特許 6067489 サイドエアバッグ装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】6067489

(24)【登録日】2017年1月6日

(45)【発行日】2017年1月25日

(54)【発明の名称】サイドエアバッグ装置

(51)【国際特許分類】

   B60R 21/207 20060101AFI20170116BHJP

   B60R 21/2338 20110101ALI20170116BHJP

   B60R 21/237 20060101ALI20170116BHJP

   B60R 21/2342 20110101ALI20170116BHJP

【ＦＩ】

   B60R21/207

   B60R21/2338

   B60R21/237

   B60R21/2342

【請求項の数】2

【全頁数】19

(21)【出願番号】特願2013-121869(P2013-121869)

(22)【出願日】2013年6月10日

(65)【公開番号】特開2014-237410(P2014-237410A)

(43)【公開日】2014年12月18日

【審査請求日】2015年11月26日

(73)【特許権者】

【識別番号】000241463

【氏名又は名称】豊田合成株式会社

(73)【特許権者】

【識別番号】000002082

【氏名又は名称】スズキ株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100105957

【弁理士】

【氏名又は名称】恩田 誠

(74)【代理人】

【識別番号】100068755

【弁理士】

【氏名又は名称】恩田 博宣

(72)【発明者】

【氏名】柴山 幸史

(72)【発明者】

【氏名】川邊 仁志

(72)【発明者】

【氏名】羽場 慎

(72)【発明者】

【氏名】久保田 淳

(72)【発明者】

【氏名】櫻井 昭弘

(72)【発明者】

【氏名】関根 聡

(72)【発明者】

【氏名】近藤 直弥

【審査官】 森本 康正

(56)【参考文献】

【文献】 特開２００７−２０３９３９（ＪＰ，Ａ）

【文献】 国際公開第２０１０／００７７４０（ＷＯ，Ａ１）

【文献】 特開２００８−２４７２１２（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特開２００１−２１３２６２（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】（Int.Cl.，ＤＢ名）

Ｂ６０Ｒ ２１／１６−２１／３３

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

車両用シートに着座する乗員の側方近傍に配置され、車両側方からの衝撃に応じ膨張用ガスを噴出するインフレータと、折り畳まれることにより収納用形態にされて収納され、前記膨張用ガスにより、前記乗員の胸部から頭部にかけての部位と車両の側壁部との間で展開及び膨張するエアバッグとを備えるサイドエアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、略上下方向に延びる区画壁により、同区画壁よりも前側の前膨張室と後側の後膨張室とに仕切られており、
前記インフレータは前記後膨張室の下部に配置され、
前記区画壁において前記乗員の頭部の側方となる箇所には、前記後膨張室及び前記前膨張室を連通させる上部連通孔が設けられ、
前記区画壁において前記乗員の胸部の側方となる箇所には、前記後膨張室及び前記前膨張室を連通させる下部連通孔が設けられ、
前記エアバッグは、前記収納用形態にされる過程で、前方から後方へ向けて折り畳まれることにより、前記インフレータから略上方へ延びる長尺状をなし、同インフレータに近い側の端部を基端部とし、遠い側の端部を先端部とする中間形態を採り、
前記中間形態の前記エアバッグは、前記基端部と前記先端部との間に設定された基端側折り線よりも先端側部分が同基端側折り線に沿って下方へ折り返され、前記基端側折り線と前記先端部との間に設定された先端側折り線よりも先端側部分が少なくとも同先端側折り線に沿って上方へ折り返されることで前記収納用形態にされ、
前記収納用形態のエアバッグにおいて、前記先端部と前記先端側折り線との間の領域は第１領域とされ、前記基端側折り線と前記先端側折り線との間の領域は第２領域とされるとともに、前記第１領域の折り返し状態の解消を遅らせるための解消遅延部が設けられており、
前記解消遅延部は、前記第１領域を前記第２領域に対し、前記先端側折り線に沿って折り返された状態に連結し、かつ前記第１領域への膨張用ガスの流入に伴い連結を解除する連結部により構成されていることを特徴とするサイドエアバッグ装置。

【請求項2】

前記上部連通孔は前記第１領域に配置され、前記下部連通孔は前記基端側折り線と前記基端部との間の第３領域に配置されている請求項１に記載のサイドエアバッグ装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、側突等により車両に側方から衝撃が加わった場合に、車両用シートに着座している乗員と車両の側壁部との間でエアバッグを展開及び膨張させて、乗員の胸部から頭部にかけての部位を衝撃から保護するサイドエアバッグ装置に関するものである。

【背景技術】

【0002】

車両用シートに着座している乗員の上半身を側突等による衝撃から保護する装置として、エアバッグ及びインフレータを備えたサイドエアバッグ装置が広く知られている。このサイドエアバッグ装置では、エアバッグが折り畳まれることにより収納用形態にされて、インフレータとともに、車両用シートのシートバック（背もたれ）内に収納されている。そして、車両の側壁部、例えばサイドドア等に対し、側突等により側方から衝撃が加わると、インフレータから膨張用ガスがエアバッグに供給される。エアバッグが展開及び膨張し、一部をシートバック内に残した状態で車両用シートから飛び出す。その後もエアバッグは、乗員の上半身と側壁部との間の狭い空間において展開及び膨張する。このエアバッグが、乗員と車内側へ進入してくる側壁部との間に介在して乗員の上半身を拘束するとともに、側壁部を通じて上記上半身に伝わる側方からの衝撃を緩和する。

【0003】

上記サイドエアバッグ装置の一態様として、例えば、特許文献１に記載されたものがある。このサイドエアバッグ装置では、収納用形態にされたエアバッグがインフレータとともに、シートバックにおいて、乗員の側方近傍に配置されている。このエアバッグは、収納用形態にされる過程で、前方から後方へ向けて折り畳まれることにより、インフレータを起点として略上方へ延びる長尺状をなす中間形態を採る。中間形態のエアバッグにおいてインフレータに近い側の端部を基端部といい、遠い側の端部を先端部というものとする。図１８に示すように、中間形態のエアバッグ９１には、その基端部９１ａから先端部９１ｂに向けて、基端側折り線９３及び先端側折り線９４が設定される。そして、中間形態のエアバッグ９１の基端側折り線９３よりも先端側部分が同基端側折り線９３に沿って前下方へ折り返される。さらに、エアバッグ９１の先端側折り線９４よりも先端側部分が同先端側折り線９４に沿って前上方へ折り返される。これらの２箇所での折り返しにより、エアバッグ９１は上記収納用形態にされる。

