50μmとすることができる。熱アニールにより周縁領域のアクセプタ不純物を活性化する場合、周縁領域の径d2は、アニールの雰囲気ガスや温度や時間によって制御可能である。径d2を大きくするためには、酸素など活性化されやすい雰囲気ガスを使用したり、温度を高くしたり、時間を長くしたりすればよい。逆に、径d2を小さくするためには、窒素など活性化されにくい雰囲気ガスを使用したり、温度を低くしたり、時間を短くしたりすればよい。
【0042】
外側領域23の幅T3は、孔20の径d1、周縁領域22の径d2、及び、半導体発光素子1の大きさにより決まり、例えば、5μm以上で30μm以下とすることができる。
【0043】
図2は、製造に好適な窒化物半導体発光素子1の構造例を模式的に示している。この半導体発光素子1は、基板41上に低温堆積緩衝層42、アンドープ半導体層43、下部n型半導体層15、発光層11、p型半導体層12、及び、上部n型半導体層13が順に積層され、絶縁膜16及び電極17,18が形成されている。基板41には、例えば、窒化ガリウム(GaN)単結晶基板、サファイア単結晶基板、等を用いることができる。低温堆積緩衝層42には、例えば、窒化アルミニウム(AlN)や窒化ガリウム(GaN)といったIII族窒化物半導体等を用いることができる。アンドープ半導体層43には、例えば、窒化ガリウム(GaN)や窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)といったIII族窒化物半導体等を用いることができる。
【0044】
(2)半導体発光素子の製造方法:
次に、図2及び図3(a)を参照して、窒化物半導体素子の製造方法の例を説明する。
基板41上の各層は、例えば、有機金属化合物気相成長法(MOVPE法)といった原料ガスを用いる気相成長法により成長させることができる。原料ガスには、アンモニア(NH3)、といった水素を含むガスが用いられる。
【0045】
まず、基板41上に、低温堆積緩衝層42、アンドープ半導体層43、下部n型半導体層15、発光層(発光部)11、p型半導体層12、及び、上部n型半導体層13を順に設定厚さまで気相成長法により結晶成長させる(層形成工程S1)。p型半導体層12の結晶成長には、Al含有層12a、Al非添加層12b、及び、p++層12tの結晶成長が含まれる。上部n型半導体層13の結晶成長には、n++層13t、及び、このn++層13を除いたn型半導体層の結晶成長が含まれる。発光層11が量子井戸構造である場合、下部n型半導体層15上に井戸層及び障壁層を交互に設定厚さまで気相成長法により成長させる。n型半導体層15,13を成長させる際にはドナー不純物を窒化物半導体に添加し、p型半導体層12を成長させる際にはアクセプタ不純物を窒化物半導体に添加する。なお、各層の厚みは、成長時間等を変えることにより調整することができる。
各層成長時、原料ガスが分解する。このため、層形成工程S1で形成されるp型半導体層12には、Mgといったアクセプタ不純物、及び、分解した原料ガスから生じる水素が含まれる。すなわち、層形成工程S1は、アクセプタ不純物及び水素を含むp型半導体層12の上にn型半導体層13を形成する工程である。含まれる水素は、p型半導体層12のアクセプタ不純物を不活性化し、この時点でp型半導体層12は全体が高抵抗化する。
【0046】
次に、上部n型半導体層13側からp型半導体層12の一部が露出する孔20を形成する(穿孔工程S2)。孔20を形成するためのエッチングには、例えば、反応性イオンエッチング(RIE)といったドライエッチング等を採用することができる。RIEには、誘導結合方式(ICP;Inductive Coupling Plasma)等のRIEが含まれる。孔20の深さD1は、エッチングの時間等により制御することができる。例えば、エッチングの時間を長くすると孔を深くすることができ、エッチングの時間を短くすると孔を浅くすることができる。
【0047】
RIEで孔20を形成するには、例えば、以下の手順に従えば良い。
