(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067566
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】無水エタノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/76 20060101AFI20170116BHJP
C07C 31/08 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
C07C29/76
C07C31/08
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-532676(P2013-532676)
(86)(22)【出願日】2012年9月7日
(86)【国際出願番号】JP2012072927
(87)【国際公開番号】WO2013035849
(87)【国際公開日】20130314
【審査請求日】2015年8月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-197560(P2011-197560)
(32)【優先日】2011年9月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302026508
【氏名又は名称】宝酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 秀男
(72)【発明者】
【氏名】浜野 充博
(72)【発明者】
【氏名】内木 正人
【審査官】
福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/097220(WO,A2)
【文献】
特表2013−518818(JP,A)
【文献】
特開2011−105601(JP,A)
【文献】
特開昭58−021629(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/123222(WO,A1)
【文献】
特開昭61−074568(JP,A)
【文献】
特開昭57−145822(JP,A)
【文献】
特開昭57−028016(JP,A)
【文献】
特開2006−263561(JP,A)
【文献】
特開2010−065001(JP,A)
【文献】
特開2009−261258(JP,A)
【文献】
特開2009−263355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/00−409/44
C07B 31/00− 63/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗留アルコールを蒸留して得られるエタノール濃度が95v/v%以上の原料アルコールであって、アセトアルデヒド含量が5mg/L以下でかつ全有機不純物含量が60mg/L以下の原料アルコールを、ゼオライト膜で処理し、アセタール含量が0.4mg/L以下の無水エタノールを得ることを特徴とする無水エタノールの製造方法。
【請求項2】
前記有機不純物は、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトアルデヒド、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、活性アミルアルコール、アセトン、1,4−ジオキサン、ダイアセチル、及びクロトンアルデヒドからなることを特徴とする請求項1に記載の無水エタノールの製造方法。
【請求項3】
前記原料アルコールは、ダイアセチル含量が0.03mg/L以下でかつクロトンアルデヒド含量が0.3mg/L以下のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の無水エタノールの製造方法。
【請求項4】
前記原料アルコールは、ダイアセチル含量が0.01mg/L以下でかつクロトンアルデヒド含量が0.2mg/L以下のものであることを特徴とする請求項3に記載の無水エタノールの製造方法。
【請求項5】
前記原料アルコールは、アセトアルデヒド含量が3mg/L以下、ダイアセチル含量が0.01〜0.03mg/L、かつクロトンアルデヒド含量が0.2mg/L以下のものであることを特徴とする請求項3に記載の無水エタノールの製造方法。
【請求項6】
前記原料アルコールは、アセトアルデヒド含量が2mg/L以下、ダイアセチル含量が0.01mg/L以下、かつクロトンアルデヒド含量が0.2〜0.3mg/Lのものであることを特徴とする請求項3に記載の無水エタノールの製造方法。
