【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、部分的にハイブリッド形成する配列番号1のDNA配列を2つ含んでなる、部分的に一本鎖のダンベル型をした、共有結合により閉じたDNA残基鎖からなる、免疫調節のためのDNA構築物を提供する。
【0019】
本開示のさらなる実施形態として、一本鎖ループが3つのCGモチーフを含む構築物が提供される。
【0020】
本発明は、各CGモチーフの両側にデオキシチミジンが隣接している、DNA構築物をさらに提供する。
【0021】
本発明による構築物の一本鎖ループが、少なくとも50%のピリミジン含量を有することがさらに意図される。そのような構築物は、ピリミジンとしてデオキシチミジンを有してよい。
【0022】
さらなる実施形態として、構築物は、カルボキシル、アミン、アミド、アルジミン、ケタール、アセタール、エステル、エーテル、ジスルフィド、チオールおよびアルデヒド基を含む群から選択される官能基で修飾されている少なくとも1つのヌクレオチドを含む。
【0023】
さらに、修飾ヌクレオチドは、ペプチド、タンパク質、炭水化物、抗体、脂質、ミセル、ベシクル、合成分子、ポリマー、マイクロプロジェクタイル、金属粒子、ナノ粒子を含む群から選択される化合物、または固相に連結することができる。
【0024】
本発明の他の目的は、以上で記述したDNA構築物を含む医薬組成物である。医薬組成物は、化学療法剤をさらに含んでもよい。
【0025】
本発明のさらなる目的は、以上で記述したDNA構築物を含むワクチン、または前記DNA構築物を含む医薬組成物である。ワクチンが、アジュバントとして本開示のDNA構築物を含んでもよいことがさらに想定される。
【0026】
本発明の他の目的は、がんまたは自己免疫疾患の治療のための、請求項1から7のいずれか一項に記載のDNA構築物、請求項8もしくは9に記載の医薬組成物、または請求項10もしくは11に記載のワクチンの使用である。
【0027】
免疫系の調節のための、請求項1から7のいずれか一項に記載のDNA構築物、請求項8もしくは9に記載の医薬組成物、または請求項10もしくは11に記載のワクチンの使用がまた想定される。
【0028】
本開示の意味の範囲内で、用語DNA構築物は、相当するDNA配列の長さの制限を示唆しない。DNA構築物の単量体ユニットはヌクレオチドである。
【0029】
DNA構築物は、合成的に製造され得るか、部分的または完全に生物学的起源であり、生物学的起源には、DNA配列を製造する遺伝子に基づいた方法が含まれる。
【0030】
本開示による「ステム」は、同一のDNA分子内(したがって部分的に自己相補的である)、または異なるDNA分子内(部分的または完全に相補的である)のいずれかにおける塩基対合によって形成されたDNA二本鎖として理解されるべきである。分子内塩基対合は、同一の分子内の塩基対合を示し、異なるDNA分子間の塩基対合は、分子間塩基対合と呼ばれる。
【0031】
本開示の意味の範囲内で「ループ」は、ステム構造内またはその末端いずれかでの、非対合一本鎖領域として理解される。「ヘアピン」は、同一のDNA分子の2つの自己相補的領域がハイブリッド形成して、非対合ループを有するステムを形成する時に発生する、ステムとループの特徴のある組合せである。ダンベル型は、ステム領域に隣接する両末端でヘアピンを有する直鎖DNA構築物を記述する。したがって、本開示の文脈内での「直鎖DNA構築物」は、一本および/または二本鎖DNAを含む直鎖開鎖DNA構築物、または二本鎖DNAステムの両末端で一本鎖ループを含む直鎖ダンベル型DNA構築物のいずれかを記述する。
【0032】