まず、上部n型半導体層13上にエッチングマスクを形成し、孔領域21のマスクを除去する。次に、このマスクで覆われていない孔領域21の上部n型半導体層13、及び、p型半導体層12の一部をRIEによりエッチングして、p型半導体層12の一部を露出させる。その後、エッチングマスクを除去すればよい。
【0048】
p型半導体層12にAlが含まれる場合、酸素とフッ素の少なくとも一方を含むドライエッチング等により上部n型半導体層13側から孔20を形成して該孔20により露出した部分のp型半導体層12に酸化アルミニウムとフッ化アルミニウムの少なくとも一方を生成するようにしてもよい。なお、好ましいAl組成比は、上述した5%以上である。生成される酸化アルミニウム(AlOx)やフッ化アルミニウム(AlFy)は、エッチングをp型半導体層12で止める機能を有する。Al非添加層12b及びp++層12tにAlが添加されていない場合、エッチングがAl含有層12aで止まる。
【0049】
また、p型半導体層12にAlが添加されていなくても、p型半導体層12の厚さT1を孔20の深さD1の0.1〜0.3倍にすると、上部n型半導体層13側からの孔20の形成が適度な厚さのp型半導体層12で止まりやすくなる。エッチングによる深さの誤差が最大プラスマイナス5%あると仮定すると、孔20の実際の深さは目標の深さDtに対して−0.05×Dt〜+0.05×Dtの変動を生じる。比T1/D1を0.1以上に設定することにより、より確実に孔20の形成をp型半導体層12で止めることができる。
【0050】
上記穿孔工程S2の後、上部n型半導体層13まで形成した基板41をアニールし、p型半導体層12のうち孔領域21及び周縁領域22の電気抵抗を外側領域23の電気抵抗よりも小さくする(アニール工程S3)。孔領域21及び周縁領域22では、Mgといったアクセプタ不純物と水素の結合が切れ、アクセプタ不純物が活性化して電気抵抗が小さくなると考えられる。図1,2に示すように、露出部12eからp型半導体層12の活性化が進行し、破線で囲まれたような活性化領域A1が形成される。活性化アニールの雰囲気ガスには、例えば、酸素、窒素、アルゴン、これらの組合せ、等を用いることができる。活性化アニールの温度は、例えば、500〜800℃程度とすることができる。活性化アニールの時間は、例えば、1〜120分程度とすることができる。上述したように、周縁領域の径d2は、アニールの雰囲気ガスや温度や時間によって制御可能である。725℃などのより高い温度であれば、例えば数分程度の短い時間で済むし、1時間程度の長い時間アニールするのであれば、例えば525℃などの低い温度で良い。また、酸素に比べて活性化されにくい雰囲気ガス、例えば窒素などの場合は、より高い温度若しくは長い時間の活性化アニールをすれば良い。
【0051】
上記アニール工程S3の後、下部n層露出を行い、電極形成する(工程S4〜S5)。
まず、素子分離のため、下部n型半導体層15の一部を露出させ、側壁部(外側領域23の外側)を形成する(n層露出工程S4)。図1には、孔20を中心とした円形のメサがエッチングにより形成されていることが示されている。周縁領域22よりも外側にあり、メサよりも内側にある活性化されていない領域が、高抵抗である外側領域23となる。
【0052】
下部n型半導体層15を露出させるためのエッチングにも、例えば、RIEといったドライエッチング等を採用することができる。RIEで孔20を形成するには、例えば、以下の手順に従えば良い。
まず、上部n型半導体層13上にエッチングマスクを形成し、外側領域23から外側にある領域のマスクを除去する。次に、マスクで覆われていない部分の上部n型半導体層13、p型半導体層12、及び、発光層11をRIEによりエッチングして、下部n型半導体層15の一部を露出させる。その後、エッチングマスクを除去すれば良い。
【0053】
上記n層露出工程S4の後、下部n型半導体層15上から側壁部を経て上部n型半導体層13の縁部に絶縁膜16を形成し、下部n型半導体層15上に下部n−電極17を形成し、絶縁膜16及び上部n型半導体層13上に上部n−電極18を形成する(電極形成工程S5)。
絶縁膜の形成には、蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、等を使用することができる。絶縁膜のエッチングには、RIEといったドライエッチングや、ふっ酸によるウェットエッチング等を採用することができる。