【請求項7】
前記原料アルコールは、アセトアルデヒド含量が1mg/L以下、ダイアセチル含量が0.01〜0.03mg/L、かつクロトンアルデヒド含量が0.2〜0.3mg/Lのものであることを特徴とする請求項3に記載の無水エタノールの製造方法。
【請求項8】
前記原料アルコールを加熱して得られる気体混合物を、前記ゼオライト膜に接触させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の無水エタノールの製造方法。
【請求項9】
前記有機不純物は、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトアルデヒド、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、活性アミルアルコール、アセトン、1,4−ジオキサン、ダイアセチル、及びクロトンアルデヒドからなり、
前記原料アルコールは、ダイアセチル含量が0.03mg/L以下でかつクロトンアルデヒド含量が0.3mg/L以下のものであり、
前記原料アルコールを加熱して得られる気体混合物を、前記ゼオライト膜に接触させることを特徴とする請求項1に記載の無水エタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水
エタノールの製造方
法に関する。さらに詳細には、本発明は、粗留アルコールを原料として使用する、アセタール含量が所定値以下である無水
エタノールの製造方
法に関する。本発明
で得られる無水
エタノールは、安全性が高く、かつ異臭のない高品質のものである。
【背景技術】
【0002】
エタノール(アルコール)は、酒類としての飲料用のみならず、化学工業、食品工業、医薬品など広く工業用に使用されている。酒類用や食品添加物用のエタノールは、醸造アルコール又は発酵アルコールとも呼ばれ、糖蜜、甘藷、穀類などの天然物原料から発酵法で製造されている。
【0003】
醸造アルコール以外の工業用アルコールは、エチレン原料から化学合成で製造されており、合成アルコールと呼ばれている。醸造アルコール及び医薬品以外のエタノールはほとんどが変性アルコールと呼ばれるものであり、メタノールやイソプロピルアルコール等の物質が添加されている。外用剤や化粧品等に用いられている変性アルコールは、変性剤としてメタノールを使用していないが、メタノールよりは毒性の低いイソプロピルアルコールを添加するか、あるいは苦味や匂いを付加することにより、飲用には適さないものとしている。
【0004】
近年、日本における醸造アルコールの製造方法は、海外において天然物原料を発酵させた醪を比較的簡単な蒸留機で蒸留して得られたアルコール(「粗留アルコール」という)を輸入し、日本の高度な蒸留方式で精製し、極めて不純物の少ない高純度のエタノールを製造する方法となっている。例えば、高度な蒸留方式として、スーパーアロスパス方式の蒸留機がある(非特許文献1)。この方式は、醪塔(A塔)、分離塔(A1塔)、濃縮塔(A2塔)、抽出塔(D塔)、精留塔(B塔)、精製塔(C塔)、不純物処理塔(G塔)、減圧塔(H塔)などの多数の塔を使用して、アルデヒド類、メタノールなどの低沸点不純物、及び1−プロパノールなどのフーゼル油成分を含む中・高沸点不純物などの大部分の不純物を分離している。特にD塔においては、塔頂部から熱水を注入して塔内のエタノール濃度を10w/w%程度に保持することにより、エタノールと他の低沸点不純物及び中・高沸点不純物の比揮発度を変化させ、塔頂部よりそれらの不純物を効果的に分離している。しかしながら、粗留アルコールは、エタノール分が90質量%以上に濃縮されているものの、上記のスーパーアロスパス方式では分離できないその他微量の不純物が含まれていることが知られている。
【0005】
エタノール(アルコール)には、15℃でエタノールを99.5v/v%以上含む「無水エタノール」(無水アルコール)というものがある。無水アルコールの一般的な製法としては、共沸法がある。すなわち、含水エタノールを酢酸エチルやベンゼンと共沸し、エタノール含量を99.5v/v%まで上げている。ただし、共沸法によって得られる無水アルコールでは、微量の酢酸エチルやベンゼンの混入を防ぐことは困難である。したがって、外用剤や化粧品のような直接人体に触れる物の原材料として、共沸法で製造した無水エタノールを採用することは好ましくない場合がある。
【0006】