ヌクレオチドが共有または非共有結合する「固相」は、カラム、マトリックス、ビーズ、改質または機能化ガラスを含むガラス、シリカ、またはシリコンおよび変性シリコンを含むシリカ系材料、プラスチック(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、およびスチレンと他の材料のコポリマー、アクリル、ポリブチレン、ポリウレタンなどを含む)、ナイロンまたはニトロセルロース、樹脂、ポリサッカライド、炭素ならびに無機ガラス、金属、ナノ粒子およびプラスチックを指すが、これらに限定されない。したがって、マイクロタイタープレートがまた、本開示による固相の範囲内である。
【0033】
本開示による免疫調節は、免疫刺激および免疫抑制を指す。免疫刺激は、優先的には、免疫系のエフェクター細胞が、増殖、移動、分化し、または任意の他の形で活性となるために刺激されることを意味する。例えば、通常ヘルパーT細胞からの共刺激シグナルを必要とするB細胞増殖が、免疫刺激DNA分子によって、共刺激シグナルなしに誘導することができる。
【0034】
一方、免疫抑制は、免疫系の活性化または効果を減少させることと理解されよう。免疫抑制は、例えば、移植された器官の拒絶を防止するため、骨髄移植後の移植片対宿主疾患を処置するため、または例えばリウマチ様関節炎またはクローン病などの自己免疫疾患の処置のために、一般に意図的に誘導される。
【0035】
本文脈において、免疫調節はまた、まだ発達途上もしくは成熟化した免疫反応に影響を与えること、または確立された免疫反応の特徴を調節することのいずれかによる、免疫反応の性質または特徴への影響を指し得る。
【0036】
本開示中で使用する用語「ワクチン接種」は、疾患に対して免疫を生じさせるための、抗原性物質(ワクチン)の投与を指す。ワクチンは、ウイルス、真菌、寄生原生動物、細菌などの多くの病原体による感染の、さらには、アレルギー性疾患および喘息の、ならびに腫瘍の効果を防止または緩和することができる。ワクチンは典型的には、免疫応答をブーストするために使用する、1つまたは複数のアジュバント、例えば免疫刺激核酸を含有する。ワクチン接種は一般的に、感染および他の疾患を防止する、最も効果的で費用効果の高い方法であると考えられる。
【0037】
投与される物質は、例えば、病原体(細菌またはウイルス)の生きているが弱毒化された形態、これらの病原体の死滅もしくは不活化した形態、タンパク質、抗原をコードしている核酸などの精製物質、または腫瘍細胞もしくは樹状細胞などの細胞であり得る。特に、DNAワクチン接種が最近開発されている。DNAワクチン接種は、抗原をコードしているDNAの、ヒトまたは動物細胞への挿入(および発現、免疫系認識の誘発)によって働く。発現したタンパク質を認識する免疫系の一部の細胞が、これらのタンパク質およびタンパク質を発現している細胞に対して攻撃を開始することになる。DNAワクチンの一利点は、製造および保存することが極めて簡単であることである。さらに、DNAワクチンは、広い範囲の免疫応答型を誘導できることを含め、従来のワクチンに勝るいくつもの利点を有する。
【0038】
ワクチン接種は、抗原に曝露されると、ワクチン接種した健康な個体において抗原に対する免疫をもたらす予防的手法として使用することができる。あるいは、治療的ワクチン接種は、抗原に対して個体の免疫系を導くことにより、ワクチン接種された、疾患を有する個体の免疫系の改善された応答を引き起こすことができる。予防的および治療的ワクチン接種両方が、ヒトならびに動物に適用することができる。
【0039】
本開示中で使用される用語「遺伝子治療」は、腫瘍または自己免疫疾患などの疾患を治療するための、個体の細胞および/または生物学的組織の一過性または持続性遺伝子改変(例えば遺伝子の挿入、変更または除去)を指す。遺伝子治療の最も一般的な形は、変異遺伝子を置換するために、機能的遺伝子を不特定のゲノム位置に挿入することを含むが、他の形は、変異を直接修正すること、またはウイルス感染を可能にする正常遺伝子を改変すること、またはさらには細胞内に遺伝子または遺伝子断片を移入してそれを転写させることを含む。