【0004】

収納用形態のエアバッグ９１において、先端部９１ｂと先端側折り線９４との間の領域は第１領域Ｚ１とされ、基端側折り線９３と先端側折り線９４との間の領域は第２領域Ｚ２とされ、基端部９１ａと基端側折り線９３との間の領域は第３領域Ｚ３とされる。

【0005】

そして、側突等による衝撃に応じインフレータ９２から膨張用ガスが噴出されると、その膨張用ガスは、エアバッグ９１内をインフレータ９２に近い部位から遠い部位に向けて、すなわち、第３領域Ｚ３、第２領域Ｚ２及び第１領域Ｚ１の順に流れる。この膨張用ガスによりエアバッグ９１は、車両用シート９５に着座している乗員Ｐの胸部ＰＴから頭部ＰＨにかけての部位と車両の側壁部との間で展開及び膨張する。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0006】

【特許文献1】特開２００７−２０３９３９号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0007】

ところが、上記特許文献１に記載された従来のサイドエアバッグ装置では、エアバッグ９１において第３領域Ｚ３や第２領域Ｚ２が十分に展開及び膨張する前に、膨張用ガスが第１領域Ｚ１に流入し、その第１領域Ｚ１が上方とは異なる方向へ折り返し状態の解消（展開）を開始することが起こり得る。この場合には、エアバッグ９１の第１領域Ｚ１を乗員Ｐの頭部ＰＨの側方で展開及び膨張させてその頭部ＰＨを拘束及び保護することが難しくなる。

【0008】

本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、収納用形態のエアバッグにおける先端部と先端側折り線との間の領域を乗員の頭部の側方で的確に展開及び膨張させることのできるサイドエアバッグ装置を提供することにある。

【課題を解決するための手段】

【0009】

上記課題を解決するサイドエアバッグ装置は、車両用シートに着座する乗員の側方近傍に配置され、車両側方からの衝撃に応じ膨張用ガスを噴出するインフレータと、折り畳まれることにより収納用形態にされて収納され、前記膨張用ガスにより、前記乗員の胸部から頭部にかけての部位と車両の側壁部との間で展開及び膨張するエアバッグとを備えるサイドエアバッグ装置であって、前記エアバッグは、略上下方向に延びる区画壁により、同区画壁よりも前側の前膨張室と後側の後膨張室とに仕切られており、前記インフレータは前記後膨張室の下部に配置され、前記区画壁において前記乗員の頭部の側方となる箇所には、前記後膨張室及び前記前膨張室を連通させる上部連通孔が設けられ、前記区画壁において前記乗員の胸部の側方となる箇所には、前記後膨張室及び前記前膨張室を連通させる下部連通孔が設けられ、前記エアバッグは、前記収納用形態にされる過程で、前方から後方へ向けて折り畳まれることにより、前記インフレータから略上方へ延びる長尺状をなし、同インフレータに近い側の端部を基端部とし、遠い側の端部を先端部とする中間形態を採り、前記中間形態の前記エアバッグは、前記基端部と前記先端部との間に設定された基端側折り線よりも先端側部分が同基端側折り線に沿って下方へ折り返され、前記基端側折り線と前記先端部との間に設定された先端側折り線よりも先端側部分が少なくとも同先端側折り線に沿って上方へ折り返されることで前記収納用形態にされ、前記収納用形態のエアバッグにおいて、前記先端部と前記先端側折り線との間の領域は第１領域とされ、前記基端側折り線と前記先端側折り線との間の領域は第２領域とされるとともに、前記第１領域の折り返し状態の解消を遅らせるための解消遅延部が設けられており、前記解消遅延部は、前記第１領域を前記第２領域に対し、前記先端側折り線に沿って折り返された状態に連結し、かつ前記第１領域への膨張用ガスの流入に伴い連結を解除する連結部により構成されている。

【0010】

上記の構成によれば、側突等により車両に対し側方から衝撃が加わって、インフレータから膨張用ガスが噴出されると、この膨張用ガスは、エアバッグ内をインフレータに近い部位から遠い部位に向けて流れる。この膨張用ガスによりエアバッグでは、車両用シートに着座している乗員の胸部から頭部にかけての部位と車両の側壁部との間で展開及び膨張する。この際、エアバッグの基端部と基端側折り線との間の領域が最初に膨張する。続いて、基端側折り線と先端側折り線との間の領域が折り返し状態を解消（展開）しながら膨張する。その後、先端側折り線と先端部との間の領域が折りを解消（展開）しながら膨張する。

【0011】

ここで、エアバッグにおいて、基端部と基端側折り線との間の領域が十分に展開及び膨張する前や、両折り線間の領域が十分に折り返し状態を解消（展開）して膨張する前に、膨張用ガスが先端側折り線と先端部との間の領域に流入しようとすると、同領域が折り返し状態を解消（展開）しようとする。しかし、この折り返し状態の解消時期は、解消遅延部によって遅らされる。そのため、エアバッグにおいて、基端部と基端側折り線との間の領域や、両折り線間の領域が十分に折り返し状態を解消（展開）し、膨張を行なってから、先端側折り線と先端部との間の領域の折り返し状態を解消（展開）させて、同領域を乗員の頭部の側方で膨張させることが可能となる。

【0013】

上記の構成によれば、エアバッグの基端部と基端側折り線との間の領域が十分に展開及び膨張する前や、第２領域が十分に折り返し状態を解消（展開）して膨張する前に、膨張用ガスが第１領域に流入しようとすると、同第１領域が折り返し状態を解消（展開）しようとする。しかし、この折り返し状態の解消（展開）は、解消遅延部としての連結部により遅らされる。すなわち、膨張用ガスの第１領域への流入初期には、連結部により、第１領域が第２領域に対し、先端側折り線に沿って折り返された状態に連結される。この連結部により、第１領域の折り返し状態の解消（展開）が規制され、この規制の分、折り返し状態の解消時期が遅らされる。

【0014】

そして、第１領域への膨張用ガスの流入に伴い連結部による第１領域の第２領域に対する連結状態が解除されると、第１領域の折り返し状態の解消（展開）が可能となる。
上記サイドエアバッグ装置において、前記上部連通孔は前記第１領域に配置され、前記下部連通孔は前記基端側折り線と前記基端部との間の第３領域に配置されていることが好ましい。

【0015】

上記の構成によれば、車両側方からの衝撃に応じインフレータから噴出されて後膨張室の下部に供給された膨張用ガスは、エアバッグの第３領域、第２領域及び第１領域の順に流れる。この膨張用ガスにより、各領域が折り状態を解消（展開）しながら膨張する。