上記共沸法に代わる技術として、膜分離によって無水アルコールを製造する技術開発が検討されている。例えば、蒸留と膜分離を組み合わせた無水アルコールの製造技術が知られている(例えば、特許文献1,2)。
特許文献1には、蒸留手段と、蒸留手段の塔頂から留出する混合蒸気を分離するゼオライト膜を有する膜分離手段とからなる分離装置が提案されている。ここには、蒸留手段でエタノール/水混合液をエタノール濃度が91.0質量%(約94v/v%に相当)の蒸気とし、次いでゼオライト膜でエタノール濃度が99.5質量%(99.69v/v%に相当)になるまで精製することが記載されている。
特許文献2にも、特許文献1とほぼ同じ考え方の分離装置が開示されている。この装置は、複数の分離膜モジュールを備えることにより、分離性能の向上が図れるというものである。
【0007】
また、膜分離技術によって、醗酵アルコール水溶液から無水アルコールを得るための精製処理方法が知られている(特許文献3〜5)。この技術によれば、エタノール濃度が7.3質量%(約9v/v%に相当)の醗酵エタノール水溶液を精製処理し、99.8質量%(99.88v/v%に相当)の無水エタノールをエネルギー効率よく得ることができるとされている。ただし、この技術ではエネルギー効率を重視しているので、もろみ塔と蒸留塔の2塔で不純物の分離を行っているにすぎず、また、蒸留塔におけるエタノール濃度は、高くても85〜90質量%(約90〜93.5v/v%に相当)となっている。
【0008】
このように、特許文献1〜5に記載されているような蒸留と膜分離との組み合わせによれば、共沸法のような酢酸エチルやベンゼンの微量混入の問題はない。なお、蒸留と膜分離を組み合わせて得られる無水アルコールは、石油の代替燃料としてのバイオエタノールとして実用化されつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−263561号公報
【特許文献2】特開2009−66519号公報
【特許文献3】国際公開第2009/107840号
【特許文献4】国際公開第2009/123222号
【特許文献5】国際公開第2009/123223号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】醸造の事典、1988年11月10日、株式会社朝倉書店発行、(初版第1刷)、第366〜367頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記したように、外用薬や化粧品の原材料として用いられるエタノールは、安全性の面で酢酸エチルやベンゼン等を含まないものであることが好ましいが、さらに、異臭のないことが強く求められる。なお、上記した特許文献1〜5には、得られる無水アルコールの異臭の有無については全く言及されていない。
そこで本発明は、安全性が高く、かつ異臭のない高品質の無水アルコールとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、膜分離による無水エタノールの製造技術を検討している過程で、しばしば異臭を伴うエタノールが製造されることに気付いた。そこで、異臭発生の原因を特定することを試みた。その結果、アセタールが異臭の原因物質の1つであることを見出した。さらに、当該アセタールの生成が、主に膜分離前の原料に存在するアセトアルデヒドに起因することを見出し、さらに、膜分離前の原料にダイアセチルとクロトンアルデヒドのような有機不純物が特定量以上存在することも、無水
エタノールの品質に大きな影響を与えることを見出した。そして、アセトアルデヒド含量と総有機不純物含量が少ない
エタノール濃度95v/v%以上の原料アルコールを膜処理することにより、人間の官能で異臭を感じない、すなわち異臭のない無水
エタノールを製造できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、上記した課題を解決するために提供される本発明は、以下のとおりである。
【0013】
本発明の1つの様相は、粗留アルコールを蒸留して得られる
エタノール濃度が95v/v%以上の原料アルコールであって、アセトアルデヒド含量が5mg/L以下でかつ全有機不純物含量が60mg/L以下の原料アルコールを、ゼオライト膜で処理し、アセタール含量が0.4mg/L以下の無水
エタノールを得ることを特徴とする無水
エタノールの製造方法である。
【0014】
本様相の無水
エタノールの製造方法は、粗留アルコールを蒸留して得られる原料アルコールを、ゼオライト膜で処理するものである。本様相では、前記原料アルコールとして、
