(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属部材とシール用ゴム部材とをプライマー層を介して加硫接着させるシール用の積層体の製法であって、金属部材に下記(α)を含有するプライマーを塗布した後、その表面に下記の(A)、および(x)を含有するゴム組成物からなるシール用ゴム部材を加硫接着する工程を備え、上記シール用ゴム部材の加硫接着前にプライマーをプリベーク処理する工程、および上記シール用ゴム部材の加硫接着後に二次加硫を行う工程の少なくとも一方の工程を備えたことを特徴とする積層体の製法。
(A)エチレン−プロピレン−ジエンゴムおよびエチレン−プロピレンゴムの少なくとも一方からなるゴム成分。
(x)流動点が−40℃以下のポリ−α−オレフィン。
(α)アミノ基含有シランカップリング剤とビニル基含有シランカップリング剤との共重
合オリゴマー。
金属部材に上記(α)を含有するプライマーを塗布し、プリベーク処理を行い、その表面に上記(A)を含有するゴム組成物からなるシール用ゴム部材を加硫接着した後、二次加硫を行う、請求項1記載の積層体の製法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0017】
本発明は、金属部材とシール用ゴム部材とをプライマー層を介して加硫接着させるシール用の積層体の製法であって、金属部材に下記の(α)を含有するプライマーを塗布した後、その表面に下記の(A)
、および(x)を含有するゴム組成物からなるシール用ゴム部材を加硫接着する工程を備えている。本発明においては、上記シール用ゴム部材の加硫接着前にプライマーをプリベーク処理する工程、および上記シール用ゴム部材の加硫接着後に二次加硫を行う工程の少なくとも一方の工程を備えることが最大の特徴である。
(A)エチレン−プロピレン−ジエンゴムおよびエチレン−プロピレンゴムの少なくとも一方からなるゴム成分。
(x)流動点が−40℃以下のポリ−α−オレフィン。
(α)アミノ基含有シランカップリング剤とビニル基含有シランカップリング剤との共重合オリゴマー。
【0018】
まず、上記シール用ゴム部材形成用のゴム組成物について説明する。
【0019】
《ゴム成分(A)》
上記ゴム成分(A)としては、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)およびエチレン−プロピレンゴム(EPM)の少なくとも一方が用いられる。なかでも、燃料電池の作動環境における耐酸性および耐水性の観点から、EPDMが好ましい。上記EPDMのジエン量(ジエン成分の重量割合)は、4〜15重量%の範囲が好ましい。
【0020】
上記EPDMのジエン成分としては、例えば、炭素数5〜20のジエン系モノマーが好ましく、具体的には、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン(DCP)、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、2−メタリル−5−ノルボルネン、2−イソプロペニル−5−ノルボルネン等があげられる。
【0021】
上記EPDMまたはEPMのエチレン含有量は、極低温下におけるシール性の向上の観点から、60重量%以下が好ましく、特に好ましくは53重量%以下である。
【0022】
上記ゴム成分(A)のムーニー粘度は、100[ML(1+4)100℃]以下が好ましく、特に好ましくは60[ML(1+4)100℃]以下である。ムーニー粘度が上記範囲内であると、ゴム組成物の流動性が高くなり、塗工性が向上する。
なお、本明細書において、ムーニー粘度は、JIS K6300−1(2001)に準じて測定された値を意味する。
【0023】
本発明に使用するゴム組成物には、上記ゴム成分(A)
および特定の軟化剤以外に、架橋剤(有機過酸化物等)、シランカップリング剤、架橋助剤
、補強剤、可塑剤、老化防止剤、粘着付与剤、加工助剤等の、通常のゴム組成物に用いられる各種添加剤を配合しても差し支えない。
【0024】
なお、上記ゴム成分(A)は、上記ゴム組成物の主成分であって、通常、ゴム組成物全体の過半を占める。
【0025】
