(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067478
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】調理釜および調理釜の製造方法
(51)【国際特許分類】
A47J 27/00 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
A47J27/00 103H
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-105030(P2013-105030)
(22)【出願日】2013年5月17日
(65)【公開番号】特開2014-223245(P2014-223245A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2015年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002473
【氏名又は名称】象印マホービン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】野間 雄太
【審査官】
木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−120864(JP,A)
【文献】
特開2004−065766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端の底壁部と前記底壁部より大きい上端部との間の外壁部に位置決め部を有する釜本体と、
内周部に前記位置決め部に位置決めする被位置決め部を有するリング状をなし、前記釜本体に前記底壁部の側から嵌合して前記被位置決め部が前記位置決め部に位置決めされ、前記釜本体の前記外壁部から外向きに突出した状態で固定される鍔部材と、
を備え、
前記鍔部材は、前記釜本体の外周面に接触する上端内縁および下端内縁の間に、前記釜本体の外周面と間隔をあけて位置し前記釜本体の外周面との間に空隙部を形成する内周面を有することを特徴とする調理釜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯器、もちつき機および製パン機などの調理釜および調理釜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の調理器は、調理物を収容する調理釜が本体の収容部に着脱可能に収容される。そして、予め設定されたプログラムに従って本体内部に配設した加熱手段を制御することにより、調理釜を介して内部の調理物を加熱して所定の調理を実行する。
【0003】
特許文献1の調理釜は、下端を閉塞し上端を開口した逆円錐形状に形成されている。下端の底壁部と上端の開口部との間の外壁部には、径方向外向きに突出する鍔部が一体的に形成されている。特許文献2の調理鍋は、有底筒状に形成された鍋本体の外壁部に、円環状とした別体の被加熱板が配設されている。
【0004】
これら特許文献1,2の調理釜(鍋)は、調理器にセットして使用すると、底壁部が誘導加熱コイルによって誘導加熱され、鍔部または被加熱板がヒータによって加熱される。よって、収容した調理物に加えることが可能な熱量を増大でき、理想的な調理を実現できる。
【0005】
しかしながら、特許文献1の調理釜は、鋳造または鍛造によって被加工体を形成し、この被加工体を切削または研削することによって製造されるため、製造コストが高くなる。また、特許文献2の調理鍋は、調理鍋毎に鍋本体に対する被加熱板の取付位置に誤差が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−200346号公報
【特許文献2】特開2012−254275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、調理釜の製造コストを低減するとともに、釜本体への鍔部材の取付位置の精度を向上する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の調理釜は、下端の底壁部と前記底壁部より大きい上端部との間の外壁部に位置決め部を有する釜本体と、内周部に前記位置決め部に位置決めする被位置決め部を有するリング状をなし、前記釜本体に前記底壁部の側から嵌合して前記被位置決め部が前記位置決め部に位置決めされ、前記釜本体の前記外壁部から外向きに突出した状態で固定される鍔部材と、を備える構成としている。
【0009】
この調理釜は、下端の底壁部と前記底壁部より大きい上端部との間の外壁部に位置決め部が形成された釜本体に、内周部に被位置決め部が形成されたリング状の鍔部材を前記底壁部の側から嵌合し、前記被位置決め部を前記位置決め部に位置決めして、前記鍔部材が前記釜本体の前記外壁部から外向きに突出した状態で固定して製造される。
【0010】
釜本体は、外壁部に位置決め部を設けた簡素な構造であるため、プレス加工またはダイカストにより形成できる。また、鍔部材は、リング状をなす内周部に被位置決め部を設けた簡素な構造であるため、押出成形またはダイカストにより形成できる。そのため、切削または研削等の調整作業を最小限に抑えることができる。そして、これらは、釜本体の底壁部から鍔部材を嵌合し、位置決め部に被位置決め部を位置決めして固定されるため、容易に一体化できる。そのため、製造コストを低減できる。また、釜本体に対する鍔部材の取付位置は、調理釜毎にバラツキが生じることなく、精度を向上できる。そのため、この調理釜を調理器に用いた場合、加熱手段から受ける熱量にバラツキが生じないため、安定した調理を実現できる。