エタノール濃度が95v/v%以上であり、アセトアルデヒド含量が5mg/L以下でかつ全有機不純物含量が60mg/L以下のものを用い、アセタール含量が0.4mg/L以下の無水
エタノールを得ることを特徴としている。本様相によれば、安全性が高く、かつ人間の官能で異臭を感じない品質を備えた無水
エタノールを製造することができる。
【0015】
「無水
エタノール」とは、15℃でエタノールを99.5v/v%以上含むエタノールを指す。
「粗留アルコール」とは、天然物原料を発酵させた醪を比較的簡単な蒸留機で蒸留して得られたアルコールを指す。
【0016】
「有機不純物」とは、エタノール以外の有機化合物全体を指す。典型的には、当該有機不純物は、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトアルデヒド、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、活性アミルアルコール、アセトン、1,4−ジオキサン、ダイアセチル、及びクロトンアルデヒドの12種を主成分とするものである。さらに典型的には、当該有機不純物は前記12種の有機化合物からなる。
「全有機不純物含量」とは、有機不純物含量の総和である。
【0017】
「アセタール」とは、アセトアルデヒドジエチルアセタール((CH
3CH
2O)
2CHCH
3)のことである。
【0018】
好ましくは、前記有機不純物は、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトアルデヒド、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、活性アミルアルコール、アセトン、1,4−ジオキサン、ダイアセチル、及びクロトンアルデヒドからなるものである。すなわち、これら12種の有機不純物の含量の総和が60mg/L以下であることが好ましい。
【0019】
好ましくは、前記原料アルコールは、ダイアセチル含量が0.03mg/L以下でかつクロトンアルデヒド含量が0.3mg/L以下のものである。
【0020】
この好ましい様相は、前記有機不純物として、アセトアルデヒドに加えて、ダイアセチルとクロトンアルデヒドに着目したものである。
【0021】
好ましくは、前記原料アルコールは、ダイアセチル含量が0.01mg/L以下でかつクロトンアルデヒド含量が0.2mg/L以下のものである。
【0022】
好ましくは、前記原料アルコールは、アセトアルデヒド含量が3mg/L以下、ダイアセチル含量が0.01〜0.03mg/L、かつクロトンアルデヒド含量が0.2mg/L以下のものである。
【0023】
好ましくは、前記原料アルコールは、アセトアルデヒド含量が2mg/L以下、ダイアセチル含量が0.01mg/L以下、かつクロトンアルデヒド含量が0.2〜0.3mg/Lのものである。
【0024】
好ましくは、前記原料アルコールは、アセトアルデヒド含量が1mg/L以下、ダイアセチル含量が0.01〜0.03mg/L、かつクロトンアルデヒド含量が0.2〜0.3mg/Lのものである。
【0025】
好ましくは、前記原料アルコールを加熱して得られる気体混合物を、前記ゼオライト膜に接触させる。
【0026】
好ましくは、前記有機不純物は、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトアルデヒド、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、活性アミルアルコール、アセトン、1,4−ジオキサン、ダイアセチル、及びクロトンアルデヒドからなり、前記原料アルコールは、ダイアセチル含量が0.03mg/L以下でかつクロトンアルデヒド含量が0.3mg/L以下のものであり、前記原料アルコールを加熱して得られる気体混合物を、前記ゼオライト膜に接触させる。
【0027】
関連の発明は、粗留アルコールを原料として製造されたものであり、アセタール含量が0.4mg/L以下であることを特徴とする無水
エタノールである。
【0028】
この無水
エタノールは、粗留アルコールを原料として製造されたものであり、アセタール含量が特定量以下であることを特徴としている。
この無水
エタノールは、安全性が高く、かつ人間の官能で異臭を感じない品質を備えている。
この無水
エタノールは、外用剤や化粧品などの原材料として好適である。
【0029】
関連の発明は、上記の無水
エタノールの製造方法により得られる、アセタール含量が0.4mg/L以下であることを特徴とする無水
エタノールである。
【0030】
この無水
エタノールは、上記した本発明の無水
エタノールの製造方法により得られるものである。
