(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067433
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】EGRクーラ
(51)【国際特許分類】
F02M 26/29 20160101AFI20170116BHJP
F28D 7/16 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
F02M26/29
F28D7/16 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-51194(P2013-51194)
(22)【出願日】2013年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-177879(P2014-177879A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2016年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505377382
【氏名又は名称】三共ラヂエーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 秀之
(72)【発明者】
【氏名】大澤 章男
【審査官】
川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−042678(JP,A)
【文献】
特開2007−077839(JP,A)
【文献】
特開2007−170271(JP,A)
【文献】
特開2011−127537(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/167091(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/29
F28D 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブと、該チューブを包囲するシェルとを備え、該シェルの内部に冷却水を給排し且つ前記チューブ内に排気ガスを通して該排気ガスと前記冷却水とを熱交換するようにしたEGRクーラであって、前記各チューブを貫通させて該各チューブの途中を支え且つ冷却水を自由に流通せしめる冷却水通路を備えた中間支持板を前記シェル内に配置すると共に、該シェルにおける前記中間支持板が設置されるべき位置の胴回りに複数のスリットを所要間隔で開口し、該各スリットを前記中間支持板の外縁部により内側から塞いで該外縁部を前記各スリットを介しシェル外から溶接して前記シェルと一体化させたことを特徴とするEGRクーラ。
【請求項2】
中間支持板の外縁部にシェルの内壁面に沿うように折れ曲がる折曲部を全周に亘り形成し、該折曲部の外周面を前記シェルのスリットに対し内側から宛てがうようにして中間支持板を配置したことを特徴とする請求項1に記載のEGRクーラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気ガスを再循環して窒素酸化物の発生を低減させるEGR装置に付属されて再循環用排気ガスを冷却するEGRクーラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より自動車等のエンジンの排気ガスの一部をエンジンに再循環して窒素酸化物の発生を低減させるEGR装置が知られているが、このようなEGR装置では、エンジンに再循環する排気ガスを冷却すると、該排気ガスの温度が下がり且つその容積が小さくなることによって、エンジンの出力を余り低下させずに燃焼温度を低下して効果的に窒素酸化物の発生を低減させることができる為、エンジンに排気ガスを再循環するラインの途中に、排気ガスを冷却するEGRクーラを装備したものがある。
【0003】
図4は前記EGRクーラの一例を示す断面図であって、図中1は円筒状に形成されたシェルを示し、該シェル1の軸心方向両端には、シェル1の端面を閉塞するようプレート2,2が固着されていて、該各プレート2,2には、多数のチューブ3の両端が貫通状態で固着されており、これら多数のチューブ3はシェル1の内部を軸心方向に延びている。
【0004】
そして、シェル1の一方の端部近傍には冷却水入口管4が取り付けられ、シェル1の他方の端部近傍には冷却水出口管5が取り付けられており、冷却水9が冷却水入口管4からシェル1の内部に供給されてチューブ3の外側を流れ、冷却水出口管5からシェル1の外部に排出されるようになっている。
