特許第6067424号(P6067424)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 神鋼建材工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6067424-雪庇防止方法 図000002
  • 特許6067424-雪庇防止方法 図000003
  • 特許6067424-雪庇防止方法 図000004
  • 特許6067424-雪庇防止方法 図000005
  • 特許6067424-雪庇防止方法 図000006
  • 特許6067424-雪庇防止方法 図000007
  • 特許6067424-雪庇防止方法 図000008
  • 特許6067424-雪庇防止方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067424
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】雪庇防止方法
(51)【国際特許分類】
   E01F 7/04 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
   E01F7/04
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-41696(P2013-41696)
(22)【出願日】2013年3月4日
(65)【公開番号】特開2014-169572(P2014-169572A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2016年1月14日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年9月10日を発行日とし、(公社)日本雪氷学会および日本雪工学会を発行者とする「雪氷研究大会(2012・福山)講演要旨集」の第120頁にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000192615
【氏名又は名称】神鋼建材工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 孝幸
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−183327(JP,A)
【文献】 特開平02−104806(JP,A)
【文献】 特開2010−024691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/00−7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面の途中で当該法面の勾配が変化する勾配変化点において雪庇が発生することを防止する雪庇防止方法であって、
積雪深に対応付けて蓄積された前記雪庇の形状に関する情報に基づいて、前記法面が存在する地域の過去の最大積雪深に対応する前記雪庇の形状を推定する雪庇形状推定過程と、
前記雪庇形状推定過程で推定される前記雪庇の形状に基づいて、前記法面における前記勾配変化点よりも谷側の位置に柵を設けるための前記勾配変化点から前記柵の設置位置までの距離および当該柵の高さを、前記柵の上に積もる積雪層が前記勾配変化点において谷側に成長する積雪層に連続するような当該距離および当該高さになるように、設定する数値設定過程と、
前記数値設定過程で設定された前記高さを有する前記柵を、当該数値設定過程で設定された前記距離だけ前記勾配変化点から谷側へ離れた位置に設ける柵設置過程と、
を含む雪庇防止方法。
【請求項2】
前記勾配変化点から前記柵の設置位置までの距離は、前記最大積雪深の1〜1.5倍の長さに設定される、
請求項1に記載の雪庇防止方法。
【請求項3】
前記柵の高さは、前記最大積雪深の1/5〜1/3の範囲で設定される、
請求項1または2に記載の雪庇防止方法。
【請求項4】
前記柵の高さは、50cm以上に設定される、
請求項3に記載の雪庇防止方法。
【請求項5】
前記雪庇形状推定過程において、前記積雪深と、風速および気温を含む気象情報とにそれぞれ対応付けて蓄積された前記雪庇の形状に関する情報に基づいて、前記法面が存在する地域の過去の最大積雪深および前記法面が存在する地域の過去の風速および気温を含む気象情報にそれぞれ対応する前記雪庇の形状を推定する、