この無水
エタノールは、安全性が高く、かつ人間の官能で異臭を感じない品質を備えている。
この無水
エタノールは、外用剤や化粧品などの原材料として好適である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の無水
エタノールの製造方法によれば、安全性が高く、かつ人間の官能で異臭を感じない、すなわち異臭のない無水
エタノールを得ることができる。
【0032】
本発明
で得られる無水
エタノールは、安全性が高く、かつ異臭がない。そのため、外用剤や化粧品などの原材料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0034】
本発明の無水
エタノールの製造方法は、粗留アルコールを蒸留して得られる
エタノール濃度が95v/v%以上の原料アルコールであって、アセトアルデヒド含量が5mg/L以下でかつ全有機不純物含量が60mg/L以下の原料アルコールを、ゼオライト膜で処理し、アセタール含量が0.4mg/L以下の無水
エタノールを得るものである。
本発明では、ゼオライト膜処理に供する原料アルコールの有機不純物に関して、アセトアルデヒド含量が5mg/L以下でかつ全有機不純物含量が60mg/L以下である。これにより、その後にゼオライト膜処理を行った際に、人間の官能で異臭を感じない、換言すれば異臭のない無水
エタノールを得ることができる。なお、本明細書においては、人間の官能で異臭を感じないことを「異臭のない」という語句に統一して使用している。
【0035】
上述したように、本発明でいう「粗留アルコール」とは、天然物原料を発酵させた醪を比較的簡単な蒸留機で蒸留して得られたアルコールである。
また上述したように、本発明でいう「有機不純物」とは、エタノール以外の有機化合物全体を指す。典型的には、当該有機不純物は、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトアルデヒド、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、活性アミルアルコール、アセトン、1,4−ジオキサン、ダイアセチル、及びクロトンアルデヒドの12種を主成分とするものである。さらに典型的には、当該有機不純物は前記12種の有機化合物からなる。すなわち、好ましい実施形態では、前記12種の有機不純物の含量の総和が60mg/L以下である。
【0036】
本発明においては、原料アルコールの全有機不純物含量は60mg/L以下であるが、より好ましくは55mg/L以下であり、さらに好ましくは50mg/Lである。
【0037】
本発明においては、原料アルコールのアセトアルデヒド含量は5mg/L以下であるが、より好ましくは3mg/L以下であり、さらに好ましくは2mg/L、特に好ましくは1mg/Lである。
【0038】
なお、主にアセトアルデヒドに起因すると推定されるアセタール以外にも、無水
エタノールの品質(異臭)に影響を与えるものがある。例えば、原料アルコールに有機不純物であるダイアセチルとクロトンアルデヒドが特定量含まれていると、無水
エタノールの品質に影響を与えることになる。そこで本発明においては、原料アルコールが、ダイアセチル含量が0.03mg/L以下でかつクロトンアルデヒド含量が0.3mg/L以下のものであることが好ましい。さらに、原料アルコールが、ダイアセチル含量が0.01mg/L以下でかつクロトンアルデヒド含量が0.2mg/L以下のものであることが好ましい。
【0039】
また原料アルコールが、アセトアルデヒド含量が3mg/L以下、ダイアセチル含量が0.01〜0.03mg/L、かつクロトンアルデヒド含量が0.2mg/L以下のものであることが好ましい。また原料アルコールは、アセトアルデヒド含量が2mg/L以下、ダイアセチル含量が0.01mg/L以下、かつクロトンアルデヒド含量が0.2〜0.3mg/Lのものであることが好ましい。また原料アルコールが、アセトアルデヒド含量が1mg/L以下、ダイアセチル含量が0.01〜0.03mg/L、かつクロトンアルデヒド含量が0.2〜0.3mg/Lのものであることが好ましい。
【0040】
粗留アルコールの蒸留方法としては特に限定はなく、高純度の原料エタノールが得られる蒸留方法であればよいが、工業的規模で行うには、例えば、前述のスーパーアロスパス方式が最適である。粗留アルコールを蒸留して、
エタノール濃度が95v/v%以上、アセトアルデヒド含量が5mg/L以下、かつ全有機不純物含量が60mg/L以下の原料アルコールを得る。そして、この原料アルコールをゼオライト膜処理に供する。なお、蒸留時のエネルギー効率を考慮すると、得られる原料アルコールの