【0005】
更に、各プレート2,2の反シェル1側には、椀状に形成されたボンネット6,6が前記各プレート2,2の端面を被包するように固着され、一方のボンネット6の中央には排気ガス入口7が、他方のボンネット6の中央には排気ガス出口8が夫々設けられており、エンジンの排気ガス10が排気ガス入口7から一方のボンネット6の内部に入り、多数のチューブ3を通る間に該チューブ3の外側を流れる冷却水9との熱交換により冷却された後に、他方のボンネット6の内部に排出されて排気ガス出口8からエンジンに再循環するようになっている。
【0006】
尚、図中5aは冷却水入口管4に対しシェル1の直径方向に対峙する位置に設けたバイパス出口管を示し、該バイパス出口管5aから冷却水9の一部を抜き出すことにより、冷却水入口管4に対峙する箇所に冷却水9の澱みが生じないようにしてある。
【0007】
ところが、斯かる従来のEGRクーラにおいては、各チューブ3が両端のみをプレート2で支えられた構造となっていた為、排気ガス10の冷却効果を高めるべくチューブ3を長くした場合に、該チューブ3の固有振動数が低くなってエンジン側の加振の周波数と合い易くなり、エンジン側の加振により共振が起こってチューブ3に大きな振動が生じる虞れがあった。
【0008】
そして、チューブ3が共振により大きく振動してしまう場合には、各チューブ3の両端の固定部分等に疲労破壊が起こり易くなって、耐久性が著しく損なわれてしまう結果となりかねない。
【0009】
そこで、本発明者らは、
図5に示す如く、冷却水9を自由に流通し得る冷却水通路(図示せず)を備えた中間支持板11によりチューブ3を中間位置で支えるようにした構造を採用し、この中間支持板11により支えられた箇所を振動支点とすることで各チューブ3の自由に振動できる区間を長手方向に区分けして夫々の固有振動数を高め、エンジン側の加振による共振現象が起こり難くなるようにすることを創案するに到った。
【0010】
尚、同様のチューブ3の振動の問題を解決するための先行技術文献情報としては、本発明と同じ出願人により下記の特許文献1が既に先行出願されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−42678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、チューブ3を中間支持板11で支えるにあたっては、シェル1を長手方向の中間位置で二つの分割シェル1a,1bに分割し、
図6に拡大して示す如く、その分割シェル1a,1bの間に中間支持板11を挟み込む構造として、ろう付けにより分割シェル1a,1b相互の接合と中間支持板11の固定を同時に行うようにしており(中間支持板11の各貫通孔12に通された各チューブ3もろう付けにより固定されている)、そのろう付け部Aが全周に亘り隙間なく高品質で形成されていないと、シェル1の気密に対する信頼性を確保することができないため、部品精度やろう付け品質に高いレベルが要求されてコストの高騰を招いてしまっていた。
【0013】
本発明は、上述の実情に鑑みて成されたもので、コストの高騰を招くことなく、チューブの振動の問題を解決し得るようにしたEGRクーラを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、チューブと、該チューブを包囲するシェルとを備え、該シェルの内部に冷却水を給排し且つ前記チューブ内に排気ガスを通して該排気ガスと前記冷却水とを熱交換するようにしたEGRクーラであって、前記各チューブを貫通させて該各チューブの途中を支え且つ冷却水を自由に流通せしめる冷却水通路を備えた中間支持板を前記シェル内に配置すると共に、該シェルにおける前記中間支持板が設置されるべき位置の胴回りに複数のスリットを所要間隔で開口し、該各スリットを前記中間支持板の外縁部により内側から塞いで該外縁部を前記各スリットを介しシェル外から溶接して前記シェルと一体化させたことを特徴とするものである。
【0015】
而して、このようにすれば、各チューブの途中が中間支持板により支えられるので、この中間支持板により支えられた箇所が振動支点となってチューブの固有振動数が高められ、該チューブがエンジン側の加振により共振して大きく振動してしまう現象が起こらなくなり、前記各チューブの両端の固定部分等における疲労破壊が著しく抑制されることになる。
【0016】
しかも、前記中間支持板をシェル内に固定するにあたり、各スリットを内側から塞でいる中間支持板の外縁部を前記各スリットを介しシェル外から溶接して該シェルの気密を確保することは容易であり、二つの分割シェル間に中間支持板を挟み込んでろう付けする形式の従来構造よりも、シェルの気密に対する信頼性が大幅に向上されることになり、従来の如き高いレベルの部品精度やろう付け品質が要求されるといった制約が解消されてコストの大幅な低減化が図られる。
