特許第6067545号(P6067545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6067545リチウムイオン二次電池およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067545
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20170116BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20170116BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170116BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20170116BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M10/0587
   H01M10/052
   H01M4/139
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-239717(P2013-239717)
(22)【出願日】2013年11月20日
(65)【公開番号】特開2015-99725(P2015-99725A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下舘 史嵩
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−108463(JP,A)
【文献】 特開2010−153331(JP,A)
【文献】 特開2013−182712(JP,A)
【文献】 特開2004−296420(JP,A)
【文献】 特開2005−310617(JP,A)
【文献】 特開2011−048912(JP,A)
【文献】 特開2009−117109(JP,A)
【文献】 特開2011−169499(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0167409(US,A1)
【文献】 特開2010−255988(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/203773(WO,A1)
【文献】 特開2014−049390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板とセパレータとを備え、
前記負極板の端部での水分量は、前記負極板の中央部での水分量より200ppm以上高い、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記負極板の前記端部での水分量は、前記負極板の前記中央部での水分量より400ppm以上高い、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記リチウムイオン二次電池は、前記正極板と前記負極板と前記セパレータとから構成される巻回式の電極体を備え、
前記負極板の前記端部は、前記負極板の長手方向と交差する方向における端部を含む、請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
正極板と負極板とセパレータとを備えるリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
負極活物質を含む負極合材スラリーを負極集電体上に塗工して乾燥することにより前記負極板を得る工程と、
前記負極板の端部での水分量が、前記負極板の中央部での水分量より200ppm以上高くなるように、前記負極板の水分量の分布を調整する工程と、を備える、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記水分量の分布を調整する工程は、前記負極板の前記中央部を乾燥することにより、前記負極板の前記端部での水分量が、前記負極板の前記中央部での水分量より200ppm以上高い状態とする工程を含む、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池は水分の混入を極力避けた環境下で生産されている。たとえば、特開2012−204098号公報(特許文献1)には、電池の組立時に正負極間に電圧を印加することにより電池内部から水分を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−204098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池に水分が混入すると、電解液に含まれるヘキサフルオロ燐酸リチウム(LiPF6)とH2Oとが反応してフッ酸(HF)が発生し電池性能劣化の原因となる。たとえば、特許文献1にはHFが電極表面のSEI(Solid Electrolyte Interface)に作用し、抵抗増加の要因となることが開示されている。ここでSEIとは、リチウムイオン(Li+)に対して導電性があり且つ電子伝導性に乏しい被膜であり、電解液の還元分解反応によって生成すると考えられている。
【0005】
負極表面上にSEIが形成されることにより、たとえば黒鉛系負極活物質へのLi+の挿入脱離が円滑化し、充放電サイクルに伴う電解液の分解が抑制される。そしてこれによりサイクル耐久性が向上する。従来、SEIの形成を促進し主溶媒の分解を抑制するため、電解液にSEI形成用の添加剤が用いられている。
【0006】
ところで、リチウムイオン二次電池は広範な動作温度を有することが望ましい。たとえば寒冷地での使用が想定される用途では、低温環境における性能維持が特に重要である。電池の充放電とはすなわち化学反応であるため、周囲温度が低い程、イオン移動度や活物質の反応性が低下して充放電効率が低下する。とりわけ負極のLi+受入性は低温になると低下しやすい。したがって低温環境で充放電サイクルが繰り返されると、充電時に負極に挿入されなかったLi+と電解液との反応物が負極上に堆積して、この分が充放電に寄与しなくなるため電池容量が低下する。
【0007】
上述のように水分の除去やSEIの形成は常温環境におけるサイクル耐久性の向上に有効であるものの、低温環境におけるサイクル耐久性に対しては十分な効果を有するものではない。
