(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼにおいて、配列番号2で示されるアミノ酸配列の(A)405位、(E)59位、(C)40位、及び(D)191位もしくは(B)81位、又はこれらに相当する位置におけるアミノ酸残基を、下記のアミノ酸残基に置換することを含む、液体洗剤に対するアルカリプロテアーゼの溶解性の向上方法。
(A)405位又はこれに相当する位置:ロイシン又はトリプトファン
(B)81位又はこれに相当する位置:ロイシン、プロリン又はチロシン
(C)40位又はこれに相当する位置:イソロイシン又はフェニルアラニン
(D)191位又はこれに相当する位置:ロイシン
(E)59位又はこれに相当する位置:バリン又はイソロイシン
前記アミノ酸残基の置換が、(A)405位、(B)81位、(C)40位、(D)191位及び(E)59位、又はこれらに相当する位置で行われる、請求項1記載の方法。
配列番号2で示されるアミノ酸配列の30位、68位及び255位、又はそれらに相当する位置におけるアミノ酸残基が、下記に示すアミノ酸残基である、請求項1又は2記載の方法。
30位又はこれに相当する位置:アスパラギン酸
68位又はこれに相当する位置:ヒスチジン
255位又はこれに相当する位置:セリン
配列番号2で示されるアミノ酸配列の30位、68位及び255位、又はそれらに相当する位置におけるアミノ酸残基が、下記に示すアミノ酸残基である、請求項6又は7記載の変異アルカリプロテアーゼ。
30位又はこれに相当する位置:アスパラギン酸
68位又はこれに相当する位置:ヒスチジン
255位又はこれに相当する位置:セリン
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、「アミノ酸残基」とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残基、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リシン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、トレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)を意味する。
【0023】
本明細書において、「(アミノ酸配列間の)同一性」とは、2つのアミノ酸配列を同一性が最大となるように整列(アラインメント)したときに、両方の配列において同一のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。具体的には、リップマン−パーソン法(Lipman−Pearson法;Science,227,1435,(1985))によって計算され、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行なうことにより算出できる。
【0024】
本発明は、アルカリプロテアーゼの溶解性を向上させる方法を提供する。本発明の方法の対象となるアルカリプロテアーゼは、配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼである。本明細書においては、これらを親アルカリプロテアーゼということがある。言い換えると、本明細書における「親アルカリプロテアーゼ」とは、アミノ酸残基に所定の変異がなされて溶解性が向上した変異アルカリプロテアーゼとなされるアルカリプロテアーゼである。
【0025】
配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる親アルカリプロテアーゼとしては、例えば、KP43〔バチルス エスピーKSM−KP43(FERM BP−6532)〕由来のアルカリプロテアーゼが挙げられる(WO99/18218号パンフレット)。
【0026】
配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる親アルカリプロテアーゼとしては、配列番号2で示されるアミノ酸配列とは異なるが、配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらにより好ましくは97%以上、なお好ましくは97.5%以上、なおより好ましくは98%以上、さらになお好ましくは99%以上の配列同一性を有するアルカリプロテアーゼ、ならびに、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1個〜数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアルカリプロテアーゼが挙げられる。なお、本明細書において、1個〜数個とは、1〜40個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個を意味する。
【0027】
配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる親アルカリプロテアーゼの例としては、プロテアーゼKP9860[バチルス エスピーKSM―KP9860(FERM BP−6534)由来、WO99/18218、GenBank accession no.AB046403];プロテアーゼE−1[バチルス No.D−6(FERM P−1592)由来、特開昭49−71191号公報、GenBank accession no.AB046402];プロテアーゼYa[バチルス エスピーY(FERM BP−1029)由来、特開昭61−280268号公報、GenBank accession no.AB046404];プロテアーゼSD521[バチルス SD521(FERM P−11162)由来、特開平3−191781号公報、GenBank accession no.AB046405];プロテアーゼA−1[NCIB12289由来、WO88/01293、GenBank accession no.AB046406];プロテアーゼA−2[NCIB12513由来、WO98/56927];プロテアーゼ9865〔バチルス エスピーKSM−9865(FERM P−18566)由来、GenBank accession no.AB084155〕が挙げられる。
【0028】
さらに、配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる親アルカリプロテアーゼの例としては、上記KP−43株由来のアルカリプロテアーゼにおいて、特開2002−218989号公報、特開2002−306176号公報、特開2003−125783号公報、特開2004−000122号公報、特開2004−057195号公報、特開2004−0305175号公報、特開2004−305176号公報、特開2006−129865号公報、特開2008−212084号公報、特開2009−034063号公報、特開2009−034062号公報、特開2010−273672号公報又は特開2010-273673号公報に記載の変異のうちの1以上を施した変異体アルカリプロテアーゼが挙げられる。
【0029】
好ましくは、上記配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる親アルカリプロテアーゼにおいて、少なくとも、配列番号2で示されるアミノ酸配列の30位に相当するアミノ酸残基はアスパラギン酸であり、68位又に相当するアミノ酸残基はヒスチジンであり、且つ255位に相当するアミノ酸残基はセリンである。これらのアミノ酸残基はアルカリプロテアーゼにおいて必須なアミノ酸であることが推定されている(Saekiら, Journal of bioscience and Bioengineering, 103, 501-508, 2007)。
【0030】
より好ましくは、上記配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる親アルカリプロテアーゼにおいて、配列番号2で示されるアミノ酸配列における下記表3(i)に記載の各位置に相当する位置のアミノ酸残基が、当該表(ii)に記載のアミノ酸残基である。下記表3(i)に示す位置は、上記に例示した親アルカリプロテアーゼ間で高度に保存されているアミノ酸残基(Saekiら, Journal of bioscience and Bioengineering, 103, 501-508, 2007)の位置のなかから、上記に挙げた特開公報に記載の変異体アルカリプロテアーゼで変異されているアミノ酸残基、及び本発明の方法において置換され得るアミノ酸残基の位置を除外したものである。
【0032】
あるいは、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼが有する次の何れかの酵素学的性質を有するものが、本発明の親アルカリプロテアーゼとしてより好ましい。1)酸化剤耐性を有し、アルカリ側(pH8以上)で作用し、かつ安定である。ここで、酸化剤耐性を有するとは、当該アルカリプロテアーゼを50mM過酸化水素(5mM塩化カルシウムを含有)溶液中(20mMブリットンロビンソン緩衝液、pH10)で、20℃20分間放置した後の残存活性(合成基質法)が少なくとも50%以上であることをいう。2)50℃、pH10で10分間処理したとき80%以上の残存活性を示す。3)ジイソプロピルフルオルリン酸(DFP)及びフェニルメタンスルホニルフルオライド(PMSF)で阻害される。4)SDS−PAGEによる分子量が43,000±2,000である。
【0033】