《架橋剤》
上記架橋剤としては、有機過酸化物が好ましく、1時間半減期温度が130℃以下のものが好ましい。上記有機過酸化物としては、例えば、パーオキシケタール、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、130℃程度の温度で架橋しやすく、架橋剤を加えて混練したゴム組成物の取扱性にも優れるという理由から、1時間半減期温度が100℃以上のパーオキシケタールおよびパーオキシエステルの少なくとも一方が好ましく、特に好ましくは、1時間半減期温度が110℃以上のものが好適である。また、パーオキシエステルを用いると、より短時間で架橋を行うことができる。
【0026】
ここで「半減期」とは、有機過酸化物の濃度が初期値の半分になるまでの時間である。よって、「半減期温度」は、有機過酸化物の分解温度を示す指標となる。上記「1時間半減期温度」は、半減期が1時間となる温度である。つまり、1時間半減期温度が低いほど、低温で分解しやすい。1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物を用いることにより、架橋をより低温(具体的には150℃以下)で、かつ短時間で行うことができる。したがって、例えば、固体高分子型燃料電池の電解質膜の近傍においても、本発明の積層体を使用することができる。
【0027】
上記パーオキシケタールとしては、例えば、n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ジ(4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン等があげられる。
【0028】
上記パーオキシエステルとしては、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネートがあげられる。
【0029】
これらのうち、上記ゴム成分(A)との反応が比較的速いという理由から、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが好適である。なかでも、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを用いると、より短時間で架橋を行うことができる。
【0030】
上記架橋剤(純度100%の原体の場合)の配合量は、上記ゴム成分(A)100重量部に対して0.4〜12重量部の範囲が好ましい。上記架橋剤の配合量が少なすぎると、架橋反応を充分に進行させることが困難となる傾向がみられ、上記架橋剤の配合量が多すぎると、架橋反応時に架橋密度が急激に上昇して、接着力の低下を招く傾向がみられる。
【0031】
《シランカップリング剤》
上記シランカップリング剤は、加工性の向上等の観点から配合することが好ましい。中でも、官能基としてエポキシ基を有するものが好ましく、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等があげられる。また、揮発を防ぐために、これら化合物が結合したオリゴマーも用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。そして、上記シランカップリング剤の使用は、ムーニー粘度低下による上記加工性の向上効果に加えて、例えば、後述の積層体の製法において、二次加硫を経由せずに製造する際の良好な耐水性の確保という点からも好ましい。このように、二次加硫を経由せずに積層体を製造することは、製造工程の時間短縮が図られ、結果、低コスト化が可能となる。
【0032】
上記シランカップリング剤の配合量は、上記ゴム成分(A)100重量部に対して0.5〜20重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは5〜10重量部の範囲である。上記シランカップリング剤の配合量が少なすぎると、所望の接着力を得ることが困難となる傾向がみられ、上記シランカップリング剤の配合量が多すぎると、ゴムの物性低下を招き、加工性も低下する傾向がみられる。
【0033】
《架橋助剤》