エタノール濃度を95〜97v/v%の範囲とすることが好ましい。
【0041】
膜分離法を利用した分離手段には、液体混合物を分離膜の片側(供給側)に接触させて、反対側(透過側)を減圧することにより、特定の液体(透過物質)を気化させ分離するパーベーパレーション法(PV法、浸透気化法)や、気体混合物を蒸気状態で供給し分離膜に接触させて、透過側を減圧して特定の蒸気を分離するベーパーパーミエーション法(VP法、蒸気透過法)などがある。本発明においては、PV法とVP法のいずれも採用可能であるが、原料アルコールを気体混合物としてゼオライト膜に接触させるVP法が好ましい。VP法を採用する場合には、例えば、原料アルコールを110〜130℃、より好ましくは110〜120℃に加熱し、気体混合物を生成させる。その後、当該気体混合物をゼオライト膜処理に供する。
【0042】
前述のとおり、本発明でいう「ゼオライト膜処理」とは、液体混合物あるいは気体混合物をゼオライト膜により分離処理することである。
ゼオライト膜の種類は、選択的に透過するものの性状により適宜選択することができる。例えば、混合蒸気である気体混合物の分離処理として、エタノール/水混合系蒸気から水を選択的に分離する場合には、A型ゼオライト膜、Y型ゼオライト膜、NaX型ゼオライト膜、T型ゼオライト膜、低Si/Al比のモルデナイト及び低Si/Al比のZSM−5型ゼオライト膜などの、水選択透過性を有するゼオライト膜から選べばよい。中でも水選択透過性が高いA型ゼオライト膜、特にNaA型ゼオライト膜を使用するのが好ましい。
【0043】
また、ゼオライト膜が格納されたゼオライト膜モジュールを用いることができる。例えば、NaA型ゼオライト膜が複数格納されたゼオライト膜モジュールを用いることにより、大きい膜面積を確保することができる。大量にゼオライト膜処理を行いたい場合には、このようなゼオライト膜モジュールを併設すればよい。
【0044】
ゼオライト膜処理における2次側(透過側)の減圧の程度は、ほぼ真空で行えばよく、例えば、大気圧760Torrであるのに対し10Torr以下の圧力、換言すれば大気圧に対して−750mmHg以下で行えばよい。
【0045】
次に、本発明の無水
エタノールの製造方法について、さらに説明する。
粗留アルコールを蒸留して、
エタノール濃度95v/v%以上の原料アルコールを得る方法について例示する。
エタノール濃度95v/v%の原料アルコールを製造する方法については特に限定はなく、スーパーアロスパス方式の蒸留機を用いて極めて不純物の少ない高純度の原料アルコールの製法を基礎として行うことができる。醪塔(A塔)、精留塔(B塔)、精製塔(C塔)を使用することが基本であり、粗留アルコールの有機不純物含量が多い場合には、抽出塔(D塔)、減圧塔(H塔)などを適宜使用すればよい。
クロトンアルデヒドなどの有機不純物が多い場合には、例えば、特開2002−345495号公報に記載の方法により有機不純物含量を減少させればよい。有機不純物として1,4−ジオキサンが多い場合には、例えば、特開2006−83129号公報に記載の方法により1,4−ジオキサンを減少させればよい。
【0046】
粗留アルコールを蒸留して、アセトアルデヒド含量が5mg/Lでかつ有機不純物含量の総和が60mg/L以下、好ましくは55mg/L以下、より好ましくは50mg/L以下である
エタノール濃度95v/v%以上の原料アルコールを得、次いでゼオライト膜モジュールを用いて、
エタノール濃度99.9v/v%の無水
エタノールを製造する。得られた無水
エタノールは、アセタール含量が0.4mg/L以下である異臭のない高品質な無水
エタノールとなる。
【0047】
なお本発明の方法により、
エタノール濃度99.9v/v%の無水
エタノールが得られることを確認済みである。
【0048】
本発明の無水
エタノールは、粗留アルコールを原料として製造されたものであり、アセタール含量が0.4mg/L以下のものである。なお、アセタール含量が0.4mg/L超であると、人間の官能で異臭を感じる無水
エタノールとなる。外用剤や化粧品のうち、例えば整髪料では、その成分中に無水
エタノールを使用しており、直接人体に触れるものであるので、異臭のない無水
エタノールでないと、商品自体の価値を損なってしまう。したがって、アセタール含量が0.4mg/L以下である異臭のない無水
エタノールとすることにより、高品質なものとなる。なお、ゼオライト膜を構成している無機物などの成分の溶出がないことは確認済みである。
【0049】
