特許第6067531号(P6067531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本板硝子株式会社の特許一覧

特許6067531マーク付きコーティングガラス板の製造方法
<>
  • 特許6067531-マーク付きコーティングガラス板の製造方法 図000002
  • 特許6067531-マーク付きコーティングガラス板の製造方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067531
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】マーク付きコーティングガラス板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/23 20060101AFI20170116BHJP
   C03C 17/04 20060101ALI20170116BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20170116BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   C03C17/23
   C03C17/04 Z
   B60J1/00 H
   C03C17/32 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-211817(P2013-211817)
(22)【出願日】2013年10月9日
(65)【公開番号】特開2015-74583(P2015-74583A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】野口 達也
(72)【発明者】
【氏名】栢分 和典
(72)【発明者】
【氏名】寺西 豊幸
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−129576(JP,A)
【文献】 特開2011−111385(JP,A)
【文献】 特開2012−168540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マーク付きコーティングガラス板の製造方法であって、
前記マーク付きコーティングガラス板は、
互いに対向する第1主面及び第2主面を有するガラス板と、
前記ガラス板の前記第1主面上に設けられた第1コーティング膜と、
前記ガラス板の前記第2主面上に設けられた、不透明材料からなる薄膜によって形成されたマークと、
前記ガラス板の前記第2主面と前記マークの表面とで構成された面上に設けられた第2コーティング膜と、
を含み、
前記マーク付きコーティングガラス板において、
前記第1コーティング膜は、1.5μm以上の厚さを有し、かつ1μm以下の表面粗さRaを有する外部表面を有し、
前記マークは、5〜50μmの厚さを有し、かつ、
前記第2コーティング膜は、0.3μm以下の厚さを有し、
前記製造方法は、
(i)互いに対向する前記第1主面及び前記第2主面を有する前記ガラス板を準備し、前記ガラス板の前記第2主面上に前記マークを形成する工程と、
(ii)前記第1主面上に、前記第1コーティング膜を形成する工程と、
を含み、
前記工程(i)よりも後に、前記第2主面上に前記第2コーティング膜を形成する工程をさらに含む、マーク付きコーティングガラス板の製造方法。
ただし、表面粗さRaは、JIS B 0601(2001)に準拠して求められる算術平均粗さである。
【請求項2】
前記工程(ii)は、前記工程(i)よりも後に実施される、
請求項に記載のマーク付きコーティングガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記工程(i)と前記工程(ii)との間に、
前記ガラス板を軟化させて成形する工程をさらに含む、
請求項に記載のマーク付きコーティングガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス板を軟化させて成形する工程は、前記ガラス板を風冷強化する処理を含む、請求項に記載のマーク付きコーティングガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記工程(ii)において、
前記ガラス板の前記第1主面上にコーティング液を塗布し、形成された塗膜を乾燥固化させることによって、前記第1コーティング膜を形成する、
請求項1〜4の何れか1項に記載のマーク付きコーティングガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーク付きコーティングガラス板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両用ガラスのようなガラス板については、必要に応じて、その製造工程において、車両・ガラスメーカー名、品番及びJISマーク等のマークがガラス表面に形成される。ガラス表面にマークを形成する方法の一つとして、スクリーン印刷が挙げられる。例えば特許文献1には、自動車窓ガラスの周辺部にスクリーン印刷によって遮蔽層として黒色セラミック層を形成すると同時に、所定の領域にスクリーン印刷によってマークとなるセラミック層を形成する方法が記載されている。