上記架橋助剤としては、例えば、マレイミド化合物、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、架橋密度や強度の向上効果が大きいという理由から、マレイミド化合物を用いることが好ましい。
【0034】
上記架橋助剤の配合量は、上記ゴム成分(A)100重量部に対して0.1〜3重量部の範囲が好ましい。上記架橋助剤の配合量が少なすぎると、架橋反応を充分に進行させることが困難となる傾向がみられ、上記架橋助剤の配合量が多すぎると、架橋密度が大きくなり過ぎて、接着力が低下する傾向がみられる。
【0035】
《特定の軟化剤》
上記
特定の軟化剤の配合量は、上記ゴム成分(A)100重量部に対して、通常40重量部以下である。
【0036】
上記
特定の軟化剤
としては、ゴム成分(A)との相溶性が良好で、ブリードしにくいという観点から、
流動点が−40℃以下のポリ−α−オレフィンが
用いられる。ポリ−α−オレフィンは、炭素数6〜16のα−オレフィンを重合させたものである。ポリ−α−オレフィンにおいては、分子量が小さいほど、粘度が小さく流動点も低い。
【0037】
軟化剤は、流動点が低いほど、極低温下において硬化しにくい。したがって、流動点が低いものほど、極低温下におけるゴム成分の結晶化抑制効果が大きい。
特定の軟化剤の流動点は、−40℃以下である。一方、流動点が低すぎると、燃料電池の作動時等において揮発しやすくなる。よって、軟化剤の流動点は、−80℃以上であることが望ましい。
なお、流動点の測定は、JIS K2269(1987)に準じて行えばよい。
【0038】
《補強剤》
上記補強剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ等があげられる。上記カーボンブラックのグレードは、特に限定されるものではなく、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等から適宜選択すればよい。
【0039】
上記補強剤の配合量は、上記ゴム成分(A)100重量部に対して、通常10〜150重量部の範囲である。
【0040】
上記可塑剤としては、ジオクチルフタレート(DOP)等の有機酸誘導体、リン酸トリクレジル等のリン酸誘導体があげられる。
【0041】
上記可塑剤の配合量は、上記ゴム成分(A)100重量部に対して、通常40重量部以下である。
【0042】
上記老化防止剤としては、フェノール系、イミダゾール系、ワックス等があげられる。上記老化防止剤の配合量は、上記ゴム成分(A)100重量部に対して、通常0.5〜10重量部の範囲である。
【0043】
つぎに、上記シール用ゴム部材と金属部材とを加硫接着させるプライマー層について説明する。
《プライマー層》
上記プライマー層を形成するプライマーとしては、アミノ基含有シランカップリング剤と、ビニル基含有シランカップリング剤との共重合オリゴマー(α)を含有するものが用いられる。
【0044】
上記アミノ基含有シランカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのアミノ基含有シランカップリング剤は、これをそのままプライマー層の一成分として使用すると、皮膜形成が上手くできず、良好な接着剤を与えることができないので、ビニル基含有アルコキシシランとの共重合オリゴマーとして用いられる。
【0045】
また、上記ビニル基含有シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのビニル基含有シランカップリング剤は、水に溶け難く、油状となって分離してしまい、他の成分と混合することができない。また、そのオリゴマーも水に溶け難く、沈殿を生じてしまうため、アミノ基含有シランカップリング剤とのオリゴマーとして用いられる。
【0046】
オリゴマー化反応に際しては、アミノ基含有シランカップリング剤100重量部に対して、ビニル基含有シランカップリング剤25〜400重量部、好ましくは50〜150重量部および加水分解用の水20〜150重量部が用いられる。ビニル基含有シランカップリング剤の配合量が多すぎると、ゴムとの相溶性が悪くなって接着性が低下する傾向がみられ、ビニル基含有シランカップリング剤の配合量が少なすぎると、耐水性が低下する傾向がみられる。