【0040】
「自家遺伝子治療」は、同一個体の組織または細胞を使用することを指す。単離された細胞または組織を遺伝子治療によって改変し、ドナーに再導入する。反対に「他家遺伝子治療」は、アクセプター個体以外の個体からの遺伝子治療のための細胞を使用することを指す。他家細胞は、遺伝子改変の後、アクセプターに導入する。
【0041】
用語「エクスビボ遺伝子治療」は、個体からの細胞、例えば造血幹細胞または造血始原細胞を、エクスビボで遺伝的に改変し、続けて処置すべき個体に投入する治療手法を指す。用語「インビボ遺伝子治療」は、個体からの細胞、例えば造血幹細胞または造血始原細胞を、例えば、ウイルスベクターまたは他の発現構築物を用いて、インビボで遺伝的に改変する治療手法を指す。
【0042】
遺伝子治療は、「生殖細胞系遺伝子治療」と「体細胞遺伝子治療」とに分類することもできる。「生殖細胞系遺伝子治療」の場合、生殖細胞、すなわち精子または卵を遺伝的に改変する。遺伝子変化は通常、それらのゲノム内に統合される。したがって、治療による変化は、遺伝性であり、その後の世代に受け渡されることになる。この手法は、遺伝的障害および遺伝性疾患の治療のために有用である。「体細胞遺伝子治療」の場合において、治療遺伝子を、個体の体性細胞内に移動させる。いずれの改変および効果も、その個体のみに制限され、個体の子孫またはその後の世代に遺伝することはない。
【0043】
用語「がん」は、これらに限定されないが、乳癌、メラノーマ、皮膚新生物、リンパ腫、白血病;結腸癌、胃癌、膵癌、大腸がん、小腸がんを含む胃腸腫瘍;卵巣癌、子宮頸癌、肺がん、前立腺がん、腎細胞癌および/または肝転移を含む群から選択される、治療または防止されているがん性疾患または腫瘍を含む。
【0044】
本開示による自己免疫疾患には、リウマチ様関節炎、クローン病、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、自己免疫甲状腺炎、橋本甲状腺炎、多発性硬化症、バセドウ病、重症筋無力症、セリアック病およびアジソン病が含まれる。
【0045】
本開示は、配列番号1のDNA配列を2つ含む部分的一本鎖ダンベル型共有結合閉止DNA残基鎖からなる、免疫調節のためのDNA構築物を提供する。配列番号1は、CGモチーフを含み、ODN2006−ループとも呼ばれる。ODN2006−ループの2つのオリゴは部分的にハイブリッド形成して、ダンベル型直鎖DNA構築物を生じる。配列番号1の配列は、以下の通りである(
図1を比較のこと)。
5’−AGGTGGTAAC CCCTAGGGGT TACCACCTTC ATCGTCGTTT TGTCGTTTTG TCGTTCTT−3’
【0046】
CG含有DNA構築物の効果は、TLR9との相互作用に依存している。実施例および図面に示すように、TLR9アゴニストのクラス間の免疫調節プロファイルの差は、それらの個々のヌクレオチド配列、それぞれCGモチーフの状況よりも、それらの立体構造により密接に関連するように思われる。
【0047】
驚くことに、本開示のダンベル型DNA構築物の誘導された刺激パターンは、相当する直鎖CGオリゴヌクレオチドによって、またはさらには欧州特許第1196178号明細書に開示されたダンベル型DNA構築物によって誘導される刺激パターンと異なる。
【0048】
誘導された刺激パターンはさらに、直鎖ホスホロチオエート保護DNAオリゴProMune(ODN2006)によって誘導されたパターンと予期しないほど異なる。ProMuneの配列は、本開示によるDNA構築物の一本鎖ループの一部であり、CGモチーフ含有DNA配列の状況の関連性を強く示唆する。
【0049】
本開示によれば、1または複数のCGモチーフは、構築物の一本
