(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067530
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】マーク付きコーティングガラス板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 17/00 20060101AFI20170116BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
C03C17/00
C03C19/00 A
【請求項の数】23
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-211816(P2013-211816)
(22)【出願日】2013年10月9日
(65)【公開番号】特開2015-74582(P2015-74582A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】野口 達也
(72)【発明者】
【氏名】栢分 和典
(72)【発明者】
【氏名】寺西 豊幸
【審査官】
山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭57−188835(JP,U)
【文献】
特開2013−136496(JP,A)
【文献】
特開平09−235139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1主面及び第2主面を有するガラス板と、
前記ガラス板の前記第1主面上に設けられたコーティング膜と、
を含み、
前記ガラス板の前記第1主面にマークが形成されており、
前記コーティング膜は、1.1〜1.9μmの厚さを有し、
前記コーティング膜の外部表面において、前記マークが形成されている領域における表面粗さRa(A)が1.2〜2μmであり、かつ、
前記コーティング膜の外部表面において、前記マークが形成されていない領域における表面粗さRa(B)が1μm以下である、
マーク付きコーティングガラス板。
ただし、前記マークは、ガラス表面に設けられた粗面部によって形成されており、2μm以上の表面粗さRaを有する。また、表面粗さRa、Ra(A)及びRa(B)は、JIS B 0601(2001)に準拠して求められる算術平均粗さである。
【請求項2】
前記コーティング膜と前記ガラス板との間の、波長589nmの光に対する屈折率の差が0.02以下である、
請求項1に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項3】
前記ガラス板の厚さ方向における中心面を基準面とした場合に、前記ガラス板の前記第1主面において、前記マークが形成されている領域の前記基準面からの平均高さは、前記マークが形成されていない領域の前記基準面からの平均高さよりも低い、
請求項1又は2に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項4】
前記マークが形成されている領域における前記基準面から前記コーティング膜の外部表面までの平均高さh(A)は、前記マークが形成されていない領域における前記基準面から前記コーティング膜の外部表面までの平均高さh(B)よりも低く、かつ、前記平均高さh(A)と前記平均高さh(B)との差が10μm未満である、
請求項3に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項5】
前記マークが形成されている領域のヘイズ率が15〜70%である、
請求項1〜4の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項6】
前記コーティング膜は、シリカ及び機能性材料を含む、
請求項1〜5の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項7】
前記コーティング膜は、親水性有機ポリマーをさらに含む、
請求項6に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項8】
前記コーティング膜は、シリカを主成分とする膜である、
請求項6に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項9】
前記機能性材料が、紫外線カット剤及び赤外線カット剤の少なくとも何れか1つを含む、
請求項6〜8の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項10】
前記コーティング膜は、微粒子をさらに含む、
請求項6〜9の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項11】
前記機能性材料が微粒子の形態で含まれている、
請求項6〜10の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項12】