【0008】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは低温環境におけるサイクル耐久性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明のリチウムイオン二次電池は、正極板と負極板とセパレータとを備え、該負極板の端部での水分量は、該負極板の中央部での水分量より200ppm以上高い。
【0010】
本発明者が研究したところ、低温環境で充放電サイクルを繰り返すと負極板の端部に局所的に堆積物が付着して容量低下の原因となっていることが明らかとなった。さらに詳細な調査を行なったところ、負極板の端部と中央部との間でSEIの形成量に差が生じており、これに起因して負極板の端部と中央部との間でLi+受入性に差が生じていることが明らかとなった。すなわち、負極板の端部では中央部に比してSEIが厚くまたは緻密に形成されており、局所的にLi+受入性が低い状態となっていた。そしてこの傾向は負極板の目付量(すなわち負極合材の塗布質量)が高くなる程顕著であった。
【0011】
本発明者は、このような状態を解消する手段について鋭意検討を行なったところ、従来、混入を避けるべきとして扱われてきた水分を利用することにより、端部と中央部でのSEI形成量の差を低減する手段を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池の負極板は、端部での水分量が中央部での水分量より200ppm以上高いことを特徴とする。このように負極板の端部と中央部との間で水分量の分布を持たせることにより、負極板の端部では水分の影響によってSEIの形成が阻害され、端部と中央部との間でSEIの形成量の差が低減される。その結果、端部と中央部でLi+受入性がほぼ同等となり、特に低温環境におけるサイクル耐久性が向上する。
【0013】
(2)負極板の端部での水分量は、負極板の中央部での水分量より400ppm以上高いことが好ましい。
【0014】
これにより、端部と中央部との間におけるSEIの形成量の差がより一層低減され、更に低温環境におけるサイクル耐久性が向上する。
【0015】
(3)リチウムイオン二次電池は、正極板と負極板とセパレータとから構成される巻回式の電極体を備え、該負極板の端部は、該負極板の長手方向と交差する方向における端部を含むことが好ましい。
【0016】
リチウムイオン二次電池の基本構成は、正極板と負極板とをセパレータを挟んで巻回または積層した電極体である。この電極体に電解液を浸透させることにより正極板と負極板との間でLi+の移動が可能となり、電池として機能することができる。
【0017】
リチウムイオン二次電池が巻回式の電極体を有する場合、通常、負極板は長手方向を有する帯状のシート部材である。この場合、負極板の長手方向とは電極体の巻回方向を示し、長手方向と交差する方向とは電極体の巻回軸方向および負極板の幅方向を示す。巻回式の電極体に電解液を浸透させると、電解液は巻回軸方向から電極体の内部に向かって浸透していく。したがって電極体に電解液が浸透する際、負極板の長手方向と交差する方向における両端部は、負極板において電解液の浸透が最も早い部位に相当し、他方負極板の長手方向と交差する方向における中央部は、電解液の浸透が最も遅い部位に相当する。そのため端部では電解液およびSEI形成用の添加剤が豊富に存在し、中央部ではそれらが欠乏した状態となりやすい。そして、この電解液および添加剤の偏りに起因してSEIの形成量に差が生じる。
【0018】
上記のように、負極板の長手方向と交差する方向における端部と中央部との間で水分量の分布を持たせることにより、巻回式の電極体を有するリチウムイオン二次電池において低温環境でのサイクル耐久性を向上させることができる。
【0019】
(4)本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、正極板と負極板とセパレータとを備えるリチウムイオン二次電池の製造方法であって、負極活物質を含む負極合材スラリーを負極集電体上に塗工して乾燥することにより負極板を得る工程と、負極板の端部での水分量が、負極板の中央部での水分量より200ppm以上高くなるように、負極板の水分量の分布を調整する工程と、を備える。
【0020】
これにより、負極板の端部と中央部でSEIの形成量の差が小さく、低温環境でのサイクル耐久性に優れたリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0021】
(5)水分量の分布を調整する工程は、負極板の中央部を乾燥することにより、負極板の端部での水分量が、負極板の中央部での水分量より200ppm以上高い状態とする工程を含むことが好ましい。
【0022】
負極板は吸湿しやすい部材であるため、負極板を水分を含む雰囲気中(典型的には大気中)に放置すると、負極板の端部と中央部は周囲雰囲気に依存した水分量を有することになる。このとき端部と中央部との間で水分量の差は小さく、端部と中央部はほぼ同等の水分量を有している。したがって、この状態から負極板の中央部を局所的に乾燥すれば、上記のような水分量の分布を容易に作り出すことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池は低温環境におけるサイクル耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例を示す模式的な斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の電極体の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の負極板を示す模式的な平面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の電極体の変形例を示す模式的な斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の負極板の変形例を示す模式的な平面図である。
図7】本発明の一実施形態に係わる負極板における水分量の分布の測定例を示すグラフである。
図8】本発明の一実施形態に係わる負極板におけるホウ素量の分布の測定例を示すグラフである。
図9】本発明の一実施形態に係わる負極板における水分量の分布とホウ素量の分布との関係を示すグラフである。