鎖領域内に局在する。欧州特許第1196178号明細書に開示されたように、CGモチーフは、分子の一本鎖領域内に含まれようと、二本鎖領域内に含まれようと、免疫応答を誘発可能である。
【0050】
本開示はさらに、カルボキシル、アミン、アミド、アルジミン、ケタール、アセタール、エステル、エーテル、ジスルフィド、チオールおよびアルデヒド基を含む群から選択される官能基による、少なくとも1つのヌクレオチドの化学修飾を含む。これにより、DNA構築物と、ペプチド、タンパク質、炭水化物、抗体、脂質、ミセル、ベシクル、合成分子、ポリマー、マイクロプロジェクタイル、金属粒子、ナノ粒子を含む群から選択される化合物、または固相との、例えば吸着、共有またはイオン結合による結合が可能となる。修飾は、それぞれの目的に応じて具体的に選択することができる。それによって構築物を使用して、例えば他の分子を、組み込まれたCGモチーフに応答する特定の細胞に対して出入りさせることができる。加えて、そのような修飾によって、構築物を細胞内に移入するために使用することができるマイクロプロジェクタイルに構築物を結合させることが可能である。構築物はまた、固相、例えばマイクロタイタープレートに結合することもできる。
【0051】
Th1に偏った活性化は、NK細胞と細胞障害性T細胞の活性化が関与し、これらの免疫応答は、がん療法に利用可能である。非メチル化CGモチーフを含有するDNA構築物が、好ましくはTh1活性化をもたらすので、本開示の構築物を使用してがんを治療することができる。がんの治療のためのTLR9アゴニストが関与する多数の臨床試験が進行中である。そのような分子は、単独で、または例えば放射線療法、手術、化学療法および凍結療法(Krieg、J.Clin.Invest.2007 117:1184〜94)と組み合わせて効果的に投与されてきた。それらの強力な免疫調節、それらの小さなサイズおよびそれらの安定性により、本開示の構築物は、この点で、非常に有利であると考えられる。加えて、本開示の構築物の異なる免疫学的プロファイルは、他の有利性が低いTLR9リガンドからそれらを区別し、このプロファイルが、がん特異的治療のために利用することができる。
【0052】
一方、TLR9アゴニストがまた、調節性T細胞の発生に関与し、したがって、自己免疫疾患の治療のために使用することができる。投与経路は、インビボでCGモチーフを含有するDNA構築物の効果を決定する一変数であるように考えられる(Krieg、J.Clin.Invest.2007 117:1184〜94)。
【0053】
そのようなCGモチーフ含有DNA分子の免疫刺激効果は、がん治療における化学療法などの標準的治療手法の効果を改善することが示されてきた。したがって、本開示の構築物を含む医薬組成物がさらに提供される。再び、従来技術のTLR9アゴニストと比較した、本開示の構築物の有利な特徴が、本開示の構築物を、がん、感染性疾患、アレルギーおよび喘息などの疾患の治療のための、前途有望なツールとする。それにより、アレルギーおよび喘息(ほとんどがTh2媒介)の治療は、Th1活性化を優先させることが有益である。
【0054】
TLR9アゴニストがワクチンにおける強力なアジュバントとして示されているので、本開示のDNA構築物を含むワクチンがまた提供される。本開示の構築物は、副作用を引き起こし得る、DNAを安定化させるための修飾を導入する必要なしに、TLR9刺激に対する関連配列を含む。分子のより長い半減期により、効果的な刺激が確保され、よって強力な免疫応答が予測される。
【0055】
本開示のDNA構築物の効果を明らかにするために、以下のDNA構築物を、本明細書で記述された実験のために使用した(表1)。
【表1】
【0056】
本開示は、開示された実施形態に限定されずに、実施例および図面によってさらに説明される。