【0003】
また、ガラス板には、その用途に応じて、表面に様々なコーティング膜が設けられることが一般的である。ガラス板の表面に設けられるコーティング膜としては、撥水膜(特許文献2)、赤外線カット膜(特許文献3)、紫外線カット膜(特許文献4及び5)及び防曇膜(特許文献6)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−058301号公報
【特許文献2】国際公開99/63022号
【特許文献3】国際公開2005/095298号
【特許文献4】特開2012−168540号公報
【特許文献5】国際公開2012/107968号
【特許文献6】国際公開2012/073685号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、印刷によって形成されたマークを有するガラス板にコーティング膜を設けると(マーク付きコーティングガラス板とすると)、マーク周辺において透視歪みが強くなることを見出した。
【0006】
そこで、本発明は、マーク周辺における透視歪みが改善されたマーク付きコーティングガラス板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討により、印刷によって形成されたマークを有するガラス板にコーティング膜を設けるとマーク周辺において透視歪みが強くなる問題が、次の原因によって生じることをつきとめた。印刷によって形成されているマークは、ガラス表面に対して突出している(ガラス表面から盛り上がっている)。このようなマーク付きガラス板の表面に、特定の厚さ以上の厚さを有するコーティング膜を、特にフローコート法によって形成する場合、突出しているマークによりコーティング液の流れが不均一になり、その結果得られるコーティング膜に厚さムラが生じる。このような膜厚のムラが原因となって、透視歪みが強くなる。
【0008】
そこで、本発明のマーク付きコーティングガラス板は、
互いに対向する第1主面及び第2主面を有するガラス板と、
前記ガラス板の前記第1主面上に設けられた第1コーティング膜と、
前記ガラス板の前記第2主面上に設けられた、不透明材料からなる薄膜によって形成されたマークと、
を含み、かつ、
任意の構成として、前記ガラス板の前記第2主面と前記マークの表面とで構成された面上に設けられた第2コーティング膜をさらに含み、
前記第1コーティング膜は、1.5μm以上の厚さを有し、かつ1μm以下の表面粗さRaを有する外部表面を有し、
前記マークは、5〜50μmの厚さを有し、
前記第2コーティング膜は、0.3μm以下の厚さを有する。
ただし、表面粗さRaは、JIS B 0601(2001)に準拠して求められる算術平均粗さである。
【0009】
本発明のマーク付きコーティングガラス板の製造方法は、上記本発明のマーク付きコーティングガラス板を製造する方法であって、
(i)互いに対向する前記第1主面及び前記第2主面を有する前記ガラス板を準備し、前記ガラス板の前記第2主面上に前記マークを形成する工程と、
(ii)前記第1主面上に、前記第1コーティング膜を形成する工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマーク付きコーティングガラス板では、薄膜によって形成されたマークが設けられている第2主面側にはコーティング膜(第2コーティング膜)が設けられないか、設けられた場合でもその厚さが薄く制限されている。また、機能向上のために必要なコーティング膜は、マークが設けられている第2主面とは反対側の第1主面上に設けられる。このような構成により、ガラス表面(第2主面)に対して突出しているマークに起因して生じる、コーティング膜の厚さムラの問題を発生させることなく、必要なコーティング膜をガラス板に付与できる。したがって、本発明によれば、マーク周辺における透視歪みが改善されたマーク付きコーティングガラス板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るマーク付きコーティングガラス板の一実施形態を示す断面図である。
図2】本発明に係るマーク付きコーティングガラス板の別の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0013】
(実施形態1)
図1に、実施形態1のマーク付きコーティングガラス板1の断面図を示す。コーティングガラス板1は、ガラス板11と、コーティング膜(第1コーティング膜)12とを備える。
【0014】
ガラス板11は、互いに対向する第1主面11a及び第2主面11bを有する。第1主面11a上には、コーティング膜(第1コーティング膜)12が配置されている。第2主面11b上には、マーク13が設けられている。マーク13は、不透明材料からなる薄膜によって形成されている。なお、第1主面11aにはマークは設けられていない。第2主面11bとマーク13の表面とで構成されている面(マーク13付き第2主面11b)上には、コーティング膜は設けられていない。すなわち、マーク13付き第2主面11bは露出した状態となっている。