【0047】
オリゴマー化反応は、上記原料(アミノ基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤、加水分解用の水等)を、蒸留装置および攪拌機を有する反応器内に仕込み、約60℃で約1時間攪拌する。その後、アミノ基含有シランカップリング剤1モルに対し、ギ酸等の酸約1〜2モルを1時間以内に添加する。この際の温度は約65℃に保たれる。さらに1〜5時間攪拌し、反応を進行させると同時に、加水分解によって生成したアルコールを減圧下で蒸留する。蒸留水が水しか存在しなくなった時点で蒸留を終了させ、その後シラン濃度が30〜80重量%になるように希釈して調節することにより、共重合オリゴマー(α)を得ることができる。この共重合オリゴマー(α)は、メタノール、エタノール等のアルコール系有機溶媒に可溶な程度のオリゴマーである。なお、上記共重合オリゴマー(α)としては、市販されているものをそのまま用いることもできる。上記共重合オリゴマー(α)は、3量体以上のものが好ましい。
【0048】
上記共重合オリゴマー(α)中のアミノ基(a)とビニル基(b)との比率(重量比)は、(a)/(b)=100/200〜100/50の範囲が好ましく、特に好ましくは(a)/(b)=100/200〜100/150の範囲である。(b)がリッチであると、接着性が向上するため好ましい。なお、上記アミノ基(a)はアミノ基含有シランカップリング剤に由来するアミノ基であり、ビニル基(b)はビニル基含有シランカップリング剤に由来するビニル基である。
【0049】
上記共重合オリゴマー(α)の具体例としては、ロード・ファー・イースト社製のAP−133〔アミノ基(a)とビニル基(b)との重量比:(a)/(b)=100/186〕や、ロード・ファー・イースト社製のケムロック607〔アミノ基(a)とビニル基(b)との重量比:(a)/(b)=100/63〕等があげられる。
【0050】
なお、上記プライマーは、必要に応じて、上記共重合オリゴマー(α)濃度が約0.5〜15重量%程度になるように有機溶剤で希釈した溶液として用いられる。上記有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、2−エトキシエタノール(エチレングリコールモノエチルエーテル)等のアルコール系有機溶剤や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤等があげられる。
【0051】
《金属部材》
金属部材の材質としては、例えば、チタン、ステンレス、銅、マグネシウム、アルミニウム等があげられる。また、燃料電池用金属構成部材としては、金属セパレータ等が用いられる。上記金属セパレータは、チタン等が好ましく、導通信頼性の観点から、DLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)やグラファイト膜等の炭素薄膜を有する金属セパレータが特に好ましい。
【0052】
つぎに、本発明の積層体の製法について説明する。
本発明の積層体の製法としては、以下の3つの態様があげられる。
〔製法(1)〕
加硫工程前にプリベーク処理を行った後、二次加硫を行う方法。
〔製法(2)〕
プリベーク処理を行なわずに、加硫工程後に二次加硫を行う方法。
〔製法(3)〕
加硫工程前にプリベーク処理を行うが、二次加硫を行なわない方法。
【0053】
上記製法のなかでも、二次加硫を行うと、長期耐水性能が飛躍的に向上するため、製法(1),(2)が好ましく、特に好ましくは製法(1)である。
【0054】
本発明の積層体の製法における、上記製法(1)について具体的に説明する。
(ゴム組成物の調製)
EPDM等からなるゴム成分(A)と、
特定の軟化剤と、必要に応じて有機過酸化物(架橋剤)、シランカップリング剤、架橋助剤、補強
剤等の各種添加剤を含有するゴム組成物を調製する。このゴム組成物をプレス等して、所定厚みの平板状ゴム部材(未架橋)を作製する。
【0055】
(積層体の製法)
