(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067560
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】無血清培養及び浮遊培養に適応されたMDCK細胞株及び前記細胞を使用してワクチン用ウイルスを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20170116BHJP
C12N 7/00 20060101ALI20170116BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N7/00
A61K39/145
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-527024(P2013-527024)
(86)(22)【出願日】2011年9月6日
(65)【公表番号】特表2013-540431(P2013-540431A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】KR2011006589
(87)【国際公開番号】WO2012033328
(87)【国際公開日】20120315
【審査請求日】2014年8月14日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0085902
(32)【優先日】2011年8月26日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】PCT/KR2010/006041
(32)【優先日】2010年9月6日
(33)【優先権主張国】KR
【微生物の受託番号】DSMZ DSM ACC3112
【微生物の受託番号】DSMZ DSM ACC3114
【微生物の受託番号】DSMZ DSM ACC3113
(73)【特許権者】
【識別番号】509060637
【氏名又は名称】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヨン ウク
(72)【発明者】
【氏名】イ,コン セ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ボン−ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク,マンフン
(72)【発明者】
【氏名】キム,フン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユン−ヒ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ス−ジン
【審査官】
田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2001/064846(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0118140(US,A1)
【文献】
特表2010−502692(JP,A)
【文献】
特表2008−525025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATCC CCL‐34として寄託されたMDCK細胞から誘導され、細胞成長のために血清を要さず、付着のための担体なしに浮遊培養が可能なMDCK細胞株である、MDCK Sky1023(DSM ACC3112)。
【請求項2】
ATCC CCL−34として寄託されたMDCK細胞から誘導され、細胞成長のために血清を要さず、付着のための担体なしに浮遊培養が可能なMDCK細胞株である、MDCK Sky10234(DSM ACC3114)。
【請求項3】
ATCC CCL−34として寄託されたMDCK細胞から誘導され、細胞成長のために血清を要さず、付着のための担体なしに浮遊培養が可能なMDCK細胞株である、MDCK Sky3851(DSM ACC3113)。
【請求項4】
請求項1から3のうち何れか1項に記載の細胞株を利用してワクチン用ウイルスを製造する方法。
【請求項5】
前記ウイルスは、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、日本脳炎ウイルス、耳下腺炎ウイルス、風疹ウイルス、ポリオウイルス、HSV‐1、HSV‐2、狂犬病ウイルス、RSウイルス、レオウイルス3型、黄熱ウイルス、パルボウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルス1型ないし47型、ラッサウイルス、ワクシニアウイルスから構成された群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ウイルスは、インフルエンザウイルスであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(a)請求項1から3のうち何れか1項に記載のMDCK細胞を利用して1×104個ないし1×106個cells/mlの接種濃度で無血清細胞培養培地を接種するステップと、