【0016】

上記各領域の展開及び膨張の過程で、膨張用ガスは、後膨張室内を上方へ向けて流れる。この膨張用ガスにより、後膨張室が乗員の胸部から頭部にかけての部位の後部側方で展開及び膨張する。

【0017】

後膨張室内を上方へ流れて乗員の胸部の側方となる箇所に至った膨張用ガスの一部は、第３領域に位置する下部連通孔を通って前膨張室の下部内へ流入する。この膨張用ガスにより、前膨張室の下部が乗員の胸部の前部側方で展開及び膨張する。

【0018】

上記下部連通孔を通過せず、後膨張室内を同下部連通孔よりも上方へ流れて乗員の頭部の後部側方となる箇所に至った膨張用ガスの一部は、第１領域に位置する上部連通孔を通って前膨張室の上部内へ流入する。この膨張用ガスにより、前膨張室の上部が乗員の頭部の前部側方で展開及び膨張する。

【発明の効果】

【0019】

上記サイドエアバッグ装置によれば、収納用形態のエアバッグにおける先端部と先端側折り線との間の領域を乗員の頭部の側方で的確に展開及び膨張させることができる。

【図面の簡単な説明】

【0020】

【図1】サイドエアバッグ装置の一実施形態を示す図であり、同装置が設けられた車両用シートをエアバッグ及び乗員とともに示す側面図。

【図2】一実施形態において、車両用シート、エアバッグ、乗員及び側壁部の位置関係を示す平断面図。

【図3】一実施形態において、車両用シート、エアバッグ、乗員及び側壁部の位置関係を示す正断面図。

【図4】一実施形態において、エアバッグモジュールが組み込まれたシートバックの側部の内部構造を示す部分平断面図。

【図5】一実施形態において、エアバッグが非膨張展開状態にされたエアバッグモジュールを示す側面図。

【図6】一実施形態におけるエアバッグの内部の概略構成を示す平断面図。

【図7】図５のエアバッグモジュールの内部構造を乗員及び車両用シートとともに示す部分側断面図。

【図8】一実施形態において、エアバッグモジュールのエアバッグが折り畳まれる前の状態を示す図であり、（ａ）は側面図、（ｂ）は上記（ａ）のＡ−Ａ線断面図。

【図9】一実施形態におけるエアバッグが折り畳まれることにより中間形態にされたエアバッグモジュールを示す断面図。

【図10】一実施形態におけるエアバッグが中間形態にされたエアバッグモジュールを示す部分側面図。

【図11】一実施形態におけるエアバッグが折り畳まれる途中段階のエアバッグモジュールを示す側面図。

【図12】一実施形態におけるエアバッグが折り畳まれて収納用形態にされたエアバッグモジュールを示す側面図。

【図13】図４のエアバッグがその一部をシートバック内に残して車両用シートから飛び出して展開及び膨張した状態を示す部分平断面図。

【図14】一実施形態のエアバッグと膨張用ガスが流れる方向との関係を示す側面図。

【図15】上記実施形態とは異なる形態の連結部が設けられたエアバッグモジュールを示す側面図。

【図16】エアバッグが上記実施形態とは異なる態様で折り畳まれて収納用形態にされたエアバッグモジュールを示す側面図。

【図17】同じく、エアバッグが上記実施形態とは異なる態様で折り畳まれて収納用形態にされたエアバッグモジュールを示す側面図。

【図18】従来のサイドエアバッグ装置が組み込まれた車両用シートを乗員とともに示す概略側面図。

【発明を実施するための形態】

【0021】

以下、サイドエアバッグ装置の一実施形態について、図１〜図１４を参照して説明する。
なお、以下の説明では、車両の前進方向を前方と記載し、それを基準に前、後、上、下を規定している。また、各図において、「前」は車両前側を、「後」は車両後側を、「内」は車両内側を、「外」は車両外側をそれぞれ示している。車両内側は、車幅方向について、その中央位置に近づく側であり、車両外側は上記中央位置から遠ざかる側である。

【0022】

また、車両用シートには、標準的な体格を有する乗員（大人）が、予め定められた姿勢（正規の姿勢）で着座しているものとする。
図１〜図３に示すように、車両１０において側壁部１１の車内側の近傍には、車両用シート１２が配置されている。ここで、側壁部１１とは、車両１０の側部に配置された車両構成部材を指し、主としてドア、ピラー等がこれに該当する。例えば、前席に対応する側壁部１１は、フロントドア、センターピラー（Ｂピラー）等である。また、後席に対応する側壁部１１は、サイドドア（リヤドア）の後部、Ｃピラー、タイヤハウスの前部、リヤクォータ等である。

【0023】

車両用シート１２は、シートクッション（座部）１３と、そのシートクッション１３の後側から起立し、かつ傾き調整機構（図示略）により傾斜角度を調整されるシートバック（背もたれ）１４とを備えている。車両用シート１２は、シートバック１４が前方を向く姿勢で車両１０に配置されている。このように配置された車両用シート１２の幅方向は、車幅方向と合致する。

【0024】

シートバック１４は、シートバック本体１５と、そのシートバック本体１５の幅方向についての両側部に設けられた一対のサイドサポート部１６とを備えている。シートバック本体１５は後側へ傾斜しており、乗員Ｐの上半身を後側から支える。両サイドサポート部１６は、シートバック本体１５から前方へ突出しており、シートクッション１３に腰掛けてシートバック本体１５に凭れた乗員Ｐの上半身の車幅方向についての動きを規制する。

【0025】

次に、シートバック１４において、車外側のサイドサポート部１６を含む車外側の側部の内部構造について説明する。
シートバック１４内には、その骨格をなすシートフレームが配置されている。シートフレームの一部は、図４に示すように、シートバック１４内の車外側部分に配置されており、この部分（以下「サイドフレーム部１７」という）は、金属板を曲げ加工することによって形成されている。サイドフレーム部１７を含むシートフレームの前側には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド１８が配置されている。また、シートフレームの後側には、合成樹脂等によって形成された硬質のバックボード１９が配置されている。なお、シートパッド１８は表皮によって被覆されているが、図４ではその表皮の図示が省略されている。後述する図１３についても同様である。

【0026】

シートパッド１８内において、サイドフレーム部１７の車外側近傍には収納部２１が設けられている。収納部２１の位置は、シートバック１４の上下方向についての中間部分であって、車両用シート１２に着座した乗員Ｐの斜め後方近傍となる（図２参照）。この収納部２１には、サイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールＡＭが組み込まれている。

【0027】

収納部２１の車外側かつ前側の角部からは、斜め前車外側に向けてスリット２２が延びている。シートパッド１８の前側の角部１８ｃとスリット２２とによって挟まれた箇所（図４において二点鎖線の枠で囲んだ箇所）は、後述するエアバッグ４０によって破断される破断予定部２３を構成している。

