(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[光学ガラス]
まず、本発明の光学ガラスについて説明する。
一般に、高分散ガラスは正の異常分散を示すが、高分散特性を維持しつつ、部分分散比Pg,Fを小さく抑え、部分分散比Pg,F−アッベ数νd図における標準線(ノーマルライン)に部分分散特性を近づけることができれば、低分散ガラスからなるレンズと組み合わせることによって、高次の色収差補正用として非常に有効な光学ガラス材料を提供することができる。
【0012】
本発明者らはこうしたガラス材料の実現のため、部分分散特性をノーマルラインに近づけるのに有利なシリカ系組成をベースとし、高屈折率高分散性を付与するため、Nb
2O
5とTiO
2を必須成分として導入した。
【0013】
本発明者らの得た知見に基づけば、Nb
2O
5とTiO
2とではNb
2O
5のほうが部分分散比を抑える働きが大きい。そこで、Nb
2O
5とTiO
2の比率を調整して部分分散比を抑えることにした。
【0014】
次にガラスを再加熱、軟化して成形する際の成形性に配慮し、低温軟化性を付与するためにアルカリ金属成分を導入するが、Li
2O、Na
2O、K
2Oのいずれかに偏ってアルカリ金属成分を導入するとガラスの安定性が急激に低下してしまうことが判明した。そこで、Li
2O、Na
2O、K
2Oをガラス成分として共存させることによる混合アルカリ効果によってガラスの安定性を飛躍的に改善することに成功した。
このような知見に基づき、各成分量を最適化し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明の光学ガラスは、質量%表示で、
SiO
2 12〜40%、
Nb
2O
5 15%以上42%未満、
TiO
2 2%以上18%未満
(ただし、Nb
2O
5/TiO
2が0.6超である)、
Li
2O 0.1〜20%、
Na
2O 0.1〜15%、
K
2O 0.1〜25%、
を含み、アッベ数νdが20〜30、部分分散比Pg,Fが0.580〜0.620、ΔPg,Fが0.016以下、液相温度が1200℃以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の光学ガラスは、屈折率ndが例えば1.82〜1.90と高い屈折率を示し、このガラスで作製した光学素子は光学系のコンパクト化に有効である。
【0017】
ここで、部分分散比Pg,Fは、g線、F線、c線における各屈折率ng、nF、ncを用いて、(ng−nF)/(nF−nc)と表される。
【0018】
部分分散比Pg,F−アッベ数νd図において正常部分分散ガラスの基準となるノーマルライン上の部分分散比をPg,F
(0)と表すと、Pg,F
(0)はアッベ数νdを用いて次式で表される。
Pg,F
(0)=0.6483−(0.0018×νd)
【0019】
ΔPg,Fは、上記ノーマルラインからの部分分散比Pg,Fの偏差であり、次式で表される。
ΔPg,F=Pg,F−Pg,F
(0)
=Pg,F+(0.0018×νd)−0.6483
なお、本明細書において、特記しない限り各成分の含有量、合計含有量は質量%にて表示するとともに、前記量の比率も質量比で表示する。
【0020】
本発明の光学ガラスは、次の2つの態様に大別される。
第1の態様は、任意成分として、
B
2O
3 0〜10%、
ZrO
2 0〜20%、
WO
3 0〜22%、
CaO 0〜17%、
SrO 0〜13%、
BaO 0〜20%
(ただし、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量が0〜25%である)、
ZnO 0〜13%、
La
2O
3 0〜3%、
Gd
2O
3 0〜3%、
Y
2O
3 0〜3%、
Yb
2O
3 0〜3%、
Ta
2O
5 0〜10%、
GeO
2 0〜3%、
Bi
2O
3 0〜10%、
Al
2O
3 0〜10%、
を含み、Nb
2O
5およびTiO
2の合計含有量が35〜65%、Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの合計含有量が1〜30%であり、屈折率ndが1.82以上1.87未満である光学ガラスである。
【0021】
第2の態様は、第1の態様よりさらに屈折率の高いガラスであって、任意成分として、
B
2O
3 0〜10%、
ZrO
2 0〜20%、
WO
3 0〜20%、
CaO 0〜13%、
SrO 0〜13%、
BaO 0〜20%
(ただし、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量が0〜25%である)、
ZnO 0〜13%、
La
2O
3 0〜3%、
Gd
2O
3 0〜3%、
Y
2O
3 0〜3%、
Yb
2O
3 0〜3%、
Ta
2O
5 0〜10%、
GeO
2 0〜3%、
Bi
2O
3 0〜10%、
Al
2O
3 0〜10%、
を含み、Nb
2O
5およびTiO
2の合計含有量が
30〜
60%、K
2Oの合計含有量が0.1〜15%、Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの合計含有量が1〜25%であり、屈折率ndが1.87〜1.90である光学ガラスである。
【0022】
第1の態様、第2の態様の各光学ガラスともに外割りでSb
2O
3を0〜2%、SnO
2を0〜2%添加することができる。
