特許第6067494号(P6067494)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067494
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20170116BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20170116BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20170116BHJP
   F01N 3/025 20060101ALI20170116BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   F01N3/08 GZAB
   F01N3/20 D
   F01N3/24 E
   F01N3/24 N
   F01N3/025 101
   B01D53/94 241
【請求項の数】16
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2013-135213(P2013-135213)
(22)【出願日】2013年6月27日
(65)【公開番号】特開2015-10508(P2015-10508A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小島 隆義
(72)【発明者】
【氏名】大坪 康彦
【審査官】 大城 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−121478(JP,A)
【文献】 特開2009−257190(JP,A)
【文献】 特開2006−342734(JP,A)
【文献】 特開2008−274952(JP,A)
【文献】 特開2004−270609(JP,A)
【文献】 特表2008−509328(JP,A)
【文献】 特開2011−64069(JP,A)
【文献】 特開2011−99333(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/164748(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
B01D 53/94
F01N 3/025
F01N 3/20
F01N 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素水由来のアンモニアを利用してNOxを還元する選択還元型の触媒と、前記尿素水を添加する尿素添加弁とを排気通路に備えるとともに、前記触媒の排気上流に機関燃料を供給することにより排気温度を所定温度にまで高める昇温処理を実行する内燃機関の排気浄化装置であって、
排気温度を所定温度にまで高める前記昇温処理を実行するに際し、排気通路の壁面が所定温度よりも低く排気通路の壁面に前記尿素水のデポジットが堆積しやすい期間中には、排気通路の壁面が所定温度以上に高く排気通路の壁面に前記デポジットが堆積しにくい期間中と比べて、前記昇温処理の実行時における排気の昇温を遅くする昇温抑制処理を行う
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記昇温抑制処理の実行時には、吸入空気量が少ないときほど排気の昇温はより遅くされる
請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記昇温抑制処理の実行時には、前記昇温処理の実行時に設定される目標排気温度と実際の排気温度との差が大きいときほど排気の昇温はより遅くされる
請求項1または2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記昇温抑制処理の実行時には、前記触媒におけるアンモニア吸着量が多いときほど排気の昇温はより遅くされる
請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記昇温抑制処理の実行時には、前記壁面における前記デポジットの堆積量が多いときほど排気の昇温はより遅くされる
請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記昇温抑制処理は、前記デポジットが堆積しやすい期間中での排気の昇温速度が、前記デポジットが堆積しにくい期間中での排気の昇温速度よりも遅くなるように前記機関燃料の供給量を減少させる処理である
請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
前記昇温抑制処理は、前記所定温度よりも低い温度に排気温度を所定期間維持した後、排気温度を前記所定温度にまで高める処理である
請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
排気通路に前記デポジットが堆積しやすい期間中であっても、前記触媒が活性化しやすい状態のときには、前記昇温抑制処理の実行を禁止し、機関燃焼室からのNOx排出量を増大させた後に前記昇温処理を実行する
請求項1〜7のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項9】
排気通路の壁温に対して排気温度が所定値以上に高いときには、前記触媒が活性化しやすい状態であると判定する
請求項8に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項10】
排気通路における前記デポジットの堆積量についてその目標値を設定し、前記デポジットの堆積量が前記目標値となるように吸入空気量及び前記尿素水の添加量のうちの少なくとも一方を調整する
請求項1〜9のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項11】
排気中の微粒子を捕集するフィルタを排気通路に備えており、前記昇温処理は、前記フィルタに捕集された微粒子の堆積量が所定量に達したときに実行される処理であり、前記フィルタにおける微粒子の堆積量が多いときほど前記目標値は大きくされる
請求項10に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項12】
排気通路内には、前記尿素添加弁から添加された尿素水が付着する付着板が設けられており、同付着板は、排気通路の内壁から離間されている
請求項1〜11のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項13】
前記付着板には孔が設けられている
請求項12に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項14】
前記尿素添加弁と前記触媒との間の排気通路内には、排気通路の下流に向けて傾斜するフィンを有した分散板が設けられており、
前記フィンの排気下流側端部における接線が前記触媒の前端面に向かうように前記フィンは形成されている
請求項1〜13のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項15】
排気通路内での排気の流れ方向と前記尿素添加弁から噴射される前記尿素水の噴射方向とがなす角を第1角度とし、
排気通路内での排気の流れ方向と前記フィンにおいて前記尿素水が衝突する面とがなす角を第2角度としたときに、
「第2角度−第1角度>40°」の関係を満たすように前記第1角度及び前記第2角度が設定されている
請求項14に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項16】
排気通路内での排気の流れ方向と前記フィンにおいて前記尿素水が衝突する面とがなす角を第2角度とし、
排気通路内での排気の流れ方向と前記フィンの排気下流側端部における前記接線の延伸方向とがなす角を第3角度としたときに、
「第2角度>第3角度」の関係を満たすように前記第2角度及び前記第3角度が設定されている
請求項14または15に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排気浄化装置として、尿素水由来のアンモニアを利用してNOxを還元する選択還元型の触媒と、尿素水を添加する尿素添加弁とを排気通路に備える内燃機関が知られている。こうした内燃機関では、尿素添加弁から添加された尿素水が排気通路内の壁面に付着してデポジット化することがある。そこで、例えば特許文献1に記載の装置では、排気通路をバーナ等で加熱することにより、尿素水のデポジットをアンモニアへと分解して除去するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−17250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した選択還元型の触媒は、尿素水由来のアンモニアを吸着したり脱離させたりする機能を有しており、触媒温度が高くなるにつれてアンモニア吸着量は減少する一方で、アンモニア脱離量は増大する。また、触媒から脱離するアンモニア量が顕著に多くなるときの触媒温度は、尿素水のデポジットを分解するために必要な温度よりも高い温度になっている。
【0005】
ここで、排気浄化装置を備える内燃機関では、排気通路への燃料供給により排気の温度を高める処理が行われることがある(例えば微粒子を捕集するフィルタの再生処理など)。こうした排気の昇温処理によって排気温度が高められたときには、触媒からのアンモニア脱離と尿素水のデポジット分解とがほぼ同時期に起きる可能性があり、この場合には、触媒及びデポジットの双方からアンモニアが発生するため、排気中のアンモニア濃度が過度に増大してしまうおそれがある。
【0006】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、排気の昇温処理実行時において、排気中のアンモニア濃度の増大を抑えることのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する内燃機関の排気浄化装置は、尿素水由来のアンモニアを利用してNOxを還元する選択還元型の触媒と、尿素水を添加する尿素添加弁とを排気通路に備えている。また、触媒の排気上流に機関の燃料を供給することにより排気温度を所定温度にまで高める昇温処理を実行する。
【0008】
ここで、排気通路の壁面が所定温度以上に高くなると、尿素水のデポジットが分解されるため、同デポジットは堆積しにくい状態になる。そのため、排気通路の壁面が所定温度以上に高く、排気通路の壁面に尿素水のデポジットが堆積しにくい期間中であれば、排気の昇温を通常通りに行っても、尿素水のデポジット分解に起因したアンモニアの発生量は少ない。従って、尿素水のデポジット分解とほぼ同時期に触媒からのアンモニア脱離が起きたとしても、排気中のアンモニア濃度の増大は抑えることができる。
【0009】