前記シリカが微粒子の形態で含まれている、
請求項6〜11の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項13】
前記微粒子は、10〜200nmの平均粒径を有する、
請求項10〜12の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項14】
前記コーティング膜のヘイズ率が4%以下である、
請求項1〜13の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項15】
前記第1主面と前記コーティング膜との間に配置された別のコーティング膜をさらに含む、
請求項1〜14の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項16】
前記ガラス板は、前記第1主面が凹面側、前記第2主面が凸面側となるように湾曲した形状を有する、
請求項1〜15の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項17】
前記マーク付きコーティングガラス板は車両用ガラス板であり、
前記第1主面が車内側、前記第2主面が車外側に位置する、
請求項1〜16の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板。
【請求項18】
請求項1〜17の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板を製造する方法であって、
(i)互いに対向する前記第1主面及び前記第2主面を有する前記ガラス板を準備し、前記ガラス板の前記第1主面に前記マークを形成する工程と、
(ii)前記第1主面上に、前記コーティング膜を形成する工程と、
を含む、マーク付きコーティングガラス板の製造方法。
【請求項19】
前記工程(i)において、ショットブラスト法によって前記第1主面に粗面部を形成することによって前記マークを形成し、前記ガラス板の厚さ方向における中心面を基準面とした場合に、前記ガラス板の前記第1主面において、前記マークが形成されている領域の前記基準面からの平均高さを、前記マークが形成されていない領域の前記基準面からの平均高さよりも低くする、
請求項18に記載のマーク付きコーティングガラス板の製造方法。
【請求項20】
前記工程(i)において、ウェットエッチングによって前記第1主面に粗面部を形成することによって前記マークを形成し、前記ガラス板の厚さ方向における中心面を基準面とした場合に、前記ガラス板の前記第1主面において、前記マークが形成されている領域の前記基準面からの平均高さを、前記マークが形成されていない領域の前記基準面からの平均高さよりも低くする、
請求項18に記載のマーク付きコーティングガラス板の製造方法。
【請求項21】
前記工程(i)と前記工程(ii)との間に、
前記ガラス板を軟化させて成形する工程をさらに含む、
請求項18〜20の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板の製造方法。
【請求項22】
前記ガラス板を軟化させて成形する工程は、前記ガラス板を風冷強化する処理を含む、請求項21に記載のマーク付きコーティングガラス板の製造方法。
【請求項23】
前記工程(ii)において、
前記ガラス板の前記第1主面上にコーティング液を塗布し、形成された塗膜を乾燥固化させることによって、前記コーティング膜を形成する、
請求項18〜22の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーク付きコーティングガラス板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両用ガラスのようなガラス板については、必要に応じて、その製造工程において、車両・ガラスメーカー名、品番及びJISマーク等のマークがガラス表面に形成される(特許文献1及び2)。マークの形成方法としては、例えばサンドブラスト法によるマークの打刻が挙げられる(特許文献3及び4)。
【0003】
また、ガラス板には、その用途に応じて、表面に様々なコーティング膜が設けられることが一般的である。ガラス板の表面に設けられるコーティング膜としては、撥水膜(特許文献5)、赤外線カット膜(特許文献6)、紫外線カット膜(特許文献7及び8)及び防曇膜(特許文献9)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−256342号公報
【特許文献2】特開2004−9963号公報
【特許文献3】特開平7−323726号公報
【特許文献4】特開2001−220960号公報
【特許文献5】国際公開99/63022号
【特許文献6】国際公開2005/095298号
【特許文献7】特開2012−168540号公報
【特許文献8】国際公開2012/107968号