【0023】
上記各成分の働きと組成範囲の限定理由について説明する。
SiO
2は、ガラスの網目形成酸化物であり、ガラス安定性、熔融ガラスの成形性を維持する上で必要な必須成分である。その含有量が12%未満であるとガラス安定性が低下し、化学的耐久性が悪化する。また、熔融ガラス成形時のガラスの粘性が低くなりすぎ、成形性が低下してしまう。一方、その含有量が40%を越えると液相温度、ガラス転移温度が上昇し、耐失透性や熔融性が悪化も悪化する。また所要のアッべ数νdの実現も困難になる。したがって、SiO
2の含有量は12〜40%とする。SiO
2の含有量の好ましい範囲は15〜35%、より好ましい範囲は18〜33%、さらに好ましい範囲は20〜30%、一層好ましい範囲は22〜28%である。
【0024】
Nb
2O
5は、屈折率を高め、液相温度を低下させて耐失透性を向上させる働きをする必須成分である。また高屈折率付与成分の中では部分分散特性をノーマルラインに近づける、即ち、ΔPg,Fをゼロに近づける働きをする成分でもある。その含有量が15%未満であると所望の屈折率を維持することが困難になるなどの問題が生じるとともに、部分分散特性をノーマルラインに近づけることが困難になる。しかし、その含有量が42%以上になると、液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。したがって、Nb
2O
5の含有量は15%以上42%未満とする。Nb
2O
5の含有量の好ましい下限は18%、より好ましい下限は20%、さらに好ましい下限は22%、一層好ましい下限は25%であり、好ましい上限は41.5%、より好ましい上限は41%である。
【0025】
TiO
2は、屈折率を高め、耐失透性および化学的耐久性の向上に有効な必須成分である。その含有量が2%未満であると上記効果が得られず、18%以上であると所望のアッべ数νdを実現するのが困難となる。したがって、TiO
2の含有量は2%以上18%未満とする。TiO
2の含有量の好ましい範囲は第1の態様の光学ガラスにおいては3%以上16%未満、第2の態様の光学ガラスにおいては2%以上12%未満、より好ましい範囲は第1の態様の光学ガラスにおいては4%以上14%未満、第2の態様の光学ガラスにおいては3%以上12%未満、さらに好ましい範囲は第1の態様においては5%以上12%未満、第2の態様の光学ガラスにおいては4%以上12%未満、一層好ましい範囲は第1の態様の光学ガラスにおいては6%以上12%未満、第2の態様である光学ガラスにおいては5%以上12%未満、第2の態様の光学ガラスにおいてはより一層好ましい範囲があり、6%以上12%未満である。
【0026】
ΔPg,Fをコントロールするには、TiO
2の含有量に対するNb
2O
5の含有量の比率Nb
2O
5/TiO
2が重要な役割を果たす。前記比率が0.6以下であると部分分散比やΔPg,Fが大きくなり、高次の色補正効果が低下する。したがって、TiO
2の含有量に対するNb
2O
5の含有量の比率Nb
2O
5/TiO
2は0.6超とする。前記比率Nb
2O
5/TiO
2の好ましい範囲は0.70以上、より好ましい範囲は0.80以上、さらに好ましい範囲は0.90以上、一層好ましい範囲は1.0以上である。
【0027】
Li
2Oは、熔融性を向上させ、ガラス転移温度を低下させる働きをする。Li
2Oはアルカリ金属成分の中でも特にガラス転移温度を低下させる働きが大きく、しかも比較的、高屈折率を維持することができる成分である。また、Na
2OやK
2Oとの共存による混合アルカリ効果によってガラス安定性が向上する。Li
2Oの含有量が0.1%未満であると上記効果が得られず、20%を超えると液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。したがって、Li
2Oの含有量は0.1〜20%とする。Li
2Oの含有量の好ましい範囲は0.1〜17%、より好ましい範囲は0.1〜15%である。さらに、第1の態様の光学ガラスにおけるLi
2Oの含有量の一層好ましい範囲は1〜10%、より一層好ましい範囲は1〜5%である。第2の態様においては、一層好ましい範囲は1〜12%、より一層好ましい範囲は1〜10%である。
【0028】
Na
2Oは熔融性を向上させ、ガラス転移温度を低下させる働きをする。また、Li
2Oとともに混合アルカリ効果によりガラス安定性を飛躍的に向上させる働きもする。Na
2Oの含有量が0.1%未満であると上記効果が得られず、15%を超えると液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。したがって、Na
2Oの含有量は0.1〜15%とする。Na
2Oの含有量の好ましい範囲は0.1〜12%、より好ましい範囲は0.5〜10%である。
【0029】
第1の態様の光学ガラスにおけるNa
2Oの含有量のさらに好ましい範囲は0.5〜9%、一層好ましい範囲は0.5〜8%であり、第2の態様の光学ガラスにおけるNa
2Oの含有量のさらに好ましい範囲は0.5〜7%、一層好ましい範囲は0.5〜5%である。
【0030】
K
2Oも熔融性を向上させ、ガラス転移温度を低下させる働きをする。また、Li
2O、Na
2Oとともに混合アルカリ効果によりガラス安定性を飛躍的に向上させる働きもする。K
2Oの含有量が0.1%未満であると上記効果が得られず、K
2Oの含有量が25%を超えると、液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。したがって、K