チタン板等の金属部材上に、上記(α)を含有するプライマーを、スプレー法、浸漬法、ロールコート法等の任意の方法によって塗布し、必要により室温で乾燥した後、所定条件でプリベーク処理を行う。つぎに、その処理面に、上記で作製した平板状ゴム部材(未架橋)を積層し、所定条件で加硫(一次加硫)を行う。その後、所定条件で二次加硫を行うことにより、金属部材とゴム部材(加硫ゴム)とが加硫接着してなる積層体を作製することができる。なお、上記ゴム部材は、シール部の形状に応じて、予め所定形状に成形しておくと、煩雑な位置合わせが不要になり、連続加工がしやすく、生産性が向上するため好ましい。
【0056】
《プリベークの処理条件》
プリベークの温度条件は、100〜160℃の範囲が好ましく、特に好ましくは120〜150℃範囲である。温度が高すぎると、共重合オリゴマー(α)中のビニル基が失活し、ゴム部材側との接着性が悪くなる傾向がみられ、温度が低すぎると、プライマーと金属部との反応が進まず、長期の接着耐久性が低下する傾向がみられる。
【0057】
プリベークの処理時間は、10〜60分の範囲が好ましく、特に好ましくは15〜30分の範囲である。処理時間が短すぎると、プライマーと金属部との反応が進まず、長期の接着耐久性が低下する傾向がみられ、処理時間が長すぎると、共重合オリゴマー(α)中のビニル基が失活し、ゴム部材側との接着性が悪くなる傾向がみられる。
【0058】
《加硫(一次加硫)の条件》
加硫(一次加硫)の温度条件は、上記プリベークの処理温度と同等以上の温度に設定することが好ましく、具体的には100〜180℃の範囲が好ましく、特に好ましくは130〜160℃の範囲である。温度が高すぎると、プライマーとゴムの反応よりも加硫反応が優先的に進むため、ゴム部材との接着性が悪くなる傾向がみられ、温度が低すぎると、プライマーとゴムとの反応が進まず、ゴム部材との接着性が悪くなる傾向がみられる。
【0059】
加硫(一次加硫)の時間は、2〜120分の範囲が好ましく、特に好ましくは3〜45分の範囲である。加硫時間が短すぎると、プライマーとゴムとの反応が進まず、ゴム部材との接着性が悪くなる傾向がみられ、加硫時間が長すぎると、ゴムの物性が低下する傾向がみられる。
【0060】
《二次加硫の条件》
二次加硫の温度条件は、100〜180℃の範囲が好ましく、特に好ましくは130〜150℃の範囲である。温度が高すぎると、ゴムの物性が低下する傾向がみられ、温度が低すぎると、プライマーのシロキサン化反応が進まず、長期の接着耐久性が低下する傾向がみられる。
【0061】
二次加硫の時間は、20〜240分の範囲が好ましく、特に好ましくは30〜120分の範囲である。加硫時間が短すぎると、プライマーのシロキサン化反応が進まず、長期の接着耐久性が低下する傾向がみられ、加硫時間が長すぎると、ゴムの物性が低下する傾向がみられる。
【0062】
本発明の積層体における各部材の厚み等は、積層体が使用されるシール部位によって異なるが、金属部材の厚みは、通常、0.05〜5mm、好ましくは0.1〜3mmであり、シール部材の厚みは、通常、0.2〜5mm、好ましくは0.5〜3mmであり、プライマー層の厚みは、通常、1×10
-5〜0.025mm、好ましくは2×10
-5〜0.02mmである。なお、プライマー層は、2層以上の多層とすることもできるが、塗装工程を短時間化できる点から、単層が好ましい。
【0063】
本発明の積層体は、金属部材間のシール用に用いられるが、燃料電池構成用の金属部材(金属セパレータ等)間をシールするのに好適である。適用対象となる燃料電池としては、例えば、固体高分子型燃料電池(PEFC)(ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)を含む)等があげられる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」は重量基準を意味する。
【0065】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示すゴム組成物の材料を準備した。
【0066】
《ゴム成分(A):EPDM》
住友化学社製、エスプレン505(ムーニー粘度=75[ML(1+4)100℃]、エチレン量=50%、ジエン量=10%)
【0067】
《有機過酸化物:パーオキシケタール》