本発明の方法においては、上記親アルカリプロテアーゼの目的位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することより、その溶解性を向上させる。すなわち、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼにおいて、下記表4−1〜4−3に示される位置のアミノ酸残基のいずれか1以上を、当該表に示される変異後のアミノ酸残基と置換する。あるいは、配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列のアルカリプロテアーゼにおいて、下記表4−1〜4−3に示される位置に相当する位置のアミノ酸残基のいずれか1以上を、当該表に示される変異後のアミノ酸残基と置換する。本発明の方法により上記アミノ酸が置換された変異アルカリプロテアーゼが得られる。当該変異アルカリプロテアーゼは、アルカリプロテアーゼ活性を有し、且つ親アルカリプロテアーゼと比べて、液体洗剤、好ましくは濃縮液体洗剤に対する溶解性が向上している。
【0034】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【0035】
本発明の方法において、置換されるべき親アルカリプロテアーゼのアミノ酸残基の位置は、配列番号2で示されるアミノ酸配列においては、好ましくは、405位、81位、40位、191位及び59位から選ばれる位置の少なくとも1つを含む。より好ましくは、置換される位置は、上記に挙げた位置の少なくとも2つを含む。さらに好ましくは、置換される位置は、上記に挙げた位置の少なくとも3つを含む。
また好ましくは、置換される位置は、少なくとも、405位と、81位、40位又は191位との組み合わせを含む。より好ましくは、置換される位置は、405位及び81位と、40位、191位又は59位との組み合わせを含む。さらになお好ましくは、405位、81位、40位、191位及び59位の全てが置換される。
【0036】
配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列においては、置換されるべき位置は、好ましくは、配列番号2の405位、81位、40位、191位及び59位のそれぞれに相当する位置から選ばれる位置の少なくとも1つを含む。より好ましくは、置換されるべき位置は、上記に挙げた位置の少なくとも2つを含む。さらに好ましくは、置換される位置は、上記に挙げた位置の少なくとも3つを含む。
また好ましくは、置換される位置は、少なくとも、405位に相当する位置と、81位、191位及び40位のいずれかに相当する位置との組み合わせを含む。より好ましくは、置換される位置は、405位に相当する位置及び81位に相当する位置と、40位、191位及び59位のいずれかに相当する位置との組み合わせを含む。さらになお好ましくは、405位、81位、40位、191位及び59位それぞれに相当する位置の全てが置換される。
【0037】
上記405位、81位、40位、191位及び59位若しくはそれらに相当する位置の単置換、二重又は多重置換に加えて、さらに表4−1〜4−3に示した他の位置若しくはそれらに相当する位置のアミノ酸残基が置換されていてもよい。
【0038】
置換後のアミノ酸残基は、405位又はこれに相当する位置についてはロイシン又はトリプトファンが好ましく、81位又はこれに相当する位置についてはロイシン、プロリン、チロシン又はトリプトファンが好ましく、40位又はこれに相当する位置についてはイソロイシン、フェニルアラニン又はロイシンが好ましく、191位又はこれに相当する位置についてはロイシン又はバリンが好ましく、59位又はこれに相当する位置についてはバリン、イソロイシン又はロイシンが好ましい。
【0039】
本明細書において、「相当する位置のアミノ酸残基」の特定は、
Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson,J.D.et al,(1994)Nucleic Acids Res.22,p.4673−4680)をデフォルト設定で用いて、目的アミノ酸配列を参照配列(配列番号2で示されるアミノ酸配列)と比較し、各アルカリプロテアーゼのアミノ酸配列中に存在する保存アミノ酸残基に最大の相同性を与えるように配列を整列(アラインメント)させることにより行なうことができる。アルカリプロテアーゼのアミノ酸配列をこのような方法で整列させることにより、アミノ酸配列中にある挿入、欠失にかかわらず、相同アミノ酸残基の各アルカリプロテアーゼにおける配列中の位置を決めることが可能である
。Clustal Wは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI,[www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ,[www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.html])のウェブサイトから利用することができる。
【0040】
当業者であれば、上記で得られたアラインメントを、必要に応じて最適なアラインメントとなるようにさらに微調整することができる。そのような最適アラインメントは、アミノ酸配列の類似性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列の類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知られており、例えば、アルギニンとリジン又はグルタミン;グルタミン酸とアスパラギン酸又はグルタミン;セリンとトレオニン又はアラニン;グルタミンとアスパラギン又はアルギニン;ロイシンとイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
上述のアラインメントにより参照配列の任意の位置に対応する位置にアラインされた目的アミノ酸配列のアミノ酸残基の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされ、当該アミノ酸残基は「相当する位置のアミノ酸残基」と称される。
【0042】
すなわち、上記方法を用いることにより、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)405位のアミノ酸残基(アスパラギン残基)、(b)81位のアミノ酸残基(セリン残基)、(c)40位のアミノ酸残基(セリン残基)、(d)191位のアミノ酸残基(セリン残基)、及び(e)59位のアミノ酸残基(トレオニン残基)に相当する位置のアミノ酸残基は、プロテアーゼKP9860においては、それぞれ、(a)405位のアスパラギン残基、(b)81位のアラニン残基、(c)40位のセリン残基、(d)191位のセリン残基、及び(e)59位のトレオニン残基、というように特定することができる。
【0043】
プロテアーゼKP43のアミノ酸配列(配列番号2)の(a)405位、(b)81位、(c)40位、(d)191位、(e)59位に相当する位置及びアミノ酸残基の具体例を、上記で例示したプロテアーゼKP9860、プロテアーゼ9865、プロテアーゼE−1、プロテアーゼYa、プロテアーゼSD521、プロテアーゼA−1、プロテアーゼA−2について示す(表5)。これらの位置のアミノ酸残基は、高度に保存されているか、又は類似のアミノ酸残基として保存されている。
【0045】
また例えば、前述の特開2006−129865号公報に記載されるような、配列番号2のアルカリプロテアーゼの133位と134位の間に1アミノ酸残基を挿入した変異アルカリプロテアーゼにおいては、配列番号2の134位以降の位置に相当する位置は、配列番号2と比べて1残基下流に位置する。
【0046】
斯くして特定される「相当する位置」は、アミノ酸配列において高い同一性を有し且つアルカリプロテアーゼであるタンパク質同士の間では、その三次元構造中で同等の位置に存在すると考えられる。したがって、相当する位置に存在するアミノ酸残基の変異は、プロテアーゼの特異的機能に対して互いに類似した効果を及ぼすと推定される。
【0047】
本発明の方法により得られた変異アルカリプロテアーゼは、表4−1〜4−3に記載された位置若しくはそれらに相当する位置のアミノ酸残基の置換に加えて、その液体洗剤に対する溶解性向上効果を妨げない限り、他の任意の位置における変異(例えば、欠失、置換、付加、挿入)をさらに伴うものであってもよい。当該変異は、天然に生じたものであっても、人工的に導入したものであってもよい。
【0048】
本発明の方法において、アルカリプロテアーゼのアミノ酸残基を置換する手段としては、当技術分野で公知の各種変異導入技術を使用することができる。例えば、親アルカリプロテアーゼのアミノ酸配列をコードするアルカリプロテアーゼ遺伝子(以下、親アルカリプロテアーゼ遺伝子)内の置換対象のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を、置換後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列に変異させ、さらにその変異遺伝子から変異アルカリプロテアーゼを発現させることにより、置換対象のアミノ酸残基が所望のアミノ酸残基に置換された変異アルカリプロテアーゼを得ることができる。
【0049】
親アルカリプロテアーゼ遺伝子への目的の変異の導入は、例えば基本的には、親アルカリプロテアーゼ遺伝子を鋳型DNAとして用いるPCR増幅や各種DNAポリメラーゼによる複製反応に基づき、当業者には周知の様々な部位特異的変異導入法を用いて行うことができる。部位特異的変異導入法は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法など(村松ら編、「改訂第4版 新遺伝子工学ハンドブック」、羊土社、p.82−88)の任意の手法により行うことができる。必要に応じてStratagene社のQuickChange II Site−Directed Mutagenesis Kitや、QuickChange Multi Site−Directed Mutagenesis Kit等の各種の市販の部位特異的変異導入用キットを使用することもできる。