2Oの含有量は0.1〜25%とする。
【0031】
第1の態様の光学ガラスにおけるK
2Oの含有量の好ましい範囲は0.1〜22%、より好ましい範囲は0.5〜20%、さらに好ましい範囲は0.5〜17%、一層好ましい範囲は0.5〜15%である。
【0032】
第2の態様の光学ガラスにおけるK
2Oの含有量の好ましい範囲は0.1〜15%、より好ましい範囲は0.1〜12%、さらに好ましい範囲は0.5〜10%、一層好ましい範囲は0.5〜7%、より一層好ましい範囲は0.5〜5%である。
【0033】
本発明の光学ガラス(第1および第2の態様の光学ガラスを含む)のアッベ数νdは20〜30であるが、耐失透性をより良好にしつつ、所望の部分分散特性を実現する上から、アッベ数νdの好ましい範囲は21〜29、より好ましい範囲は22〜29である。
【0034】
本発明の光学ガラスのΔPg,Fは0.016以下であるが、上記諸性質をより良好にしやすくする上から、ΔPg,Fが0.015以下であることが好ましく、0.014以下であることがより好ましく、0.013以下であることがさらに好ましく、0.012以下であることが一層好ましい。ΔPg,Fの下限に特に制限はないが、通常は0以上、上記諸性質をより良好にしやすくする上から0.001以上が好ましく、0.002以上がより好ましく、0.005以上がさらに好ましく、0.007以上が一層好ましい。
【0035】
また、上記諸性質をより良好にしやすくする上から、部分分散比Pg,Fを0.580〜0.620にすることが好ましい。Pg,Fのより好ましい範囲は0.585〜0.620、さらに好ましい範囲は0.590〜0.619、一層好ましい範囲は0.595〜0.618、より一層好ましい範囲は0.600〜0.618である。
【0036】
本発明の光学ガラスは、液相温度が1200℃以下であって安定性に優れている。液槽温度の好ましい範囲は1180℃以下、より好ましい範囲は1160℃以下である。
【0037】
次に任意成分について説明する。
B
2O
3は、ガラスの網目形成酸化物であり、熔融性を向上させ、液相温度を低下させる働きをするほか、低分散性を実現する上でも有効な成分である。しかし、10%を超えて導入すると屈折率が低下し、化学的耐久性も悪化するため、B
2O
3の含有量は0〜10%とする。B
2O
3の含有量の好ましい範囲は0〜8%、より好ましい範囲は0〜7%、さらに好ましい範囲は0〜6%、一層好ましい範囲は0〜5%である。
【0038】
ZrO
2は、屈折率を高め、化学的耐久性を改善する働きをする。しかし、その含有量が20%を超えると耐失透性が低下し、ガラス転移温度が上昇する。したがって、ZrO
2の含有量を0〜20%とする。ZrO
2の含有量の好ましい範囲は0〜16%、より好ましい範囲は0〜14%、さらに好ましい範囲は0〜12%、一層好ましい範囲は0〜10%である。
【0039】
WO
3は、屈折率を高め、液相温度を低下させ、耐失透性を改善する働きをする。しかし、第1の態様の光学ガラスにおいて、その含有量が22%を超えると、また第2の態様の光学ガラスにおいて、その含有量が20%を超えると、液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。またガラスの着色が強まるので、第1の態様の光学ガラスにおいては、WO
3の含有量を0〜22%、第2の態様の光学ガラスにおいては、WO
3の含有量を0〜20%とする。第1の態様の光学ガラスにおいて、WO
3の含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は0〜17%、さらに好ましい範囲は1〜15%、一層好ましい範囲は1〜12%である。第2の態様の光学ガラスにおいて、WO
3の含有量の好ましい範囲は0〜17%、より好ましい範囲は0〜15%、さらに好ましい範囲は1〜12%、一層好ましい範囲は1〜10%である。
【0040】
CaOは、熔融性を改善し、光線透過率を高める働きをする。また炭酸塩原料や硝酸塩原料を用いてガラスに導入することにより、脱泡効果を得ることもできる。しかし、第1の態様の光学ガラスにおいてその含有量が17%を超えると、また第2の態様の光学ガラスにおいて、その含有量が13%を超えると、液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。また屈折率も低下するため、第1の態様の光学ガラスではCaOの含有量を0〜17%、第2の態様の光学ガラスではCaOの含有量を0〜13%とする。第1の態様において、CaOの含有量の好ましい範囲は0〜15%、より好ましい範囲は0〜12%、さらに好ましい範囲は0〜10%、一層好ましい範囲は0〜8%である。第2の態様において、CaOの含有量の好ましい範囲は0〜12%、より好ましい範囲は0〜10%、さらに好ましい範囲は0〜7%、一層好ましい範囲は0〜5%である。
【0041】
SrOも熔融性を改善し、光線透過率を高める働きをする。また炭酸塩原料や硝酸塩原料を用いてガラスに導入することにより、脱泡効果を得ることもできる。しかし、その含有量が13%を超えると液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。また屈折率も低下するため、SrOの含有量は0〜13%とする。SrOの含有量の好ましい範囲は0〜12%、より好ましい範囲は0〜10%、さらに好ましい範囲は0〜7%、一層好ましい範囲は0〜5%である。