請求項1から4のいずれかに記載の雪庇防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面における雪庇の発生を防止する雪庇防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積雪地方の法面における雪崩の発生を防止するために、特許文献1に記載されているように、法面の途中に滑り防止体と呼ばれる柵が法面に沿って上下方向に等間隔に複数個設けられている。滑り防止体を法面に設置することによって、法面上の積雪層と滑り防止体との間の摩擦を増大させている。これにより、法面上に雪が多量に積もって積雪層の重量が増加しても、積雪層と滑り防止体との間の摩擦が増大しているので、当該雪が法面上を滑り落ちることなくなり、雪崩が発生することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−138646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、従来では、法面全体で発生する雪崩の発生を防止するために、特許文献1記載の滑り防止体を法面に設置するなどの対策が講じられているが、法面の途中で当該法面の勾配が変化する勾配変化点、例えば、法面の途中に設けられた小段の肩部(いわゆる小段肩)などにおいて局所的に発生する雪庇への対策については、現在のところ何ら有効な対策が採られておらず、上記のように滑り防止体を法面に設置している場合でも雪庇が発生する可能性がある。
【0005】
具体的には、雪庇A11は、図8に示されるように、法面1の小段2の肩部である勾配変化点3において当該勾配変化点3よりも山側に積もる雪A1が法面1における当該勾配変化点3よりも谷側の部分から離れて庇状に局部的に谷側へ膨らんだ部分である。雪庇A11は、地吹雪や降雪などによって小段2に積もった雪A1に雪の粒子が付着して小段2の肩部である勾配変化点3よりも谷側へ成長することによって発生する。雪庇A11は、大きく成長した後に崩落した場合、雪崩を発生する原因になる。とくに、法面1において勾配変化点3よりも谷側の部分1aの勾配が大きい場合には、勾配変化点3よりも該谷側の部分1aに積もる積雪層A2は、その自重で法面1の谷側の部分1aの表面を滑り落ちやすくなるので、図8のように、雪庇A11は、その谷側の積雪層A2から分断された状態で小段2の肩部である勾配変化点3から谷側へ突出するおそれがある。そのため、このような場合、雪庇A11が大きく成長しても、谷側の積雪層A2から分断されているので、雪庇A11が成長した後に崩落した場合、雪崩を発生するおそれが高くなる。
【0006】
また、上記の特許文献1記載の滑り防止体は、法面の途中に上下方向に等間隔に複数個設けられているが、これらの滑り防止体は、図8に示されるような雪庇のA11の形状を考慮して設置位置や当該滑り防止体の高さを設定していないので、雪庇のA11の発生を防ぐことができないおそれがある。
【0007】
そこで、本発明では、雪庇が発生しやすい場所における雪庇の発生を未然に防ぐことが可能な雪庇防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、法面における勾配変化点で発生するおそれがある雪庇の形状をあらかじめ推定しておき、その雪庇の形状に対応するように設計された柵を勾配変化点よりも谷側に設置して、当該柵の上に積もる積雪層を当該勾配変化点に積もる積雪層と連続させれば、雪庇の発生を未然に防止できることを見出した。本発明はこのような観点からなされたものである。
【0009】
すなわち、本発明の雪庇防止方法は、上記課題を解決するためのものとして、法面の途中で当該法面の勾配が変化する勾配変化点において雪庇が発生することを防止する雪庇防止方法であって、積雪深に対応付けて蓄積された前記雪庇の形状に関する情報に基づいて、前記法面が存在する地域の過去の最大積雪深に対応する前記雪庇の形状を推定する雪庇形状推定過程と、前記雪庇形状推定過程で推定される前記雪庇の形状に基づいて、前記法面における前記勾配変化点よりも谷側の位置に柵を設けるための前記勾配変化点から前記柵の設置位置までの距離および当該柵の高さを、前記柵の上に積もる積雪層が前記勾配変化点において谷側に成長する積雪層に連続するような当該距離および当該高さになるように、設定する数値設定過程と、前記数値設定過程で設定された前記高さを有する前記柵を、当該数値設定過程で設定された前記距離だけ前記勾配変化点から谷側へ離れた位置に設ける柵設置過程とを含むことを特徴とする。