【0050】
親アルカリプロテアーゼ遺伝子への部位特異的変異導入は、最も一般的には、導入すべきヌクレオチド変異を含む変異プライマーを用いて行うことができる。そのような変異プライマーは、親アルカリプロテアーゼ遺伝子内の置換対象のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を含む領域にアニーリングし、かつその置換対象のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)に代えて置換後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)を有するヌクレオチド配列を含むように設計すればよい。置換対象及び置換後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)は、当業者であれば通常の教科書等に基づいて適宜認識し選択することができる。
本発明ではまた、導入すべきヌクレオチド変異を含む相補的な2つの変異プライマーを別々に用いて変異部位の上流側及び下流側をそれぞれ増幅したDNA断片を、SOE(splicing by overlap extension)−PCR(Horton R.M.et al.,Gene(1989)77(1),p.61−68)により1つに連結する方法を用いることもできる。このSOE−PCR法を用いた変異導入手順については、後述の実施例にも詳述している。
【0051】
親アルカリプロテアーゼ遺伝子を含む鋳型DNAは、上述したバチルス エスピーKSM−KP43(FERM BP−6532)、バチルス エスピーKSM―KP9860(FERM BP−6534)、バチルス No.D−6(FERM P−1592)、バチルス エスピーY(FERM BP−1029)、バチルス SD521(FERM P−11162)、バチルス エスピーKSM−9865(FERM P−18566)等の菌、又はそれらの変異株から、常法によりゲノムDNAを抽出するか、又はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成することによって、調製することができる。あるいは、親アルカリプロテアーゼのアミノ酸配列に基づいて、対応するヌクレオチド配列を合成して鋳型DNAとして用いてもよい。
【0052】
上記バチルス属菌株からのゲノムDNAの調製は、例えば、Pitcher et al.,Lett.Appl.Microbiol.,1989,8:p.151−156に記載の方法などを用いて行うことができる。親アルカリプロテアーゼ遺伝子を含む鋳型DNAは、調製したcDNA又はゲノムDNAから切り出した親アルカリプロテアーゼ遺伝子を含むDNA断片を任意のベクター中に挿入した形で調製してもよい。
【0053】
プライマーは、ホスホロアミダイト法(Nucleic Acids Research,17,7059−7071,1989)等の周知のオリゴヌクレオチド合成法により作製することができる。そのようなプライマー合成は、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成装置(ABI社製など)を用いて実施することもできる。変異プライマーを含むプライマーセットを使用し、親アルカリプロテアーゼ遺伝子を鋳型DNAとして上記のような部位特異的変異導入を行うことにより、目的の変異が導入された変異アルカリプロテアーゼ遺伝子を得ることができる。本発明はこのようにして得られる変異アルカリプロテアーゼ遺伝子にも関する。なお本発明において「変異アルカリプロテアーゼ遺伝子」とは、変異アルカリプロテアーゼのアミノ酸配列をコードする任意のヌクレオチド断片(DNA、mRNA、及び人工核酸等を含む)を意味する。本発明に係る「遺伝子」は、オープンリーディングフレームに加えて非翻訳領域(UTR)などの他のヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0054】
得られた変異アルカリプロテアーゼ遺伝子を常法により任意のベクター中に挿入し連結することにより、組換えベクターを作製することができる。本発明で用いるベクターは特に限定されず、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YACベクター、シャトルベクター等の任意のベクターであってよい。そのようなベクターとしては、限定するものではないが、細菌内、とりわけバチルス属細菌内で増幅可能なベクターがより好ましく、バチルス属細菌内で導入遺伝子の発現を誘導可能な発現ベクターであることがさらに好ましい。中でも、バチルス属細菌と他の生物のいずれでも複製可能なベクターであるシャトルベクターは、変異アルカリプロテアーゼを組換え生産する上で特に好適に用いることができる。好ましいベクターの例としては、限定するものではないが、後述のpHA3040SP64、プラスミドpHSP64R又はpASP64(特許第3492935号)、pHY300PLK(大腸菌と枯草菌の両方を形質転換可能な発現ベクター;Ishikawa,H.and Shibahara,H.,Jpn.J.Genet,(1985)60,p.235−243)、pAC3(Moriyama,H.et al.,Nucleic Acids Res.(1988)16,p.8732)等のシャトルベクター、pUB110(Gryczan,T.J.et al.,J.Bacteriol.(1978)134,p.318−329)、pTA10607(Bron,S.et al.,Plasmid,18(1987)p.8−15)等のバチルス属細菌の形質転換に利用可能なプラスミド、分泌シグナルを組換えタンパク質に付与可能な分泌ベクター(山根他,「枯草菌分泌ベクターによる融合タンパク質」澱粉科学,34.(1987),p.163−170)等が挙げられる。また大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)を用いることもできる。
【0055】
変異アルカリプロテアーゼを組換え生産する目的では、ベクターは発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターは、転写プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合部位などの宿主生物における発現に必須な各種エレメントの他、選択マーカー遺伝子やポリリンカー、エンハンサーなどのシスエレメント、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)等の有用な配列を必要に応じて含み得る。
【0056】
変異アルカリプロテアーゼ遺伝子を含む組換えベクターを用いて、形質転換体を作製することができる。本発明では、本発明に係る変異アルカリプロテアーゼ遺伝子を含む組換えベクター(具体的には組換え発現ベクター)を宿主細胞に導入することにより形質転換体(形質転換細胞)を作製し、それを組換えタンパク質の発現が誘導される条件下で培養することにより、変異アルカリプロテアーゼを産生させることができる。
【0057】
組換えベクターを導入する宿主細胞としては、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞を始めとする微生物の他、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等の任意の細胞を使用することができる。本発明においては、特に、枯草菌等のバチルス属細菌を使用することが好ましい。
【0058】
形質転換には、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、PEG法等の周知の形質転換技術を適用することができる。例えばバチルス属細菌に適用可能な形質転換法としては、コンピテントセル形質転換法(Bott.K.F.and Wilson,G.A.,J.Bacteriol.(1967)93,1925)、エレクトロポレーション法(Brigidi.P.et al.,FEMS Microbiol.Lett.(1990)55,135)、プロトプラスト形質転換法(Chang,S.and Cohen,S.N.,Mol.Gen.Genet.,(1979)168,p.111−115)、Tris−PEG法(Takahashi W.et al.,J.Bacteriol.(1983)156,p.1130−1134)などが挙げられる。
【0059】
組換えタンパク質生産のための上記形質転換体の培養は、当業者には一般的な方法に従って行うことができる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物宿主に基づく形質転換体を培養する培地としては、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。培地には、薬剤選択マーカーの種類に対応してアンピシリンやテトラサイクリン等を添加してもよい。プロモーターとして誘導性のものを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した細菌等を培養するときにはイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加することができる。培養条件は特に限定されないが、好ましくは形質転換に用いる宿主生物に適した条件下で行われる。例えば、組換えタンパク質を生産するための枯草菌形質転換体の培養には、例えば、LB培地、2×YT培地、2×L−マルトース培地、又はCSL発酵培地等を用いることができる。