一方、排気通路の壁面が所定温度よりも低くなると、尿素水のデポジットは分解されにくくなるため、同デポジットは堆積しやすい状態になる。そこで、この排気浄化装置は、排気温度を所定温度にまで高める昇温処理を実行するに際し、排気通路の壁面が所定温度よりも低く、排気通路の壁面に尿素水のデポジットが堆積しやすい期間中には、尿素水のデポジットが堆積しにくい期間中と比べて、上述した昇温処理の実行時における排気の昇温を遅くする昇温抑制処理を行う。こうした昇温抑制処理の実行によって、排気温度を所定温度にまで高めるときの排気の昇温が緩慢にされると、尿素水のデポジット分解が起きた後で、触媒からのアンモニア脱離が起きるようになる。つまり、排気の昇温過程において、デポジットの分解が起きる時期と触媒からのアンモニア脱離が起きる時期とがずれるようになり、尿素水のデポジット分解と触媒からのアンモニア脱離とがほぼ同時期に起きることは抑制されるようになる。このように本排気浄化装置は、排気の昇温処理を行うに際して、排気通路の壁面に尿素水のデポジットが堆積しやすい期間中なのか、または堆積しにくい期間中なのかを排気通路の壁温に基づいて判定する。そして、尿素水のデポジットが堆積しやすい期間中に昇温処理を行う場合には、尿素水のデポジットが堆積しにくい期間中に昇温処理を行う場合と比べて排気の昇温が遅くされる。従って、排気の昇温処理実行時において、排気中のアンモニア濃度の増大を抑えることができるようになる。
【0010】
吸入空気量が少なくなると排気流量も減少するため、排気によるアンモニアの希釈効果は弱くなり、排気中のアンモニア濃度は高くなりやすい。そこで、昇温抑制処理の実行時には、吸入空気量が少ないときほど排気の昇温をより遅くすることが好ましい。この場合には、排気によるアンモニアの希釈効果が弱くなるときほど、デポジットや触媒からのアンモニア発生量が少なくなるように排気の昇温が行われるため、排気中のアンモニア濃度の増大をより適切に抑えることができるようになる。
【0011】
また、昇温処理の実行時に設定される目標排気温度と実際の排気温度との差が大きいときほど排気はより早期に昇温されるため、尿素水のデポジット分解と触媒からのアンモニア脱離とがほぼ同時期に起きやすくなる。そこで、昇温抑制処理の実行時には、昇温処理の実行時に設定される目標排気温度と実際の排気温度との差が大きいときほど、排気の昇温をより遅くすることが好ましい。この場合には、尿素水のデポジット分解と触媒からのアンモニア脱離とがほぼ同時期に起きやすいときほど、デポジットの分解が起きる時期と触媒からのアンモニア脱離が起きる時期とがずれるように排気の昇温が行われるため、排気中のアンモニア濃度の増大をより適切に抑えることができるようになる。
【0012】
また、触媒のアンモニア吸着量が多いときほど、触媒からの脱離によって発生するアンモニアの量も多くなる。そこで、昇温抑制処理の実行時には、触媒におけるアンモニア吸着量が多いときほど排気の昇温をより遅くすることが好ましい。この場合には、触媒から発生するアンモニアの量が多くなりやすいときほど、触媒の温度上昇がより緩やかにされることにより、触媒の温度上昇に伴うアンモニア脱離量の増大が抑えられるようになるため、触媒からのアンモニア発生量が抑えられるようになる。従って、排気中のアンモニア濃度の増大をより適切に抑えることができるようになる。
【0013】
また、排気通路の壁面における尿素水のデポジット堆積量が多いときほど、尿素水のデポジット分解によって発生するアンモニアの量も多くなる。そこで、昇温抑制処理の実行時には、排気通路の壁面における尿素水のデポジット堆積量が多いときほど排気の昇温をより遅くすることが好ましい。この場合には、デポジットから発生するアンモニアの量が多くなりやすいときほど、排気の温度上昇がより緩やかにされることにより、排気の温度上昇に伴うデポジット分解の促進が抑えられるようになるため、デポジットからのアンモニア発生量が抑えられるようになる。従って、排気中のアンモニア濃度の増大をより適切に抑えることができるようになる。
【0014】
上記昇温抑制処理は、尿素水のデポジットが堆積しやすい期間中での排気の昇温速度が、同デポジットが堆積しにくい期間中での排気の昇温速度よりも遅くなるように機関燃料の供給量を減少させる処理である、という構成を採用することにより、昇温処理の実行時における排気の昇温を遅くすることが可能になる。
【0015】
また、上記昇温抑制処理は、上述した所定温度よりも低い温度に排気温度を所定期間維持した後、排気温度を上記所定温度にまで高める処理である、という構成を採用することも可能である。同構成によれば、昇温処理の実行に際して、排気温度を上記所定温度よりも低い温度に維持する期間が設けられているため、排気温度を上記所定温度に向けて連続的に上昇させる場合と比較して、昇温処理の実行時における排気の昇温を遅くすることが可能になる。
【0016】
上記排気浄化装置において、排気通路に尿素水のデポジットが堆積しやすい期間中であっても、上記触媒が活性化しやすい状態のときには、上記昇温抑制処理の実行を禁止し、機関燃焼室からのNOx排出量を増大させた後に上記昇温処理を実行することが好ましい。
【0017】
同構成によれば、触媒が活性しやすくNOxを適切に浄化することができる状態のときには、上述した昇温抑制処理の実行が禁止される。そして、機関燃焼室からのNOx排出量が増大される。こうして増大されたNOxは、活性化しやすい状態になっている触媒にて浄化されるのであるが、その浄化に際しては、触媒に吸着されたアンモニアが消費されるため、増大されたNOx排出量に応じて触媒のアンモニア吸着量は減少し、これにより触媒から脱離するアンモニア量も減少する。従って、NOx排出量を増大させた後に、排気の昇温処理を実行しても、触媒からはそれほど多くのアンモニアが発生しない。このように排気の昇温処理を実行する前に、触媒に吸着されているアンモニアの量を予め減らすようにしているため、同構成によっても、排気の昇温処理実行時において、排気中のアンモニア濃度の増大を抑えることができるようになる。
【0018】
なお、内燃機関の運転状態が中負荷以上の状態になっているときには、排気通路の壁温に対して排気温度が所定値以上に高くなっていることが多く、そうした中負荷以上の運転状態のときには、触媒が比較的安定して活性化している。そこで、排気通路の壁温に対して排気温度が所定値以上に高いときには、触媒が活性化しやすい状態であると判定することが可能である。
【0019】
また、上記排気浄化装置において、排気通路における尿素水のデポジットの堆積量についてその目標値を設定し、同デポジットの堆積量が目標値となるように吸入空気量及び尿素水の添加量のうちの少なくとも一方を調整する、という構成を採用することもできる。
【0020】
上述したような尿素水のデポジット堆積量が過剰に多くなると、排気の昇温処理を行っても、そうしたデポジットを十分に除去することが困難になる。ここで、尿素水の添加量が多くなるに伴って、排気通路の壁面に付着する尿素水の量は増大する。また、吸入空気量が増大すると、吸気の流勢が強くなるため、排気通路の壁面に付着する尿素水の量は減少する。従って、排気通路における尿素水のデポジット堆積量は、吸入空気量や尿素水の添加量を調整することによりコントロールすることができる。そこで、同構成では、尿素水のデポジット堆積量についてその目標値を設定し、尿素水のデポジット堆積量が設定された目標値となるように吸入空気量及び尿素水の添加量のうちの少なくとも一方を調整するようにしている。従って、上記目標値を適切に設定することにより、排気の昇温処理だけで尿素水のデポジットを十分に除去することができるようになる。
【0021】
また、排気中の微粒子を捕集するフィルタを排気通路に備えており、排気の昇温処理は、フィルタに捕集された微粒子の堆積量が所定量に達したときに実行される処理である場合において、上述した尿素水のデポジット堆積量の目標値を設定する場合には、フィルタにおける微粒子の堆積量が多いときほど同目標値を大きくすることが好ましい。同構成によれば、フィルタの微粒子堆積量が多くなるほど、尿素水のデポジット堆積量も多くなる。そして、フィルタの微粒子堆積量が所定量に達して、排気の昇温処理が実行されると、フィルタの再生処理が行われるとともに、堆積した尿素水のデポジットが除去される。従って、フィルタの再生処理に合わせて尿素水のデポジットを除去することが可能になる。
【0022】
上記排気浄化装置において、排気通路内には、尿素添加弁から添加された尿素水が付着する付着板を設ける。そして、その付着板は、排気通路の内壁から離間されていることが好ましい。
【0023】
外気温度が低く、排気通路の温度が低くなりやすいときには、排気通路の壁面に付着した尿素水のデポジットが熱分解されにくいため、尿素水のデポジット堆積量が増大しやすい。そのため、上述した昇温処理の実行時には、デポジットから発生するアンモニア量が多くなりやすい。
【0024】
この点、同構成によれば、排気通路内に上記付着板が設けられているため、尿素添加弁から添加された尿素水が排気通路の壁面に付着することが抑制される。また、付着板は排気通路の内壁から離間されているため、付着板と排気通路の内壁との間には排気が流れる。従って、外気温度が低いときでも、付着板の温度は排気とほぼ同じ温度になり、付着板に付着した尿素水のデポジットは熱分解されやすくなる。そのため、尿素水のデポジット堆積量の増大は、付着板を設けない場合と比較して抑えられるようになる。そしてこのようにデポジット堆積量の増大を抑えることができるため、昇温処理の実行時において、尿素水のデポジットから発生するアンモニア量を少なくすることができるようになる。
【0025】
なお、上記付着板に孔を設けるようにすれば、その孔に排気が流れ込むようになるため、排気から付着板への熱移動が促進され、これにより付着板の温度をより一層排気温度に近づけることができるようになる。
【0026】
上記排気浄化装置において、尿素添加弁と触媒との間の排気通路内に、排気通路の下流に向けて傾斜するフィンを有した分散板を設ける。そして、そのフィンの排気下流側端部における接線は、触媒の前端面に向くように同フィンを形成することが好ましい。
【0027】
上記フィンに付着した尿素水は、排気の流勢によってフィンの表面を移動し、フィンの排気下流側端部から排気通路内の空間に放出される。ここで、同構成では、排気下流側端部における接線が触媒の前端面に向いているため、フィンの排気下流側端部から放出された尿素水は、排気通路の壁面ではなく、触媒の前端面に向かうようになる。従って、排気通路の壁面における尿素水の付着量を抑えることができ、これにより排気通路の壁面における尿素水のデポジット堆積量増大を抑えることができる。そしてこのようにデポジット堆積量の増大を抑えることができるため、排気の昇温処理の実行時において、尿素水のデポジットから発生するアンモニア量を少なくすることができるようになる。
【0028】
なお、上述したフィンについては、排気通路内での排気の流れ方向と尿素添加弁から噴射される尿素水の噴射方向とがなす角を第1角度とし、排気通路内での排気の流れ方向とフィンにおいて尿素水が衝突する面とがなす角を第2角度としたときに、「第2角度−第1角度>40°」の関係を満たすように第1角度及び第2角度を設定することが好ましい。
【0029】
同構成によれば、尿素水がフィンに衝突したときにそのフィンの表面上に形成される尿素水の液膜は、尿素水がフィンに衝突したときの衝突力によって十分に薄い状態になることが、本発明者によって確認されている。このようにして尿素水の液膜が十分に薄い状態になると、液膜が厚い場合と比較して、フィンから放出された尿素水の微粒化が進みやすくなる。そのため、例えばNOxの浄化率が向上するようになる。