【0042】
BaOも熔融性を改善し、光線透過率を高める働きをする。また炭酸塩原料や硝酸塩原料を用いてガラスに導入することにより、脱泡効果を得ることもできる。しかし、その含有量が20%を超えると液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。また屈折率も低下するため、BaOの含有量は0〜20%とする。BaOの含有量の好ましい範囲は0〜17%、第1の態様の光学ガラスにおいては、より好ましい範囲は0〜15%であり、さらに好ましい範囲は0〜12%、一層好ましい範囲は0〜10%、第2の態様の光学ガラスにおいては
、BaOの含有量のより好ましい範囲は1〜15%、さらに好ましい範囲は2〜12%、一層好ましい範囲は3〜10%である。
【0043】
液相温度の上昇を抑え、耐失透性を良化する上から、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量を0〜25%とすることが望ましい。CaO、SrOおよびBaOの合計含有量のより好ましい範囲は1〜22%、さらに好ましい範囲は2〜20%、一層好ましい範囲は3〜17%、より一層好ましい範囲は5〜15%である。
【0044】
ZnOも熔融性を改善し、光線透過率を高める働きをする。また炭酸塩原料や硝酸塩原料を用いてガラスに導入することにより、脱泡効果を得ることもできる。しかし、その含有量が13%を超えると液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。また屈折率も低下するため、ZnOの含有量は0〜13%とする。ZnOの含有量の好ましい範囲は0〜12%、より好ましい範囲は0〜10%であり、さらに好ましい範囲は0〜7%、一層好ましい範囲は0〜5%である。
【0045】
La
2O
3、Gd
2O
3、Y
2O
3、Yb
2O
3は、屈折率を高め、化学的耐久性を向上させる働きをするが、それぞれ3%を超えて導入すると液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。したがって、La
2O
3、Gd
2O
3、Y
2O
3、Yb
2O
3の各含有量を0〜3%とする。La
2O
3、Gd
2O
3、Y
2O
3、Yb
2O
3の含有量の好ましい範囲はいずれも0〜2%、さらに好ましい範囲は0〜1%であり、一層好ましくはLa
2O
3、Gd
2O
3、Y
2O
3、Yb
2O
3とも導入しない。
【0046】
Ta
2O
5も屈折率を高め、化学的耐久性を向上させる働きをするが、10%を超えて導入すると液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。したがって、Ta
2O
5の含有量を0〜10%とする。Ta
2O
5の含有量の好ましい範囲は0〜7%、より好ましい範囲は0〜5%である。
【0047】
GeO
2は、網目形成酸化物であり、屈折率を高める働きもする。しかし、高価な成分であるため、GeO
2の含有量は0〜3%、好ましくは0〜2%とする。GeO
2を導入しないことがより好ましい。
【0048】
Bi
2O
3は、屈折率を高めるとともに、ガラス安定性を改善する働きをするが、10%を超えて導入するとガラスの着色が強まるため、Bi
2O
3の含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%とする。第1の態様の光学ガラスにおいては、Bi
2O
3の含有量のより好ましい範囲は0〜4%、第2の態様の光学ガラスにおいては、Bi
2O
3の含有量のより好ましい範囲は0〜3%である。
【0049】
Al
2O
3は、少量であればガラス安定性および化学的耐久性を改善する働きをするが、10%を超えて導入すると液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。したがって、Al
2O
3の含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%とする。
【0050】
第1の態様の光学ガラスにおいては、Nb
2O
5とTiO
2の合計含有量を35〜65%、好ましくは38〜62%、より好ましくは40〜62%、さらに好ましくは43〜60%、一層好ましくは45〜58%とする。
【0051】
第2の態様の光学ガラスにおいては、Nb
2O
5とTiO
2の合計含有量を30〜60%、好ましくは33〜59%、より好ましくは35〜58%、さらに好ましくは38〜57%、一層好ましくは40〜55%とする。
【0052】
第1の態様、第2の態様の光学ガラスのいずれにおいても、Nb
2O
5とTiO
2の合計含有量が少なすぎると所要の光学特性を実現することが難しくなり、前記合計量が多すぎると液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。
【0053】
第1の態様の光学ガラスにおいては、Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの合計含有量を1〜30%、好ましくは2〜27%、より好ましくは3〜25%、さらに好ましくは4〜22%、一層好ましくは5〜20%とする。
【0054】
第2の態様の光学ガラスにおいては、Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの合計含有量を1〜25%、好ましくは2〜22%、より好ましくは3〜20%、さらに好ましくは4〜18%、一層好ましくは5〜15%とする。