【0060】
本発明の方法において、変異アルカリプロテアーゼは、無細胞翻訳系を使用して変異アルカリプロテアーゼ遺伝子又はその転写産物から発現させてもよい。「無細胞翻訳系」とは、宿主となる細胞を機械的に破壊して得た懸濁液にタンパク質の翻訳に必要なアミノ酸等の試薬を加えて、in vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。発現された変異アルカリプロテアーゼは、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、培養液、細胞破砕液、又は無細胞翻訳系から取得することができる。しかし遠心分離や限外濾過型フィルター等を用いて分離又は濃縮したその培養上清や溶菌液上清等の溶液は、粗酵素液としてそのまま使用することもできる。発現された変異アルカリプロテアーゼが細胞内から分泌されない場合には、その細胞を破砕してからタンパク質の分離精製を行えばよい。
【0061】
なお本発明において用いるmRNAの調製、cDNAの作製、PCR、RT−PCR、ライブラリーの作製、ベクター中へのライゲーション、細胞の形質転換、DNAの塩基配列の決定、核酸化学合成、タンパク質のN末端側のアミノ酸配列決定、突然変異誘発、タンパク質の抽出等の実験は、通常の実験書に記載の方法によって行うことができる。そのような実験書としては、例えば、SambrookらのMolecular Cloning,A laboratory manual,(2001)3rd Ed.,Sambrook,J.& Russell,DW.Cold Spring Harbor Laboratory Pressを挙げることができる。特に、枯草菌の遺伝子組換え実験については例えば、吉川博文著"7.2 枯草菌系"「続生化学実験講座1.遺伝子研究法II」,(1986)東京化学同人社(東京),p.150−169等の枯草菌の遺伝子操作に関する一般的な実験書を参照することができる。
【0062】
斯くして本発明の方法により得られた変異アルカリプロテアーゼは、親アルカリプロテアーゼと比べて、液体洗剤、好ましくは濃縮液体洗剤に対する溶解性が向上している。従って、本発明はまた、本発明の液体洗剤に対するアルカリプロテアーゼの溶解性の向上方法に従って作製された変異アルカリプロテアーゼ、それをコードする遺伝子(ポリヌクレオチド)、当該遺伝子を含むベクター、及び当該ベクターを含む形質転換体、ならびに当該形質転換体を用いる変異アルカリプロテアーゼの製造方法を提供する。
【0063】
また本発明の変異アルカリプロテアーゼは、親アルカリプロテアーゼと比べて、液体洗剤に対する溶解性が向上している。よって本発明の変異アルカリプロテアーゼは、各種粉末洗剤配合用酵素としても有用であるが、好ましくは各種液体洗剤配合用酵素として有用であり、より好ましくは濃縮液体洗剤配合用酵素として有用である。本発明の変異アルカリプロテアーゼを含有する液体洗剤は、従来と比べてより多くのアルカリプロテアーゼを含有することが可能になるので、従来と比べてより高いプロテアーゼ活性を有することができ、結果としてより強力な酵素洗浄力を発揮することができる。従って、本願発明はまた、本発明の変異アルカリプロテアーゼを含有する液体洗剤組成物を提供する。
【0064】
本発明の液体洗剤組成物における本発明の変異アルカリプロテアーゼの含有量は、アルカリプロテアーゼが活性を示す量であれば特に制限されないが、洗剤組成物1kg当たり0.1〜25000Uが好ましく、0.1〜5000Uがより好ましく、0.1〜2500Uがさらに好ましい。
なお、アルカリプロテアーゼ活性とは以下の方法により測定される:1/15Mリン酸緩衝液(pH7.4)0.9ml、40mMGlt−Ala−Ala−Pro−Leu−p−ニトロアニリド/ジメチルスルホキシド溶液0.05mlを試験管に採り、30℃で5分間保温する。これに酵素液0.05mlを加えて30℃で10分間反応を行った後、5%(w/v)クエン酸水溶液2.0mlを加えて反応を停止し、分光光度計を用いて420nmにおける吸光度を測定する。ここで酵素1単位(U)は上記反応において1分間に1μmolのp−ニトロアニリンを生成する量とする。
【0065】
本発明の液体洗剤組成物は、本発明の変異アルカリプロテアーゼに加えて、界面活性剤及び水を含有する。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及び陽イオン性界面活性剤等の任意の界面活性剤を1種で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
非イオン性界面活性剤としては、一般的に液体洗剤に配合されているC8〜C22の炭化水素基を有し、C2オキシアルキレン基が数モル以上付加された非イオン性界面活性剤であればよいが、例えば、以下が挙げられる:
R
1O−(AO)m−H(R
1=C8−C22炭化水素、AO=C2−C5オキシアルキレン基、m=16〜35)〔特開2010−275468号公報〕;
R
1O−(EO)l−(AO)m−(EO)n−H(R
1=C8−C18炭化水素、EO=C2オキシアルキレン基、AO=C3−C5オキシアルキレン基、l=3〜30、m=1〜5、l+n=14〜50)〔特開2010−265445号公報、特開2011−63784号公報〕;
R
1O−(EO)m/(AO)n−H(R
1=C8−C22炭化水素、EO=C2オキシアルキレン基、AO=C3−C5オキシアルキレン基、m=10〜30、n=0〜5、EO及びAOはランダム又はブロック結合)〔特開2010−189551号公報〕;
R
1(CO)lO−(EO)m/(AO)n−R
2(R
1=C8−C22炭化水素、EO=C2オキシアルキレン基、AO=C3−C5オキシアルキレン基、l=0〜1、m=14〜50、n=1〜5、R
2=水素(l=0)又はC1−C3アルキル基、EO及びAOはランダム又はブロック結合)〔特開2010−229385号公報〕;
R
1O−(EO)m−(AO)n−H(R
1=C8−C22炭化水素、EO=C2オキシアルキレン基、AO=C3−C5オキシアルキレン基、m=15〜30、n=1〜5)〔特開2010−229387号公報〕;
R
1O−(AO)m/(Gly)n−H及び/又はR
2−COO−(AO)p/(Gly)q−H(R
1=C8−C22炭化水素基、R
2=C7−C21炭化水素基、AO=C2−C3オキシアルキレン基、Gly=グリセロール基、m=0〜5、n=2〜10、p=0〜5、q=2〜10、AO及びGlyはランダム又はブロック結合)〔特開2010−254881号公報〕;
R
1−COO−(PO)m/(EO)n−R
2(R
1=C7−C21炭化水素基,COO=カルボニルオキシ基、R
2=C1−C3アルキル基、PO=オキシプロピレン基、EO=オキシエチレン基、m=0.3〜5、n=8〜25、PO及びEOはランダム又はブロック結合)〔特開2010−265333号公報〕;
R
1O−(EO)l−(PO)m−(EO)n−H(R
1=C8−C20炭化水素、EO=C2オキシアルキレン基、PO=オキシプロピレン基、l>=1、n>=1、0<m<l+n、EO及びPOはブロック結合)〔WO98/24865〕;
R
1O−(EO)m−(PO)n−H(R
1=C10−C16のアルキル基又はアルケニル基、EO=エチレンオキシド基、PO=プロピレンオキシド基、m=5〜15、n=1〜3)〔特開平8−157867号公報〕;
R
1(CO)−(EO)m−OR
2(R
1=C11−C13直鎖又は分岐状アルキル基又はアルケニル基、R
2=C1−C3アルキル基、EO=エチレンオキシド基、m=10〜20)〔特開2008−7706号公報、特開2009−7451号公報、特開2009−155594号公報、特開2009−155606号公報〕;
R
1(CO)−(AO)m−OR
2(R
1=C9−C13直鎖又は分岐状アルキル基又はアルケニル基、AO=C2−C4オキシアルキレン基、R
2=C1−C3アルキル基、m=5〜30)〔特開2009−144002号公報、特開2009−173858号公報、特開2010−189612号公報〕;
ならびに、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸アルカノールグルカミド、アルキルポリグルコシド等が挙げられる。
【0067】
陰イオン界面活性剤としては、カルボキシレート型陰イオン界面活性剤、スルホン酸型又は硫酸エステル型陰イオン界面活性剤、非石鹸系アニオン界面活性剤、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸又はその塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩、脂肪酸石鹸、リン酸エステル塩系界面活性剤、アシルアラニネート、アシルタウレート、アルキルエーテルカルボン酸、アルコール硫酸エステル等が挙げられる。好ましくは炭素数8〜22の長鎖アルキル基を1つ有する第4級アンモニウム型界面活性剤、炭素数8〜22の長鎖アルキル基を1つ有する3級アミンが挙げられる。
【0068】