【0017】
即ち、各スリットを内側から塞いでいる中間支持板の外縁部を前記各スリットを介しシェル外から溶接する際に、隙間が生じないように溶接できさえすればシェルの気密が確保されるので、従来の如き全周に亘るろう付け部の出来上がりの品質次第でシェルの気密が左右される構造と比較してシェルの気密に対する信頼性は著しく高められることになる。
【0018】
しかも、シェルを分割せずに一体構造としたまま作業を進めることが可能であるため、その取り扱いが容易となって従来の如き二つの分割シェルの間に中間支持板を挟み込んだ状態で加熱炉に搬入してろう付けを行うといった面倒な手間が不要となり、制作時の作業負担についても大幅な軽減化を図ることが可能となる。
【0019】
また、本発明においては、中間支持板の外縁部にシェルの内壁面に沿うように折れ曲がる折曲部を全周に亘り形成し、該折曲部の外周面を前記シェルのスリットに対し内側から宛てがうようにして中間支持板を配置することが好ましく、このようにすれば、中間支持板の折曲部がシェルの内壁面に嵌合して倒れ難くなり、中間支持板をシェル内に安定させた状態で溶接を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
上記した本発明のEGRクーラによれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0021】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、各チューブの途中を中間支持板により支えてエンジン側の加振によるチューブの共振現象を起こり難くすることができ、しかも、従来の如き高いレベルの部品精度やろう付け品質を要求されることが無くなって、シェルの気密に対する信頼性を大幅に向上することができるので、コストの高騰を招くことなく、チューブの振動の問題を解決することができる。
【0022】
(II)本発明の請求項1に記載の発明によれば、シェルを分割せずに一体構造としたまま作業を進めることができるので、その取り扱いが容易となって従来の如き二つの分割シェルの間に中間支持板を挟み込んだ状態で加熱炉に搬入してろう付けを行うといった面倒な手間を省くことができ、制作時の作業負担についても大幅な軽減化を図ることができ、例えば、シェル外から溶接を行うといった作業を自動化することも容易であるため、斯かる溶接作業を機械により自動化して更なる作業負担の軽減化を図ることもできる。
【0023】
(III)本発明の請求項2に記載の発明によれば、中間支持板の折曲部をシェルの内壁面に嵌合させて倒れ難くすることができ、中間支持板をシェル内に安定させた状態で溶接を行うことができるので、制作時の作業性を大幅に向上することができて、作業負担の更なる軽減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を示す断面図である。
【
図2】
図1のEGRクーラの要部を拡大して示す詳細図である。
【
図3】
図1のシェルの胴回りに形成されたスリットについて説明する斜視図である。
【
図4】従来のEGRクーラの一例を示す断面図である。
【
図5】従来のEGRクーラの別の例を示す断面図である。
【
図6】
図5のEGRクーラの要部を拡大して示す詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1〜
図3は本発明を実施する形態の一例を示すもので、
図4〜
図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0027】
図1及び
図2に示す如く、本形態例のEGRクーラにおいては、シェル1内における長手方向中間位置に中間支持板11が配設されており、該中間支持板11に各チューブ3が貫通されて該各チューブ3の途中が支えられるようになっている。
【0028】
ここで、前記中間支持板11には、各チューブ3を貫通固定するための貫通孔12(
図2参照)が複数箇所に形成されているが、この各貫通孔12以外にも冷却水9が自由に流通し得る冷却水通路(図示せず)が確保されている。この冷却水通路は、前記貫通孔12と連続するように形成されていても良いし、貫通孔12と別個に形成されていても良いものであり、その形状には種々の形状を採用することが可能である。
【0029】
また、