【0055】
第1の態様、第2の態様のいずれの光学ガラスにおいても、Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの合計含有量が少なすぎるとガラス転移温度が上昇し、熔融性も低下する。一方、前記合計量が多すぎると液相温度が上昇し、耐失透性が低下する。
【0056】
第1の態様の光学ガラスは、屈折率ndが1.82以上1.87未満、好ましくは1.82〜1.865、より好ましくは1.82〜1.860と高屈折率であるが、本発明の光学ガラスにおいては比較的屈折率が低い。
【0057】
一方、第2の態様の光学ガラスは、屈折率ndが1.87〜1.90、好ましくは1.87〜1.895、より好ましくは1.87〜1.89と、本発明の光学ガラスにおいて比較的屈折率の高いガラスに相当する。
【0058】
本発明のガラスは、Lu、Hfといった成分を含有させることを必要としない。Lu、Hfも高価な成分であるので、Lu
2O
3、HfO
2の含有量をそれぞれ0〜1%に抑えることが好ましく、それぞれ0〜0.5%に抑えることがより好ましく、Lu
2O
3を導入しないこと、HfO
2を導入しないことがそれぞれ特に好ましい。
【0059】
また、環境影響に配慮し、As、Pb、U、Th、Te、Cdも導入しないことが好ましい。
【0060】
さらに、ガラスの優れた光線透過性を活かす上から、Cu、Cr、V、Fe、Ni、Coなどの着色の要因となる物質を導入しないことが好ましい。
【0061】
本発明の光学ガラスには、外割りでSb
2O
3を0〜2%、SnO
2を0〜2%添加することができる。これらの添加剤は清澄剤として機能するほか、Sb
2O
3はFeなどの不純物混入によるガラスの着色を抑制することができる。Sb
2O
3、SnO
2の好ましい添加量はそれぞれ外割りで0〜1%、より好ましくは0〜0.5%である。
【0062】
本発明のガラスはガラス転移温度が好ましくは600℃未満、より好ましくは590℃以下、さらに好ましくは580℃以下である。このようにガラス転移温度が低いので、精密プレス成形に好適であるほか、ガラスの再加熱、軟化して成形する際の成形性にも優れている。ガラス転移温度が上記のように低いので成形時の加熱温度も比較的低く抑えることができる。そのため、ガラスとプレス成形型などの成形型との化学反応も起こりにくいため、清浄かつ平滑な表面を有するガラス成形体を成形することができる。また、成形型の劣化も抑制することができる。
【0063】
なお、上記光学ガラスは、目的のガラス組成が得られるように、原料である酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物などを秤量、調合し、十分に混合して混合バッチとし、熔融容器内で加熱、熔融し、脱泡、攪拌を行い均質かつ泡を含まない熔融ガラスを作り、これを成形することによって得ることができる。具体的には公知の熔融法を用いて作ることができる。
【0064】
[プレス成形用ガラス素材]
次に本発明のプレス成形用ガラス素材について説明する。
本発明のプレス成形用ガラス素材は、上記した本発明の光学ガラスからなることを特徴とするものである。
【0065】
上記ガラス素材は、プレス成形に供されるガラス塊を意味する。ガラス素材の例としては、精密プレス成形用プリフォーム、光学素子ブランクのプレス成形用ガラスゴブなど、プレス成形品の質量に相当するガラス塊を示すことができる。
【0066】
以下、ガラス素材の上記各例について説明する。
精密プレス成形用プリフォーム(以下、単にプリフォームをいうことがある。)は、加熱して精密プレス成形に供されるガラス予備成形体を意味するが、ここで精密プレス成形とは、周知のようにモールドオプティクス成形とも呼ばれ、光学素子の光学機能面をプレス成形型の成形面を転写することにより形成する方法である。なお、光学機能面とは光学素子において、制御対象の光を屈折したり、反射したり、回折したり、入出射させる面を意味し、レンズにおけるレンズ面などがこの光学機能面に相当する。
【0067】
精密プレス成形時にガラスとプレス成形型成形面との反応、融着を防止しつつ、成形面に沿ってガラスの延びが良好になるようにするため、プリフォームの表面に離型膜を被覆することが好ましい。離型膜の種類としては、
・貴金属(白金、白金合金)
・酸化物(Si、Al、Zr、La、Yの酸化物など)
・窒化物(B、Si、Alの
窒化物など)
・炭素含有膜
があげられる。炭素含有膜としては、炭素を主成分とするもの(膜中の元素含有量を原子%で表したとき、炭素の含有量が他の元素の含有量よりも多いもの)が望ましい。具体的には、炭素膜や炭化水素膜などを例示することができる。炭素含有膜の成膜法としては、炭素原料を使用した真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の方法や、炭化水素などの材料ガスを使用した熱分解などの公知の方法を用いればよい。その他の膜については、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法等を用いて成膜することが可能である。
【0068】
プリフォームの作製は、次のようにして行う。