(b)40〜100rpmの撹拌速度、6.5〜7.5のpH、及び35〜100%の溶存酸素量(DO)からなる群から選択される1つ以上の培養条件を維持しながら前記細胞を培養するステップを含み、使い捨て生物反応器システムで前記MDCK細胞を5×106個以上cells/mlの細胞密度に増殖させるステップと、
(c)前記増殖されたMDCK細胞をインフルエンザウイルスで感染させるステップと、
(d)インフルエンザウイルスの複製を許容する条件の下で前記感染された増殖MDCK細胞を培養するステップと、
(e)細胞培養組成物からインフルエンザウイルスを分離するステップとを含むことを特徴とする細胞培養物でインフルエンザウイルスを生産する方法。
【請求項8】
前記ステップ(b)では、前記細胞培養物に新鮮な培地の追加または培地を一部除去して新鮮な培地に交換する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記MDCK Sky1023(DSM ACC3112)は、腫瘍形成能が元のMDCK細胞株に比べて低いか全くないことを特徴とする請求項1に記載のMDCK Sky1023(DSM ACC3112)。
【請求項10】
前記MDCK Sky10234(DSM ACC3114)は、腫瘍形成能が元のMDCK細胞株に比べて低いか全くないことを特徴とする請求項2に記載のMDCK Sky10234(DSM ACC3114)。
【請求項11】
前記MDCK Sky3851(DSM ACC3113)は、腫瘍形成能が元のMDCK細胞株に比べて低いか全くないことを特徴とする請求項3に記載のMDCK Sky3851(DSM ACC3113)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清なしに培養可能であり、担体に付着せずに浮遊培養が可能なMDCK新規細胞株、このような細胞株を製造する方法、及びこのような細胞株を利用してワクチン用ウイルスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ワクチンの生産のためには、有精卵、マウス脳、一次細胞或いは確立細胞が使われる。このような伝統的な方法はいくつの問題を有している。例えば、有精卵を使う場合、ニワトリの飼育、ワクチン生産計画による受精卵の管理、鶏卵タンパク質由来成分の除去のための精製の難しさなどの問題がある。
細胞培養の場合、一般的に増殖因子としてウシ胎児血清を添加する。血清の場合、プリオンやウイルスによる汚染が発生し得、製品間の品質偏差があり得る。しかも、オーストラリアやニュージーランド由来の高品質血清の場合、非常に高いことから製造コストが増加する。
【0003】
MDCK細胞株は、多様なウイルスが増殖可能な確立細胞株である。しかし、MDCK細胞株は表面に対する付着性が非常に強いことから、大量培養のためには非常に広い面積の培養容器や担体が必要であり、これには多くのコストがかかる。したがって、施設または担体にかかるコストが莫大であり、なお、担体に付着された細胞を除去するステップが必要であり、これにより細胞の損失や損傷が生じる。したがって、安価で且つ安全に動物細胞の培養を通じたワクチンを製造するためには、無血清及び浮遊培養が可能な細胞株が必要である。
【0004】
特許文献1は、無血清培養及び担体のない浮遊培養で増殖可能なMDCK細胞株に対して開示している。前記特許文献1は、浮遊培養への適応のために二通りの接近法を使用したが、第1接近法は、スピナーフラスコ(spinner flask)で直接浮遊培養を試み、この場合、細胞密度が産業化に必要なレベルである1.0×10
6cells/mlに逹しておらず、第2接近法の場合、ビーズ担体培養ステップを先に経ることで培養規模を拡張した後、担体不在下で増殖できる細胞株を得た。従って、細胞株を得る過程が相対的に複雑である。
【0005】
また、元のMDCK細胞株は腫瘍原性(tumorigenic)があるという多くの報告があり、このためにワクチンを生産するための細胞株として使うにあたって潜在的な腫瘍原性に対する恐れが存在する。したがって、無血清培養及び浮遊培養が可能なだけでなく、望ましくは、腫瘍形成能を著しく低めるか、非発癌性の特徴を有する細胞株の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国登録特許第6,825,036号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、無血清培養及び浮遊培養が可能であるという長所があり、ワクチン用ウイルス増殖に使用可能な元のMDCK細胞株に比べて腫瘍形成能が顕著に低いか全くないMDCK細胞株を提供することである。また本発明は、前記細胞株を利用してウイルス、特にインフルエンザウイルスを生産する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年9月6日出願の国際出願PCT/KR2010/006041、及び2011年8月26日出願の韓国特許出願第10‐2011‐0085902号に基づく優先権を主張し、該当出願の明細書および図面に開示された内容は、すべて本出願に援用される。