【0054】
n−電極17,18を形成するには、例えば、以下の手順に従えば良い。
まず、ウエハの表面にフォトレジストを一様に塗布し、フォトリソグラフィにより、電極17,18の形成部分のフォトレジストを除去する。次いで、露出したn型半導体層15,13の表面に真空蒸着法で設定厚さの電極17,18を形成する。その後、フォトレジストを除去することで電極17,18の形成が完了する。本形成法は、二つ同時にn−電極を形成することが可能である。
【0055】
以上により、電流狭窄により発光領域が孔領域21及び周縁領域22に制限された窒化物半導体発光素子1が完成する。この発光素子1は、孔20の周縁領域22の発光が外側領域23の発光よりも強くなる。
【0056】
(3)半導体発光素子、及び、その製造方法の作用、及び、効果:
以下、半導体発光素子、及び、その製造方法の作用、及び、効果を説明する。
まず、図5を参照して、p型半導体層12の上にn型半導体層を被覆していない比較例の窒化物半導体発光素子901を説明する。この半導体発光素子901は、基板41上に低温堆積緩衝層42、アンドープ半導体層43、n型半導体層15、発光層11、及び、p型半導体層12が順に積層され、絶縁膜16及び電極17,19が形成されている。n−電極17は、p型半導体層12の下にしかないn型半導体層15の上に形成されている。p−電極19は、p型半導体層12の上に形成されている。
【0057】
上記半導体発光素子901は、図3(b)に示すように、各層を結晶成長させ(層形成工程S1)、活性化アニールを行い(アニール工程S3)、n型半導体層15の一部をエッチングにより露出させ(n層露出工程S4)、電極17,19を形成する(電極形成工程S5)ことにより形成される。
【0058】
p−電極19を正極として電極19,17間に電圧を印加すると、p−電極19から注入された電流は、p型半導体層12、発光層11、及び、n型半導体層15を経てn−電極17へ流れる。図5には、電流の流れにC91を付している。上述したように、熱アニール後でも、p型半導体層12の電気抵抗はn型半導体層15の電気抵抗よりも遙かに大きい。このため、p型半導体層12を流れる電流は、面内方向IPDに流れにくく、p−電極19の直下へ流れやすい。p−電極19直下のp型半導体層12へ流れる電流は、発光層11からn型半導体層15にさらに直下へと流れ、その後、n型半導体層15を面内方向に流れる。発光層11は、p−電極19直下を流れる電流により発光する。しかし、p−電極19の直下からの光は、p−電極19に遮られてしまう。このことは、光取り出し効率の低下に繋がる。
【0059】
一方、本技術の製造方法の場合、図3(a)に示すように、穿孔工程S2が増えている。このため、後のアニール工程S3により、孔20の周縁領域22の電気抵抗が外側領域23の電気抵抗よりも小さくなる。図2に示す半導体発光素子1に対して上部n−電極18を正極として電極18,17間に電圧を印加すると、上部n−電極18から注入された電流は、上部n型半導体層13へ流れ、トンネル接合14を介してp型半導体層12へ流れ、発光層11及び下部n型半導体層15を経て下部n−電極17へ流れる。図2には、電流の流れにC1を付している。ここで、外側領域23の電気抵抗が周縁領域22の電気抵抗よりも高いため、上部n型半導体層13では電流が面内方向IPDに流れて周縁領域22に到達した時点で下方向に流れ始める。この電流は、低抵抗の周縁領域22及び孔領域21に狭窄されてp型半導体層12から発光層11を経て下部n型半導体層15へと流れ、その後、下部n型半導体層15を面内方向に流れる。発光層11は、周縁領域22及び孔領域21を流れる電流により発光する。発光の強弱は、上部n−電極18の位置に依存しない。そこで、発光の弱い外側領域23に上部n−電極18を形成すれば、光取り出し効率が向上する。
【0060】
以上より、本技術は、p型半導体層の面内方向内側に電流が狭窄され、内側の発光を外側の発光よりも強くした新規かつ有用な半導体発光素子1を提供することができる。