【0030】
また、上述したフィンについては、排気通路内での排気の流れ方向とフィンにおいて尿素水が衝突する面とがなす角を第2角度とし、排気通路内での排気の流れ方向とフィンの排気下流側端部における接線の延伸方向とがなす角を第3角度としたときに、「第2角度>第3角度」の関係を満たすように第2角度及び第3角度を設定することが好ましい。
【0031】
同構成によれば、「第2角度≦第3角度」とした場合に比較して、フィンに付着した尿素水は、排気の流勢によってフィンの表面を移動しやすくなる。その結果、フィンの表面上に形成される尿素水の液膜が厚くなることを抑えることができ、フィンから放出された尿素水の微粒化を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】内燃機関の排気浄化装置の第1実施形態における構成を示す模式図。
図2】同実施形態において排気を昇温させるときの一連の処理手順を示すフローチャート。
図3】吸入空気量と目標昇温速度との関係を示す概念図。
図4】目標排気温度及び実際の排気温度の温度差と目標昇温速度との関係を示す概念図。
図5】アンモニア吸着量と目標昇温速度との関係を示す概念図。
図6】尿素デポジット堆積量と目標昇温速度との関係を示す概念図。
図7】昇温処理実行時における排気温度の変化を示すタイミングチャート。
図8】同実施形態の変形例における昇温処理実行時の排気温度変化を示すタイミングチャート。
図9】第2実施形態における尿素デポジット堆積量の算出処理についてその手順を示すフローチャート。
図10】フィルタ再生の実行時間及びフィルタ再生時の排気温度と尿素デポジット残量との関係を示す概念図。
図11】吸入空気量と壁面付着係数との関係を示す概念図。
図12】排気管壁温と分解係数との関係を示す概念図。
図13】同実施形態における目標堆積量の算出処理についてその手順を示すフローチャート。
図14】フィルタの前後における差圧と目標堆積量の加算値との関係を示す概念図。
図15】同実施形態における尿素デポジットの堆積量を制御する処理についてその手順を示すフローチャート。
図16】第3実施形態における排気通路の断面を示す模式図。
図17図16のA−A断面図。
図18】付着板の断面図。
図19】同実施形態の変形例における付着板の断面図。
図20】同実施形態の変形例における付着板の断面図。
図21図20のB−B断面図。
図22】同実施形態の変形例における付着板の断面図。
図23】第4実施形態における分散板の正面図。
図24図23のC−C断面図。
図25】同実施形態における排気通路の部分断面図。
図26】同実施形態の分散板に設けられたフィンについてその排気下流側端部近傍の形状を示す拡大図(図25のD部拡大図)。
図27】同実施形態における排気通路の部分断面図。
図28】同実施形態におけるフィンについてその排気下流側端部近傍の形状を示す拡大図。
図29】フィンの第1角度及び第2角度の差を変化させたときのNOx浄化率の変化を示すグラフ。
図30】同実施形態のフィンに対する比較例であって、その排気下流側端部近傍の形状を示す拡大図。
図31】同実施形態の変形例における排気通路の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(第1実施形態)
以下、内燃機関の排気浄化装置を具体化した第1実施形態について、図1図7を参照して説明する。
【0034】
図1に、本実施形態にかかる排気浄化装置が適用された車両搭載用のディーゼルエンジン(以下、「エンジン」という)、並びにそれらの周辺構成を示す。
エンジン1には複数の気筒#1〜#4が設けられている。シリンダヘッド2には複数の燃料噴射弁4a〜4dが取り付けられている。これら燃料噴射弁4a〜4dは、各気筒#1〜#4の燃焼室にそれぞれ燃料を噴射する。また、シリンダヘッド2には新気を気筒内に導入するための吸気ポートと、燃焼ガスを気筒外へ排出するための排気ポート6a〜6dとが各気筒#1〜#4に対応して設けられている。
【0035】
燃料噴射弁4a〜4dは、高圧燃料を蓄圧するコモンレール9に接続されている。コモンレール9はサプライポンプ10に接続されている。サプライポンプ10は燃料タンク内の燃料を吸入するとともにコモンレール9に高圧燃料を供給する。コモンレール9に供給された高圧燃料は、各燃料噴射弁4a〜4dの開弁時に同燃料噴射弁4a〜4dから気筒内に噴射される。
【0036】
吸気ポートにはインテークマニホールド7が接続されている。インテークマニホールド7は吸気通路3に接続されている。この吸気通路3内には吸入空気量を調整するための吸気絞り弁16が設けられている。
【0037】
排気ポート6a〜6dにはエキゾーストマニホールド8が接続されている。エキゾーストマニホールド8は排気通路28に接続されている。
排気通路28の途中には、排気圧を利用して気筒に導入される吸入空気を過給するターボチャージャ11が設けられている。ターボチャージャ11の吸気側コンプレッサと吸気絞り弁16との間の吸気通路3にはインタークーラ18が設けられている。このインタークーラ18によって、ターボチャージャ11の過給により温度上昇した吸入空気の冷却が図られる。
【0038】
また、排気通路28の途中にあって、ターボチャージャ11の排気側タービンの下流には、排気を浄化する第1浄化部材30が設けられている。この第1浄化部材30の内部には、排気の流れ方向に対して直列に酸化触媒31及びフィルタ32が配設されている。
【0039】
酸化触媒31には、排気中のHCを酸化処理する触媒が担持されている。また、フィルタ32は、排気中のPM(微粒子物質)を捕集する部材であって、多孔質のセラミックで構成されている。このフィルタ32には、PMの酸化を促進させるための触媒が担持されており、排気中のPMは、フィルタ32の多孔質の壁を通過する際に捕集される。
【0040】
また、エキゾーストマニホールド8の集合部近傍には、酸化触媒31やフィルタ32に添加剤として機関の燃料を供給するための燃料添加弁5が設けられている。この燃料添加弁5は、燃料供給管29を介してサプライポンプ10に接続されている。なお、燃料添加弁5の配設位置は、排気系にあって第1浄化部材30の上流側であれば適宜変更することも可能である。また、燃料添加弁5、燃料供給管29、及びサプライポンプ10を省略して、燃料のアフター噴射を実行することにより、酸化触媒31やフィルタ32に燃料を供給してもよい。
【0041】
フィルタ32に捕集されたPMの量(以下、PM堆積量PMsmという)が予め定められた堆積量判定値を超えると、フィルタ再生処理が開始されて燃料添加弁5からはエキゾーストマニホールド8内に向けて燃料が噴射される。この燃料添加弁5から噴射された燃料は、酸化触媒31に達すると燃焼され、これにより排気温度は、フィルタ再生に適した目標排気温度にまで上昇される。そして、酸化触媒31にて昇温された排気がフィルタ32に流入することにより、同フィルタ32は昇温され、これによりフィルタ32に堆積したPMが酸化処理されてフィルタ32の再生が図られる。そして、PM堆積量PMsmが所定の再生終了値PMe以下にまで減少すると、燃料添加弁5からの燃料噴射が終了されて、フィルタ再生処理は終了される。
【0042】
また、排気通路28の途中にあって、第1浄化部材30の下流には、排気を浄化する第2浄化部材40が設けられている。第2浄化部材40の内部には、アンモニアを還元剤として排気中のNOxを還元浄化する選択還元型の触媒(以下、SCR触媒という)41が配設されている。
【0043】
さらに、排気通路28の途中にあって、第2浄化部材40の下流には、排気を浄化する第3浄化部材50が設けられている。第3浄化部材50の内部には、排気中のアンモニアを浄化するアンモニア酸化触媒51が配設されている。
【0044】
エンジン1には、上記SCR触媒41にアンモニアを供給する供給機構としての尿素水供給機構200が設けられている。尿素水供給機構200は、尿素水を貯留するタンク210、排気通路28内に尿素水を噴射供給する尿素添加弁230、尿素添加弁230とタンク210とを接続する供給通路240、供給通路240の途中に設けられたポンプ220等にて構成されている。
【0045】
尿素添加弁230は、第1浄化部材30と第2浄化部材40との間の排気通路28に設けられており、その噴射孔はSCR触媒41に向けられている。この尿素添加弁230が開弁されると、供給通路240を介して排気通路28内に尿素水が噴射供給される。
【0046】
また、尿素添加弁230とSCR触媒41との間の排気通路28内には、尿素添加弁230から噴射された尿素水をSCR触媒41の上流で分散させることにより尿素水の霧化を促進させる分散板60が設けられている。分散板60の構造としては、例えば網目状の板や、複数のフィン等が挙げられる。
【0047】
尿素添加弁230から噴射された尿素水は、排気の熱によって加水分解されてアンモニアになり、SCR触媒41に吸着される。そしてSCR触媒41に吸着されたアンモニアによってNOxが還元浄化される。
【0048】
この他、エンジン1には排気再循環装置(以下、EGR装置という)が備えられている。このEGR装置は、排気の一部を吸入空気に導入することで気筒内の燃焼温度を低下させ、NOxの発生量を低減させる装置である。この排気再循環装置は、吸気通路3とエキゾーストマニホールド8とを連通するEGR通路13、同EGR通路13に設けられたEGR弁15、及びEGRクーラ14等により構成されている。EGR弁15の開度が調整されることにより排気通路28から吸気通路3に導入される排気再循環量、すなわちEGR量が調量される。また、EGRクーラ14によってEGR通路13内を流れる排気の温度が低下される。
【0049】
エンジン1には、機関運転状態を検出するための各種センサが取り付けられている。例えば、エアフロメータ19は吸気通路3内の吸入空気量GAを検出する。絞り弁開度センサ20は吸気絞り弁16の開度を検出する。機関回転速度センサ21はクランクシャフトの回転速度、すなわち機関回転速度NEを検出する。アクセルセンサ22はアクセルペダルの踏み込み量、すなわちアクセル操作量ACCPを検出する。外気温センサ23は、外気温度THoutを検出する。車速センサ24はエンジン1が搭載された車両の車速SPDを検出する。水温センサ25は、エンジン1の冷却水温THWを検出する。
【0050】
また、酸化触媒31の上流に設けられた第1排気温度センサ100は、酸化触媒31に流入する前の排気温度である第1排気温度TH1を検出する。差圧センサ110は、フィルタ32の上流及び下流の排気圧の圧力差である差圧ΔPを検出する。
【0051】
第1浄化部材30と第2浄化部材40との間の排気通路28にあって、尿素添加弁230の上流には、第2排気温度センサ120及び第1NOxセンサ130が設けられている。第2排気温度センサ120は、SCR触媒41に流入する前の排気温度である第2排気温度TH2を検出する。第1NOxセンサ130は、SCR触媒41に流入する前の排気中のNOx濃度、つまりSCR触媒41で浄化される前の排気中のNOx濃度である第1NOx濃度N1を検出する。
【0052】
第3浄化部材50の下流の排気通路28には、SCR触媒41で浄化された排気のNOx濃度である第2NOx濃度N2を検出する第2NOxセンサ140が設けられている。