【0015】
上記のとおり、コーティングガラス板1には、マーク13付き第2主面11b上にコーティング膜が設けられていない。したがって、マーク13周辺にコーティング膜の厚さムラが生じることがないので、マーク13周辺における透視歪みが発生しない。これにより、コーティングガラス板1は、従来のマーク付きコーティングガラス板と比較して、歪みの少ない優れた透視性を実現できる。
【0016】
ガラス板11は、特には制限されず、自動車用、建築用及び産業用ガラス等に通常用いられている板ガラス、所謂フロート法によるフロート板ガラス、ロールアウト法による型板ガラス等である。クリアガラスをはじめ、グリ−ン及びブロンズ等各種着色ガラス、各種機能性ガラス、強化ガラス及びそれに類するガラス、合せガラス等の複層ガラス、さらに平板あるいは曲げ板ガラス等の各種板ガラス製品を、ガラス板11として使用することができる。また、ガラス板11の厚さは、例えば1mm〜12mm程度であり、特に、建築用としては3mm〜10mmが好ましく、自動車用としては1.3mm〜5mmが好ましい。
【0017】
ガラス板11の組成は、特には制限されない。例えば、Fe23の濃度を高め、必要に応じてTiO2、CeO2等その他の紫外線吸収成分を添加した組成を有するソーダ石灰珪酸塩ガラス板を、ガラス板11として用いることができる。
【0018】
ガラス板11としては、0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、のFe23を含むガラス組成を有し、波長380nmにおける光線透過率が70%以下、好ましくは50%以下であり、波長550nmにおける光線透過率が75%以上、又は可視光透過率(YA)が70%以上であるソーダ石灰珪酸塩ガラス板が好適である。もっとも、Fe23の含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.02%〜0.06%であるソーダ石灰珪酸塩ガラス板を用いることもできる。なお、上記において、Fe23濃度は、ガラス板に含まれる全酸化鉄(酸化鉄はFeOとしてもガラス中に存在する)をFe23に換算して算出される数値である。
【0019】
ただし、ガラス板11は、上記に限らず、可視域における光線透過率が低いものであってもよい。このようなガラス板としては、車両の窓ガラス用として製造されている波長550nmにおける光線透過率が20〜60%のガラス板が挙げられる。
【0020】
マーク13は、上記のとおり、不透明材料からなる薄膜によって形成されている。マーク13の厚さ、すなわちマーク13を形成している薄膜の厚さは、5〜50μmである。マーク13の厚さが5μm未満であると、マーク13がかすれて視認性が低下してしまう。マーク13の厚さが50μmを超えると、マーク13がにじんだり、互いに隣接するマーク13同士が部分的につながってしまったりして、マーク13に欠点が生じてしまう。
【0021】
コーティング膜12のタイプは、コーティングガラス板1に求められる機能に応じて適宜選択できるため、特には限定されない。ただし、コーティング膜12には、厚さが1.5μm以上であること、その外部表面が1μm以下の表面粗さRaを有すること、が求められる。なお、表面粗さRaは、JIS B 0601(2001)に準拠して求められる算術平均粗さのことである。
【0022】
コーティング膜12の厚さを1.5μm以上、好ましくは1.7μm以上、さらに好ましくは2μm以上とすることで、充分な機能をコーティングガラス板1に付与することができる。コーティング膜12が厚すぎると、膜の透過率が低下してコーティングガラス板1の透明性を損なうことがある。また、コーティング膜12が厚すぎると、コーティング膜12を形成する際に、膜の形成溶液(コーティング液)に含まれる液体成分の蒸発に伴ってクラックが発生する、前記液体成分の蒸発に時間がかかり生産性が悪くなる、前記液体成分の蒸発について膜の厚さ方向に時間差が生じ(膜表面が膜内部よりも先に乾燥し)、その結果、膜内の乾燥度合の差により膜内に応力が発生して膜の強度が低下する、等の問題が生じることがある。また、コーティング膜12がガラス板11よりも硬度が低い場合は、コーティング膜12が厚くなりすぎるとコーティングガラス板1に傷がつきやすいという問題が生じることもある。したがって、コーティング膜12の厚さは10μm以下が望ましく、5μm以下がより望ましい。
【0023】
コーティング膜12の外部表面を、表面粗さRaが1μm以下の平滑面とすることにより、コーティングガラス板1の良好な透明性を保つことができる。
【0024】
なお、コーティング膜12は、ガラス板11のマーク13が形成されている面と反対側の面上に設けられるので、マーク13の視認性を確保するためにコーティング膜12の屈折率とガラス板11の屈折率との差を大きくする必要がない。すなわち、本実施形態の構成によれば、コーティング膜12の屈折率とガラス板11の屈折率との差(屈折率差)を小さくすることが可能となり、例えば波長589nm(ナトリウムのD線)の光の屈折率差を0.02以下にすることもできる。