また、図示していないが、下部n型半導体層15下部と上部n型半導体層13上部に誘電体などによる多層膜反射鏡を設けて共振器を形成しても良い。この場合、電流狭窄により集中した発光領域のみでレーザ動作が起こる面発光レーザを実現することが可能になる。この狭窄構造がないと、電極直下に多くの電流が流れてしまい、レーザ動作に必要なキャリアと光の相互作用が十分得られず、レーザ発振しない可能性がある。
【0061】
なお、図6に示す比較例の製造方法により、図7に示すようにp型半導体層12の上に上部n型半導体層13を被覆した比較例の窒化物半導体発光素子902を形成することができる。この半導体発光素子902は、下部n型半導体層15上に、発光層11、p型半導体層12、及び、上部n型半導体層13が順に積層され、絶縁膜16及び電極17,18が形成されている。しかし、製造方法に穿孔工程が無く、p型半導体層12の一部が露出する孔は形成されていない。
【0062】
上記半導体発光素子902は、各層を結晶成長させ(層形成工程S1)、下部n型半導体層15の一部をエッチングにより露出させ(n層露出工程S4)、活性化アニールを行い(アニール工程S3)、電極17,18を形成する(電極形成工程S5)ことにより形成される。この製造方法は、素子分離のためのエッチングにより側壁部を形成した後にアニールを行うので、図7に示すように、側壁の周辺部に活性化領域A9が形成される。このため、活性化領域A9の電気抵抗が該活性化領域A9から内側の領域921の電気抵抗よりも小さくなり、活性化領域A9に電流が狭窄される。図7には、電流の流れにC92を付している。発光層11は、側壁の周辺部を流れる電流により発光する。下部n型半導体層15の上から側壁部を経て上部n型半導体層13の縁部の上に上部n−電極18を形成する場合、発光層11からの光の一部は上部n−電極18に遮られてしまう。このことは、光取り出し効率の低下に繋がる。
従って、本技術の半導体発光素子1は、比較例の半導体発光素子902と比べても有用である。
【0063】
(4)第二の例:
図4は、半導体発光素子の第二の例である窒化物半導体発光素子1Aの構造を模式的に示している。図1,2に示す半導体発光素子1との主な違いは、積層順序である。各層の組成は、半導体発光素子1の場合と同様であるので、説明を省略する。また、半導体発光素子1Aの製造方法も、積層順序を除いて半導体発光素子1の製造方法と同様である。図4に示す半導体発光素子1Aは、トンネル接合14を先に形成し、その後に発光層(発光部)31を積層する構造となっている。具体的には、下部n型半導体層15上に、p型半導体層12、発光層31、及び、上部n型半導体層13が順に積層され、絶縁膜16及び電極17,18が形成されている。従って、p型半導体層12の上に形成される発光層31に含まれるアンドープ層は、アンドープの導電層となる。また、p型半導体層12の上に形成される上部n型半導体層13は、ドナー不純物添加の導電層となる。
【0064】
p型半導体層12は、p++(p型半導体トンネル接合層)12t上に形成されたAl非添加層12bと、このAl非添加層12b上に形成されたAl含有層12aとを有する。トンネル接合14は、下部n型半導体層15の上部に設けられたn++(n型半導体トンネル接合層)15tと、このn++層15t上に形成されたp++層12tとを有する。本半導体発光素子1Aにおいて、p型半導体層12はp++層12tを含み、下部n型半導体層15はn++層15tを含む。すなわち、トンネル接合14は、p型半導体層12の下部に設けられたp++層12tと、このp++層12tに隣接したn++層15tとを含む。下部n型半導体層15とp型半導体層12との間にトンネル接合14があることにより、電流を下部n型半導体層15からp型半導体層12へ流すことができる。
【0065】