図10】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の負極板作製工程の概略を示すフローチャートである。
図11】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の負極板作製工程の一部を示すフローチャートである。
図12】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の正極板作製工程の概略を示すフローチャートである。
図13】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造工程の概略を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態(以下「本実施形態」とも記す)についてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
<リチウムイオン二次電池>
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極板と負極板とセパレータとを備えるものであり、該負極板の端部での水分量は、該負極板の中央部での水分量よりも200ppm以上高い。これにより負極板の端部と中央部との間でSEIの形成量の差が低減され、低温環境において優れたサイクル耐久性を有することができる。
【0027】
図1は本実施形態のリチウムイオン二次電池の一例である角形リチウムイオン二次電池101を示す模式的な斜視図である。図1および図2に示すように、リチウムイオン二次電池101は、電極体100を電解液とともに電池外装体50(封口体50aおよび外装ケース50b)に収容したものである。なおここで示す電池形状および電極体形状は一例に過ぎず、これらに限定されるものではない。たとえば、電池形状および電極体形状は円筒形とすることもできる。以下、リチウムイオン二次電池101を構成する各部について説明する。
【0028】
<電極体>
図3は本実施形態の電極体の一例である電極体100を示す模式的な斜視図である。図3に示す電極体100は巻回式の電極体である。電極体100において、正極板11、負極板12およびセパレータ13はそれぞれ長手方向を有する帯状のシート部材である。そして電極体100は、正極板11と負極板12とをセパレータ13を挟んで対向させつつ、巻回することにより得られる。電極体100において巻回方向は各部材の長手方向と同方向である。
【0029】
正極板11は、正極集電体上に正極合材スラリーを塗工して乾燥することにより形成された正極合材層部11aと、正極集電体が露出した正極未塗工部11bとを有している。また負極板12は、負極集電体上に負極合材スラリーを塗工して乾燥することにより形成された負極合材層部12aと、負極集電体が露出した負極未塗工部12bとを有している。図3に示すように、正極未塗工部11bおよび負極未塗工部12bは、電極体100において互いに異なる方向から外部へ露出しており、正極未塗工部11bおよび負極未塗工部12bにそれぞれリードタブ(図示せず)を接続することができるように構成されている。
【0030】
図3中の点線矢印は電極体100への電解液の浸透方向を示している。図3に示すように、電極体100に電解液を浸透させると、電解液は電極体100の巻回軸方向の両端部から電極体100の内部に向かって浸透する。したがって、負極板12では、まず負極板12の長手方向と交差する方向における両端部から電解液の浸透が始まり、中央部に向かって電解液の浸透が進行する。
【0031】
<負極板>
図4は電極体100を構成する負極板12を示す模式的な平面図である。図4に示すように負極板12は負極合材層部12aと負極未塗工部12bとを有する帯状のシート部材である。負極合材層部12aは長手方向と交差する方向に幅寸法Wを有している。
【0032】
(端部と中央部)
本実施形態における負極板では、端部と中央部との間で水分量に特定の分布が持たされている。ここで本実施形態における負極板の「端部」とは、負極合材層部12aを長手方向と交差する方向に均等に5つの領域に分割したとき、その両端の領域を示すものとする。すなわち、本実施形態のように負極板12が負極合材層部12aと負極未塗工部12bとを有する場合は、「負極板の端部」とは「負極合材層部の端部」を示すものとする。
【0033】
したがって図4においては、領域Aおよび領域Eが「端部」に相当する。そして「中央部」とは端部を除く領域を示し、具体的には図4中の領域B、領域Cおよび領域Dを示し、好ましくは領域Cを示す。なお図4では均等に5分割された各領域の幅寸法を「1/5×W」と表示している。
【0034】
各領域の水分量は一般的な水分計を用いて計測することができる。たとえばカールフィッシャー(KF:Karl Fischer)水分計を用いることができる。KF水分計の滴定方式としては電量滴定法が好適である。水分測定用サンプルは、負極板から測定対象となる部分を負極集電体ごと切り出して作製することができる。水分測定用サンプルの大きさは、たとえば縦1cm×横1cmの大きさとすることができる。本実施形態では端部と中央部とで水分量を測定して比較する。このとき、好ましくは負極板の長手方向において同位置の端部と中央部とで水分量を測定して比較するものとする。水分測定時の加熱温度は負極合材層部を構成する物質に応じて適宜変更すればよい。加熱温度は、たとえば100℃〜150℃である。
【0035】
前述のように本実施形態では、端部での水分量が中央部の水分量より200ppm以上高い。これにより電解液および添加剤が豊富である端部でのSEI形成が阻害され、端部と中央部との間でSEI形成量の差が低減される。水分によってSEIの形成が阻害される理由の詳細は明らかではないが、SEIが形成される初回の充電時に、通常であればSEIの形成のために消費される電気エネルギーの一部が水の分解エネルギーとして消費され、SEIの形成速度が低下していると考えることができる。またあるいは、水の分解生成物が負極表面上に付着しSEIの形成を阻害しているとも考えることができる。
【0036】