【0010】
かかる雪庇防止方法によれば、まず、雪庇形状推定過程において、積雪深に対応付けて蓄積された前記雪庇の形状に関する情報に基づいて、法面が存在する地域における過去の最大積雪深から法面の勾配変化点で発生する可能性がある雪庇の形状を推定する。ついで、雪庇形状推定過程で推定される雪庇の形状に対応するように、数値設定過程において、法面における勾配変化点よりも谷側の位置に設ける柵に関する数値として、勾配変化点から柵の設置位置までの距離、および当該柵の高さを、柵の上に積もる積雪層を勾配変化点で谷側へ成長する積雪層に連続するような当該距離および当該高さになるように、設定する。そして、柵設置過程において、小段肩などの勾配変化点よりも法面谷側に上記の距離だけ谷側に離れた位置に上記の高さを有する柵を設けることにより、当該柵の上に積もる積雪層を当該勾配変化点で谷側へ成長する積雪層に連続させることが可能になり、その結果、雪庇の発生を防止することが可能である。
【0011】
また、前記勾配変化点から前記柵の設置位置までの距離は、前記最大積雪深の1〜1.5倍の長さに設定されるのが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、当該柵の上に積もる積雪層が当該勾配変化点で谷側へ成長する積雪層に確実に連続させることが可能になり、雪庇の発生を確実に防止することが可能である。
【0013】
また、前記柵の高さは、前記最大積雪深の1/5〜1/3の範囲で設定されるのが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、柵の高さを最大積雪深の1/5〜1/3の範囲に設定することにより、当該柵の上に積もる積雪層の高さを十分に確保できるので、当該勾配変化点で谷側へ成長する積雪層を確実に連続させることが可能になり、雪庇の発生を確実に防止することが可能である。しかも、柵が積雪層の内部に確実に埋もれるので、柵の上端において新たに雪庇が発生するおそれもない。
【0015】
また、前記柵の高さは、50cm以上に設定されるのが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、降雨時や気温上昇時などにおいて法面の地表に沿って融雪水などの水が流れる場合でも、柵の上に積もる積雪層が当該水から離間しているので、当該積雪層が軟弱になることを抑えることが可能である。
【0017】
前記雪庇形状推定過程において、前記積雪深と、風速および気温を含む気象情報とにそれぞれ対応付けて蓄積された前記雪庇の形状に関する情報に基づいて、前記法面が存在する地域の過去の最大積雪深および前記法面が存在する地域の過去の風速および気温を含む気象情報にそれぞれ対応する前記雪庇の形状を推定するのが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、雪庇形状推定過程において、法面が存在する地域における過去の最大積雪深および雪庇を発生させる要因となる過去の風速および気温を含む気象情報から法面の勾配変化点で発生する可能性がある雪庇の形状をより正確に推定することが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、法面の途中で当該法面の勾配が変化する勾配変化点において雪庇の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の雪庇防止方法の一実施形態を示す当該雪庇防止方法に用いられる雪庇防止柵が設置された法面を示す断面図である。
図2図1の雪庇防止柵に作用する雪圧Pを示す拡大断面図である。
図3図2の積雪層内部の褶曲層を示す断面図である。
図4図1の雪庇防止柵の正面図である。
図5図1の雪庇防止柵の側面図である。
図6】本発明の雪庇防止方法の他の実施形態を示す法面の勾配が小段以外の場所で急に変化する勾配変化点が存在する場合に当該勾配変化点よりも谷側の部分に図1の雪庇防止柵を設置した状態を示す断面説明図である。