【特許文献9】国際公開2012/073685号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラス板の表面において、サンドブラスト法等でマークが打刻された領域は、その粗い表面粗さのために高いヘイズ率を有する。マークが形成されている領域が高いヘイズ率を有することにより、マークに照射された光の多くが散乱し、目視では専ら白色に見える。
【0006】
車両用ガラス板において、マークは、道路運送車両の保安基準等に従い視界の妨げにならない部位に設けられている。しかし、本発明者らは、それでもなおマークが夜間に強力に照らされた場合など、窓において白くくっきり認識されるマークが視界内で目障りになることがあるという問題を見出した。
【0007】
そこで、本発明は、マークの視認性は確保されつつ、マークの目障り性が解消されたマーク付きガラス板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討により、マーク付きガラス板に対してコーティング膜を適切な位置に、かつ適切な状態で設けることにより、マークの視認性を確保しつつ、マークの目障り性を解消できることを見出し、以下の本発明のマーク付きコーティングガラス板とその製造方法とに至った。
【0009】
本発明のマーク付きコーティングガラス板は、
互いに対向する第1主面及び第2主面を有するガラス板と、
前記ガラス板の前記第1主面上に設けられたコーティング膜と、
を含み、
前記ガラス板の前記第1主面にマークが形成されており、
前記コーティング膜は、1.1〜1.9μmの厚さを有し、
前記コーティング膜の外部表面において、前記マークが形成されている領域における表面粗さRa(A)が1.2〜2μmであり、かつ、
前記コーティング膜の外部表面において、前記マークが形成されていない領域における表面粗さRa(B)が1μm以下である、
マーク付きコーティングガラス板。
ただし、前記マークは、ガラス表面に設けられた粗面部によって形成されており、2μm以上の表面粗さRaを有する。また、表面粗さRa、Ra(A)及びRa(B)は、JIS B 0601(2001)に準拠して求められる算術平均粗さである。
【0010】
本発明のマーク付きコーティングガラス板の製造方法は、上記本発明のマーク付きコーティングガラス板を製造する方法であって、
(i)互いに対向する前記第1主面及び前記第2主面を有する前記ガラス板を準備し、前記ガラス板の前記第1主面に前記マークを形成する工程と、
(ii)前記第1主面上に、前記コーティング膜を形成する工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明のマーク付きコーティングガラス板では、マークが形成されている第1主面上に設けられるコーティング膜について、その厚さが制限され、かつ、マークが形成されている領域における表面粗さRa(A)とマークが形成されていない領域における表面粗さRa(B)とが特定の範囲に制限されている。このような構成を有するコーティング膜によれば、マークが形成されている領域では表面粗さが低減してヘイズ率が低下するのでマークの目障り性が解消されると共に、マークが形成されている領域とマークが形成されていない領域との表面粗さの差は、マークの視認性が確保される程度に維持され得る。さらに、コーティング膜とガラス板との屈折率差が0.02以下と小さく抑えられているので、コーティング膜とガラス板との屈折率差によってマークが目立ってしまうこともない。したがって、本発明によれば、マークの視認性は確保されつつ、マークの目障り性が解消されたマーク付きガラス板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るマーク付きコーティングガラス板の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】実施例1のマーク付きコーティングガラス板の光学顕微鏡写真である。
【
図3】比較例1のマーク付きガラス板の光学顕微鏡写真である。
【
図4】比較例2のマーク付きコーティングガラス板の光学顕微鏡写真である。
【
図5】比較例3のマーク付きコーティングガラス板の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0014】
(実施形態1)
図1に、実施形態1のマーク付きコーティングガラス板1の断面図を示す。コーティングガラス板1は、ガラス板11と、コーティング膜12とを備える。
【0015】
ガラス板11は、互いに対向する第1主面11a及び第2主面11bを有する。第1主面11aにはマーク111が形成されており、第1主面11a上にコーティング膜12が配置されている。なお、マークとは、ガラス表面(ここでは第1主面11a)に設けられた粗面部によって形成されているものであり、2μm以上の表面粗さRaを有している。なお、表面粗さRaは、JIS B 0601(2001)に準拠して求められる算術平均粗さのことである。以下、表面粗さRa(A)及びRa(B)も同じである。
【0016】