ここで端部と中央部の水分量の差は、好ましくは300ppm以上であり、より好ましくは400ppm以上である。水分量の差が大きくなる程、SEI形成量の差も小さくなる傾向にあるからである。他方、端部と中央部の水分量の差は700ppm以下であることが好ましい。水分量の差が700ppmを超えると、端部でのSEIの形成が過度に制限され常温でのサイクル耐久性が低下する場合もあるからである。また端部の水分量は好ましくは1200ppm以下であり、より好ましくは900ppm以下である。端部の水分量が1200ppmを超えるとHFの発生により高温性能等が低下する場合もあるからである。なお本実施形態では、領域Cと、領域Aおよび領域Eの少なくともいずれか一方との間で上記の関係が満たされればよく、当該関係が満たされる限り本発明の効果は示されるものとする。
【0037】
(負極合材層部)
負極合材層部12aは、負極活物質と結着材とを含む負極合材が負極集電体上に固着されることにより形成される。負極合材層部12aの塗布質量および合材密度は特に限定されるものではないが、本実施形態は高容量タイプの電池、具体的には負極板の塗布質量が多い電池に対して特に有効である。負極合材の塗布質量が多く、負極合材層が厚くなる程、電解液の浸透速度が遅くなり端部と中央部との間で保持液量の偏りが生じやすいからである。負極活物質が黒鉛系の材料である場合、負極合材層部12aの塗布質量は、たとえば15mg/cm2〜45mg/cm2程度であり、好ましくは25mg/cm2〜35mg/cm2である。なお高容量タイプの電池に使用される負極板とは、負極合材層の塗布質量が概ね20mg/cm2以上である負極板を示す。また負極合材層部12aの合材密度は、たとえば0.5g/cm3〜2.5g/cm3程度であり、好ましくは1.0g/cm3〜2.0g/cm3程度である。
【0038】
本実施形態の負極活物質は、Li+を挿入脱離できる材料であり、たとえば黒鉛やコークス等の炭素材料を用いることができる。負極合材層部12aにおける負極活物質の含有率は、たとえば90〜99質量%程度であり、電池のエネルギー密度の観点から好ましくは95〜99質量%程度である。
【0039】
負極合材層部12aに含まれる結着材は、負極活物質同士を固着するとともに、負極活物質と負極集電体とを固着するためのものであり、たとえば、カルボキシメチルセルロース(CMC:Carboxymethylcellulose)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF:Polyvinylidene diFluoride)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)、スチレンブタジエンゴム(SBR:Styrene-Butadiene Rubber)等を用いることができる。これらのうち、塗工性の観点から、CMCとSBRとを併用することが特に好ましい。負極合材層部12aにおける結着材の含有率は、たとえば1〜10質量%程度であり、電池のエネルギー密度の観点から好ましくは1〜5質量%程度である。
【0040】
負極集電体としては、導電性が高く、化学的および電気化学的な安定性が高い金属箔を用いることができる。そのような金属箔としては、たとえば銅(Cu)箔や銅合金箔が好ましい。銅箔を用いる場合、強度と導電性の観点から箔の厚さは5〜20μm程度であることが好ましい。
【0041】
<正極板>
正極板11は、正極合材層部11aと正極未塗工部11bとを有する帯状のシート部材である。電極体100の巻回軸方向において正極合材層部11aと負極合材層部12aとが未対向となることを防止するため、正極合材層部11aの幅寸法は、負極合材層部12aの幅寸法Wよりもやや小さく設定される。
【0042】
(正極合材層部)
正極合材層部11aは、正極活物質と導電助材と結着材とを含む正極合材が正極集電体上に固着されることにより形成される。正極合材層部11aの塗布質量および合材密度は特に限定されず、正極活物質の種類や電池仕様に合わせて適宜変更することができる。正極合材層部11aの合材密度は、たとえば2.0〜4.0g/cm3程度である。
【0043】
正極活物質としては、Li+を電気化学的に吸蔵および放出可能であるリチウム含有遷移金属酸化物を用いることができる。このようなリチウム含有遷移金属酸化物としては、たとえば、LiCoO2、LiNiO2、LiNiaCob2(a+b=1、0<a<1、0<b<1)、LiMnO2、LiMn24、LiNiaCobMnc2(a+b+c=1、0<a<1、0<b<1、0<c<1)、LiFePO4等を挙げることができる。正極合材層部11aにおける正極活物質の含有率は、たとえば80〜99質量%程度であり、電池のエネルギー密度の観点から好ましくは90〜99質量%程度である。なお、本実施形態の正極合材層部11aは2種以上の正極活物質を含んでいてもよい。
【0044】
正極合材層部11aに含まれる導電助材は、正極活物質同士および正極活物質と正極集電体との電気伝導を補助するためのものであり、導電性の高い炭素材料が好ましい。炭素材料としては、たとえば、アセチレンブラック(AB:Acetylene Black)、ケッチェンブラック(KB:Ketjen Black)、グラファイト(graphite)、気相成長炭素繊維(VGCF:Vapor Growth Carbon Fiber)等を用いることができる。正極合材層部11aにおける導電助材の含有率は、たとえば1〜10質量%程度であり、電池のエネルギー密度の観点から好ましくは1〜5質量%程度である。
【0045】
正極合材層部11aに含まれる結着材は、正極活物質同士を固着するとともに、正極活物質と正極集電体とを固着するためのものであり、たとえば、PVdF、ポリ塩化ビニリデン(PVDC:Polyvinylidene Chloride)、PTFE、ポリエチレンオキサイド(PEO:Polyethylene Oxide)等を挙げることができる。これらのうち、塗工性の観点からPVdFが好ましい。正極合材層部11aにおける結着材の含有率は、たとえば1〜10質量%程度であり、電池のエネルギー密度の観点から好ましくは1〜5質量%程度である。
【0046】
正極集電体としては、導電性が高く、耐食性の高い金属箔を用いることができる。そのような金属箔としては、たとえばアルミニウム箔やアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム箔を用いる場合、強度と導電性の観点から、箔の厚さは10μm〜30μm程度であることが好ましい。
【0047】
<セパレータ>