【0009】
技術的解決手段
上記課題を解決するために、本発明は、ATCC CCL‐34として寄託されたMDCK(Madin Darby Canine Kidney)細胞から誘導され、細胞成長のために血清を要さず、付着のための担体なしに浮遊培養が可能な特定のMDCK細胞株を提供する。
【0010】
前記望ましい特性である無血清培養及び浮遊培養が可能なMDCK細胞株は、以下のようなステップを経て製造できる。具体的に、S1)MDCK細胞株を無血清培地に適応させて無血清培養が可能な細胞株を製造し、S2)無血清培養が可能な細胞株を担体適応ステップなしに浮遊培養に適応させることで担体なしに浮遊培養が可能な細胞株を選別する方法で製造できる。
さらに詳しくは、(a)ATCC CCL‐34として寄託されたMDCK細胞を用意するステップと、(b)前記MDCK細胞を、化学的に定義された無血清培地で生長するように適応させるステップと、(c)ステップ(b)で適応された付着性である前記MDCK細胞を、化学的に定義された無血清培地の中で担体適応ステップを経ずに浮遊培養適応を誘導することで担体なしに浮遊状態で生長するように適応させたMDCK細胞を製造する方法、及び、このような方法を通じて得られた無血清培養及び浮遊培養が可能なMDCK細胞株を提供する。
【0011】
望ましくは、前記方法を通じて新規で確立された無血清培養及び浮遊培養が可能なMDCK細胞株は、MDCK Sky1023(DSM ACC3112)、MDCK Sky10234(DSM ACC3114)、及びMDCK Sky3851(DSM ACC3113)であり、Braunschweig、Germanyに所在する寄託機関であるDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)に2011年1月27日付でそれぞれの寄託番号で寄託した。
【0012】
本発明において、「無血清培地」という用語は、血清が実質的に添加されていない、本発明による確立細胞株が培養可能な培地を意味し、「実質的に添加されていない」という用語は、血清を0.5(v/v)%以下含むことを意味し、望ましくは、0.1(v/v)%以下、さらに望ましくは、0.01(v/v)%以下、最も望ましくは、全く含まないことを意味する。
【0013】
特許文献1は、二通りの接近法を使用して無血清培地でMDCK細胞株の浮遊培養を試みた。第1接近法は、スピナーフラスコで直接浮遊培養を試み、この場合、細胞密度が産業化に必要なレベルである1.0×10
6cells/mlに逹しなかった。第2接近法の場合、担体培養ステップを経た後、担体不在下で増殖できる細胞株を得た。
【0014】
しかし、本発明では、担体適応ステップを経ずにスピナーフラスコで直接培養を試みて無血清培地で浮遊培養が可能な新規細胞株を確立した。また、特許文献1で確立されたB‐702細胞株の場合、約1週間内に1.0×10
6cells/mlに逹したが、本発明で確立された細胞株の場合、約3日内に1.0×10
6cells/ml以上に達しているので、増殖能が遥かに優れている。
【0015】
既存に知られたMDCK細胞株の場合、腫瘍原性に対する多くの報告がある。しかし、本発明では、既存のMDCK細胞株に比べて腫瘍形成能が顕著に減少するか、腫瘍形成能が全く観察されない細胞株を確立した。具体的に、細胞株、細胞破砕物、及び細胞DNAを利用したヌードマウスにおける腫瘍形成能の確認試験結果、本発明で新規で確立されたMDCK細胞株は、既存MDCK細胞株に比べて腫瘍形成能が低いか全くないと示され、このような検証を通じてワクチン生産に使用可能な安全性に優れた細胞株、さらに望ましくは、無血清及び浮遊培養が可能なMDCK細胞株が確立できた。
【0016】
また本発明は、本発明による細胞株を利用してワクチン用ウイルスを製造する方法を提供する。本発明による細胞株を利用して増殖可能なウイルスは、例えば、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、日本脳炎ウイルス、耳下腺炎ウイルス、風疹ウイルス、ポリオウイルス、HSV‐1、HSV‐2、狂犬病ウイルス、RSウイルス、レオウイルス3型、黄熱ウイルス、パルボウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルス1型ないし47型、ラッサウイルス、ワクシニアウイルスなどがあり、本発明による細胞株は、このようなウイルスのうちインフルエンザウイルスの生産にさらに適合している。
【0017】
さらに具体的に、本発明は、(a)本発明によるMDCK細胞を利用して約1×10
4個ないし約1×10
6個cells/mlの接種濃度で無血清細胞培養培地を接種するステップと、(b)約40〜100rpmの撹拌速度、約6.5〜7.5のpH、及び約35〜100%の溶存酸素量(DO)からなる群から選択される1つ以上の培養条件を維持しながら前記細胞を培養するステップを含み、使い捨て生物反応器システムで前記MDCK細胞を約5×10