コーティング膜12は、1.1〜1.9μmの厚さを有し、さらに、コーティング膜12の外部表面において、マーク111が形成されている領域における表面粗さRa(A)が1.2〜2μmであり、かつ、マーク111が形成されていない領域における表面粗さRa(B)が1μm以下となるように設けられる。マーク111は、ガラス板11の表面に形成された粗面部によって構成されているので、マーク111が形成されている領域は高いヘイズ率を有する。すなわち、マーク111は、高いヘイズ率を有する粗面部で光が効果的に散乱されることによって、肉眼でその存在が知覚される。このようなマーク111が形成されているガラス面上に厚さ1.1μm以上のコーティング膜12が設けられて、マーク111が形成されている領域における表面粗さRa(A)が2μm以下に抑えられることにより、マーク111における光の散乱が低減してマーク111の目障り性が解消される。一方、コーティング膜12の厚さを1.9μm以下として、マーク111が形成されている領域における表面粗さRa(A)を1.2μm以上、かつ、マーク111が形成されていない領域における表面粗さRa(B)を1μm以下とすることにより、マーク111が形成されている領域とマーク111が形成されていない領域と間に表面粗さの差が存在し、マーク111の視認性が確保され得る。
【0017】
ガラス板11は、特には制限されず、自動車用、建築用及び産業用ガラス等に通常用いられている板ガラス、所謂フロート法によるフロート板ガラス、ロールアウト法による型板ガラス等である。クリアガラスをはじめ、グリ−ン及びブロンズ等各種着色ガラス、各種機能性ガラス、強化ガラス及びそれに類するガラス、合せガラス等の複層ガラス、さらに平板あるいは曲げ板ガラス等の各種板ガラス製品を、ガラス板11として使用することができる。また、ガラス板11の厚さは、例えば1mm〜12mm程度であり、特に、建築用としては3mm〜10mmが好ましく、自動車用としては1.3mm〜5mmが好ましい。
【0018】
ガラス板11の組成は、特には制限されない。例えば、Fe
2O
3の濃度を高め、必要に応じてTiO
2、CeO
2等その他の紫外線吸収成分を添加した組成を有するソーダ石灰珪酸塩ガラス板を、ガラス板11として用いることができる。
【0019】
ガラス板11としては、0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、のFe
2O
3を含むガラス組成を有し、波長380nmにおける光線透過率が70%以下、好ましくは50%以下であり、波長550nmにおける光線透過率が75%以上、又は可視光透過率(YA)が70%以上であるソーダ石灰珪酸塩ガラス板が好適である。もっとも、Fe
2O
3の含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.02%〜0.06%であるソーダ石灰珪酸塩ガラス板を用いることもできる。なお、上記において、Fe
2O
3濃度は、ガラス板に含まれる全酸化鉄(酸化鉄はFeOとしてもガラス中に存在する)をFe
2O
3に換算して算出される数値である。
【0020】
ただし、ガラス板11は、上記に限らず、可視域における光線透過率が低いものであってもよい。このようなガラス板としては、車両の窓ガラス用として製造されている波長550nmにおける光線透過率が20〜60%のガラス板が挙げられる。
【0021】
マーク111は、上記のとおり粗面部によって構成されている。すなわち、マーク111は、マーク111が形成されていない領域よりも表面粗さが粗い部分であるといえる。したがって、ガラス板11の第1
主面11aのうち、マーク111を形成する部分に対して粗面化処理を施すことによって、マーク111を形成できる。このようにマーク111が形成された第1主面11aにおいては、ガラス板11の厚さ方向における中心面を基準面Aとした場合に、マーク111が形成されている領域の基準面Aからの平均高さが、マーク111が形成されていない領域の基準面Aからの平均高さよりも低くなる。マーク111の目障り性を緩和するためには、マーク111が形成されている領域における基準面Aからコーティング膜12の外部表面までの平均高さh(A)が、マーク111が形成されていない領域における基準面Aからコーティング膜12の外部表面までの平均高さh(B)よりも低く、かつ、平均高さh(A)と平均高さh(B)との差が10μm未満であることが望ましい。
【0022】
コーティングガラス板1において、マーク111が形成されている領域のヘイズ率は、15〜70%が望ましい。マーク111が形成されている領域のヘイズ率を15%以上とすることにより、マーク111の視認性を十分に確保することができる。また、マーク111が形成されている領域のヘイズ率を70%以下とすることにより、マーク111の目障り性をより確実に解消することができる。
【0023】
コーティング膜12のタイプは、コーティングガラス板1に求められる機能に応じて適宜選択できるため、特には限定されない。ただし、コーティング膜12には、上記のとおり、厚さが1.1〜1.9μmであること、その外部表面において、マーク111が形成されている領域における表面粗さRa(A)が1.2〜2μmであり、かつ、マーク111が形成されていない領域における表面粗さRa(B)が1μm以下であること、が求められる。