図7】本発明の雪庇防止方法のさらに他の実施形態を示す法面において勾配変化点よりも谷側の部分に図1の雪庇防止柵を複数台設置した状態を示す断面説明図である。
図8】本発明の比較例である小段肩に雪庇が発生する状態を示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る雪庇防止方法について説明する。
【0022】
本実施形態に係る雪庇防止方法は、図1〜3に示されるように法面1の途中に水平に切り開かれた小段2が形成された人工斜面において、当該法面1において小段2の肩部である勾配変化点3に雪庇が発生することを防止する方法である。この雪庇防止方法は、当該勾配変化点3よりも谷側の部分1aにおいて雪庇防止柵4を設置するにあたり、当該谷側の部分1aに積もる積雪層A4を当該勾配変化点3に積もる積雪層A3に連続させるように、雪庇防止柵4の設置位置をおよび当該柵の高さを設定することにより、雪庇の発生を未然に防ぐ。
【0023】
具体的には、本実施形態に係る雪庇防止方法は、具体的には、雪庇形状推定過程と、数値設定過程と、柵設置過程とを含んでいる。
【0024】
雪庇形状推定過程では、積雪深と、風速および気温を含む気象情報とにそれぞれ対応付けて蓄積された雪庇の形状に関する情報に基づいて、法面1が存在する地域の過去の最大積雪深Hおよび法面1が存在する地域の過去の風速および気温を含む気象情報にそれぞれ対応する雪庇の形状を推定する。
【0025】
ここで、雪庇の形状に関する情報は、例えば、全国における雪庇が発生する地域における過去の最大積雪深と、各地域における冬季の平均風速および平均気温を含む気象情報とを、それぞれその地域で発生する雪庇の形状に対応付けて作成され、記憶装置等に蓄積される。
【0026】
また、雪庇は、通常、小段肩の不安定な雪面に雪が降り積もり、また風速3m/秒以上、かつ、気温0℃以下の条件下で著しく発生するので、このような雪庇の発生条件を含めて、雪庇の形状に関する情報を作成するのが好ましい。
【0027】
数値設定過程では、前記雪庇形状推定過程で推定される前記雪庇の形状に基づいて、法面1における勾配変化点3よりも谷側の部分1aに雪庇防止柵4を設けるための勾配変化点3から雪庇防止柵4の設置位置までの距離W1および当該雪庇防止柵4の高さh1を、雪庇防止柵4の上に積もる積雪層A4が勾配変化点3において谷側に成長する積雪層A3に連続するような当該距離W1および当該高さh1になるように、設定する。
【0028】
ここで、勾配変化点3から雪庇防止柵4の設置位置までの距離W1は、積雪層A4が積雪層A3に確実に連続するように、最大積雪深Hの1〜1.5倍の長さに設定されるのが好ましい。
【0029】
また、距離W1は、法面1の勾配θ1、法面1が存在する地域の最大積雪深Hとした場合、W1sinθ1<H(すなわち、W1<H/sinθ1)になるようにW1を設定すれば、積雪層A4が積雪層A3により確実に連続することが可能になる。
【0030】
また、雪庇防止柵4の高さh1は、積雪層A4が積雪層A3に確実に連続するように、最大積雪深Hの1/5〜1/3の範囲で設定されるのが好ましい。高さh1は、最大積雪深Hの1/5未満であれば、雪庇防止柵4によって積雪層A4を保持することが困難になり、また、最大積雪深Hの1/3を超えた範囲では、雪庇防止柵4の谷側に空隙が生じることにより雪庇防止柵4の上に積もる積雪層A4が雪庇防止柵4よりも谷側に積もる積雪層A2と連続しないおそれがあるので、上記のように、高さh1は、最大積雪深Hの1/5〜1/3の範囲で設定されるのが好ましい。
【0031】
さらに、雪庇防止柵4の高さh1は、法面1の地表に沿って融雪水などの水が流れる場合に当該水によって雪庇防止柵4の上に積もる積雪層A4が軟弱にならないように、50cm以上に設定されるのが好ましい。雪庇防止柵4の高さh1は、例えば、法面1における谷側の部分1aの表面から0.5m程度に設定される。
【0032】
柵設置過程では、前記数値設定過程で設定された前記高さh1を有する雪庇防止柵4を、当該数値設定過程で設定された前記距離W1だけ勾配変化点3から谷側へ離れた位置に設ける。
【0033】