【0028】

上記シートバック１４に組み込まれるエアバッグモジュールＡＭは、インフレータアセンブリ３０及びエアバッグ４０を主要な構成部材として備えている。次に、これらの構成部材の各々について説明する。

【0029】

＜インフレータアセンブリ３０＞
インフレータアセンブリ３０は、ガス発生器としてのインフレータ３１と、そのインフレータ３１を覆うリテーナ３２とを備えている。本実施形態では、インフレータ３１として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ３１は略円柱状をなしており、その内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤（図示略）が収容されている。

【0030】

なお、インフレータ３１としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるタイプ（ハイブリッドタイプ）が用いられてもよい。

【0031】

一方、リテーナ３２は、膨張用ガスの噴出する方向を制御するディフューザとして機能するとともに、上記インフレータ３１をエアバッグ４０と一緒に上記サイドフレーム部１７に締結する機能を有する部材である。リテーナ３２の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって、略上下方向へ延びる略筒状に形成されている。リテーナ３２には、その内外を連通させる連通部（図示略）が設けられており、インフレータ３１から噴出された膨張用ガスの多くが、この連通部を通じてリテーナ３２の外部へ噴き出される。

【0032】

リテーナ３２には、これを上記サイドフレーム部１７に取付けるための係止部材としてボルト３４が固定されている。
なお、インフレータアセンブリ３０は、インフレータ３１とリテーナ３２とが一体になったものであってもよい。

【0033】

＜エアバッグ４０＞
図１〜図３において二点鎖線で示すように、エアバッグ４０は、車両１０の走行中等に側突等により衝撃が側壁部１１に側方から加わった場合に、インフレータ３１から膨張用ガスの供給を受けて展開及び膨張し、自身の一部を上記シートバック１４内に残した状態で同シートバック１４から前方へ向けて飛び出す。ここでの展開とは、エアバッグ４０の折り畳まれた状態（折り返された状態を含む）が解消されて、同エアバッグ４０が平面状にされることをいう。

【0034】

図５は、エアバッグ４０が膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられた状態（以下「非膨張展開状態」という）のエアバッグモジュールＡＭを示している。また、図７は、エアバッグモジュールＡＭの内部構造を示すべく、図５の非膨張展開状態のエアバッグ４０が車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールＡＭを乗員Ｐ及び車両用シート１２とともに示している。また、図６は、展開及び膨張したエアバッグ４０の内部構成を示している。なお、図４では、エアバッグ４０は二点鎖線で図示されている。

【0035】

図５〜図７に示すように、エアバッグ４０は、１枚の布片（基布、パネル布等とも呼ばれる）を、その中央部分に設定した折り線４２に沿って二つ折りして車幅方向に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることにより形成されている。ここでは、エアバッグ４０の上記の重ね合わされた２つの部分を区別するために、車内側に位置するものを布部４３といい、車外側に位置するものを布部４４というものとする。各布部４３，４４は、前後方向に対するよりも上下方向に細長い形状をなしている。

【0036】

なお、本実施形態では、折り線４２がエアバッグ４０の後端部に位置するように布片が二つ折りされているが、折り線４２が他の端部、例えば前端部、上端部、下端部等に位置するように布片が二つ折りされてもよい。また、エアバッグ４０は上記折り線４２に沿って分割された２枚の布片からなるものであってもよい。この場合には、エアバッグ４０は、２枚の布片を車幅方向に重ね合わせ、両布片を、袋状となるように結合させることにより形成される。さらに、エアバッグ４０は３枚以上の布片からなるものであってもよい。

【0037】

エアバッグ４０においては、両布部４３，４４の外形形状が、折り線４２を対称軸として互いに線対称の関係にある。各布部４３，４４の形状・大きさは、エアバッグ４０が車両用シート１２と側壁部１１との間で展開及び膨張したときに、その車両用シート１２に着座している乗員Ｐの上半身のうち胸部ＰＴから頭部ＰＨにかけての部位に対応する領域を占有し得るように設定されている（図１〜図３）。

【0038】

上記両布部４３，４４としては、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。

【0039】

両布部４３，４４の上記結合は、それらの周縁部に設けられた周縁結合部４５においてなされている。本実施形態では、周縁結合部４５の大部分は、両布部４３，４４の周縁部のうち、後端部（折り線４２の近傍部分）を除く部分を、縫製（縫糸で縫合）することにより形成されている。この縫製により形成されているという点は、後述する外結合部５２及び内結合部５３についても同様である。

【0040】

上記縫製に関し、図５、図７、図８及び図１０では、３つの線種によって縫製部分が表現されている。１つ目の線種は、一定長さの太線を断続的に並べて表現した線（破線の一種）であり、これは、縫合部分を側方から見た状態を示している（図５における周縁結合部４５等参照）。２番目の線種は、一定長さ（一般的な破線よりも長い長さ）の細線を断続的に並べて表現した線（破線の一種）であり、これは、布部４３，４４間に位置していて直接は見えない（隠れている）縫糸の状態を示している（図５における内結合部５３等参照）。３番目の線種は、点を一定間隔おきに並べて表現した線（破線の一種）であり、これは、布部４３，４４等を縫合している縫糸の断面を示している（図７における周縁結合部４５等参照）。

【0041】

図５〜図７に示すように、両布部４３，４４間であって、周縁結合部４５によって囲まれた空間は、膨張用ガスによって乗員Ｐの上半身の側方で展開及び膨張することにより、胸部ＰＴから頭部ＰＨにかけての部位を拘束して衝撃から保護するための膨張部となっている。

【0042】

なお、周縁結合部４５は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。この接着により形成されてもよいという点は、後述する外結合部５２及び内結合部５３についても同様である。

【0043】

エアバッグ４０内であって前後方向についての中間部分には、略上下方向に延びる区画壁５０が設けられており、エアバッグ４０が、区画壁５０よりも後側の後膨張室４６と、同区画壁５０よりも前側の前膨張室４７とに仕切られている。区画壁５０は、一般的にテザーと呼ばれるものと同様の構成を有している。次に、この区画壁５０について説明する。

【0044】

＜区画壁５０＞
区画壁５０は、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えば、上記布部４３，４４等と同様の織布等からなる一対の布片５１を備えている。両布片５１は上下方向に細長い帯状をなしている。各布片５１は、その後端縁に沿って略上下方向に延びる外結合部５２によって、エアバッグ４０の両布部４３，４４のうち対向するものに結合されている。両外結合部５２は、エアバッグ４０が膨張したときに、乗員Ｐの上半身における前後方向についての中間部の側方となる箇所で、布片５１の後端部を対応する布部４３，４４に結合している。両布片５１は、それらの前端縁に沿って略上下方向に延びる内結合部５３によって相互に結合されている。