【0024】
コーティング膜12の厚さが1.1μm未満であると、マーク111の目障り性を解消できる程度まで、マーク111が形成されている領域の表面粗さRa(A)を低減することが困難となる。一方、コーティング膜12の厚さが1.9μmを超えると、マーク111が形成されている領域とマーク111が形成されていない領域との表面粗さの差を十分に確保することが困難となり、マーク111の視認性の確保が困難となる。
【0025】
コーティング膜12の外部表面において、マーク111が形成されている領域における表面粗さRa(A)が2μmを超えると、マーク111が形成された領域のヘイズ率が高くなりすぎて(例えばヘイズ率が70%を超えて)、マーク111が目立ちすぎてしまう。また、Ra(A)が1.2μm未満であると、マークが形成されていない領域の表面粗さRa(B)との差が小さくなりすぎて、マーク111の視認が困難となる。また、マーク111が形成されていない領域における表面粗さRa(B)が1μmを超えると、マークが形成されている領域の表面粗さRa(A)との差が小さくなりすぎて、マーク111の視認が困難となる。
【0026】
コーティング膜12とガラス板11との屈折率差(ここでは、波長589nm(ナトリウムのD線)の光に対する屈折率の差)は、0.02以下であることが好ましい。コーティング膜12とガラス板11との屈折率差が0.02を超えると、屈折率差によってマーク111が目立ってしまい、マーク111の目障り性を解消することがより困難となるからである。
【0027】
コーティング膜12は、シリカ及び機能性材料を含んでいてもよい。シリカを含ませることにより、コーティング膜12は、機能性材料をより強固に膜中に保持し、かつ機能性材料にその機能を有効に発揮させることができる。さらに、シリカを含ませることにより、ガラス板11とより強固に結合し、機械的強度に優れたコーティング膜12を実現できる。コーティング膜12は、シリカを主成分とする膜であってもよい。なお、シリカが主成分であるとは、コーティング膜12におけるシリカの含有量が50質量%以上であることである。
【0028】
コーティング膜12に含まれる機能性材料としては、例えば、紫外線カット剤、赤外線カット剤及び/又は防曇性機能材料が挙げられる。これにより、コーティング膜12が、紫外線をカットする、赤外線をカットする、及び/又は、コーティング面の結露によるくもりを抑制するので、コーティングガラス板1を建築物及び車両の窓ガラスとして好適に利用できる。
【0029】
コーティング膜12に含まれる機能性材料の形態は、特には限定されないが、一例として微粒子が好適である。機能性材料が微粒子の形態でコーティング膜12に含まれることにより、例えば長時間にわたって高温多湿条件下で使用されたときでもコーティング膜12から機能性材料が溶出したりせず、その機能を持続させることができる。
【0030】
一方、コーティング膜12は、機能性材料としての有機ポリマーを主成分とする膜であってもよい。さらにコーティング膜12には、シリカを微粒子の形態で含ませることが好ましい。このシリカは膜中で均一に分布することにより、コーティング膜12の硬度を高め、コーティング膜12をより傷つきにくくさせる。
【0031】
コーティング膜12に含まれる微粒子は、平均粒径が10〜200nmであることが望ましい。微粒子の平均粒径をこの範囲内とすることにより、微粒子によってコーティング膜12のヘイズ率が大幅に引き上げられることがない。
【0032】
コーティングガラス板1の高い透明性を確保するために、コーティング膜12のヘイズ率は4%以下であることが望ましい。
【0033】
以上のように、コーティング膜12は、特には限定されず、コーティングガラス板1の用途に応じた機能を有する公知のコーティング膜から適宜選択できる。例えば、国際公開2005/095298号に記載されている赤外線カット膜、特開2012−168540号公報及び国際公開2012/107968号に記載されている紫外線カット膜、及び、国際公開2012/073685号に記載されている防曇膜等を用いることができる。
【0034】
本実施形態のコーティングガラス板1では、第1主面11aに1つのコーティング膜12が設けられている例について説明したが、複数のコーティング膜が設けられていてもよい。例えば、コーティングガラス板1は、ガラス板11の第1主面11aとコーティング膜12との間に設けられた別のコーティング膜をさらに含んでいてもよい。
【0035】
また、本実施形態ではガラス板11が平板である例を説明したが、ガラス板11は、例えば、第1主面11aが凹面側、第2主面11bが凸面側となるように湾曲した形状であってもよい。このようなコーティングガラス板1は、例えば車両のフロントガラスやドアガラス、リヤガラスなどに用いることができる。
【0036】
コーティングガラス板1が車両用ガラス板である場合は、第1主面11aが車内側、マークが形成されている第2主面11bが車外側に位置するガラス板とすることが望ましい。