半導体発光素子1Aの中央部には、n型半導体層13から発光層31を経てp型半導体層12に至る孔20が形成されている。この半導体発光素子1Aにおいて、孔20の位置に対応する孔領域を符号21で示し、p型半導体層12のアクセプタ不純物が活性化された孔20の周縁領域を符号22で示し、この周縁領域22から外側の領域を符号23で示している。図1に破線で囲ったように、p型半導体層12のうち孔領域21及び周縁領域22は、アクセプタ不純物の活性化領域A1とされ、電気抵抗が外側領域23の電気抵抗よりも小さくされている。一方、孔領域21に発光層31が存在しないため、孔領域21からは発光しない。このため、半導体発光素子1Aは、周縁領域22の発光が外側領域23の発光よりも強くされている。
【0066】
孔20の深さD1は、p型半導体層12の一部が露出する深さであれば良く、上部n型半導体層13と発光層31を合わせた厚さ以上とすることができる。図4の下段に示すように、活性化したいp型半導体層の一部でも露出していれば、その直下に存在するAl非添加層12bやp++層12tまでも活性化される。また、孔の深さD1は、下部n型半導体層15に到達するような上部n型半導体層13と発光層31とp型半導体層12を合わせた厚さ以上でも良いが、この厚さ未満が好ましい。
孔20の径d1、周縁領域22の径d2、及び、外側領域23の幅T3は、半導体発光素子1の場合と同様である。
【0067】
本半導体発光素子1Aも、穿孔工程S2の後のアニール工程S3により、孔20の周縁領域22の電気抵抗が外側領域23の電気抵抗よりも小さくなる。図4に示す半導体発光素子1Aに対して下部n−電極17を正極として電極17,18間に電圧を印加すると、下部n−電極17から注入された電流は、下部n型半導体層15へ流れ、トンネル接合14を介してp型半導体層12へ流れ、発光層31及び上部n型半導体層13を経て上部n−電極18へ流れる。ここで、外側領域23の電気抵抗が周縁領域22の電気抵抗よりも高いため、下部n型半導体層15では電流が面内方向IPDに流れて周縁領域22に到達した時点で上方向に流れ始める。この電流は、低抵抗の周縁領域22及び孔領域21に狭窄されてp型半導体層12から発光層31を経て上部n型半導体層13へと流れ、その後、上部n型半導体層13を面内方向に流れる。発光層31は、周縁領域22を流れる電流により発光する。発光の強弱は、上部n−電極18の位置に依存しない。
【0068】
以上より、第二の例も、p型半導体層の内側に電流が狭窄され、内側の発光を外側の発光よりも強くした新規かつ有用な半導体発光素子を提供することができる。
【0069】
(5)実施例:
以下、実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の例により限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
図2で示したように、基板41上に、低温堆積緩衝層42、厚さ3μmのアンドープGaN層43、Siを5×1018cm-3添加した厚さ2μmのn−GaN層15、In組成比0.15の厚さ3nmのGaInN/厚さ15nmのGaNの5周期からなる厚さ75nmのGaInN量子井戸活性層11、Mgを2×1019cm-3添加した厚さ20nmのp−AlGaN層12a、Mgを2×1019cm-3添加した厚さ50nmのp−GaN層12b、Mgを1×1020cm-3添加した厚さ3nmのp++層12t、Siを3×1020cm-3添加した厚さ30nmのn++層13t、Siを5×1018cm-3添加した厚さ200nmのn−GaN層をMOVPE法にて順次結晶成長させた。p−AlGaN層12aのAl組成比は、0.2にした。p++層12tは、In組成比0.2のGaInN層にした。MOVPE法の原料ガスには、アンモニアを用いた。
【0071】
各層の成長終了後、図1,2で示したように最上部のn−GaN層側からp−GaN層12bの表面の一部が露出するように径5μmの孔20を素子中央部にRIEで形成した。次いで、酸素雰囲気中、625℃で20分アニールを行い、活性化される径d2を面発光レーザに求められる程度の10μmに制御した。次いで、素子分離のために、孔領域21を中心とした直径30μmの円形のメサをRIEにより形成し、n−GaN層15の一部を露出させた。次いで、n−GaN層15上から側壁部を経て最上部のn−GaN層の縁部に絶縁膜16を形成した。最後に、n−GaN層15上に下部n−電極17を形成し、絶縁膜16及び最上部のn−GaN層上に上部n−電極18を形成した。