これら各種センサ等の出力は制御装置80に入力される。この制御装置80は、中央処理制御装置(CPU)、各種プログラムやマップ等を予め記憶した読出専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果等を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、タイマカウンタ、入力インターフェース、出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成されている。
【0053】
そして、この制御装置80により、例えば燃料噴射弁4a〜4dや燃料添加弁5の燃料噴射量制御・燃料噴射時期制御、サプライポンプ10の吐出圧力制御、吸気絞り弁16を開閉するアクチュエータ17の駆動量制御、EGR弁15の開度制御等、エンジン1の各種制御が行われる。また、上記フィルタ32に捕集されたPMを燃焼させるフィルタ再生処理等といった各種の排気浄化制御も同制御装置80によって行われる。
【0054】
また、制御装置80は、排気浄化制御の一つとして、上記尿素添加弁230による尿素水の添加制御を行う。この添加制御では、エンジン1から排出されるNOxを還元処理するために必要な尿素添加量NTが機関運転状態等に基づいて算出される。そして、算出された尿素添加量NTが尿素添加弁230から噴射されるように、尿素添加弁230の開弁状態が制御される。
【0055】
ところで、尿素添加弁230から添加された尿素水は、排気通路28内の壁面に付着してデポジット化することがある。こうした尿素水のデポジット(以下、尿素デポジットという)は、高温下においてアンモニアへと熱分解されることにより除去される。
【0056】
他方、上述したSCR触媒41は、尿素水由来のアンモニアを吸着したり脱離させたりする機能を有しており、触媒温度が高くなるにつれてアンモニア吸着量は減少する一方で、アンモニア脱離量は増大する特性を有している。また、SCR触媒41から脱離するアンモニア量が顕著に多くなるときの触媒温度は、尿素デポジットを分解するために必要な温度よりも高い温度になっている。
【0057】
ここで、上述したフィルタ再生処理などのように、排気を昇温させる処理によって排気温度が高められると、SCR触媒41からのアンモニア脱離と、排気通路28の壁面に付着・堆積した尿素デポジットの分解とがほぼ同時期に起きる可能性がある。アンモニア脱離と尿素デポジットの分解とがほぼ同時期に起きると、SCR触媒41及び尿素デポジットの双方からアンモニアが発生するため、排気中のアンモニア濃度が過度に増大してしまうおそれがある。
【0058】
そこで、本実施形態では、フィルタ再生を行うための排気の昇温処理を実行するに際して、図2に示す処理を行うことにより、排気の昇温処理実行時において、排気中のアンモニア濃度(厳密には単位時間当たりのアンモニア濃度)が増大することを抑えるようにしている。なお、図2に示す処理は、制御装置80によって、所定周期毎に実行される。
【0059】
図2に示す処理が開始されるとまず、酸化触媒31の温度が判定値A以上であるが否かが判定される(S100)。このステップSS100では、第1排気温度TH1に基づいて酸化触媒31の温度が推定される。そして、その推定された酸化触媒31の温度が判定値A未満であるときには(S100:NO)、燃料添加による排気の昇温効果が十分に得られないと判断されて、本処理は、一旦終了される。
【0060】
一方、推定された酸化触媒31の温度が判定値A以上であるときには(S100:NYES)、燃料添加による排気の昇温効果が十分に得られる状態になっていると判断され、次に、フィルタ32の前後における差圧ΔPが判定値B以上であるか否かが判定される(S110)。
【0061】
そして、差圧ΔPが判定値B未満であるときには(S110:NO)、フィルタ32の再生が必要な程度にまでPMが堆積していない、つまり、フィルタ32のPM堆積量PMsmが上記堆積量判定値を超えていないと判断される。この場合には、フィルタ再生処理を行う必要は無く、本処理は、一旦終了される。
【0062】
一方、差圧ΔPが判定値B以上であるときには(S110:YES)、フィルタ32の再生が必要な程度にまでPMが堆積している、つまり、フィルタ32のPM堆積量PMsmが上記堆積量判定値を超えていると判断される。そして、フィルタ再生を行うために、ステップS120以降の処理が引き続き行われる。
【0063】
ステップS120では、排気管壁温TWが推定される。この排気管壁温TWは、尿素添加弁230からSCR触媒41までの間の排気通路28の壁温であり、例えば第2排気温度TH2、吸入空気量GA、外気温度THout、及び車速SPD等に基づいて推定される。なお、尿素添加弁230からSCR触媒41までの間の排気通路28の壁面に温度センサを設け、排気管壁温TWを直接検出するようにしてもよい。
【0064】
次に、排気管壁温TWが判定値C以上であるか否かが判定される(S130)。この判定値Cとしては、尿素デポジットを熱分解するために必要な最低温度近傍の値が設定されている。そして、排気管壁温TWが判定値C以上であるときには(S130:YES)、尿素デポジットが熱分解されており、尿素デポジットは堆積しにくい期間中であると判断される。そして、この場合には、通常のフィルタ再生が実行されて(S210)、本処理は一旦終了される。なお、ステップS210における通常のフィルタ再生では、燃料添加弁5からの燃料添加量が、フィルタ再生時に設定される目標排気温度に基づいて設定される。
【0065】
一方、排気管壁温TWが判定値C未満であるときには(S130:NO)、尿素デポジットの熱分解があまり進んでおらず、尿素デポジットは堆積しやすい期間中であると判断される。そして、次に、温度差ΔTHが算出される(S140)。この温度差ΔTHは、排気温度TGから排気管壁温TWを減じた値の絶対値である。なお、本実施形態では、排気温度TGとして第2排気温度TH2の値を採用するようにしているが、その他の部位の排気温度でもよい。
【0066】
そして、温度差ΔTHが判定値D(例えば300°程度)未満であるか否かが判定される(S150)。そして、温度差ΔTHが判定値D未満であるときには(S150:YES)、現在の機関運転状態が軽負荷状態であって排気温度が比較的低く、これによりSCR触媒41が活性化しにくい状態になっていると判断される。
【0067】
そして、ステップS150で肯定判定されるときには、フィルタ再生時の排気の昇温を遅くする昇温抑制処理として、ステップS160〜S180の各処理が順次行われる。
まず、ステップS160では、排気の目標昇温速度RTpが設定される。この目標昇温速度RTpは、フィルタ再生時における排気の昇温速度の目標値であり、フィルタ再生時におけるアンモニア濃度が所定値以下となるように排気の昇温速度を抑えるための目標値である。なお、この目標昇温速度RTpは、上述した通常のフィルタ再生時における昇温速度、つまり尿素デポジットが堆積しにくい状態のときに実行されるフィルタ再生時での排気の昇温速度よりも遅い速度に設定される。
【0068】
また、目標昇温速度RTpは、吸入空気量GA、フィルタ再生時に設定される目標排気温度と現在の第2排気温度TH2との温度差ΔT、SCR触媒41に吸着されているアンモニア吸着量NAD、及び排気通路28の壁面における尿素デポジット堆積量DEに基づいて可変設定される。
【0069】
図3に示すように、吸入空気量GAが少ないときほど、目標昇温速度RTpは遅い速度に設定される。これによりフィルタ再生時の昇温処理では、吸入空気量GAが少ないときほど排気の昇温は遅くされる。
【0070】
図4に示すように、温度差ΔTが大きいときほど、目標昇温速度RTpは遅い速度に設定される。これによりフィルタ再生時の昇温処理では、温度差ΔTが大きいときほど排気の昇温は遅くされる。
【0071】
図5に示すように、アンモニア吸着量NADが多いときほど、目標昇温速度RTpは遅い速度に設定される。これによりフィルタ再生時の昇温処理では、アンモニア吸着量NADが多いときほど排気の昇温は遅くされる。なお、アンモニア吸着量NADは、周知のように、尿素添加量や排気温度などに基づいて適宜推定することが可能である。
【0072】
図6に示すように、尿素デポジット堆積量DEが多いときほど、目標昇温速度RTpは遅い速度に設定される。これによりフィルタ再生時の昇温処理では、尿素デポジット堆積量DEが多いときほど排気の昇温は遅くされる。なお、尿素デポジット堆積量DEは、尿素添加量、排気管壁温TW、吸入空気量などに基づいて適宜推定することが可能である。
【0073】
ちなみに、目標昇温速度RTpは、吸入空気量GA、温度差ΔT、アンモニア吸着量NAD、及び尿素デポジット堆積量DEのうちの少なくとも1つに基づいて可変設定するようにしてもよい。
【0074】
こうして目標昇温速度RTpが設定されると、その目標昇温速度RTpに基づいて燃料添加量QTRが算出される(S170)。なお、このときに算出される燃料添加量QTRは、排気の昇温速度を遅くするために、通常のフィルタ再生時に設定される燃料添加量よりも少ない値に設定される。
【0075】
そして、算出された燃料添加量QTRによるフィルタ再生が実行されて(S180)、本処理は、一旦終了される。
一方、排気管壁温TWに対して排気温度TGが判定値D以上に高くなっているときには、上記ステップS150にて、温度差ΔTHが判定値D未満ではないと判定される(S150:NO)。なお、排気管壁温TWに対して排気温度TGが判定値D以下に低くなっているときも、ステップS150では否定判定されるのであるが、このような排気温度TGの低温時には、上記ステップS100にて否定判定される。そのため、ステップS150で否定判定されるときには、排気管壁温TWに対して排気温度TGが判定値D以上に高くなっている。そして、このように排気温度TGが高温状態になっている状態では、機関運転状態が中負荷以上の状態になっており、SCR触媒41は比較的安定した活性化状態になっていると判断される。
【0076】
こうしてステップS150にて否定判定される場合には、次に、アンモニア吸着量NADが判定値F以上であるか否かが判定される(S190)。そして、アンモニア吸着量NADが判定値F未満であるときには(S190:NO)、通常のフィルタ再生を行ってもSCR触媒41からはそれほど多くのアンモニアが脱離せず、アンモニア濃度の過度な増大は起きないと判断されて、通常のフィルタ再生が実行される(S210)。そして、本処理は、一旦終了される。
【0077】
一方、アンモニア吸着量NADが判定値F以上であるときには(S190:YES)、尿素デポジットが堆積しやすい状態であっても(S130での否定判定)、上述した昇温抑制処理の実行は禁止される。そして、その昇温抑制処理の実行に代えて、機関燃焼室からのNOx排出量を増大させるNOx増量処理が実行される(S200)。このNOx増量処理におけるNOx排出量の増大は、適宜行うことができる。例えば、NOxの排出量は、混合気の燃焼温度が高く、急峻な燃焼が起きるときほど増大する。そこで、吸入空気量を増やして気筒内の酸素量を増やすことで急峻な燃焼を促すようにする。または、燃料噴射時期を進角することで燃料の着火時期を早くし、これにより急峻な燃焼を促すようにする。または、上述したEGR量を減少させることにより気筒内の酸素量を増やし、これにより急峻な燃焼を促すようにすることも可能である。