セパレータ13は帯状のシート部材であり、Li+を透過させるとともに、正極板11と負極板12との電気的な接触を防止するためものである。セパレータ13としては、機械的な強度と化学的な安定性の観点から、ポリオレフィン系材料からなる微多孔膜が好ましい。ここで、ポリオレフィン系材料としては、ポリエチレン(PE:Polyethylene)、ポリプロピレン(PP:Polypropylene)等を用いることができ、これらを組み合わせて用いることもできる。さらに複数の微多孔膜を積層して用いてもよい。セパレータの厚さは、たとえば5〜40μm程度とすることができる。セパレータの孔径および空孔率は、セパレータの透気度が所望の値となるように適宜調整すればよい。
【0048】
<電解液>
本実施形態の電解液は、非プロトン性溶媒に溶質(リチウム塩)が溶解されてなる電解液である。ここで、非プロトン性溶媒としては、たとえば、エチレンカーボネート(EC:Ethylene Carbonate)、プロピレンカーボネート(PC:Propylene Carbonate)、ブチレンカーボネート(BC:Buthylene Carbonate)、γ−ブチロラクトン(GBL:Gamma-Butyrolactone)およびビニレンカーボネート(VC:Vinylene Carbonate)等の環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC:Dimethyl Carbonate)、エチルメチルカーボネート(EMC:Ethyl Methyl Carbonate)およびジエチルカーボネート(DEC:Diethyl Carbonate)等の鎖状カーボネート類等を用いることができる。これらの非プロトン性溶媒は電気伝導率や電気化学的な安定性の観点から、2種以上を適宜併用して用いることができる。特に、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを混合して用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートの体積比は、1:9〜5:5程度が好ましい。具体例を挙げれば、たとえば、EC、EMCおよびDECの3種を混合して用いることができる。
【0049】
また、溶質であるリチウム塩としては、たとえば、ヘキサフルオロ燐酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロ硼酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフロオロ砒酸リチウム(LiAsF6)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(Li(CF3SO22N)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(Li(CF3SO3))等を用いることができる。また、これらの溶質についても2種以上を併用してもよい。電解液中における溶質の濃度は、特に限定されないが、放電特性および保存特性の観点から0.5〜2.0mol/L程度であることが好ましい。
【0050】
(添加剤)
本実施形態の電解液は、負極にSEIを形成するための添加剤を含むことが好ましい。そのような添加剤としては、たとえば、ビニレンカーボネート(VC:Vinylene Carbonate)、ビニルエチレンカーボネート(VEC:Vinylethylenecarbonate)、リチウムビスオキサレートボレート(LiB(C242;以下「LiBOB」と略記する)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiBF2(C24))、リチウムジフルオロビスオキサレートフォスフェート(LiPF2(C242)、リチウムテトラフルオロオキサレートフォスフェート(LiPF4(C24))等を挙げることができる。
【0051】
<電池外装体>
上記の電極体100および電解液は電池外装体50に収容される。図2に示すように電池外装体50は封口体50aと外装ケース50bとからなる。封口体50aには正極端子51および負極端子52が設けられている。両端子は、たとえば樹脂材料によって対極と絶縁されている。そして、正極端子51と正極未塗工部11bとはリードタブ(図示せず)を介して電気的に接続され、負極端子52と負極未塗工部12bとはリードタブを介して電気的に接続される。
【0052】
電池外装体50の材質は、耐電圧や強度を考慮して、各種金属または合金材料等から適宜選択すればよい。たとえば、アルミニウムおよびその合金、鉄(Fe)、ステンレス材等を用いることができる。
【0053】
以下、本実施形態の変形例について説明する。
<変形例>
図5は、本実施形態の変形例を示す模式的な斜視図である。図5に示す電極体200は積層式(スタック式)の電極体である。電極体200において、正極板21、負極板22およびセパレータ23はいずれも矩形状のシート部材である。そして電極体200は、正極板21と負極板22とをセパレータ23を挟んで複数積層することにより得られる。電極体200において各部材は、たとえばPEO、PVdF等を用いて固定されてもよいし、あるいはセパレータ23が熱溶着されることにより固定されていてもよい。
【0054】
図5中の点線矢印は電極体200への電解液の浸透方向を示している。図5に示すように、電極体200においては、正極板21、セパレータ23および負極板22の積層方向と交差する方向のいずれの端部からも電解液が浸透することができる。したがって、この例では負極合材層部22aの周縁部全域を端部ということができる。
【0055】
図6は電極体200を構成する負極板22の模式的な平面図である。負極板22は負極合材層部22aと負極未塗工部22bとを有している。負極合材層部22aは正方形状に形成されており、縦横の幅寸法は共にWである。図6には、負極合材層部22aの周縁部から中心部に向かって、領域α、領域βおよび領域γを図示している。領域αおよびβは縦横の幅寸法が共に1/5×Wである正方形を基本単位としてそれらが連なることにより形成されている。また領域γは縦横の幅寸法が共に1/5×Wである正方形からなる。そしてこの例において「端部」とは領域αを示し、「中央部」とは領域βおよび領域γ、好ましくは領域γを示すものとする。
【0056】