【0045】

このようにして、一対の布片５１からなる区画壁５０は、エアバッグ４０における車内側の布部４３と車外側の布部４４との間に架け渡されている。区画壁５０は、エアバッグ４０の非膨張展開時には車幅方向に重ね合わされた状態となる（図５、図７参照）。また、区画壁５０は、エアバッグ４０の膨張に伴い、車幅方向に緊張させられた状態となり（図６参照）、同エアバッグ４０の車幅方向の厚み（膨張厚み）を規制する。

【0046】

区画壁５０において、エアバッグ４０が膨張したときに乗員Ｐの頭部ＰＨの側方となる箇所には、後膨張室４６と前膨張室４７とを連通させる上部連通孔５４が設けられている。また、区画壁５０において、エアバッグ４０が膨張したときに乗員Ｐの胸部ＰＴの側方となる箇所には、後膨張室４６と前膨張室４７とを連通させる下部連通孔５５が設けられている。より詳しくは、上記内結合部５３は、その上端部と下部の２箇所においてそれぞれ結合を解除されている。上下方向についての上端部と下部とでは、両布片５１を結合させる内結合部５３が設けられていない。内結合部５３の上端部において結合を解除された箇所は上部連通孔５４を構成し、同内結合部５３の下部において結合を解除された箇所は上記下部連通孔５５を構成している。上部連通孔５４及び下部連通孔５５は、両布片５１が重ねられた状態では閉じ、エアバッグ４０が膨張し、区画壁５０が車幅方向に緊張させられた状態では開く。

【0047】

そして、上述したインフレータアセンブリ３０の大部分は、略上下方向へ延びる姿勢にされて、後膨張室４６の後端下部に収容されている。リテーナ３２のボルト３４は、エアバッグ４０の車内側の布部４３に挿通されている。こうした挿通により、インフレータアセンブリ３０がエアバッグ４０に対し位置決めされた状態で係止されている。

【0048】

さらに、車外側の布部４４は、前膨張室４７の前部であって上記上部連通孔５４と下部連通孔５５との間に排気孔５６を有している。布部４４において、排気孔５６の周りには縫糸で縫製することにより補強部５７が設けられている。補強部５７は、布部４４の排気孔５６の周りを補強して、同部分が裂けたり、ほつれたりするのを抑制するためのものである。

【0049】

ところで、図４及び図１４に示すように、インフレータアセンブリ３０及びエアバッグ４０を主要な構成部材として有するエアバッグモジュールＡＭでは、エアバッグ４０が折り畳まれることでコンパクトな形態（以下「収納用形態」という）にされている。これは、エアバッグモジュールＡＭを、シートバック１４における限られた大きさの収納部２１に対し、収納に適したものとするためである。

【0050】

収納用形態は、非膨張展開状態のエアバッグ４０が、図８〜図１２に示すように折り畳まれることにより得られる。次に、エアバッグ４０が折り畳まれる工程について説明する。

【0051】

図８（ａ）は、折り線４２及びインフレータアセンブリ３０の軸線ＡＬが上下方向へ延びる姿勢にされた非膨張展開状態のエアバッグモジュールＡＭを、車外側から見た状態を示している。図８（ｂ）は、図８（ａ）のエアバッグモジュールＡＭのＡ−Ａ線に沿った断面構造を示している。このエアバッグモジュールＡＭにおけるエアバッグ４０の複数箇所に、折り線４２及び軸線ＡＬに平行に折り線６１がそれぞれ設定される。そして、エアバッグ４０が、各折り線６１に沿って同一方向に繰り返し折り畳むロール折りにより、前方から後方へ向けて折り畳まれる。この折り畳みにより、エアバッグ４０は、図９及び図１０に示すように、インフレータアセンブリ３０から略上方へ延びる長尺状をなす中間形態になる。この中間形態のエアバッグ４０では、各部を特定するために、インフレータアセンブリ３０に近い側の端部（下端部）を「基端部６２」といい、インフレータアセンブリ３０から遠い側の端部（上端部）を「先端部６３」というものとする。

【0052】

次に、図１０に示すように、中間形態のエアバッグ４０において、基端部６２と先端部６３との間、ここではインフレータアセンブリ３０の若干上方となる箇所に、ボルト３４の延びる方向に平行に基端側折り線６４が設定される。中間形態のエアバッグ４０において、基端側折り線６４よりも先端側（図１０の上端側）の部分６５が、同図１０において矢印で示すように、同基端側折り線６４に沿って前下方へ折り返される。この折り返しにより、図１１に示すように、上記部分６５の一部がインフレータアセンブリ３０の前側に位置する。

【0053】

続いて、上記エアバッグ４０において、上記基端側折り線６４と先端部６３との間に、基端側折り線６４に平行に先端側折り線６６が設定される。エアバッグ４０において、先端部６３と先端側折り線６６との間の領域を「第１領域Ｚ１」とし、基端側折り線６４と先端側折り線６６との間の領域を「第２領域Ｚ２」とする。さらに、エアバッグ４０において、基端側折り線６４と基端部６２との間の領域を「第３領域Ｚ３」とする。

【0054】

第１領域Ｚ１は、図１１において矢印で示すように、同先端側折り線６６に沿って前上方へ折り返される。この折り返しにより、エアバッグモジュールＡＭは図１２において実線で示す収納用形態になる。この収納用形態では、上記第１領域Ｚ１が第２領域Ｚ２の前側に位置する。

【0055】

このように、エアバッグ４０が折り畳まれて収納用形態にされたエアバッグモジュールＡＭは、インフレータアセンブリ３０の軸線ＡＬに対し、沿う方向（上下方向）にも直交する方向（前後方向）にも寸法が小さくなっており、シートバック１４の狭い収納部２１に対しても収納に適したものとなる。

【0056】

さらに、本実施形態では、収納用形態のエアバッグ４０の展開及び膨張に際し、上記第１領域Ｚ１が折り返された状態を解消するタイミングを遅らせるための解消遅延部が設けられている。解消遅延部は、第１領域Ｚ１を第２領域Ｚ２に対し、先端側折り線６６に沿って折り返された状態に連結し、かつ第１領域Ｚ１への膨張用ガスの流入に伴い連結を解除する連結部６７により構成されている。ここでは、連結部６７は、エアバッグ４０の第１領域Ｚ１及び第２領域Ｚ２に巻付けられることにより、第１領域Ｚ１を第２領域Ｚ２に対し、先端側折り線６６に沿って折り返された状態に連結し、かつ第１領域Ｚ１への膨張用ガスの流入に伴い破断されることにより連結を解除するテープによって構成されている。この連結部６７は、本実施形態では第１領域Ｚ１及び第２領域Ｚ２の長さ方向についての２箇所に設けられているが、３箇所以上の箇所に設けられてもよい。

【0057】

さらに、本実施形態では、上述した上部連通孔５４が第１領域Ｚ１に位置し、下部連通孔５５が第３領域Ｚ３に位置するように、基端側折り線６４及び先端側折り線６６が設定されている。

【0058】

図４に示すように、収納用形態にされたエアバッグモジュールＡＭにおいて、リテーナ３２から延びてエアバッグ４０（布部４３）に挿通されたボルト３４は、サイドフレーム部１７に挿通されている。そして、このボルト３４にナット３５が締付けられることで、インフレータアセンブリ３０がエアバッグ４０と一緒にサイドフレーム部１７に固定されている。

【0059】

なお、インフレータアセンブリ３０は、上述したボルト３４及びナット３５とは異なる部材によってサイドフレーム部１７に固定されてもよい。
図１に示すように、サイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールＡＭ（図２参照）のほかに衝撃センサ７１及び制御装置７２を備えている。衝撃センサ７１は加速度センサ等からなり、車両１０の側壁部１１（図２参照）等に設けられており、同側壁部１１に側方から加えられる衝撃を検出する。制御装置７２は、衝撃センサ７１からの検出信号に基づきインフレータ３１の作動を制御する。

【0060】

さらに、車両１０には、車両用シート１２に着座している乗員Ｐをその車両用シート１２に拘束するためのシートベルト装置が装備されているが、図１等ではこのシートベルト装置の図示が省略されている。

【0061】

次に、上記のように構成された本実施形態のサイドエアバッグ装置の作用について説明する。
このサイドエアバッグ装置では、側突等により車両１０の側壁部１１に対し側方から衝撃が加わらないときには、制御装置７２からインフレータ３１に対し、これを作動させるための作動信号が出力されず、同インフレータ３１から膨張用ガスがエアバッグ４０に供給されない。エアバッグモジュールＡＭは、収納用形態で収納部２１に収納され続ける（図４参照）。

【0062】

これに対し、車両１０の走行中に、側突等により側壁部１１に対し側方から所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ７１によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置７２からインフレータ３１に対し、これを作動させるための作動信号が出力される。この作動信号に応じて、インフレータ３１では、ガス発生剤が高圧の膨張用ガスを発生し、これを噴出する。噴出された膨張用ガスは、リテーナ３２の連通部を通り、収納用形態のエアバッグ４０に供給される。ここで、エアバッグ４０は、その前後方向についての中間部に設けられた区画壁５０により、後膨張室４６及び前膨張室４７に仕切られていて、その後膨張室４６内の後端下部にインフレータアセンブリ３０が配置されている。このことから、インフレータ３１からの膨張用ガスは、後膨張室４６内の後端下部に供給される。

【0063】

図１２及び図１４に示すように、膨張用ガスは、エアバッグ４０内をインフレータアセンブリ３０に近い部位から遠い部位に向けて、すなわち、第３領域Ｚ３、第２領域Ｚ２及び第１領域Ｚ１の順に流れようとする。この膨張用ガスにより、第３領域Ｚ３、第２領域Ｚ２及び第１領域Ｚ１が膨張したり、折り返し状態を解消（展開）したりする。例えば、第３領域Ｚ３は、インフレータアセンブリ３０からの膨張用ガスにより前方へ膨張する。この膨張する第３領域Ｚ３は、第２領域Ｚ２を前方へ押圧する。この押圧により、第２領域Ｚ２が基端側折り線６４を支点として、前側かつ上方へ円弧状の軌跡を描きながら変位しようとする。

【0064】

ここで、上記膨張用ガスにより第３領域Ｚ３が十分に展開及び膨張する前や、第２領域Ｚ２が十分に折り返し状態を解消（展開）して膨張する前に膨張用ガスが第１領域Ｚ１に流入しようとすると、同第１領域Ｚ１が折り返し状態を解消（展開）しようとする。しかし、この折り返し状態の解消時期は、次のようにして遅らされる。膨張用ガスの第１領域Ｚ１への流入初期には、エアバッグ４０の第１領域Ｚ１及び第２領域Ｚ２に巻付けられた連結部６７により、第１領域Ｚ１が第２領域Ｚ２に対し、先端側折り線６６に沿って折り返された状態に連結される。この連結部６７により、第１領域Ｚ１の折り返し状態の解消（展開）が規制され、この規制の分、折り返し状態の解消時期が遅らされる。連結部６７によって第２領域Ｚ２に連結された第１領域Ｚ１は、図１２において二点鎖線で示すように、第２領域Ｚ２と一体となって、すなわち、第１領域Ｚ１及び第２領域Ｚ２が塊となって、基端側折り線６４を支点として、前上方へ円弧状の軌跡を描きながら変位する。

【0065】

そして、第１領域Ｚ１及び第２領域Ｚ２の塊が第３領域Ｚ３の上方又はその近くまで変位する過程で、第１領域Ｚ１への膨張用ガスの流入に伴い同第１領域Ｚ１が膨張する。この膨張する第１領域Ｚ１により連結部６７が押されて破断させられることで、その連結部６７による第１領域Ｚ１の第２領域Ｚ２に対する連結状態が解除される。膨張用ガスが第２領域Ｚ２に流入することで、同第２領域Ｚ２がロール折りされた状態を解消（展開）しながら膨張する。

【0066】

また、上記連結状態の解除により、第１領域Ｚ１が折り返し状態を解消（展開）することが可能となる。第１領域Ｚ１が、先端側折り線６６を支点として、後上方へ円弧状の軌跡を描きながら変位することで、同第１領域Ｚ１の折り返し状態が解消（展開）される。このように、第３領域Ｚ３及び第２領域Ｚ２が十分に折り返し状態を解消（展開）し、膨張を行なってから、第１領域Ｚ１の折り返し状態が解消（展開）される。そして、引き続き第１領域Ｚ１に流入する膨張用ガスにより、同第１領域Ｚ１がロール折りされた状態を解消（展開）しながら膨張する。

【0067】

ところで、上記のように第２領域Ｚ２及び第１領域Ｚ１の折り返し状態が解消（展開）されて膨張する際には、膨張用ガスが次のように流れる。図１４に示すように膨張用ガスは、後膨張室４６内において、後方から前方へ向けて流れるとともに、下方から上方へ向けて流れる。後方から前方へ流れる膨張用ガスは、区画壁５０に至ると、この区画壁５０に沿って流れ方向を上方へ変え、当初から上方へ流れる膨張用ガスに合流する。

【0068】

ここで、後膨張室４６の容積は、エアバッグ４０が区画壁５０によって仕切られていない場合のそのエアバッグ４０の容積よりも小さい。また、後膨張室４６の車幅方向についての膨張厚みは、エアバッグ４０が仕切られない場合のそのエアバッグ４０の車幅方向についての膨張厚みよりも小さい。そのため、後膨張室４６は、乗員Ｐの肩部ＰＳと側壁部１１との間の間隙といった狭い間隙でも通過しながら展開及び膨張しやすい。

【0069】

図７及び図１４に示すように、後膨張室４６内を上方へ流れて乗員Ｐの胸部ＰＴの後部側方に至った膨張用ガスの一部は、第３領域Ｚ３に位置する下部連通孔５５を通って前膨張室４７の下部内へ流入する。また、下部連通孔５５を通過せずに後膨張室４６内を同下部連通孔５５よりも上方へ流れて乗員Ｐの頭部ＰＨの後部側方に至った膨張用ガスの一部は、第１領域Ｚ１に位置する上部連通孔５４を通って前膨張室４７の上部内へ流入する。

【0070】

下部連通孔５５を通って前膨張室４７に流入した膨張用ガスの一部は、上方及び下方へ向きを変える。また、上部連通孔５４を通って前膨張室４７に流入した膨張用ガスの一部は、下方へ向きを変える。

【0071】

これらの膨張用ガスにより、エアバッグ４０が前方及び上方へ展開及び膨張する過程で、シートバック１４のシートパッド１８がエアバッグ４０によって押圧され、図４の破断予定部２３において破断される。図１３に示すように、エアバッグ４０は自身の後端部を、インフレータアセンブリ３０とともに収納部２１内に残した状態でシートバック１４から車両１０の略前方へ飛び出す。

【0072】

エアバッグ４０は、引き続き、乗員Ｐの胸部ＰＴから頭部ＰＨにかけての部位と車両１０の側壁部１１との間で展開及び膨張する。
上記のように展開及び膨張したエアバッグ４０は、図２及び図３において二点鎖線で示すように、乗員Ｐと車内側へ進入してくる側壁部１１との間に介在して同乗員Ｐを直接車内側へ押して拘束するとともに、側壁部１１を通じて乗員Ｐに伝わる側方からの衝撃を緩和する。

【0073】

なお、上部連通孔５４を通って前膨張室４７の上部に流入し、下方へ向きを変えた膨張用ガスは、排気孔５６を通じてエアバッグ４０の外部（布部４４よりも車外側）へ排出される。この膨張用ガスの排気に伴う内圧低下により、側壁部１１を通じて乗員Ｐに伝わる側方からの衝撃が緩和される。また、上記のように前膨張室４７の上部を展開及び膨張させた膨張用ガスは排気孔５６から排出されるため、この膨張用ガスが、排気孔５６よりも下方に位置する前膨張室４７の下部へ流れることが抑制される。その結果、前膨張室４７の下部が胸部ＰＴの側方で過大な圧力で展開及び膨張することが抑制される。

【0074】

以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
（１）収納用形態のエアバッグ４０において、先端部６３と先端側折り線６６との間の第１領域Ｚ１の折り返し状態の解消（展開）を遅らせるための解消遅延部を設けている（図１２）。

【0075】

そのため、エアバッグ４０において第３領域Ｚ３及び第２領域Ｚ２が十分に折り返し状態を解消（展開）し、膨張を行なってから、第１領域Ｚ１の折り返し状態を解消（展開）させて、その第１領域Ｚ１を乗員Ｐの頭部ＰＨの側方で的確に膨張させることができる。

【0076】

（２）第１領域Ｚ１を第２領域Ｚ２に対し、先端側折り線６６に沿って折り返された状態に連結し、かつ第１領域Ｚ１への膨張用ガスの流入に伴い連結を解除する連結部６７を設け、この連結部６７を上記解消遅延部としている（図１２）。

【0077】

そのため、連結部６７により、第１領域Ｚ１の折り返し状態の解消（展開）を規制し、折り返し状態の解消時期を遅らせることができる。また、第１領域Ｚ１への膨張用ガスの流入に伴い連結部６７による第１領域Ｚ１の第２領域Ｚ２に対する連結状態を解除し、第１領域Ｚ１の折り返し状態を解消（展開）させることができる。

【0078】

（３）エアバッグ４０を、略上下方向に延びる区画壁５０により、同区画壁５０よりも前側の前膨張室４７と後側の後膨張室４６とに仕切る。インフレータアセンブリ３０を後膨張室４６の下部に配置する。区画壁５０において乗員Ｐの頭部ＰＨの側方となる箇所に、後膨張室４６及び前膨張室４７を連通させる上部連通孔５４を設ける。区画壁５０において乗員Ｐの胸部ＰＴの側方となる箇所に、後膨張室４６及び前膨張室４７を連通させる下部連通孔５５を設ける（図７）。上部連通孔５４を第１領域Ｚ１に配置し、下部連通孔５５を第３領域Ｚ３に配置している。

【0079】

そのため、後膨張室４６内を上方へ流れる膨張用ガスにより、同後膨張室４６を乗員Ｐの胸部ＰＴから頭部ＰＨにかけての部位の後部側方で展開膨張させることができる。
また、第３領域Ｚ３に位置する下部連通孔５５を通って前膨張室４７の下部内に流入する膨張用ガスにより、同前膨張室４７の下部を乗員Ｐの胸部ＰＴの前部側方で展開及び膨張させることができる。

【0080】

また、第１領域Ｚ１に位置する上部連通孔５４を通って前膨張室４７の上部内に流入する膨張用ガスにより、同前膨張室４７の上部を乗員Ｐの頭部ＰＨの前部側方で展開及び膨張させることができる。

【0081】

このように、エアバッグ４０を、乗員Ｐの胸部ＰＴから頭部ＰＨにかけての部位と車両１０の側壁部１１との間で的確に展開及び膨張させ、乗員Ｐの上記部位を適切に拘束及び保護することができる。

【0082】

なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
・リテーナ３２が用いられることなくインフレータ３１がサイドフレーム部１７に直接取付けられてもよい。

【0083】

・エアバッグ４０は、その略全体が上記実施形態のように膨張するものであってもよいが、膨張用ガスが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。

【0084】

・区画壁５０は１枚の布片によって構成されてもよい。
・車両用シート１２のシートバック１４に代えて、側壁部１１に収納部２１に相当する箇所が設けられ、ここにエアバッグモジュールＡＭが組み込まれてもよい。

【0085】

・テープに代えて、次の条件を満たす糸又は接着剤（いずれも図示略）が連結部６７とされてもよい。
条件１：エアバッグ４０の第１領域Ｚ１を第２領域Ｚ２に対し、先端側折り線６６に沿って折り返された状態に連結すること。

【0086】

糸の場合、上記連結は、第１領域Ｚ１及び第２領域Ｚ２に巻付けられることにより行なわれる。接着剤の場合、上記連結は、第１領域Ｚ１の一部と第２領域Ｚ２の一部とを接着させることにより行なわれる。

【0087】

条件２：膨張用ガスの流入に伴い第１領域Ｚ１が膨張することにより破断されることで上記連結を解除すること。
糸の場合、上記連結解除は、膨張する第１領域Ｚ１によって押されて切断されることにより行なわれる。接着剤の場合、上記連結解除は、膨張する第１領域Ｚ１によって押されて分断されることにより行なわれる。

【0088】

上記糸及び接着剤のいずれの場合にも、テープを連結部６７とした場合と同様の作用及び効果が得られる。
・図１５に示すように、テープに代えて、次の条件を満たす糸が連結部７５とされてもよい。

【0089】

条件１：エアバッグ４０の第１領域Ｚ１の一部と第２領域Ｚ２の一部とを縫合させることにより、第１領域Ｚ１を第２領域Ｚ２に対し、先端側折り線６６において折り返された状態に連結すること。

【0090】

条件２：膨張用ガスの流入に伴い第１領域Ｚ１が膨張することにより切断されて上記連結を解除すること。
この場合にも、テープを連結部６７とした場合と同様の作用及び効果が得られる。

【0091】

・エアバッグ４０が中間形態となっているエアバッグモジュールＡＭを収納用形態にするために、第１領域Ｚ１が、図１６に示すように、先端側折り線６６に沿って後上方へ折り返されてもよい。この場合、第１領域Ｚ１は、第２領域Ｚ２と第３領域Ｚ３との間に位置することとなる。

【0092】

・第１領域Ｚ１がさらに折り返されることで、エアバッグ４０が収納用形態にされてもよい。図１７はその一例として、先端部６３と先端側折り線６６との間にさらにボルト３４に平行に折り線７６を設定し、この折り線７６よりも先端側の部分７７を、前下方へ折り返した例を示している。

【0093】

この場合には、先端側折り線６６及び上記折り線７６の間の部分７８と、上記部分７７とが新たな連結部７９によって連結されることが好ましい。このように変更した場合にも、部分７７が折り返された状態を解消（展開）する時期を遅らせ、第１領域Ｚ１を乗員Ｐの頭部ＰＨの側方で的確に展開及び膨張させることができる。

【0094】

・連結部６７の数が変更されてもよい。図１６は、その一例として、連結部６７が１つ設けられた例を示している。
・連結部６７の位置が変更されてもよい。図１６は、その一例として、連結部６７が、第１領域Ｚ１及び第２領域Ｚ２の長さ方向についての中央部に設けられた例を示している。

【0095】

・エアバッグ４０を中間形態にするために、非膨張展開状態のエアバッグ４０が前方から後方へ向けて蛇腹折りされてもよい。蛇腹折りは、折り返す方向を交互に変えて折り畳む折り態様である。また、上記中間形態にするために、非膨張展開状態のエアバッグ４０がロール折りと蛇腹折りとの組合わせによって、前方から後方へ向けて折り畳まれてもよい。例えば、非膨張展開状態のエアバッグ４０において、前後方向についての中間部よりも前側部分が前方から後方へ向けてロール折りされ、同中間部よりも後側部分が前方から後方へ向けて蛇腹折りされてもよい。

【0096】

その他、前記各実施形態から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに記載する。
（Ａ）請求項２に記載のサイドエアバッグ装置において、前記連結部は、前記エアバッグの前記第１領域及び前記第２領域に巻付けられることにより、前記第１領域を前記第２領域に対し、前記先端側折り線に沿って折り返された状態に連結し、かつ膨張用ガスの流入に伴い前記第１領域が膨張することにより破断されることで連結を解除するテープ又は糸からなる。

【0097】

上記の構成によれば、エアバッグの第１領域及び第２領域にテープ又は糸が巻付けられることにより、第１領域が第２領域に対し、先端側折り線に沿って折り返された状態に連結される。膨張する第１領域によりテープ又は糸が押されて破断されることで、上記連結状態が解除される。

【0098】

（Ｂ）請求項２に記載のサイドエアバッグ装置において、前記連結部は、前記エアバッグの前記第１領域の一部と前記第２領域の一部とを接着させることにより、前記第１領域を前記第２領域に対し、前記先端側折り線に沿って折り返された状態に連結し、かつ膨張用ガスの流入に伴い前記第１領域が膨張することにより分断されて連結を解除する接着剤からなる。

【0099】

上記の構成によれば、エアバッグの第１領域の一部と第２領域の一部とが接着剤を介して接着されることにより、第１領域が第２領域に対し、先端側折り線に沿って折り返された状態に連結される。膨張する第１領域により接着剤が分断されることで、上記の連結状態が解除される。

【0100】

（Ｃ）請求項２に記載のサイドエアバッグ装置において、前記連結部は、前記エアバッグの前記第１領域の一部と前記第２領域の一部とを縫合させることにより、前記第１領域を前記第２領域に対し、前記先端側折り線に沿って折り返された状態に連結し、かつ膨張用ガスの流入に伴い前記第１領域が膨張することにより切断されて連結を解除する糸からなる。

【0101】

上記の構成によれば、エアバッグの第１領域の一部と第２領域の一部とが糸によって縫合されることで、第１領域が第２領域に対し、先端側折り線に沿って折り返された状態に連結される。膨張する第１領域により糸が押されて切断されることで、上記の連結状態が解除される。

【符号の説明】

【0102】

１０…車両、１１…側壁部、１２…車両用シート、３１…インフレータ、４０…エアバッグ、４６…後膨張室、４７…前膨張室、５０…区画壁、５４…上部連通孔、５５…下部連通孔、６２…基端部、６３…先端部、６４…基端側折り線、６６…先端側折り線、６７，７５，７９…連結部（解消遅延部）、Ｐ…乗員、ＰＨ…頭部、ＰＴ…胸部、Ｚ１…第１領域、Ｚ２…第２領域、Ｚ３…第３領域。

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】