【0078】
そして、こうしたNOx増量処理を所定期間実行した後に、通常のフィルタ再生が実行されて(S210)、本処理は、一旦終了される。
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0079】
上述したように、排気管壁温TWが判定値C以上に高いときには、尿素デポジットが熱分解されるため、尿素デポジットは堆積しにくい状態になる。排気通路28の壁面に尿素デポジットが堆積しにくい期間中であれば、排気の昇温を通常通りに行っても、尿素デポジットの分解に起因したアンモニアの発生量は少ない。従って、尿素デポジットの分解とほぼ同時期にSCR触媒41からのアンモニア脱離が起きたとしても、排気中のアンモニア濃度の増大は抑えることができる。そこで、本実施形態では、上記ステップS130にて肯定判定されることにより、尿素デポジットが堆積しにくい期間中であると判断できるときには、通常のフィルタ再生が実行される(S210)。
【0080】
一方、上述したように排気管壁温TWが判定値Cよりも低いときには、尿素デポジットは分解されにくくなるため、尿素デポジットは堆積しやすい状態になる。そこで、上記ステップS130にて否定判定されることにより、排気通路28の壁面に尿素デポジットが堆積しやすい期間中であると判断できるときには、尿素デポジットが堆積しにくい期間中であると判断される場合に比べて、昇温処理実行時における排気の昇温を遅くする昇温抑制処理が行われる(S160〜S180)。
【0081】
図7に二点鎖線にて示すように、排気温度をフィルタ再生時の目標排気温度THPにまで高めるときの排気の昇温が速やかに行われると、次のような不都合が生じるおそれがある。すなわち排気の昇温過程において、デポジットの分解が起きる時期t1、つまり尿素デポジットの熱分解が起きる分解温度THBにまで排気温度が上昇する時期と、SCR触媒41からのアンモニア脱離が起きる時期t2、つまりアンモニア脱離が起きる脱離温度THDにまで排気温度が上昇する時期との間の期間P1が短くなる。そして、場合によっては、尿素デポジットの分解とSCR触媒41からのアンモニア脱離とがほぼ同時期に起きるおそれもある。
【0082】
一方、本実施形態では、図7に実線にて示すように、排気の昇温が、昇温抑制処理の実行によって緩慢にされる。その結果、尿素デポジットの分解が起きた後で、SCR触媒41からのアンモニア脱離が起きるようになる。つまり、デポジットの分解が起きる時期t3とSCR触媒41からのアンモニア脱離が起きる時期t4との間の期間P2が長くなり、デポジットの分解が起きる時期t3とSCR触媒41からのアンモニア脱離が起きる時期t4とがずれるようになる。従って、尿素デポジットの分解とSCR触媒41からのアンモニア脱離とがほぼ同時期に起きることは抑制されるようになり、その結果、SCR触媒41及び尿素デポジットの双方からほぼ同時期にアンモニアが発生することは抑えられる。
【0083】
このように本実施形態では、排気の昇温処理を行うに際して、排気通路28の壁面に尿素デポジットが堆積しやすい期間中なのか、または堆積しにくい期間中なのかが排気管壁温TWに基づいて判定される。そして、尿素デポジットが堆積しやすい期間中に昇温処理を行う場合には、尿素デポジットが堆積しにくい期間中に昇温処理を行う場合と比べて排気の昇温が遅くされる。従って、排気の昇温処理実行時において、排気中のアンモニア濃度が過度に増大することを抑えることができる。なお、昇温抑制処理が実行されると、排気の温度上昇が緩やかになるため、尿素デポジットの単位時間当たりの分解量や、SCR触媒41からの単位時間当たりのアンモニア脱離量も少なくなり、これによっても排気中のアンモニア濃度が過度に増大することは抑えられる。
【0084】
また、吸入空気量GAが少なくなると排気流量も減少するため、排気によるアンモニアの希釈効果は弱くなり、排気中のアンモニア濃度は高くなりやすい。そこで、先の図3に示したように、昇温抑制処理の実行時には、吸入空気量GAが少ないときほど目標昇温速度RTpを遅くして、排気の昇温をより遅くするようにしている。従って、排気によるアンモニアの希釈効果が弱くなるときほど、尿素デポジットやSCR触媒41からのアンモニア発生量が少なくなるように排気の昇温が行われるため、排気中のアンモニア濃度の増大がより適切に抑えられる。
【0085】
また、昇温処理の実行時に設定される目標排気温度と実際の排気温度との差である上記温度差ΔTが大きいときほど、排気はより早期に昇温されるため、尿素デポジットの分解とSCR触媒41からのアンモニア脱離とがほぼ同時期に起きやすくなる。そこで、先の図4に示したように、昇温抑制処理の実行時には、温度差ΔTが大きいときほど目標昇温速度RTpを遅くして、排気の昇温をより遅くするようにしている。従って、尿素デポジットの分解とSCR触媒41からのアンモニア脱離とがほぼ同時期に起きやすいときほど、尿素デポジットの分解が起きる時期とSCR触媒41からのアンモニア脱離が起きる時期とがずれるように排気の昇温が行われるようになるため、排気中のアンモニア濃度の増大がより適切に抑えられる。
【0086】
また、SCR触媒41のアンモニア吸着量NADが多いときほど、SCR触媒41からの脱離によって発生するアンモニアの量も多くなる。そこで、先の図5に示したように、昇温抑制処理の実行時には、アンモニア吸着量NADが多いときほど目標昇温速度RTpを遅くして、排気の昇温をより遅くするようにしている。従って、SCR触媒41から発生するアンモニアの量が多くなりやすいときほど、SCR触媒41の温度上昇は緩やかにされることにより、SCR触媒41の温度上昇に伴うアンモニア脱離量の増大が抑えられるようになる。そのため、SCR触媒41からのアンモニア発生量が抑えられるようになる。従って、排気中のアンモニア濃度の増大がより適切に抑えられる。
【0087】
また、排気通路28の壁面における尿素デポジット堆積量DEが多いときほど、尿素デポジットの分解によって発生するアンモニアの量も多くなる。そこで、先の図6に示したように、昇温抑制処理の実行時には、尿素デポジット堆積量DEが多いときほど目標昇温速度RTpを遅くして、排気の昇温をより遅くするようにしている。従って、尿素デポジットから発生するアンモニアの量が多くなりやすいときほど、排気の温度上昇は緩やかにされることにより、排気の温度上昇に伴う尿素デポジットの分解促進が抑えられるようになる。そのため、尿素デポジットからのアンモニア発生量が抑えられるようになり、排気中のアンモニア濃度の増大をより適切に抑えることができる。
【0088】
また、上記昇温抑制処理では、尿素デポジットが堆積しやすい期間中での排気の昇温速度が、尿素デポジットが堆積しにくい期間中での排気の昇温速度よりも遅くなるように、燃料添加弁5からの燃料添加量を減少させる処理として構築されている。そのため、昇温処理の実行時における排気の昇温を遅くすることが可能になる。
【0089】
また、排気通路28に尿素デポジットが堆積しやすい期間中であっても(S130:NO)、SCR触媒41が活性化しやすい状態のときには(S150:NO)、上述した昇温抑制処理の実行を禁止している。そして、NOx増大処理を実行し(S200)、その後、通常のフィルタ再生を実行するようにしている(S210)。
【0090】
つまり、SCR触媒41が活性しやすくNOxを適切に浄化することができる状態のときには、上述した昇温抑制処理の実行が禁止される。そして、機関燃焼室からのNOx排出量が増大される。こうして増大されたNOxは、活性化しやすい状態になっているSCR触媒41にて浄化されるのであるが、その浄化に際しては、SCR触媒41に吸着されたアンモニアが消費される。そのため、増大されたNOx排出量に応じてSCR触媒41のアンモニア吸着量は減少し、これによりSCR触媒41から脱離するアンモニア量も減少する。従って、NOx排出量を増大させた後に、排気の昇温処理を通常通りに実行しても、SCR触媒41からはそれほど多くのアンモニアが発生しない。このように排気の昇温処理を実行する前に、SCR触媒41に吸着されているアンモニアの量を予め減らすようにしているため、排気の昇温処理実行時において、排気中のアンモニア濃度の増大を抑えることができる。なお、上述したNOx増量処理は、フィルタ再生に伴うアンモニア脱離量が十分に少なくなる程度に、SCR触媒41に吸着されたアンモニアが消費されるまで実行することが望ましい。
【0091】
また、エンジン1の運転状態が中負荷以上の状態になっているときには、排気通路の壁温に対して排気温度が所定値以上に高くなっていることが多く、そうした中負荷以上の運転状態のときには、SCR触媒41が比較的安定して活性化している。そこで、排気通路28の壁温を示す排気管壁温TWに対して排気温度TGが所定の判定値D以上に高いときには、SCR触媒41が活性化しやすい状態であると判定するようにしており、これによりSCR触媒41が活性化しやすい状態であるか否かを適切に判定することができる。
【0092】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)排気管壁温TWが判定値Cよりも低く排気通路28の壁面に尿素デポジットが堆積しやすい期間中には、排気管壁温TWが判定値C以上に高く尿素デポジットが堆積しにくい期間中と比べて、昇温処理実行時における排気の昇温を遅くする昇温抑制処理を行うようにしている。そのため、SCR触媒41及び尿素デポジットの双方からほぼ同時期にアンモニアが発生することは抑えられるようになる。従って、排気の昇温処理実行時において、排気中のアンモニア濃度が過度に増大することを抑えることができる。
【0093】
(2)昇温抑制処理の実行時には、吸入空気量GAが少ないときほど目標昇温速度RTpを遅くして、排気の昇温をより遅くするようにしている。従って、排気中のアンモニア濃度の増大がより適切に抑えられる。
【0094】
(3)昇温抑制処理の実行時には、目標排気温度と実際の排気温度との差である温度差ΔTが大きいときほど目標昇温速度RTpを遅くして、排気の昇温をより遅くするようにしている。従って、排気中のアンモニア濃度の増大がより適切に抑えられる。
【0095】
(4)昇温抑制処理の実行時には、アンモニア吸着量NADが多いときほど目標昇温速度RTpを遅くして、排気の昇温をより遅くするようにしている。従って、排気中のアンモニア濃度の増大がより適切に抑えられる。
【0096】
(5)昇温抑制処理の実行時には、尿素デポジット堆積量DEが多いときほど目標昇温速度RTpを遅くして、排気の昇温をより遅くするようにしている。従って、排気中のアンモニア濃度の増大をより適切に抑えることができる。
【0097】
(6)上記昇温抑制処理では、尿素デポジットが堆積しやすい期間中での排気の昇温速度が、尿素デポジットが堆積しにくい期間中での排気の昇温速度よりも遅くなるように、燃料添加弁5からの燃料添加量を減少させるようにしている。そのため、昇温処理の実行時における排気の昇温を実際に遅くすることが可能になる。
【0098】