以上の変形例から分かるように、本実施形態の端部とは、電極体に電解液を浸透させた際、負極合材層部において電解液が最も早く到達する部位であり、中央部とは電解液が最も遅く到達する部位であるということもできる。
【0057】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
以上に説明した本実施形態のリチウムイオン二次電池は、以下のような製造方法によって製造することができる。図13は本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法の概略を示すフローチャートである。図13に示すように本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は、工程S100〜工程S700を備える。以下、各工程について説明する。
【0058】
<工程S100>
工程S100では負極板12を作製する。図10は工程S100の概略を示すフローチャートである。図10に示すように負極板12は工程S110〜工程S130を経て作製される。
【0059】
(工程S110)
工程S110は、負極合材スラリーを作製する工程である。負極合材スラリーの作製方法は特に限定されない。たとえば、負極活物質と結着材と溶媒(たとえば水)とを混合、混練することによって負極合材スラリーを作製することができる。負極合材スラリーの混合、混練には従来公知の混練装置を用いることができる。
【0060】
(工程S120)
工程S120は、負極合材スラリーを負極集電体上に塗工し、乾燥して負極板12を得る工程である。ここで塗工方法は特に限定されず、たとえば従来公知のダイコート法やグラビアコート法等を用いることができる。また乾燥方法も特に限定されず、たとえば従来公知の熱風式乾燥法や赤外線乾燥法を用いることができる。
【0061】
なお乾燥後の負極板12を圧延して、負極合材層部12aを圧縮してもよい。これにより負極合材層部12aの脱落が防止される。圧延には例えばロール圧延機を用いることができる。
【0062】
(工程S130)
工程S130は、負極板12の端部での水分量が、負極板12の中央部での水分量より200ppm以上高くなるように、負極板の水分量の分布を調整する工程である。負極板12の水分量の分布の調整は具体的には次のようにして行なうことができる。
【0063】
たとえば、まず負極板12を湿潤環境に放置することにより、負極合材層部12aの全域が所定の水分量を有するように調整する。次いで、負極合材層部12aの中央部を局所的に乾燥することにより、負極板12(負極合材層部12a)の端部の水分量を中央部の水分量より200ppm以上高く調整することができる。
【0064】
すなわち工程S130は、図11に示すように、負極板12を湿潤環境に放置する工程S131と、負極板12において負極合材層部12aの中央部を局所的に乾燥して、負極板12の端部の水分量が負極板12の中央部の水分量より200ppm以上高い状態とする工程S132とを含むことができる。
【0065】
ここで、工程S131における湿潤環境は、たとえば湿度40%〜60%程度、温度20℃〜35℃程度の環境とすることができる。湿潤環境での放置時間は、たとえば1時間〜48時間程度であり、好ましくは10時間〜24時間程度である。また中央部の局所的な乾燥には、たとえば赤外線ヒーター等が好適であり、乾燥温度は、たとえば90℃〜150℃程度である。なお局所的な乾燥が行なわれる中央部とは、負極合材層部12aの両端部を除く、3/5×Wの幅寸法を有する領域とすることができる(たとえば図4中の領域B〜D)。
【0066】
なお、このように中央部を局所的に乾燥する処理が行なわれた負極板には特徴的な痕跡が残る場合がある。たとえば、負極集電体(典型的にはCu箔)が、局所的な乾燥位置に対応して酸化されて変色している場合もある。そしてこのような負極板は上記のような処理が行なわれた負極板であると推定することができる。
【0067】
また、工程S130は次のようにして行なうこともできる。まず負極板12を低露点環境に放置して、負極合材層部12aが全域に亘って200ppm以下の水分量を有するように調整する。次いで、帯状のシート部材である負極板12を所定の巻き芯(ボビン)に巻き付けて固定し、この状態で湿潤環境に放置する。このように負極板をボビン巻き付けることにより、水分の侵入方向が負極板12の長手方向と交差する方向(幅方向)に規制される。そして、水分は負極合材層部12aの中央部に拡散し難いため、負極合材層部12aの端部が中央部に比べて水分量の多い状態とすることができる。
【0068】
ここで、低露点環境は、たとえば露点温度0℃以下、好ましくは露点温度−10℃以下の環境とすることができる。また湿潤環境は、たとえば湿度40%〜60%程度、温度20℃〜35℃程度の環境とすることができる。各環境での放置時間は、各環境の湿度または露点温度に合わせて適宜設定すればよい。
【0069】
以上のようにして、端部での水分量が中央部での水分量より200ppm以上高い負極板12を作製することができる。
【0070】
<工程S200>
工程S200では正極板11を作製する。図12は工程S200の概略を示すフローチャートである。図12に示すように正極板11は工程S210および工程S220を経て作製される。
【0071】
(工程S210)
工程S210は、正極合材スラリーを作製する工程である。正極合材スラリーの作製方法は特に限定されない。たとえば、正極活物質と導電助材と結着材と有機溶媒(たとえばN−メチル−2−ピロリドン(NMP:N-methylpyrrolidone))とを混合、混練することによって正極合材スラリーを作製することができる。正極合材スラリーの混合、混練には従来公知の混練装置を用いることができる。
【0072】
(工程S220)
工程S220は、正極合材スラリーを正極集電体上に塗工し、乾燥して正極板11を得る工程である。ここで塗工方法および乾燥方法は、工程S120で例示したものと同様とすることができる。また乾燥後の正極板11を圧延して、正極合材層部11aを圧縮してもよい。これにより正極合材層部11aの脱落が防止される。
【0073】
<工程S300>