1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(日油社製、パーヘキサC−40、純度40%、1時間半減期温度=111.1℃)
【0068】
《シランカップリング剤》
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM403)
【0069】
《架橋助剤》
マレイミド化合物(大内新興化学工業社製、バルノックPM)
【0070】
《補強剤》
カーボンブラック(GPF級)(キャボットジャパン社製、ショウブラックIP200)
【0071】
《軟化剤》
ポリ−α−オレフィン化合物(エクソンモービル社製、SpectranSyn 4、流動点=−60℃)
【0072】
また、プライマーとして下記の材料を準備した。
《共重合オリゴマー(α)》
アミノ基含有シランカップリング剤とビニル基含有シランカップリング剤との共重合オリゴマー(ロード・ファー・イースト社製、AP−133)。共重合オリゴマー(α)中のアミノ基(a)とビニル基(b)との重量比:(a)/(b)=100/186
【0073】
〔実施例1〕
上記製法(1)に準じて、積層体を作製した。
(ゴム組成物の調製)
下記の表1に示す各成分を同表に示す割合で配合し、ゴム組成物を調製した。すなわち、まず、表1中、ゴム成分(A)、補強剤および軟化剤を、バンバリーミキサーを用いて120℃で5分間混練した。混練物を冷却した後、架橋剤(有機過酸化物)、シランカップリング剤および架橋助剤を追加して、オープンロールを用いて50℃で10分間混練し、ゴム組成物を調製した。このゴム組成物をプレスして、平板状ゴム成形体(幅25mm、長さ60mm、厚み5mm)を作製した。
【0074】
(積層体の作製)
金属部材であるチタン板(幅25mm、長さ60mm、厚み2mm)の表面に、共重合オリゴマー(α)からなるプライマーを、塗布後の厚みが80nmになるよう、スプレー塗布した後、120℃で30分、プリベーク処理を行った。つぎに、その処理面に、上記で作製した平板状ゴム成形体を積層し、150℃で10分間、加硫(一次加硫)を行った。その後、150℃で40分間、二次加硫を行い、金属と加硫ゴムとが接着してなる積層体を作製した。
【0075】
〔実施例2〕
上記製法(2)に準じて、積層体を作製した。
(ゴム組成物の調製)
実施例1と同様にしてゴム組成物を調製し、このゴム組成物をプレスして、平板状ゴム成形体(幅25mm、長さ60mm、厚み5mm)を作製した。
【0076】
(積層体の作製)
チタン板(幅25mm、長さ60mm、厚み2mm)の表面に、共重合オリゴマー(α)からなるプライマーを、塗布後の厚みが80nmになるよう、スプレー塗布した後、上記で作製した平板状ゴム成形体を積層し、150℃で10分間、加硫(一次加硫)を行った。その後、150℃で40分間、二次加硫を行い、金属と加硫ゴムとが接着してなる積層体を作製した。
【0077】
〔実施例3〕
上記製法(2)に準じて、積層体を作製した。
下記の表1に示す二次加硫の条件に変更した以外は、実施例2と同様にして、積層体を作製した。
【0078】
〔実施例4〕
上記製法(3)に準じて、積層体を作製した。
(ゴム組成物の調製)
実施例1と同様にしてゴム組成物を調製し、このゴム組成物をプレスして、平板状ゴム成形体(幅25mm、長さ60mm、厚み5mm)を作製した。
【0079】
(積層体の作製)
チタン板(幅25mm、長さ60mm、厚み2mm)の表面に、共重合オリゴマー(α)からなるプライマーを、塗布後の厚みが80nmになるよう、スプレー塗布した後、120℃で15分間プリベーク処理を行った。つぎに、その処理面に、上記で作製した平板状ゴム成形体を積層し、150℃で10分間、加硫(一次加硫)を行い、金属と加硫ゴムとが接着してなる積層体を作製した。
【0080】
〔実施例5〜8〕
上記製法(3)に準じて、積層体を作製した。
下記の表1および表2に示すプリベークの条件に変更した以外は、実施例4と同様にして、積層体を作製した。
【0081】
〔実施例9〕
上記製法(2)に準じて、積層体を作製した。
下記の表2に示す配合成分を用いた以外は、実施例2と同様にして、積層体を作製した。