(7)排気通路28に尿素デポジットが堆積しやすい期間中であっても、SCR触媒41が活性化しやすい状態のときには、上述した昇温抑制処理の実行を禁止している。そして、NOx増大処理を実行し、その後、通常のフィルタ再生を実行するようにしている。このように排気の昇温処理を実行する前に、NOx増大処理を行うことでSCR触媒41に吸着されているアンモニアの量を予め減らすようにしている。そのため、排気の昇温処理実行時において、排気中のアンモニア濃度の増大を抑えることができる。
【0099】
(8)排気通路28の壁温を示す排気管壁温TWに対して排気温度TGが所定の判定値D以上に高いときには、SCR触媒41が活性化しやすい状態であると判定するようにしており、これによりSCR触媒41が活性化しやすい状態であるか否かを適切に判定することができる。
【0100】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・先の図2に示したステップS190の処理を省略し、ステップS150に否定判定されるときには、ステップS200以降の処理を行うようにしてもよい。
【0101】
・先の図2に示したステップS140、ステップS150、ステップS190、及びステップS200の処理を省略してもよい。この場合でも、上記(7)及び(8)以外の効果を得ることができる。
【0102】
・排気温度TGと排気管壁温TWとの差の絶対値である上記温度差ΔTHに基づき、SCR触媒41の活性化状態を判定するようにしたが、この他の態様でSCR触媒41の活性化状態を判定してもよい。
【0103】
・昇温抑制処理では、昇温処理実行時の昇温速度を遅くするようにしたが、この他の態様で排気の昇温を遅くするようにしてもよい。例えば、触媒の排気上流に機関燃料を供給することにより排気温度を所定温度にまで高める昇温処理を実行するに際して、同所定温度よりも低い温度に排気温度を所定期間維持した後、排気温度を同所定温度にまで高める処理を行うようにしてもよい。こうした変形例の一例を図8に示す。
【0104】
図8に示すように、排気通路28の壁面に尿素デポジットが堆積しやすい期間中に、フィルタ再生のための排気の昇温処理を実行するに際しては、排気温度を上記目標排気温度THPよりも低い温度、より具体的には、上記脱離温度THDよりも低く上記分解温度THBよりも高い範囲内の温度に維持する維持期間HTを設ける。そして維持期間HTが経過した後に、再び排気の昇温を開始して、排気温度を目標排気温度THPにまで高めるようにする。こうした変形例によっても、排気温度を所定温度に向けて連続的に上昇させる場合(図8に二点鎖線にて図示)と比較して、昇温処理の実行時における排気の昇温を遅くすることが可能になる。
【0105】
・フィルタ32の再生を図るために排気の昇温処理を行うようにしたが、その他の目的で排気の昇温処理を行う場合、例えば排気通路に設けられた各種触媒の早期活性化を図る目的で排気の昇温処理を行う場合にも、先の図2に示した一連の処理に準じた処理を行うことにより、上記実施形態に準じた作用効果を得ることができる。
(第2実施形態)
次に、内燃機関の排気浄化装置を具体化した第2実施形態について、図9図15を参照して説明する。
【0106】
本実施形態では、第1実施形態で説明した図2の処理に加えて、更に図9図13、及び図15に示す各処理も行うことにより、尿素デポジット堆積量DEを能動的に制御するようにしており、この点のみが第1実施形態と異なっている。そこで、以下では、そうした相異点を中心に、本実施形態の排気浄化装置を説明する。なお、図9図13、及び図15に示す各処理も制御装置80によって所定周期毎に繰り返し実行される。
【0107】
図9に、排気通路28の壁面における尿素デポジット堆積量を算出するための処理手順を示す。なお、本実施形態における尿素デポジット堆積量DEの算出処理は、第1実施形態における尿素デポジット堆積量DEの算出にも利用可能である。
【0108】
この処理が開始されるとまず、機関運転中であるか否かが判定される(S300)。そして、機関運転中でないときには(S300:NO)、尿素デポジットの堆積は進行しないため、本処理は、一旦終了される。
【0109】
一方、機関運転中であるときには(S300:YES)、フィルタ再生中であるか否かが判定される(S310)。そして、フィルタ再生中であるときには(S310:YES)、本処理は、一旦終了される。
【0110】
一方、フィルタ再生中でないときには(S310:NO)、フィルタ再生の完了直後であるか否かが判定される(S320)。そして、フィルタ再生の完了直後であるときには(S320:YES)、フィルタ再生時における排気の昇温によって尿素デポジットが分解されており、尿素デポジット堆積量DEは最も少なくなっている。つまり、フィルタ再生の完了直後に残っている尿素デポジットの残量は、尿素デポジット堆積量DEの算出に際して初期値になる。そこで、そうしたフィルタ再生の完了直後における尿素デポジットの残量である尿素デポジット残量DERが、フィルタ再生中の排気温度及びフィルタ再生の実行時間に基づいて算出される(S390)。
【0111】
図10に示すように、フィルタ再生中の排気温度が高いときほど尿素デポジットの分解は進むため、フィルタ再生中の排気温度が高かったときほど尿素デポジット残量DERは少なくされる。なお、本実施形態では、フィルタ再生中の排気温度として上記第2排気温度TH2を利用するようにしているが、他の部位の排気温度でもよい。
【0112】
また、フィルタ再生の実行時間が長いときほど尿素デポジットの分解は進むため、先の図10に示すように、フィルタ再生の実行時間が長かったときほど尿素デポジット残量DERは少なくされる。
【0113】
こうして尿素デポジット残量DERが算出されると、その算出された尿素デポジット残量DERが現在の尿素デポジット堆積量DEとして、つまりフィルタ再生の完了直後における尿素デポジット堆積量DEとして設定されて(S400)、本処理は、一旦終了される。
【0114】
上記ステップS320で、フィルタ再生の完了直後ではないと判定されるときには(S320:NO)、尿素デポジット堆積量DEの積算処理を行うための各種処理が順次行われる。
【0115】
まず、ステップS330では、吸入空気量GAに基づいて尿素水の壁面付着係数K1が算出される。壁面付着係数K1は、尿素添加弁230から添加された尿素水のうちで排気通路に付着する尿素水の割合を示す値であり、「0≦K1≦1」の範囲で可変設定される。
【0116】
図11に示すように、壁面付着係数K1は、吸入空気量GAが多いときほどより小さい値となるように可変設定される。これは、吸入空気量GAが増大すると、吸気の流勢が強くなるため、排気通路28の壁面に付着する尿素水の量が減少するためである。
【0117】
次に、次式(1)に基づいて尿素水の壁面付着量HFが算出される(S340)。

壁面付着量HF=壁面付着係数K1×尿素添加量NT …(1)

次に、上述した排気管壁温TWに基づいて尿素デポジットの分解係数K2が算出される(S350)。分解係数K2は、排気通路28に付着した尿素デポジットのうちで熱分解される割合を示す値であり、「0≦K2≦1」の範囲で可変設定される。
【0118】
図12に示すように、分解係数K2は、尿素デポジットの熱分解が始まる温度よりも低い排気管壁温TWの範囲では、「0」に設定される。そして、排気管壁温TWが、尿素デポジットの熱分解が始まる温度を超えると、分解係数K2は、排気管壁温TWの増大に合わせて徐々に大きい値に設定され、排気管壁温TWが十分に高くなると、分解係数K2は「1」に設定される。
【0119】
次に、次式(2)に基づいて尿素デポジットの熱分解量NBが算出される(S360)。なお、尿素含有率NRは、尿素水中の尿素含有率のことであり、「0<NR<1」の範囲内の値であって予め把握されている。
【0120】

熱分解量NB=分解係数K2×壁面付着量HF×尿素含有率NR …(2)

次に、次式(3)に基づいて尿素デポジットの増加量を示すデポジット増加量ΔDEが算出される(S370)。
【0121】

デポジット増加量ΔDE=(壁面付着量HF×尿素含有率NR)−熱分解量NB…(3)

こうしてデポジット増加量ΔDEが算出されると、尿素デポジット堆積量DEが算出される(S380)。このステップS380では、前回の本処理実行周期で算出された尿素デポジット堆積量DEに対して、今回の本処理実行周期で算出された上記デポジット増加量ΔDEが加算されることにより、尿素デポジット堆積量DEが更新される。
【0122】
こうして尿素デポジット堆積量DEが算出されると、本処理は、一旦終了される。
図13に、尿素デポジット堆積量を能動的にコントロールするために設定される尿素デポジットの目標堆積量について、その目標堆積量を算出するための処理手順を示す。
【0123】
本処理が開始されると、まず、フィルタ再生中であるか否かが判定される(S500)。そして、フィルタ再生中であるときには(S500:YES)、本処理は、一旦終了される。
【0124】
一方、フィルタ再生中でないときには(S500:NO)、上述した差圧ΔPに基づいて加算値DEAが算出される(S510)。この加算値DEAは、フィルタ32におけるPM堆積量の増大に合わせて、目標堆積量DEpを徐々に増大させるための値である。
【0125】
図14に示すように、差圧ΔPが大きくなるほど、つまりフィルタ32におけるPM堆積量が多くなるほど、加算値DEAは徐々に大きくされる。
次に、上述した尿素デポジット残量DERに対して、今回の本処理実行周期で算出された加算値DEAを加算した値が、目標堆積量DEpとして設定されて(S520)、本処理は、一旦終了される。
【0126】
図15に、尿素デポジット堆積量DEを目標堆積量DEpに制御するための一連の処理手順を示す。
本処理が開始されると、まず、尿素添加中であるか否かが判定される(S600)。そして尿素添加中でないときには(S600:NO)、本処理は、一旦終了される。
【0127】
一方、尿素添加中であるときには(S600:YES)、現在の尿素デポジット堆積量DEと目標堆積量DEpとが読み込まれる(S610)。
次に、尿素デポジット堆積量DEが目標堆積量DEpを超えているか否かが判定される(S620)。そして、尿素デポジット堆積量DEが目標堆積量DEp以下であるときには(S620:NO)、本処理は一旦終了される。
【0128】
一方、尿素デポジット堆積量DEが目標堆積量DEpを超えているときには(S620:YES)、超過堆積量ΔDEUが算出される(S630)。この超過堆積量ΔDEUは、尿素デポジット堆積量DEから目標堆積量DEpを減算することにより算出される。
【0129】
次に、超過堆積量ΔDEUに基づいて尿素添加補正量NTH及び吸入空気補正量GAHが算出される(S640)。このステップS640では、尿素デポジット堆積量DEの増加速度を抑えるために、超過堆積量ΔDEUの分だけ尿素デポジットの堆積を抑えることが可能な尿素添加量の補正値及び吸入空気量の補正値が算出される。より詳細には、上記式(3)を利用して、次式(4)を満たす壁面付着量HFが算出される。
【0130】

超過堆積量ΔDEU=(壁面付着量HF×尿素含有率NR)−現在の熱分解量NB …(4)