【0025】
コーティング膜12は、シリカ及び機能性材料を含んでいてもよい。シリカを含ませることにより、コーティング膜12は、機能性材料をより強固に膜中に保持し、かつ機能性材料にその機能を有効に発揮させることができる。さらに、シリカを含ませることにより、ガラス板11とより強固に結合し、機械的強度に優れたコーティング膜12を実現できる。コーティング膜12は、シリカを主成分とする膜であってもよい。なお、シリカが主成分であるとは、コーティング膜12におけるシリカの含有量が50質量%以上であることである。
【0026】
コーティング膜12に含まれる機能性材料としては、例えば、紫外線カット剤、赤外線カット剤及び/又は防曇性機能材料が挙げられる。これにより、コーティング膜12が、紫外線をカットする、赤外線をカットする、及び/又は、コーティング面の結露によるくもりを抑制するので、コーティングガラス板1を建築物及び車両の窓ガラスとして好適に利用できる。
【0027】
コーティング膜12に含まれる機能性材料の形態は、特には限定されないが、一例として微粒子が好適である。機能性材料が微粒子の形態でコーティング膜12に含まれることにより、例えば長時間にわたって高温多湿条件下で使用されたときでもコーティング膜12から機能性材料が溶出したりせず、その機能を持続させることができる。
【0028】
一方、コーティング膜12は、機能性材料としての有機ポリマーを主成分とする膜であってもよい。さらにコーティング膜12には、シリカを微粒子の形態で含ませることが好ましい。このシリカは膜中で均一に分布することにより、コーティング膜12の硬度を高め、コーティング膜12をより傷つきにくくさせる。
【0029】
コーティング膜12に含まれる微粒子は、平均粒径が10〜200nmであることが望ましい。微粒子の平均粒径をこの範囲内とすることにより、微粒子によってコーティング膜12のヘイズ率が大幅に引き上げられることがない。
【0030】
コーティングガラス板1の高い透明性を確保するために、コーティング膜12のヘイズ率は4%以下であることが望ましい。
【0031】
以上のように、コーティング膜12は、特には限定されず、コーティングガラス板1の用途に応じた機能を有する公知のコーティング膜から適宜選択できる。例えば、国際公開2005/095298号に記載されている赤外線カット膜、特開2012−168540号公報及び国際公開2012/107968号に記載されている紫外線カット膜、及び、国際公開2012/073685号に記載されている防曇膜等を用いることができる。
【0032】
本実施形態のコーティングガラス板1では、第1主面11aに1つのコーティング膜12が設けられている例について説明したが、複数のコーティング膜が設けられていてもよい。例えば、コーティングガラス板1は、コーティング膜12上に形成された別のコーティング膜(第3コーティング膜)をさらに含んでいてもよい。
【0033】
また、本実施形態ではガラス板11が平板である例を説明したが、ガラス板11は、例えば、第1主面11aが凹面側、第2主面11bが凸面側となるように湾曲した形状であってもよい。このようなコーティングガラス板1は、例えば車両のフロントガラスやドアガラス、リヤガラスなどに用いることができる。
【0034】
コーティングガラス板1が車両用ガラス板である場合は、第1主面11aが車内側、マークが形成されている第2主面11bが車外側に位置するガラス板とすることが望ましい。
【0035】
次に、コーティングガラス板1の製造方法について説明する。
【0036】
コーティングガラス板1は、
(i)互いに対向する第1主面11a及び第2主面11bを有するガラス板11を準備し、ガラス板11の第2主面11b上にマーク13を形成する工程と、
(ii)第1主面11a上に、コーティング膜12を形成する工程と、
を含む方法によって製造することができる。
【0037】
工程(i)におけるマーク13の形成は、形成するマーク13に応じた形状を有する薄膜をガラス板11の第2主面11b上に形成することによって実施できる。薄膜の形成には、例えば、スクリーン印刷法を用いることができる。薄膜の形成に用いられる不透明材料には、例えば自動車窓ガラスの周辺部に形成される遮蔽層に用いられる着色セラミックカラーや、自動車窓ガラスの曇りを除去するための電熱線プリントに用いられる導電性ペースト等、ガラスへの印刷に適した各種市販品を用いることができる。
【0038】