陽イオン界面活性剤としては、例えば長鎖アルキル基を有する第4級アンモニウム塩、長鎖アルキル基を1つ有する3級アミン、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等が挙げられる。両性イオン活性剤としては、アルキル酢酸ベタイン、アルカノールアミドプロピル酢酸ベタイン、アルキルイミダゾリン、アルキルアラニン等、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、イミダゾリン型、アルキルアミノスルホン型、アルキルアミノカルボン酸型、アルキルアミドカルボン酸型、アミドアミノ酸型又はリン酸型の両性界面活性剤等が挙げられる。好ましくは炭素数10〜18のアルキル基を有するスルホベタイン又はカルボベタインを挙げることができる。
【0069】
本発明の液体洗剤組成物は、好ましくは濃縮液体洗剤組成物である。本明細書において、「濃縮液体洗剤」とは、界面活性剤を40質量%以上、水を60質量%未満含有する液体洗剤を意味し得る。好ましくは、界面活性剤を40〜90質量%、水を5質量%以上60質量%未満含有する液体洗剤であり得、より好ましくは、界面活性剤を45〜90質量%、水を5質量%以上55質量%未満含有する液体洗剤であり得、さらに好ましくは、界面活性剤を50〜75質量%、水を5質量%以上50質量%未満含有する液体洗剤、さらにより好ましくは界面活性剤濃度を50〜75質量%、水を5質量%以上30質量%未満含有する液体洗剤であり得る。
【0070】
本発明の液体洗剤組成物は、さらに、液体洗剤に通常使用される成分、例えば、水溶性ポリマー、水混和性有機溶剤、アルカリ剤、キレート剤、有機酸又はその塩、本発明の変異アルカリプロテアーゼ以外の他の酵素、酵素安定化剤、蛍光剤、再汚染防止剤、仕上げ剤、過酸化水素等の漂白剤、酸化防止剤、pH調製剤、緩衝剤、防腐剤、香料、塩、アルコール、糖類等を含み得る。
【0071】
水溶性ポリマーとしては、例えば、(i)炭素数2〜5のエポキシド由来の重合単位を含んで構成されるポリエーテル鎖部分と(ii)アクリル酸、メタクリル酸及びマレイン酸から選ばれる一種以上の不飽和カルボン酸単量体由来の重合単位を含んで構成されるポリマー鎖部分とを有し、(i)又は(ii)はいずれかが幹鎖となり、他方が枝鎖となったグラフト構造を有する高分子化合物(特開2010−275468号公報、特開平10−060496号公報)、ならびにアルキレンテレフタレート単位及び/又はアルキレンイソフタレート単位と、オキシアルキレン単位及び/又はポリオキシアルキレン単位を有する水溶性ポリマー(特開2009−155606号公報)等が挙げられる。
【0072】
水混和性有機溶剤としては、例えば、アルカノール類のアルキレングリコール類やグリセリン、ポリアルキレングリコール類、(ポリ)アルキレングリコール(モノ又はジ)アルキルエーテル類、アルキルグリセリルエーテル類、(ポリ)アルキレングリコールの芳香族エーテル類が挙げられる。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、又はヘキシレングリコールなどの炭素数2〜6のアルキレングリコール類やグリセリン、又はポリエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル等が好ましい。本発明の液体洗剤組成物における当該水混和性有機溶剤の含有量は、1〜40質量%、好ましくは1〜35質量%である。
【0073】
アルカリ剤としては、例えば、C2−C4のアルカノールを1〜3個有するアルカノールアミンとして、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリオキシアルキレンアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。モノエタノールアミン、トリエタノールアミンが好ましい。本発明の液体洗剤組成物における当該アルカリ剤の含有量は、0〜20質量%、好ましくは0〜10質量%である。
【0074】
キレート剤としては、例えばニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、ジエンコル酸等のアミノポリ酢酸又はこれらの塩、ジグリコール酸、オキシジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、オキシジコハク酸、グルコン酸、カルボキシメチルコハク酸、カルボキシメチル酒石酸等の有機酸又はこれらの塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、これらのアルカリ金属または低級アミン塩等が挙げられる。本発明の液体洗剤組成物における当該キレート剤の含有量は、0.1〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜4質量%である。
【0075】
有機酸又はその塩としては、例えば、飽和脂肪酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、またはそれらの塩などの多価カルボン酸類;クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、安息香酸又はそれらの塩等のヒドロキシカルボン酸類が挙げられ、なかでもクエン酸又はその塩が特に好ましい。本発明の液体洗剤組成物における当該有機酸又はその塩の含有量は、0〜5質量%、好ましくは0〜3質量%である。
【0076】
再汚染防止剤及び分散剤としては、例えばポリアクリル酸、ポリマレイン酸、カルボキシメチルセルロース、重量平均分子量5000以上のポリエチレングリコール、無水マレイン酸−ジイソブチレン共重合体、無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体、無水マレイン酸−酢酸ビニル共重合体、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、及び特開昭59−62614号公報の請求項1〜21(1頁3欄5行〜3頁4欄14行)記載のポリマーなどの再汚染防止剤及び分散剤を挙げることができるが、配合に適さない場合は除外してもよい。
【0077】
色移り防止剤としては、例えばポリビニルピロリドンが挙げられ、含有量は0.01〜10質量%が好ましい。
【0078】
漂白剤としては、例えば過酸化水素、過炭酸塩、過硼酸塩などの漂白剤は1〜10質量%配合するのが好ましい。漂白剤を使用するときは、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)や特開平6−316700号公報記載などの漂白活性化剤(アクチベーター)を0.01〜10質量%配合することができる。
【0079】
蛍光剤としては、例えばビフェニル型蛍光剤(チノパールCBS−Xなど)やスチルベン型蛍光剤(DM型蛍光染料など)が挙げられる。蛍光剤は0.001〜2質量%配合するのが好ましい。
【0080】
本発明の変異アルカリプロテアーゼ以外の他の酵素としては、例えば、他のプロテアーゼ、セルラーゼ、β−グルカナーゼ、ヘミセルラーゼ、リパーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、ペクチン酸リアーゼ、キシログルカナーゼ、キシラナーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ラムノガラクツロナーゼ、ペクチンリアーゼ、他のマンナナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、セロビオヒドロラーゼ、及びトランスグルタミナーゼ等を始めとする加水分解酵素、並びにそれらのうち2種以上の混合物が挙げられる。
【0081】
その他成分として、例えばホウ素化合物、カルシウムイオン源(カルシウムイオン供給化合物)、ビヒドロキシ化合物、蟻酸等の酵素安定化剤、ブチルヒドロキシトルエン、ジスチレン化クレゾール、亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸水素ナトリウム等の酸化防止剤、パラトルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、メタキシレンスルホン酸、安息香酸塩(防腐剤としての効果もある)などの可溶化剤、オクタン、デカン、ドデカン、トリデカンなどのパラフィン類、デセン、ドデセンなどのオレフィン類、塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタンなどのハロゲン化アルキル類、D−リモネンなどのテルペン類などの水非混和性有機溶剤、色素、香料、抗菌防腐剤、シリコーン等の消泡剤等を配合してもよい。
【0082】
本発明の液体洗剤組成物の好ましい組成として、特開2010−189551、特開2010−265333、特開2010−275468、WO2010/058832,WO2010/119935又はWO2010/137635の実施例に記載の組成が挙げられる。例えば、特開2010−275468号公報の実施例に記載の液体洗浄剤組成物であればいずれでもよいが、具体的に例を挙げると、実施例3に記載の液体洗剤組成物は、界面活性剤を66%(非イオン界面活性剤46%、陰イオン界面活性剤を20%)、水溶性ポリマー(ポリエチレングリコール(エチレンオキシド平均付加モル数25)アリルエーテル/アクリル酸=75/25(質量比)共重合体)を3%、水混和性有機溶剤(ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール)を14%、アルカリ剤(モノエタノールアミン)を5%、イオン交換水11%及び色素、香料等を配合した組成物に酵素を配合することにより、調製することができる(組成物C)。
例えば下記市販液体洗剤組成物は、界面活性剤を40%以上含有する濃縮液体洗剤であるが、製品表示ラベルに記載の成分を以下に示す。