【0082】
〔実施例10〕
上記製法(3)に準じて、積層体を作製した。
下記の表2に示す配合成分を用いた以外は、実施例5と同様にして、積層体を作製した。
【0083】
〔実施例11〕
上記製法(1)に準じて、積層体を作製した。
下記の表2に示す配合成分を用いた以外は、実施例1と同様にして、積層体を作製した。
【0084】
〔比較例1〕
プリベークおよび二次加硫のいずれの処理も行わなかった以外は、実施例1と同様にして、積層体を作製した(下記の表3参照)。すなわち、チタン板(幅25mm、長さ60mm、厚み2mm)の表面に、共重合オリゴマー(α)からなるプライマーを、塗布後の厚みが80nmになるよう、スプレー塗布した後、上記で作製した平板状ゴム成形体を積層し、150℃で10分間保持することによりゴムを加硫し、金属と加硫ゴムとが接着してなる積層体を作製した。
【0085】
〔比較例2〕
プリベークおよび二次加硫のいずれの処理も行なわなかった以外は、実施例11と同様にして、積層体を作製した(下記の表3参照)。すなわち、チタン板(幅25mm、長さ60mm、厚み2mm)の表面に、共重合オリゴマー(α)からなるプライマーを、塗布後の厚みが80nmになるよう、スプレー塗布した後、上記で作製した平板状ゴム成形体を積層し、150℃で10分間保持することによりゴムを加硫し、金属と加硫ゴムとが接着してなる積層体を作製した。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
このようにして得られた実施例および比較例について、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を、上記表1〜表3に併せて示した。
【0090】
〔接着性の評価〕
実施例および比較例の積層体を用い、JIS K6256−2(2006)に準拠した90°剥離試験を行い、接着性を評価した。すなわち、各積層体を所定の試験ジグに取り付けて、90°剥離試験を行い、初期の接着性を評価した。つぎに、上記積層体を、120℃の温水に100時間、500時間、1000時間浸漬した後、初期の接着性と同様にして、温水浸漬後の接着性を評価した。
(評価基準)
◎:接着界面にゴムのみが観察され、かつ接着力(JIS K6256に準拠)が2.0N/mm以上の場合
○:接着界面にゴムのみが観察された場合
△:接着界面にゴムが観察されるが、一部にプライマーまたは金属部材が観察された場合×:接着界面にゴムが観察されず、プライマーまたは金属部材が観察された場合
【0091】
〔ムーニー粘度の測定(流動性の評価)〕
実施例および比較例で使用する各ゴム組成物(混練物)のムーニー粘度を、JIS K6300−1(2001)に準じ、試験温度80℃にて測定した。
なお、比較例1のゴム組成物(混練物)のムーニー粘度を基準(100)とした時の、各ゴム組成物の(混練物)のムーニー粘度を示した。ムーニー粘度指数については、次式(I)により算出した。ムーニー粘度指数が大きいほど、流動性が高いことを示す。
ムーニー粘度指数=(比較例1の混練物のムーニー粘度)/(各混練物のムーニー粘度)×100・・・(I)
【0092】
〔体積抵抗率の測定(絶縁性評価)〕
実施例および比較例で使用する各ゴム組成物について、JIS K6271(2008)に準拠して、体積抵抗率を測定した。測定は、直流電圧100Vを印加して行った。
【0093】
上記表1〜表3の結果から、全実施例は、初期の接着性に優れるとともに、温水浸漬後の接着性にも優れていた。特に実施例1は、プリベーク処理および二次加硫の双方の処理を行っているため、初期の接着性および温水浸漬後の接着性が飛躍的に向上した。さらに、シランカップリング剤を配合してなる実施例1〜8は、シランカップリング剤を配合しなかった実施例9〜11に比べてムーニー粘度が低く流動性が低いことから加工性が良好であることがわかる。
【0094】
なお、実施例の各ゴム組成物中のEPDMに代えて、EPMを使用した場合も、上記EPDMを使用した場合と同様の評価結果が得られた。
【0095】
これに対して、比較例1,2は、プリベークおよび二次加硫のいずれの処理も行っていないため、温水浸漬後の接着性が劣っていた。