【0037】
また、本実施形態では、ガラス板11の第1主面11a上、すなわちマーク111が形成されている面上にのみコーティング膜12が設けられている例を説明したが、マーク1111が形成されていない第2主面11b上に別のコーティング膜がさらに設けられていてもよい。第2主面11b上に設けられるコーティング膜は、特には限定されず、コーティングガラス板1の用途に応じた機能を有する公知のコーティング膜から適宜選択できる。例えば、国際公開2005/095298号に記載されている赤外線カット膜、特開2012−168540号公報及び国際公開2012/107968号に記載されている紫外線カット膜、及び、国際公開2012/073685号に記載されている防曇膜等を用いることができる。
【0038】
次に、コーティングガラス板1の製造方法について説明する。
【0039】
コーティングガラス板1は、
(i)互いに対向する第1主面11a及び第2主面11bを有するガラス板11を準備し、ガラス板11の第1主面11aにマーク111を形成する工程と、
(ii)第1主面11a上に、コーティング膜12を形成する工程と、
を含む方法によって製造することができる。
【0040】
工程(i)におけるマーク111の形成には、例えば、ショットブラスト法又はウェットエッチングを用いることができる。すなわち、工程(i)において、ショットブラスト法によって、又は、ウェットエッチングによって、第1
主面11aに粗面部を形成することができる。この場合、ガラス板11の中心面を基準面Aとした場合に、ガラス板11の第1主面11aにおいて、マーク111が形成されている領域の基準面Aからの平均高さが、マーク111が形成されていない領域の基準面Aからの平均高さよりも低くなるように、粗面部を形成するとよい。
【0041】
工程(ii)では、例えば、ガラス板11の第1主面11a上にコーティング液を塗布し、形成された塗膜を乾燥固化させることによって、コーティング膜12を形成することができる。コーティング液は、コーティング膜12を構成する材料を溶媒に溶解させることによって作製されるので、形成するコーティング膜12に応じて適宜調製され得る。したがって、コーティング液の成分は、特には限定されない。また、コーティング液の塗布方法としては、例えばディップコーティング、フローコーティング、カーテンコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング、バーコーティング、ロールコーティング、刷毛塗りコーティング等が挙げられる。コーティング液をガラス板11の表面に塗布して、溶媒が揮発、乾燥してしまう前にコーティング液が表面張力により平滑化されて一様なウエット厚みの塗膜が形成された状態で、前記塗膜およびガラス板11をそのまま静置して乾燥することが好ましい。ここで、「静置」とは、塗布されたウエットな塗膜がコーティング液の表面張力を利用して一様な厚みになるようにし、その状態で乾燥させることであり、例えば、搬送速度6m/分程度であれば基材を搬送させながらであっても実質的に静置していることとなる。
【0042】
工程(i)と工程(ii)との間に、ガラス板11を軟化させて成形する工程をさらに含んでもよい。ガラス板11を軟化させるためには、ガラス板11を軟化点以上(例えば650℃以上)に加熱する必要があるが、工程(ii)の前に成形工程を実施することで、コーティング膜12に用いる機能性材料に耐熱性に乏しいものを用いることが可能となる。すなわち、ガラス板11を軟化させて成形する場合は、その工程を工程(i)と工程(ii)との間に実施することで、コーティング膜12に用いられる機能性材料の幅を広げることができる。また、ガラス板11を軟化させて成形する工程に、ガラス板11を風冷強化する処理が含まれていてもよい。これにより、成形と共にガラス板11を強化することも可能となる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は、本発明の要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
実施例1では、
図1に示すコーティングガラス板1を作製した。建築用のフロート板ガラスとして市販されている厚さ3.1mmのガラス板を、100mm×100mmの大きさにホイールカッターで割断し、粒度#100の研磨砂でエッジを面取りしたガラス板を用意した。このガラス板をガラス板11として用いた。別途準備した、直径50mm、厚さ0.3mmの真鍮板に「L」の文字(文字高さ5mm、線の太さ250μmのゴシック体)を切り抜いたステンシル板を、ガラス板11の一方の表面(第1主面11a)に押しつけ、その上から粒度#100の研磨砂を内製したサンドブラスト装置で吹き付けることによって、ガラス板11の第1主面11aに「L」の文字をマーク111として形成した。別途、国際公開2012/107968号の段落[0086]に記載されている実施例A2で用いた紫外線遮蔽膜の形成溶液を、コーティング液として調整した。このコーティング液を用いて、ガラス板11のマーク111が形成されている第1主面11a上に、国際公開2012/107968号の段落[0087]に記載されている方法でフローコーティングを行い、膜厚1.8μmのコーティング膜12を形成した。