そして、算出された壁面付着量HFを満たす尿素添加量NT及び壁面付着係数K1が上記式(1)から算出され、その算出された尿素添加量NTが、尿素添加補正量NTHとして設定される。また、算出された壁面付着係数K1に対応する吸入空気量GAが、吸入空気補正量GAHとして設定される。
【0131】
こうして尿素添加補正量NTH及び吸入空気補正量GAHが算出されると、尿素添加補正量NTHの分だけ尿素添加量NTが減量補正されることにより、尿素添加補正量NTHに応じた尿素添加制御が実行される(S650)。また、吸入空気補正量GAHの分だけ吸入空気量GAが増量補正されることにより、吸入空気補正量GAHに応じた吸入空気量制御が実行される(S650)。ちなみに、吸入空気補正量GAHに応じた吸入空気量制御は、適宜行うことができる。例えば、ターボチャージャ11の過給圧制御、吸気絞り弁16の開度制御、EGR弁15の開度制御等を行うことにより、そうした吸入空気量制御を行うことができる。
【0132】
こうしてステップS650の処理が実行されると、本処理は、一旦終了される。
次に、本実施形態の作用を説明する。
上述した尿素デポジットの堆積量が過剰に多くなると、排気の昇温処理を行っても、そうした尿素デポジットを十分に除去することが困難になる。ここで、上記式(1)に示したように、尿素添加量NTが多くなるに伴って、排気通路28の壁面に付着する尿素水の量は増大する。また、先の図11に示したように、吸入空気量GAが増大すると、吸気の流勢が強くなるため、排気通路28の壁面に付着する尿素水の量は減少する。従って、排気通路28における尿素デポジット堆積量DEは、吸入空気量GAや尿素添加量NTを調整することによりコントロールすることができる。そこで、尿素デポジット堆積量DEについてその目標値である目標堆積量DEpを設定するようにしている。そして、先の図15に示したステップS630〜ステップS650の処理を行うことにより、尿素デポジット堆積量DEが、設定された目標堆積量DEpとなるように、吸入空気量GA及び尿素添加量NTが補正される。従って、目標堆積量DEpを適切に設定することにより、排気の昇温処理だけで尿素デポジットを十分に除去することができるようになる。
【0133】
また、フィルタ32におけるPM堆積量が多いときほど、加算値DEAを大きくして、目標堆積量DEpが大きい値となるようにしている。こうした構成によれば、フィルタ32のPM堆積量が多くなるほど、尿素デポジット堆積量DEも多くなる。そして、フィルタ32のPM堆積量が所定量に達して、排気の昇温処理が実行されると、フィルタ32の再生処理が行われるとともに、堆積した尿素デポジットが除去される。従って、フィルタ32の再生処理に合わせて尿素デポジットは除去される。
【0134】
以上説明したように、本実施形態によれば、上記(1)〜(8)に記載の効果に加えて、さらに次の効果も得ることができる。
(9)排気通路28における尿素デポジットの堆積量について目標堆積量DEpを設定し、尿素デポジット堆積量DEが目標堆積量DEpとなるように吸入空気量GA及び尿素添加量NTを調整するようにしている。従って、排気の昇温処理だけで尿素デポジットを十分に除去することができるようになる。
【0135】
(10)フィルタ32の前後における差圧ΔPが大きいときほど、つまりフィルタ32におけるPM堆積量が多いときほど、目標堆積量DEpは大きくなるようにしている。従って、フィルタ32の再生処理に合わせて尿素デポジットを適切に除去することが可能になる。
【0136】
なお、上記第2実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・尿素添加補正量NTH及び吸入空気補正量GAHの一方のみを算出し、その算出された補正量を使って尿素デポジット堆積量をコントロールするようにしてもよい。
【0137】
・目標堆積量DEpを差圧ΔPに基づいて設定するようにしたが、この他の態様で設定するようにしてもよい。この場合でも、目標堆積量DEpを適切に設定することにより上記(9)に記載の効果を得ることができる。
(第3実施形態)
次に、内燃機関の排気浄化装置を具体化した第3実施形態について、図16図18を参照して説明する。
【0138】
本実施形態の排気浄化装置は、第1実施形態の排気浄化装置に対して排気通路内の構造が異なっている。そこで、以下では、そうした相異点を中心に、本実施形態の排気浄化装置を説明する。なお、本実施形態においても、上記第1実施形態で説明した各種制御や、上記第2実施形態で説明した各種制御は実行される。
【0139】
図16に示すように、尿素添加弁230とSCR触媒41との間の排気通路28内には、排気通路28の排気流れ方向に延びる付着板300が設けられている。この付着板300は、金属等、熱伝導率が高い素材で形成された円筒形状をなしており、その排気上流側及び排気下流側は開口されている。なお、本実施形態では、付着板300の排気上流側の開口部に上記分散板60を設けているが、この分散板60の配設位置は適宜変更することができる。また、付着板300よりも排気上流に分散板60を設けてもよい。
【0140】
図17及び先の図16に示すように、付着板300の外周面は、排気通路28の内壁から離間されている。そして、付着板300の外周面と排気通路28の内壁との間には、付着板300を排気通路28内に保持するための複数の支持部材310が設けられている。
【0141】
そして、付着板300は、尿素添加弁230から添加された尿素水が付着しやすい位置に設けられている。
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0142】
外気温度が低く、排気通路28の温度が低くなりやすいときには、排気通路28の壁面に付着した尿素デポジットが熱分解されにくいため、尿素デポジットの堆積量が増大しやすい。そのため、上述した排気の昇温処理の実行時には、尿素デポジットから発生するアンモニア量が多くなりやすい。
【0143】
この点、本実施形態によれば、排気通路28内に上記付着板300が設けられているため、尿素添加弁230から添加された尿素水が排気通路28の壁面に付着することが抑制される。
【0144】
図18に示すように、付着板300の排気上流側及び排気下流側は開口されているため、付着板300の内部には排気が流れる。また、付着板300は、排気通路28の内壁から離間されているため、付着板300の外周と排気通路28の内壁との間にも排気が流れる。このように付着板300は、排気通路28の内壁から離間されているため、外気温度が低いときでも、付着板300の温度は排気とほぼ同じ温度になり、付着板300に付着した尿素デポジットは熱分解されやすくなる。そのため、尿素デポジット堆積量の増大は、こうした付着板300を設けない場合と比較して抑えられるようになる。そしてこのように尿素デポジット堆積量の増大を抑えることができるため、排気の昇温処理の実行時において、尿素デポジットから発生するアンモニア量は少なくなる。
【0145】
以上説明したように、本実施形態によれば、次の効果を得ることができる。
(11)排気通路28内には、尿素添加弁230から添加された尿素水が付着する付着板300を設けるようにしている。そして、その付着板300は、排気通路28の内壁から離間させている。従って、尿素デポジット堆積量の増大を抑えることができるようになり、排気の昇温処理の実行時において、尿素デポジットから発生するアンモニア量を少なくすることができる。
【0146】
なお、上記第3実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
図19に示すように、付着板300の壁面に孔320を設けるようにしてもよい。この場合には、孔320に排気が流れ込むようになるため、排気から付着板300への熱移動が促進され、これにより付着板300の温度をより一層排気温度に近づけることができるようになる。ちなみに、そうした孔320は、排気上流から排気下流に向けて排気が流れ込むように、付着板300の壁面に対して斜め方向に形成することが好ましい。また、そうした孔320の数は、付着板300における尿素水の付着面積を十分に確保できる範囲内で、できる限り多く形成することにより、排気から付着板300への熱移動をより一層促進させることができる。
【0147】
図20及び図21に一例を示すように、付着板の形状は適宜変更することができる。例えば図21に示すように、排気通路28の径方向における断面が半円形状をなす付着板500としてもよい。この場合には、付着板500にあって排気の流れ方向に延びる延伸部510に、尿素添加弁230から噴射された尿素水が衝突するように、同尿素添加弁230の位置を定めることにより、噴射された尿素水のうちで、排気通路28の壁面ではなく付着板に付着する尿素水の量を増やすことができる。また、付着板500の排気上流側の端部520を、排気通路28の内壁から離れる方向に屈曲させることにより、噴射された尿素水が、排気通路28の内壁と付着板500との間に回り込むことを抑えることができる。これにより噴射された尿素水のうちで、排気通路28の壁面ではなく付着板に付着する尿素水の量を増やすことができる。
【0148】
また、図22に示すように、円筒状の付着板300において、排気上流側の端部330を、排気通路28の内壁から離れる方向に屈曲させてテーパ形状にする。そして、このテーパ形状にされた端部330の内部に、尿素添加弁230の先端部を突出させるようにしてもよい。この場合にも、噴射された尿素水が、排気通路28の内壁と付着板300との間に回り込むことを抑えることができ、これにより噴射された尿素水のうちで、排気通路28の壁面ではなく付着板に付着する尿素水の量を増やすことができる。
(第4実施形態)
次に、内燃機関の排気浄化装置を具体化した第4実施形態について、図23図30を参照して説明する。
【0149】
本実施形態では、第1実施形態の排気浄化装置に設けられていた分散板の構造を変更するようにしている。そこで、以下では、分散板の構造を中心に、本実施形態の排気浄化装置を説明する。なお、本実施形態においても、上記第1実施形態で説明した各種制御や、上記第2実施形態で説明した各種制御は実行される。
【0150】
図23に、本実施形態における分散板70の正面図を示す。この図23に示すように、分散板70は、円環状の筒体71と、筒体71の周方向に沿って設けられるとともにその先端が筒体71の外周から中央に向けて延設される複数のフィン72とを備えている。筒体71の中央には、複数のフィン72の先端によって囲まれることにより、排気が通過する通過口73が形成されている。ちなみに、フィン72の枚数等は適宜変更することができる。また、排気の流れ方向にフィン72を多段階に設けてもよい。
【0151】
図24に示すように、フィン72は、筒体71に固定される第1フィン部72aと、筒体71の外周から中央に向けて傾斜した状態で第1フィン部72aから延設される第2フィン部72bと、第2フィン部72bの端部が湾曲されることにより形成される第3フィン部72cとで構成されている。
【0152】
図25に示すように、分散板70は、尿素添加弁230とSCR触媒41との間の排気通路28内において、フィン72がSCR触媒41の方向に向かって延びるように固定されている。つまり、フィン72が、排気通路28の下流に向けて傾斜するように分散板70は固定されている。
【0153】