工程S300は、電極体100を作製する工程である。図3を参照して、電極体100は正極板11と負極板12とをセパレータ13を挟んで対向させつつ、巻回することにより作製することができる。前述のように正極合材層部11aは、負極合材層部12aよりも小さい幅寸法を有している。そして正極合材層部11aは平面位置において負極合材層部12a内に収まるように配置される。また図3に示すように正極板11および負極板12は、正極未塗工部11bおよび負極未塗工部12bがそれぞれ互いに異なる方向から露出するように配置される。なお電極体100の巻き終わり部は、たとえば絶縁テープ等で固定される。
【0074】
<工程S400>
工程S400は、電極体100を電池外装体50に挿入する工程である。図2を参照して、電極体100から外部に露出した正極未塗工部11bはリードタブ(図示せず)を介して封口体50aの正極端子51と電気的に接続される。また負極未塗工部12bはリードタブを介して封口体50aの負極端子52と電気的に接続される。なお、封口体50aには注液孔(図示せず)が設けられている。
【0075】
次いで、電極体100は外装ケース50bに挿入され、封口体50aと外装ケース50bとは所定の手段(たとえばレーザ溶接)によって接合される。
【0076】
<工程S500>
工程S500は、電極体100が挿入された電池外装体50に電解液を注液する工程である。電解液は封口体に設けられた注液孔から注入することができる。このとき電極体100中での電解液の浸透を促進するため、減圧や加圧、あるいは加熱等を伴ってもよい。
【0077】
<工程S600>
工程S600は、電池に対して初回の充電を行なう工程である。これにより電解液や添加剤の一部が還元分解され負極合材層部12aの表面にSEIが形成される。本実施形態では、負極板12(負極合材層部12a)の端部が中央部よりも200ppm以上高い水分量を有するため、負極合材層部12aの端部と中央部とでSEI形成量の差が小さい。これにより低温環境でのサイクル耐久性に優れたリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0078】
<工程S700>
工程S700は、外装体を封止する工程である。すなわち工程S700では、注液孔を封止栓(図示せず)で封止する。ここで封止栓は所定の手段(たとえば、ネジ止めや溶接)によって固定される。以上のようにして本実施形態のリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
[実施例1]
<工程S100:負極板12の作製>
(工程S110)
まず負極活物質として天然黒鉛を準備した。次いで、負極活物質と、結着材(増粘材)としてのCMCと、結着材としてのSBRとを、質量比で負極活物質:CMC:SBR=98:1:1となるように混合し、水中で混練することにより負極合材スラリーを得た。
【0081】
(工程S120)
負極集電体として帯状のCu箔(幅132mm)を準備した。このCu箔の幅方向の片側に負極未塗工部12b(幅12mm)が形成されるように、負極合材スラリーをCu箔の両面に塗工し、乾燥して該Cu箔上に負極合材層部12a(幅120mm)を形成した。続いてロール圧延機を用いて負極合材層部12aを圧延して帯状のシート部材である負極板12を得た。なお負極合材層部12aの塗布質量(両面)は30mg/cm2とした。
【0082】
(工程S130)
負極板12を湿度55%、温度30℃の湿潤環境に24時間放置した(工程S131)。次いで負極板12の幅方向の中央部(幅72mm)を赤外線ヒーターを用いて局所的に乾燥した(工程S132)。この際赤外線ヒーターの設定温度は110℃とした。これにより実施例1に係わる負極板(サンプル1)を得た。
【0083】
(水分量の測定)
図4を参照して、負極合材層部12aを幅方向(長手方向と交差する方向)に5等分することにより得られる領域A〜Eのそれぞれからサンプルを採取し、各領域の水分量を、京都電子工業株式会社製のKF水分計(製品名「MKC−610」)および水分気化装置(製品名「ADP−611」)を用いて測定した。結果を表1および図7に示す。なお領域A〜Eの幅寸法(1/5×W)はそれぞれ24mmである。
【0084】
【表1】
【0085】
表1には、「端部と中央部の間における水分量の差」として「(1)領域Aと領域Cとの水分量の差」(表1中、A−C)、「(2)領域Eと領域Cとの水分量の差」(表1中、E−C)および「これらの平均値」を算出して表示している。表1に示すように、この負極板では端部の水分量は中央部の水分量より200ppm以上高く、その差は400ppmに達していた。
【0086】
<工程S200:正極板11の作製>
(工程S210)
まず正極活物質としてのLiCoO2を準備した。次いで、正極活物質と、導電助材としてのABと、NMPに結着材としてのPVdFを溶解させた溶液とを、質量比で正極活物質:AB:PVdF=90:5:5となるように混合し、さらに混練することにより正極合材スラリーを得た。
【0087】
(工程S220)
正極集電体として帯状のAl箔(幅130mm)を準備した。このAl箔の幅方向の片側に正極未塗工部11b(幅14mm)が形成されるように、正極合材スラリーをAl箔の両面に塗工し、乾燥して該Al箔上に正極合材層部11a(幅116mm)を形成した。続いてロール圧延機を用いて正極合材層部11aを圧延して帯状のシート部材である正極板11を得た。なお正極合材層部11aの塗布質量(両面)は38mg/cm2とした。
【0088】
<工程S300>
PP/PE/PPの三層構造を有するセパレータ13(幅124mm)を準備した。そして、図3を参照して、正極板11と負極板12とがセパレータ13を挟んで対向するように巻回することにより電極体100を得た。
【0089】
<工程S400>
電極体100から外部に露出した正極未塗工部11bおよび負極未塗工部12bをそれぞれリードタブを介して封口体50aの正極端子51および負極端子52に接続した。次いで、電極体100を外装ケース50bに挿入して、封口体50aと外装ケース50bとをレーザー溶接によって接合した。
【0090】
<工程S500>
(電解液の調整)
ECとEMCとDECとを、体積比でEC:EMC:DEC=3:5:2となるように混合して非プロトン性溶媒を得た。次いで該非プロトン性溶媒に、溶質としてLiPF6(1.0mol/L)と、SEI形成用の添加剤としてLiBOB(0.1mol/L)とを溶解させることにより電解液を調整した。
【0091】
この電解液を封口体50aの注液孔から注液して、20時間静置して電極体100に電解液を浸透させた。