第1の作製例は、熔融ガラスから所定重量の熔融ガラス塊を分離、冷却して、当該熔融ガラス塊と等しい質量を有するプリフォームを成形する方法である。例えば、ガラス原料を熔融、清澄、均質化して均質な熔融ガラスを用意し、温度調整された白金または白金合金製の流出ノズルあるいは流出パイプから流出する。小型のプリフォームや球状のプリフォームを成形する場合は、熔融ガラスを流出ノズルから所望質量の熔融ガラス滴として滴下し、それをプリフォーム成形型によって受けてプリフォームに成形する。あるいは、同じく所望質量の熔融ガラス滴を流出ノズルより液体窒素などに滴下してプリフォームを成形する。中大型のプリフォームを作製する場合は、流出パイプより熔融ガラス流を流下させ、熔融ガラス流の先端部をプリフォーム成形型で受け、熔融ガラス流のノズルとプリフォーム成形型の間にくびれ部を形成した後、プリフォーム成形型を真下に急降下して、熔融ガラスの表面張力によってくびれ部にて熔融ガラス流を分離し、受け部材に所望質量の熔融ガラス塊を受けてプリフォームに成形する。
【0069】
キズ、汚れ、シワ、表面の変質などがない滑らかな表面、例えば自由表面を有するプリフォームを製造するためには、プリフォーム成形型などの上で熔融ガラス塊に風圧を加えて浮上させながらプリフォームに成形したり、液体窒素などの常温、常圧下では気体の物質を冷却して液体にした媒体中に熔融ガラス滴を入れてプリフォームに成形する方法などが用いられる。
【0070】
熔融ガラス塊を浮上させながらプリフォームに成形する場合、熔融ガラス塊にはガス(浮上ガスという)が吹きつけられ上向きの風圧が加えられることになる。この際、熔融ガラス塊の粘度が低すぎると浮上ガスがガラス中に入り込み、プリフォーム中に泡となって残ってしまう。しかし、熔融ガラス塊の粘度を3〜60dPa・sにすることにより、浮上ガスがガラス中に入り込むことなく、ガラス塊を浮上させることができる。
【0071】
プリフォームに浮上ガスが吹き付けられる際に用いられるガスとしては、空気、N
2ガス、O
2ガス、Arガス、Heガス、水蒸気等が挙げられる。また、風圧は、プリフォームが成形型表面等の固体と接することなく浮上できれば特に制限はない。
【0072】
プリフォームより製造される精密プレス成形品(例えば、光学素子)は、レンズのように回転対称軸を有するものが多いため、プリフォームの形状も回転対称軸を有する形状が望ましい。具体例としては、球あるいは回転対称軸を一つ備えるものを示すことができる。回転対称軸を一つ備える形状としては、前記回転対称軸を含む断面において角や窪みがない滑らかな輪郭線をもつもの、例えば上記断面において短軸が回転対称軸に一致する楕円を輪郭線とするものなどがあり、球を扁平にした形状(球の中心を通る軸を一つ定め、前記軸方向に寸法を縮めた形状)を挙げることもできる。
【0073】
プリフォームの第2の作製例は均質な熔融ガラスを鋳型に鋳込んで成形した後、成形体の歪をアニールによって除去し、切断または割断して、所定の寸法、形状に分割し、複数個のガラス片を作製し、ガラス片を研磨して表面を滑らかにするとともに、所定の質量のガラスからなるプリフォームとする。このようにして作製したプリフォームの表面にも炭素含有膜を被覆して使用することが好ましい。
【0074】
ガラス素材である光学素子ブランクのプレス成形用ガラスゴブは、研削、研磨によって光学素子に仕上げられる光学素子ブランクをプレス成形する際に使用するガラス塊である。光学素子ブランクは目的とする光学素子の形状に研削、研磨により除去する加工しろを加えた形状を有する。
【0075】
上記ガラスゴブの作製例として、均質な熔融ガラスを鋳型に鋳込んで成形した後、成形体の歪をアニールによって除去し、切断または割断して、所定の寸法、形状に分割し、複数個のガラス片を作製し、ガラス片をバレル研磨してガラス片のエッジを丸めるとともに、光学素子ブランクの質量に等しくなるようにガラスゴブの質量を調整する。バレル研磨したゴブ表面は、粗面となっており、プレス成形にゴブ表面に塗布する粉末状離型剤が均一に塗布しやすい面をなっている。
【0076】
ガラスゴブの第2の作製例は、流出する熔融ガラス流の先端をゴブ成形型で受け、熔融ガラス流の途中にくびれ部を形成した後、ゴブ成形型を真下に急降下して表面張力によりくびれ部にて熔融ガラスを分離する。こうして所望質量の熔融ガラス塊をゴブ成形型上に得、このガラスにガスを噴出して上向きの風圧を加えて浮上させながらガラス塊に成形する。こうして得たガラス塊をアニールしてからバレル研磨して所望の質量のガラスゴブにする。
【0077】
[光学素子]
次に本発明の光学素子について説明する。本発明の光学素子は、上記した本発明の光学ガラスからなることを特徴とする。具体的には、非球面レンズ、球面レンズ、あるいは平凹レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズなどのレンズ、マイクロレンズ、レンズアレイ、回折格子付きレンズ、プリズム、レンズ機能付きプリズムなどを例示することができる。表面には必要に応じて反射防止膜や波長選択性のある部分反射膜などを設けてもよい。
【0078】
本発明の光学素子は、高分散特性を有するガラスにあって部分分散比が小さいガラスからなるので、他のガラスからなる光学素子と組合せることにより、高次の色補正を行うことができる。また、本発明の光学素子は屈折率が高いガラスからなるので、撮像光学系、投射光学系などに使用することで光学系をコンパクト化することができる。
【0079】
[光学素子ブランクの製造方法]
次に本発明の光学素子ブランクの製造方法について説明する。