【0045】
得られた実施例1のコーティングガラス板1について、コーティング膜12の外部表面のマーク111が形成されている領域の表面粗さRa(A)及びマークが形成されていない領域の表面粗さRa(B)とを、原子間力顕微鏡(「SPI3700」、セイコー電子(株)製)を用いて測定した。表面粗さRa(A)は1.87μmであった。表面粗さRa(B)は2nm未満であった。
【0046】
次に、マーク111が形成されている領域のヘイズ率を、積分球式光線透過率測定装置(スガ試験機(株)製、「HGM−2DP」、C光源使用、膜面側から光入射)を用いて測定した。マーク111が形成されている領域のヘイズ率は20%であった。実施例1のコーティングガラス板1の光学顕微鏡写真を、
図2に示す。この写真からも確認できるように、実施例1のコーティングガラス板1では、マーク111は視認性が確保されているにも関わらず、目障り性は解消されていた。
【0047】
(比較例1)
実施例1と同じ方法で、第1主面11aにマーク111を付したガラス板11を用意した。しかし、コーティング膜は設けなかった。このマーク付きガラス板11について、第1主面11aのマーク111が形成されている領域の表面粗さRa及びマークが形成されていない領域の表面粗さRaを、実施例1の表面粗さRa(A)及びRa(B)と同じ方法で測定した。第1主面11aのマーク111が形成されている領域の表面粗さRaは4.77μmであった。第1主面11aのマーク111が形成されていない領域の表面粗さRaは0.5nm未満であった。さらに、マーク111が形成されている領域のヘイズ率を、実施例1と同じ方法で測定したところ、90%であった。比較例1のガラス板11の光学顕微鏡写真を、
図3に示す。この写真からも確認できるように、比較例1のガラス板11では、マーク111はくっきりと認識され、非常に目障りであった。
【0048】
(比較例2)
実施例1と同じ方法で、第1主面11aにマーク111を付したガラス板11を用意した。別途、国際公開2012/107968号の段落[0086]に記載されている実施例A1で用いた紫外線遮蔽膜の形成溶液を、コーティング液として調整した。このコーティング液を用いて、ガラス板11のマーク111が形成されている第1主面11a上に、国際公開2012/107968号の段落[0087]に記載されている方法でフローコーティングを行い、膜厚2μmのコーティング膜12を形成した。得られたコーティングガラス板1について、実施例1と同じ方法で、コーティング膜12の外部表面のマーク111が形成されている領域の表面粗さRa(A)及びマークが形成されていない領域の表面粗さRa(B)を測定した。表面粗さRa(A)は0.85μmであった。表面粗さRa(B)は2nm未満であった。さらに、マーク111が形成されている領域のヘイズ率を、実施例1と同じ方法で測定したところ、5%であった。比較例2のコーティングガラス板1の光学顕微鏡写真を、
図4に示す。この写真からも確認できるように、比較例2のコーティングガラス板1では、マーク111は、目障り性は解消されているものの、視認性が確保できなかった。
【0049】
(比較例3)
実施例1と同じ方法で、第1主面11aにマーク111を付したガラス板11を用意した。さらに、第1主面11a上に、コーティング膜を次の方法で形成した。国際公開2005/095298号に記載されている実施例10で用いた赤外線カット膜の形成溶液を、コーティング液として調整した。このコーティング液を用いて、ガラス板11の第1主面11a上に、国際公開2005/095298号に記載されている実施例10と同じ方法でフローコーティングを行い、膜厚1μmのコーティング膜12を形成した。
【0050】
得られた実施例4のコーティングガラス板1について、実施例1と同じ方法で、コーティング膜12の外部表面のマーク111が形成されている領域の表面粗さRa(A)及びマークが形成されていない領域の表面粗さRa(B)とを測定した。表面粗さRa(A)は5.37μmであった。表面粗さRa(B)は2nm未満であった。さらに、マーク111が形成されている領域のヘイズ率を、実施例1と同じ方法で測定したところ、80%であった。比較例3のガラス板11の光学顕微鏡写真を、
図5に示す。この写真からも確認できるように、比較例1のコーティングガラス板1では、マーク111はくっきりと認識され、非常に目障りであった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のコーティングガラス板は、マークを付すことが求められる様々なコーティングガラス板に好適に利用でき、例えば建築物及び車両の窓ガラス等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 マーク付きコーティングガラス板
11 ガラス板
11a 第1主面
11b 第2主面
111 マーク
12 コーティング膜