組成物A(アタックNeo;花王株式会社製):界面活性剤(非イオン系界面活性剤、陰イオン活性剤:直鎖アルキルベンゼン系、脂肪酸系)74%、安定化剤(ブチルカルビトール)、アルカリ剤、分散剤、酵素。
組成物B(NANOX;ライオン株式会社製):界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩)55%、安定化剤、酵素。
【0083】
本発明の液体洗剤組成物は、限定するものではないが、好ましくは衣料用、又は布製品(シーツ、カーテン、カーペット、壁クロス等)用のものである。本発明に係る洗浄剤組成物は、本発明の変異アルカリプロテアーゼを従来品と比べて多量に含有することができることから、高い酵素洗浄力を発揮することができる。
【0084】
本発明はまた、例示的実施形態として以下の組成物、製造方法、用途又は方法を包含する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0085】
<1>配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼにおいて、配列番号2で示されるアミノ酸配列の上記表1−1〜1−2の(i)記載の位置又はこれらに相当する位置におけるアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を、当該表1−1〜1−2の(ii)記載のアミノ酸残基に置換する工程を含む、液体洗剤に対するアルカリプロテアーゼの溶解性の向上方法。
【0086】
<2>配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の上記表2−1〜2−2の(i)記載の位置又はこれらに相当する位置におけるアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基が、該表2−1〜2−2の(ii)記載のアミノ酸残基であるアミノ酸配列からなる、変異アルカリプロテアーゼ。
【0087】
<3>上記<1>〜<2>において、上記配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアルカリプロテアーゼは、配列番号2で示されるアミノ酸配列と、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらにより好ましくは97%以上、なお好ましくは97.5%以上、なおより好ましくは98%以上、さらになお好ましくは99%以上の同一性を有するアルカリプロテアーゼである。
【0088】
<4>上記<1>〜<2>において、上記配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアルカリプロテアーゼは、好ましくは、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアルカリプロテアーゼである。
【0089】
<5>上記<1>〜<2>において、上記配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアルカリプロテアーゼは、好ましくは、以下からなる群より選択されるプロテアーゼである:
プロテアーゼKP9860[バチルス エスピーKSM―KP9860(FERM BP−6534)由来、WO99/18218、GenBank accession no.AB046403];
プロテアーゼE−1[バチルス No.D−6(FERM P−1592)由来、特開昭49−71191号公報、GenBank accession no.AB046402];
プロテアーゼYa[バチルス エスピーY(FERM BP−1029)由来、特開昭61−280268号公報、GenBank accession no.AB046404];
プロテアーゼSD521[バチルス SD521(FERM P−11162)由来、特開平3−191781号公報、GenBank accession no.AB046405];
プロテアーゼA−1[NCIB12289由来、WO88/01293、GenBank accession no.AB046406];
プロテアーゼA−2[NCIB12513由来、WO98/56927];又は
プロテアーゼ9865〔バチルス エスピーKSM−9865(FERM P−18566)由来、GenBank accession no.AB084155〕。
【0090】
<6>上記<1>〜<2>において、上記配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアルカリプロテアーゼは、好ましくは、配列番号2で示されるアミノ酸配列の195位のチロシンをグルタミンに、369位のアスパラギン酸をアスパラギンに、65位のトレオニンをプロリンに、273位のバリンをイソロイシンに、359位のトレオニンをセリンに、387位のセリンをアラニンに、166位のアスパラギンをグリシンに、167位のグリシンをバリンに、133位のアラニンをセリンに、及び134位のバリンをトレオニンに置換し、且つ133位と134位の間にセリンを挿入して得られたアルカリプロテアーゼであり、より好ましくは、配列番号250で示されるアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼである。
【0091】
<7>上記<1>〜<6>において、好ましくは、上記配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアルカリプロテアーゼは、配列番号2で示されるアミノ酸配列の30位、68位及び255位に相当する位置に、下記に示すアミノ酸残基を有する。
30位に相当する位置:アスパラギン酸
68位に相当する位置:ヒスチジン
255位に相当する位置:セリン
【0092】
<8>上記<7>において、好ましくは、上記配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアルカリプロテアーゼは、配列番号2で示されるアミノ酸配列の上記表3(i)記載の位置に相当する位置に、当該表3(ii)記載のアミノ酸残基を有する。
【0093】
<9>上記<1>〜<8>において、好ましくは、上記少なくとも1つのアミノ酸残基は、上記配列番号2で示されるアミノ酸配列の405位、81位、40位、191位及び59位、又はこれらに相当する位置におけるアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0094】
<10>上記<1>〜<9>において、好ましくは、上記少なくとも1つのアミノ酸残基は、上記配列番号2で示されるアミノ酸配列の405位、81位、40位、191位及び59位、又はこれらに相当する位置におけるアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも2つを含む。
【0095】
<11>上記<1>、<3>〜<10>記載のアルカリプロテアーゼの溶解性の向上方法において、好ましくは、配列番号2で示されるアミノ酸配列の405位、81位、40位、191位及び59位、又はこれらに相当する位置におけるアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基は、下記アミノ酸残基に置換される。
405位又はこれに相当する位置:ロイシン又はトリプトファン
81位又はこれに相当する位置:ロイシン、プロリン、チロシン又はトリプトファン
40位又はこれに相当する位置:イソロイシン、フェニルアラニン又はロイシン
191位又はこれに相当する位置:ロイシン又はバリン
59位又はこれに相当する位置:バリン、イソロイシン又はロイシン
【0096】
<12>上記<2>〜<10>記載の変異アルカリプロテアーゼにおいて、好ましくは、配列番号2で示されるアミノ酸配列の405位、81位、40位、191位及び59位、又はこれらに相当する位置におけるアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸残基が、下記アミノ酸残基である。
405位又はこれに相当する位置:ロイシン又はトリプトファン
81位又はこれに相当する位置:ロイシン、プロリン、チロシン又はトリプトファン
40位又はこれに相当する位置:イソロイシン、フェニルアラニン又はロイシン
191位又はこれに相当する位置:ロイシン又はバリン
59位又はこれに相当する位置:バリン、イソロイシン又はロイシン
【0097】
<13>上記<1>、<3>〜<11>において、上記液体洗剤は、好ましくは界面活性剤を40質量%以上、水を60質量%未満含有し、より好ましくは界面活性剤を40〜90質量%、水を5質量%以上60質量%未満含有し、さらに好ましくは界面活性剤を45〜90質量%、水を5質量%以上55質量%未満含有し、さらにより好ましくは界面活性剤を50〜75質量%、水を5質量%以上50質量%未満含有し、なお好ましくは界面活性剤濃度を50〜75質量%、水を5質量%以上30質量%未満含有する。
【0098】
<14>上記<2>〜<10>及び<12>のいずれか1に記載の変異アルカリプロテアーゼ、または上記<1>〜<11>及び<13>のいずれか1に記載の溶解性の向上したアルカリプロテアーゼをコードする遺伝子。
【0099】
<15>上記<14>記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
【0100】
<16>上記<17>記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【0101】
<17>上記<16>記載の形質転換体を用いる変異アルカリプロテアーゼの製造方法。
【0102】