本発明の第1の光学素子ブランクの製造方法は、上記した本発明のプレス成形用ガラス素材を加熱、軟化してプレス成形する方法である。前述のように、ガラス素材の表面に窒化ホウ素などの粉末状離型剤を均一に塗布し、耐熱性皿に載せて加熱軟化炉内に入れ、ガラスが軟化するまで加熱した後、プレス成形型に導入してプレス成形する。次にプレス成形品を型から取り出し、アニールして歪を除くとともに屈折率などの光学特性が所望の値になるように光学特性の調整を行う。
【0080】
第2の光学素子ブランクの製造方法は、熔融ガラスをプレス成形型に供給してプレス成形する光学素子ブランクの製造方法において、上記した本発明の光学ガラスが得られるように調合したガラス原料を加熱、熔融して得られた熔融ガラスをプレス成形することを特徴とする方法である。まず、均質化した熔融ガラスを窒化ホウ素などの粉末状離型剤を均一に塗布した下型成形面上に流出し、下端部が下型に支持された熔融ガラス流を途中でシアと呼ばれる切断刃を用いて切断する。こうして、所望質量の熔融ガラス塊を下型成形面上に得る。次に、熔融ガラス塊を載せた下型を別の位置に待機する上型の真下に移送し、上型および下型で熔融ガラス塊をプレスして光学素子ブランク形状に成形する。次にプレス成形品を型から取り出し、アニールして歪を除くとともに屈折率などの光学特性が所望の値になるように光学特性の調整を行う。
【0081】
上記2つの製造方法は、ともに大気中で行うことができる。また、成形条件、プレス成形型の材質、加熱軟化炉および加熱、軟化する際にガラスゴブを載せる皿などについては公知の条件やものを使用することができる。
【0082】
[光学素子の製造方法]
次に本発明の光学素子の製造方法について説明する。
本発明の第1の光学素子の製造方法は、上記した本発明の方法で作製した光学素子ブランクを研削、研磨することを特徴とする。研削、研磨は公知の方法を用いればよい。
【0083】
本発明の第2の光学素子の製造方法は、上記本発明のプレス成形用ガラス素材を加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形することを特徴とする。ここで、上記ガラス素材はプリフォームのことである。
【0084】
プレス成形型ならびにプリフォームの加熱およびプレス工程は、プレス成形型の成形面あるいは前記成形面に設けられた離型膜の酸化を防止するため、窒素ガス、あるいは窒素ガスと水素ガスの混合ガスなどのような非酸化性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。非酸化性ガス雰囲気中ではプリフォーム表面を被覆する炭素含有膜も酸化されずに、精密プレス成形された成形品の表面に前記膜が残存することになる。この膜は、最終的には除去するべきものであるが、炭素含有膜を比較的容易にしかも完全に除去するには、精密プレス成形品を酸化性雰囲気、例えば大気中において加熱すればよい。炭素含有膜の酸化、除去は、精密プレス成形品が加熱により変形しないような温度で行うべきである。具体的には、ガラスの転移温度未満の温度範囲において行うことが好ましい。
【0085】
精密プレス成形では、予め成形面を所望の形状に高精度に加工されたプレス成形型を用いるが、成形面には、プレス時のガラスの融着を防止するため、離型膜を形成してもよい。離型膜としては、炭素含有膜や窒化物膜、貴金属膜が挙げられ、炭素含有膜としては水素化カーボン膜、炭素膜などが好ましい。精密プレス成形では、成形面が精密に形状加工された対向した一対の上型と下型との間にプリフォームを供給した後、ガラスの粘度が10
5〜10
9dPa・s相当の温度まで成形型とプリフォームの両者を加熱してプリフォームを軟化し、これを加圧成形することによって、成形型の成形面をガラスに精密に転写する。
【0086】
また、成形面が精密に形状加工された対向した一対の上型と下型との間に、予めガラスの粘度で10
4〜10
8dPa・sに相当する温度に昇温したプリフォームを供給し、これを加圧成形することによって、成形型の成形面をガラスに精密に転写することができる。
【0087】
加圧時の圧力及び時間は、ガラスの粘度などを考慮して適宜決定することができ、例えば、プレス圧力は約5〜15MPa、プレス時間は10〜300秒とすることができる。プレス時間、プレス圧力などのプレス条件は成形品の形状、寸法に合わせて周知の範囲で適宜設定すればよい。
【0088】
この後、成形型と精密プレス成形品を冷却し、好ましくは歪点以下の温度となったところで、離型し、精密プレス成形品を取出す。なお、光学特性を精密に所望の値に合わせるため、冷却時における成形品のアニール処理条件、例えばアニール速度等を適宜調整してもよい。
【0089】
上記第2の光学素子の製造方法は以下の2つの方法に大別できる。第1の方法は、プレス成形型にガラス素材を導入し、該成形型とガラス素材を一緒に加熱するの光学素子の製造方法であり、面精度、偏心精度など成形精度の向上を重視した場合、推奨される方法である。第2の方法は、ガラス素材を加熱し、予熱したプレス成形型に導入して精密プレス成形する光学素子の製造方法であり、生産性向上を重視した場合に推奨される方法である。
【0090】
なお、本発明の光学素子は、プレス成形工程を経なくても作製することはできる。例えば、均質な熔融ガラスを鋳型に鋳込んでガラスブロックを成形し、アニールして歪を除去するとともに、ガラスの屈折率が所望の値になるようにアニール条件を調整して光学特性の調整を行ったのち、次にガラスブロックを切断または割断してガラス片を作り、さらに研削、研磨して光学素子に仕上げることにより得ることができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