【0011】
前記鍔部材は、前記釜本体の外周面に接触する上端内縁および下端内縁の間に、前記釜本体の外周面と間隔をあけて位置し前記釜本体の外周面との間に空隙部を形成する内周面を有することが好ましい。このようにすれば、鍔部材の上端内縁と下端内縁とを釜本体の外周面に確実に密着させて配置できる。
または、前記鍔部材は、前記釜本体の外周面に沿う内周面を有することが好ましい。このようにすれば、釜本体と鍔部材との接触率を高めることができる。
また、前記釜本体と前記鍔部材とは接合により固着されることが好ましい。このようにすれば、釜本体から鍔部材が脱落することを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の調理釜は、釜本体および鍔部材に位置決め部および被位置決め部を設けた簡素な構造であるため、切削または研削等の調整作業を最小限に抑えることができる。また、釜本体および鍔部材は、嵌合により位置決め部と被位置決め部を位置決めして固定されるため、容易に一体化できる。よって、製造コストを低減できる。さらに、釜本体に対する鍔部材の取付位置の精度を向上できるため、この調理釜を調理器に用いた場合、加熱手段から受ける熱量にバラツキが生じることはなく、安定した調理を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態の調理釜を適用した加熱調理器である炊飯器を示す要部断面図。
【
図4】釜本体に鍔部材を固定する状態を示す断面図。
【
図6】(A),(B)は調理釜の変形例を示す要部断面図。
【
図7】(A),(B)は調理釜の他の変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る実施形態の調理釜30を用いた加熱調理器である炊飯器10を示す。この炊飯器10は、調理釜30を着脱可能に収容する炊飯器本体11を備え、この炊飯器本体11の上部に蓋体22を開閉可能に配設している。
【0016】
炊飯器本体11には、上部に位置する肩体12に調理釜30を配置するための開口部が設けられている。この開口部の下側には、筒状をなす内胴13と、非導電性材料からなる保護枠14とが配設され、これらによって調理釜30の収容部15が形成されている。
【0017】
保護枠14の下部外周面には、調理釜30を誘導加熱する第1加熱手段である誘導加熱コイル16がフェライトコア17を介して配設されている。保護枠14の上部には、調理釜30の鍔部材38を受ける段状受部18が設けられている。この段状受部18には、第2加熱手段である羽ヒータ19が配設されている。さらに、内胴13の外周面には、調理釜30の鍔部材38の上側を加熱する第3加熱手段である胴ヒータ20が配設されている。また、保護枠14には、調理釜30の温度を検出するための第1温度検出手段である釜用温度センサ21が配設されている。
【0018】
蓋体22には、調理釜30の開口部35を密閉する内蓋23が配設されている。また、図示していないが、蓋体22には、調理釜30内および外部を連通する排気通路と、調理釜30の上部空間を加熱する第4加熱手段である蓋ヒータと、調理釜30内の温度を検出する第2温度検出手段である蓋用温度センサとが配設されている。
【0019】
この炊飯器10は、制御手段であるマイコンが、各温度センサからの入力値に基づいて、予め設定されたプログラムに従って各加熱手段を制御して、調理釜30内にセットされた調理物である飯米と水を加熱し、予熱、中ぱっぱ、沸騰維持およびむらしなどの各工程を実行して米飯を炊き上げる(調理する)。
【0020】
図2および
図3に示すように、調理釜30は、別体の釜本体31と鍔部材38とを備え、これらが接合により一体的に固着されている。
【0021】
釜本体31は、下端を閉塞するとともに上端を開口し、下側から上側へ向けて徐々に拡径させた有底略逆円錐筒状である。具体的には、下端に略平坦な円板状をなす底壁部32を備え、この底壁部32の外周縁に外壁部33が連続されている。底壁部32と外壁部33の間には、所定の曲率で湾曲した湾曲部34が形成されている。上端の開口部35には、径方向外向きに突出したフランジ部36が形成されている。このフランジ部36が炊飯器10の収容部15の開口縁に載置される。開口部35およびフランジ部36を含む上端部は、下端の底壁部32より大径である。
【0022】
釜本体31の外壁部33には、外側から内側へ向けて窪ませた環状の位置決め溝部(位置決め部)37が設けられている。位置決め溝部37は、底壁部32と開口部35との間の中間に位置する直角三角形状の溝からなる。具体的には、軸線に沿って平行に延び、軸線に直交する方向の断面形状が同一の円形状をなす溝底面37aを備える。この溝底面37aの上端に、径方向外向きに延びる端面37bを備える。
【0023】
このように、釜本体31は、逆錐形筒状をなす外壁部33に位置決め溝部37を設けた簡素な構造である。よって、薄肉のアルミニウム板とステンレス板とを貼り合わせたクラッド材をプレス加工することにより形成できる。なお、熱伝導性が良好な非磁性材であるアルミニウムが内側に配置され、蓄熱性が高く誘導加熱コイル16によって誘導加熱される磁性材であるステンレスが外側に配置される。そして、このプレス成形時に、位置決め溝部37を同時に形成できる。但し、プレス加工の代わりに、溶融金属を射出するダイカストにより形成することもできる。
【0024】