勾配変化点3において谷側に成長する積雪層A3は、勾配変化点3において当該勾配変化点3よりも山側に積もる雪A1が法面1における当該勾配変化点3よりも谷側の部分から離れて局部的に谷側へ膨らんで雪庇になる可能性が高い部分である。そこで、上記の雪庇防止方法では、当該谷側の部分1aに積もる積雪層A4を当該勾配変化点3に積もる積雪層A3に連続させるような設置位置および柵の高さを設定し、その設置位置に当該高さの雪庇防止柵4を設置することにより、当該雪庇防止柵4の上に積もる積雪層A4を当該勾配変化点3で谷側へ成長する積雪層A3に連続させることが可能になり、その結果、雪庇の発生を防止することが可能である。
【0034】
とくに、図1に示されるように、法面1において勾配変化点3よりも谷側の部分1aの勾配θ1が大きい場合(例えば、25度より大きい場合)には、勾配変化点3よりも該谷側の部分1aに積もる積雪層A2は、その自重で法面1の谷側の部分1aの表面を滑り落ちやすくなるが、上記のように数値設定過程で設定された設置位置W1において同数値設定過程で設定された高さh1の雪庇防止柵4を設置することにより、勾配変化点3で谷側へ成長する積雪層A3は、雪庇防止柵4の上に積もる積雪層A4を介して谷側の部分1aに積もる積雪層A2と連続することが可能になるので、雪庇の発生を確実に防止することが可能である。一方、本発明の比較例として、雪庇防止柵4を設けなかった場合には、図8に示されるように、小段2の肩部である勾配変化点3では、雪庇A11が形成され、当該雪庇A11は勾配変化点3よりも谷側の積雪層A2から分断されているので、崩落しやすくなる。
【0035】
ここで、図2に示されるように、本実施形態の雪庇防止方法において法面1に設置される雪庇防止柵4には、法面1の上に積もる雪から雪圧Pが作用する。雪庇防止柵4に作用する雪圧Pの荷重圏W2の範囲は、小段2上から法面1における谷側の部分1aに掛けて積もる積雪層A1〜A4を連続させる(一体化させる)ために、法面1上の斜面に沿った山谷方向で見れば、2×W1の範囲となり、その荷重圏W2の断面積Sの範囲となる。
【0036】
ここで、雪庇防止柵4の各支柱41(図4〜5参照)に作用する雪圧Pは、上記の荷重圏W2の断面積S、支柱41の間隔L、積雪層A1〜A4の密度ρ、法面1の勾配θ1、法面1に対する積雪層A1〜A4の摩擦抵抗τとした場合、
P=(S×ρ)×(sinθ1−cosθ1×τ)×L
として表される。
【0037】
また、図3に示されるように、上記の雪庇防止方法のように、勾配変化点3よりも谷側の部分1aに積もる積雪層A4を当該勾配変化点3に積もる積雪層A3に連続させるような勾配変化点3から距離W1離れた設置位置および設置防止柵4の高さh1を設定し、その設置位置に当該高さの雪庇防止柵4を設置した場合、小段2上から法面1における谷側の部分1aにかけて形成された積雪層A1〜A4の内部は、本発明者による断面調査の結果では、これらの積雪層A1〜A4は分離せずに積雪層の表面部分と積雪層の内部の褶曲層J(すなわち、雪質の違いにより生じる層)は一体となり、連なっていることが確認されている。この結果をみれば、雪庇防止柵4により法面1における谷側の部分1aの積雪層A2、A4の滑りを抑止して、当該積雪層A2、A4とそれらの山側の積雪層A1、A3とが連続し、雪庇の発生を有効に防止していることがわかる。
【0038】
上記の雪庇防止方法に用いられる雪庇防止柵4は、上記の高さh1を有し、積雪層A4を保持できる構造であればいかなる形状および構造の柵が採用される。例えば、図4〜5に示される雪庇防止柵4は、複数の支柱41と、当該支柱41の間に架設された1本の梁材42と、各支柱41を支持する台座部43と、各台座部43を当該法面1における谷側の部分1aに固定するアンカーボルト44と、梁材42を各支柱41に固定する固定部材45とから構成されている。
【0039】
台座部43は、複数の平らな鋼板またはI型鋼などからなり、法面1における小段2の谷側の部分1aの表面に面接触して設置できるような形状を有しており、軽量かつ高強度の鋼板やプレキャストコンクリート板などで製造される。
【0040】
支柱41は、H型鋼などからなる柱状体であり、台座部43から垂直に立ち上がっている。本実施形態では、台座部43を構成する鋼板にそれぞれ1本ずつ支柱41が立設されている。
【0041】
梁材42は、丸鋼などの棒状体からなり、支柱41の間に水平方向に配置されている。梁材42は、ボルトなどの固定部材45によって各支柱41の山側の側面に固定されている。