ガラス印刷用の着色セラミックカラーは、例えば、着色顔料と、ガラス板と熱融着して機械的強度を発現するためのガラスフリットと、焼成により除去可能な有機バインダと、スクリーン印刷に適した粘性を持たせるためのパインオイル等の有機溶剤とを含んでいる。着色顔料としては、公知の顔料を用いることができる。例えば黒色顔料の場合は、焼成後に隠蔽性を発現し、外観を黒色に見せるための酸化クロム、酸化コバルト、酸化銅またはこれらを組み合せたもの少なくとも1種が顔料として含まれる。ガラスフリットは、焼成温度や熱収縮率などのバランスを考慮して、好適なものを適宜選定して用いることができる。ガラスフリットは、例えば、ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛などの結晶化ガラスおよび非晶質ガラスを必須成分として含み、必要に応じてバナジウム、マンガン、鉄およびコバルトの少なくとも1つの酸化物を含む遷移金属酸化物やアルミナなどの添加剤を含むことができる。有機バインダとしては、焼成除去可能な材料であれば特に限定されない。焼成による熱分解によって除去されやすい材料としては、アクリル、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエステルなどの樹脂が挙げられ、これらを単独で、または混合して使用することができる。
【0039】
工程(ii)では、例えば、ガラス板11の第1主面11a上にコーティング液を塗布し、形成された塗膜を乾燥固化させることによって、コーティング膜12を形成することができる。コーティング液は、コーティング膜12を構成する材料を溶媒に溶解させることによって作製されるので、形成するコーティング膜12に応じて適宜調製され得る。したがって、コーティング液の成分は、特には限定されない。また、コーティング液の塗布方法としては、例えばディップコーティング、フローコーティング、カーテンコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング、バーコーティング、ロールコーティング、刷毛塗りコーティング等が挙げられる。コーティング液をガラス板11の表面に塗布して、溶媒が揮発、乾燥してしまう前にコーティング液が表面張力により平滑化されて一様なウエット厚みの塗膜が形成された状態で、前記塗膜およびガラス板11をそのまま静置して乾燥することが好ましい。ここで、「静置」とは、塗布されたウエットな塗膜がコーティング液の表面張力を利用して一様な厚みになるようにし、その状態で乾燥させることであり、例えば、搬送速度6m/分程度であれば基材を搬送させながらであっても実質的に静置していることとなる。
【0040】
工程(ii)は、工程(i)よりも後に実施されることが望ましい。これにより、工程(i)の途中で誤ってコーティング膜12を傷つけてしまうことを防ぐことができる。
【0041】
また、工程(i)と工程(ii)との間に、ガラス板11を軟化させて成形する工程をさらに含んでもよい。ガラス板11を軟化させるためには、ガラス板11を軟化点以上(例えば650℃以上)に加熱する必要があるが、工程(ii)の前に成形工程を実施することで、コーティング膜12に用いる機能性材料に耐熱性に乏しいものを用いることが可能となる。すなわち、ガラス板11を軟化させて成形する場合は、その工程を工程(i)と工程(ii)との間に実施することで、コーティング膜12に用いられる機能性材料の幅を広げることができる。さらに、この成形工程は、マーク13を形成するための材料に対して充分高温の熱処理を施す工程を兼ねることができ、マーク13の耐久性を高めることもできる。また、ガラス板11を軟化させて成形する工程に、ガラス板11を風冷強化する処理が含まれていてもよい。これにより、成形と共にガラス板11を強化することも可能となる。
【0042】
(実施形態2)
図2に、実施形態2のマーク付きコーティングガラス板2の断面図を示す。コーティングガラス板2は、ガラス板11のマーク13付き第2主面11b上にコーティング膜(第2コーティング膜)14が設けられている。コーティングガラス板2は、コーティング膜14がさらに設けられていること以外は、実施形態1のコーティングガラス板1と同じ構成を有する。したがって、ここではコーティング膜14についてのみ説明する。
【0043】
コーティング膜14は、0.3μm以下の厚さを有する。コーティング膜14の厚さを0.3μm以下とすることにより、マーク13付き第2主面11b上にコーティング膜を形成しても、マーク13のガラス表面からの盛り上がりに起因するコーティング膜14の厚さムラが発生しにくい。したがって、本実施形態のコーティングガラス板2も、実施形態1のコーティングガラス板1と同様に、歪みの少ない優れた透視性を実現できる。透視歪みをより確実に改善するためには、コーティング膜14の厚さを0.1μm以下とすることが望ましい。
【0044】
コーティング膜14のタイプは、コーティング膜12と同様に、コーティングガラス板2に求められる機能に応じて適宜選択できるため、特には限定されない。コーティング膜14も、実施形態1で説明したコーティング膜12と同様に実施でき、公知のコーティング膜から適宜選択することもできる。コーティング膜14は、コーティング膜12と同じ機能を有する膜であってもよいし、撥水機能等の異なる機能を有する膜であってもよい。
【0045】