【0072】
得られた半導体発光素子サンプルに上部n−電極18から電流を注入したところ、外側領域23が暗かった一方で、孔領域21及び周縁領域22が発光した。
【0073】
[実施例2]
図4で示したように、基板41上に、低温堆積緩衝層42、厚さ3μmのアンドープGaN層43、Siを5×1018cm-3添加した厚さ2μmのn−GaN層15、Siを3×1020cm-3添加した厚さ30nmのn++層15t、Mgを1×1020cm-3添加した厚さ3nmのp++層12t、Mgを2×1019cm-3添加した厚さ50nmのp−GaN層12b、Mgを2×1019cm-3添加した厚さ20nmのp−AlGaN層12a、In組成比0.15の厚さ3nmのGaInN/厚さ15nmのGaNの5周期からなる厚さ75nmのGaInN量子井戸活性層11、Siを5×1018cm-3添加した厚さ200nmのn−GaN層をMOVPE法にて順次結晶成長させた。p−AlGaN層12aのAl組成比は、0.2にした。p++層12tは、In組成比0.2のGaInN層にした。MOVPE法の原料ガスには、アンモニアを用いた。
【0074】
各層の成長終了後、図4で示したように最上部のn−GaN層側からp−AlGaN層12aの表面の一部が露出するように径5μmの孔20を素子中央部にRIEで形成した。次いで、酸素雰囲気中、625℃で20分アニールを行い、活性化される径d2を10μmに制御した。次いで、素子分離のために、孔領域21を中心とした直径30μmの円形のメサをRIEにより形成し、n−GaN層15の一部を露出させた。次いで、n−GaN層15上から側壁部を経て最上部のn−GaN層の縁部に絶縁膜16を形成した。最後に、n−GaN層15上に下部n−電極17を形成し、絶縁膜16及び最上部のn−GaN層上に上部n−電極18を形成した。
【0075】
得られた半導体発光素子サンプルに下部n−電極17から電流を注入したところ、外側領域23が暗かった一方で、周縁領域22が環状に発光した。
【0076】
以上より、得られたサンプルは、p型半導体層の内側に電流が狭窄され、内側の発光を外側の発光よりも強くした新規な半導体発光素子であることが確認された。
【0077】
(6)結び:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、p型半導体層は、複数の層のみならず、単層でも良い。n型半導体トンネル接合層を除いた各n型半導体層は、単層のみならず、複数の層でも良い。
発光部は、発光層以外にも、p型半導体層等に生じる発光部でも良い。
半導体発光素子は、窒化物半導体発光素子以外の素子、トンネル接合の無い素子、p型半導体層にAlを添加していない素子、p型半導体層の厚みが孔の深さの0.1〜0.3倍外の素子、等でも良い。
【0078】
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、内側の発光を外側の発光よりも強くした新規な半導体発光素子、その製造方法、等の技術を提供することができる。むろん、従属請求項に係る構成要件を有しておらず独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0079】
1,1A…半導体発光素子、11…発光層(発光部)、
12…p型半導体層、12a…Al含有層、12b…Al非添加層、12e…露出部、
12t…p++層(p型半導体トンネル接合層)、
13…n型半導体層(導電層)、
13t,15t…n++層(n型半導体トンネル接合層)、
14…トンネル接合、15…n型半導体層、16…絶縁膜、17,18…電極、
20…孔、21…孔領域、22…周縁領域、23…外側領域、
31…発光層(発光部、導電層)、
41…基板、42…低温堆積緩衝層、43…アンドープ半導体層、
A1…活性化領域、C1…電流の流れ、IPD…面内方向、
S1…層形成工程、S2…穿孔工程、S3…アニール工程、
S4…n層露出工程、S5…電極形成工程。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7