表1および表2に示すガラス組成になるように、各成分を導入するための原料としてそれぞれ相当する酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物などを用い、原料を秤量し、十分に混合して調合原料とし、これを白金坩堝に入れ、加熱、熔融した。熔融後、熔融ガラスを鋳型に流し込み、ガラス転移温度付近まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、ガラスの転移温度範囲で約1時間アニール処理した後、炉内で室温まで放冷することにより、ガラスNo.1〜17の光学ガラスを得た。
ガラスNo.13、15、16は参考例である。表1のガラスNo.1〜17は第1の態様のガラスであり、表2のガラスNo.12〜17は第2の態様のガラスである。
得られた光学ガラス中には、顕微鏡で観察できる結晶は析出しなかった。
このようにして得られた光学ガラスの請特性を表3に示す。
【0092】
なお、光学ガラスの諸特性は、以下に示す方法により測定した。
(1)屈折率nd、ng、nF、ncおよびアッベ数νd
降温速度−30℃/時間で降温して得られたガラスについて、日本光学硝子工業会規格の屈折率測定法により、屈折率nd、ng、nF、nc、アッベ数νdを測定した。
(2)液相温度LT
ガラスを所定温度に加熱された炉内に入れて2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無から液相温度を決定した。
(3)ガラス転移温度Tg
示差走査熱量計(DSC)により、昇温速度10℃/分として測定した。
(4)部分分散比Pg,F
屈折率ng、nF、ncから算出した。
(5)部分分散比のノーマルラインからの偏差ΔPg,F
部分分散比Pg,Fおよびアッベ数νdから算出されるノーマルライン上の部分分散比Pg,F
(0)から算出した。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
(比較例)
特許文献1の実施例1〜13の組成になるように同文献に記載されている方法でガラスを熔解したところ、実施例1、2については熔融物を撹拌中に失透し、実施例4〜13についてはガラス化しなかった。実施例3は熔融物を鋳型にキャストしてガラスが得られたものの、内部に結晶の析出が認められた。
【0097】
(実施例2)
実施例1で作製した各光学ガラスが得られるように調合したガラス原料を熔融、清澄、均質化して熔融ガラスを作り、白金製のノズルから熔融ガラス滴を滴下してプリフォーム成形型で受け、風圧を加えて浮上させながら上記各種ガラスからなる球状のプリフォームに成形した。
また、上記熔融ガラスを白金製パイプから連続的に流出し、その下端部をプリフォーム成形型で受け、熔融ガラス流にくびれ部を作った後、プリフォーム成形型を真下に急降下して熔融ガラス流をくびれ部で切断し、プリフォーム成形型上に分離した熔融ガラス塊を受け、風圧を加えて浮上させながら上記各種ガラスからなるプリフォームに成形した。
【0098】
(実施例3)
実施例2で用意した熔融ガラスを連続的に流出して鋳型に鋳込み、ガラスブロックに成形した後、アニールし、切断して複数個のガラス片を得た。これらガラス片を研削、研磨して上記各種ガラスからなるプリフォームを作製した。
【0099】
(実施例4)
実施例2で用意した熔融ガラスを連続的に流出して鋳型に鋳込み、ガラスブロックに成形した後、アニールし、切断して複数個のガラス片を得た。これらガラス片をバレル研磨して上記各種ガラスからなるプレス成形用ガラスゴブを作製した。
【0100】
(実施例5)
実施例2、3で作製したプリフォームの表面に炭素含有膜をコートし、成形面に炭素系離型膜を設けたSiC製の上下型および胴型を含むプレス成形型内に導入し、窒素雰囲気中で成形型とプリフォームを一緒に加熱してプリフォームを軟化し、精密プレス成形して上記各種ガラスからなる非球面凸メニスカスレンズ、非球面凹メニスカスレンズ、非球面両凸レンズ、非球面両凹レンズの各種レンズを作製した。
【0101】
(実施例6)
実施例4で作製したガラスゴブの表面に窒化ホウ素からなる粉末状離型剤を均一に塗布してから大気中で加熱、軟化し、プレス成形型でプレス成形し、球面凸メニスカスレンズ、球面凹メニスカスレンズ、球面両凸レンズ、球面両凹レンズの各種レンズのブランクを作製した。このようにして上記各種ガラスからなるレンズブランクを作製した。
【0102】
(実施例7)
実施例2で用意した熔融ガラスを流出し、シアを用いて熔融ガラス流を切断して熔融ガラス塊を分離し、プレス成形型を用いてプレス成形し、球面凸メニスカスレンズ、球面凹メニスカスレンズ、球面両凸レンズ、球面両凹レンズの各種レンズのブランクを作製した。このようにして上記各種ガラスからなるレンズブランクを作製した。
【0103】
(実施例8)
実施例6、実施例7で作製したレンズブランクをアニールして歪を除くとともに屈折率を所望値に合わせた後、研削、研磨して球面凸メニスカスレンズ、球面凹メニスカスレンズ、球面両凸レンズ、球面両凹レンズの各種レンズを作製した。このようにして上記各種ガラスからなるレンズを作製した。
【0104】
(実施例9)
実施例2で用意した熔融ガラスを流出し、鋳型に鋳込んでガラスブロックを作製し、このブロックを切断、研削、研磨して各種球面レンズ、プリズムを作製した。