<18>上記<2>〜<10>及び<12>のいずれか1に記載の変異アルカリプロテアーゼ、または上記<1>〜<11>及び<13>のいずれか1に記載の溶解性の向上したアルカリプロテアーゼを含有する液体洗剤組成物。
【0103】
<19>上記<18>において、上記液体洗剤組成物は、好ましくは界面活性剤を40質量%以上、水を60質量%未満含有し、より好ましくは界面活性剤を40〜90質量%、水を5質量%以上60質量%未満含有し、さらに好ましくは界面活性剤を45〜90質量%、水を5質量%以上55質量%未満含有し、さらにより好ましくは界面活性剤を50〜75質量%、水を5質量%以上50質量%未満含有し、なお好ましくは界面活性剤濃度を50〜75質量%、水を5質量%以上30質量%未満含有する。
【実施例】
【0104】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0105】
実施例1 アルカリプロテアーゼ変異体の作製
本発明のアルカリプロテアーゼ変異体の作製方法を、野生型KP43プロテアーゼ成熟酵素領域のアミノ酸配列(配列番号2)における11位のアスパラギン酸残基(D11)をグリシンに変異させた変異体「D11G」の作製を例として以下に示す。
【0106】
後述の参考例1(2)に示されたプラスミドpHA64TSBを充分に希釈して鋳型とし、開始コドンの上流部分に相補するプライマーKG24S2(配列番号3:ATAAGGATCCGTGAGGAGGGAACCGA、BamHIサイトを有する)と、D11のコドンと隣接する上流領域に相補するプライマーD11_R(配列番号4:CGCTTTGACAATTCCACGCGCAAC)を用いてPCRを行い、KP43プロテアーゼN末端側部分をコードするDNA配列を増幅した。ついでプラスミドpHA64TSBを鋳型とし、D11のコドンをグリシンのコドンに置換するためのプライマーD11G_F(配列番号5:GGAATTGTCAAAGCGGGAGTGGCTCAGAGCAGCTAC、5'側の一部がプライマーD11_Rと相補する)と、終止コドン下流のプライマーKG11S(配列番号6:CCCCTCTAGACGATTACCATATTAATTCCTCTACCC、XbaIサイトを有する)を用いてPCRを行い、KP43プロテアーゼC末端側部分をコードするDNA配列を増幅した。得られたN末端側部分をコードするPCR産物とC末端側部分をコードするPCR産物を混合して鋳型とし、先のプライマーKG24S2とプライマーKG11Sを用いてPCRをおこなうことで、D11のコドンがグリシンのコドンに変換された変異KP43プロテアーゼ遺伝子の全長を含むPCR産物を得た。ついでこのPCR産物をエタノール沈殿にて精製したのち制限酵素BamHI及びXbaIで同時消化し、後述の参考例1(1)に示された遺伝子挿入・発現用ベクターと混合し、Ligation High(東洋紡社製)を用いてライゲーション反応を行った。このライゲーション産物をエタノール沈殿にて精製したのち、これをもって宿主菌であるバチルス エスピー KSM−9865株(FERM P−18566)をエレクトロポレーション法にて形質転換し、スキムミルク含有アルカリLB寒天培地に塗沫した。数日後に寒天培地に発生したコロニーについて、スキムミルク溶解斑を有する形質転換体を分離することで、D11がグリシンに変異したKP43プロテアーゼ変異体「D11G」を生産する形質転換体を得た。
【0107】
同様に、プライマーD11_R及びプライマーD11G_Fに代えて、下記表6−1〜6−13の「変異プライマーR」欄及び「変異プライマーF」欄に記載のプライマーをそれぞれ用いて同様の操作をおこなうことで、下記表6−1〜6−13の「KP43プロテアーゼ変異」欄記載の変異を有するKP43プロテアーゼ変異体を生産する形質転換体を得た。 得られた形質転換体のそれぞれを後述の参考例1(2)と同様の方法で培養し、変異プロテアーゼを含む培養上清を得た。
【0108】
【表6-1】
【表6-2】
【表6-3】
【表6-4】
【表6-5】
【表6-6】
【表6-7】
【表6-8】
【表6-9】
【表6-10】
【表6-11】
【表6-12】
【表6-13】
【0109】
実施例2 アルカリプロテアーゼ変異体の溶解性評価
実施例1で得た変異アルカリプロテアーゼの培養上清中のタンパク濃度を後述の参考例2(1)の方法にて求め、さらに後述の参考例2(2)の方法にて、同培養上清を一定量加えた組成物Cにおける濁度から相対濁度(%)を求めた。各変異アルカリプロテアーゼについてN=3以上の相対濁度を平均し、各変異アルカリプロテアーゼの相対濁度とした。
結果を表7に示す。いずれの変異アルカリプロテアーゼも、親アルカリプロテアーゼ(WT)に対する相対濁度が95%以下であり、溶解性が向上していることが示された。
【0110】
【表7】
【0111】
実施例3 多重変異体の溶解性評価
実施例2で見出された溶解性向上変異を多重化し、その効果を評価した。すなわち、実施例2で得られた溶解性が向上した変異プロテアーゼを産生する宿主菌からプラスミドを抽出し、このプラスミドを鋳型として実施例1と同様の方法を用いて、実施例2で見出された別の溶解性向上変異を導入し、二重変異体とした。さらに、当該二重変異体を産生する宿主菌から抽出したプラスミドを鋳型として同様の手順を繰り返し、三重変異体を作製した。実施例2と同様の手順で、二重変異体及び三重変異体について、親アルカリプロテアーゼ(WT)に対する相対濁度(%)(N=3以上の平均値)を求めた。結果を表8に示す。
【0112】
【表8】
【0113】
実施例4 市販濃縮液体洗剤での多重変異体の溶解性評価
実施例3で構築した多重変異体の溶解性について、市販の濃縮液体洗剤〔組成物A;アタックNeo(花王)、及び組成物B;NANOX(ライオン)、各組成を表9に示す〕を用いて、親アルカリプロテアーゼ(WT)に対する相対濁度(%)(N=3以上の平均値)を実施例2と同様の手順で求めた。市販洗剤は、70℃で8時間恒温とした後に、評価に用いた。結果を表10に示す。
【0114】
【表9】
【0115】
【表10】
【0116】
実施例5 KP43プロテアーゼ変異体を親プロテアーゼとするアルカリプロテアーゼ変異体の溶解性評価
特開2002-218989号公報、特開2002-303176号公報、特開2004-000122号公報、特開2004-3-5176号公報、及び特開2006-129865号公報の記載を参考に、KP43プロテアーゼ(配列番号2)に以下の変異を逐次重ねて導入し、KP43プロテアーゼ変異体(配列番号250)を作製した:
195位のチロシンをグルタミンに置換(特開2002-218989号公報);
369位のアスパラギン酸をアスパラギンに置換(特開2002-303176号公報);
65位のトレオニンをプロリンに置換、273位のバリンをイソロイシンに置換、359位のトレオニンをセリンに置換、及び387位のセリンをアラニンに置換(特開2004-000122号公報);
166位のアスパラギンをグリシンに置換、及び167位のグリシンをバリンに置換(特開2004-3-5176号公報);
133位のアラニンをセリンに置換、134位のバリンをトレオニンに置換、及び133位と134位の間にセリンを挿入(特開2006-129865号公報)。
これらの変異を導入したKP43プロテアーゼ変異体(配列番号250)は野生型KP43;WTに対してアミノ酸配列において97.5%の同一性を有する。
当該KP43プロテアーゼ変異体を親アルカリプロテアーゼとして、実施例1と同様の手順で変異アルカリプロテアーゼを作製した。より具体的には当該親プロテアーゼのための変異プライマーを設計・調製し、これらのプライマーを用いて、実施例1と同様に変異を導入することによって変異アルカリプロテアーゼを作製した。得られた変異アルカリプロテアーゼについて、実施例2と同様の手順で、親アルカリプロテアーゼ(KP43プロテアーゼ変異体)に対する相対濁度(%)(N=3以上の平均値)を求め、液体洗剤への溶解性を評価した。
結果を表11に示す。KP43プロテアーゼ変異体を親プロテアーゼとした場合においても、野生型KP43プロテアーゼを親プロテアーゼとした場合と同様に、変異アルカリプロテアーゼに液体洗剤への溶解性向上効果が確認された。
【0117】
【表11】
【0118】
実施例6 KP43プロテアーゼ変異体を親プロテアーゼとするアルカリプロテアーゼ多重変異体の溶解性評価
実施例2及び実施例5で見出された溶解性向上変異を多重化し、その溶解性向上効果を評価した。すなわち、実施例5で作製したKP43プロテアーゼ変異体(配列番号250)を親アルカリプロテアーゼとして、実施例3と同様の手順で、表12に示すとおりの単変異体、二重変異体、三重変異体、四重変異体、五重変異体を作製した。実施例2と同様の手順で、各変異体について親アルカリプロテアーゼに対する相対濁度(%)(N=2以上の平均値)を求めた。結果を表12に示す。
【0119】
【表12】
【0120】
実施例7 KP43プロテアーゼ変異体を親プロテアーゼとするアルカリプロテアーゼ多重変異体の加速試験による溶解性評価
実施例6で作製された、KP43プロテアーゼ変異体(配列番号250)を親アルカリプロテアーゼとする多重変異体について、より実使用条件に近い容量の液体洗剤で沈殿形成の加速試験を実施した。すなわち、液体洗剤(例えば上述の組成物C;特開2010−275468の実施例3に記載のもの)9mLをガラス瓶(マルエム スクリュー管No.5)に加え、さらに適宜希釈したアルカリプロテアーゼ多重変異体を最終濃度が0.2〜0.4g/Lとなるように加えてよく撹拌し、密栓のうえ40℃または50℃にて保存した。1週間ごとに瓶の底に沈殿が生じていないか確認した。結果を表13に示す。
【0121】
【表13】
【0122】