図3に示す通り、前記シェル1における前記中間支持板11が設置されるべき位置の胴回りには、複数のスリット13が所要間隔で開口されており、該各スリット13が前記中間支持板11の外縁部により内側から塞がれ、該外縁部が前記各スリット13を介しシェル1外から溶接されて前記シェル1と一体化されるようになっている(
図2中のBは溶接部を示す)。
【0030】
特に本形態例においては、中間支持板11の外縁部にシェル1の内壁面に沿うように折れ曲がる折曲部14が全周に亘り形成されており、該折曲部14の外周面が前記シェル1のスリット13に対し内側から宛てがわれるようにしてある。
【0031】
尚、各チューブ3の中間支持板11に対する貫通部分については、従来と同じようにろう付け(
図2中のAはろう付け部を示す)で固定しておけば良く、必要に応じて中間支持板11の外縁部とシェル1との間をろう付けしても良い。
【0032】
而して、このようにすれば、各チューブ3の途中が中間支持板11により支えられるので、この中間支持板11により支えられた箇所が振動支点となってチューブ3の固有振動数が高められ、該チューブ3がエンジン側の加振により共振して大きく振動してしまう現象が起こらなくなり、前記各チューブ3の両端の固定部分等における疲労破壊が著しく抑制されることになる。
【0033】
しかも、前記中間支持板11をシェル1内に固定するにあたり、各スリット13を内側から塞いでいる中間支持板11の折曲部14(外縁部)を前記各スリット13を介しシェル1外から溶接して該シェル1の気密を確保することは容易であり、二つの分割シェル1a,1b(
図6参照)間に中間支持板11を挟み込んでろう付けする形式の従来構造よりも、シェル1の気密に対する信頼性が大幅に向上されることになり、従来の如き高いレベルの部品精度やろう付け品質が要求されるといった制約が解消されてコストの大幅な低減化が図られる。
【0034】
即ち、各スリット13を内側から塞いでいる中間支持板11の折曲部14を前記各スリット13を介しシェル1外から溶接する際に、隙間が生じないように溶接できさえすればシェル1の気密が確保されるので、従来の如き全周に亘るろう付け部A(
図6参照)の出来上がりの品質次第でシェル1の気密が左右される構造と比較してシェル1の気密に対する信頼性は著しく高められることになる。
【0035】
しかも、シェル1を分割せずに一体構造としたまま作業を進めることが可能であるため、その取り扱いが容易となって従来の如き二つの分割シェル1a,1bの間に中間支持板11を挟み込んだ状態で加熱炉に搬入してろう付けを行うといった面倒な手間が不要となり、制作時の作業負担についても大幅な軽減化を図ることが可能となる。
【0036】
また、本形態例においては、中間支持板11の外縁部にシェル1の内壁面に沿うように折れ曲がる折曲部14を全周に亘り形成し、該折曲部14の外周面を前記シェル1のスリット13に対し内側から宛てがうようにして中間支持板11を配置しているので、中間支持板11の折曲部14がシェル1の内壁面に嵌合して倒れ難くなり、中間支持板11をシェル1内に安定させた状態で溶接を行うことが可能となる。
【0037】
従って、上記形態例によれば、各チューブ3の途中を中間支持板11により支えてエンジン側の加振によるチューブ3の共振現象を起こり難くすることができ、しかも、従来の如き高いレベルの部品精度やろう付け品質を要求されることが無くなって、シェル1の気密に対する信頼性を大幅に向上することができるので、コストの高騰を招くことなく、チューブ3の振動の問題を解決することができる。
【0038】
また、シェル1を分割せずに一体構造としたまま作業を進めることができるので、その取り扱いが容易となって従来の如き二つの分割シェル1a,1b(
図6参照)の間に中間支持板11を挟み込んだ状態で加熱炉に搬入してろう付けを行うといった面倒な手間を省くことができ、制作時の作業負担についても大幅な軽減化を図ることができ、例えば、シェル1外から溶接を行うといった作業を自動化することも容易であるため、斯かる溶接作業を機械により自動化して更なる作業負担の軽減化を図ることもできる。
【0039】
更に、中間支持板11の折曲部14をシェル1の内壁面に嵌合させて倒れ難くすることができ、中間支持板11をシェル1内に安定させた状態で溶接を行うことができるので、制作時の作業性を大幅に向上することができて、作業負担の更なる軽減化を図ることができる。
【0040】
尚、本発明のEGRクーラは、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
1 シェル
3 チューブ
9 冷却水
10 排気ガス
11 中間支持板
13 スリット
14 折曲部