コーティングガラス板2の製造方法には、実施形態1で説明したコーティングガラス板1の製造方法を適用することができる。ただし、コーティングガラス板1の製造方法において、工程(i)よりも後に、第2主面11b上にコーティング膜14を形成する工程をさらに実施することが必要である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は、本発明の要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
実施例1では、図1に示すコーティングガラス板1を作製した。建築用のフロート板ガラスとして市販されている厚さ3.1mmのガラス板を、100mm×100mmの大きさにホイールカッターで割断し、粒度#100の研磨砂でエッジを面取りしたガラス板を用意した。このガラス板をガラス板11として用いた。次に、ガラス板11の一方の主面(第2主面11b)に、ガラス印刷用黒色セラミックカラーを、スクリーンを用いてスクリーン印刷した(ポリエステルスクリーン:355メッシュ、コート厚さ(マーク13の厚さ):20μm、テンション:20Nm、スキージ硬度:80度、取り付け角度:75°、印刷速度:300mm/s)。このガラス印刷用黒色セラミックカラーは、黒色顔料と、ガラス板と熱融着して機械的強度を発現するためのガラスフリットと、焼成により除去可能な有機バインダと、スクリーン印刷に適した粘性を持たせるためのパインオイル等の有機溶剤とを含んでいた。本実施例で用いたスクリーンは、「L」の文字(文字高さ5mm、線の太さ250μmのゴシック体)が印刷できるように製版されたものであった。印刷後、乾燥炉にて150℃で10分間の乾燥を行うことによって、印刷されたセラミックカラーの有機溶媒を除去して流動性を低下させ、焼成までの間に印刷されたパターンの流動による変形などを予防した。乾燥後に、ガラス板11を風冷強化した。この風冷強化処理は、ガラス板11を700℃に設定した電気炉で180秒間保持して加熱した後、加熱したガラス板11に常温の空気を吹き付けて急冷することによって行なった。この風冷強化処理における加熱により、印刷されたセラミックカラーに含まれる有機バインダが焼成除去されると同時にガラスフリットが熔融してガラス板と熱融着し、黒色顔料とガラスフリットからなる「L」の文字が、ガラス板11の第2主面11b上に、厚さ20μmのマーク13として形成された。この急冷における冷却速度は、650〜550℃の温度範囲で毎秒約80〜100Kであった。別途、国際公開2012/107968号の段落[0086]に記載されている実施例A1で用いた紫外線遮蔽膜の形成溶液を、コーティング液として調整した。このコーティング液を用いて、ガラス板11のマーク13が形成されていない第1主面11a上に、国際公開2012/107968号の段落[0087]に記載されている方法でフローコーティングを行い、膜厚2μmのコーティング膜12を形成した。
【0048】
得られた実施例1のコーティングガラス板1について、コーティング膜12の表面粗さRaを、原子間力顕微鏡(「SPI3700」、セイコー電子(株)製)を用いて測定した。表面粗さRaは2nm未満であった。また、目視により、実施例1のコーティングガラス板1のマーク13周辺に透視歪みが生じていないことが確認された。
【0049】
(実施例2)
実施例2では、図2に示すコーティングガラス板2を作製した。実施例1のコーティングガラス板の第2主面11b上に、マーク13を覆うようにコーティング膜14をさらに形成して、実施例2のコーティングガラス板2を得た。国際公開99/63022号に記載されている実施例1の撥水被覆用溶液を、コーティング液として調整した。このコーティング液を用いて、ガラス板11のマーク13が形成されている第2主面11b上に、国際公開99/63022号に記載されている実施例1の撥水被覆用溶液の塗布乾燥方法で、膜厚0.1μmのコーティング膜14を形成した。目視により、実施例2のコーティングガラス板2のマーク13周辺に透視歪みが生じていないことが確認された。
【0050】
(比較例1)
比較例1では、実施例1において第1主面11a上に形成したコーティング膜12と同じ膜を、第1主面11a上ではなく第2主面11b上にマーク13を覆うように形成した点以外は、実施例1と同様の方法でコーティングガラス板を作製した。比較例1では、紫外線遮蔽膜の形成溶液をフローコーティングする際に、溶液の流れがマーク13によって不均一になってしまい、形成されたコーティング膜は厚さムラを有していた。得られた比較例1のコーティングガラス板を目視にて確認したところ、マーク13周辺に透視歪みが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のコーティングガラス板は、マークを付すことが求められる様々なコーティングガラス板に好適に利用でき、例えば建築物及び車両の窓ガラス等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1,2 マーク付きコーティングガラス板
11 ガラス板
11a 第1主面
11b 第2主面
13 マーク
12 コーティング膜(第1コーティング膜)
21 コーティング膜(第2コーティング膜)
図1
図2