【0042】
複数の支柱41および梁材42は、法面1における谷側の部分1aの表面から突出しているので、当該谷側の部分1aにおける積雪層A3が当該法面1に沿って谷側へすべる動きに抵抗する摩擦抵抗を増大させることが可能である。
【0043】
雪庇防止柵4の高さh1(すなわち、法面1における谷側の部分1aの地面Gから梁材42の最上端までの高さ)は、上記のように数値設定過程において設定され、雪庇の形状に基づいて、雪庇防止柵4の上に積もる積雪層A3が勾配変化点3において谷側に成長する積雪層Aに連続するような高さh1(例えば、50cm)に設定される。
【0044】
この雪庇防止柵4では、雪庇防止柵4の高さh1が最大積雪深Hよりも低くても、法面1における谷側の部分1aの上の積雪層A4の下側の部分は上から圧縮されて密度が高くなっているので、梁材42が雪A4の下側の圧密された部分に接触することにより、法面1における谷側の部分1aの上の積雪層A4の滑りを止め、当該積雪層A4を介して上側の積雪層A3と下側の積雪層A2とを連続させることが可能である。
【0045】
なお、本実施形態の雪庇防止柵4は、積雪層A4内に埋もれることを想定しているものであり、支柱間隔Lは、法面1が存在する地域の最大積雪深Hによっては各支柱41に作用する雪圧Pが変化することから、現場の状況に設定される。また、雪庇防止柵4に対しては上記の雪圧Pだけでなく積雪層A4の沈降荷重も作用するので、これら雪圧Pおよび沈降荷重を考慮して、台座部43を地面Gに固定するアンカーボルト44に作用する引張応力T1、T2やせん断応力ρなどの雪庇防止柵4の設計に必要な数値を求めればよい。それによって、経済的で安全性に優れた雪庇防止柵4の設計が可能になる。
【0046】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の雪庇防止方法によれば、まず、雪庇形状推定過程において、積雪深と、風速および気温を含む気象情報とにそれぞれ対応付けて蓄積された雪庇の形状に関する情報に基づいて、法面1が存在する地域における過去の最大積雪深Hおよび雪庇を発生させる要因となる過去の風速および気温を含む気象情報から法面1の勾配変化点3で発生する可能性がある雪庇の形状を推定する。ついで、雪庇形状推定過程で推定される雪庇の形状に対応するように、数値設定過程において、法面1における勾配変化点3よりも谷側の部分1aに設ける雪庇防止柵4に関する数値として、勾配変化点3から雪庇防止柵4の設置位置までの距離W1、および当該雪庇防止柵4の高さh1を、雪庇防止柵4の上に積もる積雪層を勾配変化点3で谷側へ成長する積雪層に連続するような当該距離W1および当該高さh1になるように、設定する。そして、柵設置過程において、勾配変化点3などの勾配変化点3よりも法面1谷側に上記の距離W1だけ谷側に離れた位置に上記の高さh1を有する雪庇防止柵4を設けることにより、当該雪庇防止柵4の上に積もる積雪層A4を当該勾配変化点3で谷側へ成長する積雪層A3に連続させることが可能になり、その結果、雪庇の発生を防止することが可能である。
【0047】
(2)
しかも、本実施形態の雪庇防止方法によれば、前記雪庇形状推定過程において、前記積雪深と、風速および気温を含む気象情報とにそれぞれ対応付けて蓄積された前記雪庇の形状に関する情報に基づいて、前記法面1が存在する地域の過去の最大積雪深Hおよび前記法面1が存在する地域の過去の風速および気温を含む気象情報にそれぞれ対応する前記雪庇の形状を推定するので、雪庇形状推定過程において、法面1が存在する地域における過去の最大積雪深おHよび雪庇を発生させる要因となる過去の風速および気温を含む気象情報から法面1の勾配変化点3で発生する可能性がある雪庇の形状をより正確に推定することが可能になる。
【0048】
(3)
本実施形態の雪庇防止方法によれば、勾配変化点3から雪庇防止柵4の設置位置までの距離W1は、最大積雪深Hの1〜1.5倍の長さに設定されるので、当該雪庇防止柵4の上に積もる積雪層A4が当該勾配変化点3で谷側へ成長する積雪層A3に確実に連続させることが可能になり、雪庇の発生を確実に防止することが可能である。
【0049】
(4)