6個以上cells/mlの細胞密度に増殖させるステップと、(c)前記増殖されたMDCK細胞をインフルエンザウイルスで感染させるステップと、(d)インフルエンザウイルスの複製を許容する条件の下で前記感染された増殖MDCK細胞を培養するステップと、(e)細胞培養組成物からインフルエンザウイルスを分離するステップとを含むことを特徴とする細胞培養物でインフルエンザウイルスを生産する方法を提供し、望ましくは、本発明のこのような方法は、前記ステップ(b)では、前記細胞培養物に新鮮な培地の追加または培地を一部除去して新鮮な培地に交換するステップをさらに含む。
【0018】
また本発明は、本発明による方法に従って製造されたウイルスまたはウイルス抗原を提供し、このようなウイルス抗原を含む免疫原性薬学組成物を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、無血清培養及び浮遊培養が可能であり、腫瘍形成能が低いか全くないという長所のある、ウイルス増殖に効率的に使用可能な新規MDCK細胞株を提供する。また本発明は、このような細胞株を利用してウイルス、特にインフルエンザウイルスを生産する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本明細書に添付される下記の図面は本発明の望ましい実施例を例示するものであって、発明の詳細な説明とともに本発明の技術思想をさらに理解させる役割を果たすものであるため、本発明はそのような図面に記載された事項にのみ限定されて解釈されてはいけない。
【
図1】本発明によるMDCK細胞株をスピナーフラスコで浮遊培養した結果であって、継代による細胞濃度の増加形態を示している。
【
図2】インフルエンザウイルスの代表的な精製工程の流れ図である。
【
図3】本発明のMDCK細胞株で増殖されたウイルス精製試料を用いた動物実験血清のHI試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の理解を助けるために実施例などを挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は多様な形態に変形され得、本発明の範囲が下記実施例に限定されると解釈されてはいけない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるのである。
【0022】
〈実施例1〉無血清浮遊培養によるMDCK細胞株の用意
MDCK細胞株CCL‐34は、ATCCから分譲を受けた。T‐25フラスコ内の10%血清を含むEMEM培地で培養温度37℃、5% CO
2の条件で培養した。前記細胞を拡張した後、前記培地に無血清培地を50%含む培地に培養し、細胞の異常可否を確認した。細胞の成長に異常がない場合、無血清培地を75%含む培地で培養し、前記方法を繰り返して100%の無血清培地に適応された細胞株を確保した。無血清培養に使われた培地は、例えばEX‐CELL MDCK(Sigma)、UltraMDCK(Lonza)、VP‐SFM(Invitrogen)などが挙げられる。
【0023】
無血清培地に適応された細胞株をT‐フラスコで十分拡張した後、スピナーフラスコ(Corning)で浮遊培養適応を始めた。撹拌速度は40〜80rpmであり、培養温度37℃、5% CO
2の条件で培養した。培養培地のpHが低くなるか、細胞が一定レベル以上に成長した場合、培地交換をするか、継代培養をした。3〜6ヶ月の浮遊培養適応を経た後の細胞濃度が2×10
6cells/ml以上となった。細胞の生存率は95%以上であり、単一細胞で浮遊培養されることを確認した。浮遊培養に使われた培地は、例えばEX‐CELL 302 CHO(Sigma)、UltraCHO(Lonza)、SMIF‐6(Invitrogen)などが挙げられる。前記方法によって無血清培養及び浮遊培養が可能なMDCK細胞株3種を確保し、それぞれMDCK Sky1023、MDCK Sky10234、及びMDCK Sky3851と命名した。
【0024】
〈実施例2〉細胞株の増殖性の評価
無血清培養MDCK細胞株を、以下の表1の条件の下で培養し、その増殖性を評価した。対照群としては、10%血清を含む培地で成長するMDCK細胞(ATCC CCL‐34)を使用した。
【0025】
【表1】
培養開始当時の細胞濃度は、約1.0×10
5cells/mlであり、継代条件は、細胞濃度が約1×10
6cells/mlに達したとき、或いは、培養してから3日ないし4日経過後に継代培養を行い、開始細胞濃度は、再び1×10
5cells/mlに調整した。
【0026】
本発明で作られた無血清MDCK細胞株は、血清培地で成長したMDCK細胞株と比べたとき、同等なレベルの細胞成長率を見せた。
【0027】
〈実施例3〉細胞株の増殖形態及び継代安定性の評価
無血清培養及び浮遊培養に適応された細胞株3種に対して、スピナーフラスコで連続的に培養し、細胞増殖形態及び継代による安定性を確認した。培養開始細胞濃度は約4×10
5cells/mlにし、培養してから約3日ないし4日経過後の細胞濃度は約2×10
6cells/ml以上まで到逹した。培養条件は以下のようである。その結果を
図1に示した。
【0028】
開始細胞濃度:4×10
5cells/ml
培養規模:50ml スピナーフラスコ