鍔部材38は、釜本体31の外壁部33から径方向外向きに突出した状態で固定されるリンク状の部材である。鍔部材38の外径は、釜本体31のフランジ部36の外径および肩体12の開口部の内径より小さい。鍔部材38の下面38aは、収容部15内の段状受部18に載置される水平面である。
【0025】
鍔部材38の下端内周部には、位置決め溝部37に位置決め可能な位置決め突部(被位置決め部)39が内向きに突設されている。位置決め突部39は、内周面が位置決め溝部37の溝底面37aの外側に密着し、上面が嵌合溝部の端面37bの下側に密着する。なお、この位置決め突部39の上部に位置する鍔部材38の内周面38bは、釜本体31の外壁部33の外周面33aに沿って密着するように研磨される。
【0026】
このように、鍔部材38は、リング状をなす内周部に位置決め突部39を設けた簡素な構造である。よって、希望形状の抜孔を有する耐圧性型枠にステンレス素材を入れ、高い圧力を加えて一定断面形状の線材を形成する押出成形により形成できる。押し出された所定長さの線材の円環状に湾曲させ、両端を互いに溶接することにより形成される。但し、押出成形の代わりにダイカストにより形成することもできる。
【0027】
鍔部材38を釜本体31に固定する際には、
図4に示すように、鍔部材38を釜本体31に対して底壁部32の側から開口部35の側へ向けて嵌合する。そして、釜本体31の位置決め溝部37に鍔部材38の位置決め突部39を位置決めし、この状態で釜本体31と鍔部材38とを接合して固定する。接合は、スポット溶接またはTIG(Tungsten Inert Gas)溶接により行われる。本実施形態では、
図3に示すように、鍔部材38の上端縁および下側内端縁の2カ所を周方向に溶接して、接合部40A,40Bが形成されている。これにより、鍔部材38が釜本体31から脱落しないように固着される。その後、内外の表面にフッ素加工等の表面処理を施すことにより、調理釜30が完成する。
【0028】
このように、調理釜30を構成する釜本体31と鍔部材38とは、いずれも簡素な構造であるため、型を用いた成形が可能である。そのため、切削または研削等の調整作業を最小限に抑えることができる。また、釜本体31と鍔部材38とは、位置決め部37に被位置決め部39を位置決めさせ、接合により固着することで、容易に一体化できる。そのため、製造コストを低減できる。
【0029】
また、位置決め溝部37を位置決め突部39に位置決めすることにより、釜本体31に対して鍔部材38を誤差なく高精度に取り付けることができる。よって、調理釜30毎に取付位置にバラツキが生じないため、この調理釜30を炊飯器10に用いた場合、羽ヒータ19から受ける熱量にバラツキが生じることはない。よって、安定した炊飯処理を実現できる。
【0030】
そして、調理釜30を用いた炊飯器10は、段状受部18に鍔部材38が載置されるため、鍔部材38から下側に閉塞した断熱空間を形成することができる。よって、誘導加熱コイル16による熱を逃がすことなく、高火力で調理することが可能である。また、羽ヒータ19の熱を鍔部材38から釜本体31に確実に伝導できるため、調理釜30内に収容した調理物(飯米および水)の加熱効率を向上できる。
【0031】
(第2実施形態)
図5は第2実施形態の調理釜30を示す。この第2実施形態の調理釜30は、釜本体31の外周面33aと鍔部材38の内周面38aとの間に空隙部41を形成した点で、第1実施形態と相違する。即ち、第1実施形態の鍔部材38の内周面38bは、釜本体31の外周面33aに沿うように設定したが、第2実施形態の鍔部材38の内周面38bは、釜本体31の外周面33aと所定の間隔をあけて位置するように設定している。具体的には、鍔部材38の内周面38bは、位置決め突部39と上端内縁との間が円弧状の曲面をなすように、径方向外向きに研磨して形成される。
【0032】
この第2実施形態の調理釜30は、釜本体31に鍔部材38を嵌合すると、特に鍔部材38の内周面38bの上端縁が、全周にかけて釜本体31の外周面33aに密着する。そのため、釜本体31と鍔部材38とを溶接する際に、高精度に接合できる。
【0033】
なお、本発明の調理釜30は前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0034】
例えば、前記実施形態では、釜本体31に位置決め部として位置決め溝部37を形成するとともに、鍔部材38に被位置決め部として位置決め突部39を形成したが、
図6(A)に示すように、釜本体31に位置決め部として位置決め突部39を形成し、鍔部材38に被位置決め部として位置決め溝部37を形成してもよい。また、
図6(B)に示すように、位置決め突部39の内周面に半球状に突出する嵌合部42を周方向に所定間隔をもって設ける構成としてもよい。さらに、前記実施形態では、位置決め部および被位置決め部を環状に設けたが、周方向に所定間隔をもって不連続的に設けてもよい。
【0035】
また、前記実施形態では、釜本体31を有底略逆円錐筒状に形成したが、
図7(A)に示すように、中間位置に位置決め部として位置決め段部43を形成した有底円筒状に形成してもよい。また、鍔部材38は、被位置決め部として位置決め突部39を突設したが、
図7(B)に示すように、円環状部材の内周部を被位置決め部としてもよい。
【符号の説明】
【0036】
30…調理釜
31…釜本体
32…底壁部
33…外壁部
33a…外周面
34…湾曲部
35…開口部
36…フランジ部
37…位置決め溝部(位置決め部)
37a…溝底面
37b…端面
38…鍔部材
38a…下面
38b…内周面
39…位置決め突部(被位置決め部)
40A,40B…接合部
41…空隙部
42…嵌合部
43…位置決め段部