本実施形態の雪庇防止方法によれば、雪庇防止柵4の高さh1を最大積雪深Hの1/5〜1/3の範囲に設定することにより、当該雪庇防止柵4の上に積もる積雪層の高さh1を十分に確保できるので、当該勾配変化点3で谷側へ成長する積雪層確実に連続させることが可能になり、雪庇の発生を確実に防止することが可能である。しかも、雪庇防止柵4が積雪層A4の内部に確実に埋もれるので、雪庇防止柵4の上端において新たに雪庇が発生するおそれもない。
【0050】
(5)
本実施形態の雪庇防止方法によれば、雪庇防止柵4の高さh1は、50cm以上に設定されるので、降雨時や気温上昇時などにおいて法面1の地表に沿って融雪水などの水が流れる場合でも、雪庇防止柵4の上に積もる積雪層A4が当該水から離間しているので、積雪層A4が軟弱になることを抑えることが可能である。
【0051】
(変形例)
上記実施形態では、雪庇形状推定過程において、前記積雪深と、風速および気温を含む気象情報とにそれぞれ対応付けて蓄積された前記雪庇の形状に関する情報に基づいて、前記法面1が存在する地域の過去の最大積雪深Hおよび前記法面1が存在する地域の過去の風速および気温を含む気象情報にそれぞれ対応する前記雪庇の形状を推定しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも積雪深に対応付けて蓄積された雪庇の形状に関する情報に基づいて、前記法面1が存在する地域の過去の最大積雪深Hに対応する前記雪庇の形状を推定すればよい。その場合も、雪庇防止柵4の上に積もる積雪層A4を当該勾配変化点3で谷側へ成長する積雪層A3に連続させることが可能になり、その結果、雪庇の発生を防止することが可能である。
【0052】
(他の実施形態)
上記の実施形態の雪庇防止方法では、法面1の途中に形成された水平方向に延びる小段2の肩部である勾配変化点3における雪庇の発生を防止しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、小段2の肩部以外の場所であっても法面1の途中の勾配が変化する勾配変化点における雪庇の発生を防止することが可能である。
【0053】
例えば、図6に示されるように、法面1の途中で勾配が急に変化している場合、すなわち、法面1の勾配変化点3より山側の部分1bの勾配が25度より小さい緩斜面であり、当該勾配変化点3よりも谷側の部分1aの勾配が25度より大きい急斜面である自然斜面の場合においても、勾配変化点3から谷側へ雪が成長して雪庇が発生するおそれがある。しかし、上記の雪庇防止方法を適用して、勾配変化点3よりも谷側に所定の距離W1だけ離れた位置に所定の高さh1の雪庇防止柵4を設けることにより、勾配変化点3における雪庇の発生を防止することが可能である。
【0054】
(さらに他の実施形態)
上記の実施形態の雪庇防止方法では、法面1の途中の勾配変化点3の谷側の部分1aにおいて1台の雪庇防止柵4が設置される例が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、図7に示されるように、複数の雪庇防止柵4を法面1における谷側の部分1aに沿って上下方向に並べて配置してもよい。例えば、上記の雪庇防止方法を適用して、勾配変化点3よりも谷側に所定の距離W1だけ離れた位置に所定の高さh1の雪庇防止柵4を設け、現場状況、とくに法面1の勾配θ1に応じて、さらにその谷側へ距離W4だけ離れた雪庇防止柵4を1台または複数台設置すればよい。
【0055】
上記のように、複数の雪庇防止柵4を設置することにより、法面1における勾配変化点3よりも谷側の部分1aに積もる積雪層A2全体が谷側へずれ落ちることを防止し、より確実に勾配変化点3における雪庇の発生を防止することが可能である。
【0056】
ここで、図7に示されるように、雪庇防止柵4同士の間隔W4は、当該間隔W4の区間全体において積雪層A2が法面1に接触し、かつ、積雪層A2と雪庇防止柵4との間で積雪層A2がずり落ちない程度の摩擦力が発生するように、上下の小段2の間に挟まれた法面1の区間1aの長さW3、最大積雪深H、および法面1の勾配θ1などを考慮して設定される。
【符号の説明】
【0057】
1 法面
1a 谷側の部分
2 小段
3 勾配変化点
4 雪庇防止柵
A1〜A4 積雪層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8