スピナーの回転数:60rpm
培養条件:37℃、5% CO
2、湿潤下
継代条件:培養してから3〜4日経過後
〈実施例4〉ウイルス増殖評価
本発明の前記MDCK細胞を用いて浮遊培養条件でウイルスを増殖させた。本実験に使用されたウイルスは2010/2011年のインフルエンザワクチン株であり、培養条件は以下のようである。
【0029】
細胞濃度:2×10
6cells/ml
培養規模:1000ml スピナーフラスコ
スピナーの回転数:60rpm
培養条件:34℃、5% CO
2、湿潤下
培養期間:3日
通常、インフルエンザウイルスを培養するとき、37℃よりは34℃でよく増殖されると知られており、これを実験を通じて確認した。また、細胞株を用いたウイルスの培養時、感染のためにトリプシンを培養培地に含ませた。インフルエンザウイルスの力価測定は、血球凝集反応アッセイ(hemagglutination assay)を施して測定した。3日間培養後、ほとんどの細胞が死滅し、培養上澄液を回収してウイルス力価を測定した。測定結果を下記表2に示した。表2に示すように、ほとんど1024以上のHA力価を示した。このようなウイルスの増殖は、発育中の鶏卵または10%血清で培養されたMDCK細胞に似たレベルであった。従って、本発明のMDCK細胞株を用いて無血清及び浮遊培養の状態でウイルスを効率的に製造できることが判明された。
【0030】
【表2】
〈実施例5〉増殖されたウイルスの抗体形成能の確認
本発明の前記MDCK細胞で増殖されたインフルエンザウイルスの抗体形成能を確認するために、培養液からウイルスを精製した後マウスに接種して抗体値を確認した。精製工程の流れ図を
図2に示し、大枠の精製工程は以下のようである。
まず、ウイルス培養液を遠心分離して細胞残存物を除去し、0.45μmサイズのフィルターを利用して濾過した。300kDa cut‐offサイズの限外濾過フィルターを利用して濃縮した後、ホルマリンでウイルスを不活化した。その後、ウイルス培養液を、ショ糖密度勾配を利用した超遠心分離を利用してウイルスを分離し、Triton X‐100を処理してウイルスを粉碎した後、限外濾過を通じて濃縮及び洗浄剤を除去し、0.2μmサイズのフィルターで除菌及び濾過することでワクチン原液を獲得した。
【0031】
効力を確認するための動物実験は、本発明のMDCK細胞株であるMDCK Sky1023、MDCK Sky10234、及びMDCK Sky3851の3つの細胞株を利用して増殖されたA/California/07/2009(H1N1)ウイルス株の精製原液を使用し、対照群としては、08/09年度(IVR‐148、NYMC X‐175C、B/Florida/4/2006)のインフルエンザワクチンを使用した。試験群は総6群にし、一つの試料当たりにマウス5匹ずつ接種し、抗体値は5匹の血清を合わせてHI試験(Hemagglutination inhibition test)を施して測定した。
【0032】
試料をマウスに注射する前に、毛細管を利用して眼窩静脈叢から0週次血清を得るために採血した。採血後、マウスの後足にそれぞれ100μlずつ総200μlをIM経路で注射し、2週後、2週次血清を得るために眼窩静脈叢から同一の方法で採血し、0週次に注射した試料を同量で再接種してブースティングさせた。2週後、4週次血清を得るために眼窩静脈叢から採血した。
【0033】
HI試験を施すために、以下のような方法で血清を処理した。マウスから採血して合わせた血清から30μlずつ別途で血清を取ってRDE 90μlを入れ、37℃で18時間以上放置した。RDEを不活化させるために56℃で30分以上放置した。次いで、0.85%の生理食塩水120μlを入れ、ニワトリ赤血球を総量の1/20体積である15μlずつ入れよく浮遊させた後4℃で1時間放置し、このとき30分おきに沈んだ血球を再浮遊させた。その後、1200rpmで10分間遠心分離した後血清のみを別途分離し、このように得られた血清でHI試験を施して抗体値を測定した。その測定結果を表3に示した。すべての実験群でHI力価が40以上と測定された。すなわち、本発明のMDCK細胞から培養されたウイルスを、既存のワクチンのように動物に注射したとき、ウイルスに対する抗体が形成されることが確認できた。この結果から、本発明のMDCK細胞株がウイルスワクチンの製造に使用可能であることが確認できる。
【0034】
【表3】
〈実施例6〉細胞株に対するヌードマウスにおける腫瘍形成能の確認
本発明のMDCK Sky1023及びMDCK Sky3851細胞株に対する腫瘍形成能を評価するために、細胞株及び細胞来由物質をヌードマウスの皮下に移植した後、12週間にわたって腫瘍の形成を観察した。試験動物としては、BALB/c‐nu/nu系統のマウスを使った。接種サンプルは、細胞(細胞数10
1、10
3、10
5、及び10
7)、細胞溶解物(細胞数10
5及び10
7)、細胞DNA(細胞数10
5及び10
7)であり、各群当たり5〜10匹ずつ接種した。実験結果は、表4に示し、本発明のMDCK Sky1023及びMDCK Sky3851細胞株の場合、内部対照群である元のMDCK(ATCC)細胞株に比べて、腫瘍形成能が低いか全くないと確認された。