【0092】
<工程S600>
次いで、初回の充電を行ない負極表面にSEIを形成した。
【0093】
<工程S700>
そして、注液孔を封止栓で封止することにより実施例1に係るリチウムイオン二次電池を得た。
【0094】
[実施例2]
実施例1の「工程S130」において、負極板12を湿度55%、温度30℃の湿潤環境に15時間放置した後、赤外線ヒーターで中央部を局所的に乾燥して負極板(サンプル2)を得ることを除いては、実施例1と同様にして実施例2に係るリチウムイオン二次電池を得た。サンプル2における水分量の測定結果を表1および図7に示す。
【0095】
表1に示すように、サンプル2も端部の水分量が中央部の水分量に比して高く、かつその差は200ppm以上であった。サンプル2では、湿潤環境での放置時間がサンプル1に比して短かったため、端部と中央部との間における水分量の差はサンプル1に比して少なかった。
【0096】
[比較例]
実施例1の「工程S130」を行なわず、負極板(サンプル3)を得ることを除いては、実施例1と同様にして比較例に係るリチウムイオン二次電池を得た。サンプル3における水分量の測定結果を表1および図7に示す。
【0097】
サンプル3では、湿潤環境での放置を行なっていないため、端部および中央部の水分量は低く、端部と中央部との間で水分量の差も30ppm程度と低いものであった。
【0098】
<評価>
上記のようにして得た実施例1、実施例2および比較例に係るリチウムイオン二次電池の評価を以下のようにして行なった。
【0099】
(ホウ素量の測定/SEI形成量の評価)
負極合材層部12aの端部および中央部のSEI形成量を、ホウ素(B)量を測定することにより評価した。
【0100】
上記のように実施例および比較例のリチウムイオン二次電池はSEI形成用の添加剤としてLiBOBを含む。そのため、これらの電池におけるSEIはLiBOBに由来する物質(すなわちホウ素)を含むことになる。したがって、端部と中央部とでホウ素量を比較することによりSEI形成量の差を見積もることができる。ここで、ホウ素量の測定には誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES:Inductively coupled plasma - Atomic Emission Spectrometry)を用いることができる。
【0101】
まず、実施例および比較例の電池を解体し負極を回収した。回収された負極からKF法による水分量測定と同様に領域A〜E(図4参照)のそれぞれの部分から測定試料を採取し、ICP−AES(製品名「ICPV−8100」、株式会社島津製作所製)を用いてホウ素(B)量を測定した。結果を図8に示す。
【0102】
図8に示すように、図7の水分量測定結果に対応して、端部(領域Aおよび領域E)と中央部(領域C)におけるホウ素量の差が小さくなっていることが分かる。すなわち、実施例に係るリチウムイオン二次電池では比較例に比して、端部と中央部との間でSEI形成量の差が小さいことが分かった。
【0103】
さらに、端部と中央部との間でのホウ素量の差と、端部と中央部との間での水分量との差との関係をプロットしたグラフが図9である。図9に示すようにホウ素量の差と水分量の差との間には強い相関関係が存在する。すなわち、水分量の差が大きい程、ホウ素量の差は小さくなっている。この結果から、水分がSEIの形成を阻害していることが示唆される。
【0104】
以上のように、正極板と負極板とセパレータとを備え、負極板の端部での水分量は、負極板の中央部での水分量より200ppm以上高い、実施例に係るリチウムイオン二次電池は、かかる条件を満たさない比較例に係るリチウムイオン二次電池よりも、端部と中央部のSEI形成量の差が小さいものであることが確認できた。
【0105】
(低温サイクル耐久性試験)
次に実施例および比較例のリチウムイオン二次電池の低温サイクル耐久性試験を行なった。すなわち、0℃に設定した恒温槽内で120A×100秒間の充電パルス電流および120A×100秒の放電パルス電流を1サイクルとして、同サイクルを600サイクル実行した。そして、600サイクル後の電池を解体し負極板の端部の状態を目視にて確認した。結果を表1に示す。
【0106】
表1に示すように、実施例1(サンプル1)および実施例2(サンプル2)では比較例(サンプル3)に比して端部における堆積物の量が減少していた。すなわち低温環境でのサイクル耐久性に優れていた。このような結果が得られた理由は、端部においてSEIの形成が水分によって阻害され、負極板の端部と中央部との間におけるSEI形成量の差が低減されたためであると考えられる。
【0107】
以上の結果から、正極板と負極板とセパレータとを備え、負極板の端部での水分量は、負極板の中央部での水分量より200ppm以上高い、実施例に係るリチウムイオン二次電池は低温環境でのサイクル耐久性に優れることが確認できた。
【0108】
また同時に、正極板と負極板とセパレータとを備えるリチウムイオン二次電池の製造方法であって、負極活物質を含む負極合材スラリーを負極集電体上に塗工して乾燥することにより負極板を得る工程と、負極板の端部での水分量が、負極板の中央部での水分量より200ppm以上高くなるように、負極板の水分量の分布を調整する工程と、を備える製造方法によれば、低温環境でのサイクル耐久性に優れるリチウムイオン二次電池が製造できることが確認できた。
【0109】
以上のように、本発明の実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の実施形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0110】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0111】
11,21 正極板、11a,21a 正極合材層部、11b,21b 正極未塗工部、12,22 負極板、12a,22a 負極合材層部、12b,22b 負極未塗工部、13,23 セパレータ、50 電池外装体、50a 封口体、50b 外装ケース、51 正極端子、52 負極端子、100,200 電極体、101 リチウムイオン二次電池、W 幅寸法、A,B,C,D,E,α,β,γ 領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13