本発明は、粗留アルコールを蒸留して得られる原料アルコールであって、
エタノール濃度が95v/v%以上、アセトアルデヒド含量が5mg/L以下、かつ全有機不純物含量が60mg/L以下の原料アルコールを、ゼオライト膜で処理して得られた、アセタール含量が0.4mg/L以下の無水
エタノールも包含する。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
〔実施例1〕
エタノール濃度95.0v/v%の粗留アルコールを用い、スーパーアロスパス方式の連続式蒸留機を用いて蒸留を行い、エタノール濃度95.5v/v%の原料アルコールを得た。原料アルコールの成分分析は、ガスクロマトグラフに質量選択型検出器を連結したGC/MSで常法通り行った。その結果、アセトアルデヒド含量は1.0mg/L、ダイアセチル含量は0.01mg/L、クロトンアルデヒド含量は0.1mg/L、その他の有機不純物(アセトアルデヒド、ダイアセチル、クロトンアルデヒド以外の有機不純物)含量は38mg/Lであった。
【0052】
得られた原料アルコールを加熱して気体混合物とし、VP法によるゼオライト膜処理を施し、エタノール濃度99.9v/v%の無水
エタノールを得た。ゼオライト膜として、NaA型ゼオライト膜が8本格納された膜面積2400cm
2のゼオライト膜モジュールを用いた。無水
エタノールの成分分析をGC/MSで常法通り行った。その結果、アセトアルデヒド含量は1.0mg/L、ダイアセチル含量は0.01mg/L、クロトンアルデヒド含量は0.1mg/L、その他の有機不純物含量は40mg/Lであった。アセタールは不検出であった(検出限界0.01mg/L)。
【0053】
実施例1で得られた原料アルコールと無水
エタノールについて、異臭の有無等を、熟練したパネラー11名により官能評価試験を行った。その結果、原料アルコールと無水
エタノールのいずれにおいても、11名中11名が、異臭を全く感じず高品質で良好であると回答した。
【0054】
〔比較例1〕
実施例1で用いたエタノール濃度95.0v/v%の粗留アルコールにアセトアルデヒドを添加し、アセトアルデヒド含量が6.0mg/Lの粗留アルコールサンプルを調製した。このサンプルについて、スーパーアロスパス方式の連続式蒸留機を用いて蒸留を行い、エタノール濃度95.5v/v%の原料アルコールを得た。得られた原料アルコールに、再度アセトアルデヒドを添加し、アセトアルデヒド含量が6.0mg/Lのアルコールサンプルを調製し、実施例1と同様にゼオライト膜処理を施して、エタノール濃度99.9v/v%の無水
エタノールを得た。この無水
エタノールのアセトアルデヒド含量は6.1mg/L、ダイアセチル含量は0.01mg/L、クロトンアルデヒド含量は0.1mg/L、その他の有機不純物含量は40mg/Lであった。アセタール含量は0.5mg/Lであった。
【0055】
比較例1で得られた原料アルコールと無水
エタノールについて、異臭の有無等を、熟練したパネラー11名により官能評価試験を行った。その結果、原料アルコールについては、11名中11名が、異臭を全く感じず高品質で良好であると回答した。一方、無水
エタノールについては、11名中11名が、異臭ありと回答した。
【0056】
〔比較例2〕
実施例1とは異なるロットの、エタノール濃度95.0v/v%の粗留アルコールを用いた。この粗留アルコールは、クロトンアルデヒドを多く含むものである。この粗留アルコールにアセトアルデヒドとダイアセチルを添加し、クロトンアルデヒドを多く含み、アルデヒド含量が6.0mg/Lで、かつダイアセチル含量が0.04mg/Lの粗留アルコールサンプルを調製した。このサンプルについて、スーパーアロスパス方式の連続式蒸留機を用いて蒸留を行い、エタノール濃度95.5v/v%の原料アルコールを得た。得られた原料アルコールに、再度アセトアルデヒドを添加し、アセトアルデヒド含量が6.0mg/Lのアルコールサンプルを調製し、実施例1と同様にゼオライト膜処理を施して、エタノール濃度99.9v/v%の無水
エタノールを得た。この無水
エタノールのアセトアルデヒド含量は6.1mg/L、ダイアセチル含量は0.04mg/L、クロトンアルデヒド含量は0.2mg/L、その他の有機不純物含量は46mg/Lであった。アセタールは0.5mg/Lであった。
【0057】
比較例2で得られた原料アルコールと無水
エタノールについて、異臭の有無等を、熟練したパネラー11名により官能評価試験を行った。その結果、原料アルコールについては、11名中11名が、異臭をやや感じると回答した。また、無水
エタノールについては、11名中11名が、異臭ありと回答した。