実施例8 KP43プロテアーゼ変異体を親プロテアーゼとするアルカリプロテアーゼ多重変異体の洗浄力評価
実施例6で作製された、KP43プロテアーゼ変異体(配列番号250)を親アルカリプロテアーゼとする多重変異体について、洗浄力を評価した。洗浄力評価は、ターゴトメーター(上島製作所製)を用いて行った。液体洗剤(例えば上述の組成物C;特開2010−275468の実施例3に記載のもの)350μLを1Lの水道水に溶解した洗浄液に、酵素を最終濃度で0.0716mg/Lになるように添加した。次いで、汚染布EMPA117(EMPA社製、血液/ミルク/カーボン)を6×6cm角に裁断したものを添加し、20℃で洗浄(80rpm)を行った。水道水によるすすぎを行った後、色彩色差計(MINOLTA、CM3500d)を用いて明度を測定し、洗浄前後における明度の変化から洗浄率を算出した(下式)。
洗浄率(%)=(L2−L1)/(L0−L1)×100
L0: 汚染布の原布の明度
L1: 洗浄前の汚染布の明度
L2: 洗浄後の汚染布の明度
相対洗浄率は親アルカリプロテアーゼの洗浄率を100とした場合の変異体の洗浄率とした。結果を表14に示す。実施例6で作製された各変異体は、親アルカリプロテアーゼと同等の洗浄率を示した。
【0123】
【表14】
【0124】
参考例1 酵素調製法
液体洗剤に対する酵素の溶解性評価に供する酵素の調製法について、野生型KP43プロテアーゼを例として以下に示す。
(1)遺伝子挿入・発現用ベクターの調製
市販のシャトルベクターpHY300PLK(タカラバイオ社製)を鋳型とし、プライマーpHY+1(HindIII)F(ggggAAGCTTCTAGAGATCTGCAGGTCGACGG:配列番号251)及びプライマーpHY+3040(HindIII)R(ggggaagcttAAGGTAAAGGATAAAACAGCACAATTCCAAG:配列番号252)を用いて、PrimeSTAR Mutagenesis basal kit(タカラバイオ社製)を用いてPCR増幅を行った。増幅産物を制限酵素 HindIII(Roche社)で消化し、Ligation High(東洋紡社製)をもちいて分子内環化を行い、エタノール沈殿にて精製した。これをもって宿主菌となるバチルス エスピーKSM−9865株(FERM P−18566)をエレクトロポレーション法にて形質転換し、スキムミルク含有アルカリLB寒天培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、1%スキムミルク、1.5%寒天、0.05%炭酸ナトリウム、15ppmテトラサイクリンを含む)に塗沫した。数日後に寒天培地に発生したコロニーを形質転換体として分離し、プラスミドを抽出した。DNAシーケンサーPrism3100(ABI社製)を用いてプラスミド全長の配列解析を行い、PCRのエラーによる意図しない変異が導入されていないことを確認し、pHA3040とした。
ついでBacillus sp.KSM−64(FERM P−10482)のゲノムDNAを鋳型とし、プライマーSP64−F(EcoRI)(gggggaattcGAACAAGTACTTACCATTTTAGAGTC:配列番号253)及びプライマーSP64−R(BamHI)(ggggggatccTTATTAAAGTAATTGAATCAAATAGC:配列番号254)を用いてPCR増幅し、Bacillus sp.KSM−64由来のEndo−1,4−beta−glucanase(Genbank ACCESSION No.M84963)上流のプロモーター領域を含むDNA断片を得た。この増幅産物と先に構築したpHA3040を適量混合し、制限酵素EcoRI(Roche社)とBamHI(Roche社)で二重消化したのちLigation Highをもちいて連結反応を行い、エタノール沈殿にて精製した。これをもって宿主菌となるバチルス エスピーKSM−9865株(FERM P−18566)をエレクトロポレーション法にて形質転換し、スキムミルク含有アルカリLB寒天培地に塗沫した。数日後に寒天培地に発生したコロニーを形質転換体として分離し、プラスミドを抽出した。マルチクローニングサイト内に挿入されたプロモーター配列の解析を行い、PCRのエラーによる意図しない変異が導入されていないことを確認し、pHA3040SP64(配列番号255)とした。これを制限酵素BamHI及びXbaI(Roche社)にて同時消化し、遺伝子挿入・発現用ベクターとした。
(2)KP43プロテアーゼの調製
野生型KP43プロテアーゼ遺伝子配列(配列番号1)を含むDNA(遺伝子上流の5'−末端にBamHIサイト、遺伝子下流の3'−末端にXbaIサイトを有する)をBamHI及びXbaIにて同時消化し、先の遺伝子挿入・発現用ベクターと混合して、Ligation High(東洋紡社製)を用いてライゲーション反応を行った。ライゲーション産物をエタノール沈殿にて精製したのち、これをもって宿主菌であるバチルス エスピー KSM−9865株(FERM P−18566)をエレクトロポレーション法にて形質転換し、スキムミルク含有アルカリLB寒天培地に塗沫した。数日後に寒天培地に出現したコロニーについて、スキムミルク溶解斑の有無からプロテアーゼ遺伝子が導入された形質転換体を選抜した。この形質転換体からプラスミドDNAを抽出し、先の配列番号1に示されるプロテアーゼ遺伝子が正しく挿入されていることを確認し、結果得られたプラスミドをpHA64TSBとした。
pHA64TSBを保持するKSM−9865株の形質転換体を5mLの種母培地[6.0%(w/v)ポリペプトンS、0.1%酵母エキス、1.0%マルトース、0.02%硫酸マグネシウム・7水和物、0.1%リン酸2水素カリウム、0.3%無水炭酸ナトリウム、30ppmテトラサイクリン]に植菌し、30℃で16時間振盪培養を行った。次いで30mLの主培地[8%ポリペプトンS、0.3%酵母エキス、10%マルトース、0.04%硫酸マグネシウム・7水和物、0.2%リン酸2水素カリウム、1.5%無水炭酸ナトリウム、30ppmテトラサイクリン]に種母培養液を1%(v/v)植菌し、30℃で3日間振盪培養を行った。培養によって得られたKP43プロテアーゼを含む培養液を遠心分離し、培養上清を得た。SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動にて、培養上清に含まれる蛋白質がKP43プロテアーゼのみであることを確認した。必要に応じてゲル濾過カラムEconopack 10−DG(バイオラッド)にて脱塩精製を行なった。
【0125】
参考例2 酵素溶解性評価法
(1)プロテアーゼ蛋白量測定方法
培養上清中または脱塩精製サンプル中のプロテアーゼ蛋白量の測定は、プロテインアッセイラピッドキット(和光純薬工業)を用いて以下のとおり行なった。すなわち、96穴プレートの各ウェルに、同キットの発色液250μLを加え、さらに適宜希釈した酵素サンプル10μLを混和し、室温で30分間撹拌したのち、マイクロプレートリーダーVersaMax(Molecular Device社)を用いて660nmにおける吸光度を測定した。同キット付属の牛胸腺アルブミン(BSA)標準液を用いて同時に作製した検量線から、プロテアーゼ蛋白濃度(mg/mL BSA相当)を算出した。
【0126】
(2)プロテアーゼの液体洗剤への溶解性評価
親アルカリプロテアーゼ(野生型KP43;WT)、又は変異アルカリプロテアーゼを含む培養上清を用いて、液体洗剤への溶解性を評価した。すなわち、96穴プレートの各ウェルに150μLの液体洗剤(例えば上述の組成物C;特開2010−275468の実施例3に記載)を添加し、そこに各種タンパク濃度のアルカリプロテアーゼを含む培養上清、またはその脱塩精製サンプル6.5μLを加え、十分に攪拌した。室温で2時間放置の後、マイクロプレートリーダーVersaMax(Molecular Device社)にて、650nmにおける吸光度を測定した。ブランクとして、培養上清の代わりにイオン交換水を加えた際の吸光度を差引いた値を算出し、これを濁度(ΔOD650nm)としてプロテアーゼ溶解性の指標とした。得られたΔOD650nm値に基づき、次式によって各変異体における親アルカリプロテアーゼ(WT)に対する相対濁度を算出した。
相対濁度(%)=(各変異体の濁度/各変異体の濃度)/(親アルカリプロテアーゼの濁度/親アルカリプロテアーゼの濃度)×100
組成物Cにプロテアーゼを添加した際の濁度(ΔOD650nm)は、組成物中のプロテアーゼ濃度と良好な比例関係にあった。またプロテアーゼとして培養上清を用いた場合でも、ゲル濾過精製サンプルを用いた場合でも、同様の比例関係が得られた。
【0127】
参考例3
プロテアーゼ活性測定法
実施例において得られたアルカリプロテアーゼの活性測定は次の手順で行った。すなわち、1/15Mリン酸緩衝液(pH7.4)0.9ml、40mMGlt−Ala−Ala−Pro−Leu−p−ニトロアニリド/ジメチルスルホキシド溶液0.05mlを試験管に採り、30℃で5分間保温した。これに酵素液0.05mlを加えて30℃で10分間反応を行った後、5%(w/v)クエン酸水溶液2.0mlを加えて反応を停止し、分光光度計を用いて420nmにおける吸光度を測定した。なお、酵素1単位(U)は上記反応において1分間に1μmolのp−ニトロアニリンを生成する量とした。
【0128】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これが、本発明を、説明した特定の実施形態に限定することを意図するものではないことを理解すべきである。本発明の範囲内にある様々な他の変更及び修正は当業者には明白である。
本明細書に引用されている文献及び特許出願は、あたかもそれが本明細書に完全に記載されているかのように参考として援用される。