図26に、図25のD部拡大図、つまり第2フィン部72b及び第3フィン部72cの拡大図を示す。なお、以下では、排気流れ方向EXを基準にして、反時計回りの方向の角度を「+」とし、時計回りの方向の角度を「−」とする。
【0154】
この図26に示すように、フィン72の排気下流側端部、つまり第3フィン部72cの排気下流側端部SPにおける接線について、同接線の延伸方向D3がSCR触媒41の前端面に向くように、第3フィン部72cは曲げられている。
【0155】
また、図26に示すように、排気通路28での排気流れ方向EXと尿素添加弁230から噴射される尿素水の噴射方向D1とがなす角を第1角度θ1とする。また、排気流れ方向EXとフィン72において尿素水が衝突する面とがなす角を第2角度θ2とする。また、排気流れ方向EXとフィン72の排気下流側端部SPにおける接線の延伸方向D3とがなす角を第3角度θ3とする。このとき、第1角度θ1、第2角度θ2、第3角度θ3の各関係が、「第2角度θ2−第1角度θ1>40°」であり、かつ「第2角度θ2>第3角度θ3」となるように、フィン72は形成されている。
【0156】
図27に示すように、第3フィン部72cが、排気流れ方向EXに対して反時計回りの方向に曲げられている場合、つまり「第3角度θ3≧0」となっている場合において、SCR触媒41の直径を「D」とし、排気通路28の内壁から第3フィン部72cの排気下流側端部SPまでの距離を「H」とする。また、第3フィン部72cの排気下流側端部SPからSCR触媒41の前端面までの距離を「L」、SCR触媒41の直径「D」から距離「H」を減算した長さを「R(=D−H)」とする。この場合には、上述したように、第3フィン部72cの排気下流側端部SPにおける接線について、その接線の延伸方向D3がSCR触媒41の前端面に向くように、第3フィン部72cは曲げられているため、次の関係式(5)が満たされる。逆にいえば、関係式(5)が満たされるように上記各値を調整することにより、第3フィン部72cの排気下流側端部SPにおける接線の延伸方向D3が、SCR触媒41の前端面に向くようになる。
【0157】

L・tan|θ3|<R …(5)

図28に示すように、第2フィン部72bから第3フィン部72cの排気下流側端部SPまでの間においては、フィン72が湾曲されている。そして、その湾曲における曲率半径Rは、フィン72に付着した尿素水に対してコアンダ効果(粘性流体の噴流が近くの壁に引き寄せられる効果)が得られる程度に大きい曲率半径とされている。従って、尿素水がフィン72に付着・衝突したときには、フィン72の表面上に尿素水の液膜が形成されるのであるが、そうした液膜は、排気の流勢によってフィン72の表面を排気下流に向かって移動する。この液膜の移動に際して、上記コアンダ効果により、その液膜はフィン72の表面から剥離することなく、第3フィン部72cの排気下流側端部SPにまで達するようになる。従って、フィン72の表面からの尿素水の液膜剥離が抑えられるようになる。
【0158】
次に、本実施形態の作用を説明する。
フィン72に付着した尿素水は、排気の流勢によってフィン72の表面を移動し、フィン72の排気下流側端部SPから排気通路28内の空間に放出される。ここで、フィン72の排気下流側端部SPにおける接線が、SCR触媒41の前端面に向いているため、フィン72の排気下流側端部SPから放出された尿素水は、排気通路28の壁面ではなく、SCR触媒41の前端面に向かうようになる。従って、排気通路28の壁面における尿素水の付着量を抑えることができ、これにより排気通路28の壁面における尿素デポジットの堆積量増大が抑えられる。そしてこのように尿素デポジットの堆積量増大を抑えることができるため、排気の昇温処理の実行時において、尿素デポジットから発生するアンモニア量を少なくすることができるようになる。
【0159】
なお、排気通路28の壁面に尿素水が付着して尿素デポジットが形成されると、この尿素デポジットは、SCR触媒41でのNOx還元に寄与しないため、添加された尿素水の利用効率が低下する。しかし、本実施形態では、そうした排気通路28の壁面に対する尿素水の付着が抑制されるため、添加された尿素水を効率よく利用することができる。
【0160】
また、図29に、第1角度θ1及び第2角度θ2の差を変化させたときのNOx浄化率の変化を示す。
図29に示すように、「第2角度θ2−第1角度θ1」の値を徐々に大きくしていくと、「第2角度θ2−第1角度θ1」の値が「35°」を超えたあたりからNOx浄化率が向上するようになり、さらに「40°」を超えたあたりからNOx浄化率が急激に向上することを、本発明者は実験により確認している。そして、「第2角度θ2−第1角度θ1」の値が「40°」を超えると、尿素水がフィン72に衝突したとき、フィン72の表面上に形成される尿素水の液膜は、尿素水がフィン72に衝突したときの衝突力によって十分に薄い状態になることも、本発明者は、確認している。このようにして尿素水の液膜が十分に薄い状態になると、液膜が厚い場合と比較して、フィン72から放出された尿素水の微粒化が進みやすくなるため、例えばNOxの浄化率が向上するようになる。
【0161】
こうした理由により、本実施形態では、「第2角度θ2−第1角度θ1>40°」の関係を満たすように第1角度θ1及び第2角度θ2を設定するようにしており、これによりフィン72から放出された尿素水の微粒化が進みやすくなって、NOxの浄化率が向上するようになる。
【0162】
また、本実施形態では、「第2角度θ2>第3角度θ3」となるように、フィン72は形成されており、これにより次の作用が得られる。
図30に示すように、「第2角度θ2≦第3角度θ3」とした場合には、尿素水の噴射方向D1に対してフィン72の表面が凹んだ形状になるため、フィン72に付着した尿素水の一部が、フィン72の表面上で滞留しやくなる。一方、本実施形態では、上述したように、「第2角度θ2>第3角度θ3」となるようにフィン72は形成されており、先の図26等に示したように、フィン72の表面には、尿素水の噴射方向D1に対して凹んだ部位が生じにくい。従って、「第2角度θ2≦第3角度θ3」とした場合に比較して、フィン72に付着した尿素水は、排気の流勢によってフィン72の表面を移動しやすくなる。その結果、フィン72の表面上に形成される尿素水の液膜が厚くなることを抑えることができ、フィン72から放出された尿素水の微粒化が促進される。
【0163】
以上説明したように、本実施形態によれば、次の効果を得ることができる。
(12)分散板70に設けられたフィン72の排気下流側端部SPにおける接線が、SCR触媒41の前端面に向くようにフィン72を形成している。従って、排気通路28の壁面における尿素デポジットの堆積量増大を抑えることができ、これにより排気の昇温処理の実行時において、尿素デポジットから発生するアンモニア量を少なくすることができるようになる。
【0164】
(13)「第2角度θ2−第1角度θ1>40°」の関係を満たすように上記第1角度θ1及び上記第2角度θ2は設定されている。従って、フィンから放出された尿素水の微粒化が進みやすくなり、例えばNOxの浄化率が向上するようになる。
【0165】
(14)「第2角度θ2>第3角度θ3」の関係を満たすように上記第2角度θ2及び上記第3角度θ3は設定されている。そのため、フィン72の表面上に形成される尿素水の液膜が厚くなることを抑えることができ、フィン72から放出された尿素水の微粒化を促すことができる。
【0166】
なお、上記第4実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・先の図27等に示したように、上記実施形態では、第3フィン部72cが、排気流れ方向EXに対して反時計回りの方向に曲げられていた。つまり「第3角度θ3≧0」となっていた。この他、第3フィン部72cが、排気流れ方向EXに対して時計回りの方向に曲げる場合、つまり「第3角度θ3<0」とする場合においても、第3フィン部72cの排気下流側端部SPにおける接線について、その接線の延伸方向D3がSCR触媒41の前端面に向くように第3フィン部72cを曲げてもよい。この変形例の一例を図31に示す。
【0167】
図31に示すように、第3フィン部72cが、排気流れ方向EXに対して時計回りの方向に曲げられている場合、つまり「第3角度θ3<0」となっている場合において、SCR触媒41の直径を「D」とし、排気通路28の内壁から第3フィン部72cの排気下流側端部SPまでの距離を「H」とする。また、第3フィン部72cの排気下流側端部SPからSCR触媒41の前端面までの距離を「L」とする。この場合には、上述したように、第3フィン部72cの排気下流側端部SPにおける接線について、その接線の延伸方向D3がSCR触媒41の前端面に向くように、第3フィン部72cは曲げられているため、次の関係式(6)が満たされる。逆にいえば、関係式(6)が満たされるように上記各値を調整することにより、「第3角度θ3<0」の場合であっても、第3フィン部72cの排気下流側端部SPにおける接線の延伸方向D3が、SCR触媒41の前端面に向くようになる。
【0168】

L・tan|θ3|<H …(6)

そして、こうした変形例においても、上記実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0169】
・「第2角度θ2−第1角度θ1≦40°」の関係を満たすように上記第1角度θ1及び上記第2角度θ2を設定してもよい。この場合でも、上記(13)以外の効果を得ることができる。
【0170】
・「第2角度θ2≦第3角度θ3」の関係を満たすように上記第2角度θ2及び上記第3角度θ3を設定してもよい。この場合でも、上記(14)以外の効果を得ることができる。
【0171】
・フィン72を湾曲ではなく、屈曲させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0172】
1…エンジン、2…シリンダヘッド、3…吸気通路、4a〜4d…燃料噴射弁、5…燃料添加弁、6a〜6d…排気ポート、7…インテークマニホールド、8…エキゾーストマニホール、9…コモンレール、10…サプライポンプ、11…ターボチャージャ、13…EGR通路、14…EGRクーラ、15…EGR弁、16…吸気絞り弁、17…アクチュエータ、18…インタークーラ、19…エアフロメータ、20…絞り弁開度センサ、21…機関回転速度センサ、22…アクセルセンサ、23…外気温センサ、24…車速センサ、25…水温センサ、28…排気通路、29…燃料供給管、30…第1浄化部材、31…酸化触媒、32…フィルタ、40…第2浄化部材、41…選択還元型触媒(SCR触媒)、50…第3浄化部材、51…アンモニア酸化触媒、60、70…分散板、71…筒体、72…フィン、72a…第1フィン部、72b…第2フィン部、72c…第3フィン部、73…通過口、80…制御装置、100…第1排気温度センサ、110…差圧センサ、120…第2排気温度センサ、130…第1NOxセンサ、140…第2NOxセンサ、200…尿素水供給機構、210…タンク、220…ポンプ、230…尿素添加弁、240…供給通路、300…付着板、310…支持部材、320…孔、330…端部、500…付着板、